(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】電縫鋼管および電縫鋼管の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231121BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20231121BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20231121BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C21D8/02 B
C22C38/14
C22C38/58
(21)【出願番号】P 2021001699
(22)【出願日】2021-01-07
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 昌利
(72)【発明者】
【氏名】石川 和俊
(72)【発明者】
【氏名】森 幸生
【審査官】櫻井 雄介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-281764(JP,A)
【文献】特開2005-146395(JP,A)
【文献】特開2012-077325(JP,A)
【文献】特開2016-223013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C21D 8/02
C22C 38/14
C22C 38/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.050~0.15%、
Si:0.001%以上、0.050%未満、
Mn:1.5~2.5%、
P :0.1%以下、
S :0.01%以下、
Al:0.01~0.10%、
Ti:0.05~0.20%、
Nb:0.01~0.10%、および
N :0.0005~0.01%
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ
Si含有量に対するMn含有量の比Mn/Siが36超である成分組成を有し、
ベイナイト相と、面積率10%以下のフェライト相からなる微細組織を有し、
引張強度が780MPa以上、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーが31J以上である機械的特性を有する、電縫鋼管。
【請求項2】
前記成分組成が、質量%で、さらに、
Mo:0.05~0.30%、
Cr:0.05~0.50%、
Cu:0.001~0.5%、
Ni:0.001~0.5%、
W :0.001~0.05%、
V :0.001~0.01%、
Ca:0.0001~0.0050%、および
REM:0.02%以下からなる群より選択された少なくとも1つを含有する、請求項1に記載の電縫鋼管。
【請求項3】
質量%で、
C :0.050~0.15%、
Si:0.001%以上、0.050%未満、
Mn:1.5~2.5%、
P :0.1%以下、
S :0.01%以下、
Al:0.01~0.10%、
Ti:0.05~0.20%、
Nb:0.01~0.10%、および
N :0.0005~0.01%
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ
Si含有量に対するMn含有量の比Mn/Siが36超である成分組成を有する鋼素材を、1100~1250℃の加熱温度まで加熱し、
加熱された前記鋼素材を、仕上圧延終了温度:700~830℃の条件で熱間圧延して熱延鋼帯とし、
前記熱延鋼帯を、50℃/s以上の平均冷却速度で500℃以下の冷却終了温度まで水冷し、
前記水冷された熱延鋼帯を、巻取温度:350~500℃で巻取り、
前記熱延鋼帯を、ロール成形して略円筒状のオープン管とし、
前記オープン管を電縫溶接して電縫鋼管とする、電縫鋼管の製造方法
であって、
前記電縫鋼管が、
ベイナイト相と、面積率10%以下のフェライト相からなる微細組織を有し、かつ、
引張強度が780MPa以上、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーが31J以上である機械的特性を有する、電縫鋼管の製造方法。
【請求項4】
前記成分組成が、質量%で、さらに、
Mo:0.05~0.30%、
Cr:0.05~0.50%、
Cu:0.001~0.5%、
Ni:0.001~0.5%、
W :0.001~0.05%、
V :0.001~0.01%、
Ca:0.0001~0.0050%、および
REM:0.02%以下からなる群より選択された少なくとも1つを含有する、請求項3に記載の電縫鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電縫鋼管に関し、とくにクレーンラチスおよびクレーンブームなどの建設機械用の構造部材として好適に用いることができる、高強度かつ低温靭性に優れた電縫鋼管に関する。また、本発明は前記電縫鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管は様々な用途に用いられており、クレーンラチスやクレーンブームといった建設機械用の構造部材としても広く用いられている。それらの用途に用いられる鋼管には、クレーンの大型化や極寒冷地での使用に対応するために、高い強度と靭性を備えることが求められる。例えば、近年では、引張強さ(TS)が780MPa級の鋼管が、-20℃という低温においても優れた靭性を有することが求められている。
【0003】
これらの用途には、肉厚が4mm程度の比較的薄肉のものから、肉厚が10mmを超える厚肉のものまで、幅広い肉厚の鋼管が用いられている。これまでは、薄肉の鋼管としては継目無鋼管または電縫鋼管が、厚肉の鋼管としては継目無鋼管が使われてきた。そして、厚肉の鋼管を製造する際には、造管後に熱処理(焼き入れおよび焼き戻し)を行うことによって必要強度を確保する方法がとられてきた。
【0004】
例えば、特許文献1では、クレーンのブーム等の機械構造部材として用いられる、肉厚30mm超の継目無鋼管を製造方法が提案されている。特許文献1で提案されている方法では、造管後に熱処理を2回以上行うことによって、引張強さ950MPa以上、降伏強度850MPa以上という高い強度と、-40℃でのシャルピー吸収エネルギーが60J以上という高い靭性を兼ね備えた継目無鋼管を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、特許文献1で提案されている方法によれば、強度と低温靱性に優れる継目無鋼管を製造することができる。しかし、継目無鋼管は電縫鋼管に比べて製造コストが高い。加えて、特許文献1の方法では所望の特性を得るために造管後に2回以上の熱処理を行う必要があるため、さらに製造コストが高くなる。
【0007】
また、特許文献1で提案されている方法では、造管工程および熱処理工程において長時間にわたって高温に加熱されるため、鋼管の表面があばた状になるなど、表面肌が不良となるという問題がある。表面肌が不良であると、外観品質(美麗性)が損なわれることに加えて塗装性も低下する。
【0008】
このように、従来の技術で得られる継目無鋼管は、強度および低温靱性には優れるものの、製造コストが高く、表面肌があばた状になりやすいという問題があった。
【0009】
上記の問題を解決するために、従来は継目無鋼管が用いられていた比較的厚肉の鋼管についても、比較的低コストで製造することができる電縫鋼管で代替することが考えられる。しかし、電縫鋼管で所望の強度を得るためにはC、Mn、Si、Ti、Nbなどの元素の添加量を高くする必要があるが、これらの元素の添加量を増加させると電縫鋼管の溶接品質が低下してしまう。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、以下の要求を満たし、クレーンラチスやクレーンブームなどの建設機械の構造部材に好適に用いることができる電縫鋼管を提供することを目的とする。
・低コストで製造できる電縫鋼管であること。
・造管後に熱処理を行わずとも、高い強度と優れた低温靱性を兼ね備えていること。
・表面性状に優れること。
・溶接性に優れること。
・従来、継目無鋼管が用いられていた比較的厚肉のものも製造可能であること。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために検討を行った結果、成分組成と微細組織を制御することにより、引張強度780MPaという高強度と、-20℃でのシャルピー吸収エネルギーが31J以上という優れた低温靭性を兼ね備えた電縫鋼管を得られることを見出した。前記電縫鋼管は、鋼素材の成分組成と製造条件を制御することにより、造管後の熱処理を行うことなく製造することができるため安価であることに加えて、表面性状にも優れている。さらに、強度向上のためには合金元素の添加量を増加させる必要があるものの、酸化物を形成しやすい元素であるSiとMnの含有量を特定の範囲に制御することにより、強度を確保しつつ、溶接品質の低下を防ぐことができる。
【0012】
本発明は上述の知見に基づいてなされたものであり、以下を要旨とするものである。
【0013】
1.質量%で、
C :0.050~0.15%、
Si:0.001以上、0.050%未満、
Mn:1.5~2.5%、
P :0.1%以下、
S :0.01%以下、
Al:0.01~0.10%、
Ti:0.05~0.20%、
Nb:0.01~0.10%、および
N :0.0005~0.01%
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ
Si含有量に対するMn含有量の比Mn/Siが36超である成分組成を有し、
ベイナイト相と、面積率10%以下のフェライト相からなる微細組織を有し、
引張強度が780MPa以上、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーが31J以上である機械的特性を有する、電縫鋼管。
【0014】
2.前記成分組成が、質量%で、さらに、
Mo:0.05~0.30%、
Cr:0.05~0.50%、
Cu:0.001~0.5%、
Ni:0.001~0.5%、
W :0.001~0.05%、
V :0.001~0.01%、
Ca:0.0001~0.0050%、および
REM:0.02%以下からなる群より選択された少なくとも1つを含有する、上記1に記載の電縫鋼管。
【0015】
3.質量%で、
C :0.050~0.15%、
Si:0.001%以上、0.050%未満、
Mn:1.5~2.5%、
P :0.1%以下、
S :0.01%以下、
Al:0.01~0.10%、
Ti:0.05~0.20%、
Nb:0.01~0.10%、および
N :0.0005~0.01%
を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなり、かつ
Si含有量に対するMn含有量の比Mn/Siが36超である成分組成を有する鋼素材を、1100~1250℃の加熱温度まで加熱し、
加熱された前記鋼素材を、仕上圧延終了温度:700~830℃の条件で熱間圧延して熱延鋼帯とし、
前記熱延鋼帯を、50℃/s以上の平均冷却速度で500℃以下の冷却終了温度まで水冷し、
前記水冷された熱延鋼帯を、巻取温度:350~500℃で巻取り、
前記熱延鋼帯を、ロール成形して略円筒状のオープン管とし、
前記オープン管を電縫溶接して電縫鋼管とする、電縫鋼管の製造方法。
【0016】
4.前記成分組成が、質量%で、さらに、
Mo:0.05~0.30%、
Cr:0.05~0.50%、
Cu:0.001~0.5%、
Ni:0.001~0.5%、
W :0.001~0.05%、
V :0.001~0.01%、
Ca:0.0001~0.0050%、および
REM:0.02%以下からなる群より選択された少なくとも1つを含有する、上記3に記載の電縫鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、引張強度780MPa以上という高強度と、-20℃でのシャルピー吸収エネルギーが31J以上という優れた低温靭性を兼ね備えた電縫鋼管を得ることができる。本発明の電縫鋼管は、造管後の熱処理を行うことなく製造することができるため安価であることに加えて、表面性状および溶接性にも優れている。本発明の電縫鋼管は、建設機械の構造部材、特に、クレーンラチスまたはクレーンブーム用として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0019】
[成分組成]
本発明の電縫鋼管は、上述した成分組成を有する。以下、前記成分組成に含まれる各成分について説明する。なお、特に断らない限り、本明細書において成分の含有量の単位としての「%」は「質量%」を意味する。
【0020】
C:0.050~0.15%
Cは、強度を向上させる効果を有する元素である。建設機械の構造部材に求められる強度を確保するため、C含有量を0.050%以上とする。一方、C含有量が0.15%を超えると、低温靱性が劣化する。そのため、C含有量は0.15%以下、好ましくは0.12%以下とする。
【0021】
Si:0.001以上、0.050%未満
Siは、脱酸剤として作用するとともに、固溶強化元素としても作用する元素である。前記効果を得るためには0.001%以上の含有を必要とする。そのため、Si含有量は0.001%以上とする。一方、Siは酸化されやすい元素であるため、Si含有量が過剰であると電縫溶接の際に酸化物の生成が顕著となり、溶接品質が劣化する。そのため、Si含有量は0.050%未満とする。なお、肉厚が増加するほど溶接品質を確保することが困難となる傾向がある。そのため、とりわけ肉厚が6mm以上である場合には、Si含有量を0.050%未満に抑制することの効果が特に顕著である。
【0022】
Mn:1.5~2.5%
Mnは、固溶して鋼の強度向上に寄与する元素である。また、Mnは、鋼の焼入れ性を向上させる効果を有しているため、Mnを適切に添加することにより、肉厚が厚い場合であってもベイナイト主体の組織を得ることができる。建設機械の構造部材に求められる強度を確保するため、Mn含有量を1.5%以上、好ましくは1.6%以上とする。一方、Mn含有量が2.5%を超えると、靭性が低下することに加え、硬度が過度に高くなるため造管が困難となる。そのため、Mn含有量は2.5%以下、好ましくは2.0%以下とする。
【0023】
P:0.1%以下
Pは、不純物として鋼中に含まれる元素であり、粒界等に偏析し、耐溶接割れ性および靭性を低下させる。耐溶接割れ性および靭性の低下を防ぐためには、P含有量を0.1%以下に低減する必要がある。そのため、P含有量は0.1%以下、好ましくは0.05%以下とする。
【0024】
S:0.01%以下
Sは、鋼中では硫化物系介在物として存在し、熱間加工性および靭性を低下させる元素である。熱間加工性および靭性の低下を防ぐためには、S含有量を0.01%以下に低減する必要がある。そのため、S含有量は0.01%以下、好ましくは0.005%以下とする。
【0025】
Al:0.01~0.10%
Alは、脱酸剤として作用するとともに、Nと結合しAlNとして析出し、強度を高める効果を有する。前記効果を得るためには、0.01%以上の含有を必要とする。そのため、Al含有量は0.01%以上とする。一方、0.10%を超えて多量に含有すると、酸化物系介在物量が増加し、加工性が低下する。そのため、Al含有量は0.10%以下、好ましくは0.05%以下とする。
【0026】
Ti:0.05~0.20%
Tiは、TiCなどの炭化物を形成する。炭化物を形成することにより、スラブ加熱段階でのオーステナイト粒の粗大化が抑制される。したがって、Tiを添加することにより、結晶粒の微細化と析出強化によって鋼の強度を増加させることができる。前記効果を得るために、Ti含有量を0.05%以上とする。一方、Ti含有量が0.20%を超えると、延性が低下する。そのため、Ti含有量は0.20%以下とする。より好ましくは、0.06~0.15%である。
【0027】
Nb:0.01~0.10%
Nbは、Tiと同様に鋼中のCと結合し、NbCなどの炭化物を形成する。生成した炭化物が主相であるベイナイト中に微細分散することにより、ベイナイトが強化される。前記効果を得るためには、Nb含有量を0.01%以上の含有を有する。そのため、Nb含有量は0.01%以上とする。一方、Nb含有量が0.10%を超えると、添加効果が飽和して含有量に見合う効果が得られないため、経済的に不利となる。そのため、Nb含有量は0.10%以下、好ましくは0.05%以下とする。
【0028】
N:0.0005~0.01%
Nは、不純物として不可避的に含有される元素である。Nは、鋼中の窒化物形成元素と結合し、結晶粒の粗大化の抑制に寄与する。前記効果を得るためには0.0005%以上の含有を必要とする。そのため、N含有量を0.0005%以上とする。一方、N含有量が0.01%を超えると、溶接部の靭性が低下する。そのため、N含有量は0.01%以下、好ましくは0.005%以下とする。
【0029】
本発明の一実施形態における成分組成は、上記元素と、残部がFe及び不可避不純物からなるものとすることができる。
【0030】
Mn/Si:36超
電縫溶接管の溶接品質を確保する上で、Si含有量に対するMn含有量の比Mn/Siを適切に制御することが重要である。電縫溶接を行うと接合面にはSiおよびMnの酸化物が形成されるが、形成されるSiおよびMnの酸化物の溶融温度はMn/Siの値に依存する。Mn/Siの値が低いと酸化物の溶融温度が高くなり、アップセットした時に酸化物が管外に排出されにくくなり、接合強度を低下させる。これを抑制するために、Mn/Si比を36超とする。なお、ここで比Mn/Siは、MnとSiの質量比である。
【0031】
また、本発明の他の実施形態においては、上記成分組成が、さらに任意に、以下に挙げる元素から選択される少なくとも1つを、以下に記す量で含有することができる。
【0032】
Mo:0.05~0.30%、
Moは固溶して鋼のさらなる強度向上に寄与する元素である。Moを添加する場合、前記効果を得るためにMo含有量を0.05%以上とする。一方、Mo含有量が0.30%を超えると、効果が飽和することに加え、コストの増加が顕著となる。そのため、Mo含有量は0.30%以下、好ましくは0.2%以下とする。
【0033】
Cr:0.05~0.50%
Crは固溶して鋼のさらなる強度向上に寄与する元素である。Crを添加する場合、前記効果を得るために、Cr含有量を0.05%以上とする。一方、Cr含有量が0.50%を超えると、酸化物が形成されやすくなり、電縫溶接部にCr酸化物が残存して電縫溶接品質が低下する。そのため、Cr含有量は0.50%以下、好ましくは0.3%以下とする。
【0034】
Cu:0.001~0.5%
Cuは、耐食性を向上させる作用を有する元素である。Cuを添加する場合、前記効果を得るために、Cu含有量を0.001%以上とする。一方、Cuは高価な合金元素であるため、Cu含有量が0.5%を超えると材料コストの高騰を招く。そのため、Cu含有量は0.5%以下、好ましくは0.30%以下とする。
【0035】
Ni:0.001~0.5%
Niは、Cuと同様、耐食性を向上させる作用を有する元素である。Niを添加する場合、前記効果を得るために、Ni含有量を0.001%以上とする。一方、Niは高価な合金元素であるため、Ni含有量が0.5%を超えると材料コストの高騰を招く。そのため、Ni含有量は0.5%以下、好ましくは0.30%以下とする。
【0036】
W:0.001~0.05%
Wは、TiやNbと同様に、微細な炭化物を形成して強度(硬さ)のさらなる増加に寄与する元素である。Wを添加する場合、前記効果を得るためにW含有量を0.001%以上とする。一方、W含有量が0.05%を超えると、添加効果が飽和して含有量に見合う効果が得られないため、経済的に不利となる。そのため、W含有量は0.05%以下、好ましくは0.03%以下とする。
【0037】
V:0.001~0.01%
Vは、N、Tiと同様に鋼中のCと結合し炭化物を形成し主相であるベイナイト中に微細分散することでベイナイトをさらに強化する効果を有する元素である。Vを添加する場合、前記効果を得るためにV含有量を0.001%以上とする。一方、V含有量が0.01%を超えると、添加効果が飽和して含有量に見合う効果が得られないため、経済的に不利となる。そのため、V含有量は0.01%以下、好ましくは0.008%以下とする。
【0038】
Ca:0.0001~0.0050%
Caは、硫化物系介在物の形態制御を介して延性を向上させる作用を有する元素である。Caを添加する場合、前記効果を得るためにCa含有量を0.0001%以上、好ましくは0.0010%以上とする。一方、Ca含有量が0.0050%を超えると、介在物量が過剰となり鋼の清浄度が低下する。そのため、Ca含有量は0.0050%%以下、好ましくは0.0040%以下とする。
【0039】
REM:0.02%以下
REM(希土類金属)は、Caと同様に、硫化物系介在物の形態を微細な略球形の介在物に制御する作用を有する元素である。しかし、REM含有量が0.02%を超えると、疲労き裂の起点となる介在物の量が過剰となるため、耐腐食疲労特性が低下する。そのため、REM含有量は0.02%以下、好ましくは0.01%以下とする。一方、REM含有量の下限はとくに限定されないが、REMの添加効果を高めるという観点からは、REMを添加する場合、REM含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
【0040】
[微細組織]
本発明の電縫鋼管は、ベイナイト相と、面積率10%以下のフェライト相からなる微細組織を有する。前記微細組織を有することにより、所望の高強度と優れた低温靭性を兼備することが可能となる。
【0041】
フェライト面積率:10%以下
フェライトの面積率が10%を超えると、所望の強度を達成することができない。そのため、フェライトの面積率は10%以下、好ましくは5%以下とする。フェライトの面積率は低ければ低いほどよく、したがって0%であってもよい。言い換えると、本発明の電縫鋼管の微細組織は、ベイナイトのみからなるベイナイト単相組織であってもよい。
【0042】
[機械的特性]
TS:780MPa以上
クレーンラチスおよびクレーンブームなどの建設機械用の構造部材として好適に用いるために、引張強さ(TS)を780MPa以上とする。一方、引張強さの上限はとくに限定されないが、過度に強度が高いと、成形が困難となることに加え、低温靱性の確保も難しくなる。そのため、引張強さは1180MPa以下とすることが好ましい。
【0043】
vE-20:31J以上
寒冷地で使用するためには、優れた低温衝撃特性を備えることが求められる。低温衝撃特性の指標である-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーvE-20が31J未満であると、寒冷地で使用する際の脆性破壊のリスク顕著となる。そこで、vE-20を31J以上とする。一方、vE-20は高ければ高いほど好ましいため、vE-20の上限はとくに限定されない。なお、ここで、vE-20は、JIS Z 2242の規定に準拠して、幅10mm×高さ5mm×長さ55mm、ノッチ角度45°、ノッチ深さ2mm、ノッチ底半径0.25mmのVノッチ試験片を使用し、試験温度-20°でシャルピー衝撃試験を行って測定される吸収エネルギーと定義する。より詳細には、実施例に記載した方法で測定することができる。
【0044】
[製造方法]
次に、本発明の一実施形態における電縫鋼管の製造方法について説明する。
【0045】
本発明の一実施形態においては、鋼素材に対して、所定の条件で、加熱、熱間圧延、水冷、巻取り、ロール成形、および電縫溶接を順次施すことにより、上記条件を満たす電縫鋼管を製造することができる。
【0046】
[鋼素材]
前記鋼素材としては、上述した成分組成を有する鋼材であれば任意のものを用いることができる。前記鋼素材としては、典型的には鋼スラブが用いられる。
【0047】
前記鋼素材は、例えば、上記した成分組成を有する溶鋼を、転炉等の常用の溶製方法で溶製し、連続鋳造法または造塊-圧延法でスラブ等の形状に成形することにより得ることができる。
【0048】
[加熱]
加熱温度:1100℃~1250℃
まず、上記鋼素材を、1100~1250℃の加熱温度まで加熱する。製造過程において、強化や結晶粒微細化に有効な微細析出物を析出させるためには、鋼素材に含まれるTiやNbなどの析出物を十分に溶解しておく必要がある。そのためには、加熱温度を1100℃以上とする必要がある。一方、加熱温度が1250℃を超えると、オーステナイト粒が著しく粗大化し、靱性が低下する。そのため、加熱温度は1250℃以下、好ましくは1220℃以下とする。
【0049】
[熱間圧延]
仕上圧延終了温度:700~830℃
次に、加熱された前記鋼素材を、仕上圧延終了温度:700~830℃の条件で熱間圧延して熱延鋼帯とする。仕上圧延終了温度が700℃未満では、鋼素材の硬度が高いため、熱間圧延およびその後の成形が困難となり、生産性が低下する。そのため、仕上圧延終了温度は700℃以上とする。一方、仕上圧延終了温度が830℃より高いと、結晶粒が粗大化する結果、必要とする強度が達成できない。また、表面肌が劣化し、製品の外観性を損ねる。そのため、仕上圧延終了温度は830℃以下、好ましくは810℃以下とする。
【0050】
なお、上記熱間圧延は、粗圧延と仕上圧延を含むことができる。言い換えると、前記熱間圧延においては、鋼素材を粗圧延してシートバーとし、次いで前記シートバーを仕上圧延して熱延鋼帯とすることができる。本発明においては、粗圧延の条件は特に限定されない。
【0051】
[水冷]
次いで、巻取りに先だって、前記熱延鋼帯を水冷する。前記水冷は、とくに限定されることなく任意の方法で行うことができる。例えば、ランナウトテーブル上で熱延鋼帯を水冷してもよい。
【0052】
平均冷却速度:50℃/s以上
冷却終了温度:500℃以下
ベイナイト主体の微細組織を得るためには、前記水冷により、平均冷却速度:50℃/s以上で、500℃以下の冷却終了温度まで冷却することが重要である。平均冷却速度が50℃/s未満であると、フェライト相が増加し、その結果、強度が低下する。そのため、平均冷却速度を50℃/s以上とする。なお、前記平均冷却速度は、水冷開始から水冷終了までの平均冷却速度と定義する。なお、前記平均冷却速度の上限については特に限定しないが、平均冷却速度が過度に大きいと、所望の巻取り温度を達成するのに通板速度を大幅に上げる必要が発生するため、操業が難しくなる。また、場合によっては材質不安定につながる。そのため、前記平均冷却速度は150℃/s以下とすることが好ましい。
【0053】
[巻取り]
巻取温度:350~500℃
次いで、前記水冷された熱延鋼帯を、巻取温度:350~500℃でコイル状に巻取る。巻取温度が350℃未満であると、熱延鋼板が過度に硬質化して、その後の成形が難しくなる。そのため、巻取温度は350℃以上とする。一方、巻取温度が500℃より高いと、必要な強度が得られない。また、巻取温度が500℃より高いと、低温靭性に対して不利な上部ベイナイトが生成しやすくなる。そのため、巻取温度は500℃以下とする。
【0054】
[ロール成形]
次に、前記熱延鋼帯を、ロール成形して略円筒状のオープン管とする。前記ロール成形は、常法にしたがって行うことができる。
【0055】
[電縫溶接]
次いで、前記オープン管の幅方向端部同士を衝合し、電縫溶接して電縫鋼管とする。前記オープン管の幅方向端部同士の衝合は、任意の方法で行うことができるが、通常は、スクイズロールを用いて行うことができる。また、前記電縫溶接は、例えば、高周波抵抗溶接または誘導加熱溶接によって行うことが好ましい。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の作用効果を確認するために、以下に述べる手順で電縫鋼管を製造し、その特性を評価した。
【0057】
まず、表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブ(鋼素材)とした。前記スラブに対して、表2に示す条件で加熱、熱間圧延、水冷、巻取り、ロール成形、および電縫溶接を順次施すことにより電縫鋼管を製造した。前記水冷においては、熱延鋼帯を表2に示した平均冷却速度で、500℃以下の冷却終了温度まで冷却した。前記冷却終了温度は、巻取温度が表2に示した温度となるように調整した。
【0058】
電縫鋼管の外径は114.3mmとし、肉厚は表2に示したとおりとした。得られた電縫鋼管には、焼入れや焼戻しなどの熱処理を施していない。ただし、比較のために比較例No.21の電縫鋼管に対しては、造管後に焼入れと焼戻しからなる熱処理を施した。前記焼入れは、925℃で5分保持した後、水焼き入れすることで行った。また、前記焼戻しは、550℃で10分間保持することで行った。
【0059】
得られた電縫鋼管について、以下の手順で組織観察、引張試験、およびシャルピー衝撃試験を実施した。
【0060】
(組織観察)
得られた電縫鋼管から、組織観察用試験片(管円周(C)方向断面観察)を10個採取した。前記試験片の断面を研磨した後、ナイタール液を用いて腐食することにより微細組織を現出させた。次いで、光学顕微鏡を用い、前記試験片の表面を倍率200倍で試験片1つあたり10視野以上撮像して微細組織の画像を得た。画像解析装置を用いて得られた画像を解析し、ベイナイト、フェライト等の組織の種類を同定し、試験片10個×10視野以上のすべての視野における観察結果の平均値としてフェライトの面積率を算出した。得られた結果を表2に示す。なお、比較例No.21の電縫鋼管は、フェライトの面積率が0%であり、100%焼き戻しマルテンサイトからなる微細組織を有していた。
【0061】
(引張試験)
得られた電縫鋼管から、JIS Z 2241の規定に準拠して、引張方向が管軸(L)方向となるようにJIS 12号B引張試験片(標点距離:50mm)を採取した。次いで、前記引張試験片を用い、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を実施し、0.2%耐力(YS)、引張強さ(TS)、伸び(El)を求めた。得られた結果を表2に示す。
【0062】
(シャルピー衝撃試験)
得られた電縫鋼管から、JIS Z 2242の規定に準拠して、管長手(L)方向の管厚中央部からVノッチ試験片(幅10mm×高さ5mm×長さ55mm、ノッチ角度45°、ノッチ深さ2mm、ノッチ底半径0.25mm)を管軸方向から採取した。前記試験片を用い、試験温度-20℃にてシャルピー衝撃試験を行って、-20℃におけるシャルピー吸収エネルギーvE-20を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0063】
(溶接品質)
溶接品質を評価するために、JIS G3445に記載の方法に基づいて、溶接部を真横にして上限の平板にて押しつぶす90度扁平試験を実施した。前記偏平試験において、溶接部に割れが発生する扁平高さ(平板管の距離)が7/8×管外径(D)以下の場合に溶接品質が良好とし、扁平高さが7/8×管外径(D)を超える場合には溶接品質が不良であると判断した。
【0064】
(表面肌)
得られた電縫鋼管の外面および内面について外観目視検査を行い、表面に肌荒れ、スケール残り、あばた状の凹凸などが存在する場合、表面肌不良と判断した。
【0065】
表2に示した結果から分かるように、本発明の条件を満たす電縫鋼管は、高強度かつ、低温靭性に優れており、さらに、造管後に熱処理を行って製造される継目無鋼管に比べて表面性状にも優れていた。また、溶接性にも優れていた。これに対して、本発明の条件を満たさない電縫鋼管は、強度、低温衝撃特性、表面性状、および溶接品質の少なくとも1つが劣っていた。また、造管後に熱処理を行った比較例No.21では、強度と低温衝撃特性は優れているものの、表面肌があばた状になり美麗性に劣っていた。
【0066】
【0067】