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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】ステアリングシステム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20231121BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021122982
(22)【出願日】2021-07-28
(65)【公開番号】P2023018750
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功史
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋介
(72)【発明者】
【氏名】半澤 弘明
(72)【発明者】
【氏名】飯田 一鑑
(72)【発明者】
【氏名】日比野 徳亮
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-195238(JP,A)
【文献】特開2008-302825(JP,A)
【文献】特開2009-120097(JP,A)
【文献】特開2009-040224(JP,A)
【文献】特開2004-338657(JP,A)
【文献】特開2009-061844(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0239352(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D101/00-137/00
B60W 10/00-50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主電源及びバックアップ電源と、
前記主電源及び前記バックアップ電源の少なくとも一方から給電される転舵モータを有し、前記転舵モータの力により車輪を転舵する転舵装置と、
前記主電源の電圧を検出し、前記主電源から前記転舵モータに給電させ、転舵要求に基づいて前記転舵装置を制御する制御装置と、
を備えるステアバイワイヤ型のステアリングシステムであって、
前記制御装置は、
前記バックアップ電源が正常である場合には、前記主電源の電圧が第1閾値未満であると判断すると、前記主電源及び前記バックアップ電源の少なくとも一方から前記転舵モータへの給電に基づいて異常時制御を実行し、
前記バックアップ電源が異常である場合には、前記主電源の電圧が前記第1閾値よりも大きい第2閾値未満であると判断すると、前記主電源から前記転舵モータへの給電に基づいて異常時制御を実行するように構成されている、
ステアリングシステム。
【請求項2】
前記バックアップ電源は、
キャパシタと、
前記主電源の電圧を検出する第1電圧検出部と、
前記キャパシタの電圧を検出する第2電圧検出部と、
前記第1電圧検出部の検出結果に基づいて、前記転舵モータへの給電元を前記主電源と前記キャパシタとの間で切り替えるマイコンと、
を備え、
前記マイコンは、前記主電源の電圧がバックアップ移行閾値未満であると判断すると、前記転舵モータへの給電元を前記主電源から前記バックアップ電源に切り替えるように構成されている、
請求項1に記載のステアリングシステム。
【請求項3】
前記第1閾値と前記バックアップ移行閾値とが、同じ値に設定されている、
請求項2に記載のステアリングシステム。
【請求項4】
前記マイコンは、制御状況と前記第2電圧検出部の検出結果とに基づいて、前記バックアップ電源が正常であるか否かを判定する、
請求項2又は3に記載のステアリングシステム。
【請求項5】
前記マイコンは、前記制御装置に定期的に信号を送信し、
前記制御装置は、前記マイコンからの信号受信が途切れたと判断すると、前記バックアップ電源が異常であると判定する、
請求項2~4の何れか一項に記載のステアリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるステアバイワイヤ型のステアリングシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ステアバイワイヤ型のステアリングシステムでは、フェールセーフの観点から、バックアップ電源を備えたり、システムを冗長化(二重化)させたりすることが提案されている。例えば特開2004-338657号公報に記載の車両用操舵装置によれば、主電源の電圧が低下すると、転舵軸駆動モータへの給電元が主電源からバックアップ電源に切り替わる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-338657号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記装置では、バックアップ電源が異常となった後で、主電源の電圧が故障した場合の対策については特に記載がない。本発明の目的は、バックアップ電源が異常である場合に、主電源も異常になったとしても、異常時制御を実行することができるステアリングシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のステアリングシステムは、主電源及びバックアップ電源と、前記主電源及び前記バックアップ電源の少なくとも一方から給電される転舵モータを有し、前記転舵モータの力により車輪を転舵する転舵装置と、前記主電源の電圧を検出し、前記主電源から前記転舵モータに給電させ、転舵要求に基づいて前記転舵装置を制御する制御装置と、を備えるステアバイワイヤ型のステアリングシステムであって、前記制御装置は、前記バックアップ電源が正常である場合には、前記主電源の電圧が第1閾値未満であると判断すると、前記主電源及び前記バックアップ電源の少なくとも一方から前記転舵モータへの給電に基づいて異常時制御を実行し、前記バックアップ電源が異常である場合には、前記主電源の電圧が前記第1閾値よりも大きい第2閾値未満であると判断すると、前記主電源から前記転舵モータへの給電に基づいて異常時制御を実行するように構成されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、第2閾値が第1閾値よりも大きい値(高い値)であるため、バックアップ電源が異常である状況で主電源の電圧が低下した場合、バックアップ電源が正常である状況で主電源の電圧が低下した場合よりも早く異常時制御が実行される。これにより、バックアップ電源による給電不可の状況で、異常時制御が実行できなくなるほど主電源の電圧が下がってしまう前に、異常時制御を開始することができる。早く異常時制御を開始できるため、すなわち主電源の電圧が高いうちに異常時制御を開始できるため、異常時制御の必要な実行時間を確保することができる。本発明によれば、バックアップ電源が異常である場合に、主電源も異常になったとしても、異常時制御を実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施例のステアリングシステムの全体構成を模式的に示す図である。
図2】実施例のステアリングシステムにおける電源の模式図である。
図3】実施例のバックアップ電源の構成を示す模式図である。
図4】実施例における主電源の電圧の変化と退避走行制御の開始時期とを説明するためのタイムチャートである。
図5】実施例における主電源の電圧の変化と退避走行制御の開始時期とを説明するためのタイムチャートである。
図6】実施例の制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、請求可能発明を実施するための形態として、本発明の実施例であるステアリングシステムを、図を参照しつつ詳しく説明する。まず、ステアリングシステムの構成及び制御([A]~[C])について説明した後に、[D]バックアップ電源の詳細構成及び[E]異常時制御について説明する。なお、本発明は、下記実施例の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【0009】
[A]ステアリングシステムの構成
車両に搭載される実施例のステアリングシステム1は、図1に模式的に示すように、それぞれが転舵輪である2つの車輪(前輪)10を転舵するためのシステムである。ステアリングシステム1は、機械的に互いに独立した操作装置12および転舵装置14を備えたステアバイワイヤ型のステアリングシステムである。
【0010】
操作装置12は、ステアリングホイール20と、ステアリングシャフト22と、ステアリングコラム24と、反力付与機構28と、を備えている。ステアリングホイール20は、運転者によって操舵操作(ステアリング操作)される操作部材である。ステアリングシャフト22は、先端にステアリングホイール20が取り付けられたシャフト部材である。ステアリングコラム24は、ステアリングシャフト22を回転可能に保持するとともに、インパネリインフォースメント(図示を省略)に支持される部材である。反力付与機構28は、ステアリングコラム24に支持された電動モータである反力モータ26を力源として、操舵操作に対する反力(厳密には、反力トルクであるが、以下、慣用されている「操作反力」という文言を用いることとする)を、ステアリングシャフト22を介して、ステアリングホイール20に付与する機構である。反力付与機構28は、減速機等を含む一般的な構造のものであるため、反力付与機構28の具体的な構造についての説明は、省略する。
【0011】
反力モータ26は、3相のブラシレスDCモータであり、回転シャフトの外周に磁石が付設され、それら磁石と対向するようにハウジングにコイルが配設されている。反力モータ26は、1つの磁石に対して、2セットのコイルが配設された2系統モータである。以下、2系統の反力モータ26のうちの一方の系統を反力モータ26aと呼び,他方の系統を反力モータ26bと呼ぶ場合がある。反力モータ26aは、自身への電力供給における通電相の切換のために、1回転内における回転角(「相対角」,「位相」と考えることができる)を検出するためのモータ回転角センサ30aを有している。同様に、反力モータ26bは、モータ回転角センサ30bを有している。以下、モータ回転角センサ30a、30bを「モータ回転角センサ30」と総称する場合がある。したがって、本操作装置12は、冗長系である2系統の装置(以下、「操作装置12a」,「操作装置12b」という場合がある)と考えることができる。
【0012】
操作装置12は、ステアリングホイール20の操作角をステアリング操作量として検出する操作角センサ32を有している。ちなみに、車両の直進状態においてステアリングホイール20がとる姿勢を中立姿勢とした場合に、その中立姿勢からの左右方向それぞれへの回転角(「絶対角」と考えることができる)が、ステアリングホイール20の操作角である。
【0013】
また、ステアリングシステム1では、一般的ないわゆるパワーステアリングシステムと同様、ステアリングシャフト22に、トーションバー34が組み込まれており、そのトーションバー34の捩じれ量に基づいて、運転者によってステアリングホイール20に加えられる操作力としての操作トルクを検出するための操作トルクセンサ36a,36b(以下、「操作トルクセンサ36」と総称する場合がある)を有している。操作トルクセンサ36は、当該操作装置12の2系統に対応すべく、2つ設けられている。
【0014】
車輪10の各々は、サスペンション装置の一構成要素であるステアリングナックル40を介して、転向可能に車体に支持されている。転舵装置14は、ステアリングナックル40を回動させることで、車輪10の各々を一体的に転舵する。転舵装置14は、主要構成要素として、転舵アクチュエータ42を有している。
【0015】
転舵アクチュエータ42は、ステアリングロッド46と、ハウジング48と、ロッド移動機構52と、を備えている。ステアリングロッド46(「ラックバー」と呼ばれることもある)は、両端がリンクロッド44を介して左右のステアリングナックル40にそれぞれ連結された部材である。ハウジング48は、ステアリングロッド46を左右に移動可能に支持するとともに、車体に固定的に保持された部材である。ロッド移動機構52は、電動モータである転舵モータ50を駆動源として、ステアリングロッド46を左右に移動させるための機構である。ロッド移動機構52は、ステアリングロッド46に螺設されたボール溝と、そのボール溝とベアリングボールを介して螺合するとともに転舵モータ50によって回転させられるナットとによって構成されるボールねじ機構を主体とするものである。一般的な構造のものであるため、ロッド移動機構52についてのここでの詳しい説明は省略する。
【0016】
なお、転舵モータ50も、反力モータ26と同様、2系統の3相ブラシレスDCモータであり、2系統の一方を転舵モータ50aと呼び,他方を転舵モータ50bと呼ぶ場合があることとする。転舵モータ50aは、自身への電力供給における通電相の切換のために、1回転内における回転角(「相対角」,「位相」と考えることができる)を検出するためのモータ回転角センサ54aを有している。同様に、転舵モータ50bは、モータ回転角センサ54bを有している。以下、モータ回転角センサ54a、54bを「モータ回転角センサ54」と総称する場合がある。したがって、本転舵装置14は、冗長系である2系統の装置(以下、「転舵装置14a」,「転舵装置14b」という場合がある)と考えることができる。ちなみに、転舵モータ50a,50bは、モータとセンサが1対1で対応するように、それぞれ、自身に実際に供給されている電流ISを検出するための電流センサ56a,56b(以下、「電流センサ56」と総称する場合がある)を、独自に有している。
【0017】
ちなみに、転舵装置14は、ステアリングロッド46の中立位置(車両の直進状態において位置する位置)からの左右それぞれへの移動量を検出することで、車輪10の転舵量としての転舵角を検出するための転舵角センサ58を有している。
【0018】
操作装置12の制御、詳しくは操作反力の制御、すなわち操作装置12の反力モータ26の制御は、当該操作装置12の2系統に対応して、それぞれのコントローラである操作コントローラとしての操作電子制御ユニット(以下、「操作ECU」という)60a,60bによって実行される。以下、操作ECU60a,60bを、操作ECU60と総称することがある。各操作ECU60は、CPU,ROM,RAM等を有するコンピュータや、反力モータ26のドライバ(駆動回路)であるインバータ等によって構成されている。
【0019】
同様に、転舵装置14の制御、詳しくは転舵角の制御、すなわち転舵装置14の転舵モータ50の制御は、当該転舵装置14の2系統に対応して、それぞれのコントローラである転舵コントローラとしての転舵電子制御ユニット(以下、「転舵ECU」と言う場合がある)62a,62bによって実行される。以下、転舵ECU62a,62bを、転舵ECU62と総称することがあることとする。各転舵ECU62は、CPU,ROM,RAM等を有するコンピュータや、転舵モータ50のドライバ(駆動回路)であるインバータ等によって構成されている。
【0020】
操作装置12a,転舵装置14a,操作ECU60a,及び転舵ECU62aが、1系統を構成し、操作装置12b,転舵装置14b,操作ECU60b,及び転舵ECU62bが、別の1系統を構成している。つまり、ステアリングシステム1は、2系統のステアリングシステムとされている。そのため、操作装置12aと転舵装置14aとは、専用通信線64aによって繋がれ、操作装置12bと転舵装置14bとは、専用通信線64bによって繋がれている(以下、専用通信線64a,64bを、「専用通信線64」と総称する場合がある)。また、別系統の操作装置12,転舵装置14間の通信を可能とするため、各操作装置12,転舵装置14は、共通通信線としてのCAN(car area network or controllable area network)66に接続されている。
【0021】
なお、ステアリングシステム1では、操作装置12a,転舵装置14a,操作ECU60a,及び転舵ECU62aが、メイン系統を構成し、操作装置12b,転舵装置14b,操作ECU60b,及び転舵ECU62bが、サブ系統を構成している。転舵装置14a,転舵モータ50aを、転舵メイン系統14a,転舵メイン系統50aと考えることができ、転舵装置14b,転舵モータ50bを、転舵サブ系統14b,転舵サブ系統50bと考えることができる。同様に、操作装置12a,反力モータ26aを、操作メイン系統12a,反力メイン系統26aと考えることができ、操作装置12b,反力モータ26bを、操作サブ系統12b,反力サブ系統26bと考えることができる。また、操作ECU60a,転舵ECU62aを、制御メイン系統60a,制御メイン系統62aと考えることができ、操作ECU60b,転舵ECU62bを、制御サブ系統60b,制御サブ系統62bと考えることができる。
【0022】
[B]ステアリングシステムにおける電源
実施例のステアリングシステム1は、操作装置12及び転舵装置14の電源として、図2に模式的に示すように、主電源としての主電源ユニット(以下、単に「主電源」という)70と、バックアップ電源としてのバックアップ電源ユニット(以下、単に「バックアップ電源」という)90とを備えている。主電源70は、DC-DCコンバータ74と、蓄電池76とを有している。蓄電池76は、補機バッテリとも呼ばれる。バックアップ電源90は、蓄電デバイスとしてのキャパシタ91を有している。なお、図では、操作装置12,転舵装置14からのグランド線については記載を省略している。
【0023】
ステアリングシステム1が搭載されている車両は、ハイブリッド車両であり、DC-DCコンバータ74には、駆動系電源80から電力が供給される。DC-DCコンバータ74は、駆動系電源80から印加されている電圧を、ステアリングシステム1の駆動電圧に変換する。蓄電池76は、DC-DCコンバータ74と並列に接続されており、DC-DCコンバータ74によって変圧された電圧の電気エネルギを蓄電する。ちなみに、ステアリングシステム1が搭載されている車両が、ハイブリッド車両や電動車両でない場合には、駆動系電源80からではなく、例えばオルタネータから電力が供給されるように構成されてもよく、主電源70がオルタネータを含んで構成されてもよい。
【0024】
操作サブ系統12bを構成する反力モータ26bには操作ECU60bを介して主電源70から給電され、転舵サブ系統14bを構成する転舵モータ50bには転舵ECU62bを介して主電源70から給電される。一方で、操作メイン系統12aを構成する反力モータ26aには操作ECU60aを介してバックアップ電源90から給電され、転舵メイン系統14aを構成する転舵モータ50aには転舵ECU62aを介してバックアップ電源90から給電される。後述するように、通常の給電が行われる通常給電時において、反力モータ26a及び転舵モータ50aには、主電源70からバックアップ電源90を介して給電される。
【0025】
バックアップ電源90は、主電源70から給電されており、その給電によってキャパシタ91は充電される。バックアップ電源90は、その充電を行いつつ、主電源70からの給電を通過させることで、主電源70からの反力モータ26a及び転舵モータ50aへの給電を実現させている。したがって、通常給電時、操作メイン系統12aを構成する反力モータ26a及び転舵メイン系統14aを構成する転舵モータ50aに、主電源70から給電される。また通常給電時、操作サブ系統12bを構成する反力モータ26b及び転舵サブ系統14bを構成する転舵モータ50bにも、主電源70から給電される。以下、主電源70からバックアップ電源90を通過させて行う給電を、単に、主電源70からの給電と呼ぶこととする。
【0026】
断線の一例として、図2において白抜き矢印で示す箇所で、主電源70とバックアップ電源90との接続が断たれたような場合を考える。この場合、主電源70による反力モータ26a,転舵モータ50aへの給電を行い得ず、バックアップ電源90は、キャパシタ91に蓄えられた電気エネルギに依拠して、反力モータ26a及び転舵モータ50aに給電する。バックアップ電源90は、適正な電圧で主電源70から自身に受電されていない場合に、キャパシタ91からの給電を行うようにされている。なお、キャパシタ91からの給電を、バックアップ電源90からの給電ということとする。
【0027】
実施例のステアリングシステム1において、操作サブ系統12bを構成する反力モータ26b及び転舵サブ系統14bを構成する転舵モータ50bには、主電源70からだけ給電される。それに対して、操作メイン系統12aを構成する反力モータ26a及び転舵メイン系統14aを構成する転舵モータ50aには、主電源70とバックアップ電源90とから選択的に給電可能となっている。そして、バックアップ時には、反力モータ26a及び転舵モータ50aへの給電元(給電源)が、主電源70からバックアップ電源90に切り換えられ、反力モータ26a及び転舵モータ50aへの給電は、バックアップ電源90からなされる。バックアップ電源90の詳細については後述する。
【0028】
[C]ステアリングシステムの制御
以下に、ステアリングシステム1の制御について、転舵装置14の制御である転舵制御と,操作装置12の反力付与機構28の制御である反力制御を、順次説明する。
【0029】
(a)転舵制御
転舵制御は、転舵要求、すなわち手動運転の場合におけるステアリングホイール20の操作角に応じて、車輪10を転舵するための制御である。転舵制御は、転舵ECU62によって実行される。詳しく言えば、転舵制御としては、2系統のコントローラである転舵ECU62a及び転舵ECU62bがそれぞれ独立して制御を行う独立転舵制御(単に、「独立制御」という場合がある)と、それら転舵ECU62a及び転舵ECU62bが協調して制御を行う協調転舵制御(単に、「協調制御」という場合がある)との2種類が設定されている。以下に、独立転舵制御と協調転舵制御についてそれぞれ説明する。
【0030】
i)独立転舵制御
独立転舵制御では、転舵ECU62aが転舵メイン系統14aを制御し、転舵ECU62bが転舵サブ系統14bを制御する。つまり、転舵ECU62a及び転舵ECU62bが、互いに同じ制御を並行して行う。以下に、転舵ECU62a及び転舵ECU62bの各々の転舵制御を、1つの系統の制御としてまとめて説明する。なお、以下の独立転舵制御の説明において、メイン系統であるかサブ系統であるかを問わないときには、構成要素の符号の添え字a,bを用いないこととする。
【0031】
反力モータ26のモータ回転角とステアリングホイール20の操作角とは、所定のギヤ比となる関係にあり、当該車両の始動時に、操作角センサ32によって検出された操作角を基にモータ回転角のキャリブレーションが行われる。操作ECU60は、ステアリングホイール20の操作角を、反力モータ26のモータ回転角センサ30を介して検出されたモータ回転角に基づいて取得している。独立転舵制御では、転舵ECU62は、同系統の操作ECU60から、その操作角の情報を受信する。転舵ECU62は、操作角に基づいて、車輪10の転舵角の目標となる目標転舵角を決定する。
【0032】
転舵ECU62は、決定した目標転舵角に基づいて、転舵モータ50のモータ回転角の目標である目標モータ回転角を決定する。転舵ECU62は、モータ回転角センサ54を介して、転舵モータ50の実際のモータ回転角を検出し、目標モータ回転角に対するモータ回転角の偏差であるモータ回転角偏差を決定する。転舵モータ50が発生させるトルクを転舵トルクと呼べば、転舵ECU62は、モータ回転角偏差に基づくフィードバック制御則に従って、発生させるべき転舵トルクを決定する。
【0033】
転舵モータ50に供給される電流を転舵電流と呼べば、転舵トルクと転舵電流とは、概ね比例関係にある。その関係にしたがって、転舵ECU62は、決定された転舵トルクに基づいて、転舵モータ50に供給すべき転舵電流を決定し、その転舵電流を、転舵モータ50に供給する。なお、操作装置12の反力付与機構28の制御や、協調転舵制御において転舵電流の値を利用するために、転舵ECU62は、転舵電流についての情報を送信する。
【0034】
ii)協調転舵制御
協調転舵制御は、転舵メイン系統14aおよび転舵サブ系統14bに主電源70から電力が供給可能となされている通常給電時に実行される。協調転舵制御は、転舵装置14、詳しくは、転舵アクチュエータ42の円滑な動作、および、転舵メイン系統14aと転舵サブ系統14bとが互いに同じ力を発生させることに考慮した制御である。言い換えれば、協調転舵制御は、転舵サブ系統14bを構成する転舵モータ50bを、転舵メイン系統14aを構成する転舵モータ50aに整合させて作動させる制御である。
【0035】
協調転舵制御では、制御メイン系統を構成する転舵ECU62aは、自らが転舵モータ50aに供給する転舵電流についての情報を、制御サブ系統を構成する転舵ECU62bに送信する。転舵ECU62bは、自らが転舵モータ50bに供給する転舵電流を決定するのではなく、受信した情報に基づく転舵電流を、転舵モータ50bに供給する。
【0036】
このように、実施例のステアリングシステム1は、主電源70およびバックアップ電源90と、メイン系統及びサブ系統の2系統とされた転舵モータ50を有し、その転舵モータ50が発生させる力によって車輪10を転舵する転舵装置14と、転舵装置14を転舵要求に基づいて制御すべく、転舵モータ50のメイン系統及びサブ系統の各々の作動を制御する転舵ECU62(制御装置)と、を備えている。ステアリングシステム1は、転舵モータ50のメイン系統に主電源70とバックアップ電源90とから選択的に給電され、転舵モータ50のサブ系統に主電源70だけから給電されるように構成されている。転舵ECU62は、転舵モータ50のメイン系統およびサブ系統に主電源70から給電されている通常給電時には、転舵モータ50のサブ系統を、転舵モータ50のメイン系統に整合させて作動させ、転舵モータ50のメイン系統にバックアップ電源90から給電されるバックアップ時には、転舵モータ50のメイン系統と転舵モータ50のサブ系統とを、独立して制御するように構成されてもよい。
【0037】
(b)反力制御
反力制御は、運転者にステアリング操作に対する操作感を付与するための制御である。ステアリングシステム1では、反力制御は、通常給電時においては、操作メイン系統12a及び操作サブ系統12bが、互いに独立して、かつ、並行して、同じ操作反力を、ステアリングホイール20に付与するように設定されている。以下に、反力制御において、制御メイン系統を構成する操作ECU60aが行う反力付与処理,及び制御サブ系統を構成する操作ECU60bが行う反力付与処理について、それらを一元化して説明する。
【0038】
操作ECU60は、操作反力を、2つの成分である転舵負荷依拠成分FSと、操作力依拠減少成分FAとに基づいて決定する。転舵負荷依拠成分FSは、車輪10を転舵するために必要な転舵力(転舵モータ50の転舵トルク)に関する成分であり、転舵モータ50に供給されている転舵電流に基づいて決定される。詳しい説明は省略するが、転舵電流が大きい程、車輪10の転舵負荷が大きいと認識され、転舵負荷依拠成分FSが大きな値に決定される。ちなみに、転舵モータ50に実際に供給されている転舵電流に関する情報は、転舵ECU62から、専用通信線64を介して、同系統の操作ECU60に送られる。
【0039】
一方、操作力依拠減少成分FAは、いわゆるパワーステアリングシステムにおける操作感を運転者に付与するための成分と考えることができる。パワーステアリングシステムでは、一般的には、操作トルクに応じたアシストトルクを、ステアリングシャフト22に付与するようにされている。操作ECU60は、操作トルクセンサ36を介して、操作トルクを検出する。操作ECU60は、操作反力に基づき、反力モータ26に供給する電流である反力電流を決定し、その決定した反力電流を、反力モータ26に供給する。
【0040】
[D]バックアップ電源の詳細構成
図3に示すように、バックアップ電源90は、電源ライン90aと、キャパシタ91と、充電回路92と、放電回路93と、インターフェイス回路94と、マイコン95と、スイッチ96、97、98と、を備えている。電源ライン90aは、バックアップ電源90の入力端子9aと出力端子9bとを接続する配線である。入力端子9aは主電源70の正極に接続され、出力端子9bは操作装置12(操作ECU60a)及び転舵装置14(転舵ECU62a)に接続されている。電源ライン90aにはスイッチ96が配置されている。
【0041】
キャパシタ91は、電源ライン90aを介して、主電源70に並列に接続されている。主電源70の正極は、スイッチ96、97及び充電回路92を介して、キャパシタ91の一方端子に接続されている。また、主電源70の正極は、スイッチ96、98及び放電回路93を介して、キャパシタ91の一方端子に接続されている。充電回路92と放電回路93とは並列に接続されている。
【0042】
充電回路92は、キャパシタ91に電力を蓄えるための充電用回路である。スイッチ96、97がオン(接続)され、スイッチ98がオフ(遮断)されると、電源ライン90a、電源ライン90aと充電回路92との間に設けられたダイオード921、及び充電回路92を介して、主電源70からキャパシタ91への充電が開始される。放電回路93は、主電源70の故障等により、キャパシタ91からの電力供給が必要となった際に、キャパシタ91に蓄えられている電力を放電し、操作装置12及び転舵装置14に給電するための放電用回路である。スイッチ96、97がオフされ、スイッチ98がオンされると、放電回路93、電源ライン90aと放電回路93との間に設けられたダイオード931、及び電源ライン90aを介して、キャパシタ91から操作装置12及び転舵装置14に電力が供給される。
【0043】
インターフェイス回路94は、マイコン95に接続された回路であって、主電源70(電源ライン90a)の電圧及びキャパシタ91の電圧をレベル変換してマイコン95に出力する機能と、各スイッチ96~98に対するマイコン95からの制御信号を出力する機能とを有している。換言すると、インターフェイス回路94は、マイコン95が電圧をモニターするための回路であり、且つマイコン95の制御信号を各スイッチ96~98に出力するための回路である。
【0044】
バックアップ電源90は、さらに、主電源の電圧を検出する第1電圧検出部(電圧検出回路又は電圧計ともいえる)90bと、キャパシタ91の電圧を検出する第2電圧検出部(電圧検出回路又は電圧計ともいえる)90cと、を備えている。第1電圧検出部90b及び第2電圧検出部90cは、インターフェイス回路94を含んで構成されるといえる。マイコン95は、第1電圧検出部90b及び第2電圧検出部90cを介して、主電源70の電圧及びキャパシタ91の電圧を検出する。なお、操作ECU60及び転舵ECU62は、マイコン95を介さずに(別ルートで)、主電源70の電圧を検出可能に構成されている。つまり、操作ECU60及び転舵ECU62は、それぞれ、主電源70の電圧を検出する電圧検出部を備えているといえる。
【0045】
マイコン95は、CPU等を備える制御用のマイクロコンピュータである。マイコン95は、主電源70の電圧及びキャパシタ91の電圧をモニターし、各電圧値に基づいて各スイッチ96~98のオンオフを制御する。マイコン95は、電源ライン90aとは別に設けられた制御系電源回路951を介して、主電源70から給電される。制御系電源回路951は、イグニッション(キースイッチ)99がオンされると主電源70と接続される。マイコン95は、操作ECU60及び/又は転舵ECU62と通信可能に接続されている。図3の説明において、マイコン95は、操作ECU60aに接続されていることとする。
【0046】
マイコン95は、キャパシタ91の電圧値に基づいてキャパシタ91の蓄電量が不足していると判断した場合(例えばキャパシタ91の電圧値が所定値以下となった場合)、制御モードを通常モードから充電モードに変更する。通常モードは、スイッチ96がオンされ、スイッチ97、98がオフされる制御モードである。充電モードは、スイッチ96、97がオンされ、スイッチ98がオフされる制御モードである。
【0047】
マイコン95は、主電源70の電圧値に基づいて、主電源70が故障であると判断した場合、具体的に主電源70の電圧値が第1閾値未満であると判断した場合、制御モードを通常モード(又は充電モード)からバックアップモードに変更する。バックアップモードは、スイッチ96、97がオフされ、スイッチ98がオンされる制御モードである。マイコン95は、主電源70の電圧値が所定時間継続して第1閾値未満である場合、主電源70の電圧値が第1閾値未満であると判断するように構成されている。制御モードがバックアップモードになると、キャパシタ91から操作ECU60a及び転舵ECU62aのドライバ(インバータ)を介して反力モータ26及び転舵モータ50に電力が供給される。
【0048】
マイコン95は、キャパシタ91や放電回路93などの故障(異常)を検知すると、バックアップ電源90が故障している旨の情報を操作ECU60aに送信する。キャパシタ91の故障は、例えば、充電モードであるにもかかわらず、キャパシタ91の電圧が上昇しないなどにより検出できる。また、放電回路93の故障は、例えば車両起動時のイニシャルチェックで検出することができる。マイコン95は、キャパシタ91や放電回路93が故障している場合、主電源70の電圧値の大小にかかわらず制御モードをバックアップモードに変更しない。
【0049】
また、マイコン95自体が故障している場合、マイコン95から操作ECU60aに信号(定期的な信号)が送信されなくなる。このため、操作ECU60aは、マイコン95から信号を受信しないことから、バックアップ電源90が故障していると判断することができる。このように、操作ECU60aは、バックアップ電源90が故障したことを検知することができる。操作ECU60aは、バックアップ電源90が異常である場合、その情報を転舵ECU62に通知し、転舵ECU62がドライバに警告を出力する。転舵ECU62は、表示や音声により、ドライバに、異常である旨と、例えばディーラに向かうようになどのアドバイスを伝える。
【0050】
[E]異常時制御
転舵ECU62及び操作ECU60は、バックアップ電源90が正常である状態で、マイコン95が制御モードをバックアップモードに変更した場合、当該変更とともに異常時制御を実行する。異常時制御は、車両を安全に停止させるための制御であり、例えば退避走行制御である。主電源70の電圧低下は、駆動系電源80の故障によるものが多く、この場合、走行可能時間が限られる。したがって、退避走行制御は、安全な場所に車を退避させて停止させることができるように、例えば、ドライバに対して警告(例えば警告表示や音声)を出力する等により退避走行を促す制御である。制御モードがバックアップモードであるため、退避走行制御中の転舵制御は、バックアップ電源90からの給電により有効となる。また、退避走行制御では、例えばドライバに残りの走行可能時間を知らせてもよい。
【0051】
第1閾値は、バックアップ電源90が正常である場合の退避走行開始を判定するための閾値である。第1閾値は、操作装置12及び転舵装置14が作動不能となる電圧を基準として、当該基準に対して余裕を持たせた値(基準より高い値)に設定されている。図4に示すように、通常走行中に主電源70の故障が発生し、主電源70の電圧が低下し、主電源70の電圧が所定時間第1閾値未満であった場合、マイコン95が電力供給源を主電源70からバックアップ電源90に切り替えるとともに、転舵ECU62及び操作ECU60が退避走行制御を開始する。所定時間は、ノイズ(瞬間的な電圧低下)を除くために設定されている。バックアップ電源90の制御モードがバックアップモードとなることで、電源ライン90aを介して操作装置12及び転舵装置14にキャパシタ91の電力が供給される。
【0052】
一方、転舵ECU62及び操作ECU60は、バックアップ電源90の異常(故障)を検知した場合、退避走行制御の開始の判断指標となる主電源70の電圧値である閾値を、第1閾値から第2閾値に変更する。第2閾値は、第1閾値よりも大きい値である(第2閾値>第1閾値)。図5に示すように、転舵ECU62及び操作ECU60は、主電源70の電圧が低下して所定時間第2閾値未満であった場合、主電源70の電圧が第2閾値未満であると判断し、異常時制御すなわち退避走行制御を実行する。これにより、バックアップ電源90が正常である場合よりも早いタイミングで退避走行制御が開始され、早い分だけ長く主電源70の電力により退避走行を実行することができる。つまり、電圧が低下しきる前の主電源70の電力によって、操作装置12及び転舵装置14を作動させ、退避走行の完了が可能なタイミングで退避走行制御を開始することができる。マイコン95、転舵ECU62、及び操作ECU60によって、ステアリングシステム1の1つのコントローラが構成されているともいえる。
【0053】
図6を参照して、制御の流れの一例について説明する。まず、マイコン95、転舵ECU62、及び操作ECU60が、主電源70の電圧値の情報を取得する(S101)。転舵ECU62及び操作ECU60は、マイコン95との通信結果(例えば故障通知の有無又は無信号)に基づいて、バックアップ電源90が正常であるか否かを判定する(S102)。バックアップ電源90が正常である場合(S102:Yes)、転舵ECU62及び操作ECU60は、主電源70の電圧値と第1閾値とを比較する(S103)。主電源70の電圧値が第1閾値未満である場合(S103:Yes)、転舵ECU62及び操作ECU60は、主電源70の電圧値が第1閾値未満である状態の継続時間を計測する(S104)。具体的に、転舵ECU62及び操作ECU60は、カウンタの数を1増やす(S104)。
【0054】
続いて、転舵ECU62及び操作ECU60は、カウンタの数が所定値以上であるか否かを判定する(S105)。カウンタの数が所定値以上である場合(S105:Yes)、転舵ECU62及び操作ECU60は退避走行制御を実行する(S106)。主電源70の電圧値が第1閾値以上である場合(S103:No)、転舵ECU62及び操作ECU60はカウンタの数を0にする(S107)。また、マイコン95は、ステップS103~S105及びS107と同様に、転舵ECU62及び操作ECU60とは独立して、主電源70の電圧とバックアップ移行閾値(ここでは第1閾値と同じ値)とを比較する。バックアップ移行閾値は、制御モードをバックアップモードに移行させるか否かを判断するための閾値である。つまり、マイコン95は、主電源70の電圧が所定時間継続してバックアップ移行閾値を下回ると(例えばカウンタ数が所定値以上である場合)、制御モードをバックアップモードに移行させる。本例において、ECU60、62による異常時制御の開始判定と、マイコン95によるバックアップモードへの移行判定とは、互いに独立して行われている。本例では、結果的に、バックアップモードへの移行とともに異常時制御が開始される(S106)。
【0055】
一方で、バックアップ電源90が異常(故障)である場合(S102:No)、転舵ECU62及び操作ECU60は、主電源70の電圧値と第2閾値(第2閾値>第1閾値)とを比較する(S108)。主電源70の電圧値が第2閾値未満である場合(S108:Yes)、転舵ECU62及び操作ECU60は、主電源70の電圧値が第2閾値未満である状態の継続時間を計測する(S109)。具体的に、転舵ECU62及び操作ECU60は、カウンタの数を1増やす(S109)。続いて、転舵ECU62及び操作ECU60は、カウンタの数が所定値以上であるか否かを判定する(S110)。カウンタの数が所定値以上である場合(S110:Yes)、転舵ECU62及び操作ECU60は退避走行制御を実行する(S111)。なお、主電源70の電圧値が第2閾値以上である場合(S108:No)、転舵ECU62及び操作ECU60はカウンタの数を0にする(S112)。転舵ECU62及び操作ECU60は、このような処理を短い時間ピッチで繰り返し実行する。
【0056】
このように、バックアップ電源90が正常である場合、主電源70の故障に伴う退避走行制御は、第1閾値に基づいて開始され、バックアップ電源90の電力によって実行される。一方、バックアップ電源90が異常である場合、主電源70の故障に伴う退避走行制御は、第2閾値に基づいて開始され、主電源70の電力によって実行される。なお、異常時制御の開始判定などの各種判定は、転舵ECU62及び操作ECU60の少なくとも一方が行えばよい。
【0057】
(まとめ)
本実施形態のステアリングシステム1は、主電源70及びバックアップ電源90と、主電源70及びバックアップ電源90の少なくとも一方から給電される転舵モータ50を有し、転舵モータ50の力により車輪10を転舵する転舵装置14と、主電源70の電圧を検出し、主電源70から転舵モータ50に給電させ、転舵要求に基づいて転舵装置14を制御する制御装置としての転舵ECU62と、を備えるステアバイワイヤ型のステアリングシステムである。転舵ECU62は、バックアップ電源90が正常である場合には、主電源70の電圧が第1閾値未満であると判断すると、主電源70及びバックアップ電源90の少なくとも一方(主電源70及びバックアップ電源90のうち選択された電源)から転舵モータ50への給電に基づいて異常時制御を実行し、バックアップ電源90が異常である場合には、主電源70の電圧が第1閾値よりも大きい第2閾値未満であると判断すると、主電源70から転舵モータ50への給電に基づいて異常時制御を実行するように構成されている。
【0058】
本構成によれば、第2閾値が第1閾値よりも大きい値であるため、バックアップ電源90が異常である状況で主電源70の電圧が低下した場合、バックアップ電源90が正常である状況で主電源の電圧70が低下した場合よりも早く異常時制御が実行される。これにより、バックアップ電源90による給電不可の状況で、異常時制御が実行できなくなるほど主電源70の電圧が下がってしまう前に、異常時制御を開始することができる。早く異常時制御を開始できるため、すなわち主電源70の電圧が高いうちに異常時制御を開始できるため、異常時制御の必要な実行時間を確保することができる。本構成によれば、バックアップ電源90が異常である場合に、主電源70も異常になったとしても、異常時制御を実行することができる。
【0059】
バックアップ電源90は、キャパシタ91と、主電源70の電圧を検出する第1電圧検出部90bと、キャパシタ91の電圧を検出する第2電圧検出部90cと、第1電圧検出部90bの検出結果に基づいて、転舵モータ50への給電元を主電源70とキャパシタ91との間で切り替えるマイコン95と、を備えている。マイコン95は、主電源70の電圧がバックアップ移行閾値未満であると判断すると、転舵モータ50への給電元を主電源70からバックアップ電源90に切り替えるように構成されている。本実施形態では、第1閾値とバックアップ移行閾値とが同じ値に設定されている。これにより、異常時制御は、バックアップ電源90の電力により実行される。
【0060】
マイコン95は、制御状況と第2電圧検出部90cの検出結果とに基づいて、バックアップ電源90(キャパシタ91)が正常であるか否かを判定する。例えばバックアップモードであるのにキャパシタ91の電圧が上昇しない場合、マイコン95はバックアップ電源90が異常であると判定する。マイコン95は、転舵ECU62に判定結果を送信する。また、マイコン95は、転舵ECU62に定期的に(周期的に)信号を送信する。転舵ECU62は、マイコン95からの信号受信が途切れたと判定した場合(例えば所定時間受信なしの場合)、バックアップ電源90が異常であると判定する。このように、制御装置としての転舵ECU62は、バックアップ電源90の異常を把握する。
【0061】
(その他)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、電源の冗長構成は、上記に限らず、主電源70及びバックアップ電源90のうちの少なくとも1つが(例えば選択的に)転舵モータ50に給電する構成であればよい。また、ステアリングシステム1は、例えば自動運転車両にも適用できる。この場合、例えば転舵要求はECUから出力される。異常時制御は、上記に限らず、異常発生時の制御であればよい。制御モードのバックアップモードへの変更と、異常時制御の開始タイミングとは、ずれていてもよい。例えば、バックアップモードへの変更より前に異常時制御を開始してもよいし、バックアップモードへの変更後に異常時制御を開始してもよい。つまり、例えばバックアップ移行閾値と第1閾値とは異なる値に設定されてもよいし、判定の所定時間(カウンタ数と比較する所定値)が異なってもよい。また、ステアリングシステム1は、2つの系統を統括するための統括コントローラとしての統括ECUを備えてもよい。また、例えば、メイン系統のECU(操作ECU60a及び/又は転舵ECU62a)が2つの系統を統括するように作動してもよい。異常時制御は、最低限、転舵に関する部分(転舵ECU62)に対して実行されればよい。
【符号の説明】
【0062】
1:ステアリングシステム、10:車輪、14:転舵装置、50a、50b:転舵モータ、62a、62b:転舵ECU(制御装置)、70:主電源、90:バックアップ電源、90b:第1電圧検出部、90c:第2電圧検出部、91:キャパシタ、95:マイコン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6