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  • 特許-多層体および多層体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】多層体および多層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/30 20060101AFI20231121BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B32B3/30
B32B15/08 105Z
B32B15/08 M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021511278
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2020009218
(87)【国際公開番号】W WO2020203006
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2019072709
(32)【優先日】2019-04-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】松本 信彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 仁
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勇希
(72)【発明者】
【氏名】酒井 敦史
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-030260(JP,A)
【文献】国際公開第2011/045895(WO,A1)
【文献】特開2010-131888(JP,A)
【文献】再公表特許第2016/194361(JP,A1)
【文献】特開2011-156764(JP,A)
【文献】国際公開第2014/061520(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00ー43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が1μm超10μm以下である凹凸領域を有する金属層と、前記金属層の前記凹凸領域に接する樹脂層を含み、
前記樹脂層は、熱可塑性樹脂と、繊維状フィラーとを含み、
前記繊維状フィラーの数平均繊維径(F)が1μm未満であり、
前記繊維状フィラーの数平均繊維径(F)に対する、前記凹凸領域の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)の比率(RSm/F)が1~20000であり、
前記金属層における前記凹凸領域の最大高さ粗さ(Rz)が0.2~5μmである、多層体。
【請求項2】
前記凹凸領域の凹部に入りこんだ樹脂高さの最深部から1/4の点において、金属表面と平行に引いた線上の樹脂の幅(D2)が、前記凹部の開口径(D1)よりも大きい(D2>D1)、請求項1に記載の多層体。
【請求項3】
前記繊維状フィラーは、カーボンナノファイバー、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバーおよびカーボンナノホーンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1または2に記載の多層体。
【請求項4】
前記樹脂層を構成する樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびポリカーボネート樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項5】
前記比率(RSm/F)が10~5000である、請求項1~のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項6】
前記樹脂層中の前記繊維状フィラーの含有量が5~60質量%である、請求項1~のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項7】
輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が1μm超10μm以下である凹凸領域を有する金属層に、
前記金属層の前記凹凸領域に接するように、熱可塑性樹脂と、原料の繊維状フィラーとを含む樹脂組成物を適用することを含み、
前記原料の繊維状フィラーの数平均繊維径(Fm)が1μm未満であり、
前記原料の繊維状フィラーの数平均繊維径(Fm)に対する、前記凹凸領域の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)の比率(RSm/Fm)が1~20000であって、
前記金属層における前記凹凸領域の最大高さ粗さ(Rz)が0.2~5μmである、多層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂層と金属層との多層体および多層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂に強化繊維を含有させて、樹脂層の強度や剛性を高める技術がある。このような樹脂成形品は繊維強化プラスチック(Fiber-Reinforced Plastics)などと呼ばれ、建築材料や自動車部品、文房具、家庭用品から半導体関連部品まで、多岐にわたり応用されている。
【0003】
一方、そのような繊維で強化された樹脂層と金属層とを接合する場合がある。一般に樹脂層と金属層とは材質が大きく異なることもあり、密着性を確保することは難しく、その改善のための研究開発が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、金属層と、前記金属層の表面上に炭素繊維強化ポリアミド樹脂層を有し、前記炭素繊維強化ポリアミド樹脂層が、ジアミン単位とジカルボン酸単位とからなるポリアミド樹脂(A)100重量部に対し、炭素繊維(B)5~300重量部を含み、前記ジアミン単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸単位の70モル%以上がセバシン酸に由来する多層体が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ポリアミド樹脂30~90質量部と、強化充填材70~10質量部と、タルクを含む金属接合用ポリアミド樹脂組成物であって、前記金属接合用ポリアミド樹脂組成物が、前記タルクを0.1~10質量%の割合で含み、前記ポリアミド樹脂がTm≦290℃、Tm-Tcc≧28℃、かつ、0J/g<ΔHm≦55J/gである、金属接合用ポリアミド樹脂組成物;但し、Tm、TccおよびΔHmは、それぞれ、ポリアミド樹脂の融点、降温時結晶化温度および融解エンタルピーであるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-043526号公報
【文献】特開2018-177867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1、2に記載の手法により、繊維状フィラーを含む樹脂層と金属層との密着性に改善がみられる。しかしながら、繊維状フィラーとして、ナノファイバー等の細いフィラーを用いる場合、さらなる改良が求められる。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、細い繊維状フィラーを含む樹脂層と金属層との密着性を高めた多層体および多層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題のもと、本発明者が鋭意検討を行った結果、細い繊維状フィラーを用いる場合、繊維状フィラーの数平均繊維径と金属層の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)の比率を調整することにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1> 輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5~10μmである凹凸領域を有する金属層と、前記金属層の前記凹凸領域に接する樹脂層を含み、前記樹脂層は、熱可塑性樹脂と、繊維状フィラーとを含み、前記繊維状フィラーの数平均繊維径(F)が1μm未満であり、前記繊維状フィラーの数平均繊維径(F)に対する、前記凹凸領域の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)の比率(RSm/F)が1~20000である、多層体。
<2> 前記金属層における前記凹凸領域の最大高さ粗さ(Rz)が0.2~5μmである、<1>に記載の多層体。
<3> 前記凹凸領域の凹部に入りこんだ樹脂高さの最深部から1/4の点において、金属表面と平行に引いた線上の樹脂の幅(D2)が、前記凹部の開口径(D1)よりも大きい(D2>D1)、<1>または<2>に記載の多層体。
<4> 前記繊維状フィラーは、カーボンナノファイバー、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバーおよびカーボンナノホーンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の多層体。
<5> 前記樹脂層を構成する樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびポリカーボネート樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の多層体。
<6> 前記比率(RSm/F)が10~5000である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の多層体。
<7> 前記樹脂層中の前記繊維状フィラーの含有量が5~60質量%である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の多層体。
<8> 輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5~10μmである凹凸領域を有する金属層に、前記金属層の前記凹凸領域に接するように、熱可塑性樹脂と、繊維状フィラーとを含む樹脂組成物を適用することを含み、前記繊維状フィラーの数平均繊維径(Fm)が1μm未満であり、前記繊維状フィラーの数平均繊維径(Fm)に対する、前記凹凸領域の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)の比率(RSm/Fm)が1~20000である、多層体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ナノファイバー等を含む樹脂層と金属層との密着性を高めた多層体および多層体の製造方法を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の好ましい実施形態に係る多層体の一部を模式的に示した断面図である。
図2図1の凹凸領域Aを拡大した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0012】
本発明の多層体は、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5~10μmである凹凸領域を有する金属層と、金属層の前記凹凸領域に接する樹脂層を含み、樹脂層は、熱可塑性樹脂と、繊維状フィラーとを含み、繊維状フィラーの数平均繊維径(F)が1μm未満であり、繊維状フィラーの数平均繊維径(F)に対する、凹凸領域の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)の比率(RSm/F)が1~20000であることを特徴とする。
このような構成を採用することにより、樹脂層と金属層との密着性が高まる。その理由は推定を含むが以下のように解される。すなわち、本発明では、繊維状フィラーは、金属層の凹凸に対して十分に細いものが用いられている。そのため、樹脂層の成形時に繊維状フィラーは、その流動性を高く保つことができ、金属層の凹部に樹脂と共に十分に入り込むことができるものと推測される。さらに、経時により、金属層の表面には酸化被膜ができるが、樹脂と接合した際、凹部の表面にも酸化被膜ができる。すなわち、経時により、凹部の内容積も小さくなる。つまり、樹脂層が入り込んだ状態で金属層の凹部の内容積が小さくなるため、金属層と樹脂層がより強固に接合されると推測される。このような酸化被膜による効果は、繊維状フィラーの数平均繊維径が小さく、かつ、凹部の開口部もそもそも小さいからこそ、影響が大きくなると考えられる。特に、後述する金属表面と平行に引いた線上の樹脂の幅(D2)が、凹部の開口径(D1)よりも大きい(D2>D1)場合に、効果的である。
以下、本発明について、図面を参酌しながら説明する。本発明が図面の構成に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0013】
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る多層体の一部を模式的に示した断面図である。本実施形態の多層体10は、樹脂層1と金属層2とが積層した構造を有している。本発明がこの形態に限定して解釈されるものではなく、樹脂層1と金属層2の凹凸領域と接している界面(接合面)を一部に有していれば、両者が他の形態に成形された構造を有していてもよい。また、樹脂層の外側または金属層の外側に、他の層を有していてもよい。例えば、樹脂層と金属層とが、複数層、交互に積層された構造などが挙げられる。
【0014】
図2は、図1の金属層における凹凸領域Aを拡大した拡大断面図である。樹脂層1と金属層2との界面で、金属層からみると、頂部2aと底部2cとが交互に繰り返した凹部および凸部を有する凹凸領域を有している。前記凹凸領域の凹部には、樹脂層が入り込んでいる。
特に、金属層は、経時により、表面に酸化被膜ができるが、樹脂層と接合した際の凹部の表面にも酸化被膜ができる。酸化被膜ができると、凹部も内容積が小さくなる。すなわち、樹脂組成物が入り込んだ状態で金属層の凹部の内容積が小さくなり、より強固に接合される。
【0015】
繊維状フィラー3は樹脂層1の内部に広く分布しており、樹脂層の突出部1a内にも分散されている。例えば、図中の3aで示されたフィラーを見ると、繊維状フィラーの一端が、樹脂層の突出部の外側から突出部の根本1bを超えて突出部の先端1cに向けて埋入するように位置している。これにより、樹脂層1と金属層2との密着性が強化される。つまり、前記繊維状フィラー3が連続繊維であり、前記繊維状フィラーの両末端の少なくとも一端が、前記金属層の凹凸領域における凹部に入り込む(埋入する)ようにして配置され、アンカー効果により樹脂層1と金属層2との密着性が高められている。
特に、本発明では、凹凸領域の凹部に入りこんだ樹脂高さの最深部から1/4の点において、金属表面と平行に引いた線上の樹脂の幅(D2)が、前記凹部の開口径(D1)よりも大きい(D2>D1)構成とすることができる。すなわち、凹部を頂部2aから底部2cにいくにつれて、凹部の幅がひろがっていく構成とすることができる。これを樹脂層1の側から見ると、樹脂の突出部1aの根本(金属層の開口部)1bに対して、樹脂の突出部1aにおける頂部1c側が膨らみ体積が大きくなる構造を有している。このように、本実施形態においては、樹脂層1と金属層2とが界面において、互いに嵌め合う構造を有しており、両者がより容易に分離しない。さらに、本構造において、凹部に入り込んだ繊維状フィラーは積層体において厚み方向(樹脂層と金属層の接合面に対して垂直)に配向する傾向にあり、樹脂層と金属層とのせん断に対して効果的に応力を発揮することができる。
1/4点幅(D2)と開口径(D1)との比率(D2/D1)は、1.05以上であることが好ましく、1.1以上であることがより好ましく、1.2以上であることがさらに好ましい。上限値としては、4以下であることが好ましく、さらには3以下、2以下、1.5以下であってもよい。金属表面と平行に引いた線とは、Rzの基準となる線に相当する。1/4点幅(D2)と開口径(D1)との比率(D2/D1)は、後述する実施例に記載の方法で測定される。
さらに、本発明の多層体における、1/4点幅(D2)と開口径(D1)との比率(D2/D1)が1.05以上である割合は、20%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、45%以上であることが好ましい。このような構成とすることにより、互いに嵌まり合い、両者がより容易に分離しなくなる。また、1/4点幅(D2)と開口径(D1)との比率(D2/D1)が1.1以上である割合の上限値は、100%が理想であるが、70%以下であってもよい。
1/4点幅(D2)と開口径(D1)との比率(D2/D1)が1.05以上である割合は、後述する実施例に記載の方法で算出される。
【0016】
本発明における開口径(D1)は、0.25μm以上であることが好ましく、0.35μm以上であることがより好ましく、1.00μm以上であることがさらに好ましく、さらには、2μm以上、3μm以上であってもよい。また、開口径(D1)の上限値は、10μm以下であることが好ましく、7μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましく、4.5μm以下であることが一層好ましい。開口径(D1)は、後述する実施例に記載の方法で測定された数平均値である。
本発明における1/4点幅(D2)は、0.30μm以上であることが好ましく、0.40μm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましく、2μm以上であることが一層好ましく、さらには、3μm以上、4μm以上であってもよい。また、1/4点幅(D2)の上限値は、12μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、7μm以下であることがさらに好ましく、6.5μm以下であることが一層好ましく、6.0μmであることがより一層好ましい。1/4点幅(D2)は、後述する実施例に記載の方法で測定された数平均値である。
【0017】
本発明の多層体の凹凸領域において、樹脂層1と金属層2とがなす界面の曲線は、その輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5~10μmであり、0.7μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、2μm以上であることがさらに好ましく、4μm以上であることが一層好ましい。上限値としては、9μm以下であることが好ましく、さらには、8μm以下、7μm以下、6μm以下であってもよい。輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)は、金属層の凹凸の開口部1bの大きさを示す指標となり、RSmが大きいほど開口部の径が大きくなる方向であることを意味する。
【0018】
本発明においては、繊維状フィラーの数平均繊維径(F)に対する、金属層の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)の比率(RSm/F)が1~20000である。前記RSm/Fは、10以上であることが好ましく、50以上であることがより好ましく、100以上であることがさらに好ましく、さらには、150以上、200以上であってもよい。上限値としては、10000以下であってもよく、5000以下であってもよく、さらには、1000以下、800以下、600以下、300以下であってもよい。
【0019】
前記RSm/Fは、樹脂層と金属層との界面における凹凸(特に開口部の径)と、繊維状フィラーの数平均繊維径との関係を示すものである。この値が小さいほど凹凸に対して相対的にフィラーの径が大きくなることを表す。したがって、このRSm/Fが小さすぎると、繊維状フィラーが相対的に太くなり、その端部が金属層の凹部(樹脂の突出部)に埋入しにくく、アンカー効果が期待できなくなる。また、上記RSm/Fを下限値以上とすることにより、繊維状フィラーが十分に細くなる。すると、樹脂の流動性を保ちつつ、金属層の凹部(樹脂の突出部)に樹脂とともに繊維状フィラーの端部が入り込む。したがって、(RSm/F)を上記の下限値以上とすることで、アンカー効果が期待でき、金属層と樹脂層との密着性が高まる。
【0020】
本発明において樹脂層と金属層との界面における凹凸領域の最大高さ粗さ(Rz)は、0.2μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、さらには、1μm以上、2μm以上、3μm以上であってもよい。上限値としては、5μm以下であることが好ましく、4μm以下であることがより好ましい。Rzを上記範囲とすることにより、繊維状フィラーが凹部により適切に入り込みやすくなり、密着性がより向上する傾向にある。
【0021】
<樹脂層>
本発明の多層体は樹脂層を有する。本発明の多層体の樹脂層に適用される樹脂は、熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリプロピレン樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリアリールエーテルケトン樹脂および熱可塑性ポリイミド樹脂から選択されることが好ましい。これらの中でも、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびポリカーボネート樹脂からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0022】
<<ポリアミド樹脂>>
ポリアミド樹脂としては、ラクタムの開環重合、アミノカルボン酸の重縮合、ジアミンと二塩基酸の重縮合により得られる酸アミドを構成単位とする高分子であり、具体的には、ポリアミド6、11、12、46、66、610、612、6I、6/66、6T/6I、6/6T、66/6T、66/6T/6I、ポリアミドMX、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド等が挙げられる。なお、上記「I」はイソフタル酸成分、「T」はテレフタル酸成分を示す。また、ポリアミド樹脂としては、特開2011-132550号公報の段落番号0011~0013の記載を参酌することができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0023】
本発明で用いるポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂が好ましい。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジアミン由来の構成単位は、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上がメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミンの少なくとも1種に由来する。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジカルボン酸由来の構成単位は、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。炭素数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸は、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカン二酸、エイコジオン酸などが好適に使用でき、アジピン酸およびセバシン酸がより好ましい。
【0024】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0025】
上記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸といったナフタレンジカルボン酸類の異性体等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0026】
<<ポリカーボネート樹脂>>
ポリカーボネート樹脂としては特に制限されず、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、芳香族-脂肪族ポリカーボネートのいずれも用いることができる。中でも芳香族ポリカーボネートが好ましく、さらに、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲンまたは炭酸のジエステルと反応させることによって得られる熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体または共重合体がより好ましい。
【0027】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-P-ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4-ジヒドロキシジフェニルなどが挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。さらに、難燃性が高い樹脂組成物を調製する目的で、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物、またはシロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマーもしくはオリゴマー等を、使用することができる。
【0028】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の好ましい例には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂;2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体;が含まれる。
【0029】
ポリカーボネート樹脂の製造方法については、特に限定されるものではなく、本発明には、ホスゲン法(界面重合法)、および溶融法(エステル交換法)等の、いずれの方法で製造したポリカーボネート樹脂も使用することができる。また、本発明では、一般的な溶融法の製造工程を経た後に、末端基のOH基量を調整する工程を経て製造されたポリカーボネート樹脂を使用してもよい。
【0030】
さらに、本発明で用いるポリカーボネート樹脂は、バージン原料としてのポリカーボネート樹脂のみならず、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂であってもよい。
【0031】
その他、本発明で用いるポリカーボネート樹脂については、例えば、特開2012-072338号公報の段落番号0018~0066の記載、特開2015-166460の段落0011~0018の記載を参酌でき、その内容は本明細書に組み込まれる。
【0032】
<<熱可塑性ポリイミド樹脂>>
熱可塑性ポリイミド樹脂は、特に限定されず、公知の熱可塑性ポリイミド樹脂を用いることができる。熱可塑性ポリイミド樹脂は、テトラカルボン酸成分とジアミン成分から形成されるものが例示される。前記テトラカルボン酸成分は少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸および/またはその誘導体を含有し、前記ジアミン成分は少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンおよび鎖状脂肪族ジアミンを含有する。
【0033】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸は4つのカルボキシ基が直接芳香環に結合した化合物であることが好ましく、構造中にアルキル基を含んでいてもよい。また前記テトラカルボン酸は、炭素数6~26であるものが好ましい。前記テトラカルボン酸としては、ピロメリット酸、2,3,5,6-トルエンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸等が好ましい。これらの中でもピロメリット酸がより好ましい。
【0034】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸の誘導体としては、少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸の無水物またはアルキルエステル体が挙げられる。前記テトラカルボン酸誘導体は、炭素数6~38であるものが好ましい。テトラカルボン酸の無水物としては、ピロメリット酸一無水物、ピロメリット酸二無水物、2,3,5,6-トルエンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。テトラカルボン酸のアルキルエステル体としては、ピロメリット酸ジメチル、ピロメリット酸ジエチル、ピロメリット酸ジプロピル、ピロメリット酸ジイソプロピル、2,3,5,6-トルエンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸ジメチル、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ジメチル、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸ジメチル等が挙げられる。上記テトラカルボン酸のアルキルエステル体において、アルキル基の炭素数は1~3が好ましい。
【0035】
少なくとも1つの芳香環を含むテトラカルボン酸および/またはその誘導体は、上記から選ばれる少なくとも1つの化合物を単独で用いてもよく、2つ以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンの炭素数は6~22が好ましく、例えば、1,2-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、カルボンジアミン、リモネンジアミン、イソフォロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジアミノジシクロヘキシルプロパン等が好ましい。これらの化合物を単独で用いてもよく、これらから選ばれる2つ以上の化合物を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが好適に使用できる。なお、脂環式炭化水素構造を含むジアミンは一般的には構造異性体を持つが、シス体/トランス体の比率は限定されない。
【0037】
鎖状脂肪族ジアミンは、直鎖状であっても分岐状であってもよく、炭素数は5~16が好ましく、6~14がより好ましく、7~12が更に好ましい。また、鎖部分の炭素数が5~16であれば、その間にエーテル結合を含んでいてもよい。鎖状脂肪族ジアミンとして例えば1,5-ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタン-1,5-ジアミン、3-メチルペンタン-1,5-ジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,7-ヘプタメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、1,13-トリデカメチレンジアミン、1,14-テトラデカメチレンジアミン、1,16-ヘキサデカメチレンジアミン、2,2’-(エチレンジオキシ)ビス(エチレンアミン)等が好ましい。
鎖状脂肪族ジアミンは1種類あるいは複数を混合して使用してもよい。これらのうち、炭素数が8~10の鎖状脂肪族ジアミンが好適に使用でき、特に1,8-オクタメチレンジアミンおよび1,10-デカメチレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好適に使用できる。
【0038】
ポリイミド樹脂を製造する際、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンと鎖状脂肪族ジアミンの合計量に対する、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンの仕込み量のモル比は20~70モル%であることが好ましい。該モル量は、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは32モル%以上であり、高い結晶性を発現する観点から、好ましくは60モル%以下、より好ましくは50モル%以下、更に好ましくは40モル%未満、更に好ましくは35モル%以下である。
【0039】
また、上記ジアミン成分中に、少なくとも1つの芳香環を含むジアミンを含有してもよい。少なくとも1つの芳香環を含むジアミンの炭素数は6~22が好ましく、例えば、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,2-ジエチニルベンゼンジアミン、1,3-ジエチニルベンゼンジアミン、1,4-ジエチニルベンゼンジアミン、1,2-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、α,α’-ビス(4-アミノフェニル)1,4-ジイソプロピルベンゼン、α,α’-ビス(3-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,6-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン等が挙げられる。
【0040】
上記において、少なくとも1つの脂環式炭化水素構造を含むジアミンと鎖状脂肪族ジアミンの合計量に対する、少なくとも1つの芳香環を含むジアミンの仕込み量のモル比は、25モル%以下であることが好ましい。一方で、下限は特に限定されず、0モル%を超えていればよい。
前記モル比は、耐熱性の向上という観点からは、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上であり、一方で結晶性を維持する観点からは、好ましくは20モル%以下、より好ましくは15モル%以下である。
また、前記モル比は、ポリイミド樹脂の着色を少なくする観点からは、好ましくは12モル%以下、より好ましくは10モル%以下、更に好ましくは5モル%以下、より更に好ましくは0モル%である。
【0041】
ポリイミド樹脂を製造する際、前記テトラカルボン酸成分と前記ジアミン成分の仕込み量比は、テトラカルボン酸成分1モルに対してジアミン成分が0.9~1.1モルであることが好ましい。
【0042】
またポリイミド樹脂を製造する際、前記テトラカルボン酸成分、前記ジアミン成分の他に、末端封止剤を混合してもよい。末端封止剤としては、モノアミン類およびジカルボン酸類からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。末端封止剤の使用量は、ポリイミド樹脂中に所望量の末端基を導入できる量であればよく、前記テトラカルボン酸および/またはその誘導体1モルに対して0.0001~0.1モルが好ましく、0.001~0.06モルがより好ましく、0.002~0.035モルが更に好ましい。
モノアミン類末端封止剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、ラウリルアミン、n-トリデシルアミン、n-テトラデシルアミン、イソペンチルアミン、ネオペンチルアミン、2-メチルペンチルアミン、2-メチルヘキシルアミン、2-エチルペンチルアミン、3-エチルペンチルアミン、イソオクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、3-エチルヘキシルアミン、イソノニルアミン、2-エチルオクチルアミン、イソデシルアミン、イソドデシルアミン、イソトリデシルアミン、イソテトラデシルアミン、ベンジルアミン、4-メチルベンジルアミン、4-エチルベンジルアミン、4-ドデシルベンジルアミン、3-メチルベンジルアミン、3-エチルベンジルアミン、アニリン、3-メチルアニリン、4-メチルアニリン等が挙げられる。
ジカルボン酸類末端封止剤としては、ジカルボン酸類が好ましく、その一部が閉環していてもよい。例えば、フタル酸、無水フタル酸、4-クロロフタル酸、テトラフルオロフタル酸、2,3-ベンゾフェノンジカルボン酸、3,4-ベンゾフェノンジカルボン酸、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸、4-シクロへキセン-1,2-ジカルボン酸等が挙げられる。これらのうち、フタル酸、無水フタル酸が好ましい。
これらの末端封止剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
中でも、モノアミン類末端封止剤が好ましく、ポリイミド樹脂の末端に前述した炭素数5~14の鎖状脂肪族基を導入して耐熱老化性を向上させる観点から、炭素数5~14の鎖状脂肪族基を有するモノアミンがより好ましく、炭素数5~14の飽和直鎖状脂肪族基を有するモノアミンが更に好ましい。上記鎖状脂肪族基は、好ましくは炭素数6以上、より好ましくは炭素数7以上、更に好ましくは炭素数8以上であり、好ましくは炭素数12以下、より好ましくは炭素数10以下、更に好ましくは炭素数9以下である。モノアミンが有する鎖状脂肪族基の炭素数が5以上であれば、ポリイミド樹脂の製造時に当該モノアミンが揮発し難いため好ましい。
末端封止剤は、特に好ましくはn-オクチルアミン、イソオクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ノニルアミン、イソノニルアミン、n-デシルアミン、およびイソデシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはn-オクチルアミン、イソオクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-ノニルアミン、およびイソノニルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、最も好ましくはn-オクチルアミン、イソオクチルアミン、および2-エチルヘキシルアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0043】
本発明の多層体の樹脂層は、熱可塑性樹脂を合計で40質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、60質量%以上含むことがさらに好ましい。また、本発明の多層体の樹脂層は、熱可塑性樹脂を合計で、95質量%以下含むことが好ましく、90質量%以下含むことがより好ましく、80質量%以下含むことがさらに好ましく、70質量%以下含むことが一層好ましい。
熱可塑性樹脂は、1種を用いても2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合はその合計量が上記の範囲となる。
【0044】
本発明の多層体における樹脂層の厚さは、15μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることがさらに好ましい。上限値については、用途等に応じて、適宜定めることができる。例えば、平板状である場合、10000μm以下であることが好ましく、7500μm以下であることがより好ましく、5000μm以下であることがさらに好ましい。ここでの厚さとは、最深部(1c)まで含めた厚さをいう。
【0045】
<<繊維状フィラー>>
本発明の多層体における樹脂層に含有させる繊維状フィラーは特に限定されず、短繊維であっても、長繊維であっても、連続繊維であってもよいが、短繊維または長繊維が好ましい。
繊維状フィラーとは、断面の形状が、円、楕円、多角形等であり、繊維軸方向の長さを繊維長Lとし、断面の最も大きい部位の長さを繊維径Wとするとき、L/W>1を満たすものであり、2以上が好ましく、10~10000がより好ましく、50~5000がさらに好ましい。繊維径は、繊維軸方向に亘って均一でなくてもよい。すなわち、繊維断面は、繊維軸方向にわたって同じ大きさでなくてもよい。例えば、繊維の端部が先細りになったものや、端部が、繊維軸方向における途中の部分よりも太くなったものでもよい。
【0046】
多層体中の繊維状フィラーの数平均繊維径(F)は1μm未満であり、800nm以下であることが好ましく、600nm以下であることがより好ましく、400nm以下であってもよく、さらには、100nm以下、50nm以下、30nm以下であってもよい。また、下限値としては、0.01nm以上であることが好ましく、0.08nm以上であることがより好ましく、0.1nm以上であることがさらに好ましく、1nm以上であることが一層好ましく、10nm以上であることがより一層好ましく、15nm以上であることがさらに一層好ましい。
【0047】
多層体中の繊維状フィラーの数平均繊維長は1mm以下であることが好ましく、700μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましい。また、下限値としては、1nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。
数平均繊維径とは、100個の繊維状フィラーについて測定した断面の最も大きい部位の繊維径の数平均である。
数平均繊維長とは、100個の繊維状フィラーについて測定した長さの数平均である。
原料となる繊維状フィラーの数平均繊維径および数平均繊維長は、走査型電子顕微鏡にて観察し上記要領により測定することができる。
多層体中の繊維状フィラーの数平均繊維径および数平均繊維長は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0048】
繊維状フィラーとしては、無機繊維状フィラー、有機繊維状フィラー、無機繊維状フィラーと有機繊維状フィラーを組み合わせたもの等が挙げられる。
無機繊維状フィラーとしては、ガラス繊維、石英繊維、アルミナ繊維、シリコンカーバイド繊維、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、ウィスカー繊維、金属繊維等が挙げられる。有機繊維状フィラーとしては、セルロースナノファイバー、キトサンナノファイバーが例示される。
【0049】
特に本発明では、カーボンナノファイバー(例えば、多層体中に含まれるものについて、数平均繊維径0.5~250nmが好ましく、数平均繊維長100~5000nmが好ましい)、単層カーボンナノチューブ(例えば、多層体中に含まれるものについて、数平均繊維径0.5~15nmが好ましく、数平均繊維長5~20μmが好ましい)、多層カーボンナノチューブ、(例えば、多層体中に含まれるものについて、数平均繊維径0.5~20nmが好ましく、数平均繊維長5~20μmが好ましい)、セルロースナノファイバー(例えば、多層体中に含まれるものについて、数平均繊維径10~300nmが好ましく、数平均繊維長100~10000nmが好ましい)、カーボンナノホーン(例えば、多層体中に含まれるものについて、数平均繊維径2~5nmが好ましく、数平均繊維長40~50nmが好ましい)が好ましい例として挙げられ、カーボンナノファイバーおよびセルロースナノファイバーが好ましい。
本発明で用いる原料繊維状フィラーは、ナノファイバーであることが好ましい。
なお、本発明におけるナノファイバーとは、数平均繊維径が1~1000nm(好ましくは1~100nm、より好ましくは1~50nm)であって、数平均繊維長が数平均繊維径の10倍以上(好ましくは100倍以上、より好ましくは100~1000倍)の繊維をいう。
【0050】
繊維状フィラーの樹脂中の含有量は特に限定されないが、熱可塑性樹脂と繊維状フィラーとを含む樹脂組成物に対して、5質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上、20質量%以上、30質量%以上であってもよい。上限値としては、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。繊維状フィラーは、1種を用いても2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合はその合計量が上記の範囲となる。
【0051】
<<他の成分>>
本発明の樹脂層は、通常、熱可塑性樹脂と、繊維状フィラーを含む樹脂組成物から形成される。かかる樹脂組成物は、熱可塑性樹脂および繊維状フィラー以外の成分を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。
他の成分としては、数平均繊維径が1μm未満の繊維状フィラー以外のフィラー、核剤、離型剤、難燃剤、光安定剤、酸化防止剤、耐加水分解性改良剤、艶消剤、紫外線吸収剤、可塑剤、分散剤、帯電防止剤、着色防止剤、ゲル化防止剤、着色剤等が例示される。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落0130~0155の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。これらの成分は、合計で、樹脂組成物の20質量%以下であることが好ましい。これらの成分は、それぞれ、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
樹脂組成物は、数平均繊維径が1μm以上の繊維状フィラーを実質的に含まない構成とすることができる。実質的に含まないとは、数平均繊維径が1μm以上の繊維状フィラーの量が樹脂組成物の1質量%未満であることをいい、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。
樹脂組成物は、また、繊維状フィラー以外のフィラーを実質的に含まない構成とすることができる。実質的に含まないとは、繊維状以外のフィラーの量が樹脂組成物の1質量%未満であることをいい、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。
樹脂組成物は、通常、溶剤を実質的に含まない。実質的に含まないとは、溶剤の量が樹脂組成物の1質量%以下であることをいい、0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。
樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、繊維状フィラーをV型ブレンダー等の混合手段を用いて混合し、一括ブレンド品を調製した後、ベント付き押出機で溶融混練してペレット化して調整できる。また、この際、繊維状フィラーは、サイドフィードしてもよい。
また、樹脂組成物をペレット化せずに、直接に、フィルム等に成形したものを用いてもよい。
【0052】
本発明の樹脂層の一実施形態として、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、およびポリカーボネート樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である熱可塑性樹脂と、数平均繊維径(F)が1μm未満の繊維状フィラーの合計が樹脂組成物の90質量%以上を占める態様が例示され、95質量%以上であることが好ましい。
【0053】
本発明の樹脂層の他の一実施形態として、熱可塑性樹脂が、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリアリールエーテルケトン樹脂および熱可塑性ポリイミド樹脂から選択される少なくとも1種であり、繊維状フィラーがカーボンナノチューブである態様が挙げられる。好ましくは、熱可塑性樹脂が、熱可塑性ポリイミド樹脂であり、繊維状フィラーがカーボンナノチューブである態様が挙げられる。本発明において、熱可塑性樹脂として上記のものを選択し、かつ、繊維状フィラーとしてカーボンナノチューブを用いることにより、得られる樹脂層の耐熱性や荷重たわみ温度をより向上させることが可能になる。耐熱性の向上としては、ガラス転移温度の向上が例示される。
【0054】
<金属層>
本発明の多層体は、金属層を有する。金属層は、金属を主成分とする層である。ここで、金属を主成分とする層とは、金属層の70質量%以上が金属であることを意味し、通常は、金属層の90質量%以上が金属であり、98質量%以上が金属であることが好ましい。金属層における金属は1種であってもよいし、2種以上含まれていてもよい。2種以上含まれる場合、その合計量が上記金属層に含まれる金属の量となる。
本発明における金属層は、鉄、アルミニウム、ステンレス鋼およびマグネシウム合金から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、鉄および/またはアルミニウムを含むことがより好ましく、鉄を含むことがさらに好ましい。
ここで、ステンレス鋼とは、鉄を主成分とし、クロムおよび/またはニッケルを含む合金である。また、マグネシウム合金に配合される添加元素としては、アルミニウムおよび/または亜鉛が例示される。
【0055】
本発明における金属層の厚さは、0.1mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましい。上限値については、用途等に応じて、適宜定めることができる。例えば、平板状である場合、10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましい。
【0056】
金属層の表面は、凹凸部が設けられている。凹凸を設ける方法は、特に定めるものではないが、例えば、切削、研磨、レーザー処理、化学処理等が例示される。これらの詳細については、特開2003-103563号公報の段落0018~0021の記載、特開2003-103563号公報の段落0021~0026の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0057】
金属層と樹脂層との多層体を形成するための方法は特に限定されないが、金属層の凹部に溶融状態の樹脂組成物を適用し、その後、冷却して製造することが好ましい。具体的には、表面処理した金属層の表面に、上記樹脂組成物(例えば、ペレット)を射出成形する方法、表面処理した金属層の表面に、上記樹脂組成物から形成されたフィルムを適用し、熱プレスする方法などが例示される。
一例として、輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)が0.5~10μmである凹凸領域を有する金属層に、前記金属層の前記凹凸領域に接するように、熱可塑性樹脂と、繊維状フィラーとを含む樹脂組成物を適用することを含み、前記繊維状フィラーの数平均繊維径(Fm)が1μm未満であり、前記繊維状フィラーの数平均繊維径(Fm)に対する、前記凹凸領域の輪郭曲線要素の平均長さ(RSm)の比率(RSm/Fm)が1~20000である、多層体の製造方法が挙げられる。Fmは、原料である繊維状フィラーの数平均繊維径である。上記樹脂組成物は、溶融混練した後、射出成形等の方法によって、金属層に適用されることが好ましい。
また、繊維状フィラーとして、カーボンナノファイバー、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、セルロースナノファイバーまたはカーボンナノホーンを用いる場合、通常の溶融混練や射出成形を介して多層体を成形しても、多層体中の繊維状フィラーの数平均繊維径(F)は、原料の繊維状フィラーの数平均繊維径(Fm)とほぼ同じである。従って、原料の繊維状フィラーの数平均繊維径(Fm)の好ましい範囲は、上述の多層体中の繊維状フィラーの数平均繊維径(F)の好ましい範囲と同じである。
その他、多層体の製造に際し、特開2018-177867号公報の段落0061~0063の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0058】
本発明の多層体は、板状(円板、多角形など)、柱状、箱形状、椀形状、トレイ状などいずれの形状でもよい。また、多層体には補強リブ等が設けられていてもよい。
【0059】
本発明の多層体は、金属層と樹脂層が強固に接合し、かつ、機械的強度に優れるため、一般家電製品を始め、OA機器(複写機、プリンター、ファクシミリ等)や各種携帯端末(携帯電話等)やパソコン等の電気電子部品(ハウジング、ケース、カバー等)、自動車等の車両用部品(車両用構造部品、あるいは例えばブレーキペダル等)、機械部品、自転車その他部品の材料として、好適に用いられる。
【実施例
【0060】
以下に実施例に基づき本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。
【0061】
<原料>
<<熱可塑性樹脂>>
ポリアミド樹脂:MXナイロン 6000(MXD6):ポリメタキシリレンアジパミド、三菱ガス化学社製
ポリイミド樹脂:国際公開2016/147996号の段落0128の実施例1記載に従って熱可塑性ポリイミド樹脂を合成した。
ポリカーボネート樹脂:S-3000FN、三菱エンジニアリングプラスチックス社製
【0062】
<<フィラー>>
カーボンナノチューブ(CNT):富士フイルムワコーケミカル社製、Carbon nanotube, Multi-walled、数平均繊維径20nm、数平均繊維長5μm
セルロースナノファイバー: 製造元:ダイセル化学工業株式会社製、セリッシュ(KY100G)、数平均繊維径280nm、数平均繊維長450μm
カーボンナノファイバー:製造元:sigma-aldrich社製、carbon nanochips、数平均繊維径160nm、数平均繊維長2000nm
セラミックファイバー:製造元:イソライト工業株式会社、イソウールバルク、平均繊維径2000nm、数平均繊維長(綿状)
カーボンファイバー:製造元:三菱ケミカル株式会社、TRH50 18M、平均繊維径6000nm、3mm長にカットして用いた。
【0063】
実施例1~8、比較例1~3
表1または表2に記載の熱可塑性樹脂、および、表1または表2に記載のフィラーを、表1または表2に記載の量となるように、30mmφのスクリューを有する二軸押出機にて溶融押出しし、ペレット(樹脂組成物)を得た。溶融押出の際の押出温度は、ポリアミド樹脂は280℃、熱可塑性ポリイミド樹脂は350℃、ポリカーボネート樹脂は290℃とした。
【0064】
金属層の凹凸部の加工は以下のように行った。
アルミ合金薄板(A5052)を60x60x2(mm)に切り出した。液槽にアルミ用脱脂剤「NE-6(メルテックス社製)」7.5体積%を含む水溶液を60℃とし、アルミ合金薄板を5分間浸漬して、蒸留水で水洗した。次に別の槽に、40℃とした1質量%濃度の塩酸水溶液を用意し、この脱脂処理したアルミ合金薄板をこの塩酸水溶液に1分間浸漬して水洗した。次に別の槽に、40℃とした1.5質量%苛性ソーダ水溶液を用意し、これにアルミ合金薄板を4分間浸漬し、水洗した。次に別の槽に、40℃の3質量%濃度の硝酸水溶液に、3分間浸漬し水洗した。次に別の槽に、60℃とした3.5質量%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意してこれに1分間浸漬し、次に別の槽に、33℃とした0.5質量%濃度の水和ヒドラジン水溶液を用意して、これに6分間浸漬し水洗した。得た試験片は、アルミ袋にて保存した。
実施例2~8、比較例2、3においては、浸漬時間と濃度を調整して表1または表2に記載の表面粗度の試験片を得た。
また、比較例1の金属層の凹凸部の加工は以下の通り行った。
片面平面バフ研摩により鏡面を得た。研摩面をスクラブ洗浄後、非浸食性の脱脂処理を行った。更に、陽極酸化条件を、電解液:0.05Mシュウ酸水溶液、電圧:80Vの直流電圧、電解液の温度:5.0℃、時間:30秒とし、陽極酸化皮膜のエッチング処理条件を、エッチング液:2質量%リン酸水溶液、エッチング液の温度:50.0℃、時間:2分とし、陽極酸化処理とエッチング処理を交互に10回ずつ繰り返し、最後は陽極酸化処理で終了した。
【0065】
上記加工した金属層を射出成型機の60(mm)x60(mm)x4(mm)のプレートを成形するための金型にインサートし、表1または表2に記載の上記で得られたペレットを射出した。成形時の際の射出温度は、ポリアミド樹脂は280℃、ポリイミド樹脂は350℃、ポリカーボネート樹脂は290℃とした。
強度比較用に、未加工のアルミ合金薄板(A5052)を用いて、同様に上記で得られたペレットを射出してインサート成形した。
【0066】
表面処理した多層体の凹凸領域付近(金属層と樹脂層との界面となる部分)を金属層と樹脂層との界面に垂直な断面で切断し、走査型電子顕微鏡で観察し、金属層のRSm、金属層のRz、金属層の凹部の開口径(D1)、樹脂の1/4点幅(D2)を計測した。1/4点幅(D2)とは、上述のとおり、凹部に入り込んだ樹脂の高さの最深部から1/4の点において、金属表面と平行に引いた線上の樹脂の幅である。
このとき、各項目について3つのサンプルで20点(合計60点)の値を計測した。そのうちの最大値3つ、最小値3つは評価から除外した。評価には、残り54点の数平均値を採用した。1/4点幅/開口径(D2/D1)は、それぞれの凹部ごとに算出し、その数平均値とした。その他の詳細については、JIS(日本工業規格) B0601:2013に準拠した。
1/4点幅(D2)/開口径(D1)(D2/D1)が1.05以上の割合は、前記54点の測定結果に基づいて算出した。
【0067】
多層体中のフィラーの数平均繊維径(F)は、多層体を粉砕したものをヘキサフルオロイソプロパノールに溶解し、強化繊維を濾別し、走査型電子顕微鏡像で任意の20個の繊維状フィラーを観察し、その数平均値を測定した。ヘキサフルオロイソプロパノールでは、繊維状フィラーの分離が難しい場合は、溶剤として、硫酸を用いる。さらに、硫酸を用いて繊維状フィラーの分離が難しい場合は、溶剤として、王水を用いる。
【0068】
<密着性>
走査型電子顕微鏡像から、樹脂の金属層凹部への流入度合いを観測し、以下の観点から密着性を評価した。深部まで流入しているほど、密着性が高いと言える。
A:樹脂が金属層の凹部の最深部まで流入した。
B:樹脂が金属層の凹部の全てに流入してはいないが、最深部から1/4以上流入した。
C:樹脂が金属層の最深部から1/4まで流入しなかった。
【0069】
<成形性>
上記積層体の成形性を以下の項目で評価した。5人の専門家が行い多数決で判断した。
A:反りのない均一な積層体を得た。
B:反りが発生した。
【0070】
<強度>
上記積層体を10mm幅に切断し、金属層を下面に、JIS K7171に準じて曲げ試験を実施し、金属の凹凸部の加工を施さなかったものと比較した。
A:強度が20%以上向上した
B:強度が10%以上、20%未満向上した
C:強度が5%以上、10%未満向上した
D:強度向上が5%未満、あるいは、同等または低下した
【0071】
【表1】
【表2】
【0072】
上記の結果から分かるとおり、本発明の多層体は、金属層と樹脂層との優れた密着性、成形性および強度を有していた(実施例1~8)。
これに対し、RSmが小さく、RSm/Fが下限値を下回る比較例1~3では、樹脂層と金属層との密着性に劣っていた。また、強度も劣っていた。
【符号の説明】
【0073】
1 樹脂層
1a 樹脂の突出部(金属層の凹部)
1b 樹脂突出部の根本(金属層の開口部)
1c 樹脂突出部の先端
2 金属層
2a 金属層の頂部
2c 金属層の底部
3 繊維状フィラー
10 多層体
D1 開口部の開口径
D2 樹脂突出部の1/4点の幅(1/4点幅)
Rz 最大高さ粗さ
RSm 輪郭曲線要素の平均長さ
図1
図2