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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】直流変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
H02M3/28 H
H02M3/28 Q
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021513502
(86)(22)【出願日】2020-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2020005994
(87)【国際公開番号】W WO2020208936
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2019074696
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 正知
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(72)【発明者】
【氏名】出井 利明
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-074692(JP,A)
【文献】国際公開第2007/023603(WO,A1)
【文献】特開2015-062336(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173900(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/020570(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの電流共振型のコンバータを含み、
前記二つのコンバータの各々は、直列に接続された二つのスイッチ素子と、1次巻き線と2次巻き線とを有するトランスと、共振リアクトル成分と、前記トランスの1次巻き線と共振容量とが直列接続された共振回路と、前記トランスの2次巻き線に発生した電圧を整流する整流器を有し、
前記整流器により出力された電圧に基づいて前記二つのコンバータの各々が有するスイッチ素子のオンオフを制御する制御回路を設け、
前記制御回路は前記二つのコンバータ間でπずつずれるように、前記スイッチ素子のオンオフを制御するようにした直流変換装置であって、
つの容量を直列に接続してなり、直流電源の電源電圧を分圧して前記二つのコンバータに入力し、前記二つのコンバータ各々に直流電力を供給する分圧回路を備えた直流変換装置。
【請求項2】
二つの電流共振型のコンバータを含み、
前記二つのコンバータの各々は、直列に接続された二つのスイッチ素子と、1次巻き線と2次巻き線とを有するトランスと、共振リアクトル成分と、前記トランスの1次巻き線と共振容量とが直列接続された共振回路と、前記トランスの2次巻き線に発生した電圧を整流する整流器を有し、
前記整流器により出力された電圧に基づいて前記二つのコンバータの各々が有するスイッチ素子のオンオフを制御する制御回路を設け、
前記制御回路は前記二つのコンバータ間でπずつずれるように、前記スイッチ素子のオンオフを制御するようにした直流変換装置であって、
前記二つのコンバータの入力を直列に接続するようにした直流変換装置。
【請求項3】
二つの電流共振型のコンバータを含み、
前記二つのコンバータの各々は、直列に接続された二つのスイッチ素子と、1次巻き線と2次巻き線とを有するトランスと、共振リアクトル成分と、前記トランスの1次巻き線と共振容量とが直列接続された共振回路と、前記トランスの2次巻き線に発生した電圧を整流する整流器を有し、
前記整流器により出力された電圧に基づいて前記二つのコンバータの各々が有するスイッチ素子のオンオフを制御する制御回路を設け、
前記制御回路は前記二つのコンバータ間でπずつずれるように、前記スイッチ素子のオンオフを制御するようにした直流変換装置であって、
前記二つのコンバータの入力を直列に接続し、各コンバータのうち互いのコンバータが接続された側のスイッチ素子を1つにまとめた直流電源装置。
【請求項4】
前記制御回路は、ドライブ信号生成用のコントローラと前記二つのコンバータの各々が有するスイッチ素子の間の結線を異ならせることによって、前記二つのコンバータ間でπずつずれるように、前記スイッチ素子のオンオフを制御するようにした請求項1,請求項2又は請求項3に記載の直流変換装置。
【請求項5】
前記制御回路は、ドライブ信号が1次側リアクトルに供給されるドライブトランスを有し、前記ドライブトランスの複数の2次側リアクトルに対して、前記二つのコンバータの各々が有するスイッチ素子を接続し、
前記複数の2次側リアクトルと前記スイッチ素子の間の結線を異ならせることによって、前記二つのコンバータ間でπずつずれるように、前記スイッチ素子のオンオフを制御するようにした請求項1,請求項2又は請求項3に記載の直流変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、電流共振型のコンバータを使用した直流変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から電流共振型コンバータ(LLC方式コンバータとも呼ばれる)は、高効率、低雑音の電源装置として利用されており、大電力対応にあたって複数の電流共振型コンバータを並列または直列に接続する方式がとられている。例えば特許文献1では、複数のコンバータを動作させる際、コンバータの数をnとした際、各々のコンバータの位相差をπ/nとして制御することで、2次側のリップル電流を低減する方法がとられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-072076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電流共振型コンバータは低雑音の電源装置として利用されているが、この低雑音である特性は各スイッチ素子の動作周波数に対して十分に高い周波数の雑音に限られ、動作周波数及びその倍数波の雑音は他のコンバータ同様に存在する。電気的な雑音は入力または出力の両端に逆向きに電流の流れるノーマルモードノイズと、両端に同じ向きに流れ大地等を経由して機器に流れるコモンモードノイズに分けられる。
【0005】
複数のコンバータを有する機器では、コンバータの位相差を制御することによりノイズを低減する方式がとられており、特許文献1に記載のコンバータをπ/nの位相で動作させる方式もこれにあたる。
【0006】
しかしながら、この方式は、2次側ノーマルモードノイズを最小化することに着目しており、コモンモードノイズの低減効果は大きくない。電源変換装置のコモンモードノイズを低減するためにコモンモードノイズフィルタを使用している。このフィルタに含まれるコイルの損失や、コンデンサによる漏洩電流、各素子のコストなど、様々な問題が存在する。
【0007】
また、π/nの位相で動作させるには、π/nの位相差を生成する回路、方法が必要となり、動作周波数の変動のある共振型コンバータにおいては特に制御回路が複雑になる問題がある。同時に、特許文献1にある通り、複数の共振型コンバータを並列に動作させる場合、各々のコンバータを構成する素子の定数差異により、各コンバータの分担電流のバランスが悪化するので、コンバータのバランスをとるための制御や追加素子が必要になり、装置の効率の悪化やコスト増を招いている。
【0008】
本技術の目的は、二つの共振型コンバータの各スイッチ素子のオンオフ制御を、πの位相差とすることによって上述した問題点が解決された直流変換装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本技術は、二つの電流共振型のコンバータを含む直流変換装置であって、
二つのコンバータの各々は、直列に接続された二つのスイッチ素子と、1次巻き線と2次巻き線とを有するトランスと、共振リアクトル成分と、トランスの1次巻き線と共振容量とが直列接続された共振回路と、トランスの2次巻き線に発生した電圧を整流する整流器を有し、
整流器により出力された電圧に基づいて二つのコンバータの各々が有するスイッチ素子のオンオフを制御する制御回路を設け、
制御回路は二つのコンバータ間でπずつずれるように、スイッチ素子のオンオフを制御するようにした直流変換装置である。
【発明の効果】
【0010】
少なくとも一つの実施形態によれば、二つのコンバータのスイッチ動作をπの位相差とすることによってコモンモードノイズを減少させることができる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本技術中に記載されたいずれかの効果又はそれらと異質な効果であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、従来の電流共振型コンバータの接続図である。
図2図2は、従来の電流共振型コンバータの出力電流波形を示す波形図である。
図3図3は、2個のコンバータを接続した従来の直流変換装置の接続図である。
図4図4は、従来の直流変換装置の説明に使用する波形図である。
図5図5は、ノイズの説明に使用する接続図である。
図6図6は、本技術の説明に使用する接続図である。
図7図7は、ドライブ信号の説明のための波形図である。
図8図8A及び図8Bは、制御回路の一例及び他の例を示す接続図である。
図9図9は、本技術におけるスイッチ素子の動作モードのモード遷移図である。
図10図10は、各動作モードにおける素子の電流波形及び電圧波形を示す波形図である。
図11図11は、本技術の出力電流波形を示す波形図である。
図12図12は、本技術におけるコモンモードノイズの経路を説明するための接続図である。
図13図13は、本技術におけるコモンモードノイズの説明に用いる波形図である。
図14図14A及び図14Bは、本技術を導入した機器の端子雑音を示す波形図である。
図15図15は、本技術の回路変形例(共振型コンバータのインダクタを磁気的に結合)を示す接続図である。
図16図16は、本技術の回路変形例(2次側の整流回路を直列に接続)を示す接続図である。
図17図17は、本技術における1次側回路の変形例を示す接続図である。
図18図18は、図17の回路の変形例を示す接続図である。
図19図19は、図18の回路におけるスイッチ素子の動作モードのモード遷移図である。
図20図20は、各動作モードにおける素子の電流波形及び電圧波形を示す波形図である。
図21図21は、図17の回路構成をさらに変形した回路構成を示す接続図である。
図22図22は、スイッチ素子を3素子とした場合のゲート駆動の説明に使用する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本技術の実施形態等について図面を参照しながら説明する。
以下に説明する実施の形態等は本技術の好適な具体例であり、本技術の内容がこれらの実施形態等に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本技術が適用される電流共振型(LLC方式)のコンバータの一例の構成を示す。図1の構成は、寄生素子を明記したものである。Vinが入力電源であり、Q1がハイサイド側のMOSFETなどのスイッチ素子であり、Q2がローサイド側のスイッチ素子である。スイッチ素子Q1のドレイン及びソース間に寄生素子としてダイオード及び容量が並列に存在する。スイッチ素子Q2のドレイン及びソース間に寄生素子としてダイオード及び容量が並列に存在する。スイッチ素子Q1及びスイッチ素子Q2のそれぞれのゲートに対して制御部からドライブ信号が供給され、スイッチ素子Q1及びスイッチ素子Q2がスイッチング動作を行う。
【0014】
スイッチ素子Q1のソース及びスイッチ素子Q2のドレインの接続点とスイッチ素子Q2のソースの間に共振リアクトルLr1とトランスの1次巻き線Npと共振容量Cr1とが直列接続された共振回路が接続される。トランスの1次巻き線Npに対してリアクトルLm1が並列に接続される。リアクトルLr1及びLm1は、例えばトランスのリーケージインダクタンス成分である。
【0015】
トランスの2次巻き線Nsが二つのインダクタンスに分割され、2次巻き線の一端がダイオードD1を介して出力端子と接続され、2次巻き線の他端がダイオードD2を介して出力端子と接続される。2次巻き線の接続中点が出力端子として取り出され、出力端子間に容量Coutが接続される。出力端子に対して負荷が接続されている。ダイオードD1、D2及び容量Coutがトランスの2次巻き線に発生した電圧を整流する整流器を構成する。
【0016】
上述した従来のコンバータでは、スイッチ素子Q1とスイッチ素子Q2のゲートに対して逆位相のドライブ信号が供給され、これらのスイッチ素子Q1とQ2が差動でスイッチング動作を行う。そして、図2に示すような出力電流I1が得られる。
【0017】
図3は、上述したコンバータを2個並列に接続した構成を示す。図1と構成を有する一方のコンバータに対して同様の構成を有する他方のコンバータが並列接続される。他方のコンバータは、スイッチ素子Q3,Q4、リアクトルLr2,Lm2、共振容量Cr2、トランス、ダイオードD3、D4を備えている。他方のコンバータには、出力電流I2が流れる。
【0018】
上述した特許文献1では、2個のコンバータのスイッチ動作の位相を1/4周期(45度)ずらして動作させる。図4Aは、一方のコンバータの出力電流I1を示し、図4Bは、他方のコンバータの出力電流I2を示す。これらの電流I1及びI2が加算されることによって、図4Cに示すようなリップル成分が削減された出力電流(I1+I2)が得られる。
【0019】
図5を参照してノイズについて説明する。電流共振型コンバータは低雑音の電源装置として利用されているが、この低雑音である特性は各スイッチ素子の動作周波数に対して十分に高い周波数の雑音に限られ、動作周波数及びその倍数波の雑音は他のコンバータ同様に存在する。図5に示すように、電気的な雑音は入力または出力の両端に逆向きに電流の流れるノーマルモードノイズと、両端に同じ向きに流れ大地等を経由して機器に流れるコモンモードノイズに分けられる。
【0020】
図3に示すような複数のコンバータを有する構成では、コンバータの位相差を制御することによりノイズを低減する方式がとられており、コンバータをπ/nの位相で動作させる特許文献1の方式もこれに該当する。
【0021】
しかしながら、この方式は、2次側ノーマルモードノイズを最小化することに着目しており、コモンモードノイズの低減効果は大きくない。電源変換装置のコモンモードノイズを低減するためにコモンモードノイズフィルタが使用されている。このノイズフィルタに含まれるコイルの損失やコンデンサによる漏洩電流、各素子のコストなど、様々な問題が存在する。
【0022】
さらに、π/n(90度や45度)の位相で動作させるにはπ/nの位相差を生成する回路が必要となり、動作周波数の変動のある共振型コンバータにおいては、制御回路が複雑になる問題が生じる。これと共に、特許文献1にも記載されているように、複数の共振型コンバータを並列に動作させる場合、各々のコンバータを構成する素子の定数差異により、各コンバータの分担電流のバランスが悪化するので、コンバータのバランスをとるための制御や追加素子が必要になり、装置の効率の悪化やコスト増が生じることになる。
【0023】
図6に示すように、本技術では、制御回路11を設け、制御回路11によって各コンバータのスイッチ素子Q1~Q4のオンオフを制御するドライブ信号Out1,Out2,Out3,Out4を生成する。制御回路11のフィードバックFB入力に対しては、平滑回路により出力された出力電圧がフィードバックされる。このフィードバックによって、出力電圧が一定値に制御される。制御回路11は、二つのコンバータ間でπずつずれるように、スイッチ素子のオンオフを制御する。図7は、スイッチ素子Q1~Q4のオンオフを制御するドライブ信号Out1,Out2,Out3,Out4を示す。
【0024】
図8A及び図8Bは、制御回路の二つの例を示している。図8Aに示す例は、ドライブ信号を発生するコントローラ20の出力がゲートドライブ/ドライブトランス21に供給され、ゲートドライブ/ドライブトランス21の出力が一方のコンバータのスイッチ素子Q1及びQ2のゲートに供給され、これらのスイッチ素子Q1及びQ2がπの位相差をもって交互にオンオフされる。
【0025】
同様に、コントローラ20の出力がゲートドライブ/ドライブトランス22に供給され、ゲートドライブ/ドライブトランス22の出力が他方のコンバータのスイッチ素子Q3及びQ4のゲートに供給され、これらのスイッチ素子Q1及びQ2がπの位相差をもって交互にオンオフされる。
【0026】
コントローラ20とゲートドライブ/ドライブトランス21の接続関係と、コントローラ20とゲートドライブ/ドライブトランス22の接続関係において、入力を反転させるこれによって、二つのコンバータ同士の位相差をπで動作させるようになされる。
【0027】
図8Bに示す構成は、ドライブトランスを使用する制御回路を示す。コントローラ30の出力がドライブトランスの1次巻き線L30に供給される。ドライブトランスは2次巻き線L31,L32,L33及びL34を有する。これらの巻き方向は同一とされている。2次巻き線L31の巻き始め端がスイッチ素子Q1のゲートと接続され、2次巻き線L31の巻き終わり端がスイッチ素子Q1のソースと接続される。2次巻き線L32の巻き始め端がスイッチ素子Q2のソースと接続され、2次巻き線L32の巻き終わり端がスイッチ素子Q2のゲートと接続される。したがって、スイッチ素子Q1及びQ2のスイッチ動作の位相差がπとなる。
【0028】
2次巻き線L33の巻き始め端がスイッチ素子Q3のソースと接続され、2次巻き線L33の巻き終わり端がスイッチ素子Q3のゲートと接続される。2次巻き線L34の巻き始め端がスイッチ素子Q4のゲートと接続され、2次巻き線L34の巻き終わり端がスイッチ素子Q4のソースと接続される。したがって、スイッチ素子Q3及びQ4のスイッチ動作の位相差がπとなる。さらに、二つのコンバータ同士の位相差をπとすることができる。このように、二つのコンバータ同士の位相差をπとするための構成は、結線を逆とするだけでよいので、制御回路の構成を簡単とすることができる。
【0029】
なお、ドライブトランスは、小規模なトランスであって、ドライブ信号を絶縁して伝送することができる。例えばソース電位が高圧になったり、電圧が上下するようなFETのドライブに使われる。また、2次リアクトルの巻き線の結線の極性を入れ替えると、逆位相のドライブ信号を生成することができる。
【0030】
本技術は、スイッチ素子Q1~Q4のオンオフ動作の関係に応じて8個の動作モード(モード1,モード2,モード3,・・・,モード8)を有する。図9は、各モードにおいてオンするスイッチ素子を含んで形成される電流経路を示している。また、図10は、その時の各素子の電圧・電流を示している。各モードにおける電圧・電流波形は既存の共振型コンバータと同一である。共振型コンバータは直列に接続された二つのスイッチ素子がπの位相差をもって交互にオンオフしている。本技術は二つのコンバータ同士の位相差をπで動作させるので、図中Q1とQ4、Q2とQ3はそれぞれ同時にオンオフする。さらに、各コンバータの出力電流I1及びI2と、両者を加算した出力電流(I1+I2)は図11に示すものとなる。
【0031】
各動作モードについて順に説明する。なお、簡単のため、スイッチ素子Q1~Q4のそれぞれのソースをSと表記し、ドレインをDと表記する。
モード1:Lm1に蓄えられたエネルギーによりQ1のSからDへ向けて電流が流れる。また、Lm2に蓄えられたエネルギーによりQ4のSからDに向けて電流が流れる。このとき各スイッチ素子の寄生ダイオードの導通中にQ1,Q4をオンすることでゼロボルトスイッチ動作となる。同時に2次側整流器より、2次側へエネルギーが伝達される。
【0032】
モード2:入力電圧VinによりQ1のDからSに向けて電流が流れ、Lm1が励磁されて二次側に電力が伝送される。また、Cr2に蓄えられた電圧により、Q4のDからSへ向けて電流が流れ、Lm2が励磁されて2次側へ電力が伝送される。
【0033】
モード3:Lm1、Lm2両端の電圧が、2次側電圧に変圧器の巻き数比を掛けた値よりさがり、2次側への電力伝送がされなくなる。
【0034】
モード4:Q1,Q4をオフする。Lm1に蓄えられたエネルギーにより、Q1の寄生容量が充電、Q2の寄生容量が放電され、Q1にかかる電圧がVinへQ2にかかる電圧が0へと変化する。同様にLm2に蓄えられたエネルギーにより、Q4の寄生容量が充電、Q3の寄生容量が放電され、Q4にかかる電圧がVinへQ3にかかる電圧が0へと変化する。
【0035】
モード5:Lm1に蓄えられたエネルギーによりQ2のSからDへ向けて電流が流れる。また、Lm2に蓄えられたエネルギーによりQ3のSからDに向けて電流が流れる。このとき各スイッチ素子の寄生ダイオードの導通中にQ2,Q3をオンすることでゼロボルトスイッチ動作となる。同時に2次側整流器より、2次側へエネルギーが伝達される。
【0036】
モード6:Cr1に蓄えられたエネルギーにより、Q2のDからSに向けて電流が流れ、Lm1が励磁されて二次側に電力が伝送される。また、VinよりQ3のDからSへ向けて電流が流れ、Lm2が励磁されて2次側へ電力が伝送される。
【0037】
モード7:Lm1、Lm2両端の電圧が、2次側電圧に変圧器の巻き数比を掛けた値よりさがり、2次側への電力伝送がされなくなる。
【0038】
モード8:Q1,Q4をオフする。Lm1に蓄えられたエネルギーにより、Q2の寄生容量が充電、Q1の寄生容量が放電され、Q2にかかる電圧がVinへQ1にかかる電圧が0へと変化する。同様にLm2に蓄えられたエネルギーにより、Q3の寄生容量が充電、Q4の寄生容量が放電され、Q3にかかる電圧がVinへQ4にかかる電圧が0へと変化する。
【0039】
図12は二つの共振型コンバータのトランスの1次巻き線と2次巻き線との間に存在する寄生容量によって発生するコモンモードのノイズ(コモンモード電流i3及びi4)の経路を示す。また、図13は、その波形の一例である。共振型コンバータのコモンモードノイズは位相角πで極性が反転したノイズを発生する。そのため位相がπだけ異なる二つのコンバータのコモンモードノイズの合成値はゼロとなる。したがって、ノイズを抑制でき、ノイズフィルタを簡略な構成とできる。
【0040】
図14A及び図14Bは、それぞれ従来の共振型コンバータを含む機器と、その共振型コンバータを本技術のコンバータへ置き換えたときの雑音端子電圧(ピーク値及び平均値)の測定結果である。共振型コンバータの動作周波数は105kHzであり、315kHz・525kHz・735kHz・945kHzがその高調波となる。これらの周波数の雑音レベルは従来の共振型コンバータのものと比較して15dB程度低下させることができる。
【0041】
図15は、本技術における回路の変形例である。共振型コンバータのリアクトルとトランスの電圧電流波形は位相πをもって正負反転の相似形である。本技術では二つのコンバータをπの位相差をもって制御しているので互いのリアクトルとトランスの電圧・電流の波形は正負反転の相似形になる。よってリアクトルとトランスはそれぞれ極性を反転させて磁気的に結合させることができる。
【0042】
これにより二つのコンバータによるコモンモードの削減を見かけ上一つのリアクトルまたはトランスで実現することが可能となり、規模の小さい直流変換装置でも効果を出すことが可能となる。またリアクトルを磁気的に結合させることにより、二つの共振型コンバータの動作バランスを容易にとることができる。
【0043】
図16は本技術における2次側整流回路の変形例である。共振型コンバータの2次側巻き線はそれぞれπの位相差の電圧を出力している。本技術では二つの共振型コンバータがπの位相差をもって動作しているので、各々の2次側の巻き線のうち同相となる巻き線が存在する。それらを直列に接続し、出力することができる。この整流方式を用いた場合、二つのコンバータの出力電流をバランスすることができる。
【0044】
図17は本技術における1次側整流回路の変形例である。二つの容量を直列に接続し、直流電圧を分圧して二つのコンバータの入力とする。この場合でも図16に示すようなコイルの磁気的な結合、図17に示すような2次側の整流回路の変形が適用できる。この場合も動作モードは上述したものとなり、各スイッチ素子のオフ時の電圧がVin/2となる
【0045】
図18は、図17に示す回路をさらに変形した例である。共振型コンバータの動作特性により図17においてQ1に並列接続されているトランスは、Q2に接続されても等価である。この時Q2に流れる電流とQ3に流れる電流は同一となるので、図17の説明であげた2つの入力分圧容量へ流れる電流は互いの電流共振コンバータ同士で打ち消しあいゼロとなり、容量は不要となる。さらにQ2,Q3は互いに同じタイミングでオンオフするので、これらも一つの素子とすることができる。
【0046】
図19図18の変形例の動作モード(各々のスイッチのオンオフの状態)を示し、図20はその時の各素子の電圧・電流の波形を示している。各動作モードの動作は図9に示すものと同様となるが、Q1、Q3のオフ時の電圧がVin/2になり、Q2のオフ時の電圧がVinになる。
【0047】
図21は、図17に示す回路をさらに変形した2例目である。図18での変形と同様に、Q4に並列に接続されたトランスはQ3に接続しても等価である。この時Q1,Q4に流れる電流が等しくなるので、入力分圧の容量は不要となる。Q2,Q3は同じタイミングでオンオフし、同じ電流が流れるスイッチとなるので、一つのスイッチとすることができる。
【0048】
図22は、図18及び図21のようなスイッチ素子を3素子に変形したときのゲート信号の波形を示す。
【0049】
本技術によれば、コモンモードノイズの低減により、コモンモードノイズフィルタの簡素化が可能である。これによりフィルタに含まれるコイルのロス削減、容量結合による漏洩電流の低減、フィルタにかかるコストの低減が可能になる。また、共振型コンバータの複数動作によるバランスの問題を低コストかつ簡易な構成で解決できる。
【0050】
以上、本技術の一実施の形態について具体的に説明したが、本技術は、上述の一実施の形態に限定されるものではなく、本技術の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。また、上述の実施形態において挙げた構成、方法、工程、形状、材料及び数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料及び数値などを用いてもよい。
【0051】
なお、本技術は、以下のような構成も取ることができる。
(1)
二つの電流共振型のコンバータを含む直流変換装置であって、
二つのコンバータの各々は、直列に接続された二つのスイッチ素子と、1次巻き線と2次巻き線とを有するトランスと、共振リアクトル成分と、前記トランスの1次巻き線と共振容量とが直列接続された共振回路と、前記トランスの2次巻き線に発生した電圧を整流する整流器を有し、
前記整流器により出力された電圧に基づいて前記二つのコンバータの各々が有するスイッチ素子のオンオフを制御する制御回路を設け、
前記制御回路は前記二つのコンバータ間でπずつずれるように、前記スイッチ素子のオンオフを制御するようにした直流変換装置。
(2)
前記制御回路は、ドライブ信号生成用のコントローラと前記二つのコンバータの各々が有するスイッチ素子の間の結線を異ならせることによって、前記二つのコンバータ間でπずつずれるように、前記スイッチ素子のオンオフを制御するようにした(1)に記載の直流変換装置。
(3)
前記制御回路は、ドライブ信号が1次側リアクトルに供給されるドライブトランスを有し、前記ドライブトランスの複数の2次側リアクトルに対して、前記二つのコンバータの各々が有するスイッチ素子を接続し、
前記複数の2次側リアクトルと前記スイッチ素子の間の結線を異ならせることによって、前記二つのコンバータ間でπずつずれるように、前記スイッチ素子のオンオフを制御するようにした(2)に記載の直流変換装置。
(4)
前記二つの容量を直列に接続してなり、直流電源の電源電圧を分圧して前記二つのコンバータに入力し、前記二つのコンバータ各々に直流電力を供給する分圧回路を備えた(1)から(3)のいずれかに記載の直流変換装置。
(5)
前記二つのコンバータの入力を直列に接続するようにした(1)から(4)のいずれかに記載の直流変換装置。
(6)
前記二つのコンバータの入力を直列に接続し、各コンバータのうち互いのコンバータが接続された側のスイッチ素子を1つにまとめた(1)から(5)のいずれかに記載の直流電源装置。
(7)
前記二つのコンバータの有するリアクトル又はトランスを磁気結合させた(1)から(6)のいずれかに記載の直流変換装置。
(8)
前記二つの有するトランスの2次巻き線を直列接続した(1)から(7)のいずれかに記載の直流変換装置。
【符号の説明】
【0052】
Q1,Q2,Q3,Q4・・・スイッチ素子、11・・・制御回路、
Lr1,Lr2・・・共振リアクトル、Cr1,Cr2・・・共振容量
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