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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/04 20060101AFI20231121BHJP
   B29C 43/04 20060101ALI20231121BHJP
   B29C 43/14 20060101ALI20231121BHJP
   B29C 69/02 20060101ALI20231121BHJP
   B29C 70/12 20060101ALI20231121BHJP
   B29C 70/46 20060101ALI20231121BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20231121BHJP
【FI】
B29C45/04
B29C43/04
B29C43/14
B29C69/02
B29C70/12
B29C70/46
B29K105:12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021525915
(86)(22)【出願日】2020-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2020009219
(87)【国際公開番号】W WO2020250509
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2023-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2019109805
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】松本 信彦
【審査官】小山 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-82717(JP,A)
【文献】特開2014-104624(JP,A)
【文献】国際公開第2012/108446(WO,A1)
【文献】特許第5767415(JP,B1)
【文献】特許第6145170(JP,B2)
【文献】特開2015-51592(JP,A)
【文献】国際公開第2016/096163(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
B29C 33/00-33/76
B29C 43/00-43/58
B29C 69/00-69/02
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と数平均繊維長が1mm以上の強化繊維を含む成形品の製造方法であって、熱可塑性樹脂と数平均繊維長が30mm未満の強化繊維を含む材料を第一の閉鎖系の金型を用いて成形した後、前記成形した材料のみを再度、第二の閉鎖系の金型を用いて成形することを含み、前記第二の閉鎖系の金型は、前記第一の閉鎖系の金型と、形状が異なり、前記第二の閉鎖系の金型に材料を適用する際の材料温度が、前記第一の閉鎖系の金型に材料を適用する際の材料温度よりも、0.1~7℃低い、成形品の製造方法。
【請求項2】
前記第一の閉鎖系の金型を用いた成形時の金型温度と、前記第二の閉鎖系の金型に材料を適用する際の材料温度の差が、20~320℃である、請求項に記載の成形品の製造方法。
【請求項3】
前記材料を、加熱した後、前記第一の閉鎖系の金型に適用する、請求項1または2に記載の成形品の製造方法。
【請求項4】
前記材料を射出成形により、前記第一の閉鎖系の金型に適用する、請求項に記載の成形品の製造方法。
【請求項5】
前記材料がUDテープを30mm未満の長さにカットしたものであり、前記カットしたUDテープを前記第一の閉鎖系の金型に適用する、請求項1~のいずれか1項に記載の成形品の製造方法。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の成形品の製造方法。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の成形品の製造方法。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の成形品の製造方法。
【請求項9】
前記強化繊維が、ガラス繊維および炭素繊維の少なくとも1種を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の成形品の製造方法。
【請求項10】
前記材料に含まれる数平均繊維長が30mm未満の強化繊維の数平均繊維長が、10~25mmである、請求項1~のいずれか1項に記載の成形品の製造方法。
【請求項11】
前記成形品に含まれる数平均繊維長が1mm以上の強化繊維の数平均繊維長が、1mm以上30mm未満である、請求項1~10のいずれか1項に記載の成形品の製造方法。
【請求項12】
前記成形品に含まれる数平均繊維長が1mm以上の強化繊維の数平均繊維長が、10mm以上30mm未満である、請求項1~11のいずれか1項に記載の成形品の製造方法。
【請求項13】
前記第二の閉鎖系の金型を用いた成形時の金型温度が前記第一の閉鎖系の金型を用いた成形時の金型温度よりも、0.1~7℃低い、請求項1~12のいずれか1項に記載の成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形品の製造方法に関する。具体的には、熱可塑性樹脂と数平均繊維長が1mm以上の強化繊維を含む成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種材料として、樹脂が、炭素繊維やガラス繊維などの強化繊維で強化された繊維強化樹脂材料が注目されている。
例えば、特許文献1には、(A)非晶性熱可塑性樹脂70~35質量%および(B)断面が扁平率2.3以上の扁平形状である強化繊維30~65質量%を含む熱可塑性樹脂組成物からなり、成形品中の強化繊維の質量平均繊維長が1mm以上である成形品の製造方法において、ロービング状の強化繊維に熱可塑性樹脂を被覆した後、3mm以上の長さにカットされたペレットを緩圧縮なタイプのスクリューを用いて射出成形する工程を含むことを特徴とする、繊維強化熱可塑性樹脂成形品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-199121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討を行ったところ、熱可塑性樹脂と30mm未満の強化繊維を含む材料は、閉鎖系の金型で成形しても、強化繊維が屈曲して表面外観が低下してしまうことが分かった。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、表面外観に優れる成形品を提供可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が鋭意検討を行った結果、閉鎖系の金型で成形した後、さらに、閉鎖系の金型で成形することにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>熱可塑性樹脂と数平均繊維長が1mm以上の強化繊維を含む成形品の製造方法であって、熱可塑性樹脂と数平均繊維長が30mm未満の強化繊維を含む材料を第一の閉鎖系の金型を用いて成形した後、前記成形した材料のみを再度、第二の閉鎖系の金型を用いて成形することを含む、成形品の製造方法。
<2>前記第二の閉鎖系の金型は、前記第一の閉鎖系の金型と、形状が異なる、<1>に記載の成形品の製造方法。
<3>前記第二の閉鎖系の金型に材料を適用する際の材料温度が、前記第一の閉鎖系の金型に材料を適用する際の材料温度よりも、0.1~7℃低い、<2>に記載の成形品の製造方法。
<4>前記第一の閉鎖系の金型を用いた成形時の金型温度と、前記第二の閉鎖系の金型に材料を適用する際の材料温度の差が、20~320℃である、<2>または<3>に記載の成形品の製造方法。
<5>前記第二の閉鎖系の金型は、前記第一の閉鎖系の金型と、形状が同じである、<1>に記載の成形品の製造方法。
<6>前記第二の閉鎖系の金型に材料を適用する際の材料温度が、前記第一の閉鎖系の金型に材料を適用する際の材料温度よりも、0.1~20℃低い、<5>に記載の成形品の製造方法。
<7>前記第一の閉鎖系の金型を用いた成形時の金型温度と、前記第二の閉鎖系の金型に材料を適用する際の材料温度の差が、30~340℃である、<5>または<6>に記載の成形品の製造方法。
<8>前記材料を、加熱した後、前記第一の閉鎖系の金型に適用する、<1>~<7>のいずれか1つに記載の成形品の製造方法。
<9>前記材料を射出成形により、前記第一の閉鎖系の金型に適用する、<8>に記載の成形品の製造方法。
<10>前記材料がUDテープを30mm未満の長さにカットしたものであり、前記カットしたUDテープを前記第一の閉鎖系の金型に適用する、<1>~<8>のいずれか1つに記載の成形品の製造方法。
<11>前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド樹脂を含む、<1>~<10>のいずれか1つに記載の成形品の製造方法。
<12>前記熱可塑性樹脂が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂を含む、<1>~<11>のいずれか1つに記載の成形品の製造方法。
<13>前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂を含む、<1>~<12>のいずれか1つに記載の成形品の製造方法。
<14>前記強化繊維が、ガラス繊維および炭素繊維の少なくとも1種を含む、<1>~<13>のいずれか1つに記載の成形品の製造方法。
<15>前記材料に含まれる数平均繊維長が30mm未満の強化繊維の数平均繊維長が、10~25mmである、<1>~<14>のいずれか1つに記載の成形品の製造方法。
<16>前記成形品に含まれる数平均繊維長が1mm以上の強化繊維の数平均繊維長が、1mm以上30mm未満である、<1>~<15>のいずれか1つに記載の成形品の製造方法。
<17>前記成形品に含まれる数平均繊維長が1mm以上の強化繊維の数平均繊維長が、10mm以上30mm未満である、<1>~<15>のいずれか1つに記載の成形品の製造方法。
<18>前記第二の閉鎖系の金型を用いた成形時の金型温度が前記第一の閉鎖系の金型を用いた成形時の金型温度よりも、0.1~7℃低い、<1>~<17>のいずれか1つに記載の成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、表面外観に優れた成形品を製造可能な製造方法を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の製造方法の一実施形態を示す概略図である。
図2】実施例1および比較例1で得られた成形品の表面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0009】
本発明の成形品の製造方法は、熱可塑性樹脂と数平均繊維長が1mm以上の強化繊維を含む成形品の製造方法であって、熱可塑性樹脂と数平均繊維長が30mm未満の強化繊維を含む材料を第一の閉鎖系の金型を用いて成形した後、前記成形した材料のみを再度、第二の閉鎖系の金型を用いて成形することを含むことを特徴とする。このような構成とすることにより、表面外観に優れた成形品が得られる。
このメカニズムは、以下の通りであると推定される。すなわち、熱可塑性樹脂と30mm未満の強化繊維を含む材料を成形した際に、強化繊維が屈曲して表面外観が低下することが分かった。そして、本発明者が検討を行った結果、1つの材料について、閉鎖系の金型で2回成形することにより、2回目の成形時に、成形品の表層付近で樹脂が流動し、強化繊維がより分散され、強化繊維の屈曲を緩和できることを見出した。この結果、上記課題が解決されたと推測される。
さらに、強化繊維がより分散された結果、等方性強度を高くすることも可能となった。
以下、図1を参照しつつ、本発明の詳細について、説明する。本発明の製造方法が、図1に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0010】
本発明では、熱可塑性樹脂と数平均繊維長が30mm未満の強化繊維を含む材料を第一の閉鎖系の金型を用いて成形することを含む。例えば、図1(1)および図1(2)に示すように、第一の閉鎖系金型1に、熱可塑性樹脂と数平均繊維長が30mm未満の強化繊維を含む材料2を適用して成形する。
数平均繊維長が30mm未満の強化繊維は、熱可塑性樹脂中に配合して混練して成形すると、得られる成形品中で凝集したり、屈曲したりして、成形品の外観を悪化させる傾向にある。この問題を解決する方法として、成形品中の数平均繊維長を短くすることも考えられるが、機械的強度が劣ってしまう等の問題がある。本発明では、熱可塑性樹脂と数平均繊維長が30mm未満の強化繊維を含む材料を用いつつ、2度の金型成形を行うことにより、得られる成形品中の数平均繊維長を1mm以上と長く保ちつつ、外観を向上させることに成功したものである。
本発明では、第一の閉鎖系金型での成形によって、成形品の形状が概ね形成される。閉鎖系の金型とは、成形時に溶融樹脂が型外に流出しない程度に、全方向が密閉されている金型を意味する。閉鎖系の金型は、凹凸を有する金型であることが好ましい。
前記材料を、第一の閉鎖系金型に適用する方法に際し、熱可塑性樹脂と強化繊維、さらに必要に応じて配合される他の成分を含む繊維強化樹脂材料を加熱した後、第一の閉鎖系の金型に適用することが好ましい。さらに、前記材料を、溶融状態で、前記第一の閉鎖系の金型に適用することが好ましい。このような構成とすることにより、金型で加熱するよりも、成形サイクルをより向上できる。また、金型に材料を配置してから加熱する場合よりも、材料をより均一に加熱することができる。
例えば、図1(2)に示すように、材料を射出成形により、第一の閉鎖系の金型に適用する方法が挙げられる。図1(2)における3は射出成形機を示している。射出成形は、原料となる熱可塑性樹脂と強化繊維、さらに必要に応じて配合される他の成分を用いて得られるペレットを溶融して射出成形してもよいし、材料の原料となる熱可塑性樹脂と強化繊維、さらに必要に応じて配合される他の成分を直接に溶融混練して、射出成形してもよい。
また、平板状、テープ状等の繊維強化樹脂材料を赤外線ヒータなどによって加熱した後、第一の閉鎖系金型へ適用してもよい。平板状、テープ状等の繊維強化樹脂材料としては、UDテープ(Unidirectional Tapes)の他、ランダムチョップシート、混繊不織布、プリプレグなどが例示される。また、混繊糸など繊維状のものであってもよい。
本発明の材料の一実施形態は、UDテープを30mm未満の長さにカットしたものであり、前記カットしたUDテープを前記第一の閉鎖系の金型に適用する方法が挙げられる。
材料に用いる、熱可塑性樹脂の詳細および強化繊維の詳細、ならびに、他の成分の詳細については、後述する。
【0011】
第一の閉鎖系金型へ適用する際の材料の温度は、第一の閉鎖系金型と第二の閉鎖系金型の形状が異なる金型である場合、150℃以上であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましく、220℃以上であることがさらに好ましく、250℃以上であってもよい。また、融点(Tm)との関係で示すと、Tm-10℃以上であることが好ましい。上記下限値以上とすることにより、金型全体に材料がより良好に充填する傾向にある。また、前記第二の閉鎖系金型へ適用する際の材料の温度は、340℃以下であることが好ましく、320℃以下であることがより好ましく、310℃以下であることがさらに好ましく、300℃以下であってもよい。また、融点(Tm)との関係で示すと、Tm+10℃以下であることが好ましい。上記上限値以下とすることにより、材料中の強化繊維がより良好に分散する傾向にある。
【0012】
第一の閉鎖系金型へ適用する際の材料の温度は、第一の閉鎖系金型と第二の閉鎖系金型の形状が同じ金型である場合、190℃以上であることが好ましく、220℃以上であることがより好ましい。また、ガラス転移温度(Tg)との関係で示すと、Tg℃以上であることが好ましく、Tg+10℃以上であることが好ましい。上記下限値以上とすることにより、金型全体に材料がより良好に充填する傾向にある。また、前記第二の閉鎖系金型へ適用する際の材料の温度は、320℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましい。また、融点(Tm)との関係で示すと、Tm+10℃以下であることが好ましく、Tm以下であることがより好ましい。上記上限値以下とすることにより、材料中の強化繊維の分散性がより向上する傾向にある。
【0013】
第一の閉鎖系金型へ適用する際の材料の温度は、第一の閉鎖系金型へ適用する直前の温度をいい、溶融樹脂の温度を意味する。例えば、射出成形の場合は、シリンダーの最高温度とする。
熱可塑性樹脂を2種以上含む場合、混合物を基準に上記温度を定める。他の温度についても同様である。
【0014】
第一の閉鎖系金型は、プレス金型が好ましく、高速で温度調整可能な電磁誘導加熱システムや、Thermo Assisted Moldingシステムを導入した金型が好ましい。また量産に適する、単発型・トランスファー型・順送などの金型が好ましい。また、複雑形状を成形可能な3分割、4分割あるいはそれ以上に分割される金型が挙げられる。また、射出成形機とプレス成形機が一体化したハイブリッド成形機の金型が好ましい。さらに、ハイブリッド成形機に高速温度調整可能なシステムを導入することも好ましい。
【0015】
第一の閉鎖系金型の温度は、20℃以上であることが好ましく、25℃以上であることがより好ましく、28℃以上であることがさらに好ましく、35℃以上であってもよい。上記下限値以上とすることにより、よりハイサイクルで成形することができる。また、前記第一の閉鎖系金型の温度は、340℃以下であることが好ましく、330℃以下であることがより好ましく、320℃以下であることが一層好ましく、さらには、250℃以下、200℃以下、70℃以下、60℃以下、50℃以下であってもよい。上記上限値以下とすることにより、成形品の寸法がより安定する傾向にある。
【0016】
本発明の製造方法は、前記第一の閉鎖系金型を用いて成形した材料のみを再度、第二の閉鎖系の金型を用いて成形することを含む。例えば、図1(3)~(5)に示すように、第一の閉鎖系金型1で成形した成形品4を第一の閉鎖系金型1から取り出し(図1(3))、第二の閉鎖系金型6に適用し、(図1(4))、第二の閉鎖系金型を用いて成形する(図1(5))。このように、第一の閉鎖系金型を用いて成形した成形品を、再度、第二の閉鎖系金型を用いて成形することにより、成形品の表層付近の熱可塑性樹脂の流動性が向上し、強化繊維がより効果的に分散し、より優れた表面外観を有する成形品が得られる。尚、ここでの材料のみとは、前記材料の一部を除いたものであってもよい。例えば、射出成形で成形した場合に、成形品のバリを取り除く工程などが挙げられる。通常は、第一の閉鎖系金型を用いて成形した材料であって、その90質量%以上(好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上)のみを再度、第二の閉鎖系の金型を用いて成形する。
第二の閉鎖系の金型は、前記第一の閉鎖系の金型と、形状が同じであってもよいが、異なることが好ましい。違う形状の金型を用いることにより、熱可塑性樹脂が軟化し、強化繊維がより分散され、より外観が向上する。なお、射出成形などの際には、金型に樹脂を射出するための流路(最終成形品には残らない部分を意味し、スプル、ランナ等とも呼ばれる)が設けられることがあるが、このような流路の有無のみが相違点である金型は、同一の金型であるとする。すなわち、第一の閉鎖系の金型から流路のみを除いた金型を第二の閉鎖系の金型として用いる場合、これらの金型は同一である。ここでの最終成形品は、部品ではなく、完成品を意味する。例えば、複数の部品を1つの金型で形成する場合などにも、金型に流路が形成されるが、かかる流路は、部品を組み立てて得られる完成品には含まれないので、最終成形品ではない。
【0017】
第一の閉鎖系金型で成形した成形品は、第二の閉鎖系金型へ適用されるが、その前に、加熱することが好ましい。
第二の閉鎖系金型へ適用する際の材料の温度は、第二の閉鎖系金型へ適用する直前の温度をいい、材料の表面温度を意味する。材料の表面温度は、非接触の温度計(例えば、赤外放射温度計)で測定することができる。
【0018】
第二の閉鎖系金型へ適用する際の材料の温度は、第一の閉鎖系金型と第二の閉鎖系金型の形状が異なる金型である場合、150℃以上であることが好ましく、170℃以上であることがより好ましい。上記下限値以上とすることにより、樹脂が溶融し、形状変化に好適に追従するように強化繊維をより効果的に分散させることができる。また、前記第二の閉鎖系金型へ適用する際の材料の温度は、340℃以下であることが好ましく、320℃以下であることがより好ましく、300℃以下、280℃以下であってもよい。上記上限値以下とすることにより、樹脂の過剰な流動による強化繊維の分散性悪化をより効果的に抑制できる。
【0019】
第二の閉鎖系金型へ適用する際の材料の温度は、第一の閉鎖系金型と第二の閉鎖系金型の形状が同じ金型である場合、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましい。上記下限値以上とすることにより、樹脂が軟化し、強化繊維をより高い分散度で分散させることができる。また、前記第二の閉鎖系金型へ適用する際の材料の温度は、340℃以下であることが好ましく、320℃以下であることがより好ましい。上記上限値以下とすることにより、樹脂の過剰な流動による強化繊維の分散性悪化をより効果的に抑制することができる。
【0020】
さらにまた、第一の閉鎖系金型と第二の閉鎖系金型の形状が異なる金型である場合、前記第一の閉鎖系の金型を用いた成形時の金型温度と、前記第二の閉鎖系の金型に材料を適用する際の材料温度の差は、20℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましく、さらには、100℃以上、120℃以上であってもよい。また、前記温度の差は、340℃以下であることが好ましく、320℃以下であることがより好ましく、300℃以下、290℃以下であってもよい。上記範囲とすることにより、賦形時の強化繊維の表面の露出をより効果的に抑制することができる。
【0021】
さらにまた、第一の閉鎖系金型と第二の閉鎖系金型の形状が同じ金型である場合、前記第一の閉鎖系の金型を用いた成形時の金型温度と、前記第二の閉鎖系の金型に材料を適用する際の材料温度の差は、30℃以上であることが好ましく、40℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、さらには、100℃以上、120℃以上であってもよい。また、前記温度の差は、340℃以下であることが好ましく、320℃以下であることがより好ましく、300℃以下、290℃以下であってもよい。上記範囲とすることにより、連続成形性により優れる傾向にある。
【0022】
また、本発明では、第一の閉鎖系金型と第二の閉鎖系金型の形状が異なる金型である場合、前記第二の閉鎖系の金型に材料を適用する際の材料温度が、前記第一の金型に材料を適用する際の材料温度よりも0.1℃以上低いことが好ましく、0.5℃以上低いことがより好ましく、1℃以上低いことがさらに好ましい。また、前記材料温度の差は、7℃以下であることが好ましく、6℃以下であることがより好ましく、5℃以下であることがさらに好ましく、4℃以下であることが一層好ましく、3℃以下であることがより一層好ましく、2℃以下であることがさらに一層好ましい。このような構成とすることにより、樹脂の酸化劣化をより効果的に低減することができる。材料温度とは、材料に含まれる樹脂の温度をいう。
【0023】
また、本発明では、第一の閉鎖系金型と第二の閉鎖系金型の形状が同じ金型である場合、前記第二の閉鎖系の金型に材料を適用する際の材料温度が、前記第一の金型に材料を適用する際の材料温度よりも0.1℃以上低いことが好ましく、0.5℃以上低いことがより好ましく、1℃以上低いことがさらに好ましい。また、前記材料温度の差は、20℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましく、7℃以下であることがさらに好ましく、5℃以下であることが一層好ましく、3℃以下であることがより一層好ましく、2℃以下であることがさらに一層好ましい。このような構成とすることにより、樹脂の酸化劣化をより効果的に低減することができる。材料温度とは、材料に含まれる樹脂の温度をいう。
【0024】
第二の閉鎖系金型は、プレス金型が好ましく、高速で温度調整可能な電磁誘導加熱システムや、Thermo Assisted Moldingシステムを導入した金型が好ましい。また量産に適する、単発型・トランスファー型・順送などの金型が好ましい。また、複雑形状を成形可能な3分割、4分割あるいはそれ以上に分割される金型が挙げられる。また、射出成形機とプレス成形機が一体化したハイブリッド成形機の金型が好ましい。
【0025】
第二の閉鎖系金型の温度は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上であることがより好ましい。上記下限値以上とすることにより、繊維の分散がより向上する傾向にある。また、前記第二の閉鎖系金型へ適用する際の材料の温度は、200℃以下であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。上記上限値以下とすることにより、成形品の寸法がより安定する傾向にある。
【0026】
材料温度とは、材料に含まれる樹脂の温度をいう。
【0027】
さらに、本発明では、前記第二の閉鎖系の金型を用いた成形時の金型温度が前記第一の閉鎖系の金型を用いた成形時の金型温度よりも、0.1℃以上低いことが好ましく、0.5℃以上低いことがより好ましく、1℃以上低いことがさらに好ましい。また、前記金型温度の差は、7℃以下であることが好ましく、6℃以下であることがより好ましく、5℃以下であることがさらに好ましく、4℃以下であることが一層好ましく、3℃以下であることがより一層好ましく、2℃以下であることがさらに一層好ましい。このような構成とすることにより、外観がより向上する傾向にある。
【0028】
第二の閉鎖系金型で成形した後(図1(5))、成形品7は、第二の閉鎖系金型6から取り出される(図1(6))。この後、成形品7は、さらに、第三の閉鎖系金型で成形してもよい。このとき、成形する材料は、第二の閉鎖系金型で得られた成形品のみであってもよいし、第二の閉鎖系金型で得られた成形品と他の材料を組み合わせて成形してもよい。
また、開放系金型を用いたり、他の成形方法を組合せて、さらに複雑な形状を有する成形品とすることもできる。
【0029】
本発明の製造方法で成形される成形品(特に、第二の閉鎖系金型で成形した後、成形される成形品)の形状としては、特に制限はなく、成形品の用途、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、板状、プレート状、ロッド状、シート状、フィルム状、円筒状、環状、円形状、楕円形状、歯車状、多角形形状、異形品、中空品、枠状、箱状、パネル状のもの等が挙げられる。
上記成形品の利用分野については特に定めるものではなく、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、建材・住設関連部品、医療装置、レジャースポーツ用品、遊戯具、医療品、食品包装用フィルム等の日用品、防衛および航空宇宙製品等に広く用いられる。
【0030】
<熱可塑性樹脂>
次に、本発明で用いる熱可塑性樹脂について説明する。成形品に用いられる熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレン樹脂およびアクリル樹脂および熱可塑性ポリイミド樹脂から選択されることが好ましい。これらの中でも、ポリアミド樹脂およびポリオレフィン樹脂からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、ポリアミド樹脂がさらに好ましい。
【0031】
<<ポリアミド樹脂>>
本発明では、熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂を含むことが好ましく、熱可塑性樹脂の90質量%以上がポリアミド樹脂であってもよい。
ポリアミド樹脂としては、ラクタムの開環重合、アミノカルボン酸の重縮合、ジアミンとジカルボン酸の重縮合により得られる酸アミドを構成単位の少なくとも1種を含む高分子であり、具体的には、ポリアミド6、11、12、46、66、610、612、6I、6/66、6T/6I、6/6T、66/6T、66/6T/6I、9T、ポリアミドXD6、ポリアミドXD10、ポリアミドXD12、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド等が挙げられる。なお、上記「I」はイソフタル酸成分、「T」はテレフタル酸成分、「XD」はキシリレンジアミン成分を示す。また、ポリアミド樹脂としては、特開2011-132550号公報の段落番号0011~0013の記載を参酌することができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0032】
本発明で用いるポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の50モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の50モル%以上が炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂が好ましい。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジアミン由来の構成単位は、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上がメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミンの少なくとも1種に由来する。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジカルボン酸由来の構成単位は、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素原子数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。炭素原子数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸は、アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、ドデカン二酸、エイコジオン酸などが好適に使用でき、アジピン酸およびセバシン酸がより好ましい。
【0033】
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の原料ジアミン成分として用いることができるメタキシリレンジアミンおよびパラキシリレンジアミン以外のジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン、ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0034】
上記炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸といったナフタレンジカルボン酸類の異性体等を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0035】
本発明に用いられるポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位を主成分として構成されるが、これら以外の構成単位を完全に排除するものではなく、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類由来の構成単位を含んでいてもよいことは言うまでもない。ここで主成分とは、ポリアミド樹脂を構成する構成単位のうち、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計数が全構成単位のうち最も多いことをいう。本発明では、ポリアミド樹脂における、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位の合計は、全構成単位の90質量%以上を占めることが好ましく、95質量%以上を占めることがより好ましい。
【0036】
本発明においては、ポリアミド樹脂の融点は、150~310℃であることが好ましく、180~300℃であることがより好ましい。
また、ポリアミド樹脂のガラス転移温度の下限値は、40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、55℃以上がさらに好ましく、特に好ましくは60℃以上である。この範囲であると、耐熱性が良好となる傾向にある。また、ポリアミド樹脂のガラス転移温度の上限値は、150℃以下が好ましく、110℃以下がより好ましく、100℃以下がさらに好ましい。この範囲であると、耐熱性が良好となる傾向にある。
【0037】
なお、融点とは、DSC(示差走査熱量測定)法により観測される昇温時の吸熱ピークのピークトップの温度である。また、ガラス転移温度とは、試料を一度加熱溶融させ熱履歴による結晶性への影響をなくした後、再度昇温して測定されるガラス転移温度をいう。測定には、DSC装置を用い、試料量は約5mgとし、雰囲気ガスとしては窒素を30mL/分で流し、昇温速度は10℃/分の条件で室温(25℃)から予想される融点以上の温度まで加熱し溶融させた際に観測される吸熱ピークのピークトップの温度から融点を求めることができる。次いで、溶融したポリアミド樹脂を、ドライアイスで急冷し、10℃/分の速度で融点以上の温度まで再度昇温し、ガラス転移温度を求めることができる。
DSC装置は、例えば、島津製作所社(SHIMADZU CORPORATION)製「DSC-60」を用いることができる。
【0038】
<<ポリオレフィン樹脂>>
本発明では、熱可塑性樹脂がポリオレフィン樹脂を含むことが好ましく、熱可塑性樹脂の90質量%以上がポリオレフィン樹脂であってもよい。
ポリオレフィン樹脂は、特に定めるものではなく、公知のポリオレフィン樹脂を用いることができる。具体的には、特開2014-068767号公報の段落0101~0103に記載のポリオレフィン樹脂が例示され、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
ポリオレフィン樹脂は、シクロオレフィン系ポリマーおよびポリプロピレン系ポリマー(PP)からなる群より選択される1種以上であることが好ましく、ポリプロピレン系ポリマーであることがより好ましい。
シクロオレフィン系ポリマーは、シクロオレフィンポリマー(COP)であってもよいし、シクロオレフィンコポリマー(COC)であってもよい。
【0039】
COPとは、例えば、ノルボルネンを開環重合し水素添加した重合物である。COPは、例えば、特開平05-317411号公報に記載されており、また、日本ゼオン(株)製のZEONEX(登録商標)またはZEONOR(登録商標)や(株)大協精工製のDaikyo Resin CZ(登録商標)として市販されている。
【0040】
COCとは、例えば、ノルボルネンとエチレン等のオレフィンを原料とした共重合体、およびテトラシクロドデセンとエチレン等のオレフィンを原料とした共重合体である。COCは、例えば三井化学(株)製、アペル(登録商標)として市販されている。
【0041】
PPとしては、プロピレンホモポリマー、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-エチレンランダム共重合体等の公知のポリマーを使用することができる。市販品としては、BOREALIS社製、Bormed RB845MOなどが挙げられる。
【0042】
本発明における材料および成形品は、熱可塑性樹脂を合計で30質量%以上含むことが好ましく、40質量%以上含むことがより好ましく、50質量%以上含むことがさらに好ましい。また、本発明における材料および成形品は、熱可塑性樹脂を合計で、95質量%以下含むことが好ましく、90質量%以下含むことがより好ましく、80質量%以下含むことがさらに好ましく、70質量%以下含むことが一層好ましい。
熱可塑性樹脂は、1種を用いても2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合はその合計量が上記の範囲となる。
【0043】
<強化繊維>
本発明における材料および成形品は、強化繊維を含む。本発明において、材料と成形品に含まれる強化繊維は同じものであるが、成形の途中で強化繊維が折れたりすることによって、強化繊維の繊維長が、通常は、短くなる。一方、強化繊維の繊維径は、成形しても比較的変化しにくい。
本発明で用いる強化繊維は、有機強化繊維であっても、無機強化繊維であってもよく、無機強化繊維が好ましい。強化繊維は、植物繊維、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、アラミド繊維等が例示され、ガラス繊維および炭素繊維の少なくとも1種を含むことが好ましく、ガラス繊維を含むことがさらに好ましい。
【0044】
ガラス繊維としては、一般的に供給されるEガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス、および耐アルカリガラス等のガラスを溶融紡糸して得られる繊維が用いられるが、ガラス繊維にできるものであれば使用可能であり、特に限定されない。本発明では、Eガラスを含むことが好ましい。
【0045】
ガラス繊維は、例えば、γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理されていることが好ましい。表面処理剤の付着量は、ガラス繊維の0.01~1質量%であることが好ましい。さらに必要に応じて、脂肪酸アミド化合物、シリコーンオイル等の潤滑剤、第4級アンモニウム塩等の帯電防止剤、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の被膜形成能を有する樹脂、被膜形成能を有する樹脂と熱安定剤、難燃剤等の混合物で表面処理されたものを用いることもできる。
【0046】
本発明で用いるガラス繊維は、市販品として入手できる。市販品としては、例えば、日本電気硝子(NEG)社製、T257H、T286H、T756H、T289、T289DE、T289H、T296GH;オーウェンスコーニング社製、DEFT2A、PPG社製、HP3540;日東紡績社製、CSG3PA-810S、CSG3PA-820;セントラルグラスファイバー社製、EFH50-31(いずれも商品名)等が挙げられる。
【0047】
炭素繊維はポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維を好ましく用いることができる。また、リグニンやセルロースなど、植物由来原料の炭素繊維も用いることができる。
【0048】
本発明で用いる強化繊維は、その断面が円形断面であっても、非円形断面であってもよい。
【0049】
本発明で用いる強化繊維は、材料中、数平均繊維長が30mm未満である。前記材料中の数平均繊維長の下限値は、1mm以上であることが好ましく、10mm以上であることがより好ましい。また、材料中の数平均繊維長の上限値は、25mm以下であることが好ましく、20mm以下、18mm以下であってもよい。このように、短繊維または長繊維を用いて成形する場合、成形品中の強化繊維に由来する外観の悪化が問題になり易かったが、本発明によりこの点を効果的に回避できる。
また、材料中の強化繊維は、その数平均繊維径が0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上であることがさらに好ましい。上限値としては、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。
【0050】
一方、本発明で用いる強化繊維は、成形品に含まれる数平均繊維長が1mm以上であり、1.5mm以上であることが好ましく、用途に応じて、10mm以上であってもよい。前記数平均繊維長の上限値は、30mm未満であり、用途に応じて、10mm以下、5mm以下、3mm以下であってもよい。成形品中の数平均繊維長を1mm以上とすることにより、得られる成形品の強度を高くすることができる。また、30mm未満とすることにより、得られる成形品の外観をより向上させることができる。
例えば、材料がペレットの場合、成形品中の数平均繊維長は、1mm以上30mm未満であることが好ましく、1~5mmであることがより好ましく、1~3mmであることがさらに好ましく、1.5~3mmであることが一層好ましく、1.5~2.5mmであることがより一層好ましい。
また、材料がUDテープをカットしたものである場合、成形品中の数平均繊維長は、10mm以上30mm未満であることが好ましく、10~25mmであることがより好ましい。
【0051】
本発明における材料および成形品は、強化繊維の割合が20~80体積%であることが好ましく、30~70体積%であることがより好ましく、35~65体積%であることが一層好ましい。
また、本発明における材料および成形品は、強化繊維を合計で5質量%以上含むことが好ましく、10質量%以上含むことがより好ましく、20質量%以上含むことがさらに好ましく、30質量%以上含むことがさらに好ましい。さらに、本発明における材料および成形品は、強化繊維を合計で、70質量%以下含むことが好ましく、60質量%以下含むことがより好ましく、50質量%以下含むことがさらに好ましい。
強化繊維は、1種を用いても2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合はその合計量が上記の範囲となる。
【0052】
<他の成分>
本発明で用いる材料は、熱可塑性樹脂および強化繊維以外の他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、核剤、離型剤、難燃剤、難燃助剤、熱安定剤、光安定剤、蛍光増白剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、着色剤等の添加剤が挙げられる。これらの詳細は、特許第4894982号公報の段落番号0130~0155の記載を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
上記他の成分の合計は、材料中、0~20質量%であることが好ましい。これらの他の成分は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上用いる場合は、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【実施例
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0054】
<原料>
MXD6:メタキシリレンアジパミド樹脂、三菱ガス化学社製、グレードS6011、融点237℃、ガラス転移温度85℃
MP10:後述の合成例に従って合成したポリアミド樹脂
PA6:ポリアミド6、宇部興産社製、1024B、融点224℃、ガラス転移温度50℃
PP:ポリプロピレン樹脂、三菱ケミカル社製、グレードFY6、融点165℃、ガラス転移温度0℃
PA66:ポリアミド66、東レ社製、CM3001N、融点265℃、ガラス転移温度50℃
9T:ポリアミド9T、クラレ社製、A1000、融点289℃、ガラス転移温度120℃
【0055】
<<MP10の合成例>>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下ロートおよび窒素導入管、ストランドダイを備えた反応容器に、セバシン酸(伊藤製油(株)製TAグレード)10kg(49.4mol)および酢酸ナトリウム/次亜リン酸ナトリウム・一水和物(モル比=1/1.5)11.66gを仕込み、十分に窒素置換した後、さらに少量の窒素気流下で系内を撹搾しながら170℃まで加熱溶融した。
メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)とパラキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)のモル比が70/30である混合キシリレンジアミン6.647kg(メタキシリレンジアミン34.16mol、パラキシリレンジアミン14.64mol)を、溶融したセバシン酸に撹拌下で滴下し、生成する縮合水を系外に排出しながら、内温を連続的に2.5時間かけて240℃まで昇温した。
滴下終了後、内温を上昇させ、250℃に達した時点で反応容器内を減圧にし、更に内温を上昇させて255℃で20分間、溶融重縮合反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、得られた重合物をストランドダイから取り出して、これをペレット化することにより、ポリアミド樹脂(MP10)を得た。得られたMP10の融点は213℃、ガラス転移温度は63℃であった。
【0056】
ガラス繊維(連続繊維):日東紡績社製、ECDE150 1/0 1.0Z
炭素繊維:三菱ケミカル社製、TR50S-12K、数平均繊維径7μm
【0057】
<長繊維ペレットの製造>
連続したガラス繊維束(ロービング)を開繊して引き取りながら含浸ダイの中を通し、含浸ダイに供給される溶融した熱可塑性樹脂を含浸させた後、賦形、冷却、切断する引き抜き成形法に従い、強化繊維含量50質量%、長さ15mmのガラス長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造した。この方法で得られた強化繊維の数平均繊維長は、ペレットの数平均長と等しくなる。
【0058】
<UDテープの製造>
連続したガラス繊維束(ロービング)22ロールを等間隔に並べ、スプレッダーを通過させ、200mm幅に広げた。広げたガラス繊維を上下2つの含浸ロール間に入れる際に、二軸押出機(東芝機械社製、TEM26SX)で溶融させた熱可塑性樹脂を供給し、含浸ロール中で、ガラス繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた。ガラス繊維の配向方向は、スプレッダーの数および、ガラス繊維を引き出す張力を、調整することによって、調整した。その後、冷却ロールで冷却しながら、50m連続して引き取り、円柱状の芯材に巻き取り、UDテープを得た。押出機の設定温度については、280℃とした。得られたUDテープは、幅20cm、平均厚さ220μm、長さ50mであった。
【0059】
実施例1~6、8、9
成形機は、佐藤鉄工所社製、VPM1013Hを用いた。第一の閉鎖系金型は、平板を成形する金型であって、深さ2mmm、縦100mm、横40mmの金型を用いた。第二の閉鎖系金型は、平板を成形する金型であって、深さ5mm、縦98mm、横38mmの金型を用いた。但し、実施例9は、第二の閉鎖系金型として、第一の閉鎖系金型と同じものを用いた。
上記で得られた長繊維ペレットを、120℃で3時間乾燥させた後、上記成形機(VPM1013H)にて、第一の閉鎖系金型へ、下記表に示す材料温度(シリンダーの最高温度)で、射出成形した。このとき、第一の閉鎖系金型温度は、下記表に示す温度とした。
第一の閉鎖系金型から取り出した後、赤外線ヒータで加熱し、第一の閉鎖系金型を用いて得られた成形品の材料温度が下記表に示す値になった後に、第二の閉鎖系金型に配し、表に示す第二の閉鎖系金型温度にて成形した。
得られた成形品について、成形品中の強化繊維の数平均繊維長と、表面外観と、等方性強度を評価した。
【0060】
<材料中の強化繊維の数平均繊維長>
上記材料中の数平均繊維長は、材料を5g、400℃で30分間焼却し、残存する強化繊維を光学顕微鏡で観察し、平均値を算出した。
【0061】
<成形品中の強化繊維の数平均繊維長>
上記得られた成形品中の数平均繊維長は、成形品から10mmx10mmの領域を切り取り、400℃で30分間焼却し、残存する強化繊維を光学顕微鏡で観察し、平均値を算出した。
【0062】
<外観>
成形品の表面のX線像を、CT-scan(ヤマト社製、TDM 1000H-II)を使用して、測定した。画像解析は、画像解析ソフトA像くん(旭化成エンジニアリング社製)を用いて行った。5人の専門家が測定し、多数決で判断した。
A:乱れが小さいか乱れが無い
B:少々乱れている
C:非常に乱れている
【0063】
<等方性強度>
成形品の平面部から、長辺に対し、0度、45度、90度、135度の方向にそれぞれ10mmx30mmの短冊片を切り出した。東洋精機社製ストログラフを使用し、測定温度を23℃、測定湿度を50%RH(相対湿度)として、チャック間距離24mm、2mm/分の速度で曲げ強さを測定した。切り出した方向と機械物性との関係を評価した。5人の専門家が評価し、多数決で判断した。
A:ほぼ等方性または完全に等方性
B:実用レベルであるが、等方性にやや劣る
C:実用レベル外であった
【0064】
比較例1
実施例1において、第二の閉鎖系金型を用いる成形を行わない他は、実施例1と同様に行った。すなわち、第一の閉鎖系金型から取り出した成形品について、成形品中の強化繊維の数平均繊維長と、表面外観と、等方性強度を評価した。
【0065】
実施例7
成形機、第一の閉鎖系金型、第二の閉鎖系金型は、実施例1と同じものを用いた。
上記で得られたUDテープを2cmの長さに切って、赤外線ヒータで加熱し、材料温度が下記表に示す温度になった後に、第一の閉鎖系金型にランダムに配し、表に示す第一の閉鎖系金型温度にて、成形した。第一の閉鎖系金型から取り出し、バリ取りした後、赤外線ヒータで加熱し、第一の閉鎖系金型を用いて得られた成形品の材料温度が下記表に示す温度になった後に、第二の閉鎖系金型に配し、下記表に示す第二の閉鎖系金型温度にて、成形した。
得られた成形品について、成形品中の強化繊維の数平均繊維長と、表面外観と、等方性強度を評価した。
【0066】
比較例2
実施例7において、第二の閉鎖系金型を用いる成形を行わない他は、実施例7と同様に行った。すなわち、第一の閉鎖系金型から取り出した成形品について、成形品中の強化繊維の数平均繊維長と、表面外観と、等方性強度を評価した。
【0067】
【表1】
【表2】
【0068】
上記結果から明らかなとおり、本発明の製造方法で得られた成形品は、表面外観に優れていた。また、等方性強度も高かった。
さらに、図2に、実施例1と比較例1で得られた成形品の外観の電子顕微鏡写真を示す。図2(a)は、実施例1の成形品の写真であり、強化繊維が分散していることが分かる。これに対し、図2(b)は、比較例1の成形品の写真であり、縞状の模様が見え、強化繊維が十分に分散してないことが分かる。
【符号の説明】
【0069】
1 第一の閉鎖系金型
2 材料
3 射出成形機
4 第一の閉鎖系金型を用いて成形された成形品
6 第二の閉鎖系金型
7 第二の閉鎖系金型を用いて成形された成形品
図1
図2