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特許7388443積層体、積層体の製造方法、偏光板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】積層体、積層体の製造方法、偏光板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20231121BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20231121BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20231121BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20231121BHJP
   G02F 1/1335 20060101ALI20231121BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20231121BHJP
   H10K 50/86 20230101ALI20231121BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20231121BHJP
【FI】
G02B5/30
B32B7/023
B32B27/18 Z
B32B27/30 A
G02F1/1335
G09F9/00 313
H10K50/86
H10K59/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021554036
(86)(22)【出願日】2019-11-01
(86)【国際出願番号】 JP2019043116
(87)【国際公開番号】W WO2021084751
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-09-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 奈々恵
(72)【発明者】
【氏名】田坂 公志
(72)【発明者】
【氏名】南條 崇
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/182614(WO,A1)
【文献】特開2016-104515(JP,A)
【文献】特開2007-176982(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 7/023
B32B 27/18
B32B 27/30
G02B 5/30
G02F 1/1335 - 1/13363
G09F 9/00
H10K 59/10
H05B 33/00 - 33/28
H05B 44/00
H05B 45/60
H10K 50/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、その表面に剥離可能に配置された透光性樹脂層とを有する積層体であって、
前記透光性樹脂層は、重量平均分子量が100万以上の(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子とを含み、
前記透光性樹脂層の断面において、
前記透光性樹脂層の前記支持体とは反対側の面から前記透光性樹脂層の厚みの20%以下の領域を領域A、前記透光性樹脂層の前記支持体側の面から前記透光性樹脂層の厚みの20%以下の領域を領域Bとし、
前記領域Aにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率をR 、前記領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率をR としたとき、
/R は、1.05~1.1であって、
前記積層体の25℃における引張弾性率は、2.0~6.0GPaである、積層体。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル系樹脂は、前記(メタ)アクリル系樹脂を構成する全構造単位に対して、50~95質量%のメタクリル酸メチルに由来する構造単位と、1~25質量%のフェニルマレイミドに由来する構造単位と、1~25質量%のアクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位とを含む共重合体である、
請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記透光性樹脂層における前記ゴム粒子の含有量は、前記透光性樹脂層に対して5~40質量%である、
請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記透光性樹脂層の厚みは、0.1~35μmである、
請求項1~のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記支持体は、ポリエステル樹脂、セルロースエステル樹脂またはシクロオレフィン系樹脂を含むフィルムを含む、
請求項1~のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
重量平均分子量が100万以上の(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子と、溶媒とを含む透光性樹脂層用溶液を得る工程と、
前記透光性樹脂層用溶液を、支持体の表面に付与する工程と、
前記付与された前記透光性樹脂層用溶液から溶媒を除去し、透光性樹脂層を形成して、
前記透光性樹脂層の断面において、
前記透光性樹脂層の前記支持体とは反対側の面から前記透光性樹脂層の厚みの20%以下の領域を領域A、前記透光性樹脂層の前記支持体側の面から前記透光性樹脂層の厚みの20%以下の領域を領域Bとし、
前記領域Aにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率をR 、前記領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率をR としたとき、
/R は、1.05~1.1であって、
25℃における引張弾性率が2.0~6.0GPaである積層体を得る工程とを有する、
積層体の製造方法。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル系樹脂は、前記(メタ)アクリル系樹脂を構成する全構造単位に対して、50~95質量%のメタクリル酸メチルに由来する構造単位と、1~25質量%のフェニルマレイミドに由来する構造単位と、1~25質量%のアクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位とを含む共重合体である、
請求項に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒は、ケトン類とアルコール類とを含む、
請求項またはに記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
前記透光性樹脂層を形成する工程では、
前記溶媒の沸点をTb(℃)としたとき、前記支持体の表面に付与した前記透光性樹脂層用溶液を、(Tb-50)~(Tb+50)℃の温度で乾燥させる、
請求項のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記透光性樹脂層の厚みは、0.1~35μmである、
請求項のいずれか一項に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
偏光子の少なくとも一方の面に、請求項1~のいずれか一項に記載の積層体の前記透光性樹脂層を貼り合わせ、かつ前記透光性樹脂層の前記偏光子とは反対側の面に配置された支持体を剥離する工程を有する、
偏光板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、積層体の製造方法、偏光板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置や有機EL表示装置などの表示装置に用いられる偏光板は、偏光子と、それを保護するための保護フィルムとを含む。近年、スマートフォンやタブレット端末などのモバイル用途に用いられる表示装置は、薄型化が求められており、その構成部材である偏光板、ひいては保護フィルムも薄型化が求められている。
【0003】
保護フィルムは、通常、樹脂を溶剤に溶かしてドープと呼ばれる溶液を流延した後、乾燥させる方法(溶液流延法)などで製造される。そして、得られた保護フィルムを偏光子と貼り合せて、偏光板が製造される。
【0004】
これに対し、より薄い保護フィルムを有する偏光板を製造する方法として、基材フィルム(支持体)と透光性フィルム(透光性樹脂層)とを有する剥離性積層フィルム(積層体)から、透光性フィルムを偏光子に貼り合わせるとともに、基材フィルムを剥離して、偏光板を製造する方法が提案されている(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-41028号公報
【文献】特開2018-45220号公報
【文献】特開2013-134336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1~3に示されるような積層体は、帯状の支持体上に、透光性樹脂層用塗料を塗布したり、支持体用材料と透光性樹脂層用材料とを溶液共流延したりすることによって製造される。そして、得られた積層体は、ロール状に巻き取られた状態で運搬または保管された後、偏光板を製造する際に、ロール体から巻き出されて使用される。
【0007】
しかしながら、積層体のロール体を運搬または保管する間に、ロール体の変形(巻き変形)が生じやすく、当該変形が透光性樹脂層の表面に転写されやすいという問題があった。このようなロール体の変形は、積層体の長さが長く、幅が広いほど、顕著に生じやすい。また、得られた偏光板のロール体を運搬または保管する間も、同様の問題があった。
【0008】
また、透光性樹脂層の厚みが、例えば10μm以下と薄いことから、積層体に張力を付与しながらロールなどで搬送する際に、透光性樹脂層が破断しないことも求められる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、積層体の搬送時の破断を生じることなく、積層体または偏光板をロール状に巻き取った状態で一定期間保管した時の巻き変形に伴う表面欠陥を抑制しうる積層体およびその製造方法、ならびに当該積層体を用いた偏光板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の構成によって解決することができる。
【0011】
本発明の積層体は、支持体と、その表面に剥離可能に配置された透光性樹脂層とを有する積層体であって、前記透光性樹脂層は、重量平均分子量が100万以上の(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子とを含み、前記積層体の25℃における引張弾性率は、2.0~6.0GPaである。
【0012】
本発明の積層体の製造方法は、重量平均分子量が100万以上の(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子と、溶媒とを含む透光性樹脂層用溶液を得る工程と、前記透光性樹脂層用溶液を、前記支持体の表面に付与する工程と、前記付与された前記透光性樹脂層用溶液から溶媒を除去し、透光性樹脂層を形成して、25℃における引張弾性率が2.0~6.0GPaである積層体を得る工程とを有する。
【0013】
本発明の偏光板の製造方法は、偏光子の表面に、本発明の積層体の前記透光性樹脂層を貼り合わせる工程と、前記透光性樹脂層の前記偏光子とは反対側の面に配置された支持体を剥離する工程とを有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、積層体の搬送時の破断を抑制しつつ、積層体または偏光板をロール状に巻き取った状態で一定期間保管した時の巻き変形に伴う表面欠陥を抑制しうる積層体およびその製造方法、ならびに当該積層体を用いた偏光板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係る積層体を示す断面図である。
図2図2は、本発明の一実施の形態に係る積層体の製造方法を実施するための製造装置の模式図である。
図3図3は、本発明の一実施の形態に係る偏光板を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、鋭意検討した結果、積層体全体の引張弾性率を適度に高くし、かつ透光性樹脂層に高分子量の(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子とを含有させることで、搬送時の透光性樹脂層の破断を抑制しつつ、ロール体に巻き取った時の変形を抑制できることを見出した。
【0017】
この理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば透光性樹脂層に含まれる(メタ)アクリル系樹脂のモノマー組成の調整などにより積層体の引張弾性率を適度に高くすることで、積層体が適度に硬くなるため、ロール体の変形を生じにくくしうる。
【0018】
一方で、積層体の引張弾性率を高くしすぎると、張力をかけて搬送する際に、透光性樹脂層が破断しやすい。これに対し、透光性樹脂層に含まれる(メタ)アクリル系樹脂を高分子量とすることで、靱性を高めることができるだけでなく、透光性樹脂層にゴム粒子をさらに含有することで、張力に柔軟に追従させやすくしうる。それにより、積層体を搬送する際に、透光性樹脂層が搬送張力によって破断するのを抑制でき、搬送安定性を高めることができる。
また、透光性樹脂層がゴム粒子を含有することで、積層体のロール体の変形が生じた場合でも、当該ゴム粒子の復元力によって、透光性樹脂層を元の形状に戻しやすくし、変形が残りにくくしうる。偏光板のロール体においても、同様に、ロール体の変形を生じにくくし、透光性樹脂層を元の形状に戻しやすくしうる。
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
1.積層体
図1は、本発明の一実施の形態に係る積層体を示す断面図である。図1に示されるように、本実施の形態に係る積層体100は、支持体110と、その表面に剥離可能に配置された透光性樹脂層120とを有する。
【0021】
そして、積層体の引張弾性率Gは、2.0~6.0GPaであることが好ましい。積層体の引張弾性率Gが2.0GPa以上であると、積層体のロール体やそれを用いて得られる偏光板のロール体を保管している間に、巻き変形を生じにくくしうる。積層体の引張弾性率Gが6.0GPa以下であると、積層体に搬送張力を付与しながら搬送する際に、透光性樹脂層を破断させにくくし、搬送安定性を高めることができる。積層体の引張弾性率Gは、同様の観点から、3.5~5.5GPaであることがより好ましい。
【0022】
積層体の引張弾性率Gは、以下の手順で測定することができる。
1)積層体を、1cm×10cmに切り出してサンプルとする。このサンプルを、25℃60%RHの環境下で24時間調湿する。
2)次いで、得られたサンプルの引張弾性率を、JIS K7127:1999(ISO 527-3:1995)に記載の引張試験方法により測定する。具体的には、サンプルを、引張試験装置(例えばオリエンテック社製テンシロン)にセットし、チャック間距離50.0mm、引張り速度50mm/minの条件で引張試験を行い、引張弾性率を測定する。測定は、25℃60%RH下で行う。
【0023】
積層体の引張弾性率Gは、支持体の引張弾性率G1および透光性樹脂層の引張弾性率G2によって調整することができる。支持体の引張弾性率G1は、支持体の材質や熱処理、延伸処理によって調整することができる。透光性樹脂層の引張弾性率G2は、透光性樹脂層の組成(特に(メタ)アクリル系樹脂のモノマー組成や重量平均分子量)によって調整することができる。
【0024】
1-1.支持体
支持体は、透光性樹脂層を支持できるものであればよく、特に制限されないが、通常、樹脂フィルムを含みうる。
【0025】
樹脂フィルムの例には、ポリエステル樹脂フィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)など)、シクロオレフィン系樹脂フィルム(COP)、アクリル系フィルム、セルロース系樹脂フィルム(例えばトリアセチルセルロースフィルム(TAC)など)が含まれる。中でも、汎用性があり、かつ引張弾性率も高い観点から、PETフィルム、トリアセチルセルロースフィルム(TAC)、シクロオレフィン系樹脂フィルムが好ましい。
【0026】
樹脂フィルムは、熱緩和されたものであってもよいし、延伸処理されたものであってもよい。
【0027】
熱緩和は、支持体を熱処理することにより、結晶化度および配向性がいずれも低下しうるため、樹脂フィルム、ひいては支持体の引張弾性率G1を低くしうる。熱緩和温度は、特に制限されないが、樹脂フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度をTgとしたとき、(Tg+60)~(Tg+180)℃で行うことができる。熱緩和は、離型層を形成する前に行われてもよいし、離型層を形成した後に行われてもよい。
【0028】
延伸処理は、樹脂フィルムを延伸することで、樹脂分子の配向性を高め、それにより、樹脂フィルム、ひいては支持体の引張弾性率G1を高くしうる。延伸処理は、例えば支持体の一軸方向に行ってもよいし、二軸方向に行ってもよい。延伸処理は、任意の条件で行うことができ、例えば延伸倍率120~900%程度で行うことができる。延伸倍率は、各方向の延伸倍率を乗じた値である。樹脂フィルムが延伸されているかどうか(延伸フィルムであるかどうか)は、例えば面内遅層軸(屈折率が最大となる方向に延びた軸)があるかどうかによって確認することができる。
【0029】
支持体は、樹脂フィルムの表面に設けられた離型層をさらに有することが好ましい。離型層は、偏光板を作製する際に、透光性樹脂層を支持体から剥離しやすくしうる。
【0030】
離型層は、公知の剥離剤または離型剤を含むものであってよく、特に制限されない。離型層に含まれる剥離剤の例には、シリコーン系剥離剤、および、非シリコーン系剥離剤が含まれる。
【0031】
シリコーン系剥離剤の例には、公知のシリコーン系樹脂が含まれる。非シリコーン系剥離剤の例には、ポリビニルアルコールまたはエチレン-ビニルアルコール共重合体などに長鎖アルキルイソシアネートを反応させた長鎖アルキルペンダント型重合体、オレフィン系樹脂(例えば共重合ポリエチレン、環状ポリオレフィン、ポリメチルペンテン)、ポリアリレート樹脂(例えば、芳香族ジカルボン酸成分と二価フェノール成分との重縮合物)、フッ素樹脂(例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、PFA(四フッ化エチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体)、ETFE(テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体))などが含まれる。
【0032】
離型層には、必要に応じて添加剤をさらに含んでもよい。添加剤の例には、充填剤、滑剤(ワックス、脂肪酸エステル、脂肪酸アミドなど)、安定剤(酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤など)、難燃剤、粘度調整剤、増粘剤、消泡剤、紫外線吸収剤が含まれる。
【0033】
離型層の厚みは、所望の剥離性を発現しうる程度であればよく、特に制限されないが、例えば0.1~1.0μmであることが好ましい。
【0034】
(引張弾性率G1)
支持体の引張弾性率G1は、積層体の引張弾性率Gが上記範囲を満たすように設定されればよく、特に制限されないが、例えば2.0~6.0GPaでありうる。支持体の引張弾性率G1が2.0GPa以上であると、積層体のロール体や偏光板のロール体を保管している間に、巻き変形を生じにくくしうる。支持体の引張弾性率G1が6.0GPa以下であると、積層体に張力を付与しながら搬送する際に、支持体や積層体を破断させにくくし、搬送安定性を高めうる。支持体の引張弾性率G1は、前述と同様に、JIS K7127:1999(ISO 527-3:1995)に記載の引張試験を行うことにより測定することができる。支持体が異方性を有する場合、配向方向(面内遅相軸方向、例えばTD方向)とそれと直交する方向(例えばMD方向)の2種類のサンプルを準備し、それぞれについて測定し、それらの平均値をとる。
【0035】
(厚み)
支持体の厚みは、特に制限されないが、例えば10~100μmであることが好ましく、25~50μmであることがより好ましい。
【0036】
1-2.透光性樹脂層
透光性樹脂層は、支持体上に配置されている。透光性樹脂層は、支持体から剥離された後、偏光子と貼り合わされて偏光板を構成するものであり、保護フィルム(位相差フィルムを含む)などの光学フィルムとして機能しうる。
【0037】
透光性樹脂層は、高分子量の(メタ)アクリル系樹脂と、ゴム粒子とを含む。
【0038】
1-2-1.(メタ)アクリル系樹脂
(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、100万以上であることが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量が100万以上であると、得られる透光性樹脂層の靱性を高めうる。それにより、積層体の引張弾性率が高くても、搬送張力によって透光性樹脂層を破断させにくくしうる。また、透光性樹脂層の引張弾性率も高くしうるため、巻き変形も生じにくくしうる。(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量は、同様の観点から、150万~300万であることがより好ましい。
【0039】
(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算にて測定することができる。具体的には、東ソー社製 HLC8220GPC)、カラム(東ソー社製 TSK-GEL G6000HXL-G5000HXL-G5000HXL-G4000HXL-G3000HXL 直列)を用いて測定することができる。測定条件は、後述する実施例と同様としうる。
【0040】
重量平均分子量が上記範囲を満たす(メタ)アクリル系樹脂は、少なくともメタクリル酸メチルに由来する構造単位(U1)を含む。中でも、透光性樹脂層の引張弾性率G2を高めることで、ロール体で保管したときのロール体の巻き変形を生じにくくする観点では、(メタ)アクリル系樹脂は、フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)をさらに含むことが好ましく、当該構造単位(U2)を含むことによる脆性を改善する観点などから、アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(U3)に由来する構造単位(U3)をさらに含むことがより好ましい。
【0041】
すなわち、(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位(U1)と、フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)と、アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(U3)とを含むことが好ましい。
【0042】
メタクリル酸メチルに由来する構造単位(U1)の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂を構成する全構造単位に対して50~95質量%であることが好ましく、70~90質量%であることがより好ましい。
【0043】
フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)は、比較的剛直な構造を有するため、透光性樹脂層の引張弾性率G2を高めうる。また、フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)は、比較的嵩高い構造を有するため、樹脂マトリクス中にゴム粒子を移動させうるミクロな空隙を有しうるため、ゴム粒子を、透光性樹脂層の表層部に偏在させやすくしうる。
【0044】
フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂を構成する全構造単位に対して1~25質量%であることが好ましい。フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)の含有量が1質量%以上であると、透光性樹脂層の引張弾性率G2を高めやすく、25質量%以下であると、透光性樹脂層の脆性が過度には損なわれにくい。フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)の含有量は、上記観点から、7~15質量%であることがより好ましい。
【0045】
アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(U3)は、樹脂に適度な柔軟性を付与しうるため、例えばフェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)を含むことによる脆さを改善しうる。
【0046】
アクリル酸アルキルエステルは、アルキル部分の炭素原子数が1~7、好ましくは1~5のアクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。アクリル酸アルキルエステルの例には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシルなどが含まれる。
【0047】
アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(U3)の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂を構成する全構造単位に対して1~25質量%であることが好ましい。アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(U3)の含有量が1質量%以上であると、(メタ)アクリル樹脂に適度な柔軟性を付与しうるため、透光性樹脂層が脆くなりすぎず、破断しにくい。アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(U3)の含有量が25質量%以下であると、(メタ)アクリル樹脂のTgが低下しすぎないため、透光性樹脂層の耐熱性や引張弾性率G2が過度には低下しにくい。アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位の含有量は、上記観点から、5~15質量%であることがより好ましい。
【0048】
フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)の、フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)とアクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(U3)の合計量に対する比率は、20~70質量%であることが好ましい。当該比率が20質量%以上であると、透光性樹脂層の引張弾性率G2を高めやすく、70質量%以下であると、透光性樹脂層が脆くなりすぎない。
【0049】
(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、100℃以上であることが好ましく、120~150℃であることがより好ましい。(メタ)アクリル系樹脂のTgが上記範囲内にあると、透光性樹脂層の耐熱性を高めやすい。(メタ)アクリル系樹脂のTgを調整するためには、例えばフェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)やアクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位(U3)の含有量を調整することが好ましい。
【0050】
(メタ)アクリル系樹脂の含有量は、透光性樹脂層に対して50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。
【0051】
1-2-2.ゴム粒子
ゴム粒子は、透光性樹脂層に靱性(しなやかさ)を付与する機能を有しうる。
【0052】
ゴム粒子は、ゴム状重合体を含む粒子である。ゴム状重合体は、ガラス転移温度が20℃以下の軟質な架橋重合体である。そのような架橋重合体の例には、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、およびオルガノシロキサン系架橋重合体が含まれる。中でも、(メタ)アクリル系樹脂との屈折率差が小さく、透光性樹脂層の透明性が損なわれにくい観点では、(メタ)アクリル系架橋重合体が好ましく、アクリル系架橋重合体(アクリル系ゴム状重合体)がより好ましい。
【0053】
すなわち、ゴム粒子は、アクリル系ゴム状重合体(a)を含む粒子であることが好ましい。
【0054】
アクリル系ゴム状重合体(a)について:
アクリル系ゴム状重合体(a)は、アクリル酸エステルに由来する構造単位を主成分として含む架橋重合体である。主成分として含むとは、アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量が後述する範囲となることをいう。アクリル系ゴム状重合体(a)は、アクリル酸エステルに由来する構造単位と、それと共重合可能な他の単量体に由来する構造単位と、1分子中に2以上のラジカル重合性基(非共役な反応性二重結合)を有する多官能性単量体に由来する構造単位とを含む架橋重合体であることが好ましい。
【0055】
アクリル酸エステルは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-オクチルなどのアルキル基の炭素数1~12のアクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。アクリル酸エステルは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0056】
アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量は、アクリル系ゴム状重合体(a1)を構成する全構造単位に対して40~90質量%であることが好ましく、50~80質量%であることがより好ましい。アクリル酸エステルの含有量が上記範囲内であると、保護フィルムに十分な靱性を付与しやすい。
【0057】
共重合可能な他の単量体は、アクリル酸エステルと共重合可能な単量体のうち、多官能性単量体以外のものである。すなわち、共重合可能な単量体は、2以上のラジカル重合性基を有しない。共重合可能な単量体の例には、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステル;スチレン、メチルスチレンなどのスチレン類;(メタ)アクリロニトリル類;(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリル酸が含まれる。中でも、共重合可能な他の単量体は、スチレン類を含むことが好ましい。共重合可能な他の単量体は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0058】
共重合可能な他の単量体に由来する構造単位の含有量は、アクリル系ゴム状重合体(a)を構成する全構造単位に対して5~55質量%であることが好ましく、10~45質量%であることがより好ましい。
【0059】
多官能性単量体の例には、アリル(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチルロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトロメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが含まれる。
【0060】
多官能性単量体に由来する構造単位の含有量は、アクリル系ゴム状重合体(a)を構成する全構造単位に対して0.05~10質量%であることが好ましく、0.1~5質量%であることがより好ましい。多官能性単量体の含有量が0.05質量%以上であると、得られるアクリル系ゴム状重合体(a)の架橋度を高めやすいため、得られる透光性樹脂層の硬度、剛性が損なわれすぎず、10質量%以下であると、透光性樹脂層の靱性が損なわれにくい。
【0061】
アクリル系ゴム状重合体(a)を構成する単量体組成は、例えば熱分解GC-MSにより検出されるピーク面積比により測定することができる。
【0062】
ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)は、0℃以下であることが好ましく、-10℃以下であることがより好ましい。ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)が0℃以下であると、フィルムに適度な靱性を付与しうる。ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)は、前述と同様の方法で測定される。
【0063】
ゴム状重合体のガラス転移温度(Tg)は、ゴム状重合体の組成によって調整することができる。例えばアクリル系ゴム状重合体(a)のガラス転移温度(Tg)を低くするためには、アクリル系ゴム状重合体(a)中の、アルキル基の炭素原子数が4以上のアクリル酸エステル/共重合可能な他の単量体の質量比を多くする(例えば3以上、好ましくは4~10とする)ことが好ましい。
【0064】
アクリル系ゴム状重合体(a)を含む粒子は、アクリル系ゴム状重合体(a)からなる粒子、または、ガラス転移温度が20℃以上の硬質な架橋重合体(c)からなる硬質層と、その周囲に配置されたアクリル系ゴム状重合体(a)からなる軟質層とを有する粒子(これらを、「エラストマー」ともいう)であってもよいし;アクリル系ゴム状重合体(a)の存在下で、メタクリル酸エステルなどの単量体の混合物を、少なくとも1段以上重合して得られるアクリル系グラフト共重合体からなる粒子であってもよい。アクリル系グラフト共重合体からなる粒子は、アクリル系ゴム状重合体(a)を含むコア部と、それを覆うシェル部とを有するコアシェル型の粒子であってもよい。
【0065】
アクリル系ゴム状重合体を含むコアシェル型のゴム粒子について:
(コア部)
コア部は、アクリル系ゴム状重合体(a)を含み、必要に応じて硬質な架橋重合体(c)をさらに含んでもよい。すなわち、コア部は、アクリル系ゴム状重合体からなる軟質層と、その内側に配置された硬質な架橋重合体(c)からなる硬質層とを有してもよい。
【0066】
架橋重合体(c)は、メタクリル酸エステルを主成分とする架橋重合体でありうる。すなわち、架橋重合体(c)は、メタクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位と、それと共重合可能な他の単量体に由来する構造単位と、多官能性単量体に由来する構造単位とを含む架橋重合体であることが好ましい。
【0067】
メタクリル酸アルキルエステルは、前述のメタクリル酸アルキルエステルであってよく;共重合可能な他の単量体は、前述のスチレン類やアクリル酸エステルなどであってよく;多官能性単量体は、前述の多官能性単量体とした挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0068】
メタクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位の含有量は、架橋重合体(c)を構成する全構造単位に対して40~100質量%でありうる。共重合可能な他の単量体に由来する構造単位の含有量は、他の架橋重合体(c)を構成する全構造単位に対して60~0質量%でありうる。多官能性単量体に由来する構造単位の含有量は、他の架橋重合体を構成する全構造単位に対して0.01~10質量%でありうる。
【0069】
(シェル部)
シェル部は、アクリル系ゴム状重合体(a)にグラフト結合した、メタクリル酸エステルに由来する構造単位を主成分として含むメタクリル系重合体(b)(他の重合体)を含む。主成分として含むとは、メタクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量が後述する範囲となることをいう。
【0070】
メタクリル系重合体(b)を構成するメタクリル酸エステルは、メタクリル酸メチルなどのアルキル基の炭素数1~12のメタクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。メタクリル酸エステルは、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0071】
メタクリル酸エステルの含有量は、メタクリル系重合体(b)を構成する全構造単位に対して50質量%以上であることが好ましい。メタクリル酸エステルの含有量が50質量%以上であると、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を主成分として含むメタクリル系樹脂との相溶性が得られやすい。メタクリル酸エステルの含有量は、上記観点から、メタクリル系重合体(b)を構成する全構造単位に対して70質量%以上であることがより好ましい。
【0072】
メタクリル系重合体(b)は、メタクリル酸エステルと共重合可能な他の単量体に由来する構造単位をさらに含んでもよい。共重合可能な他の単量体の例には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチルなどのアクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルなどの脂環、複素環または芳香環を有する(メタ)アクリル系単量体(環含有(メタ)アクリル系単量体)が含まれる。
【0073】
共重合可能な単量体に由来する構造単位の含有量は、メタクリル系重合体(b)を構成する全構造単位に対して50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0074】
ゴム粒子におけるグラフト成分の比率(グラフト率)は、10~250質量%であることが好ましく、15~150質量%であることがより好ましい。グラフト率が一定以上であると、グラフト成分、すなわち、メタクリル酸エステルに由来する構造単位を主成分とするメタクリル系重合体(b)の割合が適度に多いため、ゴム粒子とメタクリル系樹脂との相溶性を高めやすく、ゴム粒子を一層凝集させにくい。また、フィルムの剛性などが損なわれにくい。グラフト率が一定以下であると、アクリル系ゴム状重合体(a)の割合が少なくなりすぎないため、フィルムの靱性や脆性改善効果が損なわれにくい。
【0075】
グラフト率は、以下の方法で測定される。
1)コアシェル型の粒子2gを、メチルエチルケトン50mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数30000rpm、温度12℃にて1時間遠心し、不溶分と可溶分とに分離する(遠心分離作業を合計3回セット)。
2)得られた不溶分の重量を下記式に当てはめて、グラフト率を算出する。
グラフト率(質量%)=[{(メチルエチルケトン不溶分の質量)-(アクリル系ゴム状重合体(a)の質量)}/(アクリル系ゴム状重合体(a)の質量)]×100
【0076】
ゴム粒子の形状は、特に制限されないが、真球状に近い形状であることが好ましい。真球状に近い形状とは、透光性樹脂層の断面または表面を観察したときの、ゴム粒子のアスペクト比が約1~2の範囲となるような形状をいう。このように、ゴム粒子が真球形状であるほうが、搬送時のロールとの接触による積層体の変形や、巻取り時の内部応力に対して強く、変形に対して耐性が得られやすい。
【0077】
ゴム粒子の平均粒子径は、100~400nmであることが好ましい。ゴム粒子の平均粒子径が100nm以上であると、透光性樹脂層に十分な靱性や応力緩和性を付与しやすく、400nm以下であると、透光性樹脂層の透明性が損なわれにくい。ゴム粒子の平均粒子径は、同様の観点から、150~300nmであることがより好ましい。
【0078】
ゴム粒子の平均粒子径は、以下の方法で算出することができる。
ゴム粒子の平均粒子径は、積層体の表面または切片のSEM撮影またはTEM撮影によって得た粒子100個の円相当径の平均値として測定することができる。円相当径は、撮影によって得られた粒子の投影面積を、同じ面積を持つ円の直径に換算することによって求めることができる。この際、倍率5000倍のSEM観察および/またはTEM観察によって観察されるゴム粒子を、平均粒子径の算出に使用する。
【0079】
ゴム粒子の含有量は、特に限定されないが、透光性樹脂層に含まれる(メタ)アクリル系樹脂に対して5~50質量%であることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましく、7~30質量%であることがさらに好ましい。
【0080】
(ゴム粒子の分布)
ゴム粒子は、透光性樹脂層の厚み方向に均一に分散していてもよいし、偏在していてもよい。具体的には、透光性樹脂層の厚み方向に沿った断面において、透光性樹脂層の支持体とは反対側の面から透光性樹脂層の厚みの20%以下の領域を領域A、透光性樹脂層の支持体側の面から透光性樹脂層の厚みの20%以下の領域を領域Bとし、領域Aにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率をR、領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率をRとしたとき、R/Rは、1.0~1.1でありうる。
【0081】
中でも、積層体がカールする際に応力を生じさせにくくする観点や、偏光子との接着性を高める観点では、ゴム粒子は、透光性樹脂層の表層部(支持体とは反対側の表層部)に偏在していることが好ましい。具体的には、透光性樹脂層のR/Rは、1.05~1.1であることがより好ましい。R/Rが1.05以上であると、ゴム粒子が透光性樹脂層の表層部に偏在している。それにより、透光性樹脂層の表層部の柔軟性や靱性を高めうるため、搬送時の破断を高度に抑制しやすいだけでなく、積層体のロール体を保管する間に巻き変形が生じて当該変形が透光性樹脂層に転写されたとしても、元の形状に戻りやすくしうる。また、R/Rが1.1以下であると、透光性樹脂層の表層部と内部とで靱性の差が大きくなりすぎないため、搬送時などにおいて応力差によりクラックが生じにくい。
【0082】
領域Aにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率Rは、下記式(1)で表される。
式(1):面積率R(%)=領域Aにおけるゴム粒子の合計面積/領域Aの面積×100
領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率Rも同様に定義される。
【0083】
透光性樹脂層のR/Rは、以下の方法で測定することができる。
1)透光性樹脂層をミクロトームで切断し、透光性樹脂層の表面に垂直な切断面を、TEM観察する。観察条件は、加速電圧(サンプルに照射する電子エネルギー):30kV、作動距離(レンズとサンプルの間の距離):8.6mm×倍率:3.00kとしうる。観察領域は、透光性樹脂層の厚み方向の全部を含む領域とする。
2)得られたTEM画像を、NiVision(ナショナルインスツルメンツ社製)の画像処理ソフトを用いて輝度傾斜を除去した後、オープニング処理を行い、バルクとゴム粒子とのコントラスト差を検出する。それにより、ゴム粒子の分布状態を特定する。
3)上記2)で得られた画像処理後の画像において、透光性樹脂層の厚み方向において、領域Aにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率R、領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率Rをそれぞれ算出する。
4)上記3)で得られた結果から、R/Rを算出する。
【0084】
ゴム粒子を偏在させる方法は、特に制限されないが、透光性樹脂層用溶液の溶媒の種類や塗膜の乾燥条件(乾燥温度や雰囲気溶媒濃度)、(メタ)アクリル樹脂の組成などによって調整できる。透光性樹脂層の表層部(領域A)にゴム粒子を偏在させやすくするためには、後述するように、溶媒として、ゴム粒子との親和性が高い溶媒(例えばアセトンなどのケトン類)を用いることが好ましく、乾燥温度を高くすることが好ましく、雰囲気の溶媒濃度を低くすることが好ましい。また、フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)を適度に多く含む(メタ)アクリル系樹脂は、ミクロな空隙を多く有し、ゴム粒子を拡散移動させやすいことから、フェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)の含有量を適度に多くすることで、ゴム粒子を偏在させやすくすることもできる。
【0085】
1-2-3.他の成分
透光性樹脂層は、必要に応じて上記以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、マット剤(微粒子)、紫外線吸収剤などが含まれる。
【0086】
マット剤は、フィルムに滑り性を付与する観点で、添加されうる。マット剤の例には、シリカ粒子などの無機微粒子、ガラス転移温度が80℃以上の有機微粒子などが含まれる。
【0087】
紫外線吸収剤の例には、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、およびトリアジン系紫外線吸収剤が含まれる。
【0088】
1-2-4.物性
(引張弾性率G2)
透光性樹脂層の引張弾性率G2は、積層体の引張弾性率Gが上記範囲を満たすように設定されればよく、特に制限されないが、例えば2.0~3.0GPaでありうる。透光性樹脂層の引張弾性率G2が2.0GPa以上であると、積層体または偏光板のロール体を保管している間に、巻き変形を生じにくくしうる。透光性樹脂層の引張弾性率G2が3.0GPa以下であると、積層体に張力を付与しながら搬送する際に、透光性樹脂層を破断させにくくし、搬送安定性を高めうる。
【0089】
透光性樹脂層の引張弾性率G2は、主に、(メタ)アクリル系樹脂の組成や重量平均分子量によって調整することができる。透光性樹脂層の引張弾性率G2を高める場合は、例えば(メタ)アクリル系樹脂中のフェニルマレイミドに由来する構造単位(U2)を多くすることが好ましく、重量平均分子量を高くすることが好ましい。
【0090】
透光性樹脂層の引張弾性率G2は、前述と同様の方法で測定することができる。すなわち、支持体から透光性樹脂層を剥離した後、透光性樹脂層の引張弾性率G2を前述と同様の方法で測定する。なお、透光性樹脂層が異方性を有する場合、配向方向(面内遅相軸方向)とそれと直交する方向の2種類のサンプルを準備し、それぞれについて測定し、それらの平均値をとる。
【0091】
支持体の引張弾性率G1と透光性樹脂層の引張弾性率G2の差ΔG(G1-G2)は、3.5GPa以下であることが好ましく、2.5GPa以下であることがより好ましい。ΔGが3.5GPa以下であると、例えば巻取り張力を掛けた時などにおいて、ツレなどの張力による変形量の差異が少ないので、剥がれ、剥がれによる破断などを生じにくい。
【0092】
(内部ヘイズ)
透光性樹脂層の内部ヘイズは、1.0%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましく、0.05%以下であることがさらに好ましい。透光性樹脂層の内部ヘイズは、前述と同様の方法で測定することができる。透光性樹脂層の内部ヘイズは、ゴム粒子の含有量などによって調整されうる。
【0093】
(位相差RoおよびRt)
透光性樹脂層は、例えばIPSモード用の位相差フィルムとして用いる観点では、測定波長550nm、23℃55%RHの環境下で測定される面内方向の位相差Roは、0~10nmであることが好ましく、0~5nmであることがより好ましい。透光性樹脂層の厚み方向の位相差Rtは、-20~20nmであることが好ましく、-10~10nmであることがより好ましい。
【0094】
RoおよびRtは、それぞれ下記式で定義される。
式(2a):Ro=(nx-ny)×d
式(2b):Rt=((nx+ny)/2-nz)×d
(式中、
nxは、透光性樹脂層の面内遅相軸方向(屈折率が最大となる方向)の屈折率を表し、
nyは、透光性樹脂層の面内遅相軸に直交する方向の屈折率を表し、
nzは、透光性樹脂層の厚み方向の屈折率を表し、
dは、透光性樹脂層の厚み(nm)を表す。)
【0095】
透光性樹脂層の面内遅相軸は、自動複屈折率計アクソスキャン(Axo Scan Mueller Matrix Polarimeter:アクソメトリックス社製)により確認することができる。
【0096】
RoおよびRtは、以下の方法で測定することができる。
1)透光性樹脂層を23℃55%RHの環境下で24時間調湿する。このフィルムの平均屈折率をアッベ屈折計で測定し、厚みdを市販のマイクロメーターを用いて測定する。
2)調湿後のフィルムの、測定波長550nmにおけるリターデーションRoおよびRtを、それぞれ自動複屈折率計アクソスキャン(Axo Scan Mueller Matrix Polarimeter:アクソメトリックス社製)を用いて、23℃55%RHの環境下で測定する。
【0097】
透光性樹脂層の位相差RoおよびRtは、例えば(メタ)アクリル系樹脂のモノマー組成によって調整することができる。
【0098】
(残留溶媒量)
透光性樹脂層は、透光性樹脂層用溶液を塗布して得られることから、当該溶液に由来する溶媒(例えばケトン類やアルコール類)が残留していることがある。残留溶媒量は、透光性樹脂層に対して700ppm以下であることが好ましく、30~700ppmであることがより好ましい。残留溶媒の含有量は、透光性樹脂層の製造工程における、支持体上に付与した透光性樹脂層用溶液の乾燥条件によって調整されうる。
【0099】
透光性樹脂層の残留溶媒量は、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーにより測定することができる。ヘッドスペースガスクロマトグラフィー法では、試料を容器に封入し、加熱し、容器中に揮発成分が充満した状態で速やかに容器中のガスをガスクロマトグラフに注入し、質量分析を行って化合物の同定を行いながら揮発成分を定量するものである。ヘッドスペース法では、ガスクロマトグラフにより、揮発成分の全ピークを観測することを可能にするとともに、電磁気的相互作用を利用した分析法を用いることによって、高精度で揮発性物質やモノマーなどの定量も併せて行うことができる。
【0100】
(厚み)
透光性樹脂層の厚みは、特に制限されないが、偏光板の薄型化を実現する観点では、通常、支持体の厚みよりも薄く、具体的には、例えば0.1~35μmであることが好ましく、1~15μmであることがより好ましい。
【0101】
支持体の厚みT1と透光性樹脂層の厚みT2の比T2/T1は、0.01~1であることが好ましく、0.1~0.7であることがより好ましい。
【0102】
1-3.他の層
本実施の形態に係る積層体は、必要に応じて支持体と透光性樹脂層との間に配置された他の層をさらに有してもよい。
【0103】
1-4.積層体の形態
また、本実施の形態に係る積層体の形態は、帯状でありうる。すなわち、本実施の形態に係る積層体は、その幅方向に直交する方向にロール状に巻き取られて、ロール体とされうる。
【0104】
2.積層体の製造方法
[製造方法]
本実施の形態に係る積層体の製造方法は、1)透光性樹脂層用溶液を得る工程と、2)得られた透光性樹脂層溶液を、支持体の表面に付与する工程と、3)付与された透光性樹脂層用溶液から溶媒を除去して、透光性樹脂層を形成する工程とを有する。
【0105】
1)の工程(透光性樹脂層用溶液を得る工程)について
前述の(メタ)アクリル系樹脂と、前述のゴム粒子と、溶媒とを含む透光性樹脂層用溶液を調製する。
【0106】
透光性樹脂層用溶液に用いられる溶媒は、(メタ)アクリル系樹脂やゴム粒子を良好に分散させうるものであればよく、特に制限されない。溶媒の例には、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸メチル、乳酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸アミル、酪酸エチルなどのエステル類、グリコールエーテル類(プロピレングリコールモノ(C1~C4)アルキルエーテル(具体的にはプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等)、プロピレングリコールモノ(C1~C4)アルキルエーテルエステル(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート))、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、n-ヘキサン等の炭化水素類が含まれる。中でも、溶媒は、(メタ)アクリル系樹脂を溶解しやすく、かつゴム粒子との親和性が比較的高く、低沸点で、乾燥速度および生産性を高めやすい観点から、ケトン類を含むことが好ましく、平面性が高い透光性樹脂層を形成しやすい観点から、アルコール類をさらに含むことが好ましい。
【0107】
すなわち、溶媒は、ケトン類と、アルコール類とを含むことが好ましい。ケトン類とアルコール類の含有比率は、特に限定されないが、乾燥速度と平面性の両立の観点から、ケトン類/アルコール類=95/5~10/90(質量比)であることが好ましく、95/5~60/40(質量比)であることがより好ましく、95/5~80/20(質量比)であることがさらに好ましい。ケトン類の割合が適度に多いと、乾燥速度を高めやすく、生産性も高めやすい。アルコール類の割合が適度に多いと、塗膜の平面性を高めやすい。
【0108】
透光性樹脂層用溶液の樹脂濃度は、粘度を後述する範囲に調整しやすくする観点から、例えば1.0~20質量%であることが好ましい。
【0109】
透光性樹脂層用溶液の粘度は、所望の厚みの透光性樹脂層を形成しうる程度であればよく、特に制限されないが、例えば5~5000cPであることが好ましい。透光性樹脂層用溶液の粘度が5cP以上であると、適度な厚みの透光性樹脂層を形成しやすく、5000cP以下であると、溶液の粘度上昇によって、厚みムラが生じるのを抑制しうる。透光性樹脂層用溶液の粘度は、同様の観点から、100~1000cPであることがより好ましい。透光性樹脂層用溶液の粘度は、25℃で、E型粘度計で測定することができる。
【0110】
2)の工程(透光性樹脂層用溶液を付与する工程)について
次いで、得られた透光性樹脂層用溶液を、支持体の表面に付与する。具体的には、得られた透光性樹脂層用溶液を、支持体の表面に塗布する。
【0111】
透光性樹脂層用溶液の塗布方法は、特に制限されず、例えばバックロールコート法、グラビアコート法、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、ロールコート法などでの公知の方法でありうる。中でも、薄くかつ均一な厚みの塗膜を形成しうる観点から、バックコート法が好ましい。
【0112】
3)の工程(透光性樹脂層を形成する工程)について
次いで、支持体に付与された透光性樹脂層用溶液から溶媒を除去して、透光性樹脂層を形成する。
【0113】
具体的には、支持体に付与された透光性樹脂層用溶液を乾燥させる。乾燥は、例えば送風または加熱により行うことができる。中でも、積層体のカールなどを抑制しやすくする観点では、送風により乾燥させることが好ましい。
【0114】
乾燥条件(例えば乾燥温度、雰囲気中の溶媒濃度、乾燥時間など)を調整することにより、乾燥後の塗膜、すなわち透光性樹脂層の残留溶媒量を一定以下とする。また、乾燥条件によって、透光性樹脂層におけるゴム粒子の分布状態を調整しうる。具体的には、ゴム粒子を偏在させやすくする観点では、ゴム粒子との親和性が良好な溶媒を用い、かつ乾燥温度は高くすることが好ましく、雰囲気中の溶媒濃度は低くすることが好ましい。
【0115】
乾燥温度は、溶媒の沸点をTb(℃)としたとき、(Tb-50)~(Tb+50)℃であることが好ましく、(Tb-40)~(Tb+40)℃であることがより好ましい。乾燥温度が下限値以上であると、溶媒の蒸発速度を高くしうるため、ゴム粒子を偏在させやすく、上限値以下であると、雰囲気中の溶媒濃度が高くなりすぎないようにしうる。例えば、アセトン/メタノールの混合溶媒を用いる場合は、乾燥温度は40℃以上としうる。
【0116】
乾燥時の雰囲気中の溶媒濃度は、0.10~0.30質量%であることが好ましく、0.10~0.20質量%であることがより好ましい。雰囲気中の溶媒濃度が0.1質量%以上であると、溶媒が蒸発しすぎないため、塗膜に割れなどが生じにくい。溶媒濃度が0.3質量%以下であると、塗膜からの溶媒の蒸発速度を適度に高くしやすいため、ゴム粒子を表面に偏在させやすい。雰囲気中の溶媒濃度は、乾燥温度と、乾燥炉内露点温度とによって調整することができる。また、雰囲気中の溶媒濃度は、赤外線ガス濃度計により測定することができる。
【0117】
本実施の形態に係る積層体は、前述の通り、帯状でありうる。したがって、本実施の形態に係る積層体の製造方法は、4)帯状の積層体をロール状に巻き取り、ロール体とする工程をさらに含むことが好ましい。
【0118】
4)の工程(積層体を巻き取り、ロール体を得る工程)について
得られた帯状の積層体を、その幅方向に直交する方向にロール状に巻き取り、ロール体とする。
【0119】
帯状の積層体の長さは、特に制限されないが、例えば100~10000m程度でありうる。また、帯状の積層体の幅は、1m以上であることが好ましく、1.3~4mであることがより好ましい。
【0120】
[製造装置]
本実施の形態に係る積層体の製造方法は、例えば図2に示される製造装置によって行うことができる。
【0121】
図2は、本実施の形態に係る積層体の製造方法を実施するための製造装置200の模式図である。製造装置200は、供給部210と、塗布部220と、乾燥部230と、冷却部240と、巻き取り部250とを有する。a~dは、支持体110を搬送する搬送ロールを示す。
【0122】
供給部210は、巻き芯に巻かれた帯状の支持体110のロール体201を繰り出す繰り出し装置(不図示)を有する。
【0123】
塗布部220は、塗布装置であって、支持体110を保持するバックアップロール221と、バックアップロール221で保持された支持体110に、透光性樹脂層用溶液を塗布する塗布ヘッド222と、塗布ヘッド222の上流側に設けられた減圧室223とを有する。
【0124】
塗布ヘッド222から吐出される透光性樹脂層用溶液の流量は、不図示のポンプにより調整可能となっている。塗布ヘッド222から吐出する透光性樹脂層用溶液の流量は、予め調整した塗布ヘッド222の条件で連続塗布したときに、安定して所定の膜厚の塗布層を形成できる量に設定されている。
【0125】
減圧室223は、塗布時に塗布ヘッド222からの透光性樹脂層用溶液と支持体110との間に形成されるビード(塗布液の溜まり)を安定化するための機構であり、減圧度を調整可能となっている。減圧室223は、減圧ブロワ(不図示)に接続されており、内部が減圧されるようになっている。減圧室223は、空気漏れがない状態になっており、かつ、バックアップロールとの間隙も狭く調整され、安定した塗布液のビードを形成できるようになっている。
【0126】
乾燥部230は、支持体110の表面に塗布された塗膜を乾燥させる乾燥装置であって、乾燥室231と、乾燥用気体の導入口232と、排出口233とを有する。乾燥風の温度および風量は、塗膜の種類および支持体110の種類により適宜決められる。乾燥部230で乾燥風の温度および風量、乾燥時間などの条件を設定することにより、乾燥後の塗膜の残留溶媒含有量を調整することができる。乾燥後の塗膜の残留溶媒量は、乾燥後の塗膜の単位質量と、該塗膜を十分に乾燥した後の質量を比較することにより測定することができる。
【0127】
冷却部240は、乾燥部230で乾燥させて得られる塗膜(透光性樹脂層120)を有する支持体110の温度を冷却し、適切な温度に調整する。冷却部240は、冷却室241と、冷却風入口242と、冷却風出口243とを有する。冷却風の温度および風量は、塗膜の種類および支持体110の種類により適宜決めうる。また、冷却部240を設けなくても、適正な冷却温度になる場合は、冷却部240はなくてもよい。
【0128】
巻き取り部250は、透光性樹脂層120が形成された支持体110(積層体100)を巻き取り、ロール体251を得るための巻き取り装置(不図示)である。
【0129】
3.偏光板
偏光板は、偏光子と、その少なくとも一方の面に配置された透光性樹脂層とを有する。偏光子と透光性樹脂層とは、接着剤層を介して接着されていることが好ましい。
【0130】
図3は、本発明の一実施の形態に係る偏光板300を示す断面図である。
【0131】
図3に示されるように、本実施の形態に係る偏光板300は、偏光子310(偏光子)と、その一方の面に配置された透光性樹脂層120(保護フィルム)と、他方の面に配置された保護フィルム320(他の保護フィルム)と、透光性樹脂層120または保護フィルム320と偏光子310との間に配置された2つの接着剤層330(接着剤層)とを有する。
【0132】
また、偏光板300は、透光性樹脂層120の偏光子310とは反対側の面に配置された粘着剤層340をさらに有しうる。粘着剤層340は、偏光板300を、液晶セルなどの表示素子(不図示)に貼り付けるための層である。粘着剤層340の表面は、通常、剥離フィルム(不図示)で保護されている。
【0133】
3-1.偏光子
偏光子は、一定方向の偏波面の光だけを通す素子である。偏光子は、通常、ポリビニルアルコール系偏光フィルムでありうる。ポリビニルアルコール系偏光フィルムの例には、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものや、二色性染料を染色させたものが含まれる。
【0134】
ポリビニルアルコール系偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系フィルムを一軸延伸した後、ヨウ素または二色性染料で染色したフィルム(好ましくはさらにホウ素化合物で耐久性処理を施したフィルム)であってもよいし;ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素または二色性染料で染色した後、一軸延伸したフィルム(好ましくは、さらにホウ素化合物で耐久性処理を施したフィルム)であってもよい。偏光子の吸収軸は、通常、最大延伸方向と平行である。
【0135】
偏光子の厚みは、5~30μmであることが好ましく、偏光板を薄型化する観点などから、5~20μmであることがより好ましい。
【0136】
3-2.透光性樹脂層および他の保護フィルム
偏光子の少なくとも一方の面には、透光性樹脂層が配置されている。透光性樹脂層は、前述の積層体の透光性樹脂層を、偏光子の表面に転写させたものであり、保護フィルムとして機能しうる。本実施の形態では、偏光子の一方の面に透光性樹脂層が配置され、他方の面に他の保護フィルムが配置されている。
【0137】
他の保護フィルムの例には、(メタ)アクリル系樹脂、ポリエステル樹脂、シクロオレフィン系樹脂、セルロースエステル樹脂が含まれ、好ましくは(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂でありうる。
【0138】
3-3.接着剤層
接着剤層は、透光性樹脂層と偏光子との間、および、他の保護フィルムと偏光子との間にそれぞれ配置されている。透光性樹脂層と偏光子との間に配置される接着剤層と、他の保護フィルムと偏光子との間に配置される接着剤層とは、同じであってもよいし、異なってもよい。
【0139】
接着剤層は、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液(水糊)から得られる層であってもよいし、活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化物層であってもよい。透光性樹脂層との親和性が高く、良好に接着させやすい観点では、接着剤層は、活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化物層であることが好ましい。
【0140】
活性エネルギー線硬化性接着剤は、光ラジカル重合性組成物であってもよいし、光カチオン重合性組成物であってもよい。中でも、光カチオン重合性組成物が好ましい。
【0141】
光カチオン重合性組成物は、エポキシ系化合物と、光カチオン重合開始剤とを含む。
【0142】
エポキシ系化合物とは、分子内に1以上、好ましくは2以上のエポキシ基を有する化合物である。エポキシ系化合物の例には、脂環式ポリオールに、エピクロロヒドリンを反応させて得られる水素化エポキシ系化合物(脂環式環を有するポリオールのグリシジルエーテル);脂肪族多価アルコールまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルなどの脂肪族エポキシ系化合物;脂環式環に結合したエポキシ基を分子内に1以上有する脂環式エポキシ系化合物が含まれる。エポキシ系化合物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0143】
光カチオン重合開始剤は、例えば芳香族ジアゾニウム塩;芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩などのオニウム塩;鉄-アレーン錯体などでありうる。
【0144】
光カチオン重合開始剤は、必要に応じてオキセタン、ポリオールなどのカチオン重合促進剤、光増感剤、イオントラップ剤、酸化防止剤、連鎖移動剤、粘着付与剤、熱可塑性樹脂、充填剤、流動調整剤、可塑剤、消泡剤、帯電防止剤、レベリング剤、溶剤などの添加剤をさらに含んでもよい。
【0145】
接着剤層の厚みは、特に限定されないが、それぞれ0.01~10μmであることが好ましく、0.01~5μmであることがより好ましい。
【0146】
3-4.粘着剤層
粘着剤層は、偏光板を、液晶セルなどの表示素子と貼り合わせるための層であり、透光性樹脂層の偏光子とは反対側の面に配置されうる。
【0147】
粘着剤層は、ベースポリマー、プレポリマーおよび/または架橋性モノマー、架橋剤ならびに溶媒を含む粘着剤組成物を、乾燥および部分架橋させたものであることが好ましい。すなわち、粘着剤組成物の少なくとも一部が架橋したものでありうる。
【0148】
粘着剤組成物の例には、(メタ)アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤組成物、シリコーン系ポリマーをベースポリマーとするシリコーン系粘着剤組成物、ゴムをベースポリマーとするゴム系粘着剤組成物が含まれる。中でも、透明性、耐候性、耐熱性、加工性の観点では、アクリル系粘着剤組成物が好ましい。
【0149】
アクリル系粘着剤組成物に含まれる(メタ)アクリル系ポリマーは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、架橋剤と架橋可能な官能基含有モノマーとの共重合体でありうる。
【0150】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アルキル基の炭素数2~14のアクリル酸アルキルエステルであることが好ましい。
【0151】
架橋剤と架橋可能な官能基含有モノマーの例には、アミド基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー(アクリル酸など)、ヒドロキシル基含有モノマー(アクリル酸ヒドロキシエチルなど)が含まれる。
【0152】
アクリル系粘着剤組成物に含まれる架橋剤としては、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、過酸化物系架橋剤などが挙げられる。粘着剤組成物における架橋剤の含有量は、通常、ベースポリマー(固形分)100質量部に対して、例えば0.01~10質量部でありうる。
【0153】
粘着剤組成物は、必要に応じて粘着付与剤、可塑剤、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉、その他の充填剤、顔料、着色剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤などの各種の添加剤をさらに含んでもよい。
【0154】
粘着剤層の厚みは、通常、3~100μm程度であり、好ましくは5~50μmである。
【0155】
粘着剤層の表面は、離型処理が施された剥離フィルムで保護されている。剥離フィルムの例には、アクリルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエステルフィルム、フッ素樹脂フィルムなどのプラスチックフィルムが含まれる。
【0156】
4.偏光板の製造方法
本実施の形態に係る偏光板は、偏光子の少なくとも一方の面に、前述の積層体の透光性樹脂層を貼り合わせるとともに、支持体を剥離する工程を経て製造されうる。透光性樹脂層の貼り合わせは、偏光子の一方の面のみに行ってもよいし、両方の面に行ってもよく、透過率の観点では、偏光子の一方の面に透光性樹脂層を貼り合わせ、他方の面に他の保護フィルムを貼り合わせることが好ましい。
【0157】
すなわち、偏光板は、1)偏光子の一方の面に、上記積層体の透光性樹脂層を貼り合わせるとともに、透光性樹脂層の偏光子とは反対側の面に配置された支持体を剥離する工程と、2)偏光子の他方の面に、他の保護フィルムを貼り合わせる工程とを経て製造されうる。
【0158】
1)の工程(透光性樹脂層の貼り合わせ工程)について
偏光子の一方の面に、上記積層体の透光性樹脂層を、接着剤を介して貼り合わせる。貼り合わされる透光性樹脂層の表面、または、偏光子の一方の表面に、必要に応じてコロナ処理などの前処理を施してもよい。
【0159】
例えば、接着剤として活性エネルギー線硬化性接着剤を用いる場合、積層体の透光性樹脂層の表面に、必要に応じてコロナ処理などの表面処理を施す。次いで、偏光子の一方の面に、活性エネルギー線硬化性接着剤を介して、積層体の透光性樹脂層を積層した後、透光性樹脂層の、貼り合わせ面とは反対側に配置された支持体を剥離する。次いで、露出した透光性樹脂層に活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化性接着剤を硬化させる。それにより、偏光子と透光性樹脂層とを、活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化物層を介して接着させて、貼り合わせる。
【0160】
2)の工程(保護フィルムの貼り合わせ工程)について
また、偏光子の他方の面に、他の保護フィルムを貼り合わせる。具体的には、他の保護フィルムの表面に、必要に応じてコロナ処理などの表面処理を施す。次いで、偏光子の他方の面に、活性エネルギー線硬化性接着剤を介して、当該保護フィルムを積層した後、活性エネルギー線を照射して、活性エネルギー線硬化性接着剤を硬化させる。それにより、偏光子と他の保護フィルムとを、活性エネルギー線硬化性接着剤の硬化物層を介して接着させて、貼り合わせる。
【0161】
1)および2)の工程は、同時に行ってもよいし、逐次的に行ってもよい。製造効率を高める観点では、1)および2)の工程は同時に行うことが好ましい。
【0162】
また、本実施の形態に係る偏光板の製造方法は、必要に応じて、2)の工程の後に、3)粘着剤層を形成する工程をさらに有してもよい。
【0163】
3)の工程(粘着剤層を形成する工程)について
次いで、得られた積層体の透光性樹脂層の偏光子とは反対側の面に、粘着剤層およびその剥離フィルムを、さらに貼り合わせる。具体的には、透光性樹脂層上に、粘着剤層を設けた剥離フィルムを転写するなどの方法により、粘着剤層を形成することができる。
【0164】
なお、本実施の形態に係る偏光板は、帯状でありうる。したがって、1)および2)の工程は、帯状の積層体の透光性樹脂層と、帯状の偏光子と、帯状の他の保護フィルム(対向フィルム)とが、それぞれロール体から巻き出されて、ロールトゥロールで貼り合わせることによって行うことが好ましい。
【0165】
また、4)帯状の偏光板をロール状に巻き取り、ロール体とする工程をさらに行うことが好ましい。当該工程において、帯状の偏光板の長さや幅は、積層体の製造方法の4)の工程における帯状の積層体の長さや幅と同様である。
【0166】
5.表示装置
本実施の形態に係る表示装置は、液晶セルや有機EL素子などの表示素子と、上記製造方法で製造された偏光板とを有する。中でも、本実施の形態に係る表示装置は、液晶セルと、上記製造方法で製造された偏光板とを有する液晶表示装置であることが好ましい。
【0167】
すなわち、液晶表示装置は、液晶セルと、液晶セルの一方の面に配置された第一偏光板と、液晶セルの他方の面に配置された第二偏光板とを含む。そして、第一偏光板と第二偏光板の少なくとも一方は、本実施の形態に係る偏光板である。
【0168】
液晶セルの表示モードは、例えばSTN(Super-Twisted Nematic)、TN(Twisted Nematic)、OCB(Optically Compensated Bend)、HAN(Hybridaligned Nematic)、VA(Vertical Alignment、MVA(Multi-domain Vertical Alignment)、PVA(Patterned Vertical Alignment))、IPS(In-Plane-Switching)などでありうる。例えば、携帯機器用途の液晶表示装置では、IPSモードが好ましい。
【0169】
第一偏光板は、液晶セルの視認側の面に、その粘着剤層を介して配置されている。第一偏光板は、第一偏光子と、第一偏光子の視認側の面に配置された保護フィルム(F1)と、第一偏光子の液晶セル側の面に配置された保護フィルム(F2)と、第一偏光子と保護フィルム(F1)との間および第一偏光子と保護フィルム(F2)との間に配置された2つの接着剤層とを含む。
【0170】
第二偏光板は、液晶セルのバックライト側の面に、その粘着剤層を介して配置されている。第二偏光板は、第二偏光子と、第二偏光子の液晶セル側の面に配置された保護フィルム(F3)と、第二偏光子のバックライト側の面に配置された保護フィルム(F4)と、第二偏光子と保護フィルム(F3)との間および第二偏光子と保護フィルム(F4)との間に配置された2つの接着剤層とを含む。
【0171】
第一偏光子の吸収軸と第二偏光子の吸収軸とは直交している(クロスニコルとなっている)ことが好ましい。
【0172】
そして、第一偏光板および第二偏光板の少なくとも一方が、本実施の形態に係る偏光板である。すなわち、第一偏光板が前述の偏光板である場合、保護フィルム(F1)は、図3の保護フィルム320であり、保護フィルム(F2)は、図3の透光性樹脂層120であり、粘着剤層は、図3の粘着剤層340でありうる。同様に、第二偏光板が前述の偏光板である場合、保護フィルム(F4)は、図3の保護フィルム320であり、保護フィルム(F3)は、図3の透光性樹脂層120であり、粘着剤層は、図3の粘着剤層340でありうる。
【実施例
【0173】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0174】
1.積層体の材料
1-1.支持体
<PET-1>
ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製TZ200、離型層あり(シリコーン系剥離剤含有、厚み50μm))を用いた。
【0175】
<PET-2>
ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製TN100、離型層あり(非シリコーン系剥離剤含有、厚み50μm))を、140℃でTD方向に50%延伸(追加延伸)した。
【0176】
<PET-3>
ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製TN100、離型層あり(非シリコーン系剥離剤含有、厚み50μm))を、140℃でTD方向とMD方向のそれぞれに50%ずつ延伸(追加延伸)した。
【0177】
<TAC>
セルローストリアセテートフィルム(コニカミノルタ社製KC4UA、離型層なし、厚み40μm)
【0178】
<COP>
シクロオレフィン樹脂フィルム(JSR社製RX4500、離型層なし、厚み50μm)
【0179】
<HDPE>
高密度ポリエチレンフィルム(厚み50μm)
【0180】
これらの支持体の引張弾性率G1は、以下の方法で測定した。
【0181】
(引張弾性率G1)
支持体を、1cm×10cmに切り出してサンプルとし、25℃60%RHの環境下で24時間調湿した。そして、得られたサンプルの引張弾性率を、JIS K7127に記載の引張試験方法により測定した。具体的には、サンプルを、引張試験装置オリエンテック社製テンシロンにセットし、チャック間距離50.0mm、引張り速度50mm/minの条件で引張試験を行ったときの引張弾性率を測定した。測定は、25℃60%RH下で行った。なお、引張弾性率の測定は、MD方向とTD方向の両方について行い、MD方向の引張弾性率とTD方向の引張弾性率の平均値を、「引張弾性率G1」とした。
【0182】
1-2.透光性樹脂層用溶液
(1)材料の準備
<樹脂>
樹脂1:PMMA、Mw:100万、Tg:109℃
樹脂2:MMA/PMI/MA共重合体(85/10/5質量比)、Mw:100万、Tg:122℃
樹脂3:MMA/PMI/MA共重合体(85/10/5質量比)、Mw:200万、Tg:122℃
樹脂4:MMA/PMI/MA共重合体(50/25/25質量比)、Mw:100万、Tg:134℃
樹脂5:MMA/PMI/MA共重合体(85/10/5質量比)、Mw:50万、Tg:122℃
なお、略称は、以下を示す。
MMA:メタクリル酸メチル
PMI:フェニルマレイミド
MA:アクリル酸メチル
【0183】
樹脂1~5のガラス転移温度および重量平均分子量は、以下の方法で測定した。
【0184】
(ガラス転移温度)
樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSC(Differential Scanning Colorimetry:示差走査熱量法)を用いて、JIS K 7121-2012に準拠して測定した。
【0185】
(重量平均分子量)
樹脂の重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー社製 HLC8220GPC)、カラム(東ソー社製 TSK-GEL G6000HXL-G5000HXL-G5000HXL-G4000HXL-G3000HXL 直列)を用いて測定した。試料20mg±0.5mgをテトラヒドロフラン10mlに溶解し、0.45mmのフィルターで濾過した。この溶液をカラム(温度40℃)に100ml注入し、検出器RI温度40℃で測定し、スチレン換算した値を用いた。
【0186】
<ゴム粒子>
以下の方法で調製したゴム粒子R1を用いた。
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 180質量部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸 0.002質量部
ホウ酸 0.4725質量部
炭酸ナトリウム 0.04725質量部
水酸化ナトリウム 0.0076質量部
重合機内を窒素ガスで充分に置換した後、内温を80℃にし、過硫酸カリウム0.021質量部を2%水溶液として投入した。次いで、メタクリル酸メチル84.6質量%、アクリル酸ブチル5.9質量%、スチレン7.9質量%、メタクリル酸アリル0.5質量%、n-オクチルメルカプタン1.1質量%からなる単量体混合物(c’)21質量部にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸を0.07質量部加えた混合液を、上記溶液に63分間にかけて連続的に添加した。さらに、60分重合反応を継続させることにより、最内硬質重合体(c)を得た。
【0187】
その後、水酸化ナトリウム0.021質量部を2質量%水溶液として、過硫酸カリウム0.062質量部を2質量%水溶液としてそれぞれ添加した。次いで、アクリル酸ブチル80.0質量%、スチレン18.5質量%、メタクリル酸アリル1.5質量%からなる単量体混合物(a’)39質量部にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸0.25質量部を加えた混合液を117分間にかけて連続的に添加した。添加終了後、過硫酸カリウム0.012質量部を2質量%水溶液で添加し、120分間重合反応を継続させて、軟質層(アクリル系ゴム状重合体(a)からなる層)を得た。軟質層のガラス転移温度(Tg)を、-30℃であった。軟質層のガラス転移温度は、アクリル系ゴム状重合体(a)を構成する各モノマーの単独重合体のガラス転移温度を組成比に応じて平均して算出した。
【0188】
その後、過硫酸カリウム0.04質量部を2質量%水溶液で添加し、メタクリル酸メチル97.5質量%、アクリル酸ブチル2.5質量%からなる単量体混合物(b’)26.1質量部を78分間かけて連続的に添加した。さらに30分間重合反応を継続させて、重合体(b)を得た。
【0189】
得られた重合体を3質量%硫酸ナトリウム温水溶液中へ投入して、塩析・凝固させた。次いで、脱水・洗浄を繰り返した後、乾燥させて、3層構造のアクリル系グラフト共重合体粒子(ゴム粒子R1)を得た。得られたゴム粒子R1の平均粒子径は200nmであった。
【0190】
ゴム粒子の平均粒子径は、以下の方法で測定した。
【0191】
(平均粒子径)
得られた分散液中のゴム粒子の分散粒径を、ゼータ電位・粒径測定システム(大塚電子株式会社製 ELSZ-2000ZS)で測定した。
【0192】
(2)透光性樹脂層用溶液の調製
<透光性樹脂層用溶液101の作製>
下記成分を混合して、透光性樹脂層用溶液を得た。
アセトン(ケトン類):1012.5質量部
メタノール(アルコール類):112.5質量部
樹脂1((メタ)アクリル系樹脂):100質量部
ゴム粒子:25質量部
【0193】
<透光性樹脂層用溶液102~109の作製>
表1に示される組成に変更した以外は透光性樹脂層用溶液101と同様にして、透光性樹脂層用溶液102~109を得た。
【0194】
得られた透光性樹脂層用溶液101~109の組成および粘度を、表1に示す。なお、透光性樹脂層用溶液の25℃における粘度は、東機産業(株)E型粘度計で測定した。
【0195】
【表1】
【0196】
2.積層体の作製および評価
<積層体201の作製>
支持体として、PETフィルム(東洋紡社製TN100、厚み50μm、非シリコーン系剥離剤を含有する離型層あり、表中ではPET-1)を準備した。このPETフィルムの離型層上に、透光性樹脂層用溶液101を、バックコート法によりダイを用いて塗布した後、溶媒濃度0.18%の雰囲気下、80℃で乾燥させて、厚み10μmの透光性樹脂層を形成し、積層体201を得た。
【0197】
<積層体202~203、205、210、212、213、216、217および219の作製>
透光性樹脂層用溶液の種類を、表2に示されるように変更した以外は積層体201と同様にして積層体202~203、205、210、212、213、217および219を得た。
【0198】
<積層体204の作製>
雰囲気の溶媒濃度を、表2に示されるように変更した以外は積層体202と同様にして積層体204を得た。
【0199】
<積層体211、214の作製>
支持体の種類を、表2に示されるように変更した以外は積層体202と同様にして積層体211および214を得た。
【0200】
<積層体215、218の作製>
透光性樹脂層の厚みを、表2に示されるように変更した以外は積層体202と同様にして積層体215および218を得た。
【0201】
<評価>
得られた積層体201~219の透光性樹脂層におけるゴム粒子の分布、積層体の引張弾性率Gおよび搬送安定性、ならびに、偏光板の巻き変形を、以下の方法で評価した。
【0202】
[ゴム粒子の分布]
得られた積層体の透光性樹脂層中のゴム粒子の分布(R/R)を、以下の方法で測定した。
1)積層体をミクロトームで切断し、透光性樹脂層の表面に垂直な切断面をTEM観察した。観察条件は、加速電圧:30kV、作動距離:8.6mm×倍率:3.00kとした。観察領域は、透光性樹脂層の厚み方向の全部を含む領域とした。
2)得られたTEM画像を、NiVision(ナショナルインスツルメンツ社製)の画像処理ソフトを用いて輝度傾斜を除去した後、オープニング処理を行い、バルクとゴム粒子とのコントラスト差を検出した。それにより、ゴム粒子の分布状態を特定した。
3)上記2)で得られた画像処理後の画像において、透光性樹脂層の厚み方向において、透光性樹脂層の支持体とは反対側の面から厚みの20%以下の領域Aにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率R、透光性樹脂層の支持体側の面から厚みの20%以下の領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率Rをそれぞれ算出した。
4)上記3)で得られた結果から、領域Aにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率Rの、領域Bにおけるゴム粒子の単位面積当たりの面積率Rに対する比(R/R)を算出した。
【0203】
[引張弾性率]
積層体について、前述と同様に、JIS K7127準拠して引張試験を行った。すなわち、積層体を、1cm(TD方向)×10cm(MD方向)に切り出してサンプルとし、25℃60%RHの環境下で24時間調湿した。得られたサンプルを、引張試験装置オリエンテック社製テンシロンにセットして引張試験を行い、引張弾性率G(積層体の引張弾性率)を測定した。測定条件も、前述と同様(チャック間距離50.0mm、引張り速度50mm/min、25℃60%RH下)とした。
【0204】
また、透光性樹脂層については、透光性樹脂層を支持体から剥離した後、上記と同様の方法で、透光性樹脂層の引張弾性率G2を測定した。
【0205】
[搬送安定性]
積層体の搬送安定性は、搬送張力350N/mを付与しながら、ラインでロール搬送したときの破断や割れの有無を確認することにより評価した。そして、以下の基準に基づいて、搬送安定性を評価した。
◎:透光性樹脂層は破断することなく、搬送可能
○:透光性樹脂層に割れは発生するが、破断せずに搬送可能
○△:透光性樹脂層に極微小な傷と割れが発生するが、搬送可能
△:透光性樹脂層に微小な傷と割れが発生するが、搬送可能
×:透光性樹脂層が割れて、破断する
△以上であれば、良好と判断した。
【0206】
[積層体の巻き変形欠陥]
得られたロール体を、40℃90%RHの恒温槽で8日間保存した。その後、ロール体を恒温槽から取り出して、ロール体の外観、具体的には、ロール体の幅方向中央部が凹むなどの巻き変形の有無を評価した。
そして、以下の基準に基づいて、巻き変形を評価した。
◎:巻き形状の変形はない
○:巻き形状の変形が若干あるが、使用できるレベルであり、貼り付きもない
○△:巻形状の変形が若干あり、一部貼り付きが見られるが、使用できるレベル
△:巻き形状の変形や貼り付きが若干あるが、使用できるレベル
×:巻き形状の変形が著しく、使用できないレベル
△以上であれば、良好と判断した。
【0207】
[偏光板の巻き変形欠陥]
(偏光子の作製)
厚さ25μmのポリビニルアルコール系フィルムを、35℃の水で膨潤させた。得られたフィルムを、ヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5gおよび水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、さらにヨウ化カリウム3g、ホウ酸7.5gおよび水100gからなる45℃の水溶液に浸漬した。得られたフィルムを、延伸温度55℃、延伸倍率5倍の条件で一軸延伸した。この一軸延伸フィルムを、水洗した後、乾燥させて、厚み12μmの偏光子を得た。
【0208】
(紫外線硬化性接着剤組成物の調製)
下記成分を混合した後、脱泡して、紫外線硬化性接着剤組成物を調製した。
3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート:45質量部
エポリードGT-301(ダイセル社製の脂環式エポキシ樹脂):40質量部
1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル:15質量部
トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェート:2.3質量部(固形分)
9,10-ジブトキシアントラセン:0.1質量部
1,4-ジエトキシナフタレン:2.0質量部
なお、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートは、50%プロピレンカーボネート溶液として配合した。
【0209】
(偏光板の作製)
上記作製した透光性樹脂層の表面に、コロナ出力強度2.0kW、ライン速度18m/分で、それぞれコロナ放電処理を施した。同様に、他の保護フィルム(対向フィルム)としてトリアセチルセルロース(厚み25μm)を準備し、この表面に、上記と同様の条件でコロナ処理を施した。
【0210】
そして、上記作製した偏光子の一方の面に、厚み3μmの紫外線硬化性接着剤層を介して透光性樹脂層を、他方の面に、厚み3μmの紫外線硬化性接着剤層を介して他の保護フィルムを、それぞれ貼り合わせて、積層物を得た。貼り合わせは、偏光子の吸収軸と保護フィルムの遅相軸とが直交するように行った。
【0211】
次いで、得られた積層物に、ベルトコンベヤー付き紫外線照射装置(ランプは、フュージョンUVシステムズ社製のDバルブを使用)を用いて、積算光量が750mJ/cmとなるように紫外線を照射し、紫外線硬化性接着剤層を硬化させて、対向フィルム/接着剤層/偏光子/接着剤層/透光性樹脂層の積層構造を有する、長さ3000m、幅1.5mの偏光板201のロール体を得た。
【0212】
(巻き変形欠陥)
得られたロール体の巻き変形欠陥を、積層体のロール体の巻き変形欠陥と同じ方法および基準で評価した。
【0213】
得られた積層体201~219の製造条件を表2に示し、評価結果を表3に示す。なお、表2において、ケトン/アルコール(90/10質量比)の80℃は、約Tb℃に相当し、ケトン/アルコール(10/90質量比)の40℃は、約Tb-40℃に相当し、酢酸エチルの110℃は、Tb+30℃に相当する。
【0214】
【表2】
【0215】
【表3】
【0216】
表3に示されるように、積層体201~210および215~219は、搬送時に破断を生じず、良好な搬送安定性を有することがわかる。また、積層体201~210および215~219は、ロール状に巻き取って一定期間保管しても、巻き変形が透光性樹脂層に残りにくく、巻き保管安定性にも優れることがわかる。また、そのような積層体を用いて得られる偏光板のロール体も、一定期間保管しても、巻き変形が透光性樹脂層に残りにくいことがわかる。
【0217】
また、(メタ)アクリル系樹脂の重量平均分子量を高くすることで、巻き変形を一層少なくしうることがわかる(積層体202と203の対比)。
【0218】
また、乾燥温度を高くすると、ゴム粒子が表層に偏在しやすいことがわかる(積層体202と209の対比)。これは、乾燥速度が高くなったためと考えられる。また、アセトンとメタノールの比率をアセトンリッチにすることで、ゴム粒子が表層に偏在しやすいことがわかる(積層体202と210の対比)。これは、乾燥速度が高くなったことに加え、アセトンがゴム粒子と親和性が高いため、溶媒とともにゴム粒子が移動しやすくなったためと考えられる。
【0219】
これに対して、支持体の引張弾性率が高すぎる積層体211は、破断しやすく、搬送安定性に劣ることがわかる。一方、支持体の引張弾性率が低すぎる積層体214は、積層体の巻き変形を生じやすく、それにより透光性樹脂層に変形が転写されやすいことがわかる。また、透光性樹脂層がゴム粒子を含まない積層体213は、巻き変形が消えにくいことがわかる。また、透光性樹脂層に含まれる樹脂の分子量が低い積層体212は、搬送時に、透光性樹脂層が破断しやすく、搬送安定性が低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0220】
本発明によれば、積層体の搬送時の破断を抑制しつつ、積層体または偏光板をロール状に巻き取った状態で一定期間保管した時の巻き変形に伴う表面欠陥を抑制しうる積層体およびその製造方法、ならびに当該積層体を用いた偏光板の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0221】
100 積層体
110 支持体
120 透光性樹脂層
200 製造装置
210 供給部
220 塗布部
230 乾燥部
240 冷却部
250 巻き取り部
300 偏光板
310 偏光子
320 保護フィルム(他の保護フィルム)
330 接着剤層
340 粘着剤層
図1
図2
図3