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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】電気炉および製鋼方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 5/52 20060101AFI20231121BHJP
   C21B 11/10 20060101ALI20231121BHJP
   F27B 3/22 20060101ALI20231121BHJP
   F27D 3/16 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C21C5/52
C21B11/10
F27B3/22
F27D3/16 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022542155
(86)(22)【出願日】2022-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2022017372
(87)【国際公開番号】W WO2022234762
(87)【国際公開日】2022-11-10
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2021078969
(32)【優先日】2021-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 太
(72)【発明者】
【氏名】川畑 涼
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/120943(WO,A1)
【文献】特開2018-016832(JP,A)
【文献】特開2002-327211(JP,A)
【文献】特開2010-209436(JP,A)
【文献】中国特許第111748673(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 11/10
C21C 5/52
C21C 7/072
F23D 17/00
F27B 3/08
F27B 3/18
F27B 3/20
F27B 3/22
F27D 11/06
F27D 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気エネルギーを用いて冷鉄源を溶解し溶鉄を得る電気炉であって、
該電気炉には、炉内容物に向けてバーナーが配され、
該バーナーは、粉体供給管と、燃料を噴出させる噴射孔と、支燃性ガスを噴出させる噴射孔と、を備え、
前記燃料として水素ガスまたは水素富化気体燃料が噴射されて、バーナー火炎が形成され、
前記粉体供給管からは粉状または粉状に加工された副原料が噴射され、該副原料が前記バーナー火炎中を通過し、前記冷鉄源、前記溶鉄または前記溶鉄上のスラグに伝熱媒体として吹き付けるように構成されていることを特徴とする電気炉。
【請求項2】
前記電気炉が、直流アーク炉、交流アーク炉または誘導溶解炉である、請求項1に記載の電気炉。
【請求項3】
電気エネルギーを用いて冷鉄源を溶解し溶鉄を得る電気炉における製鋼方法であって、
前記電気炉には、燃料を噴出させる噴射孔および支燃性ガスを噴出させる噴射孔を備え、該噴射孔から炉内に向けて火炎を噴射するバーナーが配され、
前記電気炉の1ヒートの操業中の少なくとも一部の期間、前記バーナーの前記燃料を水素ガスまたは水素富化気体燃料とし、かつ前記バーナーにより形成される火炎の中を通過し、前記冷鉄源、前記溶鉄または前記溶鉄上のスラグに伝熱媒体として吹き付けるように粉状または粉状に加工した副原料を吹込むことを特徴とする製鋼方法。
【請求項4】
前記冷鉄源が固体還元鉄を含む、請求項3に記載の製鋼方法。
【請求項5】
前記粉状または粉状に加工した副原料が石灰粉である、請求項3または4に記載の製鋼方法。
【請求項6】
前記電気炉が、直流アーク炉、交流アーク炉または誘導溶解炉である、請求項3または4に記載の製鋼方法。
【請求項7】
前記電気炉が、直流アーク炉、交流アーク炉または誘導溶解炉である、請求項5に記載の製鋼方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼製品生産時の温室効果ガス排出低減のために、CO排出量を低減した熱源を使用して、冷鉄源を溶解する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止の観点から、鉄鋼業界においても化石燃料の消費量を削減してCOガスの発生量を減少させる技術開発が進められている。従来の一貫製鉄所においては、鉄鉱石を炭素で還元して溶銑を製造している。この溶銑を製造するには鉄鉱石の還元等のために溶銑1tあたり500kg程度の炭素源を必要とする。一方、鉄スクラップなどの冷鉄源を原料として溶鋼を製造する場合には、鉄鉱石の還元に必要とされる炭素源が不要となり、冷鉄源を溶解するのに十分な熱量のエネルギーのみを必要とする。そのため、CO排出量を大幅に低減可能となる。
【0003】
冷鉄源高配合操業においては、アーク炉や誘導溶解炉等の電気炉が使用される場合が多い。冷鉄源の溶解熱の多くを電力で付与している。電力原単位の削減のため、例えばアーク炉の一般的な操業においては、1)助燃バーナーを炉壁や排滓口に配し、コールドスポット等の冷鉄源の溶解を促進させること、2)酸素ガス供給ランスから酸素を供給して鉄の酸化熱を付与するいわゆる酸素富化操業を行なうこと、3)酸素ガス供給ランスから酸素を供給するとともにカーボンインジェクションランスよりカーボン粉を供給し、スラグをフォーミングさせてアークを覆い、アークの溶鋼への伝熱効率を高めること、等の技術が採用されている。
【0004】
しかしながら、酸素富化操業においては、鉄の酸化ロスに伴う歩留低下が問題となる。また、助燃バーナーの多くは炭化水素を燃料とするバーナーを使用している。スラグフォーミング操業もカーボン粉をスラグ内に吹き込んでCOガスを発生させるものである。これらの技術により、電力原単位は削減可能であるが、CO排出量の低減効果は小さい。そもそも、使用する電力が化石燃料によって得られたものであれば、電力の使用によってもCOは排出されることとなる。そこで、さらなるCO排出量低減のためには、CO排出量を低減したエネルギー源の使用量を増加させつつ熱効率の向上を図ることが望まれる。
【0005】
今後、仮に、CO排出量を低減した電力が得られるようになり、使用する電力がCO排出量を低減した電力に置き換わったとしても、上記の電力原単位削減技術の必要性は変わらないと考えられる。これらの技術についてもCO排出量の低減を進める必要がある。例えば、助燃バーナー等の燃料として、再生可能エネルギー等を用いて製造された水素ガスを用いることが想定される。ただし、水素ガスの性質として、炭化水素ガス等と比較して燃焼速度が速く、火炎温度が高温になるという問題があり、この問題を解決するために、以下の技術が知られている。
【0006】
たとえば、特許文献1や2によれば、主燃焼空間の上流側に予備燃焼空間を設けることで、酸素濃度を低下させ、火炎温度を低下させる技術が提案されている。また、特許文献3によれば、水素ガス供給流路と燃焼用空気供給流路との距離を確保し、水素ガスと燃焼用空気との混合を抑制することで燃焼速度を遅らせ、火炎温度を低下させる方法が提案されている。
【0007】
さらに、溶解すべき冷鉄源としても、鉄スクラップの他、CO排出量を低減した還元剤を使用して製造した固体還元鉄の使用量が増加することが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2020-46098号公報
【文献】特開2021-25713号公報
【文献】特開2020-46099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来技術には以下の問題がある。
特許文献1~3に記載の方法では、設備構造が複雑となりまた大型になってしまう。そのため、製鋼用電気炉への適用を図る際には設備投資額および維持管理費が増大するという問題がある。また、一般的に固体還元鉄は原料である鉄鉱石に起因する脈石分、たとえばSiOやAlを含有する。このため溶解時に大量のスラグが発生し、炉内でスラグが固化するなどの操業阻害が生じるという問題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、電気エネルギーを用い、CO排出量を低減した熱源を使用して冷鉄源を溶解し溶鉄を得る電気炉を提供し、その電気炉において、CO排出量を低減した熱源を使用して冷鉄源を溶解する製鋼方法の提案を目的としている。さらに、冷鉄源として、固体還元鉄を安定して溶解可能な製鋼方法の提案を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる電気炉は、電気エネルギーを用いて冷鉄源を溶解し溶鉄を得る電気炉であって、該電気炉には、炉内容物に向けてバーナーが配され、該バーナーは、粉体供給管と、燃料を噴出させる噴射孔と、支燃性ガスを噴出させる噴射孔と、を備え、前記燃料として水素ガスまたは水素富化気体燃料が噴射されて、バーナー火炎が形成され、前記粉体供給管からは粉状または粉状に加工された副原料が噴射され、該副原料が前記バーナー火炎中を通過するように構成されていることを特徴とする。
【0012】
なお、本発明にかかる電気炉は、直流アーク炉、交流アーク炉または誘導溶解炉であることがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【0013】
上記課題を有利に解決する本発明にかかる製鋼方法は、電気エネルギーを用いて冷鉄源を溶解し溶鉄を得る電気炉における製鋼方法であって、前記電気炉には、燃料を噴出させる噴射孔および支燃性ガスを噴出させる噴射孔を備え、該噴射孔から炉内に向けて火炎を噴射するバーナーが配され、前記電気炉の1ヒートの操業中の少なくとも一部の期間、前記バーナーの前記燃料を水素ガスまたは水素富化気体燃料とし、かつ前記バーナーにより形成される火炎の中を通過するように粉状または粉状に加工した副原料を吹込むことを特徴とする。
【0014】
なお、本発明にかかる製鋼方法は、
(1)前記冷鉄源が固体還元鉄を含むこと、
(2)前記粉状または粉状に加工した原料が石灰粉であること、
(3)前記電気炉が直流アーク炉、交流アーク炉または誘導溶解炉であること、
などがより好ましい解決手段になり得るものと考えられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、バーナー火炎を介して粉粒体を供給することで、粉粒体がバーナー火炎内で加熱されて伝熱媒体となるため、バーナー燃焼熱を高効率で電気炉内の冷鉄源加熱に利用可能であり、電力の使用量を削減可能である。さらに燃料として水素ガスを主体に使用することで、CO排出量も低減することが可能である。また、バーナー燃焼ガスの持っている顕熱がバーナー火炎内で粉体の加熱に消費されるため、火炎温度が低下し、バーナーノズルの耐久性確保や電気炉の炉体耐火物の損耗回避も可能である。
【0016】
さらに、バーナー火炎で加熱された粉状の石灰を固体還元鉄溶解時に発生するスラグに吹き付けることで、スラグの加熱と低融点化を図る。これにより、スラグの滓化が促進され、スラグの固化による操業阻害を抑止することが可能となる。特に電気炉として誘導溶解炉を用いた場合は、スラグには誘導電流が発生せず直接加熱されることがないので、スラグ固化が起こりやすかった。本発明の適用によりこの問題が顕著に改善される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態にかかる電気炉として、交流アーク炉の概要を示す縦断面模式図である。
図2】本発明の他の実施形態にかかる電気炉として、誘導溶解炉の概要を示す縦断面模式図である。
図3】上記実施形態に用いるバーナーランスの先端部の縦断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について具体的に説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであり、構成を下記のものに特定するものでない。すなわち、本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態にかかる電気炉としての交流アーク炉101の概要を示す縦断面模式図であり、交流アーク型電気炉操業の形態様式を示す。本実施形態では、バーナーランス1が炉蓋に設けられたバーナーランス挿入孔から昇降可能に挿入されている。なお、図1の例では、バーナーランス1が炉蓋から垂直に昇降可能に挿入されているが、これに限らない。バーナーランス1が炉壁の上方から炉内に向けて斜めに挿入されてもよい。また、バーナーは昇降可能なランス形式に限らず、ノズル部が炉蓋や炉壁に固定されている形態でもよい。また、上記バーナーの他に、例えば排滓口から装入する送酸ランスを備えてもよいし、上記バーナーに送酸機能を付与して、上記バーナーから送酸を行なってもよい。バーナーランス1は炉体9に収容された冷鉄源2や溶鉄3などの炉内容物の表面に向かってバーナー火炎7を噴射している。図示した交流アーク炉101は、黒鉛電極5を3本有する。炉底からガス吹込みによる攪拌を行ってもよい。また、炉体9は出湯孔を有し、炉蓋には排ガスダクト(図示せず)が設置されている。図1は、冷鉄源2として、固体還元鉄を装入し、通電を開始して、冷鉄源2の溶解を行っている状態である。この間、バーナーランス1からバーナー火炎7を通じて粉状副原料8を吹き付けて、冷鉄源2の溶解を促進させている。この操業では、太陽光や風力、水力など再生可能エネルギーで製造した水素ガスを主体とする燃料を用いることが好ましい。水素ガスを主体とする燃料とは、水素ガスまたは水素富化気体燃料をいう。水素富化気体燃料としては、水素ガスとメタンガス、天然ガスまたは石油ガスとの混合ガスを用いることができる。CO削減の観点からは水素ガスを50vol%以上混合することが好ましい。
【0020】
上記実施形態では、電気炉として、電極を3本有する交流アーク炉101を用いたが、上部電極と下部電極を有する直流アーク炉であってもよい。電気炉として、交流アーク炉101を用いる場合には、電極5とアークが炉体9の中央部に存在していて、バーナーランス1の設置位置は限定される。本実施形態のバーナーは、下記で説明するように、水素ガスを主体とする燃料を用いても粉状副原料8を適切に吹き込むことでバーナー火炎7の温度を低減できるので、炉壁の水冷パネルや炉床の耐火物等を損耗させることなく操業できる。
【0021】
図2は、本発明の他の実施形態にかかる電気炉としての誘導溶解炉102の概要を示す縦断面模式図であり、誘導溶解炉による操業の形態様式を示す。本実施形態のバーナーランス1が炉蓋に設けられたバーナーランス挿入孔から昇降可能に挿入されている。また、バーナーは昇降可能なランス形式に限らず、ノズル部が炉蓋に固定されている形態でもよい。バーナーランス1は炉体9に収容された冷鉄源2や溶鉄3の表面に向かってバーナー火炎7を噴射している。図示した誘導溶解炉102は、たとえば、誘導加熱用のコイル6を有している。炉底からガス吹込みによる攪拌を行ってもよい。また、炉体9は出湯口を有している。図2は、冷鉄源2として、固体還元鉄を装入し、通電を開始して、誘導加熱溶解を行っている状態である。この間、バーナーランスからバーナー火炎を通じて粉状副原料を吹き付けて、冷鉄源2の溶解を促進させるとともに、スラグ組成を改質している。具体的には、石灰粉を粉状副原料8としてバーナーからスラグ上に吹き付け、固体還元鉄の含むSiOやAlを希釈しスラグの融点を下げている。この操業では、上記と同様、再生可能エネルギーで製造した水素ガスを主体とする燃料を用いることが好ましい。
【0022】
図3に上記実施形態で用いるバーナーランス1の一形態例として、その先端部10を概略図で示す。中心に噴射孔を有する粉体供給管11を配置し、その周囲に噴射孔を有する燃料供給管12および支燃性ガス供給管13を順に配置する。その外側は冷却水通路14を有する外殻15を備える。粉体供給管11の外周部に設けられた噴射孔から、燃料ガス16である水素ガスまたは水素富化気体燃料と支燃性ガス17を供給してバーナー火炎7を形成する。そして、粉体供給管11から噴射した粉状副原料8を該バーナー火炎7中で加熱する。そうすることで、粉状副原料8が伝熱媒体となるため、冷鉄源2や溶鉄3など炉内容物への火炎の着熱効率を向上させることが可能となる。その結果、電力量を低減することが可能となる。支燃性ガス17としては、純酸素のほか、酸素とCOや不活性ガスとの混合ガス、空気や酸素富化空気が適用できる。さらに、粉体8を搬送するガスを不活性ガスや支燃性ガスとすることができる。
【0023】
上記一形態例では、中心に粉体供給管を備え、その周囲に燃料を噴射する噴射孔、および支燃性ガスを噴射する噴射孔を配することにより一体のランスとして構成されるバーナーランスの例を示したが、バーナーランスの形態はこれに限らない。すなわち、本発明に係るバーナーは、粉体供給管と、燃料を噴出させる噴射孔と、支燃性ガスを噴出させる噴射孔と、を備え、前記燃料として水素ガスまたは水素富化気体燃料が噴射されて、バーナー火炎が形成され、粉体供給管から噴射される副原料がバーナー火炎中を通過するように構成されていればよい。例えば、燃料を噴出させる噴射孔と支燃性ガスを噴出させる噴射孔とを一体のランスに配するとともに、このランスに隣接して粉体供給管を別途配置し、粉体供給管から噴射される副原料がバーナー火炎中を通過するように構成してもよい。
【0024】
本発明の別の実施形態にかかる製鋼方法では、たとえば、図1に示す交流アーク炉101や図2に示す誘導溶解炉102などの電気炉に、まず、図示しないバケットより、鉄スクラップや固体還元鉄などの冷鉄源2を装入する。初装の冷鉄源2を装入したのちに、通電を開始する。そののちに炉内上部に設置されたバーナーランス1を電気炉内に挿入し、電力とバーナー火炎7で冷鉄源2の加熱を行なう。初装の冷鉄源2の溶解がさらに進み、フラットバス状態(未溶解の冷鉄源2があっても溶鉄3内に浸漬した状態)になったら、必要に応じ排滓口より排滓を行なった後、通電とバーナー使用を中断し、炉蓋を開けて2回目の冷鉄源2を装入することもできる。2回目の冷鉄源2の装入後は、通電を再開し、初装後と同様にバーナー加熱操業を行なうことが好ましい。なお、冷鉄源2の装入回数は3回以上であってもよい。
【0025】
発明者らは、図1図2に示す電気炉を用い、燃料ガス流量や粉体の供給速度を種々変更して、炉内容物への着熱効率や、バーナーランスノズルの耐久性を調査した。その結果、燃料ガス16の発熱量に対し十分な量の粉体8を供給することで、炉内容物への着熱効率が高位となり、かつ燃焼火炎温度が低下することを見出した。(粉体の供給速度)/(燃料ガスの発熱量)で表す粉体燃料比を0.41(kg/MJ)以上とすることで、火炎温度はおおむね1500℃以下となり、炉壁の水冷パネルや炉床の耐火物等およびバーナーランスノズルへの熱負荷を抑止することが可能である。
【0026】
粉体種としては、粉状または粉状に加工した副原料8である造滓材、ダスト等を用いることができる。バーナー火炎内で効率的に加熱するためには、比表面積を大きくする必要があり、粒径100μm程度以下であることが好ましい。副原料の粒度が大きい場合には、粉砕等により、粒径を100μm程度以下に加工することが好ましい。ここで、粒径は体積基準の50%通過率で表す。
【0027】
冷鉄源2として、鉄スクラップやCO排出量を低減した還元剤で還元した固体還元鉄を用いることが好ましい。固体還元鉄は、銘柄にもよるが、鉄鉱石由来の脈石分が10~20質量%程度のSiOやAlとして含有されている。固体還元鉄を溶解したときには、これらはスラグ4となって、溶鉄3の湯面上に存在することになる。このスラグはそのままでは高融点組成であり、固化しやすく炉壁に付着し、操業阻害を引き起こす可能性がある。特に、誘導溶解炉102を用いた場合は、スラグが誘導加熱されないため、スラグ固化の懸念が大きい。
【0028】
そこで、前記バーナー加熱して供給する粉体副原料8を石灰とすれば、スラグ中の塩基度、つまり、質量比のCaO/SiOを1.0程度にコントロールすることができるので好ましい。もって、スラグを低融点化し、スラグの固化を抑止することが可能である。さらに加熱された粉体によってスラグに熱付与されるため、スラグ滓化を促進する効果が得られる。なお、上記のようにスラグが滓化された後、アーク炉および誘導溶解炉にて炉体を傾動させて、溶解中もしくは出湯前に排滓または流滓を行ってもよい。
【0029】
また、電気炉としては、電気エネルギーを用いて冷鉄源を溶解し溶鉄を得るものであれば適用可能である。例えば、アーク炉であれば、上記の交流または直流のアーク炉だけでなく、ゼータベルグ式自焼成電極等をスラグ内に浸漬させて加熱を行なう浸漬型アーク炉であってもよい。また、炉内に設けられた発熱体からの輻射や炉内の対流及び伝導伝熱で被加熱物を加熱する間接式抵抗炉であってもよい。さらには、プラズマアーク溶解炉であってもよい。
【0030】
本実施形態で溶解した溶鉄3は、原料とする鉄スクラップや固体還元鉄の金属組成と同等の組成となり、通常は比較的C含有量の少ない溶鋼である。成分調整のために、溶解した電気炉でそのまま、合金添加を行ったり、酸素吹精による仕上げ脱炭処理や脱りん処理等を行ったりしてもよい。さらに、出湯後、溶鋼脱硫処理、真空脱ガス処理等の2次精錬を行ってもよい。その後、連続鋳造などの鋳造工程を経て、鋳片等の半製品が製造される。
【実施例
【0031】
(実施例1)
図1に示すのと同様の形式を有する交流アーク炉101を用いて、冷鉄源溶解操業試験を行った。使用冷鉄源2としては固体還元鉄を用い、合計装入量は100tとした。
炉体には燃料供給ラインと酸素供給ラインを備えたバーナーランス1を設置しており、バーナーランス1の先端部10は図3に示すのと同様の多重管構造とした。バーナー燃料16としては、メタンガス、水素ガスおよび水素50vol%-メタン50vol%混合ガスを用いた。バーナーを使用しない場合と、バーナー燃料は供給するが粉体は供給せず炉内容物をバーナー火炎単体で加熱した場合と、バーナー火炎中に粉状の石灰を吹き込んだ場合と、を比較した。出湯温度は1650℃とした。
【0032】
通電開始後、初装冷鉄源の溶解が進んで炉内の装入物の高さが下がり、炉内上部に空間ができた時点で、バーナーランス1を下降し、バーナー火炎7による加熱を併用した。粉体の供給は、搬送ガスにアルゴンガスを用い、粉状の石灰を100kg/minの供給速度にて電気炉内に供給した。燃料ガス16としてメタンガスを使用する場合には5Nm/minの流量、水素ガスを使用する場合には16Nm/minの流量、水素-メタン混合ガスを使用する場合には10.5Nm/minの流量として、それぞれについて燃料ガス16を燃焼させるための支燃性ガス17として酸素ガスを供給した。
初装冷鉄源の溶解がさらに進み、フラットバス状態(未溶解冷鉄源があっても溶湯内に浸漬した状態)になったら、排滓口より排滓を行なった後、通電とバーナー使用を中断し、炉蓋を開けて2回目の冷鉄源の装入を行なった。2回目の冷鉄源の装入後は、通電を再開し、初装後と同様に操業を行なった。このようにして最終的に1650℃の溶鋼を得て、取鍋に出湯した。
【0033】
各処理条件について、バーナーランスノズルの損耗状況、電力原単位、スラグ固化の有無、CO排出量の比較を行った。各処理条件およびその結果を表1に示す。ノズルの損耗指数は、メタンを燃料ガスとしたときの損耗量を1.0として相対的な損耗量を指数で示す。電力原単位は、各処理条件の使用電力量を従来例である処理No.1の使用電力量で除した値を指数とする。スラグ固化は目視による観察で判断した。CO排出指数は、各処理条件の排出CO量を従来例である処理No.1の排出CO量で除した値を指数とする。ここで、排出CO量には電力を得るのに消費する化石燃料も考慮した。
【0034】
【表1】
【0035】
バーナーを使用しない従来例(処理No.1)に対し、バーナー火炎単体で炉内容物を加熱した水準(処理No.2~4)においては、バーナー燃焼熱が有効に着熱せず、電力原単位がほぼ同等であった。水素を含有したガスを燃料として使用し、粉体を供給しなかった水準(処理No.3~4)においては、バーナーランスノズルの損耗が大きかった。バーナー火炎を介して粉状の石灰を吹き込んだ条件(処理No.5~7)においては、バーナーの燃焼熱が高効率で炉内容物に伝熱され、電力原単位を大幅に削減することが可能であった。一方、バーナー燃料にメタンを使用した水準(処理No.5)に対し、水素を含有するガスを用いた条件(処理No.6~7)においては、CO排出量を大幅に低減することが可能となり、バーナーノズルの損耗も抑止することが可能となった。
アーク炉を使用した本実施例においては、スラグの固化はいずれの水準においても確認されなかった。
【0036】
(実施例2)
図2に示すのと同様の形式を有する誘導溶解炉102を用いて、冷鉄源溶解操業試験を行った。使用冷鉄源としては還元鉄を用い、合計装入量は50tとした。
炉体には燃料供給ラインと酸素供給ラインを備えたバーナーランス1を設置しており、バーナーランス1の先端部10は図3に示すのと同様の多重管構造とした。バーナー燃料としては、メタンガス、水素ガスおよび水素50vol%-メタン50vol%混合ガスを用い、バーナーを使用しない場合と、バーナー燃料は供給するが粉体は供給せず炉内容物をバーナー火炎単体で加熱した場合と、バーナー火炎中に粉状の石灰を吹き込んだ場合と、を比較した。出湯温度は1650℃とした。
【0037】
通電開始後、初装冷鉄源の溶解が進んで炉内の装入物の高さが下がり、炉内上部に空間ができた時点で、バーナーランス1を下降し、バーナー火炎7による加熱を併用した。粉体の供給は、搬送ガスにアルゴンガスを用い、粉状の石灰を100kg/minの供給速度にて電気炉内に供給した。燃料ガス16としてメタンガスを使用する場合には5Nm/minの流量、水素ガスを使用する場合には16Nm/minの流量、水素-メタン混合ガスを使用する場合には10.5Nm/minの流量として、それぞれについて燃料ガスを燃焼させるための支燃性ガス17として酸素ガスを供給した。
初装冷鉄源の溶解がさらに進み、フラットバス状態(未溶解冷鉄源があっても溶湯内に浸漬した状態)になったら、通電とバーナー使用を中断し、炉蓋を開け、炉体を傾動して排滓を行なった。排滓完了後、炉体を垂直に戻して2回目の冷鉄源の装入を行ない、通電を再開した。2回目の冷鉄源の装入後は、通電を再開し、初装後と同様に操業を行なった。このようにして最終的に1650℃の溶鋼を得て、取鍋に出湯した。
【0038】
各処理条件について、バーナーランスノズルの損耗状況、電力原単位、スラグ固化の有無、CO排出量の比較を行った。各処理条件およびその結果を表2に示す。評価指標は実施例1と同様とし、比較する従来例は処理No.8とした。
【0039】
【表2】
【0040】
バーナーを使用しない従来例(処理No.8)に対し、バーナー火炎単体で炉内容物を加熱した水準(処理No.9~11)においては、バーナー燃焼熱が有効に着熱せず、電力原単位がほぼ同等であった。水素を含有するガスを燃料とし、粉体を供給しなかった水準(処理No.10~11)においてはバーナーランスノズルの損耗が大きかった。また、炉内スラグ固化による操業阻害が発生した。
【0041】
バーナー火炎を介して粉状の石灰を添加した条件(処理No.12~14)においては、バーナーの燃焼熱が高効率で炉内容物に伝熱され、電力原単位を大幅に削減することが可能であった。一方、バーナー燃料にメタンを使用した水準(処理No.12)に対し、水素を含有するガスを用いた条件(処理No.13~14)においては、CO排出量を大幅に低減することが可能となり、バーナーノズルの損耗も抑止することが可能となった。また、スラグの固化も抑止することが可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の電気炉および製鋼方法によれば、着熱効率が向上して、CO排出量を低減した熱源を使用して冷鉄源を溶解することができ、電力原単位が削減できるとともに環境負荷が軽減され産業上有用である。CO排出量を低減した熱源および粉状副原料の添加を必要とする精錬炉などのプロセスに適用して好適である。
【0043】
1 バーナーランス
2 冷鉄源
3 溶鉄
4 スラグ
5 電極
6 コイル
7 バーナー火炎
8 粉状副原料(粉体)
9 炉体
10 バーナーランス先端部(ノズル)
11 粉体供給管
12 燃料供給管
13 支燃性ガス供給管
14 冷却水通路
15 外殻
16 燃料ガス
17 支燃性ガス
101 交流アーク炉
102 誘導溶解炉

図1
図2
図3