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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】二酸化炭素回収システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20231121BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20231121BHJP
   B01D 53/78 20060101ALI20231121BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20231121BHJP
【FI】
B01D53/14 220
B01D53/62 ZAB
B01D53/78
C01B32/50
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022545461
(86)(22)【出願日】2021-06-11
(86)【国際出願番号】 JP2021022316
(87)【国際公開番号】W WO2022044487
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2022-09-30
(31)【優先権主張番号】P 2020145496
(32)【優先日】2020-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】奥野 真也
(72)【発明者】
【氏名】中村 至高
(72)【発明者】
【氏名】奥原 洋人
(72)【発明者】
【氏名】古澤 美由紀
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/073662(WO,A1)
【文献】特開2011-177684(JP,A)
【文献】特開2014-185913(JP,A)
【文献】国際公開第2020/075544(WO,A1)
【文献】特表2010-514549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14-53/18
B01D 53/34-53/73,53/74-53/85,53/92,53/96
B01J 10/00-12/02,14/00-19/32
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素含有ガスに含まれる二酸化炭素を吸収液に吸収させる吸収塔と、
前記吸収塔で二酸化炭素を吸収した前記吸収液を導入し、再生蒸気を用いて前記吸収液から二酸化炭素を分離させることで前記吸収液を再生させる再生塔と、
前記再生塔で再生された前記吸収液を前記吸収塔に供給する第1供給配管と、
前記再生塔で再生された前記吸収液の一部を導入して劣化物を除去し、前記劣化物が除去された前記吸収液を前記再生塔又は前記第1供給配管に供給するリクレーマと、
前記第1供給配管を流通する前記吸収液の粘度を測定するインライン粘度計と、
前記インライン粘度計が測定した前記粘度に基づいて、前記リクレーマでの前記吸収液の処理量を制御する制御部と、
を備える、二酸化炭素回収システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記インライン粘度計が測定した前記粘度が予め規定された閾値を超えたときに、前記リクレーマでの前記吸収液の前記処理量を変化させる、請求項1に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記インライン粘度計が測定した前記粘度が前記閾値を超えたときに、前記リクレーマでの前記吸収液に対する処理を開始させる、請求項2に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記インライン粘度計が測定した前記粘度が前記閾値を超えたときに、前記リクレーマでの前記吸収液の前記処理量を増加させる、請求項2に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項5】
前記再生塔で再生された前記吸収液の一部を前記リクレーマに供給する第2供給配管と、
前記第2供給配管に設置される第1流量調整弁と、
を備え、
前記制御部は、前記第1流量調整弁に前記吸収液の流量を調整させることで、前記リクレーマでの前記吸収液の前記処理量を変化させる、請求項1~4のいずれか1項に記載の二酸化炭素回収システム。
【請求項6】
前記第1供給配管に設置され、前記第1供給配管を流通している前記吸収液の一部を導入し、再度、前記第1供給配管に戻す第3供給配管と、
前記第3供給配管の上流側に設置される第2流量調整弁と、
前記第3供給配管の下流側に設置されるフィルターと、
を備え、
前記制御部は、前記インライン粘度計が測定した前記粘度が予め規定された閾値を超えたときに、前記第2流量調整弁に前記吸収液の流量を調整させることで、前記フィルターでの前記吸収液の通液量を増加させる、請求項1に記載の二酸化炭素回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二酸化炭素回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、化石燃料を使用する火力発電所などにおいて化石燃料を燃焼させることで生成された排ガスには、二酸化炭素(CO)が含まれる。そこで、従来、外気への二酸化炭素の排出量を削減するために、火力発電所でいう排ガスのような二酸化炭素含有ガスから二酸化炭素を回収するシステムが提案されている。
【0003】
特許文献1は、吸収塔内で、二酸化炭素を吸収する吸収液と二酸化炭素含有ガスとを接触させることで、二酸化炭素含有ガスから二酸化炭素を吸収させる二酸化炭素回収システムに関する技術を開示している。吸収液は、アミン化合物の水溶液である。また、この二酸化炭素回収システムでは、吸収塔で二酸化炭素を吸収した吸収液は、再生塔へと導かれて、吸収液から二酸化炭素が分離された後、再生塔で二酸化炭素が分離された吸収液は、吸収塔へと戻される。
【0004】
このように吸収塔と再生塔との間を循環する吸収液は、循環利用が進むにつれて、徐々に劣化物を含む状態となる。劣化物は、例えば熱安定性塩(HSS:Heat Stable Salt)である。熱安定性塩の蓄積は、吸収液の二酸化炭素との反応性を低下させることに繋がる。そこで、特許文献1に開示されている二酸化炭素回収システムには、例えばpH測定器を用いて測定された、吸収液に含まれる熱安定性塩の濃度に基づいて、蒸留法により吸収液から熱安定性塩を除去するリクレーマが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-99727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されているリクレーマでは、pHの値に基づいて熱安定性塩の濃度が特定されるが、熱安定性塩以外の窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)などの酸性ガスを劣化物として考慮したい場合に対応することができない。一方で、二酸化炭素回収システムが、例えば、これらの酸性ガスの濃度を個別に検出する複数の分析器を備える場合には、構成や制御の複雑化を招くおそれがある。
【0007】
そこで、本開示は、簡易的な構成又は制御で吸収液から劣化物を除去するのに有利な二酸化炭素回収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る二酸化炭素回収システムは、二酸化炭素含有ガスに含まれる二酸化炭素を吸収液に吸収させる吸収塔と、吸収塔で二酸化炭素を吸収した吸収液を導入し、再生蒸気を用いて吸収液から二酸化炭素を分離させることで吸収液を再生させる再生塔と、再生塔で再生された吸収液を吸収塔に供給する第1供給配管と、再生塔で再生された吸収液の一部を導入して劣化物を除去し、劣化物が除去された吸収液を再生塔又は前記第1供給配管に供給するリクレーマと、第1供給配管を流通する吸収液の粘度を測定するインライン粘度計と、インライン粘度計が測定した粘度に基づいて、リクレーマでの吸収液の処理量を制御する制御部と、を備える。
【0009】
上記の二酸化炭素回収システムでは、制御部は、インライン粘度計が測定した粘度が予め規定された閾値を超えたときに、リクレーマでの吸収液の処理量を変化させてもよい。具体的には、制御部は、インライン粘度計が測定した粘度が閾値を超えたときに、リクレーマでの吸収液に対する処理を開始させてもよい。又は、制御部は、インライン粘度計が測定した粘度が閾値を超えたときに、リクレーマでの吸収液の処理量を増加させてもよい。また、上記の二酸化炭素回収システムは、再生塔で再生された吸収液の一部をリクレーマに供給する第2供給配管と、第2供給配管に設置される第1流量調整弁と、を備え、制御部は、第1流量調整弁に吸収液の流量を調整させることで、リクレーマでの吸収液の処理量を変化させてもよい。更に、上記の二酸化炭素回収システムは、第1供給配管に設置され、第1供給配管を流通している吸収液の一部を導入し、再度、第1供給配管に戻す第3供給配管と、第3供給配管の上流側に設置される第2流量調整弁と、第3供給配管の下流側に設置されるフィルターと、を備え、制御部は、インライン粘度計が測定した粘度が予め規定された閾値を超えたときに、第2流量調整弁に吸収液の流量を調整させることで、フィルターでの吸収液の通液量を増加させてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、簡易的な構成又は制御で吸収液から劣化物を除去するのに有利な二酸化炭素回収システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る二酸化炭素回収システムの構成を示す図である。
図2図2は、吸収液に含まれる熱安定性塩の濃度と動粘度との関係を示すグラフである。
図3図3は、第1実施形態におけるリクレーマの作動の流れを示すフローチャートである。
図4図4は、本開示の他の実施形態に係る二酸化炭素回収システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、例示的ないくつかの実施形態について、図面を参照して説明する。各実施形態に示す寸法、材料、その他、具体的な数値等は例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。また、実質的に同一の機能及び構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、本開示に直接関係のない要素については図示を省略する。
【0013】
図1は、一実施形態に係る二酸化炭素回収システム1の構成を示す概略図である。二酸化炭素回収システム1は、例えば、化石燃料を多量に使用する火力発電所や製鉄所などに設置され、化石燃料を燃焼させることで生成された排ガスから二酸化炭素を回収する。以下、火力発電所等でいう排ガスのような、二酸化炭素回収システム1が処理対象とするガスを「二酸化炭素含有ガス」と表記する。なお、二酸化炭素含有ガスは、その他、天然ガス、アンモニア製造等の化学プラントで製造されるプロセスガス、又は、石炭ガス化ガス等の合成ガスであってもよい。
【0014】
二酸化炭素回収システム1は、前処理塔10と、吸収塔20と、再生塔30と、気液分離器40と、熱交換器50と、リクレーマ60と、インライン粘度計70と、第1流量調整弁71と、制御部80とを備える。
【0015】
前処理塔10は、二酸化炭素含有ガスを吸収塔20に導入する前に冷却する。前処理塔10に導入された二酸化炭素含有ガスは、充填部11において、第1冷却器12で冷却された冷却水を用いて冷却される。前処理塔10は、その頂部に、冷却された二酸化炭素含有ガスを吸収塔20に供給する第1配管13を備える。また、前処理塔10は、第1冷却器12と第1ポンプ14とを接続し、冷却水を循環させる第1循環配管15を備える。前処理塔10の底部に溜まった冷却水は、第1ポンプ14の駆動により、第1冷却器12で冷却され、再度、前処理塔10に導入される。
【0016】
吸収塔20は、二酸化炭素含有ガスに含まれる二酸化炭素と、二酸化炭素を吸収する吸収液とを接触させて、二酸化炭素含有ガスに含まれる二酸化炭素を吸収液に吸収させる。吸収液は、アミン化合物の水溶液である。アミン化合物としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの塩基性のアミンを用いることができる。また、二酸化炭素含有ガスが二酸化炭素の他にHS等の酸性ガスを含む場合には、これら酸性ガスも吸収液に吸収される。吸収塔20は、下部充填部21と、上部充填部22と、下部充填部21と上部充填部22との間に設置される水受部23とを備える。また、吸収塔20において、前処理塔10から延設されている第1配管13は、下部充填部21よりも下方に接続されている。
【0017】
下部充填部21は、第1配管13から導入された二酸化炭素含有ガスを吸収液と向流接触させて、二酸化炭素含有ガス中の二酸化炭素を吸収液に吸収させることにより、二酸化炭素含有ガスから二酸化炭素を除去する。以下、吸収塔20で二酸化炭素を吸収した吸収液を「リッチ溶液」と呼ぶ。
【0018】
上部充填部22は、下部充填部21で吸収液と接触した後の二酸化炭素除去ガスと、洗浄液とを気液接触させる。下部充填部21で吸収液と接触した後の二酸化炭素除去ガスは、二酸化炭素の吸収に起因した発熱反応により、高温下で蒸発した水分とアミン化合物とを同伴している。そこで、上部充填部22は、二酸化炭素除去ガスと洗浄液とを気液接触させることで、水分とアミン化合物とを凝縮して洗浄液に回収させる。そして、洗浄後の二酸化炭素除去ガスは、吸収塔20の頂部から外部に排出される。
【0019】
水受部23は、上部充填部22で水分とアミン化合物とを含有した洗浄液を一時的に溜める。水受部23は、下方から上方へ気体を通過させることができ、一方、上方から下方へ液体を通過させることができない構成を有する。また、吸収塔20は、第2冷却器24と第2ポンプ25とを接続し、洗浄液を循環させる第2循環配管26を備える。水受部23に溜まった洗浄液は、第2ポンプ25の駆動により、第2冷却器24で冷却され、再度、吸収塔20に導入される。
【0020】
また、吸収塔20は、その底部に、リッチ溶液を再生塔30に供給する第2配管27を備える。第2配管27には、リッチ溶液を送給するための第3ポンプ28が接続されている。
【0021】
再生塔30は、吸収塔20からリッチ溶液を導入し、再生蒸気を用いてリッチ溶液から二酸化炭素を分離させて、吸収液を再生させる。再生塔30は、下部充填部31と、上部充填部32とを備える。また、再生塔30において、吸収塔20から延設されている第2配管27は、下部充填部31と上部充填部32との間に接続されている。
【0022】
下部充填部31は、吸熱反応により、第2配管27から導入されたリッチ溶液から二酸化炭素を放出させる。ここで、再生塔30は、リボイラー33と、リボイラー33に加熱用の飽和蒸気を供給する蒸気配管34とを備える。リボイラー33は、リッチ溶液から二酸化炭素を放出させるためにリッチ溶液を加熱する。また、再生塔30は、リボイラー33を接続し、下部充填部31の下方でリッチ溶液を循環させる第3循環配管35を備える。再生塔30から一旦排出されたリッチ溶液は、第3循環配管35を通じてリボイラー33に導かれて加熱され、再度、再生塔30に導入される。以下、再生塔30で二酸化炭素が放出された吸収液を「リーン溶液」と呼ぶ。リーン溶液は、再生塔30の底部に溜まる。
【0023】
上部充填部32は、リッチ溶液から放出された二酸化炭素ガスを、後述する気液分離器40から戻された還流水と気液接触させることで、未だ二酸化炭素ガスに同伴しているリッチ溶液を除去する。なお、上部充填部32の具体的な構成の説明については省略する。
【0024】
また、再生塔30は、その頂部に、リッチ溶液から放出された二酸化炭素ガスを排出する第1排出配管36を備える。第1排出配管36には、未だ二酸化炭素ガスに同伴している水蒸気を凝縮させるための第3冷却器37が接続されている。
【0025】
気液分離器40は、第1排出配管36の出口側の開口部に接続され、第3冷却器37における冷却により生じた凝縮水と、二酸化炭素ガスとを分離する。気液分離器40で分離された二酸化炭素ガスは、気液分離器40の頂部から系外へ排出され、最終的に回収される。一方、気液分離器40は、分離した凝縮水を、還流水として再生塔30内の上部充填部32の上方へ供給する第4循環配管41を備える。第4循環配管41には、還流水を送給するための第4ポンプ42が接続されている。
【0026】
更に、再生塔30は、その底部に、リーン溶液を吸収塔20に供給する第3配管38を備える。第3配管38には、リーン溶液を送給するための第5ポンプ39が接続されている。第3配管38の出口側の開口部は、吸収塔20内の下部充填部21の上方で、かつ、上部充填部22の下方に接続されている。また、第3配管38には、第2配管27を流通するリッチ溶液との間で熱交換させる熱交換器50と、熱交換器50の下流でリーン溶液を冷却する第4冷却器51とが接続されている。
【0027】
熱交換器50は、リッチ溶液と熱交換させることでリーン溶液を冷却する。熱交換器50を通過したリーン溶液は、更に下流側の第4冷却器51で冷却された後、吸収塔20に供給される。つまり、熱交換器50及び第4冷却器51における稼働設定を適宜変更することにより、吸収塔20に供給されるリーン溶液の温度を調整することができる。このように、二酸化炭素回収システム1では、吸収液は、吸収塔20で二酸化炭素を吸収し、再生塔30で二酸化炭素を放出した後、再び、吸収塔20で二酸化炭素を吸収するように、循環利用される。
【0028】
リクレーマ60は、再生塔30から吸収液(リーン溶液)の一部を導入して、吸収液に含まれる劣化物を除去する。本実施形態では、リクレーマ60で再生された吸収液は、再生塔30に供給される。この場合、リクレーマ60は、再生塔30から吸収液を導入する導入配管61aと、再生された吸収液を再生塔30に導出する導出配管61bとを含む。また、本実施形態で想定されている劣化物は、熱安定性塩、又は、窒素酸化物や硫黄酸化物などの酸性ガスである。リクレーマ60が採用し得る劣化物の除去方式としては、蒸留法、イオン交換法又は電気透析法などが挙げられる。例えば、リクレーマ60が蒸留法を採用するものである場合、まず、熱安定性塩は、中和剤の添加によりアミン化合物と中和塩とに分離される。その後、吸収液は、蒸気を用いた加熱により蒸発して再生塔30に戻され、一方、劣化物は、外部に排出される。なお、リクレーマ60で再生された吸収液が再生塔30に戻されることは、熱の有効利用の観点から望ましい。一方で、リクレーマ60で再生された吸収液は、例えば、第3配管38に戻されてもよい。
【0029】
インライン粘度計70は、第3配管38を流通するリーン溶液の粘度を測定する。インライン粘度計70は、第3配管38のいずれの位置に設置されてもよい。ただし、例えば、リーン溶液の温度が比較的低く、吸収塔20でのフラッディングの懸念に対して応答性が早くなることから、インライン粘度計70は、第3配管38における吸収塔20との接続位置の近傍に設置されることが望ましい。ここで、フラッディングとは、吸収塔20内で吸収液の粘度が上昇することにより吸収塔20内の圧力損失が過大となって運転不能に陥る現象をいう。インライン粘度計70は、制御部80に電気的に接続される。インライン粘度計70が測定した結果は、制御部80に送信される。
【0030】
第1流量調整弁71は、リクレーマ60へ吸収液を導入する導入配管61aに設置され、導入配管61a内を流通する吸収液の流量を調整する電磁弁である。第1流量調整弁71は、本実施形態においてリクレーマ60での吸収液の処理量を変化させるための装置又は機構に相当する。第1流量調整弁71は、制御部80に電気的に接続される。第1流量調整弁71の開度は、制御部80からの制御信号により変更される。
【0031】
制御部80は、二酸化炭素回収システム1全体の動作を制御する。本実施形態では、制御部80は、インライン粘度計70が測定したリーン溶液の粘度に基づいて、リクレーマ60での吸収液の処理量を制御し得る。
【0032】
次に、二酸化炭素回収システム1の作用について説明する。
【0033】
二酸化炭素回収システム1において、前処理塔10で取り込まれた二酸化炭素含有ガスから二酸化炭素を除去し、回収する基本動作については、上記の各構成要素の説明と併せて説明したとおりである。この基本動作中、吸収塔20と再生塔30との間を循環する吸収液は、徐々に劣化物を含む状態となるので、二酸化炭素回収システム1では、リクレーマ60を用いて吸収液に含まれる劣化物が除去される。ここで、吸収液の循環利用が進むと、吸収液には様々な劣化物が生じ、結果として吸収液の粘度が大きくなる。
【0034】
図2は、一例としての吸収液に含まれる熱安定性塩の濃度と動粘度との関係を示すグラフである。図中のプロット点は、熱安定性塩の濃度(wt%)の値ごとに特定された動粘度を示している。ただし、表示の動粘度は、温度が50(℃)の場合で、かつ、熱安定性塩の濃度が0(wt%)のときの動粘度を「1」とした場合の相対値である。これらの値を参照すると、熱安定性塩の濃度と動粘度との関係は、図中に示すように直線状の近似式で表される。このように、熱安定性塩の濃度が上昇するほど、動粘度も上昇する。このような傾向は、図2に示す結果が得られた吸収液とは異なる吸収液を用いた場合でも同様である。また、図2では、劣化物として熱安定性塩のみに着目しているが、劣化物に窒素酸化物や硫黄酸化物などの酸性ガスが含まれる場合でも、図2に示す傾向と同様の傾向が見られる。
【0035】
そこで、本実施形態では、リクレーマ60での吸収液の処理量は、以下に示すように、インライン粘度計70が測定した吸収液の粘度に基づいて決定されるものとする。
【0036】
図3は、リクレーマ60の作動の流れを示すフローチャートである。なお、二酸化炭素回収システム1の基本動作は、すでに開始されているものとする。また、リクレーマ60は、二酸化炭素回収システム1の基本動作の開始に合わせて、劣化物の除去処理を開始することができる状態にあるものとする。具体的には、リクレーマ60が例えば蒸留法を採用しているならば、リクレーマ60に含まれる熱源は、すでに稼働状態にある。一方、第1流量調整弁71は、現段階では「閉」となっており、吸収液はリクレーマ60へ導入されていない。つまり、現段階では、リクレーマ60は、劣化物の除去処理を開始していない。
【0037】
まず、制御部80は、二酸化炭素回収システム1の基本動作に合わせて、インライン粘度計70から測定結果を連続的に受信する。そして、制御部80は、インライン粘度計70から得られた測定結果に基づいて、吸収液(具体的にはリーン溶液)の粘度を求め、粘度が閾値を超えたかどうかを判断する(ステップS101)。ここで、粘度の閾値は、例えば、予め得られた図2に示すような測定値を参照し、熱安定性塩の総量の管理値から導き出してもよい。管理値は、アミン化合物の種類や、二酸化炭素回収システム1における構成部分の材質や各機器の仕様などを考慮すると種々採用し得るが、例えば、0.5~2.0wt%の範囲に設定されてもよい。
【0038】
ここで、制御部80は、ステップS101において粘度が閾値を超えていないと判断している間は(NO)、更なる判断を繰り返す。
【0039】
一方、制御部80は、ステップS101において粘度が閾値を超えたと判断した場合には(YES)、次に、リクレーマ60の作動を開始させる(ステップS102)。ここでいうリクレーマ60の作動とは、リクレーマ60が吸収液から劣化物を除去する処理を実際に行う作動である。したがって、ステップS102では、具体的には、制御部80は、第1流量調整弁71をある程度「開」とさせることで、吸収液をリクレーマ60へ導入させて、すでに熱源が稼働中であるリクレーマ60に劣化物の除去処理を行わせる。リクレーマ60は、例えば蒸留法を採用している場合、以後のステップS106にて作動が停止されるまでの間、連続して劣化物の除去処理を行う。ここで、蒸留法を採用する一般的なリクレーマでの通常処理量は、循環液量の1~3%程度である。これに対して、本実施形態では、現段階でのリクレーマ60による処理量を循環液量の1~3%よりもさらに少なく設定してもよい。
【0040】
次に、制御部80は、インライン粘度計70から得られた測定結果に基づいて、吸収液の粘度が閾値を超えたかどうかを判断する(ステップS103)。ここでの閾値は、ステップS101での判断に用いられた閾値と同一である。
【0041】
ここで、リクレーマ60による劣化物の除去処理はすでに開始されているので、循環している吸収液全体から劣化物が減少していれば、吸収液の粘度は、いずれ閾値を下回るはずである。そこで、制御部80は、ステップS103において粘度が閾値を超えていないと判断した場合には(NO)、リクレーマ60の作動を停止させる(ステップS106)。
【0042】
一方、制御部80は、ステップS103において粘度が閾値を超えたと判断した場合には(YES)、次に、リクレーマ60での劣化物を除去する処理量を増加させる(ステップS104)。このとき、制御部80は、第1流量調整弁71を、ステップS102における「開」の程度よりもさらに「開」とさせて、リクレーマ60への吸収液の供給量を増加させることで、リクレーマ60での処理量を増加させてもよい。この段階での処理量の目安として、例えば、ステップS102において、処理量を循環液量の1~3%よりもさらに少なく設定していたとすると、このステップS104では、処理量を循環液量の1~3%と設定してもよい。更に、ステップS104では、制御部80は、蒸気発生量を増加させるなど、リクレーマ60に含まれる熱源の動作設定を適宜調整することで、処理量を増加させてもよい。
【0043】
次に、制御部80は、インライン粘度計70から得られた測定結果に基づいて、吸収液の粘度が閾値を超えたかどうかを判断する(ステップS105)。ここでの閾値も、ステップS101での判断に用いられた閾値と同一である。
【0044】
ここで、リクレーマ60での劣化物を除去する処理量を増加させているので、循環している吸収液全体から劣化物が減少していれば、吸収液の粘度は、いずれ閾値を下回るはずである。そこで、制御部80は、ステップS105において粘度が閾値を超えていないと判断した場合には(NO)、リクレーマ60の作動を停止させる(ステップS106)。
【0045】
一方、制御部80は、ステップS105において粘度が閾値を超えたと判断した場合には(YES)、引き続き、リクレーマ60に、ステップS104で設定された処理量を維持しながら劣化物を除去させる。
【0046】
ステップS106では、具体的には、制御部80は、第1流量調整弁71を「閉」とさせることで、リクレーマ60の作動を停止させることができる。
【0047】
そして、制御部80は、ステップS106の後、インライン粘度計70による吸収液の粘度の測定を続行するかを判断し(ステップS107)、続行すると判断した場合には(YES)、ステップS101に戻る。一方、制御部80は、ステップS107において粘度の測定を続行しないと判断した場合には(NO)、粘度の測定を終了し、リクレーマ60による劣化物の除去処理を終了する。
【0048】
次に、二酸化炭素回収システム1による効果について説明する。
【0049】
本実施形態に係る二酸化炭素回収システム1は、二酸化炭素含有ガスに含まれる二酸化炭素を吸収液に吸収させる吸収塔20を備える。二酸化炭素回収システム1は、吸収塔20で二酸化炭素を吸収した吸収液を導入し、再生蒸気を用いて吸収液から二酸化炭素を分離させることで吸収液を再生させる再生塔30を備える。二酸化炭素回収システム1は、再生塔30で再生された吸収液を吸収塔に供給する第1供給配管と、再生塔30で再生された吸収液の一部を導入して劣化物を除去し、劣化物が除去された吸収液を再生塔30又は第1供給配管に供給するリクレーマ60を備える。また、二酸化炭素回収システム1は、第1供給配管を流通する吸収液の粘度を測定するインライン粘度計70と、インライン粘度計70が測定した粘度に基づいて、リクレーマ60での吸収液の処理量を制御する制御部80とを備える。
【0050】
ここで、第1供給配管は、上記例示した二酸化炭素回収システム1の構成に含まれる第3配管38に相当する。
【0051】
二酸化炭素回収システム1によれば、リクレーマ60を用いることで、吸収液に含まれる劣化物を除去することができる。このとき、制御部80は、インライン粘度計70が測定した吸収液の粘度に基づいてリクレーマ60での吸収液の処理量を制御するので、劣化物の除去対象を熱安定性塩に限定しない。具体的には、例えば、別の二酸化炭素回収システムとして、何らかの方法により吸収液中の熱安定性塩の濃度を特定し、当該濃度に基づいて劣化物の除去の程度を判断する場合、劣化物の除去対象は、熱安定性塩に限定される。つまり、吸収液中の熱安定性塩の濃度が許容範囲にあったとしても、熱安定性塩以外の窒素酸化物や硫黄酸化物などの酸性ガスの吸収液中の濃度が上昇していた場合には、これらの酸性ガスは、劣化物として判断されず、吸収液に含まれたままとなる。これに対して、本実施形態に係る二酸化炭素回収システム1では、酸性ガスの吸収液中の濃度が上昇した場合も吸収液の粘度の上昇として把握されるので、劣化物として除去することができる。
【0052】
また、二酸化炭素回収システム1では、リクレーマ60での吸収液の処理量を制御するために制御部80が参照するのは、インライン粘度計70による測定結果のみである。つまり、二酸化炭素回収システム1は、吸収液中の酸性ガスの濃度を個別に検出する複数の分析器などを備える必要がないので、構成や制御の複雑化を招かない。
【0053】
このように、本実施形態によれば、簡易的な構成又は制御で吸収液から劣化物を除去するのに有利な二酸化炭素回収システム1を提供することができる。
【0054】
更に、上記説明したとおり、吸収塔20内で吸収液の粘度が上昇するとフラッディングの発生が懸念される。しかし、二酸化炭素回収システム1によれば、制御部80は、インライン粘度計70から経時的な粘度データを直接的に取得することができるので、粘度値を常時モニタリングすることでフラッディングの発生のリスクを低減させることができる。
【0055】
また、二酸化炭素回収システム1では、制御部80は、インライン粘度計70が測定した粘度が予め規定された閾値を超えたときに、リクレーマ60での吸収液の処理量を変化させてもよい。
【0056】
このような二酸化炭素回収システム1によれば、制御部80は、リクレーマ60での吸収液の処理量を変化させるかどうかを、インライン粘度計70が測定した粘度が閾値を超えたかどうかで判断するので、制御がより簡易化される。また、制御部80は、インライン粘度計70が測定した粘度が閾値を超えたときに、即座にリクレーマ60での吸収液の処理量を変化させることができるので、反応性の高い制御となる。
【0057】
また、二酸化炭素回収システム1では、制御部80は、インライン粘度計70が測定した粘度が閾値を超えたときに、リクレーマ60での吸収液に対する処理を開始させてもよい。
【0058】
従来、例えば蒸留法を採用するリクレーマは、二酸化炭素回収システムの基本動作が行われている間、連続的に劣化物の除去処理を行う。これに対して、本実施形態に係る二酸化炭素回収システム1によれば、吸収液の粘度が閾値を超えない段階では、リクレーマ60は劣化物の除去処理を行わないので、リクレーマ60の作動に要するエネルギーを低減させることができる。また、リクレーマ60の作動に要するエネルギーを低減させることができるので、リクレーマ60の構造の簡易化や小型化を図ることができ、結果として、装置サイズの適正化による設備コストの低減が期待できる。
【0059】
また、二酸化炭素回収システム1では、制御部80は、インライン粘度計70が測定した粘度が閾値を超えたときに、リクレーマ60での吸収液の処理量を増加させてもよい。
【0060】
従来、上記のとおり、蒸留法を採用するリクレーマでの通常処理量は、循環液量の1~3%程度である。この従来の通常処理量は、吸収液中にさほど劣化物が含まれていないときには、必要以上に過大となり得る。これに対して、本実施形態に係る二酸化炭素回収システム1によれば、リクレーマ60は、吸収液の粘度が閾値を超えたときに吸収液の処理量を増加させるので、当初の処理量を抑えることができる。つまり、例えば、吸収液の粘度が閾値を超えていないときは、処理量を循環液量の1~3%よりも少なく設定し、吸収液の粘度が閾値を超えたときに、処理量を循環液量の1~3%と設定することができる。したがって、このような二酸化炭素回収システム1によっても、リクレーマ60の作動に要するエネルギーを低減させることができる。
【0061】
また、二酸化炭素回収システム1は、再生塔30で再生された吸収液の一部をリクレーマ60に供給する第2供給配管と、第2供給配管に設置される第1流量調整弁71とを備えてもよい。ここで、制御部80は、第1流量調整弁71に吸収液の流量を調整させることで、リクレーマ60での吸収液の処理量を変化させてもよい。
【0062】
ここで、第2供給配管は、上記例示した二酸化炭素回収システム1の構成に含まれる導入配管61aに相当する。
【0063】
このような二酸化炭素回収システム1によれば、第1流量調整弁71の作動のみでリクレーマ60での吸収液の処理量を変化させることができるので、より簡易的な構成又は制御とすることができる。
【0064】
図4は、他の実施形態に係る二酸化炭素回収システム1の構成を示す概略図である。図4に示す二酸化炭素回収システム1の基本構成は、図1に示す二酸化炭素回収システム1の基本構成と同一であるので、同一の符号を付し、詳細説明を省略する。
【0065】
図4に示す二酸化炭素回収システム1は、更に、第1供給配管としての第3配管38に設置され、第1供給配管を流通している吸収液の一部を導入し、再度、第1供給配管に戻す第3供給配管としての迂回配管90を備える。また、図4に示す二酸化炭素回収システム1は、第3供給配管の下流側に設置されるフィルター91と、第3供給配管の上流側に設置される第2流量調整弁92とを備える。この場合、制御部80は、インライン粘度計70が測定した粘度が予め規定された閾値を超えたときに、第2流量調整弁92に吸収液の流量を調整させることで、フィルター91での吸収液の通液量を増加させてもよい。
【0066】
フィルター91は、吸収液(具体的にはリーン溶液)に含まれる固形分又は油分等を除去するものであり、具体的な種類や材質は問わない。
【0067】
吸収液の粘度が上昇する以外にも、例えば、吸収液に含まれる固形分や油分等の増加によっても、吸収液が発泡しやすくなることから、吸収塔20でのフラッディングの発生の要因となる場合がある。これに対して、図4に示す二酸化炭素回収システム1によれば、制御部80は、インライン粘度計70による測定結果が発泡しやすい粘度値となった場合に、フィルター91での吸収液の通液量を増加させることができる。これにより、フィルター91は、吸収液から固形分又は油分等を除去し、予め発泡性の低減を図ることができる。
【0068】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正又は変形をすることが可能である。
【0069】
特願2020-145496号(出願日:2020年8月31日)の全内容は、ここに援用される。
【符号の説明】
【0070】
1 二酸化炭素回収システム
20 吸収塔
30 再生塔
38 第3配管
60 リクレーマ
61a 導入配管
70 インライン粘度計
71 第1流量調整弁
80 制御部
90 迂回配管
91 フィルター
92 第2流量調整弁
図1
図2
図3
図4