(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】ステータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/12 20060101AFI20231121BHJP
H02K 15/04 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
H02K15/12 D
H02K15/04 A
H02K15/04 B
(21)【出願番号】P 2022555384
(86)(22)【出願日】2021-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2021035730
(87)【国際公開番号】W WO2022075125
(87)【国際公開日】2022-04-14
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2020170168
(32)【優先日】2020-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020207986
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅大
(72)【発明者】
【氏名】藪井 博昭
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】星野 彰教
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-169993(JP,A)
【文献】特開2020-156153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/12
H02K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアと、前記ステータコアに配置されるコイル部と、を備えるステータの製造方法であって、
前記コイル部を圧縮することにより前記コイル部の断面形状を成形する断面成形工程と、
前記コイル部に絶縁被膜を塗装する塗装工程と、
前記断面成形工程および前記塗装工程の後、前記断面成形工程において断面形状が成形された前記コイル部の焼鈍と、前記塗装工程において前記コイル部に塗装された前記絶縁被膜の焼き付けとを同一の熱処理により行う共通熱処理工程と、
前記共通熱処理工程の後、前記コイル部を前記ステータコアに配置する配置工程と、を備える、ステータの製造方法。
【請求項2】
前記共通熱処理工程は、前記断面成形工程において断面形状が成形された前記コイル部を焼鈍可能で、かつ、前記塗装工程において前記コイル部に塗装された前記絶縁被膜を焼き付け可能な温度により、熱処理を行う工程である、請求項1に記載のステータの製造方法。
【請求項3】
前記塗装工程は、前記絶縁被膜としての熱硬化性樹脂を前記コイル部に塗装する工程であり、
前記共通熱処理工程は、前記塗装工程において前記コイル部に塗装された前記絶縁被膜としての熱硬化性樹脂を焼き付けて硬化する硬化温度よりも高い、前記コイル部の焼鈍温度により、熱処理を行う工程である、請求項2に記載のステータの製造方法。
【請求項4】
前記コイル部は、前記ステータコアの互いに異なるスロットに収容される一対のスロット収容部および前記一対のスロット収容部同士を接続するコイルエンド部を有するセグメント導体を含み、
前記共通熱処理工程は、前記セグメント導体に対して行われる、請求項1~3のいずれか1項に記載のステータの製造方法。
【請求項5】
前記セグメント導体を曲げ成形する曲げ成形工程をさらに備え、
前記断面成形工程は、前記曲げ成形工程の後に行われる、請求項4に記載のステータの製造方法。
【請求項6】
前記セグメント導体を曲げ成形する曲げ成形工程をさらに備え、
前記断面成形工程は、前記曲げ成形工程の前に、前記セグメント導体のうちの前記曲げ成形工程において曲げられない部分に対して行われる、請求項4に記載のステータの製造方法。
【請求項7】
前記共通熱処理工程は、前記断面成形工程において断面形状が成形された前記コイル部の焼鈍と、前記塗装工程において前記コイル部に塗装された前記絶縁被膜の焼き付けとを、同一の加熱装置を用いて、熱処理を行う工程である、請求項1~6のいずれか1項に記載のステータの製造方法。
【請求項8】
前記共通熱処理工程は、前記断面成形工程において断面形状が成形された前記コイル部の焼鈍と、前記塗装工程において前記コイル部に塗装された前記絶縁被膜の焼き付けとを、同一の加熱温度により、熱処理を行う工程である、請求項1~7のいずれか1項に記載のステータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コイル部の断面形状を成形するステータが知られている。このようなステータは、たとえば、特開2006-340409号公報に開示されている。
【0003】
特開2006-340409号公報には、ステータコアと、ステータコアに配置され、矩形形状の断面を有するコイルと、を備えるステータが開示されている。特開2006-340409号公報に記載のステータでは、コイルの周囲に絶縁被膜が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特開2006-340409号公報には記載されていないが、特開2006-340409号公報に記載されているようなコイルの断面形状が所望の形状となるようにコイルの成形を行う場合、圧延等によってコイルを圧縮して成形すると考えられる。この場合、コイルを圧縮した後、圧縮に起因するコイル内部の残留応力(加工硬化)を除去するための焼鈍が行われると考えられる。また、特開2006-340409号公報には記載されていないが、特開2006-340409号公報に記載されているようにコイルの周囲に絶縁被膜を形成するには、コイルに絶縁被膜を塗装した後、絶縁被膜を焼き付けることが考えられる。すなわち、従来のステータの製造方法では、コイル(コイル部)を圧縮により成形する工程と、コイルに絶縁被膜を塗装する工程と、を備える場合、コイルを焼鈍する工程と、コイルに塗装された絶縁被膜を焼き付ける工程と、がさらに必要となり、工程数が比較的多くなる。このため、コイル部を圧縮により成形する工程と、コイル部に絶縁被膜を塗装する工程と、を備える場合でも、工程数が比較的多くなるのを防止することが可能なステータの製造方法が望まれている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、コイル部を圧縮により成形する工程と、コイル部に絶縁被膜を塗装する工程と、を備える場合でも、工程数が比較的多くなるのを防止することが可能なステータの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の一の局面におけるステータの製造方法は、ステータコアと、ステータコアに配置されるコイル部と、を備えるステータの製造方法であって、コイル部を圧縮することによりコイル部の断面形状を成形する断面成形工程と、コイル部に絶縁被膜を塗装する塗装工程と、断面成形工程および塗装工程の後、断面成形工程において断面形状が成形されたコイル部の焼鈍と、塗装工程においてコイル部に塗装された絶縁被膜の焼き付けとを同一の熱処理により行う共通熱処理工程と、共通熱処理工程の後、コイル部をステータコアに配置する配置工程と、を備える。
【0008】
この発明の一の局面におけるステータの製造方法は、上記のように、断面成形工程および塗装工程の後、断面成形工程において断面形状が成形されたコイル部の焼鈍と、塗装工程においてコイル部に塗装された絶縁被膜の焼き付けとを兼ねる共通熱処理工程を備える。これにより、断面成形工程において断面形状が成形されたコイル部の焼鈍と、塗装工程においてコイル部に塗装された絶縁被膜の焼き付けとを、1つの共通熱処理工程において同一の熱処理により同時に行うことができる。その結果、コイル部を圧縮により成形する工程(断面成形工程)と、コイル部に絶縁被膜を塗装する工程(塗装工程)と、を備える場合でも、工程数が比較的多くなるのを防止することができる。また、コイル部の焼鈍と絶縁被膜の焼き付けとを別々の熱処理により個別に行う場合と異なり、熱処理を行うための加熱装置を共通化することができるので、製造設備が複雑化および大型化するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上記のように、コイル部を圧縮により成形する工程と、コイル部に絶縁被膜を塗装する工程と、を備える場合でも、工程数が比較的多くなるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態による回転電機の構成を示す平面図である。
【
図2】一実施形態によるステータを径方向内側から見た斜視図である。
【
図3】一実施形態によるステータのスロットの構成を示す部分拡大平面図である。
【
図4】一実施形態によるステータのセグメント導体の構成を示す斜視図である。
【
図5】一実施形態によるステータのセグメント導体の断面形状の構成を示す平面図である。(
図5Aは、一方のスロット収容部の(
図4の300-300線に沿った)断面図である。
図5Bは、他方のスロット収容部の(
図4の400-400線に沿った)断面図である。
図5Cは、コイルエンド部の(
図4の500-500線に沿った)断面図である。)
【
図6】一実施形態によるステータのセグメント導体のコイルエンド部の構成を示す部分拡大断面図である。
【
図7】一実施形態によるステータの製造方法を示すフロー図である。
【
図8】一実施形態の変形例によるステータの製造方法を示すフロー図である。
【
図9】比較例によるステータの製造方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
[ステータの構成]
まず、
図1~
図6を参照して、一実施形態によるステータ100の構成について説明する。
【0013】
以下の説明では、「軸方向」とは、ステータコア10(
図1参照)の回転軸線(符号O)(Z方向)に沿った方向を意味する。また、「周方向」とは、ステータコア10の周方向(A方向)を意味する。また、「径方向」とは、ステータコア10の径方向(B方向)を意味する。そして、ステータコア10の軸方向(Z方向)の一方側および他方側を、それぞれ、Z1側およびZ2側とする。また、ステータコア10の径方向(B方向)の一方側(内径側)および他方側(外径側)を、それぞれ、B1側およびB2側とする。
【0014】
図1に示すように、回転電機120は、ステータ100と、ロータ110と、を備える。ステータ100は、ステータコア10と、コイル部20と、を備える。また、回転電機120は、たとえば、モータ、ジェネレータ、または、モータ兼ジェネレータである。ロータ110は、ステータ100のB1側に、ロータ110の外周面とステータ100の内周面とが径方向に対向するように配置されている。すなわち、ステータ100は、インナーロータ型の回転電機120の一部として構成されている。
【0015】
ステータコア10は、Z方向に沿った中心軸線Oを中心軸とした円筒形状を有する。ステータコア10は、複数の電磁鋼板(たとえば、珪素鋼板)がZ方向に積層されることにより形成されている。
【0016】
ステータコア10は、円環状のバックヨーク11と、バックヨーク11からB1側に突出する複数のティース12と、A方向に隣接するティース12同士の間に形成される複数のスロット13と、を含む。
図2に示すように、複数のスロット13の各々は、ステータコア10の軸方向に延びるように設けられている。
【0017】
図1に示すように、コイル部20は、複数のセグメント導体30を含む。複数のセグメント導体30同士は、互いに接合されている。具体的には、Z1側に配置されたセグメント導体30の後述するスロット収容部31(
図4参照)の端部と、Z2側に配置されたセグメント導体30のスロット収容部31の端部とが、スロット13内において接合されている。また、
図3に示すように、セグメント導体30の断面形状は、矩形状である。すなわち、セグメント導体30は、平角導体である。また、セグメント導体30は、銅により形成されている。なお、セグメント導体30は、アルミニウムにより形成されていてもよい。なお、セグメント導体30は、請求の範囲の「コイル部」の一例である。
【0018】
図2に示すように、複数のセグメント導体30は、それぞれ、複数のスロット13を跨ぐように配置されている。具体的には、複数のセグメント導体30は、それぞれ、互いに異なるスロット13に収容(挿入)される一対のスロット収容部31(
図4参照)を含む。一対のスロット収容部31が収容されているスロット13の間には、複数のスロット13が設けられている。また、複数のセグメント導体30は、それぞれ、スロット収容部31に接続されるコイルエンド部32を含む。すなわち、コイルエンド部32は、一対のスロット収容部31同士を接続する。これにより、セグメント導体30は、径方向に見て略U字状(
図4参照)に形成されている。
【0019】
また、コイルエンド部32は、ステータコア10の軸方向の外側に設けられる。具体的には、コイルエンド部32は、ステータコア10の軸方向におけるZ1方向側の端面10a、および、ステータコア10の軸方向におけるZ2方向側の端面10bの各々から突出している。
【0020】
図3に示すように、スロット13は、径方向外側に設けられたバックヨーク11の壁部11aと、2つのティース12の周方向側面12aとに囲まれた部分である。そして、スロット13には、径方向内側に開口する開口部13aが設けられている。また、スロット13は、軸方向両側のそれぞれに開口している。
【0021】
開口部13aは、周方向に開口幅W1を有する。開口幅W1は、スロット13のコイル部20が配置される部分の周方向における幅W2よりも小さい。すなわち、スロット13は、セミオープン型のスロットとして構成されている。また、スロット13の幅W2は、径方向位置によって異なる。具体的には、幅W2は、径方向外側ほど大きくなる。
【0022】
また、複数の(
図3では6つ)スロット収容部31は、スロット13内において、径方向に並んで配置されている。スロット13内のスロット収容部31の周方向の幅W3は、スロット13の形状に合わせるように、径方向外側のスロット収容部31ほど大きい。また、スロット13内のスロット収容部31の断面積は互いに等しいので、スロット13内のスロット収容部31の径方向の幅W4は、径方向外側のスロット収容部31ほど小さい。
【0023】
また、セグメント導体30は、絶縁のために設けられる絶縁被膜40により被覆(コーティング)されている。絶縁被膜40は、たとえば熱硬化性樹脂等の絶縁材料からなる。
【0024】
また、
図4に示すように、コイルエンド部32は、軸方向から見て、径方向に1本のセグメント導体30の幅分、階段状に屈曲するクランク状に形成されたクランク部分33を有する。つまり、クランク部分33の径方向の幅は、1本のセグメント導体30の幅の2倍である。
【0025】
これにより、一対のスロット収容部31の一方と他方とは、互いに異なる径方向位置(レーン)に配置される。たとえば、一対のスロット収容部31の一方がスロット13において径方向内側から1番目(最も内側のレーン)に配置されているとともに、一対のスロット収容部31の他方が、一対のスロット収容部31の一方とは異なるスロット13において径方向内側から2番目(内側から2番目のレーン)に配置される。このように、一対のスロット収容部31の一方と他方とが径方向において互いに1つずれたレーンに配置されるように、セグメント導体30(コイル部20)がステータコア10に配置されている。
【0026】
図5Aおよび
図5Bに示すように、一対のスロット収容部31のうち一方の断面形状と、一対のスロット収容部31のうち他方の断面形状とは、互いに異なる。
図5Aに示すように、一対のスロット収容部31のうち一方の断面の径方向における幅は、W11である。また、一対のスロット収容部31のうち一方の断面の周方向における幅は、W12である。また、
図5Bに示すように、一対のスロット収容部31のうち他方の断面の径方向における幅は、W11とは異なるW21である。また、一対のスロット収容部31のうち他方の断面の周方向における幅は、W12とは異なるW22である。
図5Aおよび
図5Bに示す例では、W21はW11よりも小さく、W22はW12よりも大きい。なお、この例は、一対のスロット収容部31のうちの一方(
図5A参照)が他方(
図5B参照)よりも径方向内側に設けられている場合の例である。
【0027】
また、
図5A~
図5Cに示すように、一対のスロット収容部31の断面形状と、コイルエンド部32の断面形状とは、互いに異なる。具体的には、
図5Cに示すように、コイルエンド部32の断面は、幅W31の辺と幅W32の辺とにより構成される矩形形状を有する。幅W31および幅W32の各々は、上記の幅W11、幅W12、幅W21、および幅W22とは異なる。コイルエンド部32の断面は、たとえば正方形状に形成される。すなわち、この場合、幅W31と幅W32とが略等しい。
【0028】
また、
図6に示すように、径方向に並んで配置される複数のコイルエンド部32の、ステータコア10の端面10aからの高さHは、互いに略等しい。
【0029】
[ステータの製造方法]
次に、
図7を参照して、ステータ100の製造方法について説明する。
【0030】
(準備工程)
図7に示すように、まず、ステップS11において、セグメント導体30として用いられる銅線(略円形状の断面を有する裸銅線)の準備工程が行われる。準備工程(S11)では、銅線は、たとえば、ボビンに巻かれた状態(ロール状の状態)で準備される。
【0031】
(真直・切断工程)
次に、ステップS12において、銅線を真直および切断する真直・切断工程が行われる。具体的には、真直・切断工程(S12)では、ロール状の銅線が真っ直ぐな状態に矯正される。そして、真っ直ぐな状態の銅線が、セグメント導体30(
図4参照)の長さに切断される。
【0032】
(曲げ成形工程)
次に、ステップS13において、セグメント導体30を曲げ成形する曲げ成形工程が行われる。具体的には、曲げ成形工程(S13)では、セグメント導体30が、ステータコア10に配置するための形状(略U字形状)(
図4参照)となるように、治具により曲げ成形される。
【0033】
(鍛造工程)
次に、ステップS14において、セグメント導体30を圧縮することによりセグメント導体30の断面形状を成形する断面成形工程が行われる。すなわち、本実施形態では、断面成形工程(S14)は、曲げ成形工程(S13)の後に行われる。これにより、断面成形工程(S14)による圧縮に起因してセグメント導体30の内部応力が大きくなる(加工硬化する)前に曲げ成形工程(S13)が行われるので、セグメント導体30の内部応力が大きくなった状態(加工硬化した状態)でセグメント導体30に曲げ成形工程(S13)が行われることによってセグメント導体30に破損(割れ等)が生じるのを防止することができる。また、断面成形工程(S14)の後に、曲げ成形工程(S13)が行われる場合と異なり、曲げ成形工程(S13)の前に、セグメント導体30の内部応力(加工硬化)を除去するための焼鈍を行わなくてもよいので、後述する熱処理工程(セグメント導体30の内部応力(加工硬化)を除去するためのセグメント導体30の焼鈍と絶縁被膜40の焼き付けとを同一の熱処理により行う共通熱工程(S16))を容易に実現することができる。
【0034】
断面成形工程(S14)は、スロット収容部31の断面形状(
図5Aおよび(B)参照)と、コイルエンド部32の断面形状(
図5C参照)とを異ならせるように、鍛造によりセグメント導体30の断面形状を成形する工程である。これにより、断面成形工程(S14)において、セグメント導体30の断面形状を、鍛造により、任意の断面形状に容易に成形することができる。また、断面成形工程(S14)において、鍛造を用いることによって、セグメント導体30の断面形状を成形するための他の手法(たとえば、圧延等)を用いた場合と比較して、セグメント導体30の内部応力の上昇を小さくすることができる。これにより、断面成形工程(S14)の後、セグメント導体30の焼鈍を行うための焼鈍温度を比較的低くすることができる。また、セグメント導体30の断面形状を、スロット収容部31とコイルエンド部32とで異ならせるように成形することができるので、セグメント導体30の断面形状がセグメント導体30全体で均一な場合と比較して、セグメント導体30、および、セグメント導体30が配置されるステータコア10の設計の自由度を向上させることができる。なお、断面成形工程(S14)では、金型を用いた鍛造により、セグメント導体30の断面形状の成形(変形)が行われる。すなわち、ステータ100の製造方法では、「鍛造」は、いわゆる「型鍛造」を意味する。
【0035】
(塗装工程)
次に、ステップS15において、セグメント導体30に絶縁被膜40を塗装する塗装工程が行われる。塗装工程(S15)は、液体状の絶縁被膜40にセグメント導体30を浸漬して電着塗装する工程である。また、塗装工程(S15)は、絶縁被膜40としての熱硬化性樹脂をセグメント導体30に塗装する工程である。具体的には、塗装工程(S15)では、セグメント導体30が液体状の塗料に浸漬される。液体状の塗料は、熱硬化性樹脂である。熱硬化性樹脂は、たとえば、ポリイミド、ポリアミドイミド等である。そして、液体状の塗料に浸漬されたセグメント導体30に電圧を印加することによって、セグメント導体30の表面に液体状の塗料を析出させる。これにより、セグメント導体30の表面に絶縁被膜40が形成される。
【0036】
(熱処理工程)
次に、ステップS16において、断面成形工程(S14)において断面形状が成形されたセグメント導体30の焼鈍と、塗装工程(S15)においてセグメント導体30に塗装(電着塗装)された(液体状の)絶縁被膜40の焼き付けとを同一の熱処理により行う共通熱処理工程が行われる。すなわち、本実施形態では、断面成形工程(S14)および塗装工程(S15)の後、共通熱処理工程(S16)が行われる。また、共通熱処理工程(S16)は、セグメント導体30に対して行われる。これにより、断面成形工程(S14)において断面形状が成形されたセグメント導体30の焼鈍と、塗装工程(S15)においてセグメント導体30に塗装(電着塗装)された(液体状の)絶縁被膜40の焼き付けとを、1つの共通熱処理工程(S16)において同一の熱処理により同時に行うことができる。その結果、セグメント導体30を圧縮により成形する工程(断面成形工程(S14))と、セグメント導体30に絶縁被膜40を塗装する工程(塗装工程(S15))と、を備える場合でも、工程数が比較的多くなるのを防止することができる。また、セグメント導体30の焼鈍と絶縁被膜40の焼き付けとを別々の熱処理により個別に行う場合と異なり、熱処理を行うための加熱装置を共通化することができるので、製造設備が複雑化および大型化するのを防止することができる。なお、本実施形態では、共通熱処理工程(S16)は、断面成形工程(S14)において断面形状が成形されたセグメント導体30の焼鈍と、塗装工程(S15)においてセグメント導体30に塗装された絶縁被膜40の焼き付けとを、同一の加熱装置を用いて、熱処理を行う工程である。
【0037】
本実施形態では、共通熱処理工程(S16)は、断面成形工程(S14)において断面形状が成形されたセグメント導体30を焼鈍可能で、かつ、塗装工程(S15)においてセグメント導体30に塗装された絶縁被膜40を焼き付け可能な温度により、熱処理を行う工程である。すなわち、本実施形態では、共通熱処理工程(S16)は、断面成形工程(S14)において断面形状が成形されたセグメント導体30の焼鈍と、塗装工程(S15)においてセグメント導体30に塗装された絶縁被膜40の焼き付けとを、同一の加熱温度を用いて、熱処理を行う工程である。これにより、共通熱処理工程(S16)において、断面成形工程(S14)において断面形状が成形されたセグメント導体30の焼鈍と、塗装工程(S15)においてセグメント導体30に塗装された絶縁被膜40の焼き付けとの両方を確実に行うことができる。
【0038】
詳細には、本実施形態では、共通熱処理工程(S16)は、塗装工程(S15)においてセグメント導体30に塗装された絶縁被膜40としての熱硬化性樹脂を焼き付けて硬化する硬化温度よりも高い、セグメント導体30の焼鈍温度により、熱処理を行う工程である。これにより、共通熱処理工程(S16)において、塗装工程(S15)においてセグメント導体30に塗装された絶縁被膜40としての熱硬化性樹脂を、熱硬化性樹脂が硬化する硬化温度よりも高い温度により焼き付けて確実に硬化させることができる。
【0039】
具体的には、セグメント導体30に用いられる銅の一般的な焼鈍温度は、350℃~500℃である。しかしながら、350℃~500℃は、銅に対する焼鈍の効果が比較的高い温度であり、350℃を下回っていても(たとえば、300℃であっても)、銅に対する焼鈍の一定の効果はある。すなわち、銅の焼鈍温度は、350℃~500℃よりも比較的広範囲に渡っている。一方、絶縁被膜40に用いられる熱硬化性樹脂の硬化温度は、たとえば、ポリイミドおよびポリアミドイミドの場合で、それぞれ、略300℃および略250℃である。ここで、ポリイミドおよびポリアミドイミド等の熱硬化性樹脂は、硬化温度において硬化するものの、硬化温度よりも温度が高くなるにしたがって弾性率が低下する。すなわち、熱硬化性樹脂は、硬化温度よりも温度が高くなるにしたがって、曲げや延ばし等に対する脆さが上昇する。したがって、共通熱処理工程(S16)では、絶縁被膜40としての熱硬化性樹脂の硬化温度よりも高いものの、硬化温度よりも著しく高くない焼鈍温度によって熱処理を行うことが好ましい。たとえば、熱硬化性樹脂としてポリイミドおよびポリアミドイミドを用いた場合、略300℃~略350℃の範囲で熱処理を行うことが考えられる。
【0040】
(コイル配置工程)
次に、ステップS17において、セグメント導体30をステータコア10に配置する配置工程が行われる。配置工程(S17)は、セグメント導体30のスロット収容部31をステータコア10のスロット13内に収容するとともにセグメント導体30のコイルエンド部32をステータコア10のスロット13外に配置する工程である。配置工程(S17)では、複数のセグメント導体30の各々がステータコア10の所定の位置に配置される。
【0041】
(セグメント導体接合工程)
次に、ステップS18において、セグメント導体30同士を接合する接合工程が行われる。具体的には、セグメント導体接合工程(S18)では、配置工程(S17)においてステータコア10の所定の位置に配置された複数のセグメント導体30同士が接合される。具体的には、Z1側に配置されたセグメント導体30のスロット収容部31の端部と、Z2側に配置されたセグメント導体30のスロット収容部31の端部とが、スロット13内において接合される。
【0042】
[比較例によるステータの製造方法]
次に、
図9を参照して、比較例によるステータの製造方法について説明する。なお、ステップS31、S34、S35、S36、S38およびS39は、それぞれ、上記実施形態におけるステップS11、S12、S13、S15、S17およびS18と略同様の工程であるので、説明を省略する。
【0043】
(圧延工程)
図9に示すように、ステップS32において、セグメント導体30として用いられる銅線の圧延する圧延工程が行われる。圧延工程(S32)では、銅線が圧延されることによって、銅線が圧縮され銅線の断面形状が成形される。
【0044】
(焼鈍工程)
次に、ステップS33において、銅線を焼鈍する焼鈍工程が行われる。焼鈍工程(S33)では、銅線が焼鈍されることによって、圧延工程(S32)における圧縮に起因する銅線内部の残留応力(加工硬化)が除去される。
【0045】
(焼付工程)
ステップS37において、セグメント導体30に塗装(電着塗装)された(液体状の)絶縁被膜40を焼き付ける焼付工程が行われる。焼付工程(S37)では、セグメント導体30に塗装(電着塗装)された(液体状の)絶縁被膜40が焼き付けられることによって、絶縁被膜40が熱硬化して、セグメント導体30の表面に絶縁被膜40が形成される。
【0046】
上記のように、比較例によるステータの製造方法では、焼鈍工程(S33)と焼付工程(S37)とが個別に行われている。このため、本実施形態によるステータ100の製造方法と比較して、工程数が多くなっている。また、本実施形態によるステータ100の製造方法と異なり、焼鈍工程(S33)用の加熱装置と、焼付工程(S37)用の加熱装置との両方を設ける必要があると考えられる。一方、本実施形態によるステータ100の製造方法では、共通熱処理工程(S16)において、セグメント導体30の焼鈍と絶縁被膜40の焼き付けとが同時に行われる。したがって、工程数が比較的多くなるのを防止することができるとともに、熱処理を行うための加熱装置を共通化することができる。
【0047】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0048】
たとえば、上記実施形態では、塗装工程(S15)を、液体状の絶縁被膜40にセグメント導体30(コイル部)を浸漬して電着塗装する工程として構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、塗装工程を、電着塗装以外の手法(たとえば、粉体塗装、テープ巻き、噴霧、塗布等)によって、コイル部に絶縁被膜を塗装する工程として構成してもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、断面成形工程(S14)を、スロット収容部31の断面形状と、コイルエンド部32の断面形状とを異ならせるように、鍛造によりセグメント導体30(コイル部)の断面形状を成形する工程として構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、断面成形工程を、スロット収容部の断面形状と、コイルエンド部の断面形状とが同じになるように、鍛造によりコイル部の断面形状を成形する工程として構成してもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、断面成形工程(S14)を、鍛造によりセグメント導体30(コイル部)の断面形状を成形する工程として構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、断面成形工程を、鍛造以外のコイル部を圧縮して成形する手法(たとえば、圧延等)により、コイル部の断面形状を成形する工程として構成してもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、共通熱処理工程(S16)を、塗装工程(S15)においてセグメント導体30(コイル部)に塗装された絶縁被膜40としての熱硬化性樹脂を焼き付けて硬化する硬化温度よりも高い、セグメント導体30(コイル部)の焼鈍温度により、熱処理を行う工程として構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、共通熱処理工程を、塗装工程においてコイル部に塗装された絶縁被膜としての熱硬化性樹脂を焼き付けて硬化する硬化温度と等しい、コイル部の焼鈍温度により、熱処理を行う工程として構成してもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、請求の範囲の「コイル部」が、ステータ100が備えるコイル部20を構成する複数のセグメント導体30の各々である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、請求の範囲の「コイル部」を、ステータが備えるコイル部そのものとしてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、互いに異なるセグメント導体30のスロット収容部31同士が、スロット13内において接合されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、互いに異なるセグメント導体のスロット収容部同士が、スロット外において接合されていてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、断面成形工程(S14)を、曲げ成形工程(S13)の後に行うように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図8に示す変形例のように、「断面成形工程」を鍛造対象に対して部分的な鍛造を行う部分鍛造工程とすることによって、「断面成形工程」を「曲げ成形工程」の前に行うように構成してもよい。具体的には、
図8に示すように、準備工程(S21)の後、かつ、真直・切断工程(S23)および曲げ成形工程(S24)の前に、断面成形工程(S22)が行われる。断面成形工程(S22)では、準備工程(S21)において準備された銅線のうち、曲げ成形工程(S24)において曲げられない部分(たとえば、スロット収容部31となる部分)の断面形状の成形が行われる。すなわち、断面成形工程(S22)は、セグメント導体30(コイル部)のうちの曲げ成形工程(S24)において曲げられない部分に対して行われる工程である。これにより、曲げ成形工程(S24)において、断面成形工程(S22)において断面形状の成形が行われ内部応力が大きくなった部分を曲げないので、曲げ成形工程(S24)の前に断面成形工程(S22)を行ったとしても、上記実施形態と同様に、セグメント導体30(コイル部)に破損(割れ等)が生じるのを防止することができる。ステップS21、S23、S24、S25、S26、S27およびS28は、それぞれ、上記実施形態におけるステップS11、S12、S13、S15、S16、S17およびS18と略同様の工程であるので、説明を省略する。
【符号の説明】
【0055】
10…ステータコア、13…スロット、20…コイル部、30…セグメント導体(コイル部)、31…スロット収容部、32…コイルエンド部、40…絶縁被膜、100…ステータ