IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人山梨大学の特許一覧 ▶ 株式会社デイ・シイの特許一覧

特許7388633高炉スラグからのカルシウムおよびケイ素の分離方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】高炉スラグからのカルシウムおよびケイ素の分離方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/70 20220101AFI20231121BHJP
   C04B 5/00 20060101ALI20231121BHJP
   C21B 3/04 20060101ALI20231121BHJP
   B09B 101/55 20220101ALN20231121BHJP
【FI】
B09B3/70
C04B5/00 C ZAB
C21B3/04
B09B101:55
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020050874
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021146309
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)開催日:令和 2年 2月27日 (2)集会名、開催場所:令和元年度 国立大学法人山梨大学 工学部 応用化学科卒業論文発表会、国立大学法人山梨大学 工学部A2-21教室(山梨県甲府市武田四丁目4番37号)
(73)【特許権者】
【識別番号】304023994
【氏名又は名称】国立大学法人山梨大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592037907
【氏名又は名称】株式会社デイ・シイ
(74)【代理人】
【識別番号】100087491
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 享
(74)【代理人】
【識別番号】100104271
【弁理士】
【氏名又は名称】久門 保子
(72)【発明者】
【氏名】阪根 英人
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 尚哉
(72)【発明者】
【氏名】須崎 一定
(72)【発明者】
【氏名】築地 優
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1870619(KR,B1)
【文献】特開2011-202193(JP,A)
【文献】特開2007-222713(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101575179(CN,A)
【文献】特開昭52-149210(JP,A)
【文献】国際公開第2014/007331(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00-5/00
C04B 5/00
C21B 3/04
C01B 33/00-33/193
C01F 11/00-11/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉スラグを有機酸で溶解させてカルシウム60℃以下の温度で析出させて、ろ過して前記カルシウム塩を分離した後に、前記カルシウム塩を分離した後のろ液の温度を上昇させて、ケイ素含有量の多いゲル状物質を析出させ、析出した前記ゲル状物質を分離して、高炉スラグからケイ素を分離することを特徴とする高炉スラグからのカルシウムおよびケイ素の分離方法。
【請求項2】
請求項1記載の高炉スラグからのカルシウムおよびケイ素の分離方法において、前記有機酸がクエン酸であることを特徴とする高炉スラグからのカルシウムおよびケイ素の分離方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の高炉スラグからのカルシウムおよびケイ素の分離方法において、前記カルシウムを分離させた後のろ液の温度を上昇させて60℃を超える温度にして、ケイ素含有量の多いゲル状物質を析出させ、析出した前記ゲル状物質を分離して、前記高炉スラグから前記ケイ素を分離させることを特徴とする高炉スラグからのカルシウムおよびケイ素の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウムおよびケイ素を選択的に除去・抽出することができる高炉スラグからのカルシウムおよびケイ素の分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉スラグの有効利用の技術として、高炉スラグから金属成分等を除去回収する技術がある。そのような従来技術としては、例えば以下の特許文献1~3記載の発明がある。
【0003】
特許文献1には、鉄鋼スラグ等の鉄鋼産業副生成物からのマグネシウムおよびカルシウム除去回収方法において、室温において、ギ酸もしくはクエン酸により溶解させて処理することを特徴とするマグネシウムおよびカルシウム除去回収方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、製鋼スラグ(高炉スラグ、転炉鋼スラグ、脱硫スラグおよびレードルスラグを含む)などを利用して炭酸カルシウムを製造する方法が開示されている。
【0005】
特許文献3には、スラグを粉砕する粉砕工程と、粉砕されたスラグを水と混合して固液混合物とする混合工程と、固液混合物に薬剤(アルカリ金属炭酸塩)を添加してスラグに含まれるセレンを除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-222713号公報
【文献】特許第5562945号公報
【文献】特開2019-162610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、高炉スラグからカルシウムおよびケイ素の両者を選択的に除去する方法は知られていなかった。例えば、塩酸などの強酸はすべて溶解・ゾル化してしまい、高炉スラグは非晶質のため化合物ごとに選択的に溶解させることができない。
【0008】
上述の特許文献1~3には、マグネシウム、カルシウム、セレンなどの除去、回収の技術が開示されているものの、これらの技術においてもカルシウムとケイ素の両者を選択的に除去することができない。
【0009】
本発明は、上述のような背景のもとに発明されたものであり、高炉スラグからカルシウムおよびケイ素の両者を選択的に分離し、回収することができる方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る高炉スラグからのカルシウムおよびケイ素の分離方法は、高炉スラグを有機酸で溶解させる方法において、高炉スラグを有機酸で溶解させてカルシウム60℃以下の温度で析出させて、ろ過して前記カルシウム塩を分離した後に、前記カルシウム塩を分離した後のろ液の温度を上昇させて、ケイ素含有量の多いゲル状物質を析出させ、析出した前記ゲル状物質を分離して、高炉スラグからケイ素を分離することを特徴とする。
【0011】
本発明に用いる有機酸としては、例えばクエン酸、あるいはギ酸などを用いることができる。
【0012】
すなわち、本発明では、有機酸を用いて高炉スラグを溶解させ、溶解させた高炉スラグの溶液から有機酸のカルシウム塩として析出させる。析出したカルシウム塩をろ過するなどして、高炉スラグからカルシウムを分離する。
【0013】
カルシウムを析出させる温度は室温ないし60℃以下が望ましい。有機酸のカルシウム塩として析出させる温度が60℃を超えると、析出した有機酸のカルシウム塩にケイ素が含有されるようになり、カルシウムとケイ素の両者を選択的に分離することができなくなる。
【0014】
60℃以下でカルシウムを分離した後に、ろ液を加熱して行くと、ケイ素含有量の多いゲル状物質が析出する。析出したケイ素含有量の多いゲル状物質をろ過するなどして、ケイ素を分離することができる。カルシウムを分離させた後に、温度を上昇させて、ケイ素を分離させる温度は60℃を超える温度であることが好ましい。
【0015】
このように、相対的に低い温度でカルシウムを分離した後に、相対的に高い温度でケイ素を分離すれば、選択的にカルシウムおよびケイ素を分離することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高炉スラグからカルシウムおよびケイ素の両者を選択的に分離し、回収することができるため、本来産業廃棄物である高炉スラグを効率的に有効利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の効果を確認するために行った試験について説明する。
【0018】
〔試験1〕
以下の過程で高炉スラグを溶解した。
(1) 高炉スラグ(微粉末)11gとクエン酸(5%溶液、6%溶液)330mlを室温で撹拌して溶解する。
(2) 溶解した液をろ過して、ろ液を室温、70℃、80℃、90℃で8時間撹拌する。
(3) 撹拌後にろ過したろ液をICP発光分光分析を行った。
【0019】
(3)のろ液の分析結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
表1より、クエン酸濃度によらず、Ca濃度は温度上昇で増加する傾向がみられる。また、Si濃度はクエン酸濃度によらず、温度上昇で減少する傾向がみられる。Al濃度は、クエン酸濃度によらず、温度の影響もあまりない傾向がみられる。
【0022】
(3)でろ過した固形分の化学成分の結果を表2に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
X線回折分析では、クエン酸カルシウム、クエン酸カルシウム二水和物、クエン酸カルシウム四水和物を確認することができた。また、クエン酸塩にケイ素が含有されており、高温ほどケイ素含有量が高く、カルシウムが低い。
【0025】
この分析結果から、低温でカルシウムを分離した後に、高温でケイ素を分離すれば、選択的にカルシウムおよびケイ素を分離することができると考えた。
【0026】
〔試験2〕
以下の過程で高炉スラグを溶解した。
(1) 高炉スラグ(微粉末)11gとクエン酸(5%溶液)330mlを室温で撹拌して溶解した。
(2) 撹拌からろ過までの時間を約1時間とし、溶解した液をろ過して、ろ液を60℃で1時間、2時間、3時間、4時間、8時間加熱した。
(3) 60℃で加熱後にろ過(遠心分離)した残渣を蛍光X線分析した(表3)。
(4) ろ過(遠心分離)したろ液をさらに加熱し、95℃で発生し析出したゲルをろ過(遠心分離)し、残渣を蛍光X線分析した(表4)。
【0027】
(3)でろ過(遠心分離)した残渣の化学成分の結果を表3に示す。
【0028】
【表3】
【0029】
表3より、60℃の加熱では、残渣にCaOが多く含まれるのに対し、SiO2はほとんど含まれないことが確認された。ろ液の60℃での加熱時間(1時間、2時間、3時間、4時間、8時間)による影響は、4時間まではほとんどなく、8時間では少量のSiO2が現れることが分かった。
【0030】
(4)の残渣の化学成分結果を表4に示す。
【0031】
【表4】
【0032】
表4より、95℃で発生し析出したゲルをろ過(遠心分離)した残渣には、SiO2が多く含まれ、CaOの残量は少ないことが確認された。前段の撹拌からろ過までのバッジが同じ場合は、いずれのケースでも60℃での加熱時間(1時間、2時間、3時間、4時間、8時間)が長いほど、残渣中のSiO2が増え、CaOが減っていた。