(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】ダブルパッカー装置
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
E02D3/12 101
(21)【出願番号】P 2020167965
(22)【出願日】2020-10-02
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000149206
【氏名又は名称】株式会社大阪防水建設社
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 恭太
(72)【発明者】
【氏名】山内 一樹
(72)【発明者】
【氏名】谷室 裕久
(72)【発明者】
【氏名】原 信行
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-330710(JP,A)
【文献】特開2005-146776(JP,A)
【文献】特開2007-332544(JP,A)
【文献】特開昭51-096116(JP,A)
【文献】特開昭48-060001(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入外管に対し当該注入外管の中心軸に沿って移動可能に収容され、前記中心軸方向の任意の位置で吐出口から薬液を吐出可能なダブルパッカー装置であって、
前記吐出口を有するインジェクションパイプと、
前記インジェクションパイプにおける前記吐出口に対する前記中心軸方向の両側に設けられた一対のパッカー部と、
前記インジェクションパイプに設けられ、前記一対のパッカー部の各々を、前記注入外管の内周面に当たる膨出位置と前記内周面から離れる非膨出位置とで切り替える駆動部と、
を備え、
前記駆動部は、
前記中心軸方向に沿って一方向に移動することで、少なくとも一つの前記パッカー部を前記膨出位置から前記非膨出位置に切り替える可動部
と、
前記インジェクションパイプに対して固定されかつ前記可動部が移動可能に取り付けられるシリンダチューブと、
を有し、
前記インジェクションパイプには、前記シリンダチューブに対して作動油の流出入を行う作動油流路が形成されており、
前記可動部は、前記作動油の流出入によって、前記パッカー部を前記膨出位置から前記非膨出位置に切り替えるものであり、
前記各パッカー部は、前記中心軸方向に沿って幅を有しかつ前記中心軸を中心とする周方向の全長にわたって形成された弾性体で構成されており、
前記各パッカー部の幅方向の一端部が前記インジェクションパイプに対して固定され、前記幅方向の他端部が前記可動部に対して、連結部により取り付けられており、
前記連結部は、前記インジェクションパイプに対して前記中心軸を中心とする周方向の全長にわたって形成されており、
前記各パッカー部の他端部と前記インジェクションパイプとの間には、前記連結部が介在している、
ダブルパッカー装置。
【請求項2】
前記可動部は、前記非膨出位置から前記一方向とは反対方向の他方向に移動することで、前記パッカー部を膨出位置に切り替える、
請求項1記載のダブルパッカー装置。
【請求項3】
前記弾性体は、前記可動部が前記パッカー部を前記膨出位置に切り替えると、前記弾性体の一端部と前記他端部との間が前記注入外管の内周面に当たるように構成されている、請求項
1又は請求項2に記載のダブルパッカー装置。
【請求項4】
前記インジェクションパイプは前記吐出口を複数有し、
前記インジェクションパイプは、
前記インジェクションパイプの内部において前記中心軸方向に沿って形成され、前記複数の吐出口のうちの一の吐出口につながる第一流路と、
前記インジェクションパイプの内部において前記中心軸方向に沿って形成され、前記一の吐出口とは別の吐出口につながる第二流路と、
を有し、
前記作動油流路、前記第一流路及び前記第二流路は、前記インジェクションパイプの前記中心軸方向に直交する断面において異なる位置に形成されている、
請求項1から3のいずれか一項に記載のダブルパッカー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダブルパッカー装置に関し、より詳細には、注入外管に対して中心軸方向に沿って移動可能に収容されるダブルパッカー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来のダブルパッカー装置が記載されている。特許文献1記載のダブルパッカー装置(特許文献1では「注入内管」)は、注入外管の内部に挿入されている。注入内管は、薬液噴出孔に対して注入内管の長手方向の両側に一対のパッカー部が設けられている。
【0003】
パッカー部は、ゴムにより構成されており、内部に注入材が供給されることで膨張し、内部の注入材が排出されることで元に戻るように構成されている。注入内管は、一対のパッカー部が膨張し、当該一対のパッカー部が注入外管の内周面に密着した状態で、薬液噴出孔から薬液が噴出される。薬液噴出後、パッカー部内の注入材を排出し、パッカー部を復元した状態で、注入内管を注入外管内の別の位置に移動させ、再び、パッカー部を膨張させると共に薬液を噴出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1記載の注入内管は、パッカー部を膨出位置から非膨出位置に復元する際、ゴムの弾性力を利用して復元している。
【0006】
しかしながら、ゴムの弾性力のみを利用して復元するパッカー部では、安定した動作が得られない場合がある。例えば、内径が比較的大きい注入外管に対して注入内管を使用する場合、パッカー部を膨出位置に切り替えるとパッカー部の変形量が通常よりも大きくなるが、このとき、パッカー部が塑性変形を起こすと非膨出位置に切り替えることができない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、パッカー部を膨出位置から非膨出位置に切り替える際に、安定した動作が得られるダブルパッカー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一態様のダブルパッカー装置は、注入外管に対し当該注入外管の中心軸に沿って移動可能に収容され、前記中心軸方向の任意の位置で吐出口から薬液を吐出可能なダブルパッカー装置であって、前記吐出口を有するインジェクションパイプと、前記インジェクションパイプにおける前記吐出口に対する前記中心軸方向の両側に設けられた一対のパッカー部と、前記インジェクションパイプに設けられ、前記一対のパッカー部の各々を、前記注入外管の内周面に当たる膨出位置と前記内周面から離れる非膨出位置とで切り替える駆動部と、を備え、前記駆動部は、前記中心軸方向に沿って一方向に移動することで、少なくとも一つの前記パッカー部を前記膨出位置から前記非膨出位置に切り替える可動部を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る上記態様のダブルパッカー装置は、パッカー部を膨出位置から非膨出位置に切り替える際に、安定した動作が得られる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るダブルパッカー装置が用いられる地盤注入工法の削孔工程を示す断面図である。
【
図2】
図2は、同上の地盤注入工法のシールグラウト注入工程を示す断面図である。
【
図3】
図3(a)(b)は、同上の地盤注入工法の注入外管建込み工程を示す断面図である。
【
図4】
図4は、同上の地盤注入工法の薬液注入工程を示す断面図である。
【
図5】
図5(A)は、同上の実施形態に係るダブルパッカー装置の中心軸に直交する断面の断面図である。
図5(B)は、
図5(A)のX1-X1線断面図である。
【
図6】
図6(A)は、同上のダブルパッカー装置の中心軸に直交する断面の断面図である。
図6(B)は、
図6(A)のX3-X3線断面図である。
【
図7】
図7(A)は、同上のダブルパッカー装置の中心軸に直交する断面の断面図である。
図7(B)は、
図6(A)のX2-X2線断面図である。
【
図8】
図8(A)(B)は、同上のダブルパッカー装置の駆動部の動作を示す断面図である。
【
図9】
図9は同上の地盤注入工法の工程図を示すフローチャートである。同上の実施形態に係るダブルパッカー装置の中心軸に直交する断面の断面図である。
図6(B)は、
図6(A)のX3-X3線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
(1)全体
以下、本実施形態に係るダブルパッカー装置1について、図面を参照して説明する。
【0012】
ダブルパッカー装置1は、注入外管8の内部において、注入外管8の中心軸に沿って移動可能に収容された薬液を吐出する装置である。ダブルパッカー装置1は、注入外管8に対し、一対のパッカー部によって、注入外管8の中心軸の任意の位置で固定された状態で薬液を吐出する。
【0013】
本実施形態に係るダブルパッカー装置1は、例えば、
図1~
図4に示す地盤注入工法に用いられる。地盤注入工法は、地盤強度の向上、透水性の低減、液状化の抑制等のために行われる工法である。まずは、地盤注入工法の概略を説明した上で、本実施形態に係るダブルパッカー装置について詳細に説明する。
【0014】
地盤注入工法では、
図1に示すように、地盤改良を行おうとする土地に対し、ケーシングパイプ5を用いて削孔して、少なくとも一つの穴9を形成する(削孔工程)。その後、
図2に示すように、穴9に対してシールグラウト材7を注入すると共に(シールグラウト注入工程)、
図3に示すように、注入外管8をケーシングパイプ5に挿入した後にケーシングパイプ5を穴9から引き抜き、注入外管8を建て込む(注入外管建込み工程)。
【0015】
その後、
図4に示すように、注入外管8に対して、注入外管8の中心軸に沿ってダブルパッカー装置1を挿入し、下から順に、地盤改良用の薬液を吐出する(薬液注入工程)。
【0016】
薬液注入工程において、ダブルパッカー装置1は、
図5に示すように、A液が通る第一流路14と、B液が通る第二流路15とが別々に形成されており、A液とB液とを同時に吐出することができる。従来の二重管ダブルパッカー注入工法では、A液の一次注入後に、ダブルパッカー装置1を地上に引き抜き、ダブルパッカー装置1の管内を洗浄した上で、再度、ダブルパッカー装置1を注入外管8に挿入して二次注入を行っていた。これに対し、本実施形態に係るダブルパッカー装置1では、B液の吐出を、A液の吐出時の位置から移動することなく行うことができるため、工期の短縮を実現することができる。
【0017】
ここでいう「A液」は、主剤のことであり、例えば、水ガラス、非アルカリ性シリカゾル、コロイダルシリカのうちのいずれか一種又は複数種が挙げられる。また、「B液」は、A液に混合すると固結を促進する薬剤であり、例えば、セメント、スラグ、消石灰のうちのいずれか一種又は複数種が挙げられる。
【0018】
(2)ダブルパッカー装置
ダブルパッカー装置1は、
図5(B)に示すように、吐出口11を有するインジェクションパイプ10と、一対のパッカー部2と、一対の駆動部4と、一対の固定部31と、一対の連結部32と、を備える。
【0019】
インジェクションパイプ10は、ダブルパッカー装置1の主体を構成する。インジェクションパイプ10は、円柱状に形成されており、その外径は、注入外管8の内径よりも小さい。インジェクションパイプ10の中心軸方向の上側の端部には、後述のロッド91が接続される接続部101が形成されている。接続部101及びロッド91については、後述の「(3.4)薬液注入工程」で詳述する。
【0020】
インジェクションパイプ10の内部には、
図5(A)に示すように、駆動部4に通じる一対の作動油流路(第一作動油流路12と第二作動油流路13)と、第一流路14と、第二流路15と、水抜き路16と、が形成されている。作動油流路12,13、第一流路14、第二流路15及び水抜き路16は、インジェクションパイプ10の中心軸(すなわち、注入外管8の中心軸)を中心として周方向に沿って並んでいる。したがって、中心軸に直交する断面において、水抜き路16、第一流路14及び第二流路15の各々は、中心が重なることなく、異なる位置に形成されている。
【0021】
第一流路14は、A液が通る流路であり、第二流路15はB液が通る流路である。第一流路14は、第二流路15に対して、断面において中心が異なる位置にある。第一流路14の下流側の端と、第二流路15の下流側の端には、それぞれ吐出口11が形成されている。
【0022】
吐出口11は、薬液を吐出する開口である。インジェクションパイプ10には、複数の吐出口11が形成されており複数の吐出口11は、インジェクションパイプ10の中心軸方向の中央部分に形成されている。ただし、本発明では、吐出口11は、インジェクションパイプ10の中心軸方向の上側又は下側に片寄った位置に形成されてもよい。吐出口11は、インジェクションパイプ10の軸方向に交差する方向(ここでは、注入外管8の中心軸に直交する仮想面に沿う方向)に開口しており、一対のパッカー部2の間に配置されている。
【0023】
複数の吐出口11の各々には、逆止弁110が設けられている。逆止弁110は、吐出口11から薬液(A液又はB液)の吐出は許容する一方、吐出口11に対して外側から内側への液体の流入は妨げる。本実施形態に係る逆止弁110は、吐出口11を覆うゴムバンドで構成されており、ゴムバンドには吐出口11に対応する位置にスリットが形成されている。吐出口11に逆止弁が設けられていることで、例えば、A液又はB液のみの吐出を行うこともできる。
【0024】
水抜き路16は、
図6(B)に示すように、インジェクションパイプ10の中心軸方向の一端面と他端面とを貫通する。ここでは、「一端面」は下端面であり、「他端面」は上端面である。水抜き路16は、後述の薬液注入工程において、注入外管8にダブルパッカー装置1を挿入する際、注入外管8内に充填された水から受ける抵抗を低減させる。水抜き路16は、第一部分161と、第二部分162と、第三部分163とが、中心軸方向に沿って通じている。第一部分161と第二部分162と第三部分163とは、下から上に向かってこの順で接続されており、下に行くほど内径が大きい。
【0025】
一対のパッカー部2は、
図5(B)に示すように、インジェクションパイプ10において、吐出口11に対する中心軸方向の両側に設けられている。各パッカー部2には、駆動部4がつながっている。各パッカー部2は、駆動部4によって、膨出位置と、非膨出位置とに切り替えられる。膨出位置は、パッカー部2が膨出しかつ注入外管8の内周面に当たる位置(
図8(A)参照)を意味する。非膨出位置は、パッカー部2が注入外管8の内周面から離れた位置(
図8(B)参照)を意味する。したがって、パッカー部2が非膨張位置にあると、ダブルパッカー装置1は、注入外管8の中心軸に沿って移動し得る。一方、パッカー部2が膨張位置にあると、ダブルパッカー装置1は、注入外管8に対して固定されるため、注入外管8の中心軸方向の任意の位置で固定される。
【0026】
パッカー部2は、
図7(B)に示すように、断面略C字状に形成されており、中空部を有する。パッカー部2は、弾性変形可能な弾性体で構成されている。弾性体としては、例えば、天然ゴム、熱可塑性エラストマ、軟質樹脂、熱硬化性エラストマ、合成ゴム等が挙げられ、熱硬化性エラストマとしては、例えば、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム等が挙げられる。
【0027】
ここで、パッカー部2において、注入外管8の中心軸に沿う方向を「幅方向」とし、インジェクションパイプ10の外周に沿う方向を「長さ方向」とする。パッカー部2は、長さ方向に連続しており、無端状に形成されている。パッカー部2は、幅方向の一端部が固定部31によってインジェクションパイプ10に対して固定され、幅方向の他端部が連結部32によって駆動部4の可動部42に対して固定されている。
【0028】
固定部31は、インジェクションパイプ10に固定されており、パッカー部2の一端部(ここでは、中心軸方向のインジェクションパイプ10の外側の端部)をインジェクションパイプ10に取り付ける。固定部31は、インジェクションパイプ10の外周に沿う方向の全長にわたって形成されており、リング状に形成されている。インジェクションパイプ10に対する固定部31の取付けは、例えば、嵌め込み、溶接、ねじ止め、ねじ込み、引っ掛け、ピン止め等により実現される。
【0029】
連結部32は、パッカー部2の幅方向のうち固定部31側の端部とは反対側の端部を駆動部4における可動部42に取り付ける。連結部32はリング状に形成されており、インジェクションパイプ10に対して上下方向に移動し得る。連結部32とパッカー部2との取付けは、例えば、嵌め込み、溶着、接着、ねじ止め、ねじ込み、ピン止め等により実現される。
【0030】
駆動部4は、パッカー部2を、膨出位置と、非膨出位置とに切り替える。本実施形態に係るダブルパッカー装置1では、
図7(B)に示すように、一対の駆動部4が、一対のパッカー部2に対して一対一で設けられている。各駆動部4は、油圧シリンダにより構成されており、一対の作動油流路12,13に接続されている。一対の駆動部4は、一対のパッカー部2を同時に非膨出位置から膨出位置に切り替え、また、一対のパッカー部2を同時に膨出位置から非膨出位置に切り替えることができる。各駆動部4は、
図8(A)(B)に示すように、シリンダチューブ41と、シリンダチューブ41に対して移動する可動部42と、を備える。
【0031】
可動部42は、シリンダチューブ41に対し、中心軸方向に沿って往復移動し得る。可動部42は、
図8(B)に示すように、中心軸方向に沿ってインジェクションパイプ10の中心側(一方向)に移動することで、各パッカー部2を膨出位置から非膨出位置に切り替える。また、可動部42は、
図8(A)に示すように、中心軸方向に沿ってインジェクションパイプ10の端部側(他方向)に移動することで、各パッカー部2を非膨出位置から膨出位置に切り替えることができる。
【0032】
可動部42は、円筒状に形成されており、インジェクションパイプ10の外周面に沿って移動し得る。可動部42の中心軸方向におけるシリンダチューブ41とは反対側の端部には、連結部32を介してパッカー部2が取り付けられている。
【0033】
シリンダチューブ41は、作動油が流出入することで可動部42を移動させる。シリンダチューブ41は、インジェクションパイプ10に対して固定されている。シリンダチューブ41の内部には、第一圧力室411と、第二圧力室412とが形成されている。第一圧力室411は、第一作動油流路12に通じている。第二圧力室412は、第二作動油流路13に通じている。
【0034】
図8(B)に示すように、第一作動油流路12から第一圧力室411に作動油が流入すると、第一圧力室411が拡がる一方、第二圧力室412が狭くなり、第二圧力室412から第二作動油流路13に作動油が排出される。すると、可動部42が膨出位置から非膨出位置に移動する。一方、
図8(A)に示すように、第二作動油流路13から第二圧力室412に作動油が流入すると、第二圧力室412が拡がる一方、第一圧力室411が狭くなり、第一圧力室411から第一作動油流路12に作動油が排出される。すると、可動部42が非膨出位置から膨出位置に移動する。
【0035】
したがって、可動部42が、シリンダチューブ41から突出する方向に移動すると、
図8(A)に示すように、固定部31と連結部32とが近接し、パッカー部2の幅方向の一端部と他端部とが近接する。すると、パッカー部2の幅方向の一端部と他端部との間の部分が、インジェクションパイプ10の径方向の外側に膨らみ、注入外管8の内周面に当たり、これによりパッカー部2は非膨張位置から膨張位置に切り替えられる。
【0036】
これに対し、可動部42が、シリンダチューブ41に引き込まれる方向に移動すると、
図8(B)に示すように、固定部31と連結部32とが離れ、パッカー部2の幅方向の一端部と他端部とが離れる。すると、パッカー部2の幅方向の一端部と他端部との間の部分が平坦な状態となり、当該部分が注入外管8の内周面から離れる。これによりパッカー部2は膨張位置から非膨張位置に切り替えられる。
【0037】
このように、本実施形態に係るダブルパッカー装置1によれば、パッカー部2が膨張位置から非膨張位置に切り替えられるに当たり、パッカー部2の弾性力で復元するのではなく、可動部42の動きによって強制的に切り替えることができる。このため、非膨張位置に対する膨張位置のパッカー部2の変形率が大きくても、適切に非膨張位置に切り替えることができる。また、パッカー部2が可動部42の動作によって非膨張位置と膨張位置との間で切り替えられるため、パッカー部2の動作を安定させることができる。この結果、薬液注入工程において、ダブルパッカー装置1を注入外管8の中心軸に沿って移動させようとした際に、パッカー部2が非膨張位置に切り替えられない等の動作不良を回避することができる。
【0038】
(3)地盤注入工法
地盤注入工法は、
図9に示すように、削孔工程ST1と、シールグラウト注入工程ST2と、注入外管建込み工程ST3と、薬液注入工程ST4と、を備える。
【0039】
(3.1)削孔工程
削孔工程は、
図1に示すように、地盤に削孔を行って、地盤に少なくとも一つの穴9(ボーリング孔)を形成する工程である。削孔工程では、削孔機6を用いて、地盤に対して穴9を形成する。穴9の軸方向は、地盤に対して直交し、鉛直方向に略平行である。ただし、本発明では、穴9の軸方向は、鉛直方向に限らず、鉛直方向に対して傾いていてもよいし、地盤に対して直交していなくてもよい。
【0040】
削孔機6は、ケーシングパイプ5を用いて、地盤に削孔する。削孔機6としては、ロータリー式削孔機、バックホウ式削孔機、吊り式削孔機、ロータリーパーカッション式削孔機等が挙げられる。
【0041】
本実施形態に係るダブルパッカー装置1は、膨張位置にあるパッカー部2の外径を大きくしても、安定して非膨張位置に切り替えることが可能であるため、削孔用のケーシングパイプ5の外径を大きくすることができる。本実施形態に係るケーシングパイプの呼び径は、例えば、175A以上300A以下であることが好ましく、より好ましくは、200Aである。ここで、呼び径175Aは、外径190.7mm程度、呼び径300Aは外径318.5mm程度、呼び径200Aは、外径216.3mm程度に対応する。このため、本実施形態に係るダブルパッカー装置1では、ケーシングパイプ5の剛性を高くすることができ、削孔の精度を高くすることができる。
【0042】
(3.2)シールグラウト注入工程
シールグラウト注入工程は、
図2に示すように、ケーシングパイプ5で削孔した穴9に、シールグラウト材7を注入する工程である。地盤に埋まっているケーシングパイプ5に対して注入パイプ70を挿し入れ、シールグラウト材7を注入することで、穴9内にシールグラウト材7が充填される。
【0043】
(3.3)注入外管建込み工程
注入外管建込み工程は、シールグラウト注入工程の後、削孔工程で形成された穴9に対し、注入外管8を建て込む工程である。注入外管建込み工程は、
図3(A)に示すように、注入外管8を、削孔工程で埋め込まれたケーシングパイプ5内に上から挿し入れる。
【0044】
このとき、ケーシングパイプ5内にはシールグラウト材7が充填されているため、浮力によって注入外管8を挿し入れにくい。このため、注入外管建込み工程では、注入外管8の内部に水W1を注ぎながら、注入外管8を挿し入れてゆく。
【0045】
注入外管8をケーシングパイプ5に挿し入れた後、ケーシングパイプ5を穴9から引き抜き、ケーシングパイプ5を穴9から取り出す。これによって、注入外管8を穴9に建て込むことができる。
【0046】
注入外管8は、
図3(A)に示すように、複数の注入口82を有する外管本体81と、逆止弁83と、を備える。外管本体81は、注入外管8の主体を構成する部分であり、ケーシングパイプ5の内径よりも外径が小さいパイプによって構成される。外管本体81は、例えば、金属、合成樹脂、ガラス繊維、繊維強化プラスチック、カーボン等により構成される。
【0047】
外管本体81には、上下方向に沿って一定の間隔をおいて複数の注入口82が形成される。注入口82のピッチは、0.1以上1.0m以下に設定されることが好ましい。各注入口82は、外管本体81を径方向に貫通する。また、外管本体81には、軸方向において同じ位置に、円周方向に一定の間隔をおいて複数の注入口82が形成される。各注入口82は、丸穴であってもよいし、スリット状の穴であってもよい。
【0048】
ここで、本実施形態では、外管本体81の外径は、例えば、100mm以上であり、より具体的には、140mm(VP125A)である。外管本体81の外径を大きくできると、周方向の長さも長くできるため、注入口82の周方向に並ぶ数量を多くすることができる。周方向に並ぶ注入口82の数量が多いと、薬液の浸透範囲が広がることから、上下方向に並ぶ注入口82のピッチを広げることができる。また、注入口82が増えることで、薬液の吐出速度を抑えたまま全体としての吐出量を増やすことができるため、割裂注入を起こすことなく、効果的な浸透注入を行うことができる。
【0049】
逆止弁83は、注入口82に対し、外側から内側に向かう液体の流れを妨げ、かつ内側から外側に向かう流体の通過を許容する。逆止弁83は、注入口82を覆う筒状のゴムベルトで構成されている。ゴムベルトは、外管本体81に巻かれることで、外管本体81の外周面に取り付けられている。ゴムベルトには、注入口82に対応する位置(すなわち注入口82に通じる位置)にスリットが形成されている。スリットは、厚み方向の内側(注入口82側)から圧力が加わると開口する一方、外側から圧力が加わっても開口せずに閉じた状態を保つ。
【0050】
(3.4)薬液注入工程
薬液注入工程は、
図4に示すように、ダブルパッカー装置1を用いて、薬液を注入する工程である。薬液注入工程では、
図3(B)に示すように、注入外管建込み工程の後、ダブルパッカー装置1を注入外管8に挿し入れる。
【0051】
このとき、注入外管8には水W1が充填されているが、ダブルパッカー装置1には水抜き路16が形成されている。このため、比較的容易に、注入外管8の下端部にダブルパッカー装置1を配置することができる。
【0052】
ダブルパッカー装置1は、注入外管8の内部において、軸方向に沿って移動しうる。したがって、ダブルパッカー装置1は、注入外管8の下から上に向かって移動し、所定位置で、パッカー部2を膨張位置に切り替えることで、注入外管8の内周面に対して固定される。そして、この状態で、吐出口11から、A液及びB液を吐出する。A液及びB液は、注入外管8、インジェクションパイプ10及び一対のパッカー部2に囲まれた空間内に充填され、注入外管8の注入口82と逆止弁83とを通って、注入外管8から出る。
【0053】
注入外管8から出た薬液は、シールグラウト材7をクラッキングし、地盤に浸透する。本実施形態では、A液とB液とが混ざり合った状態で注入外管8から出るため、薬液を比較的早く固結させることができる。薬液は、A液とB液の配合比率を調整すれば、固結時間を調整することができるため、現場に応じた固結時間を設定することができる。したがって、本実施形態に係る地盤注入工法によれば、地下水の流速が速い箇所にも適切に施工することができる。
【0054】
本実施形態に係るダブルパッカー装置1は、インジェクションパイプ10の接続部101に取外し可能に取り付けられるロッド91を備える。ロッド91は、一対の作動油流路(第一作動油流路12と第二作動油流路13)と、第一流路14と、第二流路15とに接続される配管とは別に接続される。ロッド91は、剛性を有しており、例えば、鋼、スチール、ステンレス、チタン、アルミニウム等の金属、セラミック、高強度樹脂等により構成される。ロッド91によれば、ダブルパッカー装置1を注入外管8の下端部に向かって押し込むことができる。
【0055】
本明細書でいう「剛性を有する」とは、水W1が充填された注入外管8にインジェクションパイプ10を押し込むことができる程度の曲がりにくさを有することを意味する。また、ロッドは、中空であってもよいし、中実であってもよい。
【0056】
インジェクションパイプ10とロッド91との接続は、例えば、ねじ込み、嵌め込み、ピン止め、ねじ止め、凹凸嵌合等により実現される。本実施形態に係る接続部101は、雄ねじにより構成されている。
【0057】
<変形例>
上記実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下、実施形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0058】
薬液注入工程での薬液の注入は、下から上に向かって順に薬液の吐出を行うステップアップ方式を採用しているが、本発明では、上から下に向かって薬液の吐出を行うステップダウン方式を採用してもよい。
【0059】
上記実施形態では、逆止弁110,83にはスリットが形成されていたが、スリットが形成されていないゴムベルトで形成されてもよい。この場合、ゴムベルトに対して内圧が加わると、ゴムベルトの幅方向の端部から薬液が吐出される。
【0060】
上記実施形態に係るダブルパッカー装置1は、一対の作動油流路(第一作動油流路12と第二作動油流路13)、第一流路14及び第二流路15に接続される配管とは別に、剛性のあるロッド91が接続されるが、本発明では、ロッド91の内部に当該配管が収容されてもよい。
【0061】
上記実施形態では、可動部42が移動することによって、パッカー部2を膨出位置から非膨出位置に切り替えたが、本発明では、パッカー部2を非膨出位置から膨出位置に切り替える際、空気又は水等の注入材を注入して膨張させ、膨出位置から非膨出位置に切り替えるときのみ、可動部42で切り替えてもよい。
【0062】
本明細書にて、「略平行」、又は「略直交」のように「略」を伴った表現が、用いられる場合がある。例えば、「略平行」とは、実質的に「平行」であることを意味し、厳密に「平行」な状態だけでなく、数度程度の誤差を含む意味である。他の「略」を伴った表現についても同様である。
【0063】
また、本明細書において「端部」及び「端」などのように、「…部」の有無で区別した表現が用いられている。例えば、「端部」とは、「端」を含む一定の範囲を持つ部分を意味する。他の「…部」を伴った表現についても同様である。
【0064】
<まとめ>
以上説明したように、第1の態様に係るダブルパッカー装置1は、注入外管8に対し当該注入外管8の中心軸に沿って移動可能に収容され、中心軸方向の任意の位置で吐出口11から薬液を吐出可能なダブルパッカー装置1である。ダブルパッカー装置1は、吐出口11を有するインジェクションパイプ10と、インジェクションパイプ10における吐出口11に対する中心軸方向の両側に設けられた一対のパッカー部2と、駆動部4と、を備える。駆動部4は、インジェクションパイプ10に設けられ、一対のパッカー部2の各々を、注入外管8の内周面に当たる膨出位置と内周面から離れる非膨出位置とで切り替える。駆動部4は、中心軸方向に沿って一方向に移動することで、少なくとも一つのパッカー部2を膨出位置から非膨出位置に切り替える可動部42を有する。
【0065】
この態様によれば、パッカー部2を膨出位置から非膨出位置に切り替える際に、可動部42の動作によって切り替えることができるため、パッカー部2が膨出位置から非膨出位置に切り替わらない事態を回避することができる。
【0066】
第2の態様に係るダブルパッカー装置1では、第1の態様において、可動部42は、非膨出位置から一方向とは反対方向の他方向に移動することで、パッカー部2を膨出位置に切り替える。
【0067】
この態様によれば、可動部42の往復動作によって、パッカー部2を膨出位置と非膨出位置との間で切り替えることができ、パッカー部2の動作を安定させることができる。
【0068】
第3の態様に係るダブルパッカー装置1では、第2の態様において、各パッカー部2は、中心軸方向に沿って幅を有しかつ中心軸を中心とする周方向の全長にわたって形成された弾性体で構成されている。弾性体の幅方向の一端部がインジェクションパイプ10に対して固定され、幅方向の他端部が可動部42に対して固定されている。弾性体は、可動部42がパッカー部2を膨出位置に切り替えると、弾性体の一端部と他端部との間が注入外管8の内周面に当たるように構成されている。
【0069】
この態様によれば、パッカー部2が膨出位置から非膨出位置に切り替えられる際に、可動部42に弾性力による復元力も加わるため、可動部42をスムーズに動作させることができる。
【0070】
第4の態様に係るダブルパッカー装置1では、第1~3のいずれか1つの態様において、駆動部4は、インジェクションパイプ10に対して固定されかつ可動部42が移動可能に取り付けられるシリンダチューブ41を有する。インジェクションパイプ10には、シリンダチューブ41に対して作動油の流出入を行う作動油流路12,13が形成されている。
【0071】
この態様によれば、可動部42を油圧により動作させることができるため、パッカー部2の切り替えを、より安定して動作させることができる。
【0072】
第5の態様に係るダブルパッカー装置1では、第4の態様において、インジェクションパイプ10は吐出口11を複数有する。インジェクションパイプ10は、インジェクションパイプ10の内部において中心軸方向に沿って形成され、複数の吐出口11のうちの一の吐出口11につながる第一流路14と、インジェクションパイプ10の内部において中心軸方向に沿って形成され、一の吐出口11とは別の吐出口11につながる第二流路15と、を有する。作動油流路12,13、第一流路14及び第二流路15は、インジェクションパイプ10の中心軸方向に直交する断面において異なる位置に形成されている。
【0073】
この態様によれば、同心円状に流路を形成する構造に比べて、インジェクションパイプ10の径を比較的小さくすることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 ダブルパッカー装置
10 インジェクションパイプ
11 吐出口
12 第一作動油流路(作動油流路)
13 第二作動油流路(作動油流路)
14 第一流路
15 第二流路
2 パッカー部
4 駆動部
41 シリンダチューブ
42 可動部