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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】無線通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04B 11/00 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
H04B11/00 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019183233
(22)【出願日】2019-10-03
(65)【公開番号】P2021061484
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 賢一
(72)【発明者】
【氏名】菅 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】松田 隆志
(72)【発明者】
【氏名】児島 史秀
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-061159(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0192576(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0020935(US,A1)
【文献】特開昭63-151133(JP,A)
【文献】特開2014-093676(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0198536(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に設けられた水中端末を含む複数の端末間で、電波を利用して信号を送受信する無線通信システムであって、
前記端末に取付けられたセンサを用いて計測された水中の通信環境に関する水中環境データを取得する取得手段と、
前記水中環境データに基づき、信号を送信する際のパラメータを設定する設定手段と、
前記パラメータに基づき、送信するデータに対する送信信号を生成し、前記送信信号を送信する送信手段と、
を備え
前記水中環境データは、前記水中端末が設けられた水中の導電率を含み、
前記取得手段は、前記水中端末に取り付けられた前記センサを用いて計測された前記導電率を含む前記水中環境データを取得すること
を特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
水中に設けられた水中端末を含む複数の端末間で、電波を利用して信号を送受信する無線通信システムであって、
前記端末に取付けられたセンサを用いて計測された水中の通信環境に関する水中環境データを取得する取得手段と、
前記水中環境データに基づき、信号を送信する際のパラメータを設定する設定手段と、
前記パラメータに基づき、送信するデータに対する送信信号を生成し、前記送信信号を送信する送信手段と、
を備え
前記取得手段は、前記センサが取り付けられた第1端末から送信された前記水中環境データを、第2端末が取得する水中環境データ取得手段を有すること
を特徴とする無線通信システム。
【請求項3】
水中に設けられた水中端末を含む複数の端末間で、電波を利用して信号を送受信する無線通信システムであって、
前記端末に取付けられたセンサを用いて計測された水中の通信環境に関する水中環境データを取得する取得手段と、
前記水中環境データに基づき、信号を送信する際のパラメータを設定する設定手段と、
前記パラメータに基づき、送信するデータに対する送信信号を生成し、前記送信信号を送信する送信手段と、
を備え
前記設定手段は、予め取得された過去の水中環境データ、及び過去のパラメータを含む履歴情報を参照し、前記取得手段で取得された前記水中環境データに含まれる複数のデータ間に関連性を有する場合に、現状の通信環境に適した前記パラメータを設定する参照手段を有すること
を特徴とする無線通信システム。
【請求項4】
水中に設けられた水中端末を含む複数の端末間で、電波を利用して信号を送受信する無線通信システムであって、
前記端末に取付けられたセンサを用いて計測された水中の通信環境に関する水中環境データを取得する取得手段と、
前記水中環境データに基づき、信号を送信する際のパラメータを設定する設定手段と、
前記パラメータに基づき、送信するデータに対する送信信号を生成し、前記送信信号を送信する送信手段と、
を備え
前記送信手段は、水底に設けられた水底端末に対し、水中を移動する前記水中端末から前記送信信号を送信すること
を特徴とする無線通信システム。
【請求項5】
水中に設けられた水中端末を含む複数の端末間で、電波を利用して信号を送受信する無線通信システムであって、
前記端末に取付けられたセンサを用いて計測された水中の通信環境に関する水中環境データを取得する取得手段と、
前記水中環境データに基づき、信号を送信する際のパラメータを設定する設定手段と、
前記パラメータに基づき、送信するデータに対する送信信号を生成し、前記送信信号を送信する送信手段と、
を備え
前記送信手段は、水中に設けられた基地端末に対し、水中を移動する2つ以上の前記水中端末から前記送信信号を送信すること
を特徴とする無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に設けられた水中端末を含む複数の端末間で信号を送受信する無線通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、海中等の水中における資源探査や、資源管理における自動化を目的として、例えば自律型無人潜航艇(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)と、海中センサや母船との間に用いられる無線通信技術が注目されている。海中における無線通信技術としては、例えば音響技術や光技術を利用した方式が提案されている。
【0003】
しかしながら、音響技術を用いた場合、数kbps程度の低速データ通信に限定されるため、資源探査等により収集される大容量データ伝送には適していない。上記に加え、音響技術では、浅海域や海面近傍において生じる長遅延の反射波により、高いスループット等を維持することが難しい。
【0004】
また、光技術を用いた場合、10Mbps超の通信が行えるものの、送受信間における精密な光軸合わせが必要になるため、機械的な制御等、無線端末の構成が複雑になるという事情がある。上記に加え、光技術では、海水等の濁度の高い水中において生じる光散乱により、高いスループット等を維持することが難しい。
【0005】
これらに対し、例えば特許文献1では、音響技術に加えて電波を利用した無線通信技術が提案されている。特許文献1では、2つのトランシーバシステムにより、無線データ又は音響データ転送の選択を可能にする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2011/0177779号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、海中等の水中において無線通信を実施する場合、電波の減衰量は大気中等に比べて大きい傾向にある。特に、水の導電率や、潮流等による送受信用アンテナの揺動等のような通信環境によって、電波の減衰量が大きく変動する。このため、水中で無線通信を利用した場合における高スループットの維持や、制御通信における遅延時間保証を目的とした通信途絶時間の解消するためには、電波の減衰量の変動が生じる場合においても、安定した無線通信を実現することが望まれている。この点、特許文献1の開示技術では、無線データ又は音響データ転送の選択をする旨の開示に留まり、水中において安定した無線通信を実現することが難しい。
【0008】
そこで本発明は、上述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、水中において安定した無線通信を実現することができる無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した問題点を解決するために、水中に設けられた水中端末を含む複数の端末間で、電波を利用して信号を送受信する無線通信システムを発明した。取得手段は、端末に取付けられたセンサを用いて計測された水中の通信環境に関する水中環境データを取得する。設定手段は、水中環境データに基づき、信号を送信する際のパラメータを設定する。送信手段は、パラメータに基づき、送信するデータに対する送信信号を生成し、送信信号を送信する。
【0010】
請求項1に記載の無線通信システムは、水中に設けられた水中端末を含む複数の端末間で、電波を利用して信号を送受信する無線通信システムであって、前記端末に取付けられたセンサを用いて計測された水中の通信環境に関する水中環境データを取得する取得手段と、前記水中環境データに基づき、信号を送信する際のパラメータを設定する設定手段と、前記パラメータに基づき、送信するデータに対する送信信号を生成し、前記送信信号を送信する送信手段と、を備え、前記水中環境データは、前記水中端末が設けられた水中の導電率を含み、前記取得手段は、前記水中端末に取り付けられた前記センサを用いて計測された前記導電率を含む前記水中環境データを取得することを特徴とする。
【0012】
請求項に記載の無線通信システムは、水中に設けられた水中端末を含む複数の端末間で、電波を利用して信号を送受信する無線通信システムであって、前記端末に取付けられたセンサを用いて計測された水中の通信環境に関する水中環境データを取得する取得手段と、前記水中環境データに基づき、信号を送信する際のパラメータを設定する設定手段と、前記パラメータに基づき、送信するデータに対する送信信号を生成し、前記送信信号を送信する送信手段と、を備え、前記取得手段は、前記センサが取り付けられた第1端末から送信された前記水中環境データを、第2端末が取得する水中環境データ取得手段を有することを特徴とする。
【0013】
請求項に記載の無線通信システムは、水中に設けられた水中端末を含む複数の端末間で、電波を利用して信号を送受信する無線通信システムであって、前記端末に取付けられたセンサを用いて計測された水中の通信環境に関する水中環境データを取得する取得手段と、前記水中環境データに基づき、信号を送信する際のパラメータを設定する設定手段と、前記パラメータに基づき、送信するデータに対する送信信号を生成し、前記送信信号を送信する送信手段と、を備え、前記設定手段は、予め取得された過去の水中環境データ、及び過去のパラメータを含む履歴情報を参照し、前記取得手段で取得された前記水中環境データに含まれる複数のデータ間に関連性を有する場合に、現状の通信環境に適した前記パラメータを設定する参照手段を有することを特徴とする。
【0014】
請求項に記載の無線通信システムは、水中に設けられた水中端末を含む複数の端末間で、電波を利用して信号を送受信する無線通信システムであって、前記端末に取付けられたセンサを用いて計測された水中の通信環境に関する水中環境データを取得する取得手段と、前記水中環境データに基づき、信号を送信する際のパラメータを設定する設定手段と、前記パラメータに基づき、送信するデータに対する送信信号を生成し、前記送信信号を送信する送信手段と、を備え、前記送信手段は、水底に設けられた水底端末に対し、水中を移動する前記水中端末から前記送信信号を送信することを特徴とする。
【0015】
請求項に記載の無線通信システムは、水中に設けられた水中端末を含む複数の端末間で、電波を利用して信号を送受信する無線通信システムであって、前記端末に取付けられたセンサを用いて計測された水中の通信環境に関する水中環境データを取得する取得手段と、前記水中環境データに基づき、信号を送信する際のパラメータを設定する設定手段と、前記パラメータに基づき、送信するデータに対する送信信号を生成し、前記送信信号を送信する送信手段と、を備え、前記送信手段は、水中に設けられた基地端末に対し、水中を移動する2つ以上の前記水中端末から前記送信信号を送信することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
上述した構成からなる本発明によれば、設定手段は、水中環境データに基づき、信号を送信する際のパラメータを設定する。このため、水中において電波の減衰量を変動させる要因を考慮した上で、信号を生成する際のパラメータを設定することができる。これにより、水中において安定した無線通信を実現することが可能となる。従って、例えば水中における高スループットの維持や、制御通信における遅延保証を目的とした通信途絶時間の解消が期待できる。
【0017】
また、上述した構成からなる本発明によれば、取得手段は、水中端末に取り付けられたセンサを用いて計測された導電率を取得してもよい。この場合、水中において電波の減衰量を変動させる主要因とされる導電率を取得することで、通信環境に適したパラメータを設定することができる。これにより、安定した無線通信を容易に実現することが可能となる。また、導電率を計測するセンサは、水中端末の水中移動や作業等を実施する際に用いるセンサとして併用することができ、新たに取り付ける必要が無い。このため、水中端末の複雑化や重量増加等を抑制することが可能となる。
【0018】
また、上述した構成からなる本発明によれば、水中環境データ取得手段は、センサが取り付けられた第1端末から送信された水中環境データを、第2端末が取得してもよい。この場合、センサが取り付けられていない第2端末においても、通信環境に適したパラメータを設定することができる。これにより、端末の軽量化を実現することが可能となる。
【0019】
また、上述した構成からなる本発明によれば、参照手段は、過去の水中環境データ及び過去のパラメータを含む履歴情報を参照し、取得手段で取得された水中環境データに含まれる複数のデータ間に関連性を有する場合に、現状の通信環境に適したパラメータを設定してもよい。この場合、これまでに蓄積された履歴情報を踏まえて、現状の通信環境に適したパラメータを容易に設定することができる。これにより、水中環境データに含まれる複数のデータ間に関連性を有する場合においても、定量的にパラメータを設定することが可能となる。
【0020】
また、上述した構成からなる本発明によれば、送信手段は、水底端末に対し、水中端末から送信信号を送信してもよい。この場合、水底の砂等によって水底端末のアンテナが埋もれた場合においても、信号を受信させることができる。これにより、通信に光技術を用いた場合に比べて、水底端末のメンテナンスに必要な工数を削減することが可能となる。
【0021】
また、上述した構成からなる本発明によれば、送信手段は、基地端末に対し、2つ以上の水中端末から送信信号を同時に送信してもよい。この場合、基地端末が備える1つのアンテナを用いて、複数の水中端末から送信された信号を受信できる。これにより、通信に光技術を用いた場合に比べて、複数の水中端末から信号を受信するための光軸合わせの工数等を削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本実施形態における無線通信システムの一例を示す模式図である。
図2図2は、信号フレームの一例を示す模式図である。
図3図3は、端末の構成の一例を示す模式図である。
図4図4は、本実施形態における無線通信システムの一例を示すフローチャートである。
図5図5(a)及び図5(b)は、設定手段の一例を示す模式図である。
図6図6(a)は、実施例におけるシミュレーションの条件を示す図であり、図6(b)は、実施例におけるシミュレーションに用いた通信距離の変化モデルを示す模式図であり、図6(c)は、実施例におけるシミュレーションに用いた各条件の時間変化を示す模式図である。
図7図7(a)~(d)は、実施例におけるシミュレーションの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(無線通信システム100)
以下、本発明における実施形態の無線通信システム100の一例について詳細に説明する。図1は、本実施形態における無線通信システム100の一例を示す模式図である。
【0024】
無線通信システム100は、図1に示すように、複数の端末1を備え、複数の端末1間における信号の送受信に利用される。無線通信システム100は、主に海中や河川等の水中9を介した無線通信(例えば10m程度の近距離無線通信)を実現するために利用される。
【0025】
無線通信システム100では、水中9の通信環境に関する水中環境データに基づき、信号を送信する際のパラメータを設定することができる。このため、水中9において電波(信号強度)の減衰量を変動させる要因を考慮した上で、信号を生成する際のパラメータを設定することができる。これにより、水中9において安定した無線通信を実現することが可能となる。
【0026】
<水中環境データ>
水中環境データは、例えば端末1に取り付けられたセンサ24から取得される。水中環境データは、例えば水中9の導電率を含み、この場合センサ24として、CTD(Conductivity Temperature Depth profiler)計等が用いられる。水中環境データは、センサ24の種類に応じて任意のデータを含むことができ、詳細は後述する。
【0027】
水中環境データは、例えば端末1が受信したデータのSNR(Signal-Noise Ratio)実測値を含んでもよい。この場合、SNR実測値に基づき、信号を送信する際のSNR予測値を算出することで、通信環境に適したパラメータの精度向上を図ることができる。
【0028】
<パラメータ>
パラメータは、例えば周波数、チャネル帯域幅、空中線電力、変調方式、連送回数、及び誤り訂正符号の符号化率の少なくとも何れかを含む。パラメータは、例えば図2に示す信号フレームの特徴を決める情報を含み、例えばペイロード時間長を含む。パラメータは、複数送信アンテナを使用する際、各アンテナからの送信方式(例えばアンテナ毎に同じデータを異なる符号化により送信するのか、又は別のデータを符号化して送信するのか等)を含んでもよい。
【0029】
<端末1>
複数の端末1は、水中9に設けられた水中端末11(図1では11a、11b)を含み、例えば水中9に設けられた基地端末12、水底91に設けられた水底端末13、及び水上92に設けられた水上端末14の少なくとも何れかを含んでもよい。各端末1は、水中9を介して信号の送受信を行う。
【0030】
水中端末11は、水中9を移動し、例えば水中9における資源探査や資源管理に用いられる。水中端末11として、例えば自律型無人潜航艇(AUV:Autonomous Underwater Vehicle)が用いられる。
【0031】
水中端末11は、例えば水中9の移動、資源探査、資源管理等に用いるためのセンサ24を用いて、水中環境データを取得する。この場合、無線通信システム100を実現するために、水中端末11に対して新たなセンサ24を取り付ける必要がない。このため、水中端末11の軽量化や部品コストの低減を図ることが可能となる。
【0032】
基地端末12は、少なくとも一部が水中9に設けられ、例えば水中端末11から得られた資源探査や資源管理に関するデータを取得し、蓄積する。基地端末12として、例えば船舶等(母船)が用いられるほか、洋上ブイ等の装置や海中・海底近傍に設置される水中端末の一時的な繋留設備が用いられてもよい。
【0033】
基地端末12は、例えば水中端末11を格納する構造を有する。この場合、例えば無線通信システム100を利用して、水中端末11を格納するための位置合わせに必要な信号の送受信を行ってもよい。
【0034】
基地端末12は、例えば接触又は非接触で水中端末11の給電を行える構造を有してもよい。この場合、例えば無線通信システム100を利用して、水中端末11に給電するための位置合わせに必要な信号の送受信を行ってもよい。
【0035】
水底端末13は、例えば水中9又は水底91の環境等をモニタリングし、水中端末11等にモニタリングの結果を示す信号を送信する。水底端末13は、例えば水質をモニタリングするためのセンサ24や、水底91に設けられたパイプライン等のような構造物の状態をモニタリングするためのセンサ24を含む。
【0036】
水上端末14は、水上92及び水中9を介して、水中端末11等に対して信号の送受信を行う。水上端末14として、例えばドローン等の通信機能付飛行装置が用いられるほか、例えば陸上に設けられた通信機能付装置が用いられる。
【0037】
端末1は、例えば図3に示すように、制御部21と、通信制御部21aと、送信部22aと、受信部22bと、アンテナ22cと、記憶部23とを有し、例えばセンサ24を有してもよく、各構成は例えば内部バスにより接続される。
【0038】
<制御部21>
制御部21は、端末1全体の動作制御を実行する。制御部21として、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサが用いられる。
【0039】
<通信制御部21a>
通信制御部21aは、水中環境データに基づき、信号を送信する際のパラメータを設定する。通信制御部21aは、センサ24、記憶部23、又は受信したデータから水中環境データを取得する。
【0040】
<送信部22a>
送信部22aは、パラメータに基づき、送信するデータに対する送信信号を生成し、送信信号を送信する。送信部22aは、通信制御部21aにより設定されたパラメータを取得する。送信部22aは、送信するデータに対して、パラメータに基づく符号化及び変調を行い、送信信号を生成する。送信部22aは、アンテナ22cを介して、他の端末1に対して送信信号を送信する。
【0041】
<受信部22b>
受信部22bは、アンテナ22cを介して、他の端末1から送信信号を受信する。受信部22bは、受信した送信信号の復調及び復号を行い、データを復元する。受信部22bは、例えば他の端末1から水中環境データを取得してもよい。
【0042】
<アンテナ22c>
アンテナ22cは、端末1に1つ以上設けられる。複数アンテナを送信及び受信に併用してもよい。アンテナ22cは、例えばデータの送信及び受信に併用されてもよい。
【0043】
<記憶部23>
記憶部23は、他の端末1から受信したデータや、SNR実測値、センサ24等で取得された水中環境データ、通信制御部21aで設定されたパラメータ等の各種データが記憶される。記憶部23として、例えばHDD(Hard Disk Drive)のほか、SSD(solid state drive)等のデータ保存装置が用いられる。記憶部23には、例えばRAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)を含み、端末1により実行されるプログラム等が記憶される。なお、端末1により実行される各機能は、制御部21が、RAMを作業領域として、記憶部23に記憶されたプログラムを実行することにより実現することができる。
【0044】
記憶部23には、例えば予め取得された履歴情報が記憶される。履歴情報は、過去の水中環境データ、過去のSNR実測値、及び過去のパラメータを含む。履歴情報は、例えば過去の水中環境データと、過去のパラメータとを一対とした学習データを複数用いて、公知技術の機械学習により構築されてもよい。
【0045】
<センサ24>
センサ24は、上述したCTD計のほか、例えば傾斜計、及びカメラの少なくとも何れかを含んでもよい。センサ24は、例えば複数取り付けられてもよい。
【0046】
例えばセンサ24としてCTD計が用いられた場合、水中環境データは、温度、深度、導電率の少なくとも何れかを含む。例えばセンサ24として傾斜計が用いられた場合、水中環境データは、端末1の向き、アンテナ22cの向き、及び端末1の傾斜角度の少なくとも何れかを含む。例えばセンサ24としてカメラが用いられた場合、水中環境データは、他の端末1との距離、水中9の濁度、他の端末1との間における障害物の有無の少なくとも何れかを含む。
【0047】
例えばセンサ24として、流速計が用いられてもよい。この場合、水中環境データは、水中9の流速を含む。例えばセンサ24として水中における位置情報が取得できるセンサが用いられてもよい。この場合、水中環境データは、端末1の位置を含む。
【0048】
(無線通信システム100の動作)
次に、本実施形態における無線通信システム100の動作について説明する。図4は、本実施形態における無線通信システム100の動作の一例を示すフローチャートである。
【0049】
無線通信システム100は、取得手段S110と、設定手段S120と、送信手段S130とを備える。
【0050】
<取得手段S110>
取得手段S110は、センサ24を用いて計測された水中環境データを取得する。例えば通信制御部21aは、端末1内で接続されたセンサ24から水中環境データを取得する。通信制御部21aは、例えば一定周期毎に水中環境データを取得するほか、データの送信が必要なタイミングで水中環境データを取得してもよい。通信制御部21aは、例えば一定期間におけるデータの平均、最大値、最小値、積算値等の演算処理や、予め設定された閾値等との比較処理を行った結果を、水中環境データとして取得してもよい。
【0051】
通信制御部21aは、例えば図5(a)に示すように、他の端末1から受信した信号(受信フレーム)におけるSHR0及びSHR1のそれぞれで計測されたSNR実測値(図5(a)では実測値A、実測値B)を、水中環境データに含ませてもよい。この場合、例えば信号におけるペイロードを利用して、SNR実測値を計測してもよい。
【0052】
取得手段S110は、例えば水中環境データ取得手段を有してもよい。この場合、通信制御部21aは、例えば受信部22bを介して、他の端末1のセンサ24で取得及び送信された水中環境データを取得する。このため、例えば自端末1(第2端末)に取り付けられていないセンサ24から得られる水中環境データを、センサ24が取り付けられた他の端末1(第1端末)から取得することができる。また、他の端末1により取得された水中環境データを自端末1が取得することで、他の端末1が信号を受信する際の環境に応じたパラメータを設定することができ、より安定した無線通信を実現することが可能となる。
【0053】
<設定手段S120>
設定手段S120は、水中環境データに基づき、信号を送信する際のパラメータを設定する。例えば、導電率が高くなるにつれて海水における単位距離あたりの減衰量が増加し、SNR値が低くなることから、変調多値数を低くするもしくは連送回数を多くするなど、安定した無線通信を実現できるようにパラメータを設定する。通信制御部21aは、例えば予め設定された閾値に基づき、パラメータを設定する。
【0054】
通信制御部21aは、例えば図5(a)に示すように、水中環境データに含まれるSNR実測値に基づき、信号の送信時におけるSNR予測値を算出し、SNR予測値に基づくパラメータを設定してもよい。この場合、例えば他の端末1から受信した信号(受信フレーム)から計測されるSHR0のタイミングに対応するSNR実測値A、及びSHR1のタイミングに対応するNR実測値B、をそれぞれ時間軸及びSNR軸にプロットし、実測値A及び実測値Bを結ぶ線(図5(a)の一点鎖線)から、信号を他の端末1が送信信号(送信フレーム)を受信するタイミングまで線形補間(図5(a)の破線)することで、SNR予測値を算出する。その後、例えば図5(b)に示すSNRに対するエラー率(FER:Frame Error Rate)の関係を参照し、SNR予測値に対するエラー率特性に基づき、最適な変調方式及び連送回数等のパラメータを設定してもよい。
【0055】
設定手段S120は、例えば参照手段を有してもよい。この場合、通信制御部21aは、例えば記憶部23に記憶された履歴情報を参照し、水中環境データに基づくパラメータを設定する。この場合、例えば水中環境データに最も類似する過去の水中環境データを選択し、選択された過去の水中環境データに紐づく過去のパラメータを、パラメータとして設定する。これにより、過去に用いた最善のパラメータを再現することができる。
【0056】
<送信手段S130>
送信手段S130は、パラメータに基づき、送信するデータに対する送信信号を生成し、送信信号を送信する。送信部22aは、例えば通信制御部21aからパラメータを取得し、生成する送信信号のペイロード時間長等を設定する。送信部22aは、例えばパラメータに含まれる連送回数等を送信条件として、送信信号を他の端末1に送信する。これにより、通信環境に適した信号の送信を行うことができる。送信手段S130は、例えば基地端末12に対し、2つ以上の水中端末11から送信信号を同時に送信してもよい。この場合、基地端末12が備える1つのアンテナ22cを用いて、複数の水中端末11から送信された信号を受信できる。
【0057】
これにより、本実施形態における無線通信システム100の動作が終了する。
【0058】
(実施例)
次に、本実施形態における無線通信システム100の実施例について説明する。図6(a)は、実施例におけるシミュレーションの条件を示す図であり、図6(b)は、実施例におけるシミュレーションに用いた通信距離の変化モデルを示す模式図であり、図6(c)は、実施例におけるシミュレーションに用いた各条件の時間変化を示す模式図である。
【0059】
図6(a)に示すように、実施例において、海水(水中9に対応)の電気的特性として比誘電率er=80、導電率s=4.1、並びに、アンテナ利得を-11dBi、平均通信距離を12m、及び雑音指数を6dBとしたデータを、それぞれ水中環境データとして用いた。
【0060】
また、実施例において、変調方式及び連送回数を、それぞれ水中環境データに基づき設定されるパラメータとして用いた。変調方式は、QPSK(2bit)、16QAM(4bits)、64QAM(6bits)、及び256QAM(8bits)の何れかを設定し、連送回数は、1、4、16、及び64の何れかを設定した。
【0061】
また、実施例において、周波数を100kHz、チャネル帯域幅を10kHz、空中線電力を30dBm、及びペイロード時間長を25ms(250シンボル)としたデータを、それぞれ固定パラメータとして用いた。
【0062】
また、実施例において、図6(b)に示す通信距離の変化モデルを採用した。通信距離の変化モデルでは、2つの端末1A、1Bが、半径1mの円周を回転周期T秒で移動する。なお、端末1A、1Bが回転する円の中心は、上述した平均通信距離12m離間する。通信距離の変化モデルを用いた場合における距離変化、伝搬損失変化、及びSNR変化の時間変化は、それぞれ図6(c)のグラフに示す。
【0063】
図7は、上述した条件に基づき、シミュレーションを実施した結果を示す。実施例は、直近で受信した受信フレームにおけるSNR測定値から、図5に示した方法によりSNR予測値を算出し、算出結果に基づき上記パラメータに含まれる変調方式及び連送回数を設定した結果を示す。
【0064】
比較例1は、上記パラメータに含まれる変調方式をQPSK(2bit)、及び連送回数を1回に固定した場合の結果を示す。比較例2は、直近で受信した受信フレームにおけるSNR測定値(図5(a)の「実測値A」に対応)から、上記パラメータに含まれる変調方式及び連送回数を設定した場合の結果を示す。
【0065】
図7(a)に示すように、回転周期T=1sとした場合、実施例の平均通信速度は、約21kbpsであった。これに対し、比較例1及び比較例2の平均通信速度は、約7kbps、及び18kbpsであった。このため、実施例の平均通信速度は、比較例1及び比較例2の平均通信速度よりも高い結果が得られた。
【0066】
図7(b)に示すように、回転周期T=1sとした場合、実施例の不通時間率は、0%であった。これに対し、比較例1及び比較例2の不通時間率は、約50%、及び約40%であった。このため、実施例の不通時間率は、比較例1及び比較例2の不通時間率よりも低く、不通時間を発生させない結果が得られた。
【0067】
図7(c)に示すように、回転周期T=0.5sとした場合、実施例の平均通信速度は、約19kbpsであった。これに対し、比較例1及び比較例2の平均通信速度は、約7kbps、及び18kbpsであった。このため、実施例の平均通信速度は、比較例1及び比較例2の平均通信速度よりも高い結果が得られた。
【0068】
図7(d)に示すように、回転周期T=0.5sとした場合、実施例の不通時間率は、0%であった。これに対し、比較例1及び比較例2の不通時間率は、約55%、及び約40%であった。このため、実施例の不通時間率は、比較例1及び比較例2の不通時間率よりも低く、不通時間を発生させない結果が得られた。
【0069】
上記結果より、直近で受信した受信フレームにおけるSNR測定値からSNR予測値を算出し、算出結果に基づき上記パラメータに含まれる変調方式及び連送回数を設定することで、平均通信速度及び不通時間率が改善されることを確認した。
【0070】
本実施形態によれば、設定手段S120は、水中環境データに基づき、信号を送信する際のパラメータを設定する。このため、水中9において電波の減衰量を変動させる要因を考慮した上で、信号を生成する際のパラメータを設定することができる。これにより、水中9において安定した無線通信を実現することが可能となる。従って、例えば水中9における高スループットの維持や、制御通信における遅延保証を目的とした通信途絶時間の解消が期待できる。
【0071】
また、本実施形態によれば、取得手段S110は、水中端末11に取り付けられたセンサ24を用いて計測された導電率を取得してもよい。この場合、水中9において電波の減衰量を変動させる主要因とされる導電率を取得することで、通信環境に適したパラメータを設定することができる。これにより、安定した無線通信を容易に実現することが可能となる。また、導電率を計測するセンサ24は、水中端末11の水中移動や作業等を実施する際に用いるセンサ24として併用することができ、新たに取り付ける必要が無い。このため、水中端末11の複雑化や重量増加等を抑制することが可能となる。
【0072】
また、本実施形態によれば、水中環境データ取得手段は、センサ24が取り付けられた第1端末1から送信された水中環境データを、第2端末1が取得してもよい。この場合、センサ24が取り付けられていない第2端末1においても、通信環境に適したパラメータを設定することができる。これにより、端末1の軽量化を実現することが可能となる。
【0073】
また、本実施形態によれば、参照手段は、過去の水中環境データ及び過去のパラメータを含む履歴情報を参照し、水中環境データに基づく前記パラメータを設定してもよい。この場合、これまでに蓄積された履歴情報を踏まえて、現状の通信環境に適したパラメータを容易に設定することができる。これにより、水中環境データに含まれる複数のデータ間に関連性を有する場合においても、定量的にパラメータを設定することが可能となる。
【0074】
また、本実施形態によれば、送信手段S130は、水底端末13に対し、水中端末11から送信信号を送信してもよい。この場合、水底91の砂等によって水底端末13のアンテナ22cが埋もれた場合においても、信号を受信させることができる。これにより、通信に光技術を用いた場合に比べて、水底端末13のメンテナンスに必要な工数を削減することが可能となる。
【0075】
また、本実施形態によれば、送信手段S130は、基地端末12に対し、2つ以上の水中端末11から送信信号を同時に送信してもよい。この場合、基地端末12が備える1つのアンテナ22cを用いて、複数の水中端末11から送信された信号を受信できる。これにより、通信に光技術を用いた場合に比べて、複数の水中端末11から信号を受信するための光軸合わせの工数等を削減することが可能となる。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
1 :端末
11 :水中端末
12 :基地端末
13 :水底端末
14 :水上端末
21 :制御部
21a :通信制御部
22a :送信部
22b :受信部
22c :アンテナ
23 :記憶部
24 :センサ
9 :水中
91 :水底
92 :水上
100 :無線通信システム
S110 :取得手段
S120 :設定手段
S130 :送信手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7