(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】誘導発熱ローラ装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/14 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
H05B6/14
(21)【出願番号】P 2019230398
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000110158
【氏名又は名称】トクデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】北野 孝次
(72)【発明者】
【氏名】岡本 幸三
【審査官】西村 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-075357(JP,A)
【文献】実開昭57-136955(JP,U)
【文献】特開2011-108399(JP,A)
【文献】特開2016-024932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 6/00- 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空のローラ本体と、前記中空内に設けられ、前記ローラ本体を誘導発熱させる誘導発熱機構と、前記ローラ本体及び前記誘導発熱機構の間の空隙部を用いて前記ローラ本体及び/又は前記誘導発熱機構を冷却する冷却機構とを備え、
前記冷却機構は、
前記ローラ本体の軸方向一端側に形成されて前記空隙部に連通する導入口と、
前記ローラ本体の軸方向他端側に形成されて前記空隙部に連通する導出口と、
前記導出口から前記空隙部の気体を吸引する吸引機構と、
前記導入口にミストを供給するミスト供給機構とを有し、
前記導入口は、前記ローラ本体の軸方向一端側のジャーナルフランジ部に形成されており、
前記導出口は、前記ローラ本体の軸方向他端側のジャーナルフランジ部に形成されて
おり、
前記ミスト供給機構は、静止側において前記導入口を覆うように設けられたヘッダー部と、当該ヘッダー部に設けられたミスト発生装置とを有し、
前記ミスト発生装置は、前記ヘッダー部の内部で前記ミストを発生させることにより前記導入口に前記ミストを供給するものである、誘導発熱ローラ装置。
【請求項2】
前記導入口は、前記ローラ本体の軸方向一端側のジャーナルフランジ部に複数形成されており、及び/又は、
前記導出口は、前記ローラ本体の軸方向
他端側のジャーナルフランジ部に複数形成され
ている、請求項1記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項3】
前記ミスト供給機構は、静止側において前記導入口を覆うように設けられたヘッダー部と、当該ヘッダー部に設けられたミスト発生装置とを有する、請求項1又は2記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項4】
前記ヘッダー部は、前記ヘッダー部のヘッダー空間に外気を導入する外気導入口を有する、請求項3記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項5】
前記ミスト供給機構は、前記ヘッダー部及び前記ジャーナルフランジ部の間に介在して設けられ、前記外気導入口以外において前記ヘッダー空間を外気と遮断する回転シール機構をさらに備える、請求項4記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項6】
前記ヘッダー部は、前記ローラ本体のジャーナル軸部の外側周面に軸受を介して静止支持される、請求項3乃至5の何れか一項に記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項7】
前記ヘッダー部は、前記ローラ本体とは別に設けられた静止構造部材に固定されることにより静止支持される、請求項3乃至5の何れか一項に記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項8】
前記冷却機構は、前記空隙部を流れる気体の流量を調整する、請求項1乃至7の何れか一項に記載の誘導発熱ローラ装置。
【請求項9】
中空のローラ本体と、前記中空内に設けられ、前記ローラ本体を誘導発熱させる誘導発熱機構と、前記ローラ本体及び前記誘導発熱機構の間の空隙部を用いて前記ローラ本体及び/又は前記誘導発熱機構を冷却する冷却機構とを備える誘導発熱ローラ装置であって、
前記冷却機構は、
前記ローラ本体の軸方向一端側に形成されて前記空隙部に連通する導入口と、
前記ローラ本体の軸方向他端側に形成されて前記空隙部に連通する導出口と、
前記導出口から前記空隙部の気体を吸引する吸引機構と、
前記導入口にミストを供給するミスト供給機構とを有し、
前記導入口は、前記ローラ本体の軸方向一端側のジャーナルフランジ部に形成されており、
前記導出口は、前記ローラ本体の軸方向他端側のジャーナルフランジ部に形成されており、
前記誘導発熱ローラ装置は、前記ローラ本体内部の最低温度部の温度を検出する温度センサをさらに備え、
前記ミスト供給機構は、前記空隙部の湿り気体の露点温度が、前記最低温度部の温度を下回らないように前記ミストの供給量を調整する、誘導発熱ローラ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導発熱ローラ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばプラスチックフィルム、紙、布、不織布、合成繊維、金属箔等のシート材又はウェブ材、線(糸)材等の連続材の連続熱処理工程等には、回転するローラ本体の内部に誘導発熱機構を配置し、これによりローラ本体の周壁部を誘導電流によって発熱させる誘導発熱ローラ装置が用いられている。
【0003】
そして近年、例えば連続材の種類を変更することに伴うローラ本体による加熱温度の変更を短時間で行う要請がある。また、熱処理工程の終了後において、安全衛生上の観点から、ローラ本体の温度が一定温度以下に低下しなければ、作業者がその場から離れることができない。このようなことからローラ本体を可及的短時間で冷却する必要がある。
【0004】
ローラ本体を冷却するものとしては、特許文献1に示すように、ローラ本体及び誘導発熱機構の間の空隙部から気体を吸引することによってローラ本体を冷却する空冷式のものが考えられている。具体的にこのローラ装置は、ローラ本体の軸方向一端側のジャーナルフランジ部に吸気口を形成し、ローラ本体の軸方向他端側のジャーナル軸部に排気口を形成し、当該排気口から空隙部の気体を吸引する構成である。この構成により、吸気口から空隙部に流入した気体は、ローラ本体のシェル部と誘導発熱機構との間を流れ、ローラ本体のジャーナル軸部と誘導発熱機構の支持軸との間を流れた後に、排気口から外部に排出される。
【0005】
一方で、特許文献2に示すように、誘導発熱機構の円筒状鉄心を支持する支持軸に冷却媒体導入路を形成し、当該冷却媒体導入路から、ローラ本体及び誘導発熱機構の間の隙間部(空隙部)に、霧状の冷却媒体を導入するものが考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-75357公報
【文献】特開2011-108399公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の構成では、ローラ本体のシェル部と誘導発熱機構との間の空隙よりもローラ本体のジャーナル軸部と誘導発熱機構の支持軸との間の空隙が小さい。これにより、ローラ本体のジャーナル軸部と誘導発熱機構の支持軸との間の空隙の圧力損失により、気体の流量低下が生じてしまい、冷却性能を向上することが難しい。
【0008】
具体的には、ジャーナル軸部の外径は、ユーザの指定によるものであり、ローラ本体のシェル部の外径に関わらず細くなる傾向にある。そして、ジャーナル軸部の内径は、ジャーナル軸部の外径に対して一定の肉厚を持って決定される。また、その内部に挿し通される誘導発熱機構の支持軸の外径は、誘導発熱機構への給電用配線の断面積などにより決まる。これらにより、ジャーナル軸部と誘導発熱機構の支持軸との間の空隙の断面積(通流断面積)が決定される。冷却対象はローラ本体のシェル部であるにも関わらず、ジャーナル軸部と誘導発熱機構の支持軸との間の空隙によって、その冷却が制約されてしまう。特に、ローラ本体のシェル部が大径化及び/又は長尺化すれば質量(熱容量)が大きくなり、大きな冷却能力を要するが、ジャーナル軸部と誘導発熱機構の支持軸との間の空隙によって、大きな冷却能力を実現することが難しくなる。
【0009】
また、上記特許文献2の構成では、霧状の冷却媒体が誘導発熱機構の支持軸内部を介して導入されるため、ローラ本体のシェル部に到達する前に温められて気化してしまう恐れがある。そうすると、ローラ本体のシェル部から効率よく気化潜熱を奪うことができず、大きな冷却能力を実現することが難しい。
【0010】
そこで本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、ローラ本体及び/又は誘導発熱機構を気体により均一に冷却する構成において、その冷却性能を向上することをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち本発明に係る誘導発熱ローラ装置は、中空のローラ本体と、前記中空内に設けられ、前記ローラ本体を誘導発熱させる誘導発熱機構と、前記ローラ本体及び前記誘導発熱機構の間の空隙部を用いて前記ローラ本体及び/又は前記誘導発熱機構を冷却する冷却機構とを備え、前記冷却機構は、前記ローラ本体の軸方向一端側に形成されて前記空隙部に連通する導入口と、前記ローラ本体の軸方向他端側に形成されて前記空隙部に連通する導出口と、前記導出口から前記空隙部の気体を吸引する吸引機構と、前記導入口にミストを供給するミスト供給機構とを有し、前記導入口は、前記ローラ本体の軸方向一端側のジャーナルフランジ部に形成されており、前記導出口は、前記ローラ本体の軸方向他端側のジャーナルフランジ部に形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明の誘導発熱ローラ装置であれば、導入口がローラ本体の軸方向一端側のジャーナルフランジ部に形成されていることから、導入口から流入する気体は、ローラ本体の軸方向一端部において、ローラ本体のジャーナル軸部と誘導発熱機構の支持軸との間の空隙を通ること無く、導入口から空隙部に流入する。また、吸引機構が接続される導出口がローラ本体の軸方向他端側のジャーナルフランジ部に形成されていることから、導入口から流入した気体は、ローラ本体の軸方向他端部において、ローラ本体のジャーナル軸部と誘導発熱機構の支持軸との間の空隙を通ること無く、導出口から外部に排出される。これにより、ローラ本体の軸方向両端部において、ローラ本体のジャーナル軸部と誘導発熱機構の支持軸との間の空隙の圧力損失による制約を受けなくなる。その結果、空隙部を流れる気体の流量を大きくすることができ、冷却性能を向上することができる。
また、本発明の誘導発熱ローラ装置であれば、ジャーナルフランジ部に形成された導入口にミストを供給するので、ミストがローラ本体のシェル部に到達するまでの経路を短くすることができ、ミストを効率よくローラ本体のシェル部に導入することができる。その結果、導入口から流入する気体の湿度を上げることにより、気体の比熱を大幅に向上させるとともに、ローラ本体のシェル部から効率良く気化潜熱を奪うことができ、冷却性能を向上することができる。
その他、本発明によれば、空隙部を流れて温められた高温気体が、ローラ本体のジャーナル軸部と誘導発熱機構の支持軸との間の空隙を通ることが無いので、ジャーナル軸部に設けられた軸受に接触することを避けることができ、軸受の寿命低下を抑制することができる。
【0013】
ローラ本体は、円筒状をなすシェル部と、シェル部の軸方向両端部に接続された一対のジャーナル部とを有している。また、ローラ本体等の冷却効果やローラ本体の周方向均温性を得るためには、空隙部を流れる気体は周方向において均一な流速で流れることが望ましい。このためには、前記導入口は、前記ローラ本体の軸方向一端側のジャーナルフランジ部に複数形成されており、及び/又は、前記導出口は、前記ローラ本体の軸方向一端側のジャーナルフランジ部に複数形成されていることが望ましい。導入口及び/又は導出口を複数設けることによって、ジャーナル部の機械的強度を確保しながらも、流体抵抗を小さくしつつ、空隙部の周方向に万遍なく気体及びミストを流すことができる。
【0014】
導入口はローラ本体側に設けられているので回転するが、ミスト供給機構は静止側に設けられているので回転しない。回転する導入口にミストを供給するための具体的な実施の態様としては、前記ミスト供給機構は、静止側において前記導入口を覆うように設けられたヘッダー部と、当該ヘッダー部に設けられたミスト発生装置とを有することが望ましい。
【0015】
ヘッダー部を設けることにより、気体の吸引抵抗が大きくなる可能性がある。このため、前記ヘッダー部は、前記ヘッダー部のヘッダー空間に外気を導入する外気導入口を有することが望ましい。
【0016】
ミストがヘッダー部の外側に漏れ出ないようにするためには、前記ミスト供給機構は、前記ヘッダー部及び前記ジャーナルフランジ部の間に介在して設けられ、前記外気導入口以外において前記ヘッダー空間を外気と遮断する回転シール機構をさらに備えることが望ましい。
【0017】
ヘッダー部の具体的な支持構造としては、前記ヘッダー部は、前記ローラ本体のジャーナル軸部の外側周面に軸受を介して静止支持されることが望ましい。
【0018】
ヘッダー部のその他の具体的な支持構造としては、前記ヘッダー部は、前記ローラ本体とは別に設けられた静止構造部材に固定されることにより静止支持されることが望ましい。
【0019】
ローラ本体における冷却熱量及び冷却に要する時間は、気体の流速すなわち流量との比例関係がある。つまり、空隙部における気体の流量を上げると、冷却熱量が増加して冷却に要する時間は短縮される。しかし、負荷運転においては、負荷の熱量や運転条件によって必要な冷却量は異なってくるので、それに応じて、前記冷却機構は、前記空隙部を流れる気体の流量を調整するものであることが望ましい。この構成であれば、効率的に所定のローラ本体の温度に調整することができる。
【0020】
ローラ本体内部で冷却媒体が凝縮又は結露することを防ぐとともに、冷却性能を向上するためには、前記ローラ本体内部の最低温度部の温度を検出する温度センサをさらに備え、前記ミスト供給機構は、前記空隙部の湿り気体の露点温度が、前記最低温度部の温度を下回らないように前記ミストの供給量を調整することが望ましい。
【発明の効果】
【0021】
このように構成した本発明によれば、ローラ本体及び/又は誘導発熱機構を気体により均一に冷却する構成において、その冷却性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態の誘導発熱ローラ装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】同実施形態の導入口の構成を示すA-A線断面図である。
【
図3】同実施形態の導出口の構成を示すB-B線断面図である。
【
図4】同実施形態におけるローラ本体の軸方向他端端側(吸引機構)の構成を示す断面図である。
【
図5】同実施形態におけるローラ本体の軸方向一端側(ミスト供給機構)の構成を示す断面図である。
【
図6】変形実施形態における吸引機構のヘッダー部の固定構造を示す断面図である。
【
図7】変形実施形態におけるミスト供給機構のヘッダー部の固定構造を示す断面図である。
【
図8】変形実施形態導入口の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態に係る誘導発熱ローラ装置100は、例えばプラスチックフィルム、紙、布、不織布、合成繊維、金属箔等のシート材又はウェブ材、線(糸)材等の連続材の連続熱処理工程等において用いられるものである。
【0024】
<装置構成>
本実施形態の誘導発熱ローラ装置100は、
図1に示すように、回転自在に支持された中空円筒状のローラ本体2と、このローラ本体2の中空内に静止状態で配置される誘導発熱機構3とを備えている。
【0025】
ローラ本体2は、円筒状をなすシェル部21と、当該シェル部21の両端部に設けられた一対のジャーナル部22とを有している。このジャーナル部22は、シェル部21の端部開口を覆うジャーナルフランジ部221と、当該ジャーナルフランジ部221に一体形成された中空のジャーナル軸部222とを有している。また、ジャーナル軸部222は、転がり軸受等の軸受41、42を介して機台51、52に回転自在に支持されている。そして、ローラ本体2は、例えばモータ等の回転駆動機構(不図示)により外部から与えられる駆動力によって回転されるように構成されている。
【0026】
また、ローラ本体2のシェル部21には、長手方向(軸方向)に延びる気液二相の熱媒体を封入するジャケット室21Aが、周方向全体に間隔を空けて例えば等間隔に複数形成されている。このジャケット室21A内に封入した気液二相の熱媒体の潜熱移動によりシェル部21の表面温度を均一化する。
【0027】
誘導発熱機構3は、円筒形状をなす円筒状鉄心31と、当該円筒状鉄心31の外側周面に巻装された誘導コイル32と、それらを支持する支持軸331、332とを有する。支持軸331、332は、円筒状鉄心31の両端部それぞれに設けられている。この支持軸331、332は、それぞれジャーナル軸部222の内部に挿通されており、転がり軸受等の軸受61、62を介してジャーナル軸部222に対して回転自在に支持されている。これにより、誘導発熱機構3は、回転するローラ本体2の内部において、ローラ本体2に対して静止状態に保持される。誘導コイル32には、リード線L1が接続されており、このリード線L1には、交流電圧を印加するための交流電源(不図示)が電力調整装置(不図示)を介して接続されている。
【0028】
このような誘導発熱機構3により、誘導コイル32に交流電圧が印加されると交番磁束が発生し、その交番磁束はローラ本体2のシェル部21を通過する。この通過によりシェル部21に誘導電流が発生し、その誘導電流でシェル部21はジュール発熱する。
【0029】
<誘導発熱ローラ装置100の冷却機構7>
そして、本実施形態の誘導発熱ローラ装置100は、
図1に示すように、ローラ本体2及び誘導発熱機構3の間の空隙部X1を用いてローラ本体2及び誘導発熱機構3を冷却する冷却機構7を備えている。
【0030】
この冷却機構7は、空隙部X1に気体流を発生させてローラ本体2及び誘導発熱機構3を冷却する。なお、本実施形態の気体は、ローラ本体2の設置空間の雰囲気ガスである空気であるが、その他、雰囲気ガスを例えば窒素ガス等にすることによって、前記気体を窒素ガス等にしても良い。
【0031】
具体的に冷却機構7は、
図1に示すように、ローラ本体2の外部気体を、ローラ本体2及び誘導発熱機構3の間に形成される概略円筒状をなす空隙部X1の軸方向一端部から導入するとともに、空隙部X1の軸方向他端部から外部に排出することにより、ローラ本体2及び誘導発熱機構3を冷却するものである。なお、軸方向とは、
図1の矢印に示すように紙面左右方向である。
【0032】
より詳細には、冷却機構7は、ローラ本体2の軸方向一端側に形成されて空隙部X1に連通する導入口(吸気口)71と、ローラ本体2の軸方向他端側に形成されて空隙部X1に連通する導出口(排気口)72と、導出口72に接続されて導出口72から空隙部X1の気体を吸引する吸引機構73と、導入口71にミストを供給するミスト供給機構74とを備えている。
【0033】
導入口71は、ローラ本体2の外部の気体を空隙部X1内に導入するものであり、
図2に示すように、軸方向一端側のジャーナルフランジ部221に複数形成されている。また、導入口71は、軸方向一端側のジャーナルフランジ部221において周方向に例えば等間隔に形成されている。各導入口71は、ジャーナルフランジ部221に軸方向に沿って形成された貫通孔から形成されている。本実施形態の導入口71の開口形状は、円形状をなすものであるが、その他、長円形状、楕円形状、矩形状や多角形状等種々の形状とすることができる。
【0034】
導出口72は、空隙部X1内の気体をローラ本体2の外部に導出するものであり、
図3に示すように、軸方向他端側のジャーナルフランジ部221に複数形成されている。また、導出口72は、軸方向他端側のジャーナルフランジ部221において周方向に例えば等間隔に形成されている。各導出口72は、ジャーナルフランジ部221に軸方向に沿って形成された貫通孔から形成されている。本実施形態の導入口71の開口形状は、円形状をなすものであるが、その他、長円形状、楕円形状、矩形状や多角形状等種々の形状とすることができる。
【0035】
吸引機構73は、複数の導出口72から一括して気体を吸引するものであり、特に
図4に示すように、静止側において導出口72を覆うように設けられた静止体たるヘッダー部731と、当該ヘッダー部731に接続されて導出口72から空隙部X1の気体を吸引する吸引装置732とを備える。なお、本実施形態では、ヘッダー部731と吸引装置732とは接続配管(接続ダクト)734により接続されている。
【0036】
ヘッダー部731は、導出口72が形成されたジャーナルフランジ部221の外側面に対向し、ジャーナル軸部222を取り囲むように設けられた概略円環形状をなすものである(
図3参照)。ヘッダー部731におけるジャーナルフランジ部221との対向面側には、ヘッダー空間X2が形成されており、当該ヘッダー空間X2が複数の導出口72と連通する。また、ヘッダー部731には、接続ダクト734が接続される接続ポートP1が形成されており、前記ヘッダー空間X2は接続ポートP1と連通している。
【0037】
そして、このヘッダー部731は、ジャーナル軸部222の外側周面に軸受91を介して静止支持されている。これにより、ヘッダー部731は、ジャーナル軸部222とともに回転しないように、静止側に固定されることになる。その他、ヘッダー部731は、ジャーナル軸部222において機台52よりも軸方向内側に設けられる。
【0038】
吸引装置732は、ヘッダー部731の接続ポートP1からヘッダー空間X2を介して空隙部X1の気体を吸引するものであり、例えば、電動送風機やブロア、吸引ポンプ等である。この吸引装置732は、静止側に設けられている。また、吸引装置732の排気ポートP2には排気ダクト(不図示)が接続されており、当該排気ダクトの排気ポートP2は、例えば誘導発熱ローラ装置100の設置空間とは異なる外部空間(例えば屋外)に設けられている。なお、吸引装置732を前記外部空間に設けて、接続ダクト734によって外部空間に設けられた吸引装置732とヘッダー部731の接続ポートP1とを接続しても良い。また、吸引装置732は、例えば回転数を変更することによって吸引力が変更可能に構成されており、これにより、空隙部X1を流れる気体流量を調整することができる。その他、接続ダクト734に流量調整バルブなどの流量調整機構を設けても良い。
【0039】
また、本実施形態の吸引機構73は、静止側のヘッダー部731及び回転側のジャーナルフランジ部221の間に介在して設けられた回転シール機構733を備えている。この回転シール機構733は、ヘッダー部731のヘッダー空間X2を外気から遮断するものである。具体的に回転シール機構733は、ヘッダー空間X2の内周側及び外周側をシールするものであり、例えば、ジャーナルフランジ部221の外側面に形成された円環状のシール溝733aと、ヘッダー部731の側周壁に設けられ、シール溝733aに差し込まれる円筒状の差込部733bとから構成される。ここで、回転シール機構733は、完全な隔離のために接触シール機構であっても良いし、若干の外気の流入を許容する非接触シール機構であっても良い。
【0040】
ミスト供給機構74は、複数の導入口71に霧状の冷却媒体(ミスト)を供給するものであり、特に
図5に示すように、静止側において導入口71を覆うように設けられた静止体たるヘッダー部741と、当該ヘッダー部741に設けられたミスト発生装置742とを備える。
【0041】
ヘッダー部741は、導入口71が形成されたジャーナルフランジ部221の外側面に対向し、ジャーナル軸部222を取り囲むように設けられた概略円環形状をなすものである(
図2参照)。ヘッダー部741におけるジャーナルフランジ部221との対向面側には、ヘッダー空間X3が形成されており、当該ヘッダー空間X3が複数の導入口71と連通する。
【0042】
また、ヘッダー部741には、ヘッダー空間X3に外気を導入する外気導入口741Hが形成されている。この外気導入口741Hは、前記吸引機構73が空隙部X1の気体を吸引することにより、外気をヘッダー空間X3に導入するものである。
【0043】
そして、このヘッダー部741は、ジャーナル軸部222の外側周面に軸受92を介して静止支持されている。これにより、ヘッダー部741は、ジャーナル軸部222とともに回転しないように、静止側に固定されることになる。その他、ヘッダー部741は、ジャーナル軸部222において機台52よりも軸方向内側に設けられる。
【0044】
ミスト発生装置742は、ヘッダー部741のヘッダー空間X3で冷却媒体(水)のミストを発生させることにより導入口71にミストを供給するものであり、例えば、噴射弁(ノズル)を用いたものである。
図2では、2つのミスト発生装置742を設けた構成であるが、1又は複数の導入口71それぞれに対応して設けてもよい。ノズルの数が多いほど、効率良く導入口71にミストを供給することができる。なお、ミスト発生装置742は、圧縮された水をノズルから噴射してミストを発生させる1流体方式であっても良いし、圧縮された水と圧縮された空気の2つの流体をノズルから噴射してミストを発生させる2流体方式であっても良い。また、ミスト発生装置742は、ノズルに供給する水の供給量を流量調整機構(例えば流量制御弁)により変更することによって、ミスト発生量を変更可能に構成されており、これにより、空隙部X1に供給されるミストの供給量を調整することができる。なお、流量調整機構は、図示しない制御部によって制御される。このミスト供給機構74により、空隙部X1を流れる気体流量を一定にしながらも、冷却性能を調整することができる。
【0045】
ミストの供給量を調整する具体例としては、以下が考えられる。
本実施形態の誘導発熱ローラ装置100は、ローラ本体2の内部において、ミストの凝縮又は結露を嫌う部分に温度センサS1が設けられている。ミストの凝縮又は結露を嫌う部分は、例えば、誘導コイル32の最も冷えやすい上流側外周面(導入口71側の外周面)であり、この部分が最低温度部となる。そして、ミスト供給機構74は、空隙部X1の湿り気体の露点温度が、温度センサS1の検出温度を下回らないようにミストの供給量を調整する。具体的にミスト供給機構74は、温度センサS1の検出温度に応じてミストの供給量を調整し、例えば、空隙部X1の湿り気体の露点温度が、温度センサS1の検出温度よりも所定温度高く(例えば+2℃)なるように、ミストの供給量を調整する。
【0046】
より一層確実に前記露点温度が温度センサS1の検出温度を下回らないようにするためには、誘導発熱ローラ装置100は、ローラ本体2の内部において、相対湿度又は絶対湿度を検出する湿度センサを設けてもよい。そして、ミスト供給機構74は、湿度センサの検出湿度に基づいて求まる空隙部X1の湿り気体の露点温度が、温度センサS1の検出温度を下回らないようにミストの供給量を調整する。その他、ミスト供給機構74は、空隙部X1を流れる気体の流量に基づいて、ミストの供給量を調整することもできる。
【0047】
また、本実施形態のミスト供給機構74は、静止側のヘッダー部741及び回転側のジャーナルフランジ部221の間に介在して設けられた回転シール機構743を備えている。この回転シール機構743は、外気導入口以外においてヘッダー部741のヘッダー空間X3を外気から遮断するものである。具体的に回転シール機構743は、ヘッダー空間X3の内周側及び外周側をシールするものであり、例えば、ジャーナルフランジ部221の外側面に形成された円環状のシール溝743aと、ヘッダー部741の側周壁に設けられ、シール溝743aに差し込まれる円筒状の差込部743bとから構成される。ここで、回転シール機構743は、完全な隔離のために接触シール機構であっても良いし、若干の外気の流入を許容する非接触シール機構であっても良い。
【0048】
このような構成において、吸引装置732により吸引を開始すると、導出口72から空隙部X1の気体が吸引されるとともに、導入口71からローラ本体2の周囲の外部気体が空隙部X1に吸い込まれる。また、導入口71からミストが空隙部X1に供給される。空隙部X1に供給されたミストは、導入口から流入する気体の湿度を上げることにより、気体の比熱を大幅に向上させるとともに、ローラ本体2のシェル部21に接触等して気化し、その際の気化潜熱をシェル部21から奪う。そして、導入口71から吸い込まれた気体及び気化しなかったミストが空隙部X1の内部を流れて導出口72から排出される。
【0049】
ここで、導入口71及び導出口72それぞれがジャーナルフランジ部221に形成されているので、空隙部X1内を流れる気体及びミストは、ジャーナル軸部222と支持軸331、332との間を流れることがなく、ジャーナル軸部222と支持軸331、332との間の空隙の圧力損失による制約を受けない。また、導出口72よりも軸方向外側に軸受62が位置しているため、高温気体は、軸受62に当たる前に導出口72から排出され、軸受62に接触することを避けることができ、軸受62の寿命低下を抑制することができる。
【0050】
さらに本実施形態では、導入口71から吸い込まれる外部気体が接触する部分に次のような処理が施されている。つまり、外部気体が接触する誘導コイル32の外周面は、例えばポリイミド系、シリコン系又はエポキシ系等の耐熱絶縁ワニスによって被覆されている。具体的には誘導コイル32の外側周面は、耐熱絶縁ワニスが塗布されている。また、外部気体が接触するローラ本体2の内面は、耐熱材料によって被覆されている。具体的には、ローラ本体2の内面は、耐熱塗料又は防錆塗料が塗布される、又は、防錆用のメッキ処理が施されている。
【0051】
<本実施形態の効果>
このように構成した誘導発熱ローラ装置100によれば、導入口71がローラ本体2の軸方向一端側のジャーナルフランジ部221に形成されていることから、導入口71から流入する気体は、ローラ本体2の軸方向一端部において、ローラ本体2のジャーナル軸部222と誘導発熱機構3の支持軸331との間の空隙を通ること無く、導入口71から空隙部X1に流入する。また、吸引機構73が接続される導出口72がローラ本体2の軸方向他端側のジャーナルフランジ部221に形成されていることから、導入口71から流入した気体は、ローラ本体2の軸方向他端部において、ローラ本体2のジャーナル軸部222と誘導発熱機構3の支持軸332との間の空隙を通ること無く、導出口72から外部に排出される。これにより、ローラ本体2の軸方向両端部において、ローラ本体2のジャーナル軸部222と誘導発熱機構3の支持軸331、332との間の空隙の圧力損失による制約を受けなくなる。その結果、空隙部X1を流れる気体の流量を大きくすることができ、冷却性能を向上することができる。
また、ジャーナルフランジ部221に形成された導入口71にミストを供給するので、ミストがローラ本体2のシェル部21に到達するまでの経路を短くすることができ、ミストを効率よくローラ本体2のシェル部21に導入することができる。その結果、導入口から流入する気体の湿度を上げることにより、気体の比熱を大幅に向上させるとともに、ローラ本体2のシェル部21から効率良く気化潜熱を奪うことができ、冷却性能を向上することができる。
その他、空隙部X1を流れて温められた高温気体が、ローラ本体2のジャーナル軸部222と誘導発熱機構3の支持軸332との間の空隙を通ること無いので、ジャーナル軸部222に設けられた軸受62に接触することを避けることができ、軸受62の寿命低下を抑制することができる。
【0052】
ところで、ローラ本体2(熱ロール)には必要な運転温度よりも高温の負荷が入ってくることで、電気入力を切断してもロール温度が上昇してくる場合がある。このような場合では気体通流による冷却だけでは高精度の温度制御が困難であることから、負荷からの入熱を少し上回る通風冷却をおこない、その上回った分の熱量だけを誘導加熱によって入力することで、所望の温度に精度よく制御する方法がある。この制御を行うにあたっては、前記に示した風量調整による冷却熱量制御が有効となる。
【0053】
また、冷却時であっても負荷運転されている場合はローラ本体2のシェル部21の温度分布の均一性が極めて重要である。ローラ本体2のシェル部21には気液二相の熱媒体が封入されたジャケット室21Aが形成されているので、冷却運転時におけるローラ本体2のシェル部21の軸方向の均温性を向上させることができる。
【0054】
さらに、導出口72が、軸方向他端側のジャーナルフランジ部221に複数形成されているので、ジャーナル部の機械的強度を確保しながらも、吸引抵抗を小さくしつつ、空隙部の周方向から万遍なく気体及びミストを吸引することができる。また、導入口71が、軸方向一端側のジャーナル部22に複数形成されているので、ジャーナル部22の機械的強度を確保しながらも、吸気抵抗を小さくしつつ、空隙部X1の周方向に万遍なく気体及びミストを吸い込むことができる。
【0055】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記各実施形態に限られるものではない。
【0056】
例えば、
図6、7に示すように、吸引機構のヘッダー部731及び/又はミスト供給機構74のヘッダー部741を、ローラ本体2とは別に設けられた静止構造部材に固定することにより静止支持しても良い。
図6、7では、ヘッダー部731、741を、静止構造部材である軸受41、42又は機台51、52に固定部材101、102を介して固定された例を示しているが、その他の静止構造部材に固定しても良い。
【0057】
さらに、空隙部X1における乱流を促進するために、導入口71に乱流促進構造を設けてもよい。例えば、
図8(A)に示すように、導入口71を、ジャーナルフランジ部221において円周方向に傾斜させて貫通させることが考えられる。つまり、導入口の外側開口と内側開口とが円周方向においてずれるよう導入口を形成する。これにより、空隙部Xに導入される気体は、シェル部21の内面に沿って旋回する流れとなる。また、
図8(B)に示すように、導入口71に乱流を促進する羽根711を設けてもよい。これにより、空隙部Xに導入される気体は、周方向に沿って複数の旋回流となる。
【0058】
また、吸引装置732として、圧縮気体源から圧縮気体が供給されて排出口から気体を吸引する気体流増幅器を用いても良い。この構成であれば、工場などの誘導発熱ローラ装置100の設置場所に圧縮気体源がある場合に、別途送風機やブロア等を準備する必要が無い。
【0059】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0060】
100・・・誘導発熱ローラ装置
2・・・ローラ本体
21・・・シェル部
221・・・ジャーナルフランジ部
3・・・誘導発熱機構
X1・・・空隙部
7・・・冷却機構
71・・・導入口
72・・・導出口
73・・・吸引機構
74・・・ミスト供給機構
741・・・ヘッダー部
741H・・・外気導入口
742・・・ミスト発生装置
743・・・回転シール機構
92・・・軸受
S1・・・温度センサ