(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】抗腫瘍剤及び配合剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/137 20060101AFI20231121BHJP
A61K 31/4402 20060101ALI20231121BHJP
A61K 38/39 20060101ALI20231121BHJP
A61K 31/4412 20060101ALI20231121BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231121BHJP
A61K 38/06 20060101ALI20231121BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20231121BHJP
A61K 31/405 20060101ALI20231121BHJP
A61K 31/403 20060101ALI20231121BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231121BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231121BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
A61K31/137
A61K31/4402
A61K38/39
A61K31/4412
A61K39/395 N
A61K38/06
A61K31/192
A61K31/405
A61K31/403
A61P35/00
A61P43/00 121
C12Q1/02 ZNA
(21)【出願番号】P 2019554284
(86)(22)【出願日】2018-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2018042327
(87)【国際公開番号】W WO2019098288
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-11-05
(31)【優先権主張番号】P 2017220231
(32)【優先日】2017-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん医療創生研究事業「酸化ストレス抵抗性を促進するアミノ酸輸送および代謝経路を標的としたがん幹細胞制御治療法の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐谷 秀行
(72)【発明者】
【氏名】永野 修
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 章悟
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/192740(WO,A1)
【文献】特表2016-509045(JP,A)
【文献】特表2008-517927(JP,A)
【文献】Hepatology Research,2016年,46,50-57
【文献】佐谷秀行他,固形がんのがん幹細胞を標的とした治療戦略の考案,がん分子標的治療,2014年,Vol.12,No.3,p.262-265,264ページ右欄1-37行
【文献】DONGHONG J. et al.,Dyclonine and alverine citrate enhance the cytotoxic effects of proteasome inhibitor MG132 on breast,INTERNATIONAL JOURNAL OF MOLECULAR MEDICINE,2009年,Vol.23,p.205-209,Abstract
【文献】PARAJULI B. et al.,Development of Selective Inhibitors for Human Aldehyde Dehydrogenase 3A1(ALDH3A1) for the Enhancemen,ChemoBioChem,2014年,Vol.15,No.5,p.701-712,Abstract
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/00
A61P 35/00
A61P 43/00
C12Q 1/00
G01N 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のアルデヒド脱水素酵素阻害剤と同時に投与される、グルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤を有効成分として含有する抗腫瘍剤であって、
前記アルデヒド脱水素酵素阻害剤は、下記式(I)で表される化合物、またはその薬理学的に許容される塩であり、
(I)
(式中、R
1はC1~6の直鎖または分岐アルキル基であり、R
2及びR
3は独立して選択されるC1~6の直鎖または分岐アルキル基であるか、R
2とR
3が一緒になってそれらが結合するNをヘテロ原子とする4員環、5員環、6員環、または7員環のアザシクロアルキル基を形成し、R
4は水素またはハロゲンである。)
前記グルタチオン濃度低下剤はスルファサラジン、エラスチン、ソラフェニブ、または抗xCT抗体であり、
前記グルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤は、グルタチオンアナログ、ケトプロフェン、インドメタシン、エタクリン酸、ピロプロスト、抗GST抗体、またはGSTのドミナントネガティブ変異体である、抗腫瘍剤。
【請求項2】
有効量のグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤と同時に投与される、アルデヒド脱水素酵素阻害剤を有効成分として含有する抗腫瘍剤であって、
前記アルデヒド脱水素酵素阻害剤は、下記式(I)で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩であり、
(I)
(式中、R
1はC1~6の直鎖または分岐アルキル基であり、R
2及びR
3は独立して選択されるC1~6の直鎖または分岐アルキル基であるか、R
2とR
3が一緒になってそれらが結合するNをヘテロ原子とする4員環、5員環、6員環、または7員環のアザシクロアルキル基を形成し、R
4は水素またはハロゲンである。)
前記グルタチオン濃度低下剤はスルファサラジン、エラスチン、ソラフェニブ、または抗xCT抗体であり、
前記グルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤は、グルタチオンアナログ、ケトプロフェン、インドメタシン、エタクリン酸、ピロプロスト、抗GST抗体、またはGSTのドミナントネガティブ変異体である、抗腫瘍剤。
【請求項3】
前記式(I)で表される化合物がジクロニン、BAS00363846、STL327701、PHAR033081、PHAR298639、またはAlid-2である、請求項1または2に記載の抗腫瘍剤。
【請求項4】
アルデヒド脱水素酵素阻害剤とグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤とを有効成分として含有する配合剤
を含む抗腫瘍剤であって、
前記アルデヒド脱水素酵素阻害剤は、下記式(I)で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩であり、
(I)
(式中、R
1はC1~6の直鎖または分岐アルキル基であり、R
2及びR
3は独立して選択されるC1~6の直鎖または分岐アルキル基であるか、R
2とR
3が一緒になってそれらが結合するNをヘテロ原子とする4員環、5員環、6員環、または7員環のアザシクロアルキル基を形成し、R
4は水素またはハロゲンである。)
前記グルタチオン濃度低下剤はスルファサラジン、エラスチン、ソラフェニブ、または抗xCT抗体であり、
前記グルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤は、グルタチオンアナログ、ケトプロフェン、インドメタシン、エタクリン酸、ピロプロスト、抗GST抗体、またはGSTのドミナントネガティブ変異体である、
抗腫瘍剤。
【請求項5】
前記式(I)で表される化合物がジクロニン、BAS00363846、STL327701、PHAR033081、PHAR298639、またはAlid-2である、請求項4に記載の
抗腫瘍剤。
【請求項6】
前記グルタチオン濃度低下剤または前記グルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤に耐性を有する腫瘍細胞を含む腫瘍に対する抗腫瘍剤である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
【請求項7】
CD44vが発現している腫瘍細胞
を含む
腫瘍に対する抗腫瘍剤である、
請求項1
~6のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤。
【請求項8】
アルデヒド脱水素酵素阻害剤とグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤をin vitroで腫瘍細胞に同時に投与する工程と、
前記腫瘍細胞の増殖速度または細胞生存率を測定する工程と、を含み、
前記アルデヒド脱水素酵素阻害剤は、下記式(I)で表される化合物、またはその薬理学的に許容される塩であり、
(I)
(式中、R
1はC1~6の直鎖または分岐アルキル基であり、R
2及びR
3は独立して選択されるC1~6の直鎖または分岐アルキル基であるか、R
2とR
3が一緒になってそれらが結合するNをヘテロ原子とする4員環、5員環、6員環、または7員環のアザシクロアルキル基を形成し、R
4は水素またはハロゲンである。)
前記グルタチオン濃度低下剤はスルファサラジン、エラスチン、ソラフェニブ、または抗xCT抗体であり、
前記グルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤は、グルタチオンアナログ、ケトプロフェン、インドメタシン、エタクリン酸、ピロプロスト、抗GST抗体、またはGSTのドミナントネガティブ変異体である、測定方法。
【請求項9】
前記腫瘍細胞が、前記グルタチオン濃度低下剤または前記グルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤に耐性である腫瘍細胞を含む、
請求項8に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍剤及び配合剤に関する。
【背景技術】
【0002】
がん治療においては、抗がん剤や放射線などの治療に対して抵抗性を持つ細胞が存在することが、再発や転移の原因となり、がんの治療を妨げている。このような治療抵抗性細胞として、近年がん幹細胞の存在が注目されている。がん幹細胞は、各種ストレスに対して耐性が高く、がん幹細胞を標的とした薬剤の開発ががんの根治のためには急務である。しかし、がん幹細胞を標的にした治療の開発のための、がん幹細胞のストレス耐性の分子機構の解析は端緒についたばかりである。
【0003】
上皮性がん幹細胞のマーカーの一つであるCD44は、そのストレス耐性に関与する分子として知られている(Cancer Cell. 2011 Mar 8;19(3):387-400)。CD44には、スプライスバリアントフォーム(以下、CD44v)が存在し、CD44vが細胞膜上にシスチントランスポーターxCTを安定して発現させる。xCTは細胞内にシスチンを取り込む機能を有し、それによって取り込まれたシスチンはグルタチオン(GSH)の産生に用いられるために、CD44vを高発現している細胞では、GSHの量が増加する。GSHは強力な抗酸化作用を持ち、細胞に生じたストレスを減少させる役割を持つために、CD44vを高発現するがん幹細胞は、治療に対して抵抗性を有するとされる。
【0004】
一方、潰瘍性大腸炎や関節リウマチの治療に使用されている薬剤に、スルファサラジン(Sulfasalazine)(別名:サラゾスルファピリジン、サラゾピリン、サリチルアゾスルファピリジン)がある。スルファサラジンは、スルファピリジンと5-アミノサリチル酸(5-ASA)の酸性アゾ化合物であり、経口投与すると、腸内で腸内細菌によりスルファピリジンと5-アミノサリチル酸(5-ASA)に分解される。前記疾患に対しては、特に5-ASAが主な有効成分とされている。
【0005】
近年、分解される前の未変化体のスルファサラジンにxCT阻害作用があり、抗腫瘍剤として有効であることが明らかになった(Leukemia vol.15, pp.1633-1640, 2001)。つまり、スルファサラジンを癌細胞に添加すると、xCTによる細胞内へのシスチンの取り込みが抑制され、グルタチオン産生量が低下し、その結果、癌細胞の酸化ストレス耐性が下がり、抗腫瘍剤への感受性が上昇する。
【0006】
CD44vを高発現するがん幹細胞に対しても、xCT阻害作用を有するスルファサラジンは有効に増殖を抑制することが知られている(特開2012-144498)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、新規な抗腫瘍剤及び配合剤を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、スルファサラジンは、未分化な腫瘍細胞がほとんどである腫瘍に対しては単独で抗腫瘍効果を有するが、分化形質を示す腫瘍細胞を含むような分化型腫瘍に対してはCD44vを高発現するがん幹細胞を減少させるものの、腫瘍全体の体積を減少させる効果がないことを見出した。そこで、そのような分化型腫瘍に対し、スルファサラジンが抗腫瘍効果を有しない腫瘍細胞に対して抗腫瘍効果をもつ薬剤を開発することによって分化型腫瘍に対する抗腫瘍剤を得ようと鋭意努力したところ、アルデヒド脱水素酵素阻害剤をスルファサラジンと併用すれば、スルファサラジン単独では効果の弱い腫瘍細胞に対し顕著な抗腫瘍効果があることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
本発明の一実施態様は、有効量のアルデヒド脱水素酵素阻害剤と同時に投与される、グルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤を有効成分として含有する抗腫瘍剤であるか、あるいは有効量のグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤と同時に投与される、アルデヒド脱水素酵素阻害剤を有効成分として含有する抗腫瘍剤である。
【0010】
本発明の他の実施態様は、アルデヒド脱水素酵素阻害剤とグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤とを有効成分として含有する配合剤である。
【0011】
本発明のさらなる実施態様は、上記配合剤を含有する抗腫瘍剤である。
【0012】
前記グルタチオン濃度低下剤がxCT、Thioredoxin-1(チオレドキシン-1:TRX-1)、glutamate-cysteine ligase(GCL)(EC6.3.2.2)(γ-グルタミルシステイン合成酵素とも呼ばれる)、グルタチオン合成酵素(EC6.3.2.3)のいずれかの活性を阻害する薬剤であってもよい。前記薬剤がxCTトランスポーターの阻害剤であってもよい。前記xCTトランスポーターの阻害剤がスルファサラジン、エラスチン、またはソラフェニブであってもよい。前記アルデヒド脱水素酵素阻害剤が下記式(I)で表される化合物またはその薬理学的に許容される塩であってもよい。
【0013】
(式中、R
1はC1~6の直鎖または分岐アルキル基であり、R
2及びR
3は独立して選択されるC1~6の直鎖または分岐アルキル基であるか、R
2とR
3が一緒になってそれらが結合するNをヘテロ原子とする4員環、5員環、6員環、または7員環のアザシクロアルキル基を形成し、R
4は水素またはハロゲンである。)
本発明のさらなる実施態様は、C1~6の直鎖または分岐アルキル基であり、R
2及びR
3は独立して選択されるC1~6の直鎖または分岐アルキル基であるか、R
2とR
3が一緒になってそれらが結合するNをヘテロ原子とする4員環、5員環、または6員環のアザシクロアルキル基を形成する。)
前記式(I)で表される化合物がジクロニン(Dyclonine)、BAS00363846、STL327701、PHAR033081、PHAR298639、またはAldi-2であってもよい。
【0014】
本発明のさらなる実施態様は、アルデヒド脱水素酵素阻害剤とグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤をin vitroで腫瘍細胞に同時に投与する工程と、前記腫瘍細胞の増殖速度または細胞生存率を測定する工程と、を含む測定方法である。
【0015】
本発明のさらなる実施態様は、グルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤と併用効果を有するアルデヒド脱水素酵素阻害剤の特定方法であって、特定のグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤と複数のアルデヒド脱水素酵素阻害剤をin vitroで腫瘍細胞に同時に投与する工程と、前記腫瘍細胞の増殖速度または細胞生存率を測定する工程と、を含む特定方法である。
【0016】
本発明のさらなる実施態様は、アルデヒド脱水素酵素阻害剤と併用効果を有するグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤の特定方法であって、抗腫瘍剤である特定のアルデヒド脱水素酵素阻害剤と、複数のグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤とをin vitroで腫瘍細胞に同時に投与する工程と、前記腫瘍細胞の増殖速度または細胞生存率を測定する工程と、を含む特定方法である。
【0017】
本発明のさらなる実施態様は、アルデヒド脱水素酵素阻害剤とグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤との併用効果を奏する腫瘍細胞の特定方法であって、アルデヒド脱水素酵素阻害剤とグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤の特定の組み合わせをin vitroで複数の腫瘍細胞に同時に投与する工程と、前記複数の腫瘍細胞の増殖速度または細胞生存率を測定する工程と、を含む特定方法である。
【0018】
上記いずれかの特定方法または測定方法において、前記腫瘍細胞が、グルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤に耐性であってもよい。
【0019】
==関連文献とのクロスリファレンス==
本出願は、2017年11月15日付で出願した日本国特許出願2017-220231に基づく優先権を主張するものであり、当該基礎出願を引用することにより、本明細書に含めるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施例において、スルファサラジンとジクロニンとの併用効果を示したグラフである。
【
図2】本発明の一実施例において、xCTノックダウンによるジクロニン感受性の変化を示したグラフである。
【
図3】本発明の一実施例において、各種癌細胞株におけるスルファサラジン、エラスチン、またはBSOとジクロニンとの併用効果を示した図である。
【
図4】本発明の一実施例において、スルファサラジンとジクロニンのin vivoにおける併用効果を示したグラフである。
【
図5】本発明の一実施例において、ジクロニンによるALDH活性の阻害効果を示す実験結果の図である。
【
図6】本発明の一実施例において、スルファサラジンとジクロニン併用によるHNE(4-HNE;4-ヒドロキシ-2-ノネナール)の蓄積効果を示した図である。
【
図7】本発明の一実施例において、スルファサラジンまたはBSOとジクロニン類縁体(ジクロニン骨格を有するもの)との併用効果を示したグラフである。
【
図8】本発明の一実施例において、BSOとジクロニン類縁体(ジクロニン骨格を有さないもの)との併用効果を示したグラフである。
【
図9】本発明の一実施例において、OSC19細胞またはスルファサラジン耐性OSC19細胞におけるスルファサラジン、エラスチン、またはBSOとジクロニンとの併用効果を示したグラフである。
【
図10】本発明の一実施例において、HSC4細胞、OSC19細胞またはスルファサラジン耐性OSC19細胞におけるALDH遺伝子ファミリーの発現を示したグラフである。
【
図11】HNEの代謝経路を表した図である。略語:HNA,4-ヒドロキシ-2-ノネノイン酸;GSH,グルタチオン;ALDH,アルデヒド脱水素酵素;GST,グルタチオンS-トランスフェラーゼ
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、および、そのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をこれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0022】
なお、実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変したりした方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0023】
==抗腫瘍剤==
本発明の一実施形態は、有効量のアルデヒド脱水素酵素阻害剤と同時に投与される、グルタチオン濃度低下剤を有効成分として含有する抗腫瘍剤である。ここで、有効量のアルデヒド脱水素酵素阻害剤とは、抗腫瘍活性として、グルタチオン濃度低下剤と併用効果を有する量のアルデヒド脱水素酵素阻害剤である。
【0024】
また、本発明の他の実施形態は、有効量のグルタチオン濃度低下剤と同時に投与される、アルデヒド脱水素酵素阻害剤を有効成分として含有する抗腫瘍剤である。ここで、有効量のグルタチオン濃度低下剤とは、抗腫瘍活性として、アルデヒド脱水素酵素阻害剤と併用効果を有する量のグルタチオン濃度低下剤である。
【0025】
アルデヒド脱水素酵素阻害剤は、アルデヒド脱水素酵素2(アルデヒド脱水素酵素2;ALDH)(EC1.2.1.10)の酵素活性を阻害する薬剤である。阻害対象とするALDHのタイプおよびイソタイプは特に限定されず、ALDH1~5、及びそれらのイソタイプのいずれであってもよい。抗腫瘍剤で使用されるアルデヒド脱水素酵素阻害剤は特に限定されないがクロープロパミド(chlorpropamide)、トルブタミド(tolbutamide)、ジエチルアミノベンズアルデヒド、ジスルフィラム(tetraethylthioperoxydicarbonic diamide)、シアナミド(cyanamide)、オキシフェドリン、シトラル(3,7-dimethyl-2,6-octadienal)、コプリン(coprine)、ダイジン(daidzin)、DEAB(4-(Diethylamino)benzaldehyde)、ゴシポール(gossypol)、キヌレニン代謝物(3-hydroxykynurenine, 3-hydroxyanthranilic acid, kynurenic acid, および indol-3-ylpyruvic acid)、モリネート(Molinate)、ニトログリセリン、パージリン(N-benzyl-N-methylprop-2-yn-1-amine)及びそれらの類縁体、またはそれらの薬理学的に許容される塩が例示できる。特に、以下に示すジクロニン及びジクロニン類縁体(I)が好ましく、
図7に示した化合物(BAS00363846、STL327701、PHAR033081、PHAR298639、およびAldi-2)がより好ましい。
【0026】
(式中、R
1はC1~6の直鎖または分岐アルキル基であり、R
2及びR
3は独立して選択されるC1~6の直鎖または分岐アルキル基であるか、R
2とR
3が一緒になってそれらが結合するNをヘテロ原子とする4員環、5員環、6員環、または7員環のアザシクロアルキル基を形成し、R
4は水素またはハロゲンである。R
1はC4~5の直鎖または分岐アルキル基であることが好ましく、R
2及びR
3はC2のアルキル基か、またはR
2とR
3が一緒になってそれらが結合するNをヘテロ原子とする6員環のアザシクロアルキル基であることが好ましい。なお、R
1はC4の直鎖アルキル基であり、R
2とR
3が一緒になってそれらが結合するNをヘテロ原子とする6員環のアザシクロアルキル基である化合物はジクロニンである。ハロゲンは、F、Cl、I、Br、Iが好ましい。)
なお、薬理学的に許容される塩とは、それらの化合物と塩を形成するものであれば限定されないが、具体的には例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩などの無機酸の付加塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩などの有機酸の付加塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩などのスルホン酸の付加塩、アミノ酸の付加塩などを挙げることができ、好ましくは塩酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩である。さらに、それらの化合物またはその薬理学的に許容される塩は、無水物のみならず水和物や結晶多形も含まれることは言うまでもない。
【0027】
グルタチオン濃度低下剤は、細胞内におけるグルタチオン濃度を低下させる薬剤である。これらの抗腫瘍剤で使用されるグルタチオン濃度低下剤は限定されないが、xCTが細胞内に取り込んだシスチンからグルタチオンが産生される経路を阻害する薬剤が好ましく、xCT、Thioredoxin-1(チオレドキシン-1:TRX-1)、glutamate-cysteine ligase(GCL)(EC6.3.2.2)(γ-グルタミルシステイン合成酵素とも呼ばれる)、グルタチオン合成酵素(EC6.3.2.3)のいずれかの活性を阻害する薬剤であることがより好ましく、xCT阻害剤がより好ましい。xCT阻害剤は特に限定されないが、スルファサラジン、エラスチン、ソラフェニブ、または抗xCT抗体であることが好ましい。
【0028】
グルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤は、グルタチオンS-トランスフェラーゼ(EC2.5.1.18)の酵素活性を阻害する薬剤であって、特に、HNE(4-HNE;4-ヒドロキシ-2-ノネナール)をHNE-GSHに変換する活性を阻害する薬剤である。グルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤は特に限定されないが、グルタチオンアナログ(例えば、WO95/08563、WO96/40205、WO99/54346など)、ケトプロフェン、インドメタシン、エタクリン酸、ピロプロスト、抗GST抗体、GSTのドミナントネガティブ変異体等が挙げられる。
【0029】
ここで、二つの薬剤を「同時に投与する」とは、時間的に同時に投与することのみならず、一方の薬剤の効果が残っている間に、他方の薬剤を投与する限り、時間的に前後してそれぞれ単独で投与することも意味するものとする。二つの薬剤を同時に投与する場合、一方のみを含有する薬剤を2種類同時に投与してもよいが、配合剤として二つの薬剤を一つの剤形にして投与してもよい。
【0030】
抗腫瘍剤の投与対象は、脊椎動物であれば特に限定されないが、ヒトのがん患者であることが好ましい。治療対象の腫瘍は特に限定されないが、グルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤に対して耐性を有する腫瘍細胞を含む腫瘍が好ましい。この腫瘍細胞は、アルデヒド脱水素酵素が高発現していてもよい。グルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤は、xCT阻害剤であることが好ましく、スルファサラジンであることがより好ましい。耐性を有する腫瘍細胞とは、in vivoでは、患者に通常治療濃度で通常治療日数投与したときに生き残る腫瘍細胞であって、in vitroでは、80%以上の種類の細胞株において生存率が50%以下である濃度で生存率が90%以上の腫瘍細胞をいうものとする。例えば、スルファサラジン耐性腫瘍細胞とは、in vivoでは、患者にAUC0-24が50~300μg・h/mLで約2週間投与したときに生き残る腫瘍細胞であって、in vitroでは、200μMで生存率が90%以上の腫瘍細胞をいうものとする。スルファサラジン耐性腫瘍細胞は、CD44v発現も低レベルであるか、陰性であることが好ましい。アルデヒド脱水素酵素が過剰発現している腫瘍細胞とは、ALDH1A1、ALDH2、ALDH1B1,ALDH3A1のいずれかの遺伝子発現が、OSC19細胞に比較して3倍以上、好ましくは10倍以上高いレベルで発現している細胞をいうものとする。この治療対象の腫瘍には、CD44vが発現している腫瘍細胞が混入していてもよい。CD44vが発現している腫瘍細胞に対しては、スルファサラジンが効果的に抗腫瘍作用を有するからである。CD44vが発現している腫瘍細胞とは、CD44v発現が検出できる細胞であればよいが、高発現している細胞が好ましく、その場合の高発現とは、卵巣腫瘍細胞の平均レベルと同じ程度か高ければよいが、2倍以上高いことが好ましく、4倍以上高いことがより好ましく、10倍以上高いことがさらに好ましい。
【0031】
腫瘍の種類は特に限定されないが、固形がんであることが好ましく、大腸腺癌、胃腺癌、乳腺癌、肺腺癌、膵腺癌、頭頸部の扁平上皮癌、卵巣腫瘍、精巣腫瘍を例示することができる。
【0032】
抗腫瘍剤は、通常の方法により、錠剤、粉剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、液剤、乳剤、懸濁剤などに剤形化されてもよい。その際、当業者に知られた薬学的に許容できる添加剤、例えば賦形剤や担体を用いて製造される。
【0033】
抗腫瘍剤は、有効量の範囲内で、投与対象に対して適した方法で投与すればよい。有効量は、剤形の種類、投与方法、投与対象の年齢や体重、投与対象の病状等を考慮して、最終的には医師または獣医師の判断により適宜決定することができる。例えば、化合物の投与量は1日当たり、0.1mg/kg以上であることが好ましく、1mg/kg以上であることがより好ましく、10mg/kg以上であることがさらに好ましく、1000mg/kg以下であることが好ましく、300mg/kg以下であることがより好ましく、100mg/kg以下であることがさらに好ましい。投与方法は、特に限定されず、例えば、経口投与してもよいし、腹腔内や静脈内への注射や点滴により非経口投与してもよいし、注射等によりがん内に直接投与してもよい。
【0034】
==腫瘍細胞の増殖速度または細胞生存率の測定方法==
本発明の一実施形態は、アルデヒド脱水素酵素阻害剤と、グルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤とをin vitroで腫瘍細胞に同時に投与する工程と、薬剤を投与した腫瘍細胞の増殖速度または細胞生存率を測定する工程と、を含む測定方法である。本節におけるアルデヒド脱水素酵素阻害剤、グルタチオン濃度低下剤、グルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤は、「抗腫瘍剤」の節で詳述したものに準じる。
【0035】
アルデヒド脱水素酵素阻害剤と、グルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤とは、抗腫瘍活性について併用効果を有しているので、この測定方法によって、併用効果の高い薬剤の組み合わせを見出したり、ある薬剤の組み合わせに対し、特に有効な腫瘍細胞を見出したりすることができる。
【0036】
具体的には、特定のグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤と複数のアルデヒド脱水素酵素阻害剤をin vitroで腫瘍細胞に同時に投与し、薬剤を投与した腫瘍細胞の増殖速度または細胞生存率を測定することによって、特定のグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤と併用効果を有するアルデヒド脱水素酵素阻害剤を特定することができる。また、特定のアルデヒド脱水素酵素阻害剤と複数のグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤をin vitroで腫瘍細胞に同時に投与し、薬剤を投与した腫瘍細胞の増殖速度または細胞生存率を測定することによって、特定のアルデヒド脱水素酵素阻害剤と併用効果を有するグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤を特定することができる。あるいは、アルデヒド脱水素酵素阻害剤とグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤の特定の組み合わせをin vitroで複数の腫瘍細胞に同時に投与し、薬剤を投与した複数の腫瘍細胞の増殖速度または細胞生存率を測定することにより、アルデヒド脱水素酵素阻害剤とグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤との併用効果を奏する腫瘍細胞を特定することができる。
【実施例】
【0037】
(実験例1)スルファサラジンとジクロニンとの併用効果
(目的)本実験例では、スルファサラジン耐性細胞の生存率低下に関し、xCT阻害効果のあるスルファサラジンとジクロニンとが併用効果を奏することを示す。
【0038】
(方法)96ウエルプレートに、スルファサラジン耐性細胞株である口腔扁平上皮がん細胞株HSC-4を2000個/ウエルで播種し、培養を開始した。培地は、DMEMを用いた。24時間後、50μMジクロニンまたは等量のDMSOと、0μM(無添加)、50μM、100μM、200μM、または400μMのスルファサラジンを含有した培地に交換し、48時間、培養を続けた。その後、Celltiter-Glo(Promega社)を用いて細胞生存率を測定し、コントロール(DMSO添加、スルファサラジン無添加)の細胞生存数を100%として、各場合の細胞生存率を算出した。
図1にスルファサラジンの各濃度に対する生存率を表すグラフを作成した。
【0039】
(結果)HSC4は、スルファサラジン耐性細胞株であって、スルファサラジン単独では細胞生存率にほとんど影響がない。また、ジクロニン単独(ジクロニン添加、スルファサラジン無添加)でも、80%の生存率を示す。しかしながら、ジクロニンとスルファサラジンを両方添加すると、スルファサラジンが100μM以上で、生存率が10%以下となる。
【0040】
このように、スルファサラジン耐性細胞の生存率低下に関し、スルファサラジンとジクロニンとが併用効果を奏する。
【0041】
(実験例2)xCTノックダウンによるジクロニン感受性の変化
(目的)本実験例では、xCT阻害効果のあるスルファサラジンの代わりにxCTをノックダウンしても、同様なジクロニンとの併用効果が得られることを示すことによって、スルファサラジンとジクロニンとが併用効果を有するのは、スルファサラジンのxCT阻害効果を介していることを示す。
【0042】
(方法)96ウエルプレートにスルファサラジン耐性細胞株である口腔扁平上皮がん細胞株HSC-4細胞を3000個/ウエルで播種し、非サイレンシングコントロール(スクランブル(Sense: UUCUCCGAACGUGUCACGUtt(配列番号1), Antisense: ACGUGACACGUUCGGAGAAtt(配列番号2)))siRNAまたはxCT特異的siRNA(xCT siRNA#1 Sense: AGAAAUCUGGAGGUCAUUAtt(配列番号3), Antisense:AGAAAUCUGGAGGUCAUUAtt(配列番号4), xCT siRNA#2 Sense: CCAGAACAUUACAAAUAAUtt(配列番号5), Antisense: AUUAUUUGUAAUGUUCUGGtt(配列番号6))をLipofectamine RNAiMAX(ThermoFisher Scientific社)を用いてリポフェクトし、培養を開始した。培地はDMEMを用いた。24時間後、50μMジクロニン(溶媒はDMSO)または等量のDMSOを含有する培地に交換し、48時間培養を続けた。その後、Celltiter-Glo(Promega社)を用いて細胞生存率を測定し、コントロール(非サイレンシングコントロール、DMSO添加)の細胞生存率を100%として、それぞれの細胞生存率を算出した。
図2に結果を示す。
【0043】
(結果)HSC-4は、50μMのジクロニン単独では約60%の細胞生存率を有するのに対し、xCTをノックダウンした場合、50μMのジクロニン存在下で、約10~20%の細胞生存率しか有しない。
【0044】
このように、スルファサラジンとジクロニンとが併用効果を有するのは、スルファサラジンのxCT阻害効果を介している。
【0045】
(実験例3)各種癌細胞株におけるスルファサラジン、エラスチン、またはBSOとジクロニンとの併用効果
(目的)本実験例では、様々な腫瘍細胞株において、スルファサラジン、xCTの特異的阻害剤であるエラスチン、またはグルタチオン合成阻害剤であるBSOとジクロニンとが併用効果を奏することを示すのと同時に、xCTの阻害がグルタチオン合成阻害を介していることを示す。
【0046】
(方法)96ウエルプレートに、
図3に示す細胞株を3000個/ウエルで播種し、培養を開始した。培地は、DMEMを用いた。24時間後、50μMジクロニンまたは等量のDMSOと、0μM(無添加)または400μMのスルファサラジン、0μM(無添加)または5μMのエラスチン、0μM(無添加)または100μMのBSOを含有した培地に交換し、48時間、培養を続けた。その後、Celltiter-Glo(Promega社)を用いて細胞生存率を測定し、コントロール(DMSO添加、ジクロニン無添加)の細胞生存数を100%として、それぞれの細胞生存率を算出した。
図3に各場合の細胞生存率を図示した。
【0047】
(結果)細胞によって大小はあるが、スルファサラジン、エラスチン、またはBSOとジクロニンのいずれの組み合わせにおいても同様な併用効果が観察された。
【0048】
このように、スルファサラジンやエラスチンによるxCTの阻害は、グルタチオンの合成阻害によって、その抗腫瘍効果を発揮する。従って、スルファサラジンやエラスチンの代わりにグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤を用いることができる。
【0049】
(実験例4)スルファサラジンとジクロニンのin vivoにおける併用効果
(目的)本実験例では、スルファサラジンとジクロニンの併用効果が、in vivoでも観察されることを示す。
【0050】
(方法)スルファサラジン耐性細胞株である口腔扁平上皮がん細胞株HSC-2細胞の1×10
6個をヌードマウス皮下に移植し、移植後4日目より生理食塩水、スルファサラジン単独、ジクロニン単独、スルファサラジンとジクロニン両方を1日1回、各薬剤をスルファサラジン400mg/kg、ジクロニン5mg/kgの投与量で腹腔内投与し、22日目まで続けた。3~4日おきに、腫瘍の短径、長径を測定し、以下の式により腫瘍体積を算出し、結果を
図4にグラフ化した。
【0051】
腫瘍体積=(長径×(短径)2)/2
なお、腫瘍体積の統計解析は、22日目にt検定により行った。
【0052】
(結果)
図4で示すように、各薬剤単独では、35%程度の腫瘍体積の減少であったが、両方投与すると、70%程度体積が減少した。
【0053】
このように、スルファサラジンとジクロニンとの併用投与によって、スルファサラジン耐性腫瘍の増殖を低下させることができる。
【0054】
(実験例5)ジクロニンによるALDHの阻害
(目的)本実験例では、ジクロニンがALDHの阻害活性を有することを示す。
【0055】
(方法)10cm細胞培養デイシュに口腔届平上皮がん細胞株HSC-4細胞を8×105個/ディッシュで播種し、培養を開始した。培地は、DMEMを用いた。24時間後、50μMのジクロニン(溶媒はDMSO)を含む培地に交換し、24時間培養した。その後、細胞を回収し、ALDEFLUOR kit(STEMCELL Technologies社)により、N,N-diethylaminobenzaldehyde(DEAB)存在下でのALDH活性を有する細胞を染色し、FACSで解析した(図ではDyclonine)。コントロールとして、DEABを添加せずALDEFLUOR kitで染色しなかったもの(図ではUnstained)、ジクロニンを含まない等量のDMSOを含む培地に交換し、ALDEFLUOR kitで染色したもの(図ではNon-treatment)についての実験結果を示す。なお、陽性細胞の計測については、DEAB存在下でALDEFLUOR kitによる染色を行ったDMSO処理サンプル(図ではDEAB)について陽性細胞がほぼ0%となるようなゲートを作製し、各場合の陽性率を計算した。
【0056】
(結果)
図5に示すように、DMSO処理細胞においてはALDH活性の高い細胞群が25%程度存在しているが、ジクロニン処理細胞および既知のALDH阻害剤であるDEAB処理細胞においてはALDH活性が高い細胞群は1%程度まで抑制されている。
【0057】
このように、ジクロニンはALDHの阻害活性を有する。
【0058】
(実験例6)スルファサラジンとジクロニン併用によるHNEの蓄積
(目的)本実験例では、スルファサラジンとジクロニンの併用によって、腫瘍細胞内でのHNEのレベル、及びHNEを蓄積する細胞の頻度が著しく増加することを示す。
【0059】
(方法)実験例1と同様に、50μMジクロニンまたは等量のDMSOと、0μM(無添加)または400μMのスルファサラジンとを含有した培地でHSC-4細胞を培養し、処理後の細胞を4%PFA-PBSにて固定した。さらに、0.2%TritonX100-PBSにて細胞膜透過処理を行った後、3%BSA-PBSによるブロッキングを行った。その後、1次抗体として抗HNE抗体、2次抗体としてAlexafluor488標識抗マウスIgG抗体を用いて蛍光染色した。ポジティブコントロールとして、50μMHNEで30分インキュベートした細胞を用い、同様に抗体染色を行った。蛍光顕微鏡での観察像を
図6に示す。
【0060】
(結果)ジクロニンまたはスルファサラジンをそれぞれ単独で処理した場合、低頻度で細胞内HNE濃度の増加が観察されるが、スルファサラジンとジクロニンの併用によって、高頻度で高濃度の細胞内HNEの蓄積が観察された。
【0061】
このように、xCT阻害剤とALDH阻害剤を併用することで、高頻度で高濃度の細胞内HNEの蓄積が観察されるようになる。この理由として、以下の理論に拘泥するものではないが、
図11に示すように、細胞内では、HNEを分解する経路が複数存在し、その中でGSTを介する経路とALDHを介する分解経路の二つを同時に阻害することにより、細胞内でHNEが蓄積するものと考えられる。そして、HNEには細胞毒性があるので、腫瘍細胞が増殖できなくなると考えられる。
【0062】
(実験例7)スルファサラジンまたはBSOとジクロニン類縁体(ジクロニン骨格を有するもの)との併用効果
(目的)ジクロニン骨格を有する下記ジクロニン類縁体(I)は、スルファサラジンまたはBSOとの併用効果を有することを示す。
【0063】
(式中、R
1はC1~6の直鎖または分岐アルキル基であり、R
2及びR
3は独立して選択されるC1~6の直鎖または分岐アルキル基であるか、R
2とR
3が一緒になってそれらが結合するNをヘテロ原子とする4員環、5員環、6員環、または7員環のアザシクロアルキル基を形成し、R
4は水素またはハロゲンである。R
1はC4~5の直鎖または分岐アルキル基であることが好ましく、R
2及びR
3はC2のアルキル基か、またはR
2とR
3が一緒になってそれらが結合するNをヘテロ原子とする6員環のアザシクロアルキル基であることが好ましい。なお、R
1はC4の直鎖アルキル基であり、R
2とR
3が一緒になってそれらが結合するNをヘテロ原子とする6員環のアザシクロアルキル基である化合物はジクロニンである。ハロゲンは、F、Cl、I、Br、Iが好ましい。)
(方法)実験例1と同様に、0μM(無添加)、25μM、50μM、または100μMのジクロニン、又は12.5μM、25μM、50μM、100μMのジクロニン類縁体BAS00363846、STL327701、PHAR033081、PHAR298639、またはAldi-2(構造式は
図7B参照)と、0μM(無添加)または100μMBSOまたは300μMスルファサラジンを含有した培地でHSC-4細胞を培養し、細胞生存率を測定して、
図7Aにグラフ化した。
【0064】
(結果)これらの化合物はすべてBSOまたはスルファサラジンとの併用効果を奏した。
【0065】
このように、ジクロニン骨格を有するジクロニン類縁体(I)は、xCT阻害剤と抗腫瘍剤として併用効果を有する。
【0066】
(実験例8)BSOとジクロニン類縁体(ジクロニン骨格を有さないもの)との併用効果
(目的)ジクロニン骨格を有さないジクロニン類縁体は、BSOとの併用効果を有さないことを示す。
【0067】
(方法)実験例1と同様に、0μM(無添加)、12.5μM、25μM、または50μMジクロニン、又は3.125μM、6.25μM、12.5μM、25μM、50μM、100μMのジクロニン類縁体(4-hydroxyacetpphenone:構造式は
図8B参照)と、0μM(無添加)または100μMBSOを含有した培地でHSC-4細胞を培養し、細胞生存率を測定して、
図8Aにグラフ化した。
【0068】
(結果)ジクロニン骨格を有さないジクロニン類縁体はBSOとの併用効果を奏しなかった。
【0069】
このように、xCT阻害剤との相互作用には、ジクロニン骨格が重要である。
【0070】
(実験例9)スルファサラジン耐性OSC19細胞におけるスルファサラジン、エラスチン、またはBSOとジクロニンとの併用効果
(目的)xCT阻害剤に対する耐性を獲得したがん細胞株においてジクロニンがグルタチオン合成阻害剤との併用効果を有することを示す。
【0071】
(方法)スルファサラジン感受性口腔扁平上皮がん細胞株OSC19をスルファサラジンを含むDMEM培地中で2ケ月間培養し、スルファサラジン耐性OSC19細胞を樹立した。OSC19細胞の親株またはOSC19-SSZR細胞を96ウエルプレートに3000個/ウエルで播種し、24時間培養後、
図9に示した濃度のスルファサラジン、エラスチン、またはBSOと、50μMのジクロニン(溶媒はDMSO)または等量のDMSOを含む培地に交換し、48時間培養した。その後、Celltiter-Glo(Promega社)により細胞生存率を測定し、コントロール(スルファサラジン、エラスチンおよびBSO無添加、DMSO添加)を100%として細胞生存率を算出した。
【0072】
(結果)ジクロニンはOSC19-SSZR細胞においてもスルファサラジン、エラスチンまたはBSOとの併用効果を示した。
【0073】
このように、ジクロニンはxCT阻害剤に対する耐性を獲得したがん細胞においてもグルタチオン合成阻害剤との併用効果を示す。
【0074】
(実験例10)スルファサラジン耐性OSC19細胞およびHSC-4におけるALDH遺伝子ファミリーの発現
(目的)xCT阻害剤に対する耐性を有するがん細胞においてALDH遺伝子ファミリーが高発現していることを示す。
【0075】
(方法)HSC-4細胞、OSC19細胞およびOSC19-SSZR細胞よりメッセ
ンジャーRNAを抽出し、逆転写反応を行うことにより相補的DNAを合成した。その後、得られた相補的DNAを鋳型とし、定量的RT-PCR法によりALDHIAl、
ALDHIBl、ALDH2、ALDH3AlおよびRPS17の発現量を測定した。RPS17の発現量をリファレンスとして、ΔΔCt法により各ALDHファミリー遺伝子の発現量を定量し、
図10にグラフ化した。
【0076】
(結果)ALDHIAlはOSC19に比較して、OSC19-SSZRにおいて発現が上昇していた。ALDHIBlおよびALDH2はHSC~4に高い発現が認められた。ALDH3AlはHSC4およびOSC19-SSZRにおいて高発現であった。このように、xCT低感受性のがん細胞株においてALDHファミリー遺伝子の発現が高い傾向にあった。
【0077】
このように、ALDHファミリー遺伝子の発現が高いがん細胞では、ALDHファミリー遺伝子によりHNEを分解しているために、xCT阻害剤によってGSTへの分解を抑制しても、HNEによる毒性は作用せず、xCT阻害剤に耐性を得る(
図11参照)。このような細胞にALDH阻害剤を投与すると、xCT阻害剤に対する感受性が上がるので、ALDH阻害剤及びグルタチオン濃度低下剤またはグルタチオンS-トランスフェラーゼ阻害剤を含有する抗腫瘍剤は、ALDHファミリー遺伝子の発現が高いがん細胞にも効果的に作用する。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によって、新規な抗腫瘍剤及び配合剤を提供することができるようになった。
【配列表】