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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】ヒューズ
(51)【国際特許分類】
   H01H 85/38 20060101AFI20231121BHJP
   H01H 85/08 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
H01H85/38
H01H85/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021023910
(22)【出願日】2021-02-18
(65)【公開番号】P2022126059
(43)【公開日】2022-08-30
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000204044
【氏名又は名称】太平洋精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 穣
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 健吾
【審査官】高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第112331539(CN,A)
【文献】特開2017-117565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 37/76
H01H 69/02
H01H 85/00 - 87/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側の端子部の間に、少なくとも二つ以上の溶断部を備えたヒューズエレメントを有するヒューズであって、
前記ヒューズエレメントは、凹状の曲部を少なくとも三つ以上備え、
前記各曲部は、前記溶断部に隣接する位置に配置され、
前記曲部の凹部内において、消弧材を前記凹部の表面上のみに塗布して固着させたことを特徴とするヒューズ。
【請求項2】
前記各端子部に最も近い曲部のみに前記消弧材を固着させることを特徴とする請求項1に記載のヒューズ。
【請求項3】
前記消弧材は、シリコーンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のヒューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、主に自動車用電気回路等に用いられるヒューズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ヒューズは、自動車等に搭載されている電気回路や、電気回路に接続されている各種電装品を保護するために用いられてきた。詳しくは、電気回路中に意図しない過電流が流れた場合に、ヒューズに内蔵されたヒューズエレメントの溶断部が過電流による発熱により溶断して、各種電装品に過度な電流が流れないように保護している。
【0003】
そして、このヒューズは用途に応じて様々な種類があるが、溶断部が溶断した後に、両側の端子部間でアークが発生することを回避するため、端子部間の距離を長くするなどの工夫が必要となり、ヒューズエレメントの全長が長くなるといった問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本願発明は、ヒューズエレメントの全長が長くなることを防ぎつつ、アークの消弧性能を向上させたヒューズを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明のヒューズは、両側の端子部の間に、少なくとも一つ以上の溶断部を備えたヒューズエレメントを有するヒューズであって、前記ヒューズエレメントは、前記溶断部に隣接する位置に凹状の曲部を備え、当該曲部の凹部内に消弧材を固着させたことを特徴とする。
【0006】
上記特徴によれば、溶断部の溶断時に発生したアークのエネルギーを、曲部の凹部内に消弧材によって効果的に消費して、アークの消弧性能を向上している。そのため、端子部間の距離を短くでき、ヒューズエレメントの全長が長くなるのを防止できる。
【0007】
さらに、本願発明のヒューズは、前記各端子部に最も近い曲部のみに前記消弧材を固着させることを特徴とする。
【0008】
上記特徴によれば、両側の端子部にそれぞれ最も近い曲部のみに消弧材を固着させることで、アークの消弧性能を保ちつつ、消弧材を設置する箇所を減らすことができ、ヒューズの製造コストを削減できるのである。
【0009】
さらに、本願発明のヒューズは、前記消弧材は、シリコーンであることを特徴とする。
【0010】
上記特徴によれば、高い消弧性能を発揮できる。
【発明の効果】
【0011】
上記のように、本願発明のヒューズによれば、ヒューズエレメントの全長が長くなることを防ぎつつ、アークの消弧性能を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】(a)は、本願発明に係るヒューズに収容されたヒューズエレメントの全体斜視図、(b)は、ヒューズの全体斜視図である。
図2】(a)はヒューズの平面図、(b)はヒューズの側面図である。
図3図2(a)に示すA-A断面図である。
図4図2(b)に示すB-B断面図である。
【符号の説明】
【0013】
100 ヒューズエレメント
110 端子部
120 溶断部
130 曲部
131 凹部
140 消弧材
500 ヒューズ
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本願発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下で説明する実施形態におけるヒューズの各部材の形状や材質等は、一例を示すものであって、これらに限定されるものではない。なお、本明細書に記載されている「上下方向」とは、ヒューズエレメントの長尺方向に対して直角方向のことである。
【0015】
図1(a)は、本願発明に係るヒューズ500に収容されたヒューズエレメント100の全体斜視図、図1(b)は、ヒューズ500の全体斜視図を示す。また、図2(a)はヒューズ500の平面図、図2(b)はヒューズ500の側面図、図3図2(a)に示すA-A断面図、図4図2(b)に示すB-B断面図である。
【0016】
図1(a)に示すように、ヒューズエレメント100は、銅やその他の合金からなる一枚の薄い導電板から成形され、一対の端子部110と、当該端子部110の間に位置する複数の溶断部120と、溶断部120に隣接する曲部130とからなる。この溶断部120は、幅が狭くなったヒューズエレメント100の一部に、小孔121をあけて、更に幅を狭くした狭隘部122からなる。そして、溶断部120は、電気回路等に意図しない過電流が流れた際に、狭隘部122が発熱して溶断し、過電流を遮断するものである。
【0017】
また、曲部130は、ヒューズエレメント100の一部を下側へ向けて凹状に湾曲させたもので、凹部131を備えている。そして、ヒューズエレメント100の平坦な本体部101に溶断部120が設けられており、曲部130の凹部131は本体部101よりも下側へ窪んでいる。
【0018】
このように、ヒューズエレメント100は、直線状に延出する本体部101に、複数の溶断部120と、当該溶断部120に隣接する位置に複数の曲部130を備えており、各溶断部120は直列に接続されている。また、曲部130は、溶断部120の間の本体部101を幅方向に横断するように延出しており、溶断部120と曲部130は交互に配置されている。また、ヒューズエレメント100には、溶断部120が6つ、曲部130が5つ設けられている。なお、ヒューズエレメント100には、溶断部120が6つ設けられているが、これに限定されず、溶断部120を1つ、又は、溶断部120を2つ以上設けるなど、溶断部120を任意の数設けることができる。
【0019】
なお、ヒューズエレメント100は、図1(a)に示すような形状に限定されず、直列に接続された溶断部120と、溶断部120に隣接する位置に曲部130を備えているのであれば、任意の形状であってもよい。また、溶断部120及び曲部130も任意の数設けることができる。さらに、溶断部120は、図1(a)に示すような狭隘部122から構成されることに限定されず、電気回路等に意図しない過電流が流れた際に、発熱して溶断できるのであれば、例えば、ヒューズエレメント100の厚さを局所的に薄くして溶断部を形成するなど、任意の構成であってもよい。
【0020】
また、端子部110と溶断部120の間の本体部101の表面上に、消弧材140を固着させている。また、曲部130の凹部131内に、消弧材140を固着させている。この消弧材140は、シリコーン(ケイ素と酸素からなるシロキサン結合を骨格とし、ケイ素(Si)にメチル基(-CH3)を主体とする有機基が結合したポリマー)を凹部131の表面に塗布して固着させたもので、固体状であるから、凹部131の表面に密着して移動せず、また密度が高く消弧性能も高い。なお、消弧材140は、シリコーンで構成されているので、高い消弧性能を発揮でき、絶縁体であるから事故電流による炭化を防ぐことができる。また、消弧材140は、シリコーンで構成されているが、これに限定されず、凹部131内に固着して消弧作用を備える固体状の材料であれば、任意の素材により形成できる。
【0021】
また、絶縁性のケーシング200内部の収容空間201にヒューズエレメント100を収容した状態で、収容空間201内には、任意で消弧材202を充填している。この消弧材202は、シリカサンド(SiO)からなる粒状のものなどを利用できる。また、消弧材140は固体状なので、消弧材202よりも密度が高い部材となっている。消弧材140は消弧材202よりも密度が高い部材なので、後述するように、発生するアークをより効果的に消弧できるが、任意で、収容空間201内に消弧材202を充填することで、溶断部120の周囲に存在する消弧材202がアークを消弧して、より消弧性能が向上するのである。なお、消弧材202は収容空間201全体に充填されているが、図面上は、消弧材202の一部のみを記載している。
【0022】
また、ヒューズ500は、ケーシング200内にヒューズエレメント100を収容した状態で、ヒューズエレメント100の端子部110が、銅やその合金等の導電性金属からなる接続端子300に接続固定されている。そして、ヒューズ500は、接続端子300を自動車等に搭載された電気回路に接続して利用され、電気回路中に意図しない過電流が流れた際は、ヒューズ500内の溶断部120が発熱して溶断して、電気回路を遮断している。
【0023】
ここで、溶断部120が発熱して溶断した際、電気回路に接続されている両側の端子部110には高電圧がかかっているので、溶断部120の周囲の本体部101では、溶断せずに残った部分に、事故電流によるアークが発生する虞がある。しかしながら、溶断部120に隣接する位置に曲部130を設けているので、図3及び図4に示すように、アークIは曲部130に沿って迂回するように誘導される。そして、曲部130によって物理的な距離を稼ぐことでエネルギーを消費させ、さらに、曲部130の凹部131内の消弧材140によってアークIのエネルギーは効果的に消費され、アークは効果的に消弧されるのである。なお、曲部130はヒューズエレメント100の一部を湾曲させて形成しているため、曲部130は導電体であり、アークIを誘導しやすい。
【0024】
一方、従来技術では、溶断部が溶断した後に、両側の端子部間でアークが発生することを回避するため、端子部間の距離を長くするなどの工夫が必要となり、ヒューズエレメントの全長が長くなっていた。しかしながら、本願発明では、溶断部120に隣接する位置に曲部130を設け、曲部130の凹部131内に消弧材140を固着させているので、溶断部120の溶断時のアークIのエネルギーを効果的に消費して、アークの消弧性能を向上している。そのため、本願発明のヒューズ500では、両側の端子部110間の距離を短くでき、ヒューズエレメント100の全長が長くなるのを防止できる。また、ヒューズ500が複数の溶断部120を備える場合であっても、曲部130によってアークを効果的に消弧できるので、溶断部120同士の間隔を狭くでき、ヒューズエレメント100の全長が長くなるのを防止できる。
【0025】
また、消弧材140は、曲部130の凹部131内のみに固定されて収容されている。つまり、消弧材140の一部が凹部131から溢れ出して本体部101まで、はみ出してはいない。そのため、アークIは曲部130に沿って迂回するように確実に誘導されて、曲部130の凹部131内の消弧材140によってエネルギーは効果的に消費されるのである。もし仮に、消弧材140の一部が凹部131から溢れ出して本体部101まではみ出していると、本体部101に設けられた溶断部120の溶断時及び消弧時の熱によって、凹部131から溢れ出した消弧材140が炭化する。すると、アークIは、曲部130を挟んだ両側の本体部101間で、消弧材140の炭化した部分を介して最短距離でまっすぐと流れてしまい、曲部130へと迂回されない虞がある。
【0026】
また、消弧材140は、ヒューズエレメント100の両側の2つの曲部130にそれぞれ固着されているが、これに限定されず、複数ある曲部130のうちの一つのみに消弧材140を固着させたり、全ての曲部130に消弧材140を固着させるなど、任意の曲部130に消弧材140を固着させることが出来る。例えば、図3及び図4に示すように、隣接する2つの曲部130に、それぞれ消弧材140及び消弧材140’を固着させる場合は、消弧材140及び消弧材140’同士は互いに別体とし、互いに物理的に独立している。仮に、消弧材140及び消弧材140’が、溶断部120を跨ぐように物理的に連続していると、溶断部120の溶断時及び消弧時の熱によって、物理的に連続した消弧材140及び消弧材140’が炭化してしまう。そのため、消弧材140及び消弧材140’同士は互いに別体とし、互いに物理的に独立させることで、炭化を防いでいるのである。
【0027】
また、図3及び図4に示すように、溶断部120に隣接する曲部130が3つ以上ある場合は、消弧材140が固着された曲部130の間に位置する曲部130(図2及び図3では、曲部130a)の凹部131には消弧材140を固着させなくてもよい。仮に、曲部130aに隣接する溶断部120が溶断しても、当該溶断部120と端子部110の間には、消弧材140が固着された曲部130が存在しているため、その曲部130の消弧材140によってエネルギーが消費されてアークが消弧されるのである。
【0028】
なお、ヒューズ500において、溶断する溶断部120を事前に特定できれば、アークが発生する位置も特定でき、特定の曲部130に消弧材140を最適に配置できる。しかし、ヒューズ500に接続された電気回路の状態によって、どの溶断部120が溶断するか分からないため、アークが発生する位置も特定することができない。すると、消弧材140を最適に配置することも難しくなる。
【0029】
そこで、図3及び図4に示すように、両側の端子部110にそれぞれ最も近い曲部130bと曲部130cのみに、消弧材140を固着させてもよい(つまり、曲部130bと曲部130c以外の曲部130には、消弧材140を固着させない)。すると、両側の端子部110の間のどの場所で、溶断部120が溶断してアークが発生しても、両側の端子部110の間には、消弧材140が固着された2つの曲部(130b、130c)が存在しているため、両側の端子部110間で発生するアークが、2つの曲部(130b、130c)の消弧材140によって両側で効果的に消弧されるのである。例えば、両側の端子部110から遠い溶断部120、つまり、ヒューズエレメント100の略中央付近の溶断部120が溶断しても、端子部110へ向けて進むアークが、端子部110へ到達するまでに、複数の曲部(130b、130c)の消弧材140によって効果的に消弧されるので、両側の端子部110から遠い溶断部120に隣接する曲部130には消弧材140を設けなくてもよいのである。このように、両側の端子部110にそれぞれ最も近い曲部(130b、130c)のみに消弧材140を固着させることで、アークの消弧性能を保ちつつ、消弧材140を設置する箇所を減らすことができ、ヒューズ500の製造コストを削減できるのである。
【0030】
なお、端子部110と、端子部110に隣接する溶断部120との間に位置する本体部101にも、消弧材140を任意に固着させてもよく、端子部110付近でアークが発生しても効果的に消弧することができる。また、曲部130は、本体部101の溶断部120から下方へ凹状になっているが、これに限定されず、本体部101の溶断部120から上方へ凹状になってもよい。また、消弧材140は、曲部130の凹部131の幅方向の全体に固着されているが、これに限定されず、凹部131に部分的に固着されてもよい。また、曲部130は側面視で半円状に曲げられているが、これに限定されず、窪んで凹部131が形成されているのであれば、側面視で略三角状や四角形状等の任意の形状に曲げられてもよい。
【0031】
また、本願発明のヒューズは、上記の実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲、実施形態の範囲で、種々の変形例、組み合わせが可能であり、これらの変形例、組み合わせもその権利範囲に含むものである。
図1
図2
図3
図4