(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】動植物摂取用水溶性ナノコロイドシリカの製造方法、及び動植物摂取用水溶性ナノコロイドシリカ
(51)【国際特許分類】
C01B 33/141 20060101AFI20231121BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20231121BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C01B33/141
A23L2/00 F
A23L2/00 V
(21)【出願番号】P 2021502100
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2020006600
(87)【国際公開番号】W WO2020171132
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019027411
(32)【優先日】2019-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514254995
【氏名又は名称】有限会社南日本ウェルネス
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】唐津 義博
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-225381(JP,A)
【文献】米国特許第02614995(US,A)
【文献】特開2014-208585(JP,A)
【文献】特公昭49-020878(JP,B1)
【文献】特表2010-506814(JP,A)
【文献】特開昭56-140022(JP,A)
【文献】特開昭61-117110(JP,A)
【文献】特開2010-052951(JP,A)
【文献】国際公開第2008/072637(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
A23
A61
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被反応材料の少なくとも表面に形成されたシリコン単体を、ナトリウムイオンを含有するアルカリ以外のアルカリの水溶液と反応させて、水素の微細気泡を発生させながらケイ酸イオンを生成するケイ酸イオン生成工程を含む、動植物摂取用水溶性ナノコロイドシリカの製造方法であって、
前記水溶性ナノコロイドシリカは、ゼータ電位が負であり、かつ、
EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて、前記水溶性ナノコロイドシリカを乾燥させて得られたシリカ粉末の含有元素分析を行ったとき、前記シリカ粉末は、ナトリウムを含有しないか、またはナトリウムを含有したとしても、検出限界値レベルの微量であることを特徴とする、動植物摂取用水溶性ナノコロイドシリカの製造方法。
【請求項2】
前記ケイ酸イオン生成工程の前に、二酸化ケイ素と炭素とを加熱して、前記二酸化ケイ素の少なくとも表面を、炭素と反応させて、発生した炭酸ガスを除去するとともに前記シリコン単体に還元して前記被反応材料を作製する被反応材料作製工程をさらに含む、請求項1に記載の動植物摂取用水溶性ナノコロイドシリカの製造方法。
【請求項3】
前記二酸化ケイ素は、多孔質構造を有する請求項2に記載の動植物摂取用水溶性ナノコロイドシリカの製造方法。
【請求項4】
前記ゼータ電位が-10mV~-90mVである
、請求項1から3までのいずれか1項に記載の動植物摂取用水溶性ナノコロイドシリカ
の製造方法。
【請求項5】
前記水溶性ナノコロイドシリカの粒径が5nm~300nmの範囲である
、請求項1から4までのいずれか1項に記載の動植物摂取用水溶性ナノコロイドシリカ
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性ナノコロイドシリカの製造方法、及び水溶性ナノコロイドシリカに関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ素Siは、地球上で酸素Oの次に多く存在する元素である。ケイ素は、酸素等の他の元素や分子と結合した状態でのみ存在し、例えば二酸化ケイ素SiO2が結晶化した石英(水晶)等の状態で存在する。二酸化ケイ素等のケイ酸類は、慣用的に「シリカ」と呼ぶ場合がある。シリカは、人体を構成する骨、関節、血管、皮膚、毛髪、歯、爪等に多く含まれており、組織同士を繋いで柔軟性や弾力性を保持させることで老化を抑制する役割を担っている。また、シリカは、血管にコレステロールが沈着することを防ぐ役割や、美容に欠かせない潤い成分としてのコラーゲンとヒアルロン酸とを繋ぎ止める役割も担っている。このようにシリカは、健康を維持するために必須の微量成分とされているため、人体におけるシリカ不足は、低体温症や免疫力の低下を引き起こし、深刻なシリカ不足は生命を維持することを困難にすることもある。
【0003】
以上のような理由から、シリカを多く含む食品を摂取することが推奨されている。シリカを多く含む食品としては、例えばカラス麦、きび、大麦、小麦、じゃがいも、赤カブ、とうもろこし、米ぬか、青のり等が挙げられる。このため、一般的な食事(特に和食)によってシリカを摂取することが可能ともいえるが、近年の食生活の変化(例えば和食離れ)等により、シリカを多く含む穀物を摂取する機会が減少傾向にある。また、上記の食品を摂取したとしても、消化によるシリカの吸収率が悪いため、人間の体内ではシリカが常に不足しがちである。
【0004】
このため、シリカは、サプリメントや、ケイ素含有の健康食品の形態で効率良く体内に吸収することが好ましい。特に、飲料の形態であれば、摂取する時間帯や場所を問わずに効率良くシリカを摂取することができる。ただし、石英は、不溶性の鉱物であるため、シリカを微粉末の状態にして飲料に混ぜたとしても沈殿してしまうという課題があった。このようなことから、シリカが配合された飲料の研究開発が進められており(例えば特許文献1及び2)、種々のシリカ水が知られている(例えば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-29046号公報
【文献】特開2012-44980号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】株式会社珪素研究会 水晶から抽出された水溶性珪素(http://www.umo-keiso.com/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のシリカ水に用いられているシリカは、苛性ソーダ由来の水ガラス(ケイ酸ナトリウムNa
2SiO
3)から合成されたコロイドシリカであり、メタケイ酸H
2SiO
3の構造を有している。苛性ソーダ由来の水ガラスを原料としたシリカ水は、後記する含有元素分析結果(
図4)に示すように、Na(ナトリウムイオン)を大量に含有している。シリカ水にNa(ナトリウムイオン)が大量に含有されている場合、健康飲料としての性能が低下するだけではなく、シリカ水を摂取した者の人体に悪影響を及ぼすおそれもある。このため、安全かつ健康飲料として高い効能を有するシリカ水の開発が望まれていた。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、安全かつ健康飲料として高い効能を有するシリカ水を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明は、少なくともシリコン単体からなる表面をもつ被反応材料をアルカリ反応させて、水素の微細気泡を発生させながらケイ酸イオンを生成するケイ酸イオン生成工程を含むことを特徴とする水溶性ナノコロイドシリカの製造方法である。
【0010】
この発明によれば、苛性ソーダ由来の水ガラス(ケイ酸ナトリウムNa2SiO3)を原料に用いないので、製造した水溶性ナノコロイドシリカ中で、Na(ナトリウムイオン)の含有が抑えられ、大量に残留することがない。このため、健康飲料としての性能が低下することを防ぎ、また、摂取した者の人体に悪影響を与えることを防ぐことができる。その結果、安全かつ健康飲料として高い効能を有するシリカ水である水溶性ナノコロイドシリカを提供することができる。
【0011】
本発明に係る製造方法はまた、前記ケイ酸イオン生成工程の前に、二酸化ケイ素と炭素とを加熱して、前記二酸化ケイ素の少なくとも表面を、炭素と反応させて、発生した炭酸ガスを除去するとともに前記シリコン単体に還元して前記被反応材料を作製する被反応材料作製工程をさらに含むことが好ましい。
【0012】
本発明においてはさらに、前記二酸化ケイ素は、多孔質構造を有することが好ましい。
【0013】
本発明はまた、上記の製造方法により製造された水溶性ナノコロイドシリカであって、ゼータ電位が負であることを特徴とする水溶性ナノコロイドシリカである。
【0014】
本発明に係る水溶性ナノコロイドシリカは、ゼータ電位が-10mV~-90mVであることが好ましい。
【0015】
本発明に係る水溶性ナノコロイドシリカはまた、粒径が5nm~300nmの範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水溶性ナノコロイドシリカの製造方法によれば、安全かつ健康飲料として高い効能を有するシリカ水を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る水溶性ナノコロイドシリカの粒度分布測定の結果を示す図である。
【
図2】本発明に係る水溶性ナノコロイドシリカの含有元素分析の結果を示すグラフである。
【
図3】超微細化水晶の含有元素分析の結果を示すグラフである。
【
図4】従来の苛性ソーダ由来の水ガラスを原料としたシリカ水の含有元素分析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る水溶性ナノコロイドシリカの製造方法について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<水溶性ナノコロイドシリカの製造方法>
本発明に係る水溶性ナノコロイドシリカの製造方法は、少なくともシリコン単体からなる表面をもつ被反応材料をアルカリ反応させて、水素の微細気泡を発生させながらケイ酸イオンを生成するケイ酸イオン生成工程を含む。
【0020】
この製造方法により製造されたシリカ水(水溶性ナノコロイドシリカ)は、従来からシリカ水の原料として用いられている苛性ソーダ由来の水ガラス(ケイ酸ナトリウムNa
2SiO
3)を用いていないため、後記する測定結果(
図2)に示すように、Na(ナトリウムイオン)の含有量が検出限界値程度のレベルであり、含有していたとしても極めて低い。このため、Na(ナトリウムイオン)がシリカ水(水溶性ナノコロイドシリカ)に大量に含有されることがないので、健康飲料としての性能の低下を防ぎ、また、シリカ水(水溶性ナノコロイドシリカ)を摂取した者の人体に悪影響を与えることを防ぐことができる。その結果、安全かつ健康飲料として高い効能を有するシリカ水(水溶性ナノコロイドシリカ)を提供することができる。
【0021】
本発明の製造方法により製造された水溶性ナノコロイドシリカは、オルトケイ酸Si(OH)4構造を有することが好ましい。こうした水溶性ナノコロイドシリカはまた、所定のゼータ電位、粒径、及びトータル散乱強度等を有し、抗酸化性及び浸透性に優れたシリカ水となる。
【0022】
本発明におけるトータル散乱強度とは、測定した粒子の形状を真球と仮定し、測定中に得られた全ての散乱光量を用いて散乱強度基準から体積基準、さらに個数基準へと再計算したもののことをいう。
また、本発明におけるゼータ電位とは、溶液中の微粒子の周りに形成される電気二重層中の滑り面と、界面から充分に離れた部分との間の電位差のことをいう。ゼータ電位がゼロに近づくと、微粒子の相互の反発力が弱まり、やがて凝集する。
【0023】
以下、本発明に従う水溶性ナノコロイドシリカの製造方法の各構成要素について、詳しく説明する。
【0024】
[ケイ酸イオン生成工程]
本発明の製造方法を構成するケイ酸イオン生成工程は、少なくともシリコン単体からなる表面をもつ被反応材料をアルカリ反応させて、水素の微細気泡を発生させながらケイ酸イオンを生成する工程である。ここで使用する被反応材料に特に制限はなく、種々の公知のものを使用することができる。例えば、チョクラルスキー法等で製造した単結晶シリコンを用いてもよく、また、珪藻土やシリカ、水晶等の石英の粉末やバルクの表面を後記するような方法で還元したものを用いることもできる。ここで、シリコン単体とは、単体のケイ素から主としてなる物質、例えば90質量%以上が単体のケイ素からなる物質を指す。本発明においては、Siチップ製造用の高純度シリコン等は必ずしも必要ではないが、シリコン単体として種々の公知の物質を使用することができる。その結晶構造等にも特に制限はなく、単結晶、多結晶、非晶質のケイ素を使用することができる。
【0025】
ケイ酸イオン生成工程で使用するアルカリは、ナトリウムイオンを含有しないアルカリ水溶液を使用することが、製造される水溶性ナノコロイドシリカ中にナトリウム含有量を極力少なくする点で好ましい。アルカリ水溶液の濃度に特に制限はないが、例えばケイ酸イオン生成工程でのアルカリ反応を促進する観点から、ケイ酸イオン生成工程の開始した時点で、pHが13以上の強アルカリ水溶液を用いることが好ましい。ケイ酸イオン生成工程では、時間の経過とともにpHが低下する傾向が認められ、かかるpHの数値によって水溶性ナノコロイドシリカの製造状態を把握することができる。また、反応時の温度にも特に制限はないが、0~90℃、特に5~50℃程度で行うのが好ましい。こうしたアルカリとの反応によって、ケイ酸イオン、特に四面体構造のオルトケイ酸イオンSiO4
4-を生成することができる。なお、シリコン単体からのケイ酸イオンの生成反応は、中性条件下でも進行するが、反応速度の観点から、アルカリ性条件で行うのが実用的である。
【0026】
また、ケイ酸イオン生成工程においては、アルカリ反応によってシリコン単体の表面から水素H2の微細気泡が発生し続ける。このため、シリコン単体の表面で、水素のナノバブル(微細気泡)と溶存酸素の存在下で反応することによって、水溶液中にケイ酸イオンが生成し、生成したケイ酸イオンが主に四面体構造のオルトケイ酸:Si(OH)4となって、粒径が5~300nm程度、特に10~250nm程の安定な水溶性ナノコロイドシリカを製造することができると考えられる。この処理における反応の詳細な機構は明らかではなく、本発明は特定の理論により限定されるものでもないが、水素の微細気泡と溶存酸素等と反応し、珪藻土のような化学種が生じている可能性もある。なお、ナノバブル(微細気泡)とは、個数平均直径が1μm(マイクロメートル)未満の気泡のこという。また、ケイ酸イオン生成工程を行う期間は、特に限定はせず、主たるケイ酸化合物として、オルトケイ酸Si(OH)4が生成し、粒径が5~300nm程度、好ましくは10~250nm程度の本発明の水溶性ナノコロイドシリカを製造することができる期間であればよい。ケイ酸イオン生成工程を行う期間は、例えば6ヶ月程度行う場合が挙げられる。
【0027】
[前処理]
本発明におけるケイ酸イオン生成工程に先立ち、被反応材料に前処理、例えば粉砕や洗浄等の物理的処理、表面処理による親水化や再沈殿等の化学的処理を施してもよい。本発明におけるケイ酸イオン生成工程では、少なくともシリコン単体からなる表面をもつ被反応材料を使用するので、出発原料としてシリカ粉末等の二酸化ケイ素を使用する場合には、少なくとも表層部をシリコン単体に還元する必要がある。
【0028】
[被反応材料作製工程]
上記の理由から、本発明の水溶性ナノコロイドシリカの製造方法において、前記ケイ酸イオン生成工程の前に、二酸化ケイ素と炭素とを加熱して、前記二酸化ケイ素の少なくとも表面を、炭素と反応させて、発生した炭酸ガスを除去するとともに前記シリコン単体に還元して前記被反応材料を作製する被反応材料作製工程を行うこともできる。なお、高純度のシリコン原材料を使用する場合には、この被反応材料作製工程を経ず、直接前記のケイ酸イオン生成工程を開始してもよい。
【0029】
被反応材料作製工程は、いわゆる炭素還元法を利用した工程であり、そこで使用する原材料や反応条件に特に制限はない。原料の二酸化ケイ素は、多孔質構造を有することが好ましいが、これに限定されず、種々の市販のシリカ粉末や水晶等の二酸化ケイ素、炭やカーボンブラック等の炭素を用いることができる。例えば、水晶(二酸化ケイ素SiO2)と炭材(例えば木炭や石炭等の炭、カーボンブラック等の、炭素Cを主成分とする材料)とを一緒にして600~2400℃、好ましくは800~2000℃に加熱し、二酸化ケイ素中の酸素を炭酸ガスCO2として分離・除去することで、純度が99.9%である単結晶シリコン(Si)を生成する還元精錬法が用いられる。なお、二酸化ケイ素SiO2と炭素Cとを加熱する際の温度は上記に限定されず、二酸化ケイ素SiO2から酸素を炭酸ガスCO2として分離・除去してシリコンを生成することができる温度であればよい。
【0030】
<水溶性ナノコロイドシリカ>
このようにして製造される本発明の水溶性ナノコロイドシリカは、ナトリウムイオン等の残留がほとんどなく、安全な健康飲料として高い効能を有する。本発明はまた、上記のような製造方法で製造された水溶性ナノコロイドシリカを包含する。本発明の水溶性ナノコロイドシリカは負のゼータ電位を示し、その値は好ましくは-10mV~-90mV、より好ましくは-30mV~-80mV、特に好ましくは-40mV~-70mVの範囲内となる。本発明の水溶性ナノコロイドシリカは、上記の負のゼータ電位を有することによってナノコロイドシリカ同士が反発しあうので、沈殿を生じることなく、例えば1年以上の期間にわたって安定した状態を保つことができる。コロイドの粒径は、上記のように5~300nm程度であるが、好ましくは10nm~250nmの範囲とすることができる。本発明の水溶性ナノコロイドシリカはまた、トータル散乱強度や溶解濃度等についても特徴的な物性を示し、シリカ水中のケイ酸イオン濃度を従来のシリカ水と比べて高く、例えば5000mg/L以上とすることも可能である。
【0031】
本発明の水溶性ナノコロイドシリカはまた、製造後のpHが10~12程度、多くの場合10~11程度、特に11弱程度となっている。こうしたアルカリ性のままで飲用しても胃腸に悪影響を及ぼすことはないが、所望によりpHを9以下、例えば8前後に下げて摂取することも可能である。後記する実施例でも示すように、血中脂質によっては、pHが8程度となるように中和して摂取した方が、低減効果が大となる場合がある。中和に使用する酸に特に制限はなく、酢酸、塩酸、クエン酸等の種々の酸を使用することができるが、特に酢酸が好ましい。汎用の食用酢を使用することもできる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の水溶性ナノコロイドシリカ製造が通常どのように進められるかについて、典型的な事例を実施例として挙げながら説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0033】
(1)試験例1
本発明に従う水溶性ナノコロイドシリカの製造の最も一般的な態様においては、初めにシリコン単体生成工程(ステップS1)を行う。上記のような還元精錬法により、二酸化ケイ素粉末(粒径:約50~300μm)を炭素と一緒にして例えば500~2500℃、好ましくは500~2400℃に加熱し、酸素を炭酸ガスとして除去してシリコン単体を生成する。次に、生成したシリコン単体をアルカリ反応させて水素の微細気泡を生成するケイ酸イオン生成工程(ステップS2)を行う。ステップS2をpH13程度のアルカリ水溶液中で開始し、長時間、例えば6ヶ月間放置すると、pHが最終的に10程度まで低下し、透明だった液体が白化したコロイド溶液となる。ここで、コロイド溶液のゼータ電位は負の数値であるため、おり等の沈殿物は生じない。
【0034】
上記の実施例に従い製造された本発明の水溶性ナノコロイドシリカについて、粒径、ゼータ電位、トータル散乱強度、溶解濃度を分析した結果を以下に示す。
【0035】
[粒径]
(測定1)
本発明の水溶性ナノコロイドシリカの粒径dについて、動的光散乱法(JIS Z8828:2013)による粒度分布測定を行った。なお、測定1では、測定分析装置として、マルバーン社製ゼータサイザーナノZSと、粒子径測定用ディスポーザブルセルとを用いて測定を行った。また、測定環境については、温度を25.0℃、実測時間を60秒、カウントレートを262.7kcps(count per second)、測定位置を4.65mmとした。
【0036】
(結果1)
図1は、本発明の水溶性ナノコロイドシリカの粒度分布測定の結果を示す図であり、粒径毎の散乱強度をグラフにしてある。
図1に示すように、粒度分布は単一なピークを形成した。このように、本発明の水溶性ナノコロイドシリカでは、粒径dを10~250nm程度の好適な範囲で、ピークが一つにまとまったきれいな粒度分布とすることができる。なお、従来品の粒径は、通常800nm前後であるので、本発明の水溶性ナノコロイドシリカの粒径(250nm以下)は、従来品の粒径の約4分の1以下と、格段に小さいことがわかる。
【0037】
[ゼータ電位]
(測定2)
本発明の水溶性ナノコロイドシリカのゼータ電位について、電気泳動法によるゼータ電位測定を行った。測定は複数回行った。
なお、測定2では、測定分析装置として、マルバーン社製ゼータサイザーナノZS(電気泳動法)と、キャピラリーセル(ディスポーザブルゼータ電位測定セル)とを用いて測定を行った。
また、測定環境については、試料を容器ごとよく振り混ぜた後、セルに採取し、n=2でゼータ電位測定を行った。溶媒の屈折率、粘度及び誘電率については、水の測定値に設定した。
【0038】
(結果2)
ゼータ電位は、表1に示すように、1回目の測定結果では-52mVとなり、2回目の測定結果では-47mVとなった。このように、本発明の水溶性ナノコロイドシリカのゼータ電位は負の値、例えば-10mV~-90mV、特に-45~55mVを好適な範囲とすることができる。
【表1】
【0039】
[含有元素分析]
図2は、本発明の水溶性ナノコロイドシリカを乾燥させたシリカ粉末を、EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて含有元素分析を行ったときの結果を示すチャートである。
本発明の水溶性ナノコロイドシリカにおいては、
図2に示すように、O(酸素)の含有割合が58.70%、Si(ケイ素)の含有割合が39.61%となっており、その他の微量の含有元素の中に不純物レベルの微量Na(ナトリウムイオン)が含まれる。このように、本発明の水溶性ナノコロイドシリカではNa(ナトリウムイオン)が大量に含有されることがないので、健康飲料としての性能の低下を防ぐとともに、本発明の水溶性ナノコロイドシリカを摂取した者の人体に悪影響を与えることを防ぐことができる。その結果、安全かつ健康飲料として高い効能を有するシリカ水(水溶性ナノコロイドシリカ)を提供することができる。
【0040】
ここで、本発明の水溶性ナノコロイドシリカに組成がよく似たものとして、破砕により微粒子化させた水晶(以下「超微細化水晶」と呼ぶ)がある。
図3は、超微細化水晶を、EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて含有元素分析を行ったときの結果を示すチャートである。
【0041】
超微細化水晶では、
図3に示すように、O(酸素)の含有割合が56.26%、Si(ケイ素)の含有割合が41.05%となっており、その他の微量の含有元素の中に不純物レベルの微量Na(ナトリウムイオン)が含まれる。このため、本発明の水溶性ナノコロイドシリカと同様に、Na(ナトリウムイオン)が大量に含有されることがない。
【0042】
しかしながら、超微細化水晶は、水晶を破砕により微粒子化させたものにすぎないため、構造が石英SiO2のままとなっている。上述したように、石英(水晶)は不溶性の鉱物であり、微粉末の状態で飲料に混ぜたとしても沈殿してしまう。このため、超微細化水晶は飲料には適さない。
【0043】
図4は、従来のシリカ水に用いられている、苛性ソーダ由来の水ガラス(ケイ酸ナトリウムNa
2SiO
3)を原料として合成されたコロイドシリカを乾燥させたシリカ粉末を、EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いて含有元素分析を行ったときの結果を示すチャートである。
【0044】
図4に示されるように、従来品のコロイドシリカでは、Naが10%と高濃度に含有されている。そのため、シリカ水の健康飲料としての性能が低いだけでなく、シリカ水を摂取した者の人体に悪影響を及ぼすおそれもある。
【0045】
以上のように、本発明の水溶性ナノコロイドシリカは、従来からあるシリカ水や超微細化水晶とは異なる特別な特徴を有する。本発明の水溶性ナノコロイドシリカはまた、上記の超微細化水晶とは異なり、コロイド溶液の状態で存在しているため、チンダル現象が見られる。つまり、本発明の水溶性ナノコロイドシリカに光を通すと、光が散乱して光の通路が一様に光って見える。
【0046】
(2)試験例2
[実施例1~4、比較対照例]
以下では、上記のようにして製造された本発明の水溶性ナノコロイドシリカの効果を、ラットを用いて試験した結果について説明する。試験は海外の大学に依頼し、室温24℃、相対湿度40~50%の条件下、本発明の水溶性ナノコロイドシリカ(以下で「シリカ水」と略記する場合がある。ケイ素濃度5660mg/L、pH10.93)を用いて行った。検証・比較のため、該水溶性ナノコロイドシリカの中和品(本発明の水溶性ナノコロイドシリカを白酢で中和したもの、以下で「中和品」と呼ぶ。pH8.05)、蒸留水、シンバスタチン(汎用の脂質異常症治療薬、5%CMC-Na調剤品)を使用した試験も、別途実施した。
体重160±10gの雄ラット56匹を下記の7組にランダムに分け、それぞれに下記の種類及び量の薬剤を、飼料20gと共に毎日胃内投与した。尚、下記の薬剤量はラット1kg当たりの薬剤純分(ケイ素分等)の質量(mg)である。
・1組(参考例):一般飼料+蒸留水
・2組(対照例):高脂飼料+蒸留水
・3組(比較例):高脂飼料+シンバスタチン 1.54mg/kg
・4組(実施例1):高脂飼料+シリカ水 10.94mg/kg
・5組(実施例2):高脂飼料+シリカ水 5.47mg/kg
・6組(実施例3):高脂飼料+シリカ水 2.83mg/kg
・7組(実施例4):高脂飼料+中和品 10.94mg/kg
上記各薬剤を15日間投与した後、さらに15日間飼料なしで水だけ与えた後、血清を採取し、全自動生物化学分析器でTC(トータルコレステロール)、TG(中性脂肪)、LDL-C(悪玉コレステロール)、HDL-C(善玉コレステロール)、AST、及びALT値を測定した。各組の8匹についての測定結果の平均値を、表2に示す。
【0047】
【0048】
表2に示されるように、ラットにシリカ水を投与した実施例1~4ではいずれも、ラットに蒸留水を投与した対照例に比べてトータルコレステロール値、TG、LDL-C、AST、及びALTの値が低くなっており、本発明の水溶性ナノコロイドシリカが血中脂肪低減効果を奏することが判明した。特にTG及びALTに関しては、実施例1~4はいずれも、ラットに汎用の脂質異常症治療薬を投与した比較例と比べても優れた効果が見られ、ALTの値は一般飼料を与えられた参考例と比べても低かった。一方、実施例1~4のHDL-C(善玉コレステロール)値は、対照例や比較例と同等程度以上であった。また、実施例1~4のうち、pHを8程度とした中和品を用いた実施例4では、トータルコレステロール値及びLDL-C値の低減効果、並びにHDL-C値の改善効果が最も高かった。
【0049】
[実施例5]
本発明の水溶性ナノコロイドシリカの急性毒性を試験するため、体重20±1.5gの雌雄のマウスを同数用い、シリカ水を経口投与した。試験は海外の大学にて、温度20~23℃、相対湿度70%の条件で行った。
20匹のマウスそれぞれに、上記シリカ水0.77mlを、24時間の間に4回投与した(1匹当たりのケイ素投与量:17.4mg)。1匹も死亡せず、半分致死量ID50の数値は得られなかった。
次に、マウスへの投与量を増やしたが、最大投与量870mg/kg(人間の臨床用量の363倍)でも死亡例が出なかった。
【0050】
上記実施例により、本発明に係る水溶性ナノコロイドシリカは、安全でかつ健康飲料として高い効能を有することが示された。
【0051】
<水溶性ナノコロイドシリカの用途>
次に、水溶性ナノコロイドシリカを用いるのに好適な種々の用途について以下で説明する。
【0052】
例えば、上述の実施形態では、本発明の水溶性ナノコロイドシリカを飲料として利用することについて説明しているが、本発明の水溶性ナノコロイドシリカは飲料として利用することに限定されない。本発明の水溶性ナノコロイドシリカは、殺菌力、洗浄力、浸透力、消炎力、細胞活性力、抗酸化力、分解力の点等で優れた能力を有するので、これらの能力を生かした様々な用途に用いることができる。
【0053】
すなわち、本発明の水溶性ナノコロイドシリカは、レジオネラ菌や大腸菌類を瞬間的に殺菌する殺菌力と、食物の表面に付着し又は内部に浸透した環境汚染物質を洗い流す洗浄力と、25億分の1m(メートル)の単位に細分化可能な浸透力を有する。また、免疫力を強化することで消炎化させる消炎力と、細胞核に直接エネルギーを入核させて細胞を活性化させる細胞活性力とを有する。さらに、血管内の汚れや資質を溶かし去り、血管を修復させる分解力と、腸内の腐敗の進行を止めることで悪玉菌を静菌させ、善玉菌を活性化させて免疫力を強化する抗酸化力とを有する。
【0054】
このように、本発明の水溶性ナノコロイドシリカは、人体の健康に良い効果をもたらすが、さらに以下のような効果をもたらす。すなわち、本発明の水溶性ナノコロイドシリカには、老廃物を排除する効果があるので、便秘、むくみ(水毒)、関節に水が溜まることを解消させることができる。また、ストレス、うつ病、不眠症など、いわば心の毒素を排除する効果も有する。また、肩こり、頭痛、腰痛、めまい、しびれ等を改善させる効果も有する。
【0055】
また、本発明の水溶性ナノコロイドシリカは、酸化を遅らせる効果を有するので、野菜や果物の洗浄に用いることで、水道水による洗浄よりも野菜や果物の鮮度を維持させることができる。本発明の水溶性ナノコロイドシリカの優れた浸透力により、野菜の内部に浸透した農薬等を除去することもできる。具体的には例えば、本発明の水溶性ナノコロイドシリカと水とを混ぜ合わせた水に、農薬を使用して栽培したミニトマトを浸すと、ミニトマトから農薬が滲み出し、ミニトマトを浸した水が黄色く変色する。
【0056】
さらに、魚介類等の生ものに本発明の水溶性ナノコロイドシリカを付着させると、水溶性ナノコロイドシリカを付着させた部分に細菌等が付着しにくくなるので、魚介類等の生ものの鮮度を長い時間維持させることができる。
【0057】
また、本発明の水溶性ナノコロイドシリカは、炊飯や、鍋物や煮物などの料理に用いてもよい。例えば本発明の水溶性ナノコロイドシリカを炊飯に用いた場合、水溶性ナノコロイドシリカの優れた浸透力により、米の内部の酸化物質を除去するので、美味しい米に変化させることができる。また、本発明の水溶性ナノコロイドシリカをコーヒーに加えることにより、苦みがとれて味がまろやかになるという効果も有する。さらに、緑茶を淹れる際に本発明の水溶性ナノコロイドシリカを用いた場合には、水道水で淹れた場合より緑茶の色が濃く出るという効果も有する。このように、本発明の水溶性ナノコロイドシリカは、料理に加えることにより、素材の味が引き出されて美味しくなるという効果を奏する。さらに、本発明の水溶性ナノコロイドシリカは、油分を分解してくれるので、味だけではなく料理をヘルシーに仕上げる効果を奏する。
【0058】
本発明の水溶性ナノコロイドシリカは、人間の食事以外にも効果がある。例えば犬や猫等のペット用の飲料水や食べ物に水溶性ナノコロイドシリカを数滴加えたり、薄めた水溶性ナノコロイドシリカをペットの身体にスプレーすることにより、毛並が良くなる効果や、体臭を抑える効果を奏する。
【0059】
また、人間やペット等の動物に限らず、植物にも効果がある。例えば、観葉植物の注水の際に本発明の水溶性ナノコロイドシリカを使用することにより、観葉植物の新鮮さを維持させ、寿命を延ばすことができる。また、生花の場合には、開花期間を長くすることができる。
【0060】
さらに、本発明の水溶性ナノコロイドシリカは、アルコール分解能力に優れているので、二日酔いにも効果がある。また、本発明の水溶性ナノコロイドシリカは、活性酸素を除去する効果を有するので美容効果もある。例えばスプレーによるスキンケアを行うことで水溶性ナノコロイドシリカの美容成分を効果的に肌に浸透させることができる。なお、水溶性ナノコロイドシリカの原液を皮膚へ直接塗り込むことで、しみ、しわ、ニキビ、吹き出物を効果的に除去することもできる。
【0061】
また、本発明の水溶性ナノコロイドシリカを歯磨きに使用すると、ケイ素の吸着効果により、歯に付着した茶渋やヤニを除去することができるとともに、歯周病、歯肉炎、知覚過敏を解消することもできる。
【0062】
さらに、本発明の水溶性ナノコロイドシリカは、農業分野、漁業分野、医療分野等で利用することもできる。農業分野では肥料として水溶性ナノコロイドシリカを利用することができ、漁業分野では飼料として水溶性ナノコロイドシリカを利用することができる。
【0063】
医療分野では、患者に本発明の水溶性ナノコロイドシリカを摂取させることにより、アトピー、花粉症、喘息、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全(尿毒症)等を改善させる効果を有する。さらに、水溶性ナノコロイドシリカを前立腺がん、子宮がん、大腸がん等のがんの治療に利用することもできる。具体的には例えば、近赤外線によるがん免疫治療(米国立がん研究所 小林久隆 主任研究員が開発)に水溶性ナノコロイドシリカを利用することができる。この治療では、がん細胞にのみ特異的に結合する抗体に、近赤外線により化学反応を起こす色素であるフタロシアニンを付着させ、患者の体内に静脈注射する。本来、フタロシアニンは水溶性でないため、患者の体内に入れることができないが、フタロシアニンに本発明の水溶性ナノコロイドシリカを入れることにより水溶性に変化する。体内に入った抗体はがん細胞と結合するので、この結合部分に近赤外線の光が照射されると、化学反応を起こしてがん細胞を破壊する。また、本発明の水溶性ナノコロイドシリカを単独でがん治療に利用することもできる。具体的には、本発明の水溶性ナノコロイドシリカによりがん細胞内のミトコンドリアが活性化され、ミトコンドリア内に酵素(チトクロムC)が生成される。酵素(チトクロムC)は、がん細胞内でアポトーシス(自殺)を引き起こすたんぱく質分解酵素(カスパーゼ)の働きを活発化させる。これにより、がん細胞のDNA(デオキシリボ核酸)にアポトーシスの変性が生じ、がん細胞の消滅が始まる。本発明の水溶性ナノコロイドシリカはまた、粒径が小さいので、人工透析等においても使用することができる。
【0064】
以上のように、本発明の水溶性ナノコロイドシリカはナトリウムイオンの大量残留を伴わず、また、長期間沈殿しない利点がある。本発明によって、安全かつ健康飲料として高い効能を有するシリカ水を提供することが可能となった。