(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】冷却ファン制御装置、冷却装置、および、冷却ファン制御方法
(51)【国際特許分類】
F01P 7/04 20060101AFI20231121BHJP
F01P 5/02 20060101ALI20231121BHJP
F01P 5/06 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
F01P7/04 P
F01P5/02 G
F01P5/06 510B
(21)【出願番号】P 2019174448
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】原 桂吾
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-72100(JP,A)
【文献】特開2018-9517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/04
F01P 5/02
F01P 5/06
F01M 5/00
F02B 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電源からの給電により駆動されて熱交換器を冷却する複数の冷却ファンの回転数を制御する冷却ファン制御装置であって、
空気密度を検出する密度検出手段と、
各冷却ファンの必要電力の総和と、密度検出手段により検出された空気密度と、に基づき各冷却ファンの消費電力が給電源の電力容量を超えない範囲で各冷却ファンの目標回転数を設定する回転数設定手段と、を備え、
回転数設定手段は、各冷却ファンの必要電力の総和が給電源の電力容量を超える場合の各冷却ファンの目標回転数の上限となる上限目標回転数
を、密度検出手段により検出された空気密度が小さいときほど
大きくする
ことを特徴とする冷却ファン制御装置。
【請求項2】
回転数設定手段は、密度検出手段により検出された空気密度が所定値より大きい場合には、冷却ファンの目標回転数の上限を上限目標回転数にするとともに、密度検出手段により検出された空気密度が所定値以下の場合には、冷却ファンの目標回転数の上限を上限目標回転数よりも大きく設定可能である
ことを特徴とする請求項1記載の冷却ファン制御装置。
【請求項3】
密度検出手段は、気圧センサである
ことを特徴とする請求項1または2記載の冷却ファン制御装置。
【請求項4】
給電源となるオルタネータと、
熱交換器と、
オルタネータにより発電された電力により駆動されて熱交換器を冷却する冷却ファンと、
この冷却ファンの回転数をそれぞれ制御する請求項1乃至3いずれか一記載の冷却ファン制御装置と、
を備えたことを特徴とする冷却装置。
【請求項5】
熱交換器は、ラジエタを備え、
冷却ファンは、ラジエタを冷却するラジエタファンを備えた
ことを特徴とする請求項4記載の冷却装置。
【請求項6】
給電源からの給電により駆動されて熱交換器を冷却する
複数の冷却ファンの回転数を制御する冷却ファン制御方法であって、
空気密度を検出し、
各冷却ファンの必要電力の総和と、検出した空気密度と、に基づき各冷却ファンの消費電力が給電源の電力容量を超えない範囲で各冷却ファンの目標回転数を設定するものであって、各冷却ファンの必要電力の総和が給電源の電力容量を超える場合
の各冷却ファンの目標回転数の上限となる上限目標回転数
を、検出した空気密度が小さいときほど
大きくする
ことを特徴とする冷却ファン制御方法。
【請求項7】
検出した空気密度が所定値より大きい場合には、冷却ファンの目標回転数の上限を上限目標回転数にするとともに、検出した空気密度が所定値以下の場合には、冷却ファンの目標回転数の上限を上限目標回転数よりも大きく設定可能である
ことを特徴とする請求項6記載の冷却ファン制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器を冷却する冷却ファンの回転数を制御する冷却ファン制御装置、冷却装置、および、冷却ファン制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルなどの作業機械においては、エンジン冷却用のラジエタ、各油圧アクチュエータに給排される作動油の冷却用のオイルクーラ、および、ターボ過給機により圧縮されたエンジン吸気を冷却するアフタクーラなどの熱交換器と、これら熱交換器にそれぞれ対応した電動の冷却ファンとを備える冷却ユニットであるクーリングパッケージが設置されている。冷却ファンは、それぞれ別個に回転数、すなわちファンスピードを制御している。従来、各冷却ファンには、給電源となるオルタネータの電流容量を超えないように、上限ファンスピードがそれぞれ予め定められている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上限ファンスピードは、通常、標準的な仕様やアプリケーションに応じて設定されているため、標準的な仕様から外れる作業環境において、熱交換器の冷却不足に陥らないようにすることが望まれる。例えば、高地などの空気密度が小さい環境下では、特にラジエタなどの冷却性能が低下することから、標準的な作業環境において設定された上限ファンスピードでは、十分な冷却効果を得られないおそれがあり、さらなる対応が望まれる。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、空気密度に応じて熱交換器を適切に冷却可能な冷却ファン制御装置、冷却装置、および、冷却ファン制御方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、給電源からの給電により駆動されて熱交換器を冷却する複数の冷却ファンの回転数を制御する冷却ファン制御装置であって、空気密度を検出する密度検出手段と、各冷却ファンの必要電力の総和と、密度検出手段により検出された空気密度と、に基づき各冷却ファンの消費電力が給電源の電力容量を超えない範囲で各冷却ファンの目標回転数を設定する回転数設定手段と、を備え、回転数設定手段が、各冷却ファンの必要電力の総和が給電源の電力容量を超える場合の各冷却ファンの目標回転数の上限となる上限目標回転数を、密度検出手段により検出された空気密度が小さいときほど大きくするものである。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の冷却ファン制御装置における回転数設定手段が、密度検出手段により検出された空気密度が所定値より大きい場合には、冷却ファンの目標回転数の上限を上限目標回転数にするとともに、密度検出手段により検出された空気密度が所定値以下の場合には、冷却ファンの目標回転数の上限を上限目標回転数よりも大きく設定可能であるものである。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の冷却ファン制御装置における密度検出手段が、気圧センサであるものである。
【0009】
請求項4記載の発明は、給電源となるオルタネータと、熱交換器と、オルタネータにより発電された電力により駆動されて熱交換器を冷却する冷却ファンと、この冷却ファンの回転数をそれぞれ制御する請求項1乃至3いずれか一記載の冷却ファン制御装置と、を備えた冷却装置である。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の冷却装置における熱交換器が、ラジエタを備え、冷却ファンが、ラジエタを冷却するラジエタファンを備えたものである。
【0011】
請求項6記載の発明は、給電源からの給電により駆動されて熱交換器を冷却する複数の冷却ファンの回転数を制御する冷却ファン制御方法であって、空気密度を検出し、各冷却ファンの必要電力の総和と、検出した空気密度と、に基づき各冷却ファンの消費電力が給電源の電力容量を超えない範囲で各冷却ファンの目標回転数を設定するものであって、各冷却ファンの必要電力の総和が給電源の電力容量を超える場合の各冷却ファンの目標回転数の上限となる上限目標回転数を、検出した空気密度が小さいときほど大きくするものである。
【0012】
請求項7記載の発明は、請求項6記載の冷却ファン制御方法において、検出した空気密度が所定値より大きい場合には、冷却ファンの目標回転数の上限を上限目標回転数にするとともに、検出した空気密度が所定値以下の場合には、冷却ファンの目標回転数の上限を上限目標回転数よりも大きく設定可能であるものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によれば、空気密度が小さく熱交換器の冷却能力が低下する場合でも、各冷却ファンの必要電力の総和が給電源の電力容量を超える場合に各冷却ファンの目標回転数の上限となる上限目標回転数を大きくすることによって熱交換器の冷却能力の低下分を補い、空気密度に応じて熱交換器を適切に冷却可能となる。
【0014】
請求項2記載の発明によれば、空気密度が相対的に大きい環境と、空気密度が相対的に小さい環境とで、冷却ファンの目標回転数の上限を変えて、それぞれの環境に応じて熱交換器を適切に冷却可能となる。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、高地において熱交換器を適切に冷却可能となる。
【0016】
請求項4記載の発明によれば、オルタネータを大型化することなく冷却ファンによって空気密度に応じて熱交換器を適切に冷却可能な冷却装置を提供できる。
【0017】
請求項5記載の発明によれば、空気密度の変化に伴う冷却能力の変化が大きいラジエタを適切に冷却可能となる。
【0018】
請求項6記載の発明によれば、空気密度が小さく熱交換器の冷却能力が低下する場合でも、各冷却ファンの必要電力の総和が給電源の電力容量を超える場合に各冷却ファンの目標回転数の上限となる上限目標回転数を大きくすることによって冷却能力の低下分を補い、空気密度に応じて熱交換器を適切に冷却可能となる。
【0019】
請求項7記載の発明によれば、空気密度が相対的に大きい環境と、空気密度が相対的に小さい環境とで、冷却ファンの目標回転数の上限を変えて、それぞれの環境に応じて熱交換器を適切に冷却可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る冷却ファン制御装置を備える冷却装置の一実施の形態を示すブロック図である。
【
図2】同上冷却ファン制御装置を示す説明図である。
【
図3】同上冷却ファン制御装置の回転数設定手段の処理を模式的に示す説明図である。
【
図4】同上冷却ファン制御装置のエンジンの回転数に対する給電源の発電電流のテーブルの一例を示す説明図である。
【
図5】(a)は同上冷却ファン制御装置の第一の熱交換器の温度に対する第一の冷却ファンの必要回転数のテーブルの一例を示す説明図、(b)は同上冷却ファン制御装置の第二の熱交換器の温度に対する第二の冷却ファンの必要回転数のテーブルの一例を示す説明図、(c)は同上冷却ファン制御装置の第三の熱交換器の温度に対する第三の冷却ファンの必要回転数のテーブルの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、
図1乃至
図5に示された一実施の形態に基いて詳細に説明する。
【0022】
図1において、11は冷却装置を示す。本実施の形態の冷却装置11は、油圧ショベルなどの作業機械用の冷却装置である。冷却装置11は、冷却対象となる複数の熱交換器を備えている。本実施の形態において、熱交換器は、エンジン冷却水が通る第一の熱交換器であるラジエタ15と、油圧アクチュエータに給排される作動油が通る第二の熱交換器であるオイルクーラ16と、図示されないターボ過給機により圧縮された空気が通る第三の熱交換器であるアフタクーラ17とを有する。
【0023】
また、冷却装置11は、熱交換器毎に配置された冷却ファンを備えている。すなわち、冷却装置11は、複数の冷却ファンを備えている。冷却ファンは、熱交換器に対しそれぞれ対向配置されている。冷却ファンは、駆動手段により駆動される。駆動手段は、電動駆動手段であり、給電源から給電されて駆動する。すなわち、本実施の形態の冷却ファンは、電動ファンである。本実施の形態において、冷却ファンは、ラジエタ15の冷却用の第一の冷却ファンであるラジエタファン25と、オイルクーラ16の冷却用の第二の冷却ファンであるオイルクーラファン26と、アフタクーラ17の冷却用の第三の冷却ファンであるアフタクーラファン27とを有する。そして、駆動手段としては、ラジエタファン25を駆動させる第一の電動モータであるラジエタファン用電動モータ25mと、オイルクーラファン26を駆動させる第二の電動モータであるオイルクーラファン用電動モータ26mと、アフタクーラファン27を駆動させる第三の電動モータであるアフタクーラファン用電動モータ27mとを有する。
【0024】
駆動手段に給電する給電源としては、オルタネータ30が用いられる。オルタネータ30は、エンジン31の出力軸に連結され、エンジン31によって駆動されて発電するとともに、発電した電力をバッテリ32に蓄えるように構成されている。エンジン31の回転数に応じてオルタネータ30の回転数が設定され、オルタネータ30の回転数が高いほど発電電流が多くなる。通常、エンジン31の回転数とオルタネータ30の回転数とは正の相関を有し、本実施の形態において、エンジン31の回転数とオルタネータ30の回転数とは比例関係にある。バッテリ32が電動モータ25m,26m,27mと電気的に接続され、オルタネータ30により発電された電力がバッテリ32を介して電動モータ25m,26m,27mに供給される。また、エンジン31の回転数は、回転数検出手段33により検出される。
【0025】
また、冷却装置11は、熱交換器毎に配置された温度センサを備えている。すなわち、冷却装置11は、複数の温度センサを備えている。温度センサは、各熱交換器の温度、または、各熱交換器を通過する流体の温度に関連する情報を、直接的または間接的に取得する。本実施の形態において、温度センサは、ラジエタ15用の第一の温度センサ35と、オイルクーラ16用の第二の温度センサ36と、アフタクーラ17用の第三の温度センサ37とを有する。本実施の形態において、第一の温度センサ35は、ラジエタ15を通るエンジン冷却水の温度を直接的または間接的に検出する。また、第二の温度センサ36は、オイルクーラ16を通る作動油の温度を直接的または間接的に検出する。さらに、第三の温度センサ37は、アフタクーラ17を通る空気の温度を直接的または間接的に検出する。
【0026】
さらに、冷却装置11は、冷却ファン制御装置40を備える。冷却ファン制御装置40は、複数の冷却ファンの回転数(ファンスピード)をそれぞれ制御する。本実施の形態において、冷却ファン制御装置40は、ファン25,26,27の回転数、すなわち電動モータ25m,26m,27mの回転数をそれぞれ制御する。冷却ファン制御装置40は、空気密度を検出する密度検出手段41と、コントローラ42と、を備える。
【0027】
密度検出手段41は、一例として、気圧センサである。すなわち、密度検出手段41は、作業機械の作業環境の空気密度を検出する。本実施の形態において、密度検出手段41は、少なくとも冷却ファンが配置されている位置の空気密度を検出する。
【0028】
コントローラ42は、コンピュータから構成され得る。コントローラ42は、冷却ファンの駆動手段、温度センサ、および、密度検出手段41などと電気的に接続される。本実施の形態において、コントローラ42は、ラジエタファン用電動モータ25m、オイルクーラファン用電動モータ26m、アフタクーラファン用電動モータ27m、回転数検出手段33、第一の温度センサ35、第二の温度センサ36、第三の温度センサ37、密度検出手段41などと電気的に接続されている。
【0029】
そして、本実施の形態において、コントローラ42は、回転数設定手段の機能を有する。コントローラ42は、オルタネータ30の電力容量と、冷却ファン毎の熱交換器の冷却状態に応じた必要電力の総和と、密度検出手段41により検出された空気密度とに基づき、各冷却ファンの消費電力がオルタネータ30の電力容量を超えない範囲で各冷却ファンの目標回転数を設定する。以下、本実施の形態においては、「電力」を「電流」として説明する。
【0030】
コントローラ42には、エンジン31の回転数に対するオルタネータ30の発電電流のテーブル(
図4)、ファン25,26,27の電動モータ25m,26m,27m以外の電装品の制御に必要な電流値、電動モータ25m,26m,27mに供給される電流値に対する電動モータ25m,26m,27mの回転数のテーブル、および、第一乃至第三の温度センサ35,36,37により検出される温度TR,TO,TAに対するファン25,26,27または電動モータ25m,26m,27mの回転数NR,NO,NAのテーブルT1,T2,T3(
図5(a)乃至
図5(c))などが予め記憶されている。
【0031】
図4に一例が示されるように、オルタネータ30の発電電流は、基本的にエンジン31の回転数に対し正の相関を有している。なお、エンジン31の回転数に対するオルタネータ30の発電電流のテーブルは、例えばオルタネータ30の周囲温度に応じて予め複数記憶されていてもよい。
【0032】
図5(a)に一例が示されるように、温度TRに対するラジエタファン25またはラジエタファン用電動モータ25mの回転数NRのテーブルT1については、温度TRが所定の第一の温度閾値TR1以下(TR≦TR1)の場合は、回転数NRは、所定の第一の回転数NR1で一定である。また、温度TRが第一の温度閾値TR1より大きく、所定の第二の温度閾値TR2未満(TR1<TR<TR2)の場合は、回転数NRは第一の回転数NR1から所定の第二の回転数NR2(NR1<NR2)までの間で例えば比例関係など、正の相関を有する関係にある。さらに、温度TRが第二の温度閾値TR2以上(TR2≦TR)の場合は、回転数NRは第二の回転数NR2で一定である。
【0033】
同様に、
図5(b)に一例が示されるように、温度TOに対するオイルクーラファン26またはオイルクーラファン用電動モータ26mの回転数NOのテーブルT2については、温度TOが所定の第一の温度閾値TO1以下(TO≦TO1)の場合は、回転数NOは所定の第一の回転数NO1で一定である。また、温度TOが第一の温度閾値TO1より大きく、所定の第二の温度閾値TO2未満(TO1<TO<TO2)の場合は、回転数NOは第一の回転数NO1から所定の第二の回転数NO2(NO1<NO2)までの間で例えば比例関係など、正の相関を有する関係にある。さらに、温度TOが第二の温度閾値TO2以上(TO2≦TO)の場合は、回転数NOは第二の回転数NO2で一定である。
【0034】
また、
図5(c)に一例が示されるように、温度TAに対するアフタクーラファン27またはアフタクーラファン用電動モータ27mの回転数NAのテーブルT3については、温度TAが所定の第一の温度閾値TA1以下(TA≦TA1)の場合は、回転数NAは所定の第一の回転数NA1で一定である。また、温度TAが第一の温度閾値TA1より大きく、所定の第二の温度閾値TA2未満(TA1<TA<TA2)の場合は、回転数NAは第一の回転数NA1から所定の第二の回転数NA2(NA1<NA2)までの間で例えば比例関係など、正の相関を有する関係にある。さらに、温度TAが第二の温度閾値TA2以上(TA2≦TA)の場合は、回転数NAは第二の回転数NA2で一定である。
【0035】
図1に示されるコントローラ42には、ファン25,26,27(電動モータ25m,26m,27m)の上限目標回転数が予め記憶されていてもよい。ファン25,26,27(電動モータ25m,26m,27m)の上限目標回転数は、互いに同一でもよいし、異なっていてもよい。また、上限目標回転数は、エンジン31の回転数に応じて予め設定されていてもよい。例えば、上限目標回転数は、給電源の電流容量、すなわちオルタネータ30の発電電流からその他の電装品の制御に必要な電流値を差し引いた容量を、冷却ファンの数で等分、つまり本実施の形態では三等分した電流値以下の所定の電流値に対応する回転数などに予め設定されていてもよいし、ファン25,26,27(電動モータ25m,26m,27m)の必要電流に応じて設定されていてもよい。なお、上限目標回転数は、ファン25,26,27(電動モータ25m,26m,27m)の必要電流に応じて都度設定されてもよい。
【0036】
そして、コントローラ42は、
図1および
図2に示されるように、ファン25,26,27の目標回転数TNR,TNO,TNAを算出する算出手段43と、算出手段43により算出された目標回転数TNR,TNO,TNAとなるようにファン25,26,27の制御信号を出力する出力手段44とを備えている。
【0037】
算出手段43は、本実施の形態において、電動モータ25m,26m,27mの目標回転数を算出することにより、ファン25,26,27の目標回転数TNR,TNO,TNAを算出する。算出手段43は、オルタネータ30の電流容量と、ファン25,26,27毎の冷却対象となる熱交換器、つまりラジエタ15、オイルクーラ16、および、アフタクーラ17の冷却状態に応じた必要電流の総和と、空気密度とに基づき、各ファン25,26,27の電動モータ25m,26m,27mの消費電流がオルタネータ30の電流容量を超えない範囲で、ファン25,26,27の目標回転数TNR,TNO,TNAを算出する。
【0038】
算出手段43には、冷却対象となる熱交換器の冷却状態として、温度センサにより検出された温度が入力される。好ましくは、算出手段43には、温度センサにより検出された温度の平均値が入力される。すなわち、算出手段43には、平均化手段が電気的に接続されている。本実施の形態において、算出手段43には、第一乃至第三の温度センサ35,36,37により検出された温度TR,TO,TAの移動平均値が入力される。すなわち、算出手段43には、第一乃至第三の平均化手段45,46,47が電気的に接続されている。第一乃至第三の平均化手段45,46,47は、第一乃至第三の温度センサ35,36,37と電気的に接続され、これら第一乃至第三の温度センサ35,36,37から出力された温度TR,TO,TAを、所定の移動平均時間で平均化した値を算出手段43に出力する。所定の移動平均時間は、予め設定されていてもよいし、オペレータなどが任意に設定してもよい。なお、以下、温度TR,TO,TAとは、第一乃至第三の温度センサ35,36,37により検出された温度を示す場合と、第一乃至第三の平均化手段45,46,47により平均化された温度を示す場合との双方を含むものとする。
【0039】
また、算出手段43には、空気密度として、密度検出手段41により検出された空気密度が入力される。空気密度は、密度検出手段41により検出された値でもよいし、その値の移動平均値などでもよい。
【0040】
次に、図示された実施の形態の動作を説明する。
【0041】
ファン25,26,27の回転数を制御する際、コントローラ42は、まず、算出手段43において、エンジン31の回転数に対するオルタネータ30の発電電流のテーブル(
図4)に基づいて、回転数検出手段33により検出したエンジン31の回転数からオルタネータ30の発電電流を算出する。この発電電流の算出の際には、オルタネータ30の周囲温度を加味してテーブルを選択してもよい。その場合、オルタネータ30の周囲温度を検出する温度センサをさらに備えていてもよい。
【0042】
次いで、コントローラ42は、算出手段43において、算出したオルタネータ30の発電電流から電動モータ25m,26m,27m以外の電装品の制御に必要な電流値を差し引く。また、算出手段43は、温度TR,TO,TAに対するファン25,26,27または電動モータ25m,26m,27mの回転数NR,NO,NAのテーブルT1,T2,T3(
図5(a)乃至
図5(c))から、必要回転数、すなわち必要電流を算出する。
【0043】
この後、コントローラ42は、算出手段43において、オルタネータ30の電流容量と、ファン25,26,27の必要電流、すなわち電動モータ25m,26m,27mの必要電流の総和とに基づき、ファン25,26,27の目標回転数TNR,TNO,TNAを算出する。本実施の形態においては、算出手段43が、オルタネータ30による発電電流から電動モータ25m,26m,27m以外の電装品の制御に必要な電流値を引いた分と、電動モータ25m,26m,27mの必要電流との大小関係に基づき、ファン25,26,27の目標回転数TNR,TNO,TNAを算出する。
【0044】
具体的に、本実施の形態において、算出手段43は、ファン25,26,27(電動モータ25m,26m,27m)の必要電流の総和を算出し、この算出した総和と、給電源の電流容量、すなわちオルタネータ30の発電電流からその他の電装品の制御に必要な電流値を差し引いた容量とを比較して、総和が給電源の電流容量を超えるか否かを判断する。そして、総和が電流容量を超える場合には、目標回転数TNR,TNO,TNAを上限目標回転数などに維持する。また、総和が電流容量を超えない場合には、目標回転数TNR,TNO,TNAを必要回転数に可変設定する。このとき、必要回転数は、上限目標回転数により上限が制限されていてもよいし、上限目標回転数より大きい回転数が許容されていてもよい。また、目標回転数TNR,TNO,TNAの算出には、例えばオーバヒートしやすい順などに基づき、優先順位を持たせてもよい。
【0045】
ここで、作業機械の作業環境が高地の場合など、空気密度が小さい場合には、熱交換器による冷却能力が低下する。特に、ラジエタ15は、冷却水の比熱が作動油や圧縮空気の比熱より大きいことにより、冷却能力の低下がオイルクーラ16やアフタクーラ17よりも大きい。また、空気密度が小さい場合には、エンジン31の出力が低下するとともに、冷却ファンに加わる負荷(空気抵抗)が小さくなることにより、給電源の電流容量、すなわちオルタネータ30の発電電流、および、冷却ファンの必要電流は、空気密度が小さいほど小さくなる。
【0046】
そのため、算出手段43は、密度検出手段41により検出された空気密度に応じて、温度に対する必要回転数の関係を示すテーブルと、冷却ファンの必要電流と、冷却ファンの必要電流の総和との少なくともいずれかを補正して目標回転数を算出する。本実施の形態では、算出手段43は、密度検出手段41により検出された空気密度に応じて、温度に対する必要回転数の関係を示すテーブルと、冷却ファンの必要電流と、冷却ファンの必要電流の総和との少なくともいずれかと、給電源の電流容量、すなわちオルタネータ30の発電電流とを補正する。これらの補正は、予め記憶された数式やテーブルに応じて実施されてもよいし、予め記憶された複数種類から空気密度に応じて適宜選択することで実施されてもよい。
【0047】
したがって、算出手段43は、空気密度が小さいほど、冷却ファンの消費電流がオルタネータ30の電流容量を超えない範囲で冷却ファンの目標回転数の上限を大きく設定するようにする。このとき、算出手段43は、算出する目標回転数の上限を、空気密度に対し負の相関を有する可変値である上限目標回転数に設定してもよいし、上限目標回転数による制限を解除し、オルタネータ30の電流容量を超えない範囲で目標回転数の最大化を許容してもよい。空気密度に対し負の相関を有する可変値である上限目標回転数は、例えば空気密度に基づき算出された冷却ファンの空気流量と、基準となる所定の空気密度(標準的な仕様における空気密度)での冷却ファンの空気流量との比の三乗根を、基準となる所定の空気密度での冷却ファンの上限目標回転数に乗じた値などとする。
【0048】
本実施の形態では、算出手段43は、密度検出手段41により検出された空気密度が予め設定された所定値より大きい場合には、目標回転数の上限をオルタネータ30の電流容量に応じて予め定められた所定の上限目標回転数にし、密度検出手段41により検出された空気密度が上記所定値以下の場合には、目標回転数の上限を上記所定の上限目標回転数よりも大きく設定可能となっている。ここで、所定値は、一つでもよいし、複数でもよい。つまり、算出手段43は、空気密度の大きさを複数段階に分け、それぞれの段階に応じて、目標回転数の上限を緩和、または、上限目標回転数による制限を解除してもよい。
【0049】
本実施の形態において、算出手段43は、
図3に示されるように、密度検出手段41(
図1)により検出された空気密度が所定値よりも大きいか否かを判断する(ステップS1)。空気密度が所定値よりも大きい場合(ステップS1のYESの場合)には、目標回転数の上限を予め定められた所定の上限目標回転数に設定する(ステップS2)。また、空気密度が所定値以下の場合(ステップS1のNOの場合)には、目標回転数の上限を予め定められた所定の上限目標回転数よりも大きくすることが可能となるように緩和または制限解除する(ステップS3)。そして、算出手段43は、ステップS2またはステップS3で規定された上限の下で目標回転数を算出する(ステップS4)。
【0050】
なお、算出手段43が空気密度に応じて目標回転数の上限を変える処理(上記のステップS1乃至ステップS3)を適用する冷却ファンは、空気密度による冷却能力の変化が大きいラジエタファン25を少なくとも対象とするが、オイルクーラファン26、および/または、アフタクーラファン27に対して同様に適用してもよい。
【0051】
そして、
図2に示されるように、算出手段43は、算出した目標回転数をTNR,TNO,TNAを出力手段44に出力する。出力手段44では、目標回転数TNR,TNO,TNAに応じた制御信号を
図1に示される各電動モータ25m,26m,27mに出力する。
【0052】
このように、一実施の形態によれば、空気密度が小さいほど、冷却ファンの負荷が減り、必要電力が小さくなることを踏まえて、空気密度が小さいほど、オルタネータ30の電力容量を超えない範囲で冷却ファンの目標回転数の上限を大きく設定することにより、空気密度が小さく熱交換器の冷却能力が低下する場合でも、冷却ファンの目標回転数の上限を大きくすることによって熱交換器の冷却能力の低下分を補い、空気密度に応じて熱交換器を適切に冷却可能となる。
【0053】
具体的に、検出された空気密度が所定値より大きい場合には、冷却ファンの目標回転数の上限をオルタネータ30の電力容量に応じて予め定められた所定の上限目標回転数にするとともに、検出された空気密度が所定値以下の場合には、冷却ファンの目標回転数の上限を所定の上限目標回転数よりも大きく設定可能とすることで、空気密度が相対的に大きい環境と、空気密度が相対的に小さい環境とで、冷却ファンの目標回転数の上限を変えて、それぞれの環境に応じて熱交換器を適切に冷却可能となる。
【0054】
密度検出手段41は、気圧センサであるため、特に作業機械の作業環境が高地である場合において熱交換器を適切に冷却可能となる。
【0055】
そして、上記の冷却ファン制御装置40を備えることで、オルタネータ30を大型化することにより電力容量を増やして冷却ファンによる冷却能力を向上することなく、冷却ファンによって空気密度に応じて熱交換器を適切に冷却可能な冷却装置11を提供できる。すなわち、大型のオルタネータ30を新たに開発・搭載する必要がなく、作業機械の設計変更なども不要であり、空気密度が異なる複数の作業環境に一の冷却装置11によって安価に対応できる。
【0056】
特に、ラジエタ15は、空気密度の変化に伴う冷却能力の変化が大きいため、ラジエタ15を冷却するためのラジエタファン25の目標回転数TNRの上限を、密度検出手段41により検出された空気密度が小さいほど大きく設定することで、ラジエタ15を適切に冷却可能となる。
【0057】
なお、上記一実施の形態において、算出手段43は、密度検出手段41により検出された空気密度を、目標回転数を算出するときの補正用として用いてもよいし、算出した後の補正用として用いてもよい。
【0058】
また、冷却ファンは、ファン25,26,27に限られず、その他の任意の冷却対象を冷却する電動ファンに対し冷却ファン制御装置40を適用できる。
【0059】
さらに、冷却ファンおよび熱交換器がそれぞれ複数の例を説明したが、冷却ファンおよび熱交換器がそれぞれ単数であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、油圧ショベルなどの作業機械に用いられる冷却装置の製造業、販売業などに携わる事業者にとって産業上の利用可能性がある。
【符号の説明】
【0061】
11 冷却装置
15 熱交換器であるラジエタ
25 冷却ファンであるラジエタファン
30 給電源であるオルタネータ
40 冷却ファン制御装置
41 密度検出手段
42 回転数設定手段の機能を有するコントローラ