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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】液体吐出装置およびDA変換器
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/045 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
B41J2/045
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017039049
(22)【出願日】2017-03-02
(65)【公開番号】P2018144276
(43)【公開日】2018-09-20
【審査請求日】2019-12-06
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 哲男
【合議体】
【審判長】殿川 雅也
【審判官】松田 直也
【審判官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-301287(JP,A)
【文献】特開2016-112739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
H03M 1/00 - 1/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数ビットのデジタルデータからアナログ信号を変換する集積回路であるDA変換器であって、
前記アナログ信号を出力端から出力する演算増幅器と、
前記演算増幅器の入力端から、第1抵抗部、第2抵抗部、第3抵抗部、第4抵抗部、第1制御素子を順に経由して第1信号線へと接続される第1ビット入力経路と、
前記演算増幅器の前記入力端から、第5抵抗部、第6抵抗部、第7抵抗部、第8抵抗部、第9抵抗部、第10抵抗部、第2制御素子を順に経由して第2信号線へと接続される第2ビット入力経路と、
前記演算増幅器の前記入力端から、第5抵抗部、第6抵抗部、第11抵抗部、第12抵抗部、第3制御素子を順に経由して第3信号線へと接続される第3ビット入力経路と、
並列接続される複数の抵抗素子の一端と他端が、前記第2抵抗部と前記第3抵抗部との間に短絡して接続される第13抵抗部と、
並列接続される複数の抵抗素子の一端と他端が、前記第3抵抗部と前記第4抵抗部との間に短絡して接続される第14抵抗部と、
を含み、
前記第1抵抗部、前記第2抵抗部、前記第3抵抗部、前記第4抵抗部、前記第5抵抗部、前記第6抵抗部、前記第7抵抗部、前記第8抵抗部、前記第9抵抗部、前記第10抵抗部、前記第11抵抗部、前記第12抵抗部は抵抗素子を含み、
前記第1抵抗部、前記第2抵抗部、前記第3抵抗部、前記第4抵抗部、前記第5抵抗部、前記第6抵抗部、前記第7抵抗部前記第8抵抗部、前記第9抵抗部、前記第10抵抗部、前記第11抵抗部、前記第12抵抗部の抵抗素子は抵抗値が等しく、
前記第1抵抗部、前記第2抵抗部、前記第3抵抗部、前記第4抵抗部、前記第5抵抗部、前記第6抵抗部、前記第7抵抗部前記第8抵抗部、前記第9抵抗部、前記第10抵抗部、前記第11抵抗部、前記第12抵抗部、前記第13抵抗部、前記第14抵抗部の抵抗素子は寄生容量が等しく、
前記第1抵抗部の抵抗素子と前記第2抵抗部の抵抗素子との数の和は、
前記第5抵抗部の抵抗素子と前記第6抵抗部の抵抗素子との数の和と等しく、
前記第3抵抗部の抵抗素子と前記第13抵抗部の抵抗素子との数の和は、
前記第7抵抗部の抵抗素子と前記第8抵抗部の抵抗素子と前記第11抵抗部の抵抗素子との数の和と等しく、
前記第4抵抗部の抵抗素子と前記第14抵抗部の抵抗素子との数の和は、
前記第9抵抗部の抵抗素子と前記第10抵抗部の抵抗素子と前記第12抵抗部の抵抗素子との数の和と等しい、
ことを特徴とするDA変換器。
【請求項2】
複数ビットのデジタルデータからアナログの元駆動信号を生成する元駆動信号生成回路と、
前記元駆動信号を増幅した駆動信号を出力する駆動回路と、
前記駆動信号によって駆動される圧電素子を含み、当該圧電素子の変位によって液体を
吐出させる吐出部と、
を備え、
前記元駆動信号生成回路は、
前記元駆動信号を出力端から出力する演算増幅器と、
前記演算増幅器の入力端から、第1抵抗部、第2抵抗部、第3抵抗部、第4抵抗部、第1制御素子を順に経由して第1信号線線へと接続される第1ビット入力経路と、
前記演算増幅器の前記入力端から、第5抵抗部、第6抵抗部、第7抵抗部、第8抵抗部、第9抵抗部、第10抵抗部、第2制御素子を順に経由して第2信号線へと接続される第2ビット入力経路と、
前記演算増幅器の前記入力端から、第5抵抗部、第6抵抗部、第11抵抗部、第12抵抗部、第3制御素子を順に経由して第3信号線へと接続される第3ビット入力経路と、
並列接続される複数の抵抗素子の一端と他端が、前記第2抵抗部と前記第3抵抗部との間に短絡して接続される第13抵抗部と、
並列接続される複数の抵抗素子の一端と他端が、前記第3抵抗部と前記第4抵抗部との間に短絡して接続される第14抵抗部と、
を含み、
前記第1抵抗部、前記第2抵抗部、前記第3抵抗部、前記第4抵抗部、前記第5抵抗部、前記第6抵抗部、前記第7抵抗部、前記第8抵抗部、前記第9抵抗部、前記第10抵抗部、前記第11抵抗部、前記第12抵抗部は抵抗素子を含み、
前記第1抵抗部、前記第2抵抗部、前記第3抵抗部、前記第4抵抗部、前記第5抵抗部、前記第6抵抗部、前記第7抵抗部前記第8抵抗部、前記第9抵抗部、前記第10抵抗部、前記第11抵抗部、前記第12抵抗部の抵抗素子は抵抗値が等しく、
前記第1抵抗部、前記第2抵抗部、前記第3抵抗部、前記第4抵抗部、前記第5抵抗部、前記第6抵抗部、前記第7抵抗部前記第8抵抗部、前記第9抵抗部、前記第10抵抗部、前記第11抵抗部、前記第12抵抗部、前記第13抵抗部、前記第14抵抗部の抵抗素子は寄生容量が等しく、
前記第1抵抗部の抵抗素子と前記第2抵抗部の抵抗素子との数の和は、
前記第5抵抗部の抵抗素子と前記第6抵抗部の抵抗素子との数の和と等しく、
前記第3抵抗部の抵抗素子と前記第13抵抗部の抵抗素子との数の和は、
前記第7抵抗部の抵抗素子と前記第8抵抗部の抵抗素子と前記第11抵抗部の抵抗素子との数の和と等しく、
前記第4抵抗部の抵抗素子と前記第14抵抗部の抵抗素子との数の和は、
前記第9抵抗部の抵抗素子と前記第10抵抗部の抵抗素子と前記第12抵抗部の抵抗素子との数の和と等しい、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置およびDA変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
インクを吐出して画像や文書を印刷するインクジェットプリンターには、圧電素子(例えばピエゾ素子)を用いたものが知られている。圧電素子は、ヘッドユニットにおいて複数のノズルのそれぞれに対応して設けられ、それぞれが駆動信号にしたがって駆動される。この駆動により、ノズルから所定のタイミングで所定量のインク(液体)が吐出されて、ドットが形成される。圧電素子は、電気的にみればキャパシターのような容量性負荷であるので、各ノズルの圧電素子を動作させるためには十分な電流を供給する必要がある。
【0003】
そこで、インクジェットプリンターでは、駆動信号の元となる元駆動信号を増幅回路で増幅し、駆動信号としてヘッドユニットに供給して、圧電素子を駆動する構成となっている。増幅回路としては、元駆動信号をAB級などで電流増幅する方式が挙げられるが、エネルギー効率が悪いので、近年では、D級増幅が提案されている(特許文献1参照)。D級増幅は、端的にいえば、元駆動信号をパルス変調するとともに、当該変調信号にしたがって電源電圧間において直列に挿入されたハイサイドトランジスターおよびローサイドトランジスターをスイッチングし、このスイッチングによる出力信号をローパスフィルターで平滑化することで、元駆動信号を増幅する、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-114711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、インクは、種類や温度などにより粘性が変動する。この変動にかかわらず、インクを一定の量で安定的に吐出させるために、インクの種類や温度などに応じて駆動信号の波形を適切に供給する必要がある。
このため、予め複数のデータを用意しておき、インクの種類や温度などの組み合わせに応じて適切なものを選択し、当該選択したデータをアナログ信号に変換して元駆動信号として出力する構成が採用されている。
ここで、当該元駆動信号を、AB級やD級などで適切に増幅したとしても、アナログ変換に起因すると考えられる印刷品位の低下が発生した。
【0006】
そこで、本発明のいくつかの態様の目的の一つは、アナログ変換に起因すると考えられる印刷品位の低下を抑えることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的の一つを達成するために、本発明の一態様に係る液体吐出装置は、複数ビットのデジタルデータからアナログの元駆動信号を生成する元駆動信号生成回路と、前記元駆動信号を増幅した駆動信号を出力する駆動回路と、前記駆動信号によって駆動される圧電素子を含み、当該圧電素子の変位によって液体を吐出させる吐出部と、を備え、前記元駆動信号生成回路は、第1抵抗群と、第2抵抗群と、制御素子群と、容量成分を有する第1容量含有素子と、前記元駆動信号を出力端から出力する演算増幅器と、を含み、前記第1抵抗群は、直列接続された複数の第1抵抗を有し、前記直列接続の一端は、基準電圧が印加された給電線に接続され、前記直列接続の他端は、前記演算増幅器の入力端に接続され、前記第2抵抗群は、前記複数ビットの各々に対応した第2抵抗を有し、前記制御素子群は、前記複数ビットの各々に対応した制御素子を有し、前記第2抵抗は、一端が前記複数の第1抵抗同士のノードに接続され、他端が対応する制御素子に接続され、前記制御素子は、前記複数ビットのうちの対応するビットに応じて、対応する第2抵抗を介した電流が前記演算増幅器の入力端に流れ込むのを制御し、前記第1容量含有素子は、前記複数ビットのうち、最上位ビットに対応した第2抵抗に接続された構成を特徴とする。
上記一態様に係る液体吐出装置によれば、アナログ変換に起因する印刷品位の低下を抑えることできる。
【0008】
上記一態様に係る液体吐出装置において、前記第1容量含有素子は、一端と他端とが接続された抵抗であることが好ましい。
また、上記一態様に係る液体吐出装置において、前記元駆動信号生成回路は、容量成分を有する第2容量含有素子を含み、前記第2容量含有素子は、前記最上位ビットよりも下位のビットに対応した第2抵抗に接続された構成としても良い。
この構成において、前記第2容量含有素子は、一端と他端とが接続された抵抗であることが好ましい。
また、前記第1容量含有素子の容量成分は、前記第2容量含有素子の容量成分よりも大きいことが好ましい。
【0009】
上記一態様に係る液体吐出装置において、前記第1容量含有素子は、キャパシターであっても良い。
また、上記一態様に係る液体吐出装置において、前記元駆動信号生成回路は、キャパシターである第2容量含有素子を含み、前記第2容量含有素子は、前記最上位ビットよりも下位のビットに対応した第2抵抗に接続され、前記第1容量含有素子の容量成分は、前記第2容量含有素子の容量成分よりも大きいことが好ましい。
【0010】
上記一態様に係る液体吐出装置において、前記駆動回路は、前記元駆動信号をパルス変調した変調信号を出力する変調回路と、前記変調信号を増幅して増幅変調信号を出力するトランジスター対と、前記増幅変調信号を復調して前記駆動信号を出力する復調回路と、を含んでもよい。
【0011】
なお、液体吐出装置は、液体を吐出するものであれば良く、これには後述する印刷装置のほかに、立体造形装置(いわゆる3Dプリンター)、捺染装置なども含まれる。
また、本発明は、液体吐出装置に限られず、種々の態様で実現することが可能であり、例えば複数ビットのデジタルデータをアナログ信号に変換するDA変換器としても概念することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】印刷装置の概略構成を示す図である。
図2】印刷装置のヘッドユニットにおけるノズルの配列等を示す図である。
図3】ノズルの配列を拡大して示す図である。
図4】ヘッドユニットにおける要部構成を示す断面図である。
図5】印刷装置の電気的な構成を示すブロック図である。
図6】駆動信号の波形等を説明するための図である。
図7】選択制御部の構成を示す図である。
図8】デコーダーのデコード内容を示す図である。
図9】選択部の構成を示す図である。
図10】選択部から圧電素子に供給される駆動信号を示す図である。
図11】印刷装置におけるDACの構成を示す図である。
図12】印刷装置における駆動回路の構成を示す図である。
図13】駆動回路の動作を説明するための図である。
図14】応用例(その1)におけるDACの構成を示す図である。
図15】応用例(その2)におけるDACの構成を示す図である。
図16】応用例(その3)におけるDACの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について、印刷装置を例にとって説明する。
【0014】
図1は、印刷装置1の概略構成を示す斜視図である。
この図に示される印刷装置1は、液体の一例であるインクを吐出することによって、紙などの媒体Pにインクドット群を形成し、これにより、画像(文字や図形等などを含む)を印刷する液体吐出装置の一種である。
【0015】
図1に示されるように、印刷装置1は、キャリッジ20を、主走査方向(X方向)に移動(往復動)させる移動機構6を備える。
移動機構6は、キャリッジ20を移動させるキャリッジモーター61と、両端が固定されたキャリッジガイド軸62と、キャリッジガイド軸62とほぼ平行に延在し、キャリッジモーター61により駆動されるタイミングベルト63と、を有している。
キャリッジ20は、キャリッジガイド軸62に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト63の一部に固定されている。そのため、キャリッジモーター61によりタイミングベルト63を正逆走行させると、キャリッジ20がキャリッジガイド軸62に案内されて往復動する。
【0016】
キャリッジ20には、印刷ヘッド22が搭載されている。この印刷ヘッド22は、媒体Pと対向する部分に、インクを個別にZ方向に吐出する複数のノズルを有する。なお、印刷ヘッド22は、カラー印刷のために、概略的に4個のブロックに分かれている。4個のブロックの各々は、それぞれシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、およびブラック(Bk)のインクを吐出する。
なお、キャリッジ20には、フレキシブルフラットケーブル190を介してメイン基板(この図では省略)から各種の制御信号等が供給される構成となっている。
【0017】
印刷装置1は、媒体Pを、プラテン80上で搬送させる搬送機構8を備える。搬送機構8は、駆動源である搬送モーター81と、搬送モーター81により回転し、媒体Pを副走査方向(Y方向)に搬送する搬送ローラー82と、を備える。
【0018】
このような構成において、キャリッジ20の主走査に合わせて印刷ヘッド22のノズルから印刷データに応じてインクを吐出させるとともに、媒体Pを搬送機構8によって搬送する動作を繰り返すことで、媒体Pの表面に画像が形成される。
なお、本実施形態において主走査は、キャリッジ20を移動させることで実行されるが、媒体Pを移動させることで実行しても良く、キャリッジ20と媒体Pとの双方を移動させても良い。要は、媒体Pとキャリッジ20(印刷ヘッド22)とが相対的に移動する構成であれば良い。
【0019】
図2は、印刷ヘッド22におけるインクの吐出面を媒体Pからみた場合の構成を示す図である。この図に示されるように、印刷ヘッド22は、4個のヘッドユニット3を有する。4個のヘッドユニット3の各々は、それぞれシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、およびブラック(Bk)に対応し、主走査方向であるX方向に沿って配列する。
【0020】
図3は、1個のヘッドユニット3におけるノズルの配列を示す図である。
この図に示されるように、1個のヘッドユニット3では、複数のノズルNが2列で配列する。ここで、説明の便宜上、この2列をそれぞれノズル列NaおよびNbとする。
【0021】
ノズル列NaおよびNbでは、それぞれ複数のノズルNが、副走査方向であるY方向に沿ってピッチP1で配列する。また、ノズル列NaおよびNb同士は、X方向にピッチP2だけ離間する。ノズル列Naに属するノズルNとノズル列Nbに属するノズルNとは、Y方向に、ピッチP1の半分だけシフトした関係となっている。
このようにノズルNを、ノズル列NaおよびNbの2列で、Y方向にピッチP1の半分だけシフトして配置させることにより、Y方向の解像度を、1列の場合と比較して実質的に倍に高めることができる。
なお、1個のヘッドユニット3におけるノズルNの個数を便宜的にm(mは2以上の整数)とする。
【0022】
ヘッドユニット3は、後述するように、m個のノズルN、および当該m個のノズルNの各々に対応して設けられる圧電素子を含むアクチュエーター基板と、各種の素子が実装された回路基板との間に、COF(Chip On Film)が接続された構成である。そこで説明の便宜のために、アクチュエーター基板の構造について説明する。
なお、本説明において、接続とは、2以上の要素間の直接的および間接的な結合を意味し、当該2つ以上の要素間に、1または2以上の中間要素が存在することも含む。
【0023】
図4は、アクチュエーター基板の構造を示す断面図である。詳細には図3におけるg-g線で破断した場合の断面を示す図である。
図4に示されるように、アクチュエーター基板40は、流路基板42のうち、Z方向の負側の面上に圧力室基板44と振動板46とが設けられる一方、Z方向の正側の面上にノズル板41が設置された構造体である。
アクチュエーター基板40の各要素は、概略的にはY方向に長尺な略平板状の部材であり、例えば接着剤等により互いに固定される。また、流路基板42および圧力室基板44は、例えばシリコンの単結晶基板で形成される。
【0024】
ノズルNは、ノズル板41に形成される。ノズル列Naに属するノズルに対応する構造と、ノズル列Nbに属するノズルに対応する構造とは、Y方向にピッチP1の半分だけシフトした関係にあるが、それ以外では、略対称に形成されるので、以下においてはノズル列Naに着目してアクチュエーター基板40の構造を説明することにする。
【0025】
流路基板42は、インクの流路を形成する平板材であり、開口部422と供給流路424と連通流路426とが形成される。供給流路424および連通流路426は、ノズル毎に形成され、開口部422は、複数のノズルにわたって連続するように形成されるとともに、対応する色のインクが供給される構造となっている。この開口部422は、液体貯留室Srとして機能し、当該液体貯留室Srの底面は、例えばノズル板41によって構成される。具体的には、流路基板42における開口部422と各供給流路424と連通流路426とを閉塞するように流路基板42の底面に固定される。
【0026】
圧力室基板44のうち流路基板42とは反対側の表面に振動板46が設置される。振動板46は、弾性的に振動可能な平板状の部材であり、例えば酸化シリコン等の弾性材料で形成された弾性膜と、酸化ジルコニウム等の絶縁材料で形成された絶縁膜との積層で構成される。振動板46と流路基板42とは、圧力室基板44の各開口部422の内側で互い間隔をあけて対向する。各開口部422の内側で流路基板42と振動板46とに挟まれた空間は、インクに圧力を付与するキャビティ442として機能する。各キャビティ442は、流路基板42の連通流路426を介してノズルNに連通する。
振動板46のうち圧力室基板44とは反対側の表面には、ノズルN(キャビティ442)毎に圧電素子Pztが形成される。
【0027】
圧電素子Pztは、振動板46の面上に形成された複数の圧電素子Pztにわたって共通の駆動電極72と、当該駆動電極72の面上に形成された圧電体74と、当該圧電体74の面上に圧電素子Pzt毎に形成された個別の駆動電極76とを包含する。このような構成において、駆動電極72および76によって圧電体74を挟んで対向する領域が圧電素子Pztとして機能する。
【0028】
圧電体74は、例えば加熱処理(焼成)を含む工程で形成される。具体的には、複数の駆動電極72が形成された振動板46の表面に塗布された圧電材料を、焼成炉内での加熱処理により焼成してから圧電素子Pzt毎に成形(例えばプラズマを利用したミーリング)することで圧電体74が形成される。
【0029】
なお、ノズル列Nbに対応する圧電素子Pztも同様に、駆動電極72と、圧電体74と、駆動電極76とを包含した構成である。
また、この例では、圧電体74に対し、共通の駆動電極72を下層とし、個別の駆動電極76を上層としたが、逆に駆動電極72を上層とし、駆動電極76を下層とする構成としても良い。
【0030】
圧電素子Pztの一端である駆動電極76には、吐出すべきインク量に応じた駆動信号の電圧Voutが回路基板から個別に印加される一方、圧電素子Pztの他端である駆動電極72には、電圧VBSの保持信号が共通に印加される。
このため、圧電素子Pztは、駆動電極72および76に印加された電圧に応じて、上または下方向に変位する。詳細には、駆動電極76を介して印加される駆動信号の電圧Voutが低くなると、圧電素子Pztにおける中央部分が両端部分に対して上方向に撓む一方、当該電圧Voutが高くなると、下方向に撓む構成となっている。
ここで、上方向に撓めば、キャビティ442の内部容積が拡大(圧力が減少)するので、インクが液体貯留室Srから引き込まれる一方、下方向に撓めば、キャビティ442の内部容積が縮小(圧力が増加)するので、縮小の程度によっては、インクがノズルNから吐出される。このように、圧電素子Pztに適切な駆動信号が印加されると、当該圧電素子Pztの変位によって、インクがノズルNから吐出される。このため、少なくとも圧電素子Pzt、キャビティ442、およびノズルNによってインクを吐出する吐出部が構成される。
【0031】
次に、印刷装置1の電気的な構成について説明する。
【0032】
図5は、印刷装置1の電気的な構成を示すブロック図である。
この図に示されるように、印刷装置1は、メイン基板100にフレキシブルフラットケーブル190を介してヘッドユニット3がそれぞれ接続された構成となっている。
【0033】
なお、印刷装置1では、4個のヘッドユニット3が設けられ、メイン基板100が、4個のヘッドユニット3をそれぞれ独立に制御する。4個のヘッドユニット3では、吐出するインクの色以外において異なるところがないので、以下においては便宜的に1個のヘッドユニット3について代表して説明することにする。
【0034】
図5に示されるように、メイン基板100は、制御部110および電圧生成回路130を含む。
このうち、制御部110は、CPUや、RAM、ROMなどを有する一種のマイクロコンピューターであり、印刷対象となる画像データがホストコンピューター等から供給されたときに、所定のプログラムを実行して各部を制御するための各種の信号等をそれぞれ出力する。
【0035】
具体的には、第1に、制御部110は、データdAおよびdBを、それぞれ回路基板60に供給する。
データdAは、駆動信号COM-Aの波形(電圧)を時系列で規定する波形データである。なお、データdAについては簡略化するために4ビットとして説明する。この4ビットのうち、LSB、2SB、3SB、MSBを順に、a0、a1、a2、a3と表記することにする。
同様に、データdBは、駆動信号COM-Bの波形を時系列で規定する波形データである。データdAについても簡略化するために4ビットとして説明するとともに、当該4ビットのLSB、2SB、3SB、MSBを順に、b0、b1、b2、b3と表記することにする。
【0036】
第2に、制御部110は、移動機構6および搬送機構8に対する制御に同期して、ヘッドユニット3に各種の制御信号Ctrを供給する。なお、制御信号Ctrには、ノズルNから吐出させるインクの量を規定する印刷データSI(吐出制御信号)、当該印刷データの転送に用いるクロック信号Sck、印刷周期等を規定する信号LAT、CHが含まれる。
なお、制御部110は、移動機構6および搬送機構8を制御するが、このような構成については既知であるので説明を省略する。
【0037】
電圧生成回路130は、電圧VBSの保持信号を生成する。なお、電圧VBSの保持信号は、フレキシブルフラットケーブル190、回路基板60およびCOF50を順に介して、アクチュエーター基板40における複数の圧電素子Pztの他端にわたって共通に印加される。電圧VBSの保持信号は、複数の圧電素子Pztの他端を、それぞれ一定の状態に保つためのものである。
【0038】
一方、ヘッドユニット3において、回路基板60は、DAC(Digital to Analog Converter:DA変換器)610aおよび610bと、駆動回路600aおよび600bとを有する。
【0039】
DAC610aは、デジタルのデータdAをアナログの信号ainに変換して、駆動回路600aに供給する。同様に、DAC610bは、デジタルのデータdBをアナログの信号binに変換して、駆動回路600bに供給する。なお、DAC610a、610bの詳細にはついては後述する。
【0040】
駆動回路600aは、信号ainを例えば電圧10倍に増幅し、駆動信号COM-Aとして出力する。同様に、駆動回路600bは、信号binを電圧10倍に増幅し、駆動信号COM-Bとして出力する。
なお、駆動回路600a、600bの詳細にはついては後述する。
また、信号ain(bin)は、駆動信号COM-A(COM-B)の増幅前の信号であるから元駆動信号である。このため、DAC610a(610b)が元駆動信号生成回路となる。
【0041】
データdA(dB)を低耐圧の半導体集積回路のDAC610a(610b)により変換する場合、信号ain(bin)は、例えば電圧0~4V程度で比較的小さく振幅する。これに対して、圧電素子Pztに印加される駆動信号の組み合わせ元である駆動信号COM-A(COM-B)には、圧電素子Pztを十分に駆動するために0~40V程度の比較的大きな電圧振幅が必要となる。
このため、DAC610a(610b)により変換された信号ain(bin)の電圧を、駆動回路600a(600b)が10倍に増幅して、駆動信号COM-A(COM-B)として出力し、吐出すべきインクの量に応じて、駆動信号COM-A、COM-Bを選択して(または、選択しないで)、当該圧電素子Pzt)の一端に印加する構成となっている。
【0042】
なお、駆動信号COM-AおよびCOM-Bは、COF50における複数の選択部520の各々にそれぞれ供給される。また、駆動信号COM-A、COM-B(アナログ変換後であって増幅前の信号ain、bin)については、それぞれ後述するように台形波形である。
本実施形態では、COF50が回路基板60に直接的に接続された構成としているが、フレキシブルフラットケーブルを介して間接的に接続された構成としても良い。
【0043】
COF50において、選択制御部510は、選択部520の各々における選択をそれぞれ制御する。詳細には、選択制御部510は、制御部110からクロック信号に同期して供給される印刷データを、ヘッドユニット3のノズル(圧電素子Pzt)のm個分、一旦蓄積するとともに、各選択部520に対し、印刷データにしたがって駆動信号COM-A、COM-Bの選択を、タイミング信号で規定される印刷周期の開始タイミングで指示する。
各選択部520は、選択制御部510による指示にしたがって、駆動信号COM-A、COM-Bのいずれかを選択し(または、いずれも選択せずに)、電圧Voutの駆動信号として、対応する圧電素子Pztの一端に印加する。
【0044】
本実施形態において、1つのドットについては、1つのノズルNからインクを最多で2回吐出させることで、大ドット、中ドット、小ドットおよび非記録の4階調を表現させる。この4階調を表現するために、本実施形態では、2種類の駆動信号COM-A、COM-Bを用意するとともに、各々の1周期にそれぞれ前半パターンと後半パターンとを持たせている。そして、1周期のうち、前半・後半において駆動信号COM-A、COM-Bを、表現すべき階調に応じた選択して(または選択しないで)、圧電素子Pztに供給する構成となっている。
そこで先に、駆動信号COM-A、COM-Bについて説明し、この後、駆動信号COM-A、COM-Bを選択するための選択制御部510および選択部520の詳細な構成について説明する。
【0045】
図6は、駆動信号COM-A、COM-Bの波形等を示す図である。
図に示されるように、駆動信号COM-Aは、印刷周期Taのうち、制御信号LATが出力されて(立ち上がって)から制御信号CHが出力されるまでの期間T1に配置された台形波形Adp1と、印刷周期Taのうち、制御信号CHが出力されてから次の制御信号LATが出力されるまでの期間T2に配置された台形波形Adp2とを繰り返す波形となっている。
【0046】
本実施形態において台形波形Adp1、Adp2とは、互いにほぼ同一の波形であり、仮にそれぞれが圧電素子Pztの一端である駆動電極76に供給されたとしたならば、当該圧電素子Pztに対応するノズルNから所定量、具体的には中程度の量のインクをそれぞれ吐出させる波形である。
【0047】
駆動信号COM-Bは、期間T1に配置された台形波形Bdp1と、期間T2に配置された台形波形Bdp2とを繰り返す波形となっている。本実施形態において台形波形Bdp1、Bdp2とは、互いに異なる波形である。このうち、台形波形Bdp1は、ノズルN付近のインクを微振動させてインクの粘度の増大を防止するための波形である。このため、仮に台形波形Bdp1が圧電素子Pztの一端に供給されたとしても、当該圧電素子Pztに対応するノズルNからインク滴が吐出されない。また、台形波形Bdp2は、台形波形Adp1(Adp2)とは異なる波形となっている。仮に台形波形Bdp2が圧電素子Pztの一端に供給されたとしたならば、当該圧電素子Pztに対応するノズルNから上記所定量よりも少ない量のインクを吐出させる波形である。
【0048】
なお、台形波形Adp1、Adp2、Bdp1、およびBdp2における各開始タイミングでの電圧と、各終了タイミングでの電圧とは、いずれも電圧Vcen(中間電圧)で共通である。すなわち、台形波形Adp1、Adp2、Bdp1、およびBdp2の各々は、それぞれ電圧Vcenで開始し、電圧Vcenで終了する波形となっている。
【0049】
また、台形波形の駆動信号COM-AおよびCOM-Bの各々では、電圧が一定となる期間がそれぞれに複数存在する。
駆動信号COM-Aには、一定となる電圧が上記Vcenを含めて3値ある。この3値を高位順に、Vmax、Vcen、Vminと表記している。駆動信号COM-Bには、一定となる電圧が上記Vcenを含めて4値ある。
【0050】
図7は、図5における選択制御部510の構成を示す図である。
この図に示されるように、選択制御部510には、クロック信号Sck、印刷データSI、制御信号LATおよびCHが供給される。選択制御部510では、シフトレジスタ(S/R)512とラッチ回路514とデコーダー516との組が、圧電素子Pzt(ノズルN)のそれぞれに対応して設けられている。
【0051】
印刷データSIは、印刷周期Taにわたって、着目しているヘッドユニット3において、すべてのノズルNによって形成すべきドットを規定するデータである。本実施形態では、非記録、小ドット、中ドットおよび大ドットの4階調を表現するために、ノズル1個分の印刷データは、上位ビット(MSB)および下位ビット(LSB)の2ビットで構成される。
印刷データSIは、クロック信号Sckに同期してノズルN(圧電素子Pzt)毎に、媒体Pの搬送に合わせて制御部110から供給される。当該印刷データSIを、ノズルNに対応して2ビット分、一旦保持するための構成がシフトレジスタ512である。
詳細には、m個の圧電素子Pzt(ノズル)の各々に対応した計m段のシフトレジスタ512が縦続接続されるとともに、図において左端に位置する1段のシフトレジスタ512に供給された印刷データSIが、クロック信号Sckにしたがって順次後段(下流側)に転送される構成となっている。
なお、図では、シフトレジスタ512を区別するために、印刷データSIが供給される上流側から順番に1段、2段、…、m段と表記している。
【0052】
ラッチ回路514は、シフトレジスタ512で保持された印刷データSIを制御信号LATの立ち上がりでラッチする。
デコーダー516は、ラッチ回路514によってラッチされた2ビットの印刷データSIをデコードして、制御信号LATと制御信号CHとで規定される期間T1、T2ごとに、選択信号Sa、Sbを出力して、選択部520での選択を規定する。
【0053】
図8は、デコーダー516におけるデコード内容を示す図である。
この図において、ラッチされた2ビットの印刷データSIについては(MSB、LSB)と表記している。デコーダー516は、例えばラッチされた印刷データSIが(0、1)であれば、選択信号Sa、Sbの論理レベルを、期間T1ではそれぞれH、Lレベルで、期間T2ではそれぞれL、Hレベルで、出力するということを意味している。
なお、選択信号Sa、Sbの論理レベルについては、クロック信号Sck、印刷データSI、制御信号LATおよびCHの論理レベルよりも、レベルシフター(図示省略)によって、高振幅論理にレベルシフトされる。
【0054】
図9は、図5における選択部520の構成を示す図である。
この図に示されるように、選択部520は、インバーター(NOT回路)522aおよび522bと、トランスファーゲート524aおよび524bとを有する。
デコーダー516からの選択信号Saは、トランスファーゲート524aにおいて丸印が付されていない正制御端に供給される一方で、インバーター522aによって論理反転されて、トランスファーゲート524aにおいて丸印が付された負制御端に供給される。同様に、選択信号Sbは、トランスファーゲート524bの正制御端に供給される一方で、インバーター522bによって論理反転されて、トランスファーゲート524bの負制御端に供給される。
トランスファーゲート524aの入力端には、駆動信号COM-Aが供給され、トランスファーゲート524bの入力端には、駆動信号COM-Bが供給される。トランスファーゲート524aおよび524bの出力端同士は、共通接続されるとともに、対応する圧電素子Pztの一端に接続される。
トランスファーゲート524aは、選択信号SaがHレベルであれば、入力端および出力端の間を導通(オン)させ、選択信号SaがLレベルであれば、入力端と出力端との間を非導通(オフ)させる。トランスファーゲート524bについても同様に選択信号Sbに応じて、入力端および出力端の間をオンオフさせる。
【0055】
図6に示されるように、印刷データSIは、ノズル毎に、クロック信号Sckに同期して供給されて、ノズルに対応するシフトレジスタ512において順次転送される。そして、クロック信号Sckの供給が停止すると、シフトレジスタ512のそれぞれには、各ノズルに対応した印刷データSIが保持された状態になる。
ここで、制御信号LATが立ち上がると、ラッチ回路514のそれぞれは、シフトレジスタ512に保持された印刷データSIを一斉にラッチする。図6において、L1、L2、…、Lm内の数字は、1段、2段、…、m段のシフトレジスタ512に対応するラッチ回路514によってラッチされた印刷データSIを示している。
【0056】
デコーダー516は、ラッチされた印刷データSIで規定されるドットのサイズに応じて、期間T1、T2のそれぞれにおいて、選択信号Sa、Sbの論理レベルを図8に示されるような内容で出力する。
すなわち、第1に、デコーダー516は、当該印刷データSIが(1、1)であって、大ドットのサイズを規定する場合、選択信号Sa、Sbを、期間T1においてH、Lレベルとし、期間T2においてもH、Lレベルとする。第2に、デコーダー516は、当該印刷データSIが(0、1)であって、中ドットのサイズを規定する場合、選択信号Sa、Sbを、期間T1においてH、Lレベルとし、期間T2においてL、Hレベルとする。第3に、デコーダー516は、当該印刷データSIが(1、0)であって、小ドットのサイズを規定する場合、選択信号Sa、Sbを、期間T1においてL、Lレベルとし、期間T2においてL、Hレベルとする。第4に、デコーダー516は、当該印刷データSIが(0、0)であって、非記録を規定する場合、選択信号Sa、Sbを、期間T1においてL、Hレベルとし、期間T2においてL、Lレベルとする。
【0057】
図10は、印刷データSIに応じて選択されて、圧電素子Pztの一端に供給される駆動信号の電圧波形を示す図である。
印刷データSIが(1、1)であるとき、選択信号Sa、Sbは、期間T1においてH、Lレベルとなるので、トランスファーゲート524aがオンし、トランスファーゲート524bがオフする。このため、期間T1において駆動信号COM-Aの台形波形Adp1が選択される。選択信号Sa、Sbは期間T2においてもH、Lレベルとなるので、選択部520は、駆動信号COM-Aの台形波形Adp2を選択する。
このように期間T1において台形波形Adp1が選択され、期間T2において台形波形Adp2が選択されて、駆動信号として圧電素子Pztの一端に供給されると、当該圧電素子Pztに対応したノズルNから、中程度の量のインクが2回にわけて吐出される。このため、媒体Pにはそれぞれのインクが着弾し合体して、結果的に、印刷データSIで規定される通りの大ドットが形成されることになる。
【0058】
印刷データSIが(0、1)であるとき、選択信号Sa、Sbは、期間T1においてH、Lレベルとなるので、トランスファーゲート524aがオンし、トランスファーゲート524bはオフする。このため、期間T1において駆動信号COM-Aの台形波形Adp1が選択される。次に、選択信号Sa、Sbは期間T2においてL、Hレベルとなるので、駆動信号COM-Bの台形波形Bdp2が選択される。
したがって、ノズルから、中程度および小程度の量のインクが2回にわけて吐出される。このため、媒体Pには、それぞれのインクが着弾して合体して、結果的に、印刷データSIで規定された通りの中ドットが形成されることになる。
【0059】
印刷データSIが(1、0)であるとき、選択信号Sa、Sbは、期間T1においてともにLレベルとなるので、トランスファーゲート524a、524bがオフする。このため、期間T1において台形波形Adp1、Bdp1のいずれも選択されない。トランスファーゲート524a、524bがともにオフする場合、当該トランスファーゲート524a、524bの出力端同士の接続点から圧電素子Pztの一端までの経路は、電気的にどの部分にも接続されないハイ・インピーダンス状態になる。ただし、圧電素子Pztの両端では、自己が有する容量性によって、トランスファーゲートがオフする直前の電圧(Vcen-VBS)が保持される。
次に、選択信号Sa、Sbは期間T2においてL、Hレベルとなるので、駆動信号COM-Bの台形波形Bdp2が選択される。このため、ノズルNから、期間T2においてのみ小程度の量のインクが吐出されるので、媒体Pには、印刷データSIで規定された通りの小ドットが形成されることになる。
【0060】
印刷データSIが(0、0)であるとき、選択信号Sa、Sbは、期間T1においてL、Hレベルとなるので、トランスファーゲート524aがオフし、トランスファーゲート524bがオンする。このため、期間T1において駆動信号COM-Bの台形波形Bdp1が選択される。次に、選択信号Sa、Sbは期間T2においてともにLレベルとなるので、台形波形Adp2、Bdp2のいずれも選択されない。
このため、期間T1においてノズルN付近のインクが微振動するのみであり、インクは吐出されないので、結果的に、ドットが形成されない、すなわち、印刷データSIで規定された通りの非記録になる。
【0061】
このように、選択部520は、選択制御部510による指示にしたがって駆動信号COM-A、COM-Bを選択し(または選択しないで)、圧電素子Pztの一端に印加する。このため、各圧電素子Pztは、印刷データSIで規定されるドットのサイズに応じて駆動されることになる。
なお、図6に示した駆動信号COM-A、COM-Bはあくまでも一例である。実際には、媒体Pの性質や搬送速度などに応じて、予め用意された様々な波形の組み合わせが用いられる。
また、ここでは、圧電素子Pztが、電圧の低下に伴って上方向に撓む例で説明したが、駆動電極72および76に印加する電圧を逆転させると、圧電素子Pztは、電圧の低下に伴って下向に撓むことになる。このため、圧電素子Pztが、電圧の低下に伴って下方向に撓む構成では、図に例示した駆動信号COM-AおよびCOM-Bが、電圧Vcenを基準に反転した波形となる。
【0062】
次に、回路基板60におけるDAC610aおよび610bについて説明する。
なお、DAC610aおよび610bの構成および動作については、おおよそ同一であるので、ここではDAC610aについて説明することにする。
【0063】
図11は、DAC610aの構成を示す図である。
この図に示されるように、DAC610aは、R-2R型に接続した複数の抵抗素子と、インバーター620、621、622および623と、演算増幅器650と、抵抗素子Rfと、抵抗群Rdm3とを含む。
【0064】
詳細には、複数の抵抗素子は、第1抵抗群と第2抵抗群とに分類される。
このうち、第1抵抗群は、抵抗値がRである1つの抵抗素子を2つ並列接続した上で、当該並列接続を、10個直列接続したものである。当該直列接続の一端は、グランドGndに接地され、他端が演算増幅器650の負入力端(-)に接続されている。便宜的に、10個の直列接続のうち、グランドGnd側からみて、4個目の接続点、6個目の接続点、8個目の接続点、および、10個目の接続点(他端)を、それぞれ順に、ノードN0、N1、N2およびN3と表記する。第1抵抗群では、グランドGndからノードN0までが抵抗値が2Rの抵抗R0であり、ノードN0からノードN1までが抵抗値がRの抵抗R1であり、ノードN1からノードN2までが抵抗値がRの抵抗R2であり、ノードN2からノードN3までが抵抗値がRの抵抗R3である。
【0065】
第2抵抗群は、4つの抵抗R10、R11、R12およびR13である。抵抗R10、R11、R12およびR13の各々は、それぞれ上記1つの抵抗素子を2つ並列接続したものを、4個直列接続したものである。このため、抵抗R10、R11、R12およびR13の各抵抗値は、それぞれ2Rである。
抵抗R10の一端はノードN0に接続され、抵抗R10の他端はインバーター620の出力端に接続されている。同様に、抵抗R11の一端はノードN1に接続され、抵抗R11の他端はインバーター621の出力端に接続され、抵抗R12の一端はノードN2に接続され、抵抗R12の他端はインバーター622の出力端に接続され、抵抗R13の一端はノードN3に接続され、抵抗R13の他端はインバーター623の出力端に接続されている。
【0066】
インバーター620、621、622および623の各々は、制御素子の一例であり、それぞれ入力端に供給されたビットを反転する。なお、インバーターについては、スイッチ等に置き換え可能である。
インバーター620の入力端には、データdAのビットa0(最下位ビット)が供給される。同様に、インバーター621、622および623の入力端には、順にビットa1、a2およびa3が供給される。インバーター620、621、622および623の各電源は、高位側が電圧Hrefであり、低位側が電圧Lref(=Gnd)である。
なお、インバーター620、621、622および623の各々において、入力端のビットを反転した出力レベルは、電源電圧に対して内部トランジスター(図示省略)のしきい値分だけシフトした値となるが、説明の簡易化するために、Hレベルが電圧Hrefであり、Lレベルが電圧Lrefであるとする。
【0067】
演算増幅器650の出力端からは信号ainが出力されるとともに、当該出力端は、抵抗素子Rfを介して入力端(-)に帰還されている。演算増幅器650の入力端(+)は、グランドGndに接地されているので、入力端(-)は、仮想接地されることになる。
【0068】
抵抗群Rdm3は、例えば4つの抵抗素子が並列接続されて、当該並列接続の両端が短絡された抵抗素子のグループの2組で構成される。このうち、1組は、抵抗R13における直列接続点の1つに接続され、別の1組は、別の直列接続点の1つに接続される。
抵抗群Rdm3における各組の抵抗素子は、両端が短絡されているので、抵抗として機能しないが、半導体回路で形成される場合、抵抗素子は、ポリシリコン等の導電層が絶縁層を介して他の導電層と積層されるので、図11において※で示されるように、容量成分が寄生することになる。1つの抵抗素子に寄生する容量成分をCと表記した場合、計8個の抵抗素子で構成される抵抗群Rdm3は、抵抗R13に対し、容量成分として8Cを付加することになる。
【0069】
次に、DAC610aの動作について説明する。
仮に、ビットa0、a1、a2、a3のすべてがLレベルである場合、インバーター620、621、622および623の出力端は、各内部トランジスターによって電源電圧Hrefの給電線に接続された状態と等価となる。すなわち、この場合、第2抵抗群における抵抗R10、R11、R12およびR13の各他端には、電圧Hrefが印加された状態となる。
【0070】
この場合において、インバーター623の出力端から抵抗R13を経由して演算増幅器650の負入力端(ノードN3)に流れる電流を8Iとすると、インバーター622の出力端から抵抗R12を経由してノードN3に流れる電流は4Iとなる。同様に、インバーター621の出力端から抵抗R11を経由してノードN3に流れる電流は2Iとなり、インバーター620の出力端から抵抗R10を経由してノードN3に流れる電流はIとなる。このため、抵抗R10、R11、R12およびR13に流れる電流は、ビットの重みに対応してそれぞれ1:2:4:8となる。
【0071】
インバーター620、621、622および623が、それぞれのビットに応じて、電圧Hrefまたは電圧Lrefの給電線に接続することによって、ビットの重みに応じて加算した電流がノードN3に流れ込むことになる。したがって、演算増幅器650は、当該電流に応じた電圧を出力することになるので、信号ainは、ビットa0、a1、a2、a3の重みを反映した電圧となる。
【0072】
次に、抵抗群Rdm3を設けた理由を説明する前に、比較例として、抵抗群Rdm3を設けない構成を想定する。
この構成において、ビットa3、a2、a1、a0が(1000)であれば、すなわち、インバーター623がLレベルを出力し、インバーター622、621および620がHレベルを出力すれば、インバーター623は、ノードN3から電流を引き抜き、インバーター622、621および620は、ノードN3に向けて電流を流し込む状態となる。
この状態では、第1抵抗群における抵抗R0、R1、R2およびR3と、第2抵抗群における抵抗R10、R11、R12およびR13とにおける各寄生容量は、それぞれの充電または放電を経て所定の電圧で安定する。
【0073】
この安定した状態から、仮にビットa3、a2、a1、a0が(0111)となれば、すなわち、2進値で1つ隣の値であって、インバーター623がHレベルを出力し、インバーター622、621および620がLレベルを出力して、すべてが反転すれば、各抵抗に流れる電流の向きも反転する。このため、各寄生容量の放電または充電されて、再び所定の電圧で安定する。
【0074】
しかしながら、各抵抗素子とインバーター623、622、621および620との出力端とにおいて安定までに要する時間に差が生じる。
各ビットが反転する前の安定状態から、各ビットが反転した後に再安定状態に至るまでの過度的な期間では、一時的にインバーター623、622、621および620のすべてノードN3に電流を流し込む状態、すなわち、ビットa3、a2、a1、a0が(0000)に近い状態となる。
このため、信号ainの電圧は、本来であれば、ビットa3、a2、a1、a0が(1000)に対応した値から1つ隣の(0111)に対応した値に滑らかに変化するはずが、途中で(0000)の最高値に近い値が出力されるので、結果的にグリッジ(スパイク状のノイズ)が発生することになる。
なお、このグリッジを伴う信号ainは、後段の駆動回路600aによって増幅され、圧電素子Pztに供給されるので、インクの吐出精度を悪化させて、最終的に印刷品位の低下に繋がることになる。
【0075】
グリッジの原因は、抵抗において寄生する容量の相違と考えられている。すなわち、ノードN3からみた抵抗R13をみた場合の抵抗値と、抵抗R3、R2およびR12の合成抵抗を見た場合の抵抗値とは、互いに同じであるが、抵抗R13における抵抗素子の数は「8」であり、抵抗R3、R2およびR12の合成抵抗における抵抗素子数は「16」である。上述したように、1つの抵抗素子に容量Cが寄生するので、抵抗R13の抵抗素子に寄生する容量の総和が8Cであるのに対し、抵抗R3、R2およびR12の抵抗素子数に寄生する容量の総和が16Cとなり、両者が相違する。
【0076】
そこで、本実施形態では、抵抗群Rdm3を設けて、抵抗R13の寄生容量をさらに8Cだけ付加して、抵抗R3、R2およびR12の合成抵抗に寄生する容量と揃うようにしている。
これにより、抵抗R13の寄生容量が、抵抗R3、R2およびR12の合成抵抗に寄生する容量と均等となるので、過渡的な期間がほぼ同じとなり、グリッジの低減が図られる結果、インクの吐出精度を悪化させずに、印刷品位の低下を抑えることができるのである。
【0077】
ここでは、信号ainを出力するDAC610aについて説明したが、信号binを出力するDAC610bの構成については、DAC610aと同一であって、入出力信号だけが異なる。すなわち、DAC610bは、データdAの代わりにデータdB(ビットb0~b3)が供給される一方、演算増幅器650から信号binが出力される構成となる。
【0078】
次に、回路基板60における駆動回路600aおよび600bについて説明する。
なお、駆動回路600aおよび600bの構成および動作については、おおよそ同一であるので、ここでは駆動回路600aについて説明することにする。
【0079】
図12は、駆動回路600aの構成を示す図である。
この図に示されるように駆動回路600aは、変調回路640、トランジスター対650およびローパスフィルター660のほか、抵抗やキャパシターなどの各種の素子(部品)から構成される。
駆動回路600aについて概略すると、第1に、変調回路640が、DAC610aからの信号ainと、帰還された駆動信号COM-Aに基づく信号との偏差を、当該駆動信号COM-Aの高周波成分で補正して、当該補正した信号にしたがって、論理レベルが例えば排他的な関係にある変調信号を生成し、第2に、トランジスター対650を構成するハイサイドのトランジスターM1およびローサイドのトランジスターM2が、変調回路640で生成された変調信号によって互いに排他的にオンオフしてスイッチングし、これによりノードSdから増幅変調信号を出力し、第3に、ローパスフィルター660が、当該増幅変調信号を平滑化(復調)して、当該平滑化した信号を駆動信号COM-Aとして出力する。
次に、駆動回路600aの各部について説明する。
【0080】
変調回路640は、加算器642、644と、コンパレーター645と、減衰器646と、遅延器647と、ゲートドライバー648と、を含む。このうち、加算器642の入力端(+)には、信号ainが供給される。
【0081】
加算器642の入力端(-)には、端子Vfbの信号が、詳細には抵抗素子R4を介した駆動信号COM-Aが、抵抗素子R23によりプルアップされた状態で供給される。
加算器642は、入力端(-)の電圧を積分・減衰した上で、入力端(+)の電圧と演算する。詳細には、加算器642は、入力端(+)の電圧から、入力端(-)の積分・減衰電圧を差し引いた偏差を求め、当該偏差を示す信号Abを加算器644の入力端の一方に供給する。
なお、信号ainの電圧振幅は、0~4ボルト程度であるのに対し、駆動信号COM-Aの電圧が最大で40ボルト程度であるので、偏差を求めるにあたって両電圧の振幅範囲を合わせるため、駆動信号COM-Aの電圧を減衰させている。
【0082】
減衰器646は、端子Ifbを介して入力した駆動信号COM-Aの高周波成分を減衰して、加算器644の入力端の他方に供給する。減衰器646による減衰は、加算器642における入力端(-)と同様に、駆動信号COM-Aを帰還するにあたって、電圧振幅を合わせるためである。加算器644は、入力端の一方における電圧と他方における電圧とを加算した電圧の信号Asを、コンパレーター645に供給する。
【0083】
加算器644から出力される信号Asの電圧は、目標信号である信号ainの電圧から端子Vfbに供給された信号の減衰電圧を差し引いた偏差に、端子Ifbに供給された信号の減衰電圧を加算した電圧である。このため、加算器644による信号Asの電圧は、目標信号である信号ainの電圧から、出力である駆動信号COM-Aの減衰電圧を差し引いた偏差を、当該駆動信号COM-Aの高周波成分で補正した信号ということができる。
【0084】
コンパレーター645は、信号Asに基づいて、次のようにパルス変調した変調信号Msを出力する。詳細には、コンパレーター645は、信号Asが電圧上昇時であれば、電圧閾値Vth1以上になったときにHレベルとなり、信号Adが電圧下降時であれば、電圧閾値Vth2を下回ったときにLレベルとなる変調信号Msを出力する。なお、後述するように、電圧閾値は、
Vth1>Vth2
という関係に設定されている(後述する図13参照)。
変調信号Msは、遅延器647に供給される。
【0085】
遅延器647は、変調信号Msを所定時間だけ遅延させて供給する。
ゲートドライバー648は、遅延器647によって遅延させられた変調信号Msを高論理振幅に変換して、トランジスターM1のゲート電極に端子Hdrを介して供給する一方、変調信号Msの論理レベルを反転した信号を高論理振幅に変換して、トランジスターM2のゲート電極に端子Ldrを介して供給する。
【0086】
トランジスター対650において、トランジスターM1およびM2の各々は、例えばNチャネル型のFET(Field Effect Transistor)である。このうち、ハイサイドのトランジスターM1において、ドレイン電極には、電圧Vh(例えば42ボルト)が印加される。ローサイドのトランジスターM2については、ソース電極が、グランドに接地されている。そして、トランジスターM1のドレイン電極およびトランジスターM2のドレイン電極は共通接続されて、ノードSdとなっている。
トランジスターM1のゲート電極に供給される信号と、トランジスターM2のゲート電極に供給される信号とは、論理レベルが排他的になるので、一方のトランジスターがオンすれば、他方のトランジスターがオフし、また、一方のトランジスターがオフすれば、他方のトランジスターがオンすることになる。
なお、ゲートドライバー648が出力する2つのゲート信号の論理レベルは、実際には、同時にHレベルとはならないように(すなわち、Nチャネル型のトランジスターM1、M2が同時にオンしないように)、タイミング制御しても良い。このため、ここでいう排他的とは、厳密にいえば、同時にHレベルになることがない(トランジスターM1、M2でいえば、同時にオンすることがない)、という意味である。
【0087】
ところで、ここでいう変調信号は、狭義には変調信号Msであるが、信号Aaに応じてパルス変調して、トランジスターM1、M2を駆動する信号である、と考えれば、トランジスターM1へのゲート信号や、トランジスターM2へのゲート信号も変調信号に含まれる。すなわち、信号ainに応じてパルス変調した変調信号には、変調信号Msのみならず、当該変調信号Msの論理レベルを反転させたものや、タイミング制御されたものが含まれる。
【0088】
ローパスフィルター660は、インダクターL1とキャパシターC1とを含む。
このうち、インダクターL1については、一端がノードSdに接続され、他端が駆動回路600aの出力となる端子Outとなっている。
なお、端子Outは、キャパシターC1の一端と、キャパシターC7の一端と、抵抗素子R4の一端とに、にそれぞれ接続されている。このうち、キャパシターC1の他端は、グランドに接地されている。このため、インダクターL1とキャパシターC1とでトランジスターM1、M2の接続点に現れる増幅変調信号を平滑化して復調することになる。
【0089】
抵抗素子R4の他端は、端子Vfbおよび抵抗素子R23の一端に接続され、当該抵抗素子R23の他端には電圧Vhが印加される。これにより、端子Vfbには、端子Outからの駆動信号COM-Aがプルアップされて帰還される。
【0090】
フィルター670は、キャパシターC7およびC8と、抵抗素子R18およびR10とを含む。
このうち、キャパシターC7については、一端が端子Outに接続され、他端が抵抗素子R18の一端と抵抗素子R10の一端とに接続される。抵抗素子R18の他端はグランドに接地される。このため、キャパシターC7と抵抗素子R18とは、端子Outからの駆動信号COM-Aのうち、カットオフ周波数以上の高周波成分を通過させるハイパスフィルターとして機能する。なお、HPFのカットオフ周波数は、例えば約9MHzに設定される。
また、抵抗素子R10の他端は、キャパシターC5の一端とキャパシターC8の一端とに接続される。このうち、キャパシターC8の他端はグランドに接地される。このため、抵抗素子R10とキャパシターC8とは、上記ハイパスフィルター通過した信号成分のうち、カットオフ周波数以下の低周波成分を通過させるローパスフィルターとして機能する。なお、LPFのカットオフ周波数は、例えば約160MHzに設定される。
上記ハイパスフィルターのカットオフ周波数は、上記ローパスフィルターのカットオフ周波数よりも低く設定されるので、ハイパスフィルターとローパスフィルターとを含むフィルター670は、駆動信号COM-Aのうち、所定の周波数域の周波数成分を通過させるバンドパスフィルターとして機能する。
【0091】
キャパシターC5の他端は、変調回路640の端子Ifbに接続される。これにより、端子Ifbには、フィルター670を通過した駆動信号COM-Aの高周波数成分のうち、直流成分がカットされて帰還されることになる。
また、駆動回路600aでは、帰還経路として、端子Vfbを介した経路と端子Ifbを介した経路との2経路を有する。このうち、後述する自励発振の周波数を規定する経路として支配的となるのは、端子Ifbを介した経路である。
【0092】
端子Outから出力される駆動信号COM-Aは、トランジスターM1およびM2の接続点のノードSdから出力される増幅変調信号を、ローパスフィルター660によって平滑化した信号である。この駆動信号COM-Aは、端子Vfbを介して、加算器642に帰還されて、目標である信号ainとの偏差である信号Abとして出力される。
【0093】
ここで説明の便宜上、端子Ifbを介した帰還と、遅延器647による遅延とを除外した構成を想定したとき、駆動信号COM-Aは、端子Vfbを介して積分・減衰された上で、加算器642に帰還されるので、当該帰還経路の系では、ローパスフィルター660と加算器642とを経由する経路の伝達関数で定まる周波数にて自励発振が生じることになる。
ただし、端子Vfbを介した帰還経路の遅延量が大であるために、当該端子Vfbを介した帰還のみでは、自励発振の周波数を、駆動信号COM-Aの波形精度を十分に確保できるほど高くすることができない。
【0094】
そこで、本実施形態では、端子Vfbを介した経路とは別に、端子Ifbを介して、駆動信号COM-Aの高周波成分を帰還する経路を設けることによって、回路全体でみたときの遅延を小さくしている。このため、信号Abに、駆動信号COM-Aの高周波成分を加算した信号Asの周波数は、端子Ifbを介した経路が存在しない場合と比較して高くなり(すなわち、自励発振の周波数が高くなり)、駆動信号COM-Aにおいてリプルが小さくなって、波形の精度が高められている。
【0095】
図13は、アナログ信号ainの波形に対して、信号Asと変調信号Msとの理想的な関係を示す図である。
この図に示されるように、信号Asは三角波であり、その発振周波数は、アナログ信号ainの電圧(入力電圧)に応じて変動する。具体的には、入力電圧が中間値である場合に最も高くなり、入力電圧が中間値から高くなるにつれて、または、低くなるにつれて、低くなる。なお、信号Asが自励発振信号である。
【0096】
また、信号Asにおいて三角波の傾斜は、入力電圧が中間値付近であれば、上り(電圧の上昇)と下り(電圧の下降)とでほぼ等しくなる。このため、信号Asをコンパレーター645によって電圧閾値Vth1、Vth2と比較した結果である変調信号Msのデューティー比は、ほぼ50%となる。入力電圧が中間値から高くなると、信号Asの下りの傾斜が緩くなる。このため、変調信号MsがHレベルとなる期間が相対的に長くなって、デューティー比が大きくなる。一方、入力電圧が中間値から低くなるにつれて、信号Asの上りの傾斜が緩くなる。このため、変調信号MsがLレベルとなる期間が相対的に短くなって、デューティー比が小さくなる。
このため、変調信号Msは、次のようなパルス密度変調信号となる。すなわち、変調信号Msのデューティー比は、入力電圧の中間値でほぼ50%であり、入力電圧が中間値よりも高くなるにつれて大きくなり、入力電圧が中間値よりも低くなるにつれて小さくなる。
【0097】
ゲートドライバー648は、上述したように変調信号Msに基づいてトランジスターM1、M2をオン/オフさせる。すなわち、ゲートドライバー648は、変調信号MsがHレベルであれば、トランジスターM1をオンさせるとともに、トランジスターM2をオフさせる一方、変調信号MsがLレベルであれば、トランジスターM1をオフさせるとともに、トランジスターM2をオンさせる。
したがって、ノードSdにおける増幅変調信号をインダクターL1およびキャパシターC1で平滑化した駆動信号COM-Aの電圧は、変調信号Msのデューティー比が大きくなるにつれて高くなり、デューティー比が小さくなるにつれて低くなる。このため、結果的に、駆動信号COM-Aは、アナログ信号ainの電圧を拡大した信号となるように制御されて、出力されることになる。
【0098】
この駆動回路600aは、パルス密度変調を用いているので、変調周波数が固定のパルス幅変調と比較して、デューティー比の変化幅を大きく取れる、という利点がある。
すなわち、回路全体で扱うことができる最小の正パルス幅と負パルス幅はその回路特性で制約されるので、周波数固定のパルス幅変調では、デューティー比の変化幅として所定の範囲(例えば10%から90%までの範囲)しか確保できない。これに対し、パルス密度変調では、入力電圧が中間値から離れるにつれて、発振周波数が低くなるため、入力電圧が高い領域においては、デューティー比をより大きくすることができ、また、入力電圧が低い領域においては、デューティー比をより小さくすることができる。このため、自励発振型パルス密度変調では、デューティー比の変化幅として、より広い範囲(例えば5%から95%までの範囲)を確保することができるのである。
ただし、駆動回路600aにおいては、パルス密度変調ではなく、パルス幅変調を用いても良い。
【0099】
また、駆動回路600aは、自励発振であり、他励発振のように高い周波数の搬送波を生成する回路が不要である。このため、高電圧を扱う回路以外の、すなわち変調回路640が担う機能の集積化が容易である、という利点がある。
特に、DAC610aをディスクリートで構成するのではなく、変調回路640とともに半導体回路で集積化しても良い。
【0100】
ここでは、駆動信号COM-Aを出力する駆動回路600aを例にとって説明したが、駆動回路600bについては、入出力される信号だけが異なり同様な構成である。すなわち、駆動回路600bについては、信号ainの代わりに信号binが入力され、ノードSdから駆動信号COM-Bが出力される。
【0101】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば次に述べるような各種の応用・変形が可能である。なお、次に述べる応用・変形の態様は、任意に選択された一または複数を適宜に組み合わせることもできる。
【0102】
上述した実施形態においてDAC610a(610b)については、第2抵抗のうち、最上位のビットa3に対応する抵抗R13にのみ抵抗群Rdm3を接続したが、例えば、重みが大きい他のビット、例えばビットa2が反転し、当該ビットa2よりも下位のビットa1、a0が反転する場合にも多少程度が小さいものの同様なグリッジが発生し得る。
【0103】
そこで図14に示される応用例(その1)のように、ビットa2に対応する抵抗R12にも同様な抵抗群Rdm2を設けても良い。
ノードN2からみた抵抗R12をみた場合の抵抗値と、抵抗R2、R1およびR11の合成抵抗を見た場合の抵抗値とは、互いに同じであるが、抵抗R12における抵抗素子の数は「8」であり、抵抗R2、R1およびR12の合成抵抗における抵抗素子数は「16」であるので、抵抗群Rdm2は、抵抗R12に容量を8Cだけ付加するものとなる。なお、抵抗群Rdm2の付加に伴い、抵抗群Rdm3に付加する容量が計16Cに増加している。このため、ビットa3に対応する抵抗R13に接続される抵抗群Rdm3の容量は、下位のビットa2に対応する抵抗R12に接続される抵抗群Rdm2の容量よりも大きくなる。
また、ビットa1に対応する抵抗R11にも同様にして抵抗群を接続しても良いのはもちろんである。
【0104】
図11において抵抗群Rdm3が抵抗R13に接続された理由は、寄生容量を付加するためであるので、抵抗素子ではなく、キャパシターそのものを接続しても良い。
【0105】
図15は、応用例(その2)に係るDAC610aの構成を示す図であり、図11における抵抗群Rdm3を、同等なキャパシターCdm3に置き換えた例である。なお、この図では、キャパシターCdm3は、複数のキャパシターの並列接続で構成した例であるが、1つのキャパシターで構成しても良いのは、もちろんである。
【0106】
図16は、応用例(その3)に係るDAC610aの構成を示す図であり、図12における抵抗群Rdm2を、同等なキャパシターCdm2に置き換えた例である。なお、この図においても、キャパシターCdm2の付加に伴い、キャパシターCdm3の容量が増加している。このため、ビットa3の抵抗R13に接続されるキャパシターCdm3の容量は、下位のビットa2の抵抗R12に接続されるキャパシターCdm2の容量よりも大きくなる。
【0107】
また、上記説明では、印刷周期Taを期間T1およびT2に2分割するとともに、駆動信号COM-AおよびCOM-Bの2種類のうち、いずれかを選択して(または選択しないで)圧電素子Pztの一端に印加する構成(マルチコム)としたが、印刷周期Taの分割数は「2」に限られないし、また、駆動信号の数も「2」に限られない。
また、互いに異なる複数の台形波形を所定順に繰り返す1種類の駆動信号のなかから、印刷データSIに応じて1種以上の台形波形を抜き出して圧電素子Pztの一端に印加する構成(シングルコム)としても良い。
【0108】
上記説明では、液体吐出装置を印刷装置として説明したが、液体を吐出して立体を造形する立体造形装置や、液体を吐出して布地を染める捺染装置などであっても良い。
【0109】
また、駆動回路600aおよび600bの各々については、それぞれヘッドユニット3に搭載する構成としたが、それぞれメイン基板100に実装された構成として良い。
なお、駆動回路600aおよび600bがメイン基板100に実装された構成では、大振幅の信号が長尺のフレキシブルフラットケーブル190を介してヘッドユニット3に供給する必要があるので、消費電力および耐ノイズ性で不利である。逆に言えば、駆動回路600aおよび600bがヘッドユニット3に搭載された構成では、大振幅の信号をフレキシブルフラットケーブル190に供給する必要がないので、消費電力および耐ノイズ性で有利である。
【0110】
さらに、上記説明では、駆動回路600aおよび600bの駆動対象としてインクを吐出するための圧電素子Pztを例にとって説明したが、駆動回路600aおよび600bを印刷装置から切り離して考えてみたときに、駆動対象としては、圧電素子Pztに限られず、例えば超音波モーターや、タッチパネル、静電スピーカー、液晶パネルなどの容量性成分を有する負荷のすべてに適用可能である。
【符号の説明】
【0111】
1…印刷装置(液体吐出装置)、3…ヘッドユニット、100…メイン基板、600a、600b…駆動回路、610a、610b…DAC(DA変換器)、621~624…インバーター(制御素子)、650…演算増幅器、Rdm3…抵抗群(容量含有素子)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16