(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】回転機器及び摩耗点検方法
(51)【国際特許分類】
F04D 29/44 20060101AFI20231121BHJP
F04D 13/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
F04D29/44 E
F04D13/00 F
(21)【出願番号】P 2019134630
(22)【出願日】2019-07-22
【審査請求日】2022-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】595011238
【氏名又は名称】クボタ環境エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 和哉
(72)【発明者】
【氏名】久永 太郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 高嗣
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-183665(JP,A)
【文献】特開2015-175267(JP,A)
【文献】特表2014-530320(JP,A)
【文献】特開2006-161790(JP,A)
【文献】特開2017-151012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/44
F04D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、当該ケーシング内で回転する羽根車とを有する回転機器であって、
前記ケーシングの内面に設けられたライナのうち前記羽根車が有する羽根の端面と対向する対向面に、当該対向面に少なくとも所定の深さの摩耗が生じる
と前記対向面に視認可能に現れる摩耗インジケータが
、前記ライナの外周面側から埋設され、
前記摩耗インジケータは、前記対向面の摩耗に伴って摩耗され得るように構成されるとともに、前記対向面の摩耗の深さによって異なる表示が可能に構成されていることを特徴とする回転機器。
【請求項2】
前記摩耗インジケータは、前記対向面の摩耗の深さに応じて位置、色若しくは形状又はこれらの組合わせによって表示が異なるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の回転機器。
【請求項3】
前記摩耗インジケータは、前記対向面のうち前記羽根の端面の通過領域の全幅に亘って断続的に又は連続的に設けられていることを特徴とする請求項1
または2に記載の回転機器。
【請求項4】
前記摩耗インジケータは、前記端面の通過方向と直交する方向に沿って、又は、前記端面の通過方向と交差する方向に沿って設けられていることを特徴とする請求項
3に記載の回転機器。
【請求項5】
前記摩耗インジケータは、前記対向面からの深さが深くなるにつれて、断面積が大きくなる形状を有することを特徴とする請求項1から
4のいずれか一項に記載の回転機器。
【請求項6】
前記摩耗インジケータは、蓄光性又は蛍光性を有することを特徴とする請求項1から
5のいずれか一項に記載の回転機器。
【請求項7】
複数の前記摩耗インジケータが分散して設けられていることを特徴とする請求項1から
6のいずれか一項に記載の回転機器。
【請求項8】
複数の前記摩耗インジケータが前記対向面の全周に亘って均等に割り振られて設けられていることを特徴とする請求項
7に記載の回転機器。
【請求項9】
少なくとも前記ケーシング及び前記羽根車が水槽内に設置可能に構成され、前記羽根車の回転によって前記水槽内の水を揚水可能なポンプ装置であることを特徴とする請求項1から
8のいずれか一項に記載の回転機器。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか一項に記載の回転機器が有するケーシングの摩耗点検方法であって、
停止中の当該回転機器の前記ケーシングの前記ライナのうち羽根車が有する羽根の端面と対向する対向面に対して光を照射する照射工程と、
前記照射工程と並行して、又は、前記照射工程の後に、前記対向面を観察して前記摩耗インジケータを視認する視認工程と、
を含むことを特徴とする摩耗点検方法。
【請求項11】
前記視認工程において内視鏡カメラが使用されることを特徴とする請求項
10に記載の摩耗点検方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケーシングと、当該ケーシング内で回転する羽根車とを有する回転機器及び摩耗点検方法に関する。
【背景技術】
【0002】
雨水ポンプ場等には、回転機器であるポンプ装置が据付けられている。特許文献1に示すように、当該ポンプ装置は、ケーシングと、当該ケーシング内で回転する羽根車とを有している。
【0003】
このようなポンプ装置は、ケーシングと羽根車が有する羽根との間に石等の異物を噛み込むことがあり、そのまま羽根車が回転することによって、特にケーシング側に周回溝状の摩耗が生じる。ポンプ装置の羽根とケーシングとの隙間は、予め設計値となるように適切に組み立てられているが、摩耗の進行によって当該隙間が設計値から広がると性能が数%も低下するため、摩耗の程度に応じてケーシングの補修又は交換が必要である。
【0004】
従来、ケーシングに生じた摩耗の確認は、ポンプ装置を定期的に据付箇所から引き上げて一度分解し、作業員が治具を用いて摩耗量の測定をすることによって行われていた。
【0005】
しかし、このような摩耗の確認作業は、ポンプ装置の引上げ、分解、組立、据付けといった作業を伴うため、このような作業自体が大掛かりで煩雑であり多くの費用がかかっていた。特に大型のポンプ装置であれば現地での作業が不可能であるため、一旦当該作業が可能な工場に搬送する手間もあった。
【0006】
また、摩耗の程度の確認は、作業員の作業熟練度によってその評価にばらつきが生じるため、ケーシングに対して不要な補修が行われたり、まだ補修により再使用できるケーシングが交換されたりというような虞もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、摩耗の程度が可視化されることによって摩耗の程度の確認が容易な回転機器及び摩耗点検方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するための、本発明の回転機器の特徴構成は、ケーシングと、当該ケーシング内で回転する羽根車とを有する回転機器であって、前記ケーシングの内面に設けられたライナのうち前記羽根車が有する羽根の端面と対向する対向面に、当該対向面に少なくとも所定の深さの摩耗が生じると前記対向面に視認可能に現れる摩耗インジケータが、前記ライナの外周面側から埋設され、前記摩耗インジケータは、前記対向面の摩耗に伴って摩耗され得るように構成されるとともに、前記対向面の摩耗の深さによって異なる表示が可能に構成されている点にある。
【0010】
上述の構成によると、対向面に所定の深さの摩耗が生じると当該対向面に摩耗インジケータが視認可能に現れるため、当該回転機器を据付箇所から引き上げて分解することをせずとも、作業員による対向面の目視やケーシング内に挿入したカメラによる対向面の撮影等によって、治具を用いて摩耗量の測定をすることなく、当該対向面に所定の深さの摩耗が生じていることを確実に把握することができる。
【0011】
また、摩耗インジケータは、深さによって異なる表示が可能であることから、作業員は、対向面に生じている摩耗の程度を治具によって測定することなく容易に判別することができる。
【0012】
例えば、対向面に生じる摩耗の深さとして、補修必要深さ、交換必要深さを設定することができる。なお、補修必要深さとは、これに達すると対向面に生じた摩耗により当該対向面の補修が必要と判断される程度の深さである。所定の交換必要深さとは、これに達すると対向面に生じた摩耗によりケーシングの交換が必要と判断される程度の深さである。
【0013】
所定の補修必要深さ以深、かつ、交換必要深さよりも浅い摩耗が生じているときと、交換必要深さ以深の摩耗が生じているときとで、その表示が異なっていると、作業員は、対向面に生じている摩耗の程度を治具によって測定することなく容易に判別することができる。
【0014】
対向面に補修必要深さに至る摩耗が生じると、羽根車が有する羽根の端面と当該対向面との隙間が設計値に比べて大きくなることから、回転機器の性能は当然に低下する。対向面に生じた摩耗と回転機器の性能の低下との関係を予め実験等によって把握しておくことによって、対向面に実際に生じた摩耗の程度によって回転機器の性能の低下の程度を推測することもできる。
【0015】
対向面のうち摩耗が生じやすい箇所が予め判明している場合は、摩耗インジケータは、対向面のうち当該摩耗が生じやすい箇所にのみ、又は主に当該箇所に埋設してもよい。
【0016】
回転機器のケーシングの内側にライナが設けられる場合は、対向面は当該ライナの内周面に含まれる。
【0017】
本発明においては、前記摩耗インジケータは、前記対向面の摩耗の深さに応じて位置、色若しくは形状又はこれらの組合わせによって表示が異なるように構成されていると好適である。
【0018】
摩耗インジケータは、例えば、補修必要深さ以深、かつ交換必要深さよりも浅い摩耗が生じているときの表示がされる箇所と、交換必要深さ以深の摩耗が生じているときの表示がされる箇所とが異なる位置にされる構成であってもよいし、異なる色が表示される構成であってもよいし、異なる形状が表示される構成であってもよい。すなわち、異なる表示とは、位置、色若しくは形状又はこれらの組み合わせによって構成される。
【0019】
本発明においては、前記摩耗インジケータは、前記対向面のうち前記羽根の端面の通過領域の全幅に亘って断続的に又は連続的に設けられていると好適である。
【0020】
対向面には、当該対向面と羽根車が有する羽根との間に噛み込まれた石等の異物によって周回溝状の摩耗が生じ得るのであるが、上述の構成によると、対向面のうち、どこに摩耗が生じても、摩耗インジケータによって当該摩耗が生じていることを把握することが可能となる。
【0021】
その際、摩耗インジケータは断続的に設けられていてもよいし、連続的に設けられていてもよく、いずれにせよ対向面のうち羽根の端面の通過領域の全幅に亘ってその摩耗が確認できるように設けられていればよい。
【0022】
本発明においては、前記摩耗インジケータは、前記端面の通過方向と直交する方向に沿って、又は、前記端面の通過方向と交差する方向に沿って設けられていると好適である。
【0023】
摩耗インジケータを、羽根車が有する羽根の端面の通過方向と直交する方向に沿って設けると、摩耗インジケータの埋設施工が容易である。
【0024】
通常、羽根車は複数枚の羽根を有し、隣り合う羽根の端面どうしの隙間は、羽根車が有する羽根の端面の通過方向と交差する方向に沿って存在することから、これに沿うように摩耗インジケータを設けると、摩耗の確認時に羽根を動かすことなく、対向面のうち羽根の端面の通過領域の全幅に亘って摩耗の確認を容易にすることができる。
【0025】
本発明においては、前記摩耗インジケータは、前記対向面からの深さが深くなるにつれて、断面積が大きくなる形状を有すると好適である。
【0026】
対向面に埋設された摩耗インジケータは、対向面と羽根車が有する羽根との間に噛み込まれた石等の異物によって、対向面の摩耗に伴って摩耗されるのであるが、その際異物によって、摩耗インジケータには当該摩耗インジケータを対向面から引き抜くような力が作用し得る。
【0027】
上述の構成によると、摩耗インジケータは、対向面からの深さが深くなるにつれて、断面積が大きくなる形状、すなわちテーパ面を有することから、摩耗インジケータは、常に異物による引抜き力に抵抗することができる。
【0028】
本発明においては、前記摩耗インジケータは、蓄光性又は蛍光性を有すると好適である。
【0029】
上述の構成によると、ケーシング内にLEDライトや投光器等によって光を照射すると、対向面に摩耗インジケータが現れているときには摩耗インジケータが発光するため、対向面に摩耗インジケータが現れるほどの摩耗が生じていることを容易に確認することができる。
【0030】
本発明においては、複数の前記摩耗インジケータが分散して設けられていると好適である。
【0031】
羽根車はケーシングの中心に回転軸を有し、羽根車の羽根の端面と、対向面との隙間は、羽根車の全周に亘って均一となるように設計されているが、形状公差や羽根車の軸心の振れ公差等によって、対向面には必ずしも全周に亘って同じ量の摩耗が生じるとは限らない。対向面のうち周方向に一箇所に摩耗インジケータが埋設される構成であると、当該摩耗インジケータが埋設されている箇所における対向面の摩耗が少なくても、それ以外の箇所における摩耗の量が多いときには、当該摩耗インジケータによって摩耗を発見することができない。また、摩耗しやすい箇所を予め予測することは困難である。
【0032】
上述の構成によると、摩耗インジケータが対向面に分散して設けられていることにより、対向面の全周において摩耗の量に偏りが生じていても、摩耗をより確実に発見できる。
【0033】
本発明においては、複数の前記摩耗インジケータが前記対向面の全周に亘って均等に割り振られて設けられていると好適である。
【0034】
上述の構成によると、対向面の全周に亘って摩耗の程度の把握が可能となる。また、その際、羽根車の羽根の枚数と異なる素数個の摩耗インジケータを設けると、隣り合う羽根の端面どうしの間に全ての又はほぼ全ての各摩耗インジケータが現れることとなるため、各摩耗インジケータの確認が羽根を動かすことなくできるようになり好適である。
【0035】
本発明においては、少なくとも前記ケーシング及び前記羽根車が水槽内に設置可能に構成され、前記羽根車の回転によって前記水槽内の水を揚水可能なポンプ装置であると好適である。
【0036】
上述の構成によると、雨水排水ポンプのようなポンプ装置において、ケーシングと羽根車との間に噛み込まれた異物によって、ケーシングに摩耗が生じるような場合に、その摩耗の程度を摩耗インジケータによって容易に認識することができる。
【0037】
上述の目的を達成するための、本発明の摩耗点検方法の特徴構成は、上述したいずれかの特徴構成を有する回転機器が有するケーシングの摩耗点検方法であって、停止中の当該回転機器の前記ケーシングの前記ライナのうち羽根車が有する羽根の端面と対向する対向面に対して光を照射する照射工程と、前記照射工程と並行して、又は、前記照射工程の後に、前記対向面を観察して前記摩耗インジケータを視認する視認工程と、を含む点にある。
【0038】
上述の構成によると、ケーシングに摩耗が生じているか否かを、回転機器を引き上げて分解することなく容易に確認することができるようになった。照射工程は、LEDライト、投光器等によって行い、視認工程は、目視、鏡、カメラ等によって行うことができる。なお、対向面に摩耗インジケータが発見されると、当該ケーシングを補修又は交換が必要であると判断することができる。
【0039】
本発明においては、前記視認工程において内視鏡カメラが使用されると好適である。
【0040】
上述の構成によると、視認工程において内視鏡カメラが使用されることから、作業員がケーシングが設置されている箇所において実際に目視するような作業が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図2】摩耗インジケータが埋設されているケーシングの内周面が表されている説明図である。
【
図3】摩耗インジケータの説明図であって、(A)は対向面に摩耗が生じていないときの様子を表す図、(B)は対向面にケーシングの補修が必要な程度の摩耗が生じているときの様子を表す図、(C)は対向面にケーシングの交換が必要な程度の摩耗が生じているときの様子を表す図である。
【
図4】摩耗インジケータが埋設されているケーシングの要部の説明図であって、(A)は対向面に摩耗が生じていないときの様子を表す図、(B)は対向面にケーシングの補修が必要な程度の摩耗が生じているときの様子を表す図である。
【
図5】別実施形態に係る摩耗インジケータが埋設されているケーシングの内周面が表されている説明図である。
【
図6】別実施形態に係る摩耗インジケータの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に本発明に係る回転機器の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0043】
図1には、回転機器としてのポンプ装置1の一部が示されている。ポンプ装置1は、水槽内に設置されるケーシング2及び羽根車3を有している。羽根車3の回転軸4は、図示しない電動機等の駆動装置の回転軸とカップリングを介して連結されており、駆動装置の駆動によって回転可能に構成されている。
【0044】
ケーシング2には、上流側に吸込ベル5が接続され、下流側に吐出ボウル6が接続されている。吐出ボウル6には、案内羽根7を介して軸受8が設けられ、当該軸受8に羽根車3の回転軸4が軸支されている。
【0045】
前記駆動装置によって羽根車3がケーシング2内で回転させられると、吸込ベル5から吸い込まれた水が、吐出ボウル6を介して吐出ボウル6の下流に接続された揚水管9に送出される。このようにして、ポンプ装置1は羽根車3の回転によって水槽内の水を揚水可能に構成されている。
【0046】
このようなポンプ装置1は、ケーシング2と羽根車3との間に噛み込まれた異物によって、ケーシング2のうち羽根車3が有する羽根11の端面と対向する対向面12に摩耗が生じ得る。
【0047】
本実施形態においては、
図2に示すように、対向面12に摩耗が生じていることを容易に発見可能とするために、対向面12のうち4つの摩耗インジケータ20が対向面12の全周に亘って均等に割り振られて埋設されている。
【0048】
各摩耗インジケータ20は、対向面12のうち羽根11の端面の通過領域の全幅に亘って連続的かつ、当該端面の通過方向と直交する方向に沿って設けられている。摩耗インジケータ20は、対向面12からの深さが深くなるにつれて、断面積が大きくなる形状を有している。
【0049】
本実施形態においては、摩耗インジケータ20は、蓄光顔料が含有されたエポキシ樹脂がケーシング2の対向面12とは裏面の所定位置に形成されたV字条の溝に充填されて熱硬化される態様によってケーシング2に埋設されている。摩耗インジケータ20は、エポキシ樹脂を主材質とすることから、対向面12の摩耗に伴って摩耗され得る。
【0050】
図3(A)から(C)に示すように、摩耗インジケータ20は、対向面12に、対向面12からの補修必要深さD1以深の摩耗が生じているときに視認可能に現れる補修表示部21と、対向面に対向面12からの交換必要深さD2以深の摩耗が生じているときに視認可能に現れる交換表示部22とから構成されている。
【0051】
本実施形態においては、補修表示部21と交換表示部22とは、異なる位置に設けられている。また、補修表示部21と交換表示部22には、色が異なる蓄光顔料が含有されている。なお、特に交換表示部22に含有される蓄光顔料は、目視やカメラ撮影による視認性の観点から青系の色や、特に緑系の色が好ましく採用される。
【0052】
対向面12に補修必要深さD1に至る摩耗が生じると、羽根車3が有する羽根11の端面と対向面12との隙間が設計値に比べて大きくなることから、ポンプ装置1の性能は低下する。対向面12に生じた摩耗とポンプ装置1の性能の低下との関係を予め実験等によって把握しておくことによって、対向面12に実際に生じた摩耗の程度によってポンプ装置1の性能の低下の程度を推測することができる。
【0053】
図3(A)に示すように、補修必要深さD1とは、これに達すると対向面12に生じた摩耗により当該対向面12の補修が必要となる深さをいい、ケーシング2の厚みTに対して、例えば対向面12から0.1T程度の深さに設定される。交換必要深さD2は、これに達すると対向面12に生じた摩耗によりケーシング2の交換が必要となる深さをいい、ケーシング2の厚みTに対して、例えば対向面12から0.3T程度の深さに設定される。
【0054】
図3(B)に示すように、対向面12に、補修必要深さD1以深の摩耗が生じると補修表示部21が視認可能となり、
図3(C)に示すように、交換必要深さD2以深の摩耗が生じると、補修表示部21のみならず交換表示部22も視認可能となる。このように、摩耗インジケータ20は、対向面12の摩耗の深さによって異なる位置に異なる色で異なる断面形状の表示が可能である。
【0055】
摩耗インジケータ20は、蓄光顔料が含有されていることから、ケーシング2内にLEDライトや投光器等によって光を照射すると、対向面12に摩耗インジケータが20現れているときには摩耗インジケータ20が発光するため、対向面12に摩耗インジケータ20が現れるほどの摩耗が生じていること、及びその程度を容易に確認することができる。
【0056】
なお、
図4(A)に示すように、摩耗インジケータ20は、対向面12のうち羽根11の端面の通過領域の全幅に亘って連続的に設けられていることから、
図4(B)に示すように、対向面12のうち、その一部に摩耗が生じても、当該摩耗を把握することが可能となる。
【0057】
このようなポンプ装置1のケーシング2に対して、本発明に係る摩耗点検方法が実施される。当該摩耗点検方法は、停止中のポンプ装置1のケーシング2の対向面12に対して光を照射する照射工程と、当該照射工程と並行して、又は、照射工程の後に、対向面12を観察して摩耗インジケータ20を視認する視認工程と、を含む。
【0058】
照射工程は、LEDライト、投光器等によって30秒程度の照射を行い、視認工程は、目視、鏡、カメラ等、好ましくは、点検口等から挿入される内視鏡カメラや、カメラ付きドローン等を用いて行われる。対向面12に摩耗インジケータ20が発見されると、当該ケーシングを補修又は交換が必要であると判断することができる。
【0059】
具体的には、
図3(A)に示すように、補修表示部21が視認されないときは、対向面12に摩耗が生じていたとしても補修が不要な程度であると判断することができる。
図3(B)に示すように、補修表示部21が視認されても、交換表示部22が視認されないときは、ケーシング2を交換するまでもなく、その補修をすれば足りると判断することができる。
図3(C)に示すように、補修表示部21のみならず、交換表示部22が視認されたときは、ケーシング2の交換が必要であると判断することができる。
【0060】
なお、対向面12の摩耗は周回溝状に生じるため、ケーシング2の補修は、摩耗が生じた対向面12を一番深い溝に合わせてすり合わせ、その表面を滑らかに整える態様によって行われる。補修後のケーシング2は再度ポンプ装置1に組み込まれ、その際、羽根車3の羽根11の端面と対向面12との隙間が設計値となるように調節される。
【0061】
以上のとおり、ケーシング2に、その補修又は交換が必要となる摩耗が生じているか否かを、ポンプ装置1を引き上げて分解することなく容易に確認することができる。
【0062】
以下に、ポンプ装置1の別実施形態について説明する。
【0063】
上述した実施形態においては、摩耗インジケータ20は、対向面12のうち羽根11の端面の通過領域の全幅に亘って連続的に設けられていたが、この限りではない。
図5に示すように、摩耗インジケータ20は、対向面12のうち羽根11の端面の通過領域の全幅に亘って断続的に設けられていてもよい。
【0064】
上述した実施形態においては、摩耗インジケータ20は、羽根車3の端面の通過方向と直交する方向に沿って設けられていたが、この限りではない。
図5に示すように、摩耗インジケータ20は、羽根車3の端面の通過方向と交差する方向に沿って設けられていてもよい。
【0065】
摩耗インジケータ20は、対向面12のうち羽根11の端面の通過領域の全幅に亘って断続的に設けたり、摩耗インジケータ20は、羽根車3の端面の通過方向と交差する方向に沿って設ける場合には、例えば摩耗インジケータ20は、蓄光顔料が含有されたエポキシ樹脂がケーシング2の対向面12とは裏面の所定位置に所定間隔で形成されたキリ孔に充填されて熱硬化されることによってケーシング2に埋設される。キリ孔は、刃先角度が90度で、Φ20mm程度の工具が好ましく使用され、隣り合うものどうしが30~40mm程度の間隔に配置される。
【0066】
羽根車3は複数枚、例えば4枚の羽根を有し、隣り合う羽根11の端面どうしの隙間は、羽根車3が有する羽根11の端面の通過方向と交差する方向に沿って存在することから、これに沿うように摩耗インジケータ20を設けると、摩耗の確認時に羽根11を動かすことなく、対向面12のうち羽根11の端面の通過領域の全幅に亘って摩耗の確認を容易にすることができる。
【0067】
上述した実施形態においては、対向面12に4つの摩耗インジケータ20が設けられていたが、この限りではない。羽根車3の羽根11の枚数と異なる素数個の摩耗インジケータ20が対向面12の全周に亘って均等に割り振られて設けられる構成であってもよい。これによると、隣り合う羽根11の端面どうしの間に全ての又はほぼ全ての各摩耗インジケータ20が現れることとなるため、各摩耗インジケータ20の確認が羽根11を動かすことなくできるようになる。
【0068】
上述した実施形態においては、4つの摩耗インジケータ20が対向面12の全周に亘って均等に割り振られて設けられていたが、この限りではない。摩耗インジケータ20の数は、任意であり、さらに複数の摩耗インジケータ20を埋設するにあたって、対向面12の全周に亘って均等に割り振られている必要はなく、単に分散されて設けられていてもよい。
【0069】
したがって、摩耗インジケータ20は、対向面12のうち羽根11の端面の通過領域の全幅のうち一部に設けられていてもよい。また、摩耗インジケータ20は、対向面12のうち当該摩耗が生じやすい箇所にのみ、又は主に当該箇所に埋設される構成であってもよい。
【0070】
上述した実施形態においては、摩耗インジケータ20は、補修表示部21と交換表示部22とが異なる位置に配置されていたが、この限りではない。摩耗インジケータ20は、
図6に示すように、補修表示部21と交換表示部22とが同じ位置に配置されていてもよい。
【0071】
その際、補修表示部21と交換表示部22とは、異なる色が表示される構成であってもよいし、異なる形状が表示される構成であってもよい。この場合は、補修表示部21が視認されないときは、対向面12に摩耗が生じていたとしても補修は不要であることと判断することができる。補修表示部21が視認されたときは、その補修をすれば足りると判断することができる。交換表示部22が視認されたときは、ケーシング2の交換が必要であると判断することができる。
【0072】
上述した実施形態においては、ポンプ装置1のケーシング2の内周面に対向面12が設定され、ケーシング2に摩耗インジケータ20が埋設されていたが、この限りではない。ケーシング2の内面にライナが設けられる場合は、当該ライナの内周面に対向面が設定され、当該ライナに摩耗インジケータ20が埋設される。そして、当該ライナに摩耗が生じると、摩耗インジケータ20の表示に基づいて、その補修や交換が判断される。
【0073】
上述した実施形態においては、摩耗インジケータ20は、蓄光顔料が含有されたエポキシ樹脂から構成されていたが、摩耗インジケータ20は、蛍光顔料が含有されたエポキシ樹脂等の合成樹脂から構成されていてもよい。さらに、摩耗インジケータ20は、蓄光顔料や蛍光顔料が含有された合成樹脂に限らず、着色された金属補修剤や、着色された焼結金属のようなものから構成されてもよい。ケーシング2を構成する素材と異なる色を有していればよい。
【0074】
上述した実施形態においては、摩耗インジケータ20は、対向面12の摩耗の深さによって位置、色及び断面形状が異なる表示をするように構成されていたが、この限りではない。摩耗インジケータ20は、対向面12の摩耗の深さによって、位置のみ、色のみ、又は形状のみが異なる表示をするように構成されていてもよいし、上記以外の組み合わせによって異なる表示をするように構成されていてもよい。
【0075】
上述した実施形態における対向面12に生じた摩耗の確認は、揚水管9やその下流側に接続されるベンド管や吐出管に設けられる点検口等を介して行ってもよく、ケーシング2の上流側に設けられた吸込ベル5から行ってもよい。
【0076】
上述した実施形態においては、摩耗インジケータ20が補修表示部21及び交換表示部22によって補修必要深さD1及び交換必要深さD2の二つの深さを表示する構成について説明したが、この限りではない。摩耗インジケータ20は、補修必要深さD1及び交換必要深さD2の二つの深さのみならず、補修必要深さD1と交換必要深さD2との間においてさらに段階的に深さの表示が可能に構成されていてもよい。
【0077】
上述した実施形態においては、回転機器がポンプ装置1であったが、この限りではない。回転機器はタービン等であってもよい。
【0078】
上述した実施形態は、いずれも本発明の一例であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 :ポンプ装置
2 :ケーシング
3 :羽根車
4 :回転軸
5 :吸込ベル
6 :吐出ボウル
7 :案内羽根
8 :軸受
9 :揚水管
11 :羽根
12 :対向面
20 :摩耗インジケータ
21 :補修表示部
22 :交換表示部
D1 :補修必要深さ
D2 :交換必要深さ
T :厚み