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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】油脂粉末
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20231121BHJP
   A23D 9/013 20060101ALI20231121BHJP
   C11B 15/00 20060101ALI20231121BHJP
   A23L 35/00 20160101ALN20231121BHJP
【FI】
A23D9/00 506
A23D9/013
C11B15/00
A23L35/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019172517
(22)【出願日】2019-09-24
(65)【公開番号】P2021050262
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】阿部 剛大
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-094362(JP,A)
【文献】特開平08-183990(JP,A)
【文献】特開2005-008810(JP,A)
【文献】特開2009-050234(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00 - 15/00
A23D 7/00 - 9/06
A23L 2/00 - 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、(B)及び(C)を含有する油脂粉末であって、該油脂粉末100質量%中、成分(A)の含有量が70~98.99質量%であり、成分(B)の含有量が1~29質量%であり、成分(C)の含有量が0.005~1質量%である、油脂粉末。
(A)パーム硬化油
(B)ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル
(C)レシチン、L-アスコルビン酸脂肪酸エステル及びリン酸からなる群より選ばれる1種以上
【請求項2】
成分(B)がジグリセリン不飽和脂肪酸エステルである、請求項に記載の油脂粉末。
【請求項3】
冷凍フライ食品に用いられる、請求項1又は2のいずれかに記載の油脂粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
コロッケやエビフライ等のフライ食品の冷凍品は、長期保存が可能で、電子レンジで再加熱調理することにより手軽に食べることができるという便利さがある。このような食品の製造では、電子レンジによる加熱調理後においても揚げた直後のクリスピー感を維持するために、特定の食品用乳化剤を含有する油脂粉末が用いられている(特許文献1)。このような油脂粉末では、食品用乳化剤の中でも、その効果の高さから、ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルが好ましく用いられている。
【0003】
しかし、このような油脂粉末は、長期保存中に赤みを帯びた色に変色する場合がある。変色が発生するメカニズム等の詳細は不明であるが、ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを添加する対象の油脂がパーム硬化油の場合に変色することが分かっている。そこで、この両者を含有する油脂粉末について保存中の変色を抑制する方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-183990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、パーム硬化油及びポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを含有し、保存中の変色が抑制された油脂粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、レシチンやL-アスコルビン酸脂肪酸エステル等を用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、この知見に基づいて本発明を成すに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の(1)~(3)からなっている。
(1)下記成分(A)、(B)及び(C)を含有する、油脂粉末。
(A)パーム硬化油
(B)ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル
(C)レシチン、L-アスコルビン酸脂肪酸エステル及びリン酸からなる群より選ばれる1種以上
(2)ポリグリセリン脂肪酸エステルがジグリセリン脂肪酸エステルである、前記(1)に記載の油脂粉末。
(3)冷凍フライ食品に用いられる、前記(1)又は(2)に記載の油脂粉末。
【発明の効果】
【0008】
本発明の油脂粉末は、パーム硬化油及びポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを含有する際に保存中に発生する変色が抑制されている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に用いられる成分(A)は、パーム硬化油である。パーム硬化油は、パーム油に対し、好ましくはヨウ素価10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは2以下のパーム極度硬化油となるまで水素添加し、構成成分である不飽和脂肪酸をほぼ完全に飽和することによって得られる油脂である。
【0010】
本発明に用いられる成分(B)は、ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルである。ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルは、ポリグリセリンと不飽和脂肪酸とのエステル化生成物であり、エステル化反応等自体公知の方法で製造できる。
【0011】
ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを構成するポリグリセリンは、通常グリセリン又はグリシドールあるいはエピクロルヒドリン等を加熱し、重縮合反応させて得られる重合度の異なるポリグリセリンの混合物である。本発明で用いられるポリグリセリンとしては平均重合度が2~10程度のもの、例えば、ジグリセリン(平均重合度2)、トリグリセリン(平均重合度3)、テトラグリセリン(平均重合度4)、ヘキサグリセリン(平均重合度6)、オクタグリセリン(平均重合度8)又はデカグリセリン(平均重合度10)等が挙げられ、中でも、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、デカグリセリンが好ましく、ジグリセリンがより好ましい。
【0012】
ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを構成する不飽和脂肪酸は、食用可能な動植物油脂を起源とする不飽和脂肪酸であれば特に制限はないが、例えば、炭素数16~22の直鎖の不飽和脂肪酸が挙げられ、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸及びエルシン酸等が好ましく、特にオレイン酸が好ましい。
【0013】
ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルとしては、ジグリセリン不飽和脂肪酸エステル、トリグリセリン不飽和脂肪酸エステル、ペンタグリセリン不飽和脂肪酸エステル、デカグリセリン不飽和脂肪酸エステル等が挙げられ、中でも、ジグリセリン不飽和脂肪酸エステルが好ましく用いられる。
【0014】
本発明に用いられる成分(C)は、レシチン、L-アスコルビン酸脂肪酸エステル及びリン酸からなる群より選ばれる1種以上であり、好ましくはレシチン及び/又はリン酸でる。
【0015】
成分(C)として用いられるレシチンは、油糧種子又は動物原料から得られるリン脂質〔例えば、フォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルイノシトール、フォスファチジン酸又はこれらの酵素処理物(例えば、フォスファチジルコリンの酵素分解物であるリゾフォスファチジルコリン等)〕を主成分とするものであり、例えば、大豆レシチン又は卵黄レシチン等油分を含む液状レシチン、液状レシチンから油分を除き乾燥した粉末レシチン、液状レシチンを分別精製した分別レシチン若しくはレシチンを酵素で処理した酵素分解レシチン又は酵素処理レシチン等が挙げられる。これらレシチンは、一種類のみを単独で用いてもよく、二種類以上を任意に組み合わせて用いてもよい。
【0016】
成分(C)として用いられるL-アスコルビン酸脂肪酸エステルは、L-アスコルビン酸に脂肪酸をエステル結合させたものであり、例えば、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル等が挙げられ、相対的に融点が低くパーム極度硬化油への添加・溶解が容易であるため、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステルが好ましく用いられる。
【0017】
成分(C)として用いられるリン酸としては、オルトリン酸の他、リン酸骨格を持つ他の類似化合物(例えば、ポリリン酸、ピロリン酸等)が挙げられ、オルトリン酸が好ましく用いられる。
【0018】
本発明の油脂粉末は、上記成分(A)、(B)及び(C)を含有する。
【0019】
本発明の油脂粉末100質量%中、成分(A)、(B)及び(C)の含有量は、成分(A)が70~98.99質量%、好ましくは80~95質量%であり、成分(B)が1~29質量%、好ましくは4~20質量%であり、成分(C)が0.005~1質量%、好ましくは0.01~0.5質量%である。
【0020】
本発明の油脂粉末の製造方法に特に制限はないが、例えば、成分(A)、(B)及び(C)を加熱及び溶融した混合物を冷却し、粉末化することにより、成分(A)、(B)及び(C)を含有する粒子を含む粉末状の製剤が得られる。具体的には、例えば、成分(A)、(B)及び(C)をこれらの融点以上(例えば、60~90℃)に加熱して溶融及び混合し、得られた混合物を-196~15℃、好ましくは-196~0℃、更に好ましくは-196~-20℃の温度条件で噴霧冷却し、固化した粒子を回収する方法(方法1)、該混合物を例えば-196~15℃の温度条件で1~72時間静置して冷却固化した後粉砕し、粉末化する方法(方法2)等を実施することができる。
【0021】
上記方法1において、噴霧冷却は、例えば、一般的な噴霧冷却装置を使用し、該溶融物を例えば冷却した気体の充填された塔内に噴霧することにより実施される。塔内の気体を冷却するために液体窒素を用いる場合、液体窒素は塔内の上段、中段及び下段のいずれから注入しても良く、また2箇所以上から注入しても良い。噴霧には加圧式噴霧ノズルや回転円盤式噴霧ノズル等が用いられ、好ましくは加圧式噴霧ノズルである。噴霧された溶液は冷却されて粒子となって塔下部に落下し捕集される。得られる粒子の平均粒子径は、好ましくは50~1000μm、より好ましくは100~500μmである。
【0022】
また、上記方法2において、粉砕の方法としては、物理的に細かく粉砕すればよく、例えば、圧縮破砕機、剪断粗砕機、衝撃破砕機、ロールミル、高速回転ミル、ジェットミル等を使用した公知の粉砕方法が挙げられる。また、粉砕の程度に特に制限はないが、例えば粉砕により得られる粒子の平均粒子径が50~1000μm、好ましくは100~500μmの範囲になるように粉砕することが好ましい。
【0023】
本発明の油脂粉末は、本発明の目的を阻害しない範囲で他の任意の成分を含んでも良い。このような成分としては、例えば、酸化防止剤、流動化剤等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、抽出トコフェロール、ローズマリー抽出物、L-アスコルビン酸及びその塩類、カテキン類、酵素処理ルチン、ヒマワリ種子抽出物、ブドウ種子抽出物、酵素分解リンゴ抽出物、BHA、BHT、TBHQ、EDTA等が挙げられる。流動化剤としては、例えば、第三リン酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、二酸化ケイ素、酸化チタン、タルク等が挙げられる。
【0024】
本発明の油脂粉末は、例えば、カツ(例えば、メンチカツ、トンカツ、エビカツ等)、から揚げ、コロッケ(例えば、ビーフコロッケ、ポテトコロッケ、クリームコロッケ等)、天ぷら、フリッター、フライ(例えば、イカフライ等)、アメリカンドック等のフライ調理済みの食品を冷凍して製造される冷凍フライ食品に用いることができる。本発明の油脂粉末は、電子レンジによる加熱調理後においても揚げた直後のクリスピー感のある冷凍フライ食品を製造するために使用できる。
【0025】
本発明の油脂粉末を用いた冷凍フライ食品の製造方法に特に制限はなく、それぞれの食品の常法に従って製造することができるが、例えば、鳥獣肉類、魚介類、野菜類又はこれらの加工品を具材とし、これを本発明の油脂粉末を含有するバッター液で被覆してフライし、得られたフライ調理済みの食品を常法に従って凍結処理することにより製造できる。
【0026】
本発明の油脂粉末をバッター液に添加する方法としては、例えば、本発明の油脂粉末を予め小麦粉等の他の粉末原料と混合してプレミックスとして使用する方法、本発明の油脂粉末を予め水に分散したものを他の原料と混合する方法、本発明の油脂粉末を他の原料に直接加える方法等が挙げられる。
【0027】
本発明の油脂粉末の添加量は、電子レンジによる加熱調理後においても揚げた直後のクリスピー感のある冷凍フライ食品が得られるように適宜決定することができ、冷凍フライ食品の種類、原材料、製法等により異なるため一様ではないが、例えば、バッター液100質量%中、本発明の油脂粉末の含有量が1~30質量%、好ましくは5~15質量%となるように調整することができる。
【0028】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0029】
[油脂粉末の製造]
(1)原材料
1)パーム極度硬化油(ヨウ素価0.53;横関油脂工業社製)
2)ポリグリセリン不飽和脂肪酸エステル(商品名:ポエムDO-100V;ジグリセリンオレイン酸エステル;理研ビタミン社製)
3)レシチン(商品名:トプシチン UB;液状;Cargill社製)
4)L-アスコルビン酸脂肪酸エステル(L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル;DSM社製)
5)リン酸(商品名:85%リン酸;オルトリン酸;燐化学工業社製)
6)抽出トコフェロール(商品名:理研Eオイル600;理研ビタミン社製)
【0030】
上記原材料を用いて製造した油脂粉末1~6の配合組成を表1に示す。このうち、油脂粉末1~4は本発明に係る実施例であり、油脂粉末5及び6はそれらに対する比較例である。
【0031】
【表1】
【0032】
(2)製造方法
表1に従って全ての原材料をタンクに仕込み95℃で溶融・混合した。得られた溶融液を、塔内部の空気が送風温度-20℃で冷却された噴霧冷却装置(試験機)に供給して噴霧冷却し、冷却固化した粒子を塔下部で回収し、平均粒子径が約200μmの油脂粉末1~6を得た。尚、各油脂粉末の作製量は10kgとした。
【0033】
[変色の抑制効果の評価試験]
油脂粉末1~6を40℃で保存し、90日経過後に白色度を測定することで、変色の抑制の程度を評価した。白色度の測定は、測色色差計(型式:ZE 2000;日本電色工業社製)を用い、JIS(日本工業規格)に規定されるハンター方式による白色度(JIS P 8123)に準拠して行った。より具体的には、波長457nmの光を油脂粉末に照射し、それから反射する光の反射率を測定し、標準白色面(酸化マグネシウム)の反射率を100%とする比反射率を白色度(WB)とし、以下の評価基準に従って記号化した。結果を表2に示す。
<評価基準>
○:変色なし 白色度(WB)が80.0以上
△:やや変色あり 白色度(WB)が70.0以上、80.0未満
×:変色が進んでいる 白色度(WB)が70.0未満
【0034】
【表2】
【0035】
表2の結果から明らかなように、成分(C)を含有する油脂粉末1~4は、「○」の結果を得た。これに対し、成分(C)を含有していない油脂粉末5及び6は、「×」の結果であった。以上より、パーム極度硬化油及びポリグリセリン不飽和脂肪酸エステルを含有する油脂粉末は、更に成分(C)を含有することで、保存中の変色が抑制されることが確認された。
【0036】
[油脂粉末の使用例]
油脂粉末(1~4のうちいずれか)40質量部、小麦粉40質量部、コーンスターチ15質量部、食塩3質量部及び増粘多糖類2質量部を混合した。得られた混合物に、水350質量部を加えミキサーで混合し、バッター液を調製した。一方、じゃがいも80質量部、牛挽肉15質量部、たまねぎ10質量部、バター1.5質量部、食塩、胡椒少々を用い常法に従って調理し、コロッケの中種を調製した。次に、この中種を冷蔵庫で約3時間冷やした後、20g/個に小分けし、円盤状に成型した。この成型したコロッケの中種に小麦粉を薄くまぶした後、上記のバッター液に浸し、次にパン粉を付け、米サラダ油を用いて170℃で4分間フライし、ビーフコロッケを得た。ビーフコロッケのあら熱を除去した後、-40℃まで急速凍結し、同温度で24時間保存した後、-20℃で48時間保存した。得られた冷凍ビーフコロッケを、家庭用500Wの電子レンジで1分15秒間加熱調理してから喫食した。その結果、油脂粉末1~4を用いて製造した冷凍ビーフコロッケは、いずれも電子レンジ調理加熱後であっても揚げた直後のようなクリスピー感のある食感であった。