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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】ハンマドリル
(51)【国際特許分類】
   B25D 16/00 20060101AFI20231121BHJP
   B25D 11/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B25D16/00
B25D11/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019192328
(22)【出願日】2019-10-21
(65)【公開番号】P2021065961
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105120
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 哲幸
(74)【代理人】
【識別番号】100106725
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 敏行
(74)【代理人】
【識別番号】100125955
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 有三子
(72)【発明者】
【氏名】町田 吉隆
(72)【発明者】
【氏名】吉兼 聖展
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-042887(JP,A)
【文献】特開2016-000447(JP,A)
【文献】特開平03-117572(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0106517(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第00419866(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 16/00
B25D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンマドリルであって、
モータシャフトを有するモータと、
先端工具を取り外し可能に保持するように構成され、駆動軸周りに回転可能に配置された最終出力シャフトと、
前記モータの動力によって、前記先端工具を前記駆動軸に沿って直線状に駆動するハンマ動作、および、前記先端工具を前記駆動軸周りに回転駆動するドリル動作を遂行可能に構成された駆動機構であって、回転運動を直線運動に変換するように構成された運動変換部材を少なくとも含む駆動機構と、
前記モータ、前記最終出力シャフト、および前記駆動機構を収容するハウジングと、
前記ハウジング内で、前記最終出力シャフトと、前記運動変換部材を含む前記駆動機構の少なくとも一部とを支持し、少なくとも1つの弾性部材によって付勢された状態で、前記ハウジングに対して前記駆動軸の軸方向に一体的に移動可能に構成された可動支持体と、
前記ハウジングに対して軸方向に移動不能に支持され、前記モータシャフトの回転に伴って、前記駆動軸に平行な軸周りに回転し、前記ハンマ動作のための動力を前記運動変換部材に伝達するとともに、前記ドリル動作のための動力を前記最終出力シャフトに伝達するように構成された第1中間シャフトと、
前記第1中間シャフトに対して回転可能、且つ、前記軸方向に移動不能に配置され、前記第1中間シャフトと前記運動変換部材との間に介在する介在部材と、
前記第1中間シャフトと一体的に回転可能、且つ、前記第1中間シャフトに対して前記軸方向に移動可能に配置された伝達部材とを備え、
前記伝達部材は、前記介在部材と係合し、前記第1中間シャフトから前記介在部材へ動力を伝達可能な係合位置と、前記介在部材から離間し、前記第1中間シャフトから前記介在部材へ動力を伝達不能な離間位置との間で前記軸方向に移動可能であり、
前記運動変換部材は、前記介在部材と一体的に回転可能、且つ、前記可動支持体と一体的に前記介在部材に対して前記軸方向に移動可能であることを特徴とするハンマドリル。
【請求項2】
ハンマドリルであって、
モータシャフトを有するモータと、
先端工具を取り外し可能に保持するように構成され、駆動軸周りに回転可能に配置された最終出力シャフトと、
前記モータの動力によって、前記先端工具を前記駆動軸に沿って直線状に駆動するハンマ動作、および、前記先端工具を前記駆動軸周りに回転駆動するドリル動作を遂行可能に構成された駆動機構であって、回転運動を直線運動に変換するように構成された運動変換部材を少なくとも含む駆動機構と、
前記モータ、前記最終出力シャフト、および前記駆動機構を収容するハウジングと、
前記ハウジング内で、前記最終出力シャフトと、前記運動変換部材を含む前記駆動機構の少なくとも一部とを支持し、少なくとも1つの弾性部材によって付勢された状態で、前記ハウジングに対して前記駆動軸の軸方向に一体的に移動可能に構成された可動支持体と、
前記ハウジングに対して軸方向に移動不能に支持され、前記モータシャフトの回転に伴って、前記駆動軸に平行な軸周りに回転し、前記ハンマ動作のための動力を前記運動変換部材に伝達するように構成された第1中間シャフトと、
前記ハウジングに対して軸方向に移動不能に支持され、前記第1中間シャフトと平行に延在する第2中間シャフトであって、前記モータシャフトの回転に伴って、前記駆動軸に平行な軸周りに回転し、前記ドリル動作のための動力を前記最終出力シャフトに伝達するように構成された第2中間シャフトと、
前記第1中間シャフトに対して回転可能、且つ、前記軸方向に移動不能に配置され、前記第1中間シャフトと前記運動変換部材との間に介在する介在部材と、
前記第1中間シャフトと一体的に回転可能、且つ、前記第1中間シャフトに対して前記軸方向に移動可能に配置された伝達部材とを備え、
前記伝達部材は、前記介在部材と係合し、前記第1中間シャフトから前記介在部材へ動力を伝達可能な係合位置と、前記介在部材から離間し、前記第1中間シャフトから前記介在部材へ動力を伝達不能な離間位置との間で前記軸方向に移動可能であり、
前記運動変換部材は、前記介在部材と一体的に回転可能、且つ、前記可動支持体と一体的に前記介在部材に対して前記軸方向に移動可能であることを特徴とするハンマドリル。
【請求項3】
請求項1または2に記載のハンマドリルであって、
前記第1中間シャフトは、外周に設けられたスプライン部を有し、
前記伝達部材は、前記第1中間シャフトの前記スプライン部と係合していることを特徴とするハンマドリル。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1つに記載のハンマドリルであって、
前記介在部材は、外周に設けられたスプライン部を有し、
前記運動変換部材は、前記介在部材の前記スプライン部と係合していることを特徴とするハンマドリル。
【請求項5】
請求項に記載のハンマドリルであって、
前記伝達部材は、前記介在部材の前記スプライン部に係合可能な第1スプライン部を有することを特徴とするハンマドリル。
【請求項6】
請求項に記載のハンマドリルであって、
前記第1中間シャフトは、外周に設けられたスプライン部を有し、
前記伝達部材は、前記第1中間シャフトの前記スプライン部と係合する第2スプライン部を有し、
前記第1スプライン部の径は、前記第2スプライン部の径よりも大きいことを特徴とするハンマドリル。
【請求項7】
請求項1~の何れか1つに記載のハンマドリルであって、
前記伝達部材は、前記係合位置に向けて付勢されていることを特徴とするハンマドリル。
【請求項8】
請求項1~の何れか1つに記載のハンマドリルであって、
前記第1中間シャフトと前記介在部材との間の隙間は、前記軸方向において前記伝達部材が配置される側の一部が部分的に小さくなることを特徴とするハンマドリル。
【請求項9】
請求項1、または、請求項1に直接的または間接的に従属する請求項3~8の何れか1つに記載のハンマドリルであって、
前記伝達部材および前記介在部材は、前記ハンマ動作のための動力を伝達または遮断するように構成された第1クラッチ機構を構成し
前記ハンマドリルは、前記第1中間シャフトに設けられ、前記ドリル動作のための動力を伝達または遮断するように構成された第2クラッチ機構を更に備えることを特徴とするハンマドリル。
【請求項10】
請求項2、または、請求項2に直接的または間接的に従属する請求項3~8の何れか1つに記載のハンマドリルであって、
前記伝達部材および前記介在部材は、前記ハンマ動作のための動力を伝達または遮断するように構成された第1クラッチ機構を構成し、
前記ハンマドリルは、前記第2中間シャフトに設けられ、前記ドリル動作のための動力を伝達または遮断するように構成された第2クラッチ機構を更に備えることを特徴とするハンマドリル。
【請求項11】
請求項9または10に記載のハンマドリルであって、
前記ハンマドリルの動作モードを切り替えるための操作部材であって、使用者の手動操作が可能に構成された操作部材を更に備え、
前記第1クラッチ機構および前記第2クラッチ機構は何れも、前記操作部材の操作に応じて、動力伝達状態と遮断状態との間で切り替えられるように構成されていることを特徴とするハンマドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端工具を直線状に駆動する動作、および、先端工具を回転駆動する動作を遂行可能なハンマドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
ハンマドリルは、先端工具を駆動軸に沿って直線状に駆動するハンマ動作、および、先端工具を駆動軸周りに回転駆動するドリル動作を遂行可能に構成されている。一般的に、ハンマドリルには、選択された動作モードに応じて駆動機構における動力の伝達状態を切り替えるための切替機構が設けられている。例えば、特許文献1に開示されているハンマドリルでは、ハンマ動作のための動力は、中間シャフト上に配置された回転伝達部材を介して伝達される。回転伝達部材は、中間シャフト上の軸方向に移動可能に配置されている。そして、回転伝達部材が、回転運動を直線運動に変換するための揺動軸が取り付けられた回転体と係合する位置と、回転体と係合しない位置との間で移動されることで、中間シャフトから回転体への動力伝達状態が切り替えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016―000447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されているハンマドリルでは、駆動機構は、コイルスプリングの付勢力が作用する状態で、ハウジングに対して相対移動可能に支持されている。これにより、駆動機構に生じる振動がハウジングへ伝達することが抑制される。一方で、駆動機構は、ハウジングに支持された中間シャフトおよび回転伝達部材に対しても相対移動するため、回転伝達部材と回転体との係合状態が不安定となる可能性がある。
【0005】
本発明は、かかる状況に鑑み、ハンマドリルの駆動機構における動力の伝達状態の安定化に寄与しうる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、モータと、最終出力シャフトと、駆動機構と、ハウジングと、可動支持体と、可動支持体と、第1中間シャフトと、介在部材と、伝達部材とを備えたハンマドリルが提供される。
【0007】
モータは、モータシャフトを有する。最終出力シャフトは、先端工具を取り外し可能に保持するように構成されている。最終出力シャフトは、駆動軸周りに回転可能に配置されている。駆動機構は、モータの動力によって、ハンマ動作およびドリル動作を遂行可能に構成されている。ハンマ動作とは、先端工具を駆動軸に沿って直線状に駆動する動作である。ドリル動作とは、先端工具を駆動軸周りに回転駆動する動作である。駆動機構は、回転運動を直線運動に変換するように構成された運動変換部材を少なくとも含む。ハウジングは、モータ、最終出力シャフト、および駆動機構を収容する。可動支持体は、ハウジング内で、最終出力シャフトと、運動変換部材を含む駆動機構の少なくとも一部とを支持し、少なくとも1つの弾性部材によって付勢された状態で、ハウジングに対して駆動軸の軸方向に一体的に移動可能に構成されている。
【0008】
第1中間シャフトは、ハウジングに対して軸方向に移動不能に支持されている。第1中間シャフトは、モータシャフトの回転に伴って、駆動軸に平行な軸周りに回転し、少なくとも、ハンマ動作のための動力を運動変換部材に伝達するように構成されている。介在部材は、第1中間シャフトに対して回転可能、且つ、軸方向に移動不能に配置されている。介在部材は、第1中間シャフトと運動変換部材との間に介在する。伝達部材は、第1中間シャフトと一体的に回転可能、且つ、第1中間シャフトに対して軸方向に移動可能に配置されている。更に、伝達部材は、係合位置と離間位置との間で、軸方向に移動可能である。係合位置は、伝達部材が介在部材と係合し、第1中間シャフトから介在部材へ動力を伝達可能な位置である。離間位置は、伝達部材が介在部材から離間し、第1中間シャフトから介在部材へ動力を伝達不能な位置である。運動変換部材は、介在部材と一体的に回転可能、且つ、可動支持体と一体的に介在部材に対して軸方向に移動可能である。
【0009】
本態様のハンマドリルでは、最終出力シャフトと、運動変換部材を含む駆動機構の少なくとも一部とが、可動支持体に支持され、少なくとも1つの弾性部材に付勢された状態で、ハウジングに対して駆動軸の軸方向に一体的に移動可能に構成されている。これにより、駆動機構に生じる振動がハウジングへ伝達することが抑制される。
【0010】
運動変換部材には、伝達部材および介在部材を介して第1中間シャフトの回転が伝達される。運動変換部材への伝達状態は、伝達部材が第1中間シャフト上で係合位置と離間位置との間で軸方向に移動することで、切り替えられる。運動変換部材は、介在部材に対して軸方向に移動可能であるが、介在部材は、第1中間シャフト、ひいてはハウジングに対して軸方向に移動不能である。よって、振動に伴って運動変換部材がハウジングに対して軸方向に移動しても、介在部材と、第1中間シャフト上で係合位置と離間位置の何れかに配置された伝達部材との配置関係に影響を与えることがない。つまり、運動変換部材への動力伝達状態を安定して維持することができる。
【0011】
本発明の一態様において、第1中間シャフトは、外周に設けられたスプライン部を有してもよい。伝達部材は、第1中間シャフトのスプライン部と係合していてもよい。この場合、簡便な構成により、伝達部材を、第1中間シャフトと一体的に回転可能、且つ、第1中間シャフトに対して軸方向に移動可能に配置することができる。
【0012】
本発明の一態様において、介在部材は、外周に設けられたスプライン部を有してもよい。運動変換部材は、介在部材の前記スプライン部と係合していてもよい。この場合、簡便な構成により、運動変換部材を、介在部材と一体的に回転可能、且つ、介在部材に対して軸方向に移動可能に配置することができる。
【0013】
本態様において、伝達部材は、介在部材のスプライン部に係合可能な第1スプライン部を有してもよい。つまり、介在部材のスプライン部は、運動変換部材との係合、および、伝達部材との係合に兼用されてもよい。この場合、簡便且つコンパクトな構成により、部材間の適切な係合を実現することができる。
【0014】
更に、第1中間シャフトは、外周に設けられたスプライン部を有し、伝達部材は、第1中間シャフトのスプライン部と係合する第2スプライン部を有してもよい。そして、第1スプライン部の径は、第2スプライン部の径よりも大きくてもよい。つまり、伝達部材は、第1スプライン部を介して介在部材と係合可能である一方、第2スプライン部を介して第1中間シャフトに係合してもよい。この場合、第1スプライン部を大径とすることで、効率的なトルク伝達を行うことができる。
【0015】
本発明の一態様において、伝達部材は、係合位置に向けて付勢されていてもよい。この場合、トルク伝達中の伝達部材と介在部材との係合状態をより確実に維持することができる。
【0016】
本発明の一態様において、第1中間シャフトと介在部材との間の隙間は、軸方向において伝達部材が配置される側の一部が部分的に小さくなっていてもよい。この場合、伝達部材がよりスムーズに介在部材と係合することが可能となる。
【0017】
本発明の一態様において、伝達部材および介在部材は、ハンマ動作のための動力を伝達または遮断するように構成された第1クラッチ機構を構成してもよい。そして、駆動機構は、ドリル動作のための動力を、第1中間シャフト、または、第1中間シャフトとは別個に設けられた第2中間シャフトから最終出力シャフトに伝達するように構成されていてもよい。ハンマドリルは、第1中間シャフトまたは第2中間シャフトに設けられ、ドリル動作のための動力を伝達または遮断するように構成された第2クラッチ機構を更に備えてもよい。この場合、第1クラッチ機構および第2クラッチ機構を用いて、ハンマ動作のための動力およびドリル動作のための動力を、必要に応じて夫々遮断することが可能となる。
【0018】
本態様において、ハンマドリルは、ハンマドリルの動作モードを切り替えるための操作部材を更に備えてもよい。操作部材は、使用者の手動操作が可能に構成されてもよい。そして、第1クラッチ機構および第2クラッチ機構は何れも、操作部材の操作に応じて、動力伝達状態と遮断状態との間で切り替えられるように構成されてもよい。この場合、使用者は、所望の作業に応じて単一の操作部材を操作し、動作モードを切り替えるだけで、第1クラッチ機構および第2クラッチ機構を動作させることができる。
【0019】
更に、第1中間シャフトは、ハンマ動作およびドリル動作のうち、ハンマ動作の遂行のための伝達のみを行うように構成されていてもよい。第2中間シャフトは、ハンマ動作およびドリル動作のうち、ドリル動作の遂行のための伝達のみを行うように構成されていてもよい。つまり、第1中間シャフトと第2中間シャフトとは、夫々、ハンマ動作のための動力伝達と、ドリル動作のための動力伝達とに特化されていてもよい。そして、第2クラッチ機構は、第2中間シャフトに設けられていてもよい。この場合、第1中間シャフトから第1駆動機構への動力伝達、および、第2中間シャフトから第2駆動機構、ひいては最終出力シャフトへの動力伝達を、夫々に最適化することができる。
【0020】
なお、第1中間シャフトが「ハンマ動作の遂行のための伝達のみを行う」とは、ドリル動作の遂行のための伝達は行わない意であり、ドリル動作の遂行以外を目的とする伝達を行うことが排除されるものではない。同様に、第2中間シャフトが「ドリル動作の遂行のための伝達のみを行う」とは、ハンマ動作の遂行のための伝達は行わない意であり、ハンマ動作の遂行以外を目的とする伝達を行うことが排除されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ハンマドリルの断面図である。
図2】ハンマドリルの部分拡大図である。
図3図2のIII―III線における断面図である。
図4】軸受支持体の変形例の断面図である。
図5図2のV-V線における断面図である。
図6図5のVI-VI線における断面図である。
図7図5のVII-VII線における断面図である。
図8図5のVIII-VIII線における断面図である。
図9図7の部分拡大図である。
図10図8の部分拡大図である。
図11図8に対応する図であって、トルクリミッタの動作の説明図である。
図12】前部ハウジングが外された状態のハンマドリルの部分底面図であって、ハンマドリルモードが選択されたときのモード切替機構を示す。
図13】ハンマモードが選択されたときのモード切替機構を示す図である。
図14】ドリルモードが選択されたときのモード切替機構を示す図である。
図15図5のXVIII-XVIII線における断面図である。
図16図5のXIX-XIX線における断面図である。
図17図5のXX-XX線における断面図である。
図18】基準ガイドシャフトの決定方法の説明図である。
図19】ロックプレートの組み付けの説明図である。
図20】ロックプレートの組み付けの説明図である。
図21】ロックプレートの組み付けの説明図である。
図22図7の部分拡大図である。
図23図22に対応する図であって、空打ち防止機構の動作の説明図である。
図24】緩衝リングの変形例の説明図である。
図25】緩衝リングの変形例の説明図である。
図26】緩衝リングの変形例の説明図である。
図27】緩衝リングの変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、打撃工具の一例として、ハンマドリル101を例示する。ハンマドリル101は、ハツリ作業、穴あけ作業等の加工作業に用いられる手持ち式の電動工具であって、先端工具91を所定の駆動軸A1に沿って直線状に駆動する動作(以下、ハンマ動作という)、および、先端工具91を駆動軸A1周りに回転駆動する動作(以下、ドリル動作という)を遂行可能に構成されている。
【0023】
まず、図1を参照して、ハンマドリル101の概略構成について簡単に説明する。図1に示すように、ハンマドリル101の外郭は、主に、本体ハウジング10と、本体ハウジング10に連結されたハンドル17とによって形成されている。
【0024】
本体ハウジング10は、工具本体または外郭ハウジングとも称される中空体であって、スピンドル31、モータ2、駆動機構5等を収容する。スピンドル31は、長尺の円筒状部材であって、その軸方向の一端部に、先端工具91を取り外し可能に保持するツールホルダ32を備えている。スピンドル31の長軸は、先端工具91の駆動軸A1を規定する。本体ハウジング10は、駆動軸A1に沿って延在する。ツールホルダ32は、駆動軸A1の延在方向(以下、単に駆動軸方向という)における本体ハウジング10の一端部内に配置されている。
【0025】
ハンドル17は、使用者によって把持される長尺状の中空体である。ハンドル17の軸方向の一端部は、駆動軸方向における本体ハウジング10の他端部(ツールホルダ32が配置されているのとは反対側の端部)に連結されている。ハンドル17は、本体ハウジング10の他端部から突出するように、駆動軸A1に交差する方向(詳細には、概ね直交する方向)に延びている。なお、本実施形態では、本体ハウジング10とハンドル17とは、複数の構成部材がネジ等で連結されることで、一体化されている。ハンドル17の突出端からは、外部の交流電源に接続可能な電源ケーブル179が延出されている。ハンドル17は、使用者によって押圧操作(引き操作)されるトリガ171と、トリガ171の押圧操作に応じてオン状態とされるスイッチ172とを有する。
【0026】
ハンマドリル101では、スイッチ172がオン状態とされると、モータ2が通電され、駆動機構5が駆動されて、ハンマ動作および/またはドリル動作が行われる。
【0027】
以下、ハンマドリル101の詳細構成について説明する。なお、以下の説明では、便宜上、駆動軸A1の延在方向(本体ハウジング10の長軸方向)をハンマドリル101の前後方向と規定する。前後方向において、ツールホルダ32が配置されている一端部側をハンマドリル101の前側、反対側(ハンドル17が連結されている側)を後側と規定する。また、駆動軸A1に直交し、且つ、ハンドル17の軸方向に対応する方向をハンマドリル101の上下方向と規定する。上下方向において、本体ハウジング10にハンドル17が連結されている側を上側、ハンドル17の突出端側を下側と規定する。また、前後方向および上下方向に直交する方向を左右方向と規定する。
【0028】
まず、本体ハウジング10の構成について説明する。
【0029】
図1に示すように、本体ハウジング10は、円筒状の前端部を有する。この円筒状の部分を、バレル部131という。本体ハウジング10のうち、バレル部131以外の部分は、概ね矩形箱状に形成されている。バレル部131には、補助ハンドル(図示略)を装着可能である。また、使用者は、ハンドル17に加え、補助ハンドルが装着されていないバレル部131を補助的に把持することも可能である。
【0030】
本体ハウジング10の内部空間は、本体ハウジング10の内部に配置された軸受支持体15によって2つの領域に区画されている。なお、軸受支持体15は、駆動軸A1に交差するように配置されて、本体ハウジング10の内周に嵌め込まれ、本体ハウジング10によって固定状に(本体ハウジング10に対して移動不能に)保持されている。軸受支持体15の後側の領域は、主としてモータ2を収容するための領域である。軸受支持体15の前側の領域は、主としてスピンドル31および駆動機構5を収容するための領域である。以下、本体ハウジング10のうち、モータ2の収容領域に対応する部分を後部ハウジング11といい、スピンドル31および駆動機構5の収容領域に対応する部分(バレル部131を含む)を前部ハウジング13という。
【0031】
後部ハウジング11および前部ハウジング13は、何れも樹脂(プラスチック)製である。後部ハウジング11は、複数の部材が連結されることで形成されている。一方、前部ハウジング13は、単一の筒状部材である。
【0032】
本実施形態では、軸受支持体15も、樹脂(プラスチック)で形成されている。これは、後述する防振構造によって、駆動機構5に生じる振動が、本体ハウジング10や本体ハウジング10に固定状に取り付けられた軸受支持体15へ伝達することが抑制されることから、軸受支持体15には、金属ほどの強度が求められないためである。これにより、軸受支持体15が金属で形成される場合に比べ、ハンマドリル101を軽量化することができる。また、図2に示すように、軸受支持体15は、その外周面の概ね全体が、前部ハウジング13の内周面に接触するように、前部ハウジング13の後端部に嵌め込まれている。
【0033】
詳細は後述するが、軸受支持体15は、各種シャフトの軸受を支持する部材である。よって、本体ハウジング10の内部に嵌め込まれる外周の寸法には、高い精度が求められる。そこで、このような軸受支持体15を金属(例えば、アルミニウム合金)で形成する場合には、寸法精度のために、単一の円をベースとして加工が行われることが好ましい。これに対し、本実施形態では、軸受支持体15を樹脂で形成することで、形状の自由度が高められている。具体的には、図3に示すように、駆動軸A1に直交する平面における軸受支持体15の断面形状は、単一の円ではなく、3つの円をベースとしたものである。よって、軸受支持体15の外周(つまり、本体ハウジング10との接触部)は、単一の円の円周上にはなく、3つの円の夫々の円周上に、軸受支持体15の外周の一部が重なっている。
【0034】
図2に示すように、本体ハウジング10の内周面と接する軸受支持体15の外周面には、環状の溝が形成されている。この溝内には、ゴム製のOリング151が装着されている。駆動機構5が収容された前部ハウジング13内には、潤滑剤が配される。Oリング151は、本体ハウジング10と軸受支持体15との間の隙間を塞ぐシール部材として機能し、潤滑剤が、本体ハウジング10と軸受支持体15との間の隙間を通って後部ハウジング11内へ漏れ出るのを防止することができる。なお、シール部材として、軸受支持体15とは別個のOリング151に代えて、例えば、図4に示すように、熱可塑性エラストマ製の弾性体152が、樹脂の軸受支持体15の外周に一体成形されていてもよい。この場合、本体ハウジング10に対し、弾性体152付の軸受支持体15を容易に組み付けることができる。
【0035】
また、図3および図5に示すように、軸受支持体15には、前部ハウジング13内の圧力を後部ハウジング11内の圧力と一致するように調整すべく、前部ハウジング13の内部空間と、後部ハウジング11の内部空間とを連通するエア抜き穴153が設けられている。なお、エア抜き穴153内には、潤滑油がエア抜き穴153を通じて後部ハウジング11内に漏出することを防止するフィルタ154が嵌め込まれている(図17参照)。
【0036】
以下、本体ハウジング10の内部構造について説明する。
【0037】
まず、モータ2について説明する。本実施形態では、モータ2として、外部の交流電源から供給された電力で駆動される交流モータが採用されている。図1に示すように、モータ2は、ネジによって後部ハウジング11に固定されている。モータ2は、ステータおよびロータを含む本体部20と、ロータと一体的に回転するように構成されたモータシャフト25とを備える。本実施形態では、モータシャフト25の回転軸A2は、駆動軸A1よりも下側で、駆動軸A1と平行に延在する。駆動軸A1および回転軸A2を含む仮想的な平面VP(以下、基準面VPという)(図3および図5参照)は、ハンマドリル101の上下方向に延在する。
【0038】
モータシャフト25は、2つの軸受251および252を介して、本体ハウジング10に対して回転軸A2周りに回転可能に支持されている。前側の軸受251は、軸受支持体15の後面側に保持されており、後側の軸受252は、後部ハウジング11(詳細には、後部ハウジング11内でモータ2を収容するインナハウジング)に保持されている。モータシャフト25のうち、本体部20と前側の軸受251との間の部分には、モータ2を冷却するためのファン27が固定されている。モータシャフト25の前端部は、軸受支持体15を貫通し、前部ハウジング13内に突出している。この前部ハウジング13内に突出する部分には、ピニオンギヤ255が固定されている。
【0039】
次に、モータシャフト25から駆動機構5への動力伝達経路について説明する。
【0040】
図5および図6に示すように、本実施形態では、ハンマドリル101は、2本の中間シャフト(第1中間シャフト41および第2中間シャフト42)を備えている。そして、駆動機構5は、第1中間シャフト41から伝達された動力によってハンマ動作を遂行し、第2中間シャフト42から伝達された動力によってドリル動作を遂行するように構成されている。つまり、第1中間シャフト41は、ハンマ動作のための動力伝達専用のシャフトである。第2中間シャフト42は、ドリル動作のための動力伝達専用のシャフトである。
【0041】
第1中間シャフト41および第2中間シャフト42は何れも、前部ハウジング13内で、駆動軸A1および回転軸A2に平行に延在する。第1中間シャフト41は、2つの軸受411および412を介して、本体ハウジング10に対して回転軸A3周りに回転可能に支持されている。前側の軸受411は、前部ハウジング13に保持されており、後側の軸受412は、軸受支持体15の前面側に保持されている。同様に、第2中間シャフト42は、2つの軸受421および422を介して、本体ハウジング10に対して回転軸A4周りに回転可能に支持されている。前側の軸受421は、前部ハウジング13に保持されており、後側の軸受422は、軸受支持体15の前面側に保持されている。上述のように、モータシャフト25の軸受251も軸受支持体15に支持されているため、モータシャフト25、第1中間シャフト41および第2中間シャフト42の間の高精度な配置関係を実現することができる。
【0042】
第1中間シャフト41は、基準面VPに対して右側に配置されている。第2中間シャフト42は、基準面VPに対して左側に配置されている。これにより、第1中間シャフト41および第2中間シャフト42が左側または右側に偏って配置される場合に比べ、左右方向の重量バランスをよくすることができる。
【0043】
また、駆動軸A1に直交する平面上において、モータシャフト25の回転軸A2と第1中間シャフト41の回転軸A3とを結ぶ線分と、回転軸A2と第2中間シャフト42の回転軸A4とを結ぶ線分とがなす角は、鈍角である。このような配置により、モータシャフト25のピニオンギヤ255には、第1被動ギヤ414および第2被動ギヤ424が、概ね反対方向から噛合することになる。これにより、ピニオンギヤ255に、特定の1方向の曲げ荷重がかかるのを抑制することができる。また、第1被動ギヤ414および第2被動ギヤ424がピニオンギヤ255を中心として一直線上に並ぶ場合に比べ、駆動機構5全体がその直線の方向に大型化することを抑制しつつ、第1中間シャフト41および第2中間シャフト42上に、必要な部品を合理的に配置することができる。
【0044】
第1中間シャフト41の後端部には、軸受412の前側に隣接して、第1被動ギヤ414が固定されている。第1被動ギヤ414は、ピニオンギヤ255に噛合している。
【0045】
第2中間シャフト42の後端部には、軸受422の前側に隣接して、第2被動ギヤ424を有するギヤ部材423が配置されている。なお、ギヤ部材423は、円筒状に形成され、第2中間シャフト42(詳細には、後述の駆動側部材74)の外周側に配置されている。なお、ギヤ部材423の円筒状の前端部の外周には、スプライン部425が設けられている。スプライン部425は、回転軸A4方向(前後方向)に延在する複数のスプライン(外歯)を有する。詳細は後述するが、第2被動ギヤ424(ギヤ部材423)の回転は、第2伝達部材72およびトルクリミッタ73を介して第2中間シャフト42に伝達される。
【0046】
このように、本実施形態では、モータシャフト25から分岐する2つの動力伝達経路が設けられており、これらの経路の夫々が、ハンマ動作専用の動力伝達経路およびドリル動作専用の動力伝達経路として用いられる。
【0047】
スピンドル31について説明する。スピンドル31は、ハンマドリル101の最終出力シャフトである。図2に示すように、スピンドル31は、駆動軸A1に沿って、前部ハウジング13内に配置され、本体ハウジング10に対して駆動軸A1周りに回転可能に支持されている。スピンドル31は、長尺状の段付きの円筒部材として構成されている。
【0048】
スピンドル31の前半部分は、先端工具91を着脱可能なツールホルダ32を構成する。先端工具91は、その長軸が駆動軸A1と一致するように、ツールホルダ32の前端部のビット挿入孔330に挿入され、ツールホルダ32に対する軸方向の移動が許容され、軸周りの回転が規制された状態で保持される。スピンドル31の後半部分は、後述するピストン65を摺動可能に保持するシリンダ33を構成する。本実施形態では、スピンドル31は、ツールホルダ32とシリンダ33とが一体的に形成された単一部材であるが、複数の部材が連結されることで形成されていてもよい。なお、スピンドル31は、鉄(または鉄を主成分とする合金)で形成されている。スピンドル31は、バレル部131内で保持された軸受316と、後述の可動支持体18に保持された軸受317によって支持されている。
【0049】
以下、駆動機構5について説明する。図6図8に示すように、本実施形態では、駆動機構5は、打撃機構6と、回転伝達機構7とを含む。打撃機構6は、ハンマ動作を遂行するための機構であって、第1中間シャフト41の回転運動を直線運動に変換し、先端工具91を駆動軸A1に沿って直線状に駆動するように構成されている。回転伝達機構7は、ドリル動作を遂行するための機構であって、第2中間シャフト42の回転運動をスピンドル31に伝達し、先端工具91を駆動軸A1周りに回転駆動するように構成されている。以下、打撃機構6および回転伝達機構7の詳細構成について、順に説明する。
【0050】
本実施形態では、図6および図7に示すように、打撃機構6は、運動変換部材61と、ピストン65と、ストライカ67と、インパクトボルト68とを含む。
【0051】
運動変換部材61は、第1中間シャフト41上に配置され、第1中間シャフト41の回転運動を直線運動に変換してピストン65に伝達するように構成されている。より詳細には、運動変換部材61は、回転体611と、揺動部材616とを含む。回転体611は、軸受614によって、本体ハウジング10に対して回転軸A3周りに回転可能に支持されている。揺動部材616は、回転体611の外周に回転可能に取り付けられ、回転体611の回転に伴って、回転軸A3の延在方向(前後方向)に揺動するように構成されている。揺動部材616は、回転体611から上方に延びるアーム部617を有する。
【0052】
ピストン65は、有底円筒状の部材であって、スピンドル31のシリンダ33内に、駆動軸A1に沿って摺動可能に配置されている。ピストン65は、連結ピンを介して揺動部材616のアーム部617に連結されており、揺動部材616の揺動に伴って前後方向に往復動される。
【0053】
ストライカ67は、先端工具91に打撃力を加えるための打撃子である。ストライカ67は、ピストン65内に、駆動軸A1に沿って摺動可能に配置されている。ストライカ67の後側のピストン65の内部空間は、空気バネとして機能する空気室として規定されている。インパクトボルト68は、ストライカ67の運動エネルギを先端工具91に伝達する中間子である。インパクトボルト68は、ツールホルダ32内で、ストライカ67の前側に、駆動軸A1に沿って移動可能に配置されている。なお、本実施形態では、インパクトボルト68は、ツールホルダ32内に配置されたガイドスリーブ36および規制リング35によって、前後方向に摺動可能に保持されている。
【0054】
揺動部材616の揺動に伴って、ピストン65が前後方向に移動されると、空気室の空気の圧力が変動し、空気バネの作用によってストライカ67がピストン65内を前後方向に摺動する。より詳細には、ピストン65が前方に向けて移動されると、空気室の空気が圧縮されて内圧が上昇する。ストライカ67は、空気バネの作用で高速に前方に押し出されてインパクトボルト68を打撃する。インパクトボルト68は、ストライカ67の運動エネルギを先端工具91に伝達する。これにより、先端工具91は駆動軸A1に沿って直線状に駆動される。一方、ピストン65が後方へ移動されると、空気室の空気が膨張して内圧が低下し、ストライカ67が後方へ引き込まれる。先端工具91は、被加工物への押し付けにより、インパクトボルト68と共に後方へ移動する。このようにして、打撃機構6によってハンマ動作が繰り返される。
【0055】
本実施形態では、第1中間シャフト41の回転運動は、第1伝達部材64および介在部材63を介して運動変換部材61(詳細には、回転体611)に伝達される。以下、介在部材63および第1伝達部材64について、順に説明する。
【0056】
図6および図9に示すように、介在部材63は、第1中間シャフト41と同軸状に、第1中間シャフト41の周囲に配置され、第1中間シャフト41と運動変換部材61(詳細には、回転体611)との間に介在する円筒状の部材である。介在部材63は、第1中間シャフト41に対して前後方向に移動不能である一方、第1中間シャフト41に対して回転軸A3周りには回転可能である。
【0057】
より詳細には、第1中間シャフト41の前端部(前側の軸受411後側に隣接する部分)は、最大の外径を有する最大径部として構成されている。最大径部の外周には、スプライン部416が設けられている。スプライン部416は、回転軸A3方向(前後方向)に延在する複数のスプライン(外歯)を有する。介在部材63は、スプライン部416と、第1中間シャフト41の後端部に固定された第1被動ギヤ414との間に、前後方向に移動不能に保持されている。なお、第1中間シャフト41のうち、スプライン部416の後側に隣接する部分は、それより更に後側の部分に比べて僅かに大きい外径を有する大径部417として構成されている。
【0058】
また、介在部材63の外周には、介在部材63の概ね全長に亘るスプライン部631が設けられている。スプライン部631は、回転軸A3方向(前後方向)に延在する複数のスプライン(外歯)を有する。なお、介在部材63のスプライン部631の径は、第1中間シャフト41のスプライン部416の径よりも大きい。
【0059】
一方、回転体611の内周には、スプライン部612が形成されている。スプライン部612は、スプライン部631に係合するスプライン(内歯)を有する。介在部材63は、回転体611と常にスプライン係合しており、回転体611によって保持されている。このような構成により、回転体611は、介在部材63および第1中間シャフト41に対して回転軸A3方向(前後方向)に移動可能、且つ、介在部材63と一体的に回転可能とされている。
【0060】
第1伝達部材64は、第1中間シャフト41上に配置され、第1中間シャフト41と一体的に回転可能、且つ、第1中間シャフト41および介在部材63に対して回転軸A3方向(前後方向)に移動可能に構成されている。
【0061】
より詳細には、第1伝達部材64は、第1中間シャフト41の周囲に配置された略円筒状の部材であって、第1伝達部材64の内周には、第1スプライン部641と、第2スプライン部642とが設けられている。
【0062】
第1スプライン部641は、第1伝達部材64の後端部に設けられている。第1スプライン部641は、介在部材63のスプライン部631に係合可能な複数のスプライン(内歯)を有する。なお、上述のように、介在部材63のスプライン部631は、回転体611のスプライン部612とも係合している。つまり、スプライン部631は、回転体611および第1伝達部材64の2つの部材との係合に有効に利用されている。第2スプライン部642は、第1伝達部材64の前半部分に設けられている。第2スプライン部642は、第1中間シャフト41のスプライン部416に常に係合する複数のスプライン(内歯)を有する。
【0063】
このような構成により、図9に実線で示すように、前後方向において、第1スプライン部641が介在部材63のスプライン部631と係合する位置(以下、係合位置という)に配置されている場合、第1伝達部材64は、介在部材63と一体的に回転可能、つまり、第1中間シャフト41から介在部材63へ動力を伝達可能である。本実施形態では、第1スプライン部641の径は、第2スプライン部642の径よりも大きい。このように、第1スプライン部641を大径とすることで、効率的なトルク伝達を行うことができる。
【0064】
一方、図9に点線で示すように、第1スプライン部641がスプライン部631から離間する(係合不能な)位置(以下、離間位置という)に配置されている場合、第1伝達部材64は、第1中間シャフト41から介在部材63への動力伝達を不能とする(遮断する)。
【0065】
なお、第1中間シャフト41のうち、大径部417の径は、介在部材63の内径よりも僅かに小さく設定されている。このため、介在部材63の内周と、第1中間シャフト41の大径部417の外周との間の隙間は微小である。これにより、第1伝達部材64が離間位置から係合位置へ移動するときに、第2スプライン部642とスプライン部631とのスムーズな係合を実現することができる。一方、介在部材63の内周と、大径部417以外の部分の外周との間には、より大きな隙間が確保されている。これにより、第1中間シャフト41から介在部材63への動力伝達が遮断されているときに、第1中間シャフト41と介在部材63との共回りをより確実に抑制することができる。
【0066】
以上に説明したように、本実施形態では、第1伝達部材64および介在部材63は、ハンマ動作のための動力を伝達または遮断する第1クラッチ機構62として機能する。なお、本実施形態では、第1伝達部材64は、モード切替機構80(図12参照)に接続されており、使用者によるモード切替ダイヤル800(図2参照)の操作に応じて係合位置と離間位置の間で移動される。つまり、第1クラッチ機構62は、モード切替ダイヤル800の操作に応じて、動力伝達状態と遮断状態の間で切り替えられる。なお、モード切替機構80については、後で詳述する。
【0067】
図8に示すように、本実施形態では、回転伝達機構7は、駆動ギヤ78と、被動ギヤ79とを含む。駆動ギヤ78は、第2中間シャフト42の前端部(前側の軸受421の後側に隣接する部分)に固定されている。被動ギヤ79は、スピンドル31のシリンダ33の外周に固定され、駆動ギヤ78に噛合している。駆動ギヤ78および被動ギヤ79は、ギヤ減速機構を構成する。第2中間シャフト42と一体的に駆動ギヤ78が回転するのに伴って、被動ギヤ79と一体的にスピンドル31が回転される。これにより、ツールホルダ32に保持された先端工具91が駆動軸A1周りに回転駆動されるドリル動作が遂行される。
【0068】
なお、上述のように、本実施形態では、モータシャフト25の回転に伴って回転される第2被動ギヤ424の回転運動は、第2伝達部材72およびトルクリミッタ73を介して第2中間シャフト42に伝達される。以下、トルクリミッタ73および第2伝達部材72について、順に説明する。
【0069】
図6および図10に示すように、トルクリミッタ73は、第2中間シャフト42上に配置され、第2中間シャフト42に作用するトルクが閾値を超える場合、伝達を遮断するように構成された安全クラッチ機構である。本実施形態では、トルクリミッタ73は、駆動側部材74と、被動側部材75と、ボール76と、付勢バネ77とを含む。
【0070】
駆動側部材74は、円筒状の部材であって、第2中間シャフト42の後半部分によって回転可能に支持されている。第2被動ギヤ424は、駆動側部材74の後端部によって回転可能に支持されている。よって、駆動側部材74は、第2中間シャフト42および第2被動ギヤ424に対して回転軸A4周りに回転可能である。
【0071】
駆動側部材74は、カム凹部742(図11参照)とスプライン部743とを含む。カム凹部742は、駆動側部材74の前端に設けられており、周方向に傾斜するカム面を有する。スプライン部743は、カム凹部742の後側で駆動側部材74の外周に設けられており、回転軸A4方向(前後方向)に延在する複数のスプライン(外歯)を有する。
【0072】
被動側部材75は、円筒状の部材であって、駆動側部材74の前側で、第2中間シャフト42の周囲に配置されている。被動側部材75の内周には、回転軸A4方向(前後方向)に延在する溝751が周方向に複数設けられている。また、第2中間シャフト42の外周には、回転軸A4方向(前後方向)に延在する溝426が周方向に複数設けられている。ボール76は、溝426と溝751とによって規定される軌道内に、転動可能に収容されている。これにより、被動側部材75は、径方向および周方向において、ボール76を介して第2中間シャフト42と係合し、第2中間シャフト42と一体的に回転可能とされている。また、被動側部材75は、ボール76が軌道内を転動可能な範囲で、第2中間シャフト42に対して前後方向に移動可能である。
【0073】
被動側部材75は、後端に設けられたカム突起752(図11参照)を有する。カム突起752は、駆動側部材74のカム凹部742に概ね整合する形状を有し、周方向に傾斜するカム面を有する。付勢バネ77は、圧縮コイルバネであって、駆動ギヤ78と被動側部材75の間に、圧縮された状態で配置されている。このため、付勢バネ77は、被動側部材75を、駆動側部材74に近接する方向、つまり、カム突起752とカム凹部742とが噛合う方向(後方)に常に付勢している。カム突起752とカム凹部742とが噛合い係合している場合、駆動側部材74から被動側部材75へのトルク伝達、ひいては第2中間シャフト42の回転が可能となる。なお、駆動側部材74およびギヤ部材423は、被動側部材75を介して後方に付勢され、第2中間シャフト42に対して最後方位置で保持されている。
【0074】
第2中間シャフト42の回転中に、先端工具91がロックする等の理由で、ツールホルダ32(スピンドル31)を介して第2中間シャフト42に閾値以上の負荷がかかると、図11に示すように、カム突起752とカム凹部742の噛み合い係合が解除される。より詳細には、カム突起752およびカム凹部742のカム面(傾斜面)の作用により、付勢バネ77の付勢力に抗して、カム突起752がカム凹部742から離脱して駆動側部材74の前端面に乗り上げる。つまり、被動側部材75は、駆動側部材74から離間する方向(前方)に移動する。このとき、第2中間シャフト42との間で転動するボール76に案内され、被動側部材75は前方へスムーズに移動することができる。この結果、駆動側部材74から被動側部材75へのトルク伝達が遮断され、第2中間シャフト42の回転が中断される。
【0075】
図6および図10に示すように、第2伝達部材72は、第2中間シャフト42上に配置され、トルクリミッタ73の駆動側部材74と一体的に回転可能、且つ、駆動側部材74およびギヤ部材423に対して回転軸A4方向(前後方向)に移動可能に構成されている。
【0076】
より詳細には、第2伝達部材72は、駆動側部材74の周囲に配置された略円筒状の部材であって、第2伝達部材72の内周には、第1スプライン部721と、第2スプライン部722とが設けられている。第1スプライン部721は、第2伝達部材72の前半部分に設けられている。第1スプライン部721は、駆動側部材74のスプライン部743に常に係合する複数のスプライン(内歯)を有する。第2スプライン部722は、第2伝達部材72の後端部に設けられており、第1スプライン部721よりも大きい内径を有する。第2スプライン部722は、ギヤ部材423のスプライン部425に係合可能な複数のスプライン(内歯)を有する。
【0077】
このような構成により、図10に実線で示すように、前後方向において、第2スプライン部722がギヤ部材423のスプライン部425と係合する位置(以下、係合位置という)に配置されている場合、第2伝達部材72は、ギヤ部材423と一体的に回転可能である。よって、第2伝達部材72にスプライン係合された駆動側部材74も、ギヤ部材423と一体的に回転可能である。一方、図10に点線で示すように、第2スプライン部722がスプライン部425から離間する(係合不能な)位置(以下、離間位置という)に配置されている場合、第2伝達部材72は、ギヤ部材423から駆動側部材74への動力伝達を不能とする(遮断する)。
【0078】
以上に説明したように、本実施形態では、第2伝達部材72およびギヤ部材423は、ドリル動作のための動力を伝達または遮断する第2クラッチ機構71として機能する。なお、本実施形態では、第2伝達部材72は、第1伝達部材64と同様、モード切替機構80(図12参照)に接続されており、使用者によるモード切替ダイヤル800(図2参照)の操作に応じて係合位置と離間位置の間で移動される。つまり、第2クラッチ機構71も、第1クラッチ機構62と同様、モード切替ダイヤル800の操作に応じて、動力伝達状態と遮断状態の間で切り替えられる。
【0079】
以下、モード切替ダイヤル800およびモード切替機構80について説明する。
【0080】
図12図14に示すように、モード切替機構80は、モード切替ダイヤル800に連動して、ハンマドリル101の動作モードを切り替えるように構成された機構である。本実施形態では、ハンマドリル101は、ハンマドリルモード、ハンマモード、およびドリルモードの3つの動作モードを有する。ハンマドリルモードは、打撃機構6および回転伝達機構7の両方が駆動されることで、ハンマ動作およびドリル動作が行われる動作モードである。ハンマモードは、第2クラッチ機構71によってドリル動作のための動力伝達が遮断され、打撃機構6のみが駆動されることで、ハンマ動作のみが行われる動作モードである。ドリルモードは、第1クラッチ機構62によってハンマ動作のための動力伝達が遮断され、回転伝達機構7のみが駆動されることで、ドリル動作のみが行われる動作モードである。
【0081】
図2および図12図14に示すように、モード切替ダイヤル800は、本体ハウジング10(詳細には、前部ハウジング13)の下端部に、使用者による外部操作が可能に設けられている。モード切替ダイヤル800は、摘みを有する円盤状の操作部801と、操作部801から突出する第1ピン803および第2ピン805とを含む。
【0082】
操作部801は、本体ハウジング10によって、上下方向に延在する回動軸周りに回動可能に保持されている。操作部801の一部は、本体ハウジング10(前部ハウジング13)の下壁に形成された開口部から部分的に外部へ露出し、使用者による回動操作が可能とされている。なお、モード切替ダイヤル800には、ハンマドリルモード、ハンマモード、およびドリルモードに夫々対応する回動位置が定められている。使用者は、モード切替ダイヤル800を所望の動作モードに対応する回動位置に配置することで、動作モードを設定することができる。第1ピン803および第2ピン805は、操作部801の上面から上方に突出している。第1ピン803および第2ピン805は、モード切替ダイヤル800の回動にともなって、操作部801の回動軸を中心とする円周上を移動する。
【0083】
モード切替機構80は、第1切替部材81と、第2切替部材82と、第1バネ83と、第2バネ84とを含む。
【0084】
第1切替部材81は、一対の支持孔(図示略)を有し、支持孔に挿通された支持シャフト88によって、前後方向に移動可能に支持されている。支持シャフト88は、軸受支持体15に固定され、軸受支持体15から前方に突出するシャフトである。支持シャフト88は、第1中間シャフト41および第2中間シャフト42と平行に延在している。支持シャフト88の軸方向の中央部には、止め輪881が固定されている。第1切替部材81は、止め輪881の前側に支持されている。第2切替部材82は、一対の支持孔(図示略)を有し、支持孔に挿通された支持シャフト88によって、止め輪881の後側で、前後方向に移動可能に支持されている。
【0085】
第1切替部材81および第2切替部材82は、夫々、第1伝達部材64および第2伝達部材72に係合している。より詳細には、第1伝達部材64および第2伝達部材72の外周には、夫々、環状の溝645および725が設けられている。第1切替部材81は、溝645内に配置された板状の第1係合部813(図14参照)を介して、第1伝達部材64と係合している。同様に、第2切替部材82は、溝725内に配置された板状の第2係合部823(図10参照)を介して、第2伝達部材72と係合している。なお、第1伝達部材64および第2伝達部材72は、夫々、第1係合部813および第2係合部823が溝645および725に係合した状態で、第1切替部材81および第2切替部材82に対して回転可能である。
【0086】
第1バネ83は、圧縮コイルバネであって、前部ハウジング13と第1切替部材81との間に圧縮された状態で配置され、第1切替部材81を常に後方へ付勢している。これにより、第1切替部材81に係合された第1伝達部材64も、常に後方の係合位置に向けて付勢されている。第2バネ84は、圧縮コイルバネであって、支持シャフト88に固定された止め輪881と第2切替部材82との間に圧縮された状態で配置され、第2切替部材82を常に後方へ付勢している。これにより、第2切替部材82に係合された第2伝達部材72も、常に後方の係合位置に向けて付勢されている。なお、第1切替部材81の最後方位置は、第1切替部材81が止め輪881に当接する位置である。第2切替部材82の最後方位置は、第2切替部材82が軸受支持体15の前面に当接する位置である。
【0087】
モード切替ダイヤル800が、図12に示すハンマドリルモードに対応する回動位置(以下、ハンマドリル位置という)に配置されている場合、第1ピン803は、最後方位置に配置された第1切替部材81の後方に隣接する位置に配置され、第2ピン805は、最後方位置に配置された第2切替部材82の後方に隣接する位置に配置される。このとき、第1伝達部材64は、第2スプライン部642が介在部材63のスプライン部631と係合する係合位置に配置され(図9参照)、第1クラッチ機構62は、動力伝達状態に置かれる。また、第2伝達部材72は、第2スプライン部722がギヤ部材423のスプライン部425と係合する係合位置に配置され(図10参照)、第2クラッチ機構71も、動力伝達状態に置かれる。
【0088】
モータ2が通電されると、モータシャフト25から第1中間シャフト41を介して打撃機構6に動力が伝達され、ハンマ動作が遂行される。これと同時に、モータシャフト25から第2中間シャフト42を介して回転伝達機構7に動力が伝達され、ドリル動作も遂行される。
【0089】
モード切替ダイヤル800が、図12に示すハンマドリル位置から、図13に示すハンマモードに対応する回動位置(以下、ハンマ位置という)まで回動操作されると、第2ピン805は、第2切替部材82に後方から当接した状態で時計回り方向に移動しつつ、第2バネ84の付勢力に抗して第2切替部材82を前方へ移動させる。モード切替ダイヤル800がハンマ位置に配置されると、第2切替部材82は最前方位置に配置される。第2切替部材82の移動に伴って、第2伝達部材72は係合位置から離間位置へ移動され(図10参照)、第2クラッチ機構71は遮断状態に切り替えられる。
【0090】
一方、第1ピン803は、第1切替部材81にも第2切替部材82にも干渉することなく、底面視で時計回り方向に移動し、第1切替部材81および第2切替部材82から離間した位置に配置される。よって、この間、第1切替部材81および第1伝達部材64は移動せず、第1クラッチ機構62は、動力伝達状態のまま維持される。
【0091】
モータ2が通電されても、モータシャフト25から第2中間シャフト42には動力が伝達されないため、ドリル動作は遂行されない。一方、モータシャフト25から第1中間シャフト41を介して打撃機構6には動力が伝達されるため、ハンマ動作のみが遂行されることになる。
【0092】
モード切替ダイヤル800が、図12に示すハンマドリル位置から、図14に示すドリルモードに対応する回動位置(以下、ドリル位置という)まで回動操作されると、第1ピン803は、第1切替部材81に後方から当接し、底面視で操作部801の回動軸を中心に反時計回り方向に移動しつつ、第1バネ83の付勢力に抗して第1切替部材81を前方へ移動させる。モード切替ダイヤル800がドリル位置に配置されると、第1切替部材81は最前方位置に配置される。第1切替部材81の移動に伴って、第1伝達部材64は係合位置から離間位置へ移動され(図9参照)、第1クラッチ機構62は遮断状態に切り替えられる。
【0093】
一方、第2ピン805は、第1切替部材81にも第2切替部材82にも干渉することなく、底面視で操作部801の回動軸を中心に反時計回り方向に移動し、第2切替部材82に隣接する位置に配置される。よって、この間、第2切替部材82および第2伝達部材72は移動せず、第2クラッチ機構71は、動力伝達状態のまま維持される。
【0094】
モータ2が通電されても、第1中間シャフト41から運動変換部材61には動力が伝達されないため、ハンマ動作は遂行されない。一方、モータシャフト25から第2中間シャフト42を介して回転伝達機構7には動力が伝達されるため、ドリル動作のみが遂行されることになる。
【0095】
以上に説明したように、本実施形態のハンマドリル101は、駆動軸A1に平行に延在し、ハンマ動作およびドリル動作のための動力伝達を夫々行う2本の別個の中間シャフト(第1中間シャフト41および第2中間シャフト42)を備える。よって、ハンマ動作およびドリル動作のための動力伝達に、1本の共通の中間シャフトが採用される場合に比べ、第1中間シャフト41および第2中間シャフト42を短尺化することができる。これにより、ハンマドリル101全体の駆動軸方向の短尺化を実現することができる。更に、第1中間シャフト41および第2中間シャフト42を短尺化することで、ハンマドリル101の重心を、本体ハウジング10の後端部に連結されたハンドル17に近づけ、操作性を向上させることができる。
【0096】
更に、第1中間シャフト41と第2中間シャフト42とは、夫々、ハンマ動作のための動力伝達と、ドリル動作のための動力伝達とに特化されている。つまり、ハンマ動作専用の動力伝達経路およびドリル動作専用の動力伝達経路が、直列ではなく、並列に設けられる。よって、第1中間シャフト41から第1駆動機構への動力伝達、および、第2中間シャフト42から第2駆動機構、ひいては最終出力シャフトとしてのスピンドル31への動力伝達を、夫々に最適化することができる。
【0097】
また、ハンマ動作専用の第1中間シャフト41には、運動変換部材61が搭載されるため、ある程度の長さが必要となる。これに対し、ドリル動作専用の第2中間シャフト42に搭載される駆動ギヤ78には、それほどの長さは必要とならない。このため、本実施形態では、第2中間シャフト42上に生じるスペースを有効利用して、トルクリミッタ73が配置されている。第2中間シャフト42は、最終出力シャフトとしてのスピンドル31よりも伝達トルクが低い。このため、スピンドル31に搭載されるトルクリミッタに比べ、より小型で軽量なトルクリミッタ73を採用することができる。また、本実施形態のトルクリミッタ73は、トルクリミッタ73の動作時には、ボール76が転動しつつ、被動側部材75を回転軸A4方向に案内することができる。これにより、被動側部材75と第2中間シャフト42との間の摩擦を低減させ、動作トルクを安定化させることができる。
【0098】
また、本実施形態では、第1中間シャフト41および第2中間シャフト42には、夫々、第1クラッチ機構62および第2クラッチ機構71が設けられている。よって、ハンマ動作のための動力およびドリル動作のための動力を、必要に応じて夫々遮断することが可能となる。更に、第1クラッチ機構62および第2クラッチ機構71は何れも、同じ操作部材(モード切替ダイヤル800)の操作に応じて、動力伝達状態と遮断状態との間で切り替えられる。よって、使用者は、所望の作業に応じてモード切替ダイヤル800を操作し、動作モードを切り替えるだけで、第1クラッチ機構62および第2クラッチ機構71を動作させることができる。
【0099】
ところで、図6および図12図14に示すように、ハンマドリル101には、ハンマモードにおいて、第2中間シャフト42の回転を規制するように構成されたロックプレート45が設けられている。これは、ハンマ動作中にツールホルダ32に保持された先端工具91が自由に回転しないようにするためである。
【0100】
ロックプレート45は、離間位置に配置された第2伝達部材72に係合し、第2伝達部材72の回転を規制するように構成されている。ロックプレート45は、金属製の長尺部材である。ロックプレート45は、付勢バネ46によって後方へ付勢された状態で、前部ハウジング13内に設けられたリブ137(図5および図15図17に一部のみ図示)によって、前後方向に摺動可能に保持されている。なお、付勢バネ46は、圧縮コイルバネであって、前端部が、前部ハウジング13内に設けられた凹部138(図15図17参照)内に配置されている。
【0101】
ロックプレート45は、バネ受け部451と、当接部453と、係止部455とを含む。バネ受け部451は、ロックプレート45の前端部に設けられた突起であって、付勢バネ46の後端部に挿入されている。当接部453は、トルクリミッタ73および第2伝達部材72の径方向外側で、前部ハウジング13の内周面に沿って後方に延在する部分である。ロックプレート45は、付勢バネ46によって後方へ付勢され、当接部453の後端面が、軸受支持体15の前面から前方へ突出する突起157の前端面に当接する位置(初期位置)で保持されている。係止部455は、第2伝達部材72の前側に配置される略矩形状の部分である。一方、第2伝達部材72の前端部には、複数の凹部727が設けられている。凹部727は、第2伝達部材72の前端から後方へ凹む略矩形状の凹部であって、周方向に等間隔で設けられている。
【0102】
上述のように、ハンマドリルモードおよびドリルモードでは、第2伝達部材72は、係合位置に配置される。このとき、図12および図14に示すように、ロックプレート45の係止部455は、第2伝達部材72から前方へ離間した位置にある。よって、第2伝達部材72は、ロックプレート45の干渉を受けることなく、第1被動ギヤ414と共に回転可能である。
【0103】
一方、図13に示すように、ハンマモードにおいては、第2伝達部材72が、係合位置よりも前方の離間位置に配置され、ロックプレート45の係止部455は、第2伝達部材72の複数の凹部727のうちの1つに係合する。これにより、第2伝達部材72の回転が規制されるため、駆動側部材74、被動側部材75、第2中間シャフト42の回転も規制される。そして、駆動ギヤ78、被動ギヤ79を介してスピンドル31の回転も規制されることになる。
【0104】
なお、係合位置から離間位置への第2伝達部材72の移動過程において、係止部455が凹部727と対向していない場合には、第2伝達部材72の前端面が係止部455に当接し、付勢バネ46の付勢力に抗してロックプレート45を前方へ移動させる。その後、先端工具91が回転され、スピンドル31、第2中間シャフト42を介して、係止部455と凹部727とが対向する位置まで第2伝達部材72が回転されると、付勢バネ46に付勢されてロックプレート45が後方へ移動し、係止部455が凹部727に係合することになる。
【0105】
ところで、本実施形態では、ハンマドリル101は、駆動機構5の駆動に伴って生じる振動(特に、駆動軸方向(前後方向)の振動)が本体ハウジング10およびハンドル17に伝達されるのを抑制するように構成されている。以下、ハンマドリル101の防振構造について説明する。
【0106】
本実施形態では、図2に示すように、スピンドル31および打撃機構6(詳細には、運動変換部材61、ピストン65、ストライカ67、インパクトボルト68)は、本体ハウジング10内部で、本体ハウジング10に対して駆動軸方向(前後方向)に移動可能に配置されている。より詳細には、本体ハウジング10の内部には、本体ハウジング10に対して前方へ付勢された状態で、本体ハウジング10に対して前後方向に移動可能な可動支持体18が配置されている。そして、スピンドル31および打撃機構6は、可動支持体18によって支持され、本体ハウジング10に対し、可動支持体18と一体的に移動可能とされている。
【0107】
図5図7図15および図16に示すように、可動支持体18は、スピンドル支持部185、回転体支持部187、第1シャフト挿通部181、および第2シャフト挿通部182を含む。なお、本実施形態では、可動支持体18は、金属製の単一部材として構成されている。
【0108】
スピンドル支持部185は、略円筒状に形成され、スピンドル31を支持する部分として構成されている。スピンドル支持部185の内部には軸受317が保持されている。スピンドル支持部185は、軸受317を介して、シリンダ33の後部を駆動軸A1周りに回転可能に支持する。なお、上述のように、スピンドル31は、軸受316と軸受317とによって、本体ハウジング10に対して駆動軸A1周りに回転可能に支持されている。もう一方の軸受316は、バレル部131内で保持され、ツールホルダ32の後部を、駆動軸A1周りに回転可能、且つ、前後方向に移動可能に支持している。
【0109】
回転体支持部187は、略円筒状に形成された部分であって、スピンドル支持部185の右端部の下方に接続している。回転体支持部187には、ネジによって、軸受614が固定されている。回転体支持部187は、軸受614を介して、回転体611を回転軸A3周りに回転可能に支持する。
【0110】
以上のように、スピンドル31と回転体611とが可動支持体18によって支持されることで、回転体611に取り付けられた揺動部材616と、スピンドル31内に配置されたピストン65、ストライカ67、およびインパクトボルト68も、可動支持体18に支持される。このため、可動支持体18と、スピンドル31と、打撃機構6とは、本体ハウジング10に対して前後方向に一体的に移動可能なアセンブリとしての可動ユニット180を構成する。
【0111】
第1シャフト挿通部181および第2シャフト挿通部182は、基準面VPに対して対称に、スピンドル支持部185の右側および左側に夫々配置されている。第1シャフト挿通部181は、一対の円筒部183を有する。一対の円筒部183は、前後方向に離間して同軸上に設けられている。各円筒部183内には、軸受184が嵌合されている。なお、本実施形態では、軸受184には、円筒形の無給油軸受が採用されている。第2シャフト挿通部182は、第1シャフト挿通部181と同一の構成を有する。つまり、第2シャフト挿通部182は、内部に軸受184が固定された一対の円筒部183を有する。
【0112】
図5および図15に示すように、可動支持体18(可動ユニット180)は、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192によって、本体ハウジング10に対して前後方向に移動可能に支持される。第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192は、基準面VPに対して対称に配置され、前部ハウジング13の上部内で、駆動軸A1に平行に(前後方向に)延在している。第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192の各々の前端部は、前部ハウジング13に固定状に保持され、後端部は、軸受支持体15に固定状に保持されている。よって、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192は、本体ハウジング10に対して移動不能である。
【0113】
本実施形態では、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192は、何れも鉄(または鉄を主成分とする合金)で形成されている。第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192は、夫々、第1シャフト挿通部181および第2シャフト挿通部182の前後一対の軸受184に摺動可能に挿通されている。つまり、軸受184の内周面が、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192の支持孔190を規定している。このような構成により、可動支持体18(可動ユニット180)は、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192に案内されつつ、本体ハウジング10に対して前後方向に移動可能とされている。
【0114】
また、上述のように、ハンマ動作用の第1中間シャフト41およびドリル動作用の第2中間シャフト42は、夫々、前部ハウジング13に保持された軸受411および421と、軸受支持体15に保持された軸受412および422によって、本体ハウジング10に対して前後方向に移動不能に支持されている。よって、可動支持体18(可動ユニット180)は、第1中間シャフト41および第2中間シャフト42に対しても、前後方向に移動可能である。
【0115】
なお、本実施形態では、可動支持体18は、スピンドル31および打撃機構6を支持し、ハンマ動作時に負荷を受けることから、強度の確保と軽量化とを両立すべく、アルミニウム合金またはマグネシウム合金によって形成されている。一方、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192と摺動する軸受184は、可動支持体18よりも潤滑性に優れた材料によって形成されている。なお、可動支持体18のうち、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192の支持孔190を規定する部分(つまり、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192と摺動する部分)は、軸受184である必要はない。例えば、支持孔190を規定する円筒状の部分のみが、可動支持体18の他の部分とは異なる材料(例えば、鉄または鉄を主成分とする合金)で、他の部分と一体的に形成されていてもよい。
【0116】
第1シャフト挿通部181および第2シャフト挿通部182の夫々の後側には、第1付勢バネ194および第2付勢バネ195が配置されている。第1付勢バネ194および第2付勢バネ195は何れも圧縮コイルバネであって、夫々、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192に外装され、可動支持体18と軸受支持体15との間に圧縮状態で配置されている。より詳細には、第1付勢バネ194の前端は、ワッシャを介して第1シャフト挿通部181の後側の円筒部183の後端に当接している。第1付勢バネ194の後端は、軸受支持体15の前面に設けられたバネ受け部に嵌め込まれている。同様に、第2付勢バネ195の前端は、ワッシャを介して第2シャフト挿通部182の後側の円筒部183の後端に当接している。第2付勢バネ195の後端は、軸受支持体15の前面に設けられたバネ受け部に嵌め込まれている。
【0117】
このような構成により、第1付勢バネ194および第2付勢バネ195は、可動支持体18(可動ユニット180)を、常に前方へ付勢している。このため、可動支持体18は、可動支持体18(可動ユニット180)に後方へ向かう外力が作用していない場合、第1シャフト挿通部181および第2シャフト挿通部182の前側の円筒部183が、前部ハウジング13内に設けられたショルダ部133に当接する最前方位置(初期位置)で保持される。つまり、ショルダ部133は、可動支持体18(可動ユニット180)の前方への更なる移動を阻止するストッパとして機能する。
【0118】
一方、図5および図17に示すように、軸受支持体15の前面側には、可動支持体18(可動ユニット180)の後方への更なる移動を規制するストッパとして、左右一対の緩衝部材197が設けられている。より詳細には、軸受支持体15の前面には、基準面VPに対して対称状に、左右一対の円筒状の突起155が設けられている。突起155は、可動支持体18の上端部(詳細には、基準面VP側で第1シャフト挿通部181および第2シャフト挿通部182に隣接する部分)に対向するように前方へ突出する。各緩衝部材197は、円柱状のゴムで構成され、各突起155に嵌合されている。
【0119】
緩衝部材197は、外力が加えられていない状態では、突起155の前端よりも前方へ突出している。可動支持体18(可動ユニット180)が最前方位置(図17の位置)にある場合、緩衝部材197は、可動支持体18から後方に離間した位置にある。緩衝部材197は、可動支持体18(可動ユニット180)が本体ハウジング10に対して後方に移動し、第1付勢バネ194および第2付勢バネ195(図15参照)が所定量圧縮されると、可動支持体18に後方から当接するように構成されている。
【0120】
ところで、本実施形態では、図5および図15に示す第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192は、何れも円形の断面を有するが、異なる径を有する。より詳細には、基準面VPに対して右側にある第1ガイドシャフト191の径よりも、左側にある第2ガイドシャフト192の径の方が僅かに小さい。一方、第1シャフト挿通部181および第2シャフト挿通部182の合計4つの円筒部183および軸受184は、すべて同一の構成を有する。つまり、第1ガイドシャフト191の支持孔190の径と、第2ガイドシャフト192の支持孔190の径とは同一である。
【0121】
このため、基準面VPに対して左側の第2ガイドシャフト192の外周面と、第2シャフト挿通部182の一対の軸受184の内周面との間に形成される隙間の方が、右側の第1ガイドシャフト191の外周面と、第1シャフト挿通部181の一対の軸受184の内周面との間に形成される隙間よりも僅かに大きい。つまり、第2ガイドシャフト192に対するクリアランスの方が、第1ガイドシャフト191に対するクリアランスよりも僅かに大きい。なお、第1ガイドシャフト191および第1シャフト挿通部181の軸受184には、より高い寸法精度が設定されており、第1ガイドシャフト191と第1シャフト挿通部181の軸受184とは、ほぼ隙間なく嵌り合うように構成されている。
【0122】
第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192の両方を、夫々の支持孔190にできるだけ隙間なく嵌合させようとすると、第1ガイドシャフト191、第2ガイドシャフト192および/または夫々の支持孔190の誤差に起因して、組み付けが難しくなる場合がある。これに対し、上述のような本実施形態の構成によれば、第1ガイドシャフト191と軸受184との間の隙間を高精度に形成することで、可動支持体18の案内機能を良好に維持しつつ、組み付けを容易にすることができる。
【0123】
なお、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192のうち、より小さいクリアランス(より高い寸法精度)を有するガイドシャフト(以下、基準ガイドシャフトという)は、可動ユニット180が回動したときの駆動ギヤ78と被動ギヤ79(図8参照)の噛合いへの影響を考慮して決定されることが好ましい。より詳細には、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192の夫々の軸周りに同じ角度だけ可動ユニット180が回動することを想定した場合に、スピンドル31の駆動軸A1と、第2中間シャフト42の回転軸A4との中心距離(駆動軸A1と回転軸A4との間の最短距離)の変化がより小さくなるガイドシャフトが選択されることが好ましい。これは、可動ユニット180が回動したときの駆動ギヤ78と被動ギヤ79の噛合いに影響を与えにくくすることができるためである。
【0124】
以下に、図18を参照して、基準ガイドシャフトの決定方法について具体的に説明する。図18は、駆動ギヤ78と被動ギヤ79が適切な噛合状態にあるときの、駆動軸A1および回転軸A4に直交する平面上における駆動ギヤ78および被動ギヤ79(図8参照)の夫々のピッチ円C1およびC2と、ピッチ円C1およびC2の共通接線Tを示す。なお、点Pは、このときに駆動ギヤ78および被動ギヤ79のピッチ点に一致する被動ギヤ79上の1点である。
【0125】
上述のように、駆動ギヤ78は、本体ハウジング10に対して軸方向および径方向に移動不能な第2中間シャフト42に設けられている。一方、スピンドル31に設けられた被動ギヤ79は、可動ユニット180の一部である。よって、被動ギヤ79は、可動ユニット180の回動に伴って、基準ガイドシャフトの軸周りに、駆動ギヤ78に対して移動することになる。このとき、被動ギヤ79上の点Pが、駆動ギヤ78に対し、概ね共通接線Tの延在方向に移動する場合には、中心距離の変化は比較的小さく、噛合いには比較的影響が出にくい。反対に、点Pが、概ね共通接線Tに直交する方向に移動する場合には、その移動量が大きくなるほど、中心距離が比較的大きく変化し、噛合いが解除される、あるいは噛合いが深くなりすぎる可能性がある。
【0126】
以上のことから、図18に符号Sで示すように、基準ガイドシャフトは、駆動ギヤ78の回転軸A4と、被動ギヤ79の回転軸である駆動軸A1とを通過する直線L上で、駆動ギヤ78と反対側に配置されることが最適であるといえる。また、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192が何れも直線L上にない場合には、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192のうち、直線Lにより近い一方が、基準ガイドシャフトとされることが好ましい。具体的には、駆動軸A1および回転軸A4に直交する平面上で、第1ガイドシャフト191の軸と駆動軸A1と結ぶ線分と、直線Lとがなす角αと、第2ガイドシャフト192の軸と駆動軸A1と結ぶ線分と、直線Lとがなす角βとを比較する。角αと角βのうち、より小さい一方に対応するガイドシャフトが、基準シャフトとされればよい。
【0127】
なお、本実施形態では、駆動軸A1および回転軸A4に直交する平面上において、駆動軸A1と、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192とが一直線上に配置されている。よって、角α1と角β1とは同一である。よって、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192のどちらが基準ガイドシャフトに決定されても、可動ユニット180の回動時の中心距離の変化は同じである。よって、第1ガイドシャフト191に代えて、第2ガイドシャフト192が基準シャフトとされてもよい。一方、例えば、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192の位置が、図18に点線で示す位置に変更された場合には、角α2の方が角β2よりも小さくなる。よって、この場合には、第1ガイドシャフト191が基準ガイドシャフトとされることが好ましい。
【0128】
なお、本実施形態では、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192が互いに異なる径を有するが、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192は同一径を有してもよい。この場合、第1シャフト挿通部181の一対の軸受184の内径と、第2シャフト挿通部182の一対の軸受184の内径とを異ならせることで、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192に対応する隙間(クリアランス)を異ならせることができる。あるいは、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192が互いに異なる径を有し、且つ、第1シャフト挿通部181の一対の軸受184と、第2シャフト挿通部182の一対の軸受184とが、互いに異なる内径を有してもよい。
【0129】
ところで、本実施形態では、前部ハウジング13への内部構造の組み付けに際し、ロックプレート45の組み付けを容易にする工夫がなされている。以下、図19図21を参照して、ロックプレート45の組み付け方法について説明する。本実施形態では、バレル部131を含む前部ハウジング13は、単一の筒状部材として構成されている。また、前部ハウジング13の後端部に軸受支持体15が嵌め込まれることで、ロックプレート45が初期位置に位置決めされる。よって、凹部138に付勢バネ46を嵌合した後、バネ受け部451を付勢バネ46に挿入しつつ、ロックプレート45をリブ137に係合させるだけでは、作業者が、軸受支持体15を嵌め込む前に、前部ハウジング13の後端の開口を下側に向けた場合、ロックプレート45および付勢バネ46が脱落してしまう可能性がある。
【0130】
そこで、本実施形態では、図19に示すように、まず、バネ受け部451が、圧入により、付勢バネ46の後端部内に固定される。そして、ロックプレート45がリブ137に沿って前方へ嵌め込まれ、付勢バネ46の前端部が前部ハウジング13の凹部138内に、圧入により固定される。これにより、付勢バネ46を介してロックプレート45が前部ハウジング13に仮固定される。よって、作業者が、前部ハウジング13の後端を下側に向けても、ロックプレート45および付勢バネ46が脱落することはない。
【0131】
更に、図20に示すように、作業者は、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192を、第1シャフト挿通部181および第2シャフト挿通部182に夫々挿通し、可動ユニット180を支持させる。作業者は、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192の前端部を、前部ハウジング13に設けられた凹部(図15参照)に嵌め込むとともに、前部ハウジング13の後端部に、Oリング151を圧縮しつつ、軸受支持体15を嵌め込む。
【0132】
この過程で、ロックプレート45の当接部453が、軸受支持体15の突起157に当接する。この時点では、付勢バネ46は圧縮されていない状態である。その後、軸受支持体15は、突起157を介してロックプレート45を押圧し、付勢バネ46を圧縮しつつ、リブ137に沿って前方へ移動させる。軸受支持体15が図21に示す所定位置に達すると、ロックプレート45の組み付けが完了する。作業者は、このような方法により、ロックプレート45を前部ハウジング13および軸受支持体15に容易に組み付けることができる。
【0133】
なお、ロックプレート45の仮固定の方法は、上述の方法に限られない。詳細な図示は省略するが、例えば、ロックプレート45は、付勢バネ46を圧縮状態で保持するように構成されてもよい。そして、前部ハウジング13に設けられた係止片に、付勢バネ46の前端部を圧入により固定することで、ロックプレート45を前部ハウジング13に仮固定してもよい。
【0134】
また、例えば、ラバーピンを用いてロックプレート45を仮固定してもよい。この場合、前部ハウジング13の後端部の内部には、ラバーピンの保持凹部が設けられる。保持凹部は、初期位置よりも後方で、ロックプレート45の後端にラバーピンが当接するように設けられる。作業者は、凹部138内に付勢バネ46の前端部を嵌め込み、更に、ロックプレート45のバネ受け部451を付勢バネ46の前端部に嵌め込む。その後、保持凹部にラバーピンを嵌め込むことで、ロックプレート45を仮固定する。更に、軸受支持体15を前部ハウジング13の所定位置まで嵌め込むと、ロックプレート45は、ラバーピンに当接する位置から前方へ押圧され、初期位置に配置される。
【0135】
以下、本実施形態におけるハンマドリル101の動作について説明する。
【0136】
使用者によってトリガ171が押圧操作され、スイッチ172がオン状態とされると、モータ2が通電され、駆動機構5が駆動される。より詳細には、上述のように、モード切替ダイヤル800を介して設定された動作モードに応じて、打撃機構6および/または回転伝達機構7が駆動されて、ハンマ動作および/またはドリル動作が遂行される。
【0137】
ハンマ動作が行われるハンマドリルモードおよびハンマモードでは、先端工具91が被加工材に押し付けられ、加工作業が行われると、打撃機構6が先端工具91を駆動する力、および、先端工具91の打撃力の被加工材からの反力によって、打撃機構6には、主として駆動軸方向(前後方向)の振動が発生する。この振動によって、可動ユニット180は、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192に沿って本体ハウジング10に対して前後方向に移動し、第1付勢バネ194および第2付勢バネ195が伸縮(弾性変形)する。これにより、可動ユニット180の振動が吸収され、本体ハウジング10やハンドル17へ伝達される振動が低減される。
【0138】
可動ユニット180が振動によって後方へ移動し、第1付勢バネ194および第2付勢バネ195が所定量圧縮されると、軸受支持体15に保持された緩衝部材197が可動支持体18に衝突し、可動ユニット180の後方への更なる移動を規制する。これにより、軸受支持体15と可動支持体18との衝突が防止される。緩衝部材197はゴム製であるため、ゴムの弾性変形により、可動支持体18と緩衝部材197の衝突による衝撃が低減される。
【0139】
なお、加工作業中には、使用者は、先端工具91を被加工材に押し付けた状態を維持すべく、ハンドル17および本体ハウジング10を、被加工材に向けて前方へ押圧し続ける。このため、可動ユニット180は、図18に示す最前方位置よりも後方に配置された状態で維持される傾向にある。よって、本実施形態では、可動支持体18の前方への移動を規制するためのショルダ部133には、緩衝部材は配置されていない。但し、ショルダ部133にも、緩衝部材197と同様の緩衝部材が配置されてもよい。
【0140】
また、図9に示すように、ハンマドリルモードおよびハンマモードでは、第1伝達部材64が係合位置(実線で示す位置)に配置されて介在部材63にスプライン係合し、第1中間シャフト41の回転を介在部材63に伝達する。可動ユニット180の一部である回転体611は、振動に伴って、実線で示す最前方位置と、点線で示す最後方位置との間の範囲内で、本体ハウジング10に対して移動しうる。上述のように、回転体611は、前後方向には移動不能に保持された介在部材63に対してスプライン係合されている。このため、回転体611は、介在部材63と一体的に回転しつつ、スプラインに沿って、介在部材63に対して前後方向に移動する。これに対し、介在部材63と第1伝達部材64とは、前後方向に相対的に移動しないため、可動ユニット180の前後方向の相対移動が、介在部材63と第1伝達部材64の係合状態に影響を与えることはない。よって、第1中間シャフト41から運動変換部材61(詳細には、回転体611)への動力伝達状態を、安定して維持することができる。
【0141】
なお、ハンマ動作に加えてドリル動作も行われるハンマドリルモードでは、可動ユニット180の一部であるスピンドル31も、振動に伴って、本体ハウジング10に対して前後方向に移動する。よって、図10に示すように、シリンダ33の外周に設けられた被動ギヤ79は、本体ハウジング10に対して前後方向に移動不能な駆動ギヤ78に対し、実線で示す位置と、点線で示す位置との間で前後方向に移動しうる。これに対し、本実施形態では、駆動ギヤ78の前後方向の長さは、被動ギヤ79の移動範囲をカバーするように設定されている。このため、スピンドル31の移動中も、被動ギヤ79は、常に駆動ギヤ78に噛合して回転される。
【0142】
ドリル動作のみが行われるドリルモードにおいても、可動ユニット180が本体ハウジング10に対して前後方向に移動する場合、上述のように、第1付勢バネ194および第2付勢バネ195の伸縮によって、本体ハウジング10やハンドル17へ伝達される振動が低減される。また、ハンマドリルモードと同様、可動ユニット180の前後方向の相対移動に影響を受けることなく、駆動ギヤ78および被動ギヤ79を介して、第2中間シャフト42からスピンドル31に回転が伝達される。
【0143】
なお、ドリル動作が行われるハンマドリルモードおよびドリルモードでは、ドリル動作中に第2中間シャフト42に閾値以上の負荷がかかると、上述したようにトルクリミッタ73が作動して、ドリル動作専用の動力伝達経路におけるトルク伝達が遮断され、ドリル動作が停止される。
【0144】
ところで、ハンマ動作が行われるハンマドリルモードおよびハンマモードにおいて、先端工具91がツールホルダ32に装着されていない場合や、先端工具91が被加工物に押し付けられていない場合、つまり、負荷がかかっていない状態(以下、無負荷状態という)では、ストライカ67がインパクトボルト68を打撃しないことが好ましい。そこで、本実施形態のハンマドリル101には、無負荷状態になると、ストライカ67によるインパクトボルト68の打撃を速やかに停止させるため空打ち防止機構30が設けられている。以下、空打ち防止機構30について説明する。
【0145】
本実施形態の空打ち防止機構30は、無負荷状態でピストン65の往復動が継続されると、インパクトボルト68の変位のタイミングをずらし、ストライカ67を捕捉するように構成された機構である。まず、ストライカ67およびインパクトボルト68の詳細構成について説明する。
【0146】
図7に示すように、ストライカ67は、円柱状の本体部671と、本体部671よりも径が小さく、本体部671から前方へ突出する小径部672とを含む。なお、本体部671は、ピストン65の内径と概ね等しい径を有する。本体部671の外周部には、ストライカ67とピストン65との間を気密にシールするためのOリングが装着されている。小径部672の前端には、フランジ部673が設けられている。インパクトボルト68は、軸方向の略中央部に設けられた大径部681と、大径部681の前側および後側に夫々設けられた小径部683および684とを有する円柱部材として構成されている。
【0147】
一方、図22に示すように、空打ち防止機構30は、シリンダ33の内部に配置されたキャッチャ34と、ツールホルダ32と、ツールホルダ32の内部に配置された規制リング35、ガイドスリーブ36、および緩衝リング37とを含む。
【0148】
キャッチャ34は、無負荷状態において、ストライカ67を捕捉して保持するように構成されている。キャッチャ34は、捕捉リング341と、リング保持部343とを含む。リング保持部343は、金属製の筒状部材であって、シリンダ33の前端部内に嵌め込まれ、前後方向に摺動可能に保持されている。但し、キャッチャ34の最後方位置は、シリンダ33の内部に固定された止め輪345によって規定されている。捕捉リング341は、Oリングであって、リング保持部343の後端部内に装着されている。なお、本実施形態の捕捉リング341はゴム製である。
【0149】
本実施形態では、ツールホルダ32は、段付きの円筒状に形成されている。ツールホルダ32の内径は、ビット挿入孔330を有する前部が最も小さく、後方に向かうにつれて、段階的に大きくなる。以下では、ツールホルダ32のうち、前部の後側に接続し、ビット挿入孔330の径よりも大きい内径を有する部分を小径部321という。小径部321の後側に接続し、小径部321の内径よりも大きい内径を有する部分を大径部325という。大径部325の後側に接続し、大径部325の内径よりも大きい内径を有する部分を最大径部329という。なお、最大径部329は、ツールホルダ32の後端部である。つまり、最大径部329の後側に、シリンダ33が接続している。
【0150】
ツールホルダ32内部には、小径部321と大径部325の境界部分に第1ショルダ部322が設けられている。第1ショルダ部322の後面323は、後方に向かって若干拡径する円錐面(テーパ面)として構成されている。また、大径部325と最大径部329の境界部分には、第2ショルダ部326が設けられている。第2ショルダ部326の後面は、駆動軸A1に直交する平面として構成されている。
【0151】
規制リング35は、金属製の環状部材であって、ツールホルダ32の最大径部329内に嵌め込まれ、前後方向に摺動可能に保持されている。規制リング35は、インパクトボルト68の大径部681に後方から当接し、インパクトボルト68の後方への更なる移動を規制する規制部として機能する。また、規制リング35は、インパクトボルト68の小径部684の周囲に配置され、小径部684の摺動を案内するガイド部としても機能する。よって、規制リング35は、小径部684と概ね等しい内径を有するとともに、大径部681の後部に整合する形状の内周面を有する。
【0152】
なお、前後方向において、規制リング35と、キャッチャ34のリング保持部343との間には、環状の弾性体である緩衝リング38が介在している。本実施形態の緩衝リング38はゴム製であって、圧縮された状態で、ツールホルダ32と同軸状に、規制リング35とリング保持部343との間に配置されている。これにより、規制リング35およびリング保持部343は、互いから離れる方向に付勢され、常時には、夫々が、第2ショルダ部326の後面に当接する最前方位置、および、止め輪345に当接する最後方位置で保持される。
【0153】
ガイドスリーブ36は、金属製の円筒部材であって、インパクトボルト68を駆動軸A1に沿って摺動可能に保持するように構成されている。より詳細には、ガイドスリーブ36の前半部分は、インパクトボルト68の前側の小径部683の周囲に配置され、小径部683の摺動を案内するガイド部360を構成する。なお、ガイド部360は、インパクトボルト68の大径部681に前方から当接し、インパクトボルト68の前方への更なる移動を規制する規制部としても機能する。よって、ガイド部360は、小径部683と概ね等しい内径を有するとともに、ガイド部360の後端部の内周面は、大径部681の前部に整合する形状を有する。なお、ガイドスリーブ36の後半部分は、大径部681よりも大きい内径を有する。
【0154】
また、ガイドスリーブ36は、ツールホルダ32の大径部325内に配置され、前後方向に摺動可能に保持されている。ガイドスリーブ36の外径は、前端部のみが他の部分よりも小さく、他の部分では均一である。以下、ガイドスリーブ36の前端部を小径部361といい、小径部361よりも後側の略均一の外径を有する部分を大径部363という。大径部363の前面364は、後方に向かって若干拡径する円錐面(テーパ面)として構成されている。
【0155】
緩衝リング37は、環状の弾性体であって、前後方向において、ガイドスリーブ36の前端面、つまり、小径部361の前端面と、ツールホルダ32(詳細には、小径部321の前端を規定する面)との間に、ツールホルダ32と同軸状に配置されている。緩衝リング37の外径は、ツールホルダ32の小径部321の内径と概ね等しい。緩衝リング37の内径は、インパクトボルト68の小径部683の外径よりも大きい。よって、緩衝リング37は、小径部321内で、インパクトボルト68から径方向外側に離間した状態で保持される。
【0156】
なお、本実施形態では、ツールホルダ32の小径部321の前端部内には、スピンドル31内部からの潤滑剤の漏出や、スピンドル31内部への異物の進入を防止するためのオイルシール39が配置されている。緩衝リング37の前端は、オイルシール39の後側に配置されたワッシャに当接している。緩衝リング37の後端は、ガイドスリーブ36に当接している。但し、緩衝リング37の前端は、ツールホルダ32の内周面に直接当接してもよい。ガイドスリーブ36の前側にワッシャが配置され、緩衝リング37の後端は、このワッシャに当接してもよい。
【0157】
本実施形態の緩衝リング37はゴム製であって、僅かに圧縮された状態で、ガイドスリーブ36の前端面と、ワッシャとの間に配置されている。これにより、ガイドスリーブ36は、ツールホルダ32に対して後方に付勢され、常時には、ガイドスリーブ36の後端面が、最前方位置に配置された規制リング35の前端面に当接する位置(以下、初期位置という)で保持される。このとき、ガイドスリーブ36の大径部363の前面364(円錐面)は、ツールホルダ32の第1ショルダ部322の後面323(円錐面)から後方に離間している。つまり、大径部363の前面364と、第1ショルダ部322の後面323との間には、隙間が存在する。
【0158】
駆動軸A1を含む平面における緩衝リング37の断面形状は、駆動軸方向(前後方向)に長い略八角形状である。つまり、緩衝リング37は、肉厚方向の寸法(最大の厚み)よりも、前後方向の寸法(最大の長さ)の方が大きい。また、駆動軸A1に直交する平面における緩衝リング37の断面形状は、前後方向において均一ではない。よって、緩衝リング37が前後方向に伸縮(弾性変形)するのに伴い、緩衝リング37とガイドスリーブ36との接触面積は変化することになる。より詳細には、緩衝リング37は、圧縮され始めた段階では、ガイドスリーブ36との接触面積は比較的小さく、圧縮が進むと、接触面積が大きくなる。このような形状の緩衝リング37は、圧縮され始めた段階で変形しやすく、圧縮が進むと変形しにくくなる。また、前後方向において均一の断面を有するものに比べ、前後方向に変形しやすく、前後方向の変形量、つまりガイドスリーブ36の移動量を比較的大きく確保することができる。
【0159】
以下、空打ち防止機構30の動作について説明する。
【0160】
先端工具91が被加工物に押し付けられ、負荷がかかっている状態(以下、負荷状態という)では、図22に示すように、インパクトボルト68は、先端工具91によって、大径部681が規制リング35に前方から当接する位置まで押し込まれる。インパクトボルト68の後端は、リング保持部343の後端部内に配置される。この状態でモータ2が駆動されると、上述のように、ストライカ67はインパクトボルト68を打撃する。インパクトボルト68は、大径部681がガイドスリーブ36(ガイド部360)に衝突することなく、ストライカ67の運動エネルギを先端工具91に伝達し、先端工具91を直線状に駆動する。なお、このとき、緩衝リング38は、インパクトボルト68が後方へ跳ね返ったときの衝撃を緩和することができる。
【0161】
使用者が、被加工材に対する押付けを解除すると、先端工具91は、図22に示す最後方位置から前方へ移動する。この状態で、ピストン65の駆動が継続されると、図23に示すように、ストライカ67によって打撃されたインパクトボルト68は、ガイドスリーブ36に対して前方へ移動し、大径部681が後方からガイド部360に衝突する。これにより、ガイドスリーブ36は、緩衝リング37を圧縮しつつ、ツールホルダ32に対して前方へ移動し、大径部363の前面364が、第1ショルダ部322の後面323に衝突する。
【0162】
インパクトボルト68は、ガイドスリーブ36からの反力で跳ね返り、ピストン65の往復動によって押し出されたストライカ67によって再度打撃されうる。しかしながら、緩衝リング37による衝撃吸収と、ツールホルダ32に対するガイドスリーブ36の移動によって、インパクトボルト68の変位のタイミング(跳ね返りの周期)が乱されることで、ストライカ67の往復動の周期との間にズレが生じる。その結果、図23に点線で示すように、ストライカ67の小径部672がキャッチャ34内に進入したときにフランジ部673が捕捉リング341に捕捉され、ストライカ67の往復動が停止される。
【0163】
本実施形態の空打ち防止機構30では、緩衝リング37は、前後方向(駆動軸方向)において、ツールホルダ32と、ガイドスリーブ36の前端面との間に配置されている。これにより、径方向において、ツールホルダ32とガイドスリーブ36との間に弾性体が配置される構成に比べ、ツールホルダ32の大径化を抑制することができ、径方向においてコンパクトな空打ち防止機構30が実現されている。このような空打ち防止機構30を採用することで、駆動軸A1から本体ハウジング10(詳細には、バレル部131)の外表面、特に上面までの距離(いわゆるセンタハイト)が抑えられ、狭いスペース(例えば壁に囲まれた角部)でのハンマドリル101の使用可能範囲を広げることができる。また、上述のように、バレル部131は、加工作業時に、使用者によって把持されうる部分である。よって、バレル部131を小径化することで、使用者がバレル部131を把持することが容易となる。
【0164】
また、ガイドスリーブ36は、緩衝リング37によって後方へ付勢され、ガイドスリーブ36の後側に配置された規制リング35に当接している。よって、緩衝リング37と規制リング35の間でガイドスリーブ36を安定的に保持することができ、緩衝リング37は、ガイドスリーブ36の前方への移動と同時に弾性変形し、衝撃を吸収することができる。
【0165】
なお、空打ち防止機構30において、緩衝リング37の構成は、適宜変更可能である。例えば、緩衝リング37に代えて、図24に示す緩衝リング371、または図25および図26に示す緩衝リング372採用されてもよい。図24の緩衝リング371は、円筒状の弾性体であって、緩衝リング37と同様、肉厚方向の寸法よりも、軸方向の寸法の方が大きい。緩衝リング371の前端部および後端部の外縁は、面取りされている。これにより、ワッシャとツールホルダ32の間、および、ガイドスリーブ36とツールホルダ32の間に外縁が挟まれて(噛み込まれて)損傷することを防止することができる。図25および図26の緩衝リング372は、全体としては、波型の環状部材であって、前後方向の凹凸を有する。緩衝リング372は、緩衝リング37と同様、肉厚方向の寸法よりも前後方向の寸法の方が大きく、且つ、駆動軸A1に直交する平面における断面形状が前後方向において不均一な弾性体であって、前後方向に変形しやすい。
【0166】
また、単一の緩衝リング37に代えて、例えば、図27に示すように、前後方向に、Oリング373が複数並設されてもよい。なお、図27では、2つのOリング373が例示されているが、Oリング373は、小径部321内のスペースに応じて、3つ以上が配置されてもよい。Oリング373は、単体では、前後方向の変形量が比較的小さい弾性体である。これに対し、複数のOリング373を採用することで、単体の場合に比べ、前後方向における複数のOリング373全体としての変形量を増加することができる。なお、複数のOリング373は、全て同一構成を有してもよいし、夫々に断面の径が異なっていてもよい。
【0167】
上記実施形態の各構成要素と本発明の各構成要素の対応関係を以下に示す。但し、実施形態の各構成要素は単なる一例であって、本発明の各構成要素を限定するものではない。ハンマドリル101は、「ハンマドリル」の一例である。モータ2およびモータシャフト25は、夫々、「モータ」および「モータシャフト」の一例である。スピンドル31は、「最終出力シャフト」の一例である。駆動軸A1は、「駆動軸」の一例である。駆動機構5および運動変換部材61は、夫々、「駆動機構」および「運動変換部材」の一例である。本体ハウジング10は、「ハウジング」の一例である。可動支持体18は、「可動支持体」の一例である。第1付勢バネ194および第2付勢バネ195は、「少なくとも1つの弾性部材」」の一例である。第1中間シャフト41は、「第1中間シャフト」の一例である。介在部材63は、「介在部材」の一例である。第1伝達部材64は、「伝達部材」の一例である。
【0168】
スプライン部416は、「第1中間シャフト」の「スプライン部」の一例である。スプライン部631は、「介在部材」の「スプライン部」の一例である。第1スプライン部641および第2スプライン部642は、夫々、「伝達部材」の「第1スプライン部」および「第2スプライン部」の一例である。第1クラッチ機構62および第2クラッチ機構71は、夫々、「第1クラッチ機構」および「第2クラッチ機構」の一例である。第2中間シャフト42は、「第2中間シャフト」の一例である。モード切替ダイヤル800(操作部801)は、「操作部材」の一例である。
【0169】
なお、上記実施形態は単なる例示であり、本発明に係るハンマドリルは、例示されたハンマドリル101の構成に限定されるものではない。例えば、下記に例示される変更を加えることができる。なお、これらの変更は、これらのうちいずれか1つのみ、あるいは複数が、実施形態に示すハンマドリル101あるいは各請求項に記載された発明と組み合わされて採用されうる。
【0170】
ハンマドリル101は、外部の交流電源ではなく、充電式のバッテリから供給される電力で動作するように構成されていてもよい。この場合、電源ケーブル179に代えて、例えば、ハンドル17の下端部に、バッテリを着脱可能なバッテリ装着部が設けられる。また、モータ2は、交流モータではなく、直流モータであってもよいし、ブラシを有するモータではなく、ブラシレスモータであってもよい。
【0171】
本体ハウジング10およびハンドル17の構成(形状、構成部材、材質等)は、適宜、変更されうる。例えば、本体ハウジング10は、前後方向ではなく、左右方向に分割された半割体が連結されることで形成されてもよい。
【0172】
また、本体ハウジング10に設けられる防振構造は、上記実施形態に例示されたものに限られない。例えば、可動ユニット180を支持するガイドシャフトの数は、2本に限られず、1本であっても、3本以上であってもよい。ガイドシャフトの位置および支持構造、可動支持体18や軸受支持体15の構成(形状、材質等)も、適宜変更されうる。例えば、上記実施形態では、第1ガイドシャフト191は、第1シャフト挿通部181の前後一対の軸受184に挿通されて、可動支持体18を2箇所で支持する。同様に、第2ガイドシャフト192は、第2シャフト挿通部182の前後一対の軸受184に挿通されて、可動支持体18を2箇所で支持する。しかしながら、第1ガイドシャフト191および第2ガイドシャフト192の各々が、可動支持体18を1箇所で支持してもよい。
【0173】
また、第1付勢バネ194および第2付勢バネ195は、他の種類のバネ(例えば、引張りコイルバネ、捩りバネ)、あるいはバネ以外の弾性部材(例えば、ゴム、弾性を有する合成樹脂(例えば、ウレタン発泡体)に変更されてもよい。更に、可動支持体18(可動ユニット180)と、本体ハウジング10または軸受支持体15の間に介在する緩衝部材197は、ゴムに代えて、例えば、弾性を有する合成樹脂(例えば、ウレタン発泡体)で形成されてもよいし、省略されてもよい。可動支持体18の付勢部材および緩衝部材の数は、1でもよいし、3以上であってもよい。
【0174】
モータシャフト25(回転軸A2)に対する第1中間シャフト41(回転軸A3)および第2中間シャフト42(回転軸A4)の配置、ならびに、スピンドル31(駆動軸A1)に対する第1中間シャフト41(回転軸A3)および第2中間シャフト42(回転軸A4)の配置は、上記実施形態で例示された配置に限られない。例えば、駆動軸A1に直交する平面において、回転軸A2を挟んで、回転軸A3と回転軸A4とが一直線上に配置されていてもよい。また、上記実施形態とは逆に、第1中間シャフト41と第2中間シャフト42は、夫々、駆動軸A1(あるいは基準面VP)に対して左側と右側に配置されてもよい。
【0175】
また、ハンマ動作およびドリル動作のための動力は、1本の中間シャフトから、介在部材63およびスピンドル31の被動ギヤ79に伝達されてもよい。つまり、単一の中間シャフトが、ハンマ動作およびドリル動作のための動力伝達に共用されてもよい。この場合、単一の中間シャフト上に、ハンマ動作のための動力を伝達または遮断するための第1クラッチ機構62と、ハンマ動作のための動力をドリル伝達または遮断するための第2クラッチ機構が設けられればよい。この場合、中間シャフトおよび第2クラッチ機構71の構成として、例えば、特開2016―000447号公報に開示されている構成を採用することができる。
【0176】
トルクリミッタ73の被動側部材75と第2中間シャフト42とは、ボール76を介してではなく、例えば、スプライン係合していてもよい。被動側部材75ではなく、駆動側部材74が第2中間シャフト42上で移動可能であってもよい。また、トルクリミッタ73は省略されてもよいし、スピンドル31に設けられてもよい。
【0177】
モード切替機構80において、第1切替部材81、第2切替部材82、第1バネ83、第2バネ84の形状、配置、モード切替ダイヤル800との連動態様は、適宜変更されうる。例えば、第1クラッチ機構62の切替を行うための第1切替部材81と、第2クラッチ機構71の切替を行うための第2切替部材82とが、別個の操作部材によって移動されるように構成されてもよい。また、モード切替機構80に連動する操作部材は、回動式のダイヤルに限られず、例えば、スライド式のレバーであってもよい。第1バネ83および第2バネ84は、他の種類のバネ(例えば、引張りコイルバネ、捩りバネ)であってもよいし、第1切替部材81および第2切替部材82は、必ずしも付勢されていなくてもよい。また、基準面VPに対して第2中間シャフト42および回転伝達機構7が配置される左側には、第1中間シャフト41および打撃機構6が配置される右側に比べて大きな空きスペースが存在する。よって、モード切替機構80は、このスペースを利用して、本体ハウジング10の左側部に設けられてもよい。
【0178】
空打ち防止機構30は、省略されてもよいし、別のタイプの空打ち防止機構が設けられてもよい。
【0179】
更に、本発明および上記実施形態の趣旨に鑑み、以下の態様が構築される。以下の態様は、実施形態に示すハンマドリル101および上述の変形例、または各請求項に記載された発明と組み合わされて採用されうる。
[態様1]
前記運動変換部材は、前記可動支持体によって、前記第1中間シャフトの前記軸周りに回転可能に支持され、
前記介在部材は、前記運動変換部材によって、前記運動変換部材に対して前記軸方向に移動可能に支持されている。
[態様2]
前記伝達部材を前記係合位置に向けて付勢する付勢部材を更に備える。
第1バネ83は、本態様における「付勢部材」の一例である。
[態様3]
前記操作部材に連動して、前記動作モードを切り替えるように構成された切替機構を更に備え、
前記切替機構は、
前記操作部材に対する前記手動操作に応じて移動し、前記第1クラッチ機構を前記動力伝達状態と前記遮断状態との間で切り替えるように構成された第1切替部材と、
前記手動操作に応じて移動し、前記第2クラッチ機構を前記動力伝達状態と前記遮断状態との間で切り替えるように構成された第2切替部材とを含む。
モード切替機構80、第1切替部材81および第2切替部材82は、夫々、本態様における「切替機構」、「第1切替部材」および「第2切替部材」の一例である。
[態様4]
前記第1切替部材は、前記手動操作に応じて移動することで、前記伝達部材を前記係合位置と前記離間位置との間で移動させるように構成されている。
[態様5]
前記操作部材は、前記第1切替部材に当接し、前記第1切替部材を移動させるように構成された第1当接部と、前記第2切替部材に当接し、前記第2切替部材を移動させるように構成された第2当接部とを有する。
第1ピン803および第2ピン805は、夫々、本態様における「第1当接部」および「第2当接部」の一例である。
[態様6]
前記第1切替部材および前記第2切替部材は、単一の支持部材に移動可能に支持されている。
支持シャフト88は、本態様における「支持部材」の一例である。
[態様7]
前記ハウジング内で前記駆動軸と平行に延在する少なくとも1つのガイドシャフトを更に備え、
前記少なくとも1つのガイドシャフトは、前記可動支持体に設けられた少なくとも1つの支持孔に挿通されて、前記可動支持体の前記軸方向の相対移動を案内するように構成されている。
[態様8]
前記軸方向において、前記ハウジングと前記可動支持体との間に介在する少なくとも1つの緩衝部材を更に備える。
【符号の説明】
【0180】
101:ハンマドリル、10:本体ハウジング、11:後部ハウジング、13:前部ハウジング、131:バレル部、133:ショルダ部、137:リブ、138:凹部、15:軸受支持体、151:Oリング、152:弾性体、153:エア抜き穴、154:フィルタ、155:突起、157:突起、17:ハンドル、171:トリガ、172:スイッチ、179:電源ケーブル、18:可動支持体、180:可動ユニット、181:第1シャフト挿通部、182:第2シャフト挿通部、183:円筒部、184:軸受、185:スピンドル支持部、187:回転体支持部、190:支持孔、191:第1ガイドシャフト、192:第2ガイドシャフト、194:第1付勢バネ、195:第2付勢バネ、197:緩衝部材、2:モータ、20:本体部、25:モータシャフト、251:軸受、252:軸受、255:ピニオンギヤ、27:ファン、30:空打ち防止機構、31:スピンドル、316:軸受、317:軸受、32:ツールホルダ、321:小径部、322:第1ショルダ部、323:後面、325:大径部、326:第2ショルダ部、329:最大径部、33:シリンダ、330:ビット挿入孔、34:キャッチャ、341:捕捉リング、343:リング保持部、345:止め輪、35:規制リング、36:ガイドスリーブ、360:ガイド部、361:小径部、363:大径部、364:前面、37、371、372:緩衝リング、373:Oリング、38:緩衝リング、39:オイルシール、41:第1中間シャフト、411:軸受、412:軸受、414:第1被動ギヤ、416:スプライン部、417:大径部、42:第2中間シャフト、421:軸受、422:軸受、423:ギヤ部材、424:第2被動ギヤ、425:スプライン部、426:溝、45:ロックプレート、451:バネ受け部、453:当接部、455:係止部、46:付勢バネ、5:駆動機構、6:打撃機構、61:運動変換部材、611:回転体、612:スプライン部、614:軸受、616:揺動部材、617:アーム部、62:第1クラッチ機構、63:介在部材、631:スプライン部、64:第1伝達部材、641:第1スプライン部、642:第2スプライン部、645:溝、65:ピストン、67:ストライカ、671:本体部、672:小径部、673:フランジ部、68:インパクトボルト、681:大径部、683:小径部、684:小径部、7:回転伝達機構、71:第2クラッチ機構、72:第2伝達部材、721:第1スプライン部、722:第2スプライン部、725:溝、727:凹部、73:トルクリミッタ、74:駆動側部材、742:カム凹部、743:スプライン部、75:被動側部材、751:溝、752:カム突起、76:ボール、77:付勢バネ、78:駆動ギヤ、79:被動ギヤ、80:モード切替機構、800:モード切替ダイヤル、801:操作部、803:第1ピン、805:第2ピン、81:第1切替部材、813:第1係合部、82:第2切替部材、823:第2係合部、83:第1バネ、84:第2バネ、88:支持シャフト、881:止め輪、91:先端工具、A1:駆動軸、A2:回転軸、A3:回転軸、A4:回転軸
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