(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】スロットル装置
(51)【国際特許分類】
F02D 9/02 20060101AFI20231121BHJP
F02D 17/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
F02D9/02 361A
F02D9/02 351M
F02D9/02 361J
F02D17/00 B
F02D17/00 G
(21)【出願番号】P 2019219689
(22)【出願日】2019-12-04
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 勇
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-109080(JP,A)
【文献】特開2014-066158(JP,A)
【文献】特開2005-282463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 9/02
F02D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの複数の気筒に対応して吸気通路を有するスロットルボディと、
前記スロットルボディに回転可能に支持されたスロットルシャフトと、
前記スロットルシャフトに固定され、前記気筒の吸気通路を開閉するスロットルバルブと、
モータと、
前記モータの駆動軸の回転を前記スロットルシャフトに減速して伝達する減速機と、
を有するスロットルユニットを、前記気筒または気筒群毎に前記エンジンに複数備えたスロットル装置であって、
前記エンジンの所定の運転領域において、前記複数のスロットルユニットにおける第1のスロットルユニット及び第2のスロットルユニットのうち、前記第2のスロットルユニットの前記モータの作動を停止して前記第2のスロットルユニットの前記スロットルバルブを所定の開度とし、前記第2のスロットルユニットに対応する前記気筒または気筒群の燃焼を休止させる気筒休止制御部を備え、
前記第1のスロットルユニットに設けられた前記減速機の減速比
よりも、前記第2のスロットルユニットに設けられた前記減速機の減速比
が低い
ことを特徴とするスロットル装置。
【請求項2】
前記スロットルユニットは、前記エンジンに2個備えられていることを特徴とする請求項
1に記載のスロットル装置。
【請求項3】
前記スロットル装置は、自動二輪車のエンジンに備えられていることを特徴とする請求項1
または2に記載のスロットル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの吸気を制御するスロットル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の車両に搭載された走行駆動用のエンジンの多くは、高出力を得るために、複数の気筒を有している。更に、自動二輪車では、エンジンの出力を向上させるために、複数の気筒の夫々にスロットルバルブを備えた多連式のスロットル装置が広く採用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、各気筒の吸気通路に夫々スロットルバルブを備えた直列4気筒のエンジンが開示されている。特許文献1に記載されたエンジンは、1番気筒のスロットルバルブと2番気筒のスロットルバルブを駆動するモータ、3番気筒のスロットルバルブを駆動するモータ、4番気筒のスロットルバルブを駆動するモータを夫々備えている。これにより、各モータを駆動制御することで、1番気筒及び2番気筒、3番気筒、4番気筒の開度を個別に制御することが可能になっている。更に、特許文献1に記載されたエンジンは、複数の気筒のうち一部の気筒(3番気筒及び4番気筒)の運転を休止させる気筒休止運転機能を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように気筒毎にスロットルバルブを備えるとともに、スロットルバルブ駆動用のモータを複数備えたエンジンでは、モータを個別に駆動制御することで、スロットルバルブの開度が互いに大きく異なる機会が発生する場合がある。例えば、特許文献1のように気筒休止運転機能を備えたエンジンでは、気筒休止運転時に、気筒休止を行う一部の気筒についてはスロットルバルブを所定の開度(例えば閉状態)にするので、気筒休止運転時に気筒休止を行う気筒と気筒休止を行わない気筒とでスロットルバルブの開度が大きく異なる場合がある。
【0006】
そして、このようにスロットルバルブの開度が互いに大きく異なっている状態から、例えば全てのスロットルバルブを同一の目標開度に制御しようとしたときに、目標開度への移行の際にスロットルバルブの開度差がすぐに解消されず、スロットルバルブの開度差による各気筒の出力差により、車両の運転者が違和感を覚える可能性がある。
【0007】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、多気筒エンジンに採用され、各気筒の出力差による違和感を抑制できる多連式のスロットルバルブ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のスロットル装置は、エンジンの複数の気筒に対応して吸気通路を有するスロットルボディと、前記スロットルボディに回転可能に支持されたスロットルシャフトと、前記スロットルシャフトに固定され、前記気筒の吸気通路を開閉するスロットルバルブと、モータと、前記モータの駆動軸の回転を前記スロットルシャフトに減速して伝達する減速機と、を有するスロットルユニットを、前記気筒または気筒群毎に前記エンジンに複数備えたスロットル装置であって、前記エンジンの所定の運転領域において、前記複数のスロットルユニットにおける第1のスロットルユニット及び第2のスロットルユニットのうち、前記第2のスロットルユニットの前記モータの作動を停止して前記第2のスロットルユニットの前記スロットルバルブを所定の開度とし、前記第2のスロットルユニットに対応する前記気筒または気筒群の燃焼を休止させる気筒休止制御部を備え、前記第1のスロットルユニットに設けられた前記減速機の減速比よりも前記第2のスロットルユニットに設けられた前記減速機の減速比が低いことを特徴とする。
【0009】
これにより、第1のスロットルユニットのスロットルバルブの開閉速度と第2のスロットルユニットのスロットルバルブの開閉速度が異なるようにすることができる。したがって、第1のスロットルユニットのスロットルバルブと第2のスロットルユニットのスロットルバルブとが互いに異なる開度から同一の所定開度になるように各モータを駆動させた場合に、スロットルバルブの開度差を直ぐに解消させることが可能となる。これにより、第1のスロットルユニットによって吸気を制御する気筒と、第2のスロットルユニットによって吸気を制御する気筒との出力差を迅速に解消させることができる。
特に、気筒休止制御部によって第2のスロットルユニットに対応する気筒または気筒群の燃焼が休止している状態から、エンジンが所定の運転領域から逸脱して当該気筒または気筒群の燃焼が再開された際に、第2のスロットルユニットのスロットルバルブの開度を所定の開度から迅速に適切な開度に制御することができる。したがって、気筒休止制御部による一部の気筒の燃焼の休止が解除された際に、第1のスロットルユニットのスロットルバルブと第2のスロットルユニットのスロットルバルブの開度を迅速に一致させて、エンジンの滑らかな出力を図ることができる。
【0012】
好ましくは、前記スロットルユニットは、前記エンジンに2個備えられているとよい。
【0013】
これにより、エンジンの複数の気筒は、第1のスロットルユニットと第2のスロットルユニットによって吸気制御される。そして、第1のスロットルユニットによって吸気制御される気筒と、第2のスロットルユニットによって吸気制御される気筒の出力差を直ぐに解消して、エンジンの滑らかな出力を図ることが可能となる。
【0014】
前記スロットル装置は、自動二輪車のエンジンに備えられているとよい。
【0015】
これにより、自動二輪車のエンジンにおいて、エンジンの滑らかな出力を図ることができ、運転者の違和感を抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のスロットル装置によれば、第1のスロットルユニットのスロットルバルブと第2のスロットルユニットのスロットルバルブの開閉速度が互いに異なるように設定することが可能になるので、スロットルバルブの開度が互いに異なる状態から同一の所定開度になるように第1のモータ及び第2のモータを駆動させた場合に、スロットルバルブの開度差を直ぐに解消させることが可能になる。特に、気筒休止制御部により燃焼が休止している状態から燃焼が再開された際に、第1のスロットルユニットのスロットルバルブと第2のスロットルユニットのスロットルバルブの開度を迅速に一致させて、第1のスロットルユニットによって吸気を制御する気筒の出力と、第2のスロットルユニットによって吸気を制御する気筒の出力差を迅速に解消させ、エンジンの滑らかな出力を図ることができ、運転者の違和感を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態のスロットル装置の外観図である。
【
図3】第1のスロットルユニットの減速機構の内部構造図である。
【
図4】第2のスロットルユニットの減速機構の内部構造図である。
【
図6】気筒休止運転から通常運転に移行した際のスロットル開度の推移例を示したグラフである。
【
図7】第2のスロットルユニットにおけるリターンスプリングの取付部の組立図である。
【
図8】第1のスロットルユニットにおけるリターンスプリングの設置状態を示す説明図である。
【
図9】第2のスロットルユニットにおけるリターンスプリングの設置状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態のスロットル装置10の外観図である。
図2は、スロットルユニット(第2のスロットルユニット12)の概略構成図である。
図3は、第1のスロットルユニット11の減速機構20(減速機)の内部構造図である。
図4は、第2のスロットルユニット12の減速機構45(減速機)の内部構造図である。
【0020】
本発明のスロットル装置10は、多気筒のエンジンに装着される多連式のスロットル装置である。本実施形態のスロットル装置10は、自動二輪車等の車両に搭載された直列4気筒のエンジン1に採用されている。エンジン1は、車両に、♯1から♯4までの4つの気筒(2a、2b、2c、2d)が車幅方向(左右方向)に並ぶように配置されている。
【0021】
図1に示すように、スロットル装置10は、エンジン1の車幅方向一方側に配置される♯1気筒2a及び♯2気筒2b用の第1のスロットルユニット11(スロットルユニット)と、エンジン1の車幅方向他方側に配置される♯3気筒2c及び♯4気筒2d用の第2のスロットルユニット12(スロットルユニット)を有している。第1のスロットルユニット11及び第2のスロットルユニット12は車幅方向に左右に並んで配置されている。
【0022】
第1のスロットルユニット11と第2のスロットルユニット12とは、後述する減速機構20、45を除き、左右対称に構成されている。
【0023】
第1のスロットルユニット11は、♯1気筒2aの吸気通路13aが形成された第1のセグメントボディ14aと、♯2気筒2bの吸気通路13bが形成された第2のセグメントボディ14bと、を備えている。
【0024】
第2のスロットルユニット12は、♯3気筒2cの吸気通路13cが形成された第2のセグメントボディ14bと、♯4気筒2dの吸気通路13dが形成された第1のセグメントボディ14aと、を備えている。
【0025】
図1、2に示すように、第1のスロットルユニット11及び第2のスロットルユニット12は、更に、スロットルシャフト15と、スロットルバルブ16b~16dと、モータ17(モータ)と、減速機構20と、リターンスプリング21と、スロットルポジションセンサ22と、を備えている。なお、
図2は、第2のスロットルユニット12の内部構造を示しており、吸気通路13cにスロットルバルブ16cが、吸気通路13dにスロットルバルブ16dが設けられている。第1のスロットルユニット11においては、吸気通路13aにスロットルバルブ16aが、吸気通路13bにスロットルバルブ16bが設けられている。
【0026】
第1のセグメントボディ14aと第2のセグメントボディ14bは、対応する気筒2a~2dに合わせて左右方向(車幅方向)に並んで配置されてユニットボディ23(スロットルボディ)を形成している。
【0027】
吸気通路13a~13dは、左右方向に対して垂直(
図1、2において前後方向)に延びるように形成されている。スロットルシャフト15は、ユニットボディ23を貫通して車幅方向に延び、2つの吸気通路(13a及び13c、または13c及び13d)内を通過して、ユニットボディ23に回転可能に支持されている。
【0028】
スロットルバルブ16a~16dは、吸気通路13a~13dの内径と略同一径の円板状の部材であり、スロットルシャフト15に固定され、吸気通路13a~13d内に配置されている。スロットルバルブ16a~16dは、スロットルシャフト15の回転とともに吸気通路13a~13d内で回転し、吸気通路13a~13dを閉止する閉止位置と、吸気通路13a~13dを開放する開放位置との間で任意の角度に回転可能になっている。
【0029】
モータ17は、電気モータである。モータ17は、夫々のスロットルユニット11、12における第2のセグメントボディ14bに固定され、回転駆動軸24がスロットルシャフト15と平行になるように配置されている。
【0030】
減速機構20、45は、第1のセグメントボディ14aと第2のセグメントボディ14bとの間に配置されている。
図3、4に示すように、減速機構20、45は、中間軸25と、モータ17の回転駆動軸24に固定された第1のギヤ26と、中間軸25に固定され第1のギヤ26とかみ合う第2のギヤ27と、中間軸25に固定された第3のギヤ28と、スロットルシャフト15に固定され第3のギヤ28とかみ合う第4のギヤ29とを有している。中間軸25は、回転駆動軸24及びスロットルシャフト15と平行に配置され、ユニットボディ23に回転可能に支持されている。
【0031】
減速機構20、45は、モータ17の回転駆動軸24の回転を第1のギヤ26、第2のギヤ27、中間軸25、第3のギヤ28、第4のギヤ29の順番に伝達して減速し、スロットルシャフト15を回転駆動する。
【0032】
リターンスプリング21は、スロットルシャフト15の周囲を数回巻きまわすように配置され、一端部がユニットボディ23に支持され、他端部がスロットルシャフト15に支持されたねじりばねである。リターンスプリング21は、スロットルバルブ16c、16dが閉状態になるようにスロットルシャフト15を付勢する。
【0033】
スロットルポジションセンサ22は、スロットルシャフト15の一端部に備えられ、スロットルシャフト15の回転角を検出する機能を有する。スロットルポジションセンサ22は、例えば第1のセグメントボディ14aに配置されている。
【0034】
図1に示すように、スロットル装置10において、第1のスロットルユニット11及び第2のスロットルユニット12の第2のセグメントボディ14bが左右方向内側に、即ち第1のスロットルユニット11のモータ17(モータ)及び第2のスロットルユニット12のモータ17(モータ)が左右方向内側に配置され、スロットルポジションセンサ22が左右方向外側に配置されている。
【0035】
また、第1のスロットルユニット11には、吸気通路13a、13b内に燃料を噴射する燃料噴射弁30a、30bが備えられている。また、第2のスロットルユニット12には、吸気通路13a、13b内に燃料を噴射する燃料噴射弁30c、30dが備えられている。即ち、スロットル装置10には、各気筒2a~2dに対応して燃料噴射弁30a~30dが計4個備えられている。
【0036】
第1のスロットルユニット11に備えられた2つの燃料噴射弁30a、30bには、燃料パイプ31を介して、図示しない燃料ポンプから燃料を供給される。また、第2のスロットルユニット12に備えられた2つの燃料噴射弁30c、30dには、燃料パイプ32を介して、図示しない燃料ポンプから燃料を供給される。
【0037】
図5は、スロットル装置10の駆動用電気回路図である。
【0038】
スロットル装置10における第1のスロットルユニット11のモータ17と、第2のスロットルユニット12のモータ17は、夫々コントロールユニット40によって駆動制御される。
【0039】
コントロールユニット40は、エンジン1の作動を制御するための制御装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等を含んで構成されている。コントロールユニット40には、車両に設けられたアクセル開度センサ41によって検出されたアクセル開度を入力し、第1のスロットルユニット11のモータ17、第2のスロットルユニット12のモータ17に所定電圧を付加して駆動電流を出力し、各モータ17を駆動制御するとともに、各燃料噴射弁30a~30dを作動制御する。このとき、第1のスロットルユニット11及び第2のスロットルユニット12について、スロットルポジションセンサ22によって検出されたスロットルシャフト15の回転角を入力して、アクセル開度に応じたスロットルシャフト15の回転角になるように、夫々フィードバック制御が行われる。
【0040】
また、コントロールユニット40には、気筒休止運転を実行する気筒休止制御部42を備えている。
【0041】
気筒休止制御部42は、エンジン1の所定の運転領域、例えばアクセル開度が所定値以下となるような低出力要求時に、第2のスロットルユニット12のスロットルバルブ16c、16dが全開状態(所定の開度)になるようにモータ17を駆動制御するともに、燃料噴射弁30c、30dによる燃料噴射を停止する。なお、第1のスロットルユニット11のモータ17及び燃料噴射弁30a、30bについては、所定の運転領域においてもアクセル操作等に基づく要求出力に応じて作動制御される。
【0042】
これにより、エンジン1の♯1から♯4の4気筒2a~2dのうち、♯3及び♯4の2気筒2c、2dにおける燃焼が停止して出力が停止する。したがって、♯3及び♯4の気筒2c、2dにおける燃料消費が0となり、また♯3及び♯4気筒2c、2dにおいてスロットルバルブ16c、16dが全開状態になるので、ポンピングロスを低下させ、エンジン1全体の燃料消費を抑制することができる。
【0043】
本実施形態では、第1のスロットルユニット11の減速機構20の減速比と、第2のスロットルユニット12の減速機構45の減速比と、を互いに異なるものに設定している。
【0044】
図3、4に示すように、第2のスロットルユニット12の減速機構45について、第3のギヤ28と第4のギヤ29とのギヤ比を、第1のスロットルユニット11の減速機構20における第3のギヤ28と第4のギヤ29とのギヤ比よりも低く設定する。なお、第1のギヤ26と第2のギヤ27とのギヤ比を異なるものとしてもよいし、第1のギヤ26と第2のギヤ27比と、第3のギヤ28と第4のギヤ29のギヤ比の両方を異なるものとしてもよい。
【0045】
これにより、第1のスロットルユニット11及び第2のスロットルユニット12において、モータ17の回転駆動軸24の回転速度が同一であっても、気筒休止運転において気筒休止を行う気筒2c、2dに使用される第2のスロットルユニット12のスロットルシャフト15の回転速度を、気筒休止を行わない気筒2a、2bに使用される第1のスロットルユニット11のスロットルシャフト15の回転速度よりも早くすることができる。
【0046】
図6は、気筒休止運転から通常運転に移行した際の、スロットル開度の推移例を示したグラフである。
図6では、気筒休止運転状態から気筒休止運転を解除して通常運転に移行した際に、スロットルバルブ16a、16b、及び16c、16dの開度が所定開度Vo1に移行するまでの、スロットルバルブ16a、16b、及び16c、16dの開度の推移を夫々示している。なお、
図6では、気筒休止運転状態からエンジンの要求出力がわずかに増加して、全気筒2a~2dで燃焼を行う通常運転に移行した場合を示している。なお、気筒休止運転状態からエンジン1の要求出力がわずかに増加して通常運転に切り替わる際には、エンジン全体の出力が大きく変動しないように、気筒休止運転状態におけるスロットルバルブ16a、16bの開度(所定開度Vo2)は、通常運転におけるスロットルバルブ16a、16b、16c、16dの開度(所定開度Vo1)よりも大きい。
【0047】
図6に示すように、気筒休止制御部42による気筒休止運転時には、第1のスロットルユニット11のスロットルバルブ16a、16bの開度は、アクセル操作等に基づく要求出力に対応したスロットル開度Vo2である一方、第2のスロットルユニット12のスロットルバルブ16c、16dの開度は全開状態である。そして、例えばアクセル開操作して、要求出力が増加し、気筒休止運転が解除された場合には、いずれのスロットルバルブ16a~16dもアクセル操作等に基づく要求開度Vo1となる通常運転になるようにモータ17が夫々制御される。
【0048】
ここで比較例として、第2のスロットルユニット12の減速機構45の減速比が、第1のスロットルユニット11の減速機構20の減速比と同一である場合には、
図6中の破線で示すように、第2のスロットルユニット12のスロットルバルブ16c、16dの開度と、第1のスロットルユニット11のスロットルバルブ16a、16bの開度(
図6中の細い実線で示す)とが、同等の速度で推移する。したがって、スロットルバルブ16a、16bの開度が所定開度Vo1に到達しても、スロットルバルブ16c、16dの開度が所定開度Vo1に到達しない期間が発生する。これにより、気筒休止運転から通常運転への切り替えの全期間と、気筒休止運転から通常運転に移行した直後に、スロットルバルブ16a、16bとスロットルバルブ16c、16dの開度が一致せずに、♯1、2気筒2a、2bと♯3、4気筒2c、2dの出力差により、運転者がエンジン1の出力フィーリングに違和感を覚える可能性がある。
【0049】
これに対し、本実施形態では、第2のスロットルユニット12の減速機構45の減速比が、第1のスロットルユニット11の減速機構20の減速比よりも小さいので、
図6中の太い実線で示すように、第1のスロットルユニット11のスロットルバルブ16a、16bの開度が所定開度Vo1に到達する前に、スロットルバルブ16c、16dの開度とスロットルバルブ16a、16bの開度が一致する。なお、スロットルバルブ16c、16dの開度とスロットルバルブ16a、16bの開度が一致してから所定開度Vo1に到達するまでは、スロットルバルブ16c、16dの開度とスロットルバルブ16a、16bの開度が一致したまま移行するように各モータ17を制御すればよい。
【0050】
これにより、本実施形態では、気筒休止運転から通常運転に移行する際に、第1のスロットルユニット11のスロットルバルブ16a、16bの開度と、第2のスロットルユニット12のスロットルバルブ16c、16dの開度とが早期に一致するので、♯1、2気筒2a、2bと♯3、4気筒2c、2dの出力を迅速に一致させることができ、エンジンの出力を滑らかにしてエンジン1の出力フィーリングの向上を図ることができる。
【0051】
以上のように、本実施形態のスロットル装置10は、エンジン1の4個の気筒2a~2dの吸気通路の13a~13dの夫々にスロットルバルブ16a~16dを備えた多連式のスロットル装置10であり、2個のスロットルユニット11、12を備えている。スロットル装置10は、第1のスロットルユニット11に備えられたモータ17によって2個のスロットルバルブ16a、16bを、第2のスロットルユニット12に備えられたモータ17によって2個のスロットルバルブ16a、16bを、夫々駆動する構造になっている。
【0052】
そして、本実施形態では、第1のスロットルユニット11の減速機構20と、第2のスロットルユニット12の減速機構とを、減速比が互いに異なるものとしてる。
【0053】
このように、減速機構20と減速機構45とを減速比が互いに異なるものとすることで、第1のスロットルユニット11のスロットルバルブ16a、16bと、第2のスロットルユニット12のスロットルバルブ16c、16dと、を簡単な構成でバルブ開度制御の応答性を異なるものにすることができる。
【0054】
更に、本実施形態のエンジン1は、気筒休止運転機能を備えており、低要求出力時に、4個の気筒2a~2dのうち一部の気筒2c、2dに対応する、第2のスロットルユニット12のスロットルバルブ16bの開度を全開にさせる。
【0055】
本実施形態では、気筒休止運転機能において全開作動させる第2のスロットルユニット12の減速機構45を、気筒休止運転において気筒休止させない第1のスロットルユニット11の減速機構20よりも減速比を小さくしたので、気筒休止運転が解除された際に第2のスロットルユニット12のスロットルバルブ16c、16dの開度を迅速に低下させて第1のスロットルユニット11のスロットルバルブ16a、16bと同一の開度にすることで、簡単な構成で、エンジン1出力の違和感を抑制することが可能になる。
【0056】
また、上記の実施形態の減速機構20、45において、リターンスプリング21のセットトルクを変更可能な構造にしてもよい。リターンスプリング21のセットトルクは、スロットルバルブ16a~16dの閉止状態におけるリターンスプリング21による閉方向への付勢トルクである。
【0057】
図7は、第2のスロットルユニット12におけるリターンスプリング21の取付部の組立図である。
図8は、第1のスロットルユニット11におけるリターンスプリング21の設置状態を示す説明図である。
図9は、第2のスロットルユニット12におけるリターンスプリング21の設置状態を示す説明図である。なお、
図7は、リターンスプリング21の取り付け部が見易くなるように、
図1~4、8、9とは上下方向を逆にして、モータ17よりもスロットルシャフト15を上方に図示している。また、第1のスロットルユニット11と第2のスロットルユニット12とは左右対称であるが、第1のスロットルユニット11と第2のスロットルユニット12とを比較し易くするために、
図8については左右反転して図示している。
【0058】
図7に示すように、ユニットボディ23の端部(詳しくは、第2のセグメントボディ14bの減速機構20側の端部)には、スロットルシャフト15が挿入される挿入穴51の周囲に、挿入穴51の軸線方向外方に突出した円筒状のリブ52が形成されている。また、第2のセグメントボディ14bの端部には、リブ52の径方向外方に2個の突起(第1の突起53a、第2の突起53b)が形成されている。第1の突起53a及び第2の突起53bは、例えば直径数mm程度の円柱状であって、リブ52と平行に挿入穴51の軸線方向外方に突出し、リブ52の先端付近まで突出している。第1の突起53a及び第2の突起53bは、挿入穴51を中心とした同心円上に、周方向に互いに間隔を置いて、例えば挿入穴51を挟んで互いに反対の位置に配置されている。
【0059】
リターンスプリング21は、両端部21a、21bが夫々径方向外方に突出している。リターンスプリング21は、リブ52の先端部が挿入されるように配置され、第2のセグメントボディ14b側の端部21aが、第1の突起53a及び第2の突起53bに係止可能に構成されている。
【0060】
第4のギヤ29とスロットルシャフト29とは、円板状のフック板55を介して固定されている。フック板55の中心部には、スロットルシャフト15が挿入されるシャフト連結穴55aが設けられている。シャフト連結穴55a及びスロットルシャフト15の先端部は例えば矩形状に形成され、スロットルシャフト15とフック板55とは互いに回転不能に、即ち第4のギヤ29の回転がスロットルシャフト15に伝達するように連結されている。
【0061】
スロットルシャフト15の先端部には、フック板55の軸方向の位置決めをする段差15aが設けられている。スロットルシャフト15の先端部が挿入されて配置されたフック板55と第2のセグメントボディ14bとの間にリターンスプリング21が配置される。フック板55の外側には、第4のギヤ29が例えば複数のボルトによって固定される。
【0062】
フック板55の外周端部には、径方向外方に延びかつその先端が軸方向(第2のセグメントボディ14b側)に向かって屈曲した第1のフック55b、第2のフック55d及びストッパ55cが形成されている。第1のフック55b及び第2のフック55dは、シャフト連結穴55aを中心とした同心円上に、周方向に互いに間隔を置いて配置されている。また、第1のフック55b及び第2のフック55dには、いずれもリターンスプリング21の端部21bを容易に係止するために、例えば溝が形成されている。
【0063】
ストッパ55cは、第2のセグメントボディ14bに設けられたストッパボルト56に当接して、スロットルシャフト15の一方向の回転(
図7において右回転)を規制する。ストッパボルト56は、ストッパ55cとの当接位置を調整可能になっている。
【0064】
リターンスプリング21は、第2のセグメントボディ14bに対して、フック板55を一回転方向(
図7において右回転)に付勢するが、ストッパ55cによって所定の回転位置で回転が規制される。即ち、リターンスプリング21の付勢力によって、スロットルシャフト15がユニットボディ23に対して回転するように付勢される。これにより、モータ17の非作動時にスロットルバルブ16c、16d(第1のスロットルユニット11においては16a、16b)が閉止される。
【0065】
また、モータ17を作動させることで、減速機構20を介して第4のギヤ29が、リターンスプリング21による付勢に抗して回転(
図7では左回転)する。
【0066】
本実施形態の減速機構20においては、第2のセグメントボディ14bに突起53a、53bが2箇所設けられており、このうちのいずれか一方に選択的にリターンスプリング21の第2のセグメントボディ14b側の端部21aを係止することが可能になっている。リターンスプリング21による付勢によってスロットルバルブ16c、16d(16a、16b)は閉方向に付勢され、モータ17の非作動時にスロットルバルブ16c、16d(16a、16b)は閉止状態になる。この閉止状態におけるリターンスプリング21による付勢トルク、即ちスロットルバルブ16c、16d(16a、16b)を閉止状態に維持するセットトルクは、リターンスプリング21の端部21aの係止位置によって規定される。
【0067】
図8に示すように、第1のスロットルユニット11では、リターンスプリング21の端部21aを第1の突起53aに係止させることで、セットトルクは比較的小さく設定される。
【0068】
図9に示すように、第2のスロットルユニット12では、リターンスプリング21の端部21aを第2の突起53bに係止させることで、セットトルクは比較的大きく設定される。
【0069】
また、フック板55には、第1のフック55b及び第2のフック55dが形成されており、リターンスプリング21の端部21bを、第1のフック55b及び第2のフック55dのいずれかに係止するかによっても、セットトルクが変更可能になっている。
【0070】
第1のスロットルユニット11では、リターンスプリング21の端部21bを第1のフック55bに係止させることで、セットトルクは比較的小さく設定される。
【0071】
第2のスロットルユニット12では、リターンスプリング21の端部21bを第2のフック55dに係止させることで、セットトルクは比較的大きく設定される。
【0072】
したがって、第1のスロットルユニット11及び第2のスロットルユニット12のスロットルバルブ16a~16dを全開状態から全閉状態に作動させた際に、気筒休止を行う第2のスロットルユニット12のスロットルバルブ16c、16dは、気筒休止を行わない第1のスロットルユニット11のスロットルバルブ16a、16bよりも、更に迅速に閉作動させることが可能となる。
【0073】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様は上記実施形態に限定されるものではない。
【0075】
また、本実施形態では、4気筒のエンジン1のスロットル装置10に本発明を適用しているが、4気筒以外の複数の気筒のエンジンのスロットル装置に適用してもよい。
【0076】
また、本実施形態のスロットル装置10は、2つのスロットルユニット11、12を有し、4気筒を2気筒ずつ、計2個のモータ17で各気筒用のスロットルバルブを駆動するが、3個以上のモータを備えたものでもよい。また、各モータが作動するスロットルバルブの個数は、2個以外であってもよい。
【0077】
また、本発明のスロットル装置は、自動二輪車以外に使用されるエンジンにも採用することができる。
【0078】
本発明は、多気筒のエンジンに採用され、複数のモータによって、複数のスロットルバルブを分担して開閉作動するエンジンのスロットル装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 エンジン
2a、2b、2c、2d 気筒
10 スロットル装置
11 第1のスロットルユニット(スロットルユニット)
12 第2のスロットルユニット(スロットルユニット)
13a、13b、13c、13d 吸気通路
15 スロットルシャフト
16a、16b、16c、16d スロットルバルブ
17 モータ
20、45 減速機構(減速機)
23 ユニットボディ(スロットルボディ)
40 コントロールユニット
42 気筒休止制御部