(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20231121BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B60C11/03 300C
B60C11/03 C
B60C11/00 Z
(21)【出願番号】P 2019224625
(22)【出願日】2019-12-12
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】里井 彩
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-322406(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084320(WO,A1)
【文献】特開2011-084173(JP,A)
【文献】特開2011-251614(JP,A)
【文献】特開平03-010908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
B60C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に間隔を置いて複数形成され、トレッド面のタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向一方側へ傾斜して延びる傾斜溝と、
前記傾斜溝によって区画された傾斜陸部と、を備え、
前記傾斜陸部は、センターブロック、クオーターブロック及びショルダーブロックに区画され、この順でタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かって配置されており、
前記センターブロックのタイヤ周方向他方側の先端位置Aと前記クオーターブロックのタイヤ周方向他方側の先端位置Bとを結ぶ仮想直線ABと、前記先端位置Aと前記ショルダーブロックのタイヤ周方向他方側の先端位置Cとを結ぶ仮想直線ACとのなす角度が10度以下で
あり、
前記トレッド面のセンターラインからタイヤ幅方向外側に接地半幅の20%離れた位置でタイヤ周方向一方側の接地輪郭線に接する接線TLと、前記仮想直線ACとのなす角度が10度以下である、空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ周方向に間隔を置いて複数形成され、トレッド面のタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向一方側へ傾斜して延びる傾斜溝と、
前記傾斜溝によって区画された傾斜陸部と、を備え、
前記傾斜陸部は、センターブロック、クオーターブロック及びショルダーブロックに区画され、この順でタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かって配置されており、
前記センターブロックのタイヤ周方向他方側の先端位置Aと前記クオーターブロックのタイヤ周方向他方側の先端位置Bとを結ぶ仮想直線ABと、前記先端位置Aと前記ショルダーブロックのタイヤ周方向他方側の先端位置Cとを結ぶ仮想直線ACとのなす角度が10度以下であり、
タイヤ幅方向に対する前記仮想直線ABの傾斜角度、及び、タイヤ幅方向に対する前記仮想直線ACの傾斜角度が、それぞれ15度以下である、空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記仮想直線AB及び前記仮想直線ACが、それぞれタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向他方側に傾斜している、
請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記センターブロックが設けられた領域における前記傾斜溝のタイヤ幅方向に対する傾斜角度が40~60度である、請求項1~3いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、トレッド面のタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向一方側へ傾斜して延びる傾斜溝と、その傾斜溝などで区画された複数のブロックとを備えた空気入りタイヤが記載されている。
【0003】
かかる傾斜溝が設けられていることにより、タイヤ幅方向外側への排水効率が高められ、排水性能が確保される。その一方で、傾斜溝が設けられていることにより、雪上制動時にブロックのすべり始めるタイミングが領域ごとに異なる傾向にある。このため、各領域で発生するブロックのせん断力が有効に活用されず、力のロスを生じ、雪上制動性能を十分に発揮できないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、排水性能を確保しながら雪上制動性能を向上できる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に間隔を置いて複数形成され、トレッド面のタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向一方側へ傾斜して延びる傾斜溝と、前記傾斜溝によって区画された傾斜陸部と、を備え、前記傾斜陸部は、センターブロック、クオーターブロック及びショルダーブロックに区画され、この順でタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かって配置されており、前記センターブロックのタイヤ周方向他方側の先端位置Aと前記クオーターブロックのタイヤ周方向他方側の先端位置Bとを結ぶ仮想直線ABと、前記先端位置Aと前記ショルダーブロックのタイヤ周方向他方側の先端位置Cとを結ぶ仮想直線ACとのなす角度が10度以下である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の空気入りタイヤのトレッド面の一例を示す平面展開図
【
図2】
図1のトレッド面の接地面形状を示す要部拡大図
【
図3】
図1のトレッドパターンの一部を抽出して示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0009】
図1は、本実施形態の空気入りタイヤPT(以下、単に「タイヤPT」ともいう)が備えるトレッド面Trの平面展開図である。
図1の上下方向がタイヤ周方向に相当し、
図1の左右方向がタイヤ幅方向に相当する。
図2は、そのトレッド面Trの接地面形状を示す要部拡大図である。
図2では、サイプの図示を省略している。
図1,2に示すように、トレッド面Trに形成されているトレッドパターンは、ブロックパターンである。
【0010】
本実施形態の空気入りタイヤPTは、回転方向が指定された回転方向指定型タイヤである。図面では、回転方向を矢印RDで示している。回転方向の指定は、例えば、タイヤPTのサイドウォール部の外表面に、回転方向を示す表示(例えば、矢印)を付すことにより行われる。
【0011】
空気入りタイヤPTは、タイヤ周方向に間隔を置いて複数形成された傾斜溝1と、その傾斜溝1によって区画された傾斜陸部2とを備える。傾斜溝1は、トレッド面Trのタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向一方側CD1へ傾斜して延びる。タイヤ周方向一方側CD1は、回転方向RDの後方側に相当する。傾斜陸部2は、センターブロック3、クオーターブロック4及びショルダーブロック5に区画され、この順でタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かって配置されている。センターブロック3、クオーターブロック4及びショルダーブロック5は、それぞれ平面視で四角形(四辺形)をなすが、これに限られない。
【0012】
傾斜陸部2を構成するブロックのうち、センターブロック3が最もタイヤ幅方向内側に位置し、ショルダーブロック5が最もタイヤ幅方向外側に位置する。傾斜陸部2は、一対の接続溝6,7によって三つのブロックに区画されている。接続溝6は、センターブロック3とクオーターブロック4とを区画し、接続溝7は、クオーターブロック4とショルダーブロック5とを区画する。接続溝6,7は、それぞれタイヤ周方向に延びて傾斜溝1同士を接続している。接続溝6,7は、それぞれタイヤ周方向他方側CD2に向かってタイヤ幅方向外側に傾斜している。タイヤ周方向他方側CD2は、回転方向RDの前方側に相当する。
【0013】
本実施形態の空気入りタイヤPTは、タイヤ周方向に連続して延びたセンター主溝8を備える。これにより排水効率が高められるので、排水性能を確保するうえで都合がよい。センター主溝8は、トレッド面Trのタイヤ幅方向中央部に配置される。本実施形態では、センター主溝8が、トレッド面TrのセンターラインCL(タイヤ赤道)を通っている。傾斜溝1は、センター主溝8からタイヤ幅方向外側に延びて接地端TEに達している。センター主溝8の形状は、本実施形態のようなストレート状に限られず、ジグザグ状であってもよい。また、センター主溝8が設けられていなくてもよい。
【0014】
センターラインCL(及びセンター主溝8)は、トレッド面Trをタイヤ幅方向に二分し、一対のトレッド半領域を形成している。その一方側(
図1の右側)のトレッド半領域は、複数のセンターブロック3がタイヤ周方向に配列されたセンター領域3a、複数のクオーターブロック4がタイヤ周方向に配列されたクオーター領域4a、及び、複数のショルダーブロック5がタイヤ周方向に配列されたショルダー領域5aを有し、この順でタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かって設けられている。
【0015】
図2に示す接地面形状は、タイヤ周方向一方側CD1の接地輪郭線PLを含む。接地輪郭線PLは、タイヤPTを正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤPTを平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの接地面の輪郭線である。接地端TEは、その接地面のタイヤ幅方向の最外位置である。接地幅Wは、その接地面の幅であり、一対の接地端TE間のタイヤ幅方向の距離である。接地幅Wの半分が接地半幅HWである。
【0016】
正規リムは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤごとに定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRA及びETRTOであれば「Measuring Rim」となる。正規内圧は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤごとに定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば「INFLATION PRESSURE」である。なお、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとし、さらに、Extra LoadまたはReinforcedと記載されたタイヤである場合には220kPaとする。正規荷重は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤごとに定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば上記の表に記載の最大値、ETRTOであれば「LOAD CAPACITY」であるが、タイヤが乗用車用である場合には内圧の対応荷重の88%とする。
【0017】
図2において、タイヤ周方向一方側CD1は、車両の前進方向に相当し、タイヤPTの踏込側(回転方向RDの後方側)となる。タイヤPTの転動に応じて、センターブロック3は、そのタイヤ周方向他方側CD2の先端位置Aから接地を開始する。クオーターブロック4及びショルダーブロック5についても同様である。よって、センターブロック3のタイヤ周方向他方側CD2の先端位置A、クオーターブロック4のタイヤ周方向他方側CD2の先端位置B、及び、ショルダーブロック5のタイヤ周方向他方側CD2の先端位置Cは、各ブロックの踏込側の先端位置となる。
【0018】
本実施形態において、先端位置Aは、センターブロック3の頂面において、傾斜溝1に接するブロック縁とセンター主溝8に接するブロック縁(センター主溝8が設けられていない場合はセンターラインCL)とがV字状に交わる位置である。先端位置Bは、クオーターブロック4の頂面において、傾斜溝1に接するブロック縁と接続溝6に接するブロック縁とがV字状に交わる位置である。先端位置Cは、ショルダーブロック5の頂面において、傾斜溝1に接するブロック縁と接続溝7に接するブロック縁とがV字状に交わる位置である。
【0019】
このタイヤPTでは、先端位置Aと先端位置Bとを結ぶ仮想直線ABと、先端位置Aと先端位置Cとを結ぶ仮想直線ACとのなす角度θ1(即ち、∠BAC)が10度以下である。角度θ1は、或る傾斜陸部2での先端位置Aと、その先端位置Aを含む傾斜陸部2のタイヤ周方向他方側CD2に隣接した傾斜陸部2での先端位置Bと、その先端位置Bを含む傾斜陸部2のタイヤ周方向他方側CD2に隣接した傾斜陸部2での先端位置Cとを用いて定めることができる。したがって、先端位置Aを含む傾斜陸部2は、先端位置Bを含む傾斜陸部2にタイヤ周方向一方側CD1で隣接し、先端位置Cを含む傾斜陸部2は、先端位置Bを含む傾斜陸部2にタイヤ周方向他方側CD2で隣接する。
【0020】
角度θ1が10度以下であるため、傾斜溝1を設けていながらも、先端位置A,B,Cが略直線状に配置される。これにより、センターブロック3、クオーターブロック4及びショルダーブロック5の接地する時期を近付け、それらが制動時にすべり始めるタイミングを略同じにできる。その結果、各領域(センター領域3a、クオーター領域4a、ショルダー領域5a)でのブロックのせん断力(雪柱せん断力)を有効に活用して、雪上制動性能を向上できる。また、トレッド面Tr内でのブロックの挙動が各領域で均一になるため、領域間での偏摩耗(例えば、センター領域3aが優先的に摩耗するセンター摩耗)を抑制できる。角度θ1は、5度以下が好ましく、3度以下がより好ましい。
【0021】
本実施形態では、仮想直線AB及び仮想直線ACが、それぞれタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向他方側CD2に傾斜している。これにより、センターブロック3、クオーターブロック4及びショルダーブロック5のすべり始めるタイミングが合いやすくなり、雪上制動性能を効果的に向上できる。タイヤ幅方向に対する仮想直線ABの傾斜角度α、及び、タイヤ幅方向に対する仮想直線ACの傾斜角度βは、それぞれ15度以下であることが好ましい。本実施形態では、仮想直線ACが仮想直線ABよりも回転方向RDの前方側に位置しており、これらの位置関係は逆でもよいが、互いに一致することが好ましい。
【0022】
接線TLは、センターラインCLからタイヤ幅方向外側に接地半幅HWの20%離れた位置Xで接地輪郭線PLに接する。この接地輪郭線PLの接線TLと仮想直線ACとのなす角度θ2は、10度以下であることが好ましい。これにより、センターブロック3、クオーターブロック4及びショルダーブロック5のすべり始めるタイミングが合いやすくなり、雪上制動性能を効果的に向上できる。接線TLと仮想直線ABとのなす角度も10度以下が好ましい。接地半幅HWの20%離れた位置Xを基準にしているのは、タイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向他方側CD2に傾斜し且つタイヤごとのばらつきが小さい接線TLが得られるためである。
【0023】
図3は、
図1に示したトレッドパターンの一部を抽出して示している。センターブロック3が設けられた領域(即ち、センター領域3a)における傾斜溝1のタイヤ幅方向に対する傾斜角度θ3は、例えば40~60度である。これにより、上述したブロックの配置により雪上制動性能を向上しつつ、排水性能を確保するうえで都合がよい。傾斜角度θ3は、先端位置Aからタイヤ幅方向外側に延びるブロック縁のタイヤ幅方向に対する角度として求めることができる。傾斜角度θ3は、後述する傾斜角度θ4及び傾斜角度θ5よりも大きいことが好ましい。
【0024】
クオーターブロック4が設けられた領域(即ち、クオーター領域4a)における傾斜溝1のタイヤ幅方向に対する傾斜角度θ4は、例えば30~50度である。これにより、上述したブロックの配置により雪上制動性能を向上しつつ、排水性能を確保するうえで都合がよい。傾斜角度θ4は、先端位置Bからタイヤ幅方向外側に延びるブロック縁のタイヤ幅方向に対する角度として求めることができる。傾斜角度θ4は、後述する傾斜角度θ5よりも大きいことが好ましい。
【0025】
ショルダーブロック5が設けられた領域(即ち、ショルダー領域5a)における傾斜溝1のタイヤ幅方向に対する傾斜角度θ5は、例えば0~20度である。これにより、上述したブロックの配置により雪上制動性能を向上するうえで都合がよい。傾斜角度θ5は、先端位置Cからタイヤ幅方向外側に延びるブロック縁のタイヤ幅方向に対する角度として求めることができる。
【0026】
本実施形態では、センターブロック3のタイヤ周方向の長さL3が、そのセンターブロック3のタイヤ幅方向の長さ(即ち、幅W3)よりも大きい。それらの比L3/W3は、例えば1.5以上である。クオーターブロック4のタイヤ周方向の長さL4は、そのクオーターブロック4のタイヤ幅方向の長さ(即ち、幅W4)と同じか、それよりも大きい。それらの比L4/W4は、例えば1.0~1.5である。ショルダーブロック5のタイヤ周方向の長さL5は、そのショルダーブロック5のタイヤ幅方向の長さ(即ち、幅W5)と同じか、それよりも小さい。それらの比L5/W5は、例えば0.4~1.0である。長さL5及び幅W5は、いずれも接地面内で求められる。
【0027】
センターブロック3には、複数のセンターサイプ3sが形成されている。センターサイプ3sの両端は溝に接続されているが、片端または両端がブロック内で終端してもよい。センターサイプ3sは、タイヤ幅方向と交差するように延び、且つ、傾斜溝1に接するセンターブロック3のブロック縁と交差するように延びている。センターサイプ3sは、直線状に延びる直線サイプ3s1と、屈曲部を有する屈曲サイプ3s2とを含む。直線サイプ3s1は、センターブロック3のタイヤ周方向の端部に配置され、屈曲サイプ3s2は、センターブロック3のタイヤ周方向の中央部に配置されている。
【0028】
クオーターブロック4には、複数のクオーターサイプ4sが形成されている。クオーターサイプ4sの両端は溝に接続されているが、これに限られない。クオーターサイプ4sは、タイヤ幅方向と交差するように延び、且つ、傾斜溝1に接するクオーターブロック4のブロック縁と交差するように延びている。クオーターサイプ4sは、直線状に延びる直線サイプ4s1と、屈曲部を有する屈曲サイプ4s2とを含む。直線サイプ4s1は、クオーターブロック4のタイヤ周方向の端部に配置され、屈曲サイプ4s2は、クオーターブロック4のタイヤ周方向の中央部に配置されている。クオーターサイプ4sがタイヤ幅方向と交差する角度θ4sは、センターサイプ3sがタイヤ幅方向と交差する角度θ3sよりも大きい。
【0029】
ショルダーブロック5には、複数のショルダーサイプ5sが形成されている。ショルダーサイプ5sの一端は溝に接続され、他端は接地端TEに達しているが、これに限られない。ショルダーサイプ5sは、直線状に延びる直線サイプ5s1と、屈曲部を有する屈曲サイプ5s2とを含む。屈曲サイプ5s2の屈曲部は波形状を有するが、これに限られず、このことは屈曲サイプ3s2や屈曲サイプ4s2でも同様である。ショルダーサイプ5sがタイヤ幅方向と交差する角度θ5sは、クオーターサイプ4sがタイヤ幅方向と交差する角度θ4sよりも小さい。サイプ3s,4s,5sは、幅1.6mm未満の切り込みにより形成されている。
【0030】
本実施形態では、トレッド面Trのタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向の両外側に向かってタイヤ周方向一方側CD1へ傾斜して延びる、一対の傾斜溝1,11が設けられている。傾斜溝1,11及びセンター主溝8が、トレッド面Trの主溝である。他方側(
図1の左側)のトレッド半領域には、タイヤ周方向に間隔を置いて複数形成された傾斜溝11と、その傾斜溝11によって区画された傾斜陸部12とが設けられている。傾斜溝11は、トレッド面Trのタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向一方側CD1へ傾斜して延びている。傾斜陸部12は、接続溝16及び接続溝17によって、センターブロック13、クオーターブロック14及びショルダーブロック15に区画され、この順でタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かって配置されている。
【0031】
他方側のトレッド半領域のパターンは、一方側のトレッド半領域のパターンをセンターラインCLに関して反転させた形状であるため、重複した説明を省略する。一方側のトレッド半領域について説明した事項は、他方側のトレッド半領域にも当て嵌まる。したがって、上述した仮想直線ABと仮想直線ACとの角度関係(即ち、角度θ1が10度以下)は、一方側のトレッド半領域と同様に、他方側のトレッド半領域でも成立する。かかる角度関係は、少なくとも片側のトレッド半領域で成立していればよいが、本実施形態のように両側のトレッド半領域で成立することが好ましい。
【0032】
本実施形態では、一方側のトレッド半領域のパターンに対して、他方側のトレッド半領域のパターンがタイヤ周方向にシフト(位置ずれ)している。これにより、雪上制動性能を向上しながら、ヒールアンドトウ摩耗などの偏摩耗の発生を抑制できる。この位置ずれ量となるシフト長さSL(
図3参照)は、例えばピッチ長P(
図1参照)の10~50%である。但し、これに限られず、両側のトレッド半領域のパターンのタイヤ周方向位置が互いに一致していてもよい。
【0033】
空気入りタイヤPTは、上記の如くトレッド面Trの構造に特徴を有して排水性能と雪上制動性能に優れるため、雪用タイヤまたはオールシーズンタイヤとして有用である。雪用タイヤである場合において、トレッド面Trを形成するトレッドゴムのゴム硬度は、例えば55~73°である。このゴム硬度は、JISK6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)に準じて25℃で測定した硬度である。
【0034】
以上のように、本実施形態の空気入りタイヤPTは、タイヤ周方向に間隔を置いて複数形成され、トレッド面Trのタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向一方側CD1へ傾斜して延びる傾斜溝1と、傾斜溝1によって区画された傾斜陸部2と、を備える。傾斜陸部2は、センターブロック3、クオーターブロック4及びショルダーブロック5に区画され、この順でタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かって配置されている。センターブロック3のタイヤ周方向他方側CD2の先端位置Aとクオーターブロック4のタイヤ周方向他方側CD2の先端位置Bとを結ぶ仮想直線ABと、先端位置Aとショルダーブロック5のタイヤ周方向他方側CD2の先端位置Cとを結ぶ仮想直線ACとのなす角度θ1は10度以下である。
【0035】
傾斜溝1を備えていることにより、タイヤ幅方向外側への排水効率が高められ、排水性能が確保される。このため、濡れた路面でのハイドロプレーニング現象の発生が抑えられる。また、仮想直線ABと仮想直線ACとのなす角度θ1が小さく、具体的には10度以下であることにより、センターブロック3、クオーターブロック4及びショルダーブロック5が雪上制動時に略同じタイミングですべり始める。その結果、各領域(センター領域3a、クオーター領域4a、ショルダー領域5a)でのブロックのせん断力を有効に活用して、雪上制動性能を向上できる。
【0036】
本実施形態の空気入りタイヤPTでは、仮想直線AB及び仮想直線ACが、それぞれタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向他方側CD2に傾斜している。これによって、仮想直線AB及び仮想直線ACが接線TLと同じ向きに傾斜するため、センターブロック3、クオーターブロック4及びショルダーブロック5のすべり始めるタイミングが合いやすくなり、雪上制動性能を効果的に向上できる。
【0037】
本実施形態の空気入りタイヤPTでは、トレッド面TrのセンターラインCLからタイヤ幅方向外側に接地半幅HWの20%離れた位置Xでタイヤ周方向一方側CD1の接地輪郭線PLに接する接線TLと、仮想直線ACとのなす角度θ1が10度以下である。仮想直線ACが接線TLと同程度に傾斜しているので、センターブロック3、クオーターブロック4及びショルダーブロック5のすべり始めるタイミングが合いやすくなり、雪上制動性能を効果的に向上できる。
【0038】
本実施形態の空気入りタイヤPTでは、センターブロック3が設けられた領域(即ち、センター領域3a)における傾斜溝1のタイヤ幅方向に対する傾斜角度θ3が40~60度である。これにより、上述したブロックの配置により雪上制動性能を向上しつつ、排水性能を確保するうえで都合がよい。
【0039】
空気入りタイヤPTは、トレッド面Trを上記の如く構成すること以外は、通常の空気入りタイヤと同等に構成でき、従来公知の材料、形状、構造、製法などは何れも採用することができる。図示しないが、空気入りタイヤPTは、一対のビード部と、そのビード部の各々からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール部と、その一対のサイドウォール部の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部とを備えており、そのトレッド部の外周面がトレッド面Trによって形成されている。
【0040】
本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、この実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、更に、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【0041】
本開示の空気入りタイヤは、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、また、上記した作用効果に限定されるものではない。本開示の空気入りタイヤは、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【実施例】
【0042】
本開示の空気入りタイヤの構成と効果を具体的に示すため、下記(1)~(3)の評価試験を行ったので説明する。これらの評価試験では、
図1の如きトレッドパターンを有するテストタイヤ(タイヤサイズ:205/55R16 91H)を使用し、これをJATMAに規定されるサイズの標準リムに装着して、車両指定の空気圧を充填した。表1に示した構成を除いて、各例におけるタイヤ構造やゴム配合は共通している。
【0043】
(1)雪上制動性能
テストタイヤを装着した実車(2名乗車)で雪道を走行し、速度40km/hで制動力をかけてABSを作動させたときの制動距離を測定して、その逆数を算出した。参考例の結果を100とした指数で評価し、数値が大きいほど雪上制動性能に優れることを示す。
【0044】
(2)排水性能(耐ハイドロプレーニング性能)
テストタイヤを装着した実車(2名乗車)で、一方の片輪が水深10mmの水路、他方の片輪が乾燥路となる直進路を走行し、左右輪のスリップ率差10%に到達した速度を計測した。参考例の結果を100とした指数で評価し、数値が大きいほど排水性能に優れることを示す。
【0045】
(3)耐偏摩耗性能
テストタイヤを装着した実車(2名乗車)で走行し、20000km走行後にセンター領域の摩耗量とショルダー領域の摩耗量との差を測定し、その逆数を算出した。参考例の結果を100とした指数で評価し、数値が大きいほど耐偏摩耗性能に優れることを示す。
【0046】
【0047】
表1に示すように、実施例1~3では、排水性能を確保しながら、参考例に比べて雪上制動性能を向上できている。
【符号の説明】
【0048】
1・・・傾斜溝、2・・・傾斜陸部、3・・・センターブロック、4・・・クオーターブロック、5・・・ショルダーブロック、6・・・接続溝、7・・・接続溝、8・・・センター主溝、A・・・センターブロックの先端位置、AB・・・仮想直線、AC・・・仮想直線、B・・・クオーターブロックの先端位置、C・・・ショルダーブロックの先端位置、CD1・・・タイヤ周方向一方側、CD2・・・タイヤ周方向他方側、CL・・・センターライン、TL・・・接線、Tr・・・トレッド面、θ1・・・仮想直線ABと仮想直線ACとのなす角度、θ2・・・接線TLと仮想直線ACとのなす角度