(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】パワーシフト変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 3/32 20060101AFI20231121BHJP
F16H 55/17 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
F16H3/32
F16H55/17 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019225523
(22)【出願日】2019-12-13
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】10 2018 132 351.4
(32)【優先日】2018-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】598113922
【氏名又は名称】レンク・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ブルクハルト・ピンネカンプ
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-299808(JP,A)
【文献】中国実用新案第208686899(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 3/32
F16H 55/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業用の変速機である、パワーシフト変速機(10)であって、
回転可能且つ軸方向に固定されて組み付けられた入力軸(11)を有し、
回転可能且つ軸方向に固定されて組み付けられた出力軸(14)を有し、
回転可能に組み付けられた中間軸(19)を有し、
入力軸(11)および出力軸(14)のうち、動作中に、入力軸(11)および出力軸(14)の他方の軸よりも、より速く回転する軸が、第1の歯車(16)および第2の歯車(17)を保持し、
入力軸(11)および出力軸(14)のうち、動作中に、入力軸(11)および出力軸(14)の他方の軸よりも、より遅く回転する軸が、第3の歯車(18)を保持し、
前記中間軸(19)が、第4の歯車(20)、第5の歯車(21)および第6の歯車(22)を保持し、これらの歯車が、ユニットとして、前記第1および第2の歯車(16、17)ならびに前記第3の歯車(18)に対して、
第1の変速段を実現する第1のシフト位置においては、前記第1の歯車(16)が前記第4の歯車(20)と係合し、且つ前記第6の歯車(22)が前記第3の歯車(18)と係合しているが、しかし前記第2の歯車(17)および前記第5の歯車(21)は係合せず、
第2の変速段を実現する第2のシフト位置においては、前記第2の歯車(17)が前記第5の歯車(21)と係合し、且つ前記第6の歯車(22)が前記第3の歯車(18)と係合しているが、しかし前記第1の歯車(16)および前記第4の歯車(20)は係合しないように移動可能である、
パワーシフト変速機(10)。
【請求項2】
前記中間軸(19)が、心棒上に回転可能且つ軸方向に移動可能に組み付けられた中空軸として形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のパワーシフト変速機。
【請求項3】
前記中間軸(19)が、変速機筐体内に回転可能且つ軸方向に移動可能に組み付けられた中実軸として形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のパワーシフト変速機。
【請求項4】
前記入力軸(11)および前記出力軸(14)が、変速機筐体内に回転可能且つ軸方向に固定されて組み付けられていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のパワーシフト変速機。
【請求項5】
前記中間軸(19)が、滑り軸受組付けまたは転がり軸受組付けを介して組み付けられることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のパワーシフト変速機。
【請求項6】
前記第1の歯車(16)と前記第2の歯車(17)の間には、間隙が形成されており、これにより前記第1の歯車(16)と前記第4の歯車(20)との係合が外れた場合に、前記第2の歯車(17)と前記第5の歯車(21)がまだ係合しないようにされていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のパワーシフト変速機。
【請求項7】
前記第6の歯車(22)の幅が、前記第4、第5および第6の歯車(20、21、22)から構成された前記ユニットの軸方向の移動経路に依存しており、前記ユニットの全移動経路にわたって前記第6の歯車(22)と前記第3の歯車(18)が係合するようになっていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載のパワーシフト変速機。
【請求項8】
前記歯車(16、17、18、20、21、22)がストレートカット平歯車として形成されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のパワーシフト変速機。
【請求項9】
前記歯車(16、17、18、20、21、22)がヘリカルカット平歯車として形成されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載のパワーシフト変速機。
【請求項10】
前記パワーシフト変速機が高負荷パワー変速機であることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載のパワーシフト変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーシフト変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1から、動力分割変速機として形成された高負荷パワーシフト変速機が知られている。その特許に開示された高負荷パワーシフト変速機は、入力軸、出力軸および2本の中間軸を備える。入力軸は、互いに軸方向に離れて間隔を置いた駆動ピニオンと称する2つの歯車を保持し、入力軸が軸方向に移動することにより、異なる変速段に係合可能であるか、または異なる変速段にシフト可能である。しかし、入力軸が軸方向に移動するには、入力軸に連結された駆動フランジも移動する必要があり、これが不利な点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】独国特許出願公開第102009006118号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
入力軸を、したがって駆動フランジを軸方向に移動することなく変速段間の変更が可能となり、かつ同時に、例えばドグクラッチのようなシフト部品を必要としない、新型のパワーシフト変速機が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このことから始まって、本発明は、新形のパワーシフト変速機を生み出すとの目的に基づく。この目的は、請求項1によるパワーシフト変速機により解決される。
【0006】
本発明によるパワーシフト変速機は、回転可能かつ軸方向に固定されて組み付けられた入力軸を備える。さらに、本発明によるパワーシフト変速機は、回転可能かつ軸方向に固定されて組み付けられた出力軸を備える。
【0007】
さらに、本発明によるパワーシフト変速機は、回転可能に組み付けられた中間軸を備える。
【0008】
入力軸および出力軸のうち、動作中に、入力軸および出力軸の他方の軸よりも、より速く回転する軸は、第1の歯車および第2の歯車を保持する。入力軸および出力軸のうち、動作中に、入力軸および出力軸の他方の軸よりも、より遅く回転する軸は、第3の歯車を保持する。
【0009】
中間軸は第4の歯車、第5の歯車および第6の歯車を保持し、これらの歯車は、第1および第2の歯車ならびに第3の歯車に対して、第1の変速段を実現する第1のシフト位置においては、第1の歯車が第4の歯車と係合し、かつ第6の歯車が第3の歯車と係合し、しかし第2の歯車および第5の歯車は係合せず、ならびに第2の変速段を実現する第2のシフト位置においては、第2の歯車が第5の歯車と係合し、かつ第6の歯車が第3の歯車と係合し、しかし第1の歯車および第4の歯車は係合しないように、ユニットとして移動可能である。
【0010】
本発明によるパワーシフト変速機では、変速段間の変更を行うために、入力軸を、したがって入力軸に連結された駆動フランジを、軸方向に移動する必要がない。さらに、このパワーシフト変速機は、ドグクラッチのようなシフト部品は何も必要としない。
【0011】
中間軸の第4の歯車、第5の歯車、および第6の歯車から構成されるユニットは、変速段間の変更を容易かつ確実にするために、入力軸に対しても、また出力軸に対しても、軸方向に移動可能である。
【0012】
第1の有利な更なる開発結果によれば、中間軸は中空軸として形成され、心棒上に回転可能且つ軸方向に移動可能に組み付けられる。別の、第2の有利な更なる開発結果によれば、中間軸は中実軸として形成され、変速機筐体内に回転可能かつ軸方向に移動可能に組み付けられる。これら両方の有利な更なる開発結果は、単純な手段でシフトしやすさ(shiftability)を実現するのに適する。
【0013】
本発明の有利な更なる開発結果によれば、第1の歯車と第2の歯車の間に、詳細には第1の歯車と第4の歯車の係合が外れた時に、第2の歯車と第5の歯車がまだ係合しないように、間隙が形成される。この有利な更なる開発結果では、パワーシフト変速機に無負荷位置が実現する。
【0014】
本発明の有利な更なる開発結果によれば、第6の歯車の幅は第4の歯車、第5の歯車、および第6の歯車から構成されるユニットの軸方向の移動経路によって、このユニットの全移動経路にわたって第6の歯車と第3の歯車が係合するように決まる。変速段間の変更中、第6の歯車は常に第3の歯車と係合している。これにより、変速段間の変更中の信頼性を増加させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の好ましい更なる開発結果が、従属請求項および以下の説明から得られる。本発明の例示的な実施形態を、図面によって、これに限定されることなく、より詳細に説明する。ここで、
【
図1】本発明による第1のパワーシフト変速機の、その第1のシフト状態の概略図である。
【
図2】
図1の本発明による第1のパワーシフト変速機の、その第2のシフト状態の概略図である。
【
図3】本発明による第2のパワーシフト変速機の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は特に、例えば産業用変速機のような、高負荷変速機として実施されるパワーシフト変速機に関する。こうした高負荷変速機は、少なくとも10kNm、特に50kNm未満の低速回転軸ベースのトルクを伝達する。低速回転軸は入力軸にも、また出力軸にもなり得るが、典型的には高負荷変速機の低速回転軸は出力軸である。このような高負荷変速機は、例えば鉄鋼製造および鉄鋼加工のための設備用の変速機として、プラスチック産業では押出成形機用の変速機として、露天掘り産業のための搬送およびコンベアシステム用の変速機として、セメントミル、掘削機、浚渫機用の変速機として、または発電のための設備内の変速機として、といったような様々な適用事例に使用される。
【0017】
図1および
図2は、本発明による第1のパワーシフト変速機10を、図式化して表現したもの示す。
【0018】
図1および
図2のパワーシフト変速機10は入力軸11を備え、入力軸11は、図示していない変速機筐体内に回転可能かつ軸方向に固定されて、具体的に言えば、滑り軸受としてまたは転がり軸受として実施可能な軸受12、13を介して、組み付けられる。
【0019】
さらに、パワーシフト変速機10は出力軸14を備え、出力軸14は、同様に図示していない変速機筐体内に回転可能かつ軸方向に固定されて、具体的に言えば、滑り軸受としてまたは転がり軸受として実施可能な、軸受15および図示していない更なる軸受を介して、組み付けられる。
【0020】
入力軸11および出力軸14のうち、動作中に、入力軸11および出力軸14の他方の軸よりも、より速く回転する軸は、第1の歯車16および第2の歯車17を保持する。入力軸11および出力軸14のうち、動作中に、入力軸11および出力軸14の他方の軸よりも、より遅く回転する軸は、第3の歯車18を保持する。
図1および
図2の例示的な実施形態では、より速く回転する軸は入力軸11であり、遅く回転する軸は出力軸14である。この構成が好ましいが、入力軸11を遅く回転する軸とし、出力軸14をより速く回転する軸とすることも可能である。
【0021】
さらに、
図1および
図2のパワーシフト変速機10は中間軸19を備える。中間軸19は、第4の歯車20、第5の歯車21および第6の歯車22を保持する。第4の歯車20、第5の歯車21、および第6の歯車22はユニットを形成し、第1および第2の歯車16、17ならびに第3の歯車18に対して、具体的に言えば、第1の変速段を実現する第1のシフト位置(
図1参照)においては、第1の歯車16が第4の歯車20と係合し、且つ第6の歯車22が第3の歯車18と係合しているが、しかし第2の歯車17および第5の歯車21は係合せず、ならびに第2の変速段を実現する第2のシフト位置(
図2参照)においては、第2の歯車17が第5の歯車21と係合し、且つ第6の歯車22が第3の歯車18と係合しているが、しかし第1の歯車16および第4の歯車20は係合しないように、ユニットとして移動可能である。このようにして、2段の変速段を持つパワーシフト変速機が実現され、この変速機の場合、入力軸11を軸方向に移動する必要が無い。一方、変速は、3つの歯車20、21および22から構成され、中間軸19により保持されるユニットを軸方向に移動することにより、確実に行われる。
【0022】
図1および
図2の例示的な実施形態において、中間軸19は中空軸として形成され、この中空軸は、心棒23上に、滑り軸受または転がり軸受として形成された軸受24を介して、軸方向に移動可能に組み付けられる。中空軸として形成された中間軸19が軸方向に移動可能に組み付けられる心棒23は、変速機筐体内に優先的に組み付けまたは取り付けられる。
【0023】
図1中で、
図1の第1のシフト位置での第1の歯車16と第4の歯車20間の歯車係合は、Iで印がつけられ、
図1のシフト位置での第6の歯車22と第3の歯車18間の歯車係合は、IIで印がつけられている。
【0024】
図2のシフト位置において、歯車の噛み合いIIIおよびIVの印がつけられており、具体的に言えば、第2の歯車17と第5の歯車21間の歯車の噛み合いはIIIによって、第6の歯車22と第3の歯車18間の歯車の噛み合いはIVによって、印がつけられている。
【0025】
第6の歯車22の幅は、歯車20、21および22から構成されるユニットの軸方向の移動経路によって、具体的に言えば、
図1および
図2に示すように、歯車20、21および22から構成されるユニットの全移動経路にわたって、第6の歯車22と第3の歯車18が係合するように決まる。
【0026】
図1および
図2に示す例示的な実施形態において、第1の歯車16と第2の歯車17の間の軸方向の間隙Xは優先的に、特に第1の歯車16と第4の歯車20との係合が外れた時に第2の歯車17と第5の歯車21がまだ係合しないような大きさとする。これにより、変速機10に無負荷位置が実現できる。
【0027】
図3は、
図1、
図2のパワーシフト変速機10の変更形態を示しており、この変更形態は単に、中間軸19が心棒23上で軸方向に移動可能な中空軸としては形成されず、中間軸19が
図3にある中実軸として実施され、その中実軸は、異なる変速段間で変速するために、中実軸により保持された歯車20、21および22と共に、その全体が軸方向に移動可能である点で、
図1、
図2の例示的な実施形態とは異なっている。この理由から、不必要な重複を避けるため、同じ組立部品に対して同じ参照番号を使用し、
図1および
図2の例示的な実施形態に関する説明を参照する。
図3の例示的な実施形態において、中実軸として形成された中間軸19は、軸受24を介して変速機筐体内に回転可能且つ軸方向に移動可能に組み付けられる。ここで、この軸受は転がり軸受または滑り軸受として実施可能である。
【0028】
上述した歯車16、17、18、20、21および22は、ストレートカットまたはヘリカルカット歯車として実施可能である。ヘリカルカット歯車の場合の傾斜角を、中間軸19に発生する軸方向力が可能な限り低くなるように、優先的に選定する。
【0029】
本発明は、単純な設計の2段の変速段を持つパワーシフト変速機を提案する。パワーシフト変速機10は入力軸11および出力軸14を備え、これらの軸11、14の一方が、動作中に、これらの軸11、14の他方よりも、より遅く回転する。
【0030】
これらの軸11、14の、より速く回転する軸には、2個の歯車16、17が付与される。これらの軸11、14の、より遅く回転する軸には、ただ1個の歯車18が付与される。
【0031】
3個の歯車20、21および22を保持する中間軸19は、これらの2本の軸、すなわちそれぞれ回転可能だが軸方向に固定されて組み付けられた、入力軸11および出力軸14と相互に作用する。
【0032】
ここで、中間軸19の歯車20、21の1つは、シフト位置によって、より速く回転する軸、ここでは入力軸11の歯車16、17の1つと係合する。
【0033】
中間軸19の歯車22は、より遅く回転する軸、ここでは出力軸14の歯車18と、常時係合する。
【0034】
この変速機10の実施形態は、設計が単純であり、変速機10の変速段間の確実な変更が可能である。
【符号の説明】
【0035】
10 パワー変速機
11 入力軸
12 軸受
13 軸受
14 出力軸
15 軸受
16 第1の歯車
17 第2の歯車
18 第3の歯車
19 中間軸
20 第4の歯車
21 第5の歯車
22 第6の歯車
23 心棒
24 軸受