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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】鋼板孔のバリの除去工法
(51)【国際特許分類】
   B21D 28/24 20060101AFI20231121BHJP
   B21D 19/00 20060101ALI20231121BHJP
   B21D 22/02 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B21D28/24 Z
B21D19/00 C
B21D22/02 B
B21D22/02 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019236769
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021104532
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】596002767
【氏名又は名称】トヨタ自動車九州株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515086908
【氏名又は名称】株式会社トヨタプロダクションエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】峯 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】西門 孝平
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5934110(US,A)
【文献】実開昭56-122518(JP,U)
【文献】特開2006-7276(JP,A)
【文献】特開2001-269729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 28/24
B21D 19/00
B21D 22/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板を隆起させる鋼板隆起工程と、
隆起部の傾斜面にまたがって挿通孔を打抜き穿設することにより打抜きバリを挿通孔周縁部下方に形成する工程と、
隆起部を押圧して鋼板をフラットに矯正することにより挿通孔内周面を下方拡開のテーパー状とすると共に打抜きバリを挿通孔周縁部下方から外側方に向かって形成する工程と、
より構成したことを特徴とする鋼板孔のバリの除去工法。
【請求項2】
隆起部を押圧してフラット化するに際し、隆起部の下方に敷設した受板との間でバリ突出片を潰して突出片を可及的にフラット化する工程と、
より構成したことを特徴とする請求項1に記載の鋼板孔のバリの除去工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鋼板に、例えば、他の部材とのクリップ接合のためのクリップ孔を形成する際に発生するバリをクリップ装着時に支障とならないようにバリを除去、或いは変形させるための鋼板孔のバリの除去工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板孔打ち抜き時に発生するバリの対処法としてシェービング加工や上下打ち抜き加工やプレス加工等が考えられている。
【0003】
シェービング加工は打ち抜き加工時に加工孔の周縁に発生したバリ(かえり)を削り取る加工法であり、打ち抜き加工は加工孔を上下から打ち抜く加工法であり、プレス加工は打ち抜き加工時に発生したバリ(かえり)を加圧して潰してしまう加工法である。
【0004】
例えば、特許文献1では、鋼板を打ち抜き加工する際に、打ち抜き加工後の加工孔内周面を3段階に分割して削り加工するシェービング加工が開示されており、ブランク材料の加工孔内周面をできるだけ平坦面に仕上げて、バリやかえりが生起しない鋼板の加工方法について記載されている。
【0005】
特許文献2では、鋼板を打ち抜き加工する際の工程を鋼板の厚み方向略半分程度まで押出す第1の押出し加工と、第1の押出し加工箇所と同一の箇所を第1の押出し加工とは反対方向に押出す第2の押出し加工とにより構成する打ち抜き加工が開示されており、打ち抜かれたブランク材料の加工面にバリを発生しないようにしている。
【0006】
特許文献3では、鋼板を打ち抜き加工する際に加工孔に発生したバリ(かえり)を打ち抜き加工後に上下から押圧することで発生したバリ(かえり)を潰す、または、かえりの方向を打ち抜き加工に対して直交する方向に変態するプレス加工が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-62292号公報
【文献】特開2000-210732号公報
【文献】特開2001-269729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1~3で開示された各技術は、それぞれ以下のような問題を抱えている。
特許文献1のシェービング加工では、バリを生起したブランク材料の加工孔内周面を3回に分けて削り取る工程が必要となり、バリやかえりはきれいに切削されるものの所定形状に仕上げるのに時間がかかるとともに、打抜き加工同様にブランク材料を上方から押圧し、ダイとパンチとのせん断力で切削するためブランク材料が厚くなると美麗に削ることができなかった。
【0009】
また、特許文献2の上下打抜き加工では、ブランク材料の略同一箇所を上下方向から打抜く構成のため、ブランク材料の上下に配設したパンチの位置合わせや、パンチの刃先の形状によっては打ち抜いた挿通孔の内周面が垂直とならない虞があり、装置のメンテナンス性を考慮すると煩雑であった。
【0010】
また、特許文献3のプレス加工では、打ち抜き加工によって、ブランク材料に生起した打ち抜きバリを上下方向からプレスするため、打ち抜き加工された際に生起する打ち抜きバリの先端が垂直方向に対して左右いずれに変位しているかによってブランク材料をプレス加工した際の打ち抜きバリの変位方向が変化してしまい、挿通孔を所定の形状とすることが難しかった。
【0011】
ところで、自動車に装備する部品、例えば、自動車の座席正面に装備するエアバック等を自動車内フレームに内装するに際しては、自動車内フレームとしての鋼板にエアバック装備用のクリップ孔を打ち抜き、クリップを挿通してフレーム鋼板にエアバック等を取り付ける作業を行う。
上記クリップ挿通用の孔を打ち抜き形成する際に、孔周縁に打抜きバリが発生する。
【0012】
かかるバリは打ち抜き時にクリップ孔の始端、すなわち、クリップ基端側にバリ突出片を形成することになるため、バリ突出片がクリップ挿貫時に支障となり、クリップの有効長をクリップ孔に完全に挿通できず、部材取付時に緊密なクリップ緊締ができない虞があった。例えば、エアバッグを車体フレームに取付けたクリップがエアバック作動時に挿通孔から離脱飛散して人的被害を生起し重大な人身事故に繋がるおそれがあった。
【0013】
かかる従来の打ち抜き技術では鋼板のクリップ孔打ち抜き作業時にバリが孔の下端周縁部に突出形成されているため鋼板接合のため孔に挿通したクリップがバリによって干渉され正常なクリップ機能を果たすことができないという不都合があった。
【0014】
本発明では、鋼板の加工をすることによりバリをクリップ有効長の機能に支障とならないように変形し、或いは、変位させて接合部材としてのクリップがバリと干渉せずクリップの有効長を完全に機能させて不良部材の発生を確実に防止して安全確実な鋼板の接合作業ができる鋼板孔のバリの除去工法を提供せんとする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、鋼板を隆起させる鋼板隆起工程と、隆起部の傾斜面にまたがって挿通孔を打抜き穿設することにより打抜きバリを挿通孔周縁部下方に形成する工程と、隆起部を押圧して鋼板をフラットに矯正することにより挿通孔内周面を下方拡開のテーパー状とすると共に打抜きバリを挿通孔周縁部下方から外側方に向かって形成する工程と、より構成したことを特徴とする。
【0016】
また、隆起部を押圧してフラット化するに際し、隆起部の下方に敷設した受板との間でバリ突出片を潰して突出片を可及的にフラット化する工程と、より構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、鋼板を隆起させる鋼板隆起工程と、隆起部の傾斜面にまたがって挿通孔を打抜き穿設することにより打抜きバリを挿通孔周縁部下方に形成する工程と、隆起部を押圧して鋼板をフラットに矯正することにより挿通孔内周面を下方拡開のテーパー状とすると共に打抜きバリを挿通孔周縁部下方から外側方に向かって形成する工程と、隆起部を押圧してフラット化するに際し、隆起部の下方に敷設した受板との間でバリ突出片を潰して突出片を可及的にフラット化する工程とより構成し、特に、隆起部の傾斜面にまたがった挿通孔を打抜き穿設し、その後に隆起部を押圧して鋼板をフラットに矯正するために、隆起部の傾斜面にまたがって穿設した挿通孔はその時点では垂直な挿通孔であり挿通孔周縁部下方にはバリが突出形成されていることになるが、その後、隆起部を上方より打設して隆起部をフラットに矯正すると隆起部斜面に形成した孔の垂直内周面は下方に拡開のテーパー状面となる。
【0018】
バリはかかる拡開のテーパー状面の下端縁に突出した形状となるため本来の挿通孔の口径よりも外側に突出した形状となり、挿通孔にバリ側から挿通する接合部材としてのクリップの挿貫路と干渉することがなくクリップはバリに邪魔されずに所定の接合機能を果たし、かつクリップの有効長さにバリが干渉することもないためクリップの接合機能を確実に果たすことができる効果がある。
【0019】
すなわち、鋼板に打抜き穿設した挿通孔に連なる打抜きバリが挿通孔の内方側に突出することを防止して、挿通孔に接合部材を挿入することに支障がなく鋼板と接合部材を介して装備するほかの部材とを密に緊締することができる効果がある。
【0020】
更には、隆起部を押圧してフラット化するに際し、隆起部の下方に敷設した受板との間でバリ突出片を潰して突出片を可及的にフラット化することができるため、下方から挿入する接合部材等のクリップは平坦な鋼板に穿設した挿通孔に対して接合機能を果たすことになり確実な鋼板と他部材との接合を可能とする、すなわち、接合部材が有効長さにおいて充分に挿通孔を挿通して鋼板と他部材との接合機能を有効に果たしバリによる不測の事故を防止することができる効果がある
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】従来の鋼板にクリップ孔を穿設した状態を示す模式図であり、(a)は鋼板を穿設した状態を示す図であり、(b)は穿設部の拡大図である。
図2】本発明の実施形態に係るバリの除去工法を実施するための打ち抜き型を開放した状態を示す模式図である。
図3】本発明の実施形態に係るバリの除去工法を実施するための打ち抜き型の可動状態を示す模式図である。
図4】本発明の実施形態に係るバリ除去工法の第1工程を示す模式図であり、(a)は鋼板を押圧する前段階を示す図であり、(b)は変態した鋼板形状を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係るバリ除去工法の第2工程の鋼板に挿通孔を穿設した状態を示す模式図であり、(a)は穿設する前の図であり、(b)は穿設後の図である。
図6】本発明の実施形態に係るバリ除去工法の第3工程を示す模式図であり、(a)は鋼板を穿設した状態を示す図であり、(b)は鋼板を上下からプレス成形する状態を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係るバリ除去工法の第4工程を示す模式図であり、(a)は鋼板上面にストリッパプレートが接触した状態を示す図であり、(b)は鋼板をストリッパプレートとダイプレートに接触した状態を示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る鋼板の加工状態を示す模式図であり、(a)は鋼板をストリッパプレートとダイプレートで押圧した状態を示す図であり、(b)は鋼板のバリを押圧して略平坦な状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の要旨は、鋼板を隆起させる鋼板隆起工程と、隆起部の傾斜面にまたがって挿通孔を打抜き穿設することにより打抜きバリを挿通孔周縁部下方に形成する工程と、隆起部を押圧して鋼板をフラットに矯正することにより挿通孔内周面を下方拡開のテーパー状とすると共に打抜きバリを挿通孔周縁部下方から外側方に向かって形成する工程と、隆起部を押圧してフラット化するに際し、隆起部の下方に敷設した受板との間でバリ突出片を潰して突出片を可及的にフラット化する工程とより構成したことにある。
【0023】
この発明の実施例を図面に基づき詳細に説明する。
図1(a)、(b)は、鋼板1にポンチ等の治具を介して挿通孔2を打抜き形成した場合の従来の打抜きバリ3の形成状態を示す。
すなわち、鋼板1には挿通孔2の周縁、例えば、図1(a)、(b)に示すように上方からポンチ等の治具で挿通孔2を打抜くと、打ち抜きバリ3が挿通孔2の下側面において挿通孔2の周縁部2aから挿通孔2下方に張り出し形成される。
【0024】
かかる打抜きバリ3は、その後、鋼板1を他の部材と一体に接合する作業において、挿通孔2に挿貫する接合部材、例えば、クリップやボルトなどが有効に挿通孔2に挿入できない事態を生じ打抜きバリ3の下方突出代が接合部材の有効長に干渉してクリップ等の接合部材が鋼板1と他の部材との一体接合機能を果たすことができない虞を生起し、かかる打抜きバリ3の不都合を放置しておくと、例えば、自動車の座席正面に装備するエアバックが衝撃緩衝時に膨張作動する際、鋼板1の接合が外れ不用意に接合クリップが飛散する等の人身事故を生起する。
そのために打抜きバリ3に対して如何に対処するかは鋼板接合に基づく機能部材の安全性に関して極めて重要な技術上の課題となっている。
【0025】
本発明では、かかる打抜きバリ3が挿通孔2の内方に可及的に突出せず、また打抜きバリ3そのものを可及的に平坦化することを可能とした打抜きバリ形成工法を提供せんとするものである。すなわち、本発明の工法では鋼板1に接合部材を接合するために鋼板1に接合治具としてのクリップを挿貫する挿通孔2を形成するための工程を数段階に分けて構成したものである。
【0026】
以下において、鋼板1に本発明の打ち抜き挿通孔2を形成する各工程を図2図8を参照しながら順次説明する。
図2及び図3は、鋼板1に接合部材としてのクリップを挿貫するための挿貫孔を形成するための打ち抜き型の構造を示している。本発明では、この打ち抜き型を利用して図4図8に図示する工程に従い挿貫孔を穿設する。
【0027】
挿貫孔形成作業では、打抜き用のプレス金型Mを利用してプレス成形する。
プレス金型Mは、図2及び図3に示すように、上下外側端部に位置するダイセット上型10及びダイセット下型20と、ダイセット上型10の下面にボルト固定したバッキングプレート11と、バッキングプレート11の下面にボルト固定したパンチプレート12と、バッキングプレート11の上面からストリッパボルト14を介してパンチプレート12の下方に支持固定されるストリッパプレート13と、ストリッパボルト14の軸部14bを囲繞するコイルスプリング14dと、パンチプレート12とストリッパプレート13とに跨るように配設されたパンチ15と、ダイセット下型20の上面に敷設したダイプレート21と、ダイプレート21のパンチ15との対向位置に打ち抜き用凹部22aを備えたダイ22とで構成されている。
【0028】
ダイセット上型10は、図2に示すように、略板状で4隅近傍(図2では左右両端部)にガイド孔10aを穿設している。また、ダイセット上型10は、略中央近傍にストリッパボルト支持孔10bを穿設している。
【0029】
ガイド孔10aは、円筒状のガイドブッシュ10cを埋設しており、該ブッシュ10cに後述のダイセット下型20から上方に突設したガイドピン20aを挿入することでダイセット上型10が前後左右に揺動することなく上下動できる構成としている。また、ストリッパボルト支持孔10bは、平面視略円形に穿設しており、その内部にストリッパボルト14を出し入れ自在に配設している。
【0030】
ダイセット上型10の下部には、板状のバッキングプレート11をボルト等の固定金具を利用して固定している。バッキングプレート11は、ダイセット上型10に穿孔したストリッパボルト支持孔10bの対向位置にボルト支持孔11aを穿設している。ボルト支持孔11aには、後述するストリッパボルト14の軸部14bが遊嵌されている。ストリッパボルト14は頭部座面14aがバッキングプレート11の上面に接触支持されている。
【0031】
バッキングプレート11の下部には、板状のパンチプレート12を配設しており、該バッキングプレート11とパンチプレート12とをボルト等の固定金具を利用して固定している。パンチプレート12は、バッキングプレート11に穿孔したボルト支持孔11aの対向位置にスプリング固定孔12aを穿孔している。また、パンチプレート12の略中央部には、パンチ15を固定するためのパンチ固定孔12bを穿孔している。
【0032】
パンチ固定孔12bは、パンチ15の頭部座面15aが係合する座ぐり12cとパンチ15の軸部15bが挿通される軸穴12dとで構成されている。このパンチ固定孔12bに嵌入されたパンチ15は、頭部座面15aが座ぐり12cの底面と接触し、頭部上面がバッキングプレート11に接触固定されており、プレス加工時においてパンチ15が移動することを規制している。
【0033】
パンチプレート12の下方には、板状のストリッパプレート13を配設している。ストリッパプレート13は、パンチプレート12に穿孔したスプリング固定孔12aの対向位置にねじ固定部13aを穿設している。ストリッパプレート13は、ねじ固定部13aとストリッパボルト14のねじ部14cを螺合することでバッキングプレート11から吊下げ支持されている。
【0034】
ストリッパプレート13は、パンチ固定孔12bの対向位置にパンチガイド孔13bを穿設している。パンチガイド孔13bは、プレス加工時にパンチ15の
軸部15bの先端側が前後左右に揺動することを規制するための規制ガイドとして機能する。
【0035】
ダイセット下型20は、板状で4隅近傍(図2では左右両端部近傍)から円柱状のガイドピン20aを上方に突設している。ガイドピン20aの先端は、前述のガイドブッシュ10cに挿入されている。そのため、ガイドピン20aは、ダイセット上型10が上下動する際、前後左右に揺動する虞をなくす規制ガイドとして機能する。
【0036】
また、ダイセット下型20の上面には板状のダイプレート21をノックピン20bで前後左右方向の位置を決定しつつ敷設しており、該ダイプレート21の略中央部にダイ22を配設している。
【0037】
ダイ22は、中央部にパンチ15の軸部15bの先端を挿通するための打ち抜き用凹部22aを穿設している。
【0038】
このように構成されたプレス金型Mを用いて本発明の鋼板挿通孔に形成されるバリの除去工法について説明する。
【0039】
本発明の鋼板挿通孔におけるバリの除去工法では、図4(a)、(b)に示すように、第1工程として鋼板1に台形円錐隆起部4を形成する。
第1工程では、ダイ22の上面の受板24に鋼板1を載置し、ダイセット上型10を降下させることでストリッパプレート53の略平坦な下面を鋼板1の表面に接触させる。
すなわち、第1工程では、まずダイセット上型10が降下することでバッキングプレート11とパンチプレート12とが下方に変位する。このバッキングプレート11の降下に伴い、コイルスプリング14dがバッキングプレート11とストリッパプレート53とで挟圧される。この際、コイルスプリング14dは、挟圧されることで弾性力を生起しており、該弾性力をストリッパプレート53に作用させることで鋼板1を上方から下方に向けて押圧している。
また、ダイセット上型10は、上述の状態からさらに降下するとストリッパプレート53が鋼板1を押圧し、図4(a)、(b)に示すように、鋼板1の略中央部の形態を平坦状から略円錐台形状の台形円錐隆起部4へと変態させる。
なお、第1工程におけるストリッパプレート53は、図2、3に図示したストリッパプレート13と異なり鋼板1との接触面を略平坦状に構成し、鋼板1を押圧しやすい形態としている。また、受板24は、略中央部に隆起部を備えておりストリッパプレート53と受板24とで鋼板1を押圧するだけで鋼板1に台形円錐隆起部4を成形できる形態としている。
【0040】
次に、第2工程では、図5(a)、(b)に示すように、鋼板1の台形円錐隆起部4の傾斜面4aに跨った挿通孔2を打ち抜き穿設することにより挿通孔周縁下部2bに打抜きバリ3を形成する。
【0041】
第2工程において鋼板1は、図5(a)、(b)に示すように、未加工の鋼板本体4cと、プレス成型による台形円錐隆起部4と、両部を連結する傾斜面4aとで構成されている。
【0042】
鋼板1は、図5(a)、(b)に示すように、ストリッパプレート13の下面と、ダイ22の上面とで挟圧固定されており、ダイセット上型10を第1工程の状態からさらに下方に降下することでパンチプレート12に固定したパンチ15の先端がストリッパプレート13の先端部から下方に押出される。すなわち、パンチ15の先端はストリッパプレート13の下面から突出してダイ22の打ち抜き用凹部22aに挿通されることで鋼板1を穿孔する。この際、鋼板1は鋼板本体4cと台形円錐隆起部4とを連結する傾斜面4aをパンチ15によって打ち抜かれる。
なお、パンチ15によって打抜かれた鋼板材料は、ダイ22に穿孔した打ち抜き用凹部22aを介してプレス金型Mの下方から外部に排出される。
【0043】
挿通孔内周面2c下部には、図6(a)、(b)に示すように、パンチ15で穿孔されることで打ち抜きバリ3が下方に向けて形成される。
【0044】
次に、第3工程では、挿通孔2の周縁部2aに傾斜状に立ち上がった台形裾野部4dの立ち上がり傾斜周壁部4e、すなわち、傾斜面4aを上方から押圧して鋼板本体4cと同水準のフラット形態に矯正する。かかる鋼板1の台形裾野部4dの立ち上り傾斜周壁部4eをフラット化することが本工程において最も重要な作業であり、当初垂直形成の挿通孔2が台形円錐隆起部4の立ち上がり傾斜周壁部4eのフラット化により挿通孔内周面2cが、図8(a)、(b)に示すように、挿通孔2を外側方に広がった内周傾斜状、すなわち、テーパー状に変形する。すなわち、垂直の挿通孔2が下方拡開のテーパー状に変形し、同時に挿通孔周縁下部2bに吊下形成された打ち抜きバリ3も挿通孔2の下方拡開の変形に対応して外側方に変形する。
【0045】
かかる台形円錐隆起部4に形成された立上り傾斜周壁部4eはプレス成形されて平坦に矯正される。
すなわち、プレス成形では、図6(a)、(b)に示すように、上面平坦の台形円錐隆起部4のポンチ加工により形成された立ち上がり傾斜周壁部4eを上方からプレス押圧する。上面平坦の台形円錐隆起部4のポンチ加工により形成された立ち上り傾斜周壁部4eは比喩的に説明すれば、図6(a)、(b)に示すように、火山河口のような形状に形成されてその内部空間がクリップの挿通孔となるような形状構成となっている。
【0046】
その後、さらに、鋼板1の台形円錐隆起部4をパンチプレート12によって上方から下方に押圧することにより挿通孔2の挿通孔周縁下部2bに発生した打ち抜きバリ3を挿通孔2の外側方に変位する。
すなわち、鋼板1の台形円錐隆起部4を下面が平坦なストリッパプレート33によって押圧し、挿通孔2の挿通孔内周面2cが下方拡開のテーパー形状へと変態することにより挿通孔2を打抜き穿設する際に鋼板1の挿通孔周縁下部2bに垂下した打ち抜きバリ3がテーパー形状から延長し、外側方に向かって斜め下方に突出する。
【0047】
次に、第4工程では、台形円錐隆起部4の立ち上り傾斜周壁部4eを押圧してフラット化するに際し、台形円錐隆起部4の下方に配設した受板23との間で打抜きバリ3の突出片3aを潰し、突出片3aを可及的にフラット化する。
【0048】
鋼板1は、第3工程で台形円錐隆起部4をパンチ15によって穿設し、挿通孔2の挿通孔内周面2cが下方拡開のテーパー形状へ変態するに伴い、挿通孔2の挿通孔周縁下部2bに垂直に吊下した打抜きバリ3は挿通孔2の外側方に向かった斜め突出の凸形態を生起する。
【0049】
すなわち、第3工程において鋼板1の台形円錐隆起部4の立ち上り傾斜周壁部4eは、鋼板本体4cと略同一平面に矯正され、この平坦化に伴い挿通孔周縁下部2bに突出された打ち抜きバリ3は挿通孔2の外周側方に突出した形態になる。
【0050】
第4工程では、図7に示すように、第3工程で形成された鋼板1の傾斜周壁部4eをプレス成形することで挿通孔周縁下部2bに生起された打ち抜きバリ3(突出片3a)が中央部に打ち抜き用凹部22aを穿設しない平坦な受板23と接触することで、その形態を挿通孔2の外側方に向うように変態させる。
【0051】
この過程において、打抜きバリ3(突出片3a)は、プレス機M2を構成するストリッパプレート33と受板23によって挟圧されることで、両者の押圧力がバリ3(突出片3a)の基端部3bに集中して突出片3aを更に、挿通孔2の外側方に変位させると共に、突出片3aの先端部3cを折曲して鋼板1の下側面に当接させてフラット化させることができる。
なお、プレス機M2のストリッパプレート33は鋼板1を押圧する下面を略平坦状に構成し、また、プレス機M2の受板23は鋼板1を支持する上面を略平坦状とした平板で構成している。
【0052】
上記第1工程から第4工程の順番で鋼板1のクリップ孔打ち抜き作業を実施することによりクリップの有効長を確実にクリップ孔(挿通孔2)に有効に機能させることができ、打抜きバリ3との緩衝によるクリップの不完全挿入によって生起するクリップの飛散事故を防止することができる。
【0053】
本発明は上述した実施形態に限られず、上述した実施形態の中で開示した各構成を相互に置換したり組合せを変更したりした構成、公知発明並びに上述した実施形態の中で開示した各構成を相互に置換したり組合せを変更したりした構成、等も含まれる。また、本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【符号の説明】
【0054】
1 鋼板
2 挿通孔
2a 周縁部
2b 挿通周縁下部
2c 挿通孔内周面
3 バリ
3a 突出片
3b 基端部
3c 先端部
4 台形円錐隆起部
4a 傾斜面
4c 鋼板本体
4d 台形裾野部
4e 傾斜周壁部
10 ダイセット上型
10aガイド孔
10bストリッパボルト支持孔
10cガイドブッシュ
11 バッキングプレート
11aボルト支持孔
12 パンチプレート
12aスプリング固定孔
12bパンチ固定孔
12d軸穴
13 ストリッパプレート
13a固定部
13bパンチガイド孔
14 ストリッパボルト
14a頭部座面
14b軸部
14cねじ部
14dコイルスプリング
15 パンチ
15a頭部座面
15b軸部
20 ダイセット下型
20aガイドピン
20bノックピン
21 ダイプレート
22 ダイ
22a打ち抜き用凹部
23、24 受板
33、53 ストリッパプレート
M プレス金型
M2 プレス機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8