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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】紫外線LED用蒸着フィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
G02B5/20
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019238807
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107856
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】390002808
【氏名又は名称】マークテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090893
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 敏
(72)【発明者】
【氏名】松本 謙二
(72)【発明者】
【氏名】細矢 学
(72)【発明者】
【氏名】加藤 祐太
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-154016(JP,A)
【文献】特開平05-341122(JP,A)
【文献】実開平05-094801(JP,U)
【文献】特開2018-010275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線照射装置から出射するビームの可視光を取り除くための紫外線LED用蒸着フィルタにおいて、該紫外線LED用蒸着フィルタは第一の透光性基板及び第二の透光性基板を備え、前記第一の透光性基板の上面及び下面に、ビームの入射角が0度~20度であるときに、ビームが355ナノメートル~375ナノメートルの波長において透過率95パーセント、400ナノメートルの波長において透過率10パーセント以下、410ナノメートル~500ナノメートルの波長において透過率1パーセント以下、の性質を持つ蒸着膜を蒸着させ、
前記第二の透光性基板の上面に、ビームの入射角が0度~20度であるときに、ビームが355ナノメートル~375ナノメートルの波長において透過率95パーセント、500ナノメートル~600ナノメートルの波長において透過率1パーセント以下の性質の蒸着膜、又は、ビームの入射角が0度~20度であるときに、355ナノメートル~375ナノメートルの波長において透過率95パーセントであり、ビームの波長が600ナノメートル~700ナノメートルの波長において透過率が1パーセント以下の性質の蒸着膜の、いずれか一つを蒸着させ、他の一つを前記第二の透光性基板の下面に蒸着させてなることを特徴とする、紫外線LED用蒸着フィルタ。
【請求項2】
前記紫外線LED用蒸着フィルタは、さらに、前記第一の透光性基板と前記第二の透光性基板の間に封止剤を含むスペーサーを、全周にわたって設けることを特徴とする、請求項1に記載の紫外線LED用蒸着フィルタ。
【請求項3】
前記第一の透光性基板と前記第二の透光性基板の離隔距離は、0.1ミリメートル~20ミリメートルであることを特徴とする、請求項1~2に記載の紫外線LED用蒸着フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線を照射する紫外線照射装置、及び被検査物の表面に紫外線を照射して被検査物の表面状態を解析する紫外線探傷装置に関するものであり、より詳細には蛍光磁粉探傷や蛍光浸透探傷等の蛍光体の励起に用いる紫外線LED用蒸着フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材等の被検査物の表面の探傷検査としては、非破壊検査方法の一種である、磁粉探傷試験や浸透探傷試験が知られている。磁粉探傷試験では、被検査物の表面に磁粉または磁粉を含有する磁粉溶液を適用するとともに、被検査物に磁場を印加する等して被検査物を磁化する。被検査物の表面のクラック等の欠陥には磁束が集中するため、この磁束に磁粉が引き寄せられて磁粉による指示模様が形成される。そして、この磁粉指示模様を観測することで欠陥を検査する。磁粉探傷試験には、欠陥の検出精度を向上させるために、磁粉に蛍光体を含有した蛍光磁粉を用いる蛍光磁粉探傷試験がある。
【0003】
一方で、浸透探傷試験では、まず、浸透液を被検査物の表面に適用して表面のクラック等の欠陥にこの浸透液を浸透させる。次に、表面に付着している余剰浸透液を除去し、現像剤粉末を表面に塗布して欠陥に浸透している浸透液を毛細管現象により表面に吸い出す。そして、この吸い上げられた浸透液による浸透指示模様を観察することで欠陥を検査する。浸透探傷試験には、欠陥の検出精度を向上させるために、蛍光体を含有する蛍光浸透液を用いる蛍光浸透探傷試験がある。
【0004】
磁粉探傷試験や浸透探傷試験において蛍光磁粉や蛍光浸透液を用いる場合には、被検査物に紫外線を照射して含有した蛍光磁粉や蛍光浸透液の蛍光体を励起させる必要がある。この紫外線探傷試験に用いる、紫外線を照射する紫外線照射装置が知られている。。
【0005】
LEDは基本的に点光源であるために均一配光を得にくく、被検査物の表面のクラック等の欠陥の検出にばらつきがでてしまい、検査精度が低下するという問題があった。このため、多くのLEDを線上に並べて光源にすることで高い紫外線放射照度かつ均一な紫外線放射照度分布を得ることが考えられるが、円形配光の集合となるため均一配光を得にくく、また多くのLEDが必要となることからコストアップを招くという問題が生じていた。
紫外線により磁粉探傷試験や浸透探傷試験を行う場合、検査をする者の視界が、可視光により遮られたりすることを防ぐため、可視光カットフィルタ及び紫外線透過フィルタを、紫外線照射装置に取り付けることが一般的である。可視光は一般に400~700ナノメートルの波長であり、この部分のみを遮り、紫外線を通すことで、上記の高い紫外線放射強度かつ均一な配光が得られる。しかし、可視光カットフィルタ及び紫外線透過フィルタを用いた場合、波長が375~400ナノメートルにかけて、徐々に透過率を下げることしかできなかった。透過率を下げるには、25ナノメートル分の波長範囲における紫外線光のエネルギーを、徐々に透過率を下げるために消費してしまうことになる。そのため、375~400ナノメートルの部分の紫外線光が、エネルギーロスとなっており、400ナノメートル直前において、かつより短い波長範囲において、急激に透過率を下げられないかが課題となっていた。
【0006】
特許文献1は、入射光に対して、可視光領域の光を遮光するとともに近赤外領域に透過帯を有する可視光カットフィルタであって、透光性基板と、前記透光性基板の表面に成膜された表面遮光膜、透光性基板の裏面に成膜された裏面遮光膜、を備えており、表面遮光膜及び裏面遮光膜の各々は、可視光領域を複数の領域に区画したときに、各領域の光を遮光させる遮光膜が積層されている。可視光領域を複数の領域に区画して、各領域の光を遮光させる遮光膜が、透光性基板の表裏両面に積層されているので、可視光領域に発生するリップルは、積層された各遮光膜によってより減衰し、リップルの発生を抑制することができる。前記表面遮光膜及び前記裏面遮光膜は、前記可視光領域が3つの領域に区画され、可視光領域の短波長端から長波長側の領域の光を遮光する膜が積層された短波長遮光多層膜と、前記可視光領域の長波長端から短波長側の領域の光を遮光する膜が積層された長波長遮光多層膜と、前記短波長遮光多層膜が光を遮光する領域の長波長端と、前記長波長遮光多層膜が光を遮光する領域の短波長端と、を含む領域の光を遮光する中間波長遮光多層膜とを設ければ、可視光領域の全域の光の透過率を低減させることができる。可視光カットフィルタであって、前記表面遮光膜及び前記裏面遮光膜は、それぞれ、高屈折率材料と低屈折率材料とが交互に複数積層されてなり、前記高屈折率材料は、ZrO2、TiO2、Nb2O5、及びTa2O5のうち少なくとも1つを含んでおり、前記低屈折率材料は、SiO2、及びMgF2のうち少なくとも1つを含んでいる。
【0007】
特許文献1は可視光をカットするためには有用であるものの、紫外線透過率についてはあまり考慮されていない。また、紫外線透過率のコントロールについても、フィルタ特性の脈打ちをなくすようにコントロールするとあるのみであり、この波長帯によるフィルターでカットできずに波うつ部分を、効果的に活用し、400ナノメートル直前の波長において、急激に透過率を下げ、この部分の紫外線光を活用することは、できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-186531
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、波長が400ナノメートルより手前のビームにおいて、透過率をなるべく高く維持しつつ、急激に透過率を下げることにより、波長400ナノメートル以下の紫外線光のエネルギーを、無駄なく活用できるようなフィルターの開発が望まれていた。
【0010】
本発明の目的は、紫外線探傷用に紫外線を照射する紫外線照射装置において、より効率的に被照射面の照射領域における高い紫外線放射照度を実現でき、紫外線探傷検査の精度を向上させる紫外線LED用蒸着フィルタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明における紫外線LED用蒸着フィルタでは、紫外線照射装置から出射するビームの可視光を取り除くための紫外線LED用蒸着フィルタにおいて、該紫外線LED用蒸着フィルタは第一の透光性基板及び第二の透光性基板を備え、前記第一の透光性基板の上面及び下面に、ビームの入射角が0度~20度であるときに、ビームが355ナノメートル~375ナノメートルの波長において透過率95パーセント、400ナノメートルの波長において透過率10パーセント以下、410ナノメートル~500ナノメートルの波長において透過率1パーセント以下、の性質を持つ蒸着膜を蒸着させ、前記第二の透光性基板の上面に、ビームの入射角が0度~20度であるときに、ビームが355ナノメートル~375ナノメートルの波長において透過率95パーセント、500ナノメートル~600ナノメートルの波長において透過率1パーセント以下の性質の蒸着膜又は、ビームの入射角が0度~20度であるときに、355ナノメートル~375ナノメートルの波長において透過率95パーセントであり、ビームの波長が600ナノメートル~700ナノメートルの波長において透過率が1パーセント以下の性質の蒸着膜のいずれか一つを蒸着させ、他の一つを前記第二の透光性基板の下面に蒸着させてなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明における紫外線LED用蒸着フィルタは、前記紫外線LED用蒸着フィルタは、さらに、前記第一の透光性基板と前記第二の透光性基板の間に封止剤を含むスペーサーを、全周にわたって設けることを特徴とする。
【0013】
また、前記第一の透光性基板と前記第二の透光性基板の離隔距離は、0.1ミリメートル~20ミリメートルであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明における紫外線LED用蒸着フィルタでは、紫外線照射装置から出射するビームの可視光を取り除くための紫外線LED用蒸着フィルタにおいて、該紫外線LED用蒸着フィルタは第一の透光性基板及び第二の透光性基板を備え、前記第一の透光性基板の上面及び下面に、ビームの入射角が0度~20度であるときに、ビームが355ナノメートル~375ナノメートルの波長において透過率95パーセント、400ナノメートルの波長において透過率10パーセント以下、410ナノメートル~500ナノメートルの波長において透過率1パーセント以下、の性質を持つ蒸着膜を蒸着させ、前記第二の透光性基板の上面に、ビームの入射角が0度~20度であるときに、ビームが355ナノメートル~375ナノメートルの波長において透過率95パーセント、500ナノメートル~600ナノメートルの波長において透過率1パーセント以下の性質の蒸着膜又は、ビームの入射角が0度~20度であるときに、355ナノメートル~375ナノメートルの波長において透過率95パーセントであり、ビームの波長が600ナノメートル~700ナノメートルの波長において透過率が1パーセント以下の性質の蒸着膜のいずれか一つを蒸着させ、他の一つを前記第二の透光性基板の下面に蒸着させてなることを特徴とするので、入射光の有害光カットを従来同様十分にすることができ、かつ、385ナノメートル前後から400ナノメートルにかけて透過率を急激に下げることができるので、375ナノメートルから385ナノメートル前後にかけての部分がカットされないことから、この分紫外線放射照度が上昇し、視認性が向上する。また、有効波長範囲の透過率が広範囲に増加するので、紫外線探傷灯に使用する紫外線LEDの使用数を減らすことができる。
また、紫外線光のロスが少なくなる。紫外線LEDの寿命を、紫外線放射照度が、新品を100パーセントとした場合、70パーセント程度前後であるとする。紫外線光のロスが少なくなることで、70パーセント以下、例えば67パーセント前後の紫外線放射照度でも、紫外線LED用蒸着フィルタの紫外線透過率が高いため、紫外線照射装置全体としては、有効な紫外線放射照度を維持することができることとなり、紫外線照射装置自体のメンテナンス頻度が減少し、寿命が増加することとなる。また、入射角0度~20度の範囲が使用できるので、設計の自由度が拡大する。
【0015】
また、本発明における紫外線LED用蒸着フィルタでは、前記紫外線LED用蒸着フィルタは、さらに、前記第一の透光性基板と前記第二の透光性基板の間に封止剤を含むスペーサーを、全周にわたって設けることを特徴とするので、フィルタ表面が汚れることで、蒸着膜の効果が低下し、蒸着フィルタ同士の間に粉塵・ミスト・水分等の侵入を防止することができるとともに、第一の透光性基板と前記第二の透光性基板の間に間隔を設けることで、入射光の干渉を抑えることができ、紫外線LED用蒸着フィルタの機能を有効とすることができる。
【0016】
また、本発明における紫外線LED用蒸着フィルタは、前記第一の透光性基板と前記第二の透光性基板の離隔距離は、0.1ミリメートル~20ミリメートルであることを特徴とするので、製造コストをおさえ、入射光の干渉を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る紫外線LED用蒸着フィルタの実施形態の一例を示した斜視図である。
図2図1の紫外線LED用蒸着フィルタの上面図である。
図3図1の紫外線LED用蒸着フィルタのX-X線断面図である。
図4】従来品の分光特性を示した図である。
図5】本発明に係る紫外線LED用蒸着フィルタの分光特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明に係る紫外線LED用蒸着フィルタの実施形態の一例を示した斜視図であり、図2は、図1の本発明に係る紫外線LED用蒸着フィルタを上から見た上面図であり、図3は、図1における、紫外線LED用蒸着フィルタの、図1に示されるX-X線での断面図である。図4は、本発明の特徴を有さない従来品の紫外線透過、可視光カットフィルタの分光特性を示したグラフであり、図5は、本発明に係る紫外線LED用蒸着フィルタの分光特性を示したグラフである。
【0019】
図1を示しながら、本発明に係る紫外線LED用蒸着フィルタの実施形態について詳述する。紫外線LED用蒸着フィルタ1は、第一の透光性基板10及び第二の透光性基板20を備える。第一の透光性基板10及び第二の透光性基板20は、その間に間隔を有し、これは封止剤を含むスペーサー4によって、確保されている。スペーサー4は、第一の透光性基板10及び第二の透光性基板20の間の間隔に、粉塵、ミスト、水分等の侵入を防ぐ、封止剤を含んでいる。封止剤としては、シリコーン樹脂を用いることが好ましく、またスペーサーの材質としては、アルミまたはステンレス鋼(SUS)を用いることが好ましいが、これに限定されるものではなく、公知のものを用いることができる。これに加えて、スペーサー4には、第一の透光性基板10及び第二の透光性基板20の間の間隔を保つことで、入射光の干渉を抑えるという機能をもつ。
【0020】
図2には、図1で示した本発明に係る紫外線LED用蒸着フィルタの実施形態の上面図が示されている。スペーサー4は、点線で内側が示されているが、全周にわたって、設けられていることが好ましい。これにより、より粉塵、ミスト、水分等の侵入を防ぐ効果がある。
図3は、図1で示した本発明に係る紫外線LED用蒸着フィルタの実施形態の、図1に示すX-X線断面図が示されている。第一の透光性基板10は、その上面に、蒸着膜11を蒸着させて備える。本発明にいう蒸着は、物理蒸着(PVD)と化学蒸着(CVD)及び物理蒸着のなかでも真空蒸着等があるものの、そのいずれの方法でもよい。また、第一の透光性基板10は、その下面に、蒸着膜12を蒸着させて備える。第一の透光性基板10はガラス等の光を通す材質であればよい。蒸着膜11、12は、いずれも、ビームの入射角が0度~20度であるときに、ビームが355ナノメートル~375ナノメートルの波長において透過率95パーセント、400ナノメートルの波長において透過率10パーセント以下、410ナノメートル~500ナノメートルの波長において透過率1パーセント以下、の性質を持つ遮光膜を蒸着させて、形成されている。同じ遮光膜を2つ、蒸着膜11、12として、第一の透光性基板10の両面に形成することで、のちに図5に示すように、従来品では、375ナノメートルから400ナノメートルにかけて、透過率を下落させていたところ、385ナノメートル前後から400ナノメートルにかけて急激に透過率を低下させることができ、10ナノメートル分の紫外線光が、遮光されずに、活用できることとなるため、好適である。
【0021】
また、スペーサー4は、蒸着膜12と、蒸着膜21との間に、離間距離Xを設けることができる点で好適である。離間距離Xは、0.1ミリメートル~20.0ミリメートルが好適である。最低でも、1.2マイクロメートル以上離間していればよいが、第一の透光性基板10、第二の透光性基板20及びその蒸着膜12、21の平面度が高くない場合であっても、面同士の距離が、すべての部分において、1.2マイクロメートル離間していることを確保するには、0.1ミリメートル以上であることが好ましい。また、製造原価の観点から、20.0ミリメートル以上であると、製造コストが2倍以上になるため、20.0ミリメートル以下であることが、より好ましい。また、1.2マイクロメートル未満の離間距離Xとしてしまうと、入射光の干渉が起き、好ましくない。
また、蒸着膜11、12は、ビームの入射角が0度から20度の紫外線光を活用できるため、設計上の自由度が確保でき、好適である。
【0022】
次に、第二の透光性基板20の蒸着膜21、22について詳述する。第二の透光性基板20はガラス等の光を通す材質であればよい。蒸着膜21、22は、第二の透光性基板20の上面及び下面にそれぞれ蒸着して形成されている。蒸着膜21と、22は、どちらが第二の透光性基板20の上面及び下面であってもよい。蒸着膜21が上面、蒸着膜22が下面で図示しているが例えば蒸着膜21が下面、蒸着膜22が上面であってもよい。
蒸着膜21は、ビームの入射角が0度~20度であるときに、ビームが355ナノメートル~375ナノメートルの波長において透過率95パーセント、500ナノメートル~600ナノメートルの波長において透過率1パーセント以下の性質のものが蒸着されることにより、形成されている。蒸着膜22は、ビームの入射角が0度~20度であるときに、355ナノメートル~375ナノメートルの波長において透過率95パーセントであり、ビームの波長が600ナノメートル~700ナノメートルの波長において透過率が1パーセント以下の性質のものが蒸着して、形成されている。これらは、いずれも公知の技術によるものである。
【0023】
メタルハライドランプを使用した従来品(D-10B)では、紫外線透過フィルタで、可視光400~700ナノメートルの大部分を遮光させ、可視光カットフィルタで、残りの透過した可視光を遮光させている。また、紫外線領域(300~400ナノメートル)も透過させているが、365ナノメートルの紫外線透過率が約75パーセント(参考値)と低くなるという課題がある。
本発明を使用することで、375~400ナノメートルの25ナノメートル分の範囲において、分光特性が遮光から透過へと垂直的となり、入射角0度~20度の範囲で、355ナノメートル~375ナノメートルの範囲の紫外線を容易に90パーセント透過させることができる。そのため、365ナノメートルの紫外線透過率は約90パーセントとなり、従来品と比べ、紫外線探傷灯の紫外線放射照度を増加させることができる。また、可視光領域(400~450ナノメートル)の入射光を遮光する蒸着膜を第一の透光性基板10の両面に、蒸着膜11、12という形で2面積層させることで、400~450ナノメートルの可視光透過率を1パーセント以下とすることができ、蒸着膜21、22を第二の透光性基板20に各1面積層させることで、450~700ナノメートルの透過率を1パーセント以下とすることができる。2枚の多面蒸着フィルタを組み合わせることで、検査に有害な400~700ナノメートルの可視光透過率につき1パーセント以下を実現し、従来品と同等とすることができる。なお、本発明における蒸着膜11、12、21、22はいずれもTa2O5(五酸化タンタル)SiO2(二酸化ケイ素)を交互に複数積層して形成されている。
【0024】
本実施形態に係る紫外線LED用蒸着フィルタ1は、図3における上方向、つまり蒸着膜11側からビームをあてて、下方向、つまり蒸着膜22側に向けてビームを通過させることにより使用する。また、紫外線照射装置において、出射口に任意の方法で固定されて使用されることが望ましい。紫外線照射装置の光源としては紫外線LEDを用いることが好ましい。
【0025】
多面蒸着フィルタの透過率仕様(入射角:0度~20度)は、以下の通りである。
・蒸着膜11、12に使用される遮光膜(A面):355-375ナノメートル(透過率=95パーセント)、400ナノメートル(透過率=10パーセント以下)、410~500ナノメートル(透過率=1パーセント以下)
・蒸着膜21に使用されている遮光膜(B面):355-375ナノメートル(透過率=95パーセント)、500-600ナノメートル(透過率=1パーセント以下)
・蒸着膜22に使用されている遮光膜(C面):355-375ナノメートル(透過率=95パーセント)、600―700ナノメートル(透過率=1パーセント以下)
・第一の透光性基板10のみにおける遮光、紫外線透過の仕様
A面+A面:355―375ナノメートル(透過率=95パーセント)、400ナノメートル(透過率=1パーセント以下)、410-500ナノメートル(透過率=0.01パーセント以下)
・第一の透光性基板10のみにおける遮光、紫外線透過の仕様
B面+C面:355-375ナノメートル(透過率=95パーセント)、500―700ナノメートル(透過率=1パーセント以下)
・第一の透光性基板10と第二の透光性基板20(それぞれ蒸着膜11、12、21、22を備える。)における遮光、透過率予測
・(A面+A面)+(B面+C面):355―375ナノメートル(透過率=90パーセント)、400ナノメートル(透過率=1パーセント以下)、
410―500ナノメートル(透過率=0.01パーセント以下)、500―700ナノメートル(透過率=1パーセント以下)
※波長:365ナノメートルにおける透過率はいずれも、90パーセント
【実施例
【0026】
以下に実施例を示して、本開示を更に詳細、且つ具体的に説明する。しかしながら、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
[実施例1]
図1等に示される本実施形態に係る紫外線LED用蒸着フィルタ1を備えた紫外線照射装置が用いられた。紫外線LED用蒸着フィルタ1は、ガラス製の第一の透光性基板10、第二の透光性基板20を備え、第一の透光性基板10の上面及び下面の蒸着膜11、12には、A面として、355-375ナノメートル(透過率=95パーセント)、400ナノメートル(透過率=10パーセント以下)、410―500ナノメートル(透過率=1パーセント以下)の膜が形成され、第二の透光性基板20の上面には、蒸着膜21が形成され、蒸着膜21にはB面として、355-375ナノメートル(透過率=95パーセント)、500―600ナノメートル(透過率=1パーセント以下)のものが用いられ、第二の透光性基板20の下面には、蒸着膜22が形成され、蒸着膜22には、C面として、355-375ナノメートル(透過率=95パーセント)、600―700ナノメートル(透過率=1パーセント以下)のものが用いられた。第一の透光性基板10、第二の透光性基板20の間には、スペーサー4が前週にわたって帯状に設けられた。スペーサーの太さであり、第一の透光性基板10に蒸着した蒸着膜12と、第二の透光性基板20に蒸着した蒸着膜21の離間距離である離間距離Xは、0.1ミリメートルであった。蒸着膜はいずれもTa2O5(五酸化タンタル)SiO2(二酸化ケイ素)を交互に複数積層して形成されている、LED光源を装着した紫外線探傷灯に使用するといった本発明の特徴及び上記の条件をいずれも備えていた。
【0028】
比較例1は、従来品フィルタを用いて試験が行われた。紫外線LED光源を装着した紫外線探傷灯に使用するといった条件は実施例と同様であった。従来品フィルタは、マークテック社製(D-10B)のものが用いられた。365ナノメートルにおける透過率は75パーセントという仕様のものであった。
【0029】
<評価方法>
実施例1と比較例1を用いて、紫外線透過率試験が行われた。分光特性の測定には島津製作所社製紫外線可視分光高度計UV-2450が用いられた。これにより比較例1では、図4、実施例1では図5の結果が得られた。比較例1では、375ナノメートルから400ナノメートルにかけて、透過率の低下する線の傾きが比較的緩やかであった。計算上、傾きは、透過率(パーセント)/波長(ナノメートル)×100を傾きとすると、実施例は、90/5×100≒6であったのに対し、比較例は、85/25×100≒29であった。よって、実施例のほうが400ナノメートルの手前で急激に透過率を下げることができたことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本開示は、紫外線を照射する紫外線照射装置用、及び紫外線照射装置を備える紫外線探傷装置用に好適に利用することができる。しかしながら、本開示は、上述された実施形態、及び実施例に限定されるものではない。本開示の紫外線LED用蒸着フィルタは、紫外線を利用する、コンタミネーションチェック、漏洩検査、脱脂洗浄の確認等のいるあらゆる試験や検査に有用である。また、本開示の紫外線探傷装置は、蛍光磁粉探傷装置に限定されるものではなく、蛍光浸透液を用いて被検査物の表面の欠陥を探傷する浸透探傷装置であっても良く、紫外線を利用して欠陥を探傷するあらゆる紫外線探傷装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 紫外線LED用蒸着フィルタ
4 スペーサー
10 第一の透光性基板
11、12、21、22 蒸着膜
20 第二の透光性基板
図1
図2
図3
図4
図5