(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】防汚組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 133/04 20060101AFI20231121BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20231121BHJP
C09D 143/04 20060101ALI20231121BHJP
C09D 133/06 20060101ALI20231121BHJP
C09D 133/16 20060101ALI20231121BHJP
C09D 193/04 20060101ALI20231121BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231121BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20231121BHJP
C09D 5/14 20060101ALI20231121BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20231121BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D5/16
C09D143/04
C09D133/06
C09D133/16
C09D193/04
C09D7/61
C09D7/63
C09D5/14
B05D5/00 H
B05D7/24 302Y
B05D7/24 303E
B05D7/24 302P
B05D7/24 302C
B05D7/24 302R
(21)【出願番号】P 2019524394
(86)(22)【出願日】2017-11-10
(86)【国際出願番号】 EP2017078886
(87)【国際公開番号】W WO2018087287
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-11-02
(32)【優先日】2016-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】515168776
【氏名又は名称】ヨトゥン アーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダーリン, マリット
(72)【発明者】
【氏名】アクセルソン, マルティン
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-026357(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118526(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/190241(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/087846(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/088377(WO,A1)
【文献】特開2016-089167(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175140(WO,A1)
【文献】特表2011-523969(JP,A)
【文献】特開2004-035881(JP,A)
【文献】特開2018-109147(JP,A)
【文献】特開平08-269389(JP,A)
【文献】国際公開第2013/073580(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
B05D 5/00
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防汚コーティング組成物であって、
(i)シリルエステルコポリマーと(ii)メデトミジンと(iii)ロジ
ンと(iv)シランを含有しており、
前記シリルエステルコポリマーがコモノマーとして
(a)トリイソプロピルシリルメタクリレートと;
(b)以下の式(I)で表される化合物であって、
【化1】
式(I)で、R
1が水素またはメチルであり、R
2が環状エーテル(たとえば、オキソラン、オキサン、ジオキソラン、アルキル基にて置換または非置換のジオキサン)であり、XがC1~C4アルキレンである、化合物、および/または、以下の式(II)で表される化合物であって、
【化2】
式(II)で、R
3が水素またはメチルであり、R
4が少なくとも1つの酸素原子もしくは窒素原子を有するC3~C18置換基である、化合物と;
(c)以下の式(III)で表される1つ以上のコモノマーであって、
【化3】
式(III)で、R
5が水素またはメチルであり、R
6がC1~C8ヒドロカルビルである、1つ以上のコモノマーと;
を含む、防汚コーティング組成物であって、
コモノマー(a)、(b)および(c)は、シリルエステルコポリマー中のコモノマーの>95wt%を形成しており、
揮発性有機化合物(VOC)の含有量(ASTM D5201-01)が400g/L以下である、組成物。
【請求項2】
前記シリルエステルコポリマー内の成分(b)の量が2~50wt%の範囲である、請求項1に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項3】
前記シリルエステルコポリマー内の成分(b)量が2~40wt%の範囲である、請求項1または2に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項4】
前記シリルエステルコポリマー内の成分(b)量が5~35wt%の範囲である、請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項5】
前記シリルエステルコポリマー内の(a)の量が前記コポリマーの5~80wt%の範囲にある、請求項1乃至4のうちのいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項6】
前記シリルエステルコポリマー内の(a)の量が前記コポリマーの25~75wt%の範囲にある、請求項1乃至5のうちのいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項7】
前記シリルエステルコポリマー内の(a)の量が前記コポリマーの30~70wt%の範囲にある、請求項1乃至6のうちのいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項8】
式(II)において、R
4が式-(CH
2CH
2O)
m-R
7で表される基であり、R
7がC1~C10アルキル置換基またはC6~C10アリール置換基であり、mが1~6の範囲の整数である、請求項1乃至7のうちのいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項9】
式(II)において、mが1~3の範囲の整数である、請求項8に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項10】
R
4が式-(CH
2CH
2O)
m-R
7の基であり、R
7がC1~C10アルキル置換基、である、請求項9に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項11】
R
4が式-(CH
2CH
2O)
m-R
7の基であり、R
7がメチルまたはエチル置換基である、請求項10に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項12】
mが1または2である、請求項10または11に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項13】
成分(b)が2-メトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレートおよびテトラヒドロフルフリルメタクリレートのうちの1つ以上を含む、請求項1乃至12のうちのいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項14】
メチルメタクリレートおよびn-ブチルアクリレートのうちの1つ以上を含む、請求項1乃至13のうちのいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項15】
2~60wt%の量のメチルメタクリレートをコモノマーとして含む、請求項1乃至14のうちのいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項16】
5~50wt%の量のメチルメタクリレートをコモノマーとして含む、請求項1乃至15のうちのいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項17】
1~30wt%の量のn-ブチルアクリレートをコモノマーとして含む、請求項1乃至16のうちのいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項18】
2~25wt%の量のn-ブチルアクリレートをコモノマーとして含む、請求項1乃至17のうちのいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項19】
無機銅化合物を含まない、請求項1乃至
18のうちのいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項20】
前記殺生物剤が亜酸化銅および/または銅ピリチオンを含む、請求項1乃至
18のうちのいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項21】
テトラエトキシシランを含む、請求項1乃至
20のうちのいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項22】
対象物を付着から保護するプロセスであって、
付着の可能性のある前記対象物の少なくとも一部を請求項1乃至
21のうちのいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物でコーティングすること
を含む、プロセス。
【請求項23】
請求項1乃至
21のうちのいずれか一項に記載の防汚コーティング組成物でコーティングされた対象物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋防汚コーティング組成物に関し、とくにコモノマーとしてトリイソプロピルシリルメタクリレートと少なくとも1つの親水性(メタ)アクリレートとを含むシリルエステルコポリマーを含有する海洋防汚コーティング組成物に関する。かかる海洋防汚コーティング組成物はさらに殺生物剤としてメデトミジンを含有している。また本発明はさらに、対象物を防汚する方法、本発明の海洋防汚コーティング組成物でコーティングされた対象物に関する。
【背景技術】
【0002】
海水に浸されている表面は、バクテリア、珪藻、藻類、チューブワーム、フジツボ、 ムラサキイガイなどの汚損生物の付着を受ける。表面に成長するすべての海生生物のうち、最も強固に付着するものはフジツボである。正しい条件が与えられれば、フジツボは非常に速く成長することができる。フジツボは、世界中に分布しており、沿岸水域において最も頻繁に遭遇する汚損生物である。
【0003】
フジツボによる船舶に対する汚損および付着の危険性は、新たな建造船舶の艤装期間中や船舶の停泊地での長期運行休止中または取引による長期静止期間中に最も高くなるのが一般的である。汚損は船舶の運用効率を著しく害するおそれがある。汚損は、流体力学的抗力を増大させ、燃料消費量を増大させ、速度を減少させ、運行範囲を減少させてしまう。汚損がひどく凹凸が形成された船体では燃料消費量が40%も増加してしまう場合もある。さらに、乾燥ドックに入れるための追加費用が発生してしまう。付着してしまったフジツボなどの石灰質生物を除去するには機械的に削り取らなければならない。また、船舶の汚損により非固有種の繁殖を引き起こしてしまう場合もある。これらはすべて生物汚損または生物付着(biofouling)の防止が必要とされる重要な経済的な要因である。
【0004】
海生生物の付着および成長の防止には防汚コーティングが用いられる。通常、これらのコーティングは、顔料、充填物、溶媒などの如きさまざまな成分と共にフィルム形成バインダーと生物学的活性物質とを含有している。
【0005】
今日の市場に出ている最も成功している自己研磨型防汚システムはシリルエステルコポリマー系のものである。バインダーマトリックスは、シリルエステルコポリマーからなるものであるが、防汚コーティングフィルムの自己研磨特性および機械的特性を調節するためにアクリレートおよびロジンまたはロジン誘導体の如き他のバインダーを含有していることも多い。これらのコーティング組成物は、たとえば特許文献1~9に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】欧州特許出願公開第0646630号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0802243号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1342756号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1641862号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1695956号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2781567号明細書
【文献】国際公開第00/77102号公報
【文献】国際公開第03/070832号公報
【文献】国際公開第2009/007276号公報
【文献】国際公開第2011/118526号公報
【文献】国際公開第2007/015676号公報
【文献】国際公開第2006/096129号公報
【文献】国際公開第00/42851号公報
【文献】国際公開第2010/071180号公報
【文献】特開2016-89167号公報
【文献】国際公開第2013/073580号公報
【文献】国際公開第2014/064048号公報
【文献】国際公開第03/080747号公報
【文献】米国特許第4593055号明細書
【文献】国際公開第97/044401号公報
【文献】欧州特許出願公開第2128208号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0204456号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0342276号明細書
【文献】英国特許出願公開第2311070号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0982324号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0529693号明細書
【文献】英国特許出願公開第2152947号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0526441号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1033392号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1072625号明細書
【文献】国際公開第2009/100908号公報
【文献】国際公開第96/14362号公報
【文献】国際公開第2011/092143号公報
【文献】欧州特許出願公開第2725073号公報
【文献】欧州特許出願公開第2551309号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
メデトミジンは海水に浸されている表面にフジツボが付着するのを防止するのに有効である。メデトミジンは窒素複素環式化合物である。このような化合物は、防汚コーティング組成物の貯蔵安定性、および加水分解性バインダー、とくにシリルエステルコポリマーを含有している防汚コーティングフィルムの長期的機械的特性に悪影響を与えることが知られている。
【0008】
驚くべきことに、本発明者らは、たとえばトリイソプロピルシリルメタクリレートと親水性(メタ)アクリレートコモノマーとを含むシリルエステルコポリマーにメデトミジンを組み合わせたものが、とくに海表面でのフジツボによる付着を防止するという点で防汚性能の改善が見られる自己研磨型防汚システムを提供することを見出した。さらに、本発明にかかる防汚組成物は優れた耐クラッキング性と優れた自己研磨特性とを有している。
【0009】
メデトミジンを含有する防汚コーティング組成物が開示されている。特許文献10にはメデトミジンを含有する防汚コーティング配合物におけるシリルエステルコポリマーの如き加水分解性コポリマーが特許請求されている。親水性コモノマーを含まないトリイソプロピルシリルアクリレートコポリマーが1種類だけ例示されている。
【0010】
特許文献11、特許文献12、特許文献13には、フジツボの付着を防止するためにメデトミジンを(他の生物学的活性化合物と組み合わせて)使用することが開示されている。これらの文献はバインダー技術に特化したものではない。
【0011】
トリイソプロピルシリルメタクリレートと親水性コモノマーとを含む防汚コーティング組成物が知られている。特許文献14には、トリイソプロピルシリルメタクリレートとメトキシアルキルメタクリレートとを含むシリルコポリマーと、ロジンの銅塩またはロジン誘導体の銅塩とを含有する防汚コーティング組成物が特許請求されている。好ましい防汚剤は、殺藻薬と組み合わせた亜酸化銅である。このコーティング組成物は、フジツボに対する付着阻害性という点では性能は不十分である。
【0012】
特許文献15には、トリイソプロピルシリルメタクリレートとメトキシエチル(メタ)アクリレートとを含むシリルコポリマーと、優れた貯蔵安定性を与えるトラロピリルとを含有し、優れた長期的な耐水性(たとえば、耐クラッキング性)を有する防汚コーティングフィルムを形成する無銅防汚コーティング組成物が特許請求されている。
【0013】
特許文献16には、トリイソプロピルシリルアクリレートおよびトリイソプロピルシリルメタクリレートの両方からの構造単位を特定の比率で含み、長期的な貯蔵安定性を有する防汚コーティング組成物および長期的な機械的特性を有する防汚コーティングフィルムを提供するシリルコポリマーが特許請求されている。各比較例には、トリイソプロピルシリルアクリレートコポリマーおよびトリイソプロピルシリルメタクリレートコポリマーの劣悪な機械的特性が示されている。例示されているシリルコポリマーのうちのいずれも親水性コモノマーを含んでいない。
【0014】
したがって、メデトミジンと組み合わせることにより防汚コーティングの劣化制御、耐クラッキング性および優れた防汚特性、とくに優れたフジツボ付着阻害特性を提供することができるシリルエステルコポリマー(ひいては、防汚組成物)の必要性がある。また、長期的な貯蔵安定性も必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
1つの態様では、本発明は、(i)シリルエステルコポリマーと、(ii)メデトミジンとを含む防汚コーティング組成物に関するものであり、シリルエステルコポリマーは、コモノマーとして、
(a) トリイソプロピルシリルメタクリレートと、
(b) 以下の式(I)で表される化合物であって、
【0016】
【0017】
式(I)において、R1が水素またはメチルであり、R2が環状エーテル(たとえば、オキソラン、オキサン、ジオキソラン、アルキル基により置換もしくは非置換のジオキサン)であり、XがC1~C4アルキレンである化合物、および/または、以下の式(II)で表される化合物であって、
【0018】
【0019】
式(II)において、R3が水素またはメチルであり、R4が少なくとも1つの酸素原子または窒素原子、好ましくは少なくとも1つの酸素原子を有するC3~C18置換基である化合物と、そして任意選択的に、(c)以下の式(III)で表される1つ以上のコモノマーであって、
【0020】
【0021】
式(III)において、R5が水素またはメチルであり、R6がC1~C8ヒドロカルビルである、1つ以上のコモノマーとを含んでいる。
【0022】
シリルエステルコポリマーは、本明細書の実施例に記載の方法に従うDSCによる測定で少なくとも20℃のガラス転移温度(Tg)を有することが好ましい。
【0023】
防汚コーティング組成物はメデトミジンと、任意選択的にさらなる防汚剤とを含んでいる。ここでいうさらなる防汚剤は、亜酸化銅、銅ピリチオン、トラロピリルまたは亜鉛ピリチオンであってもよい。一実施形態では、防汚コーティング組成物はメデトミジンに加えて亜酸化銅および銅ピリチオンを含んでいる。他の実施形態では、防汚コーティング組成物はメデトミジンに加えてトラロピリルおよび亜鉛ピリチオンを含んでいる。したがってこのように、防汚コーティング組成物は無機銅系防汚剤を含んでいない場合もある。
【0024】
他の態様では、本発明は、対象物を付着(汚損、汚染)から保護するプロセスを提供しており、かかるプロセスは、付着の対象となる対象物の少なくとも一部を本明細書に記載の防汚コーティング組成物でコーティングすることを含んでいる。
【0025】
本発明はさらに、本明細書に記載の防汚コーティング組成物でコーティングされた対象物に関する。
【0026】
他の態様によれば、本発明は、メデトミジンを含む防汚コーティング組成物において本明細書に記載のシリルエステルコポリマーをこの組成物のいわゆるバインダーとして用いることに関する。
【0027】
定義
用語「海洋防汚コーティング組成物」、「防汚コーティング組成物」、または単に「コーティング組成物」は海洋環境において用いるのに適した組成物を指す。
【0028】
用語「ヒドロカルビル基」は、炭素原子と水素原子のみを有する基を指しており、アルキル基、アルケニル基 、アリール基、シクロアルキル基、アリールアルキル基などが含まれる。
【0029】
用語「(メタ)アクリレート」はメタクリレートまたはアクリレートを意味する。
【0030】
以下の記載において用いられる用語「ロジン」は「ロジンまたはその誘導体」を含む。
【0031】
用語「バインダー」は、組成物に堅牢さと強さとを与えるマトリックスを形成するシリルエステルコポリマーおよびその他の成分を含む組成物の一部を指す。通常、本明細書で用いられる用語「バインダー」はシリルエステルコポリマーとそれと共に用いられうる任意のロジンを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
一実施形態では、本発明にかかる防汚コーティング組成物は、コモノマーとして少なくともトリイソプロピルシリルメタクリレートと親水性の(メタ)アクリレートとを含むシリルエステルコポリマーを含有している。本明細書に記載のように、シリルエステル(メタ)アクリレートコモノマー、親水性(メタ)アクリレートコモノマーおよび/または非親水性(メタ)アクリレートコモノマーがさらに加えられてもよい。
【0033】
シリルエステルコポリマー
コモノマー
一実施形態では、シリルエステルコポリマーはコモノマーとして少なくともトリイソプロピルシリルメタクリレート(a)と少なくとも1つの親水性モノマー(b)とを含んでいる。
【0034】
シリルエステルコポリマー内のコモノマーのwt%が記載されている場合、wt%はシリルエステルコポリマーに含まれる各コモノマーの合計(重量)に対するものである。したがって、トリイソプロピルシリルメタクリレート(a)および親水性(メタ)アクリレートモノマー(b)のみがシリルエステルコポリマーに含まれるコモノマーである場合、トリイソプロピルシリルメタクリレートのwt%は、[トリイソプロピルシリルメタクリレート(a)(重量)/(トリイソプロピルシリルメタクリレート(重量)+親水性(メタ)アクリレートモノマー(b)(重量)]x100%という計算式を用いて求められる。トリイソプロピルシリルメタクリレート(a)、親水性(メタ)アクリレートモノマー(b)およびメチルメタクリレートのみが含まれている場合、トリイソプロピルシリルメタクリレートのwt%は、[トリイソプロピルシリルメタクリレート(a)(重量)/(トリイソプロピルシリルメタクリレート(重量)+親水性(メタ)アクリレートモノマー(b)(重量)+メチルメタクリレート(重量)]x100%という計算式を用いて求められる。
【0035】
好ましくは、シリルエステルコポリマーは、トリイソプロピルシリルメタクリレート(a)と親水性(メタ)アクリレートコモノマー(b)と非親水性(メタ)アクリレートコモノマー(c)とを合計したものを>80wt%、好ましくは>90wt%、さらに好ましくは>95wt%、とくに>98wt%を含んでいる。
【0036】
成分(a)は、トリイソプロピルシリルメタクリレートであり、好ましくは、シリルエステルコポリマーの5~80wt%、好ましくは25~75wt%、とくに30~70wt%を形成している。
【0037】
成分(b)(合計)は、好ましくは、シリルエステルコポリマーの2~50wt%、好ましくはシリルエステルコポリマーの2~40wt%、とくにシリルエステルコポリマーの5~40wt%、さらにいえばとくに5~35wt%を形成する。これらのwt%の値は、含まれる複数の成分(b)のコモノマーの合計を指す。
【0038】
好ましくは、比率(a):(b)(重量/重量)は、40:60~95:5の範囲、好ましくは50:50~95:5の範囲、とくに50:50~90:10の範囲、最も好ましくは50:50~85:15の範囲である。好ましくは、シリルエステルコポリマー内のコンポーネント(a)の重量分率 はコンポーネント(b)の重量分率よりも大きい。
【0039】
シリルエステルコポリマー内の(a)+(b)の量は、好ましくは最大95wt%、たとえば最大90wt%、とくに最大85wt%である。シリルエステルコポリマー内の(a)+(b)の量は、30~95wt%の範囲であってもよいしまたは40~85wt%の範囲であってもよい。
【0040】
親水性(メタ)アクリレートコモノマーコンポーネント(b)
実施形態によっては、シリルエステルコポリマーは式(I)で表される少なくとも1つのコモノマーを含んでいる場合もある。
【0041】
【0042】
式(I)において、R1が水素またはメチルであり、R2が環状エーテル(たとえば、オキソラン、オキサン、ジオキソラン、アルキル基にて置換または非置換のジオキサン)であり、XがC1~C4アルキレン、好ましくはC1~C2アルキレンである。
【0043】
環状エーテルは環内に単一の酸素原子を含んでいてもよいし、または、環内に2個または3個の酸素原子を含んでいてもよい。また環状エーテルは、2~8個の炭素原子、たとえば3~5個の炭素原子を有する環を含んでいてもよい。環全体としては4~8個の原子、たとえば5個または6個の原子を含みうる。
【0044】
環状エーテルの環はたとえば一個以上、たとえば一個のC1~C6アルキル基により置換されていてもよい。置換基は、X基と結合している環内の位置を含むいかなる位置に配置されてもよい。
【0045】
式(I)で表される適切な化合物としては、テトラヒドロフルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソプロピリデングリセロールメタクリレート、グリセロールホルマールメタクリレートおよびサイクリックトリメチロールプロパンフォーマルアクリレートが挙げられる。
【0046】
最も好ましくは、式(I)は以下の構造を有するテトラヒドロフルフリルアクリレートである。
【0047】
【0048】
さらなる実施形態では、シリルエステルコポリマーは以下の式(II)で表される1つ以上のコモノマーを含んでいてもよい。
【0049】
【0050】
式(II)において、R3が水素またはメチルであり、R4が少なくとも1つの酸素原子または窒素原子、好ましくは少なくとも1つの酸素原子を含むC3~C18置換基である。
【0051】
上述の式(II)で示されているように、用語「親水性(メタ)アクリレート」は少なくとも1つの酸素原子または窒素原子、好ましくは少なくとも1つの酸素原子を含むR4基を式(II)内に必要とする。以下に詳細に説明されているように、式(III)で表され、R6基がC原子とH原子とだけからなるさらなる非親水性(メタ)アクリレートコモノマーが含まれていてもよい。
【0052】
ある実施形態では、シリルエステルコポリマーは、上述の式(II)で表され、R4基が化学式―(CH2CH2O)m―R7で表される基である少なくとも1つのコモノマーを含んでいる。この化学式で、R7がC1~C10ヒドロカルビル置換基、好ましくはC1~C10アルキルまたはC6~C10アリール基であり、mが1~6の範囲、好ましくは1~3の範囲の整数である。好ましくは、R4が化学式―(CH2CH2O)m―R7で表され、R7がアルキル置換基、好ましくはメチルまたはエチルであり、mが1~3の範囲の整数、好ましくは1または2である。
【0053】
ある実施形態では、シリルエステルコポリマーは、2-メトキシエチルメタクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレートおよび2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレートのうちの1つ以上を含むようになっている。
【0054】
とくに好ましいコモノマー(b)としては、2-メトキシエチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレートおよびテトラヒドロフルフリルメタクリレートが挙げられる。
【0055】
本明細書で用いられる場合、式(I)および式(II)は「極性」(メタ)アクリレートコモノマーまたは「親水性」(メタ)アクリレートコモノマーを表している。トリイソプロピルシリルメタクリレートと共にこれらのコモノマーを用いることにより、劣化が抑制されたバインダーの形成を確実にすることができる。
【0056】
好ましくは、シリルエステルコポリマーは式(I)で表されるコモノマーまたは式(II)で表されるコモノマーを含んでいる。これら両方の式を有するモノマーを含むことは一般的に好ましくない。
【0057】
非親水性(メタ)アクリレートコモノマー(c)の追加
シリルエステルコポリマーは、式(III)で表される1つ以上のさらなる非親水性(メタ)アクリレートコモノマーを含んでいてもよい。
【0058】
【0059】
式(III)では、R5が水素またはメチルであり、R6がC1~C8ヒドロカルビル置換基、好ましくはC1~C8アルキル置換基、最も好ましくはメチル、エチル、n-ブチルまたは2-エチルヘキシルである。本明細書では、式(III)で表されるコモノマーは「非親水性」コモノマーと呼ぶ。
【0060】
本発明の全実施形態では、好ましくは、シリルエステルコポリマーは少なくとも1つのさらなる非親水性メタクリレートおよび/または非親水性アクリレートコモノマーを含むようになっている。1つ以上の非親水性の(メタ)アクリレートコモノマーが含まれている場合、シリルエステルコポリマー内のこれらの非親水性(メタ)アクリレートコモノマーの合計は、好ましくは最大60wt%、好ましくは55wt%以下、たとえば10~55wt%の範囲、とくに10~50wt%の範囲である。
【0061】
好ましい実施形態では、トリイソプロピルシリルメタクリレート(a)、成分(b)および式(III)により表される非親水性(メタ)アクリレートコモノマーを合わせたコモノマーの合計がシリルエステルコポリマー内の全コモノマーの>80wt%、好ましくは>90wt%、とくに>95wt%を形成するようになっている。
【0062】
好ましい実施形態では、シリルエステルコポリマーは、メチルメタクリレートおよび/またはn-ブチルアクリレートという非親水性コモノマーのうちの1つ以上を含むようになっている。
【0063】
好ましくは、本発明の全実施形態においてメチルメタクリレートが含まれるようになっている。メチルメタクリレートが含まれる場合、メチルメタクリレートは、好ましくは、シリルエステルコポリマーの2~60wt%、好ましくは5~50wt%の量含まれるようになっている。好ましい実施形態では、トリイソプロピルシリルメタクリレート(a)、成分(b)およびメチルメタクリレートの合計がシリルエステルコポリマー内の全コモノマーの>50wt%、好ましくは>55wt%、とくに>60wt%を形成するようになっている。
【0064】
n-ブチルアクリレートが含まれる場合、n-ブチルアクリレートは1~30wt%、好ましくは2~25wt%の量含まれることが好ましい。
【0065】
シリル(メタ)アクリレートコモノマーの追加
シリルエステルコポリマーはさらにシリル(メタ)アクリレートコモノマーを含んでいてもよい。シリル(メタ)アクリレートコモノマーが含まれる場合、トリイソプロピルシリルメタクリレート以外の追加のシリル(メタ)アクリレートコモノマーが、シリルエステルコポリマーの20wt%以下、好ましくはシリルエステルコポリマーの10wt%以下を形成することが好ましい。シリル(メタ)アクリレートコモノマーが含まれる場合、適切なシリル(メタ)アクリレートコモノマーは好ましくは以下の式(IV)により表される。
【0066】
【0067】
式(IV)において、
各R8が、線形または非線形のC1~C4アルキル基から独立して選択され;
各R9が、線形または非線形のC1~C20アルキル基、C3~C12シクロアルキル基、置換または非置換のC6~C20アリール基および―OSi(R10)3基からなる群から独立して選択され;
各R10が、独立して線形または非線形のC1~C4アルキル基であり;
nが0~5までの整数であり;
Yが、アクリロイルオキシ基、メタアクリロイルオキシ基、(メタアクリロイルオキシ)アルキレンカルボニルオキシ基および(アクリロイルオキシ)アルキレンカルボニルオキシ基の如きエチレン性不飽和基である。いうまでもなく、トリイソプロピルシリルメタクリレートについては、本発明にかかるシリルエステルコポリマー内に常に含まれているため、式(IV)から除外されているとみなす必要がある。
【0068】
用語「アルキル」は、メチル、エチル、イソプロピル、プロピルおよびブチルの如き線形または非線型のアルキル基を含むことを意図している。とくに好ましいシクロアルキル基としては、シクロヘキシル基および置換シクロヘキシル基が挙げられる。
【0069】
置換アリール基の例としては、ハロゲン、1~約8個の炭素原子を有するアルキル基、アシル基またはニトロ基から選択される少なくとも1つの置換基により置換されたアリール基が挙げられる。とくに好ましいアリール基としては、置換または非置換のフェニル基、ベンジル基、フェナルキルまたはナフチルが挙げられる。
【0070】
理想的には、好ましいシリルエステルモノマーは、nが0である式(IV)で表される化合物、すなわち化学式Y-Si(R9)3をベースにしている。
【0071】
シリルエステル機能を有するモノマーの例は周知されている。一般的(IV)により表されるモノマーとしては、
アクリル酸とメタクリル酸とのシリルエステルモノマーであり、たとえばトリイソプロピルシリルアクリレート、トリエチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-プロピルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリイソブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-tert-ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-sec-ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-ペンチルシリル(メタ)アクリレート、トリイソペンチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-ヘキシルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-オクチルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-ドデシルシリル(メタ)アクリレート、トリフェニルシリル(メタ)アクリレート、トリ-(p-メチルフェニル)シリル(メタ)アクリレート、トリベンジルシリル(メタ)アクリレート、エチルジメチルシリル(メタ)アクリレート、n-プロピルジメチルシリル(メタ)アクリレート、イソプロピルジメチルシリル(メタ)アクリレート、n-ブチルジメチルシリル(メタ)アクリレート、イソブチルジメチルシリル(メタ)アクリレート、tert-ブチルジメチルシリル(メタ)アクリレート、n-ペンチルジメチルシリル(メタ)アクリレート、n-ヘキシルジメチルシリル(メタ)アクリレート、ネオヘキシルジメチルシリル(メタ)アクリレート、テキシルジメチルシリル(メタ)アクリレート、n-オクチルジメチルシリル(メタ)アクリレート、n-デシルジメチルシリル(メタ)アクリレート、ドデシルジメチルシリル(メタ)アクリレート、n-オクタデシルジメチルシリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルジメチルシリル(メタ)アクリレート、フェニルジメチルシリル(メタ)アクリレート、ベンジルジメチルシリル(メタ)アクリレート、フェネチルジメチルシリル(メタ)アクリレート、(3-フェニルプロピル)ジメチルシリル(メタ)アクリレート、p-トリルジメチルシリル(メタ)アクリレート、イソプロピルジエチルシリル(メタ)アクリレート、n-ブチルジイソプロピルシリル(メタ)アクリレート、n-オクチルジイソプロピルシリル(メタ)アクリレート、メチルジ-n-ブチルシリル(メタ)アクリレート、メチルジシクロヘキシルシリル(メタ)アクリレート、メチルジフェニルシリル(メタ)アクリレート、tert-ブチルジフェニルシリル(メタ)アクリレート、ノナメチルテトラシロキシ(メタ)アクリレート、ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは特許文献17および特許文献18に開示されている。
【0072】
シリルエステルコポリマーは、トリイソプロピルシリルアクリレートとトリイソプロピルシリルメタクリレートとの両方を含んでもよい。
【0073】
シリルエステルコポリマーの物性
有機シリルエステル基を含むポリマーは、従来の方法で溶液重合、バルク重合、エマルジョン重合および懸濁重合の如きさまざまな方法のうちのいずれかを用いて、または制御重合技術を用いて重合開始剤の存在下でモノマー混合物を重合させることにより得ることができる。この有機シリルエステル基を含むポリマーを用いてコーティング組成物を調製する際、ポリマーを有機溶媒で希釈して適切な粘度を有するポリマー溶液を生成することが好ましい。この点を考慮すると、溶液重合を用いることが望ましい。
【0074】
重合開始剤の例としては、アゾ化合物である、たとえばジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)および1,1’-アゾビス(シアノシクロヘキサン)が挙げられ、過酸化物である、たとえばtert-アミルペルオキシピバレート、tert-ブチルペルオキシピバレート、tert-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルペルオキシジエチルアセテート、tert-ブチルペルオキシイソブチレート、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、1、1-ジ(tert-アミルペルオキシ)シクロヘキサン、tert-アミルペルオキシ-2-エチルヘキシルカルボネート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカルボネート、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキシルカルボネート、ポリエーテルポリ-tert-ブチルペルオキシカルボネート、ジ-tert-ブチルペルオキシドおよびジベンゾイルペルオキシドが挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2以上の混合物として用いられる。
【0075】
有機溶媒の例としては、芳香族炭化水素である、たとえばキシレン、トルエン、メシチレン;ケトンであるたとえばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン;エステルであるたとえばブチルアセテート、tert-ブチルアセテート、アミルアセテート、エチレングリコールメチルエーテルアセテート;エーテルとしてエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン;アルコールである、たとえばn-ブタノール、イソブタノール、ベンジルアルコール;エーテルアルコールであるたとえばブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール;脂肪族炭化水素である、たとえばホワイトスピリット;そして場合によっては、2つ以上の溶媒の混合物が挙げられる。これらの化合物は単独でまたは2以上の混合物として用いられる。好ましくは、シリルエステルコポリマーはランダムコポリマーである。
【0076】
好ましくは、このようにして得られた有機シリルエステル基を含むポリマーは5,000~100,000、好ましくは10,000~80,000、さらに好ましくは20,000~60,000の量平均分子量を有している。Mwは実施例に記載の方法で測定されている。
【0077】
好ましくは、シリルエステルコポリマーは、少なくとも15℃、好ましくは少なくとも20℃、たとえば少なくとも22℃のガラス転移温度(Tg)を有している。これらの値は実施例において記載されているTg試験法に従って測定されている。80℃未満の値、たとえば75℃未満、たとえば60℃未満が好ましい。
【0078】
シリルエステルコポリマーはポリマー溶液として提供されるようになっていてもよい。ポリマー溶液は、30~90wt%、好ましくは40~85wt%、さらに好ましくは40~75wt%の固形分を有するように調節されることが望ましい。
【0079】
好ましくは、本発明にかかる最終的な防汚コーティング組成物は、全コーティング組成物に基づいて0.5~45wt%、たとえば1~30wt%、とくに5~25wt%のシリルエステルコポリマーを含有している。
【0080】
場合によっては、本発明の防汚コーティング組成物は、本発明にかかるシリルエステルコポリマーと、たとえば特許文献19、特許文献1、特許文献9および特許文献6に記載の他のシリルエステルコポリマーとの混合物を含有していてもよい。
【0081】
ロジン成分
ロジンは、防汚コーティングフィルムの自己研磨性および機械的物性を調節するために用いることができる。好ましくは、本発明にかかる防汚コーティング組成物は少なくとも0.5wt%のロジン、たとえば少なくとも1wt%のロジンを含有している。ロジン成分の上限は25wt%、たとえば15wt%であってもよい。
【0082】
本発明に用いられるロジンは以下に記載のようなロジンまたはその誘導体、たとえばロジン塩であってもよい。ロジン材の例としては、ウッドロジン、トール油ロジン、ガムロジン、ロジン誘導体などが挙げられ、ロジン誘導体には、たとえば水素化ロジン、部分的水素化ロジン、不均化ロジン、二量化ロジン、重合ロジン、ロジンのマレイン酸エステル、ロジンのフマル酸エステル、ロジンのグリセロールエステル、ロジンのメチルエステル、ロジンのペンタエリトリトールエステル、他のロジンエステル、他の水素化ロジン、ロジンおよび重合ロジンの銅レジネート、ロジンおよび重合ロジンの亜鉛レジネート、ロジンおよび重合ロジンのカルシウムレジネート、ロジンおよび重合ロジンのマグネシウムレジネート、ロジンおよび重合ロジンの他の金属レジネートなどが含まれる。これらについては特許文献20に開示されている。好ましいのはガムロジンおよびガムロジンの誘導体である。
【0083】
本発明では、好ましくは、防汚コーティング組成物は0.5~25wt%、好ましくは1~20wt%、好ましくは2~15wt%のロジン材を含有している。
【0084】
防汚コーティング組成物の物性については、シリルエステルコポリマー成分とロジン成分との相対的な量を変えることにより調節することができる。
【0085】
他のバインダー成分
シリルエステルコポリマーおよび任意選択材料であるロジンに加えて、防汚コーティングフィルムの特性を調節するためにさらなるバインダーが用いられてもよい。本発明のシリルエステルコポリマーおよびロジンに加えて用いることができるバインダーの例としては:
(メタ)アクリルポリマーおよび(メタ)アクリルコポリマー、とくにアクリレートバインダー、たとえば特許文献8および特許文献21に記載のポリ(n-ブチルアクリレート)、ポリ(n-ブチルアクリレート-co-イソブチルビニルエーテルなど;
ビニルエーテルポリマーおよびビニルエーテルコポリマー、たとえばポリ(メチルビニルエーテル)、ポリ(エチルビニルエーテル)、ポリ(イソブチルビニルエーテル)、ポリ(塩化ビニル-co-イソブチルビニルエーテル);
たとえば特許文献22および特許文献23に記載のように一価の有機残基と結合された二価の金属で酸基がブロックされている、または、たとえば特許文献24および特許文献25に記載のように水酸基残基と結合された二価の金属で酸基がブロックされている、または、たとえば特許文献26に記載のようにアミンで酸基がブロックされている酸官能性ポリマー;
親水性コポリマー、たとえば特許文献27に記載の(メタ)アクリレートコポリマーおよび特許文献28に記載のポリ(N-ビニールピロリドン)コポリマーもしくは他のコポリマー;
脂肪族ポリエステル, たとえばポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(2-ヒドロキシ酪酸)、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4-ヒドロキシ吉草酸)、ポリカプロラクトン、および、上述のユニットから選択される2つ以上のユニットを含む脂肪族ポリエステルコポリマー;
たとえば特許文献29および特許文献30に記載の金属含有ポリエステル;
特許文献31に記載のポリオキサレートおよび特許文献32に記載の他の縮合ポリマー;
アルキド樹脂および変性アルキド樹脂;ならびに
たとえば特許文献33に記載の炭化水素樹脂、たとえばC5脂肪族モノマー、C9芳香族モノマー、インデンクマロンモノマーもしくはテルペンから選択される少なくとも1つのモノマーまたはそれらの混合物の重合からのみ形成される炭化水素樹脂が挙げられる。
【0086】
ロジンおよびシリルエステルコポリマーに加えて、さらなるバインダーが含まれる場合、シリルコポリマー:バインダーの重量比は、30:70~95:5、好ましくは35:65~90:10、とくに40:60、80:20の範囲であってもよい。これらの好ましい比は、シリルコポリマーおよびさらなるバインダーのみの量に関する。すなわち、ロジンは含まれていない。
【0087】
とくに適切なさらなるバインダーは、(メタ)アクリルポリマーおよび(メタ)アクリルコポリマーである。
【0088】
殺生物剤
防汚コーティング組成物は、表面への海洋生物の付着(汚染、汚損)を防止することができるまたは表面から付着海洋生物を取り除くことができる化合物をさらに含有している。このために、4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール[メデトミジン]の存在が必要となる。
【0089】
この殺生物剤に加えて、他の防汚化合物が存在する場合もある。表面への海洋生物の付着を防止するように作用する公知化合物について説明するために、産業界において防汚剤、防汚物質、殺生物剤、毒性物質という用語が用いられている。本発明にかかる防汚物質は海洋防汚物質のことである。
【0090】
防汚コーティング組成物は銅系殺生物剤、好ましくは亜酸化銅(Cu2O)および/または銅ピリチオンを含有しいてもよい。亜酸化銅は、典型的な粒子直径分布が0.1~70μmであり、平均粒子サイズ(d50)が1~25μmである。亜酸化銅は、表面酸化および表面凝集を防止するための安定剤として満足しうる。市販されている亜酸化銅の例としては、Nordox AS社からのNordox Cuprous Oxide Red Paint Grade、Nordox XLT;Furukawa Cheimicals Co.,LTD.社からのCuprous oxide;American Chemet Corporation社からのRed Copp 97N、Purple Copp、Lolo Tint 97N、Chemet CDC;Spiess-Urania社からのCuprous Oxide Red;およびTaixing Smelting Plant Co.,Ltd.社からのCuprous oxide Roast、Cuprous oxide Electrolyticが挙げられる。
【0091】
本発明にかかる防汚コーティング組成物は他の殺生物剤、たとえば特許文献17に記載の殺生物剤を含有していてもよい。好ましいさらなる生物学的有効物質としては、亜酸化銅、チオシアン酸銅、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、エチレンビス(ジチオカルバミン酸)亜鉛[ジネブ]、2-(tertブチルアミノ)-4-(シクロプロピルアミノ)-6-(メチルチオ)-1,3,5-トリアジン[シブトリン]、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾロン-3-オン[DCOIT]、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-フェニルスルファミド[ジクロロフルアニド]、N-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-p-トリルスルファミド[トリルフルアニド]、トリフェニルボランピリジン[TPBP]および4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル[トラロピリル]が挙げられる。
【0092】
当該技術分野において知られているように、異なる殺生物剤が異なる海洋生物の付着に対して作用するため、複数の殺生物剤の混合物が用いられるようになっていてもよい。
【0093】
さらに好ましくは、フジツボ、チューブワーム、コケムシおよびヒドロポリプの如き海洋無脊椎動物類に対して有効な殺生物剤、海草、藻類および珪藻の如き植物類に対して有効な殺生物剤、および、バクテリアに対して有効な殺生物剤の混合物が用いられるようになっている。
【0094】
一実施形態では、防汚コーティング組成物は無機物質である銅系殺生物剤を含有しないようになっている。このために、最も好ましい選択肢は、メデトミジンと、トラロピリルと、亜鉛ピリチオン、ジネブおよび4,5-ジクロロ-2-オクチル-4-イソチアゾロン-3-オンのうちから選択される1つ以上とを組み合わせることである。
【0095】
他の実施形態では、防汚コーティング組成物は、メデトミジンに加えて、亜酸化銅および/またはチオシアン酸銅と、銅ピリチオン、ジネブおよび4,5-ジクロロ-2-オクチル-4-イソチアゾロン-3-オンから選択される1つ以上の殺生物剤とを含有するようになっている。
【0096】
他の実施形態では、防汚コーティング組成物は、銅を含有するようになっている。
【0097】
複数の殺生物剤の合計量は、防汚コーティング組成物の最大70wt%、たとえば0.1~60wt%、たとえば0.2~60wt%を形成してもよい。無機銅化合物が存在する場合、殺生物剤の適切な量は防汚コーティング組成物の20~60wt%であってもよい。無機銅化合物が回避される場合、用いられる量は少なく、たとえば0.1~20wt%、たとえば0.2~15wt%であってもよい。いうまでもなく、殺生物剤の量は最終用途に応じて、また、用いられる殺生物剤に応じて異なる。
【0098】
メデトミジンの用いられる量は少ない。防汚コーティング組成物における典型的な量は、0.02~1.0wt%、たとえば0.05~0.5wt%、とくに0.1~0.4wt%である。
【0099】
殺生物剤によっては、放出を制御するために不活性担体により内包化もしくは吸着されるようになっている場合もあれば、または、他の材料と結合されるようになっている場合もある。上述のパーセンテージは、存在する活性殺生物剤の量を指しており、用いられる担体のことを指しているわけではない。
【0100】
他の成分
本発明にかかる防汚コーティング組成物は、シリルエステルコポリマーと、上述の任意選択的な成分のうちのいずれかとに加え、場合によっては、他のバインダー、無機顔料または有機顔料、体質顔料、充填材、添加物、溶媒およびシンナーのうちから選択される1つ以上の成分を含有している。
【0101】
顔料の例としては、無機顔料であるたとえば二酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、リン酸亜鉛 および黒鉛、有機顔料であるたとえばフタロシアニン化合物、アゾ顔料およびカーボンブラックが挙げられる。
【0102】
体質顔料および充填材の例としては、鉱物であるたとえば苦灰岩、プラストライト(plastorite)、方解石、石英、バライト、マグネサイト、霰石、シリカ、珪灰石、滑石、緑泥石、雲母、カオリンおよび長石;合成無機化合物であるたとえば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ケイ酸カルシウムおよびシリカ;ポリマーミクロスフェアおよび無機ミクロスフェアである、たとえばコーティングされたもしくはコーティングされてない中空および中実のガラスビーズ、コーティングされたもしくはコーティングされてない中空および中実のセラミックビーズ、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート-co-エチレングリコールジメタクリレート)、ポリ(スチレン-co-エチレングリコールジメタクリレート)、ポリ(スチレン-co-ジビニルベンゼン)、ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)の如きポリマー材料からなる多孔質およびコンパクトなビーズが挙げられる。
【0103】
防汚コーティング組成物に加えることができる添加物の例としては、強化材、チキソトロープ剤、増粘剤、沈降防止剤、湿潤剤、分散剤、可塑剤および溶媒が挙げられる。
【0104】
強化剤の例としてはフレークとファイバーが挙げられる。ファイバーとしては、天然および合成無機繊維であるたとえばシリコン含有ファイバー、炭素繊維、酸化物ファイバー、炭化物ファイバー、窒化物ファイバー、硫化物ファイバー、リン酸塩ファイバー、鉱物ファイバー;金属ファイバー;天然および合成無機繊維であるたとえばセルローズファイバー、ゴムファイバー、アクリルファイバー、ポリアミドファイバー、ポリイミド、ポリエステルファイバー、ポリヒドラジドファイバー、ポリ塩化ビニルファイバー、ポリエチレンファイバーなどが挙げられる。これらについては特許文献7に記載されている。好ましくは、ファイバーは、平均長が25~2,000μm、平均厚が1~50μm、平均長と平均厚との間の比が少なくとも5である。
【0105】
チキソトロープ剤、増粘剤および沈降防止剤の例としては、ヒュームドシリカの如きシリカ、有機変性粘土、アミドワックス、ポリアミドワックス、アミド誘導体、ポリエチレンワックス、酸化したポリエチレンワックス、水添カスターワックス 、エチルセルロース、ステアリン酸アルミニウムおよびそれらの混合物が挙げられる。
【0106】
可塑剤の例としては、ポリマー可塑剤、塩素化パラフィン、フタル酸エステル、リン酸エステル、スルホンアミド、アジピン酸エステル、エポキシ化植物油およびスクロース酢酸イソブチルが挙げられる。
【0107】
脱水剤および乾燥剤の例としては、無水硫酸カルシウム、硫酸カルシウム半水塩、無水硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸亜鉛、モレキュラシーブ、沸石に加えて、オルトエステルであるたとえばオルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル、オルトギ酸トリプロピル、オルトギ酸トリイソプロピル、オルトギ酸トリブチル、オルト酢酸トリメチルおよびオルト酢酸トリエチル;ケタール;アセタール;エノールエーテル;オルソホウ酸エステルであるたとえばホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリブチルおよびほう酸トリ-tert-ブチル;シラン(silanes)である、たとえばテトラエトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランおよびエチルポリシリケート;ならびにイソシアン酸エステルであるたとえばイソシアン酸p-トルエンスルホニルが挙げられる。
【0108】
好ましい脱水剤および乾燥剤は、テトラエトキシシランおよび無機化合物の如きシランである。シランおよびロジンまたはその誘導体を用いることがとくに好ましい。
【0109】
防汚コーティング組成物の貯蔵安定性に寄与する安定剤の例としては、特許文献34に記載のビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、1,3-ジ-p-トリルカルボジイミドなどの如きカルボジイミド化合物が挙げられる。
一般的に、これらの任意選択的な成分のうちのいずれかを防汚コーティング組成物の0.1~20wt%、典型的には0.5~20wt%、好ましくは0.75~15wt%の量まで含有させることができる。いうまでもなく、これらの任意選択的な成分の量は最終用途に応じて異なる。
【0110】
防汚コーティング組成物は溶媒を含有していることが非常に好ましい。この溶媒は揮発性であることが好ましく、また、有機溶媒であることが好ましい。有機溶媒およびシンナーの例としては、芳香族炭化水素であるたとえばキシレン、トルエン、メシチレン;ケトンであるたとえばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、ジイソブチルケトン、メチルプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン;エステルとしてたとえばブチルアセテート、tertブチルアセテート、酢酸アミル、イソアミルアセテート、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピルプロピオネート、ブチルプロピオネート;エーテルであるたとえばエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン;アルコールであるたとえばn-ブタノール、イソブタノール、ベンジルアルコール;エーテルアルコールであるたとえばブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノール;脂肪族炭化水素であるたとえばホワイトスピリット;ならびに、任意選択的に、2つ以上の溶媒およびシンナーの混合物が挙げられる。
【0111】
好ましい溶媒は、芳香族溶剤、とくにキシレンおよび芳香族炭化水素の混合物である。
【0112】
溶媒の量にはできるだけ少ないことが好ましい。溶媒の含有量は、防汚コーティング組成物の最大50wt%、好ましくは防汚コーティング組成物の最大45wt%、たとえば最大40wt%であってもよいが、15wt%以下、たとえば10wt%以下であってもよい。先の場合と同様に、いうまでもなく溶媒の含有量は存在するその他の成分に応じても異なるし、コーティング組成物の最終用途に応じても異なる。
【0113】
それに代えて、コーティングは、防汚コーティング組成物のフィルム形成成分用の有機非溶剤(organic non-solvent)の中に分散させてもよければまたは水性分散液の中に分散させてもよい。
【0114】
好ましくは、本発明にかかる防汚コーティング組成物は、40vol%を上回る、たとえば45vol%を上回る、たとえば50vol%を上回る、好ましくは55vol%を上回る固形分を有する必要がある。
【0115】
さらに好ましくは、防汚コーティング組成物は、500g/Lを下回る、好ましくは400g/Lを下回る、たとえば390g/Lを下回る揮発性有機化合物(VOC)の含有量を有する必要がある。VOCの含有量は計算(ASTM D5201-01)により求められてもよいしまたは測定により求められてもよいが、測定により求められることが好ましい。
【0116】
本発明にかかる防汚コーティング組成物は、付着の対象となる対象物の表面の全部に被覆されてもよいし、または一部に被覆されてもよい。付着の対象となる対象物の表面は、永続的に、または断続的に水面下にあってもよい(たとえば潮の満ち引き、異なる積荷重量または波のうねりにより)。付着の対象となる対象物の表面とは、通常、船舶の船体(ハル)であるか、または石油プラットフォームもしくはブイの如き海洋固定物の表面である。防汚コーティング組成物の被覆は、いかなる便利な手段で達成されてもよく、たとえば(ブラシまたはローラーを用いて)海洋固定物に塗布することによって達成されてもよいし、または海洋固定物にコーティングを噴霧することによって達成されてもよい。通常、被覆される表面は、被覆を可能とするために海水から隔離する必要がある。防汚コーティング組成物の被覆は当該技術分野において従来から知られている技術を用いて達成することができる。
【0117】
対象物(たとえば、船舶の船体)に防汚コーティング組成物を塗装する場合、対象物の表面は防汚コーティング組成物のみからなる単一の塗膜だけで保護されるというわけではない。対象物の表面タイプに応じて、防汚コーティング組成物は、種類の異なる複数の塗料層(たとえば、エポキシ、ポリエステル、ビニール、アクリル、またはそれらの混合物)からなる既存の塗装系(existing coating system)に直接塗装される場合もある。塗装前の表面(たとえば、鋼、アルミニウム、プラスチック、複合材、ガラス繊維または炭素繊維)から開始する場合、通常、塗装系全体は、1層または2層の防蝕コーティングと、1層のタイコートと、1層または2層の防汚塗料とから構成されている。例外的なケースでは、さらなる複数の層の防汚ペンキが塗装される場合もある。表面が前回の塗装からの清潔で損傷のない防汚コーティングである場合、新たな防汚塗料は通常1層または2層直接に塗装し、例外的な場合には3層以上直接に塗装する場合もある。
【0118】
以下、例示的な実施例を参照して本発明を説明する。
【0119】
実施例
材料および方法
試験
ポリマー溶液の粘度測定
ポリマーの粘度を、LV-2スピンドルまたはLV-4スピンドルを備えたBrookfied DV-I粘度計を用いて12rpmでASTM D2196に従って求める。測定前に、ポリマーを23.0℃±0.5℃でテンパリング処理(tempered)する。
【0120】
ポリマー溶液の固形分の含有量の測定
ポリマー溶液中の固形分の含有量をISO 3251に従って測定する。0.5g±0.1gの試験試料を取り出し、30分間150℃で換気したオーブンの中で乾燥する。残留物の重量は不揮発分(NVM)であると見なされる。不揮発分の含有量は、重量パーセントで表現される。与えられている値は、3平行試験の平均である。
【0121】
ポリマーの平均分子量分布の測定
ポリマーの特徴をゲル透過クロマトグラフィー(GPC)測定により求める。分子量分布(MWD)については、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として用い、屈折率(RI)検出器を用い、直列に結合されたPolymer Laboratoriesからの2つのPLgel 5μmMixed Dカラムを用い、常温において1mL/minという一定流量で、Polymer Laboratories PL-GPC 50装置を用いて求めた。2つのカラムをPolymer Laboratoriesからのポリスチレン標準物質Easivials PS-Hを用いて較正した。データをPolymer LaboratoriesからのCirrusソフトウェアを用いて処理した。5mLのTHFの中に25mgの乾燥ポリマーに対応するポリマー溶液量を溶解させることにより試料を調製した。これらの試料をGPC測定のためにサンプリングする前に最低3時間室温で保持した。量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)およびMw/Mnとして表される多分散指数(PDI)が、表に記録されている。
【0122】
ガラス転移温度の測定
ガラス転移温度(Tg)が示差走査型カロリメトリー(DSC)測定により求められている。DSC測定をTA Instruments DSC Q200を用いて行った。アルミニウムパンに少量のポリマー溶液を移し、50℃で最低10h試料を乾燥し、その後150℃で3h乾燥することにより試料を調製した。約10mgの乾燥ポリマー材料の試料を蓋のないアルミニウムパンにおいて測定し、走査データを10℃/minの加熱速度、10℃/minの冷却速度で-50℃~150℃までの温度範囲で空のパンを基準として記録した。TA InstrumentsからのUniversal Analysisソフトウェアを用いてデータを処理した。ASTM E1356-08に規定された2回目の加熱のガラス転移範囲の変曲点がポリマーのTgとして報告されている。
【0123】
防汚コーティング組成物の調製の基本手順
表2に記載の比率で成分を混合した。この混合物を、250mlの塗料缶の中でガラスビーズ(直径が約2mm)の存在下で加振器を15分間用いて分散させた。試験前にガラスビーズをフィルタで取り除いた。
【0124】
円錐平板型粘度計を用いた塗料粘度の測定
ISO2884-1:1999に従って、防汚コーティング組成物の粘度を23℃の温度に設定されたデジタル式の円錐平板型粘度計を用いて10000s-1の剪断速度、0~10Pの粘度測定範囲で求めた。結果は、3つの測定値の平均として記録されている。
【0125】
防汚コーティング組成物の揮発性有機化合物(VOC)含有量の計算
防汚コーティング組成物の揮発性有機化合物(VOC)含有量は、ASTM D5201に従って計算されている。
【0126】
コーティングフィルムの加速亀裂試験
PVCパネルが適切な防食プライマ でコーティングされている。800μmのギャップサイズのフィルムアプリケータを用いて、防汚コーティングをPVCパネルに被覆した。PVCパネルを52℃で72h間乾燥してから海水中に40℃で浸けた。PVCパネルを一定時間ごとに取り出して評価した。PVCパネルは、RTで24h間乾燥し、再び52℃で24h間乾燥して割れ目の有無が10x拡大下で視覚的に評価される。次いで、PVCパネルを再度浸けた。52℃で乾燥させた後の評価結果が表3に報告されている。
【0127】
PVCパネルを以下のように評価した:
0―割れ目なし
1―わずかな数の割れ目あり
2―中程度の数の割れ目あり
3―多数の割れ目あり
4―極めて多数の割れ目あり
【0128】
海水中の回転円板上の防汚コーティングフィルムの研磨速度の測定
研磨速度は、時間の経過に対するコーティングフィルムのフィルム厚の減少を測定することにより求められる。この試験にはPVC円板が用いられる。300μmのギャップサイズのフィルムアプリケータを用いて、防汚コーティング組成物がPVC円板上に放射線状の縞として被覆される。乾燥コーティングフィルムの厚みが表面形状/粗さ測定器によって測定される。典型的な初期乾燥フィルムは、被覆される防汚コーティング組成物の固形分の含有量および被覆速度に応じて異なる。実施例における試験コーティングの典型的な初期膜厚は100±10μmである。PVC円板がシャフトにマウントされて海水が流れる容器の中で回転する。このシャフトの回転速度は、PVC円板上に16ノットの平均シミュレーション速度をもたらす。濾過され、25℃±2℃に温度調節された天然の海水が用いられる。PVC円板は膜厚の測定のために一定時間ごとに取り出される。PVC円板は、すすがれ、室温で夜通し乾燥され、膜厚が測定される。膜厚の測定結果は、膜厚減少量、すなわち初期の膜厚と所与の時間に測定された膜厚との間の差として記録される。厚みが典型的には10~20μmの薄い非研磨溶脱層(non-polished leached layer)が表面に残っている時、すなわちコーティングフィルムが表面から完全に取り除かれた時がコーティングフィルムの研磨終了(polished through)時であると見なされる。研磨終了時は測定結果表においてPTとして表されている。
【0129】
海水中における静的浸漬試験による耐フジツボ性の測定
ビニールエポキシ製タイコート(Jotun社により製造されたSafeguar Plus)を一回塗りし、防汚コーティング(Jotun社により製造されたSeaQuantum Ultra S)を一回塗りすることによりPVCパネルを調製した。約120cm2の総試験領域を形成するために、ギャップサイズが400μmのフィルムアプリケータを用いて本発明にかかる防汚コーティング組成物を被覆した。乾燥試験パネルを米国フロリダ州の外側の亜熱帯水域の海に浸して一定時間ごとに検査した。
【0130】
耐フジツボ性は次のように評価された:
0: 検出されず、
1: <5%被覆率のフジツボ付着
2: 5~10%被覆率のフジツボ付着
3: 10~15%被覆率のフジツボ付着
4: >15%被覆率のフジツ付着
【0131】
評定尺度は100~150cm2の試験領域対してのみ有効である。ASTM D6990-05、7.5節に規定されているように、コーティングフィルムの評価の際、PVCパネルの周縁効果は除外されている。
【0132】
コポリマー溶液S1、S9の調製手順
撹拌機と、凝縮器と、窒素流入口と、材料流入口とを備えた温度制御型反応槽(reaction vessel、reactor)にキシレン53重量部が投入される。反応槽は85℃の反応温度まで加熱され、維持される。表1に記載の比率のトリイソプロピルシリルメタクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、n-ブチルアクリレートおよびメチルメタクリレートと1.0部の2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)と前もって混合したもの、すなわちプリミックスが調製される。このプリミックスが窒素雰囲気の下で2時間にわたって一定の速度で反応槽に投入される。次いで、0.5部のtertブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエートが加えられる。反応槽はさらに2時間上記の反応温度に維持される。次いで、反応槽は110℃まで加熱され、さらに1時間この温度に維持される。30部のキシレンが希釈のために加えられ、反応槽が室温にまで冷却される。
【0133】
コポリマー溶液S2~S8と比較用のコポリマー溶液CS3~CS4とを調製するための基本手順
撹拌機と、凝縮器と、窒素流入口と、材料流入口とを備える温度制御型反応槽に所定の量の溶媒が投入される。反応槽は表1に記載の反応温度まで加熱され、維持される。モノマー、開始剤、溶媒および任意選択的な連鎖移動剤を前もって混合したもの、すなわちプリミックスが調製される。このプリミックスが窒素雰囲気の下で2時間にわたって一定の速度で反応槽に投入される。それから30分後、促進開始剤溶液が加えられる。反応槽はさらに2時間上記の反応温度に維持される。次いで、反応槽が110℃まで加熱され、1時間この温度に維持される。さらなる溶媒が希釈のために加えられ、反応槽が室温にまで冷却される。
【0134】
比較用のコポリマー溶液CS1の調製手順
特許文献35に記載のシリルエステルコポリマー(a3-1)を製造するための製造例4を繰り返して比較用のコポリマー溶液CS1を調製した。
【0135】
撹拌機と、凝縮器と、窒素流入口と、材料流入口とを備えた温度制御型反応槽の中に100重量部のキシレンを投入し、85℃の温度で窒素流の下で加熱および撹拌を実行した。この温度を維持したまま、60部のトリイソプロピルシリルアクリレート、40部のメチルメタクリレートおよび0.3部の2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)の混合物を2時間にわたって反応槽の中に投入した。その後、この温度で撹拌を4時間にわたって実行し、次いで、0.4部の2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)を加え、この温度で撹拌を4時間さらに実行し、シリルエステルコポリマーを含有する無色透明な反応混合物を得た。
【0136】
比較用のコポリマー溶液CS2の調製手順
コポリマー溶液CS1の調製のために記載された手順を用いてコポリマー溶液CS2を調製した。表1に記載の比率でコポリマー溶液CS2の成分を用いた。
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】