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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】農作業車
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
A01B69/00 303M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020003693
(22)【出願日】2020-01-14
(65)【公開番号】P2021108595
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大久保 樹
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祐樹
【審査官】吉原 健太
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0168116(US,A1)
【文献】特開2008-072963(JP,A)
【文献】特開2008-092818(JP,A)
【文献】特開2019-176801(JP,A)
【文献】特開2004-057012(JP,A)
【文献】特開2018-097621(JP,A)
【文献】特開2018-183130(JP,A)
【文献】特開2016-185134(JP,A)
【文献】特開2018-121537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00 - 69/08
A01B 63/00 - 63/12
G05D 1/00 - 1/12
A01C 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星測位に基づいて機体位置を算出する機体位置算出部と、
農場を自動走行するための走行経路を管理する走行経路管理部と、
前記機体位置と前記走行経路とに基づいて機体を自動操舵する第1自動操舵部と、
少なくとも2点によって規定される基準線の方位を維持するように前記機体を自動操舵する第2自動操舵部と、
前記走行経路管理部によって管理されている前記走行経路を前記基準線として基準線記憶部に格納するとともに、前記第1自動操舵部による自動操舵から前記第2自動操舵部による自動操舵への移行時に前記基準線を前記基準線記憶部から読み出して設定する基準線管理部と、を備え、
前記基準線管理部は、前記走行経路管理部で管理されている前記走行経路を前記基準線として前記基準線記憶部に格納する農作業車。
【請求項2】
前記農場は外周領域と前記外周領域の内側に位置する中央領域とに分けられ、
前記外周領域に対する作業は周回走行によって行われ、前記中央領域に対する作業は前記中央領域での直進走行と前記外周領域での旋回走行とを繰り返すことによって行われ、
前記基準線管理部は、前記中央領域での前記直進走行のための前記走行経路を前記基準線として前記基準線記憶部に格納する請求項1に記載の農作業車。
【請求項3】
衛星測位に基づいて機体位置を算出する機体位置算出部と、
農場を自動走行するための走行経路を管理する走行経路管理部と、
前記機体位置と前記走行経路とに基づいて機体を自動操舵する第1自動操舵部と、
少なくとも2点によって規定される基準線の方位を維持するように前記機体を自動操舵する第2自動操舵部と、
前記機体の走行軌跡を生成する走行軌跡生成部と、
前記第1自動操舵部による走行での前記走行軌跡の一部を前記基準線として基準線記憶部に格納するとともに、前記第1自動操舵部による自動操舵から前記第2自動操舵部による自動操舵への移行時に前記基準線を前記基準線記憶部から読み出して設定する基準線管理部と、
を備え、
前記基準線管理部は、前記走行軌跡生成部によって生成された前記走行軌跡を前記基準線として前記基準線記憶部に格納する農作業車。
【請求項4】
前記農場は外周領域と前記外周領域の内側に位置する中央領域とに分けられ、
前記外周領域に対する作業は周回走行によって行われ、前記中央領域に対する作業は前記中央領域での直進走行と前記外周領域での旋回走行とを繰り返すことによって行われ、
前記基準線管理部は、前記中央領域での前記直進走行の前記走行軌跡を前記基準線として前記基準線記憶部に格納する請求項3に記載の農作業車。
【請求項5】
前記基準線記憶部に複数の前記基準線を記憶され、前記第1自動操舵部による自動操舵から前記第2自動操舵部による自動操舵への移行時に複数の前記基準線を前記基準線記憶部から読み出され、操縦者によって選択可能に前記基準線の取得情報とともに表示される請求項1から4のいずれか一項に記載の農作業車。
【請求項6】
前記第1自動操舵部は、前記中央領域での前記直進走行と前記外周領域での前記旋回走行との両方において自動操舵可能であり、前記第2自動操舵部は、前記中央領域での前記直進走行における機体方位の維持を行い、前記外周領域での前記直進走行から前記旋回走行への移行タイミング及び前記旋回走行から前記直進走行への移行タイミングは手動で決定される請求項2または4に記載の農作業車。
【請求項7】
前記農場からの退出タイミングで、前記基準線記憶部に格納された前記基準線が消去される請求項1から6のいずれか一項に記載の農作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも農場の一部を自動走行しながら農作業を実施する農作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1による農作業車は、圃場の地形データと圃場の入口位置と圃場の出口位置と作業幅とに基づいて前記走行機体の方向転換を伴う非作業走行経路と前記圃場作業装置を用いた走行作業を行う作業走行経路とを含む走行経路を算出する経路算出部と、算出された走行経路と衛星測位データとに基づいて自動走行を行う自動走行制御部とを備える。その際、圃場は外周領域と前記外周領域の内側に位置する中央領域とに分けられ、外周領域に対する作業は周回走行によって行われ、中央領域に対する作業は直進走行とUターン走行(旋回走行)とを繰り返すことで行われる。自動走行が困難な場合、あるいは作業者が特別な走行を所望する場合は、自動走行が中止され、手動走行が行われる。
【0003】
特許文献2による農作業車では、運転者がスイッチ操作した第1位置から再度スイッチ操作する第2位置まで直進での手動作業走行であるティーチング走行が行われる。第1位置と第2位置とを結ぶ基準線の方位が基準方位として算出され、Uターン走行後に自動操舵スイッチを押すことで、基準方位を維持するべく自動操舵での直進作業走行が行われる。つまり、この農作業車は、最初のティーチング走行で基準方位が算出されると、その後は、手動操舵でのUターン走行と、基準方位を維持する自動操舵での直進走行とによって、圃場作業を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-112071号公報
【文献】特開2017-112962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたような、予め圃場に設定された目標経路に沿って自動操舵で走行する農作業車であっても、圃場状態が悪い領域では、手動操舵に頼る必要がある。そのような手動操舵での走行において、特許文献2で開示されているような半自動走行、つまりUターンによる方向転換と次の直進走行への位置決めとは手動で行われ、比較的操縦が簡単な直進走行は、基準線を用いた自動操舵で行われることが好都合である。但し、基準線を用いた自動操舵では、基準線(基準方位)を取得するために、スイッチ操作を伴う第1位置から第2位置までのティーチング走行が必要である。作業途中でのこのようなティーチング走行は煩わしい作業となる。
【0006】
このような実情に鑑み、設定された目標経路に沿わせる自動操舵走行の途中であっても、簡単に基準線を用いた自動走行に移行できる農作業車が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
【0008】
【0009】
本発明による農作業車は、衛星測位に基づいて機体位置を算出する機体位置算出部と、前記農場を自動走行するための走行経路を管理する走行経路管理部と、前記機体位置と前記走行経路とに基づいて機体を自動操舵する第1自動操舵部と、少なくとも2点によって規定される基準線の方位を維持するように前記機体を自動操舵する第2操舵部と、前記走行経路管理部によって管理されている前記走行経路を前記基準線として格納するとともに、前記第1自動操舵部による走行での走行軌跡を格納する前記第1自動操舵部による自動操舵から前記第2自動操舵部による自動操舵への移行時に前記基準線を前記基準線管理部から読み出して設定する基準線管理部と、を備え、前記基準線管理部は、前記走行経路管理部で管理されている前記走行経路を前記基準線として前記基準線記憶部に格納する。
【0010】
この構成によれば、旋回走行も含めて自動操舵可能な第1自動操舵部による操舵制御を中断して、直進走行での方位維持を行う第2自動操舵部による操舵制御に移行する際に、第2自動操舵部による操舵制御に必要な基準線には、第1自動操舵部による自動直進走行時に用いられる走行経路が流用される。このため、従来の第2自動操舵部での操舵制御のために必要とした基準線を取得するためのティーチング走行が不用となる。これにより、第1自動操舵部による操舵制御から第1自動舵部による操舵制御への移行が容易に行われる。この構成でも、局所的に悪化した農場状態などでの作業走行に対処するために、第1自動操舵部による操舵制御から急遽、第2自動操舵部による操舵制御に移行する際に好都合である。
【0011】
本発明による農作業車は、衛星測位に基づいて機体位置を算出する機体位置算出部と、農場を自動走行するための走行経路を管理する走行経路管理部と、前記機体位置と前記走行経路とに基づいて機体を自動操舵する第1自動操舵部と、少なくとも2点によって規定される基準線の方位を維持するように前記機体を自動操舵する第2自動操舵部と、前記機体の走行軌跡を生成する走行軌跡生成部と、前記第1自動操舵部による走行での走行軌跡の一部を前記基準線として基準線記憶部に格納するとともに、前記第1自動操舵部による自動操舵から前記第2自動操舵部による自動操舵への移行時に前記基準線を前記基準線記憶部から読み出して設定する基準線管理部と、を備え、前記基準線管理部は、前記走行軌跡生成部によって生成された前記走行軌跡を前記基準線として前記基準線記憶部に格納する。
【0012】
この構成では、旋回走行も含めて自動操舵可能な第1自動操舵部による操舵制御を中断して、直進走行での方位維持を行う第2自動操舵部による操舵制御に移行する際に、第2自動操舵部による操舵制御に必要な基準線には、第1自動操舵部による自動直進走行時の走行軌跡が流用される。このため、従来の第2自動操舵部での操舵制御のために必要とした基準線を取得するためのティーチング走行が不用となる。この構成でも、局所的に悪化した農場状態などでの作業走行などに対処するために行われる第1自動操舵部による操舵制御から第1自動舵部による操舵制御への移行が容易に行われる。
【0013】
なお、本願発明において用いられている直進走行なる語句は、直線走行のみを意味するわけではなく、大きな曲率半径でもって湾曲する湾曲走行なども含まれる。
【0014】
農作業車による農場における多くの農作業では、作業対象となる農場面は、外周領域とこの外周領域の内側に位置する中央領域とに分けられ、中央領域の作業は、直進走行と方向転換のための旋回走行(主にUターン走行)とを繰り返しながら行われる。その際、旋回走行は、外周領域で行われる。外周領域に作業は、畔や農道などの境界物に沿った周回走行で行われる。コンバインなどの収穫作業を行う農作業車では、先に外周領域の作業走行が行われ、その後に中央領域の作業走行が行われる。田植機や施肥機や薬剤散布機などは、先に中央領域の作業走行が行われ、その後に外周領域の作業走行が行われる。このような作業走行では、第1自動操舵部による作業走行においても、比較的長い直進経路が多く設定されるので、基準線に用いられる直線状の走行軌跡は容易に取得できる。このことから、上記第1の農作業車における、本発明の好適な実施形態では、前記農場は外周領域と前記外周領域の内側に位置する中央領域とに分けられ、前記外周領域に対する作業は周回走行によって行われ、前記中央領域に対する作業は前記中央領域での直進走行と前記外周領域での旋回走行とを繰り返すことによって行われ、前記基準線管理部は、前記中央領域での前記直進走行のための前記走行経路を前記基準線として前記基準線記憶部に格納する。同様に、上記第2の農作業車における、本発明の好適な実施形態では、前記農場は外周領域と前記外周領域の内側に位置する中央領域とに分けられ、前記外周領域に対する作業は周回走行によって行われ、前記中央領域に対する作業は前記中央領域での直進走行と前記外周領域での旋回走行とを繰り返すことによって行われ、前記基準線管理部は、前記中央領域での前記直進走行の前記走行軌跡を前記基準線として前記基準線記憶部に格納する。
【0015】
凸部領域や凹部領域がある農場では、同一パターンでの自動操舵が容易な領域と、直進走行すべき距離が走行経路によって異なり、旋回のタイミングが難しい領域とに区分けされる。このような農場では、前者領域には第1自動操舵部による制御が用いられるが、後者の領域には第2自動操舵部による制御の方が好都合である。そのような第2自動操舵部による操舵制御では、直進走行における機体方位の維持が行われ、旋回のタイミングや旋回走行や運転者に任せることが多い。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記第1自動操舵部は、前記中央領域での前記直進走行と前記外周領域での前記旋回走行との両方において自動操舵可能であり、前記第2自動操舵部は、前記中央領域での前記直進走行における機体方位の維持を行い、前記外周領域での前記直進走行から前記旋回走行への移行タイミング及び前記旋回走行から前記直進走行への移行タイミングは手動で決定される。
【0016】
本発明では、第1自動操舵部による走行での走行軌跡の少なくとも一部を格納する機能がある。特に直進走行における走行軌跡は、第2自動操舵部による自動操舵の基準線(基準方位)として利用されるので、その走行軌跡は格納する必要がある。しかしながら、農作業車が次の農場に移動すると、次の農場における走行軌跡も異なるので、格納していた走行軌跡は不要となる。このことから、本発明の好適な実施形態の1つでは、農場からの退出タイミングで、前記基準線記憶部に格納された前記基準線が消去される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】農作業車の一例である田植機の側面図である。
図2】走行経路が設定される圃場の領域分割を示す説明図である。
図3】外周領域に設定される周回走行経路と田植機の走行とを説明する説明図である。
図4】中央領域に設定される往復走行経路と田植機の走行とを説明する説明図である。
図5】田植機の制御系を示す機能ブロック図である。
図6】第1操舵モードから第2操舵モードへ移行する際のデータの流れを示す説明図である。
図7】第1操舵モードから第2操舵モードへ移行する際のデータの流れの別実施例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による農作業車の実施形態として、乗用型の田植機を取り上げて、以下に説明される。この田植機は、走行しながら、農場の一例である圃場に農用資材として苗(植付作業)や肥料(施肥作業)を投与する。なお、本明細書では、特に断りがない限り、「前」は機体前後方向(走行方向)に関して前方を意味し、「後」は機体前後方向(走行方向)に関して後方を意味する。また、左右方向または横方向は、機体前後方向に直交する機体横断方向(機体幅方向)を意味する。「上」または「下」は、機体の鉛直方向(垂直方向)での位置関係であり、地上高さにおける関係を示す。
【0019】
図1は、田植機の側面図である。田植機は、乗用型で四輪駆動形式の走行機体(以下、機体1と称する)を備えている。機体1は、機体1の後部に昇降揺動可能に連結された平行四連リンク形式のリンク機構11、リンク機構11を揺動駆動する油圧式の昇降シリンダ11a、リンク機構11の後端部にローリング可能に連結される苗植付装置3(農用資材投与装置の一例)、及び、機体1の後端部から苗植付装置3にわたって架設されている施肥装置4などを備えている。
【0020】
機体1は、走行のための機構として車輪12、エンジン13、及び油圧式の無段変速装置14を備えている。車輪12は、操舵可能な左右の前輪12Aと、操舵不能な左右の後輪12Bとを有する。エンジン13及び無段変速装置14は、機体1の前部に搭載されている。エンジン13からの動力は、無段変速装置14などを介して前輪12A、後輪12Bなどに供給される。
【0021】
苗植付装置3は、一例として8条植え形式に構成されている。苗植付装置3は、苗載せ台31、8条分の植付機構32などを備えている。なお、この苗植付装置3は、図示されていない各条クラッチの制御により、2条植え、4条植え、6条植え、などの形式に変更可能である。または、1条ずつクラッチを入り切りすることによる特定条植えの形式に変更可能である。
【0022】
苗載せ台31は、8条分のマット状苗を載置する台座である。苗載せ台31は、マット状苗の左右幅に対応する一定ストロークで左右方向に往復移動し、縦送り機構33は、苗載せ台31が左右のストローク端に達するごとに、苗載せ台31上の各マット状苗を苗載せ台31の下端に向けて所定ピッチで縦送りする。8個の植付機構32は、ロータリ式で、植え付け条間に対応する一定間隔で左右方向に配置されている。そして、各植付機構32は、機体1からの動力により、苗載せ台31に載置された各マット状苗の下端から一株分の苗を切り取って、整地後の泥土部に植え付ける。
【0023】
苗植付装置3には、植付機構32による苗取り量を調節する苗取り量調節機能が備えられている。植付機構32は、苗載せ台31の下端を摺動案内するガイドレールに形成された苗取り出し口を通過して一株分の苗を取り出して植え付ける。苗載せ台31及び苗載せ台31の下端を摺動案内するガイドレールを上下に位置変更することにより苗取り量を調節する。
【0024】
図1に示すように、施肥装置4は、横長のホッパ41、繰出機構42、電動式のブロワ43、複数の施肥ホース44、及び、各条毎に備えられた作溝器45を備えている。ホッパ41は、粒状または粉状の肥料を貯留する。繰出機構42は、エンジン13から伝達される動力で作動し、ホッパ41から2条分の肥料を所定量ずつ繰り出す。この施肥装置4は、繰出機構42による肥料の繰出し量を変更する繰出し量調節機能を有する。
【0025】
ブロワ43は、機体1に搭載されたバッテリ(図示せず)からの電力で作動し、各繰出機構42により繰り出された肥料を圃場の泥面に向けて搬送する搬送風を発生させる。施肥装置4は、ブロワ43などの断続操作により、ホッパ41に貯留した肥料を所定量ずつ圃場に供給する作動状態と、供給を停止する非作動状態とに切り換えることができる。
【0026】
各施肥ホース44は、搬送風で搬送される肥料を各作溝器45に案内する。各作溝器45は、各整地フロート15に配備されている。そして、各作溝器45は、各整地フロート15と共に昇降し、各整地フロート15が接地する作業走行時に、水田の泥土部に施肥溝を形成して肥料を施肥溝内に案内する。
【0027】
機体1は、その後部側に運転部20を備えている。運転部20は、前輪操舵用のステアリングホイール21、無段変速装置14の変速操作を行うことで車速を調整する主変速具(レバーやペダルなど)22、副変速装置の変速操作を可能にする副変速レバー23、苗植付装置3の昇降操作と作動状態の切り換えなどを可能にする作業操作レバー25、各種の情報を表示してオペレータに報知すると共に、各種の情報の入力を受け付けるタッチパネルを有する汎用端末9、及び、オペレータ用の運転座席16などを備えている。さらに、運転部20の前方に、予備苗を収容する予備苗フレーム17が設けられている。
【0028】
ステアリングホイール21は、非図示の操舵機構を介して前輪12Aと連結されており、ステアリングホイール21の回転操作を通じて、前輪12Aの操舵角が調整される。操舵機構には、ステアリングモータM1も連結されており、自動走行時には、操舵信号に基づいてステアリングモータM1が動作することにより、前輪12Aの操舵角が調整される。さらに、主変速具22を自動操作するための変速操作用モータM2も備えられており、自動走行時には、変速信号に基づいて変速操作用モータM2が動作することにより、無段変速装置14の変速位置が調整される。
【0029】
この田植機による苗植付作業(圃場作業の一例)において用いられる走行経路を以下に説明する。図2に示すように、圃場は、周回走行経路が設定される外周領域と、往復走行経路が設定される中央領域とに区分けされる。田植機は、最初に往復走行経路に沿って中央領域に対する苗植付作業を行い、その後に、周回走行経路に沿って外周領域に対する苗植付作業を行う。
【0030】
図3には周回走行経路が示されている。周回走行経路は、圃場境界線(畔)に平行に延びる周回直線経路と、周回直線経路どうしをつなぐために前進と後進とを取り入れた方向転換経路とからなる。なお、図3において、周回直線経路には符号R1が付与され、方向転換経路には符号R2が付与されている。図4には往復走行経路が示されている。往復走行経路は、多数の互いに略平行な直進経路と、直進経路どうしをつなぐ旋回経路(Uターン経路)からなる。それぞれの直進経路において、植付開始位置USから苗の植え付けが開始され、植付終了位置UFで苗の植え付けが終了される。なお、図4において、直進経路にはR3が付与され、旋回経路には符号R5が付与されている。図3および図4において、往復走行経路から周回走行経路に移行するための移行経路には符号R4が付与されている。ここでの例では、移行経路は、旋回経路と類似している。さらに、図3および図4には、田植機の作業幅が符号Wで示され、田植機の圃場への出入口GAが斜線で描かれている。図4には、出入口GAから往復走行経路の走行開始位置Sまでの開始案内経路(符号R6が付与されている)が示されている。旋回経路、方向転換経路、開始案内経路、移行経路では、往復走行経路での作業が完了するまで、田植機は作業を行わずに走行するので、これらの経路は点線で示される。周回直線経路および直進経路では、田植機は作業を行いながら走行するので、これらの経路は実線で示される。
【0031】
図5には、この田植機の制御系の制御ブロック図が示されている。田植機の制御系は、田植機の各種動作を制御する制御装置100と、制御装置100とのデータ交換が可能な汎用端末9とからなる。制御装置100には、測位ユニット8、モード切替手動操作具群27、走行センサ群28、作業センサ群29からの信号が入力されている。制御装置100からの制御信号が、走行機器群1Aと作業機器群1Bとに出力される。
【0032】
測位ユニット8は、機体1の位置及び方位(機体方位)を算出するための測位データを出力する。測位ユニット8には、全地球航法衛星システム(GNSS)の衛星からの電波を受信する衛星測位モジュール8Aと、機体1の三軸の傾きや加速度を検出する慣性計測モジュール8Bが含まれている。
【0033】
走行機器群1Aには、例えば、ステアリングモータM1や変速操作用モータM2が含まれており、制御装置100からの制御信号に基づいて、ステアリングモータM1が制御されることで操舵角が調節され、変速操作用モータM2が制御されることで車速が調節される。
【0034】
作業機器群1Bには、例えば、苗植付装置3を昇降調整する昇降シリンダ11a、植付機構32による苗取り量を調節する苗取り量調節機器、繰出機構42による肥料の繰出し量を変更する繰出し量調節機器、各条クラッチの入り切り制御機器などが含まれている。
【0035】
この田植機は、第1自動操舵モードと第2自動操舵モードとを有する。第1自動操舵モードでは、衛星測位によって得られる機体位置と圃場に設定された走行経路とに基づいて、機体1が自動操舵される。第2自動操舵モードでは、少なくとも2点によって規定される基準線の方位と機体1の方位が一致するように、機体1が自動操舵される。もちろん、機体1は、手動(手動操舵モード)によって操舵可能である。このような操舵モードの切り替えは、制御装置100によって自動的に行われることもあるが、通常はモード切替手動操作具群27の手動操作によって行われる。モード切替手動操作具群27には、複数のレバーやスイッチが含まれている。例えば、中央領域での走行に関して、第1自動操舵モードでは、直進走行及び方向転換のための旋回走行の全てが、設定された直進経路及び旋回経路を目標として自動操舵で行われる。これに対して、第2自動操舵モードでは、基準線の方位を機体方位の目標として前記直進走行が自動操舵で行われる。第2自動操舵モードでの旋回走行はその開始タイミング及び終了タイミングを含め、手動操舵される。その際、直進走行から旋回走行への移行タイミング(旋回走行の開始タイミング)及び旋回走行から直進走行への移行タイミング(旋回走行の終了タイミング)は、モード切替手動操作具群27を用いて手動で決定される。旋回走行から直進走行へ移行すると、その位置から再び基準線の方位を機体方位の目標とする自動操舵が再開される。
【0036】
走行センサ群28には、操舵角、車速、エンジン回転数などの状態及びそれらに対する設定値を検出する各種センサが含まれている。作業センサ群29には、リンク機構11、苗植付装置3、施肥装置4の状態を検出する各種センサが含まれている。
【0037】
制御装置100には、走行制御部6、作業制御部51、機体位置算出部52、走行経路管理部53、走行軌跡生成部54、基準線管理部55、基準線記憶部56が備えられている。
【0038】
走行制御部6には、自動走行制御部6Aと手動走行制御部6Bと制御管理部6Cとが備えられている。自動走行制御部6Aは、第1自動操舵モードでの自動操舵を実行する第1自動操舵部61と、第2自動操舵モードでの自動操舵を実行する第2自動操舵部62とを有する。第1自動操舵モードでは、走行経路管理部53によって設定された目標となる走行経路と機体位置算出部52によって算出された機体位置とを比較して算出された横偏差及び方位偏差に基づいて、横偏差及び方位偏差が縮小するように、操舵制御量が演算される。第2自動操舵モードでは、少なくとも2点によって規定される基準線の方位を維持するように操舵制御量が演算される。第2自動操舵部62は、モード切替手動操作具群27のうちの所定の操作具から出力される移行指令によって基準線を取得し、第2自動操舵モードを開始する。つまり、運転者は、機体1が方向転換走行を経て次の往復直線走行に適した位置になった時(条合わせ)に、当該操作具を操作する。それ以後は、基準線の方位を維持するように機体1は自動操舵される。手動走行モードでは、手動走行制御部6Bが、ステアリングホイール21の操作量に基づいて、ステアリングモータM1を制御する。
【0039】
制御管理部6Cは、モード切替手動操作具群27などからの信号に基づいて、第1自動操舵モード、第2自動操舵モード、手動走行モードのいずれかを選択する。
【0040】
作業制御部51は、自動走行では、前もって与えられているプログラムに基づいて自動的に作業機器群1Bを制御し、手動走行では、運転者の操作に基づいて、作業機器群1Bを制御する。
【0041】
機体位置算出部52は、測位ユニット8から逐次送られてくる衛星測位データに基づいて、機体1の地図座標(機体位置)を算出する。
【0042】
この実施形態では、汎用端末9に、圃場情報格納部91、走行経路マップ生成部92、走行経路生成部93が備えられている。圃場情報格納部91は、作付け種や圃場の入口(出口)位置や苗補給可能位置など圃場に関する情報が格納されている。走行経路マップ生成部92は、圃場の外周領域(図2参照)の最外周部、つまり畔との境界線に沿って機体1を走行(ティーチング走行)させることで得られる走行軌跡(ティーチング経路)に基づいて、圃場の外形寸法を算出する。走行経路生成部93は、圃場の外形寸法に基づいて圃場を外周領域と中央領域とに区分けし、外周領域を走行するための周回走行経路と、中央領域を走行するための往復走行経路とを生成する。
【0043】
走行経路管理部53は、汎用端末9から走行経路生成部93によって生成された走行経路を受け取って管理し、圃場を第1操舵モードで自動走行するための目標となる走行経路を順次設定する。
【0044】
走行軌跡生成部54は、機体位置算出部52によって算出された機体位置に基づいて、機体1の少なくとも部分的な走行軌跡を生成する。特に、この実施形態では、走行軌跡生成部54は、中央領域に設定される直進経路(図4でR3で示されている)に沿った走行での走行軌跡を順次生成して、第2操舵モードで用いられる基準線として基準線記憶部56に格納する。
【0045】
基準線管理部55は、第1自動操舵モードから第2自動操舵モードへの移行時に、第2自動操舵モードでの操舵に必要な基準線を基準線記憶部56から読み出して、第2自動操舵部62に与える。
【0046】
次に、第1操舵モードから第2操舵モードへ移行する際のデータの流れが図6を用いて説明される。なお、田植機は、図4に示すように、圃場の中央領域を往復走行で苗植付け作業を行っているとする。
【0047】
まず、第1操舵モードでの自動走行のために、走行経路管理部53は走行目標経路となる走行経路を第1自動操舵部61に与え(#a1)、機体位置算出部52は機体位置を第1自動操舵部61に与える(#a2)。第1自動操舵部61は、与えられた走行経路と機体位置とに基づいて、位置偏差と方位偏差とを算出し(#a3)、これらの偏差を小さくするような第1操舵信号を生成し、走行機器群1Aに出力する(#a4)。
【0048】
機体位置は走行軌跡生成部54にも与えられる(#b1)。走行軌跡生成部54は、順次受け取る機体位置に基づいて走行軌跡を生成する(#b2)。その際、中央領域の直進経路の走行において得られた走行軌跡は、第2自動操舵モードで用いられる基準線として基準線記憶部56に格納される(#b3)。
【0049】
走行制御を管理する制御管理部6Cは、走行センサ群28から走行状態信号を取得し、作業センサ群29から作業状態信号を取得し、モード切替手動操作具群27から操作信号を取得する(#c1)。これらのデータに基づいて、制御管理部6Cは、第1自動操舵モードでの操舵の開始を要求する第1自動ON信号や第1自動操舵モードでの操舵の中止を要求する第1自動OFF信号を第1自動操舵部61に与え(#c2)、第2自動操舵モードでの操舵の開始を要求する第2自動ON信号や第2自動操舵モードでの操舵の中止を要求する第2自動OFF信号を第2自動操舵部62に与える(#c3)。さらに、制御管理部6Cは、第1自動操舵モードから第2自動操舵モードへの移行時には、基準線管理部55に移行指令を与える(#c4)。
【0050】
制御管理部6Cによる移行指令の出力と第2自動ON信号の出力は同じタイミングで行われ、これにより、第2自動操舵部62は、第2自動操舵モードでの自動操舵を実行する。まず、基準線管理部55は、移行指令を受け取ると、基準線記憶部56から基準線を読み出して、第2自動操舵部62に与える(#d1)。第2自動操舵部62は機体位置算出部52から機体位置を受け取る(#d2)。移行指令を受け取ったタイミングでの機体位置に基準線は、設定される。第2自動操舵部62は、基準線と機体位置とに基づいて、位置偏差と方位偏差とを算出し(#d3)、これらの偏差を小さくするような第2操舵信号を生成し、走行機器群1Aに出力する(#d4)。
【0051】
なお、手動走行時には、走行センサ群28などから出力される手動操作信号が手動走行制御部6Bに与えられる(#e1)。手動走行制御部6Bは、手動操作信号に基づいて、手動操舵信号を生成し、走行機器群1Aに出力する(#e2)。
【0052】
基準線記憶部56に格納された基準線は、田植機が圃場から退出したタイミングで、消去される。
【0053】
図7には、図6を用いて説明されたデータの流れとは異なるデータの流れが例示されている。図6との違いは、第2自動操舵モードで用いられる基準線が、走行軌跡生成部54によって生成された走行軌跡からではなく、走行経路管理部53で管理している走行経路(直線状の走行経路)が流用されることである。走行経路管理部53は、機体1が中央領域での往復走行のために設定した直線走行のための走行経路を、基準線として基準線記憶部56に格納する(#z1)。
【0054】
ここで、第2自動操舵部62による第2自動操舵モードをより詳しく述べる。圃場における所定以上の距離を有する2点を始点と終点として設定し、始点と終点とによって規定されるラインをティーチングラインとする。このティーチングラインが上述した基準線として利用される。実際の第2自動操舵モードでの走行では、機体1に連結された作業装置である苗植付装置3の圃場への下降位置と、圃場からの昇降位置をそれぞれ畦際領域(畦との距離が短い領域)とし、第2自動操舵モードでの走行によって機体1が畦際領域に接近した場合、第2自動操舵部62は、畦際領域までの所定距離又は所定時間手前から手動に切り替えるよう運転者に報知する。この報知中に、第2自動操舵モードでの自動直進を継続するためには、運転者は、モード切替手動操作具群27の対応するスイッチを継続して押し続ける必要がある。その際、この報知中に第2自動操舵モードでの自動直進を手動に切り替える場合、運転者はモード切替手動操作群の対応するスイッチを押せばよい。自動直進の継続と手動操作への切替スイッチは同一のものでもよい。この報知中に何も操作を行わない場合、所定距離又は所定時間後に機体1は強制停止となる。上記の切り替えのためのスイッチは、ハンドルポスト周辺、主変速具22などの前後進操作具の上部、ハンドルポスト周辺の操作パネル等に設けられている。この田植機において、ある状態から別の状態(例えば第2自動操舵モードにおいて自動から手動又は手動から自動)に切り替える操作具は、揺動式、回転式、押圧式のいずれかが好ましい。
【0055】
さらに、第1自動操舵部61による自動走行が完全に終了した場合、機体1が完全に停止し、制御系は、操作を受付ない牽制状態に入る。この牽制状態では、牽制状態解除のための牽制状態解除操作具を操作することにより、手動走行や第2自動操舵部での走行が可能になる。
【0056】
〔別実施の形態〕
(1)上記実施形態では、移行指令が出力されると、基準線管理56部が基準線記憶部56から基準線を読み出して、第2自動操舵部62に与えている。これに代えて、基準線記憶部56に複数の基準線を格納しておき、移行指令が出力されると、汎用端末9のタッチパネルに、取得情報(基準線の元になった走行経路や走行軌跡の位置など)とともに基準線が表示され、操縦者が利用する基準線を選択する構成を採用してもよい。
(2)上記実施形態では、走行経路マップ生成部92や走行経路生成部93が汎用端末9に構築されていたが、制御装置100に構築されてもよい。さらには、制御装置100との間でデータ交換可能な外部の管理コンピュータに構築されてもよい。
(3)第1自動操舵部61による旋回経路の自動操舵は、生成された旋回経路に沿うような制御で行ってもよいし、あるいは、所定の旋回経路になるように予め決められた操舵角を用いるような制御で行ってもよい。
(4)上記実施形態では、作業車として田植機が採用されたが、コンバインやトラクタ、直播機、噴霧(散布)用管理機などの農作業車であってもよい。
(5)本願における操舵なる語句は、広義の意味で用いられており、自動操舵には、自動操向が含まれ、例えば、車輪によって方向転換を行う作業車のみならず、クローラーによって方向転換するような作業車にも本発明は適用可能である。
(6)本発明は、例えばコンバイン等で畝立された圃場で作業方向が一方向に限定されるような作業の走行にも適用可能である。
【0057】
なお、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、自動走行可能な農作業車に適用可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 :機体
6 :走行制御部
6A :自動走行制御部
6B :手動走行制御部
6C :制御管理部
8 :測位ユニット
9 :汎用端末
27 :モード切替手動操作具群
52 :機体位置算出部
53 :走行経路管理部
54 :走行軌跡生成部
55 :基準線管理部
56 :基準線記憶部
61 :第1自動操舵部
62 :第2自動操舵部
91 :圃場情報格納部
92 :走行経路マップ生成部
93 :走行経路生成部
100 :制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7