(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】排気ターボ過給機
(51)【国際特許分類】
F02B 39/00 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
F02B39/00 S
F02B39/00 U
(21)【出願番号】P 2020031284
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】澤下 真人
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-180007(JP,A)
【文献】特開昭61-093241(JP,A)
【文献】特開2005-226470(JP,A)
【文献】特開平03-156103(JP,A)
【文献】特開2014-047714(JP,A)
【文献】特表2017-503070(JP,A)
【文献】特開2007-203429(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0021716(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 39/00
F01D 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンハウジングの内部に、タービン翼を囲うタービンスクロール通路と、前記タービンスクロール通路の始端に連通した排気ガス導入通路と、前記タービン翼の回転軸心方向に開口した排気ガス出口通路と、前記排気ガス導入通路と排気ガス出口通路とに連通したウェイストゲート通路とが形成されており、
前記
タービンスクロール通路に、前記タービン翼の回転によって切削可能な硬さの断熱材からなる断熱層を形成している
排気ターボ過給機であって、
前記タービンスクロール通路の断熱層は、
セラミック系粒子群と樹脂系バインダとの混合物を材料にして焼成されたもので、前記樹脂系バインダが焼成によって焼失すると共にセラミック系粒子が互いに結合した多孔質焼成層になっており、
かつ、前記排気ガス導入通路と排気ガス出口通路とウェイストゲート通路とにも、前記タービンスクロール通路と同じ断熱材から成る断熱層が形成されている、
排気ターボ過給機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、内燃機関に搭載される排気ターボ過給機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用等の内燃機関において、出力向上等のために排気ターボ過給機を設けることは広く行われている。この排気ターボ過給機は、タービンハウジングとコンプレッサハウジングと軸受ハウジングとを備えており、タービンハウジングの内部には、タービン翼の回転方向に向かって断面積が縮小したタービンスクロール通路(タービンスクロール室)と、タービンスクロール通路の始端に連通した排気ガス導入通路と、タービン翼の回転軸心方向に開口した排気ガス出口通路とが形成されている。
【0003】
排気ターボ過給機において、過給効率を高くするには、排気ガスをできるだけ降温させずにタービンスクロール通路に流入させるのが好適である。また、自動車用ガソリン機関では排気ターボ過給機の下流側に触媒式の排気ガス浄化装置が配置されているが、触媒はある程度の温度に昇温しないと活性化しない性質があるため、特に暖機運転時の触媒の早期昇温を図る上でも、排気ガスはできるだけ降温させずにタービンハウジングを通過するのが好ましい。更に、燃費向上のために排気ターボ過給機のハウジングをアルミ化することが提案されているが、アルミは耐熱性が低いため、排気ガスの熱害を抑制できると軽量化にとって好ましい。
【0004】
これらの要請への対応策として、タービンハウジングに、排気ガスの熱がタービンハウジングに伝わることを抑制する断熱層を設けることが考えられる。この点について、特許文献1には、タービンスクロール通路の内部を、セラミック製又はステンレス板製の耐熱性表層と断熱ファイバ等の断熱層とから成る複合体で構成することが開示されており、特許文献1では、複合体は、鋳型に中子と一緒にセットされて鋳込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開昭60-24839号のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、タービンスクロール通路の断熱性を向上できるが、構造が著しく複雑であるため、コストが嵩むことは否めない。また、タービンハウジングには、排気ガス導入通路やウェイストゲート通路、排気ガス出口通路といったガス通路が存在するが、これらの他の通路からの熱伝達は抑制できないため、タービンハウジング全体として見た場合に高い断熱性を確保できるか疑問である。
【0007】
更に、タービン翼とタービンスクロール通路との間には若干のクリアランスが存在しており、このクリアランスの管理は排気ターボ過給機の性能を左右する重要な要素であるが、特許文献1のように断熱性複合体を鋳込みで配置する構成では、タービンスクロール通路を高い精度で形成できるか否か、甚だ疑問である。
【0008】
本願発明このような現状を背景に成されたものであり、断熱性と過給性能に優れてしかも品質が安定した排気ターボ過給機を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明の排気ターボ過給機は、
「タービンハウジングの内部に、タービン翼を囲うタービンスクロール通路と、前記タービンスクロール通路の始端に連通した排気ガス導入通路と、前記タービン翼の回転軸心方向に開口した排気ガス出口通路と、前記排気ガス導入通路と排気ガス出口通路とに連通したウェイストゲート通路とが形成されており、
前記タービンスクロール通路に、前記タービン翼の回転によって切削可能な硬さの断熱材からなる断熱層を形成している排気ターボ過給機であって、
前記タービンスクロール通路の断熱層は、セラミック系粒子群と樹脂系バインダとの混合物を材料にして焼成されたもので、前記樹脂系バインダが焼成によって焼失すると共にセラミック系粒子が互いに結合した多孔質焼成層になっており、
かつ、前記排気ガス導入通路と排気ガス出口通路とウェイストゲート通路とにも、前記タービンスクロール通路と同じ断熱材から成る断熱層が形成されている」
という構成になっている。
【0010】
この場合、断熱材は、セラミック粒子と樹脂系等の耐熱バインダとを混合した不定形材料を使用可能であり、液状の断熱材槽にタービンハウジングを浸漬することによって各通路の内面全体に液状断熱材を塗布して、次いで、焼成して固めることにより、剥離不能に保持された断熱材層を形成できる。
【0011】
断熱層(断熱材層)は、各通路の全体又は大部分に形成できる。この場合の「大部分」とは、タービンハウジングの断熱効果を享受できる範囲ということであり、例えば80%以上であれば、所望の効果を享受できると云える(90%以上であると好適である。)。
【発明の効果】
【0012】
本願発明では、タービンハウジングのうち排気ガスが流れる通路が断熱材層で覆われているため、排気ガスからタービンハウジングへの熱伝達を著しく抑制して、排気ガスの降温を抑制できる。これにより、過給効率を向上できると共に、触媒式の排気ガス浄化装置が接続されている場合は、特に暖機運転時に触媒を早期昇温させて排気ガスの浄化性能向上に貢献できる。また、タービンハウジングの受熱量を抑制できることにより、タービンハウジングのアルミ化(軽量化)にも大きく貢献できる。
【0013】
また、断熱材は、タービンスクロール通路に設けるとタービン翼によって切削できる硬さであるため、タービンスクロール通路の断熱材層をタービン翼が接触し得る厚さに設定しておくことにより、タービン翼を取り付けて駆動すると、断熱材層がタービン翼で切削されて、タービンスクロール通路とタービン翼との間に、個々のタービン翼に対応した必要最小限度のクリアランスを自動的に形成できる。従って、排気ガスの不要な漏洩を無くして仕事効率を向上させた排気ターボ過給機を、品質のバラツキを無くした状態で提供できる。
【0014】
なお、断熱材層をタービン翼で切削してクリアランス調整を行うことは、排気ターボ過給機を組み立ててから内燃機関に搭載する前の段階で、排気ガス導入通路に例えば圧縮空気を吹き込むことによって行える(実際の運転時に似せて、熱風を排気ガス導入通路に吹き込でもよい。)。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る排気ターボ過給機の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1).基本構造
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は自動車用内燃機関の排気ターボ過給機に適用している。まず、基本構造を説明する。内燃機関との関係での方向について述べると、
図1を正面図としているが、これは、シリンダヘッド(図示せず)の吸気側面と対向した方向から見た状態である。従って、クランク軸線方向は左右方向になり、シリンダヘッドの幅方向は前後方向になる。
【0017】
図1,2から理解できるように、排気ターボ過給機は、排気ガスで駆動されるタービン翼2が配置されたタービンハウジング1と、
図1,3から理解できるように、コンプレッサ翼3が配置されたコンプレッサハウジング4と、両者の間に位置した軸受ハウジング5とを備えている。タービン翼2は回転軸6の一端部に固定されて、コンプレッサ翼3は回転軸6の他端部に固定されている。従って、各ハウジング1,4,5は左右方向に並んでいる。
【0018】
図2に示すように、タービンハウジング1には、シリンダヘッド又は排気マニホールド(図示せず)に固定される入り口側フランジ7が形成されており、入り口側フランジ7には、排気ガスが流入する排気ガス導入通路8が後ろ向きに開口している。
図8に示すように、排気ガス導入通路8はタービン翼2を囲うタービンスクロール通路9に連通しており、タービンスクロール通路9は、
図6,7に示すように、タービン翼2が僅かのクリアランスで回転するシュラウド室9aを有している。シュラウド室9aはタービン翼2の回転軸芯方向に開口しており、排気ガス出口通路10と連通している。排気ガス出口通路10は、左右方向に向いた出口側フランジ11に開口している。
【0019】
従って、タービンハウジング1
は、タービンスクロール通路9を囲うドラム状部1a(
図1参照)と、排気ガス導入通路8が形成された筒状部1b(
図3参照)
と、ドラム状部1a及び筒状部1bからコンプレッサハウジング4と反対側に張り出したサイド部1cとを備えており、サイド部1cに、排気ガスを排気ガス導入通路8から排気ガス出口通路10にリークさせるウェイストゲート通路12(
図6参照)が形成されている。ウェイストゲート通路12の終端はウェイストゲートバルブ13で開閉される。
【0020】
図3に示すように、ウェイストゲートバルブ13にはアーム13aが固定されており、アーム13aには前後長手の支軸14が固定されている。支軸14はタービンハウジング1のサイド部1cに回転自在に保持されており、外向きに突出した部位にリンク15が固定されている。
【0021】
図2に示すように、リンク15は上下長手の姿勢であり、その上端部が支軸14に固定されて、下端部には、左右長手のロッド16の先端部が前後長手のピン17によって相対回動可能に連結されている。ロッド16は、コンプレッサハウジング4に固定されたアクチュエータ18の弁体(図示せず)に固定されている。
【0022】
図3,6から明瞭に把握できるように、本実施形態では、タービンハウジング1の筒状部1bは入り口側フランジ7から斜め上向きに延びており、タービンスクロール通路9やタービン翼2は入り口側フランジ7よりも上に配置されている。従って、本実施形態の排気ターボ過給機は、排気ガスが上向きに流れる上巻き方式になっている。
【0023】
図6に示すように、コンプレッサハウジング4の内部にはコンプレッサスクロール室19が形成されており、コンプレッサスクロール室19に吸気を送る吸気入り口20(
図2参照)が軸心方向に開口している。コンプレッサスクロール室19で加圧された吸気は、回転軸心と交叉した方向に開口した吸気出口21(例えば
図4)から排出される。
図6に示すように、コンプレッサハウジング4は、コンプレッサスクロール室19を形成するためのインナー部材22を備えている。
【0024】
図2から理解できるように、アクチュエータ18はアクチュエータ用ブラケット23にビス(図示せす)で固定されており、コンプレッサハウジング4と軸受ハウジング5とは、アクチュエータ用ブラケット23と押さえプレート24とを介して締結されている。
図4に4本のボルト25が現れているが、これらのボルト25によってアクチュエータ用ブラケット23と押さえプレート24を引き付けることにより、軸受ハウジング5がコンプレッサハウジング4に押さえ固定されている。
【0025】
図6に示すように、軸受ハウジング5の内部には、回転軸6を回転自在に保持するフローティングメタル26が遊嵌している。そして、軸受ハウジング5には、フローティングメタル26に向けてオイルを供給するオイル入り口27が上向きに開口していると共に、オイルを排出する出口ポート28が下向きに開口している。
【0026】
本実施形態において、軽量化のために、タービンハウジング1と軸受ハウジング5はアルミの鋳造品として一体化されており、また、コンプレッサハウジング4はアルミのダイキャスト品である(鋳造品であってもよい。)。そこで、
図6に示すように、タービンハウジング1の内部に冷却水ジャケット31,32を形成している。
【0027】
すなわち、冷却水ジャケットは、軸受ハウジング5の側に位置した第1冷却水ジャケット31と、排気ガス出口通路10の側に位置した第2冷却水ジャケット32とで構成されており、両者は隔壁33で仕切られている。
図2,8に示すように、両冷却水ジャケット31,32には、入り口側フランジ7に開口した枝通路31a,32aを形成している。
【0028】
第1冷却水ジャケット31は、タービンスクロール通路9を外周側と軸受ハウジング5の側とから囲うと共に、筒部1bの下端部まで延びている。他方、第2冷却水ジャケット32は、排気ガス出口通路10を囲うと共に筒部1bの下端部まで延びている。そして、筒部1bの下端寄り部位に冷却水入り口ポート34を設けて、ドラム状部1a及びサイド部1cが繋がった部位の上端に、冷却水出口ポート35を設けている。両ポート34,35には、ホースを固定するための継手36,37(例えば
図1参照)を接続している。
【0029】
(2).断熱処理
図7,8に太線で示すように、排気ガス導入通路8の全面、シュラウド室9aを含むタービンスクロール通路9の全面、排気ガス出口通路10の全面、ウェイストゲート通路12の全面に、断熱材層38を形成している。従って、排気ガスからタービンハウジング1への放熱は著しく抑制される。その結果、排気ガスの膨張を抑制して過給効率を向上できると共に、下流側に配置した触媒の早期昇温に貢献できる。
【0030】
また、排気ガスからタービンハウジング1への伝熱性が低下することによって冷却水への受熱量も低減するため、冷却水の水量を抑制してウォータポンプの負担を軽減できる。従って、燃費の向上にも貢献できる。
【0031】
断熱材層38は、セラミック系粒子(例えば中空粒子や多孔質粒子)を焼成して形成されている。すなわち、セラミック系粒子と樹脂系等の液状バインダとの混合物をタンクに入れて、これにタービンハウジング1を浸漬することにより、各排気ガス通路の内面に断熱中間層(被膜)を形成して、次いで、タービンハウジング1を加熱炉に入れて数百度で加熱することにより、バインダを除去すると共にセラミック系粒子同士を焼結して(結合させて)断熱材層38と成している。
【0032】
この場合、
図7においてシュラウド室9aの箇所に一点鎖線38aで示すように、断熱材層38を、シュラウド室9aにおいてタービン翼2が僅かに接触する厚さに設定しておいて、タービン翼2を組み付けてから、排気ガス導入通路8に圧縮空気を送ることによってタービン翼2を高速回転させて、タービン翼2によって断熱材層38を切削する(タービン翼2は硬い特殊合金製であるため、断熱材層38がタービン翼2によって切削される。)。
【0033】
タービン翼2は若干振れ動くため、タービン翼2とタービンスクロール通路9(特にシュラウド室9a)との間には、個々のタービン翼2に対応した必要最小限度のクリアランスが自動的に形成され。従って、タービン翼2とシュラウド室9aとの間に多少の芯ずれがあったり、タービン翼2に加工誤差や取り付け誤差があったりしても、それらの誤差を吸収した状態で、排気ガスの不要な漏れがない状態のクリアランスを形成できる。これにより、過給効率に優れた排気ターボ過給機をバラツキのない状態で製造できる。
【0034】
以上の実施形態はアルミ製の水冷式タービンハウジングに適用したが、本願発明は、鋳鋼製のタービンハウジングにも適用できる。図示の形態ではシュラウド室をタービンハウジング1に直接形成しているが、スリーブ状のシュラウドピースを排気ガス出口通路10に装着することも可能である。この場合は、シュラウドピースの内面に断熱材層38を形成しておいて、装着してからタービン翼2によって切削したらよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本願発明は、排気ターボ過給機に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0036】
1 タービンハウジング
2 タービン翼
5 軸受ハウジング
6 回転軸
8 排気ガス導入通路
9 タービンスクロール通路
9a シュラウド室
10 排気ガス出口通路
12 ウェイストゲート通路
13 ウェイストゲートバルブ
38 断熱材層