(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】剥離性のモニタリング方法、および金属チタン箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 3/28 20060101AFI20231121BHJP
C25D 1/00 20060101ALI20231121BHJP
C25D 1/04 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C25C3/28
C25D1/00 A
C25D1/04
(21)【出願番号】P 2020032199
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2022-09-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発」の「チタン薄板の革新的低コスト化技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中條 雄太
(72)【発明者】
【氏名】山本 晴香
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】持木 靖貴
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-216586(JP,A)
【文献】特開2001-123289(JP,A)
【文献】特開2014-224329(JP,A)
【文献】特開2017-088971(JP,A)
【文献】特開2017-137551(JP,A)
【文献】特開2018-028112(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038992(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/138989(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/159774(WO,A1)
【文献】米国特許第04521281(US,A)
【文献】M. D. Thouless and Q. D. Yang,A PARAMETRIC STUDY OF THE PEEL TEST,International Journal of Adhesion and Adhesives,2008年,Vol. 28,p. 1,https://doi.org/10.1016/j.ijadhadh.2007.06.006
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 5/00 - 45/10
C25C 1/04 - 7/08
C25D 1/00 - 3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の電極からの金属チタン箔の剥離性をモニタリングする方法であって、
前記金属チタン箔の剥離操作時の単位幅あたりの荷重が1.0N/mm以下であるかを確認する測定工程を含
み、
前記測定工程においては、前記電極から前記金属チタン箔を剥離する方向と前記電極の表面とのなす角が、該電極表面から測って45°~100°の範囲内となる、剥離性のモニタリング方法。
【請求項2】
前記測定工程において前記単位幅あたりの荷重が0.2N/mm以下であるかを確認する、請求項1に記載の剥離性のモニタリング方法。
【請求項3】
前記測定工程の前に、溶融塩電解により前記電極に金属チタンを電析させることで前記金属チタン箔を得る電析工程を更に含む、請求項1
又は2に記載の剥離性のモニタリング方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか一項に記載の剥離性のモニタリング方法を実施するモニタリング工程と、
溶融塩電解により前記電極に金属チタンを電析させることで前記金属チタン箔を得る電析工程と、
を含む金属チタン箔の製造方法。
【請求項5】
金属製の電極からの金属チタン箔の剥離操作時の単位幅あたりの荷重を1.0N/mm以下と
し、前記電極から前記金属チタン箔を剥離する方向と前記電極の表面とのなす角を、該電極表面から測って45°~100°の範囲内にする、金属チタン箔の製造方法。
【請求項6】
金属製の電極からの金属チタン箔の剥離操作時の単位幅あたりの荷重を0.2N/mm以下とする、請求項
5に記載の金属チタン箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離性のモニタリング方法、および金属チタン箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スポンジチタンは、通常、いわゆるクロール法によって製造されうる。一方、金属チタンについて比較的薄い厚みの箔状等のシート状のものを製造するには、上記のスポンジチタンを溶解するとともに鋳造してチタンインゴットやチタンスラブとした後、さらに鍛造や圧延その他の所要の加工を施すことが必要になる。それ故に、このような溶解及び加工を要するプロセスでは、箔状等のシート状の金属チタンを効率的かつ低コストで製造できるとは言い難い。
【0003】
かかる状況の下、上述した溶解及び加工に代えて、溶融塩浴を用いて金属チタンを析出させる溶融塩電解析出法が、製造プロセスでの消費エネルギーの削減及びコストの低減の観点から注目されている。
【0004】
溶融塩電解析出法に関し、特許文献1には、「定電流パルスを用いる溶融塩電解析出法によりチタン箔またはチタン板を製造する方法であって、ガラス状炭素、黒鉛、MoおよびNiから選択される一種以上からなるカソード電極表面にチタン電析膜を形成した後、前記チタン電析膜に外力を与える工程、および、前記カソード電極の少なくとも一部を除去する工程の一方または両方を行うことにより、前記チタン電析膜を前記カソード電極から分離する、チタン箔またはチタン板の製造方法。」が提案されている。特許文献1の実施例によれば、ガラス状炭素、黒鉛またはNiからなるカソード電極上に析出させた比較的小型のチタン電析膜は、物理的な外力等により剥離させることができるとされている。なお、ニッケルからなるカソードは物理的な外力により剥離できない場合があることも示されている。モリブデンからなるカソードではリーチングが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス状炭素製でなく金属製の電極からチタン箔を剥離できればコスト的に有利である。なお、クロール法によるスポンジチタンの製造ではニッケルは不純物であり金属チタンを電析させる電極としてニッケル電極の使用は避けたい。しかしながら、金属製の電極と金属チタン箔が強固に結合している部位があることで機械的な剥離ができないにも関わらず金属チタン箔の機械的な剥離を行い続けると、金属チタン箔が破断し鋭利な破断面を有する金属チタン箔が暴れる(ばたつく)ことがあり製造現場の安全を確保できない。
【0007】
ここで、溶融塩浴の温度やパルス電流条件を適切に制御することで、金属製の電極上に析出した金属チタン箔を機械的に剥離可能であることを本発明者らは知見している。
【0008】
金属製の電極から該電極上に析出させた金属チタン箔を物理的な外力の作用等により剥離させた場合、剥離した金属チタン箔にシワが生じることがある。剥離後の金属チタン箔は、電極に接していた面と溶融塩浴に接していた面で平滑さに差がある。そこで、圧延処理により表面の平滑化を希望することがある。剥離した金属チタン箔を圧延用ロールに通して長いシート状に圧延加工することができるが、上記のようにシワが生じた金属チタン箔を圧延しても、一般に圧延処理ではシワを取り除くことができずに圧延材にはシワが残存する。また、量産の際に剥離後の金属チタン箔のシワの有無を常に目視で監視することも現実的とは言い難い。
【0009】
そこで、本発明は、電極から金属チタン箔を剥離しようとする際に、該金属チタン箔が良好に剥離可能か簡易に確認することが可能な剥離性のモニタリング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は一側面において、金属製の電極からの金属チタン箔の剥離性をモニタリングする方法であって、前記金属チタン箔の剥離操作時の単位幅あたりの荷重が1.0N/mm以下であるかを確認する測定工程を含む、剥離性のモニタリング方法である。
【0011】
本発明に係る剥離性のモニタリング方法の一実施形態においては、前記測定工程において前記単位幅あたりの荷重が0.2N/mm以下であるかを確認する。
【0012】
本発明に係る剥離性のモニタリング方法の一実施形態においては、前記電極から前記金属チタン箔を剥離する方向と前記電極の表面とのなす角が、該電極表面から測って45°~100°の範囲内となる。
【0013】
本発明に係る剥離性のモニタリング方法の一実施形態においては、前記測定工程の前に、溶融塩電解により前記電極に金属チタンを電析させることで前記金属チタン箔を得る電析工程を更に含む。
【0014】
また、別の側面において、上記いずれかの剥離性のモニタリング方法を実施するモニタリング工程と、溶融塩電解により前記電極に金属チタンを電析させることで前記金属チタン箔を得る電析工程と、を含む金属チタン箔の製造方法である。
【0015】
また、別の側面において、金属製の電極からの金属チタン箔の剥離操作時の単位幅あたりの荷重を1.0N/mm以下とする、金属チタン箔の製造方法である。
【0016】
本発明に係る金属チタン箔の製造方法の一実施形態においては、金属製の電極からの金属チタン箔の剥離操作時の単位幅あたりの荷重を0.2N/mm以下とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一実施形態によれば、電極から金属チタン箔を剥離しようとする際に、該金属チタン箔が良好に剥離可能か簡易に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る剥離性のモニタリング方法の一実施形態で用いられる電解装置の内部構造の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明に係る剥離性のモニタリング方法の一実施形態で用いられる電解装置の内部構造の一例を示す概略図である。
【
図3A】実施例1~2及び比較例1における電解装置の内部構造を示す概略図である。
【
図3B】
図3Aの切断線III-IIIにおける模式的な概略断面図である。
【
図4】本発明に係る剥離性のモニタリング方法の一実施形態における剥離試験機を用いた剥離強度の測定方法の一例を示す概略図である。
【
図5A】実施例1における金属チタン箔のシワの評価結果を示す写真である。
【
図5B】実施例4における金属チタン箔のシワの評価結果を示す写真である。
【
図6】実施例1~4及び比較例1~2における試料のEPMA分析の対象となりうる箇所の説明である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は以下に説明する各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより、種々の発明を形成できる。
【0020】
[剥離性のモニタリング方法]
本発明に係る剥離性のモニタリング方法の一実施形態においては、電析工程と、測定工程とを含む。該測定工程においては、剥離操作時の単位幅あたりの荷重が所定の範囲内であるかを確認する。そうすることで、金属チタン箔が剥離可能か、さらには剥離した金属チタン箔におけるシワの発生を簡易にモニタリングすることができる。
【0021】
図1に示す電解装置1においては内部がアルゴン等の不活性ガス雰囲気または適切な減圧状態であり、電解槽2内に溶融塩浴Bfが貯留され、円筒状又は円柱状であって金属製の陰極4と、その陰極4から所定の距離を保持した陽極5とが溶融塩浴Bfにそれぞれ浸漬されている。その陰極4を中心軸周りに回転させつつ、電源(不図示)から電極3へ通電することにより、陰極4の表面に金属チタンを析出させることで、該陰極4とこれに接したシート状の金属チタン箔Tsとからなる積層体が得られる。そして、陰極4の回転に伴い、溶融塩浴Bfの浴面上で積層体のシート状の金属チタン箔Tsをブレード6を利用して剥離させて、該シート状で長尺の金属チタン箔Tsをコイル巻取機7で巻き取る。これにより、シート状の金属チタン箔Tsを、陰極4の表面から剥離しつつ連続的に製造できる。上記製造において、陰極4の表面からのシート状の金属チタン箔Tsを機械的に剥離すると、剥離後のシート状の金属チタン箔Tsにシワが発生する場合と発生しない場合がある。例えば、連続的に製造される金属チタン箔についてシワの発生の有無を常に目視等で監視することも考えられるが、生産性向上の観点から望ましくない。
また、前記積層体の剥離性が低い、すなわち難剥離であるにも関わらずコイル巻取機7での巻取りを強行するとブレード6付近にて金属チタン箔Tsが破断する恐れがある。該破断の直後は鋭利な破断面を有する金属チタン箔が暴れる(ばたつく)ため製造現場の安全を確保できない。
【0022】
そこで、本発明者らは、溶融塩浴の温度と、電解時の平均電流密度と、通電停止期間が周期的に設けられて通電期間と通電停止期間が交互に繰り返されるパルス電流とを含む条件を変更し、それにより得られた積層体の電極と金属チタン箔との剥離強度及びシワの有無をそれぞれ確認した。その結果、本発明者らは、機械的な剥離を安全に行える剥離強度の範囲を知見した。さらに、剥離強度と剥離した金属チタン箔におけるシワ発生との間に一定の関係があるという知見をも得た。換言すれば、本発明においては、機械的な剥離の可否、さらには剥離後の金属チタン箔にシワが発生しにくい剥離強度を数値化して判断することができた。上記金属チタン箔のシワは、金属チタン箔の電極側表面の目視観察にて確認可能である。
以下、各工程についてそれぞれ説明する。
【0023】
<電析工程>
電析工程においては、電解装置を用いて溶融塩電解により電極に金属チタンを電析させる。そうすることで、電極とこれに接する金属チタン箔とを有する積層体が得られる。なお、金属チタンの電析効率を向上させる(すなわち、電析しやすくする)ため、溶融塩浴に二塩化チタンや三塩化チタン等の低級塩化チタンを含有させたうえで陽極と陰極とに通電してよい。低級塩化チタンは、例えばスポンジチタンに四塩化チタンを添加して生成させることができる。
【0024】
(電解装置)
本発明においては、種々の電解装置を用いることができる。
図2に示す電解装置100の一例はバッチ式であり、溶融塩浴Bfを貯留する密閉容器状の電解槽110と、溶融塩浴Bfに浸漬させて配置する陽極121及び陰極122を含む電極120と、陽極121及び陰極122に接続されて、該陽極121及び該陰極122に通電する電源130とを備えるものが挙げられる。
図1に示す電解装置1は陰極4を回転させて連続的に金属チタンを電析できるので、バッチ式生産ではなく、連続生産である。
【0025】
(溶融塩)
電解槽2、110内の溶融塩浴Bfを構成する溶融塩は、ハロゲン化物を一種以上混ぜ合わせたものとすることができる。代表的なハロゲン化物としては、たとえば、MgCl2やNaCl、KCl、CaCl2、LiCl等の塩化物を挙げることができる。
【0026】
溶融塩浴Bfは、MgCl2、NaCl、KCl、CaCl2、LiClからなる群から選択される二種以上を含むことが好ましい。これらのうちの二種以上を含むことにより、ある程度低温としても溶融塩浴Bfの溶融状態を良好に維持できるので、溶融塩浴を低い温度範囲として金属チタン箔を析出できる。但し、上記のような塩化物等のハロゲン化物は、操業温度等を考慮して、その具体的な塩の種類やモル基準や質量基準で含有量を適宜決定することができる。なお、上記モル基準の含有量は、ICP発光分析により測定する。
【0027】
溶融塩浴Bfに、電極上に金属チタン箔を析出させる際の金属チタン源を予め添加してよい。金属チタン源としては低級塩化チタンであり、少なくともTiClx(X=2~3)を含むのがよい。なお、TiClx(X=2~3)は、TiCl2が主成分であることが好ましく、TiCl3をTiCl2と等モル量以下含有してもよい。溶融塩浴中におけるTiClx(X=2~3)量は適宜設定可能であり、あえて一例を挙げると1~10質量%である。
【0028】
(陽極・陰極)
陽極5、121及び陰極4、122はそれぞれ、例えば、棒状、動かしながら使用する長尺の帯状、板状もしくは、円柱その他の柱状又は、塊状等のものとすることができる。なお、陽極5、121と陰極4、122の電極間距離を特定の範囲内に設定したい場合は、陽極5、121と陰極4、122の対向部位に対する垂直断面での形状を相似形とすることが好ましい。例えば、筒状、棒状、または柱状の陰極を使用し、その外側に陽極を配置する場合、
図3Aに示す電解装置200のように、陽極221も筒状としてよい。なお、
図3Aに示す電解装置200は、陽極221及び陰極222の形状を変更したことを除いて、
図2に示す電解装置100とほぼ同様の構成を有するものである。また、軸位置を固定して回転可能とした棒状または柱状の陰極222を使用し、対向部位に断面弧状の板状陽極221を使用してよい。この場合でも、陽極221と陰極222の対向部分はほぼ同じ電極間距離を維持できる。
【0029】
ここで、電解槽2、110、210内の溶融塩浴Bfに浸漬させる陽極5、121、221及び陰極4、122、222のうち、陽極5、121、221としては、例えば金属チタンが挙げられる。金属チタンとしては、例えば、スポンジチタン、チタンスクラップ、チタン棒及び/又はチタン板等を用いることができる。スポンジチタンを陽極として使用する場合は、塊状のスポンジチタンをNi製の籠内に設置し、Ni製の籠に通電すればよい。NiはTiよりもイオン化傾向が小さいため、Niは溶出せずにスポンジチタンのみを陽極として溶出させることができる。
【0030】
また、金属製である陰極4、122、222は適宜選択可能であるが、例えばモリブデン、チタン等が挙げられる。
陰極4、122、222がモリブデンである場合、金属チタンの電析により、陰極4、122、222と該陰極の表面上に析出した金属チタン箔とを備える積層体が得られ、その積層体は、金属チタン箔と陰極4、122、222の境界にはTiおよびMoを含む拡散層を有することがある。一方、陰極4、122、222がチタンである場合、金属チタンの電析により、陰極4、122、222と該陰極の表面上に析出した金属チタン箔とを備える積層体が得られる。この場合であっても金属チタン箔は剥離される。
本明細書において、上記拡散層は、下記式(1)に示すTiの割合が1%~99%の範囲内である層を意味する。
Tiの割合(%)=(Ti濃度(質量%))/(Ti濃度(質量%)+Mo濃度(質量%))×100・・・(1)
なお、拡散層の厚みの測定方法の一例を以下に説明する。
積層体から金属製電極と金属チタン箔を含む試料片を採取する。次に、試料片からテストピースを少なくとも3点採取する。EPMA分析でテストピースの断面(
図6参照。)を厚み方向に沿ってTi及びMo量を測定し、上記Tiの割合の範囲内である層の厚みを求める。少なくとも3点のテストピースの上記厚みのうちの最大値を拡散層の厚みとする。
【0031】
陰極の形状としては、例えば
図3A、
図3Bに示す陰極222のように、金属チタンが析出するその陰極の表面の少なくとも一部が、曲面形状であることが好適である。このような陰極を使用すると陰極を回転させながら金属チタンを陰極表面に電析させることができ連続生産時の装置小型化に貢献する。すなわち、
図1に例示するような製造に貢献する。なお、
図3A、
図3Bに示す電解装置200は、円筒状の表面を有する円筒状もしくは円柱状の陰極222と、陰極222の周囲を取り囲んで配置した円筒状の陽極221を備える。
陽極の表面および陰極の表面をともに曲面形状とすると、陰極を可動しても電極間距離を一定に維持しやすいことから、陰極の表面の広い面積により均一に金属チタンを析出させることができる。この観点から、陽極の表面および陰極の表面は、互いに相似な曲面形状を有してもよい。
【0032】
(溶融塩浴の温度)
金属チタンの電析は、溶融塩浴Bf中で行われる。溶融塩浴Bfの温度は、例えば350℃~600℃の範囲内に制御される。溶融塩浴Bfの温度の上限側は515℃以下としてよい。上記温度よりも低い温度における金属チタンの電析は、陰極に金属チタンが析出しにくい。また、水溶液中における金属チタンの電析は通常不可能である。水が存在することにより金属チタンの析出よりも水素ガスが優先して発生する。したがって、上記温度の範囲内に制御した溶融塩浴Bf中にて金属チタンを電極に電析する。
【0033】
(平均電流密度)
陰極4、122、222の平均電流密度は、例えば0.01A/cm2~0.09A/cm2である。これにより、効率的な金属チタンの析出と、拡散層が生成する場合は適切な拡散層の形成と、デンドライトの成長抑制とを図ることができ、また陽極5、121、221の溶解が良好に行われる。陰極4、122、222の平均電流密度は、式:平均電流密度(A/cm2)=平均電流(A)÷電解面積(cm2)により算出することができる。ここで、電解面積については、たとえば円筒状の表面を有する陰極の場合、式:電解面積(cm2)=陰極浸漬表面積=陰極直径(cm)×π×陰極高さ(cm)で算出する。また、平均電流は、平均電流密度を求める所定の時間に流す電流の平均値である。
【0034】
(パルス電流)
電極に流す電流を、電流値をゼロ(すなわち通電しない)にする通電停止期間が周期的に設けられて通電期間と通電停止期間が交互に繰り返されるパルス電流としてよい。パルス電流は、金属チタンを析出させるための電流の供給と、電流供給の停止とを交互に繰り返すON/OFF制御により実現することができる。ON/OFF制御のパルス電流とすることにより、通電中は陰極近傍のチタン濃度が低くなるが、通電停止時に拡散により陰極近傍にチタンが供給される。すなわち、電流供給停止時に拡散により溶融塩浴Bf中に溶解したTiの濃度の不均一が解消もしくは緩和されると考えられる。その結果として、陰極4、122、222の表面において平滑性に優れ、かつより高純度の金属チタンを得ることができると考えられる。
【0035】
上記の溶融塩浴の温度、上記の平均電流密度、上記のパルス電流等を適宜調整することで、目標とする厚みの金属チタン箔が得られる。
【0036】
<測定工程>
測定工程においては、積層体における電極と金属チタン箔との剥離強度を測定し、該剥離強度が1.0N/mm以下であるかを確認する。剥離強度は単位幅(mm)あたりの荷重(N)とすればよい。なお、該測定工程においては、電極と金属チタン箔との剥離強度を測定するために剥離試験機を用いることはモニタリングの一例に過ぎない。例えば、バッチ式にて作製した積層体の一部から剥離試験機にセット可能の試料(試験片)を採取して予め剥離強度を求めることができる。その結果が良好であれば積層体から金属チタン箔を剥離すればよい。
図1に示す電解装置1のように連続的に金属チタンを電析させる場合は、経時的に剥離強度を測定し、モニタリングを実施することが好ましい。
【0037】
(剥離強度)
積層体における金属製電極と金属チタン箔との剥離強度は、上述のとおり剥離試験機を用いて測定することもできる。剥離強度を測定している間は、電極から金属チタン箔を剥離する方向と電極の表面とのなす角が、該電極表面から測って100°以下としてよく、さらには45°~100°の範囲内となるようにすることが好ましい。陰極が円柱状や円筒状であり陰極表面が曲面である場合、金属製電極と金属チタン箔の剥離基点における陰極表面の接線を前記電極表面として角度を測定してよい。上記のように剥離強度測定時の角度を調整することで、剥離中において金属チタン箔の曲げによる塑性変形を適切に抑制できる。
このとき、剥離強度は、1.0N/mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.2N/mm以下である。
上記剥離強度が、1.0N/mm以下である場合、機械的な剥離性が良好であるため、連続的な金属チタンの電析と連続的な陰極からの金属チタン箔剥離が可能である。すなわち、長尺な金属チタン箔の連続的な生産が可能であるといえる。一方、この剥離強度が、1.0N/mmを超える場合、剥離操作中において金属チタン箔が破断するおそれがあるので、生産ラインにおいて機械的な剥離の停止を判断することができる。
また、上記剥離強度が、0.2N/mmを超えて1.0N/mm以下の範囲内である場合、剥離後の金属チタン箔には不規則にシワが発生することがある。すなわち、どのタイミングでシワが生じるか精度よく予測できない。この場合、生産ラインにおける剥離した金属チタン箔の陰極側の表面を観察しシワの発生の有無を確認しなければならない場合もあり得る。
また、上記剥離強度が0.2N/mm以下である場合、剥離後の金属チタン箔は、的確にシワの発生を抑制できる。
次に、剥離試験機を用いた剥離強度の測定方法の一例を示す。
まず、積層体の一部において、70mm×10mmの試料をカッター等を使用して採取する。次に、
図4に示すように、90°剥離試験機のステージ550(水平面)上に試料500を載置し、試料500の端部から金属チタン箔510を10mm剥がし、その剥がした部分をチャックで挟む。次に、ステージ550上の試料500の端部と、その端部と反対側となる陰極122の端部をそれぞれ固定治具511、512で固定する。そして、チャックを鉛直上方Vに20mm/secで上昇させ、ステージ550を水平方向Hに、20mm/secで移動させる。このとき、剥離強度は、下記式(2)に従って求める。なお、
図4の例では電極である陰極122の表面と水平方向が一致しているため、金属チタン箔を剥離する方向と陰極表面とのなす角は、陰極122の表面から測って90°である。
剥離強度=(剥離開始後5mm~25mmの変位における平均荷重(N))/(ステージを移動する方向に垂直な方向に平行な該金属チタン箔の幅(mm))・・・(2)
【0038】
次に、
図1に示す電解装置1のように、回転する電極を使用する場合の一例を示す。
図1に示す電解装置1では、例えば、陰極4を矢印DR1の方向に回転させながら電極3への通電を開始し陰極4が1周回ったところで通電を停止する。次に、陰極4に電析されたシート状の金属チタン箔Tsの一部にカッターで切り込みを入れ、該切り込み部から半周程度電析されたシート状の金属チタン箔Tsを陰極4から剥がす。この過程で、フォースゲージを用いて剥離強度を測定する機会がある。次に、その剥がしたシート状の金属チタン箔Tsの先端部をコイル巻取機7に巻き付ける。
電極3への通電を再開し、コイル巻取機7を矢印DR2の方向に回転し、連続回収を行う。コイル巻取機7の駆動力やテンションメーター等により連続的に剥離強度を確認することができる。
なお、コイル巻取機7に移動機構(不図示)を備えることで、コイル巻取機7と陰極4との距離を適宜調整可能である。例えば、剥がしたシート状の金属チタン箔Tsの先端部をコイル巻取機7に巻き付ける際、コイル巻取機7と陰極4との距離を近づける。一方、シート状の金属チタン箔Tsの巻取り開始時は、シート状の金属チタン箔Tsに弛まないようにテンションをかけ、コイル巻取機7と陰極4とを引き離す。
【0039】
<金属チタン箔の製造方法>
本発明に係る金属チタン箔の製造方法の一実施形態は、上記剥離性のモニタリング方法を実施するモニタリング工程と、上記溶融塩電解により前記電極に金属チタンを電析させることで前記金属チタン箔を得る電析工程と、を含むものであってよい。
【0040】
例えば、
図2及び
図3A~Bに示す電解装置100、200等を使用し、バッチ式で金属チタン箔を製造する場合は、事前に積層体の一部から試料を採取しその剥離強度を測定することで、機械的な剥離性と該剥離後の金属チタン箔のシワの発生とを簡易にモニタリングできる。
【0041】
また、例えば、
図1に示す電解装置1等を使用し、金属製の電極を回転させながら連続的に金属チタン箔を製造する場合は、コイル巻取機7の駆動力やテンションメーター等により連続的に剥離強度を測定し、モニタリングを実施することができる。ここで、剥離操作時の単位幅あたりの荷重が1.0N/mmを超える場合は破断のおそれありとして金属チタン箔の電析を一旦停止することができる。その後、電極のメンテナンスを行い、金属チタン箔の製造を再開すればよい。上記メンテナンスとしては、金属製の電極の交換等が挙げられる。
【0042】
本発明に係る金属チタン箔の製造方法の一実施形態は、金属製の電極からの金属チタン箔の剥離操作時の単位幅あたりの荷重を1.0N/mm以下とするものであってよい。なお、剥離操作時の単位幅あたりの荷重は0.2N/mm以下とすることが好ましい。
図1に示す電解装置1等を使用し、金属製の電極を回転させながら連続的に金属チタン箔を製造する場合は、コイル巻取機7の駆動力やテンションメーター等により連続的に剥離強度をモニタリングすることができる。よって、剥離時の単位幅あたりの荷重が所望の範囲内となるようにコイル巻取機7の駆動力等を調整しながら金属チタン箔を製造することが好ましい。
【実施例】
【0043】
本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例及び比較例の記載は、あくまで本発明の技術的内容の理解を容易とするための具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものではない。
【0044】
(金属チタン箔の製造)
図3A、Bに示す電解装置200を設置した。電解装置200の電解槽210の浴部分の寸法形状は、470mmΦ×500mm深さとした。なお、
図3A、Bは装置構成の概略を示すものであり、その縮尺は必ずしも正確ではない。次に、電解装置200の電解槽210内に140kgの溶融塩(MgCl
2:NaCl:KCl=2:1:1(モル比換算))を投入して、溶融塩の温度を700℃に昇温した。その後、浴中にスポンジチタンを浸漬させ、そこに四塩化チタンを添加し、約7質量%の低級塩化チタン(TiCl
2およびTiCl
3)を含有する溶融塩浴Bfを得た。この溶融塩浴Bfを得た後、溶融塩浴Bfの温度を500~520℃に制御した。
【0045】
次に、金属チタン製の陽極221と金属モリブデン製の陰極222をそれぞれ準備した。チタン板を使用し、その内径(直径)が160mmの円筒状の陽極221とした。一方、モリブデン板を内径(直径)100mm×高さ250mmの円筒形の陰極222とした。電解装置200の電解槽210内にて、円筒状の陽極221の内側に円筒状の陰極222を位置させるとともに、陽極221及び陰極222の高さ方向が溶融塩浴Bfの深さ方向とほぼ平行になるように、陽極221及び陰極222を配置した。なお、陽極221および陰極222の全周に渡り電極間距離は一定とした。すなわち、陽極221の中心軸と陰極222の中心軸は同じ位置にある。
【0046】
電解装置200を用いて陽極221及び陰極222にパルス電流を供給して、溶融塩浴Bf中にて電気分解を行った。下記表1に示すように各条件を変更して、実施例1~4及び比較例1~2について陰極222の陽極221側の表面全体に亘って金属チタンを析出させることで、積層体が得られた。このとき、陰極222に析出する金属チタン箔の狙い厚みが90~150μmとなるように適宜調整した。
【0047】
【0048】
電気分解の終了後、積層体を溶融塩浴Bfから引き揚げて酸洗し、さらに水洗し、その陰極の表面と金属チタン箔とにそれぞれ付着していた溶融塩を除去した。更に、積層体を乾燥した。いずれの実施例1~4及び比較例1~2においても、陰極浸漬部分の表面積と同等のサイズの金属チタンが陰極222上に析出した。
【0049】
[評価]
円筒形状の積層体を中心軸方向にカッターナイフでカットして、板状の積層体として、該積層体の陰極の表面をテーブル上に載置した。そして、板状の積層体の中央部において、長手方向を70mm、積層体の金属チタン箔側の表面であって長手方向に直交する幅方向に10mmとし、カッターナイフで採取して試料を2つ得た。1つの試料にて剥離強度の測定とシワの確認を行い、もう1つの試料にて拡散層の厚みを測定した。剥離強度の測定では長手方向に沿ってステージ550を移動させた。以下に、各評価の測定方法を説明する。
【0050】
(剥離強度)
上記試料について、先述した方法により、金属チタン箔と陰極との剥離強度を測定した。その結果を表2に示す。なお、比較例1~2においては、測定中に測定可能荷重を超えたので、金属チタン箔の破断による破片が飛び散ることを防止するため、測定停止にした。すなわち比較例1~2においては、その剥離変位の5mmから剥離が可能であった区間における荷重の平均値に基づき、剥離強度を算出した。
<剥離条件>
剥離試験機:株式会社イマダ製デジタルフォースゲージZTS-200N(測定可能荷重:200N)および90度剥離試験用スライドテーブルP90-200N
剥離角度:90°
剥離速度:20mm/min(鉛直方向および水平方向で同じ速度)
剥離強度:剥離変位の5mmから25mmまでの20mmの区間における荷重(N)の平均値
【0051】
(シワの評価)
次に、上記試料から金属チタン箔を剥離した後、金属チタン箔の、陰極と接していた表面全体を目視することで、金属チタン箔のシワの有無を確認した。その結果を下記表2、
図5A(実施例1)、及び
図5B(実施例4)にそれぞれ示す。
図5Aはシワなし、
図5Bはシワありの評価結果である。なお、比較例1~2においては、剥離強度の測定中に測定停止にしているため、陰極と接していた金属チタン箔の表面のシワを確認しなかった。
【0052】
(拡散層の厚み)
図6に示す試料500は、上から順に金属チタン箔510、拡散層515、陰極222を備えている。該試料500について、L1が5mm、L2が28.5mm、L3が28.5mm、L4が5mm、L5が4.5mm、L6が4.5mmとしてカッターナイフでカットすることで、テストピースA~Cが得られた。すなわち、1つの試料500からEPMA分析用テストピースを3つ得た。
電子線マイクロアナライザ(SUPERPROBE JXA-8100、日本電子株式会社製)を用いてEPMA分析を行い、テストピースA~Cの断面について厚み方向に沿ってTi及びMo量を測定し、それらのうちの最大値を拡散層の厚みとした。また、その結果を下記表2に示す。
【0053】
【0054】
(ばらつきの確認)
次に、実施例1と同じ条件で金属チタン箔を計10バッチ製造した。そして、先述した方法により、試料を作製して、その試料に基づき各製造ロットの拡散層の厚みを測定した。その結果、拡散層の最大厚みが4.0μm未満であるロット数は10であった。さらに、全ロットの剥離性試験後においても、金属チタン箔にシワが生じていなかった。
【0055】
次に、実施例4と同じ条件で金属チタン箔を計10バッチ製造し、各製造ロットの拡散層の厚みを測定した。その結果、拡散層の最大厚みが4.0μm以上5.4μm以下であるロット数は8である一方、拡散層の最大厚みが4.0μm未満であるロット数は、2であった。さらに、拡散層の最大厚みが4.0μm以上5.4μm以下であるロットの剥離性試験後において陰極が接していた面の観察にて金属チタン箔のシワを確認したところ、8つのうち4つについては、金属チタン箔にシワが生じていた。
【0056】
(金属チタン箔の幅と剥離強度の相関性)
実施例1と同一のチタン箔製造ロットにおいて、試料の幅を2倍(20mm)に変更して剥離時の荷重を測定した。その結果、剥離操作における単位幅あたりの荷重は0.1N/mmであり実施例1と同じであったが、荷重は実施例1の倍となった。すなわち、試料の幅が変更されても剥離操作時の単位幅あたりの荷重は大きく変動しなかった。
【0057】
(実施例による考察)
実施例1~4においては、電極と金属チタン箔との剥離強度が1.0N/mm以下であることで、金属製の電極から金属チタン箔を機械的に剥離できた。剥離後、金属チタン箔の電極側の表面を観察することでシワの発生の有無も簡易に評価できた。また、実施例1においては、電極と金属チタン箔との剥離強度が0.2N/mm以下であることで、金属チタン箔の剥離後、金属チタン箔におけるシワの発生がないことも確認した。
【0058】
仮に、
図1に示す電解装置1において円筒形状の電極の表面に金属チタン箔を電析させながら連続的に金属チタン箔を剥離する場合、コイル巻取機7に向けて金属チタン箔は剥離され、ブレードの先端と陰極が接する点で陰極の接線方向に陰極が移送されうる。一方、実施例1~4における引張試験機を使用した剥離では金属チタン箔が鉛直上方に移送され、陰極がステージにより水平方向に移送される。すなわち、陰極から金属チタン箔を剥離する方向と前記陰極表面(ブレード先端との接点における陰極の接線でもよい)とのなす角が該陰極表面から測って45°~100°の範囲内である点で、引張試験機による金属チタン箔の剥離は
図1に示す電解装置1による連続的な金属チタン箔の剥離と共通している。したがって、実施例1~4によれば、金属チタン箔と陰極との剥離強度を測定し、その値が1.0N/mm以下であるかを確認すること、さらには0.2N/mm以下であるかを確認することがモニタリングにおいて有用であると考えられる。また、これらの知見は
図1に示すような連続的な金属チタン箔の製造に適用できる。
【符号の説明】
【0059】
1、100、200 電解装置
2、110、210 電解槽
3、120、220 電極
4、122、222 陰極
5、121、221 陽極
6 ブレード
7 コイル巻取機
130、230 電源
500 試料
510 金属チタン箔
511、512 固定治具
515 拡散層
550 ステージ
A、B、C テストピース
Bf 溶融塩浴
H 水平方向
Ts 長尺の金属チタン箔
V 鉛直上方