(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】廃液の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20230101AFI20231121BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20231121BHJP
【FI】
C02F1/58 R
C02F1/58 Q
C02F1/28 P
(21)【出願番号】P 2020033936
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】平山 愉子
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-055318(JP,A)
【文献】特開2009-285635(JP,A)
【文献】特開2019-181328(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0069249(KR,A)
【文献】特開2012-096972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/28、1/52-1/64
C01B25/00-25/46
B01J20/00-20/34
B01D21/00-21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸イオン及び硫酸イオンを含む廃液の処理方法であって、
(A)下記工程(a)の後に、下記工程(b)を行う方法、
(B)下記工程(b)の後に、下記工程(a)を行う方法、または、
(C)下記工程(a)と下記工程(b)を同時に行う方法、
によって、上記廃液中にリン含有固体物を生成させるリン含有固体物生成工程、を含み、かつ、
上記(A)~(C)のいずれかの方法の前、途中または後に、上記廃液の温度を35℃以上に調整する液温調整工程、を含むことを特徴とする廃液の処理方法。
(a)上記廃液に
、カルシウム化合物
である塩化カルシウムを添加する工程であって、上記廃液中、リン(P)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/P)が1.5以上、2.2未満の範囲内になるように、上記カルシウム化合物の量を調整するカルシウム化合物添加工程
(b)上記廃液に
、pH調整剤
であるアルカリ金属の水酸化物を添加して、上記廃液のpHを11.5~13.5の範囲内に調整するpH調整工程
【請求項2】
上記リン含有固体物生成工程の後、上記廃液を固液分離して、リンを含む固形分、及び、リン酸イオン濃度が低減した液分である処理済みの廃液を得る固液分離工程を含み、かつ、上記液温調整工程の後、少なくとも上記固液分離工程の開始時まで、上記廃液の温度を35℃以上に維持する請求項
1に記載の廃液の処理方法。
【請求項3】
上記リンを含む固形分が、リン(P)を8質量%以上の割合で含む請求項
2に記載の廃液の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リンは栄養塩類の一種であり、水中のリン濃度が大きい場合、植物プランクトンである藻類を大量増殖させる原因となる。藻類が大量に増殖した場合、該藻類が水中の酸素を消費することで、水中が嫌気性雰囲気となり、水質の悪化が起こる。特に、湖沼や内湾等の閉鎖性の水域では、リンを原因とする水質の悪化が起こりやすい。
環境省では、排水基準として、排水中のリン含有量を、日間平均8mg/リットルと定めている。
廃水中のリン濃度を減少させる方法として、特許文献1には、廃水中のフルオロリン酸化合物を分解して廃水中のフッ素及びリンの濃度を減少させる方法であり、該方法は、硫酸濃度10~20重量%となるように硫酸を廃水に加えながら、廃水の温度を65~85℃に調整する工程、廃水を該温度範囲内に保持する工程、及びカルシウム化合物を廃水に添加する工程を有することを特徴とする廃水中のフッ素及びリンの濃度を減少させる方法が記載されている。
【0003】
一方、廃水からリン含有物質を回収するための技術として、特許文献2には、廃水からリン生成物を生成するためのプロセスであって、a)溶解したリン酸塩を含まないバイオマスおよび他の不純物を除去するために処理されている、リン酸塩を含有する廃水を、このプロセスに運ぶことと、b)鉄、マグネシウム、カルシウム、およびアルミニウム塩の群から選択される少なくとも1種の金属塩を使用して、処理された廃水からリン酸塩含有凝集体を作り出すことと、c)前記凝集体に、前記金属塩と反応して対応する水酸化物とするのに有効な量で、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物または酸化物を添加することと、d)ステップc)の形成されたリン酸塩から水酸化物を分離することと、e)液体または固体のリン酸塩の形態のリン生成物を得ることとを含むプロセスが、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-94573号公報
【文献】特表2019-507082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
廃液(廃水)を処理して、リン濃度が低減した処理済みの廃液を得る際に、該処理済みの廃液(固液分離によって回収される液分)と同時に、リンを含む固形分(固液分離によって回収される固形分)が回収される。
この際、固液分離の効率をより高めることができれば、廃液の処理の全体の効率を高めることができるので、好ましい。
また、固液分離で得られる固形分中に大きな含有率でリンが含まれていれば、この固形分をリン含有資源として有効利用することができるので、好ましい。
一方、廃水の中には、リン(特に、リン酸イオン)の他に、硫酸イオンを含むものがある。この場合、硫酸イオンが存在することを前提にして、廃水中のリンの除去処理を行う必要がある。
本発明の目的は、リン酸イオン及び硫酸イオンを含む廃液から、リンを大きな含有率で含む固形分を、効率的に回収することができ、かつ、排水基準である8mg/リットル以下にリン濃度が低減された処理済みの廃液を得ることのできる、廃液の処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、リン酸イオン及び硫酸イオンを含む廃液の処理方法であって、(a)廃液中、リン(P)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/P)が1.5以上、2.2未満の範囲内になるように、廃液にカルシウム化合物を添加すること、及び、(b)廃液にpH調整剤を添加して、廃液のpHを11.5~13.5の範囲内に調整すること、の両方の処理を行うとともに、これらの処理の前、途中、または後の時点において、廃液の温度を35℃以上に調整すれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[5]を提供するものである。
【0007】
[1] リン酸イオン及び硫酸イオンを含む廃液の処理方法であって、
(A)下記工程(a)の後に、下記工程(b)を行う方法、
(B)下記工程(b)の後に、下記工程(a)を行う方法、または、
(C)下記工程(a)と下記工程(b)を同時に行う方法、
によって、上記廃液中にリン含有固体物を生成させるリン含有固体物生成工程、を含み、かつ、
上記(A)~(C)のいずれかの方法の前、途中または後に、上記廃液の温度を35℃以上に調整する液温調整工程、を含むことを特徴とする廃液の処理方法。
(a)上記廃液にカルシウム化合物を添加する工程であって、上記廃液中、リン(P)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/P)が1.5以上、2.2未満の範囲内になるように、上記カルシウム化合物の量を調整するカルシウム化合物添加工程
(b)上記廃液にpH調整剤を添加して、上記廃液のpHを11.5~13.5の範囲内に調整するpH調整工程
[2] 上記カルシウム化合物が、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、及び、炭酸カルシウムからなる群より選ばれる一種以上からなる前記[1]に記載の廃液の処理方法。
[3] 上記pH調整剤が、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、または、無機酸である前記[1]又は[2]に記載の廃液の処理方法。
[4] 上記リン含有固体物生成工程の後、上記廃液を固液分離して、リンを含む固形分、及び、リン酸イオン濃度が低減した液分である処理済みの廃液を得る固液分離工程を含み、かつ、上記液温調整工程の後、少なくとも上記固液分離工程の開始時まで、上記廃液の温度を35℃以上に維持する前記[1]~[3]のいずれかに記載の廃液の処理方法。
[5] 上記リンを含む固形分が、リン(P)を8質量%以上の割合で含む前記[4]に記載の廃液の処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の廃液の処理方法によれば、リン酸イオン及び硫酸イオンを含む廃液から、リンを大きな含有率で含む固形分を、効率的に回収することができる。
回収した固形分は、リンを大きな含有率で含むため、リン含有資源として有効利用することができる。
また、本発明の廃液の処理方法によれば、排水基準である8mg/リットル以下にリン濃度が低減された処理済みの廃液を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の廃液の処理方法は、リン酸イオン及び硫酸イオンを含む廃液の処理方法であって、(A)下記工程(a)の後に、下記工程(b)を行う方法、(B)下記工程(b)の後に、下記工程(a)を行う方法、または、(C)下記工程(a)と下記工程(b)を同時に行う方法、によって、上記廃液中にリン含有固体物を生成させるリン含有固体物生成工程、を含み、かつ、上記(A)~(C)のいずれかの方法の前、途中または後に、上記廃液の温度を35℃以上に調整する液温調整工程、を含むものである。
(a)上記廃液にカルシウム化合物を添加する工程であって、上記廃液中、リン(P)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/P)が1.5以上、2.2未満の範囲内になるように、上記カルシウム化合物の量を調整するカルシウム化合物添加工程
(b)上記廃液にpH調整剤を添加して、上記廃液のpHを11.5~13.5の範囲内に調整するpH調整工程
【0010】
本発明において、処理の対象となる廃液は、リン酸イオン及び硫酸イオンを含む廃液であれば特に限定されるものではなく、例えば、下水処理場において、下水を脱水処理して得られるろ液(下水処理場における下水を処理する過程において、余剰汚泥を脱水処理した際に発生する水等)や、食品製造工場等の工場において排出される水や、農業または畜産業において排出される水や、日常生活において排出される水(生活排水)等の廃液(廃水)が挙げられる。また、上述した廃液を水で希釈してなる希釈液を対象としてもよい。
廃液中のリンの濃度は、廃液に含まれるリンの量を低減する本発明の目的を考慮すると、好ましくは10mg/リットル以上、より好ましくは100mg/リットル以上、さらに好ましくは500mg/リットル以上、特に好ましくは800mg/リットル以上である。
上記リンの濃度の上限値は、特に限定されないが、実際に処理の対象となる廃液中のリンの濃度を考慮すると、通常、5,000mg/リットル、好ましくは4,000mg/リットル、より好ましくは3,000mg/リットルである。
なお、廃液中のリンは、通常、リン酸イオンの形態で存在している。
【0011】
廃液中の硫酸イオンの濃度は、特に限定されないが、固液分離性(ろ過性)の良好なリン含有固体物の生成や、廃液に含まれるリンの濃度の低減などの観点から、好ましくは3,000mg/リットル以上、より好ましくは3,200mg/リットル以上、さらに好ましくは3,500mg/リットル以上、特に好ましくは4,000mg/リットル以上である。
該濃度の上限値は、特に限定されないが、実際に処理の対象となる廃液中の硫酸イオンの濃度を考慮すると、通常、70,000mg/リットル、好ましくは60,000mg/リットル、特に好ましくは50,000mg/リットルである。
なお、廃液中の硫酸イオンの濃度を調整する目的で、廃液に硫酸ナトリウム等の硫酸塩を適宜添加してもよい。
【0012】
廃液中には、リン酸イオン及び硫酸イオンの他、ナトリウムイオンが存在することがある。この場合、廃液中のナトリウムイオンの濃度は、例えば、200~30,000mg/リットルである。
本発明の処理対象物である廃液の例として、リン(P)換算で50~6,000mg/リットルの濃度のリン酸イオンと、3,000~70,000mg/リットルの濃度の硫酸イオンと、200~30,000mg/リットルの濃度のナトリウムイオンとを含む廃液が挙げられる。このような廃液の例として、金属リン酸塩(例えば、リン酸アルミニウムの合成で生成する廃液)が挙げられる。
【0013】
[リン含有固体物生成工程]
リン含有固体物生成工程は、以下の(A)、(B)または(C)の方法によって、廃液中にリン含有固体物を生成させる工程である。
(A)下記工程(a)の後に、下記工程(b)を行う方法
(B)下記工程(b)の後に、下記工程(a)を行う方法
(C)下記工程(a)と下記工程(b)を同時に行う方法
(a)廃液にカルシウム化合物を添加する工程であって、廃液中、リン(P)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/P)が1.5以上、2.2未満になるように、カルシウム化合物の量を調整するカルシウム化合物添加工程
(b)廃液にpH調整剤を添加して、廃液のpHを11.5~13.5の範囲内に調整するpH調整工程
リン含有固体物生成工程において、廃液中のリン酸イオンとカルシウムが反応することによって、ヒドロキシアパタイト等のリン含有固体物を生成させて、廃液に含まれている水溶性のリン成分の量を低減することができる。
以下、工程(a)、工程(b)について詳しく説明する。
【0014】
[工程(a):カルシウム化合物添加工程]
カルシウム化合物添加工程は、廃液にカルシウム化合物を添加する工程であって、廃液中、リン(P)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/P)が1.5以上、2.2未満になるように、カルシウム化合物の量を調整する工程である。
カルシウム化合物は、粉末状、溶液状、またはスラリー状の形態で添加することができる。中でも、反応性および混合性の観点から、溶液状またはスラリー状の形態が好ましい。
カルシウム化合物の例としては、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、及び、炭酸カルシウム等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、水への溶解性に優れており、水溶液の形態で廃液に添加することができる観点から、塩化カルシウムが好ましい。
本発明において、カルシウム化合物中の塩化カルシウムの割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
【0015】
上記モル比(Ca/P)は、1.5以上、2.2未満、好ましくは1.6~2.1、より好ましくは1.7~2.1、さらに好ましくは1.8~2.1、さらに好ましくは1.8~2.0、特に好ましくは1.9である。上記モル比が1.5未満であると、リン含有固体物の生成量が少なくなるため、後工程である固液分離後の廃液(処理済みの液分)に含まれているリンの量を低減する効果が小さくなる。上記モル比が2.2以上であると、後工程である固液分離工程におけるろ過で得られる固形分に含まれるリンの含有率が小さくなり、該固形分のリン含有資源としての価値が低下する。
【0016】
本発明において、リン(P)に対するカルシウム(Ca)のモル比(Ca/P)とは、廃液中にリン酸イオンとして存在する水溶性のリン成分に含まれるリン(P)のモルに対する、廃液中にカルシウムイオンとして存在する水溶性のカルシウム成分に含まれるカルシウム(Ca)のモルの比を意味する。
したがって、難溶性のリン成分に含まれるリンや、難溶性のカルシウム成分に含まれるカルシウムは、上記モル比におけるリンおよびルシウムには含めないものとする。
本発明において、カルシウム化合物の添加前の廃液中に、カルシウムイオンが存在する場合、このカルシウムイオンのカルシウム(Ca)は、上記モル比(Ca/P)におけるカルシウムに含めるものとする。この場合、当該カルシウムイオンの量を考慮して、カルシウム化合物の量を定める。
【0017】
[工程(b):pH調整工程]
pH調整工程は、廃液にpH調整剤を添加して、廃液のpHを11.5~13.5の範囲内に調整する工程である。
pH調整剤の例としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、及び無機酸等が挙げられる。
アルカリ金属の水酸化物の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属の水酸化物の例としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
無機酸としては、塩酸、硫酸等が挙げられる。
中でも、入手の容易性等の観点から、水酸化ナトリウム、塩酸が好ましい。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
廃液のpHは、11.5~13.5、好ましくは11.8~13.2、より好ましくは12.0~13.0、さらに好ましくは12.2~12.8、特に好ましくは12.4~12.6である。上記pHが11.5未満または13.5を超えると、後工程である固液分離工程におけるろ過で得られる固形分に含まれるリンの含有率が小さくなり、該固形分のリン含有資源としての価値が低下する。
【0019】
工程(b)の後に、工程(a)を行う場合、工程(b)において、pHを11.5~13.5の範囲内に調整した後、工程(a)においてカルシウム化合物を添加している際に、廃液のpHが11.5~13.5の範囲を外れたときには、工程(a)において、適宜、pH調整剤を添加して、廃液のpHを11.5~13.5の範囲内に調整することが好ましい。
また、工程(a)と工程(b)を同時に行う場合、カルシウム化合物の添加が終了した後の廃液のpHが11.5~13.5の範囲内となるように、pH調整剤を添加することが好ましい。
【0020】
[液温調整工程]
液温調整工程は、(A)工程(a)の後に、工程(b)を行う方法、(B)工程(b)の後に、工程(a)を行う方法、または、(C)工程(a)と工程(b)を同時に行う方法、において、該方法の前、途中または後に、廃液の温度を35℃以上に調整する工程である。
廃液の温度は、35℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、さらに好ましくは48℃以上、特に好ましくは50℃以上である。
該温度の上限は、特に限定されないが、加熱に要するコストの節減等の観点から、通常、80℃、好ましくは70℃、より好ましくは65℃である。
調整後の液温は、少なくとも、固液分離工程の開始時まで維持することが好ましい。
【0021】
[固液分離工程]
固液分離工程は、リン含有固体物生成工程及び液温調整工程の後に設けられる工程であり、廃液を固液分離して、リン酸イオン濃度が低減した液分である処理済みの廃液を得る工程である。
固液分離の処理効率を向上させる観点から、固液分離工程において、廃液にろ過助材を添加してもよい。
ろ過助材の例としては、珪藻土、パーライト、セルロース、及び高分子凝集剤等が挙げられる。
固液分離の方法の例としては、吸引ろ過、フィルタープレス、及び遠心脱水等が挙げられる。
廃液を固液分離することで、リン酸イオン濃度が低減した液分である処理済みの廃液(処理後の液分)と、リン含有固形物(固形分)を分離することができる。
リン含有固形分中のリンの含有率は、好ましくは8mg/リットル以下、より好ましくは6mg/リットル以下、さらに好ましくは4mg/リットル以下、さらに好ましくは2mg/リットル以下、特に好ましくは1mg/リットル以下である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[使用材料]
(1)廃液
リン酸アルミニウムの製造工場の廃水に、リン酸、硫酸、及び水酸化ナトリウムを添加して調製した廃液(リン酸のリン換算の濃度:1,000mg/リットル、硫酸イオン濃度:45,000mg/リットル、ナトリウムイオン濃度:25,000mg/リットル)
(2)塩化カルシウム水溶液
塩化カルシウムを35質量%の濃度で含むもの
(3)水酸化ナトリウム溶液
水酸化ナトリウムを20質量%の濃度で含むもの
【0023】
[実施例1]
1リットルの廃液(液温:約20℃)を加熱して、40℃の液温を有する廃液を得た。次いで、この廃液に、該廃液中のカルシウム(Ca)とリン(P)のモル比(Ca/P)が2.1となるように、該廃液を撹拌しながら、塩化カルシウム水溶液を添加し、処理済みの廃液を得た。その後、この廃液に水酸化ナトリウム水溶液を添加しながら撹拌して、pHを13に調整し、さらに、pHが13に達した時から30分間、撹拌を続けた。
なお、40℃の液温は、pHの調整後の撹拌の終了時点まで維持した。
撹拌の終了後に、以下のとおり、(A)ろ過性の評価、(B)ろ過で得られた液分中のリン濃度(mg/リットル)の測定、及び、(C)ろ過で得られた固形分中のリンの含有率(質量%)の測定、を行った。
【0024】
(A)ろ過性の評価
ろ過性の評価は、(a)濾紙を用いた廃液のろ過に要する時間(本明細書中、「ろ過時間」と略すことがある。)、及び、(b)ろ過して得られた固形分の含水率(本明細書中、「固形分の含水率」と略すことがある。)、の各々を測定することによって行った。
(a)ろ過時間
まず、廃液の水分を、加熱によって部分的に蒸発させて、固形分の含有率が5質量%である濃縮済みの廃液を得た。次いで、この濃縮済みの廃液500ミリリットルを濾紙で吸引ろ過した。全量(500ミリリットル)のろ過に要した時間(分間)を、「ろ過時間(分間)」とした。ろ過時間が小さいほど、ろ過性は良好である。
なお、濾紙としては、「JIS P 3801 ろ紙(化学分析用)」に規定されている「定量分析用」の「5種 C」(微細沈殿用)に該当するものを用いた。
【0025】
(b)固形分の含水率
まず、前記「(a)ろ過時間」のろ過で得られた固形分の質量(乾燥前の質量)を測定した。その後、この固形分を105℃で12時間、乾燥させて、乾燥処理済みの固形分を得た。次いで、この乾燥処理済みの固形分の質量(乾燥後の質量)を測定した。得られた2つの値を用いて、以下の式によって、含水率を算出した。
含水率(%)=[(乾燥前の質量)-(乾燥後の質量)]÷[乾燥前の質量]×100
含水率が小さいほど、固形分の体積が小さくなり、ろ過の処理効率が高まるので、ろ過性は良好である。
【0026】
(B)ろ過で得られた液分(処理済みの廃液中)のリン濃度の測定
ICP発光分光分析装置を用いて、処理済みの廃液中のリン濃度(mg/リットル)を測定した。リン濃度は、元素であるリン(P)の濃度である。処理済みの廃液には、難溶性のリン成分はほとんど含まれていないので、測定されたリン濃度の大きさは、リン酸イオンの濃度の大きさに対応する。
【0027】
(C)ろ過で得られた固形分中のリンの含有率(質量%)の測定
ろ過で得られた固形分(リン含有固体物)10.0mgを、硝酸を用いて酸分解した後、200mLのメスフラスコを用いて、メスアップした。このように分解及び希釈して得られた溶液中のリン濃度(mg/リットル)を、ICP発光分光分析装置を用いて測定した。得られた測定値に基いて、以下の式によって、リンの含有率を算出した。
[リンの含有率(質量%)]=[溶液中のリン濃度(mg/リットル)]×[0.2リットル]÷[10.0mg]×100
【0028】
[実施例2~4及び比較例1]
1リットルの廃液(実施例1と同じもの)を加熱して、表1に示す液温を有する廃液を得た。次いで、この廃液に水酸化ナトリウム水溶液を添加しながら撹拌して、pHを表1に示す値に調整し、さらに、pHが該値に達した時から30分間、撹拌を続けた。その後、この廃液に、該廃液中のカルシウム(Ca)とリン(P)のモル比(Ca/P)が表1に示す値となるように、該廃液を撹拌しながら、塩化カルシウム水溶液を添加し、処理済みの廃液を得た。
この廃液について、実施例1と同様に、ろ過性の評価等を行った。
以上の実験の結果を表1に示す。
表1中、「Ca添加後」は、塩化カルシウム水溶液(Ca含有水溶液)を添加した後に、水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを調整したことを意味する。
「Ca添加前」は、塩化カルシウム水溶液(Ca含有水溶液)を添加する前に、水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを調整したことを意味する。
「リン濃度」は、ろ液(処理後の液分)に含まれているリンの濃度(mg/リットル)を意味する。
「固形分」の「リン」は、ろ過で得られた固形分中のリンの含有率(質量%)を意味する。
表1に示すとおり、実施例1~4では、比較例1に比べて、ろ過性に優れ、かつ、固形分中のリンの含有率が大きいことがわかる。
【0029】