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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】計測方法及び、品質管理方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/208 20190101AFI20231121BHJP
【FI】
G01N33/208
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020052413
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152462
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】591051553
【氏名又は名称】株式会社川熱
(74)【代理人】
【識別番号】100171619
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 顕雄
(74)【復代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110002550
【氏名又は名称】AT特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】石田 知子
(72)【発明者】
【氏名】太田 健司
(72)【発明者】
【氏名】須藤 忠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅彦
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-43898(JP,A)
【文献】特開2011-147845(JP,A)
【文献】特開2000-265468(JP,A)
【文献】特開2005-66574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/20-33/208
C23F 11/00
C23F 13/02
E04C 5/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材と、該鋼材の少なくとも一部を被覆する樹脂層と、該樹脂層に付着保持された粒子とを有する防食鋼材における前記粒子の付着量の計測方法であって、
前記防食鋼材を有機溶剤に浸漬して前記樹脂層を溶解する第1のステップと、
前記樹脂層が溶解した溶解液をろ紙でろ過することにより、該溶解液から前記粒子をろ別する第2のステップと、
前記ろ紙でろ別した前記粒子の質量を測定する第3のステップと、を含む
ことを特徴とする計測方法。
【請求項2】
前記第2のステップよりも前に、前記溶解液をろ過する前のろ紙を乾燥処理して、該ろ紙の単体乾燥質量を測定するステップと、
前記第2のステップの後であって、前記第3のステップよりも前に、前記溶解液をろ過したろ紙及び該ろ紙にろ別された粒子を乾燥処理して、該ろ紙及び該粒子の合計乾燥質量を測定するステップと、をさらに含み、
前記第3のステップにおいては、測定した前記合計乾燥質量から前記単体乾燥質量を差し引くことにより、前記粒子の付着量を算出する
請求項1に記載の計測方法。
【請求項3】
前記乾燥処理は、90℃以上の温度で30分以上加熱することにより行う
請求項2に記載の計測方法。
【請求項4】
前記第1のステップにおいては、前記防食鋼材を前記有機溶剤に浸漬させた状態で8時間以上静置する
請求項1から3の何れか一項に記載の計測方法。
【請求項5】
前記鋼材が鉄筋棒であり、前記樹脂層がポリビニルブチラールを主成分として含む樹脂層であり、前記粒子が珪砂である
請求項1から4の何れか一項に記載の計測方法。
【請求項6】
前記有機溶剤が、イソプロピルアルコールである
請求項1から5の何れか一項に記載の計測方法。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項に記載の計測方法を用いた前記防食鋼材の品質管理方法であって、
前記第3のステップで測定される前記粒子の質量を所定の基準値と比較することにより、前記防食鋼材の製造工程における前記粒子の付着量変動を把握する
ことを特徴とする品質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、計測方法及び、品質管理方法に関し、特に、防食鉄筋の樹脂層に付着保持された粒子の付着量の計測及び、品質管理に好適な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート用鉄筋の一例として、鉄筋棒の表面にポリビニルブチラール(以下、PVB)を主成分としたPVB樹脂を塗布すると共に、PVB樹脂層に粒子(例えば、珪砂等)を付着させた防食鉄筋(又は、防錆鉄筋)が実用化されている(例えば、特許文献1,2参照)。防食鉄筋は、PVB樹脂層に付着させた珪砂により、PVB樹脂層の表面に多数の微小突起を形成することにより、コンクリートとの付着強度を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-043898号公報
【文献】特開2011-147845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
防食鉄筋において、コンクリートに対する所望の付着性能や定着性能を得るには、PVB樹脂層に保持される珪砂の付着量が重要となる。このため、防食鉄筋の製造工程にて、珪砂の付着量を適切に管理することが望まれる。
【0005】
珪砂の付着量を計測するには、鉄筋棒に被覆したPVB樹脂に珪砂を付着させたサンプル片と、鉄筋棒にPVB樹脂のみを被覆したサンプル片とを、それぞれ略同等の長さで作製し、これら各サンプル片の質量差を珪砂の付着量とすることが考えられる。
【0006】
しかしながら、係る計測方法では、珪砂よりも質量が重い鉄筋棒を含めた各サンプル片の総質量を比較することとなる。このため、各サンプル片の長さに僅かでも差異があると、鉄筋棒の質量差の影響により計測誤差が大きくなることで、珪砂の付着量を適切に把握できないといった課題がある。また、実際の製品とは異なる、PVB樹脂のみを被覆したサンプル片を別途用意する必要があるため、手間や労力が掛かるといった課題もある。
【0007】
本開示の技術は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡易な方法で、粒子の付着量を精度良く効果的に取得することができる計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の計測方法は、鋼材と、該鋼材の少なくとも一部を被覆する樹脂層と、該樹脂層に付着保持された粒子とを有する防食鋼材における前記粒子の付着量の計測方法であって、前記防食鋼材を有機溶剤に浸漬して前記樹脂層を溶解する第1のステップと、前記樹脂層が溶解した溶解液をろ紙でろ過することにより、該溶解液から前記粒子をろ別する第2のステップと、前記ろ紙でろ別した前記粒子の質量を測定する第3のステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
また、前記第2のステップよりも前に、前記溶解液をろ過する前のろ紙を乾燥処理して、該ろ紙の単体乾燥質量を測定するステップと、前記第2のステップの後であって、前記第3のステップよりも前に、前記溶解液をろ過したろ紙及び該ろ紙にろ別された粒子を乾燥処理して、該ろ紙及び該粒子の合計乾燥質量を測定するステップと、をさらに含み、前記第3のステップにおいては、測定した前記合計乾燥質量から前記単体乾燥質量を差し引くことにより、前記粒子の付着量を算出することが好ましい。
【0010】
また、前記乾燥処理は、90℃以上の温度で30分以上加熱することにより行うことが好ましい。
【0011】
また、前記第1のステップにおいては、前記防食鋼材を前記有機溶剤に浸漬させた状態で8時間以上静置することが好ましい。
【0012】
また、前記鋼材が鉄筋棒であり、前記樹脂層がポリビニルブチラールを主成分として含む樹脂層であり、前記粒子が珪砂であってもよい。
【0013】
また、前記有機溶剤が、イソプロピルアルコールであってもよい。
【0014】
本開示の品質管理方法は、前記計測方法を用いた前記防食鋼材の品質管理方法であって、前記第3のステップで測定される前記粒子の質量を所定の基準値と比較することにより、前記防食鋼材の製造工程における前記粒子の付着量変動を把握することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本開示の技術によれば、簡易な方法で、粒子の付着量を精度良く効果的に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態に係る防食鉄筋に用いられる鉄筋棒の一例を示す模式的な斜視図である。
図2】本実施形態に係る防食鉄筋の一例を示す模式的な径方向断面図である。
図3】本実施形態に係る防食鉄筋の製造方法の一例を説明するフロー図である。
図4】本実施形態に係る計測方法の流れを説明するフロー図である。
図5】本実施形態に係る計測方法を説明する模式図である。
図6】本実施形態に係る計測方法を説明する模式図である。
図7】本実施形態に係る計測方法を説明する模式図である。
図8】実施例を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面に基づいて、本実施形態に係る計測方法及び、品質管理方法について説明する。
【0018】
[防食鉄筋・製造方法]
図1は、本実施形態に係る防食鉄筋に用いられる鉄筋棒11の一例を示す模式的な斜視図であり、図2は、本実施形態に係る防食鉄筋10の一例を示す模式的な径方向断面図である。
【0019】
図1に示すように、鉄筋棒11は、略円柱状の棒本体12と、棒本体12の外周面を軸方向に延びる少なくとも1本以上の縦リブ13と、棒本体12の外周面を周方向に延びると共に、軸方向に所定間隔で設けられた複数本の横リブ14とを備えている。なお、縦リブ13や横リブ14の配列パターンは図示例に限定されず、他の配列パターンであってもよい。また、鉄筋棒11は、リブを有する異形鉄筋に限定されず、丸棒等の他の鉄筋棒であってもよい。
【0020】
本実施形態の防食鉄筋10は、図2に示すように、鉄筋棒11の外周面にPVB樹脂を主成分としたPVB樹脂層20を形成し、該PVB樹脂層20に粒子としての珪砂30を付着保持させることにより製造される。
【0021】
ここで、防食鉄筋10は、図3に示すように、(1)鉄筋棒11の表面にブラスト処理を施す第1工程と、(2)鉄筋棒11を高周波加熱装置により加熱する第2工程と、(3)鉄筋棒11の表面にPVB樹脂を主成分とする粉体を静電粉体塗装により塗布する第3工程と、(4)PVB樹脂層20が溶融した鉄筋棒11に珪砂を付着させる第4工程と、(5)溶融したPVB樹脂層20を冷却して固化させる第5工程とを順に行うことにより製造される。なお、防食鉄筋10の製造方法はこれに限定されず、他の方法により製造することもできる。例えば、第2工程と第3工程との順序を入れ替えて行うことも可能である。
【0022】
[計測方法]
図4は、本実施形態に係る計測方法の流れを説明するフロー図である。
【0023】
図4に示すように、本実施形態の計測方法は、(1)計測用サンプルを作製するステップS10と、(2)計測用サンプルの長さを測定するステップS20と、(3)計測用サンプルを有機溶剤に浸漬して静置することにより、樹脂層を溶解するステップS30(本開示の第1のステップ)と、(4)ろ紙を乾燥処理して該ろ紙の単体乾燥質量を測定するステップS40と、(5)溶解液をろ紙に注入してろ過することにより、珪砂をろ別するステップS50(本開示の第2のステップ)と、(6)ろ紙及び珪砂を乾燥処理して、これらろ紙及び珪砂の合計乾燥質量を測定するステップS60と、(7)合計乾燥質量から単体乾燥質量を差し引いて得られる珪砂の質量を防食鉄筋10の外周面の1m当たりの付着量に換算するステップS70(本開示の第3のステップ)とを順に行うことにより実施する。以下、各ステップS10~S70の詳細について具体的に説明する。
【0024】
(計測用サンプルの作製:ステップS10)
ステップS10では、PVB樹脂層に珪砂が付着保持された防食鉄筋を所定の長さに切断することにより、計測用サンプル(好ましくは複数本)を作製する。母材である鉄筋棒には、JIS G 3122:2010の表4に規定された呼び名の各鉄筋棒を用いることができる。切断方法は、特に限定されないが、PVB樹脂層の熱溶融を防止する観点からは、切断面に熱を生じさせない(或いは、熱の発生を抑えられる)切断方法を選択することが望ましい。熱を生じさせない切断方法としては、例えば、バンドソウ等により切断する態様が挙げられる。
【0025】
計測用サンプルの軸方向長さは、特に限定されないが、最大長さは、後述するステップS30で用いる容器の容量(高さ)を考慮し、容器内に収まる長さにすることが好ましい。また、鉄筋棒が図1に示すような異形鉄筋の場合、計測用サンプルを短くしすぎると、リブ13,14(特に横リブ14)の影響を受けやすくなる。このような観点から、計測用サンプルの最小長さは、横リブ14が複数含まれる適宜の長さとすることが好ましい。
【0026】
(計測用サンプルの長さ測定:ステップS20)
ステップS20では、図5に示すように、前述のステップS10で作成した計測用サンプルSの軸方向長さLを測定する。軸方向長さLは、ノギス(例えば、マイクロメータ)を用いて0.01mm単位まで測定することが望ましい。ここで、計測用サンプルSの両端に形成された切断面は、軸心方向に対して垂直とならない場合があり、1点のみの測定では精度を担保できない可能性がある。係る観点から、軸方向長さLは、径方向に直交する少なくとも2点の長さL1,L2を測定し、これらの平均値(L=(L1+L2)/2)を計測用サンプルSの軸方向長さLとすることが好ましい。
【0027】
なお、ステップS20は、後述するステップS50の完了後、PVB樹脂が溶解して除去された状態の鉄筋棒11を用いて行うことも可能である。
【0028】
(樹脂層の溶解:ステップS30)
ステップS30では、図6に示すように、計測用サンプルSを容器50に投入し、計測用サンプルSが完全に浸漬するまで有機溶剤を注入する。有機溶剤を注入したならば、キャップ51により容器50の開口を閉塞して密閉し、有機溶剤の蒸発や逸散を防止する。容器50を密閉したならば、計測用サンプルSのPVB樹脂層が完全に溶解するまで、安定した温度環境の室内等にて静置保管する。
【0029】
ここで、有機溶剤の種類は、PVB樹脂を溶融可能な溶剤であれば特に限定されないが、樹脂溶解性や取り扱い容易性の観点から、アルコール、特にイソプロピルアルコール(イソプロパノール)を用いることが好ましい。アルコールの濃度は適宜調整すればよいが、純度98質量%以上であることが好ましい。静置する温度は、常温(例えば、約23℃)であればよい。静置保管する時間は特に限定されないが、イソプロピルアルコールを用いる場合には、少なくとも4間以上であることが好ましく、12時間以上がより好ましい。時間の上限は特に制限されないが、製造ラインの品質管理に用いる場合には、24時間以内が望ましい。PVB樹脂を溶融可能な溶剤としては、アルコール類であれば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ジアセトンアルコール、ベンジルアルコール、グリコール類であれば、1-メトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-1-ブタノール、カルビトール、エーテル類であれば、ジオサキン、THF、セロソルブ類であれば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エステル類であれば、メトキシプロピルアセテート、酪酸エチル、グリコール酸n-ブチルエステル、DBE、ケトン類であれば、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノンを用いることができる。
【0030】
なお、図示例において、計測用サンプルSは容器50内に縦向きで投入されているが、容器50の形状に応じて横向きに投入してもよい。横向きで投入する場合は、計測用サンプルSの両端を支持手段で支持して有機溶剤内に吊り下げればよい。
【0031】
(ろ紙の乾燥、乾燥質量の測定:ステップS40)
ステップS40では、ろ紙を乾燥炉又は、電気炉等の乾燥施設に投入し、乾燥後のろ紙の質量(以下、単体乾燥質量mAという)を測定する。ろ紙の乾燥処理は、質量減少が約0.01g未満となるまで行うことが好ましい。この際、乾燥温度は90℃以上とし、乾燥時間は30分以上とすることが望ましい。なお、ステップS40は、ステップS30の終了後から開始する必要はなく、ステップS30の終了前から、該ステップS30と並行して行ってもよい。
【0032】
(溶解液のろ過、珪砂のろ別:ステップS50)
図7に示すように、ステップS50では、ろ紙60をろ過器具61(例えば、漏斗)にセットし、PVB樹脂が溶解した溶解液をろ紙60でろ過することにより、溶解液から珪砂をろ別する。この際、容器50を傾けるのみでは、容器50の底部側に沈殿した珪砂や、計測用サンプルSの表面に付着する珪砂がそれらに残存し、残存する珪砂をろ紙60で回収できない可能性がある。このような残存珪砂を確実に回収すべく、容器50及び計測用サンプルSを洗浄液で洗浄し、係る洗浄液をろ紙60に注入することが好ましい。
【0033】
ここで、洗浄液に蒸留水を用いると、溶解液中のPVB樹脂が再度固化して珪砂をろ別できなくなる。このため、洗浄液には、上述のステップS30で用いる有機溶剤と同じ溶剤(本実施形態ではイソプロピルアルコール)を用いることが好ましい。
【0034】
(ろ紙及び珪砂の乾燥処理、乾燥質量の測定:ステップS60)
ステップS60では、ろ紙及びろ紙に回収された珪砂を乾燥炉又は、電気炉等の乾燥施設に投入し、乾燥後のろ紙及び珪砂の合計質量(以下、合計乾燥質量mBという)を測定する。ろ紙及び珪砂の乾燥処理は、質量減少が約0.01g未満となるまで行うことが好ましい。この際、加熱温度は90℃以上とし、乾燥時間は30分以上とすることが望ましい。
【0035】
(珪砂の質量演算及び換算:ステップS70)
ステップS70では、ステップS60で取得した合計乾燥質量mBから、ステップS40で取得した単体乾燥質量mAを差し引く以下の数式(1)に従って、計測用サンプルSに付着していた珪砂の質量mを演算する。
m=mB-mA ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(1)
但し、 m : 珪砂の質量(g)
mA: 単体乾燥質量(g)
mB: 合計乾燥質量(g)
【0036】
次いで、得られた珪砂の質量mを、以下の数式(2)に従って、防食鉄筋10の外周面の1m当たりの付着量Mに換算する。
M=α×Ms ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
但し、 M : 1m当たりの珪砂の付着量(g)
α : 1m当たりの換算係数
α=1/D
D : 測定サンプルSの外周面の総面積(m
D=d×L
d : 測定サンプルの鉄筋棒の公称周長(m)
L : 測定サンプルの軸方向長さ(m)
Ms: 濾過した珪砂の総質量(g)
Ms=Σm
【0037】
以上詳述した本実施形態の計測方法によれば、実際の製造ライン等で製造される防食鉄筋10を所定長さで切断することにより、計測用サンプルSを作製すると共に、作製した計測用サンプルSを有機溶剤に浸漬することによりPVB樹脂層20を溶解し、溶解液をろ紙60でろ過することにより珪砂30をろ別し、ろ別した珪砂30の質量を測定することにより、PVB樹脂層20に付着保持されていた珪砂30の付着量を簡易な方法で取得することができる。これにより、防食鋼材10の製造ラインにおいては、計測した珪砂30の付着量と所定の管理基準値とを適宜に比較することにより、珪砂30の付着量変動を把握できるようになり、品質管理の向上を図ることが可能になる(品質管理方法)。
【0038】
また、実際の計測用サンプルSと、別途作製するPVB樹脂のみを被覆したサンプルとを比較する手法に比べ、質量が重い鉄筋棒11の影響を効果的に排除できるようになり、計測精度を確実に向上することが可能になる。また、PVB樹脂のみを被覆したサンプルを別途作製する必要がないため、手間や労力を効果的に削減することも可能になる。
【実施例
【0039】
次に、本実施形態の計測方法による具体的な実施例を説明する。なお、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
実施例では、PVB樹脂層に8号珪砂を付着した防食鉄筋を用い、軸方向長さが約50mmの複数本の計測用サンプルを作製した。8号珪砂は、例えば、粒径0.15mm未満であって粒径0.05mm以上の粒子が70%以上占める粒度分布を有する。これら計測用サンプルの母材である鉄筋棒には、JIS G 3112:2010(鉄筋コンクリート用棒鋼)に規定されたD16(公称周長:5.0cm)を用いた。
【0041】
各計測用サンプルは、防食鉄筋をバンドソウで切断することにより作製した。各試験サンプルの軸方向長さLは、上記ステップS20で説明した手法により、径方向に直交する2点の長さL1,L2をマイクロメータで計測し、これらの平均値(L=(L1+L2)/2)を算出することにより取得した。PVB樹脂層を溶解する有機溶剤には、イソプロピルアルコール(2-プロパノール)を使用した。イソプロピルアルコールは、純度98%以上である。珪砂をろ別するろ紙には、8号珪砂の最小粒径よりも目が十分に小さいものを用いた。ろ紙を乾燥させる乾燥炉には、加熱温度を90℃以上に設定できるものを使用した。
【0042】
[乾燥時間]
上述のステップS60で説明した乾燥処理に必要な時間(乾燥時間)を検討した。本試験では、計5個の計測用サンプル#1~#5を作製し、それらの軸方向長さLを測定した。各計測用サンプル#1~#5は、イソプロピルアルコールに浸漬させて約12時間ほど静置した。また、各計測用サンプル#1~#5から珪砂をろ別するろ紙については、ろ過前の単体乾燥質量及び、ろ過後の合計乾燥質量をそれぞれ測定した。乾燥処理は、乾燥炉の加熱温度を約105℃に設定して行った。合計乾燥質量については、乾燥時間の経過に応じて適宜に測定することにより、質量変化を記録した。以下、本試験の結果を表1に示す。また、表1の乾燥時間0分から2時間までをグラフ化したものを図8に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1及び、図8から明らかなように、合計乾燥質量の質量変化は、何れのサンプル#1~#5においても、乾燥時間が30分に達すると安定することが分かった。この結果より、上述のステップS60における乾燥時間は、30分~1時間程度行えば十分であることが確認された。
【0045】
[静置保管時間(溶解時間)]
上述のステップS30で説明した静置保管に必要な時間(溶解時間)を検討した。本試験では、計50個の計測用サンプル#1~#50を作製し、それらの軸方向長さLを測定した。各計測用サンプル#1~#50は、イソプロピルアルコールに浸漬させて所定時間ほど静置保管した。具体的には、サンプル#1~#10は約2時間、サンプル#11~#20は約4時間、サンプル#21~#30は約8時間、サンプル#31~#40は約12時間、サンプル#41~#50は約18時間、それぞれ静置保管した。これら静置保管したサンプル#1~#50につき、溶解液をろ紙でろ過し、ろ別した珪砂の質量を計測した。以下、本試験の結果を表2~6に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
表2~6から明らかなように、溶解時間ごとに算出した珪砂付着量は、合計及び平均ともに溶解時間が8時間に達すると、以降は安定することが分かった。この結果より、上述のステップS30における溶解時間は、8時間以上行うことが望ましく、12時間行えば十分であることが確認された。
【0052】
なお、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜に変形して実施することが可能である。
【0053】
例えば、上記実施形態では、鉄筋棒11にPVB樹脂を被覆した防食鉄筋10を用いて説明したが、樹脂層はPVB以外の他の樹脂層でもよく、また、粒子は珪砂以外の粒子であってもよい。また、本開示の適用は、鉄筋棒11を母材とする防食鉄筋10に限定されず、鋼材を母材とする防食鋼材等にも広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
10 防食鉄筋(防食鋼材)
11 鉄筋棒(鋼材)
20 PVB樹脂層(樹脂層)
30 珪砂(粒子)
50 容器
60 ろ紙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8