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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】振動試験装置、波形生成方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 7/02 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
G01M7/02 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020076544
(22)【出願日】2020-04-23
(65)【公開番号】P2021173593
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】屋嘉 広行
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-192363(JP,A)
【文献】特開2006-189388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験体を振動させる加振機と、
前記加振機に加える振動の波形を生成して、生成した前記振動の波形を前記加振機に付与する制御部と、を備えた振動試験装置であって、
前記制御部は、設定された応答スペクトルと包絡関数を使用して、正弦波合成法により前記振動の波形としてランダム波形を生成し、応答加速度または応答変位のスペクトルが前記応答スペクトルの1未満の正の数である所定の定数倍である、サブ応答スペクトルを使用し、前記ランダム波形の所定の周波数帯毎に、応答加速度または応答変位が前記サブ応答スペクトルを超える回数をカウントし、カウントされた回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まるように、前記振動の波形を生成する
振動試験装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記応答スペクトルの規定を満たす前記ランダム波形を所定の数生成した後に、前記所定の数の前記ランダム波形のうちのあらかじめ設定された周波数帯について、応答加速度または応答変位のスペクトルが前記サブ応答スペクトルを超える回数の平均と分散を算出し、算出した前記回数の平均と分散から、前記あらかじめ設定した回数の範囲内に収まる前記振動の波形が生成されるまでに必要な時間を推測し、推測した時間が許容演算時間よりも長い場合には、前記応答スペクトルまたは前記サブ応答スペクトルの修正を行う
請求項1に記載の振動試験装置。
【請求項3】
試験体を振動させる加振機と、前記加振機に加える振動の波形を生成して、生成した前記振動の波形を前記加振機に付与する制御部と、を備えた振動試験装置に対して、前記振動の波形を生成する波形生成方法であって、
応答スペクトルと包絡関数を設定して、正弦波合成法によりランダム波形を生成する工程と、
生成した前記ランダム波形の所定の周波数帯毎に、応答加速度または応答変位があらかじめ指定したサブ応答スペクトルを超える回数をカウントする工程と、
カウントされた回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まるかを判定する工程と、
判定に合格しない場合、乱数位相の基数を更新して、再度正弦波合成法によるランダム波形を生成する工程と、を有し、
前記サブ応答スペクトルとして、応答加速度または応答変位のスペクトルが前記応答スペクトルの1未満の正の数である所定の定数倍であるスペクトルを使用する
波形生成方法。
【請求項4】
前記応答スペクトルの規定を満たす前記ランダム波形を所定の数生成した後に、前記所定の数の前記ランダム波形のうちのあらかじめ設定された周波数帯について、応答加速度または応答変位のスペクトルが前記サブ応答スペクトルを超える回数の平均と分散を算出する工程と、算出した前記回数の平均と分散から、前記あらかじめ設定した回数の範囲内に収まる前記振動の波形が生成されるまでに必要な時間を推測する工程と、推測した時間が許容演算時間よりも長い場合には、前記応答スペクトルまたは前記サブ応答スペクトルの修正を行う工程と、をさらに有する
請求項3に記載の波形生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動試験装置、ならびに振動試験装置に対して振動の波形を生成する波形生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機器や構造物について、振動や地震に対する耐久性を調査するために、振動試験装置の加振機に試験体を設置して、加振機に振動波形を付与して試験体を振動させることにより、振動試験や耐震試験を実施している。
【0003】
振動試験や耐震試験において、あらかじめ入力する時刻歴波形を定めて試験を行う場合には、試験の対象となる物(機器や構造物)に期待する耐久性能を、応答スペクトルとして提示されることが多い(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
そして、振動試験装置の使用者が、時刻歴波形の包絡関数および位相を設定して、期待される耐久性能に相当する時刻歴波形を生成する必要がある。この波形生成手法は、「正弦波合成法」と呼称される。
【0005】
「正弦波合成法」の具体的な手法としては、例えば、振動試験装置の使用者が、生成される時刻歴波形に期待する応答スペクトルを入力し、包絡関数を選択すると、波形を生成して、応答スペクトルを計算し、期待に対する差異が使用者の許容する範囲にあるかどうかを確認する検定を行う方法が提案されている。そして、波形の生成と検定を繰り返して、目標応答スペクトルに適合する振動の時刻歴波形が一つ生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-237634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、共振を伴うランダム振動による疲労現象に対する寿命評価の需要がある。
そして、過渡応答等で一時的に高い応答となることが総寿命にどれほどの影響を与えるかは、製品設計において重要な課題になると考えられる。
【0008】
また、機器の機能維持や耐震性能を確率的に評価することが要求されており、そのためには、機器が塑性する領域での振動試験が必要とされている。
【0009】
一般的なランダム疲労試験である、PSD(Power Spectral Density)を指定するランダム疲労試験を実施した場合には、時々想定より大きな最大応答振幅が発生することがある。また、この試験では、事前に入力波形を取得できず、最大加速度を規定できない。
【0010】
これに対して、応答スペクトルを指定して、正弦波合成法によって入力時刻歴波形を生成する試験を実施した場合には、事前に入力波形を取得して、最大加速度を規定することが可能になる。
しかしながら、この試験では、最大応答が1回あれば応答スペクトルの条件を満たすため、稀に発生する大きな応答加速度によって条件を満たしてしまうことがある。
【0011】
これらの試験を実施した場合には、突出した最大応答によって機器が塑性する領域に到達して損傷が進展するが、最大応答以外の大部分の小さい応答では機器が塑性する領域に到達せずに、損傷が進展しない、という状況が起こり得る。このように損傷が経過すると、低サイクルにおける時間当たりの損傷の進展を再現することが困難になる。
【0012】
疲労損傷は、機器が塑性する領域に到達する、最大応答に近いレベルの振幅が何回繰り返すのかが重要な指標となる。
【0013】
本発明の目的は、振動試験機において試験体の機器が塑性する領域の試験を実施する場合に、低サイクル疲労による損傷度を試験実施前におおよそ把握することを可能とする、振動試験装置、ならびに振動試験装置に対して振動の波形を生成する波形生成方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明の上記の目的およびその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面によって、明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の振動試験装置は、試験体を振動させる加振機と、加振機に加える振動の波形を生成して、生成した振動の波形を加振機に付与する制御部とを備える。
そして、制御部は、設定された応答スペクトルと包絡関数を使用して、正弦波合成法により振動の波形としてランダム波形を生成する。
制御部は、さらに、応答加速度または応答変位のスペクトルが応答スペクトルの1未満の正の数である所定の定数倍である、サブ応答スペクトルを使用し、ランダム波形の所定の周波数帯毎に、応答加速度または応答変位がサブ応答スペクトルを超える回数をカウントし、カウントされた回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まるように、振動の波形を生成する。
【0016】
本発明の波形生成方法は、試験体を振動させる加振機と、加振機に加える振動の波形を生成して、生成した振動の波形を加振機に付与する制御部とを備えた振動試験装置に対して、振動の波形を生成する波形生成方法である。
そして、応答スペクトルと包絡関数を設定して、正弦波合成法によりランダム波形を生成する工程と、生成したランダム波形の所定の周波数帯毎に、応答加速度または応答変位があらかじめ指定したサブ応答スペクトルを超える回数をカウントする工程と、カウントされた回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まるかを判定する工程と、判定に合格しない場合、乱数位相の基数を更新して、再度正弦波合成法によるランダム波形を生成する工程と、を有する。
また、サブ応答スペクトルとして、応答加速度または応答変位のスペクトルが応答スペクトルの1未満の正の数である所定の定数倍である、サブ応答スペクトルを使用する。
【発明の効果】
【0017】
上述の本発明の振動試験装置によれば、制御部が、応答加速度または応答変位のスペクトルが応答スペクトルの1未満の正の数である所定の定数倍である、サブ応答スペクトルを使用し、ランダム波形の所定の周波数帯毎に、応答加速度または応答変位がサブ応答スペクトルを超える回数をカウントし、カウントされた回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まるように、振動の波形を生成する。
これにより、制御部が生成して加振機に付与する振動の波形を、サブ応答スペクトルを超える回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まるように生成できるので、最大応答加速度や最大応答変位に近い応答をする回数をある程度確保することができる。そのため、試験体の塑性レベルを超える応答の回数を制御することが可能になることから、低サイクル疲労による損傷度を試験実施前におおよそ把握することが可能になる。
【0018】
上述の本発明の波形生成方法によれば、生成したランダム波形の所定の周波数帯毎に、応答加速度または応答変位があらかじめ指定したサブ応答スペクトルを超える回数をカウントする工程と、カウントされた回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まるかを判定する工程と、判定に合格しない場合、乱数位相の基数を更新して、再度正弦波合成法によるランダム波形を生成する工程とを有する。そして、サブ応答スペクトルとして、応答加速度または応答変位のスペクトルが応答スペクトルの1未満の正の数である所定の定数倍である、サブ応答スペクトルを使用する。
これにより、サブ応答スペクトルを超える回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まるようなランダム波形を生成できるので、最大応答加速度や最大応答変位に近い応答をする回数をある程度確保することができる。そのため、試験体の塑性レベルを超える応答の回数を制御することが可能になることから、低サイクル疲労による損傷度を試験実施前におおよそ把握することが可能になる。
【0019】
なお、上記以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】振動試験装置の一実施の形態の概略構成図(ブロック図)である。
図2】実施例1における波形生成方法を説明するフローチャートである。
図3】実施例2における波形生成方法を説明するフローチャートである。
図4】従来の正弦波合成法による波形生成方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施の形態および実施例について、文章もしくは図面を用いて説明する。ただし、本発明に示す構造、材料、その他具体的な各種の構成等は、ここで取り上げた実施の形態および実施例に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。また、本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0022】
前述したように、PSD(Power Spectral Density)を指定するランダム疲労試験や、応答スペクトルを指定して正弦波合成法によって入力時刻歴波形を生成する試験を実施した場合には、低サイクルにおける時間当たりの損傷の進展を再現することが困難になることがある。
【0023】
ここで、機器が塑性する領域に到達する大きな応答が発生する回数をある程度規定して作成されたランダム波形を、簡便に作成することができれば、利用価値は高い。
【0024】
そこで、本発明の振動試験装置および波形生成方法では、応答加速度または応答変位のスペクトルが応答スペクトルの1未満の正の数である所定の定数倍である、サブ応答スペクトルを使用する。そして、ランダム波形の所定の周波数帯毎に、応答加速度または応答変位がサブ応答スペクトルを超える回数をカウントし、カウントされた回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まるまで、波形の生成を続ける。
【0025】
本発明の振動試験装置は、試験体を振動させる加振機と、加振機に加える振動の波形を生成して、生成した振動の波形を加振機に付与する制御部とを備える。
そして、制御部は、設定された応答スペクトルと包絡関数を使用して、正弦波合成法により振動の波形としてランダム波形を生成する。
制御部は、さらに、応答加速度または応答変位のスペクトルが応答スペクトルの1未満の正の数である所定の定数倍である、サブ応答スペクトルを使用し、ランダム波形の所定の周波数帯毎に、応答加速度または応答変位がサブ応答スペクトルを超える回数をカウントし、カウントされた回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まるように、振動の波形を生成する。
【0026】
上記の振動試験装置において、さらに、制御部が、応答スペクトルの規定を満たすランダム波形を所定の数生成した後に、所定の数のランダム波形のうちのあらかじめ設定された周波数帯について、応答加速度または応答変位のスペクトルがサブ応答スペクトルを超える回数の平均と分散を算出し、算出した回数の平均と分散から、あらかじめ設定した回数の範囲内に収まる振動の波形が生成されるまでに必要な時間を推測し、推測した時間が許容演算時間よりも長い場合には、応答スペクトルまたはサブ応答スペクトルの修正を行う構成とすることができる。
【0027】
本発明の波形生成方法は、試験体を振動させる加振機と、加振機に加える振動の波形を生成して、生成した振動の波形を加振機に付与する制御部とを備えた振動試験装置に対して、振動の波形を生成する波形生成方法である。
そして、応答スペクトルと包絡関数を設定して、正弦波合成法によりランダム波形を生成する工程と、生成したランダム波形の所定の周波数帯毎に、応答加速度または応答変位があらかじめ指定したサブ応答スペクトルを超える回数をカウントする工程と、カウントされた回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まるかを判定する工程と、判定に合格しない場合、乱数位相の基数を更新して、再度正弦波合成法によるランダム波形を生成する工程と、を有する。
また、サブ応答スペクトルとして、応答加速度または応答変位のスペクトルが応答スペクトルの1未満の正の数である所定の定数倍である、サブ応答スペクトルを使用する。
【0028】
上記の波形生成方法において、さらに、応答スペクトルの規定を満たすランダム波形を所定の数生成した後に、所定の数のランダム波形のうちのあらかじめ設定された周波数帯について、応答加速度または応答変位のスペクトルがサブ応答スペクトルを超える回数の平均と分散を算出する工程と、算出した回数の平均と分散から、あらかじめ設定した回数の範囲内に収まる振動の波形が生成されるまでに必要な時間を推測する工程と、推測した時間が許容演算時間よりも長い場合には、応答スペクトルまたはサブ応答スペクトルの修正を行う工程とをさらに有する構成とすることができる。
【0029】
本発明に係る振動試験装置は、試験の試料である試験体の用途は特に限定されず、様々な技術分野の試験体に適用することが可能である。
【0030】
上記の振動試験装置および波形生成方法において、加振機は、試験体を振動させる。
加振機は、少なくとも1つの方向に試験体を振動させる構成であり、試験体をその方向振動させるための駆動機構を備える。
加振機が試験体を振動させる方向は、上下方向、水平面内の方向(前後方向、左右方向、斜め方向)を問わず、振動させる方向が2つ以上の方向であってもよい。従って、本発明は、試験体を1方向に1次元で振動させる加振機を備えた構成、試験体を2方向に2次元で振動させる加振機を備えた構成、試験体を3方向に3次元で振動させる加振機を備えて構成、のいずれに適用することが可能である。
【0031】
制御部は、加振機の駆動を制御する。
また、制御部は、試験体を振動させる振動の波形を生成して、生成した波形を加振機に付与する。
制御部は、例えば、制御回路、CPU(Central Processing Unit)、メモリ(記憶装置)等を含み、コンピュータプログラムで動作する構成とすることが可能である。
【0032】
試験体を振動させる振動の波形を生成する際には、設定された応答スペクトル(目標応答スペクトル)と包絡関数を使用して、正弦波合成法によりランダム波形を生成する。
そして、具体的には、目標応答スペクトルと包絡関数を入力して、正弦波合成法により、すなわち、多数の正弦波を重ね合わせることにより、ランダム波形からなる時刻歴波形を生成する。生成した時刻歴波形は、入力した目標応答スペクトルと合致するかどうか検定を行い、検定に合格した時刻歴波形を使用する。
検定に不合格の場合は、上記の正弦波を構成するフーリエ振幅スペクトルを修正して、時刻歴波形を生成する。
【0033】
また、応答加速度または応答変位のスペクトルが、上記の応答スペクトル(目標応答スペクトル)の1未満の正の数である所定の定数倍である、サブ応答スペクトルを、あらかじめ設定する。
上記の所定の定数は、1未満の正の数であればよいが、1とはある程度の差があって、かつ1から離れ過ぎない数値とすることが好ましい。例えば、0.7~0.95(目標応答スペクトルの-30%~-5%)の範囲内、より好ましくは、0.8~0.9(目標応答スペクトルの-20%~-10%)の範囲内、とすることができる。
さらに、ランダム波形の所定の周波数帯毎に、設定したサブ応答スペクトルを応答加速度または応答変位が超える回数の範囲をあらかじめ設定し、この設定した回数の範囲を、目標サブ応答スペクトルの規定とする。この目標サブ応答スペクトルの規定は、例えば、上記の所定の周波数帯のそれぞれに対応する一定幅(例えば、0.5Hz幅)の周波数範囲と、その周波数範囲においてサブ応答スペクトルを超える回数とを対応させた、表形式によって定義することができる。
【0034】
そして、上記の検定に合格した時刻歴波形を生成した後には、生成した波形が、目標サブ応答スペクトルの規定(上記の設定した回数の範囲)を満たすかどうか、判定を行う。
判定の結果、目標サブスペクトルの規定を満たす場合には、合格として、判定した波形を時刻歴波形として採用し、時刻歴波形を制御部から加振機に付与して、振動試験を行う。
判定の結果、目標サブスペクトルの規定を満たさない場合には、不合格として、乱数位相の基数を更新して、正弦波合成法によるランダム波形の生成を続ける。
【0035】
また、前述したように、上記の振動試験装置および波形生成方法において、さらに、応答スペクトルの規定を満たすランダム波形を所定の数生成した後に、所定の数のランダム波形のあらかじめ設定された周波数帯について、応答加速度または応答変位のスペクトルがサブ応答スペクトルを超える回数の平均と分散を算出し、算出した回数の平均と分散から、判定に合格する波形が生成されるまでに必要な時間を推測し、推測した時間が許容演算時間よりも長い場合には、応答スペクトルまたはサブ応答スペクトルの修正を行う構成とすることができる。
この構成は、例えば、以下に述べるように実施することができる。
【0036】
まず、正弦波合成法によるランダム波形の生成を繰り返して、上記の検定(入力した目標応答スペクトルの規定と合致する波形)を満たす時刻歴波形を複数作成し、作成した複数の時刻歴波形を、検定済み時刻歴波形群とする。
そして、検定済み時刻歴波形群の波形の数が、あらかじめ設定した所定の数(例えば、10波、20波、等)に達したときに、その所定の数の波形のあらかじめ設定された周波数帯について、応答加速度または応答変位のスペクトルがサブ応答スペクトルを超える回数の平均と分散を算出する。
ここで、回数の平均と分散を算出する対象である、「あらかじめ設定された周波数帯」は、判定を行うためにサブ応答スペクトルを超える回数をカウントする「所定の周波数帯」の全体の周波数帯群と必ずしも完全に一致していなくても構わない。全体の周波数群と同一であっても、全体の周波数帯群の一部の周波数帯群であっても、全体の周波数帯群に含まれる特定の周波数帯を抽出しても、構わない。周波数帯の数を絞れば、計算を簡略化することができる。
【0037】
次に、算出した回数の平均と分散から、統計的手法等を用いて、判定に合格する波形が生成されるまでに必要な時間を推測する。具体的には、例えば、以下に述べるようにして、時間を推測する。
まず、算出した回数の平均と分散から、このサブ応答スペクトルを超える回数の分布を推測する。例えば、正規分布や、その他の分布等の特定の分布に当てはめる。
そして、当てはめた特定の分布から、検定を満たす1つの時刻歴波形を作成したとき(1回の試行)に、その波形が判定に合格する確率、すなわちサブ応答スペクトルを超える回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まる確率、が求められる。
この求めた確率(1回の試行で時刻歴波形が判定に合格する確率)に基づいて、判定に合格する時刻歴波形が生成されるまでの試行数を推測して求めることができる。求めた確率の逆数でも大まかな推測が可能であるが、好ましくは、例えば、1回目の試行からその回目の試行までの間に判定に合格する確率が定めた値(例えば、70%、80%、90%、95%等の特定の数)以上となる試行の回数を「試行数」として推測する。
さらに、推測して求めた試行数に、1つの波形を作成して判定まで行うために計算機が要する時間(1回の試行に要する時間)を乗じて、判定に合格する波形が生成されるまでに必要な時間(判定に合格するまでの予想時間)を求める。
【0038】
そして、推測した時間を許容演算時間と比較する、継続判定を行う。
推測した時間が許容演算時間よりも長い場合には、継続判定に不合格として、入力する応答スペクトル(目標応答スペクトル)の修正、あるいは設定されたサブ応答スペクトル(目標サブ応答スペクトル)の修正を行う。
推測した時間が許容演算時間よりも短い場合には、継続判定に合格として、正弦波合成法による波形の生成を継続する。
許容演算時間との比較は、あらかじめ許容演算時間を入力しておいてコンピュータプログラムで比較を行う方法、推測した時間を表示して使用者が許容演算時間と比較を行う方法、のいずれの方法でも実行することができる。
目標応答スペクトルの修正は、定義する周波数の範囲、周波数方向の密度、等の修正を行う。
目標サブ応答スペクトルの修正は、着目する周波数の領域に絞って、サブ応答スペクトルを算出する周波数方向の密度を変更する、着目しない周波数の領域のサブ応答スペクトルを規定しない、等の修正を行う。
【0039】
また、継続判定、目標応答スペクトルの修正、あるいは目標サブ応答スペクトルの修正を行うために、使用者は、あらかじめ、以下の事項を定める。
(1)継続判定を実施する際の検定済み時刻歴波形の個数(この時刻歴波形の個数毎に予想時間を算出する。)
(2)各スペクトルについて、修正を行う対象(上述した、定義する周波数の範囲、周波数方向の密度、等)
(3)(2)のそれぞれの修正を行う対象について、密度減、高周波側除外、低周波側除外等の修正方法と、一回の継続判定における変更の程度
【0040】
上記の構成の振動試験装置によれば、制御部が、応答加速度または応答変位のスペクトルが応答スペクトルの1未満の正の数である所定の定数倍である、サブ応答スペクトルを使用し、ランダム波形の所定の周波数帯毎に、応答加速度または応答変位がサブ応答スペクトルを超える回数をカウントし、カウントされた回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まるように、振動の波形を生成する。
これにより、制御部が生成して加振機に付与する振動の波形を、サブ応答スペクトルを超える回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まるように生成できるので、最大応答加速度や最大応答変位に近い応答をする回数をある程度確保することができる。そのため、試験体の塑性レベルを超える応答の回数を制御することが可能になることから、低サイクル疲労による損傷度を試験実施前におおよそ把握することが可能になる。
【0041】
上記の波形生成方法によれば、生成したランダム波形の所定の周波数帯毎に、応答加速度または応答変位があらかじめ指定したサブ応答スペクトルを超える回数をカウントする工程と、カウントされた回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まるかを判定する工程と、判定に合格しない場合、乱数位相の基数を更新して、再度正弦波合成法によるランダム波形を生成する工程とを有する。そして、サブ応答スペクトルとして、応答加速度または応答変位のスペクトルが応答スペクトルの1未満の正の数である所定の定数倍である、サブ応答スペクトルを使用する。
これにより、サブ応答スペクトルを超える回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まるようなランダム波形を生成できるので、最大応答加速度や最大応答変位に近い応答をする回数をある程度確保することができる。そのため、試験体の塑性レベルを超える応答の回数を制御することが可能になることから、低サイクル疲労による損傷度を試験実施前におおよそ把握することが可能になる。
【0042】
また、上述のように、最大応答加速度や最大応答変位に近い応答をする回数をある程度確保することができることから、試験体の固有振動数によらず、同じ時間内に同じ回数だけ塑性レベルを超えて応答するような応答波形や、最大応答加速度に近い応答をする回数が周波数に比例する応答波形、等を作成可能となる。
そして、これらの応答波形に期待する特徴は、実際の地震動や稼働状態の計測結果に基づいて決定されるようにできる。
【0043】
上記の振動試験装置および上記の波形生成方法において、応答スペクトルの規定を満たすランダム波形を所定の数生成した後に、サブ応答スペクトルを超える回数の平均と分散を算出し、この回数の平均と分散から、あらかじめ設定した回数の範囲内に収まる振動の波形が生成されるまでに必要な時間を推測し、推測した時間が許容演算時間よりも長い場合には、応答スペクトルまたはサブ応答スペクトルの修正を行う構成としたときには、応答スペクトルまたはサブ応答スペクトルの修正を行うことにより、演算時間を短くして、あらかじめ設定した回数の範囲内に収まる振動の波形を許容演算時間内に取得する可能性を向上できる。
また、当初の応答スペクトルまたはサブ応答スペクトルの設定が適切でなかった場合でも、生成した波形があらかじめ設定した回数の範囲内に収まらず無限ループに陥ることを回避できる。
【実施例
【0044】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
【0045】
(実施例1)
本発明の実施例を適用する振動試験装置の構成として、振動試験装置の一実施の形態の概略構成図(ブロック図)を、図1に示す。
図1に示す振動試験装置は、加振コイル10と、加振コイル10の動作を制御する制御装置110と、電力増幅装置130で構成されている。
【0046】
加振コイル10は、試験体11を振動させる加振機に相当するものであり、試験体11を上下方向に振動させるコイルによって構成されている。
加振コイル10のコイルは、コイルに入力された入力加速度波形13に対応して、応答加速度波形12で振動する。
【0047】
制御装置110は、加振コイル10の駆動を制御する。
また、制御装置110は、入力された目標応答スペクトル1から、演算により、時刻歴波形120を生成する。例えば、後述するフローチャートに示す工程を経て、時刻歴波形120を生成する。
そして、制御装置110は、生成した時刻歴波形120を、電力増幅装置130を通じて加振コイル10に送る。これにより、加振コイル10のコイルに、時刻歴波形120に基づく入力加速度波形13が入力される。
制御装置110は、例えば、制御回路、CPU(Central Processing Unit)、メモリ(記憶装置)等を含んで構成され、コンピュータプログラムで動作する。
【0048】
電力増幅装置130は、加振コイル10に供給する電力を増幅する。
また、電力増幅装置130は、制御装置110で生成した時刻歴波形120を、加振コイル10に送る。
【0049】
ここで、比較対象の構成として、従来の正弦波合成法による波形生成方法を説明するフローチャートを、図4に示す。
【0050】
正弦波合成法は、目標応答スペクトルを入力として、検定済み時刻歴波形を作成する手法であり、振動試験の対象物が設置される特定の位置での加速度波形を安全側に再現する特徴を持った時刻歴波形を生成することを目的とする。加速度波形の特徴は、目標応答スペクトルと包絡関数によって表現される。
【0051】
正弦波合成法では、目標応答スペクトルと包絡関数を入力して、多数の正弦波を重ね合わせることで時刻歴波形を生成する。重ね合わせる正弦波の大きさの比と位相を表すのが、フーリエ振幅スペクトルとフーリエ位相スペクトルから成るフーリエスペクトルである。波形生成の最初の段階で、何らかのフーリエスペクトルが必要である。
【0052】
フーリエ振幅スペクトルは、例えば応答スペクトルを正規化したもの等、開始段階では適当な初期値を設定する。図4のフローチャートでは、後述するように、目標応答スペクトルを正規化したものを、フーリエ振幅スペクトルの初期値(初期フーリエ振幅スペクトル)としている。
【0053】
なお、フーリエ位相スペクトルには、乱数を用いるケースと観測波のデータを用いるケースがあるが、本発明の振動試験装置ではフーリエ位相スペクトルに乱数を用いるケースを対象とする。
【0054】
図4に示すフローチャートでは、以下に説明するようにして、波形を生成する。
以下の説明では、図1に示した振動試験装置に、図4のフローチャートに示す従来の正弦波合成法を適用した場合の波形の生成方法を説明する。
【0055】
まず、ステップS101において、目標応答スペクトルを入力する。また、ステップS102において、包絡関数を入力する。
図1の振動試験装置では、目標応答スペクトル1と、包絡関数(図示せず)を、それぞれ制御装置110に入力する。
【0056】
次に、ステップS103において、ステップS101で入力した目標応答スペクトルを正規化する。
これにより、ステップS104に示す、初期フーリエ振幅スペクトルが得られる。
また、ステップS105において、乱数を生成させることにより、ステップS106に示す、フーリエ位相スペクトルが得られる。
【0057】
次に、ステップS107において、ステップS104の初期フーリエ振幅スペクトルと、ステップS106のフーリエ位相スペクトルとを、フーリエ逆変換する。
これにより、ステップS108に示す、一定振幅の時刻歴波形が生成する。
【0058】
次に、ステップS109において、ステップS108の一定振幅の時刻歴波形に、ステップS102で入力された包絡関数を導入する。
さらに、ステップS110において、包絡関数を導入した、一定振幅の時刻歴波形に、帰線補正を行う。
これにより、ステップS111に示す、時間方向に振幅が変化する時刻歴波形とする。
【0059】
次に、ステップS112において、ステップS111の時間方向に振幅が変化する時刻歴波形に対して、応答スペクトル解析を行い、ステップS113に示す、結果応答スペクトルを得る。
【0060】
続いて、ステップS114において、ステップS113の結果応答スペクトルが、ステップS101で入力された目標応答スペクトルに合致するか、検定する。例えば、周波数方向に誤差の最大値を検索し、誤差が設定した範囲に収まっているかどうか検定する。
検定に不合格だった場合は、ステップS115に進み、フーリエ振幅スペクトルを修正した修正フーリエ振幅スペクトルを作成し、再度処理を実施する。具体的には、初期フーリエ振幅スペクトルまたはフーリエ振幅スペクトルに、目標応答スペクトルを結果応答スペクトルで除したものを掛け合わせて修正する。そして、ステップS107に進み、ステップS115で作成した修正フーリエ振幅スペクトルと、ステップS106のフーリエ位相スペクトルとを、フーリエ逆変換する。以降は、ステップS114の検定で合格するまで、同様の過程が繰り返される。
検定に合格だった場合は、ステップS116に進み、検定済み時刻歴波形が得られ、正弦波合成法による入力波形生成は終了する。
【0061】
図4にフローチャートを示した正弦波合成法を図1の振動試験装置に適用した場合には、入力された目標応答スペクトル1の正規化(ステップS103)から検定済み時刻歴波形の取得(ステップS116)までの各ステップを、制御装置110において実行する。
そして、取得した検定済み時刻歴波形を、図1に示した時刻歴波形120として、電力増幅装置130に入力する。
【0062】
この従来の正弦波合成法の場合、前述したように、生成した波形において、最大加速度または最大変位が他の加速度または変位から突出してしまうことにより、低サイクルにおける時間当たりの損傷の進展を再現することが困難になる課題がある。
【0063】
次に、実施例1における入力波形生成方法を説明するフローチャートを、図2に示す。
本実施例では、図2のフローチャートに示すように、図4のフローチャートに示した、従来の正弦波合成法による波形生成方法に対して、目標サブ応答スペクトルを、入力する内容として追加する。
【0064】
図2に示すフローチャートでは、以下に説明するようにして、波形を生成する。
以下の説明では、図1に示した振動試験装置に、図2のフローチャートに示す実施例1の方法を適用した場合の波形の生成方法を説明する。
なお、図2に示すフローチャートでは、ステップS4において、図4のフローチャートに示した、ステップS101~S115の各ステップと同様にして、正弦波合成法を行い、ステップS5において、図4に示したステップS116と同様に、検定済み時刻歴波形を得る。
【0065】
まず、ステップS1において、図4に示したステップS101と同様に、目標応答スペクトルを入力する。また、ステップS2において、目標サブ応答スペクトルを入力する。また、図示しないが、図4に示したステップS102と同様に、包絡関数を入力する。
ステップS2において入力する目標サブ応答スペクトルは、例えば、前述したように、一定幅の周波数範囲と、その周波数範囲においてサブ応答スペクトルを超える回数とを対応させた、表形式によって定義することができる。
【0066】
図1の振動試験装置では、目標応答スペクトル1、目標サブ応答スペクトル(図示せず)、包絡関数(図示せず)を、それぞれ制御装置110に入力する。
【0067】
次に、ステップS3において、図4に示したステップS105と同様に、乱数を生成させる。
そして、ステップS4において、ステップS1で入力した目標応答スペクトルと、ステップS3で生成した乱数を用いて、図4に示したステップS103~S115の各ステップと同様にして、正弦波合成法を行う。
これにより、ステップS5において、図4に示したステップS116と同様に、検定済み時刻歴波形を得る。
【0068】
また、ステップS6において、ステップS5で得られた検定済み時刻歴波形から、結果サブ応答スペクトルを抽出する。
結果サブ応答スペクトルは、検定済み時刻歴波形から、目標サブ応答スペクトルの定義に対応した内容で抽出する。すなわち、例えば、結果サブ応答スペクトルを、一定幅の周波数範囲と、その周波数範囲においてサブ応答スペクトルを超える回数とを対応させた、表形式として抽出することができる。
【0069】
次に、ステップS7において、ステップS2で入力した目標サブ応答スペクトルと、ステップS6で抽出した結果サブ応答スペクトルとを比較する、判定を行う。
結果サブ応答スペクトルが目標サブ応答スペクトルの規定を満たさない場合には、判定に不合格となり、ステップS3に戻り、乱数を更新して、正弦波合成法による検定済み時刻歴波形の生成を繰り返す。
結果サブ応答スペクトルが目標サブ応答スペクトルの規定を満たす場合には、判定に合格となり、ステップS9に進み、このときの検定済み時刻歴波形を、時刻歴波形として、波形生成を終了する。
【0070】
また、プログラムの実行を効率化するため、異なるフーリエ位相スペクトルを設定して波形生成を複数同時に実行することで、ステップS5に示す検定済み時刻歴波形の集合としてステップS8に示す検定済み時刻歴波形群を生成し、ステップS7の判定に合格する時刻歴波形が生成されるまで波形生成を継続する。
【0071】
図1の振動試験装置では、制御装置110において、図2に示すフローチャートのうち、乱数生成(ステップS3)から時刻歴波形の取得(ステップS9)までの各ステップを実行する。
そして、図1の振動試験装置では、ステップS9で得られた時刻歴波形を、図1に示す時刻歴波形120として、制御装置110から電力増幅装置130を通じて、加振コイル10に入力する。
【0072】
上述の本実施例によれば、正弦波合成法により生成した時刻歴波形の結果サブ応答スペクトルが、ステップS2で入力された目標サブ応答スペクトルの規定を満たしているか、ステップS7の判定を行って確認し、判定に合格する時刻歴波形を取得する。また、ステップS7の判定により、ステップS2で入力された目標サブ応答スペクトルの規定を満たす(合格する)まで、ステップS4に示した、正弦波合成法による波形の生成が繰り返される。すなわち、判定に合格するまで、時刻歴波形の生成が続行される。
これにより、取得した時刻歴波形が、目標サブ応答スペクトルの規定を満たし、サブ応答スペクトルを超える回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まる。従って、試験体の塑性レベルを超える応答の回数を制御することが可能になることから、低サイクル疲労による損傷度を試験実施前におおよそ把握することが可能になる。
また、最大応答加速度や最大応答変位に近い応答をする回数をある程度確保することができることから、試験体の固有振動数によらず、同じ時間内に同じ回数だけ塑性レベルを超えて応答するような応答波形や、最大応答加速度に近い応答をする回数が周波数に比例する応答波形、等を作成可能となる。
【0073】
(実施例2)
実施例1では、ステップS7の判定を、判定に合格する時刻歴波形が得られるまで繰り返すため、目標サブ応答スペクトルの規定を満たす波形が得られない場合に、無限ループに陥ってしまう。
無限ループとなった場合には、使用者の判断によって波形生成を停止させ、波形生成を続行する場合には、使用者の判断によって例えば目標応答スペクトル等の入力を変更しなければならない。
【0074】
例えば、あらかじめ使用者が、目標サブ応答スペクトルの規定を満たす波形を簡単に生成できる条件を入力することでも、無限ループに陥ることを解決できる。
これに対して、本実施例では、目的とする時刻歴波形が得られるまでに必要となる予想時間を、それまでの波形生成の過程を基に算出する機能を備えることにより、無限ループに陥ることを解決する。
【0075】
検定済み時刻歴波形群が、定めた波形の個数(例えば、10波)に達した時点で、目標サブ応答スペクトルの規定を満たす時刻歴波形が一つ得られるまでの予想時間を求める。
具体的には、目標応答スペクトルに対する検定に合格した、検定済み時刻歴波形群が上記の定めた波形の個数に達した時点で、検定済み時刻歴波形群から「結果サブ応答スペクトル特徴」を取得する。結果サブ応答スペクトルとしては、例えば、その個数の波形における、目標サブ応答スペクトルを超える回数の平均と分散を算出する。
そして、これら回数の平均と分散を基にして、目標サブ応答スペクトルの規定(規定された回数)を満たす(判定に合格する)波形を得るのに必要となる試行数を、統計的手法等を用いて推測する。例えば、回数の平均と分散とから回数の分布を推測し、正規分布或いはその他の分布等の特定の分布に当てはめる。そして、当てはめた回数の分布から、1回の試行において目標サブ応答スペクトルの規定を満たす(判定に合格する)確率を求める。
さらに、求めた確率に基づいて、判定に合格する時刻歴波形が生成されるまでの試行数を推測して求める。例えば、前述したように、1回目の試行からその回目の試行までの間に判定に合格する確率が定めた値以上となる試行の回数を「試行数」として推測する。
次に、推測した試行数に、1つの波形を作成して判定まで行うために計算機が要する時間(1回の試行に要する時間)を乗じて、目標サブ応答スペクトルの規定を満たし判定に合格するまでの予想時間(判定合格予想時間)を求める。
【0076】
使用者が、計算完了までの許容演算時間をあらかじめ入力しておき、入力された許容演算時間と、上述した判定合格予想時間とから、波形の生成を継続するかどうか、継続判定を行う。
継続判定の結果、許容演算時間内に波形が生成できない可能性が高い場合には、プログラム内で、目標応答スペクトルまたは目標サブ応答スペクトルを修正して、希望する時間内で波形が得られる設定を探索する。目標を修正した後に、波形生成を再実行する。
目標応答スペクトルについては、定義する周波数範囲等を修正する。
目標サブ応答スペクトルについては、着目する周波数の領域に絞って、サブ応答スペクトルを算出する周波数方向の密度を変更したり、着目しない周波数の領域のサブ応答スペクトルを規定しないようにしたりする、等の修正を行う。
目標応答スペクトルまたは目標サブ応答スペクトルの修正は、いずれか一方のみを修正するか、両方を修正する。好ましくは、修正の効果を考慮して、一方又は両方について必要な修正を行う。
【0077】
なお、あらかじめ許容演算時間を入力しない場合は、予想時間を提示し続け、使用者の判断によって、波形生成の中断と目標の修正を実施する。
【0078】
また、使用者は、前述したように、あらかじめ、継続判定を実施する際の検定済み時刻歴波形の個数、各スペクトルの修正を行う対象、およびその対象の修正方法、一回の継続判定における変更の程度、等を定める。
【0079】
実施例2における入力波形生成方法を説明するフローチャートを、図3に示す。
図3に示すフローチャートでは、以下に説明するようにして、波形を生成する。
【0080】
まず、ステップS11において、図2に示したステップS1と同様に、目標応答スペクトルを入力する。また、ステップS12において、図2に示したステップS2と同様に、目標サブ応答スペクトルを入力する。また、ステップS20において、上述した許容演算時間を入力する。さらにまた、図示しないが、図4に示したステップS102と同様に、包絡関数を入力する。
図1の振動試験装置では、目標応答スペクトル1、目標サブ応答スペクトル(図示せず)、許容演算時間(図示せず)、包絡関数(図示せず)を、それぞれ制御装置110に入力する。
【0081】
ステップS13~S19の各工程において、図2に示した実施例1のステップS3~S9の各工程と同様に、判定を行い、時刻歴波形を得る。
また、ステップS18において、図2の実施例1のステップS8と同様に、検定済み時刻歴波形群を得る。
これらの各工程については、詳細な説明は省略する。
【0082】
次に、ステップS21において、ステップS18で得た検定済み時刻歴波形群から、結果サブ応答スペクトル特徴を取得する。
結果サブ応答スペクトル特徴は、前述したように、検定済み時刻歴波形群が、定めた波形の個数(例えば、10波)に達した時点で、取得する。
そして、例えば、前述したように、結果サブ応答スペクトル特徴として、その個数の波形における、目標サブ応答スペクトルを超える回数の平均と分散を算出する。
【0083】
次に、ステップS22において、ステップS12で入力した目標サブ応答スペクトルと、ステップS21で取得した結果サブ応答スペクトル特徴とから、判定合格予想時間を求める。
例えば、結果サブ応答スペクトル特徴として算出した、目標サブ応答スペクトルを超える回数の平均と分散に基づき、前述したように、判定に合格する波形を得るのに必要となる試行数を、統計的手法等を用いて推測する。例えば、回数の分布を推測し、1回の試行において判定に合格する確率を求め、求めた確率に基づいて、判定に合格する波形を得るのに必要となる試行数を推測する。さらに、推測した試行数に、1回の試行に要する時間を乗じて、判定合格予想時間を求める。
【0084】
そして、ステップS23において、ステップS22で求めた判定合格予想時間と、ステップS20で入力した許容演算時間とから、許容演算時間内に波形形成が可能であって波形生成を継続できるかどうかを判定(継続判定)する。
【0085】
ステップS23の継続判定において、許容演算時間内には波形形成が不可能であって、波形生成が継続不可と判定された場合には、ステップS24に進み、目標を修正する。具体的には、ステップS11の目標応答スペクトルまたはステップS15の目標サブ応答スペクトルを修正する。目標応答スペクトルや目標サブ応答スペクトルの修正の方法は、前述した方法を採用する。目標を修正した後は、ステップS11に戻り、波形生成を再実行する。
一方、ステップS23の継続判定において、許容演算時間内に波形形成が可能であって波形生成が継続可能と判定された場合には、ステップS13に進み、乱数を再生成して更新し、正弦波合成法による波形生成を継続する。
【0086】
図1の振動試験装置では、制御装置110において、図3に示すフローチャートのうち、乱数生成(ステップS13)から目標修正(ステップS24)までの各ステップを実行する。
そして、図1の振動試験装置では、ステップS19で得られた時刻歴波形を、図1に示す時刻歴波形120として、制御装置110から電力増幅装置130を通して加振コイル10に入力する。
【0087】
なお、本実施例において、ステップS20における許容演算時間の入力は、1回または複数回の試験毎に入力しても、あらかじめ一定の時間の値を入力しておいて多数回の試験でその時間の値を共用しても、どちらも可能である。
【0088】
上述の本実施例によれば、ステップS17において、実施例1のステップS7と同様に、判定を行って確認し、判定に合格する時刻歴波形を取得する。
これにより、実施例1と同様に、取得した時刻歴波形が、目標サブ応答スペクトルの規定を満たし、サブ応答スペクトルを超える回数があらかじめ設定した回数の範囲内に収まる。従って、試験体の塑性レベルを超える応答の回数を制御することが可能になることから、低サイクル疲労による損傷度を試験実施前におおよそ把握することが可能になる。
また、最大応答加速度や最大応答変位に近い応答をする回数をある程度確保することができることから、試験体の固有振動数によらず、同じ時間内に同じ回数だけ塑性レベルを超えて応答するような応答波形や、最大応答加速度に近い応答をする回数が周波数に比例する応答波形、等を作成可能となる。
【0089】
さらに、本実施例によれば、ステップS20で入力された許容演算時間とステップS22で求めた判定合格予想時間とから、継続判定を行う。そして、継続判定の結果、許容演算時間内には波形が生成できない可能性が高い場合には、ステップS24において目標(目標応答スペクトルあるいは目標サブ応答スペクトル)を修正し、ステップS11に戻って波形生成を再実行する。
これにより、修正した目標応答スペクトルは、修正する前の前回の目標応答スペクトルよりも、演算時間が短くなるため、判定に合格する時刻歴波形を、許容演算時間内に取得できる可能性を向上できる。
従って、目標サブ応答スペクトルの規定を満たす波形が得られない場合に、生成した波形がステップS17の判定において合格しないことにより無限ループに陥ることを、回避できる。
【0090】
(変形例)
上述の各実施例では、図1に示した振動試験装置、すなわち、試験体を上下方向の1方向振動させる構成の振動試験装置に適用する場合で説明した。
本発明は、試験体を2方向に振動させる、すなわち2次元で振動させる、加振機を備えた振動試験装置や、3方向に振動させる、すなわち3次元で振動させる、加振機を備えた振動試験装置に適用することも可能である。それらの場合には、それぞれの方向に振動させるための波形を生成して、試験体をそれぞれの方向に振動させる駆動機構に、駆動機構を制御する制御部から生成した波形を付与する。
【0091】
図1に示した振動試験装置では、加振コイル10のコイルで試験体11を振動させる構成であった。
本発明において、試験体を振動させる加振機の構成は、図1に示した加振コイル10に限定されず、入力した波形で試験体を振動させることが可能であれば、その他の構成を採用することも可能である。
【0092】
実施例2では、許容演算時間を入力して、予測した判定合格予想時間が許容演算時間に収まらない場合には、波形の生成が継続不可であるとして、目標の修正を行い、再度波形の生成を行っていた。これにより、無限ループを回避することができる。
これに対して、例えば、実施例1の構成では、演算時間を予測しないので、目標サブ応答スペクトルの規定を満たす波形が得られない場合、無限ループに陥る可能性がある。
そこで、実施例1の構成において、もし無限ループに陥ってしまった場合には、時刻歴波形の生成がいつまでも終了しないので、使用者が波形の生成を強制終了させる。その後、目標を修正して、波形の生成を再開する。
【0093】
なお、本発明は、上述した実施の形態および実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施の形態および実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0094】
1 目標応答スペクトル、10 加振コイル、11 試験体、110 制御装置、120 時刻歴波形、130 電力増幅装置
図1
図2
図3
図4