(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B60S 3/04 20060101AFI20231121BHJP
C11D 17/08 20060101ALI20231121BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20231121BHJP
C09K 3/00 20060101ALN20231121BHJP
【FI】
B60S3/04
C11D17/08
B08B3/08 A
C09K3/00 103L
(21)【出願番号】P 2020105740
(22)【出願日】2020-06-19
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000198
【氏名又は名称】弁理士法人湘洋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝村 宣仁
(72)【発明者】
【氏名】谷田 雄太
(72)【発明者】
【氏名】岡田 智仙
【審査官】松永 謙一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-183977(JP,A)
【文献】特開2020-055892(JP,A)
【文献】特開2003-147333(JP,A)
【文献】特開2014-231031(JP,A)
【文献】特開平07-233395(JP,A)
【文献】特開平02-249745(JP,A)
【文献】実開平05-067566(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60S 3/04
C09K 3/00
C11D 17/08
B08B 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオグリコール酸塩を含む第1洗浄液、または前記第1洗浄液をゲル化するためのゲル化剤を含む第2洗浄液の一方を含ませた状態の保液物を洗浄の対象とする対象物の表面に貼付し、他方を前記保液物が貼付された前記対象物に噴霧する噴霧ステップ、
を含むことを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
請求項1に記載の洗浄方法であって、
前記保液物は、布、不織布、または紙である
ことを特徴とする洗浄方法。
【請求項3】
請求項1に記載の洗浄方法であって、
前記対象物から前記保液物と、ゲル状の前記第1洗浄液及び第2洗浄液の混合液とを除去する除去ステップ、
を含むことを特徴とする洗浄方法。
【請求項4】
請求項3に記載の洗浄方法であって、
前記除去ステップは、水を用いることなく対象物から前記保液物と、ゲル状の前記混合液とをこそげ落とす
ことを特徴とする洗浄方法。
【請求項5】
請求項3に記載の洗浄方法であって、
前記除去ステップは、水を用い対象物から前記保液物と、ゲル状の前記混合液とを洗い流す
ことを特徴とする洗浄方法。
【請求項6】
請求項1に記載の洗浄方法であって、
洗浄後の前記対象物を乾燥させる乾燥ステップ、
を含むことを特徴とする洗浄方法。
【請求項7】
請求項1に記載の洗浄方法であって、
前記対象物は、鉄道車両である
ことを特徴とする洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両や自動車等の移動体の表面には汚れが付着して堆積し易い。例えば、鉄道車両では、走行時に車輪とレールとの摩擦により発生した金属粉等の無機物質が付着したり、昆虫や鳥類を起因とする物質、機械油、カーボン等の有機物質が付着したりする。
【0003】
移動体に付着した金属粉(例えば、直径または長さが数μm~10μm程度のもの)は、酸化して錆の状態に至り褐色の着色汚れを生じさせる。さらに、移動体に付着した金属粉は、移動体の表面に突き刺さったり、強固に固着したりして移動体の表面を損傷させたり強度を低下させたりすることがある。
【0004】
移動体に付着した有機物質は、主に黒色の汚れを発生させるので、移動体の美観を大きく損ねることになる。
【0005】
金属粉や有機物質の付着による汚れを除去するには洗浄液が用いられる。例えば特許文献1には「チオグリコール酸塩の1種または2種以上の化合物0.5~60重量%と、界面活性剤0.1~30重量%を主成分とし、キレート剤、溶剤、ビルダー成分等を加えた洗浄液」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の洗浄液を用いれば、台所や風呂場等の水周りで付着した鉄錆等の金属酸化物、油脂の汚れを落とすことができる。なお、特許文献1によれば、洗浄液の液性はpH7~8.5程度の弱アルカリ性であることが好ましいとされている。
【0008】
しかしながら、数十年の長期間に亘って使用される鉄道車両に対して弱アルカリ性の洗浄液を用いると、鉄道車両の金属表面や塗装表面に劣化や損傷を生じさせることがある。
【0009】
また、特許文献1に記載の洗浄液は、チオグリコール酸塩と金属酸化物との化学反応によって汚れを分解、除去するので、化学反応を生じさせるために十分な接液時間と温度管理が必要である。しかしながら、鉄道車両の外板のような平滑な垂立面に洗浄液を吹き付けた場合、短時間で洗浄液が流れ落ちてしまい十分な接液時間を確保することができない。よって、十分な洗浄効果を得ることができない。
【0010】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、対象物を劣化、損傷させることなく、十分な接液時間を確保して十分な洗浄効果を得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願は、上記課題の少なくとも一部を解決する手段を複数含んでいるが、その例を挙げるならば、以下の通りである。
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の一態様に係る洗浄方法は、チオグリコール酸塩を含む第1洗浄液、及び前記第1洗浄液をゲル化するためのゲル化剤を含む第2洗浄液を洗浄の対象とする対象物に噴霧する噴霧ステップ、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、対象物を劣化、損傷させることなく、十分な接液時間を確保して十分な洗浄効果を得ることが可能となる。
【0014】
上記した以外の課題、構成、及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る洗浄環境の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1の洗浄環境を用いた洗浄方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図3】
図3は、効果実証試験に用いた第1洗浄液及び第2洗浄液の調製、並びに、金属酸化物除去性の判定結果を示す図である。
【
図4】
図4は、比較試験に用いた洗浄液の調製、及び、金属酸化物除去性の判定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について図面に基づいて説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、「Aからなる」、「Aよりなる」、「Aを有する」、「Aを含む」と言うときは、特にその要素のみである旨明示した場合等を除き、それ以外の要素を排除するものでないことは言うまでもない。同様に、以下の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似または類似するもの等を含むものとする。
【0017】
<本発明の一実施形態に係る洗浄環境10の構成例>
図1は、本発明の一実施形態に係る洗浄環境10の構成例を示している。
【0018】
該洗浄環境10は、例えば鉄道車両等の対象物100を洗浄するための施設である。
【0019】
洗浄環境10は、第1エリア21、第2エリア22、及び第3エリア23を備える。第1エリア21と第2エリア22との間には第1通路31が設けられており、対象物100が通行可能とされている。同様に、第2エリア22と第3エリア23との間には第2通路32が設けられており、対象物100が通行可能とされている。
【0020】
第1エリア21は、対象物100に対して洗浄液を噴霧するための施設であり、噴霧設備41、及び第1タンク421及び第2タンク422を備える。噴霧設備41は、第1タンク421及び第2タンク422それぞれに収容された第1洗浄液と第2洗浄液とを対象物100に吹き付ける作業に用いられる。第1洗浄液は、汚れを分解するためのチオグリコール酸アンモニウム及び水溶性高分子を含む。第2洗浄液は、第1洗浄液の水溶性高分子をゲル化させるためのゲル化剤を含む。
【0021】
なお、同図の例では、噴霧設備41は、第1洗浄液の噴霧と第2洗浄液の噴霧に兼用しているが、第1洗浄液と第2洗浄液とのそれぞれ専用の噴霧設備41を設置してもよい。
【0022】
第2エリア22は、対象物100に噴霧されてゲル化している第1洗浄液と第2洗浄液の混合液を除去するための空間であり、除去設備43、及び廃液タンク44を備える。除去設備43は、例えば、例えば、高圧放水機、スクレーパ、ブラシ等である。対象物100から除去されたゲル状の混合液(以下、廃液とも称する)は廃液タンク44に一時的に貯蔵される。廃液タンク44を設けたことにより、環境汚染が抑止される。なお、貯蔵した廃液を乾燥させ、その体積を減少させてから廃棄するようにしてもよい。
【0023】
第3エリア23は、洗浄液が除去された対象物100を乾燥させるための空間であり、送風機等の乾燥設備45を備える。さらに、第3エリア23には、回転ブラシ及び放水機能を備える門型洗車機を備えてもよい。
【0024】
<洗浄環境10を用いた対象物100の洗浄方法>
次に、
図2は、洗浄環境10を用いた洗浄方法の一例を説明するフローチャートである。
【0025】
該洗浄処理は、鉄道車両等に対象物100に対して定期的に実行される。
【0026】
始めに、対象物100を第1エリア21に移動させる(ステップS1)。
【0027】
次に、第1エリア21において、作業者が噴霧設備41を用い、第1タンク421に収容されている第1洗浄液を対象物100に噴霧する(ステップS2)。続けて、作業者が噴霧設備41を用い、第2タンク422に収容されている第2洗浄液を対象物100に噴霧する(ステップS3)。なお、第2洗浄液を対象物100に噴霧した後、第1洗浄液を噴霧するようにしてもよいし、第1洗浄液及び第2洗浄液を対象物100に同時に噴霧するようにしてもよいし、第1洗浄液と第2洗浄液とを噴霧の直前に混合して対象物100に噴霧するようにしてもよい。
【0028】
次に、対象物100を第2エリア22に移動させ、所定時間(10分間程度~1時間程度)待機する(ステップS4)。この待機時間において洗浄液の化学反応が進行して汚れが溶解し表面から脱離することになる。なお、第2洗浄液を噴霧した後、第1エリア21において所定時間待機するようにしてもよい。
【0029】
次に、第2エリア22において、作業員が除去設備43を用い、対象物100に付着しているゲル化した汚れを含む混合液を除去して廃液タンク44に収容する(ステップS5)。なお、ゲル化している混合液は水を使用せずともスクレーパ等によってこそげとることが可能である。この場合、従来の水を用いた洗浄に比べて水の使用量を大幅に削減することができる。ただし、高圧放水機等を用いてゲル化している混合液を除去してもよい。
【0030】
次に、対象物100を第3エリア23に移動させる(ステップS6)。次に、第3エリア23において、乾燥設備45を用い、対象物100を乾燥させる(ステップS7)。なお、乾燥設備45を用いることなく自然乾燥させてもよい。以上で、洗浄処理は終了される。
【0031】
なお、対象物100が鉄道車両のように複数の車両が連結されていて、すべての車両が第1エリア21に入りきらない場合、例えば、1両~数両ずつ、順次、第1エリア21から第3エリア23まで移動させ、各エリアにおいて1両~数両ずつ、洗浄液の噴霧、混合液の除去、対象物100の乾燥を並行して行うようにすればよい。
【0032】
洗浄環境10を用いた洗浄処理によれば、洗浄液の噴霧、混合液の除去、及び対象物100の乾燥をそれぞれ異なるエリアで行うので、一連の作業を効率よく実施することができる。また、洗浄液の噴霧後、十分な接液時間の確保と温度管理を行うことができる。よって、十分な洗浄効果を得ることができる。
【0033】
<洗浄液について>
上述したように、本実施形態で用いる洗浄液は、第1洗浄液及び第2洗浄液から成る。
【0034】
第1洗浄液は、チオグリコール酸塩であるチオグリコール酸アンモニウム及び水溶性高分子を含む。水溶性高分子としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸共重合体、ポリグルタミン酸、アルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ペクチン、カルボキシル基を有する高分子の塩、等がある。第1洗浄液の液性は、中性または酸性が好ましい。
【0035】
第2洗浄液は、ゲル化剤を含む。ゲル化剤としては、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、等の水溶性高分子、乳酸・クエン酸等の有機酸のカルシウム・アルミニウム・マグネシウム等の多価金属の塩、塩化カルシウム・硫酸マグネシウム等の多価金属の塩、ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウム等の難水溶性粒子等がある。第2洗浄液の液性は、中性またはアルカリ性が好ましい。
【0036】
第1洗浄液及び第2洗浄液は、1種類以上の界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤は、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、のうちの1種以上を選択すればよい。アニオン性界面活性剤としては、ラウリルグリコール酢酸ナトリウム、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルカンスルホン酸塩、等がある。カチオン系界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、Nメチルビスヒドロキエチルアミン脂肪酸エステル塩酸塩、等がある。両性界面活性剤としては、アルキルベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタイン、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルジエチレントリアミノ酢酸、アルキルアミンオキシド等がある。非イオン性界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、脂肪酸ポリエチレングリコール、脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルイミダゾリン等がある。
【0037】
また、第1洗浄液及び第2洗浄液は、有機溶剤を含んでもよい。有機溶剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ガソリン、軽油等の鉱物油等、を使用することができる。
【0038】
さらに、第1洗浄液及び第2洗浄液は、メントール、クマリン、バニリン、等の香料を含んでもよい。
【0039】
第1洗浄液に含まれるチオグリコール酸アンモニウムは、金属粉等の金属酸化物を還元、錯体化することで対象物100の付着面から洗浄液中に溶解させて表面から脱離させる。これらの反応が行われるには1分間~1時間程度の時間を有する。この反応は放置しておけば進行するので、本来は特に洗浄面の表面を擦る等の作業を行う必要は無い。
【0040】
しかしながら、対象物100表面が垂立面である場合、表面から洗浄液が流れ落ちたり、表面が乾燥したりして反応が停止してしまうことが起こり得る。これを抑止するために、ゲル化剤を含む第2洗浄液を混合する。
【0041】
第1洗浄液と第2洗浄液とを対象物100の表面上で混ぜ合わせてゲル化させることにより、対象物100の表面から洗浄液の流れ落ちや対象物100の表面の乾燥を抑制することができ、洗浄液による洗浄効果を十分発揮させることができる。
【0042】
第1洗浄液と第2洗浄液とを対象物100の表面でゲル化させる方法としては、第1洗浄液と第2洗浄液とを同時に噴霧する方法、第1洗浄液を噴霧した直後に第2洗浄液を噴霧する方法、第2洗浄液を噴霧した直後に第1洗浄液を噴霧する方法、第1洗浄液と第2洗浄液とを混合した直後に噴霧する方法がある。
【0043】
対象物100の表面における保液を更に向上させる方法として、例えば、布、不織布、紙等に第1洗浄液(または第2洗浄液)を含ませた状態で対象物100の表面に貼付し、その上に第2洗浄液(または第1洗浄液)を噴霧するようにしてもよい。
【0044】
第1洗浄液及び第2洗浄液を噴霧した後は、そのまま所定時間放置すればよいが、スポンジやウェス、ブラシ等を用いて対象物100表面を擦ってもよい。
【0045】
対象物表面に対する洗浄液の接液時間については、10分よりも短いとチオグリコール酸アンモニウムと金属酸化物の反応が十分ではなく、1時間より長いとチオグリコール酸アンモニウムによって還元されて溶解した金属が再び大気中の酸素によって酸化されて再付着してしまうので、10分間程度~1時間程度が好ましい。なお、1回の洗浄で汚れが十分に落とせなかった場合、複数回の洗浄を行なってもよい。
【0046】
<本実施形態に係る洗浄方法の効果実証試験>
本発明者等は、本実施形態に係る洗浄方法の効果実証試験を行った。以下、効果実証試験の手順、結果について説明する。
【0047】
対象物の準備:
アルミニウム板を用意し、その表面をエタノールで脱脂し、温度50℃、相対湿度95%以上の湿潤状態下において、24時間放置した後、温度23℃、相対湿度50%の状態下において放置して、乾燥させた。
【0048】
対象物への汚れ付着:
乾燥後のアルミニウム板を水平面に置き、粒径10μmの鉄粉を均一に吹き付けた。次いで、このアルミニウム板を垂直に立て、鉄粉を吹き付けた面の反対側の面を軽く叩いて、鉄粉の吹き付け面に付着している鉄粉の一部を脱落させた。
【0049】
洗浄:
鉄粉を付着させたアルミニウム板を垂直に立て、鉄粉を付着させた面に第1洗浄液及び第2洗浄液を噴霧した。噴霧終了後、5分間待機した後に水を用いてゲル化している混合液を洗い流した。
【0050】
金属酸化物除去性については、以下の方法により評価した。
【0051】
汚れの測定:
鉄粉の付着前と、洗浄後の色彩(L*,a*,b*)を、それぞれ色彩色差計(コニカミノルタ センシング社製「色彩色差計CR-400」)にて測定した。
【0052】
金属酸化物除去性の判定:
得られた測定結果に基づき次式(1)に従って色差ΔEを算出し,以下の判定基準に従い、金属酸化物除去性の良否を良い方から順に優(◎)、良(〇)、可(△)、否(×)の4段階で判定した。
【0053】
ΔE*
ab=√{(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2} ・・・(1)
【0054】
判定基準:
色差ΔEの差が5未満の場合は優、色差ΔEの差が5以上15未満の場合は良、色差ΔEの差が15以上25未満の場合は可、色差ΔEの差が25以上の場合は否と判定した。金属酸化物除去性については優または良であることが望ましいが、可であっても十分に実施可能である。
【0055】
図3は、効果実証試験に用いた第1洗浄液及び第2洗浄液の調製、並びに金属酸化物除去性の判定結果を示している。なお、
図3においては、第1洗浄液及び第2洗浄液それぞれの総重量に対する主成分の重量%の値を示している。
【0056】
実証試験1:
第1洗浄液は、50重量%チオグリコール酸アンモニウム0.6kgと、ポリアクリル酸-ポリアクリル酸ナトリウムの共重合体の9%水溶液1.4kgとを混合して調製した。第2洗浄液は、ケイ酸アルミニウム0.6%水分散液1kgと、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル0.4%水溶液1kgとを混合して調製した。
【0057】
対象物としては、鉄酸化物を付着させた1m×1mサイズのアルミ板を用意して垂立面に貼り付けた。対象物に第1洗浄液を噴霧し、その約2秒後に第2洗浄液を噴霧した。これにより混合液のゲル化が進行し、混合液の流動が止まり、液だれが起こらなくなった。そして、数十秒後、混合液は鉄酸化物とチオグリコール酸アンモニウムが反応していることを表す紫色に変色した。この後、そのまま20分間静置してからゲル化した混合液をシリコン製のスクレーパを用いてこそぎ落とし、最後に、水によりアルミ板を洗い流して洗浄を終了した。実証試験1の金属酸化物除去性の判定結果は優であった。
【0058】
実証試験2:
第1洗浄液及び第2洗浄液には、実証試験1と同じものを用いた。対象物としては、車長20m×車幅3m×車体高3mの鉄道車両を用意した。対象物に第1洗浄液を噴霧し、その約2秒後に第2洗浄液を噴霧した。第2洗浄液を噴霧した後、10分後に車両を200m離れた場所に移動し、ゲル化した混合液をシリコン製のスクレーパを用いてこそぎ落とした。除去したゲル状の混合は集積し、屋外で3日間乾燥させた後に廃棄した。ゲル状の混合液を除去した約1分後、対象物としての鉄道車両を、回転ブラシを備えた水噴霧機能を装備する自動洗車装置に10秒間通過させて洗浄を終了した。実証試験2の金属酸化物除去性の判定結果は優であった。
【0059】
実証試験3:
第1洗浄液は、50重量%チオグリコール酸アンモニウム0.6kgと、LM(ローメトキシ)ペクチン20%水溶液1.4kgとを混合して調製した。第2洗浄液は、硫酸カルシウム1%水分散液1kgと、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル0.4%水溶液1kgとを混合して調製した。
【0060】
対象物としては、実証試験1と同じアルミ板を用い、実証試験1と同じ方法で洗浄を行った。実証試験3の金属酸化物除去性の判定結果は優であった。
【0061】
実証試験4:
第1洗浄液及び第2洗浄液には、実証試験1と同じものを用いた。対象物には実証試験1と同じアルミ板を用意し、第1洗浄液と第2洗浄液とを同量ずつ混合した混合液を流量が1L/分になるようにアルミ板に噴霧した。アルミ板に付着した混合液は液だれを起こすことなく、数十秒後に鉄酸化物とチオグリコール酸アンモニウムが反応している紫色を呈した。そのまま20分静置した後、ゲル化した混合液をシリコン製のスクレーパを用いてこそぎ落とし、最後に、水によりアルミ板を洗い流して洗浄を終了した。実証試験4の金属酸化物除去性の判定結果は優であった。
【0062】
実証試験5:
第1洗浄液は、50重量%チオグリコール酸アンモニウム0.6kgと、カラギーナン0.4%水溶液1.4kgとを混合して調製した。第2洗浄液は、硫酸カルシウム1%水分散液1kgと、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル0.4%水溶液1kgとを混合して調製した。
【0063】
対象物としては、実証試験1と同じアルミ板を用い、実証試験1と同じ方法で洗浄を行った。実証試験5の金属酸化物除去性の判定結果は優であった。
【0064】
次に、
図4は、本実施形態に係る洗浄方法と比較するための比較試験に用いた洗浄液の調製、並びに金属酸化物除去性の判定結果を示している。なお、
図4においては、第1洗浄液及び第2洗浄液それぞれの総重量に対する主成分の重量%の値を示している。
【0065】
比較試験1:
洗浄液は、50重量%チオグリコール酸アンモニウム0.6kgと、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル0.4%水溶液1kgと、水2.4kgとを混合して調製した。
【0066】
対象物としては実証試験1と同じアルミ板を用意して垂立面に貼り付け、洗浄液を噴霧した。アルミ板の表面からは洗浄液は流れ落ち、部分的に洗浄液が残留した箇所だけが紫色に呈色した。この結果、汚れが除去できた部分と除去できなかった部分とのムラが現れた。比較試験1の金属酸化物除去性の判定結果は否であった。
【0067】
比較試験2:
洗浄液は、50重量%チオグリコール酸アンモニウム0.6kgと、ポリアクリル酸-ポリアクリル酸ナトリウムの共重合体の9%水溶液1.4kgと、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル0.4%水溶液1kgと、水1kgとを混合して調製した。
【0068】
対象物としては実証試験1と同じアルミ板を用意して垂立面に貼り付け、洗浄液を噴霧した。アルミ板の表面からは洗浄液は流れ落ち、部分的に洗浄液が残留した箇所だけが紫色に呈色した。この結果、汚れが除去できた部分と除去できなかった部分とのムラが現れた。比較試験2の金属酸化物除去性の判定結果は否であった。
【0069】
比較試験3:
洗浄液は、50重量%チオグリコール酸アンモニウム0.6kgと、ケイ酸アルミニウム0.6%水分散液1kgと、非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル0.4%水溶液1kgと、水1.4kgとを混合して調製した。
【0070】
対象物としては実証試験1と同じアルミ板を用意して垂立面に貼り付け、洗浄液を噴霧した。アルミ板の表面からは洗浄液は流れ落ち、部分的に洗浄液が残留した箇所だけが紫色に呈色した。この結果、汚れが除去できた部分と除去できなかった部分とのムラが現れた。比較試験3の金属酸化物除去性の判定結果は否であった。
【0071】
<試験結果及び検討>
図3の実証試験と、
図4の比較試験とを比べて明らかなように、チオグリコール酸アンモニウムをゲル化して対象物の表面に留めることにより金属酸化物除去性の向上することが検証できた。また、対象物の下地であるアルミニウム面や塗装面に劣化や損傷等のダメージを与えていないことが確認できた。
【0072】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えたり、追加したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0073】
10・・・洗浄環境、21・・・第1エリア、22・・・第2エリア、23・・・第3エリア、31・・・第1通路、32・・・第2通路、41・・・噴霧設備、421・・・第1タンク、422・・・第2タンク、43・・・除去設備、44・・・廃液タンク、45・・・乾燥設備、100・・・対象物