(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】Sn系ペロブスカイト層及び太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20231121BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20231121BHJP
H10K 50/11 20230101ALI20231121BHJP
H10K 71/12 20230101ALI20231121BHJP
H10K 85/50 20230101ALI20231121BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K50/11
H10K71/12
H10K85/50
(21)【出願番号】P 2020507896
(86)(22)【出願日】2019-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2019011860
(87)【国際公開番号】W WO2019182058
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2018053418
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、先端的低炭素化技術開発、革新技術領域「環境負担の少ない高性能ペブロスカイト系太陽電池の開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】519259342
【氏名又は名称】株式会社エネコートテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(72)【発明者】
【氏名】若宮 淳志
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 雅司
(72)【発明者】
【氏名】ジェイウェイ リュウ
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-078392(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1753643(KR,B1)
【文献】特開2018-027899(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107293644(CN,A)
【文献】ZHAO, Ziran et al.,Mixed-Organic-Cation Tin Iodide for Lead-Free Perovskite Solar Cells with an Efficiency of 8.12%,Advanced Science,2017年07月14日,Vol. 4,No. 11,Article number: 1700204,pp. 1-7,DOI: 10.1002/advs.201700204
【文献】YU, Yu et al.,Ultrasmooth Perovskite Film via Mixed Anti-Solvent Strategy with Improved Efficiency,ACS Applied Materials & Interfaces,2017年01月18日,Vol. 9,No. 4,pp. 3667-3676,DOI: 10.1021/acsami.6b14270
【文献】LIU, Jiewei et al.,Lead-Free Solar Cells based on Tin Halide Perovskite Films with High Coverage and Improved Aggregation,Angewandte Chemie International Edition,2018年09月05日,Vol. 57,No. 40,pp. 13221-13225,DOI: 10.1002/anie.201808385
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液を基板に塗布する工程と,
前記基板
に,Sn系ペロブスカイト化合物に対する貧溶媒であって,所定の温度に温めた
前記貧溶媒を塗布する工程と,
前記基板をアニール処理する工程と,をこの順で含む
ペロブスカイト層の製造方法であって,
前記所定の温度は,45℃以上100℃以下である,方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって,
前記
所定の温度は,50℃以上85℃以下である,方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって,
前記
所定の温度は,50℃以上70℃以下である,方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって,
前記貧溶媒は,前記基板を回転しつつ前記貧溶媒を滴下することにより塗布され,前記貧溶媒が塗布された後2.5秒以上7.5秒以内に前記回転が停止する,方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法を含む,ペロブスカイト型太陽電池の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法を含む、ペロブスカイト型発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSn系ペロブスカイト層及び太陽電池の製造方法に関する。より詳しく説明すると,Sn系ペロブスカイト化合物を用いてペロブスカイト層を製造する際に,貧溶媒の温度を調整し,貧溶媒を滴下した後速やかに基板の回転を止めることで,平坦性に優れたSn系ペロブスカイト層を得ることができるというものに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2015-138822号公報には,ハロゲン化鉛及びアルキルアンモニウムハライドを原料として使用し,光吸収層に溶液法によってペロブスカイトを形成する工程を含むペロブスカイト型太陽電池の製造方法が記載されている。
【0003】
鉛フリーペロブスカイト化合物としてスズ系ペロブスカイト化合物が検討されている。しかしながら,現状では,スズ系ペロブスカイト化合物を用いた優れた太陽電池は得られていない。後述する試験例で示されるように,スズ系ペロブスカイト化合物では,ペロブスカイト層が下地を完全に被覆できず,その結果,ペロブスカイト層に凹凸が生じており,凹凸部分においてリーク等が起きていることにその一因がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は,平坦性に優れたスズ系ペロブスカイト化合物を用いたペロブスカイト層の製造方法や,その製造方法により得られたペロブスカイト層を用いたペロブスカイト型太陽電池の製造方法や有機EL素子などの発光素子の製造方法などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に記載される発明は,基本的には,Sn系ペロブスカイト化合物を塗布した後に,貧溶媒を滴下する際に,その貧溶媒の温度を調整することにより,Sn系ペロブスカイト層の平坦性が飛躍的に向上するという実施例による知見に基づく。さらに,その発明の好ましい態様では,スピンコート塗布を行う際に,貧溶媒を滴下後,迅速に基板の回転を止めることで,さらにSn系ペロブスカイト層の平坦性が向上するという実施例による知見に基づく。さらに好ましい態様では,アニール処理を溶媒が飽和蒸気圧となった密閉系で行うことでペロブスカイト化合物の粒子径を大きくすることができ,それによりペロブスカイト膜の平坦性が高まるという実施例による知見に基づく。
【0007】
本明細書に記載されるペロブスカイト層の製造方法は,Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液を基板に塗布する工程と,基板に貧溶媒を塗布する工程と,基板をアニール処理する工程と,をこの順で含む。そして,その方法は,基板に貧溶媒を塗布する際の貧溶媒の温度が45℃以上100℃以下である。なお,貧溶媒を塗布する際には,Sn系ペロブスカイト化合物が基板に塗布されているので,基板に貧溶媒を塗布するとは,Sn系ペロブスカイト化合物が塗布されている状態の基板に貧溶媒を塗布することを意味する。
【0008】
この方法は,貧溶媒の温度が45℃以上85℃以下であってもよいし,50℃以上70℃以下であってもよい。
【0009】
アニール処理する工程は,後述する実施例により示された通り,溶媒蒸気を含む密閉系にて,段階的に基板加熱する工程を含むものが好ましい。
【0010】
貧溶媒は,基板を回転しつつ貧溶媒を滴下することにより塗布され,貧溶媒が塗布された後2.5秒以上7.5秒以内に回転が停止するものが好ましい。
【0011】
本明細書におけるペロブスカイト層の製造方法の別の側面は,Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液を基板に塗布する工程と,
基板に貧溶媒を塗布する工程と,
基板をアニール処理する工程と,をこの順で含むペロブスカイト層の製造方法である。そして,貧溶媒は,室温以上であり,これにより種結晶の形成を促進し,種結晶からの結晶成長を抑制する方法である。種結晶の形成を促進し,種結晶からの結晶成長を抑制することで,被覆率が向上し,性能に優れたペロブスカイト層を得ることができる。この製法方法によれば,例えば,ペロブスカイト層のSn系ペロブスカイト化合物による被覆率が95%以上100%以下であり,ペロブスカイト化合物の平均粒子径が150nm以上500nm以下であるペロブスカイト層を得ることができる。
【0012】
本明細書におけるペロブスカイト層の製造方法の別の側面は,ペロブスカイト層のSn系ペロブスカイト化合物による被覆率が95%以上100%以下である。この被覆率は,例えば,上記の通り,貧溶媒を塗布する際の貧溶媒の温度や,アニール条件を調整することで達成できる。
【0013】
本明細書におけるペロブスカイト層の製造方法の別の側面は,ペロブスカイト化合物の平均粒子径が150nm以上500nm以下である,方法に関する。上気した通り,種結晶からの結晶成長を抑えつつ,種結晶の形成を促進することで,平均粒子径が150nm以上500nm以下となり,平坦で好ましいペロブスカイト層を得ることができることとなる。
【0014】
上記のペロブスカイト層の製造方法によりペロブスカイト層を得た後,通常の方法に従って,ペロブスカイト型太陽電池を製造できる。もっとも,ペロブスカイト層は,有機EL素子などの発光素子の製造にも用いることができるため,上記のペロブスカイト層の製造方法によりペロブスカイト層を得た後に,そのペロブスカイト層を用いて有機EL素子などの発光素子を製造できる。
【0015】
本明細書に記載される次の発明は,ペロブスカイト層及びそのペロブスカイト層を含むペロブスカイト型太陽電池又は有機EL素子などの発光素子に関する。そのペロブスカイト層は,Sn系ペロブスカイト化合物を含み,Sn系ペロブスカイト化合物による被覆率が98%以上100%以下である。このペロブスカイト層は,Sn系ペロブスカイト化合物の平均粒子径が150nm以上500nm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば,平坦性に優れたスズ系ペロブスカイト化合物を用いたペロブスカイト層の製造方法や,その製造方法により得られたペロブスカイト層を用いたペロブスカイト型太陽電池の製造方法や有機EL素子などの発光素子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は,試験例1で作成したペロブスカイト層を有するSnペロブスカイト太陽電池素子の特性を示す図である。
【
図2】
図2は,試験例2(実施例)で作成したペロブスカイト層を有するSnペロブスカイト太陽電池素子の特性を示す図である。
【
図3】
図3は,試験例1で作成したペロブスカイト層を有するSnペロブスカイト太陽電池素子の断面のSEM写真を示す図面に替わる写真である
【
図4】
図4は,試験例5のうち室温(rt)のクロロベンゼンを滴下して得られたペロブスカイト膜の図面に替わるSEM写真である。
【
図5】。
図5は,左から室温(rt),45, 65, 85, 及び100 °Cに温めたクロロベンゼンを滴下して作成されたペロブスカイト層の図面に替わるSEM写真である。
【
図7】
図7は,試験例7におけるSEM写真及び蛍光寿命の測定結果を示す。
図7左上は,室温のSEM写真を示し,
図7左下は65℃におけるSEM写真を示す。右のグラフにおいて,下部に位置するグラフが室温のものである。
【
図8】
図8は,試験例8におけるSEM写真及び蛍光寿命の測定結果を示す。
図8左上は,室温のSEM写真を示し,
図8左下は65℃におけるSEM写真を示す。
【
図9】
図9は,試験例9におけるSEM写真及び蛍光寿命の測定結果を示す。
図9左上は,室温のSEM写真を示し,
図9左下は65℃におけるSEM写真を示す。右のグラフにおいて,下部に位置するグラフが室温のものである。
【
図10】
図10は,試験例10(実施例)における電流密度-電圧特性を示す図面に替わるグラフである。
【
図11】
図11は,試験例10(実施例)におけるペロブスカイト太陽電池の特性を示す表である。
【
図12】
図12は,IQE,EQEスペクトルを示す図面に替わるグラフである。
【
図13】
図13は,試験例10により得られた太陽電池の断面SEM写真である。
【
図14】
図14は,試験例10により得られたペロブスカイト層のSEM写真である。
【
図15】
図15は未処理のものの図面に替わるSEM画像である。
【
図16】
図16は,方法1のものの図面に替わるSEM画像である。
【
図17】
図17は,方法1+方法2(10秒)のものの図面に替わるSEM画像である。
【
図18】
図18は,方法1+方法2(30秒)のものの図面に替わるSEM画像である。
【
図19】
図19は,試験例14において得られたFA
0.75MA
0.25SnI
3のペロブスカイト薄膜の蛍光スペクトルを示す図面に替わるグラフである。
【
図20】
図20は,試験例15において得られたFASnBr
3ペロブスカイト薄膜の図面に替わるSEM画像である。
【
図21】
図21は,試験例16において得られたFASnBr
3ペロブスカイト薄膜(HAT法)のの図面に替わるSEM画像である。
【
図22】
図22は,試験例16において得られたFASnBr
3ペロブスカイト薄膜(HAT法)の蛍光スペクトルを示す図面に替わるグラフである。
【
図23】
図23は,試験例17において得られたMASnBr
3ペロブスカイト薄膜(HAT法)の蛍光スペクトルを示す図面に替わるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下,本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0019】
1.ペロブスカイト層の製造方法
本明細書に記載されるペロブスカイト層の製造方法は,Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液を基板に塗布する工程と,基板に貧溶媒を塗布する工程と,基板をアニール処理する工程と,をこの順で含む。このペロブスカイト層の製造方法は,ペロブスカイト層の製造するための公知の工程や条件を適宜採用できる。
【0020】
1.1.Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液を基板に塗布する工程について説明する。
【0021】
1.1.1.Sn系ペロブスカイト化合物
ペロブスカイト層に用いられるSn系ペロブスカイト化合物自体は公知であり,本明細書においても,Sn(錫)を含むSn系ペロブスカイト化合物を適宜用いることができる。
本明細書におけるSn系ペロブスカイト化合物(本発明のペロブスカイト化合物ともよぶ)の例は,一般式(I)で示される化合物である。
RSnXj (I)
[式中,Snの酸化数は1.5~4である。Rは少なくとも1種の1価のカチオンを示す。Xは少なくとも1種のハロゲン原子を示す。jは2.5~3.5を示す。]
Snの酸化数は1.5~3.5であることが好ましく1.5~2.5でもよいし,1.5~2でもよい。
【0022】
一般式(I)において,Rは少なくとも1種の1価のカチオンである。Rは2種以上のカチオンであってもよい。このような1価のカチオンの例は,アルカリ金属カチオンや1価の遷移金属カチオンである。
【0023】
アルカリ金属カチオンとしては,ナトリウムカチオン,カリウムカチオン,セシウムカチオン,ルビジウムカチオン等が挙げられる。
【0024】
1価の遷移金属カチオンとしては,銅カチオン,銀カチオン,金カチオン,鉄カチオン,ルテニウムカチオン等が挙げられる。
【0025】
Rの具体的な例は,R1NH3+である示されるカチオン(R1は1価の置換又は非置換の炭化水素基を示す。)である。置換の炭化水素基は,炭化水素基の水素原子が他の原子又は置換基によって置換された炭化水素を意味する。
Rの別の具体的な例は,
【0026】
【0027】
(R2は水素原子又は1価の置換若しくは非置換炭化水素基を示す。)
で表されるカチオンである。
【0028】
本明細書において,「1価の炭化水素基」の例は,アルキル基,アリール基又はアラルキル基である。
【0029】
アルキル基は,炭素数1~20の直鎖状,分岐状又は環状アルキル基が好ましい。アルキル基の具体例は,メチル基,エチル基,n-プロピル基,2-プロピル基,n-ブチル基,1-メチルプロピル基,2-メチルプロピル基,tert-ブチル基,n-ペンチル基,1-メチルブチル基,1-エチルプロピル基,tert-ペンチル基,2-メチルブチル基,3-メチルブチル基,2,2-ジメチルプロピル基,n-ヘキシル基,1-メチルペンチル基,1-エチルブチル基,2-メチルペンチル基,3-メチルペンチル基,4-メチルペンチル基,2-メチルペンタン-3-イル基,3,3-ジメチルブチル基,2,2-ジメチルブチル基,1,1-ジメチルブチル基,1,2-ジメチルブチル基,1,3-ジメチルブチル基,2,3-ジメチルブチル基,1-エチルブチル基,2-エチルブチル基,n-ヘプチル基,n-オクチル基,n-ノニル基,n-デシル基,n-ウンデシル基,n-ドデシル基,n-トリデシル基,n-テトラデシル基,n-ペンタデシル基,n-ヘキサデシル基,n-ヘプタデシル基,n-オクタデシル基,n-ノナデシル基,n-イコシル基,シクロプロピル基,シクロブチル基,シクロペンチル基,シクロヘキシル基である。
【0030】
「アリール基」は,炭素数6~20のアリール基が好ましい。アリール基の例は,フェニル基,インデニル基,ペンタレニル基,ナフチル基,アズレニル基,フルオレニル基,フェナントレニル基,アントラセニル基,アセナフチレニル基,ビフェニレニル基,ナフタセニル基,ピレニル基である。
【0031】
「アラルキル基」は,炭素数7~20のアラルキル基が好ましい。アラルキル基の例は,ベンジル基,フェネチル基,1-フェニルプロピル基,2-フェニルプロピル基,3-フェニルプロピル基,1-フェニルブチル基,2-フェニルブチル基,3-フェニルブチル基,4-フェニルブチル基,1-フェニルペンチルブチル基,2-フェニルペンチルブチル基,3-フェニルペンチルブチル基,4-フェニルペンチルブチル基,5-フェニルペンチルブチル基,1-フェニルヘキシルブチル基,2-フェニルヘキシルブチル基,3-フェニルヘキシルブチル基,4-フェニルヘキシルブチル基,5-フェニルヘキシルブチル基,6-フェニルヘキシルブチル基,1-フェニルヘプチル基,1-フェニルオクチル基,1-フェニルノニル基,1-フェニルデシル基,1-フェニルウンデシル基,1-フェニルドデシル基,1-フェニルトリデシル基,1-フェニルテトラデシル基である。
【0032】
「置換基」の例は,上記した1価の炭化水素基,ハロゲン原子(例えば,フッ素原子,塩素原子,臭素原子,ヨウ素原子),-OR1a(R1aは水素原子又は上記1価の炭化水素基を示す),-SR1b(R1bは水素原子又は上記1価の炭化水素基を示す),ニトロ基,アミノ基,シアノ基,スルホ基,カルボキシ基,カルバモイル基,アミノスルホニル基,オキソ基である。置換基を有する場合の置換基の数は,特に限定されず,10以下が好ましく,5以下がより好ましく,3以下がさらに好ましい。
【0033】
R1及びR2で示される1価の炭化水素基としては,本発明のペロブスカイト材料が三次元構造を有しやすく,より広い波長域で光を吸収し,エネルギー変換効率(PCE)及び内部量子効率(IQE)を向上させやすい観点から,炭素数1~10のアルキル基,炭素数6~20のアリール基及び炭素数7~12のアラルキル基が好ましく,炭素数1~6のアルキル基及び炭素数6~14のアリール基がより好ましく,炭素数1~4のアルキル基がさらに好ましい。また,同様の理由により,R1及びR2としては,アルキル基が好ましく,直鎖状又は分岐状アルキル基がより好ましく,直鎖状アルキル基がさらに好ましい。特に,メチル基が最も好ましい。
【0034】
上記R1及びR2としては,本発明のペロブスカイト化合物が三次元構造を有しやすく,より広い波長域で光を吸収し,エネルギー変換効率(PCE)及び内部量子効率(IQE)を向上させやすい観点から,R1はメチル基が好ましく,R2は水素原子が好ましい。つまり,Rとしては,アルカリ金属カチオンや1価の遷移金属カチオンの他には,CH3NH3
+又は以下のカチオンであることが好ましい。
【0035】
【0036】
Rとして好ましいものは,CH3NH3-,(NH2)2CH-,及び(CH3NH3
)x((NH2)2CH)1-X-(xは,0~1の数であり,0.1以上0.4以下が好ましく,0.2以上0.3以下でもよい)で示される基である。
【0037】
一般式(I)において,jは2.5~3.5であり,エネルギー変換効率(PCE)及び内部量子効率(IQE)を向上させやすい観点から,jは,2.8~3.2が好ましい。
【0038】
このような条件を満たす本発明のペロブスカイト化合物の例は,ヨウ化錫メチルアンモニウム(CH3NH3SnI3:「MASnI3」と略記),(CH3NH3)2Sn3I8:「MA2Sn3I8」と略記,臭化錫メチルアンモニウム(CH3NH3SnBr
3:「MASnBr3」と略記),ヨウ化錫ホルムアミジニウム((NH2)2CHSnI3:「FASnI3」と略記),及び臭化錫ホルムアミジニウム((NH2)2CHSnBr3:「FASnBr3」と略記),FA1-XMAXSnI3(xは,0~1の数であり,0.1以上0.4以下が好ましく,0.2以上0.3以下でもよい),CsSnI3,CsSnBr3及びこれらの混合物である。これらの中では,FA0.75MA0.25SnI3,MASnI3及びFASnI3が好ましい。
【0039】
1.1.2.Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液
Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液は,基本的には,ハロゲン化錫,ハロゲン化されたカチオン源となる化合物を溶媒に溶解させることで得ることができる。溶媒は,極性溶媒であることが好ましい。ハロゲン化されたカチオン源となる化合物の例は,FAI,MAI,FABr,MABr,FA1-XMAXI,FA1-XMAXBr及びこれらの混合物である。ハロゲン化錫とハロゲン化されたカチオン源となる化合物とのモル比は,1:3以上3:1でもよく,1:2~2:1でもよく,3:2~2:3でもよく,3:4~4:3でもよい。
【0040】
溶媒は,沸点が35~250℃程度の溶媒が好ましい。溶媒の例は,N,N-ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルスルホキシド(DMSO),スルホラン,N-メチルピロリドン,プロピレンカーボネート,α-アセチル-γ-ブチロラクトン,テトラメチレンスルホキシド,エチルシアノアセテート,アセチルアセトン,3-メトキシN,N-ジメチルプロパンアミド,N,N'-ジメチルエチレンウレア,1,1,3,3-テトラメチルウレア,2-アセチルシクロヘキサノン,1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン,3,4-ジヒドロ-1(2H)-ナフタレノン,シクロペンタノン,シクロヘキサノン,シクロヘプタノン,アニリン,ピペリジン,ピリジン,4-tert-ブチルピリジン,4-アミルピリジン,4-アミノピリジン,2-アミルピリジン,4-メチルピリジン,ペンタフルオロピリジン,2,4,6-テトラメチルピリジン,2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルピリジン,4-ピリジンエチルアミン,シクロオクタノン,2,5-ジメトキシテトラヒドロフラン,1,4,7,10-テトラオキサシクロドデカン,エチルp-トルエート,1,2-ジメトキシベンゼン,テトラヒドロフルフリルアセテート,シクロヘキシルアセテート,シクロペンチルメチルエーテル,フェニルエチルアミン,エチレンジアミン,トリエチルアミン,ジイソプロピルエチルアミン,ヒドラジン等が挙げられる。なかでも,金属中心に配位結合を形成するという観点から,N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)又はジメチルスルホキシド(DMSO)が好ましい。
【0041】
溶媒に中におけるハロゲン化錫の濃度の例は,0.1~5mol/L(又は0.5~3mol/L)である。Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液は,上記の溶媒に,上記した化合物を適宜混合することにより得ることができる。また,必要に応じて,溶媒を適宜攪拌及び加熱し,化合物を溶解すればよい。
【0042】
基板
基板として,ペロブスカイト型太陽電池や有機EL素子における公知の基板を適宜用いることができる。基板の例は,ガラス基板,絶縁体基板,半導体基板,金属基板及び導電性基板(導電性フィルムも含む)である。また,これらの表面の一部又は全部の上に,金属膜,半導体膜,導電性膜及び絶縁性膜の少なくとも1種の膜が形成されている基板も好適に用いることができる。
【0043】
金属膜の構成金属の例は,ガリウム,鉄,インジウム,アルミニウム,バナジウム,チタン,クロム,ロジウム,ニッケル,コバルト,亜鉛,マグネシウム,カルシウム,シリコン,イットリウム,ストロンチウム及びバリウムから選ばれる1種又は2種以上の金属である。半導体膜の構成材料の例は,シリコン,ゲルマニウム等の元素単体,周期表の第3族~第5族,第13族~第15族の元素を有する化合物,金属酸化物,金属硫化物,金属セレン化物,金属窒化物等が挙げられる。また,導電性膜の構成材料の例は,スズドープ酸化インジウム(ITO),フッ素ドープ酸化インジウム(FTO),酸化亜鉛(ZnO),アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO),ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO),酸化スズ(SnO2),酸化インジウム(In2O3),酸化タングステン(WO3)である。絶縁性膜の構成材料の例は,酸化アルミニウム(Al2O3),酸化チタン(TiO2),酸化シリコン(SiO2),窒化シリコン(Si3N4),酸窒化シリコン(Si4O5N3)である。
【0044】
基板の形状の例は,平板や円板等の板状,繊維状,棒状,円柱状,角柱状,筒状,螺旋状,球状,リング状であり,多孔質構造体であてもよい。これらのうちでは板状の基板が好ましい。基板の厚さの例は,0.1μm~100mmが好ましく,1μm~10mmがより好ましい。
【0045】
Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液を基板に塗布する工程
Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液を基板に塗布する際に,基板には,下地層である半導体層が形成されている場合がある。その場合,Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液を基板に塗布するとは,下地層が形成された基板に(の下地層の上に)Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液を塗布する工程を意味する。
【0046】
Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液を基板に塗布するためには,スピンコート,ディップコート,スクリーン印刷法,ロールコート,ダイコート法,転写印刷法,スプレー法,又はスリットコートを用いればよい。これらの中では,スピンコートにより基板上に溶液を塗布することが好ましい。スピンコートは,基板を回転させつつ,溶液を滴下し,基板上に溶液を塗布する方法である。また,溶液を搭載した基板を回転させ,基板に溶液を塗布してもよい。回転速度は,最大速度が1000~1万rpmを30秒から5分,最高速度までを2秒から15秒,最大速度から停止までを2秒から15秒とすればよい。
【0047】
1.2.基板に貧溶媒を塗布する工程
次に,基板に貧溶媒を塗布する工程について説明する
【0048】
貧溶媒とは,溶質を溶かす能力はあるものの,溶質の溶解度が高くない溶媒を意味する。
貧溶媒の例は,ジクロロメタン,クロロホルム等の置換脂肪族炭化水素;トルエン,ベンゼン等の芳香族炭化水素;クロロベンゼン,オルトジクロロベンゼン,ニトロベンゼン等の置換芳香族炭化水素;酢酸,ジエチルエーテル,テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル;メタノール,エタノール,イソプロパノール,ブタノール,オクタノール等のアルコール;ヘキサン等の長鎖炭化水素(特にC4-10炭化水素);アセトニトリル等が挙げられる。これら貧溶媒は,単独で使用することもできるし,2種以上を組合せて使用することもできる。これらの中では,クロロベンゼン又はトルエンが好ましい。
【0049】
貧溶媒は,単独でも,極性溶媒と混合して用いられてもよい。貧溶媒が極性溶媒と混合される場合,極性溶媒と,貧溶媒との比が,貧溶媒/極性溶媒=2.0~10.0/1.0(体積比)が好ましく,3.0~8.0/1.0(体積比)がより好ましい。
【0050】
貧溶媒を塗布する際には,Sn系ペロブスカイト化合物が基板に塗布されているので,基板に貧溶媒を塗布するとは,Sn系ペロブスカイト化合物が塗布されている状態の基板に貧溶媒を塗布することを意味する。基板に貧溶媒を塗布する方法は,Sn系ペロブスカイト化合物を塗布する方法と同様である。なお,Sn系ペロブスカイト化合物をスピンコート塗布している際に,貧溶媒を基板に滴下して,貧溶媒を基板に塗布してもよい。塗布される貧溶媒の量は適宜調整すればよい。Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液と貧溶媒の体積比は,1:10~2:1でもよいし,1:5~1:1でもよい。
【0051】
基板に貧溶媒を塗布する際の貧溶媒の温度が45℃以上100℃以下である。後述する実施例により示された条件のもとでは,この温度の貧溶媒を用いる場合には,種結晶からの結晶成長を抑制し,種結晶の形成を促進できるので,その結果,Sn系ペロブスカイト層を充填させ,Sn系ペロブスカイト層の凹凸を軽減し,平坦で抜けのないSn系ペロブスカイト層を得ることができる。 この方法は,貧溶媒の温度が45℃以上85℃以下であってもよいし,50℃以上70℃以下であってもよい。この温度であれば,下地層を傷つけずにSn系ペロブスカイト化合物を成長させることができる。貧溶媒の温度は,Sn系ペロブスカイト化合物の種類等に応じて適宜調整すればよい。
【0052】
貧溶媒は,基板を回転しつつ貧溶媒を滴下することにより塗布され,貧溶媒が塗布された後2.5秒以上7.5秒以内(例えば,3秒以上7秒以下,4秒以上6秒以下)に回転が停止するものが好ましい。後述する実施例により実証された通り,貧溶媒を滴下後,極めて迅速に回転を停止させることで,Sn系ペロブスカイト化合物の状態を調整できることとなる。また,従来,通常貧溶媒を滴下後30秒程度回転速度を維持した後に,基板の回転を減速させていた。本明細書においては,後述する実施例により示された通り,貧溶媒の滴下完了直後~10秒以内(直後から5秒以内,直後から3秒以内,直後から2秒以内,直後から1秒以内,又は直後)に,基板の回転速度を減速し始めることが好ましい。このようにすることで,ペロブスカイト層(膜)内での特性のばらつきを抑えることができる。
【0053】
なお,Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液を塗布する工程や,貧溶媒を塗布する工程においては,後述するアニール処理工程と同様,密閉系で行うことが好ましい。そして,密閉系では,Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液に含まれる溶媒の蒸気が存在することが好ましく,さらに好ましくは,密閉系内ではその溶媒が飽和蒸気圧又は飽和蒸気圧の90%以上の分圧となっていることが好ましい。
【0054】
1.3.基板をアニール処理する工程
次に,基板をアニール処理する工程について説明する。アニール処理とは,基板を加熱等する工程を意味する。アニール工程は,貧溶媒の滴下後,又は基板が停止した後,速やかに行うことが好ましい。アニール処理する工程は,後述する実施例により示された通り,溶媒蒸気を含む密閉系にて,段階的に基板加熱する工程を含むものが好ましい。そして,密閉系では,Sn系ペロブスカイト化合物を含む溶液に含まれる溶媒の蒸気が存在することが好ましく,さらに好ましくは,密閉系内ではその溶媒が飽和蒸気圧又は飽和蒸気圧の90%以上の分圧となっていることが好ましい。
【0055】
基板をアニール処理する工程は,2段又はそれ以上の段階で温度を上昇させることが好ましい。そのように多段で温度を上昇させることで,実施例により実証された通り,Sn系ペロブスカイト化合物の成長を促し,粒子サイズを大きくすることができ,それによりSn系ペロブスカイト層を充填させることができる。
【0056】
アニール処理が多段階を含む場合とは,目標となる複数の温度まで基板温度を上昇させた後,その設定温度で所定時間維持し,その後次の設定温度まで基板温度を上昇させることを意味する。
第1段の設定温度の例は,30℃以上60℃以下であり,35℃以上55℃以下でもよいし,40℃以上50℃以下でもよい。
第1段の設定温度の滞留時間は,5秒以上1分以下でもよいし,5分以上20分以下でもよい。
第2段の設定温度は,第1段の設定温度より高いことが好ましい。第2段の設定温度の例は,50℃以上80℃以下であり,55℃以上75℃以下でもよいし,60℃以上70℃以下でもよい。
第2段の設定温度の滞留時間は,5秒以上1分以下でもよいし,5分以上30分以下でもよいし,5分以上20分以下でもよいし,10分以上20分以下でもよい。
第3弾の設定温度(第1段又は第2段を省略した場合は,第2段の設定温度)は,第1段又は第2段の設定温度より高いものが好ましい。第3段の設定温度の例は,70℃以上120℃以下であり,80℃以上110℃以下でもよいし,90℃以上110℃以下でもよい。
第3段の設定温度の滞留時間は,5秒以上1分以下でもよいし,5分以上20分以下でもよい。
このようにして,ペロブスカイト層を得ることができるペロブスカイト層の膜厚の例は,10nm以上1000nm以下である。膜厚は,50nm以上500nm以下でもよいし,100nm以上500nm以下でもよいし,250nm以上500nm以下でもよい。
【0057】
上記のペロブスカイト層の製造方法によりペロブスカイト層を得た後,通常の方法に従って,ペロブスカイト型太陽電池を製造できる。もっとも,ペロブスカイト層は,有機EL素子の製造にも用いることができるため,上記のペロブスカイト層の製造方法によりペロブスカイト層を得た後に,そのペロブスカイト層を用いて有機EL素子を製造できる。
【0058】
本明細書に記載される次の発明は,ペロブスカイト層及びそのペロブスカイト層を含むペロブスカイト型太陽電池に関する。そのペロブスカイト層は,Sn系ペロブスカイト化合物を含み,Sn系ペロブスカイト化合物による被覆率が95%以上100%以下であることが好ましい。被覆率は98%以上100%以下がより好ましく,99%以上100%以下がより好ましい。もっとも,特性を損なわない限り,被覆率が95%以上100%であっても,従来技術に基づいて製造した場合に比べて被覆率が高まるので好ましい。このペロブスカイト層は,Sn系ペロブスカイト化合物の平均粒子径が150nm以上500nm以下であることが好ましい。被覆率は,SEM画像を撮影し,その面積から算出すればよい。具体的に説明すると,画像解析ソフトを用いて被覆率を求めてもよいし,ペロブスカイト化合物が覆っておらず黒くなっている領域を取り囲み,取り囲んだ部分の面積を求めることで,ペロブスカイト化合物が基板を覆っている面積の割合である被覆率を求めてもよい。また,Sn系ペロブスカイト化合物の平均粒子径もSn系ペロブスカイト層を撮影し,Sn系ペロブスカイト化合物境界面を用いて,平均となる大きさ(例えば,境界面の最大長さの平均値)を求めればよい。平均粒子径は,算術平均値を採用すればよい。
【0059】
2.ペロブスカイト型太陽電池
ペロブスカイト型太陽電池は,例えば,透明電極,(正孔)ブロッキング層,電子輸送層,ペロブスカイト層(光吸収層),正孔輸送層,及び金属電極をこの順に備える。ペロブスカイト型太陽電池は,透明電極上にn型半導体層が設けられた順型であってもよいし,透明電極上にp型半導体層が設けられた逆型であってもよい。以下に,透明電極,(正孔)ブロッキング層,電子輸送層,ペロブスカイト層(光吸収層),正孔輸送層,及び金属電極をこの順に備えるペロブスカイト型太陽電池を例にして,ペロブスカイト型太陽電池を説明する。
【0060】
2.1.透明電極
透明電極は,電子輸送層の支持体であるとともに,(正孔)ブロッキング層を介してペロブスカイト層(光吸収層)より電流(電子)を取り出す機能を有する層であることから,導電性基板が好ましく,光電変換に寄与する光を透過可能な透光性を有する透明導電層が好ましい。
【0061】
透明導電層としては,例えば,錫ドープ酸化インジウム(ITO)膜,不純物ドープの酸化インジウム(In2O3)膜,不純物ドープの酸化亜鉛(ZnO)膜,フッ素ドープ二酸化錫(FTO)膜,これらを積層してなる積層膜等が挙げられる。これら透明導電層の厚みは特に制限されず,通常,抵抗が5~15Ω/□となるように調整することが好ましい。当該透明導電層は,成形する材料に応じ,公知の成膜方法により得ることができる。
【0062】
透明導電層は,外部から保護するために,必要に応じて,透光性被覆体により覆われ得る。当該透光性被覆体としては,例えば,フッ素樹脂,ポリ塩化ビニル,ポリイミド等の樹脂シート;白板ガラス,ソーダガラス等の無機シート;これらの素材を組合せてなるハイブリッドシート等が挙げられる。これら透光性被覆体の厚みは特に制限されず,通常,抵抗が5~15Ω/□となるように調整することが好ましい。
【0063】
2.2.(正孔)ブロッキング層
(正孔)ブロッキング層は,正孔の漏れを防ぎ,逆電流を抑制して太陽電池特性(特に光電変換効率)を向上させるために設けられる層であり,透明電極とペロブスカイト層(光吸収層)との間に設けられることが好ましい。(正孔)ブロッキング層は,酸化チタン等の金属酸化物からなる層が好ましく,コンパクトTiO2等のn型半導体で透明電極の表面を平滑且つ緻密に覆った層がより好ましい。「緻密」とは,電子輸送層中の金属化合物の充填密度より高密度で金属化合物が充填されていることを意味する。なお,透明電極と電子輸送層とが電気的に接続されなければ,ピンホール,クラック等が存在していてもよい。
【0064】
(正孔)ブロッキング層の膜厚は,例えば,5~300nmである。(正孔)ブロッキング層の膜厚は,電極への電子注入効率の観点より,10~200nmがより好ましい。
【0065】
(正孔)ブロッキング層は上記透明電極上に形成される。金属酸化物を(正孔)ブロッキング層に用いる場合,既知の方法に従って(例えば,非特許文献4,J. Phys. D: Appl. Phys. 2008, 41, 102002.等),スプレーパイロリシスを行うことにより作製できる。例えば,200~550℃(特に300~500℃)に加熱したホットプレート上に置いた透明電極に0.01~0.40M(特に0.02~0.20M)の金属アルコキシド(チタンジ(イソプロポキシド)ビス(アセチルアセトナート)等のチタンアルコキシド等)のアルコール溶液(例えばイソプロピルアルコール溶液等)をスプレーで吹き付けて作製できる。
【0066】
その後,得られた基板を,酸化チタン(TiO2等),チタンアルコキシド(チタンイソプロポキシド等),チタンハロゲン化物(TiCl4等)の水溶液中に浸漬して加熱することで,より緻密な膜とすることもできる。
【0067】
(正孔)ブロッキング層の原料を含む水溶液における原料の濃度は,0.1~1.0mMが好ましく,0.2~0.7mMがより好ましい。また,浸漬温度は30~100℃が好ましく,50~80℃がより好ましい。さらに,加熱条件は200~1000℃(特に300~700℃)で5~60分(特に10~30分)が好ましい。
【0068】
2.3.電子輸送層
電子輸送層は,ペロブスカイト層(光吸収層)の活性表面積を増加させ,光電変換効率を向上させるとともに,電子収集しやすくするために形成される。電子輸送層は,基板上に形成してもよいが,(正孔)ブロッキング層の上に形成することが好ましい。また,上記の(正孔)ブロッキング層が,電子輸送層として機能してもよいし,電子輸送層が(正孔)ブロッキング層を兼ねてもよい。電子輸送層はフラーレン誘導体等有機半導体材料を用いた平坦な層でもよい。また,電子輸送層は,酸化チタン(TiO2)(メソポーラスTiO2を含む),SnO2層,又はZnO層であってもよい。電子輸送層は,メソポーラスTiO2等多孔質構造を有していることが好ましい。多孔質構造とは,例えば,粒状体,針状体,チューブ状体,柱状体等が集合して,全体として多孔質な性質を有していることが好ましい。また,細孔サイズはナノスケールが好ましい。多孔質構造を有することにより,ナノスケールであるため,光吸収層の活性表面積を著しく増加させ,太陽電池特性(特に光電変換効率)を向上させるとともに,電子収集に優れる多孔質電子輸送層とすることができる。
【0069】
電子輸送層は,酸化チタン,酸化スズ等の金属酸化物からなる層であってもよい。なお,金属化合物が半導体である場合,半導体を使用する場合には,ドナーをドープすることもできる。これにより,電子輸送層がペロブスカイト層(光吸収層)に導入するための窓層となり,且つ,ペロブスカイト層(光吸収層)から得られた電力をより効率よく取り出すことができる。
【0070】
電子輸送層の厚みは,特に制限されず,ペロブスカイト層(光吸収層)からの電子をより収集できる観点から,10~300nm程度が好ましく,10~250nm程度がより好ましい。電子輸送層は,成形する材料に応じて公知の成膜方法を用いて得ることができる。例えば,(正孔)ブロッキング層の上に,5~50質量%(特に10~30質量%)の酸化チタンペーストのアルコール溶液(例えばエタノール溶液等)を塗布して作製することができる。酸化チタンペーストは公知又は市販品を用いることができる。塗布の方法は,スピンコート法が好ましい。なお,塗布は例えば15~30℃程度で行うことができる。
【0071】
2.3.ペロブスカイト層(光吸収層)
ペロブスカイト型太陽電池におけるペロブスカイト層(光吸収層)は,光を吸収し,励起された電子を移動させることにより,光電変換を行う層である。ペロブスカイト層(光吸収層)は,ペロブスカイト材料や,ペロブスカイト錯体を含む。ペロブスカイト層は,先に説明した方法に基づいて製造すればよい。ペロブスカイト層は,ロール・トゥ・ロールによる大量生産を実現することが好ましい。混合液をスピンコート,ディップコート,スクリーン印刷法,ロールコート,ダイコート法,転写印刷法,スプレー法,スリットコート法等,好ましくはスピンコートにより基板上に塗布することが好ましい。
【0072】
ペロブスカイト層(光吸収層)の膜厚は,光吸収効率と励起子拡散長とのバランス及び透明電極で反射した光の吸収効率の観点から,例えば,50~1000nmが好ましく,200~800nmがより好ましい。なお,本発明のペロブスカイト層(光吸収層)の膜厚は,100~1000nmの範囲内であることが好ましく,250~500nmの範囲内であることがより好ましい。具体的には,本発明のペロブスカイト層(光吸収層)の膜厚の下限値が100nm以上(特に250nm)以上であり,上限値が1000nm以下(特に500nm以下)であることが好ましい。本発明のペロブスカイト層(光吸収層)の膜厚は,本発明の錯体からなる膜の断面走査型電子顕微鏡(断面SEM)により測定する。
【0073】
また,本発明のペロブスカイト層(光吸収層)の平坦性は,走査型電子顕微鏡により測定した表面の水平方向500nm×500nmの範囲において高低差が50nm以下(-25nm~+25nm)であるものが好ましく,高低差が40nm以下(-20nm~+20nm)がより好ましい。これにより,光吸収効率と励起子拡散長とのバランスをより取りやすくし,透明電極で反射した光の吸収効率をより向上させることができる。なお,ペロブスカイト層(光吸収層)の平坦性とは,任意に決定した測定点を基準点とし,測定範囲内において最も膜厚が大きいところとの差を上限値,最も小さいところとの差を下限値としており,本発明のペロブスカイト層(光吸収層)の断面走査型電子顕微鏡(断面SEM)により測定する。
【0074】
2.4.正孔輸送層
正孔輸送層は,電荷を輸送する機能を有する層である。正孔輸送層には,例えば,導電体,半導体,有機正孔輸送材料等を用いることができる。当該材料は,ペロブスカイト層(光吸収層)から正孔を受け取り,正孔を輸送する正孔輸送材料として機能し得る。正孔輸送層はペロブスカイト層(光吸収層)上に形成される。当該導電体及び半導体としては,例えば,CuI,CuInSe2,CuS等の1価銅を含む化合物半導体;GaP,NiO,CoO,FeO,Bi2O3,MoO2,Cr2O3等の銅以外の金属を含む化合物が挙げられる。なかでも,より効率的に正孔のみを受け取り,より高い正孔移動度を得る観点から,1価銅を含む半導体が好ましく,CuIがより好ましい。有機正孔輸送材料としては,例えば,ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT),ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体;2,2’,7,7’-テトラキス-(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレン(spiro-OMeTAD)等のフルオレン誘導体;ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール誘導体;ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン](PTAA)等のトリフェニルアミン誘導体;ジフェニルアミン誘導体;ポリシラン誘導体;ポリアニリン誘導体等が挙げられる。なかでも,より効率的に正孔のみを受け取り,より高い正孔移動度を得る観点から,トリフェニルアミン誘導体,フルオレン誘導体等が好ましく,PTAA,spiro-OMeTADなどがより好ましい。
【0075】
正孔輸送層中には,正孔輸送特性をさらに向上させることを目的として,リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(LiTFSI),銀ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド,トリフルオロメチルスルホニルオキシ銀,NOSbF6,SbCl5,SbF5等の酸化剤を含むこともできる。また,正孔輸送層中には,t-ブチルピリジン(TBP),2-ピコリン,2,6-ルチジン等の塩基性化合物を含むこともできる。酸化剤及び塩基性化合物の含有量は,従来から通常使用される量とすることができる。正孔輸送層の膜厚は,より効率的に正孔のみを受け取り,より高い正孔移動度を得る観点から,例えば,30~200nmが好ましく,50~100nmがより好ましい。正孔輸送層を成膜する方法は,例えば,乾燥雰囲気下で行うことが好ましい。例えば,有機正孔輸送材料を含む溶液を,乾燥雰囲気下,ペロブスカイト層(光吸収層)上に塗布(スピンコート等)し,30~150℃(特に50~100℃)で加熱することが好ましい。
【0076】
2.5.金属電極
金属電極は,透明電極に対向配置され,正孔輸送層の上に形成されることで,正孔輸送層と電荷のやり取りが可能である。金属電極としては,当業界で用いられる公知の素材を用いることが可能であり,例えば,白金,チタン,ステンレス,アルミニウム,金,銀,ニッケル等の金属又はこれらの合金が挙げられる。これらの中でも金属電極は,乾燥雰囲気下で電極を形成することができる点から,蒸着等の方法で形成できる材料が好ましい。
上記層構成以外の構成を有するペロブスカイト型太陽電池についても,同様の方法により,製造することができる。
【0077】
3.有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)
有機EL素子は,例えば特開2017-123352号公報,特開2015-071619号公報に記載される通り,公知の素子であり,その製造方法も公知である。有機EL素子の例は,基板と,陽極と,陰極と,陽極と陰極との間に配置された有機層と,を有する。 そして,有機層は,陽極側から順に,正孔注入層,正孔輸送層,発光層,電子輸送層,および電子注入層が,この順番で積層されて構成される。本発明の化合物は,電子輸送層における電子輸送材料として用いることができる。有機EL素子は,ペロブスカイト層を含むペロブスカイト型発光素子の例である。本発明は,ペロブスカイト層を含むペロブスカイト型発光素子やその製造方法をも提供する。
【0078】
4.本発明は,太陽電池の製造方法をも提供する。この方法は,先に説明したペロブスカイト層の製造方法を用いて,基板上に,電子輸送(ブロッキング)層を形成する工程と,電子輸送層上にペロブスカイト層を形成する工程と,ペロブスカイト層上にホール輸送層を形成する工程と,ホール輸送層上に電極を形成する工程とを含む。本発明は,ペロブスカイト層を含むペロブスカイト型太陽電池をも提供する。
【実施例】
【0079】
太陽電池特性であるJ-V特性及びIPCEスペクトルを,それぞれ,分光計器社製のOTENTO-SUN-P1G型ソーラー光照射光源装置及びSM-250型分光感度測定装置を用いて測定した。HITACHI S4800を用いてSEM像を測定した。
スーパーコンティニウム光源(Fianium社)から得られた510 nmの波長のピコ秒レーザーを励起光として用い,アバランシェフォトダイオード(iDQ社)および時間相関単一光計測ボード(BeckerアンドHickl社)を用いて発光を検出記録し蛍光寿命特性を求めた。
【0080】
試験例1:ITOガラス基板上に成膜したPEDOT:PSS(PEDOT:PSS/ITO
ガラス基板)
亜鉛粉末と6N 塩酸を用いてパターン化したITOガラス基板(ジオマティク,5 Ω,0001)を,中性洗剤,アセトン,2-プロパノールの順でそれぞれ10分間超音波洗浄した。エアガンを用いて基板を乾燥した後,15分間のUVオゾン洗浄を行った。得られたITOガラス基板上に,PEDOT:PSS水溶液 (Heraeus社製,Clevious P VP. AI 4083)を500 μLのせ,スピンコートした(slope 1 s, 500 rpm for 9 s, slope 1 s, 4000 rpm for 60 s, slope 1 s)。その後,140 ℃で20分間アニールすることで,20~30 nmの膜厚のPEDOT:PSS層を成膜した。
【0081】
試験例2:ペロブスカイト層を成膜
グローブボックス内にてSnI2 (595 mg, 1.6 mmol),FAI (206
mg, 1.2 mmol),MAI (63 mg, 0.4 mmol),SnF2 (25
mg, 0.16 mmol) を超脱水DMSO (2.0 mL) に45 ℃にて溶解させた。一時間45 ℃にて撹拌後,PTFEフィルターを用いて濾過し,FA0.75MA0.25SnI
3の0.8 M溶液を調製した。この溶液をPEDOT:PSS/ITOガラス基板上に200 μLのせ,スピンコートした(slope 5 s, 5000 rpm for 90 s, slope 5s)。基板を5000 rpm で60秒間回転した後,クロロベンゼンを500 μL滴下したところ,ペロブスカイト層は褐色へと変色した。その後,5000 rpmでさらに30秒間回転させるうちに褐色のペロブスカイトが無色透明へと変色した。その後5秒間かけて基板の回転を止めた。得られた無色透明膜をホットプレート上で,アニール(100 °C,10 min)することで,黒色のペロブスカイト膜を得た。
【0082】
試験例3:試験例2の改善(早く止めた)
クロロベンゼン滴下後,変色する前にスピンコートを止めることで,退色を抑制方法(sl
ope 5 s, 5000 rpm for 60 s, slope 5s))の開発
グローブボックス内にてSnI2 (595 mg, 1.6 mmol),FAI (206 mg, 1.2 mmol),MAI (63
mg, 0.4 mmol),SnF2 (25 mg, 0.16 mmol) を超脱水DMSO (2.0 mL) に45 °Cにて溶解させた。一時間45 °Cにて撹拌後,PTFEフィルターを用いて濾過し,FA0.75MA0.25SnI3の0.8 M溶液を調製した。この溶液をPEDOT:PSS/ITOガラス基板上に200 μLのせ,スピンコートした(slope 5 s, 5000 rpm for 60 s, slope 5s)。5000 rpm で60秒間経過時にクロロベンゼンを500 μL滴下したところ,ペロブスカイト層は褐色へと変色した。滴下直後に減速し,5秒間かけてスピンを止めた。得られた褐色膜をホットプレートにのせ,アニール(100 °C 10 min)することで,黒色のペロブスカイト膜を得た。
【0083】
試験例4:デバイスの作成
試験例2及び3で得たペロブスカイト膜に,C
60 (50 nm (rate: 0.1 オングストローム/s 0-10 nm, 0.2 オングストローム/s 10-20 nm, 0.5-1.0 オングストローム/s 20-50 nm)), BCP (8 nm (rate: 0.1-0.2 オングストローム/s 0-8 nm)), Ag (100 nm (rate: 0.1 オングストローム/s 0-10 nm, 0.2 オングストローム/s 10-20 nm, 0.5-1.0 オングストローム/s 20-100 nm))を真空蒸着にて積層させ,Snペロブスカイト太陽電池素子を作製した。これらの太陽電池素子を不活性ガス雰囲気下で,太陽電池特性(J-V)を評価した。
図1は,試験例1で作成したペロブスカイト層を有するSnペロブスカイト太陽電池素子の特性を示す図である。
図2は,試験例2(実施例)で作成したペロブスカイト層を有するSnペロブスカイト太陽電池素子の特性を示す図である。
図3は,試験例1で作成したペロブスカイト層を有するSnペロブスカイト太陽電池素子の断面のSEM写真を示す図面に替わる写真である
【0084】
図1に示されるように,試験例1で作成したペロブスカイト層を有するSnペロブスカイト太陽電池素子は最大でも2%程度の効率しか得られず,0%効率の場所も存在するなど,同一素子内でも特性のばらつきが大きかった。
図3に示されるように,試験例1で作成したペロブスカイト層を有するSnペロブスカイト太陽電池素子は,断面SEM観察によって,下地層のPEDOT:PSS層と上地層のC
60層が接触しているポイントが多く見られた。断面SEMの結果,ペロブスカイト層の膜厚は0-160 nmであることが明らかとなった。
【0085】
一方,
図2に示されるように,,試験例2(実施例)で作成したペロブスカイト層を有するSnペロブスカイト太陽電池素子は,平均2%程度の効率がえられ,同一素子内の異なる電極間のばらつきが比較的小さかった。
【0086】
試験例5:クロロベンゼンの温度効果 表面SEM観察
グローブボックス内にてSnI2 (1788 mg, 4.8 mmol; Aldrich),FAI (619 mg, 3.6 mmol),MAI (191 mg, 1.2 mmol),SnF2 (75 mg, 0.48 mmol) を超脱水DMSO (6.0 mL) に45 °Cにて溶解させた。一時間撹拌後,PTFEフィルターを用いて濾過し,FA0.75MA0.25SnI3の0.8 M溶液を調製した。この溶液をPEDOT:PSS/ITOガラス基板上に200 μLのせ,スピンコートした(slope 5 s, 5000 rpm for 60 s, slope 1s)。5000 rpmの回転速度で 58秒経過時に室温または,ホットプレートを用いてそれぞれ45, 65, 85, 100 °Cに温めたクロロベンゼンを300 μL滴下した。その後,得られた膜をアニール(45 °Cで 10分, 65 °Cで>10分以上, 100 °Cで 10分)することで,黒色のペロブスカイト膜を得た。
【0087】
図4は,試験例5のうち室温(rt)のクロロベンゼンを滴下して得られたペロブスカイト膜の図面に替わるSEM写真である。
図4に示されるように,得られた膜のSEM観察を行ったところ,室温のクロロベンゼンの滴下によって作製したペロブスカイト層では多くの欠陥が見られ,SEM画像の面積から算出した表面被覆率は90%程度だった。
図5は,左から室温(rt),45, 65, 85, 及び100 °Cに温めたクロロベンゼンを滴下して作成されたペロブスカイト層の図面に替わるSEM写真である。
図5に示されるように,45~100 °Cのクロロベンゼンを滴下することによって作製したペロブスカイト層では,比較的平坦性が高く,高い被覆率を有していた。10 μm角の範囲においてSEM画像の面積から算出した表面被覆率は,滴下したクロロベンゼンが45 °Cの場合98%,65~100 °Cの場合990%であった。それぞれの膜に対して蛍光寿命測定を行ったところ,全て4 ns程度の蛍光寿命であった。
【0088】
試験例6:クロロベンゼンの温度依存 デバイス効率
試験例5で得られたペロブスカイト膜に,C
60 (50 nm (rate: 0.1 オングストローム/s
0-10 nm, 0.2 オングストローム/s 10-20 nm, 0.5-1.0 オングストローム/s 20-50 nm)), BCP (8 nm (rate: 0.1-0.2 オングストローム/s 0-8 nm)), Ag (100 nm (rate: 0.1 オングストローム/s 0-10 nm, 0.2 オングストローム/s 10-20 nm, 0.5-1.0
オングストローム/s 20-100 nm))を真空蒸着にて積層させ,Snペロブスカイト太陽電池素子を作製した。これらの太陽電池素子を不活性ガス雰囲気下で,太陽電池特性(J-V)を評価した。その結果を
図6に示す。
図6は,太陽電池特性を示す図である。
図6上部のグラフにおいて,電流密度が0の地点の電圧値が低い方からrt(室温),100℃,85℃,45℃及び65℃である。得られた太陽電池素子の中で,45, 65, 85 °Cのクロロベンゼン滴下によって作製したペロブスカイト層は,室温で作製したものより効率の向上が確認された。100 °Cのクロロベンゼン滴下によって作製したペロブスカイト層において効率の低下が見られたが,これは下地のPEDOT:PSS層にダメージ(部分的に溶解)を与えているものと考えられる。
【0089】
このことから,滴下するクロロベンゼンの温度は45 ℃~100 ℃が望ましく, 50 ℃~85 ℃がより好ましく,ペロブスカイト層の下地層(PEDOT:PSS)にダメージが少ないという点から, 50 ℃~70 ℃が特に好ましいといえる。本手法は,ペロブスカイト溶液として,DMSO溶媒に限らず,DMF混合溶媒やDMF溶媒など,様々な溶媒を用いた場合でも効果が見られた。
【0090】
試験例7:DMSO/DMF = 2/1混合溶媒における貧溶媒の温度効果
グローブボックス内にてSnI2 (298 mg, 0.8 mmol),FAI (103 mg, 0.6 mmol),MAI (32 mg, 0.2 mmol),SnF2 (13 mg, 0.08 mmol) を超脱水DMSO (667 μL)と超脱水DMF (333 μL) に45 °Cにて溶解させた。一時間45 °Cにて撹拌後,PTFEフィルターを用いて濾過し,FA0.75MA0.25SnI3の0.8 M溶液を調製した。この溶液をPEDOT:PSS基板上に200 μL乗のせ,スピンコートした(slope 5 s, 5000 rpm for 60 s, slope 1 s)。5000 rpm で58秒経過時に室温もしくはホットプレートを用いて65°Cに温めたロロベンゼンを300 μL滴下したところ,ペロブスカイト層は褐色へと変色した。得られた褐色膜をホットプレートに乗せ,アニール(45 °C 10 min, 65 °C >10 min, 100 °C 10 min)することで,黒色のペロブスカイト膜を得た。
【0091】
図7は,試験例7におけるSEM写真及び蛍光寿命の測定結果を示す。
図7左上は,室温のSEM写真を示し,
図7左下は65℃におけるSEM写真を示す。右のグラフにおいて,下部に位置するグラフが室温のものである。
図7に示されるように,得られた膜のSEM観察を行ったところ,室温クロロベンゼン滴下によって作製したペロブスカイト層は多くの欠陥が見られた。一方で,65 °Cクロロベンゼン滴下によって作製したペロブスカイト層は平坦性が高く,高い被覆率を有していた。それぞれの膜に対して蛍光寿命測定を行ったところ,室温クロロベンゼン滴下によって作製したペロブスカイト層の蛍光寿命は2.8 nsであったのに対し,65 °Cクロロベンゼン滴下によって作製したペロブスカイト層の蛍光寿命は3.4 nsと少し長寿命化していた。
【0092】
試験例8:DMSO/DMF = 1/2混合溶媒における貧溶媒の温度効果
グローブボックス内にてSnI2 (298 mg, 0.8 mmol),FAI (103 mg, 0.6 mmol),MAI (32 mg, 0.2 mmol),SnF2 (13 mg, 0.08 mmol) を超脱水DMSO (333 μL)と超脱水DMF (667 μL) に45 °Cにて溶解させた。一時間45 °Cにて撹拌後,PTFEフィルターを用いて濾過し,FA0.75MA0.25SnI3の0.8 M溶液を調製した。この溶液をPEDOT:PSS/ITOガラス基板上に200
μLのせ,スピンコートした(slope 5 s, 5000 rpm for 60 s, slope 1 s)。5000 rpmの回転速度で 58秒経過時に,室温もしくはホットプレートを用いて65°Cに温めたクロロベンゼンを300 μL滴下したところ,ペロブスカイト層は褐色へと変色した。得られた褐色膜をホットプレートにのせ,アニール(45 °C 10 min, 65 °C >10 min, 100 °C 10 min)することで,黒色のペロブスカイト膜を得た。
【0093】
図8は,試験例8におけるSEM写真及び蛍光寿命の測定結果を示す。
図8左上は,室温のSEM写真を示し,
図8左下は65℃におけるSEM写真を示す。右のグラフにおいて,下部に位置するグラフが室温のものである。得られた膜のSEM観察を行ったところ,室温クロロベンゼン滴下によって作製したペロブスカイト層は多くの欠陥が見られた。一方で,65 °Cクロロベンゼン滴下によって作製したペロブスカイト層は平坦性が高く,高い被覆率を有していた。それぞれの膜に対して蛍光寿命測定を行ったところ,室温クロロベンゼン滴下によって作製したペロブスカイト層の蛍光寿命は3.2 nsであったのに対し,65 °Cクロロベンゼン滴下によって作製したペロブスカイト層の蛍光寿命は4.3 nsと少しだけ長寿命化していた。
【0094】
試験例9:DMF溶媒における貧溶媒の温度効果
グローブボックス内にてSnI2 (298 mg, 0.8 mmol),FAI (103 mg, 0.6 mmol),MAI (32 mg, 0.2 mmol),SnF2 (13 mg, 0.08 mmol) を超脱水DMF (1.0 mL) に45 °Cにて溶解させた。一時間45 °Cにて撹拌後,PTFEフィルターを用いて濾過し,FA0.75MA0.25SnI3の0.8 M溶液を調製した。この溶液をPEDOT:PSS/ITOガラス基板上に200 μLのせ,スピンコートした(slope 5 s, 5000 rpm for 60 s, slope 1 s)。5000 rpmの回転速度で 58秒経過時に,室温もしくはホットプレートを用いて65 °Cに温めたクロロベンゼンを300 μL滴下したところ,ペロブスカイト層は褐色へと変色した。得られた褐色膜をホットプレートに乗せ,アニール(45 °C 10 min, 65 °C >10 min, 100 °C 10 min)することで,黒色のペロブスカイト膜を得た。
【0095】
図9は,試験例9におけるSEM写真及び蛍光寿命の測定結果を示す。
図9左上は,室温のSEM写真を示し,
図9左下は65℃におけるSEM写真を示す。右のグラフにおいて,下部に位置するグラフが室温のものである。得られた膜のSEM観察を行ったところ,室温クロロベンゼン滴下によって作製したペロブスカイト層は多くの欠陥が見られたのと同時に,SnF
2がペロブスカイト膜上に析出しているのが確認された。一方で,65 °Cクロロベンゼン滴下によって作製したペロブスカイト層は比較的平坦性が高く,比較的高い被覆率を有していた。室温クロロベンゼン滴下によって作製したペロブスカイト層と同様に,SnF
2がペロブスカイト膜上に析出しているのが確認された。それぞれの膜に対して蛍光寿命測定を行ったところ,室温クロロベンゼン滴下によって作製したペロブスカイト層の蛍光寿命は2.5 nsであったのに対し,65 °Cクロロベンゼン滴下によって作製したペロブスカイト層の蛍光寿命は3.3 nsと少し長寿命化していた。
【0096】
試験例10:65 °Cクロロベンゼンを用いた際の最高効率デバイス効率
グローブボックス内にてSnI2 (671 mg, 1.8 mmol; Aldrich),FAI (232 mg, 1.35 mmol),MAI (72 mg, 0.45 mmol),SnF2 ( 28 mg, 0.18 mmol) を超脱水DMSO (2.0 mL) に45 °Cにて溶解させた。30分間撹拌後,PTFEフィルターを用いて濾過し,FA0.75MA0.25SnI3の溶液を調製した。この溶液をPEDOT:PSS/ITOガラス基板上に200 μLのせ,スピンコートした(slope 5 s, 5000 rpm for 60 s, slope 1s)。5000 rpmの回転速度で 58秒経過時に,ホットプレートを用いて65°Cに温めたクロロベンゼンを300 μL滴下した。その後,得られた膜をアニール(45 °C 10 min, 65 °C >10 min, 100 °C 10 min)することで,黒色のペロブスカイト膜を得た。得られた膜のSEM観察を行ったところ,高い被覆率を有していた。また,得られたペロブスカイト膜に,C60 (50 nm (rate: 0.1 オングストローム/s 0-10 nm, 0.2 オングストローム/s 10-20 nm, 0.5-1.0 オングストローム/s 20-50 nm)), BCP (8 nm (rate: 0.1-0.2 オングストローム/s 0-8 nm)), Ag (100 nm (rate: 0.1 オングストローム/s 0-10 nm, 0.2 オングストローム/s 10-20 nm, 0.5-1.0 オングストローム/s 20-100 nm))を真空蒸着にて積層させ,Snペロブスカイト太陽電池素子を作製した。
【0097】
得られたペロブスカイト太陽電池において,電流密度-電圧特性を測定した。
図10は,試験例10(実施例)における電流密度-電圧特性を示す図面に替わるグラフである。
図11は,ペロブスカイト太陽電池の特性を示す表である。短絡電流密度J
SC = 19.05 mA
cm
-2,開放電圧V
OC = 0.53V,曲線因子FF = 0.71となり,光電変換効率(PCE)は 7.09%であった。また,得られたペロブスカイト太陽電池の作用スペクトル(EQEスペクトル)を測定した。
図12は,IQE,EQEスペクトルを示す図面に替わるグラフである。グラフの上部からIQE,EQE及び参照が示されている。EQEスペクトルより求めた短絡電流密度(Jsc)は,18.3 mAcm
-2であった。得られた太陽電池セルの断面SEM像を観察した。その結果を
図13に示す。
図13は,試験例10により得られた太陽電池の断面SEM写真である。ペロブスカイト層の膜厚は120~200 nmであった。
図14は,試験例10により得られたペロブスカイト層のSEM写真である。
図14に示される通り,このペロブスカイト層は,粒子で充填されており,平坦であった。
【0098】
試験例11:アニール時のDMSO 蒸気制御の効果
方法 1:FA0.75MA0.25SnI3の溶液のスピンコート直後に,ホットプレート上でガラス製のペトリディッシュを基板上に被せ,アニール(45 °C 10 min, 65 °C >10 min)を行った。続いてペトリディッシュを外し,100 °Cで10分間アニールした。
【0099】
方法 2:ホットプレート上で,1 μLのDMSOを入れたプラスチック製容器をガラス製ペトリディッシュで被せ,2分以上待ち,DMSOの飽和蒸気環境を整えた。FA0.75MA0.25SnI3の溶液のスピンコート直後に,基板をホットプレート上で準備したガラス製ペトリディッシュ中に入れて,45 °Cにて10秒間もしくは30秒間アニールを行った。その後,別のホットプレート上に移し,基板のみを新たなペトリディッシュで被せてアニール(45 °C 10 min, 65 °C >10 min)を行った。続いてペトリディッシュを外し,100 °Cで10分間アニールした。
【0100】
試験例12:アニール時のDMSO 蒸気制御の効果_SEM
得られた膜のSEM観察を行った。
図15は未処理のものの図面に替わるSEM画像である。
図16は,方法1のものの図面に替わるSEM画像である。
図17は,方法1+方法2(10秒)のものの図面に替わるSEM画像である。
図18は,方法1+方法2(130秒)のものの図面に替わるSEM画像である。ところ,方法 1により得られた膜は,未処理(参照)と比べて,グレンサイズの向上が見られた。(表面SEM像から見積もった平均グレンサイズは 参照:237 nm,方法 1:328 nm)。さらに,「方法 1 + 方法 2 for 10 s」より得られた膜は,更にグレンサイズが向上し,「方法 1 + 方法 2 for 30 s」より得られた膜は最も大きな平均グレンサイズであった。(平均グレンサイズ 「方法 1 + 方法 2 for 10 s」:394 nm,「方法 1 + 方法 2 for 30 s」:440 nm)
【0101】
試験例13:アニール時のDMSO 蒸気制御の効果と太陽電池測定
それぞれ得られたペロブスカイト膜に,C60 (50 nm (rate: 0.1 オングストローム/s 0-10 nm, 0.2 オングストローム/s 10-20 nm, 0.5-1.0 オングストローム/s 20-50 nm)), BCP (8 nm (rate: 0.1-0.2 オングストローム/s 0-8 nm)), Ag (100 nm (rate:
0.1 オングストローム/s 0-10 nm, 0.2 オングストローム/s 10-20 nm, 0.5-1.0 オングストローム/s 20-100 nm))を真空蒸着にて積層させ,Snペロブスカイト太陽電池素子を作製した。素子の効率を比較した結果を下表に示す。
【0102】
【0103】
表中,Methodは方法,Referenceは参照,Championはチャンピオンデータ(最良データ),Averageは平均(平均値±標準偏差)を示す。
【0104】
試験例14 ペロブスカイト膜の蛍光スペクトル
試験例3と同様の方法で作製した0.8M のFA
0.75MA
0.25SnI
3のDMSO溶液を,石英ガラス基板上に200 μLのせ,スピンコートした(slope 5 s, 5000 rpm for 60 s, slope 1 s)。5000 rpmの回転速度で 58秒経過時に, 65°Cに温めたクロロベンゼンを350 μLスピンコート中に滴下した。得られた膜をホットプレートにのせ,アニール(45 °Cで10分間加熱, 65 °Cで10分間加熱, 100 °Cで10分間加熱)することで,ペロブスカイト膜を得た。その後,得られたペロブスカイト膜に対して,蛍光スペクトルを測定した(励起光510 nm)。蛍光スペクトルを
図19に示す(発光ピーク波長 909.8 nm, FWHM(半値全幅) 274 meV)。
図19において,横軸は波長(nm)であり,縦軸は強度(最大値を1としたもの)である。
【0105】
試験例15 FASnBr
3
without HAT法(rt,従来法)
グローブボックス内にてSnBr
2 (501.3 mg, 1.8 mmol),FABr (224.9 mg, 1.8 mmol),SnF
2 (28.2 mg, 0.18 mmol) を超脱水DMSO (2.0 mL) に45 °Cにて溶解させた。20分間45 °Cにて撹拌後,PTFEフィルターを用いて濾過し,FASnBr
3前駆体溶液を調製した。
これを石英ガラス基板上に約200 μL塗布し,スピンコートし,その最中に室温のクロロベンゼンを300 μL滴下し,黄色の膜を得た(スロープ5秒で5000 rpm にし,さらに60秒間スピンコートした最後の2秒から1秒の間でクロロベンゼンを滴下し,スロープ1秒で停止させた(上記試験例14と同様の塗布及び滴下))。得られた黄色膜を,45 ℃で10分間,65 ℃で10~30分間アニールし,その後100 ℃で10分間アニールして,黄色のペロブスカイト層を作製した。得られたFASnBr
3ペロブスカイト膜のSEM像を
図20に示す。
【0106】
試験例16 FASnBr
3
with HAT法(65 ℃)
グローブボックス内にてSnBr2 (501.3 mg, 1.8 mmol),FABr (224.9 mg, 1.8 mmol),SnF2 (28.2 mg, 0.18 mmol) を超脱水DMSO (2.0 mL) に45 °Cにて溶解させた。20分間45 °Cにて撹拌後,PTFEフィルターを用いて濾過し,FASnBr3前駆体溶液を調製した。
【0107】
これを石英ガラス基板上に約200 μL塗布し,スピンコートし,その最中に65 °Cに加温したクロロベンゼンを300 μL滴下し,黄色の膜を得た(スロープ5秒で5000 rpm にし,さらに60秒間スピンコートした最後の2秒から1秒の間でクロロベンゼンを滴下し,スロープ1秒で停止させた(上記試験例14および15と同様の塗布及び滴下))。得られた黄色膜を,45 ℃で10分間,65 ℃で10~30分間アニールし,その後100 ℃で10分間アニールして,黄色のペロブスカイト層を作製した。得られたHAT法(65 ℃のクロロベンゼンを滴下)で作製したFASnBr
3ペロブスカイト膜のSEM像を
図21に示す。
【0108】
得られた膜のSEM観察を行ったところ,室温クロロベンゼン滴下によって作製したFASnBr
3ペロブスカイト層は多くの欠陥が見られた。一方で,65 °Cクロロベンゼン滴下によって作製したFASnBr
3ペロブスカイト層は平坦性が高く,高い被覆率を有していた。
得られたFASnBr
3ペロブスカイト膜(HAT法)の蛍光スペクトルを測定した。FASnBr
3ペロブスカイト膜(HAT法)の蛍光スペクトル(励起波長 444 nm, (励発光ピーク波長 569.4
nm, FWHM(半値全幅) 201.7 meV))を
図22に示す。
図22において,横軸は波長(nm)であり,縦軸は強度(最大値を1としたもの)である。
【0109】
試験例17 MASnBr3 with HAT法(65 ℃)
グローブボックス内にてSnBr2 (501.3 mg, 1.8 mmol),MABr (201.6 mg, 1.8 mmol),SnF2 (28.2 mg, 0.18 mmol) を超脱水DMSO (2.0 mL) に45 °Cにて溶解させた。20分間45 °Cにて撹拌後,PTFEフィルターを用いて濾過し,MASnBr3前駆体溶液を調製した。
これを石英ガラス基板上に約200 μL塗布し,スピンコートし,その最中に65 °Cに加温したクロロベンゼンを300 μL滴下し,橙色の膜を得た(スロープ5秒で5000 rpm にし,さらに60秒間スピンコートした最後の2秒から1秒の間でクロロベンゼンを滴下し,スロープ1秒で停止させた(上記試験例14~16と同様の塗布及び滴下))。得られた橙色膜を,45 ℃で10分間,65 ℃で10~30分間アニールし,その後100 ℃で10分間アニールして,橙色のペロブスカイト層を作製した。
【0110】
得られたMASnBr
3ペロブスカイト膜(HAT法)の蛍光スペクトルを測定した。 MASnBr
3ペロブスカイト膜(HAT法)の蛍光スペクトル(励起波長 444 nm, (励発光ピーク波長 582.9
nm, FWHM(半値全幅) 164.0 meV))を
図23に示す。
図23において,横軸は波長(nm)であり,縦軸は強度(最大値を1としたもの)である。
【0111】
考察
上記したペロブスカイト層の製造方法が,FAxMA1-xSnI3,FASnBr3,MASnBr3など様々なSn系ペロブスカイト膜の成膜に有用であり,これらが発光材料として利用できる可能性を示した。また,ペロブスカイト層の製造方法により作製されたペロブスカイト層の被覆率が高く,発光素子として使用する際にたとえば100nm以下に厚みを小さくした場合であっても,欠陥の少ないペロブスカイト層を得ることが可能であることを示した。
さらに,太陽電池素子への展開だけでなく,これらを発光材料として用いたEL素子へも展開可能であることを示した。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明は,ペロブスカイト層の製造方法などに関するため,太陽電池や有機EL素子を製造するための産業において利用されうる。