(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】ホットメルト組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 153/02 20060101AFI20231121BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20231121BHJP
B32B 27/02 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C09J153/02
C09J11/06
B32B27/02
(21)【出願番号】P 2020523108
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2019022078
(87)【国際公開番号】W WO2019235454
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2018107283
(32)【優先日】2018-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】305044143
【氏名又は名称】積水フーラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】染谷 悠
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-502291(JP,A)
【文献】特表2017-534481(JP,A)
【文献】特表2014-514390(JP,A)
【文献】特表2007-525575(JP,A)
【文献】特表2008-505988(JP,A)
【文献】特開2017-149954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)と、可塑剤(B)とを含むホットメルト組成物であって、
熱可塑性樹脂(A)は、スチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン共重合体(SEB/S-S)、及び、スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶共重合体(SEBC)からなる群より選択される少なくとも1種であり、
スチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン共重合体(SEB/S-S)のスチレン含有量は、スチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン共重合体(SEB/S-S)を100質量%として20~60質量%であり、
スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶共重合体(SEBC)のスチレン含有量は、スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶共重合体(SEBC)を100質量%として10~30質量%であり、
可塑剤(B)は、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、流動パラフィンオイル、及び、炭化水素系合成オイルからなる群より選択される少なくとも1種であり、
熱可塑性樹脂(A)の含有量は、ホットメルト組成物を100質量%として、40~75質量%であり、
可塑剤(B)の含有量は、ホットメルト組成物を100質量%として、5~60質量%であり、
温度-20~120℃、周波数(f)-0.2~2.0Hzの条件で動的粘弾性測定を行い、周波数(f)の対数(log(f))に対して、測定された貯蔵弾性率(G’)の対数(log(G’))、及び、測定された損失弾性率(G’’)の対数(log(G’’))をプロットし、基準温度を40℃として得られたマスターカーブにおいて、
(1)-6.0<log(f)<-1.0の範囲でのlog(G’’)が極大となる点におけるlog(f)の値が-2.5以下であり、且つ、
(2)log(f)の値が-4の場合に、(G’’/G’)で算出されるtanδの対数(log(tanδ))の値が0以下である、
ことを特徴とするホットメルト組成物。
【請求項2】
180℃での溶融粘度が5,000mPa・s以上45,000mPa・s以下である、請求項1に記載のホットメルト組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂(A)の含有量、及び、可塑剤(B)の含有量の合計は、ホットメルト組成物を100質量%として、45~99.5質量%である、請求項1又は2に記載のホットメルト組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のホットメルト組成物により形成されたフィルムの少なくとも片面に、不織布が接合されていることを特徴とする伸縮性積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットメルト組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紙おむつや生理用ナプキン等の衛生材料を含む吸収性物品が広く使用されている。これらの吸収性物品には、着用時のずれ落ち防止のために、伸縮性を有する部材で構成された伸縮性積層体が用いられている。
【0003】
伸縮性積層体に用いられる伸縮性を有する部材に、天然ゴムや合成高分子を糸状にした糸ゴムが知られている。糸ゴムは伸長時に良好な応力を示すため吸収性物品の着用時のずれ落ち防止に効果的である。
【0004】
また、吸収性物品に設けられる伸縮性積層体の伸縮部材として熱可塑性エラストマーを含む伸縮性フィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、熱可塑性エラストマーと親水性樹脂を含む伸縮性フィルムが開示されている。当該伸縮性フィルムによれば、透湿性、柔軟性に優れた、生理用品など吸収性物品に好適な伸縮性フィルムが提供される。
【0005】
また、ホットメルト接着剤塗布装置で使用できる伸縮性材料としてホットメルト伸縮性接着剤組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2には、ブタジエン重合体もしくはイソプレン重合体の水素添加重合体、又はエチレンプロピレン重合体より選択された1種以上の重合体である弾性重合体セグメントとポリスチレン重合体セグメントを含むブロック共重合体を含むホットメルト伸縮性接着剤組成物が開示されている。当該ホットメルト伸縮性接着剤組成物によれば、通常のホットメルトアプリケーターを使用して塗工可能であり、且つ、それ自体が接着性と伸縮性を合わせて有するので、不織布等の基材と積層することで、容易にギャザー部を形成することができるホットメルト接着剤が提供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-86367号公報
【文献】特許第2919385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、伸縮性積層体に用いられる伸縮性を有する部材として上述の糸ゴムを用いた場合、人の身体に線圧がかかるため、着用時の圧迫感やかぶれの原因になるという問題がある。また、衛生材料等の吸収性物品には細い糸ゴムが複数本使用されるため、吸収性物品の製造時に糸ゴムが切れやすく、しばしば吸収性物品の製造が困難となるという問題がある。
【0008】
特許文献1の伸縮性フィルムによれば、人の身体には面圧がかかるため糸ゴムを用いた際の上述の問題は解消されるが、当該伸縮性フィルムは、押し出し装置を用いて樹脂を成形することで製造されるため、通常のホットメルト塗布装置で塗工することができず、塗工性(形状加工性)が十分でないという問題がある。
【0009】
また、特許文献2のホットメルト伸縮性接着剤組成物によれば、通常のホットメルト塗布装置を用いることができるため、伸縮性部材としての塗工性は改善されるが、伸縮性の低下が十分に検討されていない。紙おむつ等の衛生材料が着用される際は、衛生材料に用いられる伸縮部材は延伸された状態で、体温に近い温度で長時間保持されることとなる。そのため、伸縮部材では、伸長された状態で加温されて保持されても、伸縮回復性の低下が抑制されていることが要求される。
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、伸長された状態で加温されて保持された後であっても、伸縮回復性の低下及び破断が抑制されており、且つ、通常のホットメルト塗布装置で塗工可能な塗工性に優れたホットメルト組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性樹脂(A)と、可塑剤(B)とを含むホットメルト組成物であって、特定の条件で動的粘弾性測定を行い、基準温度を40℃として得られたマスターカーブにおいて、(1)-6.0<log(f)<-1.0の範囲でのlog(G’’)が極大となる点におけるlog(f)の値が-2.5以下であり、且つ、(2)log(f)の値が-4の場合に、(G’’/G’)で算出されるtanδの対数(log(tanδ))の値が0以下であるホットメルト組成物によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記のホットメルト組成物に関する。
1.熱可塑性樹脂(A)と、可塑剤(B)とを含むホットメルト組成物であって、
温度-20~120℃、周波数(f)-0.2~2.0Hzの条件で動的粘弾性測定を行い、周波数(f)の対数(log(f))に対して、測定された貯蔵弾性率(G’)の対数(log(G’))、及び、測定された損失弾性率(G’’)の対数(log(G’’))をプロットし、基準温度を40℃として得られたマスターカーブにおいて、
(1)-6.0<log(f)<-1.0の範囲でのlog(G’’)が極大となる点におけるlog(f)の値が-2.5以下であり、且つ、
(2)log(f)の値が-4の場合に、(G’’/G’)で算出されるtanδの対数(log(tanδ))の値が0以下である、
ことを特徴とするホットメルト組成物。
2.180℃での溶融粘度が5,000mPa・s以上45,000mPa・s以下である、項1に記載のホットメルト組成物。
3.熱可塑性樹脂(A)の含有量が、ホットメルト組成物を100質量%として、40~75質量%である、項1又は2に記載のホットメルト組成物。
4.熱可塑性樹脂(A)は、スチレン系ブロック共重合体である、項1~3のいずれかに記載のホットメルト組成物。
5.スチレン系ブロック共重合体が、水素添加スチレン系ブロック共重合体である、項4に記載のホットメルト組成物。
6.項1~5のいずれかに記載のホットメルト組成物により形成されたフィルムの少なくとも片面に、不織布が接合されていることを特徴とする伸縮性積層体。
【発明の効果】
【0013】
本発明のホットメルト組成物は、伸長された状態で加温されて保持された後であっても、伸縮回復性の低下及び破断が抑制されており、且つ、通常のホットメルト塗布装置で塗工可能であり塗工性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.ホットメルト組成物
本発明のホットメルト組成物は、熱可塑性エラストマー(A)と、可塑剤(B)とを含むホットメルト組成物であって、
温度-20~120℃、周波数(f)-0.2~2.0Hzの条件で動的粘弾性測定を行い、周波数(f)の対数(log(f))に対して、測定された貯蔵弾性率(G’)の対数(log(G’))、及び、測定された損失弾性率(G’’)の対数(log(G’’))をプロットし、基準温度を40℃として得られたマスターカーブにおいて、
(1)-6.0<log(f)<-1.0の範囲でのlog(G’’)が極大となる点におけるlog(f)の値が-2.5以下であり、且つ、
(2)log(f)の値が-4の場合に、(G’’/G’)で算出されるtanδの対数(log(tanδ))の値が0以下である。本発明のホットメルト組成物は、上記(1)及び(2)の構成を備えることにより、伸長された状態で加温されて保持された後であっても、伸縮回復性の低下が抑制されており、優れた伸縮回復性を示すことができ、破断も抑制される。
【0015】
上記本発明のホットメルト組成物は、衛生材料等の吸収性物品に用いられる伸縮性積層体を形成する伸縮性部材として好適に用いることができる。
【0016】
なお、本明細書において「加温」とは、人の体温程度の温度にすることをいい、35~42℃程度、好ましくは35.5~41.5℃程度、より好ましくは36~41℃程度の温度を意味する。
【0017】
上記マスターカーブは、以下の方法により得ることができる。すなわち、ホットメルト組成物を180℃で加熱溶融して、離型処理されたPETフィルム上の離型層側の面に滴下する。次いで、離型処理された別のPETフィルムをホットメルト組成物上に、離型層側の面がホットメルト組成物に接触するようにして積層する。次いで、120℃に加熱した熱プレスで圧縮し、ホットメルト組成物の厚みが約2mmとなるように調整する。ホットメルト組成物をPETフィルム間に挟んだ状態で23℃にて24時間静置した後、離型フィルムを除去して動的粘弾性測定用のサンプルを調製する。
【0018】
当該サンプルを用いて、動的粘弾性測定装置の回転せん断モードで、温度-20℃から120℃、周波数0.2~2.0Hzの測定条件で動的粘弾性測定を行う。具体的には、温度-20℃の温度一定の条件下で周波数0.2~2.0Hzの回転せん断モードで貯蔵弾性率G’、及び損失弾性率G’’を測定する。10℃毎に同様の測定を120℃まで行う。測定した貯蔵弾性率G’、及び損失弾性率G’’の対数をとり、周波数の対数値(log(f))に対してプロットする。次いで、基準温度を40℃とし、log(G’)、log(G’’)、及びlog(tanδ)(=log(G’’/G’))に対してシフトファクターを設定してX軸方向へ平行移動させながら、それぞれが重なり合うようにしてlog(G’)、log(G’’)、及びlog(tanδ)のマスターカーブを作成する。
【0019】
得られたlog(G’’)のマスターカーブにおいて、-6.0<log(f)<-1.0の範囲にあるlog(G’’)が極大となる点におけるlog(f)の値を読み取って記録する。なお、上記マスターカーブにおいて、-6.0<log(f)<-1.0の範囲においてlog(G’’)が極大となる点がない場合は、上記範囲におけるlog(G’’)が最大となる点の値を読み取って記録する。また、得られたlog(tanδ)のマスターカーブにおいて、log(f)が-4.0のときのlog(tanδ)の値、及び、log(f)が-4.0のときのlog(tanδ)の値を読み取って記録する。
【0020】
なお、上記マスターカーブにおいて、周波数f(Hz)と時間s(秒)との間には以下の関係式が成り立つ。
f=1/2πs
また、log(f)=-4.0、及び、log(f)=-3.0は、それぞれ30分と3分に相当する。
なお、動的粘弾性測定装置としては特に限定されないが、例えば、ティーエーインスツルメント社製ローテェーショナルレオメーター(商品名「AR-G2」)等が挙げられる。
【0021】
本発明のホットメルト組成物では、上記方法により得られたマスターカーブにおいて、-6.0<log(f)<-1.0の範囲でのlog(G’’)が極大となる点におけるlog(f)の値が-2.5以下である。上記log(f)の値が-2.5を超えると、ホットメルト組成物の加温保持後の伸縮回復性が低下する。上記log(f)の値は、-2.7以下が好ましく、-2.9以下がより好ましい。また、上記log(f)の値の下限は特に限定されず、ホットメルト組成物の塗工性がより一層向上する点で、-6.0以上が好ましく、-5.8以上がより好ましい。
【0022】
-6.0<log(f)<-1.0の範囲でのlog(G’’)が極大となる点におけるlog(f)の値をより小さく調整するには、熱可塑性樹脂のエンドブロック相をより強固なものにすればよい。具体的には、スチレン含有量が高い熱可塑性樹脂を使用する、エンドブロックレジンによりスチレン系エンドブロック相を補強する、エンドブロック相同士を結合させる等の方法により、上記log(f)の値をより小さく調整することができる。さらに、重量平均分子量が高い熱可塑性樹脂を使用する、ホットメルト組成物中における熱可塑性樹脂の含有量を高くする等の方法によっても、上記log(f)の値をより小さく調整することができる。
【0023】
なお、上記マスターカーブにおいて、-6.0<log(f)<-1.0の範囲においてlog(G’’)が極大となる点がない場合は、上記範囲におけるlog(G’’)が最大となる点におけるlog(f)の値が上記範囲であればよい。
【0024】
本発明のホットメルト組成物では、上記方法により得られたマスターカーブにおいて、log(f)の値が-4の場合に、(G’’/G’)で算出されるtanδの対数(log(tanδ))の値が0以下である。(log(tanδ))の値が0を超えると、ホットメルト組成物の加温保持後の伸縮回復性が低下する。上記(log(tanδ))の値は、-0.05以下が好ましく、-0.1以下がより好ましい。また、上記(log(tanδ))の値の下限は特に限定されず、ホットメルト組成物の塗工性がより一層向上する点で、-1.0以上が好ましく、-0.9以上がより好ましい。
【0025】
log(f)の値が-4の場合に、(G’’/G’)で算出されるtanδの対数(log(tanδ))の値をより小さく調整するには、熱可塑性樹脂のエンドブロック相をより強固なものにすればよい。具体的には、スチレン含有量が高い熱可塑性樹脂を使用する、エンドブロックレジンによりスチレン系エンドブロック相を補強する、エンドブロック相同士を結合させる等の方法により、上記tanδの対数(log(tanδ))の値をより小さく調整することができる。さらに、重量平均分子量が高い熱可塑性樹脂を使用する、ホットメルト組成物中における熱可塑性樹脂の含有量を高くする等の方法によっても、上記tanδの対数(log(tanδ))の値をより小さく調整することができる。
【0026】
本発明のホットメルト組成物では、log(f)が-4の場合のlog(tanδ)の値と、log(f)が-3の場合のlog(tanδ)の値との差分が、0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましい。上記差分が上記範囲であることにより、ホットメルト組成物の加温保持後の伸縮回復性がより一層向上し、破断がより一層抑制される。また、上記差分の上限は特に限定されず、ホットメルト組成物の伸縮回復性の低下及び破断の抑制がより一層向上する点で、0.6以下が好ましく、0.5以下がより好ましい。
【0027】
(熱可塑性樹脂(A))
熱可塑性樹脂(A)は、ホットメルト組成物が上記(1)及び(2)の条件を満たすことができれば特に限定されず、より一層伸縮性に優れる点で熱可塑性エラストマーが好ましい。また、上記熱可塑性樹脂(A)として、反応性を有する熱可塑性樹脂を用いることができる。このような反応性を有する熱可塑性樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂の分子内に反応性ポリスチレン系ハードブロックを有するスチレン系ブロック共重合体を含有する熱可塑性樹脂が挙げられる。このような熱可塑性樹脂を用いることにより、更に、光重合開始剤を含有することで、ホットメルト組成物に紫外線等の光を照射して反応性ポリスチレン系ハードブロックを反応させ、分子を架橋させて、ホットメルト組成物の動的粘弾性等の性状を調整することができる。
【0028】
熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系ブロック共重合体、オレフィン系ブロック共重合体、オレフィン系ランダム共重合体、ウレタン系ブロック共重合体、ポリエステル系ブロック共重合体等が挙げられる。これらの中でも、スチレン系ブロック共重合体が好ましく、特に、スチレン系ブロック共重合体の水素添加物である水素添加スチレン系ブロック共重合体を含むものがより好ましい。スチレン系ブロック共重合体の水素添加物とは、ビニル系芳香族炭化水素と共役ジエン化合物とをブロック共重合し、得られたブロック共重合体における共役ジエン化合物に基づくブロックの全部又は一部が水素添加されたブロック共重合体をいう。
【0029】
ビニル系芳香族炭化水素は、ビニル基を有する芳香族炭化水素化合物である。ビニル系芳香族炭化水素としては、具体的には、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどが挙げられ、これらの中でもスチレンが好ましい。ビニル系芳香族炭化水素は、一種単独で用いられてもよいし、二種以上が混合されて用いられてもよい。
【0030】
共役ジエン化合物は、少なくとも一対の共役二重結合を有するジオレフィン化合物である。共役ジエン化合物としては、具体的には、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(又はイソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンなどが挙げられ、これらの中でも1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエンが好ましい。共役ジエン化合物は、単独で用いられてもよいし、二種以上が併用されて用いられてもよい。
【0031】
本明細書において、スチレン系ブロック共重合体の水素添加物等の、水素添加型熱可塑性ブロック共重合体における水素添加された割合は、「水素添加率」で示される。水素添加型熱可塑性ブロック共重合体の「水素添加率」とは、共役ジエン化合物に基づくブロックに含まれる全エチレン性不飽和二重結合を基準とし、その中で、水素添加されて飽和炭化水素結合に転換されたエチレン性不飽和二重結合の割合をいう。水素添加率は、赤外分光光度計及び核磁器共鳴装置等によって測定することができる。
【0032】
上記スチレン系ブロック共重合体の水素添加物は、部分水添、及び完全水添の水素添加物を用いることができる。中でも、完全水添の水素添加物であることが好ましい。スチレン系ブロック共重合体の水素添加物は、完全水添であることにより、ホットメルト組成物の加熱安定性がより一層向上する。スチレン系ブロック共重合体の水素添加物の水素添加率は、100%程度であることが好ましい。
【0033】
スチレン系ブロック共重合体の水素添加物としては特に限定されず、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)、スチレン-ブチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBBS)、スチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン共重合体(SEB/S-S)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体(SEEPS)、スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶共重合体(SEBC)等が挙げられる。本発明のホットメルト組成物は、熱可塑性樹脂(A)として上述の熱可塑性エラストマーを用いることにより、伸長された状態で加温されて保持された後であっても、伸縮回復性の低下及び破断がより一層抑制される。これらの中でも、より一層加温保持後の伸縮回復性に優れ、伸長時の応力と良好な伸長性の両立ができる観点から、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン共重合体が好ましい。
【0034】
上記スチレン系ブロック共重合体の水素添加物は、一種単独で用いられてもよいし、二種以上が混合されて用いられてもよい。
【0035】
上記スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)は、末端のスチレン単位がエンドブロック相となり、エチレン-ブチレン単位がミッドブロック相となる共重合体である。ミッドブロック相が水素添加されたエチレン-ブチレン単位である共重合体を用いることで、エンドブロック相のスチレン単位との極性差がより顕著になり、水素添加されていないミッドブロック相の共重合体と比較して、よりエンドブロック相のスチレン単位が強固となる。結果として、ホットメルト組成物の伸縮回復性をより一層向上させることができる。さらに、ミッドブロック相が水素添加されているため、より一層優れた加熱安定性に優れたホットメルト組成物を提供することができる。
【0036】
上記スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体として、熱可塑性樹脂の分子内に反応性ポリスチレン系ハードブロックを有するスチレン系ブロック共重合体を含有し、反応性を有するスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体を用いてもよい。反応性を有するスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体を用い、更に、光重合開始剤を含有することで、ホットメルト組成物に紫外線等の光を照射して反応性ポリスチレン系ハードブロックを反応させ、分子を架橋させて、ホットメルト組成物の動的粘弾性等の性状を調整することができる。このような反応性を有するスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体としては市販品を用いることができ、市販品としては、株式会社クラレ製 セプトンV9827などが挙げられる。
【0037】
スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体のスチレン含有量は、当該スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体を100質量%として、15~45質量%が好ましく20~40質量%がより好ましい。スチレン含有量の下限が上記範囲であると、ホットメルト組成物の伸長後の伸縮回復性がより一層向上する。スチレン含有量の上限が上記範囲であると、ホットメルト組成物がより柔らかくなり、より一層良好な伸長性を発現することができる。
【0038】
なお、本明細書において、スチレン系ブロック共重合体の「スチレン含有量」とは、スチレン系ブロック共重合体中のスチレンブロックの含有割合(質量%)をいう。
【0039】
また、本明細書における、スチレン系ブロック共重合体中のスチレン含有量の算出方法は特に限定されず、例えば、JIS K6239に準じたプロトン核磁気共鳴法や赤外分光法を用いる方法が挙げられる。
【0040】
スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体としては市販されている製品を用いることができる。市販品としては、クレイトンポリマー社製G1650、クレイトンポリマー社製MD1648、旭化成社製タフテックH1041などが挙げられる。
【0041】
スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。例えば、スチレン含有量が高いスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体と、スチレン含有量が低いスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体とを、混合して用いてもよい。2種以上を混合して用いた場合のスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体全体のスチレン含有量は、重量に基づく平均値により算出すればよい。
【0042】
上記スチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン共重合体(SEB/S-S)は、末端のスチレン単位がエンドブロック相となり、エチレン-ブチレン単位がミッドブロック相となるスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体において、ミッドブロック相にもスチレンが分散されている共重合体である。ミッドブロック相にスチレンが分散されている共重合体を用いることで、スチレンブロック共重合体の全体のスチレン含有量が多くなっても、スチレンブロック共重合体が硬くなりすぎず、良好な伸長性を示すため、スチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン共重合体を含むホットメルト組成物では、良好な伸長性と、伸長時における応力の向上を両立することができる。さらに、ミッドブロック相にスチレンが分散されているスチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン共重合体をホットメルト組成物に用いることで、低温における溶融粘度の増加が抑制されるため、ホットメルト組成物の塗工性をより向上させることができる。
【0043】
スチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン共重合体を調製する方法としては特に限定されず、例えば、米国特許第7,169,848号に記載の方法が挙げられる。
【0044】
スチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン共重合体のスチレン含有量は、当該スチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン共重合体を100質量%として20~60質量%が好ましく、25~55質量%がより好ましい。スチレン含有量の下限が上記範囲であると、ホットメルト組成物の伸長後の伸縮回復性がより一層向上する。スチレン含有量の上限が上記範囲であると、ホットメルト組成物がより柔らかくなり、より一層良好な伸長性を発現することができる。
【0045】
スチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン共重合体としては、市販されている製品を用いることができる。市販品としては、クレイトンポリマー社製MD6951、クレイトンポリマー社製A1536等が挙げられる。
【0046】
スチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン共重合体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。例えば、スチレン含有量が高いスチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン共重合体と、スチレン含有量が低いスチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン共重合体とを、混合して用いてもよい。2種以上を混合して用いた場合のスチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン共重合体全体のスチレン含有量は、重量に基づく平均値により算出すればよい。
【0047】
上記スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶共重合体(SEBC)は、スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶のブロックポリマーである。スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶共重合体を用いることで、ホットメルト組成物がより一層加温保持後の伸縮回復性に優れ、塗工性がより一層向上し、且つ、引張強度及び透明性がより一層向上する。
【0048】
スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶共重合体の製造方法としては特に限定されず、以下の製造方法により製造することができる。すなわち、先ず1,3-ブタジエンを有機リチウム開始剤を用いて重合した後、1,2-ビニル結合含量が30~70%となるように1,3-ブタジエンを重合させて、1,2-ビニル結合含量が異なるブロック状のポリブタジエンを生成する。次いで、スチレンを90質量%以上含有するビニル芳香族化合物をポリブタジエンに添加して重合させることによって水素添加前のブロック共重合体を製造する。次いで、水素添加前のブロック共重合体を公知の方法で水素添加することによってスチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶共重合体を製造することができる。
【0049】
ビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、t-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、及びビニルピリジンなどが挙げられる。これらの中でも、スチレン、α-メチルスチレンが好ましい。
【0050】
有機リチウム開始剤として用いられる有機リチウム化合物としては、例えば、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、プロピルリチウム、アミルリチウム、及びブチルリチウム/バリウムノニルフェノキシド/トリアルキルアルミニウム/ジアルキルアミノエタノールなどが挙げられる。
【0051】
スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶共重合体のスチレン含有量は、当該スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶共重合体を100質量%として10~30質量%が好ましく、15~25質量%がより好ましい。スチレン含有量の下限が上記範囲であると、ホットメルト組成物の伸長後の伸縮回復性がより一層向上する。スチレン含有量の上限が上記範囲であると、ホットメルト組成物がより柔らかくなり、より一層良好な伸長性を発現することができる。
【0052】
スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶共重合体としては、市販されている製品を用いることができる。市販品としては、JSR社製DYNARON 4600P等が挙げられる。
【0053】
スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶共重合体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。例えば、スチレン含有量が高いスチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶共重合体と、スチレン含有量が低いスチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶共重合体とを、混合して用いてもよい。2種以上を混合して用いた場合のスチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶共重合体のスチレン含有量は、重量に基づく平均値により算出すればよい。
【0054】
本発明のホットメルト組成物中の熱可塑性樹脂(A)の含有量は、ホットメルト組成物を100質量%として、40~75質量%が好ましく、50~70質量%が好ましく、55~65質量%がより好ましい。熱可塑性樹脂(A)の含有量が上記範囲であることにより、本発明のホットメルト組成物がより一層加温保持後の伸縮回復性に優れ、且つ塗工性にも優れる。
【0055】
本発明のホットメルト組成物中の熱可塑性樹脂樹脂(A)のスチレン含有量は、当該熱可塑性樹脂(A)を100質量%として10~35質量%が好ましく、12~25質量%がより好ましい。スチレン含有量の下限が上記範囲であると、ホットメルト組成物の加温保持後の伸縮回復性がより一層向上する。スチレン含有量の上限が上記範囲であると、ホットメルト組成物がより一層柔らかくなり、より一層良好な伸長性を発現することができる。
【0056】
本発明のホットメルト組成物中の熱可塑性樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、30,000~200,000が好ましく、40,000~150,000がより好ましく、45,000~125,000が更に好ましい。重量平均分子量の下限が上記範囲であると、ホットメルト組成物の加温保持後の伸縮回復性がより一層向上する。重量平均分子量の上限が上記範囲であると、ホットメルト組成物がより一層柔らかくなり、より一層良好な伸長性を発現することができる。
【0057】
なお、熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定装置を用いて、標準ポリスチレンで換算することにより得られる測定値である。
【0058】
本明細書における重量平均分子量(Mw)は、例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
測定装置:Waters社製 商品名「ACQUITY APC」
測定条件:カラム
・ACQUITY APCXT45 1.7μm×1本
・ACQUITY APCXT125 2.5μm×1本
・ACQUITY APCXT450 2.5μm×1本
移動相:テトラヒドロフラン 0.8mL/分
サンプル濃度:0.2質量%
検出器:示差屈折率(RI)検出器
標準物質:ポリスチレン(Waters社製 分子量:266~1,800,000) カラム温度:40℃
RI検出器温度:40℃
【0059】
(可塑剤(B))
本発明のホットメルト組成物は、可塑剤(B)を含む。可塑剤(B)は、23℃で液状であることが好ましい。なお、本明細書において「液状」とは、流動性を示す状態のことをいう。このような可塑剤(B)の流動点は、23℃以下が好ましく、10℃以下がより好ましい。
【0060】
本明細書において、流動点は、JIS K2269に準拠した測定方法により測定される値である。
【0061】
可塑剤(B)としては特に限定されず、例えば、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、流動パラフィンオイル、炭化水素系合成オイル等が挙げられる。なかでも、加熱安定性が優れる観点から、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、流動パラフィンオイル、及び炭化水素系合成オイルが好ましく、ホットメルト組成物の加温保持後の伸縮回復性がより一層向上する観点から、炭化水素系合成オイルがより好ましい。
【0062】
パラフィン系プロセスオイルとしては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、出光興産社製PW-32、出光興産社製PS-32等が挙げられる。
【0063】
ナフテン系プロセスオイルとしては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、出光興産社製ダイアナフレシアN28、出光興産社製ダイアナフレシアU46、Nynas社製Nyflex222B等が挙げられる。
【0064】
流動パラフィンオイルとしては、市販品を用いることができる。市販品としては、MORESCO社製P-100、Sonneborn社製Kaydol等が挙げられる。
【0065】
炭化水素系合成オイルとしては、市販品を用いることができる。市販品としては、三井化学社製ルーカントHC-10、三井化学社製ルーカントHC-20等が挙げられる。
【0066】
上記可塑剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
本発明のホットメルト組成物中の可塑剤(B)の含有量は、ホットメルト組成物を100質量%として、5~60質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましく、12~45質量%が更に好ましい。可塑剤(B)の含有量の上限が上記範囲であることにより、ホットメルト組成物の加温保持後の伸縮回復性がより一層向上する。可塑剤(B)の含有量の下限が上記範囲であることにより、ホットメルト組成物の溶融粘度がより一層低くなり、ホットメルト組成物の塗工性がより一層向上する。
【0068】
(ワックス(C))
本発明のホットメルト組成物は、カルボニル基、カルボキシル基、及びカルボン酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基を分子内に有するワックス(C)を含有していてもよい。ワックス(C)は、23℃で固体であることが好ましい。なお、本明細書において「固体」とは、流動性を示さない状態のことをいう。このようなワックス(C)の軟化点は、23℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、40℃以上が更に好ましい。
【0069】
本明細書において、軟化点は、ASTM D-3954に準拠した測定方法により測定される値である。
【0070】
カルボニル基、カルボキシル基、及びカルボン酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基を分子内に有するワックスは、極性が高いため、スチレン系ブロック共重合体との相溶性が良く、組成物内への分散が良好となる。そのため、カルボニル基、カルボキシル基、及びカルボン酸無水物基を分子内に有さないワックスと比較して、ホットメルト組成物の加熱安定性をより一層向上させることができる。カルボニル基、カルボキシル基、及びカルボン酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基を分子内に有するワックス(C)としては特に限定されず、例えば、酢酸ビニルワックス、アクリル酸ワックス、無水マレイン酸変性ワックスなどが挙げられる。なかでも、加熱安定性により一層優れる観点から、酢酸ビニルワックスが好ましい。
【0071】
酢酸ビニルワックスとしては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、Honeywell社製AC-400、Honeywell社製AC-430等が挙げられる。
【0072】
アクリル酸ワックスとしては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、Honeywell社製AC-540、Honeywell社製AC-580等が挙げられる。
【0073】
無水マレイン酸変性ワックスとしては、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、Honeywell社製AC-573P、Honeywell社製AC-577P、日本精蝋社製MAW-0300等が挙げられる。
【0074】
上記カルボニル基、カルボキシル基、及びカルボン酸無水物基からなる群より選択される少なくとも1種の基を分子内に有するワックスは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0075】
本発明のホットメルト組成物中のワックス(C)の含有量は、ホットメルト組成物を100質量%として、5~40質量%が好ましく5~35質量%がより好ましく、10~30質量%が更に好ましい。ワックス(C)の含有量の下限が上記範囲であるとホットメルト組成物の2倍伸長時の応力がより一層向上する。ワックス(C)の含有量の上限が上記範囲であると、ホットメルト組成物の加温保持後の伸縮回復性がより一層向上する。
【0076】
(他の添加剤)
本発明のホットメルト組成物は、本発明の目的を本質的に妨げない範囲で、他の添加剤を含有していてもよい。上記他の添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤、粘着付与樹脂、光重合開始剤、液状ゴム、微粒子充填剤等が挙げられる。
【0077】
酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(4'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-t-ブチルフェニル)プロピオネート、2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2'-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、2,4-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルべンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,4-ジ-t-アミル-6-〔1-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニルアクリレート、2-[1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-tert-ぺンチルフェニル)]アクリレート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン等のヒンダードフェノール系酸化防止剤;ジラウリルチオジプロピオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)等のイオウ系酸化防止剤;トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0078】
本発明のホットメルト組成物中の酸化防止剤の含有量としては、ホットメルト組成物を100質量%として、0.01~2質量%が好ましく、0.05~1.5質量%がより好ましく、0.1~1質量%が更に好ましい。酸化防止剤の含有量が0.01質量%以上であると、ホットメルト組成物の熱安定がより一層向上する。酸化防止剤の含有量が2質量%以下であると、ホットメルト組成物の臭気が低減する。
【0079】
紫外線吸収剤としては、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;サリチル酸エステル系紫外線吸収剤;シアノアクリレート系紫外線吸収剤;ヒンダードアミン系光安定剤が挙げられる。紫外線吸収剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0080】
本発明のホットメルト組成物中の紫外線吸収剤の含有量としては、ホットメルト組成物を100質量%として、0.01~2質量%が好ましく、0.05~1.5質量%がより好ましく、0.1~1質量%が更に好ましい。紫外線吸収剤の含有量が0.01質量%以上であると、ホットメルト組成物の耐候性が向上する。紫外線吸収剤の含有量が2質量%以下であると、ホットメルト組成物の臭気が低減する。
【0081】
粘着付与樹脂としては、天然ロジン、変性ロジン、天然ロジンのグリセロールエステル、変性ロジンのグリセロールエステル、天然ロジンのペンタエリスリトールエステル、変性ロジンのペンタエリスリトールエステル、天然テルペンのコポリマー、天然テルペンの三次元ポリマー、天然テルペンのコポリマーの水素化誘導体、テルペン樹脂、フェノール系変性テルペン樹脂の水素化誘導体;C5系石油樹脂、C9系石油樹脂、C5C9系石油樹脂、ジシクロペンタジエン系石油樹脂等の石油樹脂、また、それら石油樹脂に水素を添加した部分水添石油樹脂、完全水添石油樹脂等が挙げられる。粘着付与樹脂としては、ホットメルト組成物の臭気、熱安定性に優れている点で、石油樹脂、部分水添石油樹脂、及び完全水添石油樹脂が好ましく、部分水添石油樹脂、及び完全水添石油樹脂がより好ましい。これら粘着付与樹脂は1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0082】
粘着付与樹脂の環球式軟化点温度は、ホットメルト組成物の伸縮性、熱安定性がより一層優れる点で、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。また、粘着付与樹脂の環球式軟化点温度は、ホットメルト組成物により一層柔軟性を持たせ、より一層脆弱化を抑制することができる点で、125℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。なお、本明細書において、粘着付与樹脂の環球式軟化点温度は、JIS K2207に準拠して測定される値である。
【0083】
本発明のホットメルト組成物中の粘着付与樹脂の含有量は、ホットメルト組成物を100質量%として30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましい。粘着付与樹脂の含有量が30質量%以下であると、ホットメルト組成物が硬くなりすぎず、伸長後の伸縮回復性がより一層向上する。
【0084】
光重合開始剤としては、紫外線重合開始剤等が挙げられる。本発明のホットメルト組成物が熱可塑性樹脂(A)として、分子内に反応性ポリスチレン系ハードブロックを有するスチレン系ブロック共重合体を含有する場合、更に、光重合開始剤を含有することで、ホットメルト組成物に紫外線等の光を照射して反応性ポリスチレン系ハードブロックを反応させ、分子を架橋させて、ホットメルト組成物の動的粘弾性等の性状を調整することができる。ホットメルト組成物に紫外線を照射する場合、紫外線の照射強度は50~1,000mW/cm2程度が好ましく、また、積算光量は1,000~15,000mJ/cm2程度が好ましく、所望の性状にするために適宜調整すればよい。光重合開始剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0085】
液状ゴムとしては、液状ポリブテン、液状ポリブタジエン、液状ポリイソプレン及びこれらの水添樹脂が挙げられる。液状ゴムは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0086】
本発明のホットメルト組成物中の液状ゴムの含有量は、ホットメルト組成物を100質量%として、1~20質量%が好ましく2~15質量%がより好ましく3~10質量%が更に好ましい。液状ゴムの含有量が1質量%以上であると、ホットメルト組成物の溶融粘度が低下し、塗工適性がより一層向上する。液状ゴムの含有量が20質量%以下であると、ホットメルト組成物が柔らかくなりすぎず、伸縮回復性がより一層向上する。
【0087】
微粒子充填剤としては、特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化チタン、雲母、スチレンビーズ等が挙げられる。微粒子充填剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0088】
本発明のホットメルト組成物は、180℃における溶融粘度が45,000mPa・s以下が好ましく、28,000mPa・s以下がより好ましく、22,000mPa・s以下が更に好ましい。溶融粘度の上限が上記範囲であると、ホットメルト組成物の塗工性がより一層向上する。また、ホットメルト組成物の180℃における溶融粘度の下限は特に限定されず、5,000mPa・s程度であってもよい。
【0089】
本明細書において、「溶融粘度」は、一定の温度で加熱溶融状態となったホットメルト組成物の粘度である。180℃における溶融粘度の測定方法としては、例えば、ホットメルト組成物を加熱溶融し、180℃における溶融状態の粘度を、ブルックフィールドRVT型粘度計(スピンドルNo.29)を用いて測定する測定方法が挙げられる。
【0090】
本発明のホットメルト組成物は公知の方法で製造される。例えば、熱可塑性樹脂(A)、可塑剤(B)、必要に応じてワックス、各種添加剤等を150℃に加熱した双腕型混練機へ投入し、加熱しながら溶融混練することによって製造される。
【0091】
本発明のホットメルト組成物は、通常0~60℃の温度範囲、特に23℃の常温で固体であり、伸縮性を示すため、伸縮性ホットメルト組成物として様々な用途に用いることができる。
【0092】
本発明のホットメルト組成物の用途としては特に限定されず、例えば、衛生材料を含む吸収性物品、病院用ガウン、マスク等が挙げられる。上記衛生材料としては、具体的には、紙おむつ、生理用ナプキン等が挙げられる。
【0093】
本発明のホットメルト組成物は、伸縮性フィルム、及び、伸縮部材を含む伸縮性積層体の伸縮部材として好適に用いられる。このような伸縮性積層体としては、例えば、上記ホットメルト組成物により形成されたフィルムの少なくとも片面に、不織布が接合されている伸縮性積層体が挙げられる。このような伸縮積層体も、本発明の一つである。
【0094】
伸縮性積層体の用途としては特に限定されず、例えば、衛生材料を含む吸収性物品、病院用ガウン、マスク等が挙げられる。上記衛生材料としては、具体的には、紙おむつ、生理用ナプキン等が挙げられる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明の実施例について説明する。本発明は、下記の実施例に限定されない。
【0096】
なお、実施例及び比較例で用いた原料は以下のとおりである。
【0097】
スチレン系ブロック共重合体(A1):
・スチレン-エチレン-ブチレン/スチレン-スチレン(SEB/S-S)共重合体 クレイトンポリマー社製 MD6951(スチレン含有量34質量%、Mw=100,000)
スチレン系ブロック共重合体(A2):
・スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)共重合体 クレイトンポリマー社製 MD1648(スチレン含有量20質量%、Mw=54,000)
スチレン系ブロック共重合体(A3):
・スチレン-エチレン-ブチレン-オレフィン結晶共重合体(SEBC) JSR社製 DYNARON 4600P(スチレン含有量20質量%)
スチレン系ブロック共重合体(A4):
・スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)共重合体 旭化成社製 タフテックH1041(スチレン含有量30質量%、Mw=61,000)
スチレン系ブロック共重合体(A5):
・スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)共重合体 (株)クラレ製 セプトンV9827(スチレン含有量30質量%、分子内に反応性ポリスチレン系ハードブロックを含有)
【0098】
可塑剤(B):
・炭化水素系合成オイル(B1) 三井化学社製 ルーカントHC-10(流動点-32.5℃)
・流動パラフィンオイル(B2) Sonneborn社製 Kaydol(流動点-21℃)
【0099】
粘着付与剤:
・エンドブロックレジン 三井化学社製 FTR-0120
【0100】
光重合開始剤
・アルキルフェノン系光重合開始剤 BASF社製 IRGACURE184
【0101】
酸化防止剤:
・フェノール系酸化防止剤 BASF社製 IRGANOX1010
【0102】
(実施例及び比較例)
上述した原料を、それぞれ表1に示した配合量で、加熱装置を備えた攪拌混練機中に投入した。150℃で90分間加熱しながら混練して、ホットメルト組成物を製造した。なお、実施例5及び比較例2は、組成は同一であるが、実施例5ではホットメルト組成物に紫外線を照射して、スチレン系ブロック共重合体の反応性ポリスチレン系ハードブロックを反応させ、分子を架橋させて、ホットメルト組成物の性状を調整した。実施例5での紫外線の照射強度は500mW/cm2、積算光量は1000mJ/cm2であった。
【0103】
得られたホットメルト組成物について、以下の測定条件により特性を評価した。
【0104】
(180℃溶融粘度)
ホットメルト組成物を加熱溶融し、180℃における溶融状態の粘度を、ブルックフィールドRVT型粘度計(スピンドルNo.29)を用いて測定した。
【0105】
(塗工性)
ホットメルト組成物を、180~190℃に加熱した溶融タンクに投入し、180~190℃に加熱したスロットノズルから吐出させて、離型処理されたPETフィルムへ接触塗工した。なお、実施例5では、接触塗工後にホットメルト組成物に上記条件で紫外線を照射して分子を架橋させて、ホットメルト組成物の性状を調整した。この際のホットメルト組成物の塗工性を目視により観察し、以下の評価基準に従って評価した。
◎:塗布温度180℃で塗布ムラなく塗工できる。
○:塗布温度190℃で塗布ムラなく塗工可能である。
△:塗布温度190℃でやや塗布ムラが見られるが使用上問題ない程度である。
×:塗布ムラが顕著に見られる、又は、所定量のホットメルト組成物が吐出されない。
【0106】
(戻り率)
試験片の調製
ホットメルト組成物を180~190℃の塗工温度で、離型処理されたPETフィルムの離型層側に50g/m2の塗布量で塗布した。塗布幅は80mmであった。次いで、片面に離型処理を施した離型紙でラミネートして、積層体を作製した。得られた積層体をMD方向に85mmの長さでカットした。積層体のPETフィルム及び離型紙を剥離して、ホットメルト組成物からなる長さ85mm、幅80mmの試験片を調製した。
【0107】
戻り率の測定
天面が全面にわたって開口している試験箱を用意した。開口部の長さは170mmであった。上述のようにして調製した試験片を、長さ方向(MD方向)に引っ張って170mmの長さとなるように伸ばし、両端を試験箱の開口部に固定し、試験片を伸ばした状態で保持した。試験片の両端が固定された試験箱を、40℃の恒温槽に入れて1時間静置した。次いで、試験箱から試験片を外し、試験後の試験片の長さを測定した。戻り率を、以下の式により算出した。
戻り率(%)=試験後の試験片の長さ(mm)/試験前の試験片の長さ(85mm)×100
【0108】
(粘弾性マスターカーブ)
ホットメルト組成物を180℃で加熱溶融して、離型処理されたPETフィルム上の離型層側の面に滴下した。次いで、離型処理された別のPETフィルムをホットメルト組成物上に、離型層側の面がホットメルト組成物に接触するようにして積層した。次いで、120℃に加熱した熱プレスで圧縮し、ホットメルト組成物の厚みが約2mmとなるように調整した。ホットメルト組成物をPETフィルム間に挟んだ状態で23℃にて24時間静置した後、離型フィルムを除去して動的粘弾性測定用のサンプルを調製した。
【0109】
当該サンプルを用いて、動的粘弾性測定装置の回転せん断モードで、温度-20℃から120℃、周波数0.2~2.0Hzの測定条件で動的粘弾性測定を行った。具体的には、温度-20℃の温度一定の条件下で周波数0.2~2.0Hzの回転せん断モードで貯蔵弾性率G’、及び損失弾性率G’’を測定した。10℃毎に同様の測定を120℃まで行った。測定した貯蔵弾性率G’、及び損失弾性率G’’の対数をとり、周波数の対数値(log(f))に対してプロットした。次いで、基準温度を40℃とし、log(G’)、log(G’’)、及びlog(tanδ)(=log(G’’/G’))に対してシフトファクターを設定してX軸方向へ平行移動させながら、それぞれが重なり合うようにしてlog(G’)、log(G’’)、及びlog(tanδ)のマスターカーブを作成した。
【0110】
得られたlog(G’’)のマスターカーブにおいて、-6.0<log(f)<-1.0の範囲にあるlog(G’’)が極大となる点におけるlog(f)の値を読み取って記録した。また、得られたlog(tanδ)のマスターカーブにおいて、log(f)が-4.0のときのlog(tanδ)の値、及び、log(f)が-4.0のときのlog(tanδ)の値を読み取って記録した。
【0111】
なお、上記マスターカーブにおいて、周波数f(Hz)と時間s(秒)との間には以下の関係式が成り立つ。
f=1/2πs
また、log(f)=-4.0、及び、log(f)=-3.0は、それぞれ30分と3分に相当する。
なお、動的粘弾性測定装置として、ティーエーインスツルメント社製ローテェーショナルレオメーター(商品名「AR-G2」)を用いた。
【0112】
結果を表1に示す。
【0113】