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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】コーティング組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20231121BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231121BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231121BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20231121BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20231121BHJP
   B32B 17/00 20060101ALI20231121BHJP
   B32B 15/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D7/63
C09D7/61
C09D5/08
B32B18/00
B32B17/00
B32B15/00
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2020544788
(86)(22)【出願日】2019-02-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 CA2019050222
(87)【国際公開番号】W WO2019161507
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-02-08
(31)【優先権主張番号】62/634,482
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520317321
【氏名又は名称】パイロテック ハイ テンパッチャー インダストリアル プロダクツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グーアン,マルセル
(72)【発明者】
【氏名】ヴェイエット,フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】シマール,アラン
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-503044(JP,A)
【文献】特表2017-505861(JP,A)
【文献】特開平10-137902(JP,A)
【文献】特開昭49-123929(JP,A)
【文献】特開昭60-108140(JP,A)
【文献】特開平02-120397(JP,A)
【文献】米国特許第6254810(US,B1)
【文献】特開昭58-225167(JP,A)
【文献】特表2019-529113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 1/00- 3/02
B32B 1/00- 43/00
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)i)カラメル化炭水化物成分と、ii)アジュバントと、iii)無機粒子を含む無機コロイドバインダーとの混合物から実質的になる、水性液体であるバインダー系と、
b)ケイ酸塩、金属酸化物、ホウ化物、窒化物、炭化物、硫化物、フッ化物、アルミナイド、合成ガラス、ガラス繊維、セラミック繊維、黒鉛、骨灰、チタン酸アルミニウム、またはアルミン酸カルシウムの少なくとも1つから選択される保護剤と
を含み、
前記保護剤は、前記バインダー系に分散されている
コーティング組成物。
【請求項2】
前記カラメル化炭水化物成分は、単糖、二糖、三糖、又はオリゴ糖のうち少なくとも1つに由来する、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記カラメル化炭水化物生物は、スクロース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、又はラクトースのうち少なくとも1つに由来する、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記無機コロイドバインダーは、コロイドシリカ、コロイドアルミナ、コロイドジルコニア、コロイドイットリア、有機変性コロイドシリカ、有機変性コロイドアルミナ、有機変性コロイドジルコニア、又は有機変性コロイドイットリアのうち少なくとも1つを含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記アジュバントは、酸、無機湿潤剤、酸性リン酸塩接着剤、又はベントナイトのうち少なくとも1つを含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記アジュバントが酸を含むとき、前記酸は、リン酸、硫酸、クエン酸、酢酸、ホウ酸、又はシュウ酸のうち少なくとも1つを含み、
前記アジュバントが無機湿潤剤を含むとき、前記無機湿潤剤は、硫酸アンモニウムアルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、又は硫酸カルシウムのうち少なくとも1つを含み、及び
前記アジュバントが酸性リン酸塩接着剤を含むとき、前記酸性リン酸塩接着剤は、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、又はリン酸アルミニウムのうち少なくとも1つを含む、請求項に記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記バインダー系は前記混合物からなり、前記カラメル化炭水化物成分は、前記バインダー系の5重量%~70重量%を含み、前記アジュバントは、前記バインダー系の0.25重量%~10重量%を含み、前記無機コロイドバインダーは、前記バインダー系の25重量%~90重量%を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記バインダー系は、前記混合物からなり、前記コーティング組成物の40重量%~95重量%を含み、前記保護剤は、前記コーティング組成物の5重量%~60重量%を含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項9】
前記カラメル化炭水化物成分は、スクロースに由来し、前記無機コロイドバインダーは、コロイドシリカを含む、請求項1に記載のコーティング組成物。
【請求項10】
a)基材と、
b)前記基材の少なくとも一部に付着した固体コーティングと、
を含み、
前記固体コーティングは、
10μm~100μmの厚さを有し、
i)A)カラメル化炭水化物成分と、B)アジュバントと、C)無機粒子を含む無機コロイドバインダーとの混合物から実質的になるバインダー系と、
ii)ケイ酸塩、金属酸化物、ホウ化物、窒化物、炭化物、硫化物、フッ化物、アルミナイド、合成ガラス、ガラス繊維、セラミック繊維、黒鉛、骨灰、チタン酸アルミニウム、またはアルミン酸カルシウムの少なくとも1つから選択される保護剤と
を含む、コーティング組成物から形成される、
物品。
【請求項11】
前記カラメル化炭水化物成分は、単糖、二糖、三糖、又はオリゴ糖のうちの少なくとも1つに由来する、請求項10に記載の物品。
【請求項12】
前記カラメル化炭水化物成分は、スクロース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、又はラクトースの少なくとも1つに由来する、請求項10に記載の物品。
【請求項13】
前記無機コロイドバインダーは、コロイドシリカ、コロイドアルミナ、コロイドジルコニア、コロイドイットリア、有機変性コロイドシリカ、有機変性コロイドアルミナ、有機変性コロイドジルコニア、又は有機変性コロイドイットリアのうち少なくとも1つを含む、請求項10に記載の物品。
【請求項14】
前記保護剤は、窒化ホウ素、マイカ、ジルコン、タルク、ウォラストナイト、マイクロライト、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フルオロケイ酸マグネシウム、グラファイト、骨灰、二酸化チタン、炭化ケイ素、及びフッ化アルミニウムのうちの少なくとも1つを含む、請求項1013のいずれか一項に記載の物品。
【請求項15】
前記バインダー系は前記混合物からなり、前記カラメル化炭水化物成分は、前記バインダー系の5重量%~70重量%を含み、前記アジュバントは、前記バインダー系の0.25重量%~10重量%を含み、前記無機コロイドバインダーは、前記バインダー系の25重量%~90重量%を含む、請求項10に記載の物品。
【請求項16】
前記バインダー系は、前記混合物からなり、前記コーティング組成物の40重量%~95重量%を含み、前記保護剤は、前記コーティング組成物の5重量%~60重量%を含む、請求項10に記載の物品。
【請求項17】
前記基材は、耐火材料、金属材料、セラミック材料、耐火セラミック繊維、非耐火セラミック繊維、ガラス材料、又はケイ酸カルシウム材料のうちの少なくとも1つを含む、請求項10に記載の物品。
【請求項18】
a)水、アジュバント、及び炭水化物を含む混合物を調製し、
b)前記混合物を、前記炭水化物をカラメル化し、前記アジュバントを含むカラメル化炭水化物成分を形成するのに有効な時間、カラメル化温度まで加熱して、
c)前記カラメル化炭水化物成分を、無機粒子を含む無機コロイドバインダーと混合して、バインダー系を形成し、
d)前記バインダー系を、ケイ酸塩、金属酸化物、ホウ化物、窒化物、炭化物、硫化物、フッ化物、アルミナイド、合成ガラス、ガラス繊維、セラミック繊維、黒鉛、骨灰、チタン酸アルミニウム、またはアルミン酸カルシウムの少なくとも1つから選択される保護剤と混合して、コーティング組成物を形成することを含み、
前記前記バインダー系は、前記カラメル化炭水化物成分と、前記アジュバントと、前記無機コロイドバインダーとから実質的になる、
コーティング組成物を製造する方法。
【請求項19】
前記カラメル化温度は、20℃~125℃であり、前記炭水化物をカラメル化する時間は、5分~30分である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記アジュバントは、酸、無機湿潤剤、酸性リン酸塩接着剤、又はベントナイトのうち少なくとも1つを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記アジュバントが酸を含むとき、前記酸は、リン酸、硫酸、クエン酸、酢酸、ホウ酸、又はシュウ酸のうち少なくとも1つを含み、
前記アジュバントが無機湿潤剤を含むとき、前記無機湿潤剤は、硫酸アンモニウムアルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、又は硫酸カルシウムのうち少なくとも1つを含み、及び
前記アジュバントが酸性リン酸塩接着剤を含むとき、前記酸性リン酸塩接着剤は、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、又はリン酸アルミニウムのうち少なくとも1つを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記炭水化物は、単糖、二糖、三糖、又はオリゴ糖のうちの少なくとも1つを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記炭水化物は、スクロース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、又はラクトースの少なくとも1つを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記無機コロイドバインダーは、コロイドシリカ、コロイドアルミナ、コロイドジルコニア、コロイドイットリア、有機変性コロイドシリカ、有機変性コロイドアルミナ、有機変性コロイドジルコニア、又は有機変性コロイドイットリアのうち少なくとも1つを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
基材の表面に付着した、10μm~100μmの厚さを有する固体コーティングを提供するための、請求項1~のいずれか一項に記載のコーティング組成物の使用。
【請求項26】
前記基材は、耐火材料、金属材料、セラミック材料、耐火セラミック繊維、非耐火セラミック繊維、ガラス材料、又はケイ酸カルシウム材料のうちの少なくとも1つを含む、請求項25に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願を相互参照
本出願は、2018年2月23日出願の米国仮出願第62/634,482号の優先権を主張するものであり、内容を参照することにより組み込まれる。
【0002】
本開示は、コーティング組成物及びコーティング組成物の製造方法に関する。特に、本開示は、溶融金属との接触によって引き起こされる腐食及び/又は浸食から基材を保護するために、基材上に保護層を付与するコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
溶融金属(例えば、液体アルミニウム又は液体アルミニウム合金)と接触配置されることが意図される物品は、典型的に、耐火物、金属、及び/又はガラス材料から作製される。このような物品は、溶融金属のセンシング、溶融、移動、及び/又は鋳造に使用することができる。溶融金属は腐食性であることがよく知られており、従って、溶融金属と接触する物品は腐食及び/又は浸食を受けることがあり、これにより、そのような物品の耐用年数が短縮される可能性がある。
【0004】
そのような腐食及び/又は浸食に対する耐性は、物品に塗布される保護剤によって部分的に与えられる。保護剤の一例を挙げると、六方晶窒化ホウ素(hBN)があり、これは、腐食保護を提供し、耐火物、金属、又はガラスから作製される物品に関連して使用される。他の保護剤もまた、異なる用途に使用される。例えば、骨灰は、鋳造作業中に液体金属が流れるトラフ系を修理し保護するためによく使われる。それほど頻繁には使用されない他の保護剤としては、マイカ、グラファイト、ケイ酸カルシウム、タルク、チタン酸アルミニウム、炭酸バリウム、及びそれらの組み合わせが挙げられる。しかしながら、多くのこれらの保護剤(例えば、窒化ホウ素、マイカ)は、水性媒体を使用して物品の表面(すなわち、基材)に結合させることが難しい。
【0005】
従来、保護剤は、溶融金属と接触する物品の表面上に湿潤スラリーとして塗布されている。保護剤が、典型的にはhBNの場合のように、湿潤スラリーの形成で表面上に堆積される場合、保護剤と基材との間の付着性は非常に弱く、基材の長期間の保護を提供しない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
コーティング組成物、コーティング組成物を製造する方法、及びコーティング組成物から形成された固体コーティングを有する物品が開示される。
【0007】
本開示によれば、コーティング組成物が提供される。コーティング組成物は、a)カラメル化炭水化物成分と、無機コロイドバインダーと、及びアジュバントとの混合物を含むバインダー系と、b)保護剤とを含む。
【0008】
本開示によれば、コーティング組成物を製造する方法が提供される。本方法は、水及び炭水化物を含む混合物を調製する工程を含む。混合物を加熱してカラメル化炭水化物成分を形成する。カラメル化炭水化物成分を、無機コロイドバインダー及びアジュバントと混合して、バインダー系を形成する。バインダー系を、保護剤と混合して、コーティング組成物を形成する。
【0009】
本開示によれば、固体コーティングを有する物品が提供される。物品は、基材と、基材の少なくとも一部分上の固体コーティングとを含む。固体コーティングは、a)カラメル化炭水化物成分と、無機コロイドバインダーと、及びアジュバントとの混合物を含むバインダー系と、b)保護剤とを含むコーティング組成物から形成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示によるhBNフレークを含む固体コーティングの走査型電子顕微鏡画像である。
図2図2は、図1の画像の拡大図であり、hBNフレーク上の無機コロイドバインダーの分離点を示す。
図3図3は、従来技術によるhBNフレークの固体コーティングの走査型電子顕微鏡画像である。
図4図4は、図3の従来技術の画像の拡大図であり、hBNフレーク上の無機コロイドバインダーのフレーク間凝集を示す。
図5図5は、本開示によるhBNフレークの固体コーティングの走査型電子顕微鏡画像である。
図6図6は、図5の画像の拡大図であり、hBNフレークの無機コロイドバインダーの分離パッチを示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
コーティング組成物、コーティング組成物を製造する方法、及びコーティング組成物から形成された固体コーティングを有する物品が開示されている。本開示は、組成物、方法、及び物品の例示の実施形態を詳細に記載するが、本開示は開示された実施形態に限定されるものではない。また、本明細書に開示される例示の実施形態の特定の要素は任意の例示の実施形態に限定されるものではなく、本開示のすべての実施形態に適用される。
【0012】
本明細書に規定される用語は実施形態の説明のためだけのものであり、開示を全体として限定するものではない。本開示の単数の特徴や限定への参照はすべて、特に明記や、参照された文脈によってその反対であることが明示されない限り、対応する複数の特徴や限定を含み、その逆もまた同様である。特に明記しない限り、「1つの」、「その」及び「少なくとも1つ」は区別なく使用され、さらに、文脈に沿わないことが明示されない限り、説明及び添付の特許請求の範囲で使用される単数形の「1つの」、「その」は、複数形を含む。
【0013】
「含む」又は「含む」という用語が明細書又は特許請求の範囲において使用される限りにおいて、用語「含む」はその用語が請求項において遷移語として使用される場合に解釈されるような、用語「含む」と同様の方法で包括的であることが意図されている。さらに、用語「又は」が使用される範囲において(例えば、A又はB)、「A又はB又は両方」を意味することが意図されている。出願人が「A又はBのみであり、両方ではない」を示すことを意図する場合、用語「A又はBのみであり、両方ではない」が使用されることになる。従って、本明細書における用語「又は」の使用は包括的であり、排他的な使用ではない。
【0014】
本開示のコーティング組成物、固体コーティングを有する物品、及び対応する本開示のコーティング組成物の製造方法は、本明細書に記載される開示の必須要素、ならびに本明細書に記載される、又はコーティング用途に有用である任意の追加又は任意の要素を含む、それらからなる、又はそれらから実質的になる。
【0015】
本明細書で使用されるすべてのパーセンテージ、部、及び比率は、特に明記しない限り、全組成物の重量基準である。本明細書に開示される、これらに限られるものではないが、パーセンテージ、部、及び比率を含むすべての範囲及びパラメータは、想定されるあらゆる下位範囲、包含されるもの、そして終点間のすべての数が含まれるものと考えられる。例えば、「1~10」と記載された範囲は、1以上の最小値で始まり、10以下の最大値で終わるあらゆる下位範囲(例えば、1~6.1、又は2.3~9.4)、そして、範囲に含まれる各整数(1、2、3、4、5、6、7、8、9、及び10)を含むと考えられる。
【0016】
本明細書で使用されるような方法又はプロセスステップの任意の組み合わせは、特に明記しない限り、参照された文脈によってその反対であることが明示されない限り、任意の順序で実行されてもよい。
【0017】
本開示によるコーティング組成物は、a)カラメル化炭水化物成分と、無機コロイドバインダーと、及びアジュバントとの混合物を含むバインダー系と、b)保護剤とを含む。本明細書中に開示されるコーティング組成物を用いて、溶融金属と接触することが意図される物品の表面上に固体コーティングを形成することができる。固体コーティングは、物品の表面への優れた付着性を示し、溶融金属との接触によって引き起こされる腐食及び/又は浸食に対する保護を提供する表面を作り出す。本開示によるコーティング組成物は、アルミニウム及びアルミニウム合金などの溶融金属の、酸素結合力によって与えられる溶融金属の還元作用から生じる腐食に対して特に有効である。固体コーティングは、溶融金属に対する保護バリアを提供するだけでなく、高マグネシウム含量のアルミニウム合金(例えば、アルミニウム合金5182)の場合のように、溶融金属から発生し得る腐食性ガスに対する保護も提供する。
【0018】
特定の理論に束縛されるものではないが、カラメル化炭水化物成分、特にカラメル化炭水化物成分のカラメル生成物は、無機コロイドバインダーの粒子をカプセル化すると考えられる。このカプセル化によって、無機コロイドバインダーの粒子が互いに凝集又は結合するのが防止され、無機コロイドバインダーが高温(例えば、550℃~1,000℃)で結合する能力が維持されると考えられる。さらに、無機コロイドバインダーの粒子は、保護剤の分子配列の欠陥に付加することによって機能すると考えられる。無機コロイドバインダーの粒子をカプセル化するカラメル化炭水化物成分はまた、無機コロイドバインダーの粒子による保護剤の欠陥と、基材の結合部位への接近及び付加を容易にする湿潤剤としても作用すると考えられる。さらに、高温で結合する無機コロイドバインダーの能力の保持によって、保護剤自体の粒子間により強い結合が作られ、保護剤の粒子と基材との間に、より強い結合が作られると考えられる。本開示のバインダー系がなければ、無機コロイドバインダーは凝集し、それ自体に結合する傾向があり(図3及び4を参照のこと)、結合する能力を保持する無機コロイドバインダーの分離点及びパッチ(図1、2、5及び6を参照のこと)と対照的に、保護剤と基材との間の結合を形成するために利用可能な結合部位の数を減少させる。
【0019】
本明細書中に開示されるコーティング組成物は、カラメル化炭水化物成分と、無機コロイドバインダーと、アジュバントとの混合物を含むバインダー系を含む。本開示の実施形態において、バインダー系は水性液体であり、コーティング組成物を基材に容易に塗布することができる。
【0020】
本開示の実施形態において、カラメル化炭水化物成分が水及び炭水化物を含む混合物のカラメル化によって得られる。ある実施形態において、カラメル化は、水と炭水化物を含む混合物を、炭水化物をカラメル化するのに有効な時間、例えば、5分から30分、5分から20分、さらには5分から10分を含む少なくとも5分、50℃から120℃、60℃から120℃、70℃から120℃、80℃から120℃、90℃から115℃、100℃から110℃、また100℃から105℃を含む20℃から125℃の温度である、カラメル化温度まで加熱する。カラメル化処理はあまり理解されていないが、炭水化物の加熱はとりわけ、カラメラン、カラメレン、及びカラメリンなどのカラメル生成物を形成する。
【0021】
カラメル化炭水化物成分は、種々の炭水化物のカラメル化に由来し得る。本開示によれば、カラメル化炭水化物成分は、単糖、二糖、三糖、及びオリゴ糖のうちの少なくとも1つに由来する。例示の単糖としては、グルコース、フルクトース、及びガラクトースが挙げられるが、これらに限定されない。例示の二糖としては、スクロース、ラクトース、及びマルトースが含まれるが、これらに限定されない。例示の三糖としては、マルトトリオース及びラフィノースが含まれるが、これらに限定されない。例示のオリゴ糖としては、マルトデキストリン、フルクトオリゴ糖、及びガラクトオリゴ糖が含まれるが、これらに限定されない。本開示の実施形態において、カラメル化炭水化物成分は、スクロース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、及びラクトースのうちの少なくとも1つに由来する。本開示の実施形態において、カラメル化炭水化物成分はスクロースに由来する。
【0022】
他の実施形態において、カラメル化前のカラメル化炭水化物は、水と混合されて、カラメル化炭水化物成分を形成し得る。このような実施形態において、予備カラメル化されたカラメル化炭水化物及び水の混合物がカラメル化炭水化物成分を得るために処理される(例えば、カラメル化温度に加熱される)必要はない。
【0023】
本開示によれば、バインダー系はアジュバントを含む。実施形態において、アジュバントは、カラメル化炭水化物成分を形成するために加熱される水及び炭水化物の混合物に添加される。実施形態において、アジュバントは、予備カラメル化されたカラメル化炭水化物と水とを混合することによって得られるカラメル化炭水化物成分に添加されてもよい。アジュバントは、酸、無機湿潤剤、酸性リン酸塩接着剤、及びベントナイトのうちの1つ以上であり得る。例示の酸としては、リン酸、硫酸、クエン酸、酢酸、ホウ酸、及びシュウ酸が挙げられるが、これらに限定されない。酸は、典型的に必要とされるよりも低い温度で炭水化物のカラメル化を促進するため有用である。例示の無機湿潤剤としては、硫酸アンモニウムアルミニウム、硫酸マグネシウム、及び硫酸アルミニウムが挙げられるが、これらに限定されない。無機湿潤剤は、カラメル生成物の水性媒体中で湿潤剤として作用して、保護剤及び基材を湿潤させることができる。例示の酸性リン酸塩接着剤としては、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、及びリン酸アルミニウムが挙げられるが、これらに限定されず、一塩基性、二塩基性、及び三塩基性形態を含む、リン酸アルミニウム、ならびにそれらの種々の水和物が含まれる。
【0024】
実施形態において、カラメル化炭水化物成分は、リン酸、硫酸、クエン酸、酢酸、ホウ酸、及びシュウ酸のうちの少なくとも1つを含む酸と、硫酸アンモニウムアルミニウム、硫酸マグネシウム、及び硫酸アルミニウムのうちの少なくとも1つを含む無機湿潤剤と、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、及びリン酸アルミニウムのうちの少なくとも1つを含む酸性リン酸塩接着剤とを含む。特定の実施において、カラメル化炭水化物成分は、75重量%のH3PO4と25重量%の水の混合物から得られるリン酸、AlNH(SO42・12H2Oを含む硫酸アンモニウムアルニウム、及び無水又は一水和物形態を含む一塩基性リン酸カルシウムを含む。実施形態において、カラメル化炭水化物成分は、1つ以上の酸を含み、任意で、無機湿潤剤、酸性リン酸塩接着剤、及びベントナイトを含む。
【0025】
実施形態において、カラメル化炭水化物成分は、25重量%~75重量%の炭水化物、25重量%~70重量%の水、0.05重量%~25重量%の酸、0重量%~5重量%の無機湿潤剤、0重量%~2重量%の酸性リン酸塩接着剤、及び0重量%~20重量%のベントナイトを含む混合物のカラメル化によって形成される。
【0026】
本開示の実施形態において、カラメル化炭水化物成分は、40重量%~60重量%の炭水化物、40重量%~60重量%の水、1重量%~25重量%の酸、0重量%~1重量%の無機湿潤剤、0重量%~1.5重量%の酸性リン酸塩接着剤を含む混合物のカラメル化によって形成される。
【0027】
本開示の実施形態において、カラメル化炭水化物成分は、40重量%~50重量%の炭水化物、25重量%~40重量%の水、15重量%~25重量%の酸、0.25重量%~0.75重量%の無機湿潤剤、及び1重量%~1.5重量%の酸性リン酸塩接着剤を含む混合物のカラメル化によって形成される。
【0028】
本開示の実施形態において、カラメル化炭水化物成分は、45重量%~55重量%の炭水化物、30重量%~40重量%の水、0.5重量%~1.5重量%の酸、0.5重量%~0.75重量%の無機湿潤剤、1重量%~1.5重量%の酸性リン酸塩接着剤、及び5重量%~15重量%のベントナイトを含む混合物のカラメル化によって形成される。
【0029】
本開示の実施形態において、カラメル化炭水化物成分が65重量%~75重量%の炭水化物、25重量%~30重量%の水、及び1.25重量%~1.75重量%の酸を含む混合物のカラメル化によって形成される。
【0030】
前述の特定の実施形態において、炭水化物はスクロースを含み、酸は、75重量%のHPOと25重量%の水の混合物によって得られるリン酸を含み、無機湿潤剤は、AlNH4(SO42・12H2Oを含む硫酸アルミニウムアンモニウムを含み、酸性リン酸塩接着剤は、無水又は一水和物形態の一塩基性リン酸カルシウムを含む。前述の特定の実施形態において、酸はリン酸及びホウ酸を含む。
【0031】
本開示の実施形態において、アジュバントは、カラメル化炭水化物成分が形成された後にカラメル化炭水化物成分に添加される。
【0032】
カラメル化炭水化物成分及びアジュバントに加えて、本明細書に開示される例示のコーティング組成物のバインダー系はまた、無機コロイドバインダーを含む。本開示によれば、無機コロイドバインダーは、コロイドシリカ、コロイドアルミナ、コロイドジルコニア、コロイドイットリア、及び前述の有機変性物のうちの少なくとも1つを含む。有機変性無機コロイドバインダーの一例は、W.R.Grace & Co.?Con.(米国メリーランド州コロンビア)から市販されているLudox(登録商標)SKコロイドシリカである。概して、無機コロイドバインダーは、水溶液中に分散されたサブミクロンサイズの無機粒子(例えば、SiO、Al、ZrO)を含む懸濁液である。本開示の実施形態において、コーティング組成物のバインダー系を形成するために使用される無機コロイドバインダーは、コロイダルシリカを含む。
【0033】
本明細書に開示されている例示のコーティング組成のバインダー系で使用するのに適した無機コロイダルバインダの一例は、Nalco Company(米国イリノイ州ナパービル)から市販されているNALCO 1144コロイダルシリカである。NALCO 1144コロイダルシリカ懸濁液は、以下の特性を有する。SiOとしてのコロイダルシリカ40重量%、25℃で9.9のpH、14nmの平均粒径、1.30の比重、15cPの粘度、及びNa2Oが0.45重量%。
【0034】
前述のとおり、本明細書に開示される例示のコーティング組成物のバインダー系は、カラメル化炭水化物成分と、アジュバントと、無機コロイドバインダーとの混合物を含む。本開示の実施形態において1重量%~25重量%のアジュバント(カラメル化炭水化物成分の総重量に基づいて)を含むカラメル化炭水化物成分は、バインダー系の5重量%~95重量%を含み、無機コロイドバインダーは、バインダー系の5重量%~95重量%を含む。本開示の実施形態において、1重量%~25重量%のアジュバント(カラメル化炭水化物成分の総重量に基づいて)を含むカラメル化炭水化物成分は、バインダー系の10重量%~90重量%を含み、無機コロイドバインダーは、バインダー系の10重量%~90重量%を含む。本開示の実施形態において、1重量%~25重量%のアジュバント(カラメル化炭水化物成分の総重量に基づいて)を含むカラメル化炭水化物成分は、バインダー系の15重量%~85重量%を含み、無機コロイドバインダーは、バインダー系の15重量%~85重量%を含む。本開示の実施形態において、1重量%~25重量%のアジュバント(カラメル化炭水化物成分の総重量に基づいて)を含むカラメル化炭水化物成分は、バインダー系の25重量%~75重量%を含み、無機コロイドバインダーは、バインダー系の25重量%~75重量%を含む。本開示の実施形態において1重量%~25重量%のアジュバント(カラメル化炭水化物成分の総重量に基づいて)を含むカラメル化炭水化物成分は、バインダー系の40重量%~70重量%を含み、無機コロイドバインダーは、バインダー系の30重量%~60重量%を含む。本開示の実施形態において、カラメル化炭水化物成分は、バインダー系の55重量%~75重量%を含み、無機コロイドバインダーは、バインダー系の25重量%~45重量%を含む。本開示の実施形態においてカラメル化炭水化物成分は、バインダー系の60重量%~70重量%を含み、無機コロイドバインダーは、バインダー系の30重量%~40重量%を含む。前述のカラメル化炭水化物成分及び無機コロイドバインダーのいずれも、バインダー系の前述の実施形態において使用することができる。例えば、本開示の実施形態において、カラメル化炭水化物成分は、バインダー系の40重量%~70重量%を含み、スクロースなどの50重量%~60重量%の炭水化物、35重量%~45重量%の水、リン酸などの0.75重量%~1.5重量%の酸、硫酸アルミニウムアンモニウムなどの0.25重量%~0.75重量%の無機湿潤剤、一塩基性リン酸カルシウムなどの1重量%~1.5重量%の酸性リン酸塩接着剤、及び0重量%~6重量%のベントナイトを含む混合物のカラメル化により形成され、無機コロイドバインダーは、バインダー系の30重量%~60重量%を含み、コロイダルシリカを含む。
【0035】
本開示の実施形態において、バインダー系は、バインダー系の総重量に基づいて、5重量%~70重量%のカラメル化炭水化物成分、0.25重量%~10重量%のアジュバント、及び25重量%~90重量%の無機コロイドバインダーを含む。本開示の実施形態において、バインダー系は、バインダー系の総重量に基づいて、5重量%~45重量%のカラメル化炭水化物成分、0.25重量%~3重量%のアジュバント、及び50重量%~90重量%の無機コロイドバインダーを含む。本開示の実施形態において、バインダー系は、バインダー系の総重量に基づいて、55重量%~70重量%のカラメル化炭水化物成分、2重量%~10重量%のアジュバント、及び25重量%~40重量%の無機コロイドバインダーを含む。
【0036】
本開示によれば、コーティング組成物は保護剤を含む。保護剤は、腐食保護、侵食保護、又は腐食保護と侵食保護の両方を提供することができる。保護剤は、例えば、液体アルミニウム及び液体アルミニウム合金などの溶融金属によって濡れない表面を作り出し、従って、溶融金属の腐食及び劣化の影響から下にある基材を保護することができる。種々の保護剤を、本明細書に開示される例示のコーティング組成物において使用することができる。保護剤は、コーティング組成物が接触する溶融金属の特定の種類に基づいて選択することができる。
【0037】
本開示によれば、保護剤は、ケイ酸塩、金属酸化物、ホウ化物、窒化物、炭化物、硫化物、フッ化物、アルミナイド、合成ガラス、ガラス繊維、セラミック繊維、黒鉛、骨灰、チタン酸アルミニウム、及びアルミン酸カルシウムのうちの1つ以上を含む。例示のケイ酸塩には、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸ジルコニウム、マイカ、ウォラストナイト、マイクロライト、及びタルクが含まれるが、これらに限定されない。例示される金属酸化物には、MgO、Al23、TiO2、Y23、ZrO2、Y23、及びWO2が含まれるが、これらに限定されない。例示のホウ化物としては、E?ガラス及びZrB2が挙げられるが、これらに限定されない。例示の窒化物としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素が挙げられるが、これらに限定されない。例示の炭化物としては、炭化ケイ素及び炭化ホウ素が挙げられるが、これらに限定されない。例示の硫化物には、BaSOが含まれるが、これに限定されない。例示のフッ化には、CaF2及びAlF3が含まれるが、これらに限定されない。例示のアルミナイドとしては、MgAl及びTiAlが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
実施形態において、保護剤は、窒化ホウ素、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸ジルコニウム、マイカ、ウォラストナイト、マイクロライト、タルク、MgO、Al23、TiO2、ZrO2、Y23、WO2、E?ガラス繊維、ZrB2、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭化ホウ素、BaSO、CaF2、AlF3、MgAl、及びTiAlのうちの少なくとも1つを含む。実施形態において、保護剤は、窒化ホウ素、マイカ、ジルコン、タルク、ウォラストナイト、マイクロライト、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フルオロケイ酸マグネシウム、グラファイト、骨灰、二酸化チタン、炭化ケイ素、及びフッ化アルミニウムのうちの少なくとも1つを含む。例示の保護剤は、溶融金属との接触によって生じる腐食、侵食、又は腐食と侵食の両方に対する保護を提供してもよい。本開示のある態様では、保護剤は窒化ホウ素を含む。窒化ホウ素は、優れた高温安定性(例えば、900℃までの空気中での耐酸化性)を示し、液体アルミニウム及び液体アルミニウム合金を含むほとんどの溶融金属によって湿潤しない。窒化ホウ素は、粉末形態であってもよい。本開示によれば、窒化ホウ素は、六方晶窒化ホウ素(すなわち、六方晶結晶構造を有する窒化ホウ素)である。従って、保護剤が窒化ホウ素である本開示の実施形態において、保護剤は、薄片状の形態を有する六方晶窒化ホウ素を含む。本開示の特定の態様では、保護剤は、少なくとも98重量%の六方晶窒化ホウ素を含み、例えば、100重量%の六方晶窒化ホウ素を含む。本開示の特定の態様では、保護剤は、薄片状の形態を有する90重量%~98重量%の六方晶窒化ホウ素及び残りの不純物を含む。薄片状の形態を有する六方晶窒化ホウ素は、1m2/g~40m2/g、例えば、1m2/g~30m2/g、1m2/g~20m2/g、2m2/g~16m2/g、の比表面積を有する。薄片状の形態を有する六方晶窒化ホウ素は、0.075ミクロン~1,000ミクロン、例えば、0.1ミクロン~750ミクロンを含む、1ミクロン~500ミクロン、1ミクロン~200ミクロン、1ミクロン~100ミクロン、1ミクロン~100ミクロン、1ミクロン~50ミクロン、1ミクロン~25ミクロン、及び1ミクロン~10ミクロン、の平均粒径を有する。
【0039】
本明細書に開示されるコーティング組成物によれば、保護剤は、バインダー系に分散される。従って、コーティング組成物は、バインダー系及び保護剤を含む混合物である。
【0040】
本開示によれば、バインダー系は、コーティング組成物の40重量%~95重量%、保護剤は、コーティング組成物の5重量%~60重量%含まれる。本開示によれば、バインダー系は、コーティング組成物の45重量%~95重量%、保護剤は、コーティング組成物の5重量%~55重量%含まれる。本開示によれば、バインダー系は、コーティング組成物の50重量%~95重量%、保護剤は、コーティング組成物の5重量%~50重量%含まれる。本開示によれば、バインダー系は、コーティング組成物の75重量%~95重量%、保護剤は、コーティング組成物の5重量%~25重量%含まれる。本開示によれば、バインダー系は、コーティング組成物の75重量%~90重量%、保護剤は、コーティング組成物の10重量%~25重量%含まれる。本開示によれば、バインダー系は、コーティング組成物の75重量%~85重量%、保護剤は、コーティング組成物の15重量%~25重量%含まれる。本開示によれば、バインダー系は、コーティング組成物の50重量%~70重量%、保護剤は、コーティング組成物の30重量%~50重量%含まれる。コーティング組成物に使用されるバインダー系及び保護剤は、本明細書に記載されるバインダー系及び保護剤の種々の実施形態を含む。
【0041】
本開示によれば、バインダー系は、コーティング組成物の5重量%~95重量%、保護剤は、コーティング組成物の5重量%~95重量%含まれる。本開示に従って、カラメル化炭水化物成分は、バインダー系の60重量%~70重量%を含み、25重量%~75重量%の炭水化物、25重量%~70重量%の水、0.05重量%~25重量%の酸、0重量%~5重量%の無機湿潤剤、0重量%~2重量%の酸性リン酸塩接着剤、及び0重量%~20重量%のベントナイトを含む混合物のカラメル化によって形成され、無機コロイドバインダーは、バインダー系の30重量%~40重量%含み、コロイダルシリカを含む。前述の例示の特定の実施形態において、保護剤は、窒化ホウ素を含む。
【0042】
本明細書に開示される例示のコーティング組成物を製造する方法もまた提供される。本明細書に開示されるコーティング組成物の製造方法は、水、炭水化物、及びアジュバントを含む混合物を調製することを含む。炭水化物は、前述した炭水化物のいずれか1つ以上を含む。アジュバントは、任意の1つ以上の前述したアジュバントを含む。本開示の実施形態において、混合物は、水、スクロース、及び酸、無機湿潤剤、酸リン酸塩接着剤、又はベントナイトのうちの少なくとも1つなどの少なくとも1つのアジュバントを含む。本開示の実施形態において、混合物は、混合物の50重量%~60重量%のスクロースなどの炭水化物、混合物の35重量%~45重量%の水、混合物の0.8重量%~1.25重量%のリン酸などの酸、混合物の0重量%~0.8重量%の硫酸アルミニウムアンモニウムなどの無機湿潤剤、混合物の1重量%~1.5重量%の一塩基性リン酸カルシウムなどの酸性リン酸塩接着剤、及び混合物の0重量%~6重量%のベントナイトを含む。混合物は、塗料ミキサー又は高剪断ミキサーなどの適切な混合装置を使用して調製することができる。
【0043】
混合物を調製した後、混合物を、少なくとも20℃の温度である、カラメル化温度まで、炭水化物をカラメル化するのに有効な時間、例えば、少なくとも5分間加熱して、カラメル化炭水化物成分を形成する。本開示の実施形態において、混合物を、20℃~125℃のカラメル化温度、例えば、50℃~120℃、60℃~120℃、80℃~120℃、100℃~110℃、及び100℃~105℃まで、炭水化物をカラメル化するのに有効な時間である5分~30分、例えば、5分~20分、及び5分~10分をはじめとする時間にわたって、加熱して、カラメル化炭水化物成分を形成する。本開示の実施形態において、カラメル化炭水化物成分は室温(例えば、20℃~25℃)で冷却させる。
【0044】
あるいは、水及び予備カラメル化炭水化物を含む混合物を調製して、カラメル化炭水化物成分を得る。予備カラメル化されたカラメル化炭水化物を利用することによって、水と予備カラメル化されたカラメル化炭水化物との混合物は、カラメル化炭水化物成分を得るために処理する(例えば、カラメル化温度に加熱される)必要がない。そのような実施形態において、水及び予備カラメル化炭水化物を含む混合物は、酸、無機湿潤剤、酸性リン酸塩接着剤、及びベントナイトのうちの少なくとも1つなどの少なくとも1つのアジュバントをさらに含む。水及び予備カラメル化炭水化物を含む混合物中に、前述のアジュバントのいずれか1つ以上を使用して、カラメル化炭水化物成分を得ることができる。
【0045】
コーティング組成物の製造方法の別のステップでは、少なくとも1つのアジュバントを含むカラメル化炭水化物成分を無機コロイドバインダーと混合して、バインダー系を形成する。あるいは、バインダー系は、カラメル化炭水化物、少なくとも1つのアジュバント、及び無機コロイドバインダーを一緒に混合することによって形成してもよい。前述の無機コロイドバインダーのいずれか1つ以上を使用して、バインダー系を形成する。本開示の実施形態において、コロイダルシリカを、バインダー系を形成するための少なくとも1つのアジュバントを含むカラメル化炭水化物成分と混合する。本開示の実施形態において、コロイダルシリカを、カラメル化炭水化物成分及び少なくとも1つのアジュバントと混合して、バインダー系を形成する。本開示の実施形態において、1重量%~25重量%のアジュバント(カラメル化炭水化物成分の総重量に基づいて)を含むカラメル化炭水化物成分は、バインダー系の5重量%~95重量%含まれ、無機コロイドバインダーは、バインダー系の5重量%~95重量%含まれる。バインダー系を形成するために、アジュバントを含むカラメル化炭水化物成分を無機コロイドバインダーと混合するために、ペイントミキサー又は高剪断ミキサーなどの従来の混合装置を使用してよい。
【0046】
バインダー系の形成後、本方法は、バインダー系を保護剤と混合してコーティング組成物を形成することを含む。前述の保護剤のいずれか1つ以上をバインダー系と混合して、本開示のコーティング組成物を形成する。例えば、窒化ホウ素をバインダー系と混合してコーティング組成物を形成する。本開示の実施形態において、バインダー系は、コーティング組成物の40重量%~95重量%を構成し、窒化ホウ素などの保護剤は、コーティング組成物の5重量%~60重量%を構成する。本開示の実施形態において、バインダー系は、コーティング組成物の45重量%~95重量%を構成し、窒化ホウ素などの保護剤は、コーティング組成物の5重量%~55重量%を構成する。本開示の実施形態において、バインダー系は、コーティング組成物の50重量%~95重量%を構成し、窒化ホウ素などの保護剤は、コーティング組成物の5重量%~50重量%を構成する。ペイントミキサー又は高剪断ミキサーのような従来の混合装置を使用して、バインダー系を保護剤と混合してコーティング組成物を形成することができる。
【0047】
また、本明細書では、その一部に固体コーティングを有する物品が提供される。本開示の実施形態において、物品は、基材と、基材の少なくとも一部に付着した固体コーティングとを含む。固体コーティングが付着する基材の部分は、好ましくは、使用時に溶融金属と接触する基材の部分である。固体コーティングは、本明細書に開示されるコーティング組成物のいずれか、例えば、a)カラメル化炭水化物成分と、無機コロイドバインダーと、アジュバントとの混合物を含むバインダー系と、b)保護剤とを含むコーティング組成物から形成される。例えば、本開示の実施形態において、コーティング組成物は、a)i)スクロースなどの炭水化物、水、リン酸などの酸を含むアジュバント、硫酸アンモニウムなどの無機湿潤剤、及び一塩基性リン酸カルシウムなどの酸性リン酸塩接着剤を含む混合物のカラメル化によって形成されるカラメル化炭水化物成分と、ii)コロイドシリカを含む無機コロイドバインダーとの混合物を含むバインダー系と、b)薄片状の形態を有する六方晶窒化ホウ素などの窒化ホウ素を含む保護剤とを含む。
【0048】
様々な基材に、その少なくとも一部に付着した固体コーティングを設けることができる。本開示の実施形態において、基材は、耐火材料、金属材料、セラミック材料、耐火セラミック繊維、非耐火セラミック繊維、ガラス材料、及びケイ酸カルシウム材料のうちの少なくとも1つを含む。好適な耐火性材料としては、低セメント耐火性キャスタブル、ノーセメント耐火性キャスタブル、高密度溶融シリカ耐火物、ガラス繊維で強化された耐火物(RFM(登録商標)、Pyrotek、Inc.、米国ワシントン州スポケーンから入手可能)が挙げられるが、これらに限定されない。好適な金属材料としては、鋼、ステンレス鋼、及び鋳鉄が挙げられるが、これらに限定されない。好適なガラス材料としては、ガラス繊維、ホウケイ酸ガラス、及びアルミノケイ酸ガラスが挙げられるが、これらに限定されない。このような基材を含む物品としては、ひしゃく、レーキ、インペラ、ラウンダーコンポーネント(例えば、キャストラウンダー、ラウンダーダム)、高温絶縁ファイバーボード、高温絶縁形、ランス、熱電対シート、熱電対保護シート、ソウモールド、インゴットモールド、硬化ガラス織フィルター、熱成形(TF)コンボ袋、ダイレクトチル(DC)鋳造ピン、DC鋳造ダウンスパウト、低圧ダイカスト(LPDC)ライザーチューブ、DC鋳造に使用されるトランジションプレート(T-プレート)、及びフィルター容器が含まれるが、これらに限定されない。
【0049】
また、本明細書では、基材の少なくとも一部に付着した固体コーティングを作製する方法が提供される。基材の少なくとも一部に固体コーティングを付着させるために、コーティング組成物は、まず、基材の所望の部分に塗布される。コーティング組成物は、様々な技術を用いて基材に塗布することができる。例えば、コーティング組成物は、噴霧、浸漬、浸漬、ローリング、スピニング、塗装、カーテンコーティング、フローコーティング、又は当業者に公知の他の塗布もしくはコーティング技術によって、基材に塗布される。コーティング組成物は、噴霧によって基材に塗布されるのが好ましい。コーティング組成物の塗布後、塗布されたコーティング組成物を有する基材は、加熱処理(又は焼成)されて、基材に付着した固体コーティングを形成する。本開示の実施形態において、塗布されたコーティング組成物を有する基材は乾燥して(例えば、約25℃~約110℃の温度のオーブン内で)、熱処理の前に過剰の溶媒(例えば、水)を排除する。熱処理の間、バインダー系のカラメル化炭水化物成分は、熱分解されるか、又はその他燃焼されて、基材に付着した固体コーティングは、保護剤及び無機コロイドバインダーを含み、これが、保護剤の粒子と一緒に結合し、そしてまた保護剤の粒子を基材に結合する。特定の実施形態において、熱処理は、塗布されたコーティング組成物を有する基材を300℃~1,000℃の温度に1分間~180分間加熱することを含む。特定の実施形態において、熱処理は、塗布されたコーティング組成物を有する基材を450℃~1,000℃の温度に15分~60分間加熱することを含む。特定の実施形態において、熱処理は、塗布されたコーティング組成物を有する基材を550℃~1,000℃の温度に15分~60分間加熱することを含む。特定の実施形態において、熱処理は、塗布されたコーティング組成物を有する基材を600℃~1,000℃の温度に15分~60分間加熱することを含む。
【0050】
本開示によれば、本明細書に記載されるコーティング組成物の使用は、基材の表面に付着した固体コーティングを提供するものである。本開示によれば、本明細書に記載の固体コーティングを製造する方法の使用は、基材の少なくとも一部に付着した固体コーティングを提供することである。
【0051】
本開示によれば、基材に付着した固体コーティングは、10μm~100μm、例えば、10μm~90μm、15μm~80μm、及び20μm~60μmの厚さを有する。
【0052】
本開示によれば、基材(例えば、低密度絶縁ファイバーボード(キャスター先端))に付着した固体コーティングは、ショアDスケールでASTM?D2240に従って測定した平均表面硬度が少なくとも45であり、例えば、45~80、45~75、45~65、及び50~65である。表面硬度を測定するために、本明細書に記載のコーティング組成物を、4インチ×4インチの断熱繊維基材試験片上に噴霧する。コーティング組成物が塗布された試験片を、110℃で約1時間乾燥させ、次いで600℃で約1時間焼成する。次いで、表面硬度を、ASTM?D2240に従って、ショアDスケールで、試験片上の5つの位置で測定し、測定値を平均する。
【0053】
本開示の実施形態において、基材(例えば、ガラス織布)に付着した固体コーティングは、少なくとも30、例えば、30~75、30~65、30~60、及び30~55のテーバー剛性を有する。テーバー剛性は、TAPPI T566「紙の曲げ抵抗(剛性)(テーバー型試験機)」に従って測定することができる。TAPPI T566による測定値は、標準化されたクーポンを15°の角度まで曲げるのに必要な曲げモーメントを表す「テーバー剛性単位」で提供される。テーバー剛性を求めるために、本明細書に記載のコーティング組成物を、1.5インチ×2.625インチのガラス織布試料上にロール塗布する。コーティング組成物が塗布された試料を、110℃で約1時間乾燥させ、次いで600℃で約1時間焼成する。次いで、テーバー剛性を、5つの別個の試験片を使用して、電動テーバー剛性装置を用いてTAPPI T 566に従って測定し、測定値を平均する。より高いテーバー剛性は、より強いコーティングに相関するものと考えられる。
【0054】
本開示の実施形態において、基材に付着した固体コーティングは、少なくとも25秒、例えば、25秒~100秒、25秒~90秒、及び25秒~85秒の通気性を有する。通気性は、TAPPI T460「紙の透気度(ガーレー法)」に従って、通気性を測定することができる。通気性を求めるために、本明細書に記載のコーティング組成物を、3インチ×4インチのガラス織布試験片上にロール塗布する。コーティング組成物が塗布された試験片を、110℃で約1時間乾燥させ、次いで600℃で約1時間焼成する。TAPPI T460法は、試料の6.45cm2環状面積の空気抵抗を1.22kPaの固定圧力差を用いて測定する。固定された318mLの空気が試料を通過するのに要する時間を、通気性として記録する。より高い通気性(すなわち、試料を通る空気を通過させるのにより長い期間)は、基材上のより密に充填された保護剤と相関し、これは、腐食性材料(例えば、気体マグネシウム)が下にある基材に浸透し、攻撃する能力を低下させ、従って、耐食性を向上させると考えられる。
【0055】
ファクトセージ(登録商標)熱化学ソフトウェア(CRCT-Thermfact、Inc.及びGTT-Technologies)を用いた熱力学的計算は、カラメル化炭水化物成分、アジュバント、及びコロイダルシリカバインダーなどの無機コロイドバインダーを含む本開示のバインダー系の結果として、高温リン酸結合系の存在を予測する。ホウ酸(HBO)は、450℃まで耐熱性であるコロイドシリカ及び窒化ホウ素を含む従来のコーティング組成物のための主な結合系である。一方、カラメル化炭水化物成分、アジュバント、及び無機コロイドバインダーを含む本開示のバインダー系は、種々のリン酸塩及びホウ酸塩結合の形成をもたらし、アルミ鋳造用途に近い温度である750℃の温度などのより高い温度で、窒化ホウ素などの保護剤が基材へ結合するのを維持することができる。
【0056】
実施例
以下の実施例は、本明細書に記載されるコーティング組成物の特定の例示の実施形態を示す。実施例は、単に例示のためであり、本開示の精神や範囲から逸脱することなく、その多くの変形が可能であるので、本開示を限定するとは解釈されないものとする。
【0057】
実施例1
本明細書に記載のコーティング組成物の例示の実施形態を調製した。1キログラムの混合物を、ステンレス鋼容器中で以下の成分を一緒に混合することによって調製した。a)Lantic、Inc.(カナダ、ケベック州モントリオール)製の食品グレードのグラニュー糖(すなわち、スクロース)、b)水、c)実験室グレードのリン酸75重量%(すなわち、75重量%のHPOと25重量%の水との混合物)、d)Spectrum Chemical Manufacturing Corp.(米国ニュージャージー州、ニューブランズウィック)製のCa(HPO)・HOを含む一塩基性リン酸カルシウム、及びe)ACP Chemicals、Inc.(カナダ、ケベック州、サンレオナール製の実験室グレードのAlNH(SO42・12H2Oを含む硫酸アンモニウムアルミニウム。
【0058】
混合物は、550グラムのスクロース、415グラムの水、11グラムのリン酸(75重量%)、14グラムの一塩基性リン酸カルシウム、及び10グラムの硫酸アルミニウムアンモニウムをステンレス鋼容器に添加し、次いで、均質な混合物が得られるまで、ペイントミキサーで成分を一緒に混合することによって調製した。
【0059】
次いで、均一な混合物を80℃~120℃の温度に加熱し、この温度で少なくとも5分間保持して、カラメル化炭水化物成分を形成した。カラメル化炭水化物成分を室温(例えば、20℃~25℃)で冷却させた。
【0060】
次に、515グラムの無機コロイドバインダーを1キログラムのカラメル化炭水化物成分に添加した。無機コロイドバインダーは、Nalco Company(米国イリノイ州ナパービル)から入手可能なNALCO 1144コロイドシリカであった。次いで、コロイドシリカ及びカラメル化炭水化物成分を、ペイントミキサーを用いて一緒に混合して、バインダー系を形成した。混合は均一なバインダー系を得るのに十分な時間(この場合、約10分間)、室温(例えば、20℃~25℃)で行った。バインダー系は、約66重量%のカラメル化炭水化物成分及び約34重量%のコロイダルシリカを含んでいた。
【0061】
次に、40グラムの六方晶窒化ホウ素(hBN)(すなわち保護剤)を、0.12kgのバインダー系に添加した。hBNは、99.9%を超える窒化ホウ素含有量、約7ミクロンの平均粒径、約3m/gのBETによる比表面積、及び0.23g/cmのタップ密度を有していた。hBN及びバインダー系を、高剪断ミキサーを用いて一緒に混合して、コーティング組成物を形成した。混合は均一なコーティング組成物を得るのに十分な時間(この場合、約2分間)、室温(例えば、20℃~25℃)で行った。重量割合(コーティング組成の合計重量に基づく)で、コーティング組成物の成分は、24.841重量%のコロイドシリカ、27.63重量%のスクロース、0.573重量%のリン酸、0.359重量%の硫酸アルミアンモニウム、0.746重量%のリン酸カルシウムモノマー、20.851重量%の水、及び25重量%の窒化ホウ素を含む。
【0062】
実施例2
実施例1で得られたコーティング組成物から形成された固体コーティングを有する物品を作製した。この物品は、アルミノケイ酸塩繊維を含む耐火性繊維ボード製の基材を含む。基材の表面を圧縮空気で清浄にし、遊離物質や塵を除去した。その後、実施例1で得られたコーティング組成物の層を、当業者に周知の技術に従ってスプレーガンで基材に塗布した。コーティング組成物の層を、オーブンにて、約110℃で約1時間乾燥した。その後、コーティング組成物の乾燥層を有する基材を、約600℃で約1時間焼成工程にかけて、固体コーティングを有する物品を製造した。
【0063】
図1及び2に見られるように、固体コーティングは、hBNフレークの層状配列を含む。hBNフレークは、図2に示すように、フレークの表面に分散したシリカバインダーの分離点を有する。フレーク上のシリカバインダーの分離点は、フレーク自体とフレークと基材との間に均一な結合を生じさせ、強固に付着したコーティングを形成する。
【0064】
実施例3
本明細書に記載のコーティング組成物の例示の実施形態を行った。本実施例のコーティング組成物は、実施例1に記載したのと同じ成分及び同じ方法を用いて調製したが、異なる量のバインダー系を使用して、コーティング組成物を調製した。本実施例では、40グラムのhBNを0.4キログラムのバインダー系に添加した。hBN及びバインダー系を、高剪断ミキサーを用いて一緒に混合して、コーティング組成物を形成した。混合は均一なコーティング組成物を得るのに十分な時間(この場合、約2分間)、室温(例えば、20℃~25℃)で行った。重量割合(コーティング組成の合計重量に基づく)で、コーティング組成の成分は、30.11重量%のコロイドシリカ、33.493重量%のスクロース、0.698重量%のリン酸、0.432重量%の硫酸アルミアンモニウム、0.904重量%のリン酸カルシウムモノマー、25.273重量%の水、及び9.09重量%の窒化ホウ素を含む。
【0065】
実施例4
実施例3で得られたコーティング組成物から形成された固体コーティングを有する物品を作製した。物品は、アルミノケイ酸塩繊維を含む耐火材料製の基材を含む。基材の表面を圧縮空気で清浄にし、遊離物質や塵を除去した。その後、実施例3で得られたコーティング組成物の層を、当業者に周知の技術に従ってスプレーガンで基材に塗布した。コーティング組成物の層を、オーブンにて約110℃で約1時間乾燥した。その後、コーティング組成物の乾燥層を有する基材を、約600℃で約1時間焼成工程にかけて、固体コーティングを有する物品を製造した。
【0066】
図5及び6に見られるように、固体コーティングは、hBNフレークの層状配列を含む。hBNフレークは、図6に示すように、フレークの表面に分散したシリカバインダーの個別のパッチを有する。フレーク上のシリカバインダーの個別のパッチはフレーク自体の間及びフレークと基材間の結合のためのより広い表面積を与え、保護剤の量に対してコーティング組成物中に使用されるバインダー系の量を増加させることによって達成された。フレーク上のシリカバインダーの不連続なパッチによって作り出されるより大きな表面積は、固体コーティングの基材へのより強力な付着を可能にする。
【0067】
比較例1
市販のコーティング組成物から形成された固体コーティングを有する物品を作製した。市販のコーティング組成物は、バインダーとして窒化ホウ素及びアモルファスシリカを含んでいた。市販のコーティング組成物を、塗布前に1.5:1(コーティング対水)の比で水で希釈した。物品は、アルミノケイ酸塩繊維を含む耐火材料から作製された基材を含む。基材の表面を圧縮空気で清浄にし、遊離物質や塵を除去した。その後、希釈された市販のコーティング組成物の層を、当業者に周知の技術に従ってスプレーガンで基材に塗布した。市販のコーティング組成物の層を、オーブンにて、約110℃で約1時間乾燥した。その後、市販のコーティング組成物の乾燥層を有する基材を約600℃で約1時間焼成工程にかけ、希釈された市販のコーティング組成物から形成された固体コーティングを有する物品を製造した。
【0068】
図3及び4に見られるように、窒化ホウ素フレークは、シリカバインダーのフレーク間凝集のブロッキング効果によって一緒に結合される。市販のコーティング組成物と本開示のコーティング組成物とのの結合の差は、図1及び2を図3及び4と比較することによって明らかに見て取れる。
【0069】
実施例5
この実施例では、本明細書に開示されるコーティング組成物から形成される固体コーティングの様々な特性を評価し、比較例1の市販のコーティング組成物(すなわち、窒化ホウ素及びアモルファスシリカを用いた市販のコーティング)、二酸化チタン及びか焼粘土を含むPyrotek、Inc.(米国、ワシントン州、スポケーン)製の市販のコーティング組成物(すなわち、Pyrotek Coating 3321耐摩耗性コーティング)、ならびに窒化ホウ素及びコロイドアルミナバインダーを用いた市販のコーティング組成物(すなわち、窒化ホウ素及びコロイドアルミナを用いた市販のコーティング)から形成される固体コーティングの特性と比較した。
【0070】
組成物Aは、上記実施例1に記載のコーティング組成物に相当する。組成物Bは、組成物Aと同じ方法で調製したが、0.2キログラムのバインダー系及び40グラムのhBNを含んでいた。組成物Cは、上記実施例3に記載のコーティング組成物に相当する。組成物Dは、0.24キログラムのバインダー系(実施例1に記載された通りに調製)、9グラムのベントナイト、及び50グラムのhBNを含んでいた。組成物Eは、0.24キログラムのバインダー系(実施例1に記載された通りに調製)、20グラムのベントナイト、及び50グラムのhBNを含んでいた。
【0071】
実施例1に記載の方法と同様の方法で調製される組成物Fは、(組成物の総重量に基づく重量パーセントで)以下の成分を含む。36.423重量%のコロイダルシリカ、16.823重量%のスクロース、0.348重量%のリン酸、0.218重量%の硫酸アルミニウムアンモニウム、0.454重量%の一塩基性リン酸カルシウム、12.698重量%の水、2.662重量%のマイカ、22.044重量%のウォラストナイト、及び8.33重量%の窒化ホウ素。
【0072】
実施例1に記載の方法と同様の方法で調製される組成物Gは、(組成物の総重量に基づく重量パーセントで)以下の成分を含む。23.848重量%のコロイダルシリカ、26.527重量%のスクロース、0.549重量%のリン酸、0.344重量%の硫酸アルミニウムアンモニウム、0.716重量%の一塩基性リン酸カルシウム、20.016重量%の水、及び28重量%の二酸化チタン。
【0073】
実施例1に記載したのと同様の方法で調製される組成物Hは、(組成物の総重量に基づく重量パーセンテージで)以下の成分を含む。48.78重量%のコロイドアルミナ、24.39重量%のスクロース、0.49重量%のリン酸、9.75重量%の水、及び16.59重量%の窒化ホウ素。
【0074】
実施例1に記載の方法と同様の方法で調製される組成物Iは、(組成物の総重量に基づく重量パーセントで)以下の成分を含む。45.586重量%のコロイダルシリカ、2.965重量%のスクロース、0.061重量%のリン酸、0.038重量%の硫酸アルミニウムアンモニウム、0.079重量%の一塩基性リン酸カルシウム、2.238重量%の水、5.36重量%のマイカ、及び43.67重量%のウォラストナイト。
【0075】
実施例1に記載の方法と同様の方法で調製される組成物Jは、(組成物の総重量に基づく重量パーセントで)以下の成分を含む。44.393重量%のコロイダルシリカ、2.887重量%のスクロース、0.896重量%のリン酸、0.037重量%の硫酸アルミニウムアンモニウム、0.078重量%の一塩基性リン酸カルシウム、0.42重量%のホウ酸、2.179重量%の水、5.22重量%のマイカ、41.8重量%のウォラストナイト、及び2.09重量%のチョップガラス繊維。
【0076】
コーティング組成物から形成された固体コーティングの種々の特性を表1に挙げる。
【表1】
【表2】
【表3】
【0077】
コーティング配合物の腐食及び付着特性を、ボックス試験法を用いて視覚的に測定した。ボックス試験では、各コーティング配合物を調製し、アルミノケイ酸塩基材上に塗布した。コーティングされた各基材を110℃で一晩乾燥させた。次に、乾燥したコーティングの各基材を6つの部分に切断し、そのうちの5つを使用して、コーティングされた側面を内側に向けた耐火性ボックス(4インチ×5インチ×4インチ)を製造した。各ボックスは、ボックスの外側をガラス繊維で包んで補強した。5182アルミニウム合金(4.5%Mg)の1kg固体試料を各箱に入れた。5182アルミニウム合金のサンプル1kgを含む各ボックスを、700℃に予熱したオーブンに入れた。72時間後、ボックスをオーブンから取り出し、直ちに処理する。表面スラグは破断し、部分的に除去される。アルミニウム試料は、溶融している間に収集される。残ったスラグとアルミニウムは、耐火性受け皿の上でボックスを反転させることによって除去される。冷却後、ボックスの一部を分解して観察する。ボードの腐食やボード表面の金属の付着を目視で評価する。腐食性については、スコア1は腐食なし、スコア2は分離パッチでのわずかな腐食を示し、スコア3はほとんどの表面でのわずかな腐食を示し、スコア4はすべての表面での中程度の腐食を示し、スコア5は基材の深部での激しい腐食を示す。付着性については、スコア1は付着がないことを示し(破片は容易に除去される)、スコア2は基材上にわずかな付着の痕跡が残っていることを示し(基材の剥離がない)、スコア3は基材の剥離を伴う、基材上にわずかな付着の痕跡を残すわずかな付着を示し、スコア4は基材の大きな剥離を伴う中程度の付着を示し、スコア5は強い付着を示す(破片は除去できない)。
【0078】
表1に見られるように、組成物Aは、腐食性と付着性の両方についてスコア1となり、組成物Fは腐食性についてスコア1となり、付着性についてスコア2となった。これらの結果は、窒化ホウ素及びアモルファスシリカを有する市販のコーティング組成物によって達成される腐食性能と一致する。しかしながら、注目すべきことに、組成物Fは組成物Aと同じ腐食スコアを達成したが、組成物Fでは、より少ない窒化ホウ素(組成物の総重量に基づいて8.33重量%の窒化ホウ素)を使用し、組成物Aでは、25重量%の窒化ホウ素(組成物の総重量に基づいて)を使用した。本開示のコーティング組成物はより少ない窒化ホウ素を利用しながら、窒化ホウ素及びアモルファスシリカを有する市販のコーティング組成物と同様の腐食性能を達成することができると考えられる。
【0079】
また、表1に見られるように、窒化ホウ素及びコロイドアルミナバインダーを含む組成物Hは、腐食性と付着性の両方についてスコア2となった。さらに、組成物Hの溶融%によるケイ素吸収は0.03%であった。溶融%によるケイ素吸収は、ボックス試験における材料劣化の指標である。溶融%値によるケイ素吸収量が低いほど、腐食の発生が少ないことを示している。窒化ホウ素及びコロイドアルミナを有する市販のコーティング組成物は、腐食性についてスコア3を、付着性についてスコア2となった。さらに、窒化ホウ素及びコロイドアルミナを有する市販のコーティング組成物は、0.17%の溶融%値によるケイ素吸収を有した。従って、組成物Hは、窒化ホウ素及びコロイドアルミナを有する市販のコーティング組成物と比較して、より良好な腐食保護及び同様の付着値を示した。
【0080】
表1に見られるように、組成物G、I、及びJは、ASTM D?4060(テーバー研磨機、研磨ホイールタイプ=H?18、ホイール上の質量=500グラム、100サイクル)に従って試験した場合、それぞれ2.33%、0.58%、及び0.66%の重量損失(%)を示した。窒化ホウ素及びアモルファスシリカを含む市販のコーティング組成物及びパイロテックコーティング3321も、ASTM D?4060(テーバー摩耗試験機、研磨ホイールタイプ=H?18、ホイール上の質量=500グラム、100サイクル)に従って試験したところ、それぞれ3.56%及び3.83%の重量損失を示した。従って、本開示の例示のコーティング組成物は窒化ホウ素及びアモルファスシリカ及びパイロテックコーティング3321を有する市販のコーティング組成物と比較して、より少ない重量損失を示し、従って、浸食に対するより良好な保護を示した。
【0081】
本開示はその実施形態の説明によって例示され、実施形態はかなり詳細に説明されているが、添付の特許請求の範囲をそのような詳細に限定することは出願人の意図するところではない。付加的な利点や改良は、当業者にとっては容易に想到されるものである。従って、本開示は、そのより広い態様において、特定の詳細、代表的な組成物及びプロセス、ならびに示され記載された例示の実施例に限定されない。従って、本開示の精神又は範囲から逸脱することなく、そのような詳細から逸脱することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6