(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】高い破裂強さの湿式不織濾過媒体及びこれを生成するための方法
(51)【国際特許分類】
B01D 39/14 20060101AFI20231121BHJP
D04H 1/541 20120101ALI20231121BHJP
D21H 15/10 20060101ALI20231121BHJP
D21H 27/08 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B01D39/14 A
D04H1/541
D21H15/10
D21H27/08
(21)【出願番号】P 2020556923
(86)(22)【出願日】2019-04-16
(86)【国際出願番号】 FI2019050307
(87)【国際公開番号】W WO2019202212
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-03-11
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518147286
【氏名又は名称】アールストローム オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シム、ジェシー
(72)【発明者】
【氏名】リー、テイラー
(72)【発明者】
【氏名】パク、ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン、マシュー
(72)【発明者】
【氏名】カン、メリッサ
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-176173(JP,A)
【文献】特開2007-144415(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0232371(US,A1)
【文献】特表平07-502578(JP,A)
【文献】特開2008-246321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D39/00-39/20
D04H1/00-18/04
D21H11/00-27/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温領域カレンダリングされた湿式不織繊維ウェブを含む繊維質濾過媒体であって、
合成ステープル繊維と、
繊維ウェブの総重量を基準として、20重量%~80重量%の、繊維ウェブに分散した芯鞘二成分ステープル繊維と
を含み、
繊維ウェブが、0.45g/cm
3未満の密度を有し、25μm以下の最小細孔サイズを有し、10bar超の乾燥破裂強さを示し、
合成ステープル繊維が、少なくとも2つの異なる種類の合成繊維の混合物を含み、合成ステープル繊維が、2.5μm~10μmの間の平均直径を有する第1の種類の合成繊維と、10μm~20μmの間の平均直径を有する第2の種類の合成繊維とを含む、
上記繊維質濾過媒体。
【請求項2】
繊維ウェブが、12bar超の乾燥破裂強さを有する、請求項1に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項3】
繊維ウェブが、10bar超の湿潤破裂強さを有する、請求項1又は2に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項4】
繊維ウェブが、0.40g/cm
3未満の密度を有する、請求項1から3のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項5】
繊維ウェブが、22μm以下の最小細孔サイズを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項6】
繊維ウェブが、40μm以下の平均流動細孔サイズを有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項7】
繊維ウェブが、50μm以下の最大細孔サイズを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項8】
繊維ウェブが、25μm以下の細孔サイズ範囲を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項9】
濾過媒体を、EN779:2012標準によるF7濾過材として分類することができる、請求項1から8のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項10】
繊維ウェブの総重量を基準として、10重量%未満のガラス繊維を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項11】
ガラス繊維がガラスミクロ繊維である、請求項10に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項12】
第1の種類の合成繊維が、1mm~6mmの間の平均長さを有し、第2の種類の合成繊維が、5mm~24mmの間の平均長さを有する、請求項11に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項13】
合成ステープル繊維が、繊維ウェブの総重量を基準として、5重量%~30重量%の間の再生セルロース繊維を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項14】
再生セルロース繊維がリヨセル繊維を含む、請求項13に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項15】
濾過媒体が、湿潤強度添加剤、蛍光増白剤、繊維保持剤、着色剤、燃料-水分離助剤、及び難燃剤又は防火剤からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を更に含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項16】
少なくとも1種の添加剤が、繊維ウェブの総重量を基準として、40~80重量%の量で難燃性繊維を含む、請求項15に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項17】
合成ステープル繊維が、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン-6、ナイロン6,6、ナイロン-6,12、及びこれらの組合せからなる群から選択されるポリマーから形成される、請求項1から16のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項18】
二成分ステープル繊維の鞘及び芯が、ポリエチレンテレフタラート(PET)から形成され、鞘を形成するPETが、芯を形成するPETの溶融温度よりも低い溶融温度を有する、請求項1から17のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
【請求項19】
繊維ウェブを作製する方法であって、
当該方法が、
(a)合成ステープル繊維を含む水性繊維質スラリーと、繊維ウェブの総重量を基準として、20重量%~80重量%の芯鞘二成分ステープル繊維とから、湿式繊維ウェブを形成するステップ、及び
(b)ステップ(a)からの湿式繊維ウェブを高温領域カレンダリングに供して、二成分ステープル繊維の鞘を溶融させるステップであり、合成ステープル繊維を互いに結合させて、0.45g/cm
3未満の密度を有し、25μm以下の最小細孔サイズを有し、10bar超の乾燥破裂強さを有する繊維ウェブを実現するようにする、ステップ
を含
み、
合成ステープル繊維が、少なくとも2つの異なる種類の合成繊維の混合物を含み、合成ステープル繊維が、2.5μm~10μmの間の平均直径を有する第1の種類の合成繊維と、10μm~20μmの間の平均直径を有する第2の種類の合成繊維とを含む、方法。
【請求項20】
1kN/m~150kN/mのカレンダリング圧力条件、及び110℃~250℃のカレンダリング温度条件において、1m/分~50m/分のカレンダリングライン速度によってステップ(b)を実施する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
高い乾燥破裂強さ及び湿潤破裂強さが要求される気体及び液体のための濾過媒体としての、請求項1から18のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する実施形態は一般に、不織濾過媒体に関する。好ましい形態では、不織濾過媒体は、高い乾燥及び湿潤破裂強さ(例えば約10bar超)、並びに比較的小さい(例えば、約40μm未満、いくつかの実施形態では約25μm未満の)平均流動細孔サイズを示す低密度繊維ウェブ(例えば約0.45g/cm3未満)を含み、これはとりわけ、気体及び液体のための濾過媒体としての使用に好適である。
【背景技術】
【0002】
スパンボンド不織布は現在、集塵器フィルター、ガスタービン吸気口の空気フィルター、粉体塗料フィルター、及び噴射フィルターのような空気濾過、並びにプール及びスパのフィルター、排水フィルター、冷媒フィルターのような液体フィルターのために、このような用途では、10bar超の高い乾燥及び湿潤破裂強さが要求されるため、広く用いられている。このような高い破裂強さの要求は、濾過媒体としてスパンボンド不織布を用いることによって満たすことができるが、典型的には、他の種類の濾過媒体、例えば、セルロース繊維湿式不織媒体及びメルトブローン媒体で形成された媒体によって満たすことはできない。
【0003】
しかしながら、スパンボンド媒体は、高い濾過効率及び長い寿命時間についての現行の要求を満たすことができない。この点において、スパンボンド媒体は、繊維直径が比較的太い15~18μmの範囲内であり、それによって、従来のスパンボンド媒体が、EN779:2012標準によるMクラスフィルターの効率標準を乗り越えることが妨げられているため、濾過効率に関する特有の限界を有する。
【0004】
加えて、従来のスパンボンド媒体は、繊維ウェブにおける点結合のため、低い粉塵保持容量を有する。通例、高い乾燥及び湿潤破裂強さの用途のためのスパンボンド媒体は、ウェブ内の繊維相互結合を確保するために、高温点カレンダリングによって処理される。このような点結合によって(すなわち、スパンボンド媒体が、点カレンダリングの条件下で溶融する熱可塑性繊維を全面的に含むため)、スパンボンド濾過媒体全体の面積の約20%が、繊維と繊維との点結合のため本質的に「デッドスペース」となる。そのため、結果として、従来のスパンボンド媒体は、他の種類の濾過媒体と比較して、より低い粉塵保持容量を有する。
【0005】
従来のスパンボンド媒体の効率の低さを克服するため、ナノ繊維コーティング又はePTFE膜との積層のような他の技術を、スパンボンド媒体に加えることができる。しかしながら、これらの追加の加工の要求は、必然的に、濾過材のコストを増加させ、且つ/又はフィルターの非常に短い寿命時間をもたらす。
【0006】
湿式不織濾過材は通例、典型的なスパンボンド媒体よりも高い濾過効率及び粉塵保持容量を保有する。湿式不織媒体は、多種多様な可能な繊維直径から湿式プロセスによって形成されうるため、従来のスパンボンド媒体を形成するものよりも実質的に細い直径の繊維、例えば、0.8デニール繊維(約9μmの直径を有する)、0.3デニール繊維(約5.5μmの直径を有する)、及び0.06dtex繊維(約2.6μmの直径を有する)を採用してもよい。しかしながら、典型的な湿式不織濾過材は、湿式濾過材にバインダー樹脂を含ませること、及び/又はバインダー繊維を供給することができるにしても、従来の湿式濾過材の乾燥及び湿潤破裂強さは10bar未満であるため、高い乾燥及び湿潤破裂強さが要求される濾過用途に使用可能であることは知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのため、高い乾燥及び湿潤破裂強さ(すなわち、10bar超)を保有する繊維質湿式濾過媒体を提供し、従来、スパンボンド媒体によって応じられている用途にこれを用いることができれば、非常に望ましいことになる。本明細書に開示する実施形態が対象とすることは、このような必要性を満たすことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示する実施形態による濾過媒体は、10bar超、通常12bar超、例えば約15bar超の高い乾燥及び湿潤破裂強さを保有する、領域カレンダリングされた湿式不織繊維ウェブを含む。カレンダリングされた湿式不織繊維ウェブはまた、従来のスパンボンド濾過媒体によって実現することができない、高い濾過効率及び粉塵保持容量を示すであろう。
【0009】
本明細書に開示する実施形態は、繊維ウェブの総重量を基準として、約20~約80重量%の対称芯鞘型(sheath-core type)二成分ステープル繊維を含み、残りが他の合成ステープル繊維である湿式不織繊維ウェブを提供し、不織ウェブを高温領域カレンダー結合に供することによって具現化される。20重量%超の芯鞘型二成分繊維の存在によって、領域結合を実施することができ、典型的にスパンボンド媒体に用いられる点カレンダー結合と比較して、実質的に少ない濾過「デッドスペース」が実現される。本発明の繊維ウェブは、連続フィラメントを有しない比較的短く切断された(例えば1~24mm)ステープル繊維を多く含有するにもかかわらず、芯鞘型二成分繊維の割合が多いこと、及びこのような繊維が不織湿式マット全体に均一に分散していることによって、本明細書に開示する実施形態の濾過媒体は、連続フィラメントから構成されるスパンボンド媒体に少なくとも匹敵する、通常はより良好な乾燥及び湿潤破裂強さを実現する。
【0010】
本発明による様々な実施形態のこれらの及び他の属性は、以下の詳細な説明を参照することによって、よりよく理解されるであろう。
【0011】
以下の添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】媒体の厚さに沿って撮影した、下記の例1による従来の湿式繊維ウェブの断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す図である。
【0013】
【
図2】本明細書に開示する実施形態による、このような媒体の厚さに沿って撮影した、例2として下記の繊維ウェブの断面のSEM画像を示す図である。媒体の深さ全体に、熱によって結合したバインダー繊維を媒体が含有することを示しており、このことが、媒体が示す高い乾燥及び湿潤破裂強さに寄与していると考えられる。
【0014】
【
図3】その厚さに沿って撮影した、下の比較例1の比較用スパンボンド媒体の断面のSEM画像を示す図である。
【0015】
【
図4】その厚さに沿って撮影した、下の比較例2の比較用スパンボンド媒体の断面のSEM画像を示す図である。
【0016】
【
図5】下記の例1の標準湿式媒体及び例2の本発明の媒体の細孔サイズ範囲を比較するグラフである。
【0017】
【
図6】下記の例2の本発明の媒体と下記の比較例1及び2の典型的なスパンボンド媒体との、細孔サイズ範囲を比較するグラフである。
【0018】
【
図7】下記の例2の本発明の媒体の表面のSEM画像を示す図である。
【0019】
【
図8】下記の比較例1の典型的なスパンボンド媒体の表面のSEM画像を示す図である。
【
図9】下記の比較例2の典型的なスパンボンド媒体の表面のSEM画像を示す図である。
【0020】
【
図10】本明細書に開示する本発明の実施形態で採用する、カレンダリングプロセスの概略図である。
【0021】
【
図11】以下の例2による媒体についての選択圧力低下曲線のグラフである。
【
図12】以下の比較例1による媒体についての選択圧力低下曲線のグラフである。
【
図13】以下の比較例2による媒体についての選択圧力低下曲線のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いる場合、下記の用語は、以下の定義を有することを意図する。
【0023】
「繊維」とは、高いアスペクト比(直径に対する長さの比)を有する、繊維質又はフィラメント状の構造である。
【0024】
「フィラメント」とは、極端な又は不定の長さの繊維を表す。
【0025】
「ステープル繊維」とは、一定の若しくは個々の長さを有する、一定の比較的短いセグメントを自然に保有し、又はこのように切断若しくは更に加工されている繊維を意味する。
【0026】
「繊維質」とは、大部分が繊維及び/又はステープル繊維から構成される材料を意味する。
【0027】
「不織」、「ウェブ」、又は「マット」という用語は、互いにランダムに噛み合って、絡み合って、且つ/又は結合して自立構造要素を形成している、多くの繊維における繊維及び/又はステープル繊維の集合を意味する。
【0028】
「合成繊維」及び/又は「人工繊維」という用語は、化合物から合成したポリマー、改質又は変換した天然ポリマー及びケイ質(ガラス)材料を含めた、繊維形成物質から作製した繊維を指す。このような繊維は、従来の溶融紡糸、溶液紡糸、溶剤紡糸のようなフィラメント生成技法によって生成されうる。
【0029】
「セルロース繊維」とは、セルロースから構成又は誘導される繊維である。
【0030】
「熱可塑性」という用語は、特定の温度を上回ると柔軟に、又は成形可能になり、次いで冷却時は固体状態に戻るポリマー材料を意味する。
【0031】
本明細書に開示する実施形態のカレンダリングされた不織湿式媒体は、100%合成ステープル繊維の形態、例えば、合成ポリマー繊維を全面的に含み、他の合成ステープル繊維(例えば、ガラス又は他の無機繊維)を任意選択で含有する繊維質媒体であってよい。したがって、好ましい形態では、本明細書に開示する実施形態の不織媒体は、セルロース又は他の天然ステープル繊維を実質的に(そうでない場合は完全に)含まないであろう。とりわけ好ましい形態では、本明細書に開示する実施形態のカレンダリングされた媒体は、20~80%の二成分ステープル繊維からなる湿式不織ウェブを含み、残部は合成ステープル繊維、好ましくは合成ポリマーステープル繊維であろう。
【0032】
A.二成分ステープル繊維
本明細書に開示する実施形態による不織繊維ウェブは、合成二成分ステープル繊維を含む。それ自体知られていることであるが、二成分ステープル繊維は、複数のポリマー源を別々の押出し機から押出し、一緒に紡いで、単一繊維を形成することによって形成されているであろう。典型的には2種の別々のポリマーを押出すが、二成分繊維は、別々の押出し機からの同じポリマー材料の押出しを包含してもよく、各押出し機のポリマー材料は、いくらか異なる特性(例えば融点)を有する。押出された両ポリマーは、二成分繊維の断面にわたって、実質的に常に別個に位置するゾーンに配置され、二成分繊維の長さに沿って、実質的に連続的に延長する。本明細書に開示する実施形態の実施に採用する二成分繊維の構成は、好ましくは実質的に対称的な芯鞘二成分繊維であり、それによって、ポリマーの鞘はポリマーの芯を、約25/75~約75/25の間、典型的には約50/50~約70/30の間の鞘の芯に対する面積比で、完全に囲んで包む。
【0033】
好ましくは、二成分ポリエチレンテレフタラート(PET)ステープル繊維であり、高融点PET芯を囲む低融点PET鞘を有する二成分ステープル繊維。好ましい形態では、二成分PETステープル繊維は、約120℃~約190℃の間、典型的には約140℃~約190℃、より好ましくは約150℃~約180℃の間、例えば約165℃(±3℃)の融点を有するPET鞘と、少なくとも約50℃、典型的には少なくとも約75℃、例えば約100℃(±5℃)だけ、PET鞘の融点よりも高い融点を有するPET芯とを含むであろう。そのため、二成分ステープル繊維のPET芯は、約220℃~約280℃の間、典型的には約250℃~約270℃の間、例えば約260℃(±5℃)の融点を有しうる。本明細書に開示する実施形態の実施に採用する好ましい1つの二成分ステープル繊維は、Huvis Corporationから市販されており、約4のデニール及び約6mmの長さを有する、LMF50二成分ステープル繊維である。二成分繊維の鞘部分も、ポリアルキレン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、及びポリアミド(ナイロン、例えば、ナイロン-6、ナイロン6,6、ナイロン-6,12等)を含めた、他の熱可塑性ポリマー材料を含みうる。
【0034】
二成分ステープル繊維は、繊維ウェブ中の繊維の総重量を基準として、20重量%~約80重量%、例えば約25重量%~約60重量%、又は更には約30重量%~約50重量%(±0.5重量%)の量で、濾過媒体中に存在するであろう。
【0035】
B.合成ステープル繊維
本明細書に記載する実施形態の不織繊維ウェブはまた、繊維ウェブの総重量を基準として、約20重量%~約80重量%の間、例えば約40重量%~約75重量%の間の熱可塑性ステープル繊維を含む合成繊維を含むであろう。好ましくは、熱可塑性ステープル繊維は、平均直径が約20μm未満、例えば約2.5μm~約15μmの間、長さが約1mm~約24mmの間、例えば約3mm~約12mmの間であろう。
【0036】
本明細書に開示する実施形態の実施に採用する合成ステープル繊維は、熱可塑性ポリマー材料から形成される事実上任意のステープル繊維であってよい。そのため、例示的な熱可塑性ステープル繊維としては、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)等のようなポリアルキレンテレフタラート)、ポリアルキレン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアクリロニトリル(PAN)、及びポリアミド(ナイロン、例えば、ナイロン-6、ナイロン6,6、ナイロン-6,12等)が挙げられる。濾過の最終用途への適用に好適な、良好な耐薬品性及び耐熱性を示すPET繊維が好ましい。
【0037】
ある特定の好ましい形態では、不織繊維ウェブは、異なるサイズの合成繊維の混合物を含むであろう。この点について、媒体は、繊維ウェブの総重量を基準として、約20重量%~約80重量%の間、約2.5μm~約10μmの間の平均直径を有する少なくとも1つの種類の合成ポリマー繊維と、繊維ウェブの総重量を基準として、約30重量%~約60重量%の間の、約10μm~約20μmの間の平均直径を有する第2の種類の合成ポリマー繊維との混合物を含みうる。第1の種類の合成繊維は、約1mm~約6mmの間の平均長さを有しうる一方、第2の種類の合成繊維は、約5mm~約24mmの間の平均長さを有しうる。
【0038】
湿式繊維質媒体に採用する合成ステープル繊維はまた、繊維ウェブの総重量を基準として、約5重量%~約30重量%の間、典型的には10重量%~約20重量%の間の再生セルロース繊維、好ましくはリヨセルステープル繊維を含みうる。リヨセルステープル繊維は、約25μm以下、典型的には15μm以下、例えば約10μm~約15μmの間の平均直径を有しうる。リヨセルステープル繊維の平均長さは、典型的には約1mm~約8mmの間、又は約2mm~約6mmの間、又は約3mm~約4mmの間である。好ましいリヨセル繊維は、Shelton、CTのEngineered Fibers Technology,LLCから、TENCEL(登録商標)リヨセル繊維の商品名で市販されており、約1.7デニール、及び約4mmのステープル長さを有する。
【0039】
ガラスミクロ繊維もまた、前述の他の合成繊維と混合されて、フィルターとしての繊維質媒体の効率を改善するのに十分な量で、任意選択で存在してもよい。典型的には、ガラスミクロ繊維は、存在する場合、繊維ウェブの総重量を基準として、0~20重量%、典型的には約10重量%未満の量で採用されるであろう。約0.2μm~約5μmの間、典型的には約0.5μm~約2.5μm±約0.1μmの間の平均繊維直径を有するガラスミクロ繊維が採用されうる。本明細書に記載する実施形態の繊維質媒体のために好ましいガラスミクロ繊維は、Summerville、SCのLauscha Fiber Internationalから、C04ガラス繊維(0.5μmの平均繊維直径)、C06ガラス繊維(0.65μmの平均繊維直径)、及びC26ガラス繊維(2.6μmの平均繊維直径)として、商業的に入手することができる。
【0040】
C.任意選択の成分
例えば、湿潤強度添加剤、蛍光増白剤、繊維保持剤、着色剤、分離助剤(例えば、シリコーン添加剤及び関連する触媒)、防火剤又は難燃剤(例えば、微粒子又は繊維の形態で)等のような、湿式濾過媒体に従来採用された添加剤も、繊維ウェブ中に存在しうる。存在する場合、これらの添加剤は、繊維ウェブの総重量を基準として、最大約30重量%、好ましくは最大約20重量%、例えば約1重量%~約20重量%の間の量で含まれうる。難燃性繊維を繊維ウェブに組み込む場合、難燃性繊維は、繊維ウェブの総重量を基準として、約40~約80重量%の間用いることができる。
【0041】
D.作製の方法
本明細書に記載する不織繊維ウェブは、任意の従来型「湿式」製紙技術によって作製されうる。したがって、例えば、所定量の合成繊維と、芯鞘(sheath-core)二成分ステープル繊維と(ガラス繊維、基本的な熱可塑性繊維、及び/又は添加剤のような任意の任意選択の成分とともに)、水とを、パルパー又はビーターに入れることができる。繊維同士を混合し、パルパー又はビーターによって、水中に一様に分散させて、スラリーバッチを形成する。透過性、表面特性、及び繊維構造のような物理的パラメーターに影響を与えるため、繊維に対して、いくつかの機械的作業も実行することができる。その後、スラリーバッチを混合チェストに移送してよく、ここで追加の水を加え、繊維を均一にブレンドする。次いで、ブレンドしたスラリーをマシンチェストに移送してよく、ここで1つ又は複数のスラリーバッチを組み合わせ、バッチから連続プロセスに移送することができる。繊維の一様な分散を確実にするため、スラリーの粘稠度を設定し、撹拌によって維持する。この点について、スラリーは任意選択で、物理的パラメーターを調整するため、リファイナーを通過させてもよい。
【0042】
次いで、スラリーを移動式ワイヤスクリーンに移送し、ここで重力及び吸引によって水が除去される。水が除去されるにつれて、繊維は、例えば、スラリー流量、機械の速度、及び排水パラメーターを含めた複数のプロセス変数によって決定される特徴を有する、不織繊維ウェブ又はシートに形成される。紙を密集させ、且つ/又は表面の特徴を改質するため、任意選択で、まだ湿潤状態の間に、形成されたウェブを圧縮してもよい。次いで、湿潤繊維ウェブを、加熱ローラー(又は技術分野の言葉では「缶」)を含む乾燥セクションを通して移動させ、ここで残りの同伴水の大部分が除去される。次いで、乾燥した繊維ウェブにバインダー樹脂を、ディッピング、スプレーコーティング、ローラー(グラビア)塗布等のような任意の従来の手段によって適用してもよい。次いで、ウェブを乾燥させるため、続いて熱を適用してもよい。
【0043】
次いで、不織繊維ウェブを、完成品シートへの更なる加工のためのロールに巻き取ってもよく、又は少なくとも1対、好ましくは
図10に示す一連の2対の対向するカレンダリングロールを含むカレンダリングセクションに直接送ってもよい。カレンダリングロールは、シート中の不織湿式繊維の塊を加圧(固結)して、本明細書に開示する濾過媒体の不織繊維ウェブを形成するために稼働する。好ましい形態では、カレンダリングロールは、約1kN/m~約150kN/mのカレンダリング圧力、及び二成分ステープル繊維成分の鞘が溶融して、不織ウェブ中の他の合成繊維成分と結合を形成するのに十分な、110℃~約250℃のカレンダリング温度において、不織繊維ウェブを加圧するために稼働することになる。カレンダー機のライン速度は、約1m/分~約50m/分の間で選択することができる。本明細書に記載したこのようなカレンダー機のライン速度、及び高温/圧力は、繊維ウェブの高温領域カレンダリングをもたらす。
【0044】
カレンダリングロールは、不織繊維ウェブを点結合しない。代わりに、カレンダリングロールは、ウェブを一様にカレンダリング(すなわち、領域カレンダリング)するため、上述の方法で、ウェブの表面領域全体にわたって実質的に均質な圧力及び温度を付与する。このような高温領域カレンダリングによって、不織ウェブ中の二成分ステープル繊維の実質的に(全体でない場合)低融点鞘ポリマーの部位が溶融し、それによって、二成分ステープル繊維の残りの熱可塑性芯成分が互いに、及びウェブ中の他の合成ステープル繊維と結合する。
【0045】
得られる不織繊維ウェブは、濾過媒体の形態にそのまま採用してもよく、又は追加の繊維質媒体、例えば、湿式プロセスにおいて予備形成した繊維質層若しくは複数の層から形成したウェブと積み重ねてもよい。複数の繊維ウェブ層が濾過媒体を提供する場合、高温領域カレンダリングされた本明細書に開示する実施形態の繊維ウェブ層は、好ましくは、濾過媒体の最外層となるように配置する。例として、繊維ウェブを、例えば約1~約50g/m2の基本重量を有する延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)から形成される膜に積層してもよく、又は多層(例えば、2層又は3層の繊維ウェブ層)濾過媒体を提供し、このような多層のうちの1層が、本明細書に開示する実施形態による高温領域カレンダリングされた繊維ウェブ層であってもよい。
【0046】
E.媒体特性
得られる高温領域カレンダリングされた繊維ウェブは、10bar超、典型的には12bar超、例えば15bar超の高い乾燥及び湿潤破裂強さを示すであろう。これらの高い乾燥及び湿潤破裂強さは、ウェブにわたって二成分ステープル繊維の鞘を溶融し、残りの二成分ステープル繊維の芯成分と合成ステープル繊維とを、繊維ウェブ全体で互いに結合させる、本明細書に記載する高温領域カレンダリングによって実現することができる。
【0047】
繊維ウェブの密度は、典型的には約0.45g/cm3未満、例えば約0.40g/cm3未満であろう。
【0048】
繊維ウェブの細孔サイズ範囲は、典型的には25μm以下、より典型的には22μm以下、通常は20μm以下であり、最小細孔サイズも、典型的には25μm以下、又はより典型的には22μm以下であろう。平均流動細孔サイズは、40μm以下、典型的には35μm以下、例えば30μm以下であり、最大細孔サイズは、50μm以下、典型的には45μm以下、例えば40μm以下であってよい。
【0049】
濾過媒体は、EN779:2012標準によるF7濾過材、すなわち、60~80%の平均濾過効率、及び0.4μm粒子について、少なくとも35%の最小濾過効率を有する濾過媒体として分類することができる。
【0050】
本発明を、以下のその非限定例によって更に説明する。
【実施例】
【0051】
1.試験方法
以下の試験方法を採用して、下の表に報告するデータを得た。
【0052】
細孔サイズ:細孔サイズ(μm)は、American Society of Testing and Materials (ASTM) Standard 316-03 (2011)(参照によって本明細書に全面的に組み込まれる)によって決定した。下の媒体例の細孔の最小、最大、及び平均流動細孔サイズ、並びに細孔の数は、Quantachrome Instruments (1900 Corporate Drive Boynton Beach,FL 33426 USA)製のPorometer 3Gによって測定し、報告する細孔サイズ及び細孔数のデータは、2つの試料の平均であり、媒体の各面において試験した。(すなわち、湿式媒体の場合、ワイヤ面及びフェルト面。)
【0053】
細孔サイズ及び細孔数のデータは、キャピラリーフローポロメトリとして知られる技法を用いて測定する。最初に、試料のすべての細孔が充填されるように、試料を湿潤流体で濡らす。圧力を増加させている非反応性ガスを、湿潤試料の一方の面に適用し、細孔から液体を追い出す。湿潤試料について、試料の下流のガス圧力及びガス流量を測定して、プロットする。試料が乾燥した後、試験を繰り返して、乾燥試料について、ガス流対適用圧力の曲線をプロットする。このようなキャピラリーポロメトリ技法を用いることによって、「最大細孔サイズ」、「最小細孔サイズ」、及び「平均流動細孔サイズ」を決定することができる。
【0054】
最大細孔サイズ:本明細書に上述したキャピラリーフローポロメトリ技法を用いて、媒体を通過した空気流が最初に検出されるガス圧力(すなわち、気泡が最初に流れ始める圧力)を用いて、最大細孔サイズを計算する。
【0055】
最小細孔サイズは、本明細書に上述したキャピラリーフローポロメトリ技法を用いて、湿潤流量曲線が乾燥曲線と同化する圧力から決定する。
【0056】
平均流動細孔サイズは、本明細書に上述したキャピラリーフローポロメトリ技法を用いて、湿潤媒体を通る流動が、同じ圧力低下において乾燥媒体を通る流動の50%となる細孔直径である。
【0057】
細孔サイズ範囲は、最大細孔サイズと最小細孔サイズとの差として定義される(すなわち、細孔サイズ範囲=最大細孔サイズ-最小細孔サイズ)。
【0058】
キャリパー:媒体のキャリパー(厚さ)は、国際標準化機構(ISO)標準、ISO 534(2011)、「紙及び板紙-厚さ、密度及び比容積の測定」(Paper and board-Determination of thickness,density and specific volume)(参照によって本明細書に全面的に組み込まれる)に従って測定した。
【0059】
通気性:媒体の通気性は、125Paの水圧差において、ASTM標準D737:繊維布の通気性に関する標準試験方法(Standard Test Method for Air Permeability of Textile Fabrics)(参照によって本明細書に全面的に組み込まれる)に従って測定した。媒体を通る空気流を、試料1平方フィート当たりの1分当たり立法フィート(cfm/sf又はcfm)において報告する。
【0060】
破裂強さ:乾燥時(「乾燥破裂強さ」)又は湿潤時(「湿潤破裂強さ」)のいずれの媒体試料を破断するために要求される圧力は、ISO標準2758(2014)、「紙-破裂強さの決定」(Paper-Determination of bursting strength)(参照によって本明細書に全面的に組み込まれる)に従って測定した。結果は、媒体破断時の平方メートル当たりキログラム重において報告し、次いでbarの単位に変換する。
【0061】
空隙比:空隙比は、以下の手順によって決定した。初期重量(w1)を有する媒体の40mm×40mm乾燥試験片を、200ccのn-ブチルアルコールとともにビーカーに入れ、その後、デシケータに配置し、試験片が発出する泡が目に見えて観察されなくなるまで排気する。ビーカー中のn-ブチルアルコールから試験片を取り出し、取り出してすぐに秤量して初期重量(w2)を得て、取り出しの30秒後に再秤量して最終湿潤重量(w3)を得た。次いで、以下の式:空隙比(%)=(w3-w1)/(w3-w2)×100によって空隙比(%)を計算した。
【0062】
空気フィルターの分類:空気濾過性能は、試験標準EN779:2012、「一般換気用の微粒子空気フィルター」(Particulate air filters for general ventilation)(参照によって本明細書に全面的に組み込まれる)に従って決定した。この標準に従って、空気濾過媒体の性能を、3つの群における9クラスのフィルター:粗フィルター:「G1~G4」、中間フィルター:「M5~M6」、及び微細フィルター:「F7~F9」に等級付けする。M及びFクラスフィルターについての等級は、0.4μm粒子についての平均効率(すなわち、フィルター上に保持される0.4μm粒子の数による画分)に基づく。Fクラスフィルターは、追加の最小効率基準も満たす必要があり、最小効率とは、次の3つの値:初期効率、除電後効率、又は試験の負荷手順全体にわたる効率のいずれかのうち、最も低いものである。
【0063】
空気濾過性能:空気濾過性能は、国際標準化機構(ISO)16890、「一般換気用の空気フィルター」(Air filters for general ventilation)(参照によって本明細書に全面的に組み込まれる)によって決定した。
【0064】
パルスジェット洗浄性:洗浄可能な濾過材の洗浄性は、ISO 11057:2011「空気の質-洗浄可能な濾過材の濾過の特徴についての試験方法」(Air quality - Test method for filtration characterization of cleanable filter media)(参照によって本明細書に全面的に組み込まれる)によって決定した。
【0065】
2.材料
以下の材料を採用した。
【0066】
LMF50:Huvis Corporationから市販されている、4デニール、長さ6mm(4De×6mm)のステープル二成分低融点繊維。
【0067】
PET:ポリエチレンテレフタラート繊維は、東レ株式会社から市販されている1.4デニール、長さ12mm(1.4De×12mm)を有するもの、Huvis corporationから市販されている0.5デニール、長さ5mm(0.5De×5mm)を有するもの、及び帝人株式会社から市販されている0.3dtex、5mm(0.3Dt×5mm)を有するものを採用した。
【0068】
3.媒体例
下の例1及び2の試料は、上述の湿式プロセスによって生成し、例2の試料は領域カレンダリングに供されている。
【0069】
(例1)
上に記載した方法によってベース基材を調製し、30重量%のLMF50 4De×6mm二成分ステープル繊維、及び30重量%PET 0.5De×5mmステープル繊維(Huvis)と、20重量%PET 1.4De×12mm(東レ)と、20重量%PET 0.3dt×5mm(帝人)とからなるPETステープル繊維の混合物を含む、100%合成繊維湿式不織媒体を形成した。基材は、210g/m2の基本重量、0.94mmのフラットシートキャリパー、及び80cfmの通気性を有する。
【0070】
(例2)
媒体例1のベース基材を、75kN/mのカレンダリングニップ圧、及び210℃のカレンダリング温度においてカレンダリングして、210g/m2の基本重量、0.60mmのフラットシートキャリパー、及び26cfmの通気性を有するカレンダリング湿式不織媒体を得た。
【0071】
(比較例1)
(Kolon Finon L2270NW)
比較例1の比較用媒体は、APC(大気汚染制御)濾過材のために従来用いられている、Kolon Industries(KOLON Tower,11,Kolon-ro,Gwacheon-si,Gyeonggi-do,South Korea)によって生成される市販のPETスパンボンド媒体であり、277g/m2の基本重量、0.61mmのキャリパー、及び25cfmの通気性を有する。
【0072】
(比較例2)
(東レ FSE21602A)
比較例2の比較用媒体は、APC(大気汚染制御)濾過材のために従来用いられている、Toray Advanced Materials Korea Inc.(FKI Tower 35,36 Fl.,24 Yeoui-daero,Yeongdeungpo-gu,Seoul,South Korea)によって生成される、別の市販のPETスパンボンド媒体であり、204g/m2の基本重量、0.48mmのキャリパー、及び28cfmの通気性を有する。
【0073】
4.実験結果
4.1 実験結果1
上記の媒体例を試験して、細孔サイズデータ(最小、平均流動、及び最大細孔サイズ)を決定し、細孔の数を決定した。加えて、媒体例のそれぞれを、乾燥及び湿潤破裂強さについて試験した。結果を下の表1に表示する。
【表1】
【0074】
上のデータは、標準湿式基材(例1)及び比較用スパンボンド媒体例の細孔サイズと比較して、本発明の媒体(例2)が、遥かに小さい最大及び平均流動細孔サイズを有することを示している。本発明の媒体(例2)はまた、標準湿式試料又は典型的なスパンボンド媒体のいずれよりも大きい、単位面積当たりの細孔の数を示した。本発明の媒体(例2)は、標準湿式基材(例1)と比較して、増加した数の細孔を保有するが、これは高温カレンダリングロールの加圧によって、媒体表面付近で複数の小領域の固結が生じることによると考えられる。本発明の媒体(例2)は加えて、典型的なスパンボンド媒体(比較例1及び2)と比較して、遥かに多くの数の細孔を保有するが、これは、後者における繊維の点結合の代わりに、前者の高温カレンダリングによって実現される領域結合の結果であると考えられる。本発明の媒体(例2)はまた、典型的なスパンボンド媒体(比較例1及び2)よりも大きな空隙比を示し、本発明の媒体がより多孔質であることを示している。
【0075】
重大なことに、本発明の媒体(例2)は、他の例と比較して、非常に密な、狭い細孔サイズ範囲を示した(
図5及び6参照)。細孔サイズ範囲は、媒体中の細孔のサイズのばらつきを示すため、重要なパラメーターである。より狭い細孔サイズ範囲は、媒体中の細孔のより均質な分布を表しており、これによって媒体の濾過性能が上昇する。加えて、カレンダリングされた本発明の媒体はまた、典型的なスパンボンド媒体よりも小さい細孔サイズ、及び遥かに低いウェブ密度を保有する。媒体の細孔サイズ範囲、充填(密度)、及び細孔構造における差異が、高い濾過効率及び粉塵保持容量をもたらすと考えられる。
【0076】
4.2 実験結果2
濾過性能試験は、EN779:2012試験標準に従って、Palas GmbH(Greschbachstrasse 3 b 76229 Karlsruhe Germany)によって生成されたPalas MFP 3000を用いて実施した。本発明の媒体及び比較例を、試験標準EN779:2012の附属書AにおけるIPA除電法に基づいて、IPA除電なし及びIPA除電ありで試験した。データを下の表2に提示する。
【表2】
【0077】
上の表2におけるデータは、例2の本発明の媒体が、比較例1及び2の典型的なスパンボンド媒体よりも遥かに高い効率を保有することを示している。例2の効率は、IPAによって媒体を除電した後でも影響を受けない。これは、比較例1及び2のスパンボンド媒体と比較した場合、顕著な差異である。例2の本発明の媒体は、親水性(繊維の表面に残存する、製造プロセスにおいて用いる油及び界面活性剤による)の短く切断された合成繊維を含んでいた。しかしながら、スパンボンド媒体中の繊維は油を塗布されておらず、したがって、本明細書に開示する実施形態の本発明の媒体よりも多くの正電荷を保有し、IPA除電の後、遥かに大きく効率が低下する。
【0078】
表2におけるデータが示すように、本明細書に開示する発明の実施形態による本発明の媒体は、比較例1及び2の従来のスパンボンド媒体と比較して、0.4μm粒子についての著しく良好な初期及び除電効率、並びに良好な粉塵保持容量に加えて、全体的により良好な平均効率を示す。そのため、本発明の媒体はEN779:2012標準によるF7濾過材として等級付けされる一方、比較例1及び2の従来のスパンボンド濾過媒体はそれぞれ、より低い等級であるM5及びM6を実現することができるに過ぎない。
【0079】
4.3 実験結果3
例2の本発明の媒体、並びに比較例1及び2の比較用媒体を、ISO11057:2011試験標準に従って、FilTEq GmbH試験機(Amthausstr.14,D-76227 Karlsruhe,Germany)を用いて、パルスジェット洗浄についても試験した。各試験は、次の4つのフェイズからなるものであった。
フェイズ1(コンディショニング):差圧制御パルスジェット洗浄による30回の負荷サイクル、及び1000Paの洗浄設定点
フェイズ2(エージング):各5秒のインターバルにおいて10,000回のパルスジェット洗浄サイクル
フェイズ3(安定化):差圧制御パルスジェット洗浄による10回の負荷サイクル
フェイズ4(測定):差圧制御パルスジェット洗浄による2時間の負荷サイクル
【0080】
パルスジェット洗浄試験のデータを、下の表3に表示する。
【表3】
上の表3におけるデータは、本発明の媒体は有利なことに、30回目のサイクルにおいて、比較例1及び2の比較用スパンボンド媒体よりもおよそ2~5倍長いサイクル時間を有していたことを示している。
図11~13からわかるように、例2の本発明の媒体はまた、対象圧力低下に達するまで長くかかり、より長いサイクル時間をもたらす。エージング後では、湿式カレンダリング媒体のサイクル時間は、スパンボンド媒体よりも著しく長いままであり続けた(3~10倍長い)。加えて、例2の湿式カレンダリングされた本発明の媒体はまた、30回目のサイクル及びエージング後の測定時の両方において、比較例1及び2の比較用媒体よりも遥かに少ない粉塵侵入を示した。
4.4 実験結果-難燃性繊維を含む繊維ウェブ
いずれの追加の化学処理もなく、難燃性PET繊維から作製した実施形態を下に開示する。
【0081】
繊維ウェブは、例2について開示したものと同じ方法を用いて作製し、100%PET繊維を含むが、繊維の約65重量%は、東レ株式会社から市販される難燃性PET繊維であった。繊維ウェブは、25重量%のRM PET 4De×6mm繊維(Huvis)、10重量%のPET 0.3dt×5mm繊維(帝人)、45重量%のFR PET 1.4D×6mm繊維(東レ)、及び20重量%のFR PET 3D×12mm繊維(東レ)を含んでいた。
【0082】
得られた繊維質濾過媒体は、DIN 53 438標準によって試験されるF1クラス難燃性である。物理的特性を下の表4に表示する。
【表4】
4.5 実験結果-多層濾過媒体
以下の例(例A~D)では、本発明の不織繊維ウェブを追加の繊維質媒体と積み重ねて、多層濾過媒体を提供した。
例A:高温領域カレンダリングされた繊維ウェブをアルミニウム処理スパンボンド薄層に積層した多層濾過媒体。得られた多層濾過媒体は、1000オーム未満の非常に低い電気抵抗を有していた。
例B:繊維ウェブをPVDFナノ繊維によってコーティングした。
例C及びD:繊維ウェブを、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)とともに積層した。得られる2層濾過は高い濾過効率を有し、EN 1822-1試験標準によるE12又はH13クラス濾過材として分類することができる。
例A~Dの物理的特性を表5に表示する。
【表5】
実施形態
本発明の実施形態としては、とりわけ以下のものが挙げられる。
1.合成ステープル繊維と、
繊維ウェブの総重量を基準として、約20重量%~約80重量%の、繊維ウェブに分散した芯鞘(sheath-core)二成分ステープル繊維と
を含む、高温領域カレンダリングされた湿式不織繊維ウェブを含む繊維質濾過媒体であって、
繊維ウェブが、10bar超の乾燥破裂強さを示す、上記繊維質濾過媒体。
2.繊維ウェブが、約12bar超、好ましくは約15bar超の乾燥破裂強さを有する、実施形態1に記載の繊維質濾過媒体。
3.繊維ウェブが、約10bar超、好ましくは約12bar超、より好ましくは約15bar超の湿潤破裂強さを有する、実施形態1に記載の繊維質濾過媒体。
4.繊維ウェブが、25μm以下、好ましくは22μm以下の最小細孔サイズを有する、実施形態1に記載の繊維質濾過媒体。
5.繊維ウェブが、40μm以下、好ましくは35μm以下、より好ましくは30μmの平均流動細孔サイズを有する、実施形態3に記載の繊維質濾過媒体。
6.繊維ウェブが、50μm以下、典型的には45μm以下、例えば40μm以下の最大細孔サイズを有する、実施形態4に記載の繊維質濾過媒体。
7.繊維ウェブが、25μm以下、典型的には22μm以下の細孔サイズ範囲を有する、実施形態3に記載の繊維質濾過媒体。
8.濾過媒体を、EN779:2012標準によるF7濾過材として分類することができる、実施形態1に記載の繊維質濾過媒体。
9.繊維ウェブの総重量を基準として、10重量%未満のガラス繊維を含む、実施形態1に記載の繊維質濾過媒体。
10.ガラス繊維がガラスミクロ繊維である、実施形態8に記載の繊維質濾過媒体。
11.合成繊維が、少なくとも2つの異なる種類の合成繊維の混合物を含む、実施形態1に記載の繊維質濾過媒体。
12.合成繊維が、約2.5μm~約10μmの間の平均直径を有する第1の種類の合成繊維と、約10μm~約20μmの間の平均直径を有する第2の種類の合成繊維とを含む、実施形態10に記載の繊維質濾過媒体。
13.第1の種類の合成繊維が、約1mm~約6mmの間の平均長さを有し、第2の種類の合成繊維が、約5mm~約24mmの間の平均長さを有する、実施形態11に記載の繊維質濾過媒体。
14.合成ステープル繊維が、繊維ウェブの総重量を基準として、約5重量%~約30重量%、典型的には10重量%~約20重量%の間の再生セルロース繊維を含む、実施形態1に記載の繊維質濾過媒体。
15.再生セルロース繊維がリヨセル繊維を含む、実施形態13に記載の繊維質濾過媒体。
16.濾過媒体が、湿潤強度添加剤、蛍光増白剤、繊維保持剤、着色剤、燃料-水分離助剤、及び難燃剤又は防火剤からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を更に含む、実施形態1に記載の繊維質濾過媒体。
17.少なくとも1種の添加剤が、繊維ウェブの総重量を基準として、約40~約80重量%の量で難燃性繊維を含む、実施形態15に記載の繊維質濾過媒体。
18.合成ステープル繊維が、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン-6、ナイロン6,6、ナイロン-6,12、及びこれらの組合せからなる群から選択されるポリマーから形成される、実施形態1に記載の繊維質濾過媒体。
19.二成分ステープル繊維の鞘及び芯が、ポリエチレンテレフタラート(PET)から形成され、鞘を形成するPETが、芯を形成するPETの溶融温度よりも低い溶融温度を有する、実施形態1に記載の繊維質濾過媒体。
20.(a)合成ステープル繊維を含む水性繊維質スラリーと、繊維ウェブの総重量を基準として、約20重量%~約80重量%の芯鞘(sheath-core)二成分ステープル繊維とから、湿式繊維ウェブを形成するステップ、及び
(b)合成ステープル繊維を互いに結合させて、10bar超の乾燥破裂強さを有する繊維ウェブを実現するため、ステップ(a)からの湿式繊維ウェブを、高温領域カレンダリングに供して、二成分ステープル繊維の鞘を溶融させるステップ
を含む、繊維ウェブを作製する方法。
21.約1kN/m~約150kN/mの間のカレンダリング圧力条件、及び約110℃~約250℃の間のカレンダリング温度条件において、約1m/分~約50m/分の間のカレンダリングライン速度によってステップ(b)を実施する、実施形態19に記載の方法。
【0083】
最も実施可能で好ましい実施形態であると目下考えられるものに関して本発明を記載してきたが、本発明が、開示した実施形態に限定されるものではなく、反対に、その趣旨及び範囲内に含まれる様々な変更形態及び均等な装置を含むことが意図されることを理解されたい。
本願の出願当初の特許請求の範囲に係る発明の内容は、以下の通りである。
[項1]
高温領域カレンダリングされた湿式不織繊維ウェブを含む繊維質濾過媒体であって、
合成ステープル繊維と、
繊維ウェブの総重量を基準として、約20重量%~約80重量%の、繊維ウェブに分散した芯鞘二成分ステープル繊維と
を含み、
繊維ウェブが、10bar超の乾燥破裂強さを示す、
上記繊維質濾過媒体。
[項2]
繊維ウェブが、約12bar超、好ましくは約15bar超の乾燥破裂強さを有する、項1に記載の繊維質濾過媒体。
[項3]
繊維ウェブが、約10bar超、好ましくは約12bar超、より好ましくは約15bar超の湿潤破裂強さを有する、項1又は2に記載の繊維質濾過媒体。
[項4]
繊維ウェブが、約0.45g/cm3未満、例えば約0.40g/cm3未満の密度を有する、項1から3のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
[項5]
繊維ウェブが、25μm以下、好ましくは22μm以下の最小細孔サイズを有する、項1から4のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
[項6]
繊維ウェブが、40μm以下、好ましくは35μm以下、より好ましくは30μmの平均流動細孔サイズを有する、項1から5のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
[項7]
繊維ウェブが、50μm以下、典型的には45μm以下、例えば40μm以下の最大細孔サイズを有する、項1から6のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
[項8]
繊維ウェブが、25μm以下、典型的には22μm以下の細孔サイズ範囲を有する、項1から7のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
[項9]
濾過媒体を、EN779:2012標準によるF7濾過材として分類することができる、項1から8のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
[項10]
繊維ウェブの総重量を基準として、10重量%未満のガラス繊維を含む、項1から9のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
[項11]
ガラス繊維がガラスミクロ繊維である、項10に記載の繊維質濾過媒体。
[項12]
合成繊維が、少なくとも2つの異なる種類の合成繊維の混合物を含む、項1から11のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
[項13]
合成繊維が、約2.5μm~約10μmの間の平均直径を有する第1の種類の合成繊維と、約10μm~約20μmの間の平均直径を有する第2の種類の合成繊維とを含む、項12に記載の繊維質濾過媒体。
[項14]
第1の種類の合成繊維が、約1mm~約6mmの間の平均長さを有し、第2の種類の合成繊維が、約5mm~約24mmの間の平均長さを有する、項13に記載の繊維質濾過媒体。
[項15]
合成ステープル繊維が、繊維ウェブの総重量を基準として、約5重量%~約30重量%の間、典型的には10重量%~約20重量%の間の再生セルロース繊維を含む、項1から14のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
[項16]
再生セルロース繊維がリヨセル繊維を含む、項15に記載の繊維質濾過媒体。
[項17]
濾過媒体が、湿潤強度添加剤、蛍光増白剤、繊維保持剤、着色剤、燃料-水分離助剤、及び難燃剤又は防火剤からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を更に含む、項1から16のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
[項18]
少なくとも1種の添加剤が、繊維ウェブの総重量を基準として、約40~約80重量%の量で難燃性繊維を含む、項17に記載の繊維質濾過媒体。
[項19]
合成ステープル繊維が、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン-6、ナイロン6,6、ナイロン-6,12、及びこれらの組合せからなる群から選択されるポリマーから形成される、項1から18のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
[項20]
二成分ステープル繊維の鞘及び芯が、ポリエチレンテレフタラート(PET)から形成され、鞘を形成するPETが、芯を形成するPETの溶融温度よりも低い溶融温度を有する、項1から19のいずれか一項に記載の繊維質濾過媒体。
[項21]
繊維ウェブを作製する方法であって、
(a)合成ステープル繊維を含む水性繊維質スラリーと、繊維ウェブの総重量を基準として、約20重量%~約80重量%の芯鞘二成分ステープル繊維とから、湿式繊維ウェブを形成するステップ、及び
(b)ステップ(a)からの湿式繊維ウェブを高温領域カレンダリングに供して、二成分ステープル繊維の鞘を溶融させるステップであり、合成ステープル繊維を互いに結合させて、10bar超の乾燥破裂強さを有する繊維ウェブを実現するようにする、ステップ
を含む、方法。
[項22]
約1kN/m~約150kN/mのカレンダリング圧力条件、及び約110℃~約250℃のカレンダリング温度条件において、約1m/分~約50m/分のカレンダリングライン速度によってステップ(b)を実施する、項21に記載の方法。