(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 17/06 20060101AFI20231121BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20231121BHJP
C03C 17/09 20060101ALI20231121BHJP
C03C 17/40 20060101ALI20231121BHJP
C03C 21/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B32B17/06
B32B15/04 B
C03C17/09
C03C17/40
C03C21/00 101
(21)【出願番号】P 2020558094
(86)(22)【出願日】2019-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2019032451
(87)【国際公開番号】W WO2020105236
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2018217757
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】石井 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 利美
(72)【発明者】
【氏名】松浦 宜範
【審査官】馳平 憲一
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-507248(JP,A)
【文献】特開昭64-089595(JP,A)
【文献】特開2015-135433(JP,A)
【文献】特開2018-109239(JP,A)
【文献】特開2017-134432(JP,A)
【文献】国際公開第2015/156262(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H05K 1/05-3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トップ面及びボトム面を有するフロートガラス基板と、該フロートガラス基板の前記トップ面側に設けられる金属層とを備え
、
前記フロートガラス基板の厚さが3mm以下であり、
前記金属層の厚さが0.1mm以下であり、
前記金属層が、金属M(Mは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属である)を含み、
前記フロートガラス基板の前記トップ面側に剥離層を備える、積層体。
【請求項2】
前記フロートガラス基板が、ソーダライムガラス基板である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記ソーダライムガラス基板が、化学強化ガラス基板である、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記化学強化ガラス基板は、化学強化処理に基づく元素置換の深さが1μm以上50μm以下である、請求項3に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板及び金属層を備えた積層体(例えばガラスキャリア付金属箔)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリント配線板の実装密度を上げて小型化するために、プリント配線板の多層化が広く行われるようになってきている。このような多層プリント配線板は、携帯用電子機器の多くで、軽量化や小型化を目的として利用されている。そして、この多層プリント配線板には、層間絶縁層の更なる厚みの低減、及び配線板としてのより一層の軽量化が要求されている。
【0003】
このような要求を満たす技術として、コアレスビルドアップ法を用いた多層プリント配線板の製造方法が採用されている。コアレスビルドアップ法とは、いわゆるコア基板を用いることなく、絶縁層と配線層とを交互に積層(ビルドアップ)して多層化する方法である。コアレスビルドアップ法においては、支持体と多層プリント配線板との剥離を容易に行えるように、剥離層等によって剥離機能が付与されたキャリア上に金属層を備えた積層体を使用することが提案されている。例えば、特許文献1(特開2005-101137号公報)には、積層体としてキャリア付銅箔を使用し、このキャリア付銅箔のキャリア面に絶縁樹脂層を貼り付けて支持体とし、キャリア付銅箔の極薄銅層側にフォトレジスト加工、パターン電解銅めっき、レジスト除去等の工程により第一の配線導体を形成した後、絶縁材料を積層して熱プレス加工を行う等してビルドアップ配線層を形成し、キャリア付支持基板を剥離し、極薄銅層を除去することを含む、半導体素子搭載用パッケージ基板の製造方法が開示されている。
【0004】
また、積層体における金属層の厚さの更なる低減を実現するため、従来から典型的に用いられている金属製キャリアや樹脂製キャリア等に代えて、ガラス基板を超平滑キャリアとして用い、この超平滑面上に金属層を形成することも最近提案されている。例えば、特許文献2(国際公開第2017/149811号)には、ガラスシート等のキャリア上に、密着金属層、剥離補助層、剥離層、反射防止層及び極薄銅層がスパッタリングにより形成されたキャリア付銅箔が開示されている。
【0005】
積層体におけるガラス基板として、フロート法により得られたガラスで構成されるフロートガラス基板を用いる場合がある。フロートガラスは、例えば特許文献3(特開2017-1899号公報)に開示されるように、溶融ガラスをフロートバスの溶融金属上に供給してガラスリボンを成形し、このガラスリボンをガラスの歪点温度以下まで徐冷することにより得ることができる。したがって、フロートガラス基板は、その製法に由来して、成形時に溶融金属と接触しない面(以下、トップ面とする)、及び溶融金属と接触する面(以下、ボトム面とする)を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-101137号公報
【文献】国際公開第2017/149811号
【文献】特開2017-1899号公報
【発明の概要】
【0007】
ところで、フロートガラス基板を有する積層体(例えばガラスキャリア付金属箔)を用いて積層製品(中間製品を含む)を製造したとき、当該積層製品に反りが生じることが判明した。このように積層製品(中間製品を含む)が反ってしまうと、例えば、積層製品の破損を招くおそれや、製造工程において、高さに制限がある装置への搬送に不具合が生じるおそれがある。
【0008】
本発明者らは、今般、トップ面及びボトム面を有するフロートガラス基板と、金属層とを備えた積層体において、金属層をフロートガラス基板のトップ面側に選択的に設けることにより、この積層体を用いて積層製品を製造した場合に、当該積層製品の反りを抑制できるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、積層製品の製造に用いられた場合に、当該積層製品の反りを抑制可能な、積層体を提供することにある。
【0010】
本発明の一態様によれば、トップ面及びボトム面を有するフロートガラス基板と、該フロートガラス基板の前記トップ面側に設けられる金属層とを備えた、積層体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の積層体の一例を示す断面模式図である。
【
図2】積層体を用いた積層製品に生じる反りを説明するための断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
積層体
本発明の積層体の一例が
図1に模式的に示される。
図1に示されるように、積層体10は、フロートガラス基板12と、金属層14とを備えたものである。フロートガラス基板12はトップ面12a及びボトム面12bを有する。金属層14はフロートガラス基板12のトップ面12a側に設けられる。積層体10は、あらゆる用途に使用されるものであってもよいが、プリント配線板製造用のキャリア付金属箔として使用されるのが特に好ましい。具体的に、本発明の積層体10は、金属層14の全部または一部がフロートガラス基板12から剥離可能であることが好ましい。
【0013】
このように、トップ面12a及びボトム面12bを有するフロートガラス基板12と、金属層14とを備えた積層体において、金属層14をフロートガラス基板12のトップ面12a側に選択的に設けることにより、この積層体を用いて積層製品(例えばプリント配線板)を製造することで、当該積層製品の反りを抑制できる。この点、前述したとおり、フロートガラス基板を有する積層体(例えばガラスキャリア付金属箔)を用いて積層製品(中間製品を含む)を製造したとき、当該積層製品に反りが生じることが判明した。例えば、
図2に示されるように、積層体を用いた積層製品110を製造する際には、フロートガラス基板112及び金属層114を備えた積層体の金属層114上に、絶縁樹脂116等のガラスに比べて熱膨張率(CTE)の大きい材料が積層されることがある。そのため、工程が進むにつれて、絶縁樹脂116の収縮等により、積層製品110の厚さ方向(フロートガラス基板112を下とし、絶縁樹脂116を上とした場合、下に凸の方向)に反りが生じうる。このように積層製品が反ってしまうと、例えば、積層製品の破損を招くおそれや、製造工程において、高さに制限がある装置への搬送に不具合が生じるおそれがある。このような問題に対しては、積層製品の設計を変更すること、あるいは冶具を用いることにより反りを制御することが考えられるが、いずれも製造上の効率が低下する等の問題がある。
【0014】
そこで、本発明者らは、フロートガラス基板上に各種層を積層することで積層製品が反ってしまう原因について検討を重ねた。そして、フロートガラス基板のボトム面側に各種層を積層した場合には、得られる積層製品が厚み方向に反りやすくなる一方、フロートガラス基板のトップ面側に各種層を積層した場合には、得られる積層製品の反りが効果的に抑制されるとの知見を得た。この効果が実現されるメカニズムは必ずしも定かではないが、以下のようなものと考えられる。まず、フロートガラス基板に積層製品を構成する各種層を積層して熱処理等を行った場合、ガラスと各種層(例えば樹脂層)との熱膨張率の違い等から、各種層が収縮して内側に巻き込まれる力(換言すれば、フロートガラス基板の各種層が積層された側と反対側の面が凸の方向に反る力)が生じる。ここで、フロートガラス基板は、その製造方法に起因してトップ面側及びボトム面側で性質が互いに異なるため、歪みを有している。そして、このフロートガラス基板の歪みは、トップ面側が凸の方向に反る力を助長する一方、ボトム面側が凸の方向に反る力に対して反抗する性質を有すると考えられる。したがって、各種層をフロートガラス基板のボトム面側に積層した場合には、フロートガラス基板のトップ面側が凸の方向に反る力が生じ、この力がフロートガラス基板の歪みにより助長されることで、積層製品の厚さ方向に反りが生じうる。一方、各種層をフロートガラスのトップ面側に積層した場合には、フロートガラスのボトム面側が凸の方向に反る力が生じるが、この力に対してフロートガラス基板の歪みが反抗することで、積層製品の反りが効果的に抑制されるものと考えられる。
【0015】
フロートガラス基板12はフロート法により得られたガラスで構成される。フロートガラス基板12は、例えば特許文献3に示されるような公知の手法により形成することができる。フロートガラス基板12の形態はシート、フィルム、及び板のいずれであってもよい。例えば、フロートガラス基板12はガラス板等の剛性を有する支持体として機能し得るものであることが好ましい。より好ましくは、加熱を伴うプロセスにおける積層製品の反りをより一層防止する観点から、熱膨張係数(CTE)が25ppm/K未満(典型的には1.0ppm/K以上23ppm/K以下)のガラスである。また、ハンドリング性やチップ実装時の平坦性確保の観点から、フロートガラス基板12はビッカース硬度が100HV以上であるのが好ましく、より好ましくは150HV以上2500HV以下である。ガラスをキャリアとして用いた場合、軽量で、熱膨脹係数が低く、絶縁性が高く、剛直で表面が平坦なため、金属層14の表面を極度に平滑にできる等の利点がある。また、キャリアがガラスである場合、積層体10をプリント配線板製造用のキャリア付金属箔として用いることで種々の利点を有する。例えば、コアレス支持体表面の配線層を形成した後、画像検査を行う際に銅めっきとの視認性に優れる点、電子素子搭載時に有利な表面平坦性(コプラナリティ)を有している点、プリント配線板製造工程におけるデスミアや各種めっき工程において耐薬品性を有している点、積層体10からフロートガラス基板12を剥離する際に化学的分離法が採用できる点等である。
【0016】
フロートガラス基板12はSiO2を含むガラスであることが好ましく、より好ましくはSiO2を50重量%以上、さらに好ましくはSiO2を60重量%以上含むガラスである。フロートガラス基板12を構成するガラスの好ましい例としては、ソーダライムガラス又はホウケイ酸ガラスが挙げられ、特に好ましくはソーダライムガラスである。すなわち、フロートガラス基板12は、ソーダライムガラスにより構成されるソーダライムガラス基板であることが好ましい。また、ソーダライムガラス基板であるとき、当該ソーダライムガラス基板は、化学強化処理された化学強化ガラス基板であることが好ましい。発明の効果を充分に発揮することができるからである。化学強化処理は、典型的には溶融塩にガラスを浸漬することにより行われる。こうすることで、ガラス中のアルカリイオン(例えばナトリウムイオン)が、異なるイオン半径を有する溶融塩中のアルカリイオン(例えばカリウムイオン)に置換され、ガラス表面に圧縮応力層が生じることによりガラスが強化される。したがって、化学強化ガラス基板は、少なくとも表面がイオン交換されたガラス基板ということもできる。化学強化ガラス基板は、化学強化処理に基づく元素置換の深さが1μm以上50μm以下であるのが好ましく、より好ましくは2μm以上40μm以下、さらに好ましくは3μm以上30μm以下、特に好ましくは5μm以上20μm以下である。このような化学強化ガラス基板をフロートガラス基板12として用いることで、製造工程中に生じ得る基板のキズや割れを効果的に抑制でき、ハンドリング性も向上できる。一方、化学強化ガラスは、上述した化学強化処理に起因して一般的に大きな歪みを有しているため、これを基板に用いて作製された積層製品は大きな反りが発生しやすい。これに対して、本発明では、金属層14がフロートガラス基板12のトップ面12a側に選択的に設けられているため、積層体10を用いて作製された積層製品の反りをより顕著に抑制することができる。プリント配線板等の積層製品の薄型化の観点から、フロートガラス基板12の厚さは3mm以下であるのが好ましく、より好ましくは2.5mm以下、さらに好ましくは2mm以下、特に好ましくは1.5mm以下、最も好ましくは1.2mm以下である。このような範囲内の厚さであると、フロートガラス基板12は一般的に大きな歪みを有しやすいが、本発明では積層製品の反りを効果的に抑制できるため、上記厚さのフロートガラス基板12を好ましく採用することができる。一方、ハンドリング性を向上させる観点から、フロートガラス基板12の厚さは0.3mm以上であるのが好ましく、より好ましくは0.4mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上、特に好ましくは0.6mm以上、最も好ましくは0.7mm以上である。
【0017】
フロートガラス基板12の表面は、好ましくはJIS B 0601-2001に準拠して測定される最大高さRzが1.0μm未満であり、より好ましくは0.001μm以上0.5μm以下、さらに好ましくは0.001μm以上0.1μm以下、さらにより好ましくは0.001μm以上0.08μm以下、特に好ましくは0.001μm以上0.05μm以下、最も好ましくは0.001μm以上0.02μm以下である。このようにフロートガラス基板12表面の最大高さRzが小さいほど、フロートガラス基板12上に積層される金属層14の最外面(すなわちフロートガラス基板12と反対側の表面)において望ましく低い最大高さRzをもたらすことができ、それにより、例えば積層体10を用いて製造されるプリント配線板において、ライン/スペース(L/S)が13μm以下/13μm以下(例えば12μm/12μmから2μm/2μm)といった程度にまで高度に微細化された配線パターンを形成するのに適したものとなる。
【0018】
金属層14は、金属を含む層であり、一層構成でもよいし二層以上の多層構成でもよい。金属層14は、金属M(Mは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属である)を含むのが好ましい。金属層14におけるMの含有率は50原子%以上100原子%以下であることが好ましく、より好ましくは60原子%以上100原子%以下、さらに好ましくは70原子%以上100原子%以下、特に好ましくは80原子%以上100原子%以下、最も好ましくは90原子%以上100原子%以下である。金属層14全体の厚さは、金属層14を構成する機能層の種類に応じて適宜選択すればよく特に限定されないが、好ましくは0.1mm以下であり、より好ましくは0.01mm以下、さらに好ましくは0.005mm以下、特に好ましくは0.002mm以下、最も好ましくは0.001mm以下である。金属層14は本来的にはフロートガラス基板12の歪みによる影響を受けやすいが、本発明ではこの問題を効果的に解消できるため、上記厚さの金属層を採用することができる。一方、金属層14全体の厚さの下限は特に限定されないが、典型的には0.0001mm以上であり、より典型的には0.0002mm以上である。金属層14は、何らかの機能を有する層であればよく、例えば密着層、剥離補助層、反射防止層及びシード層からなる群から選択される少なくとも1種の機能層であってよい。以下、金属層14を構成し得る各種機能層について説明する。
【0019】
金属層14は、フロートガラス基板12との密着性を確保するための密着層を含みうる。この観点から、密着層は負の標準電極電位を有する金属M1を含むのが好ましい。好ましいM1の例としては、チタン、クロム、ニッケル、コバルト、アルミニウム、モリブデン及びそれらの組合せ(例えば合金や金属間化合物)が挙げられ、より好ましくはチタン、ニッケル、コバルト、アルミニウム、モリブデン及びそれらの組合せ、さらに好ましくはチタン、ニッケル、アルミニウム、モリブデン及びそれらの組合せ、特に好ましくはチタン、ニッケル、モリブデン及びそれらの組合せ、最も好ましくはチタンである。密着層は、フロートガラス基板12との密着性を損なわない範囲において、M1以外の元素を含んでいてもよい。上記の点から、密着層におけるM1の含有率は50原子%以上100原子%以下であることが好ましく、より好ましくは60原子%以上100原子%以下、さらに好ましくは70原子%以上100原子%以下、特に好ましくは80原子%以上100原子%以下、最も好ましくは90原子%以上100原子%以下である。密着層を構成する金属は原料成分や成膜工程等に起因する不可避不純物を含んでいてもよい。また、特に制限されるものではないが、密着層の成膜後に大気に暴露される場合、それに起因して混入する酸素の存在は許容される。密着層は物理気相堆積(PVD)法により形成された層であるのが好ましく、より好ましくはスパッタリングにより形成された層である。密着層は金属ターゲットを用いたマグネトロンスパッタリング法により形成された層であるのが膜厚分布の均一性を向上できる点で特に好ましい。密着層の厚さは5nm以上500nm以下であるのが好ましく、より好ましく10以上300nm以下、さらに好ましくは18nm以上200nm以下、特に好ましくは20nm以上100nm以下である。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0020】
金属層14は、剥離強度を所望の値に制御するための剥離補助層を含みうる。この観点から、剥離補助層は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属M2を含むのが好ましい。好ましいM2の例としては、銅、銀、錫、亜鉛、チタン、アルミニウム、ニオブ、ジルコニウム、タングステン、タンタル、モリブデン及びそれらの組合せ(例えば合金や金属間化合物)が挙げられ、より好ましくは銅、銀、錫、亜鉛、チタン、アルミニウム、モリブデン及びそれらの組合せ、さらに好ましくは銅、銀、チタン、アルミニウム、モリブデン及びそれらの組合せ、特に好ましくは銅、銀、アルミニウム及びそれらの組合せ、最も好ましくは銅である。剥離補助層は、フロートガラス基板12の剥離性を損なわない範囲において、M2以外の元素を含んでいてもよい。上記の点から、剥離補助層におけるM2の含有率は50原子%以上100原子%以下であることが好ましく、より好ましくは60原子%以上100原子%以下、さらに好ましくは70原子%以上100原子%以下、特に好ましくは80原子%以上100原子%以下、最も好ましくは90原子%以上100原子%以下である。剥離補助層を構成する金属は原料成分や成膜工程等に起因する不可避不純物を含んでいてもよい。また、特に制限されるものではないが、剥離補助層の成膜後に大気に暴露される場合、それに起因して混入する酸素の存在は許容される。剥離補助層は物理気相堆積(PVD)法により形成された層であるのが好ましく、より好ましくはスパッタリングにより形成された層である。剥離補助層は金属ターゲットを用いたマグネトロンスパッタリング法により形成された層であるのが膜厚分布の均一性を向上できる点で特に好ましい。剥離補助層の厚さは5nm以上500nm以下であるのが好ましく、より好ましく10nm以上400nm以下、さらに好ましくは15nm以上300nm以下、特に好ましくは20nm以上200nm以下である。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0021】
金属層14は、画像検査(例えば自動画像検査(AOI))において視認性を向上させるための反射防止層を含みうる。反射防止層を構成する金属の好ましい例としては、チタン、アルミニウム、ニオブ、ジルコニウム、クロム、タングステン、タンタル、コバルト、銀、ニッケル、モリブデン及びそれらの組合せが挙げられ、より好ましくはチタン、ジルコニウム、アルミニウム、クロム、タングステン、ニッケル、モリブデン及びそれらの組合せ、さらに好ましくはチタン、アルミニウム、クロム、ニッケル、モリブデン及びそれらの組合せ、特に好ましくはチタン、モリブデン及びそれらの組合せである。これらの金属は光の反射を防止する機能を有するため、画像検査において視認性を向上させることができる。反射防止層は、純金属であってもよいし、合金であってもよい。反射防止層を構成する金属は原料成分や成膜工程等に起因する不可避不純物を含んでいてもよい。また、上記金属の含有率の上限は特に限定されず、100原子%であってもよい。機能層は物理気相堆積(PVD)法により形成された層であるのが好ましく、より好ましくはスパッタリングにより形成された層である。反射防止層の厚さは1nm以上500nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上400nm以下、さらに好ましくは30nm以上300nm以下、特に好ましくは50nm以上200nm以下である。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0022】
金属層14は、プリント配線板の配線パターン形成用等に用いられるシード層を含みうる。シード層を構成する金属の好ましい例としては、第4族、第5族、第6族、第9族、第10族及び第11族の遷移元素、アルミニウム、並びにそれらの組合せ(例えば合金や金属間化合物)が挙げられ、より好ましくは第4族及び第11族の遷移元素、アルミニウム、ニオブ、コバルト、ニッケル、モリブデン及びそれらの組合せ、さらに好ましくは第11族の遷移元素、チタン、アルミニウム、モリブデン及びそれらの組合せ、特に好ましくは銅、チタン、モリブデン及びそれらの組合せ、最も好ましくは銅である。シード層は、いかなる方法で製造されたものでよく、例えば、無電解金属めっき法及び電解金属めっき法等の湿式成膜法、スパッタリング及び真空蒸着等の物理気相堆積(PVD)法、化学気相成膜、又はそれらの組合せにより形成したシード層であってよい。特に好ましいシード層は、極薄化によるファインピッチ化に対応しやすい観点から、スパッタリング法や及び真空蒸着等の気相法により形成されたシード層であり、最も好ましくはスパッタリング法により製造されたシード層である。また、シード層は、無粗化のシード層であるのが好ましい。一方、積層体10をプリント配線板の製造に用いる場合には、シード層は、プリント配線板製造時の配線パターン形成に支障を来さないかぎり予備的粗化やソフトエッチング処理や洗浄処理、酸化還元処理により二次的な粗化が生じたものであってもよい。シード層の厚さは特に限定されないが、上述したようなファインピッチ化に対応するためには、10nm以上1000nm以下が好ましく、より好ましくは20nm以上900nm以下、さらに好ましくは30nm以上700nm以下、特に好ましくは50nm以上600nm以下、特により好ましくは70nm以上500nm以下、最も好ましくは100nm以上400nm以下である。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。このような範囲内の厚さのシード層はスパッタリング法により製造されるのが成膜厚さの面内均一性や、シート状やロール状での生産性の観点で好ましい。
【0023】
シード層のフロートガラス基板12と反対側の表面(シード層の外側表面)が、JIS B 0601-2001に準拠して測定される、1.0nm以上100nm以下の算術平均粗さRaを有するのが好ましく、より好ましくは2.0nm以上40nm以下、さらに好ましくは3.0nm以上35nm以下、特に好ましくは4.0nm以上30nm以下、最も好ましくは5.0nm以上15nm以下である。このように算術平均粗さが小さいほど、例えば積層体10を用いて製造されるプリント配線板において、ライン/スペース(L/S)が13μm以下/13μm以下(例えば12μm/12μmから2μm/2μm)といった程度にまで高度に微細化された配線パターンの形成を形成するのに適したものとなる。
【0024】
積層体10は、フロートガラス基板12のトップ面12a側と金属層14との間又は2以上の金属層14の間に剥離層をさらに備えていてもよい。剥離層は、フロートガラス基板12と金属層14との剥離を容易とする層である。剥離層は有機剥離層及び無機剥離層のいずれであってもよく、有機剥離層と無機剥離層との複合剥離層であってもよい。有機剥離層に用いられる有機成分の例としては、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物、カルボン酸等が挙げられる。窒素含有有機化合物の例としては、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物等が挙げられる。一方、無機剥離層に用いられる無機成分の例としては、ニッケル、モリブデン、コバルト、クロム、鉄、チタン、タングステン、リン、亜鉛の少なくとも一種類以上の金属酸化物、炭素等が挙げられる。剥離層は、金属酸化物及び炭素の両方を含む層であってもよい。これらの中でも特に、剥離層は炭素を含む層であるのが剥離容易性や膜形成性の点等から好ましく、より好ましくは主として炭素を含んでなる層であり、さらに好ましくは主として炭素又は炭化水素からなる層であり、特に好ましくは硬質炭素膜であるアモルファスカーボンからなる。この場合、剥離層(すなわち炭素層)はXPSにより測定される炭素濃度が60原子%以上であるのが好ましく、より好ましくは70原子%以上、さらに好ましくは80原子%以上、特に好ましくは85原子%以上である。炭素濃度の上限値は特に限定されず100原子%であってもよいが、98原子%以下が現実的である。剥離層(特に炭素層)は不可避不純物(例えば雰囲気等の周囲環境に由来する酸素、炭素、水素等)を含みうる。また、剥離層(特に炭素層)には金属層14の成膜手法に起因して金属原子が混入しうる。炭素はキャリアとの相互拡散性及び反応性が小さく、300℃を超える温度でのプレス加工等を受けても、金属層と接合界面との間での高温加熱による金属結合の形成を防止して、キャリアの引き剥がし除去が容易な状態を維持することができる。剥離層はスパッタリング等の気相法により形成された層であるのがアモルファスカーボン中の過度な不純物を抑制する点、後述する金属層14の成膜との連続生産性の点などから好ましい。剥離層の厚さは1nm以上20nm以下が好ましく、より好ましくは1nm以上10nm以下である。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0025】
金属層14が密着層、剥離補助層、反射防止層及びシード層の各機能層で構成される場合、積層体10は、フロートガラス基板12上に、密着層、剥離補助層、反射防止層及びシード層をこの順に備えたものであるのが好ましい。また、積層体10が剥離層をさらに備える場合には、剥離層は剥離補助層と反射防止層との間に存在するのが最も好ましい。積層体10全体の厚さは特に限定されないが、好ましくは0.3mm以上3mm以下、より好ましくは0.4mm以上2mm以下、さらに好ましくは0.5mm以上1.5mm以下、特に好ましくは0.7mm以上1.2mm以下である。
【0026】
積層体の製造方法
本発明による積層体10は、フロートガラス基板12を用意し、フロートガラス基板12のトップ面12a側に、金属層を形成することにより製造することができる。フロートガラス基板12の剥離を容易とすべく、フロートガラス基板12のトップ面12a側又は2以上の金属層の間に剥離層を形成するのが好ましい。例えば、好ましい態様による積層体10は、フロートガラス基板12上のトップ面12a側に、密着層、剥離補助層、剥離層、反射防止層、シード層等の各種層を適宜形成することにより製造することができる。密着層、剥離補助層、剥離層、反射防止層、及びシード層の各層の形成は、極薄化によるファインピッチ化に対応しやすい観点から、物理気相堆積(PVD)法により行われるのが好ましい。物理気相堆積(PVD)法の例としては、スパッタリング法、真空蒸着法、及びイオンプレーティング法が挙げられるが、0.05nm以上5000nm以下といった幅広い範囲で膜厚制御できる点、広い幅ないし面積にわたって膜厚均一性を確保できる点等から、最も好ましくはスパッタリング法である。特に、密着層、剥離補助層、剥離層、反射防止層、及びシード層等の各種層の全てをスパッタリング法により形成することで、製造効率が格段に高くなる。なお、金属層14の形成は、密着層、剥離補助層、反射防止層、及びシード層からなる群から選択される少なくとも1種を形成すれば足り、これら全ての層の形成を必須とするものではない。物理気相堆積(PVD)法による成膜は公知の気相成膜装置を用いて公知の条件に従って行えばよく特に限定されない。例えば、スパッタリング法を採用する場合、スパッタリング方式は、マグネトロンスパッタリング、2極スパッタリング法、対向ターゲットスパッタリング法等、公知の種々の方法であってよいが、マグネトロンスパッタリングが、成膜速度が速く生産性が高い点で好ましい。スパッタリングはDC(直流)及びRF(高周波)のいずれの電源で行ってもよい。また、ターゲット形状も広く知られているプレート型ターゲットを使用することができるが、ターゲット使用効率の観点から円筒形ターゲットを用いることが望ましい。以下、密着層、剥離補助層、剥離層、反射防止層、及びシード層の各層の物理気相堆積(PVD)法(好ましくはスパッタリング法)による成膜について説明する。
【0027】
密着層の物理気相堆積(PVD)法(好ましくはスパッタリング法)による成膜は、上述の金属M1で構成されるターゲットを用い、非酸化性雰囲気下でマグネトロンスパッタリングにより行われるのが膜厚分布均一性を向上できる点で好ましい。ターゲットの純度は99.9%以上が好ましい。スパッタリングに用いるガスとしては、アルゴンガス等の不活性ガスを用いるのが好ましい。アルゴンガスの流量はスパッタリングチャンバーサイズ及び成膜条件に応じて適宜決定すればよく特に限定されない。また、異常放電やプラズマ照射不良などの稼働不良なく、連続的に成膜する観点から成膜時の圧力は0.1Pa以上20Pa以下の範囲で行うことが好ましい。この圧力範囲は、装置構造、容量、真空ポンプの排気容量、成膜電源の定格容量等に応じ、成膜電力、アルゴンガスの流量を調整することで設定すればよい。また、スパッタリング電力は成膜の膜厚均一性、生産性等を考慮してターゲットの単位面積あたり0.05W/cm2以上10.0W/cm2以下の範囲内で適宜設定すればよい。
【0028】
剥離補助層の物理気相堆積(PVD)法(好ましくはスパッタリング法)による成膜は、上述の金属M2で構成されるターゲットを用い、非酸化性雰囲気下でマグネトロンスパッタリングにより行われるのが膜厚分布均一性を向上できる点で好ましい。ターゲットの純度は99.9%以上が好ましい。スパッタリングに用いるガスとしては、アルゴンガス等の不活性ガスを用いるのが好ましい。アルゴンガスの流量はスパッタリングチャンバーサイズ及び成膜条件に応じて適宜決定すればよく特に限定されない。また、異常放電やプラズマ照射不良などの稼働不良なく、連続的に成膜する観点から成膜時の圧力は0.1Pa以上20Pa以下の範囲で行うことが好ましい。この圧力範囲は、装置構造、容量、真空ポンプの排気容量、成膜電源の定格容量等に応じ、成膜電力、アルゴンガスの流量を調整することで設定すればよい。また、スパッタリング電力は成膜の膜厚均一性、生産性等を考慮してターゲットの単位面積あたり0.05W/cm2以上10.0W/cm2以下の範囲内で適宜設定すればよい。
【0029】
剥離層の物理気相堆積(PVD)法(好ましくはスパッタリング法)による成膜は、カーボンターゲットを用いてアルゴン等の不活性雰囲気下で行われるのが好ましい。カーボンターゲットはグラファイトで構成されるのが好ましいが、不可避不純物(例えば雰囲気等の周囲環境に由来する酸素や炭素)を含みうる。カーボンターゲットの純度は99.99%以上が好ましく、より好ましくは99.999%以上である。また、異常放電やプラズマ照射不良などの稼働不良なく、連続的に成膜する観点から成膜時の圧力は0.1Pa以上2.0Pa以下の範囲で行うことが好ましい。この圧力範囲は、装置構造、容量、真空ポンプの排気容量、成膜電源の定格容量等に応じ、成膜電力、アルゴンガスの流量を調整することで設定すればよい。また、スパッタリング電力は成膜の膜厚均一性、生産性等を考慮してターゲットの単位面積あたり0.05W/cm2以上10.0W/cm2以下の範囲内で適宜設定すればよい。
【0030】
反射防止層の物理気相堆積(PVD)法(好ましくはスパッタリング法)による成膜は、チタン、アルミニウム、ニオブ、ジルコニウム、クロム、タングステン、タンタル、コバルト、銀、ニッケル及びモリブデンからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成されるターゲットを用いて、マグネトロンスパッタ法により行われるのが好ましい。ターゲットの純度は99.9%以上が好ましい。特に、機能層のマグネトロンスパッタ法による成膜は、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、圧力0.1Pa以上20Pa以下で行われるのが好ましい。スパッタリング圧力は、より好ましくは0.2Pa以上15Pa以下、さらに好ましくは0.3Pa以上10Pa以下である。なお、上記圧力範囲の制御は、装置構造、容量、真空ポンプの排気容量、成膜電源の定格容量等に応じ、成膜電力、アルゴンガスの流量を調整することにより行えばよい。アルゴンガスの流量はスパッタリングチャンバーサイズ及び成膜条件に応じて適宜決定すればよく特に限定されない。また、スパッタリング電力は成膜の膜厚均一性、生産性等を考慮してターゲットの単位面積あたり1.0W/cm2以上15.0W/cm2以下の範囲内で適宜設定すればよい。また、製膜時にキャリア温度を一定に保持するのが、安定した膜特性(例えば膜抵抗や結晶サイズ)を得やすい点で好ましい。成膜時のキャリア温度は25℃以上300℃以下の範囲内で調整することが好ましく、より好ましくは40℃以上200℃以下、さらに好ましくは50℃以上150℃以下の範囲内である。
【0031】
シード層の物理気相堆積(PVD)法(好ましくはスパッタリング法)による成膜は、例えば、第4族、第5族、第6族、第9族、第10族及び第11族の遷移元素、並びにアルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成されるターゲットを用い、アルゴン等の不活性雰囲気下で行われるのが好ましい。銅ターゲット等の金属ターゲットは金属銅等の金属で構成されるのが好ましいが、不可避不純物を含みうる。金属ターゲットの純度は99.9%以上が好ましく、より好ましくは99.99%、さらに好ましくは99.999%以上である。シード層の気相成膜時の温度上昇を避けるため、スパッタリングの際、ステージの冷却機構を設けてもよい。また、異常放電やプラズマ照射不良などの稼働不良なく、安定的に成膜する観点から成膜時の圧力は0.1Pa以上2.0Pa以下の範囲で行うことが好ましい。この圧力範囲は、装置構造、容量、真空ポンプの排気容量、成膜電源の定格容量等に応じ、成膜電力、アルゴンガスの流量を調整することで設定すればよい。また、スパッタリング電力は成膜の膜厚均一性、生産性等を考慮してターゲットの単位面積あたり0.05W/cm2以上10.0W/cm2以下の範囲内で適宜設定すればよい。