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特許7389053線維性疾患の治療のための2-オキソチアゾール組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】線維性疾患の治療のための2-オキソチアゾール組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/426 20060101AFI20231121BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20231121BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
A61K31/426
A61P1/04
A61P1/16
A61P7/00
A61P9/00
A61P9/10
A61P11/00
A61P13/12
A61P17/00
A61P17/02
A61P21/00
A61P31/00
A61P37/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020559491
(86)(22)【出願日】2019-04-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 EP2019060544
(87)【国際公開番号】W WO2019207014
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-03-15
(31)【優先権主張番号】1806663.9
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】511294121
【氏名又は名称】アヴェクシン エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】フェウエハーム、アストリド ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンセン、ベリト
【審査官】前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-511233(JP,A)
【文献】特表2017-522359(JP,A)
【文献】特表2002-531553(JP,A)
【文献】国際公開第2007/118996(WO,A1)
【文献】特表2011-507824(JP,A)
【文献】Journal of Medicinal Chemistry,2014年,57(18),P.7523-7535
【文献】Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2011年,21(10),P.3128-3133
【文献】Nature Medicine (New York,NY, United States),2002年,8(5),P.480-484
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/
C07D 277/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(V)の化合物またはその塩を含む、繊維性疾患の治療または予防のための組成物
【化15】
[式中、R 10 は、HまたはMeであり、
2は、-COOCH 3 または-COOCH 2 CH 3 であり、
1は、-OC4-10アルキル、-SC4-10アルキル、C4-10アルキル基またはOAr2であり、
ここで、Ar2は、フェニルであり、任意にハロで置換されている。]
【請求項2】
前記化合物が、下記式の化合物またはその塩である請求項1に記載の組成物。
【化16】
【請求項3】
前記化合物が、下記式の化合物またはその塩である請求項1または2に記載の組成物。
【化17】
【請求項4】
前記線維性疾患が、傷害に起因するか、または特発性である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物
【請求項5】
前記傷害が虚血性事象であるか、または放射線、化学物質もしくは感染性因子への曝露によるものである、請求項4に記載の組成物
【請求項6】
前記組成物は、対象が線維化病変を発症した後に投与される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物
【請求項7】
前記組成物が、薬学的に許容される賦形剤とともに製剤化される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物
【請求項8】
前記組成物が、1以上の補助治療剤と組み合わせて投与される、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物
【請求項9】
前記線維性疾患が、腎線維症、肺線維症、特発性肺線維症、嚢胞性線維症、肝線維症、心臓線維症、心内膜心筋線維症、心房線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、腎性全身性線維症、クローン病、肥厚性瘢痕、ケロイド、強皮症、臓器移植に関連する線維症、または虚血に関連する線維症から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物
【請求項10】
前記線維性疾患が、肺線維症または腎線維症である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物
【請求項11】
前記線維性疾患が、肝線維症である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物
【請求項12】
前記線維性疾患が、慢性腎疾患または腎性全身性線維症である、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物
【請求項13】
線維性障害を治療または予防するための医薬品の製造における、請求項1から3のいずれか一項で定義した式(V)の化合物またはその塩の使用
【請求項14】
臓器におけるヒドロキシプロリン含量またはI型コラーゲンのmRNA発現量の少なくとも一方を低減させるための医薬品の製造における、請求項1から3のいずれか一項で定義した式(V)の化合物またはその塩の使用
【請求項15】
前記臓器が、腎臓、肺、または肝臓である、請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維性疾患または線維性障害の治療に使用する組成物に関する。特に、本発明は、線維化もしくはこれに関連する状態がもたらす症状の治療、予防、または軽減における、種々の2-オキソチアゾール化合物の使用に関する。本発明はまた、本明細書中に定義する2-オキソチアゾール化合物を使用して、線維性疾患または線維性障害に関連する症状を治療、予防、または軽減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線維化は、世界中で罹患や死亡の重要な原因となっている。線維化は、線維性結合組織を形成する細胞外マトリックス成分(例えば、コラーゲン、フィブロネクチン)が炎症組織または損傷組織の内部および周囲に過剰に蓄積することを特徴とする。線維化は、例えばその下にある臓器または組織の構造を破壊する過成長、硬化、および/または瘢痕化を引き起こす場合がある。制御された組織の再構築および瘢痕化は、正常な創傷治癒過程の一部であるが、一方で、重度もしくは反復性の傷害または調節不全の創傷治癒に起因する過剰かつ長期にわたる瘢痕化は、最終的に恒久的な瘢痕化、臓器障害、および臓器不全を引き起こす場合があり、さらには死に至る場合さえある。
【0003】
線維化は、傷害後の慢性炎症反応の結果であるという報告がある。一般的な線維性疾患の特徴としては、細胞外マトリックス(ECM)成分の過剰な沈着、硬化、瘢痕化、患部組織の張力の増大が挙げられる[Gerarduzzi and Battista、2017]。制御された組織の再構築および瘢痕化は、正常な創傷治癒過程の一部であるが、一方で、重度もしくは反復性の傷害または調節不全の創傷治癒に起因する過剰かつ長期にわたる瘢痕化は、最終的に恒久的な瘢痕化、臓器障害、および臓器不全を引き起こす場合があり、さらには死に至る場合さえある。
【0004】
線維化およびこれに伴う変化は、末梢血管疾患等の血管障害、心疾患、脳疾患、ならびにあらゆる主要な組織および臓器系(例えば、肺、肝臓、腎臓、心臓、皮膚)で起こり得る。線維性障害としては、全身性硬化症や結合線維組織増殖症候群等の多系統障害、ならびに、肺線維症、肝線維症、および腎線維症等の臓器特異的障害を含む、広範囲な臨床症状が挙げられる。個々の線維性障害の病因および原因機序は様々であり(例えば、虚血性事象や、化学物質、放射線、または感染性因子への曝露)、完全には解明されていないが、ほぼ全ての線維性障害において、患部組織における細胞外マトリックスの異常かつ過剰な沈着という共通の特徴が見られる。
【0005】
トランスフォーミング増殖因子β1(TGF-β1)は、線維化の主要なドライバーであり、線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化を誘導すると言われている。筋線維芽細胞への分化は、α平滑筋アクチン(α-SMA)のデノボ合成によってしばしば特徴付けられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Gerarduzzi, C., Di Battista, J.A. Inflamm. Res.(2017) 66:451.
【文献】Hao C.M., Breyer M.D, (2007), Semin Nephrol 27:338-351
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
cPLA2αは、エイコサノイド生合成のためのアラキドン酸(AA)の放出を調節する重要な因子であるとの報告がある[Hao、2007年]。シクロオキシゲナーゼ(COX)の酵素経路により、AAが、生物学的に活性な炎症誘発性エイコサノイドプロスタグランジンE2(PGE2)に変換される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
線維性疾患の症状を治療、予防、または軽減する明らかに有効な治療法が存在しないことから、本発明者らは、線維性疾患を治療するための新規な方法を探求した。このように、これらの障害に関連する症状の治療、予防、または軽減に効果的な方法が求められている。本発明者らは、驚くべきことに、線維性疾患の症状の治療、予防、または軽減に、ある種の2-オキソチアゾールが使用可能であることを見出した。
【0009】
種々の2-オキソチアゾールが報告されている(例えば、WO2011/039365、WO2014/118195、WO2016/016472を参照)。しかしながら、これらの化合物を線維性障害の症状の治療、予防、または軽減に使用することは、これまでに示唆されていない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1a図1aは、NRK-49F細胞において、cPLA2α阻害剤である化合物Aにより、TGF-β1が誘導するα-SMAのmRNA発現が阻害されることを示す。
図1b図1bは、NRK-49F細胞において、cPLA2α阻害剤である化合物Aにより、TGF-β1が誘導するα-SMAのmRNA発現が阻害されることを示す。
図1c図1cは、NRK-49F細胞において、cPLA2α阻害剤である化合物Aにより、TGF-β1が誘導するα-SMAのmRNA発現が阻害されることを示す。
図1d図1dは、NRK-49F細胞において、cPLA2α阻害剤である化合物Aにより、TGF-β1が誘導するα-SMAのmRNA発現が阻害されることを示す。
図1e図1eは、NRK-49F細胞において、cPLA2α阻害剤である化合物Aにより、TGF-β1が誘導するα-SMAのmRNA発現が阻害されることを示す。
図2図2は、ヒトPBMCにおけるPGE2の用量依存的阻害を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
従って、本発明は、一態様において、線維性疾患の治療または予防に使用するための、式(I)の化合物またはその塩、エステル、溶媒和物、N-オキシドもしくはプロドラッグ、例えばその塩を提供する。
【0012】
【化1】
【0013】
[式中、R10は、HまたはC1-6アルキル、例えばMeであり、
は、H、-(CHCOOH、-(CHCON(Rまたは-(CHCOOC1-6アルキルであり、
各Rは、HまたはC1-6アルキルであり、
各Rは、独立して、H、ハロ(例えばフルオロまたはクロロ)、C7-12アリールアルキル、C2-12アルケニル、OC1-12アルキル、SC1-12アルキル、OC2-12アルケニル、C1-12アルキル基、C6-14アリール基、-OC1-10アルキル-O-C1-10アルキル、-C1-10アルキル-O-C1-10アルキル、OAr、O(CHAr、SArまたはS(CHArから選択され、
ここで、Arは、フェニルであり、任意にハロ、トリハロメチル、C1-10-アルコキシまたはC1-10アルキルのうちの1以上で置換されており、
pは、0~3であり、
qは、1~3、好ましくは1であり、
nは、1~4である。]
【0014】
本発明は、別の態様において、線維性疾患に関連する症状を治療、予防、または軽減する方法であって、それを必要とする動物、好ましくは哺乳動物、例えばヒトに、先に記載した式(I)の化合物またはその塩、エステル、溶媒和物、N-オキシドもしくはプロドラッグを有効量投与することを含む方法を提供する。
【0015】
本発明は、別の態様において、線維性障害の症状を治療、予防、または軽減するための医薬品の製造における、先に記載した式(I)の化合物またはその塩、エステル、溶媒和物、N-オキシドもしくはプロドラッグの使用を提供する。
【0016】
本発明は、別の態様において、臓器におけるヒドロキシプロリン含量またはI型コラーゲンのmRNA発現量の少なくとも一方を低減させる方法であって、それを必要とする動物、好ましくは哺乳動物、例えばヒトに、先に記載した式(I)の化合物またはその塩、エステル、溶媒和物、N-オキシドもしくはプロドラッグを有効量投与する工程を含む方法を提供する。前記方法の一実施形態では、前記臓器は、腎臓、肺、または肝臓から選択される。
【0017】
本発明は、別の態様において、腎臓、肺、または肝臓等の臓器におけるヒドロキシプロリン含量またはI型コラーゲンのmRNA発現量の少なくとも一方を低減させるための医薬品の製造における、先に記載した式(I)の化合物またはその塩、エステル、溶媒和物、N-オキシドもしくはプロドラッグの使用を提供する。
【0018】
[図面の簡単な説明]
図1a-1e]図1a-1eは、2-オキソチアゾールPLA2α阻害剤により、TGF-β1で処理した細胞における特定の線維化マーカーのmRNA発現が低下することを示している。
【0019】
図2図2は、
図3図3は、95%信頼区間、平均、および分散を示すボックスプロットである。有意性は、非等分散またはサンプルサイズのt検定(n=4~8の独立した実験)に関するウェルチのt検定を用いて計算される。
【0020】
[発明の詳細な説明]
本開示は、線維性障害または線維性疾患の症状の予防、寛解、治療、または軽減のための方法を提供する。本明細書中で使用する「治療または予防」という用語は、疾患そのものを治療または予防すること、あるいは、疾患に関連する症状を治療または予防することに関し、疾患および/もしくは症状を軽減すること、ならびに/または、疾患および/もしくは症状の進行を遅らせることを含むものと解釈し得る。線維化という用語は、傷害または損傷に対する修復反応として、線維性結合組織が形成されることを指す。損傷を受けた組織の修復は、炎症反応中に死細胞や損傷細胞の秩序立った入れ替えを可能にする基本的な生物学的プロセスであり、生存に不可欠なメカニズムである。修復プロセスは、典型的には2つの異なる段階、すなわち、損傷細胞が同種の細胞と入れ替わり、損傷の痕跡が残存しなくなる再生段階と、正常な実質組織が結合組織と入れ替わる、線維増殖または線維化として知られる段階を含む。有害な作用物質によって引き起こされる損傷を遅らせたり、あるいは元に戻すために、これらの段階の両方が必要である場合がほとんどである。しかしながら、治癒プロセスは、初期には有益であるものの、抑制されないまま継続すると病原性となる場合があり、相当量の組織の再構築や恒久的な瘢痕組織の形成が起こる恐れがある。線維性瘢痕化は、しばしば、おかしくなった創傷治癒反応と定義される。
【0021】
傷害とは、組織を損傷し、創傷治癒プロセスを開始させる事象である。傷害後、機械的シグナル(すなわち、細胞外マトリックス、ECMの破壊によって引き起こされる細胞外ストレス)および化学的シグナル(例えば、TGFβのような炎症性メディエーター)により、線維芽細胞が活性化されて細胞外マトリックス(ECM)の構成成分の産生が増加し、これにより、線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化のプロセスが開始される(Tomasek et al.,Nat.Rev.Mol.Cell Biol.3:349,2002;Werner et al.,Physiol.Rev.83:835,2003)。再構築の過程にある組織の種類に応じ、分化する線維芽細胞は、局在する線維芽細胞、周皮細胞、平滑筋細胞、骨髄由来の線維細胞を含む異なる供給源から得られる場合もあるし、上皮間葉転換(EMT)によって得られる場合もある(Hinz et al.,Am.J.Pathol.170:1807,2007)。創傷治癒は、新たに形成された、架橋結合したECMが機械的負荷を引き継ぐと完了したと見なされ、これがシグナルとなって、筋線維芽細胞がアポトーシスを起こす(Tomasek et al.,2002;Carlson et al.,J.Surg.Res.110:304,2003)。
【0022】
傷害が重症または反復性である場合、あるいは創傷治癒プロセスが調節不全である場合には、線維化が病原性となり、その結果、組織の恒久的な瘢痕化または硬化、臓器の機能障害または機能不全が生じ、最終的には死に至る。例えば、特発性肺線維症(IPF)は、完全に解明されてはいないが、肺移植以外に有効な治療がほとんどない、進行性かつ致死性の肺疾患と考えられている(Mason et al.,Ann.Thorac.Surg.84:1121-8,2007)。診断から5年後の生存率中央値は、20%未満である。ほとんどの形態の間質性肺疾患、およびその他の形態の肺線維症は、線維化病変、肺胞構造における進行性の歪みの発生、および過剰なECM沈着を伴う線維性組織または瘢痕組織への置き換えを特徴とする(American Thoracic Society,Am.J.Respir.Crit.Care Med.161:646,2000;Noble et al.,Clin.Chest Med.25:749,2004;Selman et al.,Ann.Intern,Med.134:136,2001)。これにより、進行性の呼吸困難および肺機能の喪失が起こり得る。特徴的な形態的病変は、しばしば「線維化病巣」と称される慢性化した線維症領域、顕微鏡レベルの蜂巣状部、およびコラーゲン産生している線維芽細胞/筋線維芽細胞を含む線維化進行領域、に直接隣接する正常な肺の領域を含む空間的および経時的な不均一性である。
【0023】
「線維性障害」または「線維性疾患」という用語(本明細書中ではこれらは同義に用いられる)は、炎症組織または損傷組織の内部および周囲に細胞外マトリックスが過剰に沈着する、進行性および/または不可逆的な線維化を特徴とする病状を指す。ある実施形態では、線維性障害または線維性疾患は、線維化病巣または線維化病変の内部および周囲に筋線維芽細胞が持続的に存在することに関連して起こる。過剰で持続的な線維化により、正常な組織の再構築や破壊が徐々に進行する可能性があり、これにより、患部臓器の機能障害や機能不全が起こり、最終的に死に至る場合もある。線維性障害は、体内のあらゆる組織に影響を及ぼす可能性があり、また、一般的には、傷害や、線維芽細胞の筋線維芽細胞への分化転換によって開始される。
【0024】
本明細書中で使用する「傷害」は、組織を損傷し、線維化を開始させる事象を指す。傷害は、機械的侵襲(例えば、切り傷、外科手術)、放射線への曝露、化学物質(例えば、化学療法薬、毒素、刺激物質、煙)への曝露、または感染性因子(例えば、細菌、ウイルス、または寄生生物)への曝露等の外的要因によって生じる場合がある。傷害は、例えば、慢性自己免疫性炎症、アレルギー反応、HLA不適合(例えば、移植レシピエント)、または虚血(すなわち、「虚血性事象」または「虚血」とは、組織への血液供給を制限し、その結果、組織の損傷または機能障害を引き起こす傷害を指すものであり、かかる障害は、血管の問題、アテローム性動脈硬化、血栓症または塞栓症によって起こり得るものであり、種々の組織および器官に影響を与え得る。虚血性事象としては、例えば、心筋梗塞、脳卒中、臓器移植または組織移植、または腎動脈狭窄症が挙げられる)によって生じる場合がある。ある実施形態では、線維性障害を引き起こす傷害は、病因不明(すなわち、特発性)のものであり得る。
【0025】
線維性障害または線維性疾患の非限定的な例としては、腎(腎臓)線維症、特発性肺線維症等の肺線維症、嚢胞性線維症、肝線維症(例えば、肝硬変)、心臓線維症、心内膜心筋線維症、血管線維症(例えば、アテローム性動脈硬化症、狭窄症、再狭窄)、心房線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、進行性塊状線維症(例えば、肺)、腎性全身性線維症、クローン病、肥厚性瘢痕、ケロイド、強皮症、全身性硬化症(例えば、皮膚、肺)、関節線維症(athrofibrosis)(例えば、膝、肩、その他の関節)、ペーロニー病、デュピュイトラン拘縮、癒着性関節包炎、臓器移植に関連する線維症、虚血に関連する線維症等が挙げられる。
【0026】
一実施形態では、本発明は、腎(腎臓)線維症に関連する症状の治療、予防、または軽減に関する。「腎線維症」または「腎臓線維症」(本明細書中ではこれら2つの用語は同義に用いられる)と記載した場合、重篤な病気を引き起こし、死に至る場合さえある種々の疾患の進行性線維化の発現を意味する。例えば、慢性腎臓病(CKD)は、一部の患者において、生命を脅かす可能性のある線維化表現型で発現することがある。この状態(線維化を伴うCKD)は、糖尿病性腎症、高血圧、糸球体腎炎(GN)、および多嚢胞性疾患等、種々の他の重篤な兆候から生じる場合がある。理論に制約されることを望むものではないが、これらの疾患の治療を目的とした従来の治療法は、重篤な病気や場合によっては死をまねく線維化の発生や進行を阻止するには、しばしば不十分であると考えられていた。本発明は、例えば、CKD、糖尿病性神経障害、高血圧、糸球体腎炎(GN)、および/または多嚢胞性疾患を罹患している、罹患していると疑われる、あるいは発症のリスクがある患者において、線維化の発生および/または進行に焦点を当てた方法を提供することによって、この問題に対処しようとするものである。
【0027】
別の実施形態では、本発明は、肺線維性障害の治療に関する。「肺線維性障害」と記載した場合、肺組織の線維性肥大もしくは線維化を特徴とする疾患または障害を意味する。肺線維性障害の例としては、肺線維症、特発性肺線維症、間質性肺疾患、間質性肺線維症、慢性間質性肺炎、ハマン-リッチ症候群、通常型間質性肺炎(UIP)、線維化肺胞炎、肺サルコイドーシス、進行性塊状線維症(例えば、肺)、全身性硬化症(例えば、肺)、肺移植に関連する線維症等が挙げられる。
【0028】
本発明は、線維性障害の治療または予防における、式(I)の化合物またはその塩、エステル、溶媒和物、N-オキシドもしくはプロドラッグの使用を含む。第1の実施形態において、本発明は、線維性疾患の治療または予防に使用するための、先に定義した式(I)の2-オキソチアゾール化合物またはその塩、エステル、溶媒和物、N-オキシドもしくはプロドラッグを提供する。
【0029】
【化2】
【0030】
式(I)の化合物において、Rは、Hでないのが好ましい。
【0031】
は、-(CHCOOH、-(CHCONHMe、-(CHCONHまたは-(CHCOOC1-6アルキルであるのが好ましい。特に、Rは、-COOCHまたは-COOCHCHである。
【0032】
下付き文字pは、好ましくは0または1、特に0である。最も好ましいRの選択肢としては、-COOC1-6アルキル、特に-COOC1-2アルキルである。
【0033】
10は、好ましくはメチルまたはHである。
【0034】
式(I)の化合物において、基Rが0、1または2個、特に1個存在するのが好ましい、すなわち、nは、好ましくは1である。
【0035】
Ph環上に置換基Rが1個存在する場合、それがO原子に対してパラ位にあるのが好ましい。置換基が2個存在する場合、これらの置換基が隣接する炭素原子に、理想的にはPh環のメタ位およびパラ位に配置されるのが好ましい。
【0036】
好ましいRの選択肢としては、C1-10アルキル基、-OC1-10アルキル基、-SC1-10アルキルまたはOAr基である。
【0037】
更に好ましい選択肢としては、C4-10アルキル基、-OC4-10アルキル基、-SC4-10アルキルまたはOAr基を含む。
【0038】
のアルキル基は、いずれも直鎖状であるのが好ましい。直鎖アルキル基は、アルコキシ、S-アルキル基などにおけるアルキル基のように、他の置換基の一部を形成するアルキル基においても好ましい。
【0039】
Arは、フェニル、またはハロ例えばFで置換されたフェニルであるのが好ましい。その置換基は、パラ位にあるのが好ましい。
【0040】
従って、好ましい実施形態において、本発明で使用する化合物は、式(II)の化合物またはその塩、エステル、溶媒和物、N-オキシドもしくはプロドラッグ、例えばその塩である。
【0041】
【化3】
【0042】
[式中、R10は、HまたはMeであり、
は、-(CHCON(Rまたは-(CHCOOC1-6アルキルであり、
各Rは、HまたはC1-6アルキルであり、
は、-OC1-12アルキル、-SC1-12アルキル、C1-12アルキル基、OAr、O(CHAr、SArまたはS(CHAr
ここで、Arは、フェニルであり、任意にハロ、トリハロメチル、C1-10-アルコキシまたはC1-10アルキルのうちの1以上で置換されており、
pは、0~1であり、
qは、1であり、
nは、1である。]
【0043】
更に好ましい実施形態において、本発明で使用する化合物は、式(III)の化合物またはその塩、エステル、溶媒和物、N-オキシドもしくはプロドラッグ、例えばその塩である。
【0044】
【化4】
【0045】
[式中、R10は、HまたはMeであり、
は、-(CHCON(Rまたは-(CHCOOC1-6アルキルであり、
各Rは、HまたはMeであり、
は、-OC1-12アルキル、-SC1-12アルキル、C1-12アルキル基またはOArであり、
ここで、Arは、フェニルであり、任意にハロで置換されており、
pは、0~1であり、
nは、1である。]
【0046】
更に好ましい実施形態において、本発明で使用する化合物は、式(IV)の化合物またはその塩、エステル、溶媒和物、N-オキシドもしくはプロドラッグ、例えばその塩である。
【0047】
【化5】
【0048】
[式中、R10は、HまたはMeであり、
は、CONHRまたはCOOC1-6アルキルであり、
は、HまたはMeであり、
は、-OC1-12アルキル、-SC1-12アルキル、C1-12アルキル基またはOArであり、
ここで、Arは、フェニルであり、任意にハロで置換されている。]
【0049】
最も好ましい実施形態において、本発明で使用する化合物は、式(V)の化合物またはその塩、エステル、溶媒和物、N-オキシドもしくはプロドラッグ、例えばその塩である。
【0050】
【化6】
【0051】
[式中、R10は、HまたはMeであり、
は、CONHRまたはCOOC1-2アルキルであり、
は、HまたはMeであり、
は、-OC4-10アルキル、-SC4-10アルキル、C4-10アルキル基またはOArであり、
ここで、Arは、フェニルであり、任意にハロで置換されている。]
【0052】
最も好ましい実施形態において、本発明で使用する化合物は、式(VI)の化合物またはその塩、エステル、溶媒和物、N-オキシドもしくはプロドラッグ、例えばその塩である。
【0053】
【化7】
【0054】
[式中、R10は、HまたはMeであり、
は、COOC1-2アルキルであり、
は、-OC4-10アルキル、-SC4-10アルキル、C4-10アルキル基またはOArであり、
ここで、Arは、フェニルであり、任意にハロで置換されている。]
【0055】
以下に、本発明における使用に非常に適した化合物を記載する。
【0056】
【化8】
【0057】
最も好ましい化合物は、以下の通り。
【0058】
【化9】
【0059】
本発明の化合物は、可能な場合、塩、水和物、または溶媒和物の形態、特に塩の形態で投与してもよい。
【0060】
薬学的に許容される塩は、典型的には、所望の酸を使用することにより容易に調製され得る。塩は、溶液中に沈殿したものをろ過によって採取してもよく、また溶媒を蒸発させて回収してもよい。例えば、塩酸等の酸の水溶液を式(I)の化合物の水性懸濁液に添加し、得られた混合液を蒸発乾固(凍結乾燥)させ、固体の酸付加塩を得てもよい。あるいは、式(I)の化合物を好適な溶媒に溶解し、前記酸を同じ溶媒または別の好適な溶媒中に添加してもよい。次に、得られた酸付加塩は、直接沈殿させるか、またはジイソプロピルエーテルやヘキサンなどの極性の低い溶媒を加えて沈殿させ、ろ過により分離してもよい。
【0061】
好適な付加塩は、無毒性の塩を形成する無機酸または有機酸から形成され、例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、ギ酸塩、グルコン酸塩、コハク酸塩、ピルビン酸塩、シュウ酸塩、オキサロ酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、糖酸塩、安息香酸塩、アルキルスルホン酸塩またはアリールスルホン酸塩(例えば、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、またはp-トルエンスルホン酸塩)およびイセチオン酸塩が挙げられる。代表的な例としては、トリフルオロ酢酸塩およびギ酸塩が挙げられ、例えば、ビストリフルオロ酢酸塩またはトリストリフルオロ酢酸塩およびモノギ酸塩またはジギ酸塩、特に、トリストリフルオロ酢酸塩またはビストリフルオロ酢酸塩およびモノギ酸塩が含まれる。
【0062】
式(I)の化合物は、公知の化学合成経路を用いて製造され得る。本発明の化合物の製造は、通常、公知の文献の反応を伴う。複素環上の置換基の変更やカルボニルに結合する側鎖の操作は、当業者が知り得るあらゆる種類の合成技術を用いて達成できる。特に、WO2011/039365、WO2014/118195、WO2016/016472を参照すると、本発明の化合物の合成経路がすべて記載されている。従って、本発明の化合物は、これらの参考文献の教示に沿って調製することができる。
【0063】
投薬形態によって求められる本発明の化合物の量は、多くの場合、医師により決定されるであろう。
【0064】
本発明の組成物は、主として線維性障害の治療または予防に使用するために提案されている。
【0065】
治療すること、または治療とは、以下のうちの少なくとも1つを意味する。
【0066】
(i)疾患を抑制すること、すなわち、疾患の発症もしくはその再発、または疾患の少なくとも1つの臨床症状もしくは亜臨床症状を抑止、軽減、または遅延させること、または
(ii)疾患の1以上の臨床症状または亜臨床症状を緩和または減弱させること。
【0067】
予防とは、(i)哺乳動物において発症する疾患の臨床症状の発現を予防または遅延させることを意味する。
【0068】
治療される対象にとっての恩恵は、統計的に有意であるか、または患者もしくは医師にとって少なくとも認知可能である。一般に、当業者には、いつ「治療」が起こるか認識できる。本発明の組成物は、治療に、すなわち予防よりもむしろ顕在化した症状を治療するために使用するのが特に好ましい。本発明の組成物は、予防よりも治療に使用する方がより効果的な場合がある。
【0069】
本発明の組成物は、任意の対象動物、特に哺乳動物、より具体的には、ヒトまたは疾患のモデルとしての役割を果たす動物(例えば、マウス、サル等)に使用することができる。
【0070】
疾患を治療するためには、有効量の活性組成物を患者に投与する必要がある。「治療有効量」とは、状態、障害、または症状を治療するために動物に投与した場合、かかる治療を達成するのに十分な組成物の量を意味する。「治療有効量」は、組成物、疾患およびその重症度、ならびに治療対象の年齢、体重、健康状態、および反応性に応じて変わり、最終的には主治医の裁量に任されるであろう。
【0071】
本発明に従って線維化を治療するために、本発明の組成物を一定の間隔で再投与しなければならない場合がある。好適な投与計画は、医師により処方され得る。
【0072】
本発明の組成物は、典型的には、意図する投与経路および標準的な薬務を考慮して選択された薬学的に許容される1以上の担体と混合された活性成分を含む。
【0073】
「担体」という用語は、活性化合物と共に投与される希釈剤、賦形剤および/またはビヒクルを指す。本発明の医薬組成物は、2以上の担体の組み合わせを含有してもよい。このような医薬担体は、当技術分野において周知である。医薬組成物は、さらに、任意の好適なバインダー、潤滑剤、懸濁剤、コーティング剤、および/または可溶化剤等(いずれも1種または複数種)を含んでもよい。該組成物は、さらに、他の活性成分、例えば、癌治療のための他の薬剤も含有し得る。
【0074】
本発明に従って使用される医薬組成物は、経口、非経口、経皮、舌下、局所、インプラント、経鼻、または経腸投与(または他の粘膜投与)される懸濁液、カプセル、または錠剤の形態であってもよく、これらは、1以上の薬学的に許容される担体または賦形剤を用いて従来の方法で製剤化し得ることが理解されるであろう。本発明の組成物は、ナノ粒子製剤として製剤化することもできる。
【0075】
しかしながら、線維化を治療するために、本発明の組成物の投与は、経口または非経口(例えば、皮下、筋肉内、または静脈内)等、種々の経路で行うことができる。本発明の多くの実施形態では、皮下投与が好ましい。従って、本発明の組成物を経口投与する実施形態では、当該組成物を、錠剤または注射用の溶液の形態で提供してもよい。
【0076】
本発明の医薬組成物は、活性物質を体積当たり0.01~99重量%含有してもよい。治療用量は、一般に、約10~2000mg/日、好ましくは、約30~1500mg/日である。使用し得るその他の範囲としては、例えば、50~500mg/日、50~300mg/日、100~200mg/日などが含まれる。
【0077】
投与は、1日1回、1日2回、またはそれ以上の頻度であってもよく、疾患または障害の維持期では減らしてもよく、例えば、毎日または1日2回ではなく、2日または3日に1回としてもよい。用量および投与頻度は、臨床徴候に応じて決定されるものであり、当業者に公知の急性期の臨床徴候が、少なくとも1以上、好ましくは2以上軽減または消失したことに基づいて、寛解期の維持が確認される。
【0078】
本発明の治療は、問題となっている線維性疾患の他の公知の治療と併せて実施してもよい。例えば、肺線維症の患者に酸素を投与してもよい。本発明の治療は、同一または異なる医薬組成物における他の公知の治療と組み合わせた他の実施形態で実施してもよい。「併用剤」の例としては、特に、シクロスポリン、アザチオプリン、シクロホスファミド、またはミコフェノール酸モフェチルを含むが、これらに限定されない免疫抑制剤;コルチコステロイド(例えば、プレドニゾン)、サイトカイン(インターフェロンα、インターフェロンγ、インターロイキン12を含むが、これらに限定されない)、TNF阻害剤、CCR2阻害剤、CCR5阻害剤、またはVAP1阻害剤を含むが、これらに限定されない抗炎症剤;サリドマイド;ACE阻害剤、ARB、レニン阻害剤、およびミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(例えば、カプトプリル、ラミプリル、リシノプリル、ロサルタン、テルミサルタン、アリスキレン、スピロノラクトン、フィネレノン、CS-3150、MT-3995、エプレレノン等)を含むが、これらに限定されない血圧降下薬;特に、CTGF、TGF-β、MCP-1、IL-4、およびIL-13を標的とする、モノクローナル抗体またはその他の薬剤;ニンテダニブおよびJNK(キナーゼ)阻害剤タンジセルチブ(CC-930)、またはルキソリチニブ(ジャカビ(商標))を含むが、これらに限定されない複数の受容体型チロシンキナーゼ阻害剤;N-アセチルシステイン、ピルフェニドン、ビタミンE、S-アデノシルメチオニン、ピリドリン、GKT137831、またはペニシラミン等が挙げられるが、これらに限定されない抗酸化剤;リジルオキシダーゼ様2(LOXL2酵素)等を含むが、これらに限定されない酵素阻害剤;αβ等が挙げられるが、これに限定されないインテグリン阻害剤;リゾホスファチジン酸受容体拮抗薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ステアロイル-CoA脱飽和酵素阻害剤、PPAR阻害剤、チアゾリンジオン(thiazolindiones)、またはコレステロール吸収阻害剤を含むが、これらに限定されない脂質受容体モジュレータまたは脂質低下剤;アトラセンタン等のET阻害剤、カナグリフロジン等のSGLT2阻害剤を含むが、これらに限定されない脈管構造または脈管形成に影響を及ぼす阻害剤;ポマリドミド;IDN-6556またはGS-4997等のアポトーシス阻害剤;CTP-499等のPDE阻害剤;トロンボモジュリン阻害剤、または臍帯幹細胞、自家幹細胞、および骨髄幹細胞等の幹細胞(SC)に基づく治療が挙げられる。
【0079】
本発明を、以下の非限定的な実施例および図面を参照してさらに説明する。
【0080】
[図面の簡単な説明] 図1a-1eは、NRK-49F細胞において、cPLA2α阻害剤である化合物Aにより、TGF-β1が誘導するα-SMAのmRNA発現が阻害されることを示す。図1は、メサンギウム細胞株であるRMCにおいて、化合物Aにより、α-SMAのmRNA発現が低下するようであることも示す。図1は、MRC-5細胞において、化合物Aにより、Ptgs2の発現およびPtgs2のmRNAレベルが低下することを示す。
【0081】
図2は、ヒトPBMCにおけるPGE2の用量依存的阻害を示す。
【0082】
[実施例1] 本実施例は、化合物Aを使用する。
【0083】
【化10】
【0084】
該化合物の調製は、WO2014/118195に記載されている。
【0085】
下記の材料と方法を、必要に応じて用いた。
【0086】
[細胞培養]
NRK-49F(正常ラット腎線維芽細胞、ATCC(登録商標)CRL-1570(商標))を、4500mg/Lのグルコース、5%のウシ胎児血清(FBS)、L-グルタミン、およびゲンタマイシンを含有するDMEM中で維持した。実験用に、6ウェルプレートに、1ウェルあたり3×10^5の細胞を播種した。3日後、コンフルエントに達した後の細胞を、24時間血清飢餓状態にした。次に、それらの細胞を阻害剤と共に90分間プレインキュベートし、10ng/mlのTGF-β1で24時間処理した(mRNA発現)。
【0087】
MRC-5(ヒト肺線維芽細胞、ATCC(登録商標)CCL-171(商標))を、10%のFBS、L-グルタミン、およびゲンタマイシンを含有するMEM中で維持した。実験用に、6ウェルプレートに、1ウェルあたり1×10^5の細胞を播種した。2日後、コンフルエントに達する前の細胞を、24時間血清飢餓状態にした。次に、それらの細胞を阻害剤で90分間プレインキュベートし、2ng/mlのTGF-β1で24時間処理した。
【0088】
RMC(ラットメサンギウム細胞、ATCC(登録商標)CRL-2573(商標))を、4500mg/Lのグルコース(シグマ社)、15%のFBS、L-グルタミン、および0.4mg/mlのG418を含有するDMEM中で維持した。実験用に、6ウェルプレートに、1ウェルあたり3×10^5の細胞を播種した。5日後、コンフルエントに達した後の細胞を、24時間血清飢餓状態にした。次に、それらの細胞を阻害剤で90分間プレインキュベートし、5ng/mlのTGF-β1で24時間処理した。
【0089】
[qRT-PCR]
RNeasy Mini Kit(キアゲン社)を用いて、全RNAを分離した。cDNA合成は、QuantiTect Reverse Transcription Kit(キアゲン社)の20μlの反応液中、全RNAを1μg用いて行った。合成後、cDNAを、リボヌクレアーゼを含まない水に対して1:6の割合で希釈した。LightCycler 480 SYBR Green I Master(ロシュ社)を用いてqRT-PCRを実施し、Lightcycler 96 system(ロシュ社)を用いてqRT-PCR分析を実施した。表1にプライマー配列を示す。
【0090】
【表1】
【0091】
上記結果から、2-オキソチアゾール(化合物A)PLA2α阻害剤が、TGF-β1で処理した細胞における特定の線維化マーカーのmRNA発現を低下させることが分かった。中でも、上記データは、2-オキソチアゾールが病理学的な線維化プロセスを低下させたことを示している。
【0092】
図1a-1cから分かるように、試験に供した両方の線維芽細胞株およびメサンギウム細胞株において、TGF-β1は、α-SMAのmRNAの強力な誘導因子である。cPLA2α阻害剤である化合物A(5μM)は、NRK-49F細胞において、TGF-β1が誘導するα-SMAのmRNA発現を50%阻害している(図1a)。また、化合物Aは、メサンギウム細胞株であるRMCにおいても、α-SMAのmRNA発現を35%程度低下させているが、顕著ではない(図1c)。
【0093】
TGF-β1は、試験に供した両方の細胞系において、Ptgs2(COX2タンパク質をコードする)のmRNA発現を誘導する。5μMの化合物Aは、MRC-5細胞において、Ptgs2の発現を低下させている(図1d)。5μMの化合物Aは、RMCにおいても、Ptgs2のmRNAレベルを低下させるようである(図1e)。
【0094】
略語)TGF-β1:トランスフォーミング増殖因子β1;αSMA:α平滑筋アクチン;Ptgs2:プロスタグランジンエンドペルオキシド合成酵素2/シクロオキシゲナーゼ2;Col1a2:コラーゲン1a2;Col3a1:コラーゲン3a1;Col4a1:コラーゲン4a1;CTGF:結合組織増殖因子。
【0095】
[実施例2]
[PBMCの分離および処理]
血液は、血液バンクSt.Olavs Hospital HFの健康なドナーから募集したものである(ノルウェー中部の地域倫理委員会により承認されたプロジェクト;#2016/553)。末梢血単核細胞(PBMC)の分離は、STEMCELL Technologiesの推奨に従って、Lymphoprep(商標)密度勾配溶液の入ったSepMate(商標)分離チューブを用いて行った。実験用に、5%のFBS、0.3mg/mlのグルタミンおよび0.1mg/mlのゲンタマイシンを添加した、1×10’6細胞/ウェル/1mLのRPMI培地を阻害剤有り又は無しで準備した。処理剤は、炎症の強力な誘導因子であるリポ多糖類(LPS:大腸菌026:B6由来、γ線照射済、シグマアルドリッチ、#L2654)の添加2時間前に、添加した。処理(72時間、37℃、5%CO2)に続いて細胞懸濁液を遠心分離して、細胞分画から上清を分離した。サンプルは、分析まで-80℃で保存した。
【0096】
[PGE2の酵素結合免疫学的検出法] PGE2(Cayman社;#514010)の酵素結合免疫吸着アッセイ(EIA)を用いて、PBMC(末梢血単核細胞)の上清を製造元のプロトコルに従って分析した。PBMCの上清は、1:100の割合で希釈して分析した(全分析において非希釈分析されたLPS未処理のPBMCの上清を除く)。上清は、一晩インキュベートしてハイブリダイズさせ、基質の酵素変換をOD420nmで読み取った。4パラメータ・ロジスティックフィットモデルを用いて、データ処理をした。
【0097】
化合物Aは、ヒトPBMCにおけるPGE2の生成を用量依存的に阻害する。
【0098】
ヒトモデル系における化合物Aの抗炎症効果を評価するため、健康な献血者から末梢血単核細胞(PBMC)を分離した。PGE2の生成は、LPS(10ng/mL)に反応して、135+/-87pg/mLから18185+/-11200pg/mLに増加した。PGE2の生成は、化合物Aに反応して、最高適用量(10μM)において510+/-406pg/mLに減少した。阻害は明らかに用量依存的であり、推定される50%阻害濃度(IC50)は0.44μMである(図2)。更に、非等分散またはサンプルサイズに関するウェルチのt検定(n=4~8の独立した実験)が示すように、PGE2の誘導と阻害は、共に非常に有意であった。
【0099】
図2に結果を示す。図2は、ヒトPBMCにおけるPGE2の用量依存的阻害を示す。ボックスプロットは、95%信頼区間、平均、および分散を示す。有意性は、非等分散またはサンプルサイズのt検定(n=4~8の独立した実験)に関するウェルチのt検定を用いて計算した。
【0100】
PBMCにおけるPGE2の減少は、化合物Aが強力な抗炎症化合物であることを示している。
【0101】
[実施例3]
[ラット腎メサンギウム細胞の培養と処理]
ラット腎メサンギウム細胞の細胞培養物を、従来から記載されているように(Pfeilschifter et al.,1984)、分離、特性評価、および培養した。(84ERLINK)24ウェルプレート中の(”ht)メサンギウム細胞を、90(library.wiley.com/doi/full/10.1111/Compound A)間前処理し、次にIL-(1(efore)nM,Cell Concepts GmbH)を用いて0.5mLの容量で刺激してPGE2(Hn)を誘導した。ILを用いた容量0.5mLの処理(5%CO2)(com/doi/full℃)に続いて細胞懸濁液を遠心分離して、細胞分画から上清を分離した。サンプルは、分析まで-80℃で保存した。
【0102】
PGE2のEIA(アッセイデザイン、BIOTREND Chemikalien GmbH)を用いて、ラットメサンギウム細胞の上清を製造元のプロトコルに従って分析した。データは、1.3×10の細胞(1ウェルあたりの細胞数)あたりのPGEのpgとして計算した。データは、用量10μMでのPGE2の65%阻害を示しており、推定される50%阻害濃度(IC50)は0.9μMである。
【0103】
[参考文献]
Halper J., Kjaer M. (2014), Progress in Heritable Soft Connective Tissue Diseases. Advances in Experimental Medicine and Biology, vol 802.Springer, Dordrecht
Gerarduzzi, C., Di Battista, J.A. Inflamm. Res.(2017) 66:451.
Rayego-Mateos, S., Morgado-Pascual, J. L., Rodrigues-Diez, R. R., Rodrigues-Diez, R., Falke, L. L., Mezzano, S., Ortiz, A., Egido, J., Goldschmeding, R. and Ruiz-Ortega, M. (2018), J. Pathol, 244:227-241. doi:10.1002/path.5007
Hao C.M., Breyer M.D, (2007), Semin Nephrol 27:338-351
図1a
図1b
図1c
図1d
図1e
図2
【配列表】
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