(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】電気加熱式触媒装置
(51)【国際特許分類】
B01J 35/04 20060101AFI20231121BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20231121BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20231121BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B01J35/04 301F
B01D53/94 300
F01N3/20 K ZAB
F01N3/28 301P
(21)【出願番号】P 2021044800
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】貞光 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 真吾
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/053133(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/146955(WO,A1)
【文献】特開2015-174011(JP,A)
【文献】特開2014-198296(JP,A)
【文献】国際公開第01/037971(WO,A1)
【文献】特開2010-115896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/94
F01N 3/00 - 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の触媒担体と、同触媒担体の側面に取り付けられた一対の電極部を備える電気加熱式触媒装置であって、
前記触媒担体の側面には、前記触媒担体の軸方向に延びるスリットが複数形成されており、
前記スリットには前記触媒担体よりもヤング率が低い充填剤が充填されており、
前記スリットの部位毎の前記充填剤のヤング率を、前記スリットの全長に亘って平均した値を平均ヤング率としたとき、前記スリットには、前記平均ヤング率が第1の値となる第1スリットと、前記平均ヤング率が前記第1の値よりも小さい第2の値となる第2スリットと、が含まれて
おり、
前記第2スリットには、前記第1スリットに充填された充填剤よりもヤング率が低い充填剤が充填されている
電気加熱式触媒装置。
【請求項2】
円筒状の触媒担体と、同触媒担体の側面に取り付けられた一対の電極部を備える電気加熱式触媒装置であって、
前記触媒担体の側面には、前記触媒担体の軸方向に延びるスリットが複数形成されており、
前記スリットには前記触媒担体よりもヤング率が低い充填剤が充填されており、
前記スリットの部位毎の前記充填剤のヤング率を、前記スリットの全長に亘って平均した値を平均ヤング率としたとき、前記スリットには、前記平均ヤング率が第1の値となる第1スリットと、前記平均ヤング率が前記第1の値よりも小さい第2の値となる第2スリットと、が含まれて
おり、
前記充填剤は焼結体であり、前記第2スリットには、前記第1スリットに充填された充填剤よりも気孔率の大きい充填剤が充填されている
電気加熱式触媒装置。
【請求項3】
円筒状の触媒担体と、同触媒担体の側面に取り付けられた一対の電極部を備える電気加熱式触媒装置であって、
前記触媒担体の側面には、前記触媒担体の軸方向に延びるスリットが複数形成されており、
前記スリットには前記触媒担体よりもヤング率が低い充填剤が充填されており、
前記スリットの部位毎の前記充填剤のヤング率を、前記スリットの全長に亘って平均した値を平均ヤング率としたとき、前記スリットには、前記平均ヤング率が第1の値となる第1スリットと、前記平均ヤング率が前記第1の値よりも小さい第2の値となる第2スリットと、が含まれて
おり、
前記第2スリットは、前記触媒担体の周方向における前記電極部の端の近傍に位置している
電気加熱式触媒装置。
【請求項4】
前記第1スリットにおける前記充填剤が充填された部分の長さは、前記第2スリットにおける同長さよりも長い
請求項1~3のいずれか1項に記載の電気加熱式触媒装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気加熱式触媒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関等の排気浄化用の触媒装置として、例えば特許文献1に見られるような電気加熱式触媒装置が知られている。特許文献1に記載の電気加熱式触媒装置は、ハニカム構造をなす円筒状の触媒担体と、同触媒担体の側面に取り付けられた一対の電極部を備えている。そして、電極部間に電圧を印加して触媒担体に通電することで、触媒担体の電気加熱が行われる。
【0003】
さらに、特許文献1の電気加熱式触媒装置では、触媒担体の側面には、触媒担体よりもヤング率が低い充填剤が充填されたスリットが複数形成している。そして、これにより、電気加熱時の触媒担体に生じる熱応力を緩和している。なお、上記文献1には、電極の直下に位置するスリットの深さを、他のスリットよりも大きくすることで、通電時の触媒担体の耐熱衝撃性が高まることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気加熱時の触媒担体の温度分布は一様ではなく、触媒担体に生じる熱応力も部位毎にばらつきがある。スリットの深さを大きくすれば、緩和可能な熱応力も大きくなる。しかしながら、触媒担体の剛性や排気浄化面積の低下を招くため、スリットの深さの増大には限界がある。そのため、触媒担体において他の部位よりも高温となる部位では、熱応力を十分に緩和できない虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する電気加熱式触媒装置は、円筒状の触媒担体と、同触媒担体の側面に取り付けられた一対の電極部を備える。同電気加熱式触媒層における触媒担体の側面には、触媒担体の軸方向に延びるスリットが複数形成されている。それらのスリットには触媒担体よりもヤング率が低い充填剤が充填されている。ここで、スリットの部位毎の充填剤のヤング率を、スリットの全長に亘って平均した値を平均ヤング率とする。このとき、上記複数のスリットには、平均ヤング率が第1の値となる第1スリットと、平均ヤング率が上記第1の値よりも小さい第2の値となる第2スリットと、が含まれている。
【0007】
触媒担体が熱膨張すると、スリットの充填剤に圧縮応力が加わる。この圧縮応力に対する充填剤の歪みの分、触媒担体の外周部の周方向の熱膨張が許容される。そして、許容される熱膨張が大きいほど、触媒担体の熱応力の低下量が大きくなる。このときの熱応力の低下量は、圧縮応力に対する充填剤の歪み易さ、すなわち充填剤のヤング率により定まる。なお、スリットの全長に亘って充填剤のヤング率が一定ではない場合もある。こうした場合を考慮すると、熱応力の低下量は、上記平均ヤング率により定まると言える。具体的には、充填剤の平均ヤング率が低いスリットは、同平均ヤング率が高いスリットよりも、触媒担体の熱応力の低下量が大きくなる。ただし、平均ヤング率が小さくなるように充填剤の充填を行うと、触媒担体全体の剛性が低下する。また、スリットを通じて電気加熱式触媒装置をすり抜ける未浄化の排気の量が増加する虞もある。
【0008】
一方、触媒担体で発生する熱応力には、触媒担体の部位毎の温度分布や剛性部分により、部位毎のばらつきが生じる。触媒担体の温度分布は、内燃機関の運転中に触媒担体の内部を流れる排気の流量、及び温度の部位毎のばらつきにより生じる。また、電気加熱時には、触媒担体の発熱量の部位毎のばらつきによっても、触媒担体内の温度分布が生じる。そのため、電気加熱時には、触媒担体の部位毎の熱応力のばらつきが大きくなり易い。
【0009】
ここで、全てのスリットに、平均ヤング率が一律の値となるように充填剤を充填する場合を考える。この場合には、熱応力が最大となる部位においても、許容可能な値以下に熱応力を低減できるように、全スリットの平均ヤング率を小さくする必要がある。
【0010】
これに対して上記電気加熱式触媒装置は、平均ヤング率の異なるスリットを有している。そのため、充填剤が充填されたスリットを、各部位で発生する熱応力の大きさに合わせた適切な態様で設けることが可能となる。例えば、大きい熱応力が発生する部位のスリットは、平均ヤング率が低い第2スリットとする一方で、あまり大きい熱応力が発生しない部位のスリットは、平均ヤング率が高い第1スリットとする。
【0011】
なお、第1スリット、及び平均ヤング率が第1スリットよりも小さい第2スリットは、例えば次の態様で形成できる。すなわち、第1スリットにおける充填剤が充填された部分の長さを、第2スリットにおける同長さよりも長くする。また、第1スリットに充填された充填剤よりもヤング率が低い充填剤を第2スリットに充填することでも、第2スリットの平均ヤング率を第1スリットよりも小さくできる。なお、焼結体を充填剤として用いる場合には、焼結体の気孔率により充填剤のヤング率を調整できる。よって、この場合には、第1スリットに充填された充填剤よりも気孔率の大きい充填剤を第2スリットに充填するようにしてもよい。
【0012】
なお、電気加熱式触媒装置では、触媒担体の中心軸を挟んで反対側の位置に一対の電極部がそれぞれ配置された構成とすることが多い。そうした構成の電気加熱式触媒装置では、電気加熱時に他の部位よりも大きい熱応力が発生する部位が、触媒担体の周方向における電極部の端の近傍の部分となる。こうした場合、触媒担体の周方向における電極部の端の近傍に、第2スリットが位置するようにするとよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態の電気加熱式触媒装置の正面図。
【
図3】同電気加熱式触媒装置における触媒担体の側面の展開図。
【
図4】同電気加熱式触媒装置の通電時の電流の流れ方を示す図。
【
図5】第2実施形態の電気加熱式触媒装置における触媒担体の外周面の展開図。
【
図6】第1実施形態の電気加熱式触媒装置における、(a)は全充填スリットの充填剤のヤング率の分布を示すグラフであり、(b)は部分充填スリットの充填剤のヤング率の分布を示すグラフである。
【
図7】第2実施形態の電気加熱式触媒装置における、(a)は高ヤング率スリットの充填剤のヤング率の分布を示すグラフであり、(b)は低ヤング率スリットの充填剤のヤング率の分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、電気加熱式触媒装置の第1実施形態を、
図1~
図4を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態の電気加熱式触媒装置10は、車載等の内燃機関の排気を浄化するために、同内燃機関の排気通路内に設置される。
【0015】
<電気加熱式触媒装置10の構成>
まず、
図1及び
図2を参照して、電気加熱式触媒装置10の構成を説明する。電気加熱式触媒装置10は、円筒状の触媒担体11を備えている。なお、以下の説明では、触媒担体11を円筒としたときの同円筒の中心軸Oに平行な方向を触媒担体11の軸方向Aと記載する。また、中心軸Oの軸回り方向を触媒担体11の周方向Cと記載する。
【0016】
触媒担体11は、同触媒担体11を軸方向Aに貫通する多数のセル孔を有したモノリス構造をなしている。触媒担体11は、例えばシリコン、及びシリコンカーバイトの複合物を主成分とする焼結体である。触媒担体11の各セル孔の壁面には、白金、パラジウム、ロジウム等の金属触媒が担持されている。なお、以下の説明では、触媒担体11における
図2の左側の端を同触媒担体11の前端と記載する。また、触媒担体11における
図2の右側の端を同触媒担体11の後端と記載する。
【0017】
触媒担体11の側面には、一対の電極部12が設けられている。両電極部12は、触媒担体11の側面における、中心軸Oを挟んで反対側となる位置にそれぞれ設けられている。各電極部12は、第1下地層13、第2下地層14、金属電極板15、及び固定層16を有している。第1下地層13は、触媒担体11の側面に接するように形成された、導電性を有したセラミクスからなる層である。第2下地層14は、第1下地層13の表面に形成されている。第2下地層14は、金属マトリクスとその金属マトリクス内に分散された酸化鉱物粒子からなる層である。金属マトリクスとしては、例えばNiCr合金やMCrAlY合金が用いられる。なお、ここでの「M」は、Fe、Co、Niのうちの一つ以上を示している。一方、酸化鉱物粒子としては、例えばシリカやアルミナなどの酸化物を主成分とし、ベントナイトやマイカを含む粒子が用いられる。金属電極板15は、Fe-Cr合金等の導電性を有した金属からなる櫛状の板である。金属電極板15は、第2下地層14と同じ材料からなる固定層16により、第2下地層14の表面に固定されている。
【0018】
こうした電気加熱式触媒装置10では、触媒担体11の電気加熱を行える。すなわち、2つの電極部12の間に電圧を印加して触媒担体11に通電すると、その通電に応じた発熱で触媒担体11が加熱される。電気加熱式触媒装置10が内燃機関に組付けられた際には、こうした触媒担体11の電気加熱により、触媒活性の促進が図られる。
【0019】
なお、電気加熱や排気からの受熱により触媒担体11が高温となると、触媒担体11に熱応力が発生する。そして、そうした熱応力が過大となると、触媒担体11にクラックが発生する虞がある。本実施形態の電気加熱式触媒装置10では、触媒担体11の側面に、熱応力を緩和するためのスリット30~37を設けている。
【0020】
<触媒担体11のスリット30~37について>
続いて、触媒担体11のスリット30~37の構成を説明する。触媒担体11の側面には、触媒担体11の前端から後端へと軸方向Aに延びる複数のスリット30~37が、周方向Cに間隔をおいて形成されている。本実施形態の場合、8本のスリット30~37が設けられている。各スリット30~37は、矩形の断面形状をなしている。なお、本実施形態の電気加熱式触媒装置10では、各スリット30~37はいずれも、同じ寸法形状とされている。
【0021】
各スリット30~37は、次の位置に設けられている。ここで、周方向Cにおける各電極部12の中央部分、及び触媒担体11の中心軸Oを通る平面を平面P1とする。また、触媒担体11の中心軸Oを通り、かつ平面P1に直交する平面を平面P2とする。なお、電気加熱式触媒装置10は、平面P2に対して面対称をなすように構成されている。スリット30、34は、触媒担体11の側面と平面P1との接線に沿って形成されている。また、スリット32、36は、触媒担体11の側面と平面P2との接線に沿って形成されている。そして、触媒担体11の側面におけるスリット30、32、34、36の中間の部分に、残りの4本のスリット31、33、35、37がそれぞれ形成されている。なお、これら4本のスリット31、33、35、37は、周方向Cにおける両電極部12の端の近傍に位置している。
【0022】
図3は、触媒担体11の側面の半周分の展開構造を示している。各スリット30~37には、充填剤38が充填されている。充填剤38は、触媒担体11の基材よりも小さいヤング率を有している。本実施形態では、シリコンとその酸化物を主成分とした焼結体を充填剤38として用いている。両電極部12の周方向Cにおける側縁の近傍に形成された4本のスリット31、33、35、37には、両端部にのみ、充填剤38が充填されている。これに対して、残りの4本のスリット30、32、34、36には、全長に亘って充填剤38が充填されている。以下の説明では、全長に亘って充填剤38が充填されたスリット30、32、34、36を全充填スリットと記載する。これに対して、両端部にのみ充填剤38が充填されたスリット31、33、35、37を部分充填スリットと記載する。
【0023】
<実施形態の作用、効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。
電気加熱式触媒装置10は、内燃機関の排気通路内に組付けられる。こうした電気加熱式触媒装置10の触媒担体11は、内燃機関の運転中、電気加熱や排気からの受熱により高温となる。排気通路内に組付けられた状態では、温度上昇に伴う触媒担体11の熱膨張が制限されるため、触媒担体11に熱応力が発生する。本実施形態の電気加熱式触媒装置10では、触媒担体11の側面に、熱応力を緩和するためのスリット30~37を設けている。そして、一部のスリット30、32、34、36を全長に亘って充填剤38が充填された全充填スリットとする一方、残りのスリット31、33、35、37を両端部にのみ充填剤38が充填された部分充填スリットとしている。
【0024】
触媒担体11が高温となって熱膨張しようとすると、スリット30~37内の充填剤38が圧縮される。この圧縮による充填剤38の歪みの分、触媒担体11の周方向Cの熱膨張が許容されて、触媒担体11の熱応力が緩和される。このときの熱応力の緩和量は、圧縮に対する充填剤38の歪みが大きいほど、すなわち充填剤38のヤング率が低いほど、大きくなる。部分充填スリットには、充填剤38が充填されていない部分が、すなわち充填剤38のヤング率が「0」の部分が存在する。そのため、部分充填スリットは、全充填スリットよりも高い熱応力の緩和効果を有している。
【0025】
一方、触媒担体11で発生する熱応力には、触媒担体11内の温度分布や剛性分布により、部位毎のばらつきが生じる。触媒担体11内の温度分布は、内燃機関の運転中に触媒担体11の内部を流れる排気の流量、及び温度の部位毎のばらつきにより生じる。また、電気加熱時の触媒担体11の発熱量は、部位により違うため、これによっても温度分布が生じる。そのため、電気加熱時には、触媒担体11の部位毎の熱応力のばらつきが大きくなり易い。
【0026】
図4を参照して、本実施形態の電気加熱式触媒装置10での電気加熱時の触媒担体11の温度分布、及び熱応力分布について説明する。
図5には、中心軸Oに直交する触媒担体11の断面における電気加熱時の電流の流れが模式的に示されている。上述のように、触媒担体11の側面には、中心軸Oを挟んで反対側となる位置に2つの電極部12が設けられている。そして、電気加熱時の触媒担体11の内部には、一方の電極部12から他方の電極部12へと向うように電流が流れる。同図に示すように、触媒担体11の内部における電極部12間の導電経路長は、周方向Cにおける電極部12の中央の部分よりも両側の部分の方が短くなっている。導電経路が短いほど、電気抵抗が小さくなり、電流密度が高くなる。そして、電流密度が高いほど、発熱量が大きくなる。そのため、触媒担体11の側周の中で、電極部12の周方向両側の近傍の部分は、他の部分よりも高温となって、大きい熱応力が発生し易い部分となっている。
【0027】
これに対して、本実施形態の電気加熱式触媒装置10では、高温となり易い部分には熱応力の緩和効果が高い部分充填スリットが設けられている。そのため、過大な熱応力の発生が抑えられる。なお、全てのスリット30~37を部分充填スリットとすると、触媒担体11の剛性が大幅に低下する。その点、本実施形態では、高温となり易い部分以外のスリット30、32、34、36には、全長に亘って充填剤38を充填している。そのため、触媒担体11の剛性の低下が抑えられる。
【0028】
以上の本実施形態の電気加熱式触媒装置10によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)高温となり易い部分に設けられたスリット31、33、35、37は、熱応力の緩和効果が高い部分充填スリットとしている。これに対して、あまり高温とならない部分に設けられるスリット30、32、34、36は、部分充填スリットよりも熱応力の緩和効果が低い全充填スリットとしている。そのため、触媒担体11の温度分布に合わせて的確な熱応力の緩和が可能となる。
【0029】
(2)スリットの深さや幅を大きくすることでも、熱応力の緩和効果を高められる。しかしながら、スリットの深さや幅を大きくすると、その分、触媒担体11の排気浄化面積が減少する。これに対して、本実施形態では、充填剤38の充填範囲を限定することで、スリット31、33、35、37の熱応力の緩和効果を高めている。そのため、排気浄化面積を減少させることなく、触媒担体11の熱応力を緩和できる。
【0030】
(第2実施形態)
次に、電気加熱式触媒装置の第2実施形態を、
図5を併せ参照して詳細に説明する。なお本実施形態にあって、上記実施形態と共通する構成については、同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0031】
第1実施形態では、高温となり易い部分に設けられるスリット31、33、35、37と、他の部分に設けられるスリット30、32、34、36とで、充填剤38の充填範囲を変えていた。これに対して、本実施形態では、高温となり易い部分に設けられるスリット31、33、35、37と、他のスリット30、32、34、36とで、充填する充填剤のヤング率を変えるようにしている。
【0032】
図5は、本実施形態の電気加熱式触媒装置における触媒担体11の側面の半周分の展開構造を示している。同図の範囲では、触媒担体11の高温となり易い部分にスリット31、33が、あまり高温とならない部分にスリット32、34が、それぞれ設けられている。本実施形態では、高温となり易い部分に設けられるスリット31、33、35、37には、他のスリット30、32、34、36に充填する充填剤38よりもヤング率が低い充填剤39を充填している。以下の説明では、ヤング率が高い方の充填剤38が充填されたスリット30、32、34、36を高ヤング率スリットと記載する。これに対してヤング率が低い方の充填剤39が充填されたスリット31、33、35、37を低ヤング率スリットと記載する。なお、充填剤38、39には、共通素材の焼結体が用いられている。そして、焼結体の気孔率を調整することで、両充填剤38、39のヤング率を変えている。
【0033】
ヤング率が低い充填剤39は、ヤング率が高い充填剤38に比べて、圧縮を受けたときの歪みが大きくなる。そのため、低ヤング率スリットは、高ヤング率スリットよりも高い熱応力の緩和効果を有している。そして、本実施形態では、高温となり易い部分に設けられたスリット31、33、35、37は、熱応力の緩和効果が高い低ヤング率スリットとしている。そのため、過大な熱応力の発生が抑えられる。
【0034】
一方、ヤング率が高い充填剤38は、ヤング率が低い充填剤38よりも高い剛性を有している。そして、本実施形態では、あまり高温とならない部分に設けられるスリット30、32、34、36には、ヤング率の高い方の充填剤38を充填している。そのため、ヤング率が低い方の充填剤39を全てのスリット30~37に充填した場合に比べて、触媒担体11の剛性低下が抑えられる。
【0035】
(充填剤の充填態様と熱応力の緩和効果との関係)
続いて、充填剤の充填態様がスリットの熱応力の緩和効果に与える影響について考察する。触媒担体が熱膨張すると、スリット内の充填剤に圧縮応力が加わる。この圧縮応力に対する充填剤の歪みの分、触媒担体の外周部の周方向の熱膨張が許容される。そして、許容される熱膨張が大きいほど、触媒担体の熱応力の低下量が大きくなる。すなわち、充填剤のヤング率が低いほど、触媒担体の熱応力の低下量が大きくなる。このように充填剤のヤング率は、触媒担体の熱応力の緩和効果の指標となる。
【0036】
なお、上述の部分充填スリットのように、スリットの全長に亘ってヤング率が一定とならないように充填剤を充填する場合もある。このような充填剤のヤング率が一様でないスリットも含めたスリットの触媒担体の熱応力の緩和効果の指標値としては、次の平均ヤング率を用いることができる。平均ヤング率は、スリットの部位毎の充填剤のヤング率を、スリットの全長に亘って平均した値である。なお、ここでのヤング率の平均に際しては、スリットにおける充填剤が充填されていない部位については、その部位の充填剤のヤング率は「0」であるとしている。こうした場合、一般則として、充填剤の平均ヤング率が小さいスリットは、同平均ヤング率が大きいスリットよりも触媒担体の熱応力の緩和効果の高くなるということができる。
【0037】
図6(a)は、第1実施形態における全充填スリットの、触媒担体11の前端から後端までの各部位の充填剤38のヤング率を示している。また、
図6(b)は、同じく第1実施形態における部分充填スリットの、触媒担体11の前端から後端までの各部位の充填剤38のヤング率を示している。なお、図中の「E1」は、充填剤38として用いる焼結体のヤング率を示している。また、図中の「L」は、触媒担体11の軸方向Aの長さを示している。全長に亘って均等に充填剤38が充填された全充填スリットでは、充填剤38のヤング率は全長に亘って一定の値「E1」となる。一方、両端部にのみ充填剤38が充填された部分充填スリットでは、両端部以外の充填剤38のヤング率は「0」となる。全充填スリット、及び部分充填スリットのそれぞれの平均ヤング率は、図中のハッチングで示された領域の面積を長さLで割った商に対応している。図から明らかなように、部分充填スリットの平均ヤング率は、全充填スリットの平均ヤング率よりも小さくなっている。第1実施形態では、全充填スリットであるスリット30、32、34、36が、平均ヤング率が第1の値となる第1スリットに対応している。また、部分充填スリットであるスリット31、33、35、37が、平均ヤング率が上記第1の値よりも小さい第2の値となる第2スリットに対応している。
【0038】
図7(a)は、第2実施形態における高ヤング率スリットの、触媒担体11の前端から後端までの各部位の充填剤38のヤング率を示している。また、
図7(b)は、同じく第2実施形態における低ヤング率スリットの、触媒担体11の前端から後端までの各部位の充填剤39のヤング率を示している。なお、図中の「E1」は、充填剤38として用いる焼結体のヤング率を、「E2」は、充填剤39として用いる焼結体のヤング率を、それぞれ示している。高ヤング率スリット、及び低ヤング率スリットのそれぞれの平均ヤング率は、図中のハッチングで示された領域の面積を長さLで割った商に対応している。図から明らかなように、低ヤング率スリットの平均ヤング率は、高ヤング率スリットの平均ヤング率よりも小さくなっている。第2実施形態では、高ヤングスリットであるスリット30、32、34、36が、平均ヤング率が第1の値となる第1スリットに対応している。また、低ヤング率スリットであるスリット31、33、35、37が、平均ヤング率が上記第1の値よりも小さい第2の値となる第2スリットに対応している。
【0039】
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、触媒担体11の側面の中で、電極部12の周方向Cの両側の近傍の部分が、最も高温となり易い部分となっていた。電極部の構成や配置によっては、それ以外の部分、例えば電極部の直下に位置する部分が、触媒担体11の側面の中で最も高温となり易い部分となることがある。そうした場合には、全充填スリット/高ヤング率スリット、部分充填スリット/低ヤング率スリットの配置を触媒担体11の温度分布に合わせて適宜に変更するとよい。具体的には、高温となり易い部分に設けられたスリットを部分充填スリット/低ヤング率スリットとし、他の部分に設けられたスリットを全充填スリット/高ヤング率スリットとするとよい。
【0040】
・第1実施形態の部分充填スリットの充填剤38の充填部分を適宜変更してもよい。例えば、部分充填スリットの延伸方向中央の部分にのみ、充填剤38を充填するようにしてもよい。また、第1実施形態では全充填スリットとしていたスリット30、32、34、36の一部に充填剤38が充填されていない部分を設けるようにしてもよい。そして、スリット30、32、34、36における充填剤38が充填されている部分の長さが、スリット31、33、35、37における同長さよりも長くする。こうした場合にも、スリット30、32、34、36は、スリット31、33、35、37よりも平均ヤング率の大きいスリットとなる。
【0041】
・第1実施形態では充填剤38の充填範囲を変えることで、第2実施形態では充填剤38、39のヤング率を変えることで、スリットの平均ヤング率を変えていた。それ以外の態様で、スリットの平均ヤング率を変えるようにしてもよい。例えば、第1実施形態の部分充填スリットにおける充填剤38を充填していない部分に、他の部位よりもヤング率が低い充填剤39を充填する。こうした場合にも、平均ヤング率は全充填スリットの場合よりも小さい値となる。
【0042】
・触媒担体11に設けるスリットの数、電極部12の配置や構成等、電気加熱式触媒装置の構成は適宜に変更してもよい。
【符号の説明】
【0043】
10…電気加熱式触媒装置
11…触媒担体
12…電極部
30、32、34、36…スリット(第1スリット)
31、33、35、37…スリット(第2スリット)
38、39…充填剤