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特許7389108心房細動関連脳卒中の評価のためのCES-2(カルボキシルエステラーゼ-2)
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】心房細動関連脳卒中の評価のためのCES-2(カルボキシルエステラーゼ-2)
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/573 20060101AFI20231121BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALN20231121BHJP
【FI】
G01N33/573 A
C12Q1/6869 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021506920
(86)(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2019071482
(87)【国際公開番号】W WO2020030803
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】18188437.0
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(73)【特許権者】
【識別番号】503285519
【氏名又は名称】ユニベルシテイト マーストリヒト
(73)【特許権者】
【識別番号】517079054
【氏名又は名称】アカデミシュ ジーケンハウス マーストリヒト
【氏名又は名称原語表記】ACADEMISCH ZIEKENHUIS MAASTRICHT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】ディートリッヒ,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】カストナー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ロルニー,ビンツェント
(72)【発明者】
【氏名】ショッテン,ウルリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ビーンヒューズ-テレン,ウルスラ-ヘンリケ
(72)【発明者】
【氏名】ツィーグラー,アンドレ
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/024905(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/144648(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106191210(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0076786(US,A1)
【文献】国際公開第2017/116239(WO,A1)
【文献】特表2015-507205(JP,A)
【文献】国際公開第2016/145128(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
C12Q 1/6869
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者における脳卒中のリスクを予測するための指標を提供する方法であって、
a)上記被検者に由来のサンプル中における、CES-2の量を決定するステップと、
b)CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7、を含む1種以上のバイオマーカーの量を、基準量と(または複数の基準量と)比較し、それにより、脳卒中のリスクを予測するための指標を提供するステップとを含む、
方法。
【請求項2】
被検者における脳卒中のリスクを予測するための指標を提供する方法であって、
a)上記被検者に由来のサンプル中における、CES-2、および、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップと、
b)CES-2、および、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7、を含む1種以上のバイオマーカーの量を、基準量と(または複数の基準量と)比較し、それにより、脳卒中のリスクを予測するための指標を提供するステップとを含む、
方法。
【請求項3】
被検者に由来のサンプル中におけるCES-2の量が、基準量と(または複数の基準量と)比較して減少する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
さらに、前記被検者が脳卒中を患うリスクがあると特定された場合に、抗凝固療法を推奨するステップまたは抗凝固療法の強化を推奨するステップを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記被検者がヒトである、および/または前記サンプルが血液、血清または血漿である、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
CES-2、およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量が、ステップa)において決定され、ここで、上記方法が、c)ステップa)において決定される通りのナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量対ステップa)において決定される通りのCES-2の量の比を計算するステップと、前記計算された比を基準比率と比較するステップとをさらに含む、請求項に記載の方法。
【請求項7】
被検者における脳卒中のリスクを予測するための指標を提供する方法であって、
a)公知の臨床脳卒中リスクスコアを有する被検者に由来するサンプル中におけるCES-2の量を決定するステップ、
b)前記被検者の前記臨床的脳卒中リスクスコアを評価するステップ、ならびに
c)ステップa)およびb)の結果に基づいて、脳卒中の前記リスクを予測するための指標を提供するステップ、
を含む、方法。
【請求項8】
被検者における脳卒中のリスクを予測するための指標を提供する方法であって、
a)公知の臨床脳卒中リスクスコアを有する被検者に由来するサンプル中におけるCES-2およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップ、
b)前記被検者の前記臨床的脳卒中リスクスコアを評価するステップ、ならびに
c)ステップa)およびb)の結果に基づいて、脳卒中の前記リスクを予測するための指標を提供するステップ、
を含む、方法。
【請求項9】
被検者の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための指標を提供する方法であって、
a)CES-2の量を決定するステップと、
b)CES-2の量の値を、前記臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせ、それにより、前記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度が改善されるための指標が提供される
方法。
【請求項10】
被検者の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するための指標を提供する方法であって、
a)CES-2の量およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップと、
b)CES-2の量およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量の値を、前記臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせ、それにより、前記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度が改善されるための指標が提供される
方法。
【請求項11】
a)脳卒中のリスクを評価するための使用であって、被検者に由来のサンプル中における、
i)バイオマーカーCES-2、および
ii)CES-2と特異的に結合する少なくとも1種の検出剤、
CES-2の定量における使用。
【請求項12】
a)脳卒中のリスクを評価するための使用であって、被検者に由来のサンプル中における、
i)バイオマーカーCES-2、および、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカー、および、
ii)CES-2と特異的に結合する少なくとも1種の検出剤、および、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーと特異的に結合する少なくとも1種の検出剤、
前記バイオマーカーの定量における使用。
【請求項13】
脳卒中を患う被検者のリスクを予測するための、被検者に由来のサンプル中における、
i)バイオマーカーCES-2およ
ii)CES-2と特異的に結合する少なくとも1種の検出剤
CES-2の定量における、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせた使用。
【請求項14】
CES-2と特異的に結合する物質、およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーと特異的に結合する物質を含む、脳卒中のリスクを予測するための定量に用いるキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者において脳卒中のリスクを評価する方法であって、上記被検者に由来のサンプル中におけるCES-2の量を決定するステップと、CES-2の量を基準量と比較するステップとを含み、それにより、脳卒中のリスクが評価される、上記方法に関する。さらに、本発明は、心不全および/または心不全に関連する心臓の少なくとも1つの構造的または機能的異常を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中は、高所得国における障害損失生命年の原因としておよび世界中における死亡の原因として、虚血性心疾患に次いで2番目に多い。脳卒中のリスクを低減させるために、抗凝固療法は最も適切な療法であると思われる。
【0003】
心房細動(AF)は、脳卒中の重要なリスク因子である(Hart et al.,Ann Intern Med 2007;146(12):857-67;Go AS et al.JAMA 2001;285(18):2370-5)。心房細動は、不整脈を特徴とし、多くの場合、時間の経過とともに増加し得る短期間の異常な拍動から始まり、これが永続的な状態となることがある。米国では推定270~610万人、地球規模ではおよそ3300万人が、心房細動を有する(Chugh S.S.et al.,Circulation 2014;129:837-47)。
【0004】
心房細動のリスクが最も高いAF患者を評価することは、重要であり、ひいては脳卒中のリスクを軽減するために強化抗凝固療法から恩恵を受ける可能性がある(Hijazi et al.,European Heart Journal doi:10.1093/eurheartj/ehw054.2016)。
【0005】
CHADS2、CHA2DS2-VAScスコアおよびABCスコアは、心房細動患者における脳卒中のリスクを推定するための臨床予測ルールである。これらのスコアは、抗凝固療法による治療が必要かどうかを評価するために使用される。ABC脳卒中スコアには、年齢、バイオマーカー(N末端断片B型ナトリウム利尿ペプチドおよび高感度の心筋トロポニン)、および病歴(過去の脳卒中)が含まれている(Oldgren et al.,Circulation.2016;134:1697-1707を参照のこと)。
【0006】
哺乳動物のカルボキシルエステラーゼ(CES)は、多重遺伝子ファミリーを含む。それらは、α、β-ヒドロラーゼ折り畳みファミリーのメンバーであり、さまざまな哺乳動物において見られ、主としてミクロソーム酵素である(Hosokawa et al.2007;Satoh and Hosokawa 2006)。CESは、得られる代謝産物がより親水性であり、それ故、より容易に排泄されることから、概して解毒プロセスを媒介する。これらの遺伝子によってコードされる酵素は、コカインおよびヘロイン等のエステルおよびアミド結合含有薬物の加水分解を司る。それらは、長鎖脂肪酸エステルおよびチオエステルも加水分解する。
【0007】
CESは、アミノ酸配列の相同性およびCES1またはCES-2ファミリーに属すると特定されたCESの大部分に従って、5つの主要な群、CES1~5に分類され得る。カルボキシルエステラーゼ加水分解は、経口プロドラッグの開発において利用されてきた。例えば、CES1および2は、プロドラッグダビガトランエテキシラートDABEの、活性薬物代謝産物ダビガトラン、経口抗凝固薬への加水分解において役割を果たすことが記述された(Laizure et al.Drug Metab Dispos 42:201-206、February 2014)。
【0008】
CES-2は、60-kDaモノマーであり、カルボキシルエステラーゼ2、CES-2、iCE、CE-2、PCE-2、CES-2A1としても公知である。CES-2アイソザイムは、大きなアルコール基および小さなアシル基を持つ基質を認識する(Satoh and Hosokawa 2006)。
【0009】
CES-2は、小腸において主に発現される。さらに、CES-2は、数ある中でも、心臓、脳、精巣、骨格筋、結腸、脾臓、腎臓および肝臓において発現されるが、胎児組織(例えば、胎児の心臓、腎臓、脾臓および肝臓)およびがん細胞における発現は大幅に少ない。
【0010】
ヒトCES-2は、12の転写産物(スプライスバリアント)を有する。Wu et al.、(Pharmacogenetics. 2003 Jul;13(7):425-35)は、3つの異なるプロモーターを特定し、ここで、2つのプロモーターは組織特異的であり、さらなる遠位プロモーターは、多くの組織において遺伝子の低レベル発現を司る。
【0011】
しかしながら、心血管状態における、特に、心房細動、心不全および脳卒中におけるCES-2の関与は、不明のままである。
【0012】
脳卒中の予測と予防薬の選択は、満たされていない重要な臨床的ニーズである。これまで、CES-2は、患者における脳卒中を予測するためおよび抗凝固療法の効能を評価するために使用されてこなかった。
【0013】
脳卒中の予測のため、抗凝固療法の効能を評価するため、少なくとも1種の抗凝固医薬の投与に適格なまたは少なくとも1種の抗凝固医薬の投薬量を増加させることに適格な被検者を特定するため、抗凝固療法を受けている被検者をモニターするためおよび心不全を診断するための、信頼できる方法が必要である。
【0014】
本発明の根底にある技術的な課題は、上述のニーズに対応する方法の提供としてとらえることができる。この技術的な課題は、以下の特許請求の範囲および本明細書において特徴付けられる実施形態によって、解決される。
【0015】
有利なことに、本発明の研究の文脈において、被検者に由来のサンプル中における、CES-2の量および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含むバイオマーカーのうちの1種以上の量の決定は、脳卒中予測を可能にすることが分かった。
【発明の概要】
【0016】
本発明の簡単な概要
被検者における脳卒中のリスクを予測する方法であって、
a)上記被検者に由来のサンプル中における、CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップと、
b)CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7、を含む1種以上のバイオマーカーの量を、基準量と(または複数の基準量と)比較し、それにより、脳卒中のリスクを予測するステップとを含む、本発明の方法。
【0017】
本発明の方法の一実施形態では、被検者に由来のサンプル中におけるCES-2の量は、基準量と(または複数の基準量と)比較して減少する。
【0018】
本発明の方法の一実施形態では、方法は、被検者が脳卒中を患うリスクがあると特定された場合、抗凝固療法を推奨するか、または抗凝固療法の強化を推奨するステップをさらに含む。
【0019】
本発明の方法の一実施形態では、上記被検者は、心房細動を患う。
【0020】
本発明の方法の一実施形態では、上記心房細動は、発作性、持続性または恒久性の心房細動である。
【0021】
本発明の方法の一実施形態では、上記被検者は、脳卒中またはTIA(一過性虚血発作)の病歴を有する。
【0022】
本発明の方法の一実施形態では、上記被検者の年齢は、65歳以上である。さらに、上記被検者の年齢は、55歳以上であってもよい。
【0023】
本発明の方法の一実施形態では、上記被検者は、抗凝固療法を受ける。
【0024】
本発明の方法の一実施形態では、脳卒中は、心塞栓性脳卒中である。
【0025】
本発明の方法の一実施形態では、上記被検者は、ヒトである。
【0026】
本発明の方法の一実施形態では、上記サンプルは、血液、血清または血漿である。
【0027】
本発明の方法の一実施形態では、CES-2、およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量は、ステップa)において決定され、ここで、上記方法は、c)ステップa)において決定される通りのナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量対ステップa)において決定される通りのCES-2の量の比を計算するステップと、上記計算された比を基準比率と比較するステップとをさらに含む。
【0028】
本発明はさらに、被検者の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
a)公知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する被検者に由来するサンプル中におけるCES-2の量および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップと、
b)上記被検者の上記臨床的脳卒中リスクスコアを評価するステップ、ならびに
c)ステップa)およびb)の結果に基づいて、脳卒中のリスクを予測するステップを含む、方法に関する。
【0029】
本発明はさらに、被検者の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法であって、
a)CES-2の量および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップと、
b)CES-2の量および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を、上記臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせ、それにより、上記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度が改善される、方法に関する。
【0030】
本発明はさらに、被検者の抗凝固療法の効能を評価する方法であって、
a)上記被検者に由来のサンプル中における、CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップと、
b)CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を、基準量と(または複数の基準量と)比較し、それにより、脳卒中のリスクを予測するステップとを含む、方法に関する。
【0031】
本発明の方法の一実施形態では、減少した量CES-2は、抗凝固療法が効率的ではないという点で有意であり、ここで、通常または増加した量のCES-2は、抗凝固療法が有効であるという点で有意である。
【0032】
本発明はさらに、少なくとも1種の抗凝固医薬の投与に適格なまたは少なくとも1種の抗凝固医薬の投薬量を増加させることに適格な被検者を特定するための方法であって、
a)CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップと、
b)ステップa)において決定される通りの量を、基準量と比較するステップとを含み、
それにより、上記少なくとも1種の医薬の投与または増加した投薬量の上記少なくとも1種の医薬に適格な被検者が特定される、方法に関する。
【0033】
本発明はさらに、抗凝固療法を受けている被検者をモニターする方法であって、
a)上記被検者に由来のサンプル中における、CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップと、
b)CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を、基準量と(または複数の基準量と)比較し、それにより、脳卒中のリスクを予測するステップとを含む、方法に関する。
【0034】
本発明はさらに、a)脳卒中のリスクを評価するためまたはb)抗凝固療法の効能を評価するためまたはc)抗凝固療法を受けている被検者をモニターするための使用であって、被検者に由来のサンプル中における、
i)バイオマーカーCES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカー、
ii)CES-2と特異的に結合する少なくとも1種の検出剤、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーと特異的に結合する少なくとも1種の検出剤の、
使用に関する。
【0035】
本発明はさらに、脳卒中を患う被検者のリスクを予測するための、被検者に由来のサンプル中における、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせた使用であって、
i)バイオマーカーCES-2および/または
ii)CES-2と特異的に結合する少なくとも1種の検出剤の、
使用に関する。
【0036】
本発明はさらに、被検者の抗凝固療法の効能を予測するための、被検者に由来のサンプル中における使用であって、
i)バイオマーカーCES-2および/または
ii)CES-2と特異的に結合する少なくとも1種の検出剤の、
使用に関する。
【0037】
本発明は、CES-2と特異的に結合する作用物質、およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーと特異的に結合する作用物質を含むキットにさらに関する。
【0038】
一実施形態では、CES-2に特異的に結合する検出剤は、CES-2に特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
定義
上記のように、被検者の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
a)上記被検者に由来のサンプル中における、CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップと、
b)CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7、を含む1種以上のバイオマーカーの量を、基準量と(または複数の基準量と)比較し、それにより、脳卒中のリスクを予測するステップとを含む、本発明の方法。
【0040】
脳卒中の予測は、上記比較ステップ(b)の結果に基づくものとする。
【0041】
したがって、本発明の方法は、好ましくは、
a)上記被検者に由来のサンプル中における、CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップと、
b)CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7、を含む1種以上のバイオマーカーの量を、基準量と(または複数の基準量と)比較し、それにより、脳卒中のリスクを予測するステップと、
c)好ましくはステップ(b)の結果に基づいて、被検者における脳卒中のリスクを予測するステップを含む、方法である。
【0042】
本発明に従って参照される通りの方法は、前述のステップから本質的になる方法またはさらなるステップを含む方法を含む。さらに、本発明の方法は、好ましくは、エクスビボ、より好ましくはインビトロの方法である。さらに、それは、上記で明示的に述べられたものに加えて、ステップを含んでもよい。例えば、さらなるステップは、さらにマーカーを決定したり、および/または治療前のサンプルを採取したり、その方法で得られた結果を評価したりし得る。方法は、手動で行われるまたは自動化によって補助され得る。好ましくは、ステップ(a)、(b)および/または(c)は、全体的または部分的に、自動化によって、例えば、ステップ(a)における決定またはステップ(b)におけるコンピュータを実装した計算のため、適切なロボットおよび感覚的機器によって、支援されてもよい。
【0043】
当業者によって理解されるように、本発明に関連して行われる予測は、通常、試験される被検者の100%について正しいことを意図していない。この用語は、好ましくは、被検者の統計的に有意な部分に対して、正しい評価(例えば、本明細書でいう治療の診断、区別、予測、識別、または評価)を行うことができること、を必要とする。部分が統計的に有意であるかどうかは、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定などのさまざまな周知の統計評価ツールを使用して、当業者がすぐさま決定することができる。詳細は、Dowdy and Wearden、Statistics for Research、John Wiley&Sons、New York 1983において見られる。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%である。p値は、好ましくは、0.4、0.1、0.05、0.01、0.005、または0.0001である。
【0044】
本発明の方法によれば、脳卒中のリスクが予測されるものとする。「脳卒中」という用語は、当該技術分野において周知である。この用語は、好ましくは、虚血性脳卒中、特に脳虚血性脳卒中を指す。本発明の方法によって予測される脳卒中は、脳細胞への酸素の供給不足をもたらす脳またはその部分への血流の減少によって、引き起こされるものとする。特に、脳卒中は、脳細胞死によって、不可逆的な組織損傷をもたらす。脳卒中の症状は、当該技術分野において周知である。虚血性脳卒中は、主要な大脳動脈のアテローム血栓症または塞栓症によって、凝固障害または非アテローム性血管疾患によって、または全体的な血流の減少につながる心虚血によって引き起こされる可能性がある。上記虚血性脳卒中は、アテローム血栓性脳卒中、心塞栓性脳卒中および小窩性卒中からなる群から選択されることが好ましい。好ましくは、予測される脳卒中は、急性虚血性脳卒中、特に心塞栓性脳卒中である。心塞栓性脳卒中(しばしば塞栓性または血栓塞栓性脳卒中とも呼ばれる)は、心房細動によって引き起こされ得る。
【0045】
「脳卒中」という用語は、好ましくは、出血性脳卒中を含まない。被検者が、脳卒中、特に虚血性脳卒中を患うかどうかは、周知の方法によって判定することができる。さらに、脳卒中の症状は、当該技術分野において周知である。例えば、脳卒中の症状としては、顔、腕、脚、特に体の片側の突然のしびれや脱力、突然の混乱、会話や理解の障害、片目または両目の突然の見えづらさ、突然の歩行困難、めまい、バランスまたは調整の喪失などが挙げられる。
【0046】
さまざまな疾患および障害において、バイオマーカーが変化し得ることは、当該技術分野において公知である。これは、CES-2にも当てはまる。したがって、「脳卒中のリスク予測」という表現は、心房細動に関連する有害事象のリスクを予測するのに役立つ。
【0047】
本明細書でいう「被検者」は、好ましくは哺乳動物である。哺乳動物としては、家畜動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、およびウマ)、霊長類(例えば、ヒト、およびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、およびげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましくは、被検者は、ヒト被検者である。
【0048】
好ましくは、試験される被検者は、任意の年齢であり、より好ましくは、試験される被検者は、50歳以上、より好ましくは60歳以上、最も好ましくは65歳以上である。さらに、試験される被検者は、70歳以上であることが想定される。加えて、試験される被検者は、75歳以上であることが想定される。また、被検者は、50歳から90歳の間であってよい。
【0049】
さらに、上記被検者の年齢は、55歳以上であってもよい。
【0050】
本発明の方法の好ましい一実施形態では、試験される被検者は、心房細動を患う。心房細動は、発作性、持続性、または恒久性の心房細動であってもよい。したがって、被検者は、発作性、持続性または恒久性の心房細動を患ってもよい。特に、被検者は、発作性、持続性、または恒久性の心房細動を患うことが想定される。本発明の基礎となる研究において、本明細書でいうバイオマーカーの決定により、すべてのサブグループにおける脳卒中の信頼できる予測が可能になることが示されている。
【0051】
したがって、本発明の方法の一実施形態では、被検者は、発作性心房細動を患う。
【0052】
本発明の別の実施形態では、被検者は、持続性心房細動を患う。
【0053】
「心房細動」という用語は、当該技術分野において周知である。本明細書で使用される場合、この用語は、好ましくは、心房の機械的機能の結果としての悪化を伴う、非協調的な心房活動を特徴とする上室性頻拍性不整脈を指す。特に、この用語は、急速で不規則な鼓動を特徴とする異常な心臓のリズムを指す。それは、心臓の2つの上部房と関連する。正常な心臓のリズムでは、洞房結節によって生成されたインパルスが心臓全体に広がり、心筋の収縮と血液のポンピングを引き起こす。心房細動では、洞房結節の規則的な電気インパルスが、不規則な心拍を引き起こす、無秩序で急速な電気インパルスに置き換えられる。心房細動の症状は、心臓の動悸、失神、息切れ、または胸痛である。ただし、ほとんどのエピソードには症状がない。心電図では、心房細動は、振幅、形状、およびタイミングが変化する急速な振動または細動波による均一なP波の置換を特徴とし、心房室伝導が正常な場合に、不規則に頻繁に心室応答が速くなることに関連する。
【0054】
The American College of Cardiology(ACC)、American Heart Association(AHA)、およびthe European Society of Cardiology(ESC)は、次の分類システムを提案する。(これとともに、その全体が参考として組み込まれるFuster(2006)Circulation 114(7):e257-354を参照のこと、例えば、書類中図3を参照のこと):最初に検出されたAF、発作性AF、持続性AF、および恒久性AF。
【0055】
AFがあるすべての人々は、病初では、最初に検出されたAFと呼ばれるカテゴリに属する。ただし、被検者は、以前に検出されなかったエピソードを持っている場合と持っていない場合があってもよい。AFが1年以上持続した場合、被検者は恒久性AFを患う。特に、洞調律へ戻る変換は、行われない(または医学的介入によってのみ)。AFが7日を超えて続く場合、被検者は持続性AFを患う。被検者が、心房細動を止めるには、薬理学的または電気的な介入が必要な場合がある。したがって、持続性AFはエピソードで発生するが、不整脈は、通常自発的に(つまり、医学的介入なしで)洞調律へ戻る変換はされない。発作性心房細動とは、好ましくは、心房細動の断続的なエピソードを指し、7日以上持続せずに、自然に(すなわち、医学的介入なしで)終了する心房細動である。発作性AFのほとんどの場合、エピソードが続くのは、24時間未満である。したがって、発作性心房細動は自然に終了するが、持続性心房細動は自然には終了せず、止めるために電気的または薬理的心臓除細動、またはアブレーション処置(Fuster(2006)Circulation 114(7):e257-354)などの他の処置が必要である。「発作性心房細動」という用語は、48時間未満、より好ましくは24時間未満、最も好ましくは12時間未満で自然に終了するAFのエピソードとして定義される。持続性および発作性AFのどちらも再発する可能性がある。
【0056】
上記のように、試験される被検者は、発作性、持続性または恒久性の心房細動を患うことが好ましい。
【0057】
さらに、サンプルを採取する際に、その時点で被検者が心房細動のエピソードを患うことが想定される。これは、例えば、被検者が恒久性または持続性AFを患う場合である。
【0058】
または、サンプルを採取する際に、その時点で被検者が心房細動のエピソードを患わないことが想定される。これは、例えば、被検者が発作性AFを患う場合である。したがって、被検者は、サンプルを採取する際に、正常洞調律を有するものとする、すなわち洞調律にあるものとする。
【0059】
さらに、心房細動は、被検者において以前に診断されていると考えられる。したがって、心房細動は、診断された、すなわち検出された心房細動である。
【0060】
実施例に示すように、心不全の患者ではリスクの予測が可能である。
【0061】
したがって、試験される被検者は、心不全を患ってもよい。本発明の方法による「心不全」という用語は、好ましくは、左心室駆出率が減少した心不全に関する。
【0062】
さらに、心不全の病歴がない被検者では、リスクの予測が可能であることが示される。したがって、試験される被検者は、好ましくは心不全を患わない。特に、試験される被検者は、NYHAクラスII、III、およびIVにかかる心不全を患わない。
【0063】
特に好ましい実施形態では、被検者は、心不全を患わないが、心房細動を患う被検者である。
【0064】
有利なことに、本発明の方法の基礎となる研究では、被検者が抗凝固療法、すなわち脳卒中のリスクを減らすことを目的とした治療を受けていても、信頼性の高い予測が可能であることが示されている。(治療を受けた患者の約70%は、経口抗凝固薬と、約30%のビタミンK拮抗薬、例えばワルファリンやジクマロールが、投与された)。驚くべきことに、CES-2の量を決定することで、集団またはリスク患者(すなわち、抗凝固療法を受けている心房細動の患者)内で区別できることが示されており、脳卒中のリスク低下とリスク上昇を確実に区別できることが示されている。脳卒中のリスクが増加したAF患者には、抗凝固療法の強化が効果的である可能性がある。さらに、脳卒中のリスクが低下したAF患者は、過剰治療される可能性があり、そうすると強度の低い抗凝固療法が効果的である可能性がある。(その結果、例えば、医療費の削減につながる)。
【0065】
このように、本発明によれば、被検者は抗凝固療法を受けることが好ましい。
【0066】
上記のように、抗凝固療法は、好ましくは、上記被検者における抗凝固のリスクを低減することを目的とする療法である。より好ましくは、抗凝固療法は、少なくとも1種の抗凝固剤の投与である。少なくとも1種の抗凝固剤を投与することは、血液の凝固および関連する脳卒中を抑制または防止することを目的とする。好ましい一実施形態では、少なくとも1種の抗凝固剤は、ヘパリン、クマリン誘導体(すなわち、ビタミンK拮抗薬)、特にワルファリンまたはジクマロール、経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバンまたはアピキサバン、組織因子経路阻害剤(TFPI)、アンチトロンビンIII、第IXa因子阻害剤、第Xa因子阻害剤、第Va因子と第VIIIa因子の阻害剤、およびトロンビン阻害剤(抗IIa型)からなる群から選択される。したがって、被検者は上記の少なくともいずれか1種の薬剤を服用することが想定される。
【0067】
好ましい実施形態では、上記抗凝固剤は、ワルファリンまたはジクマロールなどのビタミンK拮抗薬である。ワルファリンやジクマロールなどのビタミンK拮抗薬は、安価だが、不便で扱いにくく、また治療範囲において時間変動を伴う信頼性の低い治療が多いため、患者のコンプライアンスを向上する必要がある。NOAC(新しい経口抗凝固剤)は、直接第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン、ダレキサバン、エドキサバン)、直接トロンビン阻害剤(ダビガトラン)およびPAR-1拮抗薬(ボラパクサル、アトパキサール)を含む。
【0068】
別の好ましい実施形態では、抗凝固剤および経口抗凝固剤、特にアピキサバン、リバーロキサバン、ダレキサバン、エドキサバン、ダビガトラン、ボラパクサル、またはアトパキサール。
【0069】
したがって、試験される被検者は、試験時(すなわち、サンプルを受け取る時)に、経口抗凝固剤またはビタミンK拮抗薬による治療を受けている可能性がある。
【0070】
好ましい一実施形態では、被検者の脳卒中のリスクを予測する方法は、上記被検者が脳卒中を患うリスクがあると特定された場合にi)、抗凝固療法を推奨するステップまたはii)抗凝固療法の強化を推奨するステップをさらに含む。好ましい一実施形態では、被検者の脳卒中のリスクを予測する方法は、被検者が脳卒中を患うリスクがあると特定された場合、i)抗凝固療法を開始するステップ、またはii)抗凝固療法を強化するステップをさらに含む。
【0071】
本明細書で使用される「推奨する」という用語は、被検者に適用できる治療法の提案を確立することを意味する。しかしながら、実際の治療を適用することは、どんなものであれ、この用語に含まれないことを理解されたい。推奨される治療は、本発明の方法によって提供される結果に依存する。
【0072】
特に、以下が適用される。
【0073】
試験される被検者が抗凝固療法を受けていない場合、被検者が脳卒中を患うリスクがあると特定されていれば、抗凝固療法の開始が推奨される。したがって、抗凝固療法を開始するものとする。
【0074】
試験される被検者が既に抗凝固療法を受けている場合、被検者が脳卒中を患うリスクがあると特定されていれば、抗凝固療法の強化が推奨される。したがって、抗凝固療法を強化するものとする。
【0075】
好ましい一実施形態では、抗凝固療法は、抗凝固剤の投与量、すなわち現在投与されている凝固剤の投与量を増やすことにより強化される。
【0076】
特に好ましい一実施形態では、現在投与されている抗凝固剤のより効果的な抗凝固剤への置き換えを増やすことにより、抗凝固療法が強化される。したがって、抗凝固剤の置き換えが推奨される。
【0077】
本発明の方法は、被検者に由来の試料中における、CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定することによって、ならびに、CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7からなる1種以上のバイオマーカーの量を、基準量と(または複数の基準量と)比較することによって、被検者の抗凝固療法の効能を評価するために使用することができ、それにより、脳卒中のリスクを評価する。
【0078】
本発明の好ましい実施形態では、減少した量CES-2は、抗凝固療法が効率的ではないという点で有意であり、ここで、通常または増加した量のCES-2は、抗凝固療法が有効であるという点で有意である。
【0079】
試験される被検者が抗凝固療法を受けており、減少した量のCES-2を有する場合、抗凝固の強化が推奨される。したがって、抗凝固療法が強化されるものとする、または抗凝固剤の置き換えが推奨される。
【0080】
本発明はさらに、少なくとも1種の抗凝固医薬の投与に適格なまたは少なくとも1種の抗凝固医薬の投薬量を増加させることに適格な被検者を特定するための方法であって、a)CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップと、b)ステップa)において決定される通りの量を、基準量と比較するステップとを含み、それにより、上記少なくとも1種の医薬の投与または増加した投薬量の上記少なくとも1種の医薬に適格な被検者が特定される、方法に関する。
【0081】
本発明はさらに、抗凝固療法を受けている被検者をモニターする方法であって、a)被検者に由来のサンプル中における、CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップと、b)CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を、基準量と(または複数の基準量と)比較し、それにより、脳卒中のリスクを予測するステップとを含む、方法に関する。
【0082】
したがって、本発明の方法を行うことにより、より緊密なモニタリングを、特に抗凝固療法に関して(および、したがって、より緊密な観察を)必要とする被検者を特定することができる。「より緊密なモニタリング」は、好ましくは、本明細書でいうバイオマーカー、すなわち、CES-2およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーが、本発明の方法のステップa)において参照されるサンプルから少し間隔を置いた後で、被検者から得られる少なくとも1種のさらなるサンプルにおいて決定されることを意味する。
【0083】
Hijazi at al,Lancet 2016 387、2302-2311、(図4)に示されているように、高リスク患者のより良い予防は、ビタミンK拮抗薬ワルファリンと比較して経口抗凝固剤アピキサバンで達成されることが記載されている。
【0084】
したがって、試験される被検者は、ワルファリンまたはジクマロールなどのビタミンK拮抗薬で治療される被検者であることが想定される。被検者が脳卒中を患うリスクがあると(本発明の方法により)特定された場合、ビタミンK拮抗薬を経口抗凝固剤、特にダビガトラン、リバーロキサバンまたはアピキサバンによる置き換えが推奨される。ビタミンK拮抗薬による治療が中止されることにより、経口抗凝固薬による治療が開始される。
【0085】
本発明の方法の好ましい一実施形態では、被検者は、脳卒中またはTIA(一過性脳虚血発作)の病歴を有する。特に、被検者は脳卒中の病歴を有する。
【0086】
したがって、この被検者は、本発明の方法を実施する前に(または、もっと正確に言うと、試験されるサンプルを採取する前に)、脳卒中またはTIAを患っていたことが想定される。被検者は、過去に脳卒中またはTIAを患っていたことがあるものとするが、被検者は、試験されるサンプルを採取する時点では、脳卒中およびTIAを患わないものとする)。
【0087】
上記のように、バイオマーカーのCES-2は、心房細動以外のさまざまな疾患や障害において、変化する可能性がある。本発明の一実施形態では、被検者がこのような病気や障害を患わないことが想定される。
【0088】
本発明の方法は、より多くの集団の被検者のスクリーニングにも使用できる。したがって、脳卒中のリスクに関して、少なくとも100人の被検者、特に少なくとも1000人の被検者が評価されることが想定される。したがって、バイオマーカーの量は、被検者の少なくとも100人から、または特に1000人以上からのサンプルにおいて、判定される。さらに、少なくとも1万人の被検者が評価されることが想定される。
【0089】
「サンプル」という用語は、体液のサンプル、分離された細胞のサンプル、または組織や臓器からのサンプルを指す。体液のサンプルは、周知の技術によって採取することができ、また血液、血漿、血清、尿、リンパ液、痰、腹水、またはその他の体分泌物もしくはその誘導体のサンプルが含まれる。組織または臓器のサンプルは、例えば生検によって、任意の組織または臓器から採取してもよい。分離された細胞は、体液または組織もしくは器官から、遠心分離または細胞選別などの分離技術によって、採取してもよい。例えば、バイオマーカーを発現または生成する細胞、組織、臓器から、細胞、組織、臓器のサンプルを採取してもよい。サンプルは、凍結、新鮮、固定(例えば、ホルマリン固定)、遠心分離および/または包埋(例えば、パラフィン包埋)などであってよい。もちろん、細胞サンプルは、サンプル中のバイオマーカーの量を評価する前に、さまざまな周知の収集後の分取および保管技術(例えば、核酸および/またはタンパク質の抽出、固定、保管、凍結、限外濾過、濃縮、蒸発、遠心分離など)を実施され得る。
【0090】
本発明の好ましい一実施形態では、サンプルは、血液(すなわち、全血)、血清または血漿サンプルである。血清とは、血液が血餅になった後に採取される全血の液体分画のことである。血清を採取するためには、遠心分離によって血餅を除去して、それから上清が収集される。血漿は、血の無細胞流動部分である。血漿サンプルを得るために、全血は、抗凝固剤処理されたチューブ(例えば、クエン酸塩処理またはEDTA処理されたチューブ)で収集される。遠心分離により細胞をサンプルから除去し、それから上清(すなわち、血漿サンプル)を採取する。
【0091】
好ましくは、本明細書で使用される「リスクを予測する」という用語は、被検者が脳卒中を患うであろう確率を評価することを指す。通常は、被検者が脳卒中を患うリスクがある(また、それ故にリスクが高い)か、リスクがない(また、それ故にリスクが低い)かどうかが予測される。したがって、本発明の方法は、脳卒中のリスクがある被検者と脳卒中のリスクがない被検者とを区別することを可能にする。さらに、本発明の方法は、脳卒中のリスクが低い、平均、および高い、の区別を可能にすることが想定される。
【0092】
上記のように、特定の時間枠内に脳卒中を患うリスク(および確率)が予測されるものとする。本発明によれば、短期リスクまたは長期リスクが予測されることが想定される。例えば、1週間以内または1カ月以内に脳卒中を患うリスクが予測される。本発明の基礎となる研究で観察された最短期間は11日間であった。被検者は、減少したレベルのCES-2を有していた。これは、長期的な予測だけでなく、短期的な予測も可能であることを示すものである。
【0093】
本発明の一実施形態では、予測ウィンドウは、少なくとも約3カ月、少なくとも約6カ月、または少なくとも約1年の期間である。別の好ましい一実施形態では、予測ウィンドウは、約5年の期間である。さらに、予測ウィンドウは、約6年の期間であってもよい(例えば、脳卒中の予測において)。
【0094】
一実施形態では、予測ウィンドウは、最大10年の期間である。したがって、10年以内に脳卒中を患うリスクが予測される。
【0095】
別の実施形態では、予測ウィンドウは、最大7年の期間である。したがって、7年以内に脳卒中を患うリスクが予測される。
【0096】
別の実施形態では、予測ウィンドウは、最大3年の期間である。したがって、3年以内に脳卒中を患うリスクが予測される。
【0097】
また、予測ウィンドウは、1~10年の期間であることが想定される。
【0098】
好ましくは、予測ウィンドウは、本発明の方法の完了から計算される。より好ましくは、上記予測ウィンドウは、試験されるサンプルが採取された時点から計算される。
【0099】
上記のように、「脳卒中のリスクを予測する」という表現は、本発明の方法によって分析される被検者が、脳卒中を患うリスクがある被検者のグループ、または脳卒中のリスクがない被検者のグループのいずれかに割り当てられることを意味する。このように、被検者が脳卒中を患うリスクがあるか否かが予測される。本明細書で使用される「脳卒中を患うリスクがある被検者」は、好ましくは脳卒中を患うリスクが高い(好ましくは、予測ウィンドウ内)。好ましくは、上記リスクは、被検者のコホートにおける平均リスクと比較して上昇する。本明細書で使用される場合、「脳卒中を患うリスクがない被検者」は、好ましくは、脳卒中を患うリスクが低い(好ましくは予測ウィンドウ内)。好ましくは、上記リスクは、被検者のコホートにおける平均リスクと比較して低下する。脳卒中を患うリスクがある被検者は、好ましくは5年の予測ウィンドウ内で、少なくとも7%、より好ましくは少なくとも10%の脳卒中を患うリスクがある。脳卒中を患うリスクがない被検者は、好ましくは5年の予測ウィンドウ内で、好ましくは5%未満、より好ましくは3%未満の脳卒中を患うリスクがある。
【0100】
バイオマーカーカルボキシルエステラーゼ-2(略称CES-2)は、当該技術分野において周知である。バイオマーカーは、しばしば、CES-2、iCE、CE-2、PCE-2、CES-2A1とも呼ばれる。CES-2は、小腸において主に発現される。さらに、CES-2は、数ある中でも、心臓、脳、精巣、骨格筋、結腸、脾臓、腎臓および肝臓において発現される。
【0101】
本発明の好ましい実施形態では、ヒトCES-2ポリペプチドの量は、被検者に由来のサンプル中において決定される。ヒトCES-2ポリペプチドの配列は、当該技術分野において周知であり、例えば、Uniprotデータベースを介して評価され得る、項目(UniProtKB-O00748(EST2_HUMAN)を参照のこと。
【0102】
ヒトCES-2遺伝子は、染色体16に位置する。CES-2は、60kDa前後のポリペプチドのタンパク質であり、選択的スプライシングは、同じタンパク質をコードする複数のバリアントをもたらす。遺伝子の12の転写産物(スプライスバリアント)、130のオルソログ、12のパラログおよび4の表現型が記述された。さらに、CES-2は、4つの表現型に関連する。CES-2は、12(15)のエクソンを含有する。(Ensembl release 93、http://www.ensembl.org)。
【0103】
Wu et al.、(Pharmacogenetics. 2003 Jul;13(7):425-35)は、3つの異なるプロモーターを特定し、ここで、2つのプロモーターは組織特異的であり、さらなる遠位プロモーターは、多くの組織において遺伝子の低レベル発現を司る。
【0104】
CES-2遺伝子は、12の異なるアイソフォームに転写され、それらの半分のみが、タンパク質コードしている(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/8824#reference-sequences)。
【0105】
好ましい実施形態では、CES-2転写産物のアイソフォーム1の量が決定される、すなわち、アイソフォーム1は、RefSeq受託番号NP_003860.2で示される通りの623アミノ酸の配列を有する。
【0106】
好ましい実施形態では、CES-2転写産物のアイソフォーム2の量が決定される、すなわち、アイソフォーム2は、RefSeq受託番号NP_932327.1で示される通りの607アミノ酸の配列を有する。
【0107】
好ましい実施形態では、CES-2転写産物のアイソフォーム3の量が決定される、すなわち、アイソフォーム3は、RefSeq受託番号XP_016879307.1で示される通りの450アミノ酸の配列を有する。
【0108】
好ましい実施形態では、CES-2転写産物のアイソフォーム4の量が決定される、すなわち、アイソフォーム4は、RefSeq受託番号XP_011521723.1で示される通りの466アミノ酸の配列を有する。
【0109】
別の好ましい実施形態では、CES-2転写産物のアイソフォーム1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11および12、すなわち、全CES-2の量が決定される。
【0110】
例えば、CES-2の量は、CES-2ポリペプチドのアミノ酸に対するモノクローナル抗体(例えば、マウス抗体)を用いておよび/またはヤギポリクローナル抗体を用いて決定され得る。
【0111】
別の好ましい実施形態では、CES-2は、ナトリウム利尿ペプチドとおよび/またはESM1と組み合わせて決定される。
【0112】
「ナトリウム利尿ペプチド」という用語は、心房ナトリウム利尿ペプチド(ANP)型および脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP)型ペプチドを含む。したがって、本発明にかかるナトリウム利尿ペプチドは、ANP型およびBNP型ペプチドならびにそれらのバリアントを含む(例えば、Bonow RO.et al.,Circulation 1996;93:1946-1950を参照のこと)。
【0113】
ANP型ペプチドは、プレプロANP、プロANP、NT-プロANPおよびANPを含む。
【0114】
BNP型ペプチドは、プレプロBNP、プロBNP、NT-プロBNPおよびBNPを含む。
【0115】
プレプロペプチド(プレプロBNPの場合は134アミノ酸)は、短シグナルペプチドを含み、これは、酵素的に切断されてプロペプチドを放出する(プロBNPの場合は108アミノ酸)。プロペプチドはさらに、N末端プロペプチド(NT-プロペプチド、NT-プロBNPの場合は76アミノ酸)および活性ホルモン(BNPの場合は32アミノ酸、ANPの場合は28アミノ酸)に切断される。
【0116】
本発明にかかる好ましいナトリウム利尿ペプチドは、NT-プロANP、ANP、NT-プロBNP、BNPである。ANPおよびBNPは活性ホルモンであり、それらのそれぞれの不活性対応物、NT-プロANPおよびNT-プロBNPよりも短い半減期を有する。BNPは血液中で代謝されるのに対し、NT-プロBNPはインタクトな分子として血液中を循環し、そのため腎臓から排泄される。
【0117】
事前分析は、NT-プロBNPを用いてより強固なものとなり、サンプルの中央研究所への簡単な輸送を可能にする(Mueller T,Gegenhuber A,Dieplinger B,Poelz W,Haltmayer M.Long-term stability of endogenous B-type natriuretic peptide(BNP)and amino terminal proBNP(NT-proBNP)in frozen plasma samples.Clin Chem Lab Med 2004;42:942-4.)。血液サンプルは、室温で数日間にわたって保存され得るか、または回収損失なしに郵送もしくは出荷されてもよい。対照的に、室温または4℃における48時間にわたるBNPの保存は、少なくとも20%の濃度損失をもたらす(Mueller T,Gegenhuber A,et al.,Clin Chem Lab Med 2004;42:942-4;Wu A H,Packer M,Smith A,Bijou R,Fink D,Mair J,Wallentin L,Johnston N,Feldcamp C S,Haverstick D M,Ahnadi C E,Grant A,Despres N,Bluestein B,Ghani F.Analytical and clinical evaluation of the Bayer ADVIA Centaur automated B-type natriuretic peptide assay in patients with heart failure:a multisite study.Clin Chem 2004;50:867-73.)。したがって、時間経過または所望の特性に応じて、ナトリウム利尿ペプチドの活性または不活性形態の測定のいずれかが有利となり得る。
【0118】
本発明にかかる最も好ましいナトリウム利尿ペプチドは、NT-プロBNPおよびBNP、特にNT-プロBNPである。上記で簡潔に論じた通り、本発明に従って参照される通りのヒトNT-プロBNPは、ヒトNT-プロBNP分子のN-末端部に対応する長さ76アミノ酸を好ましくは含む、ポリペプチドである。ヒトBNPおよびNT-プロBNPの構造は、先行技術、例えば、国際公開第02/089657号パンフレット、国際公開第02/083913号パンフレット、およびBonow RO.Et al.,New Insights into the cardiac natriuretic peptides.Circulation 1996;93:1946-1950において既に詳細に記述されている。好ましくは、ヒトNT-プロBNPは、本明細書において使用される場合、欧州特許第0648228B1号明細書において開示されているヒトNT-プロBNPである。
【0119】
「ESM1」という用語は、エンドカンとも称され、20kDaの成熟ポリペプチドおよび30kDaのO-結合型グリカン鎖ならびにそれらのバリアントから構成されるプロテオグリカンである(Bechard D et al.,J Biol Chem 2001;276(51):48341-48349)。
【0120】
本発明の好ましい実施形態では、ヒトESM-1ポリペプチドの量は、被検者に由来のサンプル中において決定される。ヒトESM-1ポリペプチドの配列は、当該技術分野において周知である(例えば、Lassale P.et al.,J.Biol.Chem.1996;271:20458-20464を参照のこと、およびUniprotデータベースを介して評価され得る、項目Q9NQ30(ESM1_HUMAN)を参照のこと)。ESM-1の2つのアイソフォームは、選択的スプライシングによって産生され、アイソフォーム1(Uniprot 識別子Q9NQ30-1を有する)およびアイソフォーム2(Uniprot識別子Q9NQ30-2を有する)である。アイソフォーム1は、184アミノ酸の長さを有する。アイソフォーム2において、アイソフォーム1のアミノ酸101~150は欠損している。アミノ酸1~19は、シグナルペプチドを形成する(これは切断されるかもしれない)。
【0121】
好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム1の量が決定される、すなわち、アイソフォーム1は、UniProt受託番号Q9NQ30-1で示される通りの配列を有する。
【0122】
別の好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム2の量が決定される、すなわち、アイソフォーム2は、UniProt受託番号Q9NQ30-2で示される通りの配列を有する。
【0123】
別の好ましい実施形態では、ESM-1ポリペプチドのアイソフォーム1および2、すなわち、全ESM-1の量が決定される。
【0124】
例えば、ESM-1の量は、ESM-1ポリペプチドの85~184アミノ酸に対するモノクローナル抗体(例えば、マウス抗体)を用いておよび/またはヤギポリクローナル抗体を用いて決定され得る。
【0125】
バイオマーカーであるアンジオポエチン-2(「Ang-2」と略され、しばしばANGPT2とも呼ばれる)は、当該技術分野において周知である。これは、天然に存在するAng-1とTIE2の両方に対する拮抗薬である(例えば、Maisonpierre et al.,Science 277(1997)55-60を参照のこと)。タンパク質は、ANG-1の不存在下で、TEK/TIE2のチロシンのリン酸化を誘導できる。VEGFなどの血管新生誘発物質が存在しない場合、ANG2を介した細胞マトリックス接触の緩みにより、結果として生じる血管退縮を伴う内皮細胞アポトーシスが誘発されることがある。VEGFと連携して、内皮細胞の遊走と増殖を促進することがあり、それ故に許容的な血管新生シグナルとして機能する。ヒトのアンジオポエチンの配列は、当該技術分野において周知である。Uniprotは、アンジオポエチン-2の3つのアイソフォームを収載する:アイソフォーム1(Uniprot識別子:O15123-1)、アイソフォーム2(識別子:O15123-2)およびアイソフォーム3(O15123-3)。好ましい一実施形態では、アンジオポエチン-2の総量が決定される。この総量は、好ましくは複合型および遊離型のアンジオポエチン-2の量の合計である。
【0126】
IGFBP-7(インスリン様増殖因子結合タンパク質7)は、内皮細胞、血管平滑筋細胞、線維芽細胞、上皮細胞から分泌されることが知られている30kDaのモジュラー糖タンパク質である(Ono,Y.,et al、Biochem Biophys Res Comm 202(1994)1490-1496)。好ましくは、「IGFBP-7」という用語は、ヒトIGFBP-7を指す。タンパク質の配列は、当該技術分野で周知であり、例えば、UniProt(Q16270、IBP7 HUMAN)、またはGenBank(NP 001240764.1)を介してアクセスできる。バイオマーカーのIGFBP-7の詳細な定義は、例えば、国際公開第2008/089994号パンフレットに提供されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。IGFBP-7には2つのアイソフォーム、アイソフォーム1および2があり、これらは選択的スプライシングによって生成される。本発明の一実施形態では、両方のアイソフォームの総量が測定される(配列については、UniProtデータベースエントリ(Q16270-1およびQ16270-2)を参照のこと)。
【0127】
本明細書でいうバイオマーカー(例えば、CES-2またはナトリウム利尿ペプチド)の量を「決定する」という用語は、バイオマーカーの定量化を指し、例えば、本明細書の他の箇所に記載されている適切な検出方法を使用して、サンプル中のバイオマーカーのレベルを測定することである。「測定する」および「決定する」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0128】
一実施形態では、バイオマーカーの量は、サンプルをバイオマーカーと特異的に結合する作用物質と接触させ、それにより作用物質と上記バイオマーカーとの間に複合体を形成し、形成された複合体の量を検出し、それから上記バイオマーカーの量を測定することにより、決定される。
【0129】
本明細書でいうバイオマーカー(CES-2など)は、当該技術分野で一般的に知られている方法を使用して検出することができる。検出方法は、一般に、サンプル中のバイオマーカーの量を定量化する方法(定量的方法)を包含する。以下の方法のどれがバイオマーカーの定性的および/または定量的検出に適しているかは、当業者に一般に知られている。サンプルは、例えば、ウエスタン法およびELISA、RIA、蛍光および発光ベースの免疫学的検定法のような免疫学的検定法、ならびに市販されている近接拡張アッセイを使用して、タンパク質について簡便にアッセイすることができる。バイオマーカーを検出するためのさらに適切な方法は、ペプチドまたはポリペプチドに特異的な物理的または化学的特性、例えば、その正確な分子量またはNMRスペクトルなどを測定することを含む。上記方法は、例えば、バイオセンサー、免疫学的検定法と連結した光学装置、バイオチップ、分析装置、例えば質量分析計、NMR分析器、またはクロマトグラフィー装置を含む。さらに、方法には、マイクロプレートELISAベースの方法、完全自動化またはロボット免疫学的検定(Elecsys(商標)アナライザーなどで利用可能)、CBA(酵素的Cobalt Binding Assay、Roche-Hitachi(商標)アナライザーなどで利用可能)、およびラテックス凝集アッセイ(例えば、Roche-Hitachi(商標)アナライザーで使用可能)が含まれる。
【0130】
本明細書でいうバイオマーカータンパク質の検出については、そのようなアッセイ形式を使用する幅広い免疫学的測定技術が利用可能であり、例えば、米国特許第4,016,043号明細書、第4,424,279号明細書、および第4,018,653号明細書を参照されたい。これらは、従来の競合結合アッセイだけでなく、非競合タイプの1部位および2部位または「サンドイッチ」アッセイの両方を含む。これらのアッセイは、標識された抗体の標的バイオマーカーへの直接結合も含む。
【0131】
電気化学発光標識を用いる方法は、周知である。そのような方法は、特殊な金属錯体の能力を利用して、酸化によって、励起状態となり、そこから基底状態へ減衰して、電気化学発光の放出を得る。審査においては、Richter,M.M.,Chem.Rev.2004;104:3003-3036を参照のこと。
【0132】
一実施形態において、バイオマーカーの量を測定するのに使用される検出抗体(またはその抗原結合断片)は、ルテニウム化(ruthenylated)またはイリジウム化(iridinylated)されている。したがって、抗体(またはその抗原結合断片)は、ルテニウム標識を含むものとする。一実施形態において、上記ルテニウム標識は、ビピリジン-ルテニウム(II)錯体である。あるいは、抗体(またはその抗原結合断片)は、イリジウム標識を含むものとする。一実施形態において、上記イリジウム標識は、国際公開第2012/107419号パンフレットで開示される錯体である。
【0133】
CES-2の決定のためのサンドイッチアッセイの実施形態では、アッセイは、(捕捉抗体として)CES-2に特異的に結合するビオチン化された第1のモノクローナル抗体、および検出抗体としてCES-2と特異的に結合するルテニウム化された第2のモノクローナル抗体のF(ab’)2-断片を含む。2種の抗体は、サンプル中、CES-2とサンドイッチ免疫学的測定複合体を形成する。
【0134】
ナトリウム利尿ペプチドの決定のためのサンドイッチアッセイの実施形態では、アッセイは、(捕捉抗体として)ナトリウム利尿ペプチドに特異的に結合するビオチン化された第1のモノクローナル抗体および検出抗体としてナトリウム利尿ペプチドと特異的に結合するルテニウム化された第2のモノクローナル抗体のF(ab’)2-断片を含む。2種の抗体は、サンプル中、ナトリウム利尿ペプチドとサンドイッチ免疫学的測定複合体を形成する。
【0135】
ポリペプチド(例えば、CES-2またはナトリウム利尿ペプチドナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7)の量を測定することは、好ましくは、(a)ポリペプチドを上記ポリペプチドと特異的に結合する薬剤と接触させるステップ、(b)(任意選択で)結合していない薬剤を除去するステップ、(c)結合した結合剤、すなわちステップ(a)で形成された薬剤の複合体の量を測定するステップ、を含んでよい。好ましい実施形態によれば、上記接触させるステップ、除去するステップおよび測定するステップは、分析装置ユニットにより実施してもよい。一部の実施形態によれば、上記ステップは、上記システムの単一の分析装置ユニット、または互いに作動可能に連絡した2つ以上の分析装置ユニットにより実施してもよい。例えば、特定の実施形態によれば、本明細書で開示される上記システムは、上記接触させるステップおよび除去するステップを実施するための第1の分析装置ユニット、ならびに上記測定するステップを実施する、輸送ユニット(例えば、ロボットアーム)により、上記第1の分析装置ユニットに作動可能に接続された第2の分析装置ユニットを含んでよい。
【0136】
バイオマーカーと特異的に結合する薬剤(本明細書では「結合剤」とも呼ばれる)は、結合した薬剤の検出および測定を可能にする標識に、共有結合または非共有結合をしてよい。標識化は、直接または間接の方法により行ってもよい。直接標識化は、標識を結合剤に直接的に(共有結合または非共有結合により)結合させることによって行われる。間接標識化は、第2の結合剤を第1の結合剤に(共有結合または非共有結合により)結合させることによって行われる。第2の結合剤は、第1の結合剤に特異的に結合するものとする。上記第2の結合剤は、適切な標識と結合する、および/または第2の結合剤に結合する第3の結合剤の標的(受容体)となり得る。好適な第2の、およびより高次の結合剤は、抗体、二次抗体、および周知のストレプトアビジン-ビオチン系(Vector Laboratories,Inc.)を含んでよい。結合剤または基質は、当該技術分野で公知の1つまたは複数のタグで「タグ付け」されていてもよい。そうすることで、このようなタグは、より高次の結合剤の標的となり得る。好適なタグとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン(digoxygenin)、His-タグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc-タグ、インフルエンザAウイルス赤血球凝集素(HA)、マルトース結合タンパク質などが挙げられる。ペプチドまたはポリペプチドの場合、タグは、好ましくはN末端および/またはC末端にある。好適な標識は、適切な検出方法で検出可能な任意の標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム錯体、イリジウム錯体、酵素的に活性な標識、放射性標識、磁気標識(「例えば磁気ビーズ」、常磁性および超常磁性標識を含む)、および蛍光標識が挙げられる。酵素的に活性な標識としては、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびそれらの誘導体が挙げられる。検出のための好適な基質としては、ジアミノベンジジン(DAB)、3,3’-5,5’-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP(Roche Diagnosticsから既成品の保存溶液として入手可能な4-ニトロブルーテトラゾリウム塩化物および5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-リン酸塩)、CDP-Star(商標)(Amersham Bio-sciences)、ECF(商標)(Amersham Biosciences)が挙げられる。適切な酵素-基質の組合せにより、着色された反応産物、蛍光または化学発光が生じてもよく、これは、当該技術分野で公知の方法に従って(例えば感光膜または適切なカメラシステムを使用して)、決定することができる。酵素反応を測定することについては、上記の基準が同様に適用される。典型的な蛍光標識としては、蛍光タンパク質(例えば、GFPおよびその誘導体)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびAlexa色素(例えばAlexa568)が挙げられる。さらなる蛍光標識が、例えばMolecular Probes(オレゴン州)から入手可能である。また、蛍光標識としての量子ドットの使用が、想到される。放射性標識は、公知かつ好適な、例えば感光膜またはホスホイメージャー(phosphor imager)などの任意の方法により検出され得る。
【0137】
ポリペプチドの量はまた、好ましくは、以下の通り測定することもできる:(a)本明細書の別の箇所で記載されるようなポリペプチド用の結合剤を含む固体支持体を、ペプチドまたはポリペプチドを含むサンプルと接触させること、および(b)支持体に結合したペプチドまたはポリ-ペプチドの量を測定すること。支持体を製造するための物質は、当該技術分野で周知であり、とりわけ、市販のカラム物質、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンチップおよび表面、ニトロセルロースストリップ、メンブレン、シート、デュラサイト(duracyte)、反応トレイのウェルおよび壁、プラスチックチューブなどが挙げられる。
【0138】
さらなる一態様では、結合剤と少なくとも1種のマーカーとの間で形成された複合体から、形成された複合体の量の測定前に、サンプルが除去される。したがって、一態様では、結合剤は固体支持体に固定されてもよい。さらなる態様では、洗浄溶液を使用することによって、固体支持体上で形成された複合体からサンプルが除去され得る。
【0139】
「サンドイッチアッセイ」は、最も有用かつ通常使用されるアッセイに含まれ、サンドイッチアッセイ技術のいくつかの変形形態を包含する。簡潔に言うと、典型的なアッセイでは、未標識の(捕捉)結合剤が固定化されている、または固体基質上に固定化され得る、それから試験されるサンプルを、捕捉結合剤との接触にいたらせることができる。結合剤-バイオマーカー複合体を形成させるのに十分な期間のため、適切なインキュベート期間の後、検出可能なシグナルを生成できるレポーター分子で標識化された第2の(検出)結合剤が添加され、またインキュベートされ、結合剤-バイオマーカー-標識化された結合剤という別の複合体の形成に十分な時間を確保する。未反応の物質は洗い流されてよく、バイオマーカーの存在は、検出結合剤に結合したレポーター分子により生成されるシグナルの観察により、判定される。結果は、可視シグナルの単純な観察による定性的なものでもよく、既知量のバイオマーカーを含む対照サンプルとの比較による定量的なものであってもよい。
【0140】
典型的なサンドイッチアッセイのインキュベーションステップは、必要に応じて適切であるように変更することができる。このような変更には、例えば、2種以上の結合剤およびバイオマーカーがともにインキュベートされる同時インキュベーションが含まれる。例えば、分析されるサンプルおよび標識化された結合剤の両方が同時に、固定化された捕捉結合剤に添加される。また、分析されるサンプルおよび標識化された結合剤を最初にインキュベートし、その後、固相に結合した抗体、または固相に結合することができる抗体を添加することもできる。
【0141】
特異的な結合剤とバイオマーカーの間で形成される複合体は、サンプル中に存在するバイオマーカーの量に比例するものとする。適用される結合剤の特異性および/または感度が、サンプル中に含まれる、特異的に結合されうる少なくとも1種のマーカーの割合の程度を規定することと理解されるであろう。測定を実行する方法の詳細については、本明細書の別の箇所にも記載されている。形成された複合体の量は、サンプル中に実際に存在する量を反映するバイオマーカーの量に変換されるものとする。
【0142】
「結合剤」、「特異的な結合剤」、「検体に特異的な結合剤」、「検出剤」および「バイオマーカーに特異的に結合する薬剤」という用語は、本明細書では互換可能に使用される。好ましくは、それは、対応するバイオマーカーと特異的に結合する結合部分を含む薬剤に関する。「結合剤」、「検出剤」、「薬剤」の例は、核酸プローブ、核酸プライマー、DNA分子、RNA分子、アプタマー、抗体、抗体断片、ペプチド、ペプチド核酸(PNA)または化学物質である。好ましい薬剤は、測定されるバイオマーカーに特異的に結合する抗体である。本明細書で使用される「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、および所望の抗原結合活性を示す限り抗体断片(すなわちその抗原結合断片)を含むが、これらに限定されず、さまざまな抗体構造を包含する。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体(または、それからの抗原結合断片)である。より好ましくは、抗体は、モノクローナル抗体(または抗原結合断片であり、したがって、さらに、本明細書の他の箇所で説明するように、(サンドイッチ免疫学的検定において)CES-2の異なる位置で結合する2つのモノクローナル抗体が使用されることが想定される。したがって、CES-2の量を決定するために少なくとも1種の抗体が使用される。
【0143】
一実施形態では、少なくとも1種の抗体は、マウスモノクローナル抗体である。別の実施形態では、少なくとも1種の抗体は、ウサギモノクローナル抗体である。さらなる実施形態では、本抗体は、ヤギポリクローナル抗体である。またさらなる実施形態では、本抗体は、ヒツジポリクローナル抗体である。
【0144】
「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、結合する対の分子が、その他の分子に有意に結合しない条件下で、互いに結合することを示す結合反応を指す。「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、バイオマーカーとしてのタンパク質またはペプチドに関する場合、結合剤が、対応するバイオマーカーに少なくとも10-1の親和性(「会合定数」K)で結合する結合反応を指す。「特異的な結合」または「特異的に結合する」という用語は、標的分子に対して、好ましくは少なくとも10-1、またはさらにより好ましくは少なくとも10-1の親和性を指す。「特異的な」または「特異的に」という用語は、サンプル中に存在するその他の分子が、標的分子に特異的な結合剤に、有意に結合しないことを示すために使用される。
【0145】
一実施形態では、本発明の方法は、ヒトCES-2および非ヒトまたはキメラCES-2特異的結合剤を含むタンパク質複合体を検出することに基づく。そのような実施形態では、本発明は、被検者における心房細動を評価する方法であって、(a)上記被検者に由来のサンプルを、非ヒトCES-2特異的結合剤とともにインキュベートするステップと、(b)CES-2特異的結合剤および(a)において形成されたCES-2の間の複合体を測定するステップと、(c)測定された複合体量を、基準量と比較するステップとを含む、上記方法に読める。基準量以上の複合体の量は、心房細動の診断(およびしたがって存在)、持続性心房細動の存在、ECGを実施されることになっている被検者、または有害事象のリスクがある被検者の指標である。基準量未満の複合体の量は、心房細動の非存在、発作性心房細動の存在、ECGを実施されないことになっている被検者、または有害事象のリスクがない被検者の指標である。
【0146】
「量」という用語は、本明細書で使用される場合、本明細書でいうバイオマーカー(例えば、CES-2またはナトリウム利尿ペプチド)の絶対量、上記バイオマーカーの相対量または濃度、およびそれらと相関するまたはそれらから導き出され得る任意の値またはパラメータを包含する。このような値またはパラメータは、直接測定により上記ペプチドから得られる、特定の物理的または化学的特性すべてに由来する強度シグナル値、例えば、質量スペクトルまたはNMRスペクトルでの強度値を含む。さらに、本明細書の別の箇所で明示される間接測定により得られる値またはパラメータすべて、例えば、特異的に結合したリガンドから得られるペプチドまたは強度シグナルに応答して生物学的読み出しシステムにより決定される応答量、が包含される。上述の量またはパラメータに相関する値は、すべての標準的な数学的演算によっても得られるということを理解されたい。
【0147】
「比較する」という用語は、本明細書において使用される場合、被検者に由来のサンプル中におけるバイオマーカー(例えば、CES-2ならびにNT-プロBNPもしくはBNPおよび/またはESM-1、ANG-2、IGFBP7などのナトリウム利尿ペプチド)の量を、本明細書の別の箇所で明示されるバイオマーカーの基準量と比較することを指す。比較する、は本明細書で使用される場合、通常、対応するパラメータまたは値の比較を指すということを理解すべきであり、例えば、絶対量は絶対基準量と比較され、濃度は基準濃度と比較され、サンプル中のバイオマーカーから得られる強度シグナルは基準サンプルから得られる同じタイプの強度シグナルと比較される。比較は、手作業またはコンピュータを利用して実施してもよい。したがって、比較は、計算装置により実施してもよい。被検者からのサンプル中のバイオマーカーの決定量または検出量、および基準量についての値は、例えば、互いに比較することができ、また上記比較は、比較のためのアルゴリズムを実行するコンピュータプログラムにより自動的に実施されうる。上記評価を実施するコンピュータプログラムは、好適なアウトプット様式で、所望の評価を提供することになる。コンピュータを利用した比較において、決定量の値が、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている好適な基準に対応する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較結果をさらに評価する、すなわち、好適なアウトプット様式で所望の評価を自動的に提供してもよい。コンピュータを利用した比較において、決定量の値が、コンピュータプログラムにより、データベースに保存されている好適な基準に対応する値と比較されてもよい。コンピュータプログラムは、比較結果をさらに評価してもよい、すなわち、好適なアウトプット様式で所望の評価を自動的に提供する。
【0148】
本発明によれば、バイオマーカーCES-2の量ならびに任意選択でナトリウム利尿ペプチドのおよび/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7の量を、基準と比較するものとする。基準は、好ましくは基準量である。「基準量」という用語は、当業者によく理解されている。基準量は、心房細動の本明細書に記述される評価を可能にすることを理解されたい。例えば、心房細動を診断するための方法に関連して、「基準量」という用語は、好ましくは、(i)心房細動を患う被検者のグループ、または(ii)心房細動を患わない被検者のグループ、のいずれかに、被検者を割り当てられる量を指す。好適な基準量は、試験サンプルとともに、すなわち同時にまたは続いて分析される基準サンプルより決定されてもよい。
【0149】
CES-2の量は、ナトリウム利尿ペプチドの基準量と比較されるのに対し、ナトリウム利尿ペプチドの量は、ナトリウム利尿ペプチドの基準量と比較されることを理解されたい。2種のマーカーの量が決定される場合、CES-2およびナトリウム利尿ペプチドの量に基づいて、併用スコアが計算されることもまた想定される。次のステップでは、このスコアが基準スコアと比較される。
【0150】
さらに、CES-2の量はESM1の基準量と比較されるのに対し、ESM1の量はESM1の基準量と比較されることを理解されたい。2種のマーカーの量が決定される場合、CES-2およびESM1の量に基づいて、併用スコアが計算されることもまた想定される。次のステップでは、このスコアが基準スコアと比較される。
【0151】
さらに、CES-2の量はANG-2の基準量と比較されるのに対し、ANG-2の量はANG-2の基準量と比較されることを理解されたい。2種のマーカーの量が決定される場合、CES-2およびANG-2の量に基づいて、併用スコアが計算されることもまた想定される。次のステップでは、このスコアが基準スコアと比較される。
【0152】
さらに、CES-2量はIGFBP7の基準量と比較されるのに対し、IGFBP7の量はIGFBP7の基準量と比較されることを理解されたい。2種のマーカーの量が決定される場合、CES-2およびIGFBP7の量に基づいて、併用スコアが計算されることもまた想定される。次のステップでは、このスコアが基準スコアと比較される。
【0153】
基準量は、原則として、統計学の標準的方法を適用することにより、所定のバイオマーカーの平均または平均値に基づいて、上記で特定したように被検者のコホートに対し算出され得る。特に、イベントの診断を目的とする方法などの試験精度は、レシーバー動作特性(ROC)により最もよく説明される(特に、Zweig MH.et al.,Clin.Chem.1993;39:561-577を参照のこと)。ROCグラフは、観察されたデータの全範囲にわたって決定閾値を継続的に変動させることにより生じる、すべての感度対特異性のペアのプロットである。診断方法の臨床成績は、その正確性、すなわち被検者を特定の予後または診断に正確に割り当てる能力に依存する。ROCプロットは、区別を行うのに適した閾値の全範囲について、感度対1-特異性をプロットすることにより、2つの分布間の重複を示す。y軸は、感度、すなわち真陽性率であり、真陽性試験結果の数および偽陰性試験結果の数の積に対する、真陽性試験結果の数の比率として定義される。それは影響を受けるサブグループからのみ計算される。x軸上は、偽陽性率、または1-特異性であり、これは、真陰性の数および偽陽性結果の数の積(product)に対する、偽陽性結果の数の比率として定義される。これは特異性の指標であり、影響を受けないサブグループからのみ計算される。真陽性および偽陽性率は、2つの異なるサブグループからの試験結果を使用して完全に別々に算出されるため、ROCプロットはコホートにおけるイベント有病率から独立である。ROCプロット上の各点は、特定の決定閾値に対応する感度/1-特異性のペアを表す。完全な区別のある(結果の2つの分布に重複がない)試験は、左上隅を通るROCプロットを有し、真陽性率は1.0、または100%(完全な感度)、偽陽性率は0(完全な特異性)となる。区別のない(2つのグループでの結果の分布が同一である)試験における理論上のプロットは、左上隅から右上隅への45°の対角線となる。ほとんどのプロットは、これらの2つの極値の間にある。ROCプロットが45°対角線を完全に下回る場合、これは、「陽性」の基準を「より高い」から「より低い」に入れ替え、逆もまた同様にすることで、容易に修正される。定性的には、プロットが左上隅に近いほど、試験全体の精度が高くなる。
【0154】
所望の信頼区間に応じて、ROC曲線から閾値を導き出すことができ、これにより、感度および特異性それぞれの適切なバランスを備えた所定のイベントについての診断が可能になる。したがって、本発明の方法に使用される基準、すなわち心房細動を評価することを可能にする閾値は、好ましくは、上記のように上記コホートのROCを確立し、またそこから閾値量を導出することによって、生成され得る。診断方法における所望の感度および特異性に応じて、ROCプロットは、好適な閾値を導出することができる。脳卒中のリスクがある被検者を除外する場合(すなわちルールアウト)、最適な感度が望ましく、脳卒中のリスクがあると予測される被検者に対しては(すなわちルールイン)、最適な特異性が想定されることが理解されるはずである。
【0155】
好ましくは、本明細書における「基準量」という用語は、所定の値を指す。上記所定の値は、脳卒中のリスクを予測することを可能にするものとする。
【0156】
好ましくは、基準量、すなわち基準量は、脳卒中を患うリスクがある被検者、および脳卒中を患うリスクがない被検者との間の区別を可能にするものとする。
【0157】
診断アルゴリズムは、好ましくは、以下の通りである。
【0158】
好ましくは、基準量と比較して減少しているCES-2の量、ならびに増加しているナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量は、脳卒中を患うリスクがある被検者の指標である。
【0159】
好ましくは、基準量と比較して増加しているまたは変化していないCES-2の量、ならびに減少しているまたは変化していないナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量は、脳卒中を患うリスクがある被検者の指標である。
【0160】
好ましい基準量は、実施例セクションに示す。しかしながら、所望の感度および特異性に応じて、他の基準量もまた信頼できる予測を可能にすることが、当業者により理解されるであろう。
【0161】
本発明の基礎となる研究において、CES-2、およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量の決定は、被検者の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善することを可能にすることがさらに示された。したがって、臨床的脳卒中リスクスコアの決定と、CES-2ならびにナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量の決定との組合せは、CES-2の決定および臨床的脳卒中リスクスコア単独の決定と比較して、脳卒中のさらにいっそう信頼できる予測を可能にする。
【0162】
したがって、脳卒中のリスクを予測するための方法は、CES-2、およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量の、臨床的脳卒中リスクスコアとの比較をさらに含んでもよい。CES-2、およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量と臨床的リスクスコアとの組合せに基づき、試験被検者の脳卒中のリスクが予測される。
【0163】
したがって、本発明は、特に、被検者の脳卒中のリスクを予測する方法であって、
a)公知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する被検者に由来するサンプル中におけるCES-2の量および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップ、
b)上記被検者の上記臨床的脳卒中リスクスコアを評価するステップ、ならびに
c)ステップa)およびb)の結果に基づいて、脳卒中のリスクを予測するステップを含む、方法に関する。
【0164】
本発明の方法によれば、被検者は、既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する被検者であることが想定される。したがって、臨床的脳卒中リスクスコアの値は、被検者について既知である。
【0165】
あるいは、本方法は、臨床的脳卒中リスクスコアの値を取得することまたは提供することを含んでもよい。したがって、ステップb)は、好ましくは、臨床的リスクスコアの値を提供することを含む。好ましくは、上記値は数値である。一実施形態では、臨床的脳卒中リスクスコアは、医師が利用できる臨床ベースのツールの1つによって生成される。好ましくは、その値は、被検者の臨床的脳卒中リスクスコアの値を決定することによって提供されたものである。より好ましくは、被検者の値は、その被検者の患者記録データベースおよび病歴から得られる。したがって、上記スコアの値は、被検者の病歴または公開データを使用して決定することもできる。
【0166】
本発明によれば、ANG-2および/またはIGFBP7の量は、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされる。これは、好ましくは、ANG-2の量および/またはIGFBP7の量の値が、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされることを意味する。したがって、これらの値は、被検者が脳卒中を患うリスクを予測するために機能的に組み合わされる。これらの値を組み合わせることにより、単一の値を計算でき、それ自体を上記予測に使用することができる。
【0167】
臨床的脳卒中リスクスコアは、当該技術分野において周知である。例えば、上記スコアは、Kirchhof P.et al(European Heart Journal 2016;37:2893-2962)に記載されている。一実施形態では、上記スコアは、CHA2DS2-VAScスコアである。別の実施形態では、上記スコアは、CHADS2スコアである。(Gage BF.Et al.,JAMA,285(22)(2001),pp.2864-2870)およびABCスコア、すわなち、the ABC(age,biomarkers,clinical history)stroke risk score(Hijazi Z.et al.,Lancet 2016;387(10035):2302-2311)。この段落のすべての出版物は、そのすべての開示内容に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【0168】
したがって、本発明の一実施形態では、臨床的脳卒中リスクスコアは、CHADS-VAScスコアである。
【0169】
本発明の別の実施形態では、臨床的脳卒中リスクスコアは、CHADSスコアである。
【0170】
さらなる一実施形態では、臨床的リスクスコアは、上記ABCスコアである。上記ABC脳卒中リスクスコアは、AFの脳卒中を予測するため新規のバイオマーカーベースのリスクスコアで、AF患者の大規模なコホートで検証され、さらに独立したAFコホートで外部的に検証された(Hijazi et al,2016を参照のこと)。それは、被検者の年齢、被検者における心臓トロポニンTおよびNT-proBNPの血液、血清または血漿レベル、および被検者が脳卒中の病歴を有するかどうかに関する情報を含む。好ましくは、ABC脳卒中スコアは、Hijazi et al.で開示されたスコアである。
【0171】
好ましい実施形態では、(本明細書の他の個所に記載されるように)被検者における脳卒中のリスクを予測するための上記方法は、被検者が脳卒中を患うリスクがあると特定された場合、抗凝固療法を推奨するステップ、または抗凝固療法の強化を推奨するステップをさらに含む。
【0172】
臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法
本発明はさらに、被検者の臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善する方法であって、
a)CES-2の量および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップと、
b)CES-2の量および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を、上記臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせ、それにより、上記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度が改善される、方法に関する。
【0173】
この方法は、c)ステップb)の結果に基づいて、上記臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を改善するさらなるステップを含んでもよい。
【0174】
本明細書での上記の定義および説明は、心房細動の評価方法、特に有害事象(脳卒中など)のリスクを予測する方法に関連して、好ましくは、上述の方法にも適用され、なお、例えば、被検者は、既知の臨床的脳卒中リスクスコアを有する被検者であることが想定される。あるいは、本方法は、臨床的脳卒中リスクスコアの値を取得することまたは提供することを含んでもよい。
【0175】
本発明によれば、CES-2の量および/またはナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量は、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされる。これは、好ましくは、CES-2および/またはナトリウム利尿ペプチドおよび/またはESM-1および/またはANG-2および/またはIGFBP7の量の値が、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わされることを意味する。その結果、これらの値を機能的に組み合わせて、臨床的脳卒中リスクスコアの予測精度を向上させる。
【0176】
本発明はさらに、被検者の脳卒中のリスクの予測を支援する方法であって、
a)本発明の方法に関連して、本明細書でいう被検者からサンプルを採取するステップと、
b)上記被検者に由来のサンプル中における、CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップと、
c)CES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの決定された量についての情報を、上記被検者の主治医に提供し、それにより、リスクの予測を支援するステップとを含む、方法に関する。
【0177】
サンプルを採取する上記方法のステップa)は、被検者からのサンプルの抽出を包含しない。好ましくは、サンプルは、上記被検者からサンプルを受け取ることによって採取する。このように、サンプルは引き渡される可能性がある。
【0178】
心房細動を診断するための方法
「診断する」という用語は、本明細書において使用される場合、本発明の方法に従って参照される通りの被検者が、心房細動(AF)を患うか否かを評価することを意味する。一実施形態では、被検者がAFを患うことが診断される。好ましい実施形態では、被検者が発作性AFを患うことが診断される。代替的な実施形態では、被検者がAFを患わないことが診断される。
【0179】
本発明によれば、AFのすべての型が診断され得る。したがって、心房細動は、発作性、持続性、または恒久性のAFであってもよい。好ましくは、発作性または心房細動は、特に、恒久性AFを患っていない被検者において診断される。
【0180】
被検者がAFを患うか否かの実際の診断は、診断の確定(例えば、ホルターECGなどのECGによる)などのさらなるステップを含んでもよい。したがって、本発明は、患者が心房細動を患う可能性を評価することを可能にする。基準量を超える量のCES-2を有する被検者は、心房細動を患う可能性が高いのに対し、基準量未満の量のCES-2を有する被検者は、心房細動を患う可能性が低い。したがって、本発明の文脈における「診断する」という用語は、被検者が心房細動を患うか否かを評価するために医師を支援することも包含する。
【0181】
好ましくは、基準量と(または複数の基準量と)比較して増加している試験被検者に由来のサンプル中におけるCES-2の量(および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量)は、心房細動を患う被検者の指標であり、かつ/または基準量と(または複数の基準量と)比較して減少している被検者に由来のサンプル中におけるCES-2の量(および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量)は、心房細動を患っていない被検者の指標である。
【0182】
好ましい実施形態では、基準量、すなわち、基準量CES-2、およびナトリウム利尿ペプチドが決定されるならばナトリウム利尿ペプチドの基準量は、心房細動を患う被検者と心房細動を患っていない被検者との間の差別化を可能にするものとする。好ましくは、上記基準量は、所定の値である。
【0183】
さらなる好ましい実施形態では、基準量、すなわち、CES-2の基準量、およびナトリウム利尿ペプチドESM-1、ANG-2、IGFBP7が決定されるならばナトリウム利尿ペプチドESM-1、ANG-2、IGFBP7の基準量は、心房細動を患う被検者と心房細動を患っていない被検者との間の差別化を可能にするものとする。好ましくは、上記基準量(複数)は、所定の値(複数)である。
【0184】
一実施形態では、本発明の方法は、心房細動を患う被検者の診断を可能にする。好ましくは、CES-2の量(および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7の量)が基準量を超えるならば、被検者はAFを患う。一実施形態では、CES-2の量が基準量のある特定の百分位数(例えば、99位の百分位数)基準上限(URL)を超えるならば、被検者はAFを患う。
【0185】
別の好ましい実施形態では、本発明の方法は、被検者が心房細動を患っていないという診断を可能にする。好ましくは、CES-2の量(および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7の量)が基準量(ある特定の百分位数URLなど)未満ならば、被検者はAFを患っていない。したがって、一実施形態では、「心房細動を診断する」という用語は、「心房細動を除外すること」を指す。
【0186】
心房細動を除外することは、ECG試験などの心房細動の診断のためのさらなる診断試験を回避し得ることから、特に興味深い。したがって、本発明のおかげで、不要な医療費を回避し得る。
【0187】
したがって、本発明は、心房細動を除外するための方法であって、
a)被検者に由来のサンプル中におけるCES-2の量を決定するステップと、
b)CES-2の量を基準量と比較し、それにより、心房細動が除外されるステップとを含む、方法にも関する。
【0188】
好ましくは、基準量(心房細動を除外するための基準など)と比較して減少している被検者のサンプル中におけるバイオマーカーCES-2の量は、心房細動を患っていない被検者の、およびしたがって、被検者において心房細動を除外するための指標である。例えば、CES-2の基準量は、AFを患っていない被検者に由来のサンプル中、またはそのグループのサンプル中において決定されてもよい。
【0189】
バイオマーカーCES-2およびバイオマーカーナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を組み合わせて決定する場合、さらにいっそう信頼できる除外を実現することができる。したがって、ステップa)およびb)は、好ましくは、以下の通りである。
a)上記被検者に由来のサンプル中における、CES-2の量、およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を決定するステップ、
b)CES-2の量、およびナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーの量を、基準量と比較し、それにより、心房細動を除外するステップ。
【0190】
好ましくは、両方のバイオマーカーの量、すなわち、バイオマーカーCES-2の量およびナトリウム利尿ペプチドの量、または、
両方のバイオマーカーの量、すなわち、バイオマーカーCES-2の量およびESM1の量、または、
3種のバイオマーカーの量、すなわち、バイオマーカーCES-2の量、ナトリウム利尿ペプチドの量およびESM1の量は、
それぞれの基準量(心房細動を除外するための基準など)と比較して減少している被検者のサンプル中において、心房細動を患っていない被検者の、およびしたがって、被検者において心房細動を除外するための指標である。例えば、ナトリウム利尿ペプチドおよび/またはESM1の基準量は、AFを患っていない被検者に由来のサンプル中、またはそのグループのサンプル中において決定されてもよい。
【0191】
心房細動を診断する方法の一実施形態では、上記方法はさらに、診断の結果に基づき、心房細動のための療法を推奨および/または開始するステップを含む。好ましくは、療法は、被検者がAFを患うと診断された場合に、推奨または開始される。心房細動のための好ましい療法は、本明細書の別の箇所で開示される。
【0192】
本発明はさらに、
a)バイオマーカーCES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーについての試験を提供するステップと、
b)心房細動の評価における上記試験によって得られた、または得られうる試験結果の使用に対する指示を提供するステップとを含む、方法に関する。
【0193】
上述の方法の目的は、好ましくは、本明細書の他の箇所でより詳細に説明されるように、脳卒中のリスクの予測を支援することである。
【0194】
本明細書に記載されるように、上記指示は、心房細動を評価する方法を実行するためのプロトコルを含むものとする。さらに、上記指示は、CES-2のならびに/またはナトリウム利尿ペプチドおよび/もしくはESM-1および/もしくはANG-2および/もしくはIGFBP7の基準量についての少なくとも1つの値を含むものとする。
【0195】
「試験」は、心房細動を評価する方法を実行するように適合したキットであることが好ましい。「キット」という用語については、以下で説明する。例えば、上記キットは、バイオマーカーANG-2用の少なくとも1種の検出剤および/またはバイオマーカーIGFBP7用の少なくとも1種の検出剤を含むものとする。2種のバイオマーカーの検出試薬は、1つのキットまたは2つの別々のキットで提供され得る。
【0196】
上記試験により得られた試験結果または得ることができる試験結果は、バイオマーカーの量の値である。
【0197】
一実施形態では、ステップb)は、(本明細書の他の箇所で記載されるように)脳卒中の予測における上記試験によって得られたまたは得ることができる試験結果を使用するための指示を提供することを含む。
【0198】
本明細書での上記の定義および説明は、好ましくは、以下について準用する。
【0199】
本発明はさらに、被検者に由来のサンプル中における、a)脳卒中のリスクを評価するためまたはb)抗凝固療法の効能を評価するためまたはc)ための使用であって、被検者に由来のサンプル中における、
i)バイオマーカーCES-2、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカー、
ii)CES-2と特異的に結合する少なくとも1種の検出剤、および任意選択で、ナトリウム利尿ペプチド、ESM-1、ANG-2、IGFBP7を含む1種以上のバイオマーカーと特異的に結合する少なくとも1種の検出剤の、使用に関する。
【0200】
本発明はさらに、脳卒中を患う被検者のリスクを予測するための、被検者に由来のサンプル中における、臨床的脳卒中リスクスコアと組み合わせた使用であって、
i)バイオマーカーCES-2および/または
ii)CES-2と特異的に結合する少なくとも1種の検出剤の、
使用に関する。
【0201】
最後に、本発明はさらに、被検者の抗凝固療法の効能を予測するための、被検者に由来のサンプル中における使用であって、
i)バイオマーカーCES-2および/または
ii)CES-2と特異的に結合する少なくとも1種の検出剤の、使用に関する。
【0202】
「サンプル」、「被検者」、「検出剤」、「CES-2」、「ナトリウム利尿ペプチド」、「ESM-1」、「ANG-2」、「IGFBP7」、「特異的結合」、「脳卒中」、および「リスクの予測」など、上述の使用に関連して言及された用語は、本発明の方法に関連して定義されている。定義と説明はそれに応じて適用される。
【0203】
好ましくは、上述の使用は、インビトロでの使用である。さらに、検出剤は、好ましくは、バイオマーカーに特異的に結合するモノクローナル抗体(またはその抗原結合断片)などの抗体である。
【0204】
本明細書で引用されたすべての参考文献は、その全体の開示内容および本明細書で具体的に言及された開示内容に関して、参照により本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0205】
図は以下を示す:
図1】マッピング研究におけるCES-2の測定:診査用心房細動パネル:発作性AF、持続性AFまたはSRの開胸手術および心外膜マッピングを受けている、心房細動の病歴がある患者(マッピング研究)。心房組織RNA発現プロファイルを評価した。
図2】脳卒中CES-2のリスク予測対臨床的リスクスコアのパラメータ(AF拍動研究:図は、CES-2の力価低減が脳卒中のリスク増加に関連することを示す。CES-2は、いくつかの臨床的リスクスコアのc-indexを改善した。
図3】AF拍動におけるNTプロBNPおよびESM-1との相関:図3は、CES-2が、確立されたマーカー(NTプロBNPおよびChadsVasc)およびESM1との相関がほとんどないことを示す。
図4】経口抗凝固の取り込みによって分離したAF拍動研究において観察されたCES-2値:リバーロキサバンを使用する患者は、残りの患者と比較して高い濃度のCES-2を示す。a)CES-2対NTプロBNP相関係数=-0.19b)CES-2対ESM1相関係数=-0.18c)CES-2対CHADsVASc相関係数=-0.12 これらのデータは、CES-2が補足情報を提供し、CES-2および/またはNTプロBNPおよび/またはESM1および/またはANG-2および/またはIGFBP7および/またはCHADsVAScマーカーの組合せが、各マーカー単独と対比して、脳卒中のリスクが高い患者の検出の改善を提供し得ることを示唆している。これらのデータはさらに、CES-2が、疾患を診断するため、疾患を分類するため、疾患の重症度を評価するため、療法を指導するため(療法の強化/低減を目的として)、疾患の転帰を予測するため(リスク予測、例えば脳卒中)、療法モニタリング(例えば、CES-2レベルに対する抗血管新生薬の効果)、療法の層別化(療法オプションの選択;例えば、AF拍動および選択から長期)に使用され得ることを示唆している。
【実施例
【0206】
本発明は、以下の実施例によって単に例示されるものである。上記実施例は、いかなる場合でも、本発明の範囲を限定する方法で解釈されないものとする。
【0207】
実施例1 AF患者の心臓組織におけるCES-2の差次的発現
差次的CES-2発現レベルは、n=40患者の右心耳に由来の心筋組織サンプルにおいて決定された。
【0208】
RNAseq解析
心房組織は、CABGまたは弁手術を理由とする開胸手術中にサンプル採取した。同時心内膜-外膜高密度活性化マッピングを用いて、手術中にAFまたはSR(対照)のエビデンスを生成した。AF患者および対照は、性別、年齢および併存疾患に関して一致していた。
【0209】
心房組織サンプルを以下について調製した。
・ AF患者;n=11患者
・ SRにおける対照患者;n=39患者。
【0210】
CES-2の差次的発現は、RNAseq解析において、アルゴリズムRSEMおよびDESEQ2を適用して決定した。
【0211】
図2に示すように、CES-2発現は、11人の持続性AF患者対29人の対照患者の解析された心房組織において上方調節されていることが分かった。
【0212】
発現の倍率変化(FC)は1,439であり、FDR(偽発見率)は0,00000000036であった。
【0213】
CES-2の発現変化は、損傷した末端器官、心房組織において決定した。CES-2 mRNAレベルを、心房組織の高密度マッピングの結果と比較した。CES-2 mRNAレベルの上昇は、電気的マッピングによって特徴付けられるように、伝導障害を持つ心房組織サンプルにおいて検出された。伝導性障害は、脂肪浸潤によってまたは間質性線維症によって引き起こされ得る。心房細動を患う患者の心房組織におけるCES-2の観察された差次的発現は、CES-2が、心筋から、特に右心耳から循環血液中に放出され、血清/血漿力価の上昇がAFのエピソードの検出を補助することを裏付けるものである。
【0214】
CES-2は、心臓から血液中に放出され、AFエピソードの検出を支援し得ると結論付けられる。
【0215】
実施例2 脳卒中の予測
解析アプローチ
脳卒中の発症リスクを予測するためのCES-2の循環の能力は、心房細動が確認された患者の前向きな多中心的登録において評価された(Conen D.,Forum Med Suisse 2012;12:860-862)。CES-2は、Borgan(2000)に記述されているような階層化ケースコホートデザインを使用して測定した。
【0216】
追跡調査期間中に脳卒中(「事象」)を経験した70人の患者のそれぞれについて、1種の一致した対照を選択した。対照は、年齢、性別、高血圧の病歴、心房細動の種類および心不全の病歴(CHF病歴)の人口統計学的および臨床情報に基づいて一致させた。
【0217】
CES-2結果は、事象のある69人の患者および事象のない69人の患者について利用可能であった。
【0218】
CES-2は、Olink社のプラットフォームを使用して測定したが、そのために絶対濃度値は利用可能でなく、報告することができない。結果は、任意のシグナルスケール(NPX)で報告する。
【0219】
CES-2の一変量予後値を定量化するために、比例ハザードモデルを転帰脳卒中で使用した。
【0220】
CES-2の一変量予後パフォーマンスは、CES-2によって与えられる予後情報を2つの異なる方法で組み込むことによって評価された。
【0221】
最初の比例ハザードモデルには、中央値(1.4 NPX)で二値化されたCES-2が含まれていたため、CES-2が中央値以下の患者と、CES-2が中央値を超える患者のリスクを比較した。
【0222】
2番目の比例ハザードモデルは、元のCES-2レベルが含んだが、log2スケールに変換した。log2変換は、モデルキャリブレーションを改善するために実行された。
【0223】
症例対照コホートについてのナイーブ比例ハザードモデルからの推定は(症例の対照に対する割合変化により)偏りがあるであろうことから、加重比例ハザードモデルを使用した。加重は、Mark(2006)に記述されているように、それぞれの患者が症例対照コホートに選択される逆確率に基づく。
【0224】
二分されたベースラインCES-2測定(≦1.4NPX対>1.4NPX)に基づいて2つのグループにおける絶対生存率についての推定を得るために、Mark(2006)に記述されているように、カプラン・マイヤープロットの加重バージョンを作成した。
【0225】
CES-2の予後値が、既知の臨床的および人口統計学的リスク因子から独立しているかどうかを評価するために、年齢、性別、CHF病歴、高血圧の病歴、脳卒中/TIA/血栓塞栓症の病歴、血管疾患の病歴、糖尿病の病歴を追加して含む、加重比例コックスモデルが、計算された。
【0226】
脳卒中の予後の既存のリスクスコアを改善するCES-2の能力を評価するために、CHADSCHADS-VAScおよびABCスコアをCES-2(log2変換)によって拡張した。拡張は、CES-2およびそれぞれのリスクスコアを独立変数として含む分割されたハザードモデルを作成することによって行った。
【0227】
CHADS、CHADDS-VAScおよびABCスコアのc-indexを、これらの拡張されたモデルのc-indexと比較した。ケースコホート設定におけるc-indexの計算のために、c-indexの加重バージョンをGanna(2011)で提案されるように使用した。
【0228】
結果
表1は、2値化またはlog2変換されたCES-2を含む、2つの一変量加重比例ハザードモデルの結果を示す。
【0229】
脳卒中を経験するリスクとCES-2のベースライン値との関連は、両モデルともに有意である。
【0230】
2値化されたCES-2のハザード比は、ベースラインCES-2>1.4NPXの患者グループは、ベースラインCES-2≦1.4 NPXの患者グループに対して、脳卒中のリスクが0.4倍低くなることを意味する。log2変換線形リスク予報値として、CES-2を含む比例ハザードモデルの結果は、log2変換値CES-2が脳卒中を経験するリスクと負に相関することを示唆する。ハザード比0.14は、CES-2の2倍の増加が、脳卒中のリスクの0.14の減少に関連すると解釈されうる。
【0231】
この文脈において、CES-2レベルが、ある特定の経口抗凝固剤(OAK)の取り込みと相関することに留意することは興味深い。図4は、リバーロキサバンを使用する患者が、残りの患者と比較して高い濃度のCES-2を示すことを示す。しかし、1.4NPX未満のCES値を有するリバーロキサバンの取り込みがある患者もいる。これは、CES-2を使用してOAK取り込みの有効性をモニターし得ることを示し得る。
【表1】
【0232】
表2は、臨床的および人口統計学的変数を組み合わせたCES-2(log2変換)を含む、比例ハザードモデルの結果を示す。
【0233】
CES-2の効果は有意なままであり、HRは、log2変換されたCES-2について現在0.09である。
【表2】
【0234】
表3は、CHADSスコアにCES-2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。また、このモデルでは、CES-2は、予後情報をCHADSスコアに追加できる。
【表3】
【0235】
表4は、CHADS-VAScスコアにCES-2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。ここでも、CES-2は予測情報を追加する。
【表4】
【0236】
表5は、ABCスコアにCES-2(log2変換)を組み合わせた、加重比例ハザードモデルの結果を示す。CES-2の追加予後値は、わずかに減少するが、有意なままである。
【表5】
【0237】
表6は、CES-2単独の、CHADS、CHADS-VAScおよびABCスコアの、ならびにCHADS、CHADS-VAScおよびABCスコアをCES-2(log2)と組み合わせた加重比例ハザードモデルの、推定c-indexを示す。
【0238】
CHADS-VAScスコアへのCES-2の追加は、c-indexを0.0611だけ改善し、これは、リスク予測の臨床的に意義のある改善とみなされ得る。
【0239】
CHADSスコアについて、c-index改善は0.0646に匹敵し、ABCスコアに関しては0.0617に匹敵する。
【表6】
【0240】
実施例3 バイオマーカー測定
CES-2を、(カルボキシルエステラーゼ-2(CES-2)についての市販のO-linkマルチマーカーパネル;スウェーデンO-link社製の近接拡張アッセイにおいて測定した。
【0241】
症例研究
CHA2DS2-VAScスコアは、心房細動患者およびそれがない患者においても脳卒中の発生率を予測する(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29754652);しかしながら、どのようなCHA2DS2-VAScスコアであっても、心房細動のない患者は、CES-2などのバイオマーカーが療法の必要性および経口抗凝固(OAC)の有効性を評価するのに役立つような用量で、OACを受けるべきであることは不明確である。
【0242】
高血圧があり心房細動の病歴がない70歳の男性患者は、洞調律を呈している。CES2は、上記患者から得られたEDTA血漿サンプル中で決定する。CES2値は基準値未満である。他の脳卒中リスクパラメータ(高齢および高血圧)と組み合わさったCES2力価の低減は、脳卒中を経験するリスクが高いことの指標である。結果として、上記患者は抗凝固療法が許可される。
【0243】
心房細動の病歴がない75歳の女性患者は、医院での健康診断を要する。上記患者は洞調律を呈しているが、構造的心疾患が診断される。上記患者は、脳卒中の病歴および全体的に高いCHA2DS2-VAScスコアを理由として、直接経口抗凝固療法を(低開始用量で)既に受けている。脳卒中の現在のリスクを決定するために、上記患者から得られた血清サンプル中のCES2を測定する。観察されたCES2値は基準値未満である。他のリスクパラメータ(脳卒中の病歴)と組み合わさったCES2力価の低減は、脳卒中の高いリスクの指標である。結果として、抗凝固療法の投薬量が増加する。
【0244】
真性糖尿病および駆出率が低下した心不全がある68歳の肥満女性患者は、息切れの急性症状を呈する。過去の訪問では、上記患者は心房細動の病歴を有さない。全体的に高いCHA2DS2-VASCリスクスコアに従って、医師は、心房細動の非存在下であっても経口抗凝固(低用量)を開始することを決定した。CES-2レベルは、抗凝固の始まりの前および後に決定した。上記患者は現在、抗凝固療法が有効であるか、依然として必要であるかどうか疑問に思っている。脳卒中の急性リスクを明示するために、上記患者から得られたEDTAサンプル中のCES2を決定する。観察されたCES2値は基準値を超える。CES2力価の増加は、有効な抗凝固療法の指標である。結果として、抗凝固療法が維持される。
【0245】
*関連するごく最近のリサーチクエスチョン「CHA2DS2VAScスコアはA-Fib/粗動のない患者における脳卒中の発生率を予測するか?」または「心房細動はCHADS-VAScにどれくらいのリスクポイントを追加するか(例えば、7倍のリスクであるが、ポイント数がいくつか]」および2014~2019年からの最初の結果:
-「事象率は、虚血性脳卒中またはMIについて0.67%/年、AFについて0.96%/年、および大量出血について0.52%/年であった」https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29754652(Circulation.2017;136:A20985にも関連する)
-「ACSであるがAFのない患者において、CHADS2およびCHA2DS2-VAScスコアは、虚血性脳卒中/TIA事象を、非弁膜症性AFの歴史人口において観察されるものと同様の精度であるが、より低い絶対事象率で、予測する。」https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24860007
-「CHA2DS2-VAScツールは、埋め込み型デバイスを有する心房細動のない患者において、血栓塞栓性事象および全死亡率を予測する」
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28259228
-「血栓塞栓性合併症の絶対リスクは、AFのない患者の中でも、高いCHA2DS2-VAScスコアの付随するAFがある患者と比較して高かった。」https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26318604
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