(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】ガイドワイヤ
(51)【国際特許分類】
A61M 25/09 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
A61M25/09 516
(21)【出願番号】P 2021541882
(86)(22)【出願日】2019-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2019033779
(87)【国際公開番号】W WO2021038770
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100144510
【氏名又は名称】本多 真由
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健司
(72)【発明者】
【氏名】牛田 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】柏井 正博
【審査官】豊田 直希
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-167387(JP,A)
【文献】特表2013-544575(JP,A)
【文献】米国特許第05673707(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 25/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドワイヤであって、
自身の基端側から先端側に向かって縮径するテーパー部と、前記テーパー部の基端側に隣接する略円柱状の中間部と、前記中間部の基端側に隣接し、前記中間部より拡径された基端部と、を有し、超弾性金属により形成されるコアシャフトと、
前記コアシャフトの前記中間部の少なくとも一部と前記テーパー部とを覆うコイル体であって、外径が0.36mm以下のコイル体と、
前記コイル体の先端に設けられ、前記ガイドワイヤの先端を形成する先端チップと、
前記コアシャフトの基端側に接続され、前記コアシャフトより剛性が高い材料により形成される基端側コアシャフトと、
を備え、
前記コアシャフトの前記中間部の直径は、0.22mm以上0.24mm以下である、
ガイドワイヤ。
【請求項2】
請求項1に記載のガイドワイヤであって、
前記コイル体の素線径は一定である、
ガイドワイヤ。
【請求項3】
請求項1および請求項2のいずれか一項に記載のガイドワイヤであって、
前記コアシャフトは、ニッケルチタン(Ni-Ti)合金により形成される、
ガイドワイヤ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のガイドワイヤであって、
前記コイル体の基端部は、前
記コアシャフトの前記中間部に固定されている、
ガイドワイヤ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のガイドワイヤであって、
前記基端側コアシャフトは、ステンレス鋼により形成される、
ガイドワイヤ。
【請求項6】
請求項1から
請求項5のいずれか一項に記載のガイドワイヤであって、
前記コアシャフトの先端に接続され、前記コアシャフトよりも塑性変形しやすい材料により形成される線材を、更に備え、
前記先端チップは、前記コイル体の先端と前記線材の先端を接続する、
ガイドワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガイドワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
血管にカテーテル等を挿入する際に用いられるガイドワイヤが知られている。このようなガイドワイヤにおいて、先端側にニッケルチタン(Ni-Ti)合金により形成される超弾性のシャフトを備える構成が開示されている(例えば、特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2013-544575号公報
【文献】特開2005-46603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ニッケルチタン合金により形成されるシャフトを備えるガイドワイヤにおいて、トルクレスポンスの遅れを抑制可能な技術が望まれている。
【0005】
なお、このような課題は、血管系に限らず、リンパ腺系、胆道系、尿路系、気道系、消化器官系、分泌腺及び生殖器官等、人体内の各器官に挿入されるガイドワイヤに共通する。また、このような課題は、ニッケルチタン合金により形成されたシャフトを備えるガイドワイヤに限らず、超弾性金属により形成されたシャフトを備えるガイドワイヤに共通する。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、ガイドワイヤにおいてトルクレスポンスの遅れを抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本発明の一形態によれば、ガイドワイヤが提供される。このガイドワイヤは、自身の基端側から先端側に向かって縮径するテーパー部と、前記テーパー部の基端側に隣接する略円柱状の中間部と、前記中間部の基端側に隣接し、前記中間部より拡径された基端部と、を有し、超弾性金属により形成されるコアシャフトと、前記コアシャフトの前記中間部の少なくとも一部と前記テーパー部とを覆うコイル体であって、外径が0.36mm以下のコイル体と、前記コイル体の先端に設けられ、前記ガイドワイヤの先端を形成する先端チップと、を備え、前記コアシャフトの前記中間部の直径は、0.22mm以上0.24mm以下である。
【0009】
この構成によれば、コアシャフトの中間部の直径が、0.22mm以上0.24mm以下と比較的細いため、トルクレスポンスの遅れを抑制することができる。換言すると、回転性能が良好なガイドワイヤを提供することができる。また、ガイドワイヤが、コアシャフトの中間部の少なくとも一部とテーパー部とを覆う外径0.36mm以下のコイル体を備えるため、コアシャフトが細い部分においてもガイドワイヤの適正な太さを確保することができる。コアシャフトの中間部の直径を細くすることにより、コイル体の素線径を太くすることができるため、ガイドワイヤの使用中におけるコイル体の乗り上げおよび圧潰の発生を抑制することができる。
【0010】
(2)上記形態のガイドワイヤあって、前記コイル体の素線径は一定であってもよい。先端側のコイル体の素線径に対して基端側のコイル体の素線径が小さい構成の場合には、素線径が小さい部分において、ガイドワイヤの使用中にコイル体の乗り上げや圧潰が発生する可能性が高い。これに対し、この構成によれば、コアシャフトの中間部の直径を0.22mm以上0.24mm以下にすることにより、コイル体の素線形を比較的太く、一定にすることができるため、ガイドワイヤの使用中におけるコイル体の乗り上げや圧潰の発生を抑制することができる。
【0011】
(3)上記形態のガイドワイヤであって、前記コアシャフトは、ニッケルチタン(Ni-Ti)合金により形成されてもよい。ニッケルチタン合金は、復元性、耐久性、および耐食性に優れるため、この構成によれば、コアシャフトの復元性、耐久性、および耐食性に優れるガイドワイヤを提供することができる。
【0012】
(4)上記形態のガイドワイヤであって、前記コイル体の基端部は、前コアシャフトの前記中間部に固定されていてもよい。このようにすると、コアシャフトの中間部の所定位置からガイドワイヤの先端までにわたって、コイル体が巻き回されているため、ガイドワイヤのうち、比較的細い部分である中間部およびテーパー部の曲げ剛性を高めることができる。
【0013】
(5)上記形態のガイドワイヤであって、さらに、前記コアシャフトの基端側に接続され、前記コアシャフトより剛性が高い材料により形成される基端側コアシャフトを備えてもよい。このようにすると、基端側コアシャフトの剛性が高いため、押し込み性およびデリバリー性を向上させることができる。
【0014】
(6)上記形態のガイドワイヤであって、前記基端側コアシャフトは、ステンレス鋼により形成されてもよい。この構成によれば、ステンレス鋼は成形成に優れるため、押し込み性およびデリバリー性が高く、かつ回転性能に優れるガイドワイヤを容易に製造することができる。
【0015】
(7)上記形態のガイドワイヤであって、前記コアシャフトの先端に接続され、前記コアシャフトよりも塑性変形しやすい材料により形成される線材を、更に備え、前記先端チップは、前記コイル体の先端と前記線材の先端を接続してもよい。このようにすると、ガイドワイヤの先端部分の形状付けを容易にすることができる。
【0016】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、ガイドワイヤに用いられる複数のコアシャフトからなるコアシャフト製品などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】第1実施形態のガイドワイヤの構成を示す部分断面図である。
【
図2】中間部の直径と回転性能との関係を示す図である。
【
図3】回転性能の評価試験を説明するための説明図である。
【
図4】本実施形態のガイドワイヤの回転性能を示す図である。
【
図5】
図4に示す回転性能の評価試験を説明するための説明図である。
【
図6】第2実施形態のガイドワイヤの構成を示す部分断面図である。
【
図7】第3実施形態のガイドワイヤの構成を示す部分断面図である。
【
図8】第4実施形態のガイドワイヤの構成を示す部分断面図である。
【
図9】第5実施形態のガイドワイヤの構成を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態のガイドワイヤ1の構成を示す部分断面図である。ガイドワイヤ1は、例えば血管にカテーテルを挿入する際に用いられる医療器具であり、コアシャフト10と、コイル体20と、線材30と、被覆部40と、先端チップ51と、基端側固定部52と、基端側コアシャフト60と、を備えている。
図1では、ガイドワイヤ1の中心に通る軸を軸線O(一点鎖線)で表す。以降の例では、中間部15より基端側のコアシャフト10の中心を通る軸と、コイル体20の中心を通る軸と、被覆部40の中心を通る軸は、いずれも軸線Oと一致する。しかし、コアシャフト10の中心を通る軸と、コイル体20の中心を通る軸と、被覆部40の中心を通る軸は、それぞれ軸線Oとは相違していてもよい。
【0019】
図1には、相互に直交するXYZ軸が図示されている。X軸は、ガイドワイヤ1の軸線方向に対応し、Y軸は、ガイドワイヤ1の高さ方向に対応し、Z軸は、ガイドワイヤ1の幅方向に対応する。
図1の左側(-X軸方向)をガイドワイヤ1及び各構成部材の「先端側」と呼び、
図1の右側(+X軸方向)をガイドワイヤ1及び各構成部材の「基端側」と呼ぶ。また、ガイドワイヤ1及び各構成部材について、先端側に位置する端部を「先端部」または単に「先端」と呼び、基端側に位置する端部を「基端部」または単に「基端」と呼ぶ。本実施形態において、先端側は「遠位側」に相当し、基端側は「近位側」に相当する。これらの点は、
図1以降の全体構成を示す図においても共通する。
【0020】
コアシャフト10は、基端側が太径で先端側が細径とされた、先細りした長尺状の部材である。コアシャフト10は超弾性金属であるニッケルチタン(Ni-Ti)合金により形成されている。コアシャフト10の先端側には線材30が接続され、コアシャフト10の基端側には基端側コアシャフト60が接続されている。コアシャフト10は、先端側から基端側に向かって順に、細径部11、テーパー部12、中間部15、基端部16を有している。各部の長さは任意に決定することができる。
【0021】
コアシャフト10の細径部11は、コアシャフト10の先端側に配置されている。細径部11は、コアシャフト10の外径が最小の部分であり、一定の外形を有する略円柱状に形成されている。
【0022】
テーパー部12は、細径部11と中間部15との間に配置されている。テーパー部12は、基端側から先端側に向かって外径が縮径した略円錐台形状である。
【0023】
中間部15は、テーパー部12の基端側に隣接し、テーパー部12と基端部16との間に配置されている。中間部15は、細径部11の外径よりも大きな一定の外径を有する略円柱形状である。本実施形態において、中間部15の直径は、0.237mm以上0.243mm以下である。後に詳述するように、本実施形態のガイドワイヤ1では、中間部15の直径が比較的細いため、トルクレスポンスの遅れを抑制することができる。
【0024】
基端部16は、中間部15の基端側に隣接し、中間部15より拡径されている。基端部16は、第1拡径部161と、第1太径部162と、第1縮径部163と、を備える。第1拡径部161は、先端側の直径が中間部15の直径と一致し、先端側から基端側に向かって外径が拡径した略円錐台形状である。第1太径部162は、コアシャフト10の外径が最大の部分であり、一定の外径を有する略円柱形状である。第1縮径部163は、先端側の直径が第1太径部162の直径と一致し、先端側から基端側に向かって外径が縮径した略円錐台形状である。
【0025】
細径部11、テーパー部12、及び中間部15の先端側の一部の外側面は、後述するコイル体20によって覆われている。一方、基端部16は、コイル体20によって覆われておらず、コイル体20から露出している。
【0026】
コイル体20は、コアシャフト10及び線材30に対して、素線21を螺旋状に巻回して形成される略円筒形状である。コイル体20を形成する素線21は、1本の素線からなる単線でもよいし、複数の素線を撚り合せた撚線でもよい。素線21を単線とした場合、コイル体20は単コイルとして構成され、素線21を撚線とした場合、コイル体20は中空撚線コイルとして構成される。また、単コイルと中空撚線コイルとを組み合わせてコイル体20を構成してもよい。素線21の線径と、コイル体20におけるコイル平均径(コイル体20の外径と内径の平均径)とは、任意に決定できる。コイル体20の外径は0.36mm以下であり、素線21の線径(素線径とも呼ぶ)は、一定である。
【0027】
コイル体20の基端部は、基端側固定部52によって、コアシャフト10の中間部15に固定されている。基端側固定部52は、任意の接合剤、例えば、銀ロウ、金ロウ、亜鉛、Sn-Ag合金、Au-Sn合金等の金属はんだや、エポキシ系接着剤などの接着剤によって形成することができる。基端側固定部52は、中間部15の任意の位置に配置することができる。基端側固定部52を中間部15の基端に配置すると、コイル体20により中間部15の大部分を覆うことができ、比較的細い径の中間部15の曲げ剛性を向上させることができるため、好ましい。
【0028】
素線21は、例えば、SUS304、SUS316等のステンレス合金、NiTi合金等の超弾性合金、ピアノ線、ニッケル-クロム系合金、コバルト合金等の放射線透過性合金、金、白金、タングステン、これらの元素を含む合金(例えば、白金ニッケル合金)等の放射線不透過性合金で形成することができる。なお、素線21は、上記以外の公知の材料によって形成されてもよい。本実施形態において、素線21は、線材30を覆う部分が、白金ニッケル(Pt-Ni)合金で、それより基端側の部分が、ステンレス合金により形成されている。これにより、ガイドワイヤ1の先端側のくせづけを容易にすることができる。
図1において、素線21のうち、白金ニッケル(Pt-Ni)合金により形成されている部分にクロスハッチングを付し、ステンレス合金により形成されている部分に斜線ハッチングを付して示している。
【0029】
線材30は、基端側から先端側に向かって一定の外径を有する長尺状の部材である。線材30の横断面の形状は、長軸と短軸とを有する略楕円形形状とされている。線材30は、Y軸方向に長軸を、Z軸方向に短軸を向けた状態でコアシャフト10の細径部11と隣接して配置されている。線材30はコアシャフト10よりも塑性変形しやすい材料、例えば、SUS302、SUS304、SUS316等のステンレス合金により形成されている。線材30はコアシャフト10よりも塑性変形しやすい材料により形成されているため、線材30を備えないガイドワイヤと比較して、ガイドワイヤ1の先端部分の形状付けを容易にすることができる。線材30は「リボン」とも呼ばれる。線材30の基端側は、コアシャフト10の先端側にある細径部11と、接合剤により接合されている。接合剤としては、例えば、銀ロウ、金ロウ、亜鉛、Sn-Ag合金、Au-Sn合金等の金属はんだや、エポキシ系接着剤などの接着剤を使用できる。線材30の先端側は、後述する先端チップ51によって固定されている。
【0030】
なお、
図1の例では、線材30は、軸線O(X軸)方向において、線材30の基端部の位置と、細径部11の基端部の位置とを合わせた状態で、コアシャフト10に接合されている。しかし、軸線O方向における線材30の基端部の位置と、細径部11の基端部の位置とは相違していてもよい。例えば、線材30の基端部は、細径部11の基端部よりも-X軸方向に位置してもよい。また、線材30は、細径部11の先端に接続されてもよいし、細径部11に挿入されて接続されてもよい。
【0031】
被覆部40は、複数本(例えば、8本)の素線41を多条巻きにした多条コイルであり、線材30よりも塑性変形しにくく、コアシャフト10よりも塑性変形しやすい構成とされている。被覆部40は、例えば、芯金上に複数本の素線41を互いに接触するように密に撚り合せた後、公知の熱処理方法を用いて残留応力を除去し、芯金を抜き取ることで形成することができる。素線41の材料は、素線21と同じであってもよく、異なっていてもよい。被覆部40の基端側は、基端側固定部52と同様の任意の接合剤によってコアシャフト10のテーパー部12に接合されている。被覆部40により、コアシャフト10と線材30との間の剛性ギャップを緩和することができ、コアシャフト10と線材30との接合部の近傍における局所的な変形の発生が抑制され、コアシャフト10と線材30の破損を抑制することができる。
【0032】
なお、被覆部40は、線材30よりも塑性変形しにくく、コアシャフト10よりも塑性変形しやすい構成である限りにおいて、任意の態様を採用できる。例えば、被覆部40は多条コイルに限らず、1本の素線を用いて形成された単条コイルであってもよく、チューブ状に形成された樹脂や金属からなる管状部材であってもよく、疎水性を有する樹脂材料、親水性を有する樹脂材料、またはこれらの混合物によってコーティングされていてもよい。
【0033】
先端チップ51は、ガイドワイヤ1の先端に配置され、線材30の先端と、コイル体20の先端と、を一体的に保持している。先端チップ51は、基端側固定部52と同様に、任意の接合剤によって形成することができる。先端チップ51と基端側固定部52とは、同じ接合剤を用いてもよく、異なる接合剤を用いてもよい。先端チップ51は、線材30の先端と、コイル体20の先端と、被覆部40の先端部とを一体的に保持する構成にしてもよい。
【0034】
基端側コアシャフト60は、ステンレス鋼から形成される長尺状の部材である。基端側コアシャフト60は、接合部64と、第2拡径部61と、第2太径部62と、第2縮径部63と、を備える。接合部64は、直径がコアシャフト10の基端の直径より小さい略円柱状である。コアシャフト10と基端側コアシャフト60とは、接合部64の先端がコアシャフト10の基端に接合されると共に、接続部材70により接続されている。接続部材70は、ニッケルチタン合金から形成され、一般に、「NiTiパイプ」とも呼ばれており、柔軟性、キンク防止、形状記憶に優れる。第2拡径部61は、先端側の直径が接合部64の直径と一致し、先端側から基端側に向かって外径が拡径した略円錐台形状である。第。第2太径部62は、基端側コアシャフト60の外径が最大の部分であり、一定の外径を有する略円柱形状である。第2縮径部63は、先端側の直径が第2太径部62の直径と一致し、先端側から基端側に向かって外径が縮径した略円錐台形状である。
【0035】
基端側コアシャフト60は、術者がガイドワイヤ1を把持する際に使用される。基端側コアシャフト60は、ステンレス鋼から形成されるため、Ni-Ti合金から形成されるコアシャフト10より剛性が高く、ガイドワイヤ1の押し込み性およびデリバリー性を向上させることができる。また、ステンレス鋼は成形成に優れるため、基端側コアシャフト60を容易に製造することができる。ステンレス鋼としては、例えば、SUS302、SUS304、SUS316等を用いることができる。
【0036】
以下に、
図2~
図5を用いて、本実施形態のガイドワイヤ1の効果について説明する。
図2は、中間部の直径と回転性能との関係を示す図である。
図2では、ガイドワイヤの中間部の直径を変化させて、後述する
図3に示す試験における入力角と出力角との差に基づいて、回転性能を評価している。
図3は、回転性能の評価試験を説明するための説明図である。
【0037】
図2では、
図3に示す曲率半径を、5,6,7,8,9,10,15,20(mm)に変更した際の回転性能を、中間部の直径ごとに評価している。
図3に示す回転性能評価試験では、ガイドワイヤGWの基端側を回転装置INに接続し、所定の曲率に形成された管TBに中間部が挿通された状態で、先端側を測定装置OTに接続する。回転装置INにおいて、ガイドワイヤGWの基端側を1.5rpmの速度で回転させたときの、入力角に対する出力角を測定装置OTにて測定している。
図2において、入力角と出力角との差が10°未満の場合を「◎」、入力角と出力角との差が10°以上50°未満の場合を「〇」、入力角と出力角との差が50°以上100°未満の場合を「△」、入力角と出力角との差が100°以上の場合を「×」とした。入力角と出力角との差は、入力角に対する出力角の変化が安定した状態における差を用いている。
【0038】
図2では、評価が「〇」と「△」との間を太線で示している。
図2に示すように、中間部の直径が0.24mm以下の場合には、中間部の直径が0.25mm以上の場合と比較して回転性能が良い。ところで、人間の血管において、左冠動脈の主幹部と回旋枝との分岐部等の基端部において、曲率半径が8mm程度の箇所がある。すなわち、曲率半径が8mm程度の箇所においてガイドワイヤを使用する可能性がある。そのため、曲率半径8mmにおいて、回転性能の評価が「〇」または「◎」となっているガイドワイヤを用いることが好ましい。すなわち、回転性能の観点から、中間部の直径は、0.25mmより小さいことが好ましい。一方、ニッケルチタン(Ni-Ti)合金により形成されたコアシャフトは、ステンレス合金により形成されたコアシャフトより曲げ剛性が小さいため、押し込み性やデリバリー性を考慮すると、コアシャフトの直径が大きい方が好ましい。そのため、押し込み性およびデリバリー性と、回転性能とを両立させるために、曲率半径8mmにおける回転性能の評価が「〇」である中間部の直径が0.20mm以上0.24mm以下にするのが好ましい。より好ましくは、0.22mm以上0.24mm以下である。本実施形態では、上記の範囲で最も直径が大きい0.24mmを採用している。
【0039】
図4は、本実施形態のガイドワイヤ1の回転性能を示す図である。
図4では、中間部の直径を本実施形態のガイドワイヤ1と違えた比較例と比較して図示している。
図5は、
図4に示す回転性能の評価試験を説明するための説明図である。
【0040】
図5に示す回転性能評価試験は、
図3に示す評価試験と同様の試験であるが、管TB2が
図3に示す管TBと異なり、2段階に湾曲している。管TB2において、回転装置IN側の湾曲は、曲率半径が70mmであり、測定装置OT側の湾曲は、曲率半径が3mmである。
図4では、回転装置INにおいて、ガイドワイヤGWの基端側を1.5rpmの速度で回転させたときの、入力角に対する出力角を示してしている。
図4では、本実施形態のガイドワイヤ1を実線、比較例1を破線、比較例2を一点鎖線で図示している。比較例1、2は、いずれもガイドワイヤにおける中間部の直径が0.25mmの他社製品である。
図4において、トルクレスポンスの遅れがない理想的な挙動を点線で示している。
図5に示すように、本実施形態のガイドワイヤ1は、若干トルクレスポンスの遅れが見られるものの、理想的な挙動に近い挙動を示している。すなわち、本実施形態のガイドワイヤ1によれば、比較例のガイドワイヤと比較して、トルクレスポンスの遅れを抑制することができた。
【0041】
以上説明したように、本実施形態のガイドワイヤ1によれば、コアシャフト10の中間部15の直径が、0.24mmと比較的細いため、トルクレスポンスの遅れを抑制することができる。すなわち、回転性能が良好なガイドワイヤを提供することができる。
【0042】
また、本実施形態のガイドワイヤ1は、コアシャフト10の中間部15の一部とテーパー部12とを覆う外径0.36mm以下のコイル体20を備えるため、コアシャフト10が細い部分においてもガイドワイヤ1の適正な太さを確保することができる。
【0043】
さらに、本実施形態のガイドワイヤ1において、コイル体20の素線径(素線21の平均直径)が、一定である。例えば、本実施形態のガイドワイヤ1の中間部15に換えて、中間部15より直径が大きい中間部を用いた場合、コイル体の外径を一定に保つためには、コイル体において中間部を覆う部分の素線径を、テーパー部12を覆う部分の素線径より小さくする。このようなコイル体を用いたガイドワイヤを使用すると、ガイドワイヤの使用中にコイル体の素線径が小さい部分にコイル体の乗り上げや圧潰が生じる場合がある。これに対し、本実施形態のガイドワイヤ1によれば、中間部15の直径を0.24mmにする(細くする)ことにより、コイル体20の素線形を比較的太く、一定にすることができるため、ガイドワイヤ1の使用中におけるコイル体20の乗り上げや圧潰の発生を抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態のガイドワイヤ1では、先端側にニッケルチタン合金製のコアシャフトを用いている。ニッケルチタン合金は、超弾性金属であるため、ガイドワイヤに復元性を付与することができる。特に、ニッケルチタン合金は、超弾性金属の中でも、復元性、耐久性、および耐食性に優れるため、本実施形態のガイドワイヤ1によれば、コアシャフト10の復元性、耐久性、および耐食性を高めることができる。
【0045】
また、本実施形態のガイドワイヤ1では、コアシャフト10の中間部15の所定位置からガイドワイヤ1の先端までにわたって、コイル体20が巻き回されているため、ガイドワイヤ1のうち、比較的細い部分である中間部15およびテーパー部12の曲げ剛性を高めることができる。
【0046】
また、本実施形態のガイドワイヤ1によれば、ステンレス鋼により形成される基端側コアシャフト60を備え、基端側コアシャフト60はコアシャフト10より剛性が高いため、押し込み性およびデリバリー性を高めることができる。その結果、押し込み性およびデリバリー性が高く、かつ回転性能に優れるガイドワイヤ1を提供することができる。
【0047】
上述の通り、コアシャフト10は超弾性材料で形成されており、線材30はコアシャフト10よりも塑性変形しやすい材料で形成されている。被覆部40は、線材30よりも塑性変形しにくく、コアシャフト10よりも塑性変形しやすい構成とされている。被覆部40によって、剛性が異なるコアシャフト10と線材30と間の剛性ギャップを緩和することができるため、被覆部40を有さない構成と比較して、コアシャフト10と線材30との接合部に対する形状付けを容易にすることができる。さらに、被覆部40においてコアシャフト10と線材30との間の剛性ギャップを緩和することにより、コアシャフト10と線材30との接合部の近傍に生じる局所的に変形しやすい部分を保護して、コアシャフト10と線材30の破損を抑制することができる。その結果、ガイドワイヤ1の耐久性を向上させることができる。
【0048】
また、本実施形態のガイドワイヤ1では、被覆部40の先端部は、線材30の基端部より前方であって、線材30の半分以上を被覆している(
図1)。すなわち、本実施形態のガイドワイヤ1では、被覆部40が先端チップ51の近傍まで配置される。このように、塑性変形しやすい材料で形成された線材30の大部分を保護することにより、形状付けや使用に伴う線材30の破損を抑制することができ、ガイドワイヤ1の耐久性をさらに向上させることができる。
【0049】
<第2実施形態>
図6は、第2実施形態のガイドワイヤ1Aの構成を示す部分断面図である。第2実施形態のガイドワイヤ1Aでは、基端側固定部52が基端部16の第1拡径部161に設けられている。すなわち、コイル体20の基端部は、コアシャフト10の中間部15に固定されておらず、コアシャフト10の基端部16に固定されている。
【0050】
本実施形態のガイドワイヤ1Aによれば、コアシャフト10の中間部15の基端側からガイドワイヤ1Aの先端までにわたって、コイル体20が巻き回されているため、ガイドワイヤ1Aのうち、比較的細い部分である中間部15全体と、テーパー部12の曲げ剛性を高めることができる。
【0051】
<第3実施形態>
図7は、第3実施形態のガイドワイヤ1Bの構成を示す部分断面図である。第3実施形態のガイドワイヤ1Bは、基端側コアシャフト60備えていない。すなわち、本実施形態のガイドワイヤ1Bの基端には、ニッケルチタン合金により形成された基端部16Bが配置されている。本実施形態のガイドワイヤ1Bにおける基端部16Bは、第1実施形態のガイドワイヤ1における基端部16と比較して第1太径部162Bの長さが長く、第1縮径部163を備えない。
【0052】
本実施形態のガイドワイヤ1Bでは、ステンレス鋼製の基端側コアシャフト60を備えないものの、ガイドワイヤ1Bの基端にコアシャフト10のうち最も直径が大きい第1太径部162Bが配置されるため、押し込み性およびデリバリー性を確保することができる。すなわち、本実施形態によっても、押し込み性およびデリバリー性と、回転性能が良好なガイドワイヤ1Bを提供することができる。
【0053】
<第4実施形態>
図8は、第4実施形態のガイドワイヤ1Cの構成を示す部分断面図である。第4実施形態のガイドワイヤ1Cは、被覆部40を備えていない。このようにしても、コイル体20を備えるため、ガイドワイヤ1Cの先端側の曲げ剛性を確保することができる。第4実施形態のガイドワイヤ1Cにおいても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0054】
<第5実施形態>
図9は、第5実施形態のガイドワイヤ1Dの構成を示す部分断面図である。第5実施形態のガイドワイヤ1Dは、線材30を備えていない。すなわち、図示するように、コアシャフト10Dの細径部11Dは先端チップ51まで延びている。そして、先端チップ51は、コアシャフト10Dの先端と、コイル体20の先端と、を一体的に保持している。このようにしても、コアシャフト10Dの中間部15の直径が、0.24mmと比較的細いため、トルクレスポンスの遅れを抑制することができる。
【0055】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0056】
・上記各実施形態のガイドワイヤは、血管にカテーテルを挿入する際に使用される医療器具として説明したが、リンパ腺系、胆道系、尿路系、気道系、消化器官系、分泌腺及び生殖器官等、人体内の各器官に挿入されるガイドワイヤとして構成することもできる。
【0057】
・上記各実施形態において、直径が一定の略円柱形状に形成された中間部15を例示したが、中間部の形状は上記実施形態に限定されない。例えば、中間部の直径が連続または間欠的に変更された略円柱状に形成されてもよい。このように中間部の直径が変化する場合、平均直径が0.22mm以上0.24mm以下であってもよいし、変化する直径が0.22mm以上0.24mm以下の範囲内であってもよい。
【0058】
・上記実施形態において、コアシャフト10がニッケルチタン(Ni-Ti)合金により形成される例を示したが、コアシャフト10の形成材料は、上記実施形態に限定されない。例えば、Ni-TiとCu等の他の金属との合金であるNi-Ti系合金、Cu-Zn-Al合金等のCu系合金等、種々の超弾性金属を用いることができる。
【0059】
・コアシャフトの構成は、上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態のコアシャフト10において細径部11を備えなくてもよい。コアシャフトが細径部を備えない場合、線材30をコアシャフトのテーパー部に接合することができる。また、上記各実施形態において、コアシャフトは、接合された複数のコアシャフト部材によって構成されてもよい。この場合、各コアシャフト部材は同じ材料により形成されてもよく、異なる超弾性金属により形成されてもよい。
【0060】
・上記実施形態において、ステンレス鋼から形成される基端側コアシャフト60を例示したが、基端側コアシャフト60は、コアシャフト10より剛性が高い種々の材料により形成することができる。例えば、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼、インコネル(インコネルは登録商標)、インコロイ(インコロイは登録商標)等の高剛性材料を用いることができる。
【0061】
・コアシャフト10の細径部11と、線材30とが接合される部分の各々の横断面形状は、上記実施形態に限定されない。例えば、略円形形状、多角形形状、略円形や楕円形において溝部を有する形状等、種々の形状を採用することができる。
【0062】
・上記実施形態において、コイル体20の素線径が一定の例を示したが、コイル体20の素線径は一定でなくてもよい。例えば、コアシャフト10のテーパー部12、細径部11、および線材30を覆う部分のコイル体20の素線径が、中間部15を覆う部分のコイル体20の素線径より大きくしてもよい。
【0063】
・コイル体の構成は上記実施形態に限定されない。例えば、コイル体は、隣接する素線の間に隙間を有さない密巻きに構成されてもよく、隣接する素線の間に隙間を有する疎巻きに形成されてもよく、密巻きと疎巻きとが混合された構成であってもよい。また、コイル体は、例えば、疎水性を有する樹脂材料、親水性を有する樹脂材料、またはこれらの混合物によってコーティングされた樹脂層を備えていてもよい。例えば、コイル体の素線の横断面形状は、略円形でなくてもよい。
【0064】
・上記実施形態において、コイル体20の先端側が白金ニッケル(Pt-Ni)合金により形成され、それより基端側の部分が、ステンレス合金により形成される例を示したが、コイル体は、全体に亘り同一の材料によって形成されてもよい。また、例えば、3以上の異なる材料を用いて、軸線方向に沿って材料を変えて形成されてもよい。
【0065】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0066】
1,1A,1B,1C,1D…ガイドワイヤ
10,10D…コアシャフト
11,11D…細径部
12…テーパー部
15…中間部
16,16B…基端部
20…コイル体
21…素線
30…線材
40…被覆部
41…素線
51…先端チップ
52…基端側固定部
60…基端側コアシャフト
61…第2拡径部
62…第2太径部
63…第2縮径部
64…接合部
70…接続部材
161…第1拡径部
162,162B…第1太径部
163…第1縮径部
GW…ガイドワイヤ
IN…回転装置
O…軸線
OT…測定装置
TB,TB2…管