(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】バイオニック氷制御材料及びこのバイオニック氷制御材料を含有する凍結保存液
(51)【国際特許分類】
G01N 33/00 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
G01N33/00 B
(21)【出願番号】P 2021560635
(86)(22)【出願日】2020-03-02
(86)【国際出願番号】 CN2020077472
(87)【国際公開番号】W WO2020207150
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】201910282418.9
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201910282422.5
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201910282417.4
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201910282416.X
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201910281986.7
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】506281853
【氏名又は名称】中国科学院化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】521445281
【氏名又は名称】北京大学第三医院(北京大学第三臨床医学院)
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】王健君
(72)【発明者】
【氏名】金晟琳
(72)【発明者】
【氏名】呂健勇
(72)【発明者】
【氏名】厳杰
(72)【発明者】
【氏名】喬杰
(72)【発明者】
【氏名】閻麗盈
(72)【発明者】
【氏名】李蓉
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-509832(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0157010(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0068692(US,A1)
【文献】WENG Lindong et al.,Molecular Dynamics at the Interface between Ice and Poly(vinyl alcohol) and Ice Recrystallization Inhibition,Langmuir,2018年,Vol.34,pp.5116-5123
【文献】MOCHIZUKI Kenji and MOLINERO Valeria,Antifreeze Glycoproteins Bind Reversibly to Ice via Hydrophobic Groups,Journal of American Chemical Society,2018年,Vol.140,pp.4803-4811
【文献】NAULLAGE Pavithra M. et al.,Molecular Recognition of Ice by Fully Flexible Molecules,The Journal of Physical Chemistry C,2017年,Vol.121,pp.26949-26957
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00,33/18,33/44,33/48,
A01N 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)親水基及び親氷基(ice-philic group)を含有する化合物分子構造のライブラリを構築する、
(2)分子動力学シミュレーションを採用し、ライブラリに含まれる各化合物分子の氷水二相界面での拡散性能をシミュレーションして評価する、および、
(3)
広がり係数S>0の必要な氷親和性及び水親和性の化合物分子をスクリーニングする、ステップを含
み、ここで、S=γ
I-W
- (γ
IRIA-I
+γ
IRIA-W
)、γ
I-W
は定数であり、即ち、氷水界面エネルギーγ
I-W
は材料と氷及び材料と水との界面エネルギーの和γ
IRIA-I
+ γ
IRIA-W
(γ
IRIA-I
は材料と氷との界面エネルギー、γ
IRIA-W
は材料と水との界面エネルギー)より大きい、ことを特徴とする、氷制御材料の分子設計方法。
【請求項2】
前記ステップ(2)における分子動力学シミュレーションはGROMACS、AMBER、CHARMM、NA分子動力学、又はLAMMPSにより行われることを特徴とする、請求項1に記載の分子設計方法。
【請求項3】
前記ステップ(2)の分子動力学シミュレーションにおいて、水分子モデルはTIP3P、TIP4P、TIP4P/2005、SPC、TIP3P、TIP5P、又はSPC/Eから選ばれることを特徴とする、請求項2に記載の分子設計方法。
【請求項4】
前記ステップ(2)の分子動力学シミュレーションにおいて、水分子モデルはTIP4P/2005水分子モデルであることを特徴とする、請求項2に記載の分子設計方法。
【請求項5】
前記ステップ(2)の分子動力学シミュレーションにおいて、力場パラメータはGROMOS、ESFF、MM形態力場、AMBER、CHARMM、COMPASS、UFF、CVFFの力場のうちの一種により提供されることを特徴とする、請求項2に記載の分子設計方法。
【請求項6】
前記ステップ(2)の分子動力学シミュレーションにおいて、化合物分子の間の相互作用、化合物分子と水分子との相互作用、
および化合物分子と氷-水分子との相互作用をシミュレーションして計算することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の分子設計方法。
【請求項7】
前記作用は水素結合の形成可能性、ファンデルワールス作用、静電作用、疎水作用、
またはπ-π作用を含むことを特徴とする、請求項6に記載の分子設計方法。
【請求項8】
前記ステップ(2)の分子動力学シミュレーションにおいて、前記分子相互作用をシミュレーションして計算する場合、温度及び圧力を調整することを特徴とする、請求項
6に記載の分子設計方法。
【請求項9】
前記ステップ(2)の分子動力学シミュレーションにおいて、V-rescale温度コントローラ及び圧力コントローラを用いて温度及び圧力を調整することを特徴とする、請求項8に記載の分子設計方法。
【請求項10】
前記ステップ(2)の分子動力学シミュレーションにおいて、ポテンシャルパラメータを選択することにより化合物分子の分子配置を保持することを特徴とする、請求項8に記載の分子設計方法。
【請求項11】
前記ステップ(2)の分子動力学シミュレーションにおいて、水溶液系をシミュレーションする場合、x、y、zの三つの方向はいずれも周期性境界条件を採用し、氷水混合系をシミュレーションする場合、x、yの二つの方向は周期性境界条件を採用することを特徴とする、請求項8に記載の分子設計方法。
【請求項12】
前記ステップ(2)の分子動力学シミュレーションにおいて、立方体又は八面体の水ボックスを選択することを特徴とする、請求項8に記載の分子設計方法。
【請求項13】
前記ステップ(2)の分子動力学シミュレーションにおいて、3.9×3.6×1.0 nm
3の水ボックスを選択することを特徴とする、請求項8に記載の分子設計方法。
【請求項14】
前記化合物分子の主鎖は炭素鎖又はペプチド鎖構造であることを特徴とする、請求項1~13のいずれか一項に記載の分子設計方法。
【請求項15】
前記親水基は水分子と非共有結合作用を形成可能な官能基であり、
前記親氷基は氷と非共有結合作用を形成可能な官能基であることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の分子設計方法。
【請求項16】
前記親水基は水と水素結合、ファンデルワールス作用、静電作用、疎水作用又はπ-π作用を形成することができる官能基であることを特徴とする、請求項15に記載の分子設計方法。
【請求項17】
前記親水基はヒドロキシ基(-OH)、アミノ基(-NH
2)、カルボン酸基(-COOH)、アミド基(-CONH
2)から選ばれる少なくとも一種であ
るか、又は、
前記親水基は、化合物分子の分子断片から選ばれ、前記化合物分子は、プロリン(L-Pro)、アルギニン(L-Arg)、
およびリジン(L-Lys)
からなる群より選ばれる1種以上の親水アミノ酸、グルコノラクトン(GDL)、糖
類から選ばれることを特徴とする、請求項15に記載の分子設計方法。
【請求項18】
前記親氷基は氷と水素結合、ファンデルワールス作用、静電作用、疎水作用又はπ-π作用を形成することができる官能基であることを特徴とする、請求項15に記載の分子設計方法。
【請求項19】
前記親氷基はヒドロキシ基(-OH)、アミノ基(-NH
2)、フェニル基(-C
6H
5)、ピロリジニル基(-C
4H
8N)
から選ばれるか、又は、
前記親氷基は、化合物分子の分子断片から選ばれ、前記化合物分子は、グルタミン(L-Gln)、トレオニン(L-Thr)、
およびアスパラギン酸(L-Asn)
からなる群より選ばれる1種以上の親氷アミノ酸、ベンゼン環(C
6H
6)、ピロリジン(C
4H
9N
)から選ばれることを特徴とする、請求項15に記載の分子設計方法。
【請求項20】
前記氷制御材料は親水基を含有するブロックと親氷基を含有するブロックが共有結合により結合されるか、又は親水基を含有する分子と親氷基を含有する分子がイオン結合により結合されることを特徴とする、請求項1~19のいずれか一項に記載の分子設計方法。
【請求項21】
前記方法はさらに前記化合物分子を合成するステップを含むことを特徴とする、請求項1~20のいずれか一項に記載の分子設計方法。
【請求項22】
前記方法はさらに前記化合物分子を重合反応、脱水縮合反応、又は遺伝子工学菌生物発酵の方法で合成することを特徴とする、請求項21に記載の分子設計方法。
【請求項23】
(1
)氷制御材料の水との親和性を測定する、及び(2)前記氷制御材料の氷水界面での拡散性能を測定するステップを含むことを特徴とする、氷制御材料をスクリーニングする方法。
【請求項24】
前記ステップ(1)が前記氷制御材料の水での溶解度、水和定数、分散サイズ、及び/又は前記氷制御材料分子が水分子と形成された分子間水素結合数を測定する方法により測定されることを特徴とする、請求項23に記載の氷制御材料をスクリーニングする方法。
【請求項25】
前記ステップ(2)は氷吸着実験を用いて前記氷制御材料の氷表面での吸着量を測定し、
前記氷制御材料の氷表面での吸着量=(氷表面に吸着された氷制御材料の質量m
1/氷制御材料を含有する原溶液中の氷制御材料の総質量m
2)×100%であることを特徴とする、請求項23又は24に記載の氷制御材料をスクリーニングする方法。
【請求項26】
前記氷吸着実験は、
S1、前記氷制御材料の水溶液を調製し、過冷却温度まで冷却する、
S2、予冷された温度制御棒を前記水溶液に置いて氷層が温度制御棒の表面に成長するように誘導し、水溶液を撹拌し続けることにより、氷制御材料が氷層の表面に徐々に吸着し、温度制御棒及び水溶液の温度が前記過冷却温度にあるように保持する、及び
S3、氷制御材料の氷表面での吸着量を測定することを含むことを特徴とする、請求項25に記載の氷制御材料をスクリーニングする方法。
【請求項27】
前記温度制御棒は液体窒素、ドライアイス、又は超低温冷蔵庫凍結のうちのいずれか一種によって予冷することを特徴とする、請求項26に記載の氷制御材料をスクリーニングする方法。
【請求項28】
前記氷吸着実験過程において、前記過冷却温度及び吸着時間を一定に保持することにより得られた氷の表面積
を誤差許容範囲内で不変に保持することを確保することを特徴とする、請求項26に記載の氷制御材料をスクリーニングする方法。
【請求項29】
前記ステップS1における氷制御材料は予め蛍光で標識されることを特徴とする、請求項26~28のいずれか一項に記載の氷制御材料をスクリーニングする方法。
【請求項30】
前記ステップS1における氷制御材料は予めフルオレセインで標識されることを特徴とする、請求項29に記載の氷制御材料をスクリーニングする方法。
【請求項31】
前記ステップS1において、前記氷制御材料自体が紫外線又は蛍光スペクトル吸収特性を有する場合、蛍光標識を行わないことを特徴とする、請求項29に記載の氷制御材料をスクリーニングする方法。
【請求項32】
ステップS3は、
S3a、吸着された氷塊を取り出し、純水で洗浄し、融解して氷制御材料吸着溶液を得る、及び
S3b、融解した氷制御材料吸着溶液の体積Vを測定し、前記吸着溶液における氷制御材料の質量/体積濃度cを測定し、式m
1=cVにより氷表面に吸着された氷制御材料の質量m
1を計算して得ることを含むことを特徴とする、請求項26~31のいずれか一項に記載の氷制御材料をスクリーニングする方法。
【請求項33】
前記S3bにおいて、前記濃度cが紫外可視分光法により測定されることを特徴とする、請求項32に記載の氷制御材料をスクリーニングする方法。
【請求項34】
前記方法は氷晶成長制御材料をスクリーニングするために用いられることを特徴とする、請求項23~33のいずれか一項に記載の氷制御材料をスクリーニングする方法。
【請求項35】
前記方法はさらに、前記材料の水との親和性及び氷との親和性を評価するステップ(3)を含むことを特徴とする、請求項23~34のいずれか一項に記載の氷制御材料をスクリーニングする方法。
【請求項36】
多層液体貯蔵室と、温度制御棒と、温度コントローラとを含み、前記多層液体貯蔵室は内から外へ順に氷吸着室、温浴室、冷却液貯蔵室を含み、前記温度制御棒は氷吸着室内に置かれ、前記温度制御棒及び液体貯蔵室の温度は温度コントローラにより制御される、請求項25又は26に記載の方法のための氷吸着実験装置。
【請求項37】
前記温度制御棒は熱伝導材料で製造された中空構造であり、前記温度制御棒の中空構造に液体注入口及び液体排出口が設置され、前記温度コントローラは流体温度コントローラであり、前記温度コントローラに冷却液流出端及び還流端が設置され、前記冷却液貯蔵室の両端に液体注入口及び液体排出口が設置され、前記温度コントローラの冷却液流出端、温度制御棒の液体注入口、温度制御棒の液体排出口、冷却液貯蔵室の液体注入口、冷却液貯蔵室の液体排出口、及び温度コントローラの還流端は順に管路を介して連通し、前記管路内に冷却液が流れることを特徴とする、請求項36に記載の氷吸着実験装置。
【請求項38】
前記多層液体貯蔵室にカバーが設置されることを特徴とする、請求項37に記載の氷吸着実験装置。
【請求項39】
前記氷吸着実験装置の使用時、前記氷吸着室内に氷制御材料の水溶液が収容され、中間層温浴室に所定温度の温浴媒体が収容され、冷却液の温度が設定温度に達した後、温度コントローラから流出し、中空の温度制御棒の中空構造に流入し、温度制御棒の温度を制御し、次に温度制御棒の液体排出口から流出し、さらに外層冷却液貯蔵室に流入して温浴媒体の温度を所定のレベルに保持し、さらに冷却液貯蔵室の液体排出口により温度コントローラの還流端を流れて温度コントローラに入って循環することを特徴とする、請求項37に記載の氷吸着実験装置。
【請求項40】
前記温浴媒体は、水浴、氷浴又は油浴であることを特徴とする、請求項39に記載の氷吸着実験装置。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本願は、2019年4月9日に中国国家知識産権局に提出された、特許出願番号が2019102824189、2019102824225、2019102824174、201910282416X、2019102819867の先行出願の優先権を主張する。前記先行出願は、その全体が引用により本願に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は医用生体材料の技術分野に属し、具体的にはバイオニック氷制御材料及びこのバイオニック氷制御材料を含有する凍結保存液に関する。
【0003】
背景技術
凍結保存とはバイオ材料を超低温状態下で保存することにより、細胞の新陳代謝及び分裂速度を低下させるか又は停止させ、一旦正常な生理的温度に回復すると成長し続けられることである。この技術は登場して以来、自然科学分野に不可欠な研究方法の一つとなり、既に広く採用されている。近年、生活ストレスの増加に伴い、ヒトの生殖能力は年々低下する傾向を呈し、生殖能力の保存はますます人々に重視され、ヒト生殖細胞(精子、卵母細胞)、生殖腺組織などの凍結保存は生殖能力を保存する重要な手段となっている。また、世界の人口高齢化が激しくなるにつれて、寄付された再生医学及び臓器移植に用いることができるヒト由来細胞、組織又は器官の凍結保存に対する需要も急速に増加する。従って、どのように貴重な細胞、組織及び器官資源を効率的に凍結保存して使用に備えるかは早急に解決すべき科学技術的問題となる。
【0004】
現在最も一般的に使用される凍結保存方法はガラス化凍結である。ガラス化凍結技術は浸透性又は非浸透性の低温保護剤を採用し、急速凍結過程において細胞内外の液体をガラス状態に直接的にすることができ、それにより凍結過程において氷晶の形成による損傷を回避する。しかしながら、温度回復過程において、従来の凍結保存試薬は氷晶の成長を効果的に制御することができず、それにより細胞を損傷する。不凍タンパク質とバイオニック氷制御材料の分子レベルでの氷制御メカニズムにはまだ議論の余地があるため、バイオニック氷制御材料の研究開発は「試行錯誤法」に依存してある氷制御材料の氷制御効果を徐々に試み、作業負荷が大きく、成功確率が低い。現在一般的に使用される凍結保存試薬は温度回復過程において氷晶成長を効果的に制御する能力を備えず、かつ試薬の毒性が大きい。
【0005】
発明の概要
上記従来技術の欠点を改善するために、本発明はバイオニック氷制御材料の分子設計方法及び氷制御材料のスクリーニング方法を提供し、人々がバイオニック氷制御材料を合成してスクリーニングすることを指導することができ、本発明はさらにこの方法に基づいて得られたバイオニック氷制御材料及びこれらの材料を含有する凍結保存試薬を提供する。
【0006】
本発明は以下の技術案を提供する。
【0007】
本発明の第1態様は、以下のステップを含む、氷制御材料の分子設計方法を提供する。
【0008】
(1)親水基及び親氷基(ice-philic group)を含有する化合物分子構造のライブラリを構築する。
【0009】
(2)分子動力学シミュレーション(Molecular dynamics simulation、MD)を採用し、各化合物分子の氷水二相界面での拡散性能をシミュレーションして評価する。
【0010】
(3)ステップ(2)に基づいて必要な氷親和性及び水親和性の氷制御分子をスクリーニングする。
【0011】
本発明によれば、前記氷制御分子の主鎖は炭素鎖又はペプチド鎖構造である。
【0012】
本発明によれば、前記親水基は水分子と非共有結合作用を形成可能な官能基であり、例えば水と水素結合、ファンデルワールス作用、静電作用、疎水作用又はπ-π作用などを形成することができる。例示的には、前記親水基はヒドロキシ基(-OH)、アミノ基(-NH2)、カルボン酸基(-COOH)、アミド基(-CONH2)などから選ばれる少なくとも一種であり、又は、例えばプロリン(L-Pro)、アルギニン(L-Arg)、リジン(L-Lys)などの親水アミノ酸、グルコノラクトン(GDL)、糖類などの化合物又はその分子断片から選ばれる。
【0013】
本発明によれば、前記親氷基は氷と非共有結合作用を形成可能な官能基であり、例えば氷と水素結合、ファンデルワールス作用、静電作用、疎水作用又はπ-π作用などを形成することができる。例示的には、前記親氷基はヒドロキシ基(-OH)、アミノ基(-NH2)、フェニル基(-C6H5)、ピロリジニル基(-C4H8N)、又は、例えばグルタミン(L-Gln)、トレオニン(L-Thr)、アスパラギン酸(L-Asn)などの親氷アミノ酸、ベンゼン環(C6H6)、ピロリジン(C4H9N)などの化合物又はその分子断片から選ばれる。
【0014】
本発明によれば、前記氷制御材料は親水基と親氷基が共有結合により結合されて形成されてもよい。
【0015】
本発明によれば、前記氷制御材料は親水基と親氷基が非共有結合、例えばイオン結合作用により形成されてもよい。
【0016】
本発明によれば、前記方法はステップ(4)をさらに含む。前記氷制御分子(氷制御材料)を合成するステップであり、例えば既知の化学合成方法、例えば重合反応、縮合反応、又は遺伝子工学菌生物発酵などの方法により合成することができる。
【0017】
本発明はさらに第1態様に記載の分子設計方法で得られた氷制御材料を提供する。
【0018】
本発明の第2態様は、以下のステップを含む、氷制御材料をスクリーニングする方法を提供する。(a)氷制御材料が水との親和性を測定する。(b)前記氷制御材料の氷水界面での拡散性能を測定する。
【0019】
本発明の実施形態として、前記ステップ(a)は前記氷制御材料の水での溶解度、水和定数、分散サイズ、拡散係数などを測定し、及び/又は前記氷制御材料が水分子と形成された分子間水素結合数を計算するなどの方法により測定することができる。具体的には、例えば分子動力学シミュレーション(Molecular dynamics simulation、MD)を用いて前記氷制御材料分子が水分子と形成された分子間水素結合数を測定し、又は動的光散乱を用いて前記氷制御材料の水溶液での分散サイズを測定する。
【0020】
本発明の実施形態として、前記ステップ(b)は氷水界面での前記氷制御材料の氷表面での吸着含有量を測定することによって前記材料の氷水界面での拡散性能を取得し、及び/又は前記氷制御材料と氷-水分子で形成された分子間水素結合数を計算するなどの方法で前記材料と氷との親和性を測定することができる。具体的には、例えばMDシミュレーションを用いて前記氷制御分子が氷-水分子と形成された分子間水素結合数を測定し、又は氷吸着実験を用いて氷水界面で前記氷制御材料分子の氷表面での吸着量を測定する。
【0021】
本発明によれば、前記氷吸着実験は前記氷制御材料の氷表面での吸着量を測定することを含む。
【0022】
本発明によれば、前記氷制御材料の氷表面での吸着量=(氷表面に吸着された氷制御材料の質量m1/氷制御材料を含有する原溶液中の氷制御材料の総質量m2)×100%。
【0023】
本発明の実施形態として、前記氷吸着実験は以下のステップを含む。
【0024】
S1、質量がm2である氷制御材料を取り、前記氷制御材料の水溶液を調製し、過冷却温度まで冷却する。
【0025】
S2、予冷された温度制御棒を前記水溶液に置いて氷層が温度制御棒の表面に成長するように誘導し、水溶液を撹拌し続けることにより、氷制御材料が氷層の表面に徐々に吸着し、水溶液、温度制御棒の温度が過冷却温度にあるように保持する。
【0026】
S3、氷制御材料の氷表面での吸着量m1を測定する。
【0027】
本発明の実施形態によれば、前記温度制御棒は熱伝導材料で製造された棒状物である。前記棒状物は、中実であっても中空であってもよい。前記温度制御棒が中空である場合、その中空キャビティに冷却液が流れ、冷却液の温度を制御することにより温度制御棒の温度を制御し、それにより氷塊の成長速度を制御することができる。
【0028】
本発明の実施形態によれば、前記温度制御棒は液体窒素、ドライアイス、超低温冷蔵庫凍結などの方式のうちの一種によって予冷することができる。
【0029】
本発明の実施形態によれば、前記氷吸着実験過程において、過冷却度及び吸着時間を不変に保持することにより温度制御棒の表面で得られた氷の表面積を誤差許容範囲内で不変に保持する。
【0030】
本発明の実施形態によれば、異なる濃度の氷制御材料の水溶液を調製し、氷吸着実験を行い、同じ氷制御材料の具体的な応用時の適用濃度範囲を評価することができる。
【0031】
本発明の実施形態によれば、前記ステップS1における氷制御材料は予め蛍光標識されたものであってもよく、例えばフルオレセインで標識し、前記フルオレセインはフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラエチルローダミン(RB200)、テトラメチルイソチオシアネート(TRITC)、ヨウ化プロピジウム(PI)などのうちの少なくとも一種から選択することができる。当業者に理解されるように、前記蛍光標識の作用は前記氷制御材料の量を測定することである。従って、前記氷制御材料の吸着量は他の方式で正確に測定することができるか、又は材料自体が紫外又は蛍光スペクトル吸収特性を有する場合、蛍光標識を行う必要がない。
【0032】
本発明の実施形態によれば、ステップS3は以下のことを含む。
【0033】
S3a、吸着された氷塊を取り出し、純水で氷表面を洗浄し、氷塊を融解して氷制御材料吸着溶液を得る。
【0034】
S3b、融解した氷制御材料吸着溶液の体積Vを測定し、前記吸着溶液における氷制御材料の質量/体積濃度cを測定し、式m1=cVにより氷表面に吸着された氷制御材料の質量m1を計算して得る。
【0035】
本発明の実施形態によれば、前記S3bにおいて、前記濃度cは本分野の既知の方法により測定することができ、例えば紫外可視分光法、蛍光分光法などである。
【0036】
本発明によれば、前記方法は氷晶成長制御材料のスクリーニングに用いられ、例えばPVA、ポリアミノ酸、不凍タンパク質、ポリペプチドなどである。
【0037】
本発明によれば、前記方法はステップ(a)及び/又は(b)の後にさらにステップ(c)を含む。前記材料が水との親和性及び氷水界面での拡散性能を評価し、拡散能力が高い材料は良好な氷制御性能を有する。
【0038】
本発明のステップ(c)の具体的な評価案として、一定の氷表面積をカバーするために必要な氷制御材料の使用量が小さいほど、その拡散性能が高いことを示す。即ち、広がり係数S>0を満たし、ここでS=γI-W - (γIRIA-I +γIRIA-W)、γI-Wは定数であり、即ち、氷水界面エネルギーγI-Wは材料と氷及び材料と水との界面エネルギーの和γIRIA-I + γIRIA-W(γIRIA-Iは材料と氷との界面エネルギー、γIRIA-Wは材料と水との界面エネルギー)より大きい。
【0039】
本発明において、過冷却温度とは水の凝固点より低いが依然として凝固しないか又は結晶化しない温度を指し、室温25℃である場合、前記過冷却温度は一般的に-0.01~-0.5℃の範囲内にあり、例えば-0.1℃である。本発明はさらに氷吸着実験装置を提供し、多層液体貯蔵室と、温度制御棒と、温度コントローラとを含む。前記多層液体貯蔵室は内から外へ順に氷吸着室、温浴室、冷却液貯蔵室を含む。前記温度制御棒は氷吸着室内に置かれ、 前記温度制御棒及び液体貯蔵室の温度は温度コントローラにより制御される。
【0040】
本発明の氷吸着実験装置によれば、前記温度制御棒は熱伝導材料で製造された中空構造であり、前記温度制御棒の中空構造に液体注入口及び液体排出口が設置される。前記温度コントローラは流体温度コントローラであり、前記温度コントローラに冷却液流出端及び還流端が設置される。前記冷却液貯蔵室の両端に液体注入口及び液体排出口が設置される。前記温度コントローラの冷却液流出端、温度制御棒の液体注入口、温度制御棒の液体排出口、冷却液貯蔵室の液体注入口、冷却液貯蔵室の液体排出口、及び温度コントローラの還流端は順に管路を介して連通し、前記管路内に冷却液が流れる。
【0041】
本発明の氷吸着実験装置によれば、前記多層液体貯蔵室にカバーが設置される。
使用時、前記氷吸着室内に氷制御材料の水溶液が収容され、中間層温浴室に所定温度の温浴媒体例えば水浴、氷浴又は油浴などが収容される。冷却液の温度が設定温度に達した後、温度コントローラから流出し、中空の温度制御棒の中空構造に流入し、温度制御棒の温度を制御し、次に温度制御棒の液体排出口から流出し、さらに外層冷却液貯蔵室に流入して温浴媒体の温度を所定のレベルに保持し、さらに冷却液貯蔵室の液体排出口により温度コントローラの還流端を流れて温度コントローラに入って循環する。
本発明の氷制御材料の分子設計方法及び氷制御材料のスクリーニング方法は、互いに独立して行われてもよく、組み合わせて行われてもよい。一実施形態において、本発明は氷制御材料を設計してスクリーニングする全フロー方法を提供し、順に以下のステップを含む。第1態様に記載の分子設計ステップ、第2態様に記載の氷制御材料をスクリーニングするステップである。
【0042】
具体的には、前記方法は以下のステップを含む。
【0043】
(1)親水基及び親氷基を含有する化合物分子構造のライブラリを構築する。
【0044】
(2)分子動力学シミュレーション(Molecular dynamics simulation、MD)を採用し、各化合物分子の氷水二相界面での拡散性能をシミュレーションして評価する。
【0045】
(3)ステップ(2)の結果に基づいて必要な氷親和性及び水親和性の氷制御分子をスクリーニングする。
【0046】
(4)スクリーニングされた氷親和性及び水親和性を有する氷制御分子(氷制御材料)を合成する。
【0047】
(5)氷制御材料が水との親和性を測定する。
【0048】
(7)前記氷制御材料の氷水界面での拡散性能を測定する。
【0049】
本発明の技術案によれば、前記ステップ(7)の後に前記拡散性能を評価するステップ(c)をさらに含み、前記材料が水との親和性及び氷水界面での拡散性能を評価し、拡散能力が高い材料は良好な氷制御性能を有する。
【0050】
本発明のステップ(c)の具体的な評価案として、一定の氷表面積をカバーするために必要な氷制御材料の使用量が小さいほど、その拡散性能が高いことを示す。即ち、広がり係数S>0を満たし、ここでS=γI-W - (γIRIA-I + γIRIA-W)、γI-Wは定数であり、即ち、氷水界面エネルギーγI-Wは材料と氷及び材料と水との界面エネルギーの和γIRIA-I +γIRIA-W(γIRIA-Iは材料と氷との界面エネルギー、γIRIA-Wは材料と水との界面エネルギー)より大きい。
【0051】
上記分子設計方法及びスクリーニング方法に基づいて、本発明の発明者らはヒドロキシステレオタクティシティがポリビニルアルコールPVAの氷晶成長制御能力に影響を与えることを発見し、かつさらに特定のシンジオタクティシティのポリビニルアルコール(PVA)が非常に優れた氷晶成長制御能力を有し、前記PVAのシンジオタクティシティ(diad syndiotacticity)rが45%~60%であり、分子量が10 kDa-500 kDaであることを発見した。好ましくは、前記PVAのシンジオタクティシティrが50%~55%であり、分子量が10-30 kDaである。
【0052】
本発明の発明者らはさらに様々なペプチド化合物、例えばジペプチド、トリペプチド、ペプトイド、糖ペプチド化合物を設計して合成し、非常に優れた氷晶成長制御能力を有する。
【0053】
前記ペプチド化合物は親氷性アミノ酸、例えばトレオニン(L-Thr)、グルタミン(L-Gln)、アスパラギン酸(L-Asn)などと他の親水アミノ酸又はグルコラクトン(GDL)又は糖類とを反応させて得られ、前記他の親水アミノ酸はアルギニン、プロリン、アラニンなどから選ばれる。前記ペプチド化合物は親氷基を含有するアミノ酸と親水基を含有するアミノ酸とで構成される。一実施形態において、前記ペプチド化合物を構成するアミノ酸は二種以上のアミノ酸、又は一種以上のアミノ酸とグルコラクトン又は糖類である。
【0054】
本発明はさらにいくつかの特定のアミノ酸又はポリアミノ酸が非常に優れた氷晶成長制御能力を有することを発見した。
【0055】
前記アミノ酸は親氷基及び親水基を含有するアミノ酸であり、前記ポリアミノ酸はアミノ酸ホモポリマーであり、例えば前記アミノ酸はアルギニン、トレオニン、プロリン、リジン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシンなどのアミノ酸のホモポリマーから選ばれる。好ましくは重合度が2-40であり、より好ましくは重合度が2-20であり、例えば重合度が6、8、15、20などであり、例えばポリ-L-プロリン、ポリ-L-アルギニンなどのうちの一種又は二種以上の組み合わせである。
【0056】
例示的には、前記アミノ酸はアルギニン、トレオニン、プロリン、リジン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシンなどのうちの一種又は二種から選ばれる。例えばアルギニンとトレオニンの組み合わせである。
【0057】
本発明の第3態様は、第1態様の方法で設計された氷制御材料、又は第2態様の前記方法でスクリーニングされた氷制御材料を含む、凍結保存液を提供する。一実施形態において、前記氷制御材料はポリビニルアルコール(PVA)、アミノ酸又はポリアミノ酸、及び/又はペプチド化合物の一種又は複数種の組み合わせである。前記凍結保存液はさらにポリオール、水溶性糖類(又はその誘導体、例えば水溶性セルロース)及び緩衝液を含む。
【0058】
一実施形態において、前記凍結保存液はペプチド化合物を含み、凍結保存液100 mL当たりに、0.1-50 gの前記ペプチド化合物、0-6.0 gのPVA、0-9.0 gのポリアミノ酸、0-15 mLのDMSO、5-45 mLのポリオール、0.1-1.0 mol L-1の水溶性糖類、0-30 mLの血清を含有し、残量は緩衝液である。
【0059】
一実施形態において、前記凍結保存液はポリビニルアルコールを含み、凍結保存液100 mL当たりに、0.01-6.0gのPVA、0-50 gの前記ペプチド化合物、0-9.0 gのポリアミノ酸、0-15 mLのDMSO、5-45 mLのポリオール、0.1-1.0 mol L-1の水溶性糖類、0-30 mLの血清を含有し、残量は緩衝液である。
【0060】
一実施形態において、前記凍結保存液はアミノ酸又はポリアミノ酸を含み、凍結保存液100 mL当たりに、0.1-50 gのアミノ酸又はポリアミノ酸、0-6.0 gのPVA、0-15 mLのDMSO、5-45 mLのポリオール、0.1-1.0 mol L-1の水溶性糖類、0-30 mLの血清を含有し、残量は緩衝液である。本発明によれば、100 mL当たりの凍結保存液における前記アミノ酸及び/又はポリアミノ酸の含有量は0.5-50 gであり、好ましくは1.0-35 gであり、例えば、アミノ酸を含有する場合、その含有量は5.0-35 gであってもよく、好ましくは15-25 gである。ポリアミノ酸を含有する場合、その含有量は0.5-9.0 gであってもよく、好ましくは1.0-5.0 gである。
【0061】
本発明によれば、前記ポリオールは炭素原子数が2-5のポリオールであってもよく、好ましくは炭素原子数が2-3のジオール、及び/又はトリオールであり、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンのうちのいずれか一種である。好ましくはエチレングリコールである。
【0062】
本発明によれば、前記水溶性糖は非還元二糖類、水溶性多糖類、水溶性セルロース、配糖体のうちの少なくとも一種であってもよく、例えばスクロース、トレハロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、フィコールから選ばれる。好ましくはスクロースである。前記水溶性糖類は細胞膜を保護し細胞沈降を回避する役割を果たすことができる。
【0063】
本発明によれば、前記緩衝液はDPBS又はhepes-buffered HTF緩衝液、又は他の細胞培養緩衝液のうちの少なくとも一種から選択することができる。
【0064】
本発明によれば、前記血清は、ヒト由来の凍結保存対象に対してヒト血清アルブミン又はその代替物、例えば、ドデシルスルホン酸ナトリウムを選ぶことができ、非ヒト由来の凍結保存物に対してウシ胎児血清又はウシ血清アルブミンを選ぶことができる。
【0065】
本発明によれば、100 mL当たりの凍結保存液における前記DMSO含有量は0-10 mLであり、好ましくはDMSO含有量は1.0-7.5 mLであり、例えば1.5-5 mLである。本発明の別の実施形態として、100 mL当たりの凍結保存液における前記DMSO含有量は0である。
【0066】
本発明によれば、100 mL当たりの凍結保存液における前記血清含有量は0.1-30 mLであり、例えば5.0-20 mLであり、10-15 mLである。本発明の別の実施形態として、100 mL当たりの凍結保存液における前記血清含有量は0である。
【0067】
本発明によれば、100 mL当たりの凍結保存液における前記水溶性糖類含有量は0.1-1.0 mol L-1であり、例えば0.1-0.8 mol L-1、0.2-0.6 mol L-1である。具体的には、例えば0.25 mol L-1、0.5 mol L-1、1.0 mol L-1である。
【0068】
本発明によれば、100 mL当たりの凍結保存液における前記ポリオールは、含有量が5.0-40 mLであり、例えば6.0-20 mL、9-15 mLである。
【0069】
本発明によれば、前記凍結保存液のpHは6.5-7.6であり、例えば6.9-7.2である。本発明によれば、前記ペプチド化合物又はアミノ酸、ポリアミノ酸は以上に記載の意味を有する。
【0070】
本発明によれば、前記PVAはアイソタクチックPVA、シンジオタクチックPVA及びランダムPVAの一種又は二種以上の組み合わせから選ばれ、例えば前記PVAのシンジオタクティシティは15%-65%であり、具体的には例えば40%-60%、53%-55%である。好ましくはランダムPVAであり、例えば前記PVAのシンジオタクティシティが45%-65%のPVAである。
【0071】
本発明によれば、前記PVAは分子量が10-500 kDa又はより高い分子量のPVAから選択することができ、例えば分子量が10-30 kDa、30-50 kDa、80-90 kDa、200-500 kDaである。
【0072】
本発明によれば、前記PVAは加水分解度が80%より大きいPVAから選択することができ、例えば加水分解度が80%-99%、82-87%、87%-89%、89%-99%、98%-99%である。
【0073】
本発明の一実施形態として、前記凍結保存液100 mL当たりに、以下の成分を含有する。アミノ酸0.5-50g、ポリオール5.0-45 mL、DMSO 0-10 mL、血清0.1-30 mL、水溶性糖類0.1-1.0 mol L-1、残量の緩衝液。好ましくは、前記凍結保存液100 mL当たりに、以下の成分を含有する。L-Arg 2.0-20g、L-Thr 1.0-10g、エチレングリコール5.0-15 mL、DMSO 5.0-10 mL、血清5.0-20 mL、スクロース0.1-1.0 mol L-1、残量のDPBS。
【0074】
本発明の一実施形態として、前記凍結保存液100 mL当たりに、以下の成分を含有する。ポリアミノ酸0.5-9.0g、ポリオール5.0-45 mL、DMSO 0-10 mL、血清5.0-20 mL、水溶性糖類0.1-1.0 mol L-1、残量の緩衝液。好ましくは、前記凍結保存液100 mL当たりに、以下の成分を含有する。ポリ-L-プロリン又はポリ-L-アルギニン1.0-8.0g、エチレングリコール5-45 mL、DMSO 0.1-10 mL、血清5.0-20 mL、スクロース0.1-1.0 mol L-1、残量のDPBS。
【0075】
本発明の一実施形態として、前記凍結保存液100 mL体積当たりに、以下の成分を含む。PVA 0.01-6.0g、ポリオール5.0-45 mL、血清0.1-30 mL、水溶性糖類0.1-1.0 mol L-1、残量の緩衝液。
【0076】
好ましくは、前記凍結保存液100 mL体積当たりに、以下の成分を含む。PVA 0.01-6.0g、エチレングリコール5.0-30 mL、血清10-20 mL、スクロース0.1-0.6 mol L-1、残量のDPBS。
【0077】
本発明の一実施形態として、前記凍結保存液100 mL体積当たりに、以下の成分を含む。PVA 1.0-5.0g、ポリオール5.0-20 mL、DMSO 0.1-10 mL、血清0.1-20 mL、水溶性糖類0.2-0.8 mol L-1、残量の緩衝液。好ましくは、前記凍結保存液100 mL体積当たりに、以下の成分を含む。PVA 1.0-4.0g、エチレングリコール5.0-15 mL、DMSO 4-10 mL、血清10-20 mL、スクロース0.2-0.6 mol L-1、残量のDPBS。
【0078】
本発明の一実施形態として、前記凍結保存液100 mL体積当たりに、以下の成分で構成される。PVA 0.1-6.0g、ポリオール10-45 mL、水溶性糖類0.2-1.0 mol L-1、残量の緩衝液。好ましくは、前記凍結保存液100 mL体積当たりに、以下の成分で構成される。PVA 1.0-5.0g、エチレングリコール5.0-20 mL、スクロース0.2-0.6 mol L-1、残量のDPBS。
【0079】
本発明の一実施形態として、前記凍結保存液100 mL体積当たりに、以下の成分を含有する。ポリアミノ酸0.5-9.0g、ポリオール5.0-45 mL、PVA 0.1-6g、血清0-20 mL、水溶性糖類0.1-1.0 mol L-1、残量の緩衝液。好ましくは、前記凍結保存液100 mL体積当たりに、以下の成分を含有する。ポリ-L-プロリン又はポリ-L-アルギニン1.0-8.0g、エチレングリコール5-45 mL、PVA 0.1-6g、血清5.0-20 mL、スクロース0.1-1.0 mol L-1、残量のDPBS。
【0080】
本発明はさらに、以下のステップを含む、上記凍結保存液の調製方法を提供する。
【0081】
(1)それぞれ前記アミノ酸又はポリアミノ酸、ポリビニルアルコール、ペプチド化合物のうちのいずれか一種又は複数種を称量し、それぞれ一部の緩衝液に溶解し、pHを調整した後に溶液を形成する。
【0082】
(2)水溶性糖を他の部分の緩衝液に溶解し、水溶性糖類が全て溶解した後に血清以外の他の成分を添加し、溶液を調製する。
【0083】
(3)ステップ(1)及びステップ(2)の溶液を室温まで冷却した後に混合し、pHを調整し緩衝液で所定の体積に定容し、前記凍結保存液を得る。
【0084】
本発明の凍結保存液の調製方法によれば、前記凍結保存液が血清を含有する場合、前記血清は前記凍結保存液を使用する場合に添加される。
【0085】
本発明の調製方法によれば、前記PVAを溶解する時、温浴で加熱して撹拌し、例えば水浴又は油浴で加熱し、例えば水浴温度は65-85℃、70-80℃であり、前記撹拌は機械的撹拌例えば磁気撹拌である。
【0086】
本発明の調製方法によれば、前記水溶性糖類の溶解は超音波補助溶解である。
【0087】
本発明の凍結保存液は、凍結平衡液と配合して使用することができる。一実施形態において、本発明は凍結平衡液を提供し、100 mL当たりに、5.0-45 mLのポリオール、残量の緩衝液を含有する。
【0088】
本発明の凍結平衡液によれば、さらに好ましくは任意選択的にDMSO 0-15 mL、血清0-30 mL、及び/又はPVA 0-5.0 gを含む。
【0089】
本発明の凍結平衡液によれば、前記ポリオールの含有量は6.0-28 mLであり、例えば7.0-20 mLであり、10-15 mLである。
【0090】
本発明の凍結平衡液によれば、前記DMSO含有量は0.1-15 mLであり、例えば1.0-10 mL、5.0-7.5 mLである。本発明の一実施形態として、前記DMSOの含有量は0である。
【0091】
本発明の凍結平衡液によれば、前記血清含有量は0.1-30 mLであり、例えば5.0-20 mLであり、10-15 mLである。本発明の一実施形態として、前記血清の含有量は0である。
【0092】
本発明の凍結平衡液によれば、前記PVA含有量は0.1-5.0 gであり、例えば0.1 g、0.5 g、1.0 g、2.0 gである、本発明の一実施形態として、前記PVAの含有量は0である。
【0093】
本発明の凍結平衡液において、前記ポリオール、血清、緩衝液は前記凍結保存液において同じ種類から選択することができる。一実施形態において、前記凍結保存液が血清を含有しない場合、前記凍結平衡液にPVAを添加する。
【0094】
本発明の一実施形態として、前記凍結平衡液は100 mL当たりに、ポリオール5.0-7.5 mL、DMSO 5.0-7.5 mL、血清10-20 mL、残量の緩衝液を含有する。
【0095】
本発明の一実施形態として、前記凍結平衡液は100 mL当たりに、ポリオール7.5-15 mL、血清10-20 mL、残量の緩衝液を含有する。
【0096】
本発明の一実施形態として、前記凍結平衡液は100 mL当たりに、PVA 1.0-5.0g、ポリオール7.5-15 mL、残量の緩衝液を含有する。
【0097】
本発明はさらに上記凍結平衡液の調製方法を提供し、各成分を緩衝液に溶解し、血清を単独で保存し、使用時に添加することを含む。
【0098】
上記凍結平衡液及び上記凍結保存液を含む、凍結保存用試薬であって、前記平衡液及び保存液は互いに独立して存在する。
【0099】
本発明の凍結保存用試薬によれば、前記凍結保存液が血清を含有しない場合、前記凍結平衡液にPVAを添加する。
【0100】
具体的には、前記凍結保存液中のDMSO含有量が0である場合、前記凍結平衡液は100 mL当たりに、PVA 0-5.0g、ポリオール7.5-15 mL、血清10-20 mL、残量の緩衝液を含有する。前記凍結保存液中のDMSO及び血清の含有量がいずれも0である場合、前記凍結平衡液は100 mL当たりに、PVA 1.0-5.0g、ポリオール7.5-15 mL、残量の緩衝液を含有する。
【0101】
本発明の上記凍結保存液又は凍結保存平衡液又は両者の組み合わせは各種類の細胞、組織、器官の凍結保存に用いることができる。各種類の細胞は生殖細胞、例えば卵母細胞、精子、各種の幹細胞、例えば間葉系幹細胞を含むが、これらに限定されない。各種類の組織は卵巣組織、胚組織、受精卵を含むが、これらに限定されない。各種類の器官は卵巣又は他の哺乳動物器官を含むが、これらに限定されない。
【0102】
さらに、本発明は上記凍結保存液又は凍結保存平衡液又は両者の組み合わせの細胞、組織、器官凍結保存における応用を提供する。一実施形態において、上記凍結保存液又は凍結保存平衡液又は両者の組み合わせは卵母細胞の凍結保存に用いられる。一実施形態において、上記凍結保存液又は凍結保存平衡液又は両者の組み合わせは胚の凍結保存に用いられる。一実施形態において、上記凍結保存液又は凍結保存平衡液又は両者の組み合わせは卵巣組織又は卵巣器官の凍結保存に用いられる。一実施形態において、上記凍結保存液又は凍結保存平衡液又は両者の組み合わせは幹細胞の凍結保存に用いられる。
【0103】
本発明はさらに、以下のステップを含む、細胞又は胚の凍結及び回復方法を提供する。
【0104】
(1)細胞又は胚を本発明の凍結保存液に置き、細胞懸濁液に調製し、凍結を行う。
【0105】
(2)凍結した細胞又は胚を融解液に入れて融解して回復する。
【0106】
本発明の前記凍結及び回復方法において、前記細胞又は胚を凍結保存液に置かれる前に、まず平衡液に入れて平衡化を行う。
【0107】
本発明は幹細胞を凍結保存する方法をさらに提供し、微滴法を採用し、例えば前記幹細胞を凍結保存する方法は以下のステップを含む。凍結保存液を幹細胞に添加し、吹き付けて分散させ、幹細胞懸濁液に調製し、幹細胞懸濁液を凍結キャリアシートに置き、液体窒素(-196℃)で凍結保存する。
【0108】
本発明の実施形態によれば、凍結保存された幹細胞の融解は幹細胞が置かれた凍結キャリアシートをa-MEM培地に置き、37℃で融解することを含む。
【0109】
本発明の実施形態によれば、前記幹細胞は本分野の既知の分化機能を有する様々な幹細胞であり、例えば全能性幹細胞、多能性幹細胞又は単能幹細胞であり、胚性幹細胞、各種間葉系幹細胞(例えば臍帯間葉系幹細胞、脂肪間葉系幹細胞、骨髄間葉系幹細胞など)、造血幹細胞などを含むが、それらに限定されない。
【0110】
本発明はさらに、以下のステップを含む、器官及び/又は組織の凍結保存方法を提供する。器官及び/又は組織を凍結平衡液中で平衡化し、次に器官及び/又は組織を凍結保存液に入れ、さらに器官及び/又は組織を凍結キャリアシートに置き、液体窒素で凍結保存する。
【0111】
一実施形態において、前記器官及び/又は組織は卵巣組織又は卵巣器官であり、卵巣組織切片又は完全な卵巣組織であってもよい。
【0112】
本発明における「凍存」と「凍結保存」は同じ意味を有し、交換して使用することができ、低温である物質又は細胞、組織、器官を保存することにより、それがその本来の物理化学及び/又は生物活性、生理生化学的機能を保持することを指す。
【0113】
本発明において「氷制御分子」又は「氷制御材料」は同じ意味を有し、水溶液中の氷晶の成長能力を抑制するという能力を有する化合物を指す。一実施形態において、前記氷制御分子は氷水界面で良好な拡散性能を有し、氷晶のサイズを減少させることができ、又は前記氷制御分子は熱ヒステリシスを持たないか又は十分に小さい熱ヒステリシスを有し、水溶液中の氷晶の形成を顕著に減少させることができる。
【0114】
有益な効果
1. 本発明は初めて氷制御分子が氷水混合相において氷晶成長を制御するメカニズムを発見し、氷制御材料は氷と水といずれも良好な親和性を有する必要がある。氷制御分子が氷と親和性を有すると氷表面によく吸着すること保証される。分子が水と親和性を有すると氷水界面でよりよく広がることを確保され、それによりできるだけ少量の材料を用いて、最大の氷表面積をカバーすることを実現する。この氷制御メカニズムに基づいて、親氷性能及び親水性能を両立する氷制御分子を設計する設計構想を提供し、氷制御材料の合成に新たな方法を提供する。
【0115】
2. 本発明は初めてMDシミュレーションを氷制御材料の分子構造設計に導入し、分子動力学シミュレーションにより設計された氷制御分子の氷親和性及び水親和性を評価し、氷制御材料の氷制御性能を予測し、構造最適化を実現することができる。
【0116】
3. 本発明は氷制御メカニズムとMDシミュレーションを結合する方式により、現在の氷制御材料の開発過程において「実験試行錯誤法」のみにより従来の材料に対して性能分析を行って材料をスクリーニングするという制限をよく解決し、分子構造設計の新たな考え方を提供し、氷制御材料の開発及び応用に対して大きな促進作用を有する。
【0117】
4. 本発明の提供する凍結保存液の供給源が広く、生体適合性が高く、毒性が小さく、安全性が高く、かつDMSOの使用量を大幅に減少させ、さらにDMSOを添加しない場合にも15%のDMSOを含有する従来の商業化凍結保存液と同等かさらに高い細胞生存率を達成することができる。本発明の凍結保存液は構成が簡単であり、原料の供給源が便利であり、コストが低く、様々な細胞、組織の凍結保存に広く応用することができ、例えば卵母細胞、胚、幹細胞、卵巣組織、卵巣器官などの凍結保存に広く応用することができ、いずれも良好な生物活性を保持することができる。
【0118】
図面の簡単な説明
〔
図1〕氷制御材料の分子構造概略図である。
【0119】
〔
図2〕アタクチックポリビニルアルコール(a-PVA)とアイソタクチックポリビニルアルコール(i-PVA)の氷水界面での凝集状態をMDシミュレーションすることを示す図である。
【0120】
〔
図3〕実施例1で合成されたa-PVAの水素核磁気共鳴スペクトルである。
【0121】
〔
図4〕実施例1で合成されたPBVEとi-PVAの水素核磁気共鳴スペクトルであり、AはPBVEであり、Bはi-PVAである。
【0122】
〔
図5〕実施例1で合成されたPBVEのGPC曲線である。
【0123】
〔
図6〕DLS実験における異なる濃度の場合のa-PVA(A)とi-PVA(B)の水中での分散サイズである。
【0124】
〔
図7〕二種類のPVAのPBS溶液の氷晶成長の光学顕微鏡画像であり、Aはa-PVAであり、Bはi-PVAであり、Cは二種類のPVAのPBS溶液のPBSに対する最大氷晶サイズと濃度関係である。
【0125】
〔
図8〕a-PVA(
図A、B)とi-PVA(
図C、D)は純水中で氷晶形態を修飾する効果である。
【0126】
〔
図9〕MDシミュレーションされた二種類のPVAの分子構造モデルである。
【0127】
〔
図10〕MDシミュレーションされた二種類のPVA分子が240 Kである時に氷水界面での水分子及び氷水分子との接触可能な表面積であり、そのうち画像の上部がa-PVA分子3回の結果であり、下部がi-PVA分子3回の結果である。
【0128】
〔
図11〕MDシミュレーションで計算された二種類のPVAの水溶液での凝集確率である。
【0129】
〔
図12〕MDシミュレーションで計算された、240 K時の二種類のPVAが水溶液中で水と分子間水素結合を形成する数、氷水界面で水分子及び氷-水分子と分子間水素結合を形成する数である。
【0130】
〔
図13〕GDL-L-Thr(式(6)の化合物)が氷晶成長活性を抑制する光学顕微鏡画像及び氷晶サイズ大きさの統計図である。
【0131】
〔
図14〕GDL-L-Thrは純水で氷晶形態を修飾する効果である。
【0132】
〔
図15〕GDL-L-Ser(式(7)の化合物)が氷晶成長活性を抑制する顕微鏡光学画像及び氷晶サイズ大きさの統計図である。
【0133】
〔
図16〕GDL-L-Val(式(8)の化合物)が氷晶成長活性を抑制する顕微鏡光学画像及び氷晶サイズ大きさの統計図である。
【0134】
〔
図17〕実施例3で調製されたTR短鎖ペプチドが氷晶成長活性を抑制する光学顕微鏡画像及び氷晶サイズ大きさの統計図である。
【0135】
〔
図18〕実施例3で調製されたTR短鎖ペプチドが純水中で氷晶形態を修飾する効果である。
【0136】
〔
図19〕実施例8のペプトイドR-COOH、R-CH
3及びR-CH
2CH
3が氷晶成長活性を抑制する効果である。
【0137】
〔
図20〕実施例8のペプトイド(A)R-COOH、(B)R-CH
3及び(C)R-CH
2CH
3が純水中で氷晶形態を修飾する効果である。
【0138】
【0139】
〔
図22〕実施例9の二種類のPVAの氷吸着量が濃度に応じて変化する図である。
【0140】
〔
図23〕二種類のPVAのDPBS溶液での氷晶成長の光学顕微鏡画像であり、Aはa-PVAであり、Bはi-PVAである。
【0141】
〔
図24〕3日齢のマウスの新鮮な(凍結されていない)卵巣器官の切片染色画像である。
【0142】
〔
図25〕比較例8の凍結保存された卵巣器官を融解した後の切片染色画像である。
【0143】
〔
図26〕適用例13の凍結保存された卵巣器官を融解した後の切片染色画像である。
【0144】
〔
図27〕適用例14の凍結保存された卵巣器官を融解した後の切片染色画像である。
【0145】
〔
図28〕適用例15の凍結保存された卵巣器官を融解した後の切片染色画像である。
【0146】
〔
図29〕性成熟したマウスの新鮮な(凍結されていない)卵巣組織の切片染色画像である。
【0147】
〔
図30〕比較例9の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【0148】
〔
図31〕適用例16の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【0149】
〔
図32〕適用例17の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【0150】
〔
図33〕適用例18の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【0151】
〔
図34〕適用例26の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【0152】
〔
図35〕適用例27の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【0153】
〔
図36〕適用例28の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【0154】
〔
図37〕適用例29で凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【0155】
〔
図38〕適用例30の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【0156】
〔
図39〕適用例31の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【0157】
〔
図40〕適用例37の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【0158】
〔
図41〕適用例38の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【0159】
発明を実施するための形態
以下に具体的な実施例を参照しながら本発明の調製方法をさらに詳細に説明する。理解すべきことは、以下の実施例は本発明を例示的に説明して解釈するものに過ぎず、本発明の請求範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本発明の上記内容に基づいて実現された技術はいずれも本発明の請求範囲内に含まれる。
【0160】
下記実施例に使用される実験方法は特別な説明がなければ、いずれも従来の方法である。下記実施例に使用される試薬、材料などは、特別な説明がなければ、いずれも商業的に入手することができる。
【0161】
A.氷制御材料分子設計
本発明の氷制御材料コア分子は、各種の、水と親和性を有する基及び氷と親和性を有する基が共有結合又は非共有結合例えばイオン結合により接続されるように設計することができる。
【0162】
本発明の氷制御材料の分子設計方法は、以下のステップを含む:
(1)親水基及び親氷基を含有する化合物分子構造のライブラリを構築する。
【0163】
(2)分子動力学シミュレーション(Molecular dynamics simulation、MD)を採用し、各化合物分子の氷水二相界面での拡散性能をシミュレーションして評価する。
【0164】
(3)必要な氷親和性及び水親和性の化合物分子をスクリーニングする。
【0165】
本発明によれば、前記氷制御分子の主鎖は炭素鎖又はペプチド鎖構造である。
【0166】
本発明によれば、前記ステップ(2)におけるMDシミュレーションはGROMACS、AMBER、CHARMM、NAMD、又はLAMMPSにより行われる。
【0167】
本発明によれば、前記ステップ(2)のMDシミュレーションにおいて、水分子モデルはTIP3P、TIP4P、TIP4P/2005、SPC、TIP3P、TIP5P、又はSPC/Eから選ばれ、好ましくはTIP4P/2005水分子モデルである。
【0168】
本発明によれば、前記ステップ(2)のMDシミュレーションにおいて、力場パラメータはGROMOS、ESFF、MM形態力場、AMBER、CHARMM、COMPASS、UFF、CVFFなどの力場のうちの一種により提供される。
【0169】
本発明によれば、前記ステップ(2)のMDシミュレーションにおいて、氷制御分子の間の相互作用、氷制御分子と水分子との相互作用、氷制御分子と氷-水分子との相互作用をシミュレーションして計算する。前記作用は水素結合の形成可能性、ファンデルワールス作用、静電作用、疎水作用、π-π作用などである。
【0170】
本発明によれば、前記ステップ(2)のMDシミュレーションにおいて、前記分子相互作用をシミュレーションして計算する場合、温度及び圧力を調整する。本発明の一実施形態において、V-rescale(modified Berendsen)温度コントローラ及び圧力コントローラを用いて温度及び圧力を調整する。
【0171】
本発明によれば、前記ステップ(2)のMDシミュレーションにおいて、ポテンシャルパラメータを選択することにより化合物分子の分子配置を保持する。好ましくは、選ばれたポテンシャルパラメータにより化合物分子の分子配置が高い温度で保持される。
【0172】
本発明によれば、前記ステップ(2)において、水溶液系をシミュレーションする場合、x、y、zの三つの方向はいずれも周期性境界条件を採用し、氷水混合系をシミュレーションする場合、x、yの二つの方向は周期性境界条件を採用する。
【0173】
本発明によれば、前記ステップ(2)のMDシミュレーションにおいて、立方体又は八面体水ボックスを選択し、好ましくは3.9×3.6×1.0 nm3の立方体水ボックスである。
【0174】
本発明の具体的な実施形態として、前記MDシミュレーションは分子動力学計算過程において、V-rescale(modified Berendsen)温度コントローラ及び圧力コントローラで温度及び圧力を調整する。
【0175】
前記MDシミュレーション計算において、水素結合が存在することを判断する主な基準はエネルギー基準又は幾何基準であり、好ましくは幾何基準である。酸素原子の間隔が0.35 nmより小さく、角HO...Hが30度より小さい場合、二つのヒドロキシ基又はヒドロキシ基と水分子との間に水素結合が形成される。
【0176】
本発明の具体的な実施形態として、前記氷制御材料は炭素鎖構造を主鎖として親氷基及び親水基で置換された化合物であってもよい。前記氷制御材料は親水及び親氷の二重親和性を含有する基、例えばヒドロキシ基、アミノ基であり、さらにそれぞれ親氷基及び親水基を含有することができる。例えば、前記氷制御材料分子構造は-[CH2-CHOH]-の繰り返し単位を有するように設計される。
【0177】
本発明の実施形態において、前記氷制御材料分子はポリビニルアルコール(PVA)である。PVAはアイソタクチックPVA、シンジオタクチックPVA及びランダムPVAの一種又は二種以上の組み合わせから選ばれ、例えば前記PVAのシンジオタクティシティは15%-65%であり、具体的には例えば40%-60%、53%-55%である。好ましくはランダムPVAであり、例えば前記PVAのシンジオタクティシティが45%-65%のPVAである。前記PVAは分子量が10-500 kDa又はより高い分子量のPVAから選択することができ、例えば分子量が10-30 kDa、30-50 kDa、80-90 kDa、200-500 kDaである。前記PVAは加水分解度が80%より大きいPVAから選択することができ、例えば加水分解度が80%-99%、82-87%、87%-89%、89%-99%、98%-99%である。
【0178】
本発明の実施形態において、前記氷制御材料分子はペプチド化合物である。前記ペプチド化合物は親氷性アミノ酸、例えばトレオニン(L-Thr)、グルタミン(L-Gln)、アスパラギン酸(L-Asn)などと他の親水アミノ酸又はグルコラクトン(GDL)又は糖類とを反応させて得られ、前記他の親水アミノ酸はアルギニン、プロリン、アラニンなどから選ばれる。
【0179】
前記ペプチド化合物は二つ以上のアミノ酸単位で形成されたペプチドであり、例えば2-8個のアミノ酸単位であり、具体的には2-5個であってもよく、例えば2個、3個、4個、5個、6個のアミノ酸単位である。各アミノ酸単位が異なる。前記ペプチド化合物におけるトレオニンのような親氷アミノ酸と他の親水アミノ酸とのモル比は(0.1-3):1であり、好ましくは(0.5-2):1である。前記ペプチド化合物における親氷アミノ酸と他の親水アミノ酸の配列方式は特に限定されず、本分野で既知のアミノ酸連結基又は化学結合を採用して連結することができ、例えば親氷アミノ酸と親水アミノ酸は単一の順序で配列してもよく、複数の親氷アミノ酸又は複数の親水アミノ酸が連結して、親氷アミノ酸断片又は親水アミノ酸断片を形成し、さらにそれぞれ親水アミノ酸(又は断片)、親氷アミノ酸(又は断片)に連結してもよい。
【0180】
本発明の実施形態において、前記ペプチド化合物はL-Thr-L-Arg(TR)、L-Thr-L-Pro(TP)、L-Arg-L-Thr(RT)、L-Pro-L-Thr(PT)、L-Thr-L-Arg-L-Thr(TRT)、L-Thr-L-Pro-L-Thr(TPT)、L-Ala-L-Ala-L-Thr(AAT)、L-Thr-L-Cys-L-Thr(TCT)のうちの少なくとも一種である。
【0181】
別の実施形態において、前記ペプチド化合物はGDL-L-アミノ酸であり、例えばGDL-L-Thr、GDL-L-Ser、GDL-L-Valである。
他の実施形態において、前記ペプチド化合物は、式(1)-式(8)に示した構造のいずれかを有する。
【0182】
【0183】
【0184】
上記ペプチド化合物の調製方法は、本分野の既知のポリペプチド合成方法を採用して合成することができ、例えば固相合成法を採用して合成する。
本発明の調製方法によれば、樹脂の膨潤、アミノ保護のアミノ酸を膨潤した樹脂に共有結合により接続されること、脱保護、別のアミノ保護のアミノ酸を添加して縮合反応させること、脱保護、切断、精製のステップを含む。
【0185】
本発明の既知のアミノ酸と糖類を反応させる方法で糖ペプチド誘導体を調製することができ、例えばグルコラクトン又は他の糖類をアミノ酸と有機溶媒で反応させて前記糖ペプチド誘導体を調製することができ、又は固相合成方法で前記糖ペプチド誘導体を調製し、グルコラクトン(GDL)を有機溶媒に溶解し、かつアミノ酸及び塩基性触媒を有機溶媒に添加し、完全に溶解した後にグルコラクトンの溶液に添加し、55-60℃で反応させ、反応が終了した後、白色沈殿物を濾過し、濾液を蒸発乾燥させて粗生成物を得る。
【0186】
本発明の調製方法によれば、前記有機溶媒はメタノール、エタノールなどから選ばれる。
【0187】
一実施形態において、固相合成法を採用して糖ペプチド誘導体を調製し、樹脂の膨潤、アミノ保護のアミノ酸を膨潤した樹脂に共有結合により接続されること、脱保護、糖類化合物(例えば開環後のグルコラクトン)を添加して縮合反応させること、切断、精製のステップを含む。GDL-L-ValとGDL-L-Serの合成方法はGDL-L-Thrの合成方法を参照する。
本発明はさらに式(9)に示すペプチド化合物を提供し、
【0188】
【0189】
ここで、Rは置換又は非置換のアルキルから選ばれ、前記置換基は-OH、-NH2、-COOH、-CONH2などから選ばれてもよく、例えば、Rは置換又は非置換のC1-6アルキルであり、好ましくはRは-CH3、-CH2CH3、-CH2CH2COOHであり、nは1以上1000以下の整数であり、例えば1~100範囲内の整数であってもよい。本発明のいくつかの実施形態において、nは整数2、3、4、5、6、7、8、9、10である。
【0190】
本発明の一実施形態として、前記式(9)に示す化合物は以下のいずれかに示す構造を有する。
【0191】
【0192】
本発明によれば、前記式(9)に示す化合物は以下の合成経路を採用して調製される。
【0193】
【0194】
本発明の実施形態において、前記氷制御材料分子はアミノ酸又はポリアミノ酸である。本発明は上記氷制御材料分子、例えばPVA、ペプチド化合物、アミノ酸及びポリアミノ酸が水溶液における氷晶成長を制御するための応用、上記ペプチド化合物の細胞又は組織凍結保存液を調製するための応用をさらに提供する。
【0195】
本発明に基づいて設計され調製された制御氷材料例えばPVA、ペプチド化合物、アミノ酸及びポリアミノ酸は凍結保存液を調製するために用いられ、細胞、組織、器官などの凍結保存に用いられる。
【実施例1】
【0196】
(1)化合物分子構造設計
-[CH2-CHOH]-を有する繰り返し単位を含有する化合物分子を設計し、ランダム及びアイソタクチックのポリビニルアルコール分子モデルを含む分子構造ライブラリを得る。
【0197】
(2)MDシミュレーション実験
MDシミュレーション実験によりランダムポリビニルアルコール及びアイソタクチックポリビニルアルコールの氷と水とに対する親和性差異を予測する。
【0198】
a. MDシミュレーションはいずれもGROMACS 5.1により完了され、水モデルはTIP4P/2005を採用し、その融点は約252.5 Kである。PVA分子の相互作用パラメータはGROMOS54A7力場により提供され、leapfrog積分アルゴリズムを採用し、積分ステップサイズは2 fsである。静電相互作用はPME方法により計算され、クーロン作用ポテンシャル及びL-J作用ポテンシャルの切断半径はいずれも1.0 nmである。V-rescale(modified Berendsen)温度コントローラ及び圧力コントローラにより温度及び圧力を調整する。時定数は0.1 psとする。
【0199】
b. 繰り返し単位を7つ含有する化合物分子鎖をシミュレーションして選択して研究する。PVA分子の位相ファイルはATBにより生成され、かつ二種類のPVA分子の立体規則性度を保持するために、分子炭素鎖の二面角ポテンシャル関数に対して適切に調整する必要がある。
【0200】
c. PVAの水溶液系をシミュレーションする場合、x、y、zの三つの方向はいずれも周期性境界条件を採用し、氷水混合系をシミュレーションする場合、x、yの二つの方向は周期性境界条件を採用する。全ての体系はいずれも120 nsをシミュレーションし、60 ns後のデータを取って分析する。
【0201】
まず分子の水溶液の体系を研究し、一本のPVA鎖のみを有する体系において、合計1491個の水分子を有し、圧力が1 atmであり、温度が240K、250K、260K、270K、300K、330 Kである。
【0202】
PVA分子と氷との相互作用を研究する体系において、3.9×3.6×1.0 nm3の水ボックスに6本のPVA分子鎖を入れ、1100個の水分子を含有する氷塊を240 Kで10 ns平衡化し、氷塊をz軸方向に沿って水ボックスの下方に配置する。混合系のz方向の大きさを10 nmに増加させ、かつ氷水混合系を水ボックスの中央に配置する。
【0203】
PVA分子の位相ファイルはATBにより生成され、この位相ファイルを直接使用し、かつ二種類のPVA分子の立体規則性度を保持するために、ポテンシャルパラメータを50 kcal/molにし、高い温度でも、二種類のPVA分子の分子配置が保持されることを保証することができる。
【0204】
MDシミュレーションの二種類のPVAの分子構造モデルは
図9を参照する。
【0205】
(3)シミュレーション結果の評価
a-PVAは三倍の隣接OHの距離が氷の格子サイズとマッチングするため、氷表面と水素結合作用を効果的に発生させて氷面に吸着することができる。i-PVAはヒドロキシ基の方向のみを変更して隣接OHの距離を変更しないため、i-PVAとa-PVAは類似した氷と吸着作用を発生させる能力を有することを保証することができる。同時に、MDシミュレーション結果から分かるように、a-PVAと水分子で形成された分子間水素結合数はi-PVAと水分子で形成された分子間水素結合数よりも多いため、a-PVAが水との親和性はi-PVAよりも強い。また、MDシミュレーションにおいて6本のPVA分子鎖の氷水界面での状態に示すように、a-PVAは氷及び水といずれも良好な親和性を有するため氷水界面でより拡散する傾向があるが、i-PVAは水との親和性が弱いため、氷水界面で凝集する傾向がある(
図2)。
【0206】
【0207】
MDシミュレーションに示すように、240 Kの時に氷水界面での二種類のPVAと水分子との接触可能な面積は、a-PVAの接触可能な表面積がi-PVAより大きく、a-PVAの氷水界面での拡散性能がi-PVAより優れることをさらに検証される(
図10参照)。MDで計算された二種類のPVAの水溶液での凝集確率は、i-PVAがa-PVAより明らかに高い(
図11)。240 Kの場合、氷水界面で、二種類のPVAと氷-水分子で形成された水素結合の数がほぼ同じであるが、a-PVAが氷水界面で及び水溶液で水と分子間水素結合を形成する数がi-PVAより明らかに多い。従って、a-PVAが氷水界面でよりよく広がることができ、i-PVAが凝集する(
図12)。
【0208】
従って、MDシミュレーションの複数の結果により、a-PVAはその分子構造が水分子とより良好な親和性を有するため、氷水界面でより良好な拡散性能を有し、i-PVAに比べて、より良好な氷制御効果を有するべきであることを示す。
【0209】
(4)設計されたPVA分子の合成
(4.1)アタクチックポリビニルアルコールa-PVAの調製:分子量が約13~23 kDaであり、シンジオタクティシティr(diad syndiotacticity)が約55%である。
【0210】
アルゴン雰囲気下で、250 mL丸底フラスコに阻害剤が除去された酢酸ビニル(vinyl acetate、VAc、 Sigma-Aldrich)を100 mLの溶媒(メタノール)に溶解して25%~45%のVAc溶液を得る。上記溶液を-5℃に冷却した後、80 mMの2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(2,2’-Azobis(2-methylpropionitrile、Sigma-Aldrich)を反応溶液に注意深く滴下する。上記溶液を室温に置いた後に15時間撹拌し続けた後、反応溶液を1 Lのアセトンで溶解してメタノールに滴下して白色沈殿物を得る。上記沈殿物をメタノールで洗浄濾過した後、60℃のオーブンで6.0時間真空乾燥して白色固体を得る。白色固体をメタノール溶液(10 wt.%)に溶解し、かつアルゴンガスを導入して溶液中の酸素を除去し、かつ25%の水酸化カリウムのメタノール溶液を上記溶液に滴下し、4時間撹拌し続けた後、反応溶液を2 Mの塩酸溶液に溶解し、かつ2.0 Mのアンモニアのメタノール溶液に沈殿してアタクチックポリビニルアルコール(a-PVA)を得る。水素核磁気共鳴スペクトル(
図3)は得られた化合物が完全に加水分解されたa-PVAであることを示す。
【0211】
(4.2)アイソタクチックポリビニルアルコールi-PVAの調製:分子量が約14~26 kDaであり、アイソタクティティーm(isotacticity)が約84%である。
【0212】
a. ポリt-ブチルビニルエーテル(poly-tert-butyl vinyl ether、PBVE)の調製。アルゴン雰囲気下で、250 mLの丸底フラスコにtert-ブチルビニルエーテル(tert-butyl vinyl ether、t-BVE、Sigma-Aldrich)を100 mLの乾燥トルエンに溶解して2.5%のt-BVEのトルエン溶液を得る。上記溶液を-78℃に冷却した後、0.2 mMの三フッ化ホウ素ジエチルエーテル(BF
3・OEt
2、Sigma-Aldrich)を冷却された溶液に注意深く滴下し、かつ2.0時間後に0.2 mMのBF
3・OEt
2を追加する。上記溶液を-78℃で3.0時間撹拌し続けた後、少量のメタノールで反応を停止する。反応溶液を迅速に撹拌した2.0 Lのメタノールに滴下して淡黄色の沈殿物を得る。上記沈殿物をメタノールで洗浄濾過した後、60℃のオーブンで6.0時間真空乾燥して淡黄色固体粉末を得て、水素核磁気共鳴スペクトル(
図4A)は得られた化合物がPBVEであることを示す。三フッ化ホウ素ジエチルエーテルとtert-ブチルビニルエーテルの濃度を調整することにより、合成されるPBVEの分子量を制御する。ゲル浸透クロマトグラフィー(GPCはテトラヒドロフラン(THF)系で測定され、流速が1 mL min
-1である)は、異なる分子量を有するPBVE(
図5)を成功に合成して取得することを示す。
【0213】
b. 乾燥臭化水素ガス(HBr)の調製、100 mLの二口フラスコに、5.0~30 mLの三臭化リン(PBr3、アラビアン)を10 mLの48%の臭化水素(HBr、Alfa Aesar)水溶液に滴下する。生成されたガスは順に四塩化炭素(CCl4)、赤リン(P、Alfa Aesar)及び塩化カルシウム(CaCl2)を通過して乾燥したHBrガスを得る。
【0214】
c. アイソタクチックポリビニルアルコール(isotactic-PVA、i-PVA)の調製。アルゴン雰囲気下で、0.5 gのPBVEを15 mLの乾燥トルエン溶液に溶解し、かつ乾燥アルゴンガスを導入し続けて溶液中の酸素ガスを除去する。0℃で、ステップbで調製された乾燥HBrガスを上記無酸素のPBVEのトルエン溶液に導入する。約5.0分間後、淡黄色沈殿物が生成し、沈殿物が生成しないまで乾燥したHBrガスを導入し続ける。上記反応溶液を2.0 Mの200 mLのアンモニアのメタノール溶液に注入する。得られた沈殿物をメタノールで洗浄濾過した後、60℃のオーブンで6.0時間真空乾燥して淡黄色固体粉末を得る。水素核磁気共鳴スペクトル(
図4B)はPBVEを完全に加水分解して固体i-PVAを得ることを示す。
【0215】
(5)合成されたPVAの氷制御効果の検証
(5.1)動的光散乱DLS実験
二種類のPVA(a-PVA:分子量が約13~23 kDaであり、シンジオタクティシティr(diad syndiotactticity)が約55%(Sigma-Aldrich)である。i-PVA:分子量が約14~26 kDaであり、アイソタクティティーm(isotactticity)が約84%である)の25℃の水溶液における粒径分布を動的光散乱(DLS)実験で測定し、実験装置は恒温チャンバ及び4 mW He-Neレーザ(λ=632.8 nm)を備えたNano ZS(Malvern Instruments)であり、ここで散乱角が173°である。まず、それぞれ濃度が1.0 mg mL-1、4.0 mg mL-1、10 mg mL-1、20 mg mL-1のa-PVA及びi-PVA水溶液を調製する。約1.0 mLのPVA溶液を12 mmの使い捨てポリスチレンキュベットに入れて測定する。
【0216】
動的光散乱(DLS)の結果は、同濃度のa-PVAの水溶液における分散サイズがi-PVAよりもはるかに小さいことを示す(
図6)。即ち、a-PVAに比べて、i-PVAは水溶液中に凝集状態で存在する傾向がある。これはMDシミュレーションにおけるa-PVAの分子内水素結合数がi-PVAの分子内水素結合数より少なく、a-PVAと水分子の分子間水素結合数がi-PVAと水分子の分子間水素結合数より多いという結果と一致する。
【0217】
(5.2)氷晶再結晶抑制(IRI)活性測定
氷晶再結晶抑制(IRI)活性は「スパッタリング凍結法」を採用し、サンプルをDPBS溶液に溶解分散し、10~30 μLの上記溶液を1.0 m以上の高さで-60℃で予冷されたきれいなシリコンウェハ表面に滴下し、冷熱台を利用して10℃ min-1の速度で-6℃まで徐々に加熱し、かつこの温度で30 minアニーリングし、偏光顕微鏡及び高速カメラを利用して氷晶の大きさを観察して記録し、冷熱台を密封し、内部の湿度が約50%であることを保証する。各サンプルを少なくとも三回繰り返し、Nano Measurer 1.2を用いて氷晶のサイズを統計し、統計結果の誤差は標準偏差である。
【0218】
(5.3)氷晶形態(DIS)の観察及び熱ヒステリシス(TH)の測定
氷晶形態(DIS)の観察及び熱ヒステリシス(Thermal Hysteresis、TH)の測定はナノリットル浸透圧計を採用し、まずアルコールランプの外炎で毛細管を溶融し、同時にそれを延伸して極細孔径毛細管を生成し、毛細管を微量試料注入器に接続する。粘度の高いレンズオイルをミクロン孔径の円形シートに注入し、微量試料注入器を利用して材料が溶解した水溶液を微孔に注入する。温度を制御することにより、液滴を迅速に凍結させ、かつゆっくりと加熱して単結晶氷を得て、0.01℃の精度でゆっくりと冷却し、高速カメラを備えた顕微鏡を利用して氷晶形態及びTHテストを観察する。
【0219】
a-PVA(M
w 13~23 kD)の氷晶成長を抑制する能力は同じ分子量のi-PVA(M
w 14~26 kD)よりはるかに優れる(
図7)。
図7Aから分かるように、a-PVAの氷晶サイズは同濃度の場合のi-PVAの氷晶サイズより明らかに小さい。
図7Bから分かるように、a-PVAのDPBSに対する最大氷晶サイズ(MLGS)は2.0 mg mL
-1の後に最小に達し、最小は約DPBSの最大氷晶サイズの20%である。異なる分子量のi-PVAのDPBSに対するMLGSは濃度の増加に伴って増加し、かつ10 mg mL
-1で最小に達し、最小は約DPBSの最大氷晶サイズの50%のみであり、かつ濃度につれて20 mg mL
-1まで増加し続け、MLGSは減少せずわずかに増加する。重合度が333より大きいi-PVA(M
w 14~26 kD)は濃度が30 mg mL
-1より大きい場合に溶解しにくいため、i-PVAの溶解度の制限により、i-PVAのIRI活性は好ましくは10 mg mL
-1の場合の50%のDPBSのMLGSである。a-PVAのIRI活性は好ましくは2.0 mg mL
-1の場合の20%のDPBSのMLGSである。これはMDシミュレーションにおいて、a-PVAがi-PVAよりも氷水界面でより広がりやすいという結果と一致し、より広がりやすいという前記性能により、a-PVAがi-PVAよりも低い使用量の場合に氷晶成長をよりよく抑制する効果を実現することができる。
【0220】
以上のMDシミュレーション及び実際の検証実験結果から分かるように、両者の結果の一致性が高く、MDシミュレーションは氷制御材料の氷制御性能を正確に予測することができ、氷制御材料分子の設計を効果的に実現することができる。
【0221】
同様の分子設計方法を用いて式(1)-式(9)の化合物を設計して合成し、その氷制御効果を研究する。
【0222】
〔実施例2〕式(1)化合物の合成
(1) 2-クロロトリチルクロリド樹脂(2-Chlorotrityl Chloride Resin)を反応管に入れ、DCM(20 mL g-1)を添加し、30分間振動する。溶媒をサンドコアで吸引濾過して除去し、三倍モル過剰なFmoc-L-Pro-OHを添加し、さらに8倍モル過剰なDIEAを添加し、最後にDMFを添加して溶解し、30分間振動する。メタノールで30分間シールする。
【0223】
(2) 溶媒DMFを除去し、20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、5分間後に溶媒を除去し、さらに20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、15分間後にピペリジン溶液を除去する。少量の樹脂を取り、エタノールで三回洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、紺色になると陽性反応である。
【0224】
(3) 上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDMF(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後、反応管にできるだけ少ないDMFで溶解したFmoc-L-Thr(tBu)-OHを添加する。二倍過剰、HBTU二倍過剰。その後、直ちに8倍過剰なDIEAを添加し、30分間反応させる。
【0225】
(4) 溶液を抽出した後、少量の樹脂を取り、エタノールで三回洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、無色になると陰性反応であり、即ち完全に反応する。
【0226】
(5) 上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDMF(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後に溶媒を除去し、20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、5分間後に溶媒を除去し、さらに20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、15分間後にピペリジン溶液を除去し、少量の樹脂を取り、エタノールで洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、紺色になると陽性反応である。
【0227】
(6) 上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDCM(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後に樹脂を抽出する。
【0228】
(7) 切断液(15 mL g-1、TFA:水:EDT:Tis=95:1:2:2、V/V)を用いて生成物を90分間切断する。切断液を窒素ガスで乾燥させ、その後に凍結乾燥させ、ポリペプチド粗生成物を得る。
【0229】
(8) HPLCでポリペプチドを精製して塩を転移するか又は脱塩し、HPLC:tR=6.1 mins(精製カラムの型番はKromasil 100-5C18、4.6mm*250mm、勾配溶出液は0.1%TFAアセトニトリル溶液及び0.1%TFA水溶液、0 mins-1:99、20 mins-1:9)。精製された溶液を凍結乾燥し、完成品L-Thr-L-Pro(TPと記す)を得る。収率は約80%である。質量分析による同定217.3は[M+H]+である。
【0230】
〔実施例3〕式(2)化合物の合成
(1) 2-クロロトリチルクロリド樹脂を反応管に入れ、DCM(20 mL g-1)を添加し、30分間振動する。溶媒をサンドコアで吸引濾過して除去し、三倍モル過剰なFmoc-L-Thr(tBu)-OHを添加し、さらに8倍モル過剰なDIEAを添加し、最後にDMFを添加して溶解し、30分間振動する。メタノールで30分間シールする。
【0231】
(2) 溶媒DMFを除去し、20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、5分間後に溶媒を除去し、さらに20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、15分間後にピペリジン溶液を除去する。少量の樹脂を取り、エタノールで三回洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、紺色になると陽性反応である。
【0232】
(3) 上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDMF(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後、反応管にできるだけ少ないDMFで溶解したFmoc-Arg(Pbf)-OHを添加する。二倍過剰、HBTU二倍過剰。その後、直ちに8倍過剰なDIEAを添加し、30分間反応させる。
【0233】
(4) 溶液を抽出した後、少量の樹脂を取り、エタノールで三回洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、無色になると陰性反応であり、即ち完全に反応する。
【0234】
(5) 上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDMF(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後に溶媒を除去し、20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、5分間後に溶媒を除去し、さらに20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、15分間後にピペリジン溶液を除去し、少量の樹脂を取り、エタノールで洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、紺色になると陽性反応である。
【0235】
(6) 上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDCM(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後に樹脂を抽出する。
【0236】
(7) 切断液(15 mL g-1、TFA:水:EDT:Tis=95:1:2:2、V/V)を用いて生成物を90分間切断する。切断液を窒素ガスで乾燥させ、その後に凍結乾燥させ、ポリペプチド粗生成物を得る。
【0237】
(8) HPLCでポリペプチドを精製して塩を転移するか又は脱塩し、HPLC:tR=4.8 mins(精製カラムの型番はKromasil 100-5C18、4.6mm*250mm、勾配溶出液は0.1%TFAアセトニトリル溶液及び0.1%TFA水溶液、0 mins-1:99、20 mins-1:4)。精製された溶液を凍結乾燥し、完成品L-Thr-L-Arg(TR)を得る。収率は約80%である。質量分析による同定276.2は[M+H]+である。
【0238】
〔実施例4〕式(3)化合物の合成
(1) 2-クロロトリチルクロリド樹脂を反応管に入れ、DCM(20 mL g-1)を添加し、30分間振動する。溶媒をサンドコアで吸引濾過して除去し、三倍モル過剰なFmoc-L-Thr(tBu)-OHを添加し、さらに8倍モル過剰なDIEAを添加し、最後にDMFを添加して溶解し、30分間振動する。メタノールで30分間シールする。
【0239】
(2) 溶媒DMFを除去し、20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、5分間後に溶媒を除去し、さらに20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、15分間後にピペリジン溶液を除去する。少量の樹脂を取り、エタノールで三回洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、紺色になると陽性反応である。
【0240】
(3) 上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDMF(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後、反応管にできるだけ少ないDMFで溶解したFmoc-Arg(Pbf)-OHを添加する。二倍過剰、HBTU二倍過剰。その後、直ちに8倍過剰なDIEAを添加し、30分間反応させる。
【0241】
(4) 溶液を抽出した後、少量の樹脂を取り、エタノールで三回洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、無色になると陰性反応であり、即ち完全に反応する。
【0242】
(5) 上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDMF(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後に溶媒を除去し、20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、5分間後に溶媒を除去し、さらに20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、15分間後にピペリジン溶液を除去し、少量の樹脂を取り、エタノールで洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、紺色になると陽性反応である。
【0243】
(6) 上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDMF(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後に樹脂を抽出する。
【0244】
(7) (3)-(5)を繰り返し、アミノ酸Fmoc-L-Thr(tBu)-OHをリンクする。反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDCM(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後に樹脂を抽出する。
【0245】
(8) 切断液(15 mL g-1、TFA:水:EDT:Tis=95:1:2:2、V/V)を用いて生成物を90分間切断する。切断液を窒素ガスで乾燥させ、その後に凍結乾燥させ、ポリペプチド粗生成物を得る。
【0246】
(9) HPLCでポリペプチドを精製して塩を転移するか又は脱塩し、HPLC:tR=3.9 mins(精製カラムの型番はKromasil 100-5C18、4.6mm*250mm、勾配溶出液は0.1%TFAアセトニトリル溶液及び0.1%TFA水溶液、0 mins-1:99、20 mins-1:4)。精製された溶液を凍結乾燥し、完成品L-Thr-L-Arg-L-Thr(TRT)を得る。収率は約75%である。質量分析による同定377.4は[M+H]+である。
【0247】
〔実施例5〕式(4)化合物の合成
(1) 2-クロロトリチルクロリド樹脂を反応管に入れ、DCM(20 mL g-1)を添加し、30分間振動する。溶媒をサンドコアで吸引濾過して除去し、三倍モル過剰なFmoc-L-Thr(tBu)-OHを添加し、さらに8倍モル過剰なDIEAを添加し、最後にDMFを添加して溶解し、30分間振動する。メタノールで30分間シールする。
【0248】
(2) 溶媒DMFを除去し、20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、5分間後に溶媒を除去し、さらに20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、15分間後にピペリジン溶液を除去する。少量の樹脂を取り、エタノールで三回洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、紺色になると陽性反応である。
【0249】
(3) 上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDMF(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後、反応管にできるだけ少ないDMFで溶解したFmoc-L-Pro-OHを添加する。二倍過剰、HBTU二倍過剰。その後、直ちに8倍過剰なDIEAを添加し、30分間反応させる。
【0250】
(4) 溶液を抽出した後、少量の樹脂を取り、エタノールで三回洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、無色になると陰性反応であり、即ち完全に反応する。
【0251】
(5) 上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDMF(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後に溶媒を除去し、20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、5分間後に溶媒を除去し、さらに20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、15分間後にピペリジン溶液を除去し、少量の樹脂を取り、エタノールで洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、紺色になると陽性反応である。
【0252】
(6) 上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDMF(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後に樹脂を抽出する。
【0253】
(7) (3)-(5)を繰り返し、アミノ酸Fmoc-L-Thr(tBu)-OHをリンクする。反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDCM(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後に樹脂を抽出する。
【0254】
(8) 切断液(15 mL g-1、TFA:水:EDT:Tis=95:1:2:2、V/V)を用いて生成物を90分間切断する。切断液を窒素ガスで乾燥させ、その後に凍結乾燥させ、ポリペプチド粗生成物を得る。
【0255】
(9) HPLCでポリペプチドを精製して塩を転移するか又は脱塩し、HPLC:tR=7.6 mins(精製カラムの型番はKromasil 100-5C18、4.6mm*250mm、勾配溶出液は0.1%TFAアセトニトリル溶液及び0.1%TFA水溶液、0 mins-1:99、20 mins-2:8)。精製された溶液を凍結乾燥し、完成品L-Thr-L-Pro-L-Thr(TPT)を得る。収率は約70%である。質量分析による同定318.3は[M+H]+である。
【0256】
〔実施例6〕式(5)化合物の合成
(1) 2-クロロトリチルクロリド樹脂を反応管に入れ、DCM(20 mL g-1)を添加し、30分間振動する。溶媒をサンドコアで吸引濾過して除去し、三倍モル過剰なFmoc-L-Thr(tBu)-OHを添加し、さらに8倍モル過剰なDIEAを添加し、最後にDMFを添加して溶解し、30分間振動する。メタノールで30分間シールする。
【0257】
(2) 溶媒DMFを除去し、20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、5分間後に溶媒を除去し、さらに20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、15分間後にピペリジン溶液を除去する。少量の樹脂を取り、エタノールで三回洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、紺色になると陽性反応である。
【0258】
(3) 上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDMF(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後、反応管にできるだけ少ないDMFで溶解したFmoc-L-Ala-OHを添加する。二倍過剰、HBTU二倍過剰。その後、直ちに8倍過剰なDIEAを添加し、30分間反応させる。
【0259】
(4) 溶液を抽出した後、少量の樹脂を取り、エタノールで三回洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、無色になると陰性反応であり、即ち完全に反応する。
【0260】
(5) 上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDMF(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後に溶媒を除去し、20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、5分間後に溶媒を除去し、さらに20%ピペリジン/DMF溶液(10 mL g-1)を添加し、15分間後にピペリジン溶液を除去し、少量の樹脂を取り、エタノールで洗浄した後、ニンヒドリン試薬を添加し、105~110℃で5分間加熱し、紺色になると陽性反応である。
【0261】
(6) 上記反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDMF(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後に樹脂を抽出する。
【0262】
(7) (3)-(5)を繰り返し、アミノ酸Fmoc-L-Ala-OHをリンクする。反応で得られた生成物をDMF(15 mL g-1、二回)、メタノール(15 mL g-1、二回)及びDCM(15 mL g-1、二回)で順に洗浄した後に樹脂を抽出する。
【0263】
(8) 切断液(15 mL g-1、TFA:水:EDT:Tis=95:1:2:2、V/V)を用いて生成物を90分間切断する。切断液を窒素ガスで乾燥させ、その後に凍結乾燥させ、ポリペプチド粗生成物を得る。
【0264】
(9) HPLCでポリペプチドを精製して塩を転移するか又は脱塩し、HPLC:tR=7.9 mins(精製カラムの型番はKromasil 100-5C18、4.6mm*250mm、勾配溶出液は0.1%TFAアセトニトリル溶液及び0.1%TFA水溶液、0 mins-1:99、20 mins-1:9)。精製された溶液を凍結乾燥し、完成品L-Ala-L-Ala-L-Thr(AAT)を得る。収率は約70%である。質量分析による同定260.1は[M-8H]+である。
【0265】
〔実施例7〕式(6)、式(7)及び式(8)化合物の合成
式(6)に示す化合物の調製:
(1) 固相合成の方法によりGDL-L-Thrを調製する。
【0266】
(2) HPLCで精製し、HPLC:tR=3.4 mins(精製カラムタイプはSHIMADZU Intertsil ODS-SP(4.6mm*250mm*5μm)、勾配溶出液0.1%TFAアセトニトリル溶液及び0.1%TFA水溶液、0.01-20 mins-1:99、20-30 mins-21:79、30-40 mins-100:0、40-50 mins-1:99)、収率は約50%であり、質量分析による同定296.099は[M-H]+である。
固相合成方法で調製されたGDL-L-Thrの純度がより高く、生成物の分離に役立ち、実験結果によれば、固相合成で調製されたGDL-L-Thrの純度がより高く、かつ良好な氷晶成長抑制能力を保持する(
図13)。
【0267】
分子式(7)、(8)に示された化合物はいずれも固相合成方法で得ることができる。
【0268】
〔実施例8〕式(9)化合物の合成
(1) DichlorodimethylsilaneのDCM溶液をポリペプチド合成管に注入し、30分間静置した後に合成管を乾燥させて使用に備える。
【0269】
(2) 100 mgの樹脂を合成管に取り、2 mLのDMFを添加し、窒素ガスを導入し、樹脂を10分間膨潤させた後に吸引濾過する。
【0270】
(3) 1 mLの4-メチルピペリジン/DMF溶液を添加して脱保護し、5分間後に除去し、さらに1 mLの4-メチルピペリジン/DMF溶液を添加し、15分間後に除去し、バブリングし、吸引濾過する。
【0271】
(4) DMFで5回洗浄し、バブリングし、吸引濾過する。
【0272】
(5) 2M、0.5 mLのブロモ酢酸/DMF溶液、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド/DMF溶液を順に添加し、20分間バブリングし、吸引濾過し、DMFで3回洗浄する。
【0273】
(6) 1M、1 mLの第一級アミン/DMF溶液を添加し、30分間バブリングし、DMFで洗浄し、ジクロロメタンで洗浄する(x3)。
【0274】
(7) 所望の分子量になるまで、ステップ5、6を繰り返す。
【0275】
(8) 4 mLの溶解液を添加し、十分に均一に振り、窒素ガスを導入して乾燥させ、最後に凍結乾燥させ、精製処理して、最終完成品を得る。
Rは-CH3、-CH2CH3及び-CH2CH2COOHのペプトイドである。質量分析による同定444.6はRが-CH3の[M+H]+、528.8はRが-CH2CH3の[M+H]+、792.1はRが-CH2CH2COOHの[M+H]+である。
【0276】
【0277】
〔氷晶再結晶抑制実験〕
氷晶再結晶抑制(IRI)活性は「スパッタリング凍結法」を採用し、サンプルをDPBS溶液に溶解分散し、10~30 μLの上記溶液を1.0 m以上の高さで-60℃で予冷されたきれいなシリコンウェハ表面に滴下し、冷熱台を利用して10℃/minの速度で-6℃まで徐々に加熱し、かつこの温度で30 minアニーリングし、偏光顕微鏡及び高速カメラを利用して氷晶の大きさを観察して記録し、冷熱台を密封し、内部の湿度が約50%であることを保証する。各サンプルを少なくとも三回繰り返し、Nano Measurer 1.2を用いて氷晶のサイズを統計し、統計結果の誤差は標準偏差である。
【0278】
氷晶形態(DIS)の観察及び熱ヒステリシス(Thermal Hysteresis、TH)の測定はナノリットル浸透圧計を採用し、まずアルコールランプの外炎で毛細管を溶融し、同時にそれを延伸して極細孔径毛細管を生成し、毛細管を微量試料注入器に接続する。粘度の高いレンズオイルをミクロン孔径の円形シートに注入し、微量試料注入器を利用して材料が溶解した水溶液を微孔に注入する。温度を制御することにより、液滴を迅速に凍結させ、かつゆっくりと加熱して単結晶氷を得て、0.01℃の精度でゆっくりと冷却し、高速カメラを備えた顕微鏡を利用して氷晶形態及びTHテストを観察する。
【0279】
上記実施例3で調製したTRのDPBS溶液20μLについて、「スパッタリング凍結法」によりIRI活性試験を行った。測定されたDPBSに対する最大氷晶サイズ(%)は
図17に示す通りである。化学結合により結合されたTRの最大氷晶サイズは同濃度でアルギニンのDPBS溶液及びトレオニンのDPBS溶液の最大氷晶サイズよりも明らかに小さい。
【0280】
上記実施例3で調製されたTRの脱イオン水溶液を取り、ナノリットルを利用して氷晶形態を観察することにより、TRは氷晶形態を修飾する微弱な効果(過冷却度-0.1℃、-0.4~0.01℃)を有し、
図18に示す通りである。熱ヒステリシスを測定していない。
【0281】
上記実施例7で調製したGDL-L-Thr、GDL-L-Ser及びGDL-L-ValのDPBS溶液20μLについて、「スパッタリング凍結法」によりIRI活性試験を行った。測定されたDPBSに対する最大氷晶サイズ(%)は
図13、15-16に示す通りである。化学結合により結合されたGDL-L-Thr、GDL-L-Ser及びGDL-L-Valの最大氷晶サイズは同濃度でのGDLのDPBS溶液及びアミノ酸のDPBS溶液の最大氷晶サイズより明らかに小さく、かつ同濃度のGDL及びアミノ酸で混合されたDPBS溶液の最大氷晶サイズより小さい。
【0282】
上記実施例7で調製されたGDL-L-Thrの脱イオン水溶液を取り、ナノリットルを利用して氷晶形態を観察することにより、GDL-L-Thrは氷晶形態を修飾する微弱な効果(過冷却度-0.1℃、-0.4~0.01℃)を有し、
図14に示す通りである。熱ヒステリシスを測定していない。
【0283】
上記実施例8で調製した化合物のDPBS溶液20μLについて、「スパッタリング凍結法」によりIRI活性試験を行った。測定されたDPBSに対する最大氷晶サイズ(%)は
図19に示す通りである。
【0284】
上記実施例8で調製された三種類のペプトイドの脱イオン水溶液を取り、ナノリットルを利用して氷晶形態を観察してRが-CH
3及び-CH
2CH
3であるペプトイドは氷晶形態を修飾する明らかな効果を有し、Rが-CH
2CH
2COOHであるペプトイドは氷晶形態を修飾する効果がなく(過冷却度-0.1℃、-0.4~0.01℃)、得られた形態は
図20に示す通りであり、かつ三種類のペプトイドはいずれも熱ヒステリシスを測定していない。
【0285】
上記結果により、調製されたペプチド化合物は氷晶の成長活性を抑制し、氷晶の形態を修飾する効果を有し、ここでRが-CH3、-CH2CH3である式(9)の化合物は氷晶形態を修飾する効果に優れ、かつ熱ヒステリシスがなく、氷晶成長を制御する作用を実現することができ、凍結保存液に用いることができる。
【0286】
B.氷制御材料の氷制御性能評価及びスクリーニング
氷制御材料の氷表面での吸着量=(氷表面に吸着された氷制御材料の質量m1/氷制御材料を含有する原溶液中の氷制御材料の総質量m2)×100%。
【0287】
一実施形態において、前記氷吸着実験は以下のステップを含む。
【0288】
S1、質量がm2である氷制御材料を取り、前記氷制御材料の水溶液を調製し、過冷却温度まで冷却する。
【0289】
S2、予冷された温度制御棒を前記水溶液に置いて氷層が温度制御棒の表面に成長するように誘導し、水溶液を撹拌し続けることにより、氷制御材料が氷層の表面に徐々に吸着し、水溶液、温度制御棒の温度が過冷却温度にあるように保持する。
【0290】
S3、氷制御材料の氷表面での吸着量を測定する。
【0291】
図21に示す装置を用いて氷吸着実験を行い、装置は多層液体貯蔵室と、温度制御棒と、温度コントローラとを含む。前記多層液体貯蔵室は内から外へ順に氷吸着室、温浴室、冷却液貯蔵室を含む。前記温度制御棒は氷吸着室内に置かれ、前記温度制御棒及び液体貯蔵室の温度は温度コントローラにより制御される。前記温度制御棒は熱伝導材料で製造された中空構造であり、前記温度制御棒の中空構造に液体注入口及び液体排出口が設置される。前記温度コントローラは流体温度コントローラであり、前記温度コントローラに冷却液流出端及び還流端が設置される。前記冷却液貯蔵室の両端に液体注入口及び液体排出口が設置される。前記温度コントローラの冷却液流出端、温度制御棒の液体注入口、温度制御棒の液体排出口、冷却液貯蔵室の液体注入口、冷却液貯蔵室の液体排出口、及び温度コントローラの還流端は順に管路を介して連通し、前記管路内に冷却液が流れる。多層液体貯蔵室にカバーが設置される。使用時、前記氷吸着室内に氷制御材料の水溶液が収容され、中間層温浴室に所定温度の温浴媒体例えば水浴、氷浴又は油浴などが収容される。冷却液の温度が設定温度に達した後、温度コントローラから流出し、中空の温度制御棒の中空構造に流入し、温度制御棒の温度を制御し、次に温度制御棒の液体排出口から流出し、さらに外層冷却液貯蔵室に流入して温浴媒体の温度を所定のレベルに保持し、さらに冷却液貯蔵室の液体排出口により温度コントローラの還流端を流れて温度コントローラに入って循環する。
【0292】
〔実施例9〕
a-PVA:分子量は約13~23 kDaであり、シンジオタクティシティr(diad syndiotacticity)は約55%(Sigma-Aldrich)である。
i-PVA:分子量は約14~26 kDaであり、アイソタクティティーm(isotacticity)が約84%である。
【0293】
(1)二種類のPVAの氷水界面での拡散性能の測定
氷吸着実験を用いてPVAの氷表面での吸着量を測定し、実験装置は
図21に示す通りである。
【0294】
a. a-PVA及びi-PVAをFITC Isomer Iで蛍光標識する。
【0295】
b. FITCで標識された異なる濃度のPVA水溶液(40 mL)をビーカーに置き、ビーカーを循環冷却槽に置いて溶液温度及び温度制御棒を-0.1℃に冷却する。
【0296】
c. 温度制御棒を予め冷却されたFITC標識されたPVA水溶液に挿入する前に、まず温度制御棒を液体窒素に挿入して1.0分間予冷する。その後、温度制御棒を予冷されたFITC標識されたPVA水溶液に迅速に挿入することにより、温度制御棒の表面に一層の極めて薄い氷層を誘導して氷の成長を誘導する。
【0297】
d. FITCで標識されたPVA水溶液を過冷却温度-0.1℃で1.0時間磁気撹拌し続けることにより、PVAが氷の表面に徐々に吸着される。全ての吸着実験においては過冷却度及び吸着時間を不変に保持して得られた氷の表面積が誤差許容範囲内でほとんど変化しないことを確保する。
【0298】
e. 形成された氷塊を溶液から取り出し、かつ純水で表面を洗浄して表面に付着した溶液を除去する。氷塊を融解する。
【0299】
f. PVAの氷表面での吸着量は氷塊中の溶質PVAの質量/元の溶液中の溶質PVAの質量で得られ、PVA溶液の濃度は紫外可視分光光度法により決定され、体積はピペット及びメスシリンダーにより決定される。
【0300】
氷吸着実験により、各濃度のa-PVA及びi-PVAの吸着量が
図22に示すように、a-PVAの氷表面での吸着量が0.2 mg mL
-1濃度での16.3%から1.0 mg mL
-1の28.7%に増加し、かつ濃度が1.0 mg mL
-1より大きいと、a-PVAの氷表面での吸着量が飽和に達し、飽和時の吸着量が約36.5%であることが示された。i-PVAの濃度が1.0 mg mL
-1より小さい時に氷吸着量は0%~19.3%であり、同濃度でa-PVAの氷表面での吸着量より低い。低濃度の場合、二種類のPVAの氷への吸着はいずれも飽和に達せず、i-PVAで被覆された氷の表面積はa-PVAより低い。
【0301】
i-PVAの濃度≧1.2 mg mL-1の時の氷面での吸着量がa-PVAより高く、かつ2.0 mg mL-1の時のi-PVAの氷面での吸着量が飽和に達し、飽和時の吸着量が56.5%である。さらに説明すると、二種類のPVAの同じ大きさの氷表面に対する吸着被覆が飽和に達する場合、必要なi-PVAの量はa-PVAよりはるかに大きい。即ちa-PVAは氷の表面をより効果的に被覆することができる。
【0302】
(2)氷晶再結晶抑制(IRI)活性測定
氷晶再結晶抑制(IRI)活性は「スパッタリング凍結法」を採用し、上記二種類のPVAをそれぞれDPBS溶液に溶解分散し、10~30 μLの前記溶液を1.0 m以上の高さで-60℃で予冷されたきれいなシリコンウェハ表面に滴下し、冷熱台を利用して10℃ min-1の速度で-6℃まで徐々に加熱し、かつこの温度で30 minアニーリングし、偏光顕微鏡及び高速カメラを利用して氷晶の大きさを観察して記録し、冷熱台を密封し、内部の湿度が約50%であることを保証する。各サンプルを少なくとも三回繰り返し、Nano Measurer 1.2を用いて氷晶のサイズを統計し、結果の誤差は標準偏差である。
【0303】
結果は
図23に示すように、a-PVAの氷晶サイズが同濃度の場合のi-PVAの氷晶サイズより明らかに小さく、a-PVAの氷晶成長を抑制する能力がi-PVAよりはるかに優れることを意味する。
【0304】
実施例9の結果から分かるように、i-PVAが水との親和性はa-PVAより弱い。従って、i-PVAは水溶液及び氷水界面で凝集状態で存在する傾向があるが、a-PVAは水溶液及び氷水界面によく広がることができる。二種類のPVAの同じ大きさの氷表面に対する吸着被覆が飽和に達する時、必要なi-PVAの量はa-PVAよりはるかに高い。従って、a-PVAはi-PVAに比べて、よりよい氷制御材料であり、より低い濃度で氷晶成長をよりよく抑制する効果を果たすことができる。
【0305】
C.凍結保存液の配合成分及び調製、適用例
〔実施例10〕PVAを氷制御材料として含む凍結保存液の調製
1.凍結保存液の調製:以下の配合成分で凍結保存液を調製する
凍結保存液A:100 mL当たりに以下の成分を含有する:
【0306】
【0307】
保存液調製ステップ:2.0 gのPVAを80℃の水浴で加熱し、かつ磁気撹拌して25 mLのDPBSに溶解し、PVAが全て溶解して室温まで冷却した後にpHを7.0に調節し、溶液1とする。17g(0.05 mol)のスクロース(スクロースの凍結保存液での最終濃度が0.5mol L-1である)を25 mLのDPBSに超音波溶解し、スクロースが完全に溶解した後に10 mLのエチレングリコール、10 mLのDMSOを添加し、溶液2とする。溶液1及び溶液2が室温に復帰した後、二種類の溶液を均一に混合し、pH値を調節しかつ定容して残量を総体積の80%に補充し、20 mLの血清は単独で保存して保存液を使用する時に添加する。
【0308】
凍結保存液B:100 mL当たりに以下の成分を含有する:
【0309】
【0310】
保存液調製ステップ:2.0 gのPVAを80℃の水浴で加熱して磁気撹拌して20 mLのDPBSに溶解し、pHを7.1に調節し、溶液1とする。8.0 gのL-Arg及び4.0 gのL-Thrを20 mLのDPBSに溶解し、pHを7.1に調節し、溶液2とする。17g(0.05 mol)のスクロース(スクロースの凍結保存液での最終濃度が0.5mol L-1である)を20 mLのDPBSに超音波溶解し、スクロースが完全に溶解した後に10 mLのエチレングリコールを添加し、溶液3とする。溶液1、溶液2及び溶液3を室温に復帰した後、三種類の溶液を均一に混合し、pH値を調節しかつ定容して残量を総体積の80%まで補充し、使用時に20 mLの血清を添加する。
【0311】
凍結保存液C:100 mL当たりに以下の成分を含有する:
【0312】
【0313】
保存液調製ステップ:2.0 gのPVAを80℃の水浴で加熱して磁気撹拌して25 mLのDPBSに溶解し、pHを6.9に調節し、溶液1とする。17g(0.05 mol)のスクロース(スクロースの凍結保存液での最終濃度が0.5mol L-1である)を25 mLのDPBSに超音波溶解し、スクロースが完全に溶解した後に10 mLのエチレングリコールを添加し、溶液2とし、溶液1及び溶液2が室温に復帰した後、二種類の溶液を均一に混合し、pH値を調節しかつ定容して残量を総体積の80%に補充し、20 mLの血清を単独で保存して保存液を使用する時に添加する。
凍結保存液C1:100 mL当たりに以下の成分を含有する:
【0314】
【0315】
保存液調製ステップは凍結保存液Cと同じである。
【0316】
凍結保存液D:100 mL当たりに以下の成分を含有する:
【0317】
【0318】
保存液調製ステップ:2.0 gのPVAを80℃の水浴で加熱して磁気撹拌して30 mLのDPBSに溶解し、pHを7.0に調節し、溶液1とする。17g(0.05 mol)のスクロース(スクロースの凍結保存液での最終濃度が0.5mol L-1である)を25 mLのDPBSに超音波溶解し、スクロースが完全に溶解した後に10 mLのエチレングリコールを添加し、溶液2とし、溶液1及び溶液2が室温に復帰した後、二種類の溶液を均一に混合し、pH値を調節しかつ定容して残量を総体積100 mLに補充し、使用に備える。
【0319】
凍結保存液E:100 mL当たりに以下の成分を含有する:
【0320】
【0321】
保存液調製ステップ:2.0 gのPVAを80℃の水浴で加熱して磁気撹拌して25 mLのDPBSに溶解し、pHを7.0に調節し、溶液1とする。1.5 gのポリ-L-プロリン(重合度15)を別の20 mLのDPBSに超音波溶解し、pHを7.0に調節し、溶液2とする。17g(0.05 mol)のスクロース(スクロースの凍結保存液での最終濃度が0.5mol L-1である)を25 mLのDPBSに超音波溶解し、スクロースが完全に溶解した後に10 mLのエチレングリコールを順に添加し、溶液3とし、溶液1、溶液2及び溶液3が室温に復帰した後、さらに三種の溶液を均一に混合し、pH値を調節しかつ定容して残量を総体積100 mLまで補充し、使用に備える。
【0322】
凍結保存液F:100 mL当たりに以下の成分を含有する:
【0323】
【0324】
保存液調製ステップは凍結保存液Eと同じであり、血清は使用時に添加する。
【0325】
2. 凍結平衡液の調製:以下の配合成分で凍結平衡液を調製する
凍結平衡液a:7.5 mLのエチレングリコール、7.5 mLのDMSOを65 mLのDPBSに添加し、均一に混合し、使用時に20 mLの血清を添加する。
【0326】
凍結平衡液b:7.5 mLのエチレングリコールを72.5 mLのDPBSに溶解し、均一に混合し、使用時に20 mLの血清を添加する。
【0327】
凍結平衡液c:2.0 gのPVAを80℃の水浴で加熱して磁気撹拌して50 mLのDPBSに溶解し、PVAが完全に溶解した後、pHを7.0に調節し、7.5 mLのエチレングリコールを添加し、均一に混合し、pH値を調節しかつ定容して残量を100 mLに補充し、使用に備える。
【0328】
比較例:
凍結平衡液a:1 mL当たりに7.5%(v/v)のDMSO、7.5%(v/v)のエチレングリコール、20%(v/v)のウシ胎児血清を含有し、残量はDPBSである。
【0329】
凍結保存液1#:1 mL当たりに15%(v/v)のDMSO、15%(v/v)のエチレングリコール、20%(v/v)のウシ胎児血清、0.5 Mのスクロースを含有し、残量はDPBSである。
【0330】
凍結平衡液2#:1 mL当たりに7.5%(v/v)のエチレングリコール、20%(v/v)のウシ胎児血清を含有し、残量はDPBSである。
【0331】
凍結保存液2#:1 mL当たりに10%(v/v)のエチレングリコール、20%(v/v)のウシ胎児血清、0.5 Mのスクロースを含有し、残量はDPBSである。
【0332】
凍結保存液3#:1 mL当たりに10%(v/v)のDMSO、15%(v/v)のウシ胎児血清を含有し、残量は培地a-MEM(USA,Invitrogen,C12571500BT)である。
【0333】
実施例10及び比較例が採用する融解液の配合成分は以下の三種類である。
【0334】
融解液1#:融解液I(1.0 mol L-1のスクロース、20%の血清を含有し、残量はDPBSである)、融解液II(0.5 mol L-1のスクロース、20%の血清を含有し、残量はDPBSである)、融解液III(0.25 mol L-1のスクロース、20%の血清を含有し、残量はDPBSである)、融解液IV(20%の血清、残量はDPBSである)。
【0335】
融解液2#:融解液I(1.0 mol L-1のスクロース、20 mg mL-1のPVAを含有し、残量はDPBSである)、融解液II(0.5 mol L-1のスクロース、20 mg mL-1のPVAを含有し、残量はDPBSである)、融解液III(0.25 mol L-1のスクロース、20 mg mL-1のPVAを含有し、残量はDPBSである)、融解液IV(20 mg mL-1のPVA、残量はDPBSである)。
【0336】
融解液3#:融解液I(1.0mol L-1のスクロース、20 mg mL-1のPVA、10 mg mL-1のポリプロリンを含有し、残量はDPBSである)、融解液II(0.5 mol L-1のスクロース、20 mg mL-1のPVA、5.0 mg mL-1のポリプロリンを含有し、残量はDPBSである)、融解液III(0.25 mol L-1のスクロース、20 mg mL-1のPVA、2.5 mg mL-1のポリプロリンを含有し、残量はDPBSである)、融解液IV(20 mg mL-1のPVA、残量はDPBSである)。
【0337】
〔適用例1〕卵母細胞及び胚の凍結保存は上記実施例及び比較例の凍結平衡液及び凍結保存液を用いて表1及び表2の方案に従ってそれぞれ卵母細胞及び胚の凍結保存を行う。本発明の実施例における生存率はいずれも3-12回の繰り返し実験の生存率の平均値である。
【0338】
1. 卵母細胞の凍結保存
マウス卵母細胞をまず凍結平衡液に置いて5分間平衡化する。次に調製された凍結保存液に1分間置いて、凍結保存液に平衡化された卵母細胞を凍結キャリアレバーに置き、次に液体窒素(-196℃)に迅速に投入し、かつキャリアレバーを密封した後に保存し続ける。融解する時、凍結保存された卵母細胞を37℃の融解液Iに置いて5分間平衡化し、さらに融解液II-IVに順にそれぞれ3分間平衡化する。融解済みの卵母細胞を2時間培養した後に生存細胞数を観察し、生存率を計算する(表1を参照する)。
【0339】
2. 胚の凍結保存
マウス胚をまず凍結平衡液に置いて5分間平衡化し、次に上記実施例又は比較例における配合成分で調製された凍結保存液に50秒間置いて、凍結保存液に平衡化された胚を凍結キャリアレバーに置き、次に液体窒素(-196℃)に迅速に投入し、かつキャリアレバーを密封した後に保存し続ける。融解する時、胚を37℃の融解液Iに置いて3分間平衡化し、さらに融解液II-IVに順にそれぞれ3分間平衡化する。融解済みの胚を2時間培養し、生存胚数を観察し、生存率を計算する(表2を参照する)。
【0340】
【0341】
【0342】
以上のデータによれば、この凍結保存液が90%以上さらに100%の生存率に達することができ、現在臨床で一般的に使用される15%のDMSOを含有する商業化凍結保存液の凍結保存回復率に達するか又ははるかに超えることができる。適用例1(10%のDMSOを含有する)と比較例2(7.5%のDMSOを含有する)及び比較例1、即ち商業化の卵母細胞凍結保存液(15%のDMSOを含有する)の比較から分かるように、PVAの添加は卵母細胞の生存率を顕著に向上させた;適用例2-3にもよると、本発明のDMSOを少なく添加するか又はDMSOを含有しない凍結保存液であっても、より高い卵母細胞又は胚の生存率に達することができ、現在臨床で一般的に使用される商業化凍結保存液のDMSO濃度が高く、細胞への損害が大きいという問題を解決した。さらに、適用例5、7-9によれば、凍結液、平衡液及び融解液にいずれもDMSO及び血清を添加しない場合、より高い卵母細胞又は胚の生存率を実現することができた。DMSOも血清もない凍結保存液は、現在臨床で一般的に使用される商業化凍結保存液が血清を含有することによる保存期間が短く、寄生性生物汚染物質を持ち込むなどという問題を解決した。
【0343】
〔適用例2〕ヒト臍帯間葉系幹細胞の凍結保存
上記実施例及び比較例の凍結保存液を用いて表3の方案に従ってそれぞれヒト臍帯間葉系幹細胞の凍結保存を行った。
【0344】
微滴法によるヒト臍帯間葉系幹細胞の凍結保存:培養皿上のヒト臍帯間葉系幹細胞を25%パンクレアチンで2分間消化した後、等体積の培養液(10%FBS+a-MEM培地)に入れ、幹細胞が全部脱落するまで軽くて吹き付け、1.5 mLの遠心分離管に入れ、1000 rmpで5分間遠心分離し、上清を捨て(細胞を培地と分離する)、10μLの凍結液を遠心分離管の底部に添加し、軽くて吹き付けて幹細胞塊を分散させ、この10μLの幹細胞付きの凍結液を凍結キャリアシートに置き、液体窒素(-196℃)に入れて凍結保存する。融解する時、細胞及び凍結液付きの凍結キャリアレバーを37℃の培地に直接入れて融解する。融解した後、トリパンブルー染色でその生存率を観察し、かつ機器JIMBIO-FILを用いて細胞数をカウントし、生存率=生細胞数/細胞総数(表3参照)。
【0345】
【0346】
本発明の凍結保存液でヒト臍帯間葉系幹細胞の凍結保存を行う場合、DMSOを使用しなくても幹細胞生存率が92.4%及び72.2%(適用例12及び10)に達することができ、さらにDMSO及び血清を完全に添加しない場合、生存率が77.1%に達することができ、従来の凍結試薬の生存率レベルに達し、この凍結用試薬が従来の凍結液で幹細胞を凍結する有効性に達することができるだけでなく、現在一般的に使用されている10%のDMSOを含有する凍結保存液(比較例7)の凍結保存回復率に達するか又はそれ以上であり、PVAに基づく凍結保存効果がPVAを添加しない比較例6より顕著に優れることを示す。
【0347】
〔適用例3〕卵巣器官及び卵巣組織の凍結保存
上記実施例及び比較例の凍結平衡液及び凍結保存液を用いて表4、表5の方案に従ってそれぞれ3日齢のマウス卵巣器官及び性成熟したマウスの卵巣組織切片を凍結保存した。
【0348】
まず、完全な卵巣器官又は卵巣組織切片を平衡液に置いて室温で25分間平衡し、そして調製された凍結保存液に15分間置き、その後完全な卵巣器官又は卵巣組織切片を凍結キャリアレバーに置き、液体窒素に入れて保存する。融解した後、完全な卵巣器官又は卵巣組織切片を培養液(10%FBS+a-MEM)に入れた後に37℃、5%CO
2インキュベーターに置いて2時間回復培養した後に4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンで包埋し、HE染色して形態を観察し、結果は
図24-33に示す通りであり、
図24は新鮮で凍結していない卵巣器官切片写真であり、
図29は新鮮で凍結していない卵巣組織切片写真である。
【0349】
【0350】
【0351】
図24-
図28から分かるように、ポリビニルアルコールを添加しない比較例8及び新鮮で凍結していない卵巣器官を使用することに比べて、適用例13-15において元の卵胞構造が相対的に完全であり、間質構造が相対的に完全であり、細胞質が均質で、淡染が相対的に多く、細胞核が収縮し、濃染が相対的に少ない。血管管壁構造が完全であり、血管内腔の崩壊が少なく、内皮細胞質が均質で、淡染が相対的に多く、細胞核が収縮し、濃染が相対的に少ない。これから分かるように、適用例13-15の卵巣器官の凍結保存効果がより優れている。
【0352】
図29-
図33から分かるように、適用例16-18の方案は比較例9及び新鮮で凍結していない卵巣組織に比べて、胞状卵胞構造が相対的に完全であり、間質構造が相対的に完全であり、細胞質が均質で、淡染が相対的に多く、細胞核が収縮し、濃染が相対的に少なく、本発明の凍結保存液が卵巣組織を凍結保存することに用いられても従来の技術よりも優れた効果を有することが分かる。
【0353】
これにより分かるように、本発明のPVA系バイオニック氷制御材料を主成分として調製された凍結保存液は良好な氷晶成長抑制効果を有し、保存系におけるDMSOの使用量を減少させ、さらにDMSOを添加することなく、良好な生体適合性を保持することができ、かつ卵母細胞、胚、幹細胞、生殖器官及び組織の凍結保存に同時に適用することができ、いずれも良好な細胞生存率及び生物活性を達成することができる。
【0354】
〔実施例11〕アミノ酸系氷制御材料凍結保存液の調製
凍結保存液G:100 mL当たりに以下の成分を含有する:
【0355】
【0356】
保存液調製ステップ:総体積100 mL:16 gのL-Argと8 gのL-Thrを25 mLのDPBSに溶解し、pHを6.9に調節し、溶液1とする。17g(0.05 mol)のスクロース(スクロースの凍結保存液での最終濃度が0.5mol L-1である)を25 mLのDPBSに超音波溶解し、スクロースが完全に溶解した後に10 mLのエチレングリコール、10 mLのDMSOを順に添加し、溶液2とし、溶液1及び溶液2が室温に復帰した後、さらに二種類の溶液を均一に混合し、pHを6.9に調節し、かつDPBSで定容し残量を総体積の80%に補充し、20 mLのウシ胎児血清を単独で保存し、凍結保存液を使用する前に添加する。
【0357】
凍結保存液H:100 mL当たりに以下の成分を含有する:
【0358】
【0359】
保存液調製ステップ:1.5 gのポリ-L-プロリン(重合度が15である)を25 mLのDPBSに超音波溶解し、pHを6.8に調節し、溶液1とする。17g(0.05 mol)のスクロースを25 mLのDPBSに超音波溶解し、スクロースが完全に溶解した後に10 mLのエチレングリコール、10 mLのDMSOを順に添加し、溶液2とし、溶液1及び溶液2が室温に復帰した後、二種類の溶液を均一に混合し、pHを7.0に調節し、かつDPBSで定容し残量を総体積の80%に補充し、20 mLの血清を単独で保存し、凍結保存液を使用する前に添加する。
【0360】
凍結保存液I:100 mL当たりに以下の成分を含有する:
【0361】
【0362】
保存液調製ステップ:総体積100 mLであり、1.5 gのポリ-L-アルギニン(重合度が8である)を25 mLのDPBSに超音波溶解し、pHを7.0に調節し、溶液1とする。17g(0.05 mol)のスクロースを20 mLのDPBSに超音波溶解し、スクロースが完全に溶解した後に10 mLのエチレングリコール、10 mLのDMSOを順に添加し、溶液2とし、溶液1及び溶液2が室温に復帰した後、二種類の溶液を均一に混合し、pHを7.0に調節し、かつDPBSで定容し残量を総体積の80%に補充し、20 mLの血清を単独で保存し、凍結保存液を使用する前に添加する。
【0363】
凍結保存液J:100 mL当たりに以下の成分を含有する:
【0364】
【0365】
保存液調製ステップは凍結保存液Iと同じである。
【0366】
凍結保存液K:100 mL当たりに以下の成分を含有する:
【0367】
【0368】
保存液調製ステップは凍結保存液Iと同じである。
【0369】
凍結保存液L:100 mL当たりに以下の成分を含有する:
【0370】
【0371】
保存液調製ステップは凍結保存液Gと同じである。
【0372】
凍結平衡液の調製:以下の配合成分で凍結平衡液を調製する
凍結平衡液a:7.5 mLのエチレングリコール、7.5 mLのDMSOを65 mLのDPBSに添加し、均一に混合し、使用時に20 mLの血清を添加する。
【0373】
凍結平衡液b:7.5 mLのエチレングリコールを72.5 mLのDPBSに添加し、均一に混合し、使用時に20 mLの血清を添加する。
【0374】
比較例2:
凍結平衡液a:1 mL当たりに7.5%(v/v)のDMSO、7.5%(v/v)のエチレングリコール、20%(v/v)のウシ胎児血清を含有し、残量はDPBSである。
【0375】
凍結保存液1#:1 mL当たりに15%(v/v)のDMSO、15%(v/v)のエチレングリコール、20%(v/v)のウシ胎児血清、0.5 Mのスクロースを含有し、残量はDPBSである。
【0376】
凍結保存液3#:1 mL当たりに10%(v/v)のDMSO、15%(v/v)のウシ胎児血清を含有し、残量は培地a-MEM(USA,Invitrogen,C12571500BT)である。
【0377】
実施例11及び比較例2が採用する融解液の配合成分は以下の一種類である。
【0378】
融解液1#:融解液I(1.0mol L-1のスクロース、20%の血清を含有し、残量はDPBSである)、融解液II(0.5 mol L-1のスクロース、20%の血清を含有し、残量はDPBSである)、融解液III(0.25 mol L-1のスクロース、20%の血清を含有し、残量はDPBSである)、融解液IV(20%の血清、残量はDPBSである)。
【0379】
〔適用例4〕卵母細胞及び胚の凍結保存
上記実施例11及び比較例2の凍結平衡液及び凍結保存液を用いて表6及び表7の方案に従ってそれぞれ卵母細胞及び胚の凍結保存を行う。凍結及び融解方法は適用例1と同じである。
【0380】
【0381】
【0382】
表6及び表7のデータから分かるように、本発明の凍結保存液はDMSO及びEG使用量を低減した後に卵母細胞及び胚の凍結保存を行う場合、卵母細胞の生存率は95%以上に達することができ、胚生存率は生存率100%に達することができ、現在臨床で一般的に使用されている15%のDMSOを含有する商業化凍結保存液(比較例10-11)の凍結保存回復率よりもはるかに高く、かつアミノ酸バイオニック氷制御材料を添加した凍結保存効果はバイオニック氷制御材料を添加していない凍結保存液よりも顕著に優れる。
【0383】
〔適用例5〕ヒト臍帯間葉系幹細胞の凍結保存
上記実施例11及び比較例2の凍結保存液を用いて表8の方案に従ってそれぞれヒト臍帯間葉系幹細胞の凍結保存を行った。凍結及び融解方法は適用例2を参照する。
【0384】
【0385】
本発明の凍結保存液はヒト臍帯間葉系幹細胞の凍結保存を行う場合、DMSOを使用しないか又は少量のDMSO(7.5%)を使用すると、幹細胞の生存率が80%以上に達することができ(例えば適用例23-25)、この凍結用試薬が従来の凍結液が幹細胞を凍結する有効性を達成することができるだけでなく、さらに現在一般的に使用されている10%のDMSOを含有する凍結保存液(比較例13)の凍結保存回復率よりはるかに高く、アミノ酸バイオニック氷制御材料を添加した凍結保存効果がアミノ酸類氷制御材料を添加しない比較例14、15より顕著に優れることを示す。
【0386】
〔適用例6〕卵巣器官及び卵巣組織の凍結保存
上記実施例11び比較例2の凍結平衡液及び凍結保存液を用いて表9、表10の方案に従ってそれぞれ3日齢のマウスの完全な卵巣器官及び性成熟したマウスの卵巣組織切片を凍結保存した。卵巣器官及び性成熟したマウスの卵巣組織への凍結及び融解方法は適用例3を参照する。
【0387】
【0388】
【0389】
〔実施例11〕ペプチド化合物氷制御材料の凍結保存液の調製
凍結保存液M:100 mL当たりに以下の成分を含有する:
【0390】
【0391】
保存液調製ステップ:総体積が100 mLであり、28 gのTRを25 mLのDPBSに超音波溶解し、pHを7.0に調節し、溶液1とする。0.05 molのスクロースを25 mLのDPBSに超音波溶解し、スクロースが完全に溶解した後に10 mLのエチレングリコール、7.5 mLのDMSOを順に添加し、溶液2とし、溶液1及び溶液2が室温に復帰した後、二種類の溶液を均一に混合し、pHを調節しかつDPBSを採用して総体積の80%に定容し、最後に、使用前に20 mLの血清を添加する。
【0392】
凍結保存液N:100 mL当たりに以下の成分を含有する:
【0393】
【0394】
保存液調製ステップ:総体積が100 mLであり、28 gのTPTを25 mLのDPBSに超音波溶解し、pHを7.0に調節し、溶液1とする。0.05 molのスクロースを25 mLのDPBSに超音波溶解し、スクロースが完全に溶解した後に10 mLのエチレングリコール、7.5 mLのDMSOを順に添加し、溶液2とし、溶液1及び溶液2が室温に復帰した後、二種類の溶液を均一に混合し、pHを調節しかつDPBSを採用して総体積の80%に定容し、最後に、使用前に20 mLの血清を添加する。
【0395】
凍結保存液O:100 mL当たりに以下の成分を含有する:
【0396】
【0397】
保存液調製ステップ:体積が100 mLであり、28 gのTRを25 mLのDPBSに超音波溶解し、pHを7.0に調節し、溶液1とする。0.05 molのスクロースを25 mLのDPBSに超音波溶解し、スクロースが完全に溶解した後に10 mLのエチレングリコールを順に添加し、溶液2とし、溶液1及び溶液2が室温に復帰した後、二種類の溶液を均一に混合し、pHを調節しかつDPBSを採用して総体積の80%に定容し、最後に、使用前に20 mLの血清を添加する。
【0398】
凍結平衡液の調製:以下の配合成分で凍結平衡液を調製する
凍結平衡液a:7.5 mLのエチレングリコール、7.5 mLのDMSOを65 mLのDPBSに添加し、均一に混合し、使用時に20 mLの血清を添加する。
【0399】
比較例3:
凍結平衡液a:1 mL当たりに7.5%(v/v)のDMSO、7.5%(v/v)のエチレングリコール、20%(v/v)のウシ胎児血清を含有し、残量はDPBSである。
【0400】
凍結保存液1#:1 mL当たりに15%(v/v)のDMSO、15%(v/v)のエチレングリコール、20%(v/v)のウシ胎児血清、0.5 Mのスクロースを含有し、残量はDPBSである。
【0401】
凍結保存液3#:1 mL当たりに10%(v/v)のDMSO、15%(v/v)のウシ胎児血清を含有し、残量は培地a-MEM(USA,Invitrogen,C12571500BT)である。
【0402】
実施例12及び比較例3が採用する融解液の配合成分は以下の一種類である。
【0403】
融解液1#:融解液I(1.0mol L-1のスクロース、20%の血清を含有し、残量はDPBSである)、融解液II(0.5 mol L-1のスクロース、20%の血清を含有し、残量はDPBSである)、融解液III(0.25 mol L-1のスクロース、20%の血清を含有し、残量はDPBSである)、融解液IV(20%の血清、残量はDPBSである)。
【0404】
〔適用例7〕卵母細胞及び胚の凍結保存
上記実施例13及び比較例2の凍結平衡液及び凍結保存液を用いて表11及び表12の方案に従ってそれぞれ卵母細胞及び胚の凍結保存を行う。凍結及び融解方法は適用例1と同じである。
【0405】
【0406】
【0407】
表11及び表12のデータから分かるように、本発明のポリペプチドは卵母細胞及び胚の凍結保存に用いられ、少量のDMSO(7.5%)を添加するだけで従来の商業化凍結保存液(DMSO含有量15%)の卵母細胞及び胚の生存率を達成することができ、かつ適用例32及び適用例34のデータから分かるように、TRポリペプチドは卵母細胞及び胚の凍結保存に用いられてより優れた効果を有する。
【0408】
〔適用例8〕ヒト臍帯間葉系幹細胞の凍結保存
上記実施例12及び比較例3の凍結保存液を用いて表13の方案に従ってそれぞれヒト臍帯間葉系幹細胞の凍結保存を行った。凍結及び融解方法は適用例2を参照する。
【0409】
【0410】
表13の結果から分かるように、本発明の凍結保存液にDMSOを添加しないか又は少量のDMSO(7.5%)を添加する場合、従来の技術における10%のDMSOを添加した凍結保存液に相当するレベルの細胞生存率を達成することができ、DMSOの使用量を大幅に減少させ、DMSOの細胞に対する損傷及び毒性を減少させ、凍結後の幹細胞の継代安定性及び細胞活性を大幅に向上させることができる。
【0411】
〔適用例9〕卵巣器官及び卵巣組織の凍結保存
上記実施例12び比較例3の凍結平衡液及び凍結保存液を用いて表14、表15の方案に従ってそれぞれ3日齢のマウスの完全な卵巣器官及び性成熟したマウスの卵巣組織切片を凍結保存した。卵巣器官及び性成熟したマウスの卵巣組織への凍結及び融解方法は適用例3を参照する。
【0412】
【0413】
【0414】
図24、25及び
図40から分かるように、ペプチドバイオニック氷制御材料を添加しない比較例(
図25、
図30)に比べて、適用例37を採用して凍結保存液で凍結保存された卵巣器官を融解した後の切片写真において卵胞構造が相対的に完全であり、間質構造が相対的に完全であり、細胞質が均質であり、淡染が相対的に多く、細胞核が収縮し、濃染が相対的に少ない。血管管壁構造が完全であり、血管内腔の崩壊が少なく、内皮細胞質が均質であり、淡染が相対的に多く、細胞核が収縮し、濃染が相対的に少ない。これから分かるように、適用例37の卵巣器官に対する凍結保存効果がより高い。
【0415】
図29、
図30及び
図41から分かるように、適用例38の方案は比較例22の新鮮で凍結していない成年マウス卵巣組織に比べて、成長期卵胞及び胞状卵胞構造が相対的に完全であり、本発明の凍結保存液が卵巣組織を凍結保存するために用いられることも従来の技術よりも高い効果を有することが分かる。
【0416】
これにより分かるように、本発明のペプチドバイオニック氷制御材料を主成分として調製された凍結保存液は卵母細胞、胚、幹細胞、生殖器官及び組織の凍結保存に同時に適用することができ、いずれも良好な細胞生存率及び生物活性を達成することができる。
【0417】
以上、本発明の実施形態について説明した。ただし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の精神及び原則内で、行われたいかなる修正、同等置換、改善などは、いずれも本発明の請求範囲内に含まれるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0418】
【
図2】アタクチックポリビニルアルコール(a-PVA)とアイソタクチックポリビニルアルコール(i-PVA)の氷水界面での凝集状態をMDシミュレーションすることを示す図である。
【
図3】実施例1で合成されたa-PVAの水素核磁気共鳴スペクトルである。
【
図4】実施例1で合成されたPBVEとi-PVAの水素核磁気共鳴スペクトルであり、AはPBVEであり、Bはi-PVAである。
【
図5】実施例1で合成されたPBVEのGPC曲線である。
【
図6】DLS実験における異なる濃度の場合のa-PVA(A)とi-PVA(B)の水中での分散サイズである。
【
図7】二種類のPVAのPBS溶液の氷晶成長の光学顕微鏡画像であり、Aはa-PVAであり、Bはi-PVAであり、Cは二種類のPVAのPBS溶液のPBSに対する最大氷晶サイズと濃度関係である。
【
図8】a-PVA(
図A、B)とi-PVA(
図C、D)は純水中で氷晶形態を修飾する効果である。
【
図9】MDシミュレーションされた二種類のPVAの分子構造モデルである。
【
図10】MDシミュレーションされた二種類のPVA分子が240 Kである時に氷水界面での水分子及び氷水分子との接触可能な表面積であり、そのうち画像の上部がa-PVA分子3回の結果であり、下部がi-PVA分子3回の結果である。
【
図11】MDシミュレーションで計算された二種類のPVAの水溶液での凝集確率である。
【
図12】MDシミュレーションで計算された、240 K時の二種類のPVAが水溶液中で水と分子間水素結合を形成する数、氷水界面で水分子及び氷-水分子と分子間水素結合を形成する数である。
【
図13】GDL-L-Thr(式(6)の化合物)が氷晶成長活性を抑制する光学顕微鏡画像及び氷晶サイズ大きさの統計図である。
【
図14】GDL-L-Thrは純水で氷晶形態を修飾する効果である。
【
図15】GDL-L-Ser(式(7)の化合物)が氷晶成長活性を抑制する顕微鏡光学画像及び氷晶サイズ大きさの統計図である。
【
図16】GDL-L-Val(式(8)の化合物)が氷晶成長活性を抑制する顕微鏡光学画像及び氷晶サイズ大きさの統計図である。
【
図17】実施例3で調製されたTR短鎖ペプチドが氷晶成長活性を抑制する光学顕微鏡画像及び氷晶サイズ大きさの統計図である。
【
図18】実施例3で調製されたTR短鎖ペプチドが純水中で氷晶形態を修飾する効果である。
【
図19】実施例8のペプトイドR-COOH、R-CH3及びR-CH2CH3が氷晶成長活性を抑制する効果である。
【
図20】実施例8のペプトイド(A)R-COOH、(B)R-CH3及び(C)R-CH2CH3が純水中で氷晶形態を修飾する効果である。
【
図22】実施例9の二種類のPVAの氷吸着量が濃度に応じて変化する図である。
【
図23】二種類のPVAのDPBS溶液での氷晶成長の光学顕微鏡画像であり、Aはa-PVAであり、Bはi-PVAである。
【
図24】3日齢のマウスの新鮮な(凍結されていない)卵巣器官の切片染色画像である。
【
図25】比較例8の凍結保存された卵巣器官を融解した後の切片染色画像である。
【
図26】適用例13の凍結保存された卵巣器官を融解した後の切片染色画像である。
【
図27】適用例14の凍結保存された卵巣器官を融解した後の切片染色画像である。
【
図28】適用例15の凍結保存された卵巣器官を融解した後の切片染色画像である。
【
図29】性成熟したマウスの新鮮な(凍結されていない)卵巣組織の切片染色画像である。
【
図30】比較例9の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【
図31】適用例16の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【
図32】適用例17の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【
図33】適用例18の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【
図34】適用例26の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【
図35】適用例27の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【
図36】適用例28の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【
図37】適用例29で凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【
図38】適用例30の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【
図39】適用例31の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【
図40】適用例37の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。
【
図41】適用例38の凍結保存された卵巣組織を融解した後の切片染色画像である。