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特許7389145通信システム、通信システムに用いるマスター機、スレーブ機、および通信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】通信システム、通信システムに用いるマスター機、スレーブ機、および通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 3/04 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
H04B3/04 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021574357
(86)(22)【出願日】2020-01-30
(86)【国際出願番号】 JP2020003357
(87)【国際公開番号】W WO2021152761
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】駒崎 就哉
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-325121(JP,A)
【文献】特開2010-247969(JP,A)
【文献】特開2003-304265(JP,A)
【文献】特開2004-221904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスター機と、
終端抵抗が設定されたスレーブ機を含む複数台のスレーブ機とが通信線を介して接続され、
前記マスター機は、
前記複数台のスレーブ機との通信の通信速度を、通常時は高速ボーレートに設定し、前記終端抵抗が設定されたスレーブ機との通信が不能になったことを検知すると低速ボーレートに切り替え、当該終端抵抗が設定されたスレーブ機との通信が復旧したことを検知すると、前記複数台のスレーブ機に高速ボーレートへの切替指示を送信し、自機器の設定を高速ボーレートに切り替えるマスター通信制御部を有し、
前記複数台のスレーブ機はそれぞれ、
前記マスター機との通信の通信速度を、通常時は高速ボーレートに設定し、前記マスター機との通信が不能になったことを検知すると低速ボーレートに切り替え、前記マスター機から高速ボーレートへの切替指示を受信すると、高速ボーレートに切り替えるスレーブ通信制御部を有する
ことを特徴とする通信システム。
【請求項2】
前記各スレーブ機は、前記通信線に終端抵抗として接続可能な抵抗と、自スレーブ機が終端抵抗の設定対象であるか否かを示す終端抵抗設定情報を記憶するメモリと、前記終端抵抗の前記通信線への接続/非接続を電気的に切り替える切替回路とを備え、
前記スレーブ通信制御部は、前記メモリに記憶された終端抵抗設定情報に基づき前記切替回路によって前記抵抗の前記通信線への接続/非接続を切り替える
ことを特徴とする請求項1記載の通信システム。
【請求項3】
前記マスター機は空調機の室外機で構成され、前記複数のスレーブ機は、前記室外機と接続される室内機で構成される空調システムに用いられる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の通信システム。
【請求項4】
通常時は通信線を介して高速ボーレートで通信を行い、通信が不能になったことを検知すると低速ボーレートに切り替える複数台のスレーブ機に通信線を介して接続され、前記複数台のスレーブ機の中の1台に終端抵抗が設定されており、
前記複数台のスレーブ機との通信の通信速度を、通常時は高速ボーレートに設定し、前記終端抵抗が設定されたスレーブ機との通信が不能になったことを検知すると低速ボーレートに切り替え、当該スレーブ機との通信が復旧したことを検知すると、前記複数台のスレーブ機に高速ボーレートへの切替指示を送信し、自機器の設定を高速ボーレートに切り替えるマスター通信制御部とを有する
ことを特徴とする通信システムに用いるマスター機。
【請求項5】
抵抗を備え、この抵抗が終端抵抗として前記通信線に接続されていることを特徴とする請求項4に記載のマスター機。
【請求項6】
終端抵抗が設定されたスレーブ機を含む複数台のスレーブ機との通信速度を、通常時は高速ボーレートに設定し、終端抵抗が設定されたスレーブ機との通信が不能になったことを検知すると低速ボーレートに切り替え、当該スレーブ機との通信が復旧したことを検知すると、前記複数台のスレーブ機に高速ボーレートへの切替指示を送信し、自機器の設定を高速ボーレートに切り替えるマスター機に通信線によって接続され、
抵抗と、自機が終端抵抗の設定対象であるか否かを示す終端抵抗設定情報を記憶するメモリと、前記抵抗の前記通信線への接続/非接続を電気的に切り替える切替回路と、
前記メモリに記憶された終端抵抗設定情報に基づき前記切替回路によって前記抵抗の前記通信線への接続/非接続を切り替え、
前記マスター機との通信の通信速度を、通常時は高速ボーレートに設定し、前記マスター機との通信が不能になったことを検知すると低速ボーレートに切り替え、前記マスター機から高速ボーレートへの切替指示を受信すると、高速ボーレートに切り替えるスレーブ通信制御部を有する
ことを特徴とする通信システムに用いるスレーブ機。
【請求項7】
マスター機と、終端抵抗が設定されたスレーブ機を含む複数台のスレーブ機とが、通信線を介して通常時は高速ボーレートで通信を行い、前記マスター機と前記終端抵抗が設定されたスレーブ機との通信が不能になると、前記マスター機が低速ボーレートに切り替え、
前記マスター機が低速ボーレートに切り替えたことにより前記マスター機との通信が不能になったスレーブ機が、通信速度を低速ボーレートに切り替え、
前記マスター機と前記終端抵抗が設定されたスレーブ機との通信が復旧すると、前記マスター機が前記複数台のスレーブ機に高速ボーレートへの切替指示を送信するとともに、自機器の設定を高速ボーレートに切り替え、
前記マスター機から高速ボーレートへの切替指示を受信したスレーブ機が、高速ボーレートに切り替える
ことを特徴とする通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、通信システム、通信システムに用いるマスター機、スレーブ機、および通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1台のマスター機に対して複数台のスレーブ機が通信線によってバス接続された通信システムがある。例えば、大型の建物に設置される空調システムの場合、通常複数の室内機がスレーブ機となり、1台の室外機又は中央の管理装置がマスター機となる。
【0003】
このような空調システムでは、マスター機において、接続された各室内機の稼働に関する情報(例えば、設定温度情報やセンサ情報等)が逐次取得されて一括管理される。また、当該空調システムでは、複数の室内機の動作をマスター機で一括制御することも可能である。
【0004】
このような通信システムにおいて通信が高速化された場合、通信線の末端における通信信号の反射により信号波形に乱れが生じることがある。通信線の長さが長い場合には、特にその影響が大きくなる。これに対応するため、通信線内に終端抵抗を設定することで信号の反射が抑えられ、信号波形の乱れを抑えて通信を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-165568号公報
【発明の概要】
【0006】
このような通信システムでは、通信線の両端にある機器に終端抵抗を設定することが望まれる。そこで、通信線の一端にあるマスター機が最も遠方にあると推定されるスレーブ機を自動で探索し、マスター機がそのスレーブ機に終端抵抗の設定指示を送信することで、該当するスレーブ機が自動的に終端抵抗を設定することが考えられる。なお、このような終端抵抗の設定前のマスター機とスレーブ機とのやり取りは、終端抵抗無しでも通信可能な低速の通信で行われる。
【0007】
ところが、このような終端抵抗の自動設定を行う場合、スレーブ機内の抵抗を終端抵抗として機能させるために通信線に接続させるリレー等が必要となる。このリレーは常開リレーが用いられるため、終端抵抗を設定すべきスレーブ機の電源が断たれた場合には、通信線上にスレーブ機側の終端抵抗がない状態となり、マスター機とすべてのスレーブ機間で高速化された通信が不通になるという問題が生じることが想定される。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、マスター機に対して複数台のスレーブ機が通信線で接続され、1台のスレーブ機に終端抵抗が設定される通信システムにおいて、マスター機と終端抵抗が設定されたスレーブ機との通信が不能になった場合にも、マスター機と他のスレーブ機との適正な通信を可能にするための、通信システム、通信システムに用いるマスター機、スレーブ機、および通信方法を提供することを目的とする。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の通信システムは、マスター機と、終端抵抗が設定されたスレーブ機を含む複数台のスレーブ機とが通信線を介して接続され、前記マスター機は、前記複数台のスレーブ機との通信の通信速度を、通常時は高速ボーレートに設定し、前記終端抵抗が設定されたスレーブ機との通信が不能になったことを検知すると低速ボーレートに切り替え、当該終端抵抗が設定されたスレーブ機との通信が復旧したことを検知すると、前記複数台のスレーブ機に高速ボーレートへの切替指示を送信し、自機器の設定を高速ボーレートに切り替えるマスター通信制御部を有し、前記複数台のスレーブ機はそれぞれ、前記マスター機との通信の通信速度を、通常時は高速ボーレートに設定し、前記マスター機との通信が不能になったことを検知すると低速ボーレートに切り替え、前記マスター機から高速ボーレートへの切替指示を受信すると、高速ボーレートに切り替えるスレーブ通信制御部を有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の通信システムに用いるマスター機は、通常時は通信線を介して高速ボーレートで通信を行い、通信が不能になったことを検知すると低速ボーレートに切り替える複数台のスレーブ機に通信線を介して接続され、前記複数台のスレーブ機の中の1台に終端抵抗が設定されており、前記複数台のスレーブ機との通信の通信速度を、通常時は高速ボーレートに設定し、前記終端抵抗が設定されたスレーブ機との通信が不能になったことを検知すると低速ボーレートに切り替え、当該スレーブ機との通信が復旧したことを検知すると、前記複数台のスレーブ機に高速ボーレートへの切替指示を送信し、自機器の設定を高速ボーレートに切り替えるマスター通信制御部とを有する。
【0011】
また、本発明の通信システムに用いるスレーブ機は、終端抵抗が設定されたスレーブ機を含む複数台のスレーブ機との通信速度を、通常時は高速ボーレートに設定し、終端抵抗が設定されたスレーブ機との通信が不能になったことを検知すると低速ボーレートに切り替え、当該スレーブ機との通信が復旧したことを検知すると、前記複数台のスレーブ機に高速ボーレートへの切替指示を送信し、自機器の設定を高速ボーレートに切り替えるマスター機に通信線によって接続され、前記マスター機との通信の通信速度を、通常時は高速ボーレートに設定し、前記マスター機との通信が不能になったことを検知すると低速ボーレートに切り替え、前記マスター機から高速ボーレートへの切替指示を受信すると、高速ボーレートに切り替えるスレーブ通信制御部を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の通信方法は、マスター機と、終端抵抗が設定されたスレーブ機を含む複数台のスレーブ機とが、通信線を介して通常時は高速ボーレートで通信を行い、前記マスター機と前記終端抵抗が設定されたスレーブ機との通信が不能になると、前記マスター機が低速ボーレートに切り替え、前記マスター機が低速ボーレートに切り替えたことにより前記マスター機との通信が不能になったスレーブ機が、通信速度を低速ボーレートに切り替え、前記マスター機と前記終端抵抗が設定されたスレーブ機との通信が復旧すると、前記マスター機が前記複数台のスレーブ機に高速ボーレートへの切替指示を送信するとともに、自機器の設定を高速ボーレートに切り替え、前記マスター機から高速ボーレートへの切替指示を受信したスレーブ機が、高速ボーレートに切り替えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る通信システムとしての空調システムを示す全体図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る通信システムとしての空調システムに用いるマスター制御装置の構成を示すブロック図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る通信システムとしての空調システムに用いるスレーブ制御装置の構成を示すブロック図である。
図4図4は、本発明の一実施形態に係る通信システムとしての空調システムが起動されたときに実行される動作を示すシーケンス図である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る通信システムとしての空調システムにおいて、室内機と、終端抵抗が設定された室内機との間の通信が不能になったときの動作を示すシーケンス図である。
図6図6は、本発明の一実施形態に係る通信システムとしての空調システムにおいて、室内機と、終端抵抗が設定された室内機との間の通信が復旧したときの動作を示すシーケンス図である。
図7図7は、本発明の一実施形態に係る通信システムとしての空調システムに用いる室外機のマスター制御装置の動作を示すフローチャートである。
図8図8は、本発明の一実施形態に係る通信システムとしての空調システムに用いる各室内機のスレーブ制御装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の通信システムの一実施形態として構成された空調システムについて、図面を参照して説明する。
【0015】
〈一実施形態による空調システムの構成〉
本実施形態による空調システムの構成について、図1を参照して説明する。空調システム1は、例えばオフィスビルや商業施設等の大型の建物に設置される空調システムであり、マスター機としての室外機10と、室外機10に通信線30や冷媒配管(図示せず)によってバス接続されるスレーブ機としての複数の室内機20-1、20-2、および20-3を備える。空調システム1は、いわゆる、マルチタイプの空調システムである。通信線30は2線式のバス通信線となっている。各室内機20-1~20-3には、有線でリモートコントローラ7-1~7-3が接続され、各リモートコントローラ7-1~7-3によってそれぞれの室内機20-1~20-3の運転/停止や冷暖房の運転モード、設定温度等が設定される。室外機10は、ブレーカ3を介して三相電源2に接続され、室内機20-1~20-3はそれぞれ、ブレーカ5-1~5-3を介して単相電源4-1~4-3に接続されている。つまり、室外機10および室内機20-1~20-3はそれぞれ、独立して電源に接続されている。一般に空調システム1は設置した後、電源を遮断しないことが前提となっているが、場合によっては、室内機20-1~20-3は個別にブレーカ5-1~5-3操作等によって電源遮断が行われる可能性がある。
【0016】
図1においては、室外機10に接続された室内機が3台の場合を示したが、この数には限定されず、4台以上の多数の室内機が接続されていてもよい。以下、いずれの室内機であるかを特定する必要がない場合には、室内機20と記載する。
【0017】
室外機10は、複数の室内機20の動作を制御するマスター制御装置11を有する。マスター制御装置11は、図2に示すように、通信回路111と、マスター通信制御部としてのマイコン112と、終端抵抗として機能させるための抵抗113とを有する。
【0018】
通信回路111は、通信線30に接続され、通信線30を介して高速ボーレートで通信を行う機能と、高速ボーレートに対し相対的に低速の低速ボーレートで通信を行う機能とを有する。高速ボーレートは、例えば、20kHz、低速ボーレートは、その半分の10kHzとなっている。以下、高速ボーレートでの通信を高速通信、低速ボーレートでの通信を低速通信という。通信回路111は、マイコン112の制御により、室内機20に対して稼動状況情報要求や動作制御情報を送信するとともに、室内機20から送信された設定温度情報やセンサ情報等の稼動状況に関する情報を取得し、処理およびデータ記憶を行う。
【0019】
マイコン112は、通信回路111による室内機20との通信速度を、通常時は高速ボーレートに設定し、後述するように終端抵抗が設定された、すなわち通信線30へ抵抗212が接続された室内機20との通信が不能になったことを検知すると低速ボーレートに切り替える。またマイコン112は、終端抵抗が設定された室内機20との通信が復旧したことを検知すると、各室内機20に高速ボーレートへの切替指示を送信し、通信回路111による各室内機20との通信速度を高速ボーレートに切り替える。
【0020】
マスター制御装置11内の抵抗113は、常時通信線30に接続された状態で終端抵抗として機能するよう設置され、通信線30によって伝達される信号の反射を抑えて、高速ボーレートで空調システム1内の通信が適切に行われるようにする。
【0021】
室内機20は、室外機10およびリモートコントローラ7からの指示に基づいて自室内機20の動作を制御するスレーブ制御装置21を有する。スレーブ制御装置21は、図3に示すように、通信線30に接続された通信回路211と、抵抗212と、切替回路213と、スレーブ通信制御部としてのマイコン214と、不揮発性メモリ215とを有する。
【0022】
通信回路211は、通信回路111と同様に高速通信を行う機能と、低速通信を行う機能とを有する。通信回路211は、マイコン214の制御により、室外機10からの要求に応答して自室内機20の設定温度情報やセンサ情報等の稼働状況に関する情報をマスター制御装置11、すなわち室外機10に送信する。
【0023】
切替回路213は、電気信号によって動作するリレーや半導体スイッチ等で構成され、抵抗212の通信線30への導通/非導通を切り替えることにより、抵抗212の通信線30への並列接続/非接続を電気的に切り替える。切替回路213により抵抗212が通信線30に並列接続されると、この抵抗212は、終端抵抗として機能する。終端抵抗は、通信線30によって伝達される信号の反射を抑えて、高速ボーレートで空調システム1の通信が適切に行われるようにする。
【0024】
マイコン214は、後述する不揮発性メモリ215に記憶された情報に基づいて、電気的信号を切替回路213に供給することで切替回路213の切り替え動作を制御する。またマイコン214は、通信線30を介した通信回路211による室外機10との通信速度を、通常時は高速ボーレートに設定し、室外機10との通信が不能になったことを検知すると低速ボーレートに切り替える。またマイコン214は、室外機10から高速ボーレートへの切り替え指示を受信すると、通信回路211による室外機10との通信速度を高速ボーレートに切り替える。
【0025】
不揮発性メモリ215は、自室内機20が終端抵抗の設定対象である場合に、終端抵抗設定情報を記憶する。この情報は、設備の構築時に、室外機10のマスター制御装置11が通信によってできるだけ遠方にある室内機20を自動で判別し、判別した室内機20に対してマスター制御装置11から終端抵抗の設定指令を送信したことにより、この指令を受けた室内機20のマイコン214が、自ら切替回路213を動作させて抵抗212を通信線30に投入する際に、その設定情報を自らの不揮発性メモリ215に記憶してもよい。また、設置作業員が各機器の設置時に遠方にある室内機20を通信線30の配線状態から選定し、選定した室内機20に対してリモートコントローラ7から設定操作することで、該当する室内機20に直接、終端抵抗設定情報を入力してもよい。この場合、リモートコントローラ7から設定操作がなかった室内機20は、終端抵抗設定情報が記憶されず、終端抵抗設定対象外の室内機20となる。
【0026】
〈一実施形態による空調システムの動作〉
本実施形態による空調システム1の動作について、図4図8を参照して説明する。図4図6のシーケンス図において、太線の矢印は高速通信であることを示し、細線の矢印は低速通信であることを示す。
【0027】
空調システム1では、通常時は、室外機10および各室内機20の通信速度が高速ボーレートに設定されており、これらの機器間で高速ボーレートによる通信が行われる。高速ボーレートによる通信が行われる際には、通信線30の末端における通信信号の反射の影響が大きくなり、信号波形が乱れることがある。これに対応するため、通信線30の両端の機器、つまり室外機10と、室外機10から遠い室内機20に終端抵抗が設定されることで、信号の反射が抑えられ、信号波形の乱れを防ぐことができる。終端抵抗が設定(抵抗212が通信線30に接続)される室内機20は、室外機10から最も遠い室内機20であることが望ましい。しかしながら、最遠でなくとも、接続された室内機20の中で遠い方にあれば、ある程度信号の反射が抑えられ、信号波形の乱れが防ぐことができるため、高速ボーレートによる通信は可能となる。なお、ここにおいて、室外機10と室内機20間の「遠い」という意味は、両者の設置位置間の距離ではなく、両者間をつなぐ通信線30の長さを基準とする。
【0028】
終端抵抗の設定対象である室内機20の不揮発性メモリ215には、自室内機20が終端抵抗の設定対象であることを示す終端抵抗設定情報が記憶される。本実施形態においては、室外機10から最も遠い位置にある室内機20-3の不揮発性メモリ215-3に、当該室内機20-3が終端抵抗の設定対象であることを示す終端抵抗設定情報が記憶されている。
【0029】
空調システム1が起動、すなわち空調システム1内の機器に電源が投入されると、各室内機20において、図8の制御フローに示すように、マイコン214により不揮発性メモリ215内の情報が取得される。そして、終端抵抗設定情報が取得された場合(S21の「YES」)には、当該マイコン214により切替回路213が閉に切り替えられる(S22)。
【0030】
ここでは、室内機20-3のマイコン214-3により不揮発性メモリ215-3から終端抵抗設定情報が取得され、切替回路213-3が閉に切り替えられて抵抗212-3が通信線30に接続される(図4のS1)。つまり、室内機20-3は、終端抵抗が設定された室内機になる。また、室内機20-1、20-2では、不揮発性メモリ215-1、215-2に終端抵抗設定情報が記憶されていないため、切替回路213-1、213-2の開が維持されて抵抗212-1、212-2は非接続状態のままになる。つまり、室内機20-1および20-2は、終端抵抗が設定されていない室内機になる。
【0031】
次に、室外機10のマイコン112により、各室内機20に対して終端抵抗が設定されているか否かの問い合わせ情報が送信される(S2、S4、およびS6)。ここで、空調システム1の起動時は、室外機10および各室内機20の通信速度は高速ボーレートに設定されており、これらの機器間の通信は高速で行われる。
【0032】
各室内機20は、室外機10からの問い合わせを受けると、当該問い合せへの応答として、終端抵抗の設定状態を示す情報を室外機10に送信する(S3、S5、およびS7)。室外機10は、各室内機20から送信された情報に基づいて、終端抵抗が設定されている室内機20を認識する(S8)。ここでは室外機10は、室内機20-3が、終端抵抗が設定されている室内機であると認識する。
【0033】
空調システム1の各機器への電源投入時にこれらの処理が実行された後、室外機10と各室内機20との間で、空調に関する通信が所定時間間隔(図5の時刻t0、t1、t2・・・)で順次実行される。空調に関する通信では、例えば、室外機10から各室内機20に稼動状況情報要求や動作指令が送信され、これに応答して各室内機20から室外機10に、運転/停止情報、設定温度情報、及び各種センサの検出データ情報等が送信される。このとき、室外機10および各室内機20の通信速度は高速ボーレートに設定されているため(図7のS11、図8のS23)、高速通信で実行される(図5のS101~S110の太線矢印、図7のS12、図8のS24)。
【0034】
ここで、時刻t4直後に室内機20-3が電源遮断状態またはマイコン112が動作を停止してしまうような故障状態になると、電気的に動作していた室内機20-3の切替回路213-3が自動的に開となり、終端抵抗として機能している抵抗212-3が通信線30から外れてしまう。この結果、室外機10と各室内機20間では高速通信ができなくなってしまう。このため、時刻t5に室外機10から室内機20-3宛てに送信された情報が室内機20-3で受信されない(図5のS111)。このとき、室外機10のマイコン112において、終端抵抗が設定された室内機20-3との通信が不能になったことが認識される(図7のS13の「YES」)。マイコン112は、室内機20-3との通信が不能になったことを認識すると、通信回路111の通信速度を低速ボーレートに切り替える(図7のS14)。
【0035】
そして、時刻t6に、室外機10が室内機20-1宛てに低速通信で情報送信を行うと、室内機20-1は高速ボーレートに設定されているためボーレート設定が一致せず、送信された情報は室内機20-1で受信できない(図5のS112)。
【0036】
室内機20-1では、前回室外機10からの情報を受信した時刻t3から所定時間、具体的には、時刻t3から2周期後の受信タイミングである時刻t9までの間に設定された期間、が経過したときに、室外機10からの情報が受信されないことから、マイコン214-1において、室外機10との通信が不能になったことが認識される(図8のS25の「YES」)。マイコン214-1は、室外機10との通信が不能になったことを認識すると、通信回路211-1の通信速度を低速ボーレートに切り替える(図8のS26)。
【0037】
同様に、時刻t10までの間に、室内機20-2のマイコン214-2において室外機10との通信が不能になったことが認識され、通信回路211-2の通信速度が低速ボーレートに切り替えられる。
【0038】
これにより、室外機10と室内機20-1、20-2との間でボーレート設定が低速で一致して通信可能になり、以降、空調に関する情報交換が低速通信により所定時間間隔(時刻t9、t10・・・)で順次実行される(図5図6のS115~S123の細線矢印、図7のS15、図8のS27)。なお、低速通信は、ボーレートが低いため、終端抵抗の接続有無にかかわらず、各機器間での通信が可能である。時刻t11に、室外機10が室内機20-3宛てに低速通信を行うが、室内機20-3は電源遮断状態が継続されているため、室内機20-3で受信されない(図6のS119)。
【0039】
時刻t11直後に室内機20-3の電源が復帰もしくは故障状態から復旧すると、通信速度が高速ボーレートに設定された状態で起動する。同時に、室内機20-3は、マイコン214-3により不揮発性メモリ215-3から終端抵抗設定情報を取得し、切替回路213-3を閉に切り替え、抵抗212-3を通信線30に接続させ、終端抵抗として設定する(図8のS21の「YES」、S22)。
【0040】
そして、時刻t14に、室外機10が室内機20-3宛てに低速通信で情報送信を行うと、室内機20-3は高速ボーレートに設定されているためボーレート設定が一致せず、送信された情報が室内機20-3で受信されない(図6のS124)。
【0041】
室内機20-3では、起動してから所定時間(時刻t17までの間)が経過したときに、室外機10からの情報が受信されないことから、マイコン214-3において、室外機10との通信が不能であることが認識される(図8のS25の「YES」)。マイコン214-3は、室外機10との通信が不能であることを認識すると、通信回路211-3の通信速度を低速ボーレートに切り替える(図8のS26)。
【0042】
これにより、室外機10と室内機20-3との間でボーレート設定が低速で一致し、室外機10と室内機20-3との間の通信が可能になる。そして、時刻t17に室外機10から室内機20-3宛てに低速で送信した情報が室内機20-3で受信され(図6のS129)、これに対する応答が室内機20-3から室外機10に送信される(図6のS130)。
【0043】
室外機10では、室内機20-3からの応答を受信すると室内機20-3との通信が復旧したことが認識され(図7のS16の「YES」)、時刻t18に室外機10のマイコン112により、各室内機20に対して高速ボーレートへの切替指示が低速でブロードキャスト送信される(図6のS131)。続いて、マイコン112により、通信回路111の通信速度が高速ボーレートに切り替えられる(図7のS17)。
【0044】
室内機20-1~20-3では、室外機10から高速ボーレートへの切替指示が受信されると(図8のS28の「YES」)、マイコン214-1~214-3により、通信回路211-1~211-3の通信速度が高速ボーレートに切り替えられる(図8のS29)。
【0045】
これにより、室外機10と室内機20-1~20-3との間でボーレート設定が高速で一致し、以降、空調に関する情報交換が高速通信により所定時間間隔(時刻t19、t20・・・)で順次実行される(図7のS12、図8のS24)。
【0046】
以上の実施形態によれば、バス形式の通信線で接続された室外機と複数の室内機とを備え、1台の室内機の通信線上に終端抵抗が設定された空調システムにおいて、通常時は高速通信を行い、当該室外機と当該室内機との通信が不能になると、高速通信から低速通信に切り替えて通信を継続できるようにすることで、効率良く通信を行いつつ、なるべく空調システム内の通信を遮断させないようにすることができる。また、当該室内機との通信が可能になれば、速やかに高速通信に戻すことで通信効率が向上する。
【0047】
なお、本実施形態では室外機が、マスター機であってかつ通信線の一端に設けるべき終端抵抗が予め設定されている例で説明したが、集中管理装置等が、通信線上で室外機よりも遠方に設けられる場合には、室外機には終端抵抗を設定せず、集中管理装置に終端抵抗を設定してもよい。
【0048】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
図1
図2
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図8