(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】セルフコイリング中空糸膜
(51)【国際特許分類】
B01D 69/08 20060101AFI20231121BHJP
B01D 63/02 20060101ALI20231121BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20231121BHJP
B01D 71/24 20060101ALI20231121BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20231121BHJP
B01D 71/34 20060101ALI20231121BHJP
B01D 71/68 20060101ALI20231121BHJP
B01D 71/70 20060101ALI20231121BHJP
D01D 5/24 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
B01D69/08
B01D63/02
B01D69/00
B01D71/24
B01D71/26
B01D71/34
B01D71/68
B01D71/70
D01D5/24
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022000893
(22)【出願日】2022-01-06
(62)【分割の表示】P 2019538722の分割
【原出願日】2017-09-30
【審査請求日】2022-02-04
(32)【優先日】2016-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519116931
【氏名又は名称】オキシメム リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サイロン,イオイン
(72)【発明者】
【氏名】セメンス,ミカエル
(72)【発明者】
【氏名】ウェラン,マルコルム
(72)【発明者】
【氏名】ジアニー,ジョン
(72)【発明者】
【氏名】クームス,ナイジェル
(72)【発明者】
【氏名】バイアン,ウェイン
(72)【発明者】
【氏名】ヘファナン,バーリー
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-534786(JP,A)
【文献】特開2015-029927(JP,A)
【文献】米国特許第05470659(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/44
D01D 1/00-13/02
D01F 1/00- 6/96
D01F 9/00- 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル状、半らせん状、または波状の形態を有する中空糸膜を製造する方法であって、前記方法は、ダイの開口部を通してニードルの周囲に液体ポリマーを通す工程を含み、当該ダイ開口部および前記ニードルは非対称に整列し、前記ダイ開口部は、前記液体ポリマーがダイまたはノズルを出るときにその非対称の流れを作り、コイル状、半らせん状
(hemihelix)、または波状の膜を形成するものであり、当該膜は、中空糸膜が塑性変形することなく非線形形態か
ら直線形態へと変化するように、伸張することができ、また前記中空糸膜は、
円形の内側および非
円形の外側断面を有するものであ
り、前記液体ポリマーがポリジメチルシロキサンである、方法。
【請求項2】
前記中空糸膜は、押出し、紡糸、キャスティング、熱誘起相分離(TIPS)、または溶媒誘起相分離(SIPS)のプロセスによって製造される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プロセスが押出しである場合、前記中空糸膜を前記ダイまたは前記ノズルを出る流体ポリマー膜よりも速い速度で走行するコンベヤ上に押出しすることによって付加応力が与えられる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記プロセスが紡糸、TIP
S、またはSIP
Sの場合、前記ダイまたは前記ノズルの角度は前記中空糸膜の垂直軸Yから少なくと
も2°~30°傾いている、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記中空糸膜はマニホールドの両端部に取り付けられ、前記中空糸膜の内腔は前記マニホールドの内部空間と連通しており、前記マニホールドを用いて前記中空糸膜の前記内腔にまたは前記内腔から液体またはガスを供給または除去することができるものである
、垂直方向に整列した中空糸膜のアレイを製造するための、請求項1に記載の中空糸膜を製造する方法。
【請求項6】
各膜がコイル状形態を有する場合、前記アレイの前記中空糸膜は異なるピッチ、コイル直径、およびコイル方向を有する
、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記中空糸膜に加えられる張力は、前記アレイの反対側の端部に対して可逆的に垂直方向に移動するように構成される少なくとも1つのマニホールドによって制御される
、請求項
5または
6に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つのマニホールドが前記アレイの前記反対側の端部に対して可逆的に垂直方向に移動する場合、前記中空糸膜の直線方向の張力が生じ、前記中空糸膜の長さを変化させ、コイル状形態から直線形態へ変化させる
、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのマニホールドが前記アレイの前記反対側の端部に向かって垂直方向に移動する場合、前記中空糸膜にかかる前記張力が減少し、前記中空糸膜をそれらのコイル状状態に戻す
、請求項
5~
8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜の表面上の化学的もしくは生物学的に活性な層から液体への、および/または液体からその活性な膜へのガス移動、または水の産業もしくは処理産業における液体から固体のろ過、のいずれかに使用される膜に関する。具体的には、本発明はセルフコイリングの中空糸膜に関する。膜は、張力を受けると、コイルの直径が減少しコイルのピッチが増加する。そして張力が解放(除去)されると、膜は損傷することなく自然のセルフコイル状態に戻る。
【背景技術】
【0002】
膜は、ヘルスケアおよび製薬産業から水および廃水産業に至る多数の異なる処理における分離装置としてますます使用されている。膜モジュールのコンパクトさ、単位体積当たりのそれらの高い比表面積およびそれらの絶えず減少するコストの結果、膜ベースの分離方法は、産業界および世間一般においてますます一般的になりつつある。膜は一般的に中空繊維または平らなシートとして製造される。これらの基本ユニットは、異なる構造を達成するために支持体の周りに配置されるかまたは支持体に接続することができ、例えば、平らなシートはらせん状に巻かれたモジュールを作り出すように構成され、中空繊維は織物を形成するように一緒に織るか編むことができる。これらの膜およびそれらのモジュール構成を、典型的には剛性構造支持体およびフレームによって定位置に保持し、そしてハウジングまたはシェル内に収めることができる。異なる設計により、膜の動きを制限することができ、または膜それ自体が他のフレームと位置合わせされて接続するフレームによって固定位置に固定および保持されることができる。中空糸膜については、それらは少なくとも1つのマニホールド/ヘッダーに接続し、膜壁を横切って通過する流体は少なくとも1つのマニホールド/ヘッダーを通って膜の管腔から供給されるか、または膜の管腔から引き出される。多くの場合、中空糸膜は、中空繊維の両端に1つずつ、2つのヘッダーに接続している。
【0003】
液体が膜の外側または内側表面上を流れる場合、膜表面の滑らない状態のために液体境界層が成長する。境界層の厚さは、(液体の動粘性率と膜を通過する液体の速度の影響を受ける)局所レイノルズ数と、
図1に例示するように流体Hが膜表面を流れる距離の関数である。典型的には、境界層は厚さが、膜表面の前縁から最大の定常状態の厚さに達するまで増す。結果として、拡散はこの境界層を横切る物質移動を制御し、濃度勾配が境界層を横切って形成される。ガス移動用途では、この厚い境界層は膜を囲む「液膜」のように作用し、多くの場合それは膜を横切るガス移動の速度を制限し、物質移動は「液膜拡散律速」であると言われている。ろ過用途では、膜によって排除される粒子状および分子状の両方の汚染物質は境界層に蓄積し、拡散によってのみバルク溶液に戻ることができる。したがって、ろ過もまた膜拡散律速であり、そして膜の近くの汚染物質の蓄積は一般的に「濃度分極」と呼ばれる。要約すると、膜表面に成長する液体境界層は、膜プロセス用途の性能に深刻な影響を与える。ろ過用途では、膜を通る透過液の逆洗は、境界に蓄積した粒子または分子を破壊して分散させるのが一般的である。
【0004】
液膜拡散律速の影響を最小限にして膜の全物質移動ポテンシャルを実現することができる方法を見出すために多くの研究が行われてきた。残念なことに、境界層の厚さを薄くしようとするあらゆる試みはエネルギー損失をもたらす。水の流速が速いとせん断力が増し境界層の厚さが薄くなるが、圧力損失が大きくなり、より多くのポンピングエネルギーが必要になる。気泡を使用して境界層を破壊し、せん断力を高めるエアレーションは、ガス圧縮を必要とする。水を繊維の長さに平行(平行流)ではなく、中空糸膜の軸に垂直に流れる(クロスフロー)ように促進することにより、境界層はクロスフロー内で成長する間隔がほとんどないため、境界層の厚さを劇的に減少させることができるが、クロスフローは流体抵抗およびより高い圧力降下を伴う。更に、クロスフローは、繊維が互いに押し込まれて繊維の有効表面積が減少するので、緩んだ液中中空糸膜モジュールでは実現不可能である。脈動流、ディーン渦、超音波、振動システム等を含む他の多くの方法はすべて、より高いエネルギーコストという同じ不利益を被り、これらの方法のいずれも液中膜モジュールに実際に効果的に適用することができない。
【0005】
一般的な並列中空繊維構造からの逸脱を調査するためにいくつかの研究が行われている(Yangら、2011および2014)。その研究では、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)から製造された多孔性、円筒状で、更にカール状のスペーサーニットの膜繊維が膜蒸留用のモジュールに使用された。流束を増加しながら、製造後に実施される追加のプロセス、この場合ではステンレス鋼ロッドの周りに巻き付けられた膜の熱処理によって、膜のカール形状が達成された。巻き角が60°に固定されるため、カール状膜の形状は順応性がなく、運転中に変更も改造もできなかった。
【0006】
本発明の目的は、上述の問題のうちの少なくとも1つを克服することである。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、関連するエネルギー損失を最小化しながら、中空糸膜の外側表面上の厚い境界層の成長を阻止するかまたは最小限に抑えることである。カール状またはコイル状の膜は、真っ直ぐな中空糸膜と比較する場合、改善された物質移動特性を有することが示されている。これまで、このカール状の又は波状の性質を有する全ての膜は、最初に中空糸膜を製造し、次に巻き付け、又は捲縮機のような他の同様な機構を使用して膜にねじれ又はカールを作り出すことによって製造されている。これは製造工程において追加のコストと複雑さをもたらす。そしてコイル直径およびコイル間ピッチは規則的であり、この方法で製造されるすべての膜について同じである。これにより、膜が互いにネスティングし、各膜の外側との液体接触を妨げる。本発明は、不規則なピッチおよびコイル直径を有する、コイルまたは半らせん形状の膜を提供する。束状にポッティングした場合、これらの膜によって作り出される三次元構造は、束の中の繊維の周りおよび上を水が流れるので、成長する可能性のある有効境界層の厚さを減少させる傾向がある。請求項に係わる発明の膜を用いる本明細書に記載の膜モジュール設計は、水が中空糸膜の大きな束の周り、および中を通って流れる複雑な動的流体流路をもたらし、膜との流体接触を最適化し、かつメンブレンハウジング内部の全ての膜の効果的な使用を確かなものにする。この設計は、必要とされる入力エネルギーを最小限に抑えながら優れた物質移動性能を提供する。
【0008】
本発明によれば、添付の特許請求の範囲に記載されているように、ガス分離、液体からのガス除去、液体へのガス送達、または膜、例えばバイオフィルムの外表面上の化学的もしくは生化学的反応層へのガス送達、または液体からの固体のろ過、に使用できる中空糸膜が提供される。この膜または膜のアレイが長手方向両端でマニホールドに接続している場合、液体を膜の管腔から除去することができ、ガスを膜の管腔から除去することができ、またはガスを膜の管腔に供給することができる。
【0009】
好ましくは、コイル状、半らせん状、らせん状、または波状の生来の形態を有する中空糸膜が提供され、その膜を塑性変形することなくその元の長さの最大4倍伸張することができ、膜の生来の形態は、ダイまたはノズルの開口部を通る液体ポリマーの非対称流によって生成される。
【0010】
中空糸膜のそれぞれは、中空管腔が膜の全長に沿って連続している半らせん、らせんもしくはばね、またはコイルのような形状である。内径は50μm~100mmの範囲とすることができる。好ましくは、内径は50μm~10mmの間の範囲とすることができる。理想的には、内径のサイズは50μm~2mmの範囲とすることができる。中空繊維はらせん/コイル形状であるので、バルク液体流の方向に関係なく、バルク液体流に対して垂直な膜繊維の一部が常に存在する。これは、大きな境界層が中空繊維の長さ方向に沿って成長することが許されないことを意味する。
【0011】
メンブレンバイオフィルムリアクターのような膜の表面上で、膜ファウリングが起こる、あるいは生物学的層の成長が促進される用途では、上部と下部のヘッダー間の距離を繊維の元の長さの約1%~約200%増加させることによって、膜繊維のコイル直径およびコイルピッチを一時的に変更し、両方のヘッダー間の距離がそれぞれの距離から元の距離に戻ると、膜繊維は元のコイル径およびピッチに戻ることができる。膜繊維のピッチおよび直径の変化は、次に膜モジュールによって占められる体積を増加させることによって、(i)膜充填密度、または(ii)モジュールの比表面積(m3当たりの膜表面積m2)を変化させる。モジュール内で生じるこれらの体積変化は、膜の洗浄、ファウリングの除去、またはバイオフィルムの管理を強化するために利用され得る。例えば、張力を受ける場合、または上部と下部のヘッダー間の距離が広がると、コイルの直径が減少し、コイルのピッチが広くなる。つまり、膜は真っ直ぐになり、引っ張られて互いに近づく。またこれにより、分離された汚染物質またはバイオマス粒子を容易に除去および洗浄することができる各メンブレン束間の間隔が増加する。さらに、らせん状/コイル状膜の形状を変更することによって生じる繊維-繊維の接触は、それ自体が繊維表面から汚染物質およびバイオフィルムを剥ぎ取りおよび除去するように作用することができる。
【0012】
本発明によれば、添付の特許請求の範囲に記載されているように、緩和状態にある場合にコイル状、カール状、または不規則ならせん状の形態に有利な中空糸膜が提供される。繊維膜のコイル状/カール状/不規則ならせん状の形態は製造後の膜の自然の特性である。繊維膜のコイル状、カール状、または不規則ならせん状の形態は、いかなる後工程処理も必要とせずに、ダイ/ノズルを出る流体ポリマーの非対称流によって作り出される。膜の製造は、当業者に公知の任意の方法、例えば押出し、紡糸、熱誘起相分離(TIPS)、または溶媒誘起相分離(SIPS)プロセスによることができる。ポリマー材料を、公知の方法、例えば冷却、溶媒抽出、または熱硬化によって固化することができる。これらの各方法を用いて、高分子膜を固化させることにより、他の膜特性、例えばねじれに加えて、壁の孔のような要素を有する中空糸膜を作り出す。コイル状/カール状/不規則ならせん状の形態の中空糸膜が製造されると、それは一般にスプールに巻き取られ、それがモジュールに製造されるまで保管される。
【0013】
伝統的に、膜が非線形状を有することになる場合、以前は以下の方法のうちの1つによってこの変更を行った:
・膜を加熱し、熱が膜をより柔軟にし、膜に損傷を与えることなく新しい形をとることができるシリンダーの周りにそっと巻くこと。膜とシリンダーの両方を冷却させる。そして一旦冷却されると、膜はコイル状の波状の形態をとる。この方法により、均一なコイル直径およびピッチを有する規則的ならせん状の膜ができる(Yangら、2011)。
・膜が水浴を出た後、それは起伏を作り出す装置の間で押される。(米国特許第5470659号)
・ロープコイリング(Luelfら、2016)。
【0014】
本発明において、膜のコイル状の性質は、膜製造工程において作り出される。溶液がダイまたはノズルを出る先端で流体膜(ポリマー溶液)の非対称流を作り出すことによって、膜は、固化する場合、非線形/カール状/コイル状/半らせん状の形状をとる。非対称流は、ダイおよびニードルの形状およびサイズの組み合わせによって形成され、流体ポリマーがダイまたはノズルを出るときに流体ポリマー内に非対称流を生じさせ、凝固する場合に、膜を非線形/カール状/コイル状/半らせん状の形状にする。
【0015】
一実施形態では、非線形形態は、コイル状形態、らせん状形態、不規則コイル状形態、半らせん状形態、または波状形態である。
【0016】
一実施形態では、ダイまたはノズルの開口部は、中空糸膜の外径の少なくとも1.01~4倍の直径を有する。好ましくは、ダイまたはノズルの開口部は、中空糸膜の外径の少なくとも1.01~3倍の直径を有する。理想的には、ダイまたはノズルの開口部は、中空糸膜の外径の少なくとも1.01~2倍の直径を有する。
【0017】
一実施形態では、上部と下部のヘッダー間の距離を膜の元の自然な(緩和された)状態の約1%~約200%伸ばすことによって、張力下に置かれた場合、中空糸膜の非線形形態はそのコイルおよびピッチを変化させ、中空糸膜は非線形形態から実質的に線形形態に変化する。不規則なコイルは直径が減少し、後続のコイル間のピッチは長さが増加する。膜から張力が取り除かれ、上部と下部のヘッダー間の距離が元の値に戻ると、膜は変形することなく元のカール状形態に戻る。
【0018】
一実施形態では、張力下に置かれる場合、中空糸膜はピッチを変化させ、中空糸膜は非線形形態から実質的に直線形態へと変化する。
【0019】
一実施形態では、各中空糸膜は、気相または液相を含むように構成される管腔を画定し、気相または液相は膜壁によって膜の外側の気相または液相から分離される。
【0020】
一実施形態では、中空糸膜はガス透過性である。
【0021】
一実施形態では、中空糸膜は、5μmの気孔を含む。
【0022】
一実施形態では、中空糸膜は5nm未満の気孔を含む。
【0023】
一実施形態では、中空糸膜は緻密膜であり、実質的に気孔を含まないが、それでもガスおよび蒸気に対して透過性である。
【0024】
一実施形態では、中空糸膜の内径は50μm~10mmである。好ましくは、中空糸膜の内径は50μm~2mmである。
【0025】
一実施形態では、中空糸膜は円筒形の内側および外側断面を有する。一実施形態では、中空糸膜は、円筒形の内側および非円筒形の外側断面を有する。一実施形態では、中空糸膜は、非円筒形の内側および外側断面を有する。
【0026】
一実施形態では、中空糸膜は、膜の外面から外向きに延びる突出部もしくは隆起部を備える、または内向きに延びるへこみを有する、不均一または不規則な外面を有する。
【0027】
一実施形態では、膜は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、シリコーン、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン、ポリシロキサン、または他の高分子プラスチック、弾性体、もしくはゴムから選択される材料(液体ポリマー)から作られる。好ましくは、中空糸膜はPDMSまたはシリコーンから作られる。製造材料は、上部と下部のヘッダー間の距離がその静止長さの約1%~200%増加した場合、永久的な損傷を膜は受けず、膜が元の形態および長さに戻るように十分に弾性的であるものである。中空糸膜は、繊維膜のいかなる塑性変形もなしに、その長さの最大4倍伸張することができる。
【0028】
一実施形態では、中空糸膜は、液体から溶存ガスを除去するか、またはガスを液体中に溶解させるように構成される。
【0029】
一実施形態では、中空糸膜は、懸濁固体粒子を含む液体の混合物から液体を分離するように構成される。
【0030】
一実施形態では、使用時に、中空糸膜の少なくとも一部は常にバルク流体の流れに対して垂直である。
【0031】
一実施形態では、膜はバイオフィルムを支持する。好ましくは、膜の内腔からバイオフィルムにガスを供給する。
【0032】
本発明によれば、コイル状、半らせん状、らせん状、または波状の生来の形態を有する中空繊維シリコーン膜が提供される。膜は、塑性変形することなくその元の長さの最大4倍延伸されることができ、膜の外面から外側に延びる突起部または隆起部を備える不均一または不規則な外面を有し、膜の生来の形態は、ダイまたはノズルの開口部を通る液体ポリマーの非対称流によって製造される。理想的には、ダイまたはノズルの開口部は、中空膜繊維の外径の少なくとも1.01~2倍の直径を有する。
【0033】
本発明によれば、添付の特許請求の範囲に記載されているように、生来の状態がコイル状、カール状、らせん状、半らせん状、またはばね状の形態が好ましい中空糸膜を備える垂直に配列された中空糸膜のアレイも提供される。膜はマニホールドの両端部に取り付けられ、膜の内腔はマニホールドの内部空間と連通しており、マニホールドを用いて膜の内腔にまたは内腔から液体またはガスを供給または除去することができる。
【0034】
一実施形態では、アレイ内の各膜は、らせん状形態、コイル状形態、半らせん状形態、緩和された膜のコイル幅が膜の外径の2.5~50倍になるように直線から大きく外れる形態、のいずれかを有する。
【0035】
一実施形態では、膜は、規則的なコイルの直径長および規則的なコイルのピッチ長を有するらせん状形態を有する。
【0036】
一実施形態では、膜はコイル状形態を有し、膜繊維は不規則なまたは変動するコイル直径および不規則なまたは変動するピッチ長を有する。
【0037】
一実施形態では、各膜はコイル状形態を有し、アレイ中の膜は異なるピッチ、コイル直径、およびコイル方向を有し、コイル方向は中空糸膜の長さに沿って時計回りと反時計回りに変化する。
【0038】
一実施形態では、各膜繊維のカール状形態、半らせん状形態、らせん状形態、コイル状形態、または波状形態の方向は、時計回り方向もしくは反時計回り方向、またはそれらの組み合わせである。
【0039】
一実施形態では、中空糸膜の長さの変化、およびそれに加えられる張力は、アレイの反対側の端部に対して可逆的に垂直方向に移動するように構成される少なくとも1つのマニホールドによって制御される。
【0040】
一実施形態では、少なくとも1つのマニホールドがアレイの反対側の端部に対して可逆的に垂直方向に移動する場合、中空糸膜の直線方向の張力が生じ、中空糸膜の長さを変化させる。長さが変化すると、膜はそれらの緩和されたコイル状(非線形)形態から線状形態に変化する。あるいは、少なくとも1つのマニホールドがアレイの反対側の端部に向かって垂直方向に移動する場合、中空糸膜にかかる張力が減少し(緩和され)、中空糸膜をそれらの自然のコイル状状態に戻す。
【0041】
一実施形態では、上部と下部のヘッダー間の距離の増加による中空糸膜の形態の変化は、アレイの3D構造を変化させ、膜表面領域の周りおよび膜表面領域全体にわたって液体流パターンを変化させる。
【0042】
一実施形態では、水処理システムまたは廃水処理システム、例えばメンブレンバイオリアクター、液中膜ろ過、メンブレンバイオフィルムリアクター、メンブレン蒸留、ナノろ過、逆浸透、および正浸透で使用するための上記の中空糸膜のアレイが提供されるが、これらに限定されない。
【0043】
一実施形態では、中空糸膜を使用して、液体から固体粒子または高分子をろ過することができる。
【0044】
一実施形態では、中空糸膜を使用して、ガスを液体中に送達することができる。
【0045】
一実施形態では、中空糸膜を使用して、液体から溶存ガスを除去することができる。
【0046】
一実施形態では、中空糸膜を使用して、反応種(例えば、気体)を膜(例えば、メンブレンバイオフィルムリアクター)の外面に付着した付着化学層または生化学層に直接供給することができる。
【0047】
一実施形態では、アレイ内の全ての中空繊維は同じ回転方向に従う(全て時計回り又は反時計回りコイルを有する)。
【0048】
一実施形態では、アレイ内の一定の割合の中空繊維は時計回りのコイル状であり、残りの膜は反時計回りにコイル状である。
【0049】
一実施形態では、アレイ内の中空繊維は、時計回りおよび反時計回りの両方向のコイルを有してもよい。
【0050】
一実施形態では、上述のコイル状、半らせん状、らせん状、または波状の中空糸膜を製造する方法であって、方法は、ダイ開口部を通してニードルの周囲に液体ポリマーを通す工程であって、ダイ開口部およびニードルは非対称に整列し、開口部は、液体ポリマーがダイまたはノズルを出るときにその非対称の流れを作り、コイル状、半らせん状、らせん状、または波状の膜を形成する、工程を含む、方法が提供される。
【0051】
好ましくは、中空糸膜は、押出し、紡糸、キャスティング、熱誘起相分離(TIPS)、または溶媒誘起相分離(SIPS)のプロセスによって製造される。
【0052】
理想的には、プロセスが押出しである場合、中空糸膜をダイまたはノズルを出る流体ポリマー膜よりも速い速度で走行するコンベヤ上に押出しすることによって付加応力が与えられる。硬化オーブンを通過した後のコンベヤの速度は、5~600メートル/秒である。
【0053】
理想的には、プロセスが紡糸、TIPsまたはSIPsの場合、ダイノズルの角度は垂直軸Yから少なくとも約2°~30°傾いている。好ましくは、その傾きは中空糸膜の垂直軸Yから5°、6°、7°、8°、9°、10°、11°、12°、13°、14°、または15°である。ノズル/ダイの傾きは、TIPS、SIPS、または紡糸工程中に非対称の流れを作り出す。
【0054】
添付の図面に見られるように、膜の長さ方向に沿った異なる領域間の張力の差により、膜の充填密度は長さ方向に沿って可変である。このコイル直径ならびにコイル間のピッチは、中空繊維の長さ方向に沿って変化し、繊維上の張力によって変化する。そして膜の外側の周囲の流体の流れの方向および速度によって影響される可能性がある。更に、ピッチまたは巻き角度(Yangら、2011によって記載されるように)は固定されていないが、膜の長さに対する張力を調整することによってその場で調整されることができる。
【0055】
クロスフローは、繊維が互いに押し込まれて繊維の有効表面積が減少するので、緩んだ線形の液中中空糸膜モジュールでは実現不可能である。本発明は、水中膜モジュール設計に組み込まれる場合に高い有効表面積を維持することができ、そしてクロスフローまたは平行流のいずれかを用いて低エネルギー入力で改善される物質移動を提供する膜を記載する。
【0056】
定義
【0057】
本明細書では、用語「張力感応性」または「張力」は、例えば、上部と下部のヘッダー間の距離を長くすることによって、引っ張り力が中空繊維の端部または両端部に加えられる場合、(
図2に定義されるような)膜のコイル直径およびコイル間のピッチは形態を変えることを意味すると理解されるべきである。
図5Bにおいて、自重による中空糸膜に沿った張力の変化を、膜の長さ方向に沿った張力の変化による膜の長さに沿って変化するコイル直径およびピッチ長と共に、観察することができる。十分な張力を用いて繊維の自然の状態のセルフコイリング力を克服する場合、中空繊維は真っ直ぐになり、その長さをその元の緩和された(未処理の)長さの最大約200%(2倍)~1,000%(10倍)延伸することができる。張力が減少または除去されると、膜は塑性変形することなく、その元のコイル状、らせん状、またはカール状の形態に再び回復する。
【0058】
本明細書では、本明細書に記載の中空糸膜に関して使用される場合、用語「らせん状」、「コイル状」、「カール状」、「ばね状」、「半らせん状」、および「不規則コイル状」は、製造後に中空糸膜がその緩和された(未処理の)状態で見られる形状を意味すると理解されるべきである。セルフコイル状の生来の形状は、固体に固まる前に、そしてその後の専用の形状形成工程なしに、製造プロセスにおいてダイ/ノズルを出る流体ポリマーの流れに及ぼす応力により形成される。用語「半らせん状」は、反対のキラリティーの2つ(またはそれより多い)の部分に分割され、2つの間の中間に遷移を有するらせん構造によって特徴付けられる擬らせん状の湾曲幾何学形状を意味すると理解されるべきである。
【0059】
本明細書において、用語「自然の特性」または「自然のセルフコイル状状態」は、本明細書に記載の中空糸膜が、非線形形状を達成するために製造後の改変、例えばYangら、2011、米国特許第3,616,928号(機械的にカールさせること)または米国特許第5,470,659号(機械的にカールさせること)、米国特許第5626758号、Moulinら、1995による改変を受けないことを意味すると理解されるべきである。繊維膜は、それらのカール状またはばね状またはコイル状またはらせん状の形状を達成するために編まれてもカールされてもいない。
【0060】
本明細書において、用語「流体」は、変形し、それ自体でまたは剪断力を受けて自由に流動し、気体および液体の両方を含む任意の材料を意味すると理解されるべきである。「液体」は、その容器の形状に従うが圧力とは無関係に実質的に一定の体積を保持するほぼ非圧縮性の流体を意味すると理解されるべきである。典型的には、流体または液体は、1×109センチポアズ(1×106Pa・s)未満の見かけ粘度を有する。
【0061】
本明細書において、中空糸膜は、シリコーンゴム、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、シリコーン、ポリメチルペンテン(PMP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン、ポリシロキサン、または他の高分子プラスチックもしくは弾性体からなる。
【0062】
本明細書において、用語「メンブレンバイオフィルムリアクター」(MBfR)は、膜の表面上に活性バイオフィルム層を成長させ、膜壁を通って基質をバイオフィルムに通過させ、バイオフィルムが周囲の流体と接触する自由表面から別の基質を受け取り、逆拡散バイオフィルムをもたらすことを意図する反応器を意味すると理解されるべきである。MBfRの例は、膜曝気型バイオフィルムリアクターMABRである。MABRでは、バイオフィルムは、酸素透過膜上に自然に固定される。酸素は膜を通ってバイオフィルム中に拡散し、そこでバイオフィルム-液体界面に供給される汚染物質の酸化が起こる。酸素供給速度は、膜内酸素分圧(プロセスパラメータ)および膜表面積(設計パラメータ)によって制御される。汚染された廃水中のバイオフィルムの表面上に層状境界層が形成されるのを防止することによって、廃水から汚染物質分解バイオフィルムへの汚染物質の物質移動速度を最大にすることも本発明の目的である。MBfRは、全てガス供給源に接続する何百万の中空糸膜からなる。MABRの場合、これらの膜は表面のバイオフィルムによって処理されている廃水によって囲まれている。
【0063】
本明細書において、用語「非対称流」は、ダイからのポリマーの流れの断面が全ての直径で対称的ではないことを意味すると理解されるべきである。
【0064】
製造方法
シリコーンゴムの押出しは非常に一般的であり、長年にわたって行われてきた。シリコーンの押出に関する情報をwww.wacker.com(固体および液体シリコーンゴム、材料およびプロセスガイドラインhttps://www.wacker.com/cms/media/publications/downloads/6709_EN.pdf)で見ることができる。本明細書に記載の、シリコーンまたはPDMSからなる中空繊維の典型的な製造方法は以下の通りである:
1.触媒と予備混合された液体シリコーンまたはシリコーン流体を押出機に供給する。この触媒は過酸化物系または白金系のいずれかであることができる。
2.シリコーンゴムが押出機ダイに到達する前に架橋(加硫)し始めないことを確実にするために押出機バレルを低温に保つ。
3.流体シリコーンゴムは、ダイのアニュラス/開口部を通って中央のニードルの周りを通過して中空繊維を形成する。ニードルの中心は、押し出された中空繊維の管腔内に空気を引き入れることができるように、空気源に接続しているか、または大気に接続していなければならない。さもなければ、新たに形成されるチューブは、中空繊維の中心に真空が作り出されることによって崩壊する危険性がある。
4.ダイは、最終中空糸膜の外径の1.01~2倍の非対称の開口部を有することができる。ダイを離れる流体アニュラスは、所望の最終中空糸膜よりも厚い壁のより大きな直径を有する。これらは、ダイを通る液体ポリマーの不均一な流れを作り出すのに役立つ。
5.シリコーン中空繊維は硬化オーブンを通過し、そこで最大150℃~300℃の温度に加熱される。温度の上昇は、PDMS分子間の架橋反応を加速し、そしてシリコーンゴムを硬化又は加硫して固体にする。
6.次に、中空繊維はコンベヤにのって進む。コンベヤは、材料が押出機のダイから離れるよりも速い速度で走行しているので、押出される中空繊維のサイズを引き下げる。コンベヤは通常、5~600メートル/秒の速度で走行している。
7.中空繊維が硬化オーブンを出る場合、それは高速で走行しているコンベヤによって張力を受けている固体弾性ゴムである。
8.コンベヤの後、材料を更に調整して、アレイへの配置およびモジュールへの製造に適するようすることができる。それは典型的にはスプール上またはハンク内に巻かれそして更なる組み立てのために貯蔵される。
【0065】
この製造方法を、真っ直ぐな中空糸膜およびカール状中空糸膜の両方に使用することができる。2種類の繊維膜の違いは、機械的な後処理や追加の製造工程もなしに、カール状の繊維膜を形成するニードルダイを出るときにポリマー流体材料の非対称な流れによって固化した膜の周囲の周りに発生する不均一な応力によって生じる。
【0066】
他のタイプの膜製造、例えば、ポリマー相を溶媒から分離する場合、固体膜を作り出すTIPSおよびSIPSもまた、いかなる機械的な後処理も追加の製造工程もなしに、ノズルまたはダイを離れるポリマー溶液の非対称流を作り出すことによって同様のカール状の膜を作り出すことができる。
【0067】
TIPSプロセスは、ポリマーを加熱することと、冷却するために冷却液体(通常は水)の浴中にダイノズルを通して中空繊維を紡糸することと、を含む。冷却される場合、ポリマーは固化して硬化する。ダイノズルは、最終中空糸膜の外径の1.01~2倍の開口部を有する。ダイを離れる流体アニュラスは、所望の最終中空糸膜よりも厚い壁のより大きな直径を有する。この配置を有するダイを通って流体を紡糸すると、流体は非対称的に流れ、得られる膜は、冷却時にコイル状構造をとりやすい。
【0068】
SIPS法はポリマーを溶媒中に溶解し、そしてそれをダイノズルから水浴中に投じることを含む。ダイノズルは、最終中空糸膜の外径の1.01~2倍の開口部を有する。この場合、ダイを離れる非対称流体アニュラスは、所望の最終中空糸膜よりも厚い壁のより大きい直径を有する。溶媒は水に混和性であるがポリマーは非混和性であるため、溶媒/ポリマー水溶液から溶媒が除去され、ポリマーは結晶化し、そして得られる中空糸膜は張力を加えることなくコイル状/らせん状構造をとる。言い換えれば、膜は、コイル状/らせん状構造をとりやすい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
本発明は、添付の図面を参照して、単なる例として示される本発明の実施形態の以下の説明からより明確に理解されるであろう。
【0070】
【
図1】
図1は、液体境界層が膜の表面上に展開する理論を例示する。
【
図2】
図2は、コイル状膜のコイル部を例示する。この図は、境界層の厚さが、水の流れの方向にかかわらず、膜の長さにわたって最小化されていることを例示する。
【
図3】
図3は、水と膜との間の短い接触距離の図解である。コイル状膜の、図(A)は平面図を示し、図(B)は水平斜視図示す。
【
図4】
図4は、束状のコイル状膜の挙動を例示する。(A)示すように、正確に同じピッチおよびコイル方向を有する繊維は、加えられた張力とは無関係にネスティングする傾向がある。(B)コイルが異なるピッチおよびコイル方向を有する場合、張力が減少するにつれてそれらは自然に互いに押し分けて横方向に広がる傾向がある。
【
図5】
図5は、4つの異なる張力下にある単一の中空糸膜の写真を示す。(A)張力を受けていない場合の新しいらせん形状の中空糸膜;(b)自重で吊り下げられた場合の新しいらせん形状中空糸膜;(c)張力下の新しいらせん形状の中空糸膜;および(d)中空糸膜がまっすぐに引っ張られるのに十分な張力下にある場合の新しいらせん形状の中空糸膜。
【
図6】
図6は、(A)追加の張力がない、および(B)端部に取り付けられたおもりの張力下のセルフコイリング膜のアレイの写真である。
【
図7】
図7は、550本の自然にコイル状の中空糸PDMS膜のアレイと、550本の直線中空糸PDMS膜のアレイの、実験的に測定された酸素移動速度を示すグラフである。
【
図8】
図8は、ダイノズルを通る非対称流によって生じる膜の断面プロファイルの例である。tは名目上の膜厚であり、厚さが名目上の厚さよりも大きい場合、t
1>tである。
【
図9】
図9は、中空糸膜を製造する押出しプロセスで使用する対称流(線形)および非対称流(非線形)のためのダイノズル配置である。
【
図10】
図10は、対称ダイノズル配置を利用したTIPS、SIPSまたは紡糸プロセスにおいて非対称流がどのように生成されるかを示す。
【発明を実施するための形態】
【0071】
本発明の膜は、張力を加えた場合に、ピッチ長さおよびコイル直径を変える、不規則ならせん形状、らせん形状またはコイル形状もしくはカール形状をとることができる。張力が低い場合、膜は非常に小さいピッチ(コイルが互いに接近している)および膜の外径の2~50倍のコイル直径のコイルを有するばねまたはらせんのように見える。膜への張力が増加するにつれて、またはメンブレンの長さが増加するにつれて、1つのコイルとその隣のコイルとの間のピッチ距離も増加し、コイルの直径が小さくなるにつれてコイルは更に離れていく。極端には、十分な張力の下で、膜は線形になる。中空糸膜の端部がポッティングされている場合、ポッティングされた端部が更に離れるにつれて、コイル状膜の張力が増大する。膜がコイル状でかつ弾性を有する場合、それをその名目上の長さを超えて伸張することもできる。例えば、長さ1mの中空糸膜は、コイル状態で、およびその自然なカール状態またはコイル状状態(張力なし、未処理の/生来の状態)で長さが0.5~0.75mに過ぎない。それでも、もし膜が弾性を有する場合、それはその名目上の長さを超えて、例えば1.1m~1.50mの長さまで伸張されてもよい。膜はまた、膜の弾性を全く損なうことなくその名目上の長さの最大4倍伸張されることができる。膜は、その伸縮性を保持しながら常にその元の長さに戻り、その自然なカール状態またはコイル状状態に戻る。したがって、膜の形状および有効長は、中空繊維のポッティングされた端部が固定されるマニホールドの上部と下部との間の距離を変えることによって変更することができる。
【0072】
膜のらせん形状またはコイル状形状が境界層の成長に及ぼす影響は、
図2および
図3に最もよく例示される。
図2では、らせん形状の中空糸膜の単一コイルが示されており、矢印は膜表面上の水平方向および垂直方向の流体の流れの例を示している。流れの方向にかかわらず、流体は膜表面の短い長さと接触するだけであり、厚い境界層を形成することはできない。この効果は
図3で明らかにされる。
図3Aは、コイル径がD
coilの垂直方向に整列したコイル状膜の平面図を示し、
図3Bは、コイル状膜の正面斜視図を示す。らせん形状は平面図で円形状を呈し、コイル状膜を横切る水平方向の流体の流れは、
図3Aの1、2および3でマークされた水平線によって例示されるように、膜との接触長さを有する。線1は膜の直径に等しい最短の接触長さを表し、線3は可能な最長の接触長さを表し、コイルの直径にほぼ等しい。
図2および
図3Bはまた、流体が垂直にコイル状膜を通って流れている場合、流体はピッチに依存する角度で中空糸膜の直径を横切っており、流体と膜との間の接触距離も短いことを示している。
【0073】
コイル状中空糸膜の束をマニホールドに入れる場合、コイル状繊維が
図4Aに例示するようなネスティングをしないことが重要である。繊維がこのようにしてネスティングする場合、繊維は膜にかかる張力に関係なく、互いに非常に接近した状態で互いに接触したままである。このまとまる挙動は、膜の有効表面積を減少させ、個々の中空繊維の周囲および間の流体の流れを妨げることによって物質移動を妨げる。このまとまる挙動は、わずかに異なるピッチを有するセルフコイリング中空糸膜をポッティングすること、および異なる方向(時計回りおよび反時計回り)にコイル状に巻かれた繊維を混合することによって回避されることができる。
図4Bは、所望の束の状態を示す。繊維をこのようにポッティングする場合、個々の中空繊維は互いに押し分ける傾向があり、したがって横方向に広がる。結果は、物質移動のためにより多くの膜面積を露出させるはるかに開放的な構造である。更に、膜束のより多孔質の構造は、束の中へのおよび中空繊維間のより良好な流体の流れを促進する。
【0074】
すなわち、
図4Bに示される繊維束の横幅は、マニホールドの上部と下部との間の距離を増大させることによって伸張する場合、長さが変化する可能性がある。張力下では、
図4Aおよび
図4Bに例示される3本の繊維は、同じ横幅を有する直線状の形態に戻る。しかし、張力が緩和されると、すなわち、マニホールドの上部と下部との間の距離が減少すると、
図4Bの繊維は横方向にはるかに離れて広がるが、
図4Aの繊維は離れて移動する傾向がほとんどないか全くなく、ピッチだけが変わる。
【0075】
典型的には、商業用の大規模システムで一般的であるように繊維の大きな束を多数使用する場合、反応器内の全ての膜と均一な流体接触を実現することは困難である。例えば、緩んだ中空糸膜は、(クロスフロー用途において)くっつくか、または平行流における垂直束の中心への流体送達が少なく、流体はそれらを通してではなく繊維束の周囲を優先的に流れる。これらの影響は、膜の全体的な物質移動性能を低下させる傾向がある。この状況は、
図4Bに示すようにコイル状膜を使用することによって改善される。膜束の開放構造はそれらのコイル状構造と一緒になって効果的な膜-流体接触および優れた物質移動をもたらす。
【0076】
この膜の別の態様は、このコイル状の性質が膜の固有の特性であり、それが押出し、紡糸またはキャスティングのどれかによる製造方法によって膜に付与される。波状の性質は、別の製造後工程、例えば、コイル状の状態に保持されている間の、膜のクリンプ工程、巻き取り工程、または製造後の加熱工程では生じない。
【0077】
一実施形態では、中空膜は、ダイを通してポリマー、例えばPDMSまたはシリコーンの押出しによって製造される。ダイは、最終中空糸膜の外径の1.01~2倍の開口部を有する。ダイを離れる流体アニュラスは、所望の最終中空糸膜よりも厚い壁のより大きな直径を有する。流体PDMSまたはシリコーンはダイを通して非対称の流れで押し出され、それが高温オーブンを通過すると、PDMSまたはシリコーン分子は架橋して流体PDMSまたはシリコーンは凝固する。ダイを離れる流体アニュラスは非対称の流れ作り出し、PDMSまたはシリコーン繊維膜を固化させ、そして固化した膜を受け取るコンベヤの速度は、膜に張力がない場合、すなわちその自然で緩和された状態にある場合、コイル状の/らせん状の膜を作り出す。
【0078】
TIPSプロセスは、ポリマーを加熱することと、冷却するために冷却液体(通常は水)の浴中にダイノズルを通して中空繊維を紡糸することと、を含む。冷却される場合、ポリマーは固化して硬化する。ダイノズルは、最終中空糸膜の外径の1.01~2倍の開口部を有する。ダイを離れる流体アニュラスは、所望の最終中空糸膜よりも厚い壁のより大きな直径を有し、そして、一方の側により厚い壁も有することができ、非対称の流れを作り出す。この配置を有するダイを通って流体が紡糸されるので、膜は冷却時にコイル状構造となりやすい。
【0079】
SIPS法はポリマーを溶媒に溶解し、次いでそれをダイノズルから水浴中に投じることを含む。ダイノズルは、最終中空糸膜の外径の1.1~2倍の開口部を有する。この場合、ダイを離れる流体アニュラスは、所望の最終中空糸膜の壁よりも厚い壁と、一方の側に厚い壁とを有する大きな直径を有し、非対称な流れを作り出す。溶媒は水に混和性であるがポリマーは非混和性であるため、溶媒/ポリマー水溶液から溶媒が除去され、ポリマーは結晶化し、そして得られる中空糸膜は張力を加えることなくコイル状/らせん状構造をとる。言い換えれば、膜は、コイル状/らせん状構造をとリ易い。
【0080】
膜の製造方法のそれぞれにおいて、可撓性コイル/らせん状構造の形体は、最終中空糸膜の外径の1.01~2倍であるダイの開口部、ダイを出る膜材料の流れの速度および非対称性、ならびに熱硬化、冷却または結晶化によるポリマー材料の固化、の組み合わせによって作り出される。押出しプロセスでは、押出し固化ポリマー材料を受け入れるコンベヤの速度は押出し速度よりも速く、これは膜がコイル状/らせん状構造をとるのに寄与する。
【0081】
図5(a)では、らせん状(コイル状)の中空糸膜は張力を受けておらず、自然の状態にある。
図5(b)では、中空繊維が吊り下げられており、らせんの上部が、膜下部の質量の重量(またはマニホールドの上部と反対方向のマニホールドの下部の認識される垂直方向の動き)によって生じる張力を受けて引き伸ばされる。
図5(c)では、繊維の両端を伸ばすことによって繊維に付加的な張力が加えられている(マニホールド上部とマニホールド下部の垂直方向の動きは互いに離れる方向に移動する)。
図5(d)では、繊維は、そのらせん構造が失われて中空繊維がまっすぐになるのに十分な張力を受けて置かれている。これらの効果は可逆的であるため、張力が緩和される場合(すなわち、マニホールドの下部と上部との間の距離が減少する場合)、繊維は5(a)に示す形状に戻る。
【0082】
図6Aは、自重で単純にぶら下がっているコイル状中空糸膜の束を示し
図6Bは張力を受けている同じ膜モジュールを示す。この図は、繊維上の張力が緩和される場合、膜がどのように横方向に広がるかを例示している。緩和された繊維束(
図6A)は、より開放的な構造を有しており、それにより、水が束になっている中空繊維の中へそして中を通って流れることがより容易になる。
図6はまた、束の上端と下端との間の距離が変化するにつれて束の形状が変化することを例示している。
図6Bに示される膜束の上端と下端との間の距離は、
図6Aに示されるものよりも15%大きい。
【0083】
図7は、物質移動が膜を囲む液体境界層を通る拡散によって制限される条件下で、張力感受性セルフコイリング膜の使用によって達成することができる酸素移動速度の改善を実証する。再循環ポンプを用いて混合し、過剰の亜硫酸ナトリウムを添加することにより全ての溶存酸素を最初に除去した、清浄な水の垂直タンクに多くの膜を配置することにより測定を行った。そして、溶存酸素プローブを使用して、空気を中空糸膜の内腔に供給しながら水中の溶存酸素濃度の増加を監視した。次に、膜の外部表面積に基づいて酸素移動の特定速度を計算した。示された結果は直線の、張力の影響を受けない中空糸膜に対して正規化されている。
【0084】
図8は、製造工程中にノズル/ダイからのプラスチックポリマーの非対称流によって生じる本発明の中空糸膜の断面形状の例を示す。中空糸膜は、名目上の外壁厚さt、および厚さtよりも大きい厚さt
1も有する。場合によっては、隆起またはへこみが膜壁の外周に形成される場合がある。繊維膜管腔の周囲のまわりの外膜壁の厚さのこの差は、後処理の干渉を必要とせずに膜がカール状、コイル状、らせん状、半らせん状または波状の生来の形態をとる原因となる応力を与える。
【0085】
図9は、従来技術の線状膜と本明細書に記載の非線状膜の両方を製造するノズル/ダイおよびニードルの配置を例示する。(A)の配置1は、ノズル/ダイ4の開口部3の中央に位置するニードル2を示す。ニードル2の中央配置は、開口部3を通る液体ポリマー5の対称的な流れを作り出し、それは対称的な厚さの外壁7を有する中空糸膜6を作り出す。
【0086】
(B)には、上記(A)に関連して説明した工程または部分に同じ番号が割り当てられている配置100が例示される。配置100では、ニードル2はノズル/ダイ4の開口部3の中心を外れて整列されている。ニードル2の中心から外れた配置は、開口部3を通る液体ポリマー5の非対称な流れを生じさせ、それは非対称の厚さ(t1>t)を有する外壁11を有する中空糸膜10を作り出す。
【0087】
図10には、
図9の上記(A)および(B)に関連して説明した工程または部分に同じ番号が割り当てられている配置200が例示される。配置200では、ノズル/ダイ4の角度は、TIPS、SIPSまたは紡糸プロセス中に使用される場合に傾いている。ノズル/ダイ4は垂直軸Yから2°~30°の角度で傾いており、最適範囲は5°~15°である。ノズル/ダイ4の傾きは、TIPS、SIPSまたは紡糸プロセス中に非対称の流れを作り出し、それは非対称の厚さの外壁11を有する中空糸膜10を作り出す。
【0088】
膜の応用:
液体ろ過
ろ過中、膜によって保持される微粒子、コロイド、高分子量化合物および微生物は、膜の外側表面の境界層に濃縮する傾向がある。市販の膜ろ過システムは、膜の周囲の水が十分に混合され、膜の表面を通過する良好な流体の流れを作り出す混合条件が膜の表面から保持された汚染物質の除去を促進するように設計されている。エアレーションはまた、膜の動きを促進し、局所的な乱流を作り出すためにも使用され、これは、境界層を乱し、濃度分極を最小化するのに役立つ。不十分な混合条件および低剪断条件が優勢である場合、汚染物質、粒子および微生物は膜表面に急速に付着し、これにより膜の外表面がろ過を妨げる化学的/生物学的層で被覆されるようになる。このプロセスは膜ファウリングと呼ばれる。ファウリングは膜のろ過性能を低下させるので、ファウリングはコストが掛かる問題である。膜を透過液で定期的に逆洗浄することによって、膜の表面から可逆的なファウリングを除去する。次いで、膜の表面上のこのファウリング層を除去する。不可逆的なファウリングも発生する可能性があり、膜の寿命を縮める原因となる。不可逆的なファウリング膜は使用を中止し、ファウリング層を除去するために化学的に洗浄しなければならない。良好な混合条件は、ファウリングを大幅に減らすことができる。
【0089】
ガス拡散
ガス拡散用の膜モジュールでは、境界液体層は、典型的には膜管腔とバルク液体との間の物質移動または流束の律速段階となる。境界層は、ガス分子が膜の内側の気相からバルク液体中の溶解相に浸透するために拡散しなければならない距離を実質的に増加させる。したがって、境界層は物質移動に対する抵抗を表し、境界層の厚さは全体の物質移動係数に影響を与える。境界層が厚いほど、物質移動が低下し、物質移動速度が遅くなる。これらの液体境界層を破壊する方法を開発するために、静的混合を促進するためのスペーサーを導入すること(Pentair X-Flow helix、Liqui-Cel(登録商標)は、膜モジュール内にバッフルを配置する)、流れの方向を変えることもしくは逆転させること、または膜の周りの液体に気泡もしくは他の乱流を導入することを含む、多くの試みがなされてきた。これらの開発の大部分は、境界層を破壊するための膜モジュールへの追加または動作条件の周期的な変更のいずれかに依存している。
【0090】
本明細書に記載されているように、らせん状の、ばね状の構造をとることができる張力感応膜を使用する利点は、それらの膜が境界層の成長を最小化することにより、ならびにねじれおよび動的流路をもたらす液体透過性3D構造を作り出すことにより高い物質移動速度を達成することである。それらの膜は、自己拡張型繊維束として使用される場合にこれを行い、そしてそれは頻繁な境界層破壊およびそれに対応して薄い境界層を促進する構造をとる。本明細書に記載の膜を使用する繊維束は、既存の膜モジュール設計に比べて優れた物質移動性能を提供するであろう。更に、束の実際の形状および状態は張力に敏感であり、そのためシステムの物質移動性能を操作し、ファウリング制御およびガス移動のための空気および流体の流れに対するエネルギー必要量を最小化することができる。
【0091】
参考文献:
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Luelf,Tobias&Bremer,Christian&Wessling,Matthias.(2016).Rope coiling spinning of curled and meandering hollow-fiber membranes(カールし蛇行する中空糸膜のロープコイリング紡糸)。Journal of Membrane Science.506.10.1016/j.memsci.2016.01.037.
P.Moulin,J.Rouch,C.Serra,M.Clifton,P.Aptel;Mass transfer improvement by secondary flows:Dean vortices in coiled tubular membranes(二次流れによる物質移動の改善:らせん状の管状膜のディーン渦)。J.Membr.Sci.114(1996),pp.235-244