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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】回転式圧縮機および冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/356 20060101AFI20231121BHJP
   F04C 23/00 20060101ALI20231121BHJP
   F25B 1/04 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
F04C18/356 E
F04C23/00 F
F25B1/04 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022502348
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2020007348
(87)【国際公開番号】W WO2021171340
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平山 卓也
(72)【発明者】
【氏名】川辺 功
(72)【発明者】
【氏名】長畑 大志
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/171540(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103452844(CN,A)
【文献】特開2014-129755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/356
F04C 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸の周りに回転可能なシャフトと、
前記シャフトの中心軸方向の一方側から他方側に並んで配置された第1圧縮機構部、第2圧縮機構部および第3圧縮機構部を有する複数の圧縮機構部と、
前記シャフトに設けられ、前記第1圧縮機構部、前記第2圧縮機構部および前記第3圧縮機構部にそれぞれ前記シャフトの周方向において異なる方向に配置された第1偏心部、第2偏心部および第3偏心部を有する複数の偏心部と、
前記シャフトと共に回転する第1バランサと、
前記第1バランサの前記他方側に配置され、前記シャフトと共に回転する第2バランサと、を備え、
前記シャフトの中心軸に対する前記第1バランサの偏心方向と、前記シャフトの中心軸に対する前記複数の偏心部の偏心方向との角度が、前記第3偏心部、前記第2偏心部、前記第1偏心部の順に大きくなり、
前記シャフトの中心軸に対する前記第2バランサの偏心方向と、前記シャフトの中心軸に対する前記複数の偏心部の偏心方向との角度が、前記第1偏心部、前記第2偏心部、前記第3偏心部の順に大きくな
前記第1偏心部の重心と前記第2偏心部の重心との間の前記中心軸方向の距離に対する、前記第2偏心部の重心と前記第3偏心部の重心との間の前記中心軸方向の距離の割合をkとし、
前記シャフトの中心軸に対する前記第3偏心部の偏心方向と、前記シャフトの中心軸に対する前記第1バランサの偏心方向との角度をθ1(rad)とし、
前記シャフトの中心軸に対する前記第3偏心部の偏心方向と、前記シャフトの中心軸に対する前記第2バランサの偏心方向との角度をθ2(rad)としたとき、
arctan(A)-π/36 ≦θ1≦arctan(A)+π/36
arctan(A)+π-π/36≦θ2≦arctan(A)+π+π/36
A=√3/(2k+1)
を満たす、
回転式圧縮機。
【請求項2】
前記複数の偏心部は、前記中心軸方向において前記第1バランサと前記第2バランサとの間に配置される、
請求項1に記載の回転式圧縮機。
【請求項3】
前記第1偏心部の重心と前記第2偏心部の重心との間の第1領域および前記第2偏心部の重心と前記第3偏心部の重心との間の第2領域のうち、前記中心軸方向の距離が大きい方の領域に、前記シャフトを支持する中間軸受が配置される、
請求項1または2に記載の回転式圧縮機。
【請求項4】
前記複数の圧縮機構部の前記一方側に配置され、前記シャフトを回転駆動する電動機部と、
前記複数の圧縮機構部の前記一方側に配置され、前記シャフトを支持する第1軸受と、
前記複数の圧縮機構部の前記他方側に配置され、前記シャフトを支持する第2軸受と、をさらに有し、
前記第1バランサは、前記電動機部の前記一方側に配置され、
前記第2バランサは、前記第2軸受の前記他方側に配置される、
請求項1からのいずれか1項に記載の回転式圧縮機。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載の回転式圧縮機と、
前記回転式圧縮機に接続された放熱器と、
前記放熱器に接続された膨張装置と、
前記膨張装置に接続された吸熱器と、を有する、
冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転式圧縮機および冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍サイクル装置において、圧縮性能の高い多気筒の回転式圧縮機が利用されている。多気筒の回転式圧縮機は、複数の圧縮機構部と、シャフトと、複数の偏心部と、を備える。複数の偏心部は、シャフトに設けられ、複数の圧縮機構部にそれぞれ配置される。複数の偏心部の偏心方向は、シャフトの周方向においてそれぞれ異なる方向である。シャフトとともに複数の偏心部が回転すると、回転式圧縮機が振動する。振動を抑制することができる回転式圧縮機が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/186695号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、振動を抑制することができる回転式圧縮機および冷凍サイクル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の回転式圧縮機は、シャフトと、複数の圧縮機構部と、複数の偏心部と、第1バランサと、第2バランサと、を持つ。シャフトは、中心軸の周りに回転可能である。複数の圧縮機構部は、シャフトの中心軸方向の一方側から他方側に並んで配置された第1圧縮機構部、第2圧縮機構部および第3圧縮機構部を有する。複数の偏心部は、シャフトに設けられ、第1圧縮機構部、第2圧縮機構部および第3圧縮機構部にそれぞれシャフトの周方向において異なる方向に配置された第1偏心部、第2偏心部および第3偏心部を有する。第1バランサは、シャフトと共に回転する。第2バランサは、第1バランサの他方側に配置され、シャフトと共に回転する。シャフトの中心軸に対する第1バランサの偏心方向と、シャフトの中心軸に対する複数の偏心部の偏心方向との角度が、第3偏心部、第2偏心部、第1偏心部の順に大きくなる。シャフトの中心軸に対する第2バランサの偏心方向と、シャフトの中心軸に対する複数の偏心部の偏心方向との角度が、第1偏心部、第2偏心部、第3偏心部の順に大きくなる。第1偏心部の重心と第2偏心部の重心との間の中心軸方向の距離に対する、第2偏心部の重心と第3偏心部の重心との間の中心軸方向の距離の割合をkとする。シャフトの中心軸に対する第3偏心部の偏心方向と、シャフトの中心軸に対する第1バランサの偏心方向との角度をθ1(rad)とする。シャフトの中心軸に対する第3偏心部の偏心方向と、シャフトの中心軸に対する第2バランサの偏心方向との角度をθ2(rad)とする。このとき、
arctan(A)-π/36 ≦θ1≦arctan(A)+π/36
arctan(A)+π-π/36≦θ2≦arctan(A)+π+π/36
A=√3/(2k+1)
を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の回転式圧縮機の断面図を含む冷凍サイクル装置の概略構成図。
図2】複数の偏心部の底面図。
図3】シャフトの模式的な正面図。
図4】シャフトの模式的な側面図。
図5】第1バランサの底面図。
図6】第2バランサの底面図。
図7】バランサのズレ角と圧縮機本体の振動振幅との関係を示すグラフ。
図8】実施形態の第1変形例の回転式圧縮機の断面図。
図9】実施形態の第2変形例の回転式圧縮機の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の回転式圧縮機および冷凍サイクル装置を、図面を参照して説明する。
図1は、実施形態の回転式圧縮機の断面図を含む冷凍サイクル装置の概略構成図である。本願において、直交座標系のZ方向、X方向およびY方向が以下のように定義される。Z方向は、シャフト13の中心軸方向である。+Z方向(一方側)は圧縮機構部20から電動機部15に向かう方向であり、-Z方向(他方側)は+Z方向の反対側である。例えば、Z方向は鉛直方向であり、+Z方向は鉛直上方である。X方向およびY方向は、シャフト13の径方向である。X方向は、シャフト13の中心軸に対する第3偏心部33の偏心方向である。例えば、X方向およびY方向は水平方向である。
【0008】
冷凍サイクル装置1について簡単に説明する。
冷凍サイクル装置1は、回転式圧縮機2と、回転式圧縮機2に接続された放熱器(例えば凝縮器)3と、放熱器3に接続された膨張装置(例えば膨張弁)4と、膨張装置4に接続された吸熱器(例えば蒸発器)5と、を有する。冷凍サイクル装置1は、二酸化炭素(CO)等の冷媒を含む。冷媒は、相変化しながら冷凍サイクル装置1を循環する。
【0009】
回転式圧縮機2は、いわゆるロータリ式の圧縮機である。回転式圧縮機2は、内部に取り込まれる低圧の気体冷媒(流体)を圧縮して高温・高圧の気体冷媒にする。回転式圧縮機2の具体的な構成は後述される。
【0010】
放熱器3は、回転式圧縮機2から吐出される高温・高圧の気体冷媒から放熱して、高温・高圧の気体冷媒を高圧の液体冷媒にする。
膨張装置4は、放熱器3から送り込まれる高圧の液体冷媒の圧力を下げ、高圧の液体冷媒を低温・低圧の液体冷媒にする。
吸熱器5は、膨張装置4から送り込まれる低温・低圧の液体冷媒を気化させ、低圧の気体冷媒にする。吸熱器5において、低圧の液体冷媒が気化する際に周囲から気化熱を奪うことで周囲が冷却される。吸熱器5を通過した低圧の気体冷媒は、上述した回転式圧縮機2の内部に取り込まれる。
【0011】
このように、本実施形態の冷凍サイクル装置1では、作動流体である冷媒が気体冷媒と液体冷媒との間で相変化しながら循環する。冷媒は、気体冷媒から液体冷媒に相変化する過程で放熱し、液体冷媒から気体冷媒に相変化する過程で吸熱する。これらの放熱や吸熱を利用して暖房や冷房などが行われる。
【0012】
回転式圧縮機2について説明する。
回転式圧縮機2は、アキュムレータ6と、圧縮機本体10と、を有する。アキュムレータ6は、吸熱器5から送り込まれる冷媒を、気体冷媒と液体冷媒とに分離する。気体冷媒は、吸入管を通って圧縮機本体10に取り込まれる。
【0013】
圧縮機本体10は、ケース11と、シャフト13と、電動機部15と、複数の圧縮機構部20と、を有する。
ケース11は、両端部が閉塞された円筒状に形成される。ケース11は、シャフト13、電動機部15および複数の圧縮機構部20を収容する。ケース11は、上端部に吐出部19を有する。吐出部19は、ケース11の内部の気体冷媒を放熱器3に供給する。
【0014】
シャフト13は、圧縮機本体10の中心軸に沿って配置されている。シャフト13は、複数の偏心部30を有する。複数の偏心部30の詳細については後述される。
電動機部15は、シャフト13の+Z方向に配置される。電動機部15は、固定子15aと、回転子15bと、を有する。固定子15aは、ケース11の内周面に固定される。回転子15bは、シャフト13の外周面に固定される。電動機部15は、シャフト13を回転駆動する。
【0015】
複数の圧縮機構部20は、シャフト13の回転によって気体冷媒を圧縮する。複数の圧縮機構部20は、シャフト13の-Z方向に配置される。複数の圧縮機構部20は、第1圧縮機構部21、第2圧縮機構部22および第3圧縮機構部23の、3組の圧縮機構部20を有する。第1圧縮機構部21、第2圧縮機構部22および第3圧縮機構部23は、この順番で+Z方向から-Z方向に並んで配置される。以下には、代表として第1圧縮機構部21の構成が説明される。第2圧縮機構部22および第3圧縮機構部23の構成は、偏心部30の偏心方向を除いて、第1圧縮機構部21と同様である。
【0016】
第1圧縮機構部21は、第1偏心部31と、ローラ35と、シリンダ37と、を有する。
第1偏心部31は、円柱状で、シャフト13と一体に形成される。+Z方向から見て、第1偏心部31の中心は、シャフト13の中心軸から偏心している。
ローラ35は、円筒状に形成され、第1偏心部31の外周に沿って配置される。
【0017】
シリンダ37は、フレーム12に固定される。フレーム12の外周面は、ケース11の内周面に固定される。シリンダ37は、第1シリンダ室21cと、ベーン(不図示)と、吸込孔39と、を有する。第1シリンダ室21cは、シリンダ37の中央をZ方向に貫通して形成される。第1シリンダ室21cは、内部に第1偏心部31およびローラ35を収容する。ベーンは、シリンダ37に形成されたベーン溝に収容され、第1シリンダ室21cの内部に進退可能である。ベーンは、先端部がローラ35の外周面に当接するように付勢される。ベーンは、第1偏心部31およびローラ35とともに、第1シリンダ室21cの内部を吸込室と圧縮室とに仕切る。吸込孔39は、アキュムレータ6から第1シリンダ室21cの吸込室に、気体冷媒を取り込む。
【0018】
回転式圧縮機2は、第1軸受17と、第2軸受18と、第1仕切部41と、第2仕切部42と、第1マフラ27と、第2マフラ28と、を有する。
第1軸受17は、複数の圧縮機構部20の+Z方向に配置され、シャフト13を支持する。第2軸受18は、複数の圧縮機構部20の-Z方向に配置され、シャフト13を支持する。
第1仕切部41は、第1圧縮機構部21と第2圧縮機構部22との間に配置される。第2仕切部42は、第2圧縮機構部22と第3圧縮機構部23との間に配置される。
【0019】
第1マフラ27は、第1軸受17との間に第1マフラ室27cを形成する。第1圧縮機構部21で圧縮された気体冷媒は、第1マフラ室27cに吐出される。第1マフラ室27cに吐出された気体冷媒は、ケース11の内部に吐出される。
第2マフラ28は、第2軸受18との間に第2マフラ室28cを形成する。第3圧縮機構部23で圧縮された気体冷媒は、第2マフラ室28cに吐出される。第2マフラ室28cは、マフラ室間通路(不図示)を介して、第1マフラ室27cに連通している。
第2圧縮機構部22で圧縮された気体冷媒は、第2仕切部42に形成された仕切部通路46に吐出される。仕切部通路46は、前述したマフラ室間通路に連通している。
【0020】
第1偏心部31の重心31gと第2偏心部32の重心32gとの間が第1領域R1である。第2偏心部32の重心32gと第3偏心部33の重心33gとの間が第2領域R2である。第2領域R2のZ方向の距離は、第1領域R1のZ方向の距離より大きい。第2領域R2に、シャフト13を支持する中間軸受45が配置される。前述した第2仕切部42は、第2領域R2に配置される。第2仕切部42は、仕切部材43と、中間軸受45と、を有する。仕切部材43は-Z方向に配置され、中間軸受45は+Z方向に配置される。中間軸受45が配置されるZ方向の位置に、シャフト13の拡径部14が形成される。中間軸受45の中央に形成された貫通孔47が、シャフト13の拡径部14を支持する。
【0021】
第1軸受17と第2軸受18との間に、複数の圧縮機構部20が配置される。第1軸受17と第2軸受18との間において、シャフト13の撓みが大きくなる。中間軸受45は、複数の圧縮機構部20のZ方向の中央付近に配置される。中間軸受45は、シャフト13の撓みを抑制する。これにより、低振動、高信頼性、高性能の回転式圧縮機2を提供することができる。
【0022】
複数の偏心部30について説明する。
複数の偏心部30は、第1偏心部31、第2偏心部32および第3偏心部33を有する。第1偏心部31、第2偏心部32および第3偏心部33は、それぞれ第1圧縮機構部21、第2圧縮機構部22および第3圧縮機構部23に配置される。
【0023】
図2は、複数の偏心部の底面図である。複数の偏心部30は、シャフト13の中心軸に対して偏心している。複数の偏心部30の偏心方向は、シャフト13の周方向において、それぞれ異なる方向である。複数の偏心部30の偏心方向は、シャフト13の周方向において等角度間隔であることが望ましい。第1偏心部31、第2偏心部32および第3偏心部33の偏心方向は、シャフト13の周方向において120°の等角度間隔である。
【0024】
本願において、θ方向は、+Z方向に進む右ネジの回転方向である。
前述したように、第3偏心部33の偏心方向はX方向である。第2偏心部32の偏心方向は、第3偏心部33の偏心方向であるX方向から、θ方向に120°の方向である。第1偏心部31の偏心方向は、第2偏心部32の偏心方向から、θ方向に120°の方向である。
【0025】
シャフト13が回転すると、複数の偏心部30の重心に対して遠心力Fが作用する。複数の偏心部30に作用する遠心力Fの大きさは等しい。第3偏心部33の重心33gに作用する遠心力の、X方向成分はFであり、Y方向成分は0である。第2偏心部32の重心32gに作用する遠心力の、X方向成分は-F/2であり、Y方向成分は-√3・F/2である。第1偏心部31の重心31gに作用する遠心力の、X方向成分は-F/2であり、Y方向成分は√3・F/2である。複数の偏心部30に作用する遠心力Fにより、シャフト13に力のモーメント(振れまわりモーメント、回転モーメント)が作用する。
【0026】
図1に示される回転式圧縮機2は、シャフト13に作用する力のモーメントを抑制するバランサ(カウンタバランサ)を有する。回転式圧縮機2は、第1バランサ51と、第2バランサ52と、を有する。第1バランサ51および第2バランサ52は、シャフト13と共に回転する。第2バランサ52は、第1バランサ51の-Z方向に配置される。複数の偏心部30は、Z方向において第1バランサ51と第2バランサ52との間に配置される。
【0027】
第1バランサ51は、複数の偏心部30の+Z方向に配置される。第1バランサ51は、電動機部15の+Z方向に配置される。第1バランサ51は、電動機部15の回転子15bの+Z方向の端面に固定される。第1バランサ51は、回転子15bおよびシャフト13と共に回転する。
第2バランサ52は、複数の偏心部30の-Z方向に配置される。第2バランサ52は、第2軸受18の-Z方向であって、第2マフラ28の内側に配置される。第2バランサ52は、シャフト13と別体に形成される。第2バランサ52は、ネジ等の固定手段によりシャフト13に固定される。第2バランサ52は、シャフト13と共に回転する。
【0028】
図3は、シャフトの模式的な正面図である。図4は、シャフトの模式的な側面図である。図3および図4では、理解を容易にするため、シャフト13、第1バランサ51および第2バランサ52の形状および位置を、模式的に示している。第1偏心部31の重心31gと第2偏心部32の重心32gとの間のZ方向の第1距離がLである。第2偏心部32の重心32gと第3偏心部33の重心33gとの間のZ方向の第2距離がkLである。kは、第1距離に対する第2距離の割合である。第1バランサ51の重心51gと第2バランサ52の重心52gとの間のZ方向の距離がBである。
【0029】
図3を利用して、シャフト13に作用するY軸周りの力のモーメントを0にするような、第1バランサ51に作用する遠心力のX方向成分Fbxを求める。例えば、第3偏心部33の重心33gを基準点とする。複数の偏心部30に作用する遠心力FのX方向成分により、シャフト13に作用するY軸周りの力のモーメントMyは、数式1で表される。
My=kL・-F/2+(k+1)L・-F/2
=-(2k+1)LF/2 ・・・(1)
【0030】
例えば、第2バランサ52の重心52gを基準点とする。シャフト13の回転により第1バランサ51に作用する遠心力のX方向成分をFbxとする。第1バランサ51に作用する遠心力のX方向成分Fbxにより、シャフト13に作用するY軸周りの力のモーメントMbyは、数式2で表される。
Mby=B・Fbx ・・・(2)
【0031】
以下の数式3が成立するとき、シャフト13に作用するY軸周りの力のモーメントが0になる。
My+Mby=0 ・・・(3)
数式3を満たすFbxは、数式4で表される。
Fbx=(2k+1)LF/2B ・・・(4)
第1バランサ51に作用する遠心力のX方向成分Fbxが数式4を満たすように、第1バランサ51の質量、位置および形状が設定される。
【0032】
シャフト13の回転により第2バランサ52に作用する遠心力のX方向成分は、-Fbxである。-Fbxは、数式5で表される。
-Fbx=-(2k+1)LF/2B ・・・(5)
第2バランサ52に作用する遠心力のX方向成分-Fbxが数式5を満たすように、第2バランサ52の質量、位置および形状が設定される。
【0033】
図4を利用して、シャフト13に作用するX軸周りの力のモーメントを0にするような、第1バランサ51に作用する遠心力のY方向成分Fbyを求める。例えば、第3偏心部33の重心33gを基準点とする。複数の偏心部30に作用する遠心力FのY方向成分により、シャフト13に作用するX軸周りの力のモーメントMxは、数式6で表される。
Mx=kL・-√3・F/2+(k+1)L・√3・F/2
=√3・LF/2 ・・・(6)
【0034】
例えば、第2バランサ52の重心52gを基準点とする。シャフト13の回転により第1バランサ51に作用する遠心力のY方向成分をFbyとする。第1バランサ51に作用する遠心力のY方向成分Fbyにより、シャフト13に作用するX軸周りの力のモーメントMbxは、数式7で表される。
Mbx=B・Fby ・・・(7)
【0035】
以下の数式8が成立するとき、シャフト13に作用するX軸周りの力のモーメントが0になる。
Mx+Mbx=0 ・・・(8)
数式8を満たすFbyは、数式9で表される。
Fby=-√3・LF/2B ・・・(9)
第1バランサ51に作用する遠心力のY方向成分Fbyが数式9を満たすように、第1バランサ51の質量、位置および形状が設定される。
【0036】
シャフト13の回転により第2バランサ52に作用する遠心力のY方向成分は、-Fbyである。-Fbyは、数式10で表される。
-Fby=√3・LF/2B ・・・(10)
第2バランサ52に作用する遠心力のY方向成分Fbyが数式10を満たすように、第2バランサ52の質量、位置および形状が設定される。
【0037】
図5は、第1バランサの底面図である。前述したように、シャフト13に作用する力のモーメントを0にするような、第1バランサ51に作用する遠心力のX方向成分Fbxは数式4で表され、Y方向成分Fbyは数式9で表される。+X方向に対する、シャフト13の中心軸に対する第1バランサ51の重心51gの偏心方向の、θ方向における角度θ1(rad)は、数式11で表される。
θ1=arctan(A)、A=√3/(2k+1) ・・・(11)
【0038】
シャフト13の中心軸に対する第1バランサ51の重心51gの偏心方向と、シャフト13の中心軸に対する複数の偏心部30の重心の偏心方向との角度が、以下のように定義される。第1偏心部31の重心31gの偏心方向との角度がθ11である。第2偏心部32の重心32gの偏心方向との角度がθ12である。第3偏心部33の重心33gの偏心方向との角度がθ13である。シャフト13の中心軸に対する第1バランサ51の重心51gの偏心方向と、シャフト13の中心軸に対する複数の偏心部30の重心の偏心方向との角度は、数式12を満たす。
θ13<θ12<θ11 ・・・(12)
すなわち、小さい方からθ13、θ12、θ11の順に大きくなる。
【0039】
複数の偏心部30および第1バランサ51は、数式12を満たすように設定される。複数の偏心部30の偏心方向が等角度間隔でない場合でも、数式12を満たすことにより、シャフト13の力のモーメントが抑制される。第1バランサ51に作用する遠心力が数式4または9を満たさない場合でも、数式12を満たすことにより、シャフト13の力のモーメントが抑制される。
【0040】
図6は、第2バランサの底面図である。前述したように、シャフト13に作用する力のモーメントを0にするような、第2バランサ52に作用する遠心力のX方向成分-Fbxは数式5で表され、Y方向成分-Fbyは数式10で表される。+X方向に対する、シャフト13の中心軸に対する第2バランサ52の重心52gの偏心方向の、θ方向における角度θ2(rad)は、数式13で表される。
θ2=arctan(A)+π、A=√3/(2k+1) ・・・(13)
【0041】
シャフト13の中心軸に対する第2バランサ52の重心52gの偏心方向と、シャフト13の中心軸に対する複数の偏心部30の重心の偏心方向との角度が、以下のように定義される。第1偏心部31の重心31gの偏心方向との角度がθ21である。第2偏心部32の重心32gの偏心方向との角度がθ22である。第3偏心部33の重心33gの偏心方向との角度がθ23である。シャフト13の中心軸に対する第2バランサ52の重心52gの偏心方向と、シャフト13の中心軸に対する複数の偏心部30の重心の偏心方向との角度は、数式14を満たす。
θ21<θ22<θ23 ・・・(14)
すなわち、小さい方からθ21、θ22、θ23の順に大きくなる。
【0042】
複数の偏心部30および第2バランサ52は、数式14を満たすように設定される。複数の偏心部30の偏心方向が等角度間隔でない場合でも、数式14を満たすことにより、シャフト13の力のモーメントが抑制される。第2バランサ52に作用する遠心力が数式5または10を満たさない場合でも、数式14を満たすことにより、シャフト13の力のモーメントが抑制される。
【0043】
図7は、バランサのズレ角と圧縮機本体の振動振幅との関係を示すグラフである。図7の横軸は、前述した各バランサ51,52の角度θ1,θ2のズレ角(°)である。図7の縦軸は、圧縮機本体10の振動振幅(μm)である。各バランサ51,52の角度θ1,θ2のズレ角が大きくなるほど、圧縮機本体10の振動振幅が大きくなる。角度θ1,θ2のズレ角が±5°(±π/36rad)の範囲では、圧縮機本体10の振動振幅が10μm以下である。角度θ1およびθ2は、A=√3/(2k+1)として、それぞれ数式15および16を満たすことが望ましい。
arctan(A)-π/36 ≦θ1≦arctan(A)+π/36 ・・(15)
arctan(A)+π-π/36≦θ2≦arctan(A)+π+π/36 ・・(16)
【0044】
以上に詳述されたように、実施形態の回転式圧縮機は、シャフト13と、複数の圧縮機構部20と、複数の偏心部30と、第1バランサ51と、第2バランサ52と、を持つ。複数の偏心部30は、シャフト13の中心軸方向の+Z方向から-Z方向に並んで配置された第1偏心部31、第2偏心部32および第3偏心部33を有する。第2バランサ52は、第1バランサ51の-Z方向に配置される。第1バランサ51の偏心方向と、複数の偏心部30の偏心方向との角度が、数式12を満たす。第2バランサ52の偏心方向と、複数の偏心部30の偏心方向との角度が、数式14を満たす。
【0045】
3気筒の回転式圧縮機2において、3個の偏心部31,32,33により生じるシャフト13の力のモーメントが、2個のバランサ51,52により抑制される。これにより、回転式圧縮機2の振動が抑制される。シャフト13の撓みに起因する回転式圧縮機2の信頼性の低下や性能の悪化が抑制される。したがって、低振動、高信頼性、高性能の回転式圧縮機2を提供することができる。
【0046】
+X方向に対する第1バランサ51の偏心方向の角度をθ1(rad)とする。+X方向に対する第2バランサ52の偏心方向の角度をθ2(rad)とする。θ1およびθ2は、数式15および16を満たす。
【0047】
θ1が数式11を満たし、θ2が数式13を満たすとき、シャフト13の力のモーメントは理論上0になる。数式11からのθ1のズレ角および数式13からのθ2のズレ角が±5°の場合に、圧縮機本体10の振動振幅が10μm以下に抑制される。したがって、数式15および16を満たすことにより、低振動の回転式圧縮機2を提供することができる。
【0048】
複数の偏心部30は、Z方向において第1バランサ51と第2バランサ52との間に配置される。
複数の偏心部30の遠心力によりシャフト13に作用する力のモーメントの中心と、2個のバランサ51,52の遠心力によりシャフト13に作用する力のモーメントの中心とが接近する。そのため、力のモーメントの中心のズレによるシャフト13の撓み等が抑制される。したがって、低振動、高信頼性、高性能の回転式圧縮機2を提供することができる。
【0049】
第1偏心部31の重心31gと第2偏心部32の重心32gとの間の第1領域R1および第2偏心部32の重心32gと第3偏心部33の重心33gとの間の第2領域R2のうち、Z方向の距離が大きい方の領域に、シャフト13を支持する中間軸受45が配置される。
複数の圧縮機構部20の中央付近に中間軸受45が配置されるので、シャフト13の撓み等が抑制される。これにより、低振動、高信頼性、高性能の回転式圧縮機2を提供することができる。
【0050】
回転式圧縮機2は、電動機部15と、第1軸受17と、第2軸受18と、をさらに有する。第1バランサ51は、電動機部15の+Z方向に配置される。第2バランサ52は、第2軸受18の-Z方向に配置される。
各バランサ51,52の間の距離が長くなるので、各バランサ51,52の質量が抑制される。これにより、回転式圧縮機2の軽量化、小型化、省資源化を図ることができる。
【0051】
実施形態の冷凍サイクル装置1は、前述した回転式圧縮機2と、回転式圧縮機2に接続された放熱器3と、放熱器3に接続された膨張装置4と、膨張装置4に接続された吸熱器5と、を有する。
これにより、低振動、高信頼性、高性能の冷凍サイクル装置1を提供することができる。
【0052】
図8は、実施形態の第1変形例の回転式圧縮機の断面図である。第1変形例は、各バランサ51,52の位置および形状の点で、実施形態と異なる。
実施形態と同様に、第1バランサ51および第2バランサ52は、シャフト13と共に回転する。第2バランサ52は、第1バランサ51の-Z方向に配置される。複数の偏心部30は、Z方向において第1バランサ51と第2バランサ52との間に配置される。
【0053】
第1バランサ51は、複数の偏心部30の+Z方向に配置される。第1バランサ51は、電動機部15の-Z方向に配置される。第1バランサ51は、電動機部15の回転子15bの-Z方向の端面に固定される。
第2バランサ52は、複数の偏心部30の-Z方向に配置される。第2バランサ52は、第2軸受18の-Z方向に配置される。第2バランサ52の+Z方向の表面は、第2軸受18の-Z方向の表面に沿って配置される。
【0054】
第1変形例の回転式圧縮機2は、数式12、14、15および16を満たす。複数の偏心部30は、Z方向において第1バランサ51と第2バランサ52との間に配置される。これにより、低振動、高信頼性、高性能の回転式圧縮機2を提供することができる。
【0055】
図9は、実施形態の第2変形例の回転式圧縮機の断面図である。第2変形例は、各バランサ51,52の位置および形状の点で、実施形態と異なる。
実施形態と同様に、第1バランサ51および第2バランサ52は、シャフト13と共に回転する。第2バランサ52は、第1バランサ51の-Z方向に配置される。
【0056】
第1バランサ51は、複数の偏心部30の+Z方向に配置される。第1バランサ51は、電動機部15の+Z方向に配置される。第1バランサ51は、電動機部15の回転子15bの+Z方向の端面に固定される。
第2バランサ52は、複数の偏心部30の+Z方向に配置される。第2バランサ52は、電動機部15の-Z方向に配置される。第2バランサ52は、電動機部15の回転子15bの-Z方向の端面に固定される。
【0057】
第2変形例の回転式圧縮機2は、数式12、14、15および16を満たす。これにより、低振動、高信頼性、高性能の回転式圧縮機2を提供することができる。
【0058】
図1に示す実施形態の回転式圧縮機2は、ブレード(不図示)とローラ35とが別体の、いわゆるロータリ式の圧縮機である。これに対して、回転式圧縮機は、ブレードとローラとが一体の、スイングタイプの圧縮機でもよい。
【0059】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、数式12および14を満たすバランサ51,52を持つ。これにより、低振動、高信頼性、高性能の回転式圧縮機2を提供することができる。
【0060】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0061】
R1…第1領域、R2…第2領域、1…冷凍サイクル装置、2…回転式圧縮機、13…シャフト、15…電動機部、17…第1軸受、18…第2軸受、20…複数の圧縮機構部、21…第1圧縮機構部、22…第2圧縮機構部、23…第3圧縮機構部、30…複数の偏心部、31…第1偏心部、31g…重心、32…第2偏心部、32g…重心、33…第3偏心部、33g…重心、45…中間軸受、51…第1バランサ、52…第2バランサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9