(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】電池管理装置、電池管理方法、電力貯蔵システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/374 20190101AFI20231121BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20231121BHJP
G01R 31/3842 20190101ALI20231121BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20231121BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20231121BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20231121BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20231121BHJP
【FI】
G01R31/374
G01R31/367
G01R31/3842
G01R31/389
G01R31/392
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Y
(21)【出願番号】P 2022536144
(86)(22)【出願日】2021-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2021017554
(87)【国際公開番号】W WO2022014124
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2020122382
(32)【優先日】2020-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マテ ファニー
(72)【発明者】
【氏名】井上 健士
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-41949(JP,A)
【文献】特開2019-100897(JP,A)
【文献】特開2020-47587(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0059190(US,A1)
【文献】特開2017-138128(JP,A)
【文献】特開2016-173281(JP,A)
【文献】特開2016-126999(JP,A)
【文献】特開2011-41441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/36-31/44、
19/00-19/32、
H01M 10/42-10/46、
H02J 7/00-7/12、
7/34-7/36、
B60L 1/00-3/12、
7/00-13/00、
15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電可能な電池を管理する電池管理装置であって、
将来の前記電池の状態に応じた内部パラメータを予測する内部パラメータ予測部と、
前記内部パラメータ予測部により予測された前記内部パラメータに基づいて、前記電池の現在の充電状態から最小充電状態までの放電電圧の変化を表す放電曲線を推定する放電曲線推定部と、
前記放電曲線に基づいて前記電池の使用可能エネルギーを算出する使用可能エネルギー算出部と、を備え、
前記内部パラメータ予測部は、
現在の前記電池の温度および周囲温度と所定の放電電流とに基づいて、将来の前記電池の温度予測値を算出する温度予測部と、
現在の前記電池の充電状態および劣化状態と前記放電電流とに基づいて、将来の前記電池の充電状態予測値を算出する充電状態予測部と、
前記温度予測値および前記充電状態予測値に基づき、前記電池の温度および充電状態とバトラー・ボルマー式の各パラメータ値との関係を表す相関マップを用いて、前記内部パラメータを予測する
電気化学反応モデル演算部と、を有する電池管理装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の電池管理装置において、
前記内部パラメータは、前記電池の直流抵抗値および分極抵抗値を含み、
前記相関マップは、前記電池の温度および充電状態と前記直流抵抗値に関する前記バトラー・ボルマー式の各パラメータ値との関係を表す直流抵抗用パラメータマップと、前記電池の温度および充電状態と前記分極抵抗値に関する前記バトラー・ボルマー式の各パラメータ値との関係を表す分極抵抗用パラメータマップと、を含み、
前記電気化学反応モデル演算部は、前記温度予測値および前記充電状態予測値に基づき、前記直流抵抗用パラメータマップと前記分極抵抗用パラメータマップとをそれぞれ用いて、前記直流抵抗値と前記分極抵抗値を予測する電池管理装置。
【請求項3】
請求項
2に記載の電池管理装置において、
前記内部パラメータは、前記電池の開回路電圧をさらに含み、
前記内部パラメータ予測部は、前記充電状態予測値に基づいて将来の前記電池の状態に応じた開回路電圧を予測する開回路電圧予測部をさらに有する電池管理装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電池管理装置において、
現在の前記電池の充電状態および劣化状態を算出する電池状態算出部を備え、
前記内部パラメータ予測部は、現在の前記電池の温度および周囲温度と、前記電池状態算出部により算出された前記充電状態および前記劣化状態とに基づいて、前記内部パラメータを予測する電池管理装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電池管理装置において、
現在の前記電池の状態に応じた内部パラメータを演算し、演算した前記内部パラメータに基づいて前記相関マップを更新するマップ更新部を備える電池管理装置。
【請求項6】
充放電可能な電池を管理するための方法であって、
コンピュータにより、
現在の前記電池の温度および周囲温度と所定の放電電流とに基づいて、将来の前記電池の温度予測値を算出し、
現在の前記電池の充電状態および劣化状態と前記放電電流とに基づいて、将来の前記電池の充電状態予測値を算出し、
前記温度予測値および前記充電状態予測値に基づき、前記電池の温度および充電状態とバトラー・ボルマー式の各パラメータ値との関係を表す相関マップを用いて、将来の前記電池の状態に応じた内部パラメータを予測し、
予測した前記内部パラメータに基づいて、前記電池の現在の充電状態から最小充電状態までの放電電圧の変化を表す放電曲線を推定し、
推定した前記放電曲線に基づいて前記電池の使用可能エネルギーを算出する電池管理方法。
【請求項7】
請求項1から請求項
5までのいずれか一項に記載の電池管理装置と、
充放電可能な電池と、
前記電池管理装置により算出された前記電池の使用可能エネルギーに基づいて、前記電池の充放電を行う充放電装置と、を備える電力貯蔵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池管理装置、電池管理方法および電力貯蔵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題の観点から、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを利用して発電を行い、電力貯蔵システム(Battery Energy Storage System:BESS)を用いて出力の安定化を図った発送電システムの利用が拡大している。また、電車や航空機等の移動交通システムにおいても、排ガス規制の観点から、こうした電力貯蔵システムが広く用いられている。
【0003】
従来の一般的な電力貯蔵システムは、複数の電池セルを組み合わせた電池と、電池を冷却して温度調節を行う冷却システムと、電池の充放電制御を行ってシステムを安全な状態に維持する電池管理装置とを備えて構成される。
【0004】
電力貯蔵システムでは、電池を安全な状態に維持しつつ最高の性能で使用するために、充電状態(SOC)、劣化状態(SOH)、最大許容電力等の電池状態を正確に求める必要がある。これらの電池状態は、センサによる電流、電圧、温度等の測定値に基づいて求められる。こうした電力貯蔵システムにおいて用いられる電池状態の一つに、使用可能エネルギーがある。使用可能エネルギーは、電池内に残っている電気エネルギーの総量を表しており、電池が許容された使用限界に達するまでに放電可能な電気エネルギーに相当する。例えば電車や航空機に搭載されて使用される電力貯蔵システムの場合、この使用可能エネルギーは、電池が完全放電(使用限界)状態となるまでの移動距離や飛行距離の算出などに利用される。また、例えば送配電システムにおいて用いられる電力貯蔵システムの場合、使用可能エネルギーは、接続されている各マイクログリッドの発送電スケジュールの最適化や、停電に至るまでの余裕時間の推定などに利用される。
【0005】
電車や航空機、送配電システム等を含む数多くのシステムでは、電池の放電電流が一定とは限らない。そのため、こうしたシステムでは、電池の使用可能エネルギーをリアルタイムに算出し、その算出結果をシステム管理者(電車の運転手、航空機のパイロット、送配電システムの管理センター等)に逐次伝えて、システムの安全性確保や効率性改善を図る必要がある。しかしながら、電力貯蔵システムにおいて使用されることが多いリチウムイオン電池では、低温時において複雑な電気化学反応が生じるため、使用可能エネルギーを正確に算出するのが困難となる。
【0006】
電池の使用可能エネルギーの算出に関して、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、車両のイグニッションスイッチをオンした時の温度と充電状態に基づきマップを用いて電池の初期使用可能エネルギーを取得するとともに、車両の走行中に消費した電池の累積消費エネルギーを演算し、初期使用可能エネルギーから累積消費エネルギーを減算することで、車両の走行可能距離を算出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の方法では、リチウムイオン電池の低温時の挙動が考慮されていない。そのため、低温時における電池の使用可能エネルギーを正確に推定するのが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による電池管理装置は、充放電可能な電池を管理するものであって、将来の前記電池の状態に応じた内部パラメータを予測する内部パラメータ予測部と、前記内部パラメータ予測部により予測された前記内部パラメータに基づいて、前記電池の現在の充電状態から最小充電状態までの放電電圧の変化を表す放電曲線を推定する放電曲線推定部と、前記放電曲線に基づいて前記電池の使用可能エネルギーを算出する使用可能エネルギー算出部と、を備え、前記内部パラメータ予測部は、現在の前記電池の温度および周囲温度と所定の放電電流とに基づいて、将来の前記電池の温度予測値を算出する温度予測部と、現在の前記電池の充電状態および劣化状態と前記放電電流とに基づいて、将来の前記電池の充電状態予測値を算出する充電状態予測部と、前記温度予測値および前記充電状態予測値に基づき、前記電池の温度および充電状態とバトラー・ボルマー式の各パラメータ値との関係を表す相関マップを用いて、前記内部パラメータを予測する電気化学反応モデル演算部と、を有する。
本発明による電池管理方法は、充放電可能な電池を管理するための方法であって、コンピュータにより、現在の前記電池の温度および周囲温度と所定の放電電流とに基づいて、将来の前記電池の温度予測値を算出し、現在の前記電池の充電状態および劣化状態と前記放電電流とに基づいて、将来の前記電池の充電状態予測値を算出し、前記温度予測値および前記充電状態予測値に基づき、前記電池の温度および充電状態とバトラー・ボルマー式の各パラメータ値との関係を表す相関マップを用いて、将来の前記電池の状態に応じた内部パラメータを予測し、予測した前記内部パラメータに基づいて、前記電池の現在の充電状態から最小充電状態までの放電電圧の変化を表す放電曲線を推定し、推定した前記放電曲線に基づいて前記電池の使用可能エネルギーを算出する。
本発明による電力貯蔵システムは、電池管理装置と、充放電可能な電池と、前記電池管理装置により算出された前記電池の使用可能エネルギーに基づいて、前記電池の充放電を行う充放電装置と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、低温時における電池の使用可能エネルギーを正確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電力貯蔵システムの概略構成図である。
【
図3】電池モデルにおける電池セルの等価回路の例を示す図である。
【
図4】低温時における使用可能エネルギーの説明図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る使用可能エネルギー算出処理に関する電池管理装置の機能ブロックを示す図である。
【
図6】電池状態算出部の機能ブロックを示す図である。
【
図7】内部パラメータ予測部の機能ブロックを示す図である。
【
図8】低温時における内部抵抗の電流依存性の例を示す図である。
【
図9】本発明の第1の実施形態に係る電気化学反応モデル演算部の機能ブロックを示す図である。
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る電気化学反応モデル演算部の機能ブロックを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の一実施形態に係る電力貯蔵システムの概略構成図である。
図1に示す電力貯蔵システム(BESS)1は、組電池101、電池管理装置102、電流センサ103、セルコントローラ104、電圧センサ105、温度センサ106、およびリレー107を備える。電力貯蔵システム1は、インバータ2を介して、交流モータ等の負荷3に接続されている。電力貯蔵システム1およびインバータ2は、不図示の通信回線を介して上位コントローラ4に接続されている。
【0014】
組電池101は、充放電可能な複数の電池セルを直並列に接続して構成されている。負荷3を力行運転する際には、組電池101から放電された直流電力がインバータ2により交流電力に変換され、負荷3に供給される。また、負荷3を回生運転する際には、負荷3から出力された交流電力がインバータ2により直流電力に変換され、組電池101に充電される。こうしたインバータ2の動作により、組電池101の充放電が行われる。インバータ2の動作は、上位コントローラ4により制御される。
【0015】
電流センサ103は、組電池101に流れる電流を検出し、その検出結果を電池管理装置102に出力する。セルコントローラ104は、組電池101の各電池セルの電圧を検出し、その検出結果を電池管理装置102に出力する。電圧センサ105は、組電池101の電圧(総電圧)を検出し、その検出結果を電池管理装置102に出力する。温度センサ106は、組電池101の温度と、組電池101の周囲温度とを検出し、その検出結果を電池管理装置102に出力する。リレー107は、上位コントローラ4の制御に応じて、電力貯蔵システム1とインバータ2の間の接続状態を切り替える。
【0016】
電池管理装置102は、電流センサ103、セルコントローラ104、電圧センサ105および温度センサ106の各検出結果に基づき、組電池101の充放電制御を行う。その際に電池管理装置102は、組電池101の状態を表す指標として、様々な種類の電池状態を算出する。電池管理装置102が算出する電池状態には、例えば、充電状態(SOC)、劣化状態(SOH)、最大許容電力、使用可能エネルギー等が含まれる。これらの電池状態を用いて組電池101の充放電制御を行うことで、電池管理装置102は組電池101を安全に制御することができる。その結果、電力貯蔵システム1が搭載されている上位システム(電車、航空機、送配電網等)を、効率的に制御することが可能となる。電池管理装置102は、上位コントローラ4との間で、組電池101の充放電制御に必要な情報通信を行う。
【0017】
なお、本実施形態において、上記の使用可能エネルギーとは、組電池101に蓄積されている電気エネルギーのうち、組電池101が放出可能な電気エネルギーの総量として定義される。これは、組電池101の各電池セルを所定の放電電流IC0,DChで放電したときに、各電池セルのSOCが各電池セルに対して許容された最小のSOC値であるSOCminとなるまでの間に、各電池セルが所定の最小電圧Vminを下回ることなく放電可能な電力量(Wh)の合計に相当する。なお、放電電流値IC0,DChは、電力貯蔵システム1の運用形態等に応じて予め設定されている。
【0018】
図2は、使用可能エネルギーの説明図である。
図2において、符号700で示した破線は、組電池101の各電池セルにおけるSOCと開回路電圧(OCV)の関係を示すSOC-OCV曲線を表している。また、符号701で示した実線は、組電池101の各電池セルを一定の放電電流I
C0,DChで現在のSOCからSOC
minまで放電させたときの放電曲線を表している。なお、
図2では現在のSOCを破線703、SOC
minを破線705でそれぞれ示している。
【0019】
放電曲線701は、組電池101の各電池セルにおける放電時のSOCと閉回路電圧(CCV)の関係を示している。すなわち、組電池101を放電させたときの各電池セルのCCVは、放電曲線701に従って、現在のSOCに対応する電圧値704から放電終了時のSOCminに対応する電圧値706まで、点線707で示した最小電圧Vminを下回らない範囲で連続的に変化する。
【0020】
ここで、放電曲線701に対応する放電時のCレートをC0と表すと、放電電流IC0,DChは、IC0,DCh = C0 × Ahratedと表すことができる。この式において、Ahratedは各電池セルの定格容量を表している。
【0021】
また、放電時の各電池セルの使用可能エネルギーは、以下の(式1)で定義される。
【0022】
【0023】
(式1)において、CCV(t)は時刻tにおける各電池セルのCCV、すなわち放電電圧の値を表し、t
presentは現在の時刻、t
endは各電池のSOCがSOC
minに達して放電が終了したときの時刻をそれぞれ表している。この(式1)は、
図2で示した現在のSOCからSOC
minまでの放電曲線701の積分値を表している。すなわち、
図2において、放電曲線701、破線703および破線705で囲われた、ハッチングで示した領域702の面積が、各電池セルの使用可能エネルギーに相当する。
【0024】
例えば、電力貯蔵システム1が電動航空機に搭載される場合、安全な制御や適切な飛行経路を実現するためには、組電池101の使用可能エネルギーをリアルタイムで算出する必要がある。しかしながら、飛行中には電流が逐次変化するため、一定の放電電流IC0,DChによる完全放電を前提とした算出式である(式1)をそのまま適用することができない。また、電動航空機は0℃以下のような低温環境で使用されることがあるが、低温時には複雑な電気化学反応によって電池の挙動が変化するため、この点でも一定の電池挙動を前提とした算出式である(式1)をそのまま適用することができない。そこで本発明では、以下で説明するような算出方法により、組電池101の使用可能エネルギーをリアルタイムで算出できるようにしている。
【0025】
図3は、電池セルの等価回路モデルの例を示す図である。
図3に示す電池セルの等価回路は、開放電圧源708と、抵抗値Roを有する直流抵抗709と、容量値Cpを有する分極容量710と抵抗値Rpを有する分極抵抗711の並列回路である分極モデルとが、互いに直列接続されて構成されている。この等価回路において、電池セルの温度が低い場合には、抵抗値Ro,Rpが非常に大きくなる。
【0026】
図4は、低温時における使用可能エネルギーの説明図である。
図4において、SOC-OCV曲線700は、
図2のものに対応している。低温時には、上記のように電池セルの等価回路において直流抵抗709と分極抵抗711の抵抗値Ro,Rpが大きくなることで、放電曲線701が
図2の状態よりも全体的に低電圧側(図の下方向)にシフトする。その結果、
図4に示すように、放電曲線701は前述のSOC
minよりも大きいSOC値であるSOC
endにおいて、最小電圧V
minに達する。なお、
図2ではSOC
endを破線712で示している。
【0027】
以上説明したように、低温時に放電曲線701が変化する場合において使用可能エネルギーを正確に算出するためには、将来の電池セルの状態を予測し、その予測結果に応じて、電池セルの電圧が最小電圧Vminに達するまでの放電曲線701を正確に予測する必要がある。本発明では、以下で説明する方法により、低温時に変化する放電曲線701を正確に予測できるようにしている。
【0028】
なお、上記では電池セル単位の使用可能エネルギーを説明したが、本実施形態では、組電池101全体での使用可能エネルギーを算出することが好ましい。例えば、組電池101を構成する各電池セルについて電池セル単位で使用可能エネルギーを算出し、各電池セルの使用可能エネルギーの算出結果を合計することで、組電池101全体での使用可能エネルギーを求めることができる。あるいは、上記の算出方法を組電池101全体に適用することで、組電池101単位で使用可能エネルギーを算出してもよい。
【0029】
続いて、本実施形態の使用可能エネルギーの算出方法について説明する。
【0030】
図5は、本発明の第1の実施形態に係る使用可能エネルギー算出処理に関する電池管理装置102の機能ブロックを示す図である。本実施形態の電池管理装置102は、電池状態算出部501、内部パラメータ予測部502、放電曲線推定部503および使用可能エネルギー算出部504の各機能ブロックを有する。これらの機能ブロックは、例えば所定のプログラムをコンピュータで実行することにより実現される。
【0031】
電池状態算出部501は、電流センサ103、電圧センサ105および温度センサ106から、組電池101が充放電中のときに検出された電流I、閉回路電圧CCVおよび電池温度T
cellをそれぞれ取得する。そして、これらの情報に基づき、組電池101の現在の状態を表す充電状態SOCおよび充電容量減少量SOHQの各状態値を算出する。なお、電池状態算出部501によるこれらの状態値の算出方法の詳細については、後で
図6を参照して説明する。
【0032】
内部パラメータ予測部502は、電池状態算出部501で算出された組電池101の各状態値、すなわち充電状態SOCおよび充電容量減少量SOHQを取得すると共に、温度センサ106から組電池101の電池温度T
cellおよび周囲温度T
ambを取得する。そして、取得したこれらの情報に基づき、将来の各時点における組電池101の内部状態に応じたパラメータとして、
図3で説明した直流抵抗709と分極抵抗711の抵抗値Ro,Rpおよび開放電圧源708の電圧値(開回路電圧)OCVを予測する。このとき内部パラメータ予測部502は、組電池101を所定の放電電流I
C0,DChで放電するものと仮定して、これらの内部パラメータ値を予測する。なお、内部パラメータ予測部502による各内部パラメータの予測方法の詳細については、後で
図7を参照して説明する。
【0033】
放電曲線推定部503は、内部パラメータ予測部502で予測された組電池101の各内部パラメータ値を取得する。そして、取得した各内部パラメータ値を
図3で説明した等価回路モデルに対して適用することで、将来の各時点における組電池101の電圧を予測し、放電曲線701を推定する。なお、放電曲線推定部503による放電曲線701の推定方法の詳細については、後で説明する。
【0034】
使用可能エネルギー算出部504は、放電曲線推定部503で推定された放電曲線701を前述の(式1)に対して適用することで、組電池101の使用可能エネルギーを算出する。
【0035】
電池管理装置102により算出された組電池101の使用可能エネルギーは、電池管理装置102から上位コントローラ4に送信され、インバータ2の制御等に利用される。これにより、電力貯蔵システム1において組電池101の使用可能エネルギーがリアルタイムで算出され、組電池101の充放電制御が行われる。
【0036】
図6は、電池状態算出部501の機能ブロックを示す図である。電池状態算出部501は、電池モデル部611および劣化状態検出部612を備える。
【0037】
電池モデル部611は、組電池101をモデル化した電池モデルを記憶しており、この電池モデルを用いて、充電状態SOCを求める。電池モデル部611における電池モデルは、例えば、実際の組電池101における電池セルの直列接続数および並列接続数や、
図3に示した各電池セルの等価回路に応じて設定されている。電池モデル部611は、電流センサ103、電圧センサ105および温度センサ106からそれぞれ取得した電流I、閉回路電圧CCVおよび電池温度T
cellをこの電池モデルに対して適用することで、組電池101の状態に応じた充電状態SOCを求めることができる。
【0038】
図3に示した電池セルの等価回路において、開放電圧源708の両端電圧は開回路電圧OCVに相当し、分極容量710と分極抵抗711の並列回路の両端電圧は分極電圧Vpに相当する。また、この等価回路に電流Iが流れたときの直流抵抗709の印加電圧I×Roおよび分極電圧Vpを開回路電圧OCVに加えた値は、閉回路電圧CCVに相当する。さらに、
図3の等価回路における各回路定数の値は、電池温度T
cellに応じて定まる。したがって、電池モデル部611では、これらの関係に基づき、電流I、閉回路電圧CCVおよび電池温度T
cellから、組電池101全体での開回路電圧OCVおよび分極電圧Vpを求め、さらに開回路電圧OCVの算出結果から充電状態SOCを求めることができる。
【0039】
劣化状態検出部612は、組電池101の劣化状態を検出し、その劣化状態に応じた充電容量減少量SOHQを求める。組電池101の各電池セルは、充放電を繰り返すことで劣化が進行し、その劣化状態に応じて充電容量の減少が生じる。劣化状態検出部612は、例えば、組電池101の電流、電圧および温度と劣化状態との関係を表す情報を予め記憶しており、この情報を用いることで、電流センサ103、電圧センサ105および温度センサ106からそれぞれ取得した電流I、閉回路電圧CCVおよび電池温度Tcellに基づいて、組電池101の劣化状態を検出する。そして、予め記憶された劣化状態と充電容量減少量SOHQとの関係に基づき、組電池101の劣化状態の検出結果に対応する充電容量減少量SOHQを求めることができる。
【0040】
図7は、内部パラメータ予測部502の機能ブロックを示す図である。内部パラメータ予測部502は、温度予測部601、SOC予測部602、電気化学反応モデル演算部603、およびOCV予測部604を備える。
【0041】
温度予測部601には、温度センサ106から取得した現在の電池温度Tcellおよび周囲温度Tambと、予め設定された一定の放電電流IC0,DChとが入力される。温度予測部601は、入力されたこれらの情報に基づき所定の熱エネルギーバランス方程式を解くことで、現在を起点として所定の時間間隔ごとに将来時点での電池温度Tcellの値を予測し、その予測結果を温度予測値Tpredictとして出力する。ここでは、例えば以下の(式2)で表される熱エネルギーバランス方程式を用いて、温度予測値Tpredictを算出することができる。なお、(式2)はBernardiの式として公知のものであり、例えば参考文献1(D. Bernardi et al., “A general energy balance for battery systems”, Journal of the Electrochemical Society, 132(1), 5-12 (1985))に記載されている。
【0042】
【0043】
(式2)において、mは組電池101の重量、cは比熱容量、hは熱伝達率、Aは組電池101の表面積をそれぞれ表している。また、Roは直流抵抗709の抵抗値を、Vpは分極容量710と分極抵抗711の並列回路にかかる分極電圧をそれぞれ表している。なお、(式2)は微分方程式であり、これを解く際には、必要に応じて離散化を用いることができる。
【0044】
SOC予測部602には、電池状態算出部501により算出された現在の組電池101の充電状態SOCおよび充電容量減少量SOHQと、予め設定された一定の放電電流IC0,DChとが入力される。SOC予測部602は、入力されたこれらの情報に基づき、現在を起点として所定の時間間隔ごとに将来の各時点での充電状態SOCの値を予測し、その予測結果を充電状態予測値SOCpredictとして出力する。ここでは、例えば周知の電流積算法を用いて、放電電流IC0,DChが一定である場合の充電状態予測値SOCpredictを算出することができる。なお、SOC予測部602により充電状態予測値SOCpredictを算出する時間範囲Δtpredictionは、放電電流IC0,DChに応じて定まる。例えば、放電電流IC0,DChに対応する放電レートの値をCoとすると、Δtprediction = 1/Coと表すことができる。
【0045】
電気化学反応モデル演算部603は、温度予測部601とSOC予測部602がそれぞれ算出した温度予測値Tpredictおよび充電状態予測値SOCpredictに基づいて、現在を起点として所定の時間間隔ごとに将来の各時点での直流抵抗709と分極抵抗711の抵抗値Ro,Rpを予測し、その予測結果を抵抗予測値Ropredict,Rppredictとして出力する。ここでは、バトラー・ボルマー式と呼ばれる周知の演算式を用いて、後述するような方法により、抵抗予測値Ropredict,Rppredictを算出することができる。なお、電気化学反応モデル演算部603により抵抗予測値Ropredict,Rppredictを算出する時間範囲Δtpredictionは、SOC予測部602による充電状態予測値SOCpredictの算出時間範囲と同一の値に設定することができる。
【0046】
OCV予測部604は、SOC予測部602が算出した充電状態予測値SOCpredictに基づいて、現在を起点として所定の時間間隔ごとに将来の各時点での開放電圧源708の電圧値(開回路電圧)OCVを予測し、その予測結果をOCV予測値OCVpredictとして出力する。ここでは、予め設定されたOCVマップ情報を用いて、充電状態予測値SOCpredictに対応するOCV予測値OCVpredictを求めることができる。OCVマップ情報は、組電池101におけるSOCとOCVの関係を表した情報であり、製造時に測定された組電池101の特性情報等に基づいて予め設定されている。
【0047】
内部パラメータ予測部502は、以上説明した各機能ブロックにより、将来の組電池101の状態に応じた内部パラメータの予測結果として、抵抗予測値Ropredict,RppredictおよびOCV予測値OCVpredictを求めることができる。
【0048】
次に、内部パラメータ予測部502における電気化学反応モデル演算部603の詳細について以下に説明する。組電池101の温度が低いときには、組電池101の内部において、バトラー・ボルマー現象が発生する。その結果、直流抵抗709と分極抵抗711の抵抗値Ro,Rpがそれぞれ高い電流依存性を有するようになる。
【0049】
図8は、低温時における内部抵抗の電流依存性の例を示す図である。
図8において、符号713、714の各曲線は、温度T1、T2における直流抵抗709の電流と抵抗値Roの関係の例を示しており、符号715、716の各曲線は、温度T1、T2における分極抵抗711の電流と抵抗値Rpの関係の例を示している。ここで、温度T1、T2はいずれも0℃未満の低温であり、T1<T2である。
【0050】
図8の曲線713~716に示すように、低温時には、直流抵抗709と分極抵抗711の抵抗値Ro,Rpの両方に高い電流依存性が認められる。こうした電流依存性は、電池内部の電気化学反応によって生じるものであり、温度に応じてその様子が変化する。したがって、前述のように放電電流I
C0,DChを一定と仮定した場合、組電池101の温度に応じて抵抗値Ro,Rpが変化することになる。
【0051】
そこで本実施形態では、電気化学反応モデル演算部603において、組電池101の充電状態SOC、温度T、電流Iの関数である以下の(式3)、(式4)により、低温時における抵抗値Ro,Rpの予測値Ro
predict,Rp
predictをそれぞれ算出する。なお、(式3)、(式4)は、バトラー・ボルマー式と呼ばれる演算式であり、
図8で示したような低温時における電池内部の電気化学反応を表している。
【0052】
【0053】
例えば、
図8の曲線713は、ある特定のSOCと温度T1の組み合わせに対して(式3)により計算される直流抵抗709の抵抗値Roを表している。また、
図8の曲線714は、同じSOCでT1よりも高い温度T2に対して(式3)により計算される直流抵抗709の抵抗値Roを表している。同様に、
図8の曲線715、716は、ある特定のSOCと温度T1、T2の組み合わせに対して(式4)により計算される分極抵抗711の抵抗値Rpをそれぞれ表している。
【0054】
(式3)のVo,map、Io,map、RSEI,mapの各パラメータ値と、(式4)のV~o,map、I~o,mapの各パラメータ値とは、充電状態SOCと温度Tにより、組電池101の特性に従ってそれぞれ決定される。したがって、電気化学反応モデル演算部603では、電力貯蔵システム1において組電池101が取り得る様々な充電状態SOCと温度Tの組み合せについて、充電状態SOCおよび温度Tと各パラメータ値との関係を表すマップ情報を予め記憶しておく。このマップ情報を参照することで、電気化学反応モデル演算部603は、将来の各時点における温度予測値Tpredictと充電状態予測値SOCpredictに対応する各パラメータ値を特定することができる。そして、特定した各パラメータ値を(式3)、(式4)に適用することで、直流抵抗709と分極抵抗711の抵抗値Ro,Rpに対する予測値Ropredict,Rppredictを算出することができる。
【0055】
なお、(式3)のVo,mapと(式4)のV~o,mapは、組電池101の表面過電圧をそれぞれ表しており、(式3)のIo,mapと(式4)のI~o,mapは、組電池101の交換電流をそれぞれ表している。また、(式3)のRSEI,mapは、組電池101において形成されるSEI(Solid Electrolyte Interphase)による抵抗成分を表している。
【0056】
図9は、本発明の第1の実施形態に係る電気化学反応モデル演算部603の機能ブロックを示す図である。本実施形態において、電気化学反応モデル演算部603は、直流抵抗用パラメータマップ801、直流抵抗値予測部802、分極抵抗用パラメータマップ803、および分極抵抗値予測部804を備える。
【0057】
直流抵抗用パラメータマップ801は、組電池101の温度Tおよび充電状態SOCと、直流抵抗709の抵抗値Roに関する(式3)のVo,map、Io,map、RSEI,mapの各パラメータ値との関係を表すマップ情報である。例えば、製造時に測定された組電池101の特性情報等に基づいて予め設定されたマップ情報が、直流抵抗用パラメータマップ801として電気化学反応モデル演算部603に記憶されている。
【0058】
図7の温度予測部601およびSOC予測部602から電気化学反応モデル演算部603に対して、時間範囲Δt
predictionの各時点における温度予測値T
predictと充電状態予測値SOC
predictがそれぞれ入力されると、直流抵抗用パラメータマップ801は、入力された温度予測値T
predictと充電状態予測値SOC
predictの各時点での組み合わせに対応する(式3)の各パラメータ値をマップ検索により特定し、直流抵抗値予測部802へ出力する。
【0059】
直流抵抗値予測部802は、直流抵抗用パラメータマップ801から入力されたパラメータ値を用いて(式3)の演算を行うことで、時間範囲Δtpredictionの各時点での直流抵抗709の抵抗値Roを予測し、その予測結果を抵抗予測値Ropredictとして出力する。
【0060】
分極抵抗用パラメータマップ803は、組電池101の温度Tおよび充電状態SOCと、分極抵抗711の抵抗値Rpに関する(式4)のV~o,map、I~o,mapの各パラメータ値との関係を表すマップ情報である。前述の直流抵抗用パラメータマップ801と同様に、例えば、製造時に測定された組電池101の特性情報等に基づいて予め設定されたマップ情報が、分極抵抗用パラメータマップ803として電気化学反応モデル演算部603に記憶されている。
【0061】
図7の温度予測部601およびSOC予測部602から電気化学反応モデル演算部603に対して、時間範囲Δt
predictionの各時点における温度予測値T
predictと充電状態予測値SOC
predictがそれぞれ入力されると、分極抵抗用パラメータマップ803は、入力された温度予測値T
predictと充電状態予測値SOC
predictの各時点での組み合わせに対応する(式4)の各パラメータ値をマップ検索により特定し、分極抵抗値予測部804へ出力する。
【0062】
分極抵抗値予測部804は、分極抵抗用パラメータマップ803から入力されたパラメータ値を用いて(式4)の演算を行うことで、時間範囲Δtpredictionの各時点での分極抵抗711の抵抗値Rpを予測し、その予測結果を抵抗予測値Rppredictとして出力する。
【0063】
電気化学反応モデル演算部603は、以上説明した各機能ブロックにより、将来の各時点における温度予測値Tpredictおよび充電状態予測値SOCpredictに基づき、組電池101の温度Tおよび充電状態SOCと(式3)、(式4)の各パラメータ値との関係を表す相関マップである直流抵抗用パラメータマップ801および分極抵抗用パラメータマップ803を用いて、将来の各時点に対して、組電池101の内部パラメータである直流抵抗709と分極抵抗711の抵抗値Ro,Rpを予測することができる。
【0064】
図5の放電曲線推定部503は、こうして内部パラメータ予測部502内の電気化学反応モデル演算部603により算出された抵抗予測値Ro
predict,Rp
predictと、OCV予測部604により算出されたOCV予測値OCV
predictとの各内部パラメータの予測値に基づき、
図3の等価回路モデルを用いることで、
図4の放電曲線701を推定することができる。例えば、これらの内部パラメータの予測値を以下の(式5)に代入することで、将来の各時点における組電池101の閉回路電圧CCVの予測値である電圧予測値V
predictを算出する。そして、得られた電圧予測値V
predictと充電状態予測値SOC
predictの関係をプロットする。これにより、低温時における直流抵抗709と分極抵抗711の抵抗値Ro,Rpの予測結果を反映して、組電池101を現在のSOCから
図4のSOC
endまで放電させたときの放電曲線701の推定結果を得ることができる。
【0065】
【0066】
(式5)において、τは、
図3の分極容量710と分極抵抗711の並列回路により構成される分極回路の時定数を表している。この時定数τの値は、製造時に測定された組電池101の特性情報等に基づいて予め設定されている。
【0067】
使用可能エネルギー算出部504は、放電曲線推定部503で推定された放電曲線701に基づき、電圧予測値Vpredictが所定の最小電圧Vminを下回るSOCの値をSOCendとして特定する。そして、前述の(式1)により、組電池101の使用可能エネルギーを算出することができる。
【0068】
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0069】
(1)電池管理装置102は、充放電可能な組電池101を管理する装置であって、将来の組電池101の状態に応じた内部パラメータを予測する内部パラメータ予測部502と、内部パラメータ予測部502により予測された内部パラメータに基づいて、組電池101の現在の充電状態から最小充電状態までの放電電圧の変化を表す放電曲線701を推定する放電曲線推定部503と、放電曲線701に基づいて組電池101の使用可能エネルギーを算出する使用可能エネルギー算出部504とを備える。内部パラメータ予測部502は、組電池101の温度Tおよび充電状態SOCと(式3)、(式4)のバトラー・ボルマー式の各パラメータ値との関係を表す相関マップを用いて、組電池101の内部パラメータである直流抵抗709と分極抵抗711の抵抗値Ro,Rpを予測する。このようにしたので、低温時における組電池101の使用可能エネルギーを正確に推定することができる。
【0070】
(2)内部パラメータ予測部502は、現在の組電池101の温度Tcellおよび周囲温度Tambと所定の放電電流IC0,DChとに基づいて、将来の組電池101の温度予測値Tpredictを算出する温度予測部601と、現在の組電池101の充電状態SOCおよび組電池101の劣化状態を表す充電容量減少量SOHQと放電電流IC0,DChとに基づいて、将来の組電池101の充電状態予測値SOCpredictを算出するSOC(充電状態)予測部602と、温度予測値Tpredictおよび充電状態予測値SOCpredictに基づき前述の相関マップを用いて、組電池101の内部パラメータである直流抵抗709と分極抵抗711の抵抗値Ro,Rpを予測する電気化学反応モデル演算部603とを有する。このようにしたので、将来の組電池101の状態に応じた内部パラメータを正確に予測することができる。
【0071】
(3)内部パラメータは、組電池101の直流抵抗値Roおよび分極抵抗値Rpを含む。相関マップは、組電池101の温度Tおよび充電状態SOCと直流抵抗値Roに関するバトラー・ボルマー式の各パラメータ値Vo,map、Io,map、RSEI,mapとの関係を表す直流抵抗用パラメータマップ801と、組電池101の温度Tおよび充電状態SOCと分極抵抗値Rpに関するバトラー・ボルマー式の各パラメータ値V~o,map、I~o,mapとの関係を表す分極抵抗用パラメータマップ803とを含む。電気化学反応モデル演算部603は、温度予測値Tpredictおよび充電状態予測値SOCpredictに基づき、直流抵抗用パラメータマップ801と分極抵抗用パラメータマップ803とをそれぞれ用いて、直流抵抗値Roと分極抵抗値Rpを予測する。このようにしたので、バトラー・ボルマー式を用いた内部パラメータの予測値の演算を容易に実現することができる。
【0072】
(4)内部パラメータは、組電池101の開回路電圧OCVをさらに含む。内部パラメータ予測部502は、充電状態予測値SOCpredictに基づいて将来の組電池101の状態に応じた開回路電圧OCVを予測するOCV(開回路電圧)予測部604をさらに有する。このようにしたので、放電曲線701を推定するために必要な内部パラメータとして、直流抵抗値Roおよび分極抵抗値Rpに加えて、さらに開回路電圧OCVを予測することができる。
【0073】
(5)電池管理装置102は、現在の組電池101の充電状態SOCおよび劣化状態(充電容量減少量)SOHQを算出する電池状態算出部501を備える。内部パラメータ予測部502は、現在の組電池101の温度Tcellおよび周囲温度Tambと、電池状態算出部501により算出された充電状態SOCおよび劣化状態SOHQとに基づいて、内部パラメータを予測する。このようにしたので、内部パラメータの予測に必要な情報を確実に取得することができる。
【0074】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態で説明した相関マップ、すなわち直流抵抗用パラメータマップ801および分極抵抗用パラメータマップ803を、組電池101の劣化状態に応じて更新する例を説明する。なお、本実施形態に係る電力貯蔵システムの構成は、第1の実施形態で説明した
図1の電力貯蔵システム(BESS)1と同様であるため、説明を省略する。
【0075】
組電池101では、使用時間の経過に伴う劣化の進行により、直流抵抗709と分極抵抗711の抵抗値Ro,Rpが次第に増加する。したがって、経年時の使用可能エネルギーの予測精度を改善するためには、内部パラメータ予測部502内の電気化学反応モデル演算部603において、直流抵抗用パラメータマップ801および分極抵抗用パラメータマップ803を適宜更新する必要がある。
【0076】
図10は、本発明の第2の実施形態に係る電気化学反応モデル演算部603の機能ブロックを示す図である。本実施形態において、電気化学反応モデル演算部603は、第1の実施形態で説明した直流抵抗用パラメータマップ801、直流抵抗値予測部802、分極抵抗用パラメータマップ803および分極抵抗値予測部804に加えて、さらにマップ更新部810を備える。マップ更新部810は、内部パラメータ演算部805、データ記憶部806、および電気化学反応モデル適用部807を有する。
【0077】
内部パラメータ演算部805は、電流センサ103、電圧センサ105および温度センサ106から、組電池101が充放電中のときに検出された電流I、閉回路電圧CCVおよび電池温度Tcellをそれぞれ取得する。内部パラメータ演算部805は、組電池101の特性を反映した状態空間モデルのカルマンフィルタを有しており、このカルマンフィルタを用いて、組電池101の充放電中に直流抵抗709と分極抵抗711の抵抗値Ro,Rpを算出する。なお、直流抵抗709と分極抵抗711の抵抗値Ro,Rpを適切に算出できれば、カルマンフィルタ演算以外の方法でこれらを求めてもよい。
【0078】
データ記憶部806は、組電池101の温度が所定値以下である低温時において、内部パラメータ演算部805により演算された直流抵抗709と分極抵抗711の抵抗値Ro,Rpを、その時点での充電状態SOC、電流Iおよび温度Tと互いに関連付けて記憶する。これにより、組電池101が低温状態で使用される度に、そのときの充電状態SOC、電流Iおよび温度Tと抵抗値Ro,Rpとの関係を表すデータが、データ記憶部806において蓄積される。
【0079】
データ記憶部806に十分なデータが蓄積されると、電気化学反応モデル適用部807は、そのデータを前述の(式3)、(式4)に対してそれぞれ適用することで、充電状態SOCおよび温度Tと、(式3)の各パラメータ値Vo,map、Io,map、RSEI,mapおよび(式4)の各パラメータ値V~o,map、I~o,mapとの関係を取得する。そして、取得したこれらの関係に基づき、直流抵抗用パラメータマップ801および分極抵抗用パラメータマップ803を更新する。
【0080】
本実施形態では、以上説明したようなマップ更新部810の各機能ブロックの処理により、電気化学反応モデル演算部603において、組電池101の劣化進行による内部状態の変化に応じて、直流抵抗用パラメータマップ801および分極抵抗用パラメータマップ803を更新することができる。
【0081】
以上説明した本発明の第2の実施形態によれば、電池管理装置102は、現在の組電池101の状態に応じた内部パラメータとして、直流抵抗709と分極抵抗711の抵抗値Ro,Rpを演算し、演算したこれらの内部パラメータに基づいて、組電池101の温度Tおよび充電状態SOCと(式3)、(式4)のバトラー・ボルマー式の各パラメータ値との関係を表す相関マップ(直流抵抗用パラメータマップ801、分極抵抗用パラメータマップ803)を更新するマップ更新部810を備える。このようにしたので、相関マップを適宜更新し、使用可能エネルギーの予測精度を改善することができる。
【0082】
なお、上記の各実施形態では、電車や航空機、送配電システム等に搭載される電力貯蔵システムにおける適用例を説明したが、他の用途で用いられる電力貯蔵システムにおいても、本発明を同様に適用可能である。
【0083】
本発明は上述した実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0084】
1 電力貯蔵システム(BESS)
2 インバータ
3 負荷
4 上位コントローラ
101 組電池
102 電池管理装置
103 電流センサ
104 セルコントローラ
105 電圧センサ
106 温度センサ
107 リレー
501 電池状態算出部
502 内部パラメータ予測部
503 放電曲線推定部
504 使用可能エネルギー算出部
601 温度予測部
602 SOC予測部
603 電気化学反応モデル演算部
604 OCV予測部
611 電池モデル部
612 劣化状態検出部
801 直流抵抗用パラメータマップ
802 直流抵抗値予測部
803 分極抵抗用パラメータマップ
804 分極抵抗値予測部
805 内部パラメータ演算部
806 データ記憶部
807 電気化学反応モデル適用部
810 マップ更新部