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  • 特許-アンカーボルト交換方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-20
(45)【発行日】2023-11-29
(54)【発明の名称】アンカーボルト交換方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20231121BHJP
【FI】
E04G23/02 F
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023144165
(22)【出願日】2023-09-06
【審査請求日】2023-09-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593153428
【氏名又は名称】中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134647
【弁理士】
【氏名又は名称】宮部 岳志
(72)【発明者】
【氏名】中村 英麿
(72)【発明者】
【氏名】一戸 将也
(72)【発明者】
【氏名】小山 和之
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-183293(JP,A)
【文献】特開2021-167540(JP,A)
【文献】特開2010-236289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
E02D 27/00
E04H 12/22
E04B 1/38-1/61
E04B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物に埋設設置されたアンカーボルトにより固定されたベースプレートに設けられているアンカーボルト挿通孔を、より径の大きい点検孔に変形させ、
前記アンカーボルトの地表に露出した端面に、前記端面の中心点を含み前記アンカーボルトの外径より小さい径の下穴を削孔し、
前記点検孔の径より小さく、前記アンカーボルトの外径より大きい径を有する環状孔を、前記アンカーボルトの周囲に穿ち、
前記下穴を起点として、前記アンカーボルトの外径と略等しく前記環状孔の径より小さい径のドリル刃を前記環状孔に進入させながら前記アンカーボルトを切削し、新設するあと施工アンカーボルトのアンカー孔を形成することを特徴とするアンカーボルト交換方法。
【請求項2】
コンクリート構造物に埋設設置されたアンカーボルトにより固定されたベースプレートに設けられているアンカーボルト挿通孔を、より径の大きい点検孔に変形させ、
前記点検孔の径より小さく、前記アンカーボルトの外径より大きい径を有し、前記アンカーボルトの埋設された先端側の屈曲部より深い環状孔を、前記アンカーボルトの周囲に穿ち、
前記アンカーボルトの直線部から切り離された前記屈曲部を地中に残し、前記環状孔の内側の、前記アンカーボルトの直線部を含むコアを引き抜き、新設するあと施工アンカーボルトのアンカー孔を形成することを特徴とするアンカーボルト交換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物に固定対象物を固定するために用いられるアンカーボルトを交換する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物に固定対象物を固定するために用いられるアンカーボルトとして、コンクリート構造物の構築時に埋設設置される型式のものの他、コンクリート構造物が構築された後に設置される、あと施工アンカーが知られている。
【0003】
そして、あと施工アンカーの中には、設置後の撤去が想定されたものもある。例えば、特開平10-103317に開示されているアンダーカットアンカーは、拡開円錐状部を設けたアンカーロッドと、アンカーロッドに対して移動自在かつ回転自在のスリーブとを具え、スリーブの切り刃片を円錐状部により半径方向に拡開し、円筒形の収容孔(アンカー孔)の壁にアンダーカットを切削し設置した後でも、スリーブを引き抜くことにより拡開した部位を窄んだ状態とし、アンカー孔から引き抜き撤去することができる。そして、特開2000-303461には、一度設置したアンダーカットアンカーを引き抜くために適した、スリーブの溝構造も開示されている。
【0004】
また、特開2020-169472に開示されているアンカーボルトも同様に、軸方向の一方側に拡張部を有する筒状のスリーブに挿入され、スリーブの拡張部を拡張させるテーパー部を有し、一度設置された後でも、スリーブを下孔(アンカー孔)から引き抜くことにより、アンカー孔から取り出し撤去することが可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-103317
【文献】特開2000-303461
【文献】特開2020-169472
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既述のように、あと施工アンカーは、一度設置された後であっても撤去することができる。しかしながら、コンクリート構造物の構築時に埋設設置されたアンカーボルトが、雨水、海風、凍結防止剤などの影響により劣化した場合、アンカーボルトによる十分な固定強度が得られる状態に回復させるためには、別の場所に新たなアンカーボルトを設置し固定対象物を移設しなければならず、多くの時間と手間を要していた。
【0007】
そこで、本発明は、コンクリート構造物の構築時に埋設設置されたアンカーボルトが劣化した場合にも、別の場所に新たなアンカーボルトを設置することなく、アンカーボルトによる十分な固定強度が得られる状態に回復させることができるアンカーボルト交換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る第一のアンカーボルト交換方法では、コンクリート構造物に埋設設置されたアンカーボルトにより固定されたベースプレートに設けられているアンカーボルト挿通孔を、より径の大きい点検孔に変形させる。続いて、前記アンカーボルトの地表に露出した端面に、前記端面の中心点を含み前記アンカーボルトの外径より小さい径の下穴を削孔し、前記点検孔の径より小さく、前記アンカーボルトの外径より大きい径を有する環状孔を、前記アンカーボルトの周囲に環状孔を穿つ。そして、前記下穴を起点として、前記アンカーボルトの外径と略等しく前記環状孔の径より小さい径のドリル刃を前記環状孔に進入させながら前記アンカーボルトを切削し、新設するあと施工アンカーボルトのアンカー孔を形成する。
【0009】
本発明に係る第二のアンカーボルト交換方法では、コンクリート構造物に埋設設置されたアンカーボルトにより固定されたベースプレートに設けられているアンカーボルト挿通孔を、より径の大きい点検孔に変形させる。続いて、前記点検孔の径より小さく、前記アンカーボルトの外径より大きい径を有し、前記アンカーボルトの埋設された先端側の屈曲部より深い環状孔を、前記アンカーボルトの周囲に穿つ。そして、前記アンカーボルトの直線部から切り離された前記屈曲部を地中に残し、前記環状孔の内側の、前記アンカーボルトの直線部を含むコアを引き抜き、新設するあと施工アンカーボルトのアンカー孔を形成する
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る第一のアンカーボルト交換方法によれば、埋設設置されたアンカーボルトを切削し形成したアンカー孔に、あと施工アンカーを新設できる。また、本発明に係る第二のアンカーボルト交換方法によれば、アンカーボルトの直線部から切り離された屈曲部を地中に残し、環状孔の内側の、アンカーボルトの直線部を含むコアを引き抜き形成したアンカー孔に、あと施工アンカーを新設できる。従って、コンクリート構造物の構築時に埋設設置されたアンカーボルトが劣化した場合にも、別の場所に新たなアンカーボルトを設置することなく、アンカーボルトによる十分な固定強度が得られる状態に回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るアンカーボルト交換方法の実施形態における手順を示し、(a)はアンカーボルトの地表に露出した端面に下穴を削孔する工程を示す図、(b)はアンカーボルトの周囲にあと施工アンカーのアンカー孔が要する深さの環状孔を穿つ工程を示す図、(c)はアンカーボルトを切削しアンカー孔を形成する工程を示す図である。
図2】あと施工アンカーを設置するためのアンカー孔が形成された状態を示す図である。
図3】あと施工アンカーが設置された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1~3を参照しながら、本発明に係るアンカーボルト交換方法の実施形態を説明する。
この実施形態は、コンクリートで構成された道路側部へ、標識や照明灯などの道路付属物を固定するために用いられるアンカーボルトの交換を想定したものである。
【0013】
道路側部1は、本発明のコンクリート構造物に相当し、その構築時にアンカーボルト2が埋設設置されている。なお、図1~3において、アンカーボルト2の道路側部1に埋設された部位(以下、「埋設部21」とする)は、説明の便宜上、道路側部1を透視する形で示されている。
【0014】
道路付属物3は、道路側部1に固定するためのベースプレート3を有し、ベースプレート3には、アンカーボルト2の道路側部1表面から突出したボルト部22を挿通させるアンカーボルト挿通孔32が設けられている。そして、道路付属物は、ボルト部22がアンカーボルト挿通孔32を挿通する状態で配置され、ボルト部22に螺合する、図示しない固定用ナットでベースプレート31を道路側部1表面に対し締め付けることにより、道路側部1に固定されている。
【0015】
アンカーボルト2を交換するためには、まず、アンカーボルト挿通孔32を、より径の大きい点検孔33に変形させる。アンカーボルト挿通孔32を点検孔33に変形させる手法に制限はないが、例えば、公知の穴あけ機を用いて行うことができる。なお、図1~3が示す状態においては、アンカーボルト挿通孔32の複数のうちの1個のみが点検孔33に変形されている。
【0016】
点検孔33は、アンカーボルト2の周囲に形成される隙間を通して、アンカーボルト2の状態を視認点検するために使用するものであり、その径寸法は、視認点検作業に必要な隙間が形成されるとともに、アンカーボルト2に代わるあと施工アンカーを新設するためのアンカー孔の要する径よりも大きいものとする。
【0017】
次に、アンカーボルト2の地表に露出した端面に、すなわち、ボルト部22の端面に、その端面の中心点を含みアンカーボルト2の外径より小さい径の下穴を削孔する。この実施形態では、公知のドリルを用いて削孔されているが、削孔の手法に制限はなく、アンカーボルト2の設置状態などに応じてその他の手法を採用してもよい。なお、図1(a)には、図示の便宜上、削孔に用いられたドリルのドリル刃4のみが示されている。
【0018】
下穴の径寸法は、アンカーボルト2の径寸法の40~60%とすることが好ましい。例えば、アンカーボルト2の径寸法が24mm(M24ボルト)であれば、ドリル刃4としてφ10mmのものを用いることが好ましい。
【0019】
下穴を形成したら、次に、点検孔33の径より小さく、アンカーボルト2の外径より大きい径を有する環状孔11を、アンカーボルト2の周囲に穿つ。なお、環状孔11の形成には、公知のコアドリルが好適である。図1(b)には、図示の便宜上、コアドリルのドリル刃5のみが示されている。
【0020】
環状孔11の寸法は、新設するあと施工アンカーボルトを設置するためのアンカー孔が要するものとする。径寸法は、使用するあと施工アンカーの型式などにより異なるが、新設するあと施工アンカーボルトのアンカー孔12として形成する。例えば、M24アンダーカットアンカーを使用する場合、ドリル刃5としてφ40mmのものを用いることが好ましい。
【0021】
環状孔11を形成したら、先に形成した下穴を起点として、アンカーボルト2の外径と略等しく環状孔11の径より小さい径のドリル刃6を環状孔11に進入させながらアンカーボルト2を切削する。
【0022】
アンカー孔12を形成したら、その孔内を清掃し、あと施工アンカーボルト7を施工し、アンカーボルト2の交換は完了となる。
【0023】
なお、アンカー孔12の深さ寸法となる環状孔11の深さ寸法は、あと施工アンカーボルトに求められる固定強度と、点検孔33のへりあき寸法に応じたものとする必要がある。例えば、へりあき寸法が288mm以上であれば、M24アンダーカットアンカーを用いて一般的に十分な強度と考えられる240N/mmの引抜強度を発現させるために、深さ寸法を160mm以上とすることが好ましい。
【0024】
しかしながら、へりあき寸法が288mmより小さい場合、同じ引抜強度を発現させるために深さ寸法をより大きくする必要がある。例えば、既設の道路付属物3が有するベースプレート31では、へりあき寸法が100mm程度となる場合もある。この場合、あと施工アンカーボルト7として接着系アンカーを用い、アンダーカットアンカーを用いた場合よりも、アンカー孔12の深さ寸法を大きくすることが好ましい。例えば、M24接着系アンカーを用いて240N/mmの引抜強度を発現させるためには、深さ寸法を540mm以上とすることが好ましい。
【0025】
なお、アンカー孔の深さ寸法を大きくする必要があり、環状孔が既設アンカーボルトの埋設された先端側の屈曲部より深くなる場合、環状孔を形成する過程で、既設アンカーボルトの屈曲部は、コアドリルのドリル刃により既設アンカーボルトの直線部から切り離される。そのため、環状孔の内側の、既設アンカーボルトの直線部を含むコアを引き抜くことによりアンカー孔を形成することができる。すなわち、既設アンカーボルトの地表に露出した端面に下穴を削孔する工程(図1(a)に示す工程)、及び、既設アンカーボルトを切削する工程(図1(c)に示す工程)は不要となる。
【符号の説明】
【0026】
1 道路側部
2 アンカーボルト
3 道路付属物
4、5、6 ドリル刃
7 あと施工アンカーボルト
11 環状孔
12 アンカー孔
21 埋設部
22 ボルト部
31 ベースプレート
32 アンカーボルト挿通孔
33 点検孔
【要約】
【課題】コンクリート構造物の構築時に埋設設置されたアンカーボルトが劣化した場合にも、別の場所に新たなアンカーボルトを設置することなく、アンカーボルトによる十分な固定強度が得られる状態に回復させる。
【解決手段】コンクリート構造物に埋設設置されたアンカーボルトにより固定されたベースプレートに設けられているアンカーボルト挿通孔を、より径の大きい点検孔に変形させ、前記アンカーボルトの地表に露出した端面に、前記端面の中心点を含み前記アンカーボルトの外径より小さい径の下穴を削孔し、前記点検孔の径より小さく、前記アンカーボルトの外径より大きい径を有する環状孔を、前記アンカーボルトの周囲に穿ち、前記下穴を起点として、前記アンカーボルトの外径と略等しく前記環状孔の径より小さい径のドリル刃を前記環状孔に進入させながら前記アンカーボルトを切削し、新設するあと施工アンカーボルトのアンカー孔を形成する。
【選択図】図1
図1
図2
図3