IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クラシエホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-大豆たん白加工食品及びその製造方法 図1
  • 特許-大豆たん白加工食品及びその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-21
(45)【発行日】2023-11-30
(54)【発明の名称】大豆たん白加工食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/16 20060101AFI20231122BHJP
   A23J 3/00 20060101ALN20231122BHJP
   A23J 3/26 20060101ALN20231122BHJP
【FI】
A23J3/16 501
A23J3/00 507
A23J3/26 501
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019165270
(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公開番号】P2021040539
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】306018376
【氏名又は名称】クラシエ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中本 知里
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 昌史
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 聡
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特公平03-034900(JP,B2)
【文献】特開2013-111002(JP,A)
【文献】特公昭46-029781(JP,B2)
【文献】特開平06-311853(JP,A)
【文献】特開昭50-126851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23J 1/00 - 7/00
A23L 2/00 - 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状大豆たん白を含有する大豆たん白加工食品であって、該加工食品はソルビトール及びグリセリンを含有し、かつ該加工食品全体重量中の水分含有量(重量%)をx、該加工食品の進入度せん断(N)をyとするとき、下記関係式(A)、(B)及び(C)を満たすことを特徴とする大豆たん白加工食品。
(A) 26.0 ≦ x ≦ 36.0
(B) y ≧ -0.060x + 3.7
(C) y ≦ -0.058x + 4.5
【請求項2】
更に、風味原料を含有する請求項1記載の大豆たん白加工食品。
【請求項3】
下記(1)~(3)工程を順次備える請求項1又は2記載の大豆たん白加工食品の製造方法。
(1)粒状大豆たん白を、ソルビトール及びグリセリンを含有する調味液で調味する工程(2)水分含有量が26.0~36.0重量%になるまで乾燥する工程
(3)容器に収容密封後、加熱殺菌する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工食品そのものがするめのようなしがみ食感を有する大豆たん白加工食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、粒状大豆たん白を原料とする加工食品として、粒状大豆たん白に、着色料、イカ粉末及びはもエキスなどを含有する水溶液を注ぎ、3時間以上膨潤させて製造されるイカ等などの水産物擬似素材が知られている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、該水産物擬似素材は、着色料で見た目を水産物に類似させるものであった。また、該水産物擬似素材を単独の加工食品として提供するのではなく、ゲル化したすり身の中に含有させた疑似ゲル素材とすることでイカ等の水産物に近い硬くてしなやかな弾力ある食感の加工食品を提供するものであった。すなわち、該擬似ゲル化素材の目的とする食感として、するめのようなしがみ食感を記載及び示唆するものではなかった。
【0003】
他に、脱脂大豆を押出し成形して得られた組織状大豆蛋白から調製する大豆蛋白食品素材が知られている(例えば、特許文献2参照。)。該大豆蛋白食品素材は、組織状大豆蛋白を膨潤させた後、真空条件下で乾燥することでサクサク食感を有する食品素材とするものである。一方、この真空条件下での乾燥を熱風乾燥に替えると、破断応力が41kg/cmの硬い食感となり、サクサクしないとしているが、この食感はするめのようなしがみ食感ではなかった。
【0004】
他方、本発明者らは、粉砕してペースト状にした豆腐を使用して、進入度せん断が920~3800gfである噛み応えのある弾力性を有する豆腐加工弾力性食品を提案している(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、該豆腐加工弾力性食品のもつ弾力性は、するめのようなしがみ食感とは異なるものであった。また、粒状大豆たん白を用いて調製する大豆たん白加工食品についての言及及び示唆はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-62805号公報
【文献】特開2006-129703号公報
【文献】特開2013-111002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような事情に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、加工食品そのものがするめのようなしがみ食感を有する大豆たん白加工食品及びその製造方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、粒状大豆たん白を含有する大豆たん白加工食品であって、該加工食品全体重量中の水分含有量(重量%)をx、該加工食品の進入度せん断(N)をyとするとき、下記関係式(A)、(B)及び(C)を満たすことを特徴とする大豆たん白加工食品により上記目的を達成する。
(A) 26.0 ≦ x ≦ 36.0
(B) y ≧ -0.060x + 3.7
(C) y ≦ -0.058x + 4.5
【0008】
好ましくは、更に、風味原料を含有する。
【0009】
更に好ましくは、前記大豆たん白加工食品の製造方法は下記(1)~(3)工程を順次備える。
(1)粒状大豆たん白を調味液で調味する工程
(2)水分含有量が26.0~36.0重量%になるまで乾燥する工程
(3)容器に収容密封後、加熱殺菌する工程
【0010】
すなわち、本発明者らは、従来、すり身に混合する擬似素材のように、食品の補助的な食材であることが多かった粒状大豆たん白から調製される加工食品が、該加工食品自体に魅力的な特徴があれば単独食品でも提供できると考えた。そこで、粒状大豆たん白による加工食品の食感に注目し検討を行った。その結果、該加工食品の水分含有量と進入度せん断とを特定範囲内に設定すると、驚くべきことに、硬すぎることも軟らかすぎることもなく、繰り返し噛みしめることのできるするめのような独特のしがみ食感の付与された加工食品とできることを見出し本発明に到達した。
【発明の効果】
【0011】
本発明の大豆たん白加工食品は、加工食品そのものがするめのようなしがみ食感を有する。
【0012】
本発明において、するめのようなしがみ食感とは、するめを食べるときと同様に、繰り返し強く噛む又は繰り返し噛みしめることができることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の大豆たん白加工食品の水分含有量と進入度せん断との関係図
図2】表2記載の実施例と比較例の水分含有量と進入度せん断の値をプロットした図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を詳しく説明する。
本発明の大豆たん白加工食品は、粒状大豆たん白を含有し、該加工食品全体重量中の水分含有量(重量%)をx、該加工食品の進入度せん断(N)をyとするとき、(A)26.0≦x≦36.0、(B)y≧-0.060x+3.7、及び(C)y≦-0.058x+4.5のすべての関係式を満たすことが、加工食品そのものがするめのようなしがみ食感(以下、しがみ食感という)を有する点で重要である。
【0015】
上記粒状大豆たん白とは、脱脂大豆、大豆由来の粉末状植物性たん白を主原料に、エクストルーダーなどを用いて加熱、加圧等の物理的な加工を施して得られる組織状のたん白であり、この大豆由来の組織状のたん白、すなわち粒状大豆たん白を用いることが、しがみ食感の点で重要である。
【0016】
粒状大豆たん白としては、例えば、日本農林規格が定義する植物性たん白のうち大豆由来の粒状植物性たん白や繊維状植物性たん白、市販品の「フジニックPT-FLH」(不二製油株式会社製)などが挙げられる。形態は、粒状、繊維状、フレーク状、ブロック状、略円柱状、スライス状等様々あるが、適宜選択して用いればよい。これらの中でも、好ましくは、スライス状の形態はしがみ食感を有する食品を調製し易い点で好適に用いられる。
【0017】
なお、上記脱脂大豆、大豆由来の粉末状植物性たん白とは、日本農林規格が定義する植
物性たん白のうち大豆由来の粉末状植物性たん白を指し、該規格では、大豆等の採油用の種実若しくはその脱脂物(以下「主原料」という。)に加工処理を施してたん白質含有率を高め、主原料に由来するたん白質含有率が50%を超えるものと定義されている。
【0018】
次に、上記水分含量(重量%)とは、本発明の大豆たん白加工食品全体重量中の水分含有量を指し、加熱乾燥法(常圧乾燥法、減圧乾燥法)、蒸留法、カールフィッシャー法、電気水分計法、近赤外分光分析法、ガスクロマトグラフィー法、核磁気共鳴法などの公知の方法で測定すればよい。例えば、電気水分計法としては、赤外線水分計FD-240(株式会社ケット科学研究所製)を用いて、包丁等で細かく切断した大豆たん白加工食品5~10gを正確に計量後、110℃30秒(Automatic)にて測定するなどが挙げられる。
【0019】
次に、上記進入度せん断(N)とは、大豆たん白加工食品に進入度せん断プランジャーが進入する際にかかる力のことであり、該加工食品の硬さを意味する。例えば、サン科学株式会社製のレオメーターCR-500DXを用いて、以下の条件で測定することができる。
プランジャー形状 ; 進入度せん断60° スピード ; 60mm/min
進入距離 ; 2mm
測定雰囲気温度 ; 25℃
【0020】
本発明の大豆たん白加工食品に関し、図1に基づき説明する。上述のように、大豆たん白加工食品全体重量中の水分含有量(重量%)をx、該加工食品の進入度せん断(N)をyとする。
【0021】
図1において、xが26.0重量%以上、36.0重量%以下、yが[-0.060x+3.7]N以上、[-0.058x+4.5]N以下である大豆たん白加工食品は、しがみ食感を有する。
【0022】
一方、図1において、xが26.0重量%未満である場合は、硬すぎるため強く噛む又は噛みしめることができず、しがみ食感を感じない。また、xが36.0重量%を超える場合は、軟らかすぎるため繰り返し噛むことができずしがみ食感を感じない。
【0023】
また、xが26.0~36.0重量%かつyが[-0.058x+4.5]Nを超える場合は、硬い傾向を示すため噛みしめることができずしがみ食感を感じない。また、xが26.0~36.0重量%かつyが[-0.060x+3.7]N未満の場合は、軟らかい傾向を示すため繰り返し強く噛むことができずしがみ食感を感じない。
【0024】
本発明の大豆たん白加工食品は、更に風味原料を含有することが、繰り返し強く噛む又は繰り返し噛みしめる際、噛む度に該風味原料の味がにじみ出てきて該風味原料由来の風味を味わうことができる点、風味によるバリエーションが広がる点で好適である。なお、風味原料については、後述する調味液の項にて説明する。
【0025】
次に、本発明の大豆たん白加工食品は、好ましくは、次の(1)~(3)工程を順次行うことで製造することができる。
【0026】
(1)粒状大豆たん白を調味液で調味する工程
原料の粒状大豆たん白に調味液を適量添加し、該調味液を絡めるように4~8分間撹拌し粒状大豆たん白に浸透させる。調味の目安は、原料の粒状大豆たん白100重量部に対し、調味後の粒状大豆たん白が260~300重量部となるようにすればよい。また、調
味工程の前に吸水や膨潤工程を設けることは、この調味工程において調味原料が浸透し難い点で採用されない。
【0027】
上記調味液には、例えば、糖質甘味料(砂糖、キシロース、水飴、糖アルコール等)、高甘味度甘味料(アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、ネオテーム等)、調味料・シーズニング(食塩、しょうゆ、みそ、各種ソース(ウスターソース、カラメルソース等)、香辛料(唐辛子、黒胡椒、カレー粉、ガーリックペースト等)、酢等)、うま味調味料(グルタミン酸ナトリウム、イノシン酸二ナトリウム、グアニル酸二ナトリウム等)、乳製品、卵製品(卵、マヨネーズ等)、酒粕、野菜汁、果汁、酸味料、着色料、油脂類、ミネラル、香料(水溶性香料、油溶性香料、乳化香料、粉末香料等)、乳化剤、グリセリン、エキス類(魚介エキス、畜肉エキス等)等の調味原料の中から、適宜選択し、単独もしくは複数が用いられる。なお、該調味原料のうち、本発明に係る風味原料とは、糖アルコールを除く糖質甘味料、高甘味度甘味料、調味料・シーズニング、うま味調味料、乳製品、卵製品、野菜汁、果汁、酸味料、油脂類、香料、エキス類を指す。
【0028】
上記調味原料の中でも、油脂類、香辛料、香料は、各種調味素材(魚介類、肉類等)様の濃厚感を出す点で好適に用いられる。また、香辛料や酒粕は、大豆臭をマスキングできる点で好適に用いられる。他に、キシロースは揚げ物様の焦げた外観や風味を醸出する点で好適に用いられる。
【0029】
好ましくは、上記調味工程において添加する調味液を80~98℃にすることが、風味原料が中心まで浸透した噛む度に該風味原料の味がにじみ出る加工食品とできる点で好適である。
【0030】
(2)水分含有量が26.0~36.0重量%になるまで乾燥する工程
次に、上記粒状大豆たん白と余分な調味液を分離後、調味後の粒状大豆たん白を乾燥する。乾燥の目安は、原料の粒状大豆たん白100重量部に対し、乾燥後の粒状大豆たん白が230~270重量部となるようにすればよい。
【0031】
乾燥方法は、特に限定されるものではないが、流体加熱による乾燥が、生産効率、乾燥品質の安定性、焦げ抑制の点で好適である。流体加熱による乾燥とは、熱風を循環させる一般の熱風乾燥装置の他、熱風を対象物に対して上下から直接吹きつけて乾燥する装置(例えば、荒川製作所製のジェットゾーンシステム(連続式)、ジェットロースト式システム(バッチ式)等)、コーヒーの焙煎などに用いられる熱風が対流する装置、扇風機、乾燥機(バッチ式、コンベア式等)、熱風機、熱風棚乾燥、エアーコンディショナー等を用い、食品に流体を接触させて乾燥する方法である。乾燥条件としては、例えば、熱風棚乾燥機の場合、80~110℃で2~15分程度乾燥すればよい。
【0032】
(3)容器に収容密封後、加熱殺菌する工程
次に、乾燥後の粒状大豆たん白を容器に収容密封後、加熱殺菌する。該容器としては、加熱殺菌に耐え得る容器を用いればよく、例えば、レトルト用パウチ、アルミパウチ、深絞りトレー又はカップ、缶などの耐熱性包装容器等が挙げられる。また、加熱殺菌条件としては、例えば、90~100℃で20~30分等が挙げられる。
【0033】
また、容器に収容する前に、好ましくは段落[0017]に前述した脱脂大豆、大豆由来の粉末状植物性たん白を、より好ましくはたん白質含有率が85%以上の脱脂大豆、大豆由来の粉末状植物性たん白を、上記乾燥後の粒状大豆たん白表面に施与すると、長期保存中に生じる表面のべたつきを抑制できる点で好適である。表面施与方法は、該大豆由来の粉末状植物性たん白を、レボリングパンを用いて被覆する、或いは直接粉体混合する等が挙げられる。
【実施例
【0034】
次に、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は以下実施例に限定されるものではない。
【0035】
<大豆たん白加工食品の製造>
<実施例1>
原料の粒状大豆たん白100重量部に表1の組成の調味液Bを添加し、該調味液Bを絡めるように6分間撹拌し粒状大豆たん白に浸透させた。次に熱風棚乾燥機にて90℃で10分間乾燥した。次に、容器に収容密封後100℃で20分間加熱殺菌し、大豆たん白加工食品を得た。なお、用いた調味液の種類、原料の粒状大豆たん白に対する調味後の重量部及び乾燥後の重量部、乾燥時間を表2に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
<実施例2~10、比較例1~9>
実施例1の製造方法のうち、調味液の種類、原料の粒状大豆たん白に対する調味後の重量
部及び乾燥後の重量部、乾燥時間を表2のように実施するほかは、実施例1と同様にして大豆たん白加工食品を製造した。
【0039】
以上のようにして得られた実施例及び比較例の水分含有量及び進入度せん断を上述の方法で測定し、しがみ食感について、専門パネラー4名により、表2の欄外に記載の官能評価基準に準じて評価した。水分含有量及び進入度せん断の測定値、並びにしがみ食感の評価結果を表2に示す。
【0040】
評価の結果、図2に示すとおり、本発明が特定する水分含有量及び進入度せん断の値を示す実施例は、しがみ食感を有した。また、実施例1~9は、繰り返し噛む度にシーフード味がにじみ出てきて、シーフード味を味わうことができた。一方、本願が特定する水分含有量及び進入度せん断の値を示さない比較例は、硬すぎたり、軟らかすぎたりして、しがみ食感を示さなかった。
図1
図2